(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】出血患者における移植関連血栓性微小血管症を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241212BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20241212BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K39/395 W
A61P7/04
A61P1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536975
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-10
(86)【国際出願番号】 US2022053603
(87)【国際公開番号】W WO2023122150
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500469235
【氏名又は名称】チルドレンズ ホスピタル メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジョデレ、ソナタ
(72)【発明者】
【氏名】水野 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクス、アレクサンダー、エー.
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
(57)【要約】
本開示は、TA-TMAを有する個体の治療のための方法に関する。一態様では、方法は、C5阻害剤、より具体的にはエクリズマブ、又はその抗原結合断片の投与を包含する。開示される方法は、一態様では、TA-TMA及び臨床的に有意な出血を有する個体の治療のために使用されてもよい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)及び活動性胃腸出血を有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を前記個体に投与することを含み、前記エクリズマブ又はその抗原結合断片は、負荷用量及び誘導用量で投与され、
前記負荷用量は、
4回用量について24時間毎に1200ミリグラム、続いて5回用量について48時間毎に1500ミリグラム(前記個体は、70キログラム以上である)、又は4回用量について24時間毎に900ミリグラム、続いて5回用量について48時間毎に900ミリグラム(前記個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は2回用量について48時間毎に、続いて3回用量について72時間毎に900ミリグラム(前記個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は2回用量について48時間毎に900ミリグラム、続いて3回用量について72時間毎に900ミリグラム(前記個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は5回用量について72時間毎に600ミリグラム(前記個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は5回用量について72時間毎に300ミリグラム(前記個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含み、
前記誘導用量は、
48時間毎に1500ミリグラム(前記個体は、70キログラム以上の体重を有する)、又は48時間毎に900ミリグラム(前記個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は72時間毎に900ミリグラム(前記個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は96時間毎に900ミリグラム(前記個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は96時間毎に600ミリグラム(前記個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、96時間毎に300ミリグラム(前記個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含む、方法。
【請求項2】
移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)及び消散した胃腸出血を有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を前記個体に投与することを含み、前記エクリズマブ又はその抗原結合断片は、誘導用量及び維持用量で投与され、
前記誘導用量は、
4週間にわたって3~4日毎に週に2回の1500ミリグラム(前記個体は、70キログラム以上の体重を有する)、又は4週間にわたって週に1500ミリグラム(前記個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に1200ミリグラム(前記個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に900ミリグラム(前記個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に600ミリグラム(前記個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に300ミリグラム(前記個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含み、
前記維持用量は、
4~5週間にわたって3~4日毎に週に2回の1200ミリグラム(前記個体は、70キログラム以上である)、又は4~5週間にわたって週に1200ミリグラム(前記個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって週に900ミリグラム(前記個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって週に600ミリグラム(前記個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって週に600mg(前記個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって2週毎に300ミリグラム(前記個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含む、方法。
【請求項3】
移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)を有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を前記個体に投与することを含み、前記エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に300ミリグラム、又は体重10キログラム~<20キログラムの患者に600ミリグラム、又は体重20~<30キログラムの患者に900ミリグラム、又は体重30~<40キログラムの患者に1200ミリグラム、又は体重40~<70キログラムの患者に1500ミリグラム、又は体重70~<100キログラムの患者に2100ミリグラムの用量で投与され、前記用量は、3日毎に投与され、前記患者は、非出血患者である、方法。
【請求項4】
TA-TMAを有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を前記個体に投与することを含み、前記エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に3日毎に300ミリグラム、又は体重10キログラム~<20キログラムの患者に3日毎に600ミリグラム、又は体重20~<30キログラムの患者に2日毎に600ミリグラム、又は体重30~<40キログラムの患者に1日あたり600ミリグラム、又は体重40~<70キログラムの患者に1日あたり900ミリグラム、又は体重70~<100キログラムの患者に1日あたり900ミリグラムの用量で投与される、方法。
【請求項5】
TA-TMAを有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を前記個体に投与することを含み、前記エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に3日毎に300ミリグラム、又は体重10キログラム~<20キログラムの患者に3日毎に600ミリグラム、又は体重20~<30キログラムの患者に3日毎に900ミリグラム、又は体重30~<40キログラムの患者に2日毎に900ミリグラム、又は体重40~<70キログラムの患者に2日毎に1200ミリグラム、又は体重70~<100キログラムの患者に1日あたり1200ミリグラムの用量で投与される、方法。
【請求項6】
TA-TMAを有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を前記個体に投与することを含み、前記エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に3日毎に40ミリグラム/キログラム、又は体重10キログラム~<100キログラムの患者に2日毎に30ミリグラム/キログラムの用量で投与される、方法。
【請求項7】
前記TA-TMAは、MODSを伴う高リスクTMAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記TA-TMAは、前記個体において測定されたベースラインレベルの少なくとも2倍であるsC5b-9レベルによって特徴付けられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記TA-TMAは、244ナノグラム/ミリリットルを超えるsC5b-9レベルによって特徴付けられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記投与は、前記個体におけるHSCT-TMA診断の時点で開始される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記投与は、静脈内投与である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記投与は、LDHの正常化、赤血球(RBC)及び血小板輸血の必要性の解消、並びに分裂赤血球の消失のうちの1つ以上から選択される血液学的TMA応答が達成されるまで行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は誘導容量を含み、前記誘導用量は、LDHの正常化、赤血球(RBC)及び血小板輸血の必要性の解消、並びに分裂赤血球の消失の血液学的TMA応答が達成されるまで行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、誘導用量を含み、前記誘導用量は、244ng/mL未満のsC5b-9レベル若しくは実質的にベースライン(移植前)であるsC5b-9レベルの一方若しくは両方である正常化されたsC5b-9が達成されるまで、又は上昇したCH50(全血液補体)レベルが正常化されるまで行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記個体は、臨床的に有意な出血を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記個体は、臨床的に有意な出血を有しない(非出血状態の個体)、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記個体は、幼児である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記個体は、思春期前である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記個体は、成人である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
TA-TMAと診断された個体における治療の過程を決定するための精密投薬ツールであって、1つ以上の患者特異的変数を検出することと、エクリズマブ療法の治療有効量を決定することであって、前記決定は、
CL=CL
L+CL
NL、CL
L=CL
L、pop×(WT/70)
0.97、CL
NL=CL
NL、pop×(sC5b-9/244)
0.53×(WT/70)
0.97、
Vd=Vd
pop×(WT/70)
0.63(非出血患者について)、及び
CL=CL
L+CL
NL、CL
L=CL
L、pop×(WT/70)
1.03、CL
NL=CL
NL、pop×(sC5b-9/244)
0.52×(WT/70)
1.03、Vd=Vd
pop×(WT/70)
0.74(出血患者について)から選択されるアルゴリズムを採用する
(ここで、CL
NL、popは、クリアランスの標的媒介成分を表す70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均非線形クリアランスであり、CL
L、popは、新生児Fc受容体によって媒介されるクリアランスの非特異的成分を表す70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均線形クリアランスであり、CL
L、popは、70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均線形クリアランスであり、CL
tot、popは、CL
NL、pop及びCL
L、popの合計として定義される集団平均総クリアランスであり、Vd
popは、70kg-患者についての集団平均分布容積であり、WTは、実際の体重(kg)である)ことと、
前記アルゴリズムに従って、治療有効量のエクリズマブを前記個体に投与することと、を含む、精密投薬ツール。
【請求項21】
前記決定は、コンピュータ化されたデバイスによって実行される、請求項20に記載の精密投薬ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年12月21日に出願された「Eculizumab Precision Dosing Algorithm for Thrombotic Microangiopathy in Children and Young Adults Undergoing HSCT」と題する米国仮特許出願第63/292,188号の優先権及び利益を主張する。各々の内容は、全ての目的のためにその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)は、造血幹細胞移植(HSCT)の致死的な移植後合併症である。未治療の患者は、非常に高い死亡率を有する(HSCT後1年で16.7%及び全生存率9%)。TA-TMAの生存は、薬物動態学的/薬力学的(PK/PD)モデルに基づいた精密な投薬によって導かれる、補体C5阻害剤であるエクリズマブによる早期介入によって改善されている。しかし、全ての患者が同じ様式で補体C5阻害に応答するわけではなく、標準的な投薬推奨を使用して効果的に治療されない場合がある。したがって、TA-TMA患者をより効果的に治療するために、特に同時失血に罹患している可能性がある患者に対する標的療法が必要である。本開示は、当技術分野における前述の必要性の1つ以上に対処しようとするものである。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、TA-TMAを有する個体の治療のための、具体的にはC5阻害剤、より具体的にはエクリズマブ又はその断片の投与を介する方法に関する。開示される方法は、一態様では、臨床的に有意な出血を有すると決定された個体の治療のために使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0004】
当業者は、以下に記載される図面が例示のみを目的としていることを理解するであろう。図面は、本教示の範囲を決して限定するものではない。
【0005】
【
図1】出血合併症の有無にかかわらず、TA-TMA患者におけるエクリズマブ濃度-時間プロファイルを示す。Y軸はエクリズマブの観察された濃度を示し、X軸は各投薬後の時間を示す。黒丸は非出血患者(n=38)のデータを表し、赤丸は出血患者(n=19)のデータを表す。同じ患者から収集されたデータは点線で結ばれている。
【
図2】治療の用量にわたるエクリズマブクリアランス及びsC5b-9の変化を示す。治療用量にわたるPK及びPD変化を、個体のエクリズマブクリアランス推定値(A)及び投薬前sC5b-9レベル(B)を使用して評価した。赤色及び黒色の円は、それぞれ、出血患者及び非出血患者におけるデータを表す。各週におけるエクリズマブの個体のクリアランス値を、機会間変動性を考慮してベイズ推定法によって推定し、70kgの相対的にスケーリングされた体重によって調整した。研究は幅広い年齢範囲(0.5~29.9歳)を含んでいたので、エクリズマブクリアランスに対する身体サイズ増加の効果は、以前に記載されたような異なる身体サイズを有する小児及び若年成人患者にわたる比較を可能にするために、70kgの体重への相対的スケーリングによってそれを調整することによって考慮された。7エクリズマブクリアランス推定値及び経時的なsC5b-9レベル変化を、一元配置ANOVA(R 3.0.3)を使用して統計学的に分析した。
【
図3】エクリズマブ濃度-時間プロファイルのシミュレーションを示す。最初の投薬後7日間にわたるエクリズマブ濃度-時間プロファイルを、表2に示される非出血患者及び出血患者について本発明者らが開発したモデルに基づいてシミュレートした。集団PKパラメータ推定値をシミュレーションに使用した。エクリズマブ濃度-時間曲線は、異なる色で示され、200~800ng/mLの範囲の異なる投薬前sC5b-9レベルを表す。水平のピンク色の点線は、100μg/mLの提案されたエクリズマブ標的濃度を表す。
【
図4】TA-TMAを有する非出血患者に対する最適な投薬アルゴリズムのシミュレーションを示す。y軸は、標的を上回るエクリズマブ濃度を達成した患者の割合として決定される標的達成の確率を示し、y軸は、各体重コホートを示す。年齢と体重が一致する合計12,000人の対象をCDC-NHANESデータベースからランダムにサンプリングした。6つの体重コホートを以下のように定義した。<10kg、10~<20kg、20~<30kg、30~<40kg、40~<70、及び70~<100kg。実際の投薬前sC5b-9レベルは、観察されたsC5b-9分布に一致するようにシミュレーションを使用して生成した。NONMEMを使用して各投薬シナリオについてエクリズマブトラフ濃度を予測するために、モンテカルロシミュレーション分析を行った。
【
図5】様々な投薬スケジュールに対する標的達成の確率を示す図である。x軸は、1~7日の範囲のエクリズマブ投薬間隔を示す。y軸は、エクリズマブ標的トラフ濃度>100μg/mLに達するための標的達成%の確率を示す。標的達成の確率は、300~2100mgの範囲の異なる用量(mg)を有する投薬プロトコルについて予測され、異なる色の線で示される。100%に近いPTA%は、
図4に示されるプロトコル4の各体重コホートにおいて用量を300mg(1バイアル)増加させることによって達成することができた。
【
図6A】最終モデルについての集団PKモデル評価を示す。表2に示す非出血患者及び出血患者の最終集団PKモデルについての適合度プロット(A及びC)及び予測補正視覚予測チェック(pcVPC)(B及びD)。白丸は観察結果を表す。A、C:適合度プロットは以下の4つの図を含む。観察されたエクリズマブ濃度対集団モデル予測濃度、観察された濃度対ベイズ推定法を使用して推定された個体の予測濃度、条件付き加重残差対集団予測濃度、及び条件付き加重残差対投薬後の時間。
【
図6B】最終モデルについての集団PKモデル評価を示す。表2に示す非出血患者及び出血患者の最終集団PKモデルについての適合度プロット(A及びC)及び予測補正視覚予測チェック(pcVPC)(B及びD)。白丸は観察結果を表す。B、D:赤色の線は、観察されたエクリズマブ濃度の5番目(破線)、50番目(実線)及び95番目(破線)のパーセンタイルを示す。影付き領域は、最終モデルに基づいてシミュレートされたデータについての5番目(青色)、50番目(赤色)及び95番目(青色)のパーセンタイルを示す。適合度プロットは、最終モデルのモデル安定性を示した。予測補正視覚予測チェック(pcVPC)は、中央値、並びに5番目及び95番目のパーセンタイル予測間隔が、観察と良好に一致することを示した。
【
図6C】最終モデルについての集団PKモデル評価を示す。表2に示す非出血患者及び出血患者の最終集団PKモデルについての適合度プロット(A及びC)及び予測補正視覚予測チェック(pcVPC)(B及びD)。白丸は観察結果を表す。A、C:適合度プロットは以下の4つの図を含む。観察されたエクリズマブ濃度対集団モデル予測濃度、観察された濃度対ベイズ推定法を使用して推定された個体の予測濃度、条件付き加重残差対集団予測濃度、及び条件付き加重残差対投薬後の時間。
【
図6D】最終モデルについての集団PKモデル評価を示す。表2に示す非出血患者及び出血患者の最終集団PKモデルについての適合度プロット(A及びC)及び予測補正視覚予測チェック(pcVPC)(B及びD)。白丸は観察結果を表す。B、D:赤色の線は、観察されたエクリズマブ濃度の5番目(破線)、50番目(実線)及び95番目(破線)のパーセンタイルを示す。影付き領域は、最終モデルに基づいてシミュレートされたデータについての5番目(青色)、50番目(赤色)及び95番目(青色)のパーセンタイルを示す。適合度プロットは、最終モデルのモデル安定性を示した。予測補正視覚予測チェック(pcVPC)は、中央値、並びに5番目及び95番目のパーセンタイル予測間隔が、観察と良好に一致することを示した。
【
図7A】出血患者及び非出血患者における治療の最初の5回の投薬中の赤血球(RBC)(7A)及び血小板輸血(7B)の数を示す概略図を示す。y軸は、各投薬サイクル中の各血小板輸血の合計(mg/kg/日)を示す。各投薬間隔中の各輸血を異なる色で示した。38人の出血患者のうち15~16人が輸血を受けたが、38人の非出血患者のうち2人のみが、エクリズマブ療法を開始した後に輸血を受けた。RBC及び血小板の最大輸血数は、それぞれ12及び32であった。出血患者は、非出血患者と比較して、治療の最初の5用量全てにわたって、有意に高い輸血を受けた。
【
図7B】出血患者及び非出血患者における治療の最初の5回の投薬中の赤血球(RBC)(7A)及び血小板輸血(7B)の数を示す概略図を示す。y軸は、各投薬サイクル中の各血小板輸血の合計(mg/kg/日)を示す。各投薬間隔中の各輸血を異なる色で示した。38人の出血患者のうち15~16人が輸血を受けたが、38人の非出血患者のうち2人のみが、エクリズマブ療法を開始した後に輸血を受けた。RBC及び血小板の最大輸血数は、それぞれ12及び32であった。出血患者は、非出血患者と比較して、治療の最初の5用量全てにわたって、有意に高い輸血を受けた。
【
図8】出血患者におけるエクリズマブクリアランスに対する赤血球(RBC)輸血の効果を示すグラフを示す。x軸は、投薬間隔中の赤血球輸血の総量を示す。体重及び治療前sC5b-9は、エクリズマブクリアランスに対する有意な共変量であったので、y軸上のエクリズマブクリアランスは、70kgの相対的にスケーリングされた体重及び244ng/mLの治療前sC5b-9によって調整された。線形回帰分析は、エクリズマブクリアランスと、RBC輸血(R2=0.13、p<0.01)又は血小板輸血(R2=0.20、p<0.01)との間に弱い相関を示した。RBCと血小板輸血との間の相関が観察された。
【
図9】投薬前のsC5b-9レベルを考慮したプロトコル4の標的達成の確率を示すグラフである。
図5に示されるプロトコル4についての標的達成の確率は、異なるsC5b-9コホート(<250、250~<500、500~<750及び>750ng/mL)によって層別化され、異なる色で示される。x軸は、異なる体重コホートを示し、y軸は、エクリズマブトラフ濃度≧100μg/mLに達するための標的達成の確率を示す。
【
図10】活動性GI出血を有するTA-TMA患者に対する負荷用量の持続時間の選択。パネルAは、エクリズマブ療法の最初の3週間にわたるsC5b-9の変化を示す。線付きの青色の円は、非出血患者についてのエクリズマブ療法の最初の3週間にわたる測定されたsC5b-9レベルを表し(上パネル)、マゼンタは、出血患者についてのものを表す(下パネル)。データは、正常値<244ng/mL未満の治療前sC5b9レベル(左パネル)、標的を上回るが正常の2倍未満の中間レベル(244~<488ng/mL、中央パネル)、又はより高い≧488ng/mL(右パネル)によって層別化された。各接続線は、個々の患者からのデータを示す。治療開始時に非常に高いsC5b-9を有していた患者の数が限られていたため(右下)、非出血患者(右上)で観察された有意なsC5b-9減少遅延は、出血患者(右下)では観察されなかった。しかしながら、出血に関係なく同等の全体的なsC5b-9分布を考慮すると、活動性出血のための負荷用量は、最悪のシナリオをとることによって非出血患者に対して提案されたように、少なくとも最初の14日間、提案された。パネルBは、治療の最初の3週間にわたってsC5b-9レベル<244ng/mLを達成した患者の頻度を示す。青色は非出血についてのデータを表し、マゼンタは出血患者についてのデータを表す。正常<244ng/mL未満のsC5b-9を達成した患者の頻度は、正常値を達成した患者数を、各々の日に利用可能なsC5b-9レベルを測定した患者の総数で割ることによって計算した。出血患者の20%は、治療開始時にsC5b-9が<244ng/mLを示し、これは、エクリズマブ療法の14日間までに90%まで経時的に増加した。これらは、治療の最初の14日間の負荷用量が出血患者に利益を与え得ることを示唆している。
【
図11】非出血患者についての負荷用量プロトコルは、出血患者についてのより低い標的達成を予測する。非出血患者に対して提案されたオプションA(Q72h投薬オプション)は、矢印で示されるように、非出血患者よりも出血患者において、特により高い体重で、標的達成の確率が有意に低くなると予測する。非出血患者のためのオプションB(より柔軟な投薬間隔オプション)では、標的達成の確率は、患者40~<70kgを除いて、出血患者において80%以上に達する。低体重<20kgのTA-TMA患者については、非出血患者のための投薬プロトコルを、活動性GI出血を有する患者に提案することができる。
【
図12】活動性GI出血を伴うTA-TMAに対するエクリズマブの最適「負荷用量」シミュレーション。本出願人の公開データの出血患者において観察されたものと同様のsC5b-9分布を仮定して、出血患者について開発された集団PKモデルに基づいて、「負荷」mg用量及び投薬間隔の選択について、標的達成の確率をシミュレートした(Mizuno et al 2022)。シミュレーションは、300mg~2100mgの範囲の様々なmg用量で、1~7日の範囲の投薬間隔で行った。異なるmg用量が示されている。80%以上の標的達成の確率を達成するために、最適な投薬オプションを選択した。破線の最適負荷用量プロトコルを選択し、表1及び3に要約する。
【
図13】活動性胃腸(GI)出血を伴うTA-TMAのためのエクリズマブの最適な「誘導投薬」の選択。公開された集団PK/PDモデルに基づくモンテカルロシミュレーションアプローチを使用してエクリズマブC
トラフをシミュレートすることによって、最適投薬シミュレーションを行った(Mizuno et al,Blood Adv 2022)。y軸は、エクリズマブのシミュレートされたC
トラフを示し、x軸は、体重コホートを示す。300mg(1バイアル)増分で300mg~1500mgの異なるエクリズマブmg用量が示されている。出血患者が、誘導期の間に活動性出血のために提案されたエクリズマブの提案された負荷用量を受けた場合、有意に高いC
トラフレベルが達成された(左パネル)。より低い四分位数間Ctroughは、70kgを超える最高体重を有する患者を除いて、同じ用量で1~2日間隔を空けることによって標的レベルに低下する。最高体重群は、100μg/mLの標的レベルを上回るより低い四分位数間C
トラフレベルを達成するために、追加の1バイアル(300mg)を必要とする。右パネルに示される最適化されたプロトコルは、表1の完全投薬プロトコルに要約された。
【
図14】追加の投薬オプションを探索するための、活動性GI出血を伴うTA-TMAについてのエクリズマブの最適な「誘導用量」シミュレーション。PKシミュレーションを、
図12における上記と同じ方法を使用して実施したが、sC5b-9分布は、「負荷」用量段階の代わりに「誘導」用量段階について観察された。追加の潜在的な投薬プロトコルを破線で示すように提案し、誘導投薬オプションとして表S3(B)に要約する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
定義
別段の記載がない限り、用語は、当業者による従来の用法に従って理解されるべきである。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先する。本明細書に記載されるものと同様又は同等の方法及び材料が本発明の実施又は試験に使用され得るが、例示的な方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書に開示される材料、方法、及び実施例は、例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0007】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「方法(a method)」への言及は、複数のそのような方法を含み、「用量(a dose)」への言及は、1つ以上の用量及び当業者に公知のその等価物への言及を含むなどである。
【0008】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値についての許容され得る誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるか、例えば、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣例に従って、1標準偏差以内又は1標準偏差を超えることを意味してもよい。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、又は最大10%、又は最大5%、又は最大1%の範囲を意味してもよい。あるいは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、ある値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味してもよい。特定の値が本出願及び特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、「約」という用語は、特定の値の許容され得る誤差範囲内を意味すると仮定されるべきである。
【0009】
本明細書で使用される場合、用語「抗体断片」、「抗原結合断片」、又は同様の用語は、抗原(例えば、補体成分C5タンパク質)に結合する能力を保持する抗体の断片、例えば、一本鎖抗体、一本鎖Fv断片(scFv)、Fd断片、Fab断片、Fab'断片、又はF(ab')2断片を指す。scFvフラグメントは、scFvが由来する抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の両方を含む単一のポリペプチド鎖である。更に、補体成分C5タンパク質に結合するダイアボディ及びイントラボディを組成物に組み込んで、本明細書に記載の方法において使用することができる。
【0010】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、所望の効果を示すのに十分な1つ以上の活性成分の量を意味する。これは、治療効果及び予防効果の両方を含む。単独で投与される個々の活性成分に適用される場合、この用語は、その成分単独を指す。組み合わせに適用される場合、この用語は、組み合わせて投与されるか、連続的に投与されるか、又は同時に投与されるかにかかわらず、治療効果をもたらす有効成分の組み合わせ量を指す。
【0011】
「個体」、「宿主」、「対象」及び「患者」という用語は、治療、観察及び/又は実験の対象である動物を指すために互換的に使用される。一般に、この用語はヒト患者を指すが、方法及び組成物は、他の哺乳動物などの非ヒト対象にも等しく適用可能であり得る。いくつかの実施形態では、この用語はヒトを指す。更なる実施形態では、この用語は子供を指してもよい。
【0012】
方法は、本明細書に記載される方法の要素、並びに造血幹細胞移植(HSCT)及び出血性合併症に起因する移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)を有する個体を治療する方法において、本明細書に記載されるか又は他の場合には有用な任意の追加の又は任意選択の要素を含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になっていてもよい。
【0013】
TA-TMA及び臨床的に有意な腸出血を有する患者は、個別化エクリズマブ投薬を必要とする。特定の臨床状況において、リアルタイム薬物PK値は、容易に利用可能ではない。胃腸出血ベースの患者のためにエクリズマブを使用するTA-TMA療法のための「固定」投薬レジメン又は投薬表が開示される。本開示は、補体C5阻害剤、特にエクリズマブ、薬物動態/薬物動態(PK/PD)、及び補体阻害剤の投薬レジメンに関する。エクリズマブは、Alexion Pharmaceuticals,Inc.(マサチューセッツ州ボストン)によって製造されるSoliris(商標)の商品名で販売されているC5阻害剤であり、Kaplan(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(7):1017-23、Hill(2005)Clin Adv Hematol Oncol 3(11):849-50、及びRother et al.(2007)Nature Biotechnology 25(11):1256-1488)に記載され、特に、臨床的に有意な出血を有すると更に診断されてもよい、TA-TMAを有する個体へのエクリズマブの投与である。開示される方法は、活動性胃腸出血を有するTA-TMA患者及び/又は消散した胃腸出血を有するTA-TMA患者の両方を治療するために使用されてもよい。例えば、本明細書に開示される方法は、表1に記載される投薬スケジュールを包含する。
【0014】
一態様では、移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)及び活動性胃腸出血を有する個体を治療する方法が開示される。この態様では、方法は、エクリズマブ又はその抗原結合断片を個体に投与することを含んでもよく、エクリズマブ又はその抗原結合断片は、負荷用量及び誘導用量を介して投与される。一態様では、負荷用量は、4回用量について24時間毎に約1200ミリグラム、続いて5回用量について48時間毎に約1500ミリグラム(個体は、70キログラム以上である)、又は4回用量について24時間毎に約900ミリグラム、続いて5回用量について48時間毎に約900ミリグラム(個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は2回用量について48時間毎に、続いて3回用量について72時間毎に約900ミリグラム(個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は2回用量について48時間毎に約900ミリグラム、続いて3回用量について72時間毎に約900ミリグラム(個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は5回用量について72時間毎に約600ミリグラム(個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は5回用量について72時間毎に約300ミリグラム(個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含んでいてもよい。誘導用量は、3週間にわたって48時間毎に約1500ミリグラム(個体は、70キログラム以上の体重を有する)、又は3週間にわたって48時間毎に約900ミリグラム(個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は3週間にわたって72時間毎に約900ミリグラム(個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は3週間にわたって96時間毎に約900ミリグラム(個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は3週間にわたって96時間毎に約600ミリグラム(個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は3週間にわたって96時間毎に約300ミリグラム(個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含んでいてもよい。
【0015】
一態様では、移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)及び消散した胃腸出血を有する個体を治療する方法が開示される。この態様では、方法は、エクリズマブ又はその抗原結合断片を個体に投与することを含んでもよく、エクリズマブ又はその抗原結合断片は、誘導用量及び維持用量を介して投与される。一態様では、誘導用量は、4週間にわたって3~4日毎に週に2回の約1500ミリグラム(個体は、70キログラム以上の体重を有する)、又は4週間にわたって週に1500ミリグラム(個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に約1200ミリグラム(個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に約900ミリグラム(個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に約600ミリグラム(個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は4週間にわたって週に約300ミリグラム(個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含んでいてもよい。維持用量は、4~5週間にわたって3~4日毎に週に2回の約1200ミリグラム(個体は、70キログラム以上である)、又は4~5週間にわたって週に約1200ミリグラム(個体は、40キログラム~70キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって週に約900ミリグラム(個体は、30キログラム~40キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって週に約600ミリグラム(個体は、20キログラム~30キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって週に約600mg(個体は、10キログラム~20キログラム未満の体重を有する)、又は4~5週間にわたって2週毎に約300ミリグラム(個体は、10キログラム未満の体重を有する)を含んでいてもよい。
【0016】
更なる態様では、移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)を有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を個体に投与することを含む方法が開示され、エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に約300ミリグラム、又は体重10キログラム~<20キログラムの患者に約600ミリグラム、又は体重20~<30キログラムの患者に約900ミリグラム、又は体重30~<40キログラムの患者に約1200ミリグラム、又は体重40~<70キログラムの患者に約1500ミリグラム、又は体重70~<100キログラムの患者に約2100ミリグラムの用量で投与され、用量は、3日毎に投与され、患者は、非出血患者である。
【0017】
更なる態様では、TA-TMAを有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を個体に投与することを含む方法が開示され、エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に3日毎に約300ミリグラム、又は体重10キログラム~<20キログラムの患者に3日毎に約600ミリグラム、又は体重20~<30キログラムの患者に2日毎に約600ミリグラム、又は体重30~<40キログラムの患者に1日あたり約600ミリグラム、又は体重40~<70キログラムの患者に1日あたり約900ミリグラム、又は体重70~<100キログラムの患者に1日あたり約900ミリグラムの用量で投与される。
【0018】
更なる態様では、TA-TMAを有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を個体に投与することを含む方法が開示され、エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に3日毎に約300ミリグラム、又は体重10キログラム~<20キログラムの患者に3日毎に約600ミリグラム、又は体重20~<30キログラムの患者に3日毎に約900ミリグラム、又は体重30~<40キログラムの患者に2日毎に約900ミリグラム、又は体重40~<70キログラムの患者に2日毎に約1200ミリグラム、又は体重70~<100キログラムの患者に1日あたり約1200ミリグラムの用量で投与される。
【0019】
更なる態様では、TA-TMAを有する個体を治療する方法であって、エクリズマブ又はその抗原結合断片を個体に投与することを含む方法が開示され、エクリズマブ又はその抗原結合断片は、体重<10キログラムの患者に3日毎に約40ミリグラム/キログラム、又は体重<10キログラム~<100キログラムの患者に2日毎に30ミリグラム/キログラムの用量で投与される。
【0020】
一態様では、TA-TMAを有する個体は、MODSを伴う高リスクTMAを有する。一態様では、TA-TMAは、個体において測定されたベースラインレベルの少なくとも2倍であるsC5b-9レベルによって、及び/又は約244ナノグラム/ミリリットルを超えるsC5b-9レベルによって特徴付けられてもよい。
【0021】
前述の治療レジメン(投薬スケジュール)のいずれかの投与は、個体におけるTA-TMA診断時に開始されてもよい。一態様では、投与は静脈内投与を介してもよい。方法は、LDHの正常化、赤血球(RBC)及び血小板輸血の必要性の解消、並びに分裂赤血球の消失のうちの1つ以上から選択される血液学的TA-TMA応答が治療されている個体において達成されるまで行われてもよい。一態様では、誘導用量は、LDHの正常化、赤血球(RBC)及び血小板輸血の必要性の解消、並びに分裂赤血球の消失の血液学的TA-TMA応答が治療されている個体において達成されるまで行われてもよい。更なる態様では、誘導用量は、244ng/mL未満のsC5b-9レベル若しくは実質的にベースライン(移植前)であるsC5b-9レベルの一方若しくは両方である正常化されたsC5b-9が達成されるまで、又は上昇したsC5b-9レベルが正常化されるまで行われてもよい。
【0022】
特定の態様では、方法は、適切な投薬レジメンを選択する前に、個体が臨床的に有意な胃腸出血を有するかどうかを決定することを含んでいてもよい。一態様では、個体は、消散した胃腸出血を有すると決定されてもよい。特定の態様では、前述の投薬レジメンを使用して治療される個体は、臨床的に有意な出血を有していなくてもよい(すなわち、「非出血状態」の個体)。いくつかの態様では、個体は、幼児、思春期前の個体、又は成人(18歳を超える)から選択されてもよい。
【0023】
更なる態様では、TA-TMAと診断された個体における治療の過程を決定するための精密投薬ツールが開示される。この態様では、ツールは、1つ以上の患者特異的変数を検出することと、エクリズマブ療法の治療有効量を決定することであって、当該決定は、
CL=CLL+CLNL、CLL=CLL、pop×(WT/70)0.97、CLNL=CLNL、pop×(sC5b-9/244)0.53×(WT/70)0.97、Vd=Vdpop×(WT/70)0.63(非出血患者について)、及び
CL=CLL+CLNL、CLL=CLL、pop×(WT/70)1.03、CLNL=CLNL、pop×(sC5b-9/244)0.52×(WT/70)1.03、Vd=Vdpop×(WT/70)0.74(出血患者について)から選択されるアルゴリズムを採用する
(ここで、CLNLは、クリアランスの標的媒介成分を表す70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均非線形クリアランスであり、CLL、popは、新生児Fc受容体によって媒介されるクリアランスの非特異的成分を表す70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均線形クリアランスであり、CLtot、popは、CLNL、pop及びCLL、popの合計として定義される集団平均総クリアランスであり、Vdpopは、70kg-患者についての集団平均分布容積であり、WTは、実際の体重(kg)である)ことと、
アルゴリズムに従って、治療有効量のエクリズマブを本明細書に記載の個体に投与することと、を含む方法を採用してもよい。そのような方法は、コンピュータ化されたデバイス、例えば、ポイントオブケアで「ベッドサイド」で使用されてもよい手持ち式装置を使用して実行されてもよい。
【0024】
開示される方法は、負荷用量、誘導用量、及び維持用量のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0025】
負荷用量。一態様では、負荷用量を使用して、sC5b-9の正常化を達成することによって補体活性化を制御してもよい。血液中の補体活性を完全に抑制するのに十分なエクリズマブ用量を提供することによって、sC5b-9を可能な限り速く正常化するために、集中的な負荷用量が使用されてもよい。TA-TMA臨床応答は、sC5b-9が正常化されない限り達成される可能性が低いので、負荷用量は、患者の体重に対する最大用量(mg)を使用してもよい。一態様において、負荷用量は、正常化sC5b-9が正常化されるまで行われる。一態様では、エクリズマブは、2週間(14日)の期間内にsC5b-9を正常化するのに有効に投与されてもよい。一態様において、エクリズマブは、約11~約13日の期間にわたって上昇したsC5b-9を有する患者に投与されてもよい。上昇したsC5b-9は、>244ng/mLであるか、又は患者のベースライン値と比較して2倍であるかの一方又は両方であってもよい。
【0026】
一態様では、開示される方法は、72時間間隔の投薬スケジュール、又は48時間の投薬スケジュール、又は24時間の投薬スケジュールを使用してもよい。一態様において、各用量(mg)は、上昇したsC5b-9を有する対象において72時間以下の間隔で投与される。一態様では、負荷用量は、少なくとも約、又は約2週間であってもよい負荷用量間隔で投与されてもよい複数回用量であってもよい。
【0027】
誘導用量。誘導用量は、臨床的TA-TMA応答を達成しながら、sC5b-9活性化を制御するために使用されてもよい。一態様では、誘導投薬時間は、少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は約4週間である。一態様では、誘導用量は3週間であってもよいが、治療される患者の出血状態に基づいて短縮又は延長することができる。一態様では、負荷及び誘導を伴う総治療時間は、少なくとも約6週間であり、負荷用量は、総負荷用量及び誘導用量治療期間の約2週間を含む。一態様では、sC5b-9活性化は、誘導投薬が開始されるときにsC5b-9レベルが正常化される(約244ng/mL未満であるか、又は患者ベースラインに実質的に戻される)ように、負荷用量期間で制御される。一態様では、誘導期間は、正常化されたsC5b-9レベルを有する患者に投与され、7日毎、又は6日毎、又は5日毎、又は4日毎、又は3日毎、又は2日毎、又は毎日、又は1日2回投与される。一態様では、誘導用量は、7日間以下投与される。一態様では、患者は>70kgの体重を有し、誘導期間中に週2回の用量が投与される。
【0028】
維持用量。TA-TMAを有する患者におけるエクリズマブクリアランスは、aHUSを有する患者と比較して維持期において依然として23%高かった。維持投薬期間は、TA-TMA制御及び正常化されたsC5b-9レベルを維持するために使用されてもよい。維持投薬期間中、補体活性化を評価してもよい。一態様では、補体活性化が解消されると、エクリズマブ療法を安全に停止することができる。一態様では、維持投薬期は、少なくとも又は約4週間である。したがって、出願人は、所望の臨床応答をもたらす>75μg/mLの治療エクリズマブ薬物レベルを維持するために、週に2回の投薬を必要とした>70kgのものと、重量ベースの薬物(mg)用量を使用して2週間毎にのみ投薬を必要とした<10kgのものを除いて、全ての体重群に対する週に1回の薬物投薬オプションを提案した。
【0029】
一態様では、投薬スケジュールは、約5~約6週間の負荷及び誘導療法、並びに約4~約5週間の維持療法を伴う、約9.5週間の総投薬時間を含む。一態様では、維持療法の4週間後に、sC5b-9が正常化されたままであり、エクリズマブ薬物濃度(トラフ)が>100μg/mLであり、及び/又は各用量で上昇している場合、治療を中断することができる。
【0030】
いくつかの態様では、患者は、補体阻害剤で以前に治療されていない(例えば、患者は、補体阻害剤治療未経験患者である)。いくつかの態様では、患者は、補体遮断薬で以前に治療されていてもよいが、そのような以前の治療をクリアしていてもよい。
【0031】
いくつかの態様では、個体は幼児である。個体は、例えば、0.5(例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、又は9.5)歳であってもよい。幼児は、10歳未満(例えば、9.5、9、8.5、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1歳、又は1歳未満)であり得る。いくつかの態様では、個体は幼児である。個体は、例えば、0.5(例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、又は9.5)歳であってもよい。幼児は、10歳未満(例えば、9.5、9、8.5、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1歳、又は1歳未満)であり得る。一態様では、個体は、新生児(出生から生後28日まで)、又は幼児(29日齢~2歳未満)、小児(2歳~12歳未満)、又は青年(12~21歳、22歳の誕生日まで)である。
【0032】
一態様では、TA-TMAを有する個体を治療する方法が開示され、個体は、以下の投薬表に従って、C5阻害剤、又はエクリズマブ、又はその断片が投与される:
【0033】
【表1】
*1:GI出血を経験したTA-TMA患者の出血状態;出血患者の治療中に、活動性で消散した出血期が予想される。活動性胃腸(GI)出血の基準は、特許文献に記載されている。
*2:負荷用量及び誘導用量-1:負荷用量及び誘導用量-1は、「活動性」GI出血のために設計された。「活動性」出血を有するTA-TMA患者における連続的な高クリアランス予測(Mizuno et al 2022)を考慮すると、標的Ctrough>100μg/mLを維持するために、表2に示される非出血患者よりもより頻繁な投薬を伴うより少ないmg用量である。この誘導用量は、経済的及び薬理学的利益を考慮して、表3に示される2つの提案された誘導投薬オプションから選択された。選択についての詳細な説明を表3に記載した。sC5b-9の減少に従って、活動性出血を有する患者のための投薬間隔は、間隔を空けることができるが、標的Ctrough>100μg/mLを達成するために、<30kgの患者については96時間までの間隔、30~<40kgの患者については72時間までの間隔、及び>=40kgの患者については48時間までの間隔に制限される。誘導用量-1治療過程は、処置された患者における臨床データを使用するPKモデリングに基づいて3週間であると提案されるが、処置された患者の出血状態に基づいて短縮又は延長することができる。
*3:誘導用量-2及び維持用量:誘導用量-2、続いて維持用量を、出血が消散した後に患者に与える。これらのプロトコルは、表3に示されるような非出血患者のデータを使用して開発された。
【0034】
表1の投薬レジメンは、出血患者の2つのカテゴリー:活動性出血及び消散した出血に対して使用されてもよい。「負荷用量及び誘導用量-1」は、「活動性」GI出血に使用されてもよく、「誘導用量-2、続いて維持用量」は、出血が消散した後の患者に使用されてもよい。
【0035】
持続的に高いクリアランスは、「活動性」出血を有したTA-TMA患者において予測される(Mizuno et al 2022)。出血患者は、Ctroughを標的レベルを超えて維持するために、非出血患者よりも少ないmg用量を必要とし、より頻繁な投薬を必要とする。(表1対表2)
【0036】
【0037】
経済的に有効な投薬オプションが、活動性GI出血を伴うTA-TMAのための完全な投薬レジメンとして選択された。(表3-A及びB)
【0038】
【表3】
負荷用量のオプションは、
図12のシミュレーションに基づいて選択された。オプションAは、経済的利益を考慮して、表1における完全投薬提案のために選択された。
【0039】
(A)導入投薬オプション
表3B.GI出血を伴うTA-TMAのためのエクリズマブの投薬オプション
【0040】
【0041】
表3C.GI出血を伴うTA-TMAのためのエクリズマブの投薬オプション
【0042】
【表5】
*3日間の投薬間隔を有する1800mg又は2100mg用量のより高い用量が80%の標的達成に達しないので、70kg以上の患者に対して1つの誘導投薬オプションのみが示唆された。オプションAは、より低い用量の薬物(mg)を使用するが、より頻繁な投薬を伴う投薬として設計され、オプションBは、増加した用量(mg)を利用するが、最小頻度の投薬を伴う。オプションAは、経済的及び薬理学的利益を考慮して、活動性出血を有する患者のための投薬レジメンとして使用されてもよい。オプションAは、オプションBと比較して、治療に必要なバイアルが少なく、経済的に有効である。全体として、オプションAは、オプションBよりも高い標的達成確率を達成する(
図14)。
**誘導用量-1治療過程は、処置された患者における臨床データを使用するPKモデリングに基づいて3週間であると提案されるが、処置された患者の出血状態に基づいて短縮又は延長することができる。
【0043】
sC5b-9の減少に従って、活動性出血を有する患者のための投薬間隔は、間隔を空けることができるが、標的Ctrough>100μg/mLを達成するために、<30kgの患者については96時間までの間隔、30~<40kgの患者については72時間までの間隔、及び>=40kgの患者については48時間までの間隔に制限される。
【0044】
活動性GI出血を有する患者のための投薬
負荷用量
負荷投薬時間(2週間)(
図10)。非出血について記載したように、sC5b-9の正常化は、2週間(14日)以内に起こるはずであり、これは、2週間より長い持続した補体活性化が、TA-TMAにおける多臓器損傷に関連することが示されているからである。本出願人は、二重正常sC5b-9を有する非出血患者において、十分な(治療的エクリズマブ用量)及び完全に抑制された全血液補体活性(CH50<正常下限10%)を用いても、sC5b-9を正常化するのに約11~約13日かかり得ることを見出した。限られた数の患者が、出血患者における治療の開始時に二重の正常sC5b-9を示した。治療全体を通して同等のsC5b-9分布を考慮すると、非出血で観察される負荷用量持続時間を、出血患者に適用することができる。
【0045】
各用量(mg):(
図11及び
図12)。出血患者において観察されたものと同様のsC5b-9分布を仮定して、Mizuno et al.2022において公開されたモデルに基づいて最適な投薬シミュレーションを行った。活動性出血を有する患者が、非出血患者についての投薬プロトコルオプションA(表2)を受ける場合、標的達成の有意により低い確率が、20kgを超えるより高い体重コホートについて予測される。
図12のシミュレーションは、活動性GI出血を有する>20kgの患者について、投薬間隔及び/又はmg用量調整を短縮することによって最適化された投薬プロトコルを導出した。
【0046】
投薬オプションA及びB(表3-A)。体重20~<40kgの患者について、900mg IV Q48h(オプションA)対600mg IV Q24h(オプションB)の2つの投薬オプションが提案された。経済的利益を考慮して、オプションAは、活動性出血を有する患者のための最適な投薬提案のために選択された。出血を有するTA-TMA患者における高いクリアランスは、>40kgの患者のための経済的及び薬理学的に有益な投薬オプションをもたらさなかった。
【0047】
誘導用量1
誘導投薬-1(2~3週間)。本出願人の患者コホートにおいて、出血患者は、中央値13.0週(IQR:7.3~17.6)としてエクリズマブ治療を受けたが、非出血患者は、9.8週(IQR5.9~16.6)として受けた。非出血患者と比較して、出血患者では、中央値3週間のより長い治療が必要であった。誘導投薬-1の一部療法は、負荷療法が完了した後に臨床的に有意なGI出血を有し続ける患者において使用されてもよい。投薬レジメンは、3週間又は活動性出血が制御されるまで投与されてもよい(誘導用量-1治療過程は、治療される患者の出血状態に基づいて短縮又は延長されてもよい)。
【0048】
各用量(mg)及び投薬間隔(13及び
図14)。sC5b-9活性化は、負荷用量で制御されるので、誘導投薬-1が開始されるとき、sC5b-9は正常である。7日毎に与えられる用量は、不十分なCtrough標的達成のために>20kgの患者には適切ではない。出血患者が誘導期の間にエクリズマブの提案された負荷用量を受ける場合、予測されたCtroughレベルは治療レベルを超えて到達した。四分位数間Ctroughレベルを、同じmg用量で1~2日間隔を空けることによって、適切な標的レベルまで最適化した。100μg/mLの標的レベルを超える四分位数間Ctroughレベルを達成するために、1バイアル(300mg)を加えることによる最高体重群に対する更なる用量調整が必要であった。
【0049】
出血後の患者への投薬は解消される。患者は、GI出血が制御され、負荷及び誘導-1投薬部分を受けた後、「誘導投薬-2」に進むことができる。次いで、誘導2の後に維持投薬を行ってもよい。
【実施例】
【0050】
以下の非限定的な例は、本明細書に開示される実施形態を更に説明するために提供される。以下の実施例において開示される技術は、本開示の例示的な態様を表すにすぎないことが当業者によって理解されるべきである。
【0051】
実施例1.
移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)は、小児患者及び若年成人における造血幹細胞移植(HSCT)後の生命を脅かす合併症である。血中sC5b-9の上昇及び蛋白尿によって測定されるような活性化終末補体を含む高リスクTA-TMA特徴を有する患者は、16.7%の移植後1年の全生存率を伴う悲惨な転帰を有する。TA-TMAに対する治療アプローチについて一様に合意されたものはないが、補体調節不全は、臨床的介入の可能性を有する重要な病原性経路である。補体C5に対する最初に利用可能なモノクローナル抗体であるエクリズマブは、TA-TMA治療に対して有望な有効性を示した。高リスクの補体媒介TA-TMAを有するHSCTレシピエントにおいて、血液可溶性終末補体複合体活性(sC5b-9)は、増強されたC5産生のための代用薬力学的バイオマーカーとして役立つ。治療の最初の用量後のエクリズマブ集団PKモデルは、個体の治療前sC5b-9レベル及び体重に基づいて、最適な初回用量並びに後続の用量の最適なタイミングの予測を可能にする。しかしながら、このモデル(described in Jodele S.et al.Variable Eculizumab Clearance Requires Pharmacodynamic Monitoring to Optimize Therapy for Thrombotic Microangiopathy after Hematopoietic Stem Cell Transplantation.Biology of blood and marrow transplantation:journal of the American Society for Blood and Marrow Transplantation.2016;22(2):307-315)は、治療開始時の上昇したsC5b-9レベルのみを考慮しており、疾患進行における状況変化及びその後の治療過程における改善を反映することができない。
【0052】
エクリズマブPK/PDに対する胃腸出血の有意な影響は、用量個別化の一部として考慮すべき別の因子である。出血を伴うTA-TMA患者は、最も速いエクリズマブクリアランスを有し、最も多い数のエクリズマブ用量を必要とし(20対9、p=0.0015)、出血伴わない患者よりも低い1年生存率を有した(44%対78%、p=0.01)。出願人は、TA-TMA及び臨床的に有意な出血を有するHSCT対象を、生存を改善するために個別化された薬物投薬を必要とする超高リスク群として特定した。
【0053】
モデル情報に基づく精密な投薬を使用して、薬物標的曝露を最適化することによって治療の成功を改善することができる。治療全体にわたるPK/PDモデル情報に基づくエクリズマブの精密な投薬の開発は、治療転帰だけでなく費用対効果も改善することを約束する。胃腸(GI)出血を有する患者は、より頻繁な用量で投薬された場合でさえ、低い生存率を示す。エクリズマブPK/PDを、19人の出血患者及び38人の非出血患者(0.5~29.9歳)において分析した。補体活性化バイオマーカー(sC5b-9)及び体重は、出血にかかわらずエクリズマブクリアランスの重要な決定因子として同定された。最初の投薬後のエクリズマブクリアランスは、非出血患者よりも出血患者において高かった(83.8対61.3mL/時間/70kg、p=0.07)。高クリアランスは、出血患者において治療用量にわたって維持されたが、非出血患者は、クリアランスの時間依存的減少を示した。sC5b-9レベルは、最初の投薬前に最高であり、出血合併症にかかわらず経時的に減少した。モンテカルロシミュレーション分析は、aHUSに推奨される現在の投薬プロトコルが、非出血患者における>100μg/mLのエクリズマブ標的濃度達成の15%未満の確率を有することを示した。
【0054】
方法
試験対象
エクリズマブで治療された高リスクTA-TMAを有する64人の患者の臨床コホートが、分析のために利用可能であった。全ての試験対象は、TA-TMAについて前向きかつ均一にモニタリングされ、リアルタイムのエクリズマブPK/PDモニタリングを受けた。このコホートの臨床転帰は、最近、Blood by Jodele et al,Complement blockade for TA-TMA:lessons learned from a large pediatric cohort treated with eculizumab.Jodele S,Dandoy CE,Lane A,Laskin BL,Teusink-Cross A,Myers KC,Wallace G,Nelson A,Bleesing J,Chima RS,Hirsch R,Ryan TD,Benoit S,Mizuno K,Warren M,Davies SM.Blood.2020 Mar 26;135(13):1049-1057.doi:10.1182/blood.2019004218.PMID:31932840において発表された。骨髄移植組織リポジトリに参加する全ての試験対象からインフォームドコンセントを得た。治験審査委員会は、PK/PDデータの遡及的分析を承認した。
【0055】
患者の人口統計、移植情報、臨床データ、及び実験室研究を、電子医療記録及び移植データリポジトリから取得した。赤血球(RBC)及び血小板輸血をエクリズマブ療法の各日について検討し、各試験対象について投与されたmL/kg/日として記録した。下部腸管出血の何らかの臨床的証拠を有する患者を、臨床的に有意な出血を有するものとしてマークし、分析のために出血患者群に割り当てた。
【0056】
不完全なエクリズマブ濃度及び/又は不完全なsC5b-9データを有する対象は、分析から除外した。エクリズマブ濃度>1000μg/mL及び患者が治療用血漿交換法(TPE)で治療された場合のエクリズマブ測定結果は、分析から除外した。
【0057】
エクリズマブ治療及び治療モニタリング
エクリズマブ投薬、応答モニタリング方法、及び臨床転帰評価の詳細は、Jodele S,Dandoy CE,Lane A,et al.Complement blockade for TA-TMA:lessons learned from a large pediatric cohort treated with eculizumab.Blood.2020;135(13):1049-1057に記載されている。簡潔に述べると、最初のエクリズマブ用量(mg)は、エクリズマブ薬物ラベル及び公開されたデータにおいて示唆されるような体重に基づいた。治療の負荷期及び誘導期の間、投薬間隔をエクリズマブ濃度及びCH50レベルに基づいて調整して、血中エクリズマブトラフ濃度を100μg/mL以上、及びトラフCH50レベルを正常値の10%未満に維持した。エクリズマブ負荷用量を、エクリズマブ治療開始時に上昇した血中sC5b-9レベルを有する対象に、少なくとも72時間毎に与え、血中sC5b-9レベルが正常化する(正常<244ng/mL)まで、負荷用量を継続した。維持及び漸減スケジュールは、sC5b-9の正常化後、少なくとも2回の連続した投薬間隔にわたって治療エクリズマブ濃度及びCH50<10%を維持した後にのみ考慮した。漸減スケジュールを開始した後、治療エクリズマブ濃度及び正常sC5b-9レベルが2回の連続用量について記録された場合、血液TA-TMAの消散及び罹患臓器機能の安定化/改善後にエクリズマブ療法を中止した。
【0058】
エクリズマブPK/PDモデリング
Perl-speaks-NONMEM(PsN 4.9.0)及びPirana 2.9.9と連動した非線形混合効果モデリング(NONMEMバージョン7.4、ICON Development Solutions、米国メリーランド州エリコットシティ)を使用して、非出血及び出血TA-TMA患者の薬物動態(PK)モデルを開発した。良好なモデリング実施の基準に従って、Iconditional加重残差l>6の観察をモデリングから除外した。エクリズマブPKに対する潜在的共変量の効果を、年齢、性別、体重、アルブミン、糸球体濾過率(GFR)、エクリズマブ投薬回数、及びsC5b-9レベルを使用して評価した。エクリズマブクリアランスに対する身体サイズ増加の効果を、70kgの体重に対する相対的スケーリングを使用して評価した。機会間変動性も考慮した。欠損したsC5b-9レベルを、線形変化を仮定して、前の値と後の値との間の補間値によって置換した。共変量の選択は、段階的な順方向包含(p<0.05)、逆方向排除(p<0.01)、及び適合度プロットのグラフ評価による目的関数値の有意な減少に基づいた。ブートストラップ分析及び予測補正視覚予測チェックによってモデル評価を実施した(
図6A~6D)。
【0059】
非出血及び出血患者についてのエクリズマブ濃度-時間プロファイルのシミュレーション
出血患者及び非出血患者について開発された集団PKモデルに基づいて、Edsim++ver.1.9を使用して、代表的な患者における後続の投薬の最適なタイミングを予測するために、最初の投薬後のエクリズマブ濃度-時間プロファイルをシミュレートした。aHUSについて承認されている現在推奨されている開始用量(<10kgに対して300mg、10~<40kgに対して600mg、及び40kg以上に対して900mg)を考慮して、若年、中年及び高齢の小児/若年成人のコホートの体重範囲をカバーするために、以下のように代表的な患者をPKシミュレーションのために選択した:300mgを投与される8-kg患者、600mgを投与される25-kg患者、900mgを投与される70-kg患者。
【0060】
最適負荷用量スケジュールのシミュレーション
TA-TMA非出血患者のための最適な負荷用量スケジュールを、モンテカルロシミュレーション(MCS)分析を使用して標的トラフ濃度達成(PTA%)を達成する確率を評価することによって調査した。PTA%は、>100μg/mLの投薬前エクリズマブ濃度目標を達成する患者の割合として定義された。<10kg、10~<20kg、20~<30kg、30~<40kg、40~<70、及び70~<100kgの体重コホートを用いて、合計12,000人の年齢と体重が一致する対象をCDC-NHANESデータベースからランダムにサンプリングした。本研究において観察されたものと同様のデータ分布の仮定の下で、現実的な投薬前sC5b-9レベルを、本研究において観察されたsC5b-9分布に一致させるためにMCSを使用して生成した。aHUSについてラベル付けされた現在推奨されている負荷用量シナリオについてのシミュレーション結果に基づいて、5つの最適な投薬シナリオを選択した(患者<10kgに対して300mg、10<~40kgに対して600mg、及び40~<100kgに対して900mg)。バイアルあたり300mgの用量強度を考慮して、5つの異なる投薬シナリオを以下のように試験した:1;aHUSについて承認されたが、投薬間隔を3日に短縮した各体重コホートについて現在推奨されている投薬量(プロトコル1)、2;3日の投薬間隔で増加した投薬量(プロトコル2)、3;aHUSについて承認された各体重コホートについて現在推奨されている投薬量であるが、体重コホートに応じて投薬間隔を調整したもの(プロトコル3)、4;極端な高用量を回避するための増加した投薬量と短縮された投薬間隔との組み合わせ(プロトコル4)、及び5;mg/kgベースの投薬(プロトコル5)。
【0061】
結果
試験対象
複数回投薬の治療を通しての完全なエクリズマブPK/PDデータは、モデル開発のために19名の出血患者及び38名の非出血患者において利用可能であった。集団PKモデル開発に対する関連する人口統計データを表1に要約する。
【0062】
出血患者は、エクリズマブ療法期間中に、非出血患者よりも有意に高いRBC及び血小板輸血を受けた(出血患者の79~84%対非出血患者の5%)。この集団における治療前のsC5b-9レベルは、かなり変動的であり、中央値は217ng/mL(107~1641ng/mL)であった。出血患者は、非出血患者よりも有意に低いアルブミン及びAST値を有していた。年齢、体重、投薬前sC5b-9レベルを含む全ての他の検査パラメータは、出血患者と非出血患者との間で有意差がなかった(表1)。
【0063】
表1.患者の人口統計
GFR、体表面積1.73m2で調整した糸球体濾過率;SCR、血清中クレアチニン、BIL、血清ビリルビン、ALB、アルブミン;AST、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;ALT、アラニンアミノトランスフェラーゼ、RBC、赤血球;PLTS、血小板;*1、総量、最初の5回の治療用量中のRBC/PLTS輸血の合計(mg/kg/日);*2、輸血回数、最初の5回の治療用量中のRBC/PLTS輸血日の合計
【0064】
【0065】
【0066】
非出血患者の最終モデルは以下の通りである。
CL=CLL+CLNL、CLL=CLL、pop×(WT/70)0.97、CLNL=CLNL、pop×(sC5b-9/244)0.53×(WT/7O)0.97、Vd=Vdpop×(WT/70)0.63。
【0067】
出血患者の最終モデルは以下の通りである。
CL=CLL+CLNL、CLL=CLL、pop×(WT/7O)1.03、CLNL=CLNL、pop×(sC5b-9/244)0.52×(WT/7O)1.03、Vd=Vdpop×(WT/70)0.74。
ここで、CLNL、popは、70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均非線形クリアランスであり、CLL、popは、70kg-患者についてのエクリズマブ集団平均線形クリアランスであり、CLtot、popは、CLNL、pop及びCLL、popの合計として定義される集団平均総クリアランスであり、Vdpopは、70kg-患者についての集団平均分布容積であり、WTは、実際の体重(kg)である。
【0068】
非出血患者と出血患者との間のエクリズマブPK/PD差
エクリズマブ濃度-時間プロファイルの変化は、非出血及び出血患者における最初の治療の5用量の間に可視化された(
図1)。出血患者では、エクリズマブ濃度は、非出血患者と比較して、治療用量にわたってより急速に標的レベルを下回った。薬物排出は、非出血患者における治療の用量にわたって徐々に減少した。対照的に、出血患者は、全ての5用量にわたって高い薬物排出を維持した。出血患者は、非出血患者と比較して、治療の最初の5用量全てにわたって、より高いRBC及び血小板輸血を受けた(
図7A、7B)。
【0069】
個体のエクリズマブクリアランス推定値及び観察された投薬前sC5b-9レベルを使用することによって、非出血患者と出血患者との間のエクリズマブPK/PD差も評価した。最初の投薬後のエクリズマブクリアランスの中央値は、非出血患者よりも出血患者において高い傾向があった(83.8対61.3mL/時間/70kg、p=0.07)。出血患者において高いクリアランスが経時的に維持されたが、非出血患者は経時的にクリアランスの減少を示したことに留意することが重要である。投薬前sC5b-9レベルは、治療の最初の週の間に最も高く、出血事象にかかわらず経時的に減少した(
図2、B)。投薬前のsC5b-9レベルは、最初の週の間の出血患者においてより高く、続いて、その後の治療の間の非出血患者と同等のレベルに抑制される傾向があった。
【0070】
エクリズマブ集団PKモデリング
別個の集団PKモデルを、非出血患者及び出血患者について開発した。1コンパートメントモデルがデータを最もよく説明した。エクリズマブクリアランス(CL)は、新生児Fc受容体媒介クリアランスを表す非特異的線形クリアランス(CLL)成分及び標的媒介クリアランスのための非線形クリアランス(CLNL)成分によって記載された。22~24出血患者において、CLL及びCLNLは、経時的なエクリズマブクリアランス変化が観察されなかったため、独立して推定することができなかった。出血患者において観察される非常に高い総クリアランスを考慮すると、出血患者と非出血患者との間のCLL差の影響は無視することができた。したがって、非出血患者において推定されたCLLを、出血患者のPKモデリングに使用した。
【0071】
出血事象にかかわらず、sC5b-9レベル及び体重は、同等の指数推定値を有するエクリズマブクリアランスを予測する有意な共変量であった。
【0072】
非出血患者は、最初の投薬後に70-kgの患者では58.5mL/時間の平均エクリズマブクリアランス推定値を示し(CLNL;31.3mL/時間、CLL;27.2mL/時間)、sC5b-9レベルの上限正常範囲は244ng/mLであった。これらの推定値は、244ng/mLのsC5b-9レベルを有する70-kgの患者において66.0mL/時間の平均エクリズマブクリアランスを導出した本出願人の以前に公開されたモデルと同等である。クリアランスのエクリズマブ非線形時間依存的減少は、sC5b-9変化に加えて投薬回数の関数であった。70-kgの患者に対する最初の投薬後の平均分布容積は、5.5Lであった。分布容積は、治療の用量にわたって63%まで増加した。
【0073】
出血患者は、244ng/mLのsC5b-9レベルでの70-kgの患者における最初の投薬後、87.2mL/時間の平均エクリズマブクリアランスを有し(CL
NL;60.0L/時間、CL
L;27.2L/時間)、それは、非出血患者における平均クリアランス推定値よりも50%高かった。エクリズマブ非線形クリアランスは、体重及びsC5b-9レベルが変化しなかった場合、複数回用量の治療にわたって一定のままであった。出血患者は、異なる投薬間隔にわたって4.4L(70-kgの患者に対して正常化された)の分布容積を有し、これは、非出血患者における最初の投薬後の分布容積よりも20%低かった。RBCの量は、血小板輸血の量と相関した。RBC及び/又は血小板輸血を受けた患者は、より高いエクリズマブクリアランスを有する可能性があった(RBCについてR
2=0.13及び血小板輸血についてR
2=0.20、
図8)。しかしながら、この効果は有意ではなく、最終モデルにおいて保持されなかった。
【0074】
エクリズマブPKシミュレーション
治療の最初の投薬後7日間にわたる以前に報告されたエクリズマブ濃度-時間シミュレーションを、出血合併症を有する患者について新たに開発されたPKモデルに基づいて拡張した(
図3)。シミュレーションは、代表的な場合、エクリズマブ標的濃度を≧100μg/mLに維持するのに必要な次の用量のタイミングを予測した。
図3は、300mgを受けている8-kgの患者、600mgを受けている25-kgの患者、及び900mgを受けている70-kgの患者における投薬シナリオについてシミュレートされたエクリズマブ濃度-時間プロファイルの概要を提供する。
【0075】
400ng/mLの投薬前sC5b-9レベルを有する600mgのエクリズマブを受けている25-kgの非出血患者において、平均エクリズマブ濃度は、最初の投薬の約4日後に100μg/mL未満に低下すると予測された。平均エクリズマブ濃度は、200ng/mLのより低い治療前sC5b-9レベルが存在するであろう5日間にわたって標的を上回って維持された。300mgのエクリズマブを受けている8-kgの非出血患者は、投薬前sC5b-9レベルに応じて5~7日間の範囲の期間にわたって、標的を上回るエクリズマブ濃度を維持すると予測された。この標的達成期間は、600mgのエクリズマブを受けている25-kgの患者において観察されたものよりも長かった。対照的に、900mgを投与された70-kgの非出血患者は、最初の投薬後3日以内に標的を下回るエクリズマブ濃度を有すると予測された。出血患者において、エクリズマブ濃度は、非出血患者において予測されたものよりも約0.5~1日早く標的未満に低下すると予測された。
【0076】
最適な投薬スケジュールのシミュレーション
aHUSについて承認された現在推奨されている週1回の誘導投薬は、非出血患者において50%の標的達成の最大確率(PTA%)をもたらした。より低いPTA%は、<20kgの患者と比較して、より重い体重(≧20kg)を有する患者について予測された。用量あたり同じ量の薬物(mg)を使用するが、3日毎に投薬することによってエクリズマブ投薬を強化する場合(プロトコル1)、少なくとも80%のPTA%が<20kgの対象において達成された。PTA%は、≧20kgの患者において50%未満であった。したがって、プロトコル2は、体重コホートを細分することによって少なくとも80%のPTAに達するために、特に固定された3日間の投薬間隔を有する≧20kgの患者について、最適用量を評価した。3日間の投薬間隔では、最適用量は、体重20~<30kgの患者については900mg、30~<40kgについては1200mg、40~<70kgについては1500mgであった。≧70kgの患者では、最適用量は2100mgであると予測され、これは現在推奨されている最大誘導用量900mgよりも有意に多い。プロトコル3は、推奨されるaHUS用量(mg)を各体重コホートについて選択した場合に、80%PTAに達する最良の投薬間隔を評価した。予測された最適間隔は、体重<20kgの患者については3日間、20~<30kgについては2日間、及び≧30kgについては1日であった。現在推奨されている900mgの用量は、体重70~100kgの患者において、その用量を毎日投与したとしても、最大60%のPTAしかもたらさなかった。プロトコル4は、増加した投薬量(mg)及び用量強化を組み合わせることによって最適な投薬プロトコルを評価した。予測された最適用量プロトコルは、体重20~<30kgの患者については3日毎に900mg、30~<40kgについては2日毎に900mg、40~<70kgについては2日毎に1200mg、40~<70kgについては2日毎に1200mg、>70kgについては毎日1200mgであった。最後に、80%PTAに達するための最適なmg/kgベースの用量が、プロトコル5においてオプションとして提案される。体重が10kg未満の患者に対する最適用量は、3日毎に40mg/kgであり、10kg以上の患者に対しては2日毎に30mg/kgであった。様々なPTA%標的を達成する投薬プロトコルの概要を
図4に見出すことができる。投薬量が300~2100mgの範囲であり、投薬間隔が1~7日の範囲である投薬スケジュールについてのPTA%を記載する。
図5は、100%に近いPTA%は、プロトコル4の各体重コホートにおいて用量を300mg(1バイアル)増加させることによって達成することができたことを示す。PTA%に対する投薬前sC5b-9レベルの効果を
図9に要約する。投薬プロトコル4についてのPTA%予測を、<250、250~<500、500~<750及び>750ng/mLのsC5b-9コホートによって層別化した。PTA%は、sC5b-9レベルの増加と共に減少した。PTA%は、≧500ng/mLの高いsC5b-9レベルを有する患者において80%未満であると予測された。
【0077】
考察
持続的な過剰な補体活性化は、内皮に損傷を与え、多臓器損傷及び死をもたらし得る。本出願人の以前の臨床観察は、迅速な補体遮断が、高リスクTA-TMAを有するHSCTレシピエントにおける臨床転帰を改善するために必要であることを明確に実証している。最も正確な薬物投薬は、補体及びTA-TMA活性が最も高い治療の負荷及び誘導期の間に必要とされる。この新たに開発されたエクリズマブ負荷、誘導、及び維持投薬アルゴリズムは、aHUSを有する患者に現在承認されている投薬レジメンが、著しく低い標的達成のために、TA-TMAを有するHSCTレシピエントに適していないことを裏付けている。これらの結果は、TA-TMAを有するHSCT患者に対するエクリズマブ投薬が最適化される必要があることを強く示唆している。
【0078】
HSCTレシピエントの最大TA-TMAコホートにおいて複数回のエクリズマブ治療用量を通して収集された富化エクリズマブPK/PDデータセットを使用する集団PKモデルが開示される。モデル更新は、以前に公開されたモデルに将来の臨床応用のためのいくつかの特徴を追加する。更新されたモデルは、最初の用量だけでなく後続の用量についても、エクリズマブの精密な投薬のために使用することができる。富化エクリズマブPK/PDデータセットは、モノクローナル抗体の排除経路:すなわち、ブランベル受容体媒介排除及び標的媒介排除経路の機構的動作概念を考慮したモデルの開発を可能にした。現在承認されているaHUS投薬ガイドラインは、10~40kgの範囲の体重を有する患者において同じ誘導用量を使用する。HSCT患者におけるシミュレーションは、≧20kgの患者についての標的達成が、同じ投薬プロトコルで治療された場合、<20kgの患者と比較して有意に低いことを示した。これらの観察は、更に細分された体重群が、より重い体重の患者における標的濃度未満を回避するために、HSCT患者において有益であることを示唆する。
【0079】
出血患者は、はるかに高いエクリズマブ薬物クリアランスを有する。予備分析は、出血患者が、非出血患者において観察されるものとは異なる薬理学的特徴及び疾患特徴を示すことを示したので、出血合併症に応じてエクリズマブ用量を最適化することに大きな利益がある。
【0080】
この新たに開発されたモデルは、維持期中のエクリズマブ用量最適化にも適用可能である。維持期中のエクリズマブ予測クリアランスは、sC5b-9レベルが正常範囲にある場合、27.2mL/時間であり、これはaHUSについて報告されたクリアランスよりも依然として23%高かった。これは、aHUSについて承認された現在推奨されている投薬間隔が維持期について示唆するよりも頻繁な投薬が、TA-TMA患者において必要とされ得ることを示唆する。
【0081】
出血患者は、非出血患者と比較して有意に低い生存率を有していた(44%対78%)。本出願人は、出血患者におけるエクリズマブPK/PDを、非出血患者におけるエクリズマブPK/PDと比較した。RBC及び血小板輸血の必要量を、微小血管症-溶血活性及び失血の代用マーカーとして使用した。印象的なことに、非出血患者の5%のみが、エクリズマブ療法の開始後に輸血を必要とし、溶血及び血小板消費の良好な制御を示したが、出血患者の84%は輸血依存性であった。出血患者において観察された治療投薬間隔にわたるより高い輸血要件と一致して、エクリズマブクリアランスは、治療の用量にわたって高いままであったが、クリアランスは、非出血患者において経時的に減少した。興味深いことに、出血患者と非出血患者との間で、時間依存的なsC5b-9の減少に有意差はなかった。これは、治療研究が用量調整のためにリアルタイムエクリズマブ濃度及びCH50モニタリングを使用したので、出血患者に適用されたより頻繁な投薬によって説明することができる。これらの結果は、出血を考慮したモデル情報に基づく精密な投薬戦略が、エクリズマブ標的濃度を達成することによってsC5b-9を迅速かつ効果的に減少させ得ることを示唆する。腸管出血を有する患者における適切な補体遮断は、これらの患者が移植片対宿主病(GVHD)又は感染症のような他の移植関連合併症を有することが多いため、生存を改善するのに依然として十分ではない可能性がある。効果的なGVHD予防又は治療及び感染制御と共に、血管内皮の健康及び迅速な補体活性化制御を維持する早期介入が、臨床転帰を更に改善するために必要とされる可能性が高い。
【0082】
本出願人は、出血患者における高いエクリズマブクリアランスの機構を解明しようとした。この試験では、投薬前sC5b-9レベル及び患者体重は、新たな共変量が同定されることなく、高い薬物クリアランスを予測する有意な共変量のままであった。1つの可能性は、重度の失血を有する患者が、身体からの薬物喪失に起因して高いエクリズマブクリアランスを有していたことであった。本発明者らの共変量分析は、出血患者における出血重症度についての代用マーカーとしての赤血球輸血が、高クリアランスを部分的に説明し得るが、それは最終モデルにおいて保持されないことを示唆した。別の潜在的な機序は、損傷した腸組織からの持続的な過剰なC5生成であり、エクリズマブが結合するための多数の標的を提供する。PK/PD分析は、治療開始時のより高い前治療sC5b-9が高い薬物クリアランスを反映することを示した。しかしながら、出血患者におけるエクリズマブクリアランスは、sC5b-9値が正常化された後であっても高いままであり、正常なsC5b-9レベルを維持するために遮断のためにエクリズマブを必要とし続ける進行中のC5世代を潜在的に示す。出血患者におけるより低いアルブミンレベルは、インフリキシマブ及び抗PD-L1抗体などの他のモノクローナル抗体(mAb)について報告されているように、高いクリアランスに部分的に関与している可能性がある。実際、本出願人の試験は、出血患者におけるベースラインアルブミンレベルが、非出血患者よりも有意に低いことを示した。しかしながら、低アルブミンは、タンパク質代謝回転の増加を引き起こし得、mAbを含むIgGの分解の促進、及びmAb新生児Fc受容体媒介クリアランスの増加をもたらす。この試験では、おそらく出血患者がアルブミンを含有する完全静脈栄養を受けていたために、エクリズマブの体内動態に対するアルブミンの有意な効果はなく、これは効果をマスクした可能性があった。これは、高い薬物クリアランスが、出血患者において多因子性である可能性が高く、そのような患者は、エクリズマブの個別化されたPK/PDベースの投薬を必要とすることを示唆する。
【0083】
要約すると、本出願人の試験は、HSCTレシピエントが、この集団に適した専用の薬物投薬スケジュールを必要とすることを示す。臨床ケアに組み込むことができるいくつかの投薬戦略を特定した。本出願人の発明以前には、非出血HSCTレシピエントにおけるエクリズマブ投薬のために「固定」用量又は「ブランケット」投薬レジメンを導出することができたが、臨床的に有意な出血を有する者には満足のいくものではなかった。本出願人は、出血伴うTA-TMA患者が、疾患活動性に基づいて適切なエクリズマブ曝露を提供するために、連続的なPK/PD用量修正を使用する個別化された用量調整から利益を得ることを示したが、「固定」投薬表は、個別化された投薬ツールへのアクセスを有さない介護者によって使用される出血患者のために特に作成され得る。出血患者は、おそらく損傷した腸からの持続的なC5生成及び出血によるいくらかの薬物喪失のために、より強い負荷及び誘導治療過程を必要とする。そのような個別化された投薬ツールは、移植後の転帰を更に改善するために、出血患者のための臨床診療において使用され得る。
【0084】
全てのパーセンテージ及び比は、特に指示しない限り、重量によって計算される。
【0085】
全てのパーセンテージ及び比は、特に指示がない限り、総組成に基づいて計算される。
【0086】
本明細書全体を通して与えられる全ての最大数値限定は、それよりも低い全ての数値限定を、そのようなより低い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように含むことが理解されるべきである。本明細書全体を通して与えられる全ての最小数値限定は、それよりも高い全ての数値限定を、そのようなより高い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように含む。本明細書全体を通して与えられる全ての数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に入る全てのより狭い数値範囲を、そのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明示的に記載されているかのように含む。
【0087】
本明細書に開示される寸法及び値は、列挙された正確な数値に厳密に限定されるものとして理解されるべきではない。代わりに、別段の指定がない限り、そのような各寸法は、列挙された値とその値を取り囲む機能的に等価な範囲の両方を意味することを意図している。例えば、「20mm」として開示される寸法は、「約20mm」を意味することが意図されている。
【0088】
任意の相互参照又は関連する特許又は出願を含む、本明細書に引用される全ての文書は、明示的に除外又は別様に限定されない限り、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。全ての受託情報(例えば、PUBMED、PUBCHEM、NCBI、UNIPROT、又はEBI受託番号で識別される)及び出版物全体が、この開示の日付の時点で当業者に知られている最新技術をより完全に説明するために、参照により本開示に組み込まれる。いずれの文献の引用も、それが本明細書で開示又は特許請求されるいずれかの発明に関する先行技術であること、又はそれが単独で、又はいずれかの他の参考文献(複数可)とのいずれかの組み合わせにおいて、いずれかのそのような発明を教示、示唆、又は開示することを認めるものではない。更に、本文書中の用語の任意の意味又は定義が、参照により組み込まれた文書中の同じ用語の任意の意味又は定義と矛盾する場合、本文書中のその用語に割り当てられた意味又は定義が優先するものとする。
【0089】
本発明の特定の実施形態を例示し説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な他の変更及び修正が行われてもよいことが当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲内にある全てのそのような変更及び修正を添付の特許請求の範囲に包含することが意図される。
【国際調査報告】