(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】カリウムセンサ膜組成物
(51)【国際特許分類】
G01N 27/333 20060101AFI20241212BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20241212BHJP
C08K 5/55 20060101ALI20241212BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20241212BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01N27/333 331A
C08L75/04
C08K5/55
C08K5/11
G01N27/416 351B
G01N27/333 331C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537049
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 US2022052927
(87)【国際公開番号】W WO2023121938
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524231166
【氏名又は名称】プロトン インテリジェンス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラナムカーラチチ、サハン
(72)【発明者】
【氏名】カダルソ ブスト、 ビクトル ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】デルヴィシェヴィッチ、エスマ
(72)【発明者】
【氏名】シオハラ、アマネ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン、ライアン イー.
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CK021
4J002ED066
4J002EH098
4J002EY017
4J002FD028
4J002GB01
4J002GQ00
(57)【要約】
本発明は、K+選択センサと共に使用するためのK+選択性膜組成物を提供する。組成物は、K+イオノフォアのKI-II、陽イオン交換体のテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム、ベース膜ポリマーのポリウレタン、及び可塑剤のセバシン酸ジオクチルを含有する。これらの成分は、K+イオノフォア(KI-II):15重量%(イオノフォアII)、陽イオン交換体(CE):2.25重量%(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)、可塑剤(DOS):29.5重量%(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル))、及びポリマー(PU):58重量%(ポリウレタン)の量で存在する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、K
+特異的センサと共に使用するための機能性K
+センサ膜組成物:
(KI-II)を含むK
+イオノフォア、(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)を含む陽イオン交換体(CE)、ベース膜ポリマー(ポリウレタン(PU))、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチル(DOS));
ただし該組成物は、0~30.0重量%のKI-II/CEの重量%、モル%比を有する。
【請求項2】
0.6~10.0重量%、0.97~14.5モル%、(例えば、2/3~30/3重量%)、又は3.3~6.7重量%、4.8~9.7モル%、(例えば、10/3~10/1.5重量%)のKI-II/CEの重量%、モル%比を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
0~10重量%(例えば、0/10~10/1重量%)のPU/DOSの重量%比を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
0.2~4重量%(例えば、1/5~4/1重量%)又は0.3~2.5重量%(例えば、1/3~5/2重量%)のPU/DOSの重量%比を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項5】
機能性K
+特異的膜を含むK
+特異的センサであって、前記K
+特異的膜が、請求項1に記載の機能性K
+特異的膜組成物から形成される、センサ。
【請求項6】
例えば、血液及び/又は間質液などの生体液中のカリウムを決定するためのカリウムセンサに関連する生物学的用途及び生物医学的用途における使用に適しており、例えば、血液及び/又は間質液などの生物学的試料における使用、並びに0.5から10mMのK
+の線形範囲内のカリウムレベルの決定に適している、請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
K
+特異的センサと共に使用するための機能性K
+センサ膜組成物であって、以下を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になり:
(KI-II)を含むK
+イオノフォア、(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)を含む陽イオン交換体(CE)、ベース膜ポリマー(ポリウレタン)、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチル);ただし:
該組成物は0~10重量%(例えば、0/10~10/1重量%)のPU/DOSの重量%比を有する。
【請求項8】
0.2~4重量%(例えば、1/5~4/1重量%)又は0.3~2.5重量%(例えば、1/3~5/2重量%)のPU/DOSの重量%比を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
機能性K
+特異的膜を含むK
+特異的センサであって、前記K
+特異的膜が、請求項7に記載の機能性K
+特異的膜組成物から形成される、センサ。
【請求項10】
例えば、血液及び/又は間質液などの生体液中のカリウムを決定するためのカリウムセンサに関連する生物学的用途及び生物医学的用途における使用に適しており、例えば、前記センサが、血液及び/又は間質液などの生物学的試料における使用、並びに0.5から10mMのK
+の線形範囲内のカリウムレベルの決定に適している、請求項9に記載のセンサ。
【請求項11】
K
+特異的センサと共に使用するための機能性K
+センサ膜組成物であって、以下を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になり:
(KI-II)を含むK
+イオノフォア、(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)を含む陽イオン交換体、ベース膜ポリマー(ポリウレタン)、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチル);ただし
該成分は、以下の量で存在する:K
+イオノフォア(KI-II):15重量%(イオノフォアII)、陽イオン交換体(CE):2.25重量%(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)、可塑剤(DOS):29.5重量%(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル))、及びポリマー(PU):58重量%(ポリウレタン)。
【請求項12】
機能性K
+特異的膜を含むK
+特異的センサであって、前記K
+特異的膜が、請求項11に記載の機能性K
+特異的膜組成物から形成される、センサ。
【請求項13】
センサが、例えば、血液及び/又は間質液などの生体液中のカリウムを決定するためのカリウムセンサに関連する生物学的用途及び生物医学的用途における使用に適しており、例えば、前記センサが、血液及び/又は間質液などの生物学的試料における使用、並びに0.5から10mMのK
+の線形範囲内のカリウムレベルの決定に適している、請求項12に記載のセンサ。
【請求項14】
機能性K
+特異的膜を有するK
+特異的センサを形成する、以下の工程を含む方法:
(1)(KI-II)を含むK
+イオノフォア、(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)を含む陽イオン交換体(CE)、ベース膜ポリマー(ポリウレタン(PU))、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチル(DOS))を溶媒に溶解して、機能性K
+センサ膜組成物を形成する工程、ただし前記組成物は、0~30.0重量%のKI-II/CEの重量%、モル%比を有する、及び/又は前記組成物は、0~10重量%(例えば0/10~10/1重量%)のPU/DOSの重量%比を有する;及び
(2)前記組成物を電極の表面に塗布し、次いで溶媒を蒸発させることにより、機能性K
+特異的膜を有するK
+特異的センサを形成する工程。
【請求項15】
電極が、金(Au)を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電極の表面が、ポリピロール(PPy)で修飾されている、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月20日に出願された米国仮出願第63/291,804号の優先権を主張するものであり、その非仮出願である。
【背景技術】
【0002】
カリウム(K+)選択性膜組成物は、当技術分野で公知であり、バリノマイシンなどのK+イオノフォア(I型)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸カリウム又はテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウムなどの陽イオン交換体(CE)、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)などの可塑剤、及びポリ(塩化ビニル)などのポリマーなどの成分を包含し得る。
【0003】
当技術分野の膜組成物の課題は、当該膜組成物が、K+のモニタリングに使用するのに十分な選択性をもたらさないことであり、K+よりもはるかに大きな濃度変化(一桁大きい)をもたらす50mMのNa+濃度変化に対して1mMのK+濃度変化など(例えば、溶液中1mMのK+の範囲は、例えば、血液又は間質液で観察され得る)、ナトリウムイオン(Na+)の濃度変化の方がK+よりもはるかに大きい(一桁大きい)濃度変化をもたらし得る。試験中、例えば10mMのNa+の低濃度の溶液が典型的に用いられる。このような条件下であっても、ナトリウム濃度の変動によるセンサ応答の変化を観察することができる。
【0004】
K+選択センサで使用するためのK+選択性膜組成物の改善が、センサの応答及び性能を改善するために望まれている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、優れたセンサ応答及び性能を示すK+選択センサと共に使用するためのK+選択性膜組成物を提供する。本発明はまた、前記組成物を含むセンサ、並びに前記組成物及びセンサの使用方法を提供する。
【0006】
第1の態様では、本発明は、K+特異的センサと共に使用するための第1の機能性K+センサ膜組成物を提供する。膜組成物は、(KI-II)を含むK+イオノフォア、(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)を含む陽イオン交換体、ベース膜ポリマー(ポリウレタン)、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチル)を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になる。組成物は、0~30.0のKI-II/CEの重量%、モル%比を有する。
【0007】
第2の態様では、本発明は、K+特異的センサと共に使用するための別の機能性K+センサ膜組成物を提供する。膜組成物は、(KI-II)を含むK+イオノフォア、(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)を含む陽イオン交換体、ベース膜ポリマー(ポリウレタンなど)、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチルなど)を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になる。組成物は、0~10(例えば0/10~10/1重量%)のベース膜ポリマー/可塑剤の重量%比を有する。
【0008】
第3の態様では、本発明は、K+特異的センサと共に使用するための機能性K+センサ膜組成物を提供する。組成物は、KI-IIを含むK+イオノフォア、テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウムを含む陽イオン交換体、ポリウレタンを含むベース膜ポリマー、及び可塑剤(セバシン酸ジオクチル(DOS))を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になる。成分は、以下の量:K+イオノフォア(KI-II):15重量%(イオノフォアII)、陽イオン交換体(CE):2.25重量%(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)、可塑剤(DOS):29.5重量%(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル))、及びポリマー(PU):58重量%(ポリウレタン)で存在する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】例の項からのセンサ応答結果を示す図である。
【
図2】例の項からのセンサ較正プロットを示す図である。
【
図3】例の項からのセンサ応答結果を示す図である。
【
図4】例の項からのセンサ応答結果を示す図である。
【
図6】例の項で説明したクロノアンペロメトリを用いたPPyの電着を示す図である。
【
図7】例の項で説明した予備的最適化研究を示す図である。
【
図8】例の項で説明した予備的細胞毒性研究を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、K+選択センサと共に使用するためのK+選択性膜組成物を提供する。本発明者らは、予想外にも、当該膜組成物の、K+選択センサとの使用が優れたセンサ応答及び性能を示すことを見出した。
【0011】
第1の態様では、本発明は、K+特異的センサと共に使用するための機能性K+センサ膜組成物を提供する。膜組成物は、K+イオノフォア(K)、陽イオン交換体(CE)、ベース膜ポリマー、及び可塑剤を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になる。組成物は、0~30.0重量%、0~20.6モル%(例えば、0/10~30/1重量%)、より好ましくは0.6~10.0重量%、0.97~14.5モル%(例えば、2/3~30/3重量%)、最も好ましくは3.3~6.7重量%、4.8~9.7モル%(例えば、10/3~10/1.5重量%)のK/CEの重量%、モル%比を有する。
【0012】
さらなる態様では、単独で、又は本明細書に記載の任意の組成物と組み合わせて、膜組成物は、K+イオノフォア(K)、陽イオン交換体(CE)、ベース膜ポリマー(BMP)、及び可塑剤(P)を包含する。この態様では、組成物は、0~10重量%(例えば、0/10~10/1重量%)、より好ましくは0.2~4重量%(例えば、1/5~4/1重量%)、最も好ましくは0.3~2.5重量%(例えば、1/3~5/2重量%)のBMP/Pの重量%比を有する。
【0013】
さらなる別の好ましい態様では、単独で、又は本明細書に記載の任意の組成物と組み合わせて、膜組成物は、K+イオノフォア(K)、陽イオン交換体(CE)、ベース膜ポリマー(BMP)、及び可塑剤(P)を包含する。この態様では、成分は、以下の量:K-15重量%、CE-2.25重量%、P-29.5重量%(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル))、及びBMP-58重量%で存在する。
【0014】
成分K、CE、BMP、及びPは、本明細書においてとくに限定されない。しかしながら、とくに好ましい態様では、成分は以下のいずれか又はすべてを包含することに留意されたい。
【0015】
K+イオノフォアは、本明細書においてとくに限定されない。イオノフォアという単語は、ギリシャ語(「イオン」及び「フォア」、「イオンキャリア」)に由来し、イオンを可逆的に結合し、膜を横切ってイオンを輸送することができる化学種である。合成カリウムイオノフォアは、(I=バリノマイシン、II、III、IV)を包含し、すべて疎水性膜に潜在的に使用することができる。最も一般的に使用されるK+イオノフォアは、I>II>IIIに格付けされ、最も稀なのはIV型である。
【0016】
イオノフォアとして作用する、抗菌、抗炎症、及び抗生物質機能などの他の生物学的機能を包含する生物由来の分子も存在し、使用することができる。これらの生物由来のイオノフォアは、ストレプトミセス菌を使用して製造することができる。そのようなイオノフォアの例としては、1)Na+、Ca2+及びMg2+などの他のアルカリ金属イオンに加えて、K+に対して高い優先性を有するサリノマイシン、2)バフィロマイシンA1、3)K+及びH+イオンの両方と反応性のニゲリシン(Nagericin)、4)K+及びNH4+の両方と反応性のノナクチン、並びに5)グラミシジンであって、D型は、A型、B型、及びC型から形成される。グラミシジンは、細胞膜内にK+及びNa+が通過できる輸送チャネルを形成し、バチルス属に由来し得る、グラミシジンが挙げられる。
【0017】
しかしながら、好ましい態様では、K
+イオノフォアは、好ましくは、カリウムイオノフォアII((KI-II)(CAS:69271-98-3)を含むか、これからなるか、又はこれから本質的になり、これは、ピメリン酸ビス[(ベンゾ-15-クラウン-5)-15-イルメチル]又はヘプタン二酸ビス(2,5,8,11,14-ペンタオキサビシクロ[13.4.0]ノナデカ-1(15),16,18-トリエン-17-イルメチル)としても知られ、構造:
【化1】
を有する。
【0018】
陽イオン交換体(CE)は、とくに限定されず、例えば、テトラフェニルボラート系の親油性塩などの親油性塩を挙げることができる。好ましい態様では、CEは、好ましくは、以下の構造:
【化2】
を有するテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウムを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。
【0019】
可塑剤は、とくに制限されないが、好ましくは、コハク酸由来の可塑剤及び/又はニトロフェニルエーテル基を有する長鎖炭化水素鎖を有する化合物(例えば、2-ニトロフェニルオクチルエーテル、ドデシル2-ニクトロフェニルエーテル)、フタラート誘導体(例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル)、並びにジグルタル酸ビス(1-ブチルペンチル)デカン-1,10-ジイルからなる群から選択される化合物(複数可)を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になる。最も好ましい態様では、可塑剤は、セバシン酸ジオクチル(セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル))(DOS)を含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。DOSは、無色の油性液体であり、セバシン酸と2-エチルヘキサノールとのジエステルである有機化合物である。DOSは、以下の構造:
【化3】
を有する。
【0020】
ベース膜ポリマーは、好ましくは、ポリウレタン(PU)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン、アクリラート、ポリ(ビニルブチラール)、ポリアミド、ポリイミド、及びテフロン(登録商標)からなる群から選択されるポリマーを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。最も好ましい態様では、ポリマーは、PUを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。好ましい態様では、PUは、100kg/molの分子量を有し、以下の構造:
【化4】
を有する。
【0021】
最も好ましい態様では、本発明者らは、とくに人工ISF溶液中、2mMのLiCl、2mMのMgCl2、4mMのCaCl2、及び50mMのNaClで試験した場合、15/2.25のKI-II/CE重量%比、及び2/1のPU/DOS重量%比の膜濃度(比)のレシピ(recipe)が、予想外にも、K+に対して最適な選択性をもたらすことを発見した。
【0022】
膜組成物は、追加の成分を含有してもよく、これは、上述の比が維持されるような量で添加される。これらの追加の成分は、当技術分野で知られている機能を実行するために追加することができる。例えば、追加の成分は、膜の性能及び選択性に有意な影響を及ぼさないが感受性を高め得るナノ材料又はピロールタイプのモノマーを含めた導電性材料などの材料を包含することができる。
【0023】
追加の成分はまた、ボルタンメトリをベースとした(例えば、DPV、SWV、及びCV)イオン検出を可能にするために膜に導入されるレドックスマーカーを包含することができる。これらのレドックスマーカーは、当技術分野で周知であり、とりわけ、https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/elan.201800080に記載されている。
【0024】
また、接着性の向上、疎水性/親水性の改変、剛性の調整、又は抗バイオファウリング特性の強化の実現など、膜の機械特性又は表面化学特性を改変するために、他の添加剤(例えば、追加の成分)を導入してもよい。
【0025】
本明細書に記載のK+センサ膜組成物は、生物学的用途及び生物医学的用途(例えば、血液及び/又は間質液などの生体液中のカリウムを決定するためのカリウムセンサに関連する用途)における使用にとくに適している。これは、すべての膜成分の生体適合性に起因する。例の項で実証されるように、好ましい膜は、直接的接触による24時間の曝露後、細胞生存率に有意差を示さなかった。PPyあり及びなしの好ましい膜のp値は、それぞれ0.11及び0.12であり、これらは生体適合性を目的とした場合の標準カットオフ値0.05を上回っている。陰性対照と両方の好ましい膜組成物との間に有意な形態学的差異は観察されていない。したがって、別の態様では、本発明は、本明細書に記載の膜組成物を、単独で又はセンサと組み合わせて、インビボ並びに/又は生物医学的用途及び/若しくは生物医学装置で使用する方法を提供する。別の態様では、本発明の膜組成物は、血液及び/又は間質液などの生物学的試料中でカリウムセンサに関連して使用することができ、非常に低い及び高い、並びに正常な血中K+レベルをカバーする0.5から10mMのK+の範囲(例えば、線形範囲)内のカリウムレベルを決定する上で有用である。血中K+レベルは、間質液(ISF)レベルと相関し得る。
【0026】
本発明者らは、特定の成分の役割及び量が、予想外の方法でセンサ応答及び性能に影響を及ぼすことを発見した。従来、可塑剤をベース膜ポリマー(通常、PVC)に添加し、剛性を低下させて可撓性を付与することによって、得られるセンサ及び膜の脆弱性を低減させる。しかしながら、本発明者らは、(とくにベースポリマーがPUである場合)より少量の可塑剤を本発明の配合物に使用できることを見出した。これらの態様では、本発明者らは、同様に、予想外なことに、より少量の可塑剤の使用が、耐久性があり、堅牢で、可撓性の膜及びセンサの作製を可能にし(例えば、ポリマー(例えばPU)の架橋及び可塑化を依然としてもたらす)、同時に、それらの機能性に不可欠な、陽イオン交換体及びイオノフォアのための親油性環境を作り出すことを見出した。好ましい比率は、上記に記載されており、使用される可塑剤(例えば、DOS)の総量は、当技術分野で報告されているものよりも有意に少なく(1/1未満のPU/DOS比)、これらの量で使用されたとき、膜を過飽和させない(DOSの漏れの可能性を低減する)。
【0027】
本発明者らはさらに、当技術分野の組成物に使用されるKI/CEの比が、典型的には、報告された最大5重量%のKI-Iを有する組成物において2/1であることに留意する。特定の作用機序に束縛されるものではないが、この比は、水溶液から膜へのイオン移動に重要なCEの総添加量に起因して上昇すると考えられる。一方、合計5重量%のKI濃度は、生物医学的用途での使用には十分に選択的ではない膜を生成し、主要な干渉性ナトリウムイオン(Na+)は最大125mMの濃度に達し得るが、対象となる分析物(例えばカリウム(K+))の濃度は5mMと同程度に低い。
【0028】
特定の作用機序に束縛されるものではないが、本発明者らは、予想外にも、KI濃度の増加が、より高い感受性及び選択性をもたらすことを発見した。同様に、予想外なことに、総CE量が、15重量%のKI-IIを有する場合、良好な感受性及び高い選択性をもたらすのに2.25重量%と同程度に低い濃度で十分であったことが見出された。さらに、予想外なことに、この比は、機能及び選択性に影響を及ぼすイオノフォア分子に特異的であり得ることが見出された。KI-IIは、K+選択性膜の調製において、KI-I(バリノマイシン)よりもさほど広く使用されていない。特定の作用機序に束縛されるものではないが、本明細書では、イオノフォア濃度の増加は、センサ応答を遅延させ、CE濃度の増加を必要とし、これにより、CEと大部分の一価カチオンとの反応性に起因して膜選択性が損なわれ、また、イオノフォア濃度の増加は、膜中の全体的なポリマー量の減少を必要とし、これは膜の構造的完全性の喪失につながり得ると考えられる。
【0029】
本明細書全体を通して、「一態様」、「別の態様」、「態様」、「いくつかの態様」などへの言及は、態様に関連して説明される特定の要素(例えば、特徴、構造、性質、及び/又は特性)が、本明細書に記載される少なくとも1つの態様に包含され、他の態様には、存在する場合も、存在しない場合もあることを意味する。加えて、態様及び/又は記載された要素(複数可)は、任意の適切な様式で組み合わせてもよいことを理解されたい。
【0030】
本出願の明細書及び特許請求の範囲における数値は、平均値を示す。さらに、それとは反対の指示がない限り、数値は、有効数字の同じ数に減少させたときに同じである数値と、規定値との差が、値を決定するための本出願に記載のタイプの従来式測定技術の実験誤差より小さい数値と、を包含すると理解されるべきである。
【0031】
例
ここで、本発明を、以下の非限定的な例に関してさらに説明する。
【0032】
実験条件及び材料:
すべての成分をテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。ポリピロール(PPy)で改質された市販の金ロッド電極表面上に所望の膜溶液体積をピペッティングし、THF溶媒を(室温で一晩)蒸発させることによってK+センサ膜の成形体が得られる。すべての実験は人工間質液(ISF)中で行う。
【0033】
・本発明者らのレシピで得られた予備的結果は、50mMのNaClに対して高い再現性で試験した場合、並外れた選択性を示す。
図1(Na
+干渉研究。1mMのKCl及び50mMのNaClの添加に対するEMF応答)は、1mMのKCl及び50mMのNaClの添加に対するセンサの応答を示す。KCl応答の減少は、濃度と電磁場(EMF)シグナルとの対数関係に起因する。
【0034】
・
図2(較正プロット。KClの添加に対するセンサのEMF応答(左)、及びK
+濃度の対数値対EMF変化のそれぞれの較正プロット(右))は、10重量%のKI-II、1.5重量%のCE、29.5重量%のDOS、及び59重量%のPUを使用して得られた較正プロットを示す。log(K
+)対EMF線形範囲は、0.5から10mMのKClの範囲内で得られた。
【0035】
・
図3及び
図4は、K
+に対するセンサの選択性を考慮した場合の最適なCE及びKI-II重量%研究の結果を示す。センサを、人工ISF中で、2mMのLi
+、2mMのMg
++、4mMのCa
++、及び50mMのNa
+による干渉に対して試験した。最良の応答は、15重量%のKI-II及び3重量%のCE、すなわち5対1のKI-II対CE比を使用したときに観察された。
図5は、この比を有する膜を使用したときに得られたEMF曲線を示す。試験した干渉イオンのいずれかをそのISF対応物の濃度で添加した後、有意な全体的EMF変化は観察されなかった。
【0036】
・
図3-陽イオン交換体の濃度の最適化。1mMのKClの添加に対して得られた応答を基準にした、選択された干渉イオンに対するセンサの電位差応答の比較。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差を表す。最良の結果は、1.5重量%のCE、10/1.5のKI-II/CE比で得られた。
【0037】
・
図4-K
+イオノフォアの濃度の最適化。1mMのKClの添加に対して得られた応答を基準にした、選択された干渉イオンに対するセンサの電位差応答の比較。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差を表す。最良の結果は、15重量%のKI-II、15/3のKI-II/CE比で得られた。
【0038】
・
図5:選択性の研究。選択された干渉イオンの添加に対するセンサのEMF応答。膜のレシピには、15重量%のKI-II、3重量%のCE、27.3重量%のDOS、及び54.6重量%のPUが含まれる。
【0039】
・実験全体を通して、PPyを例示的なトランスデューサ層として使用したが、同様の結果が予想される他のものを使用してもよい。電位+1Vを連続的に印加するクロノアンペロメトリを用いたPPyの電着を
図6に示す。PPyによって引き起こされる導電率の増加は、フェロシアン化物/フェリシアン化物レドックスプローブにおけるCVによって分析され、
図6の挿入図に見ることができる。このPPyのレシピは、有機溶媒テトラヒドロフラン(THF)を使用して膜を溶解し、PPy被覆電極上に蒸着させたとき、望ましい導電率及び安定性をもたらした。逆に、CVをベースとしたPPyフィルムは、THF溶媒のために膜の蒸着工程後にリフトオフした。
【0040】
・
図6:ポリピロールの電解重合。電位1Vを1分間印加して、ポリピロール蒸着をクロノアンペロメトリによってモニタリングした。挿入図は、5mMのフェロシアン化/フェリシアン化カリウムのレドックス対溶液中の裸電極のCVプロットとPPy蒸着電極のCVプロットとの比較を示す。
【0041】
・
図7:予備的なPU/DOS(重量%)の最適化研究。種々のPU/DOS重量%比、並びに10重量%のKI-II及び3重量%のCEを含むセンサ膜から得られたEMFシグナル。
【0042】
・PPyあり及びなしの膜の予備的細胞毒性研究を
図8に示す。細胞生存率アッセイを、96ウェルプレートに約5000細胞/ウェルを播種したマウス線維芽細胞GPE86細胞株を使用して行った。細胞毒性を有さないことが知られているポリジメチルシロキサン(PDMS)試料を陰性対照として使用し、細胞毒性を有することが知られているジメチルスルホキシド(DMSO)を陽性対照として使用した。試料標本を、プレート中での24時間のインキュベーション(n=5)後、細胞の上に直接置き、37℃で、5%CO
2を用いて24時間培養した。標本は、細胞生存率アッセイ用試薬を添加する前に取り出した。比色アッセイ(細胞計数キット8、CCK-8)を使用して、生細胞の代謝活性を定量化した。細胞を比色アッセイ用試薬と共に3時間インキュベートした後、細胞の密集度を比較するために、膜標本への曝露後に光学顕微鏡を使用して細胞の形態を観察した。膜及びPPy含有膜試料の両方で観察された細胞密集度は、陰性対照群の細胞密集度と大きな違いがない。これは、試験した膜試料が、試験した細胞において細胞毒性を誘発しないことを示す。
【0043】
・
図8:予備的細胞毒性試験。ピロールあり及びなしの膜成分の細胞生存率アッセイ。GPE86マウス線維芽細胞株を使用して、膜標本の直接的接触を試験した。エラーバーは、5回の反復の標準偏差を表す。
【0044】
例の考察:
特定の作用機序に拘束されることなく、好ましい膜組成物についての考察を以下に記載する。好ましい膜組成物の上記の例は、優れたセンサ応答及び較正曲線を示し、線形範囲は、低カリウム血症、正常カリウム血症及び高カリウム血症の臨床的に関連する領域を含む、血液及び間質液中の生理学的に関連する範囲のK
+濃度をカバーする。この膜は、血液及び間質液中の生理学的に関連する濃度のK
+検出に対して前例のない選択性を示すが、これは、これらのヒトの体液中に存在する、同等に関連する濃度の他のイオンに対して比較したものであり、最も顕著なものはNa
+である(
図1)が、Li
+、Mg
++、及びCa
+などの他のイオンに対しては均等に選択的である(
図5)。選択性は、KI-II/CE重量%比に比例する。しかしながら、センサの別の重要なパラメータである感受性は全く逆であり、最小の干渉で最大の感受性と定義され、15/2.25重量%のKI-II/CEである(
図3及び
図4)。
【0045】
感受性は、PU/DOS重量%比に反比例することが判明しているため、PU/DOS重量%比を変更することによって調整することができる。しかしながら、膜の完全性はまた、PU/DOS重量%比に比例する(
図7)。DOSは、ISFから膜へのK
+輸送に重要であるが、重量%の増加は漏れを引き起こし、したがってシグナル再現性、膜の完全性、及び膜基材の接着性を低下させる可能性がある。同様に、
図7に見られるように、50mMのNaCl(
図5に見られるように、最大の干渉物質である)に対するセンサの選択性は、EMFシグナルの増加(1mMのKClに対して得られたEMFシグナルに対して)に起因してPU/DOS重量%比に正比例する。1/2未満のPU/DOS重量%は、結果として膜の完全性及び電極への接着性を不良にし、したがって、より低い比率はEMFシグナルの低下を招く。
【0046】
本明細書では、記述してきたKI-II/CE重量%比及びPU/DOS重量%比が、血液及び/又は間質液中のK+濃度の変化の直接の検出及び決定などの用途に対して優れた応答及び性能を有する、極めて高い信頼度(他の潜在的な分析物からの干渉が低い)、感受性、及び分解能の、堅牢なセンサ膜を生成することが発見された。
【0047】
さらに、本明細書中に記載の膜組成物は、少なくとも24時間の期間にわたって細胞に直接さらされたときに細胞毒性反応が観察されず(
図8)、それにより生物医学的用途における使用に適することを実証し、別のものでは、膜と患者の組織との直接的な接触が、刺激、不快感及び他の潜在的な有害反応をもたらし得る。
【国際調査報告】