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特表2024-546290質量分析を使用して流体デバイス内の試料中のタンパク質を検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】質量分析を使用して流体デバイス内の試料中のタンパク質を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241212BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241212BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20241212BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20241212BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20241212BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20241212BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N27/62 G
G01N33/543 501A
H01J49/16 400
H01J49/40
H01J49/16 500
H01J49/04 180
C07K1/22
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537064
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 US2022053745
(87)【国際公開番号】W WO2023122232
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/293,502
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/432,522
(32)【優先日】2022-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カンプサーノ,イアン・ディー・ジー
【テーマコード(参考)】
2G041
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA05
2G041GA09
2G041HA01
4B029AA07
4B029BB17
4B029CC01
4B029FA15
4H045AA30
4H045AA40
4H045DA76
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、流体デバイス内のタンパク質に対する直接のマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、又は流体デバイス外のタンパク質に対する逆相液体クロマトグラフィー質量分析(rpLC-MS)など、質量分析を使用してタンパク質を検出及び分析する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が流体デバイス内にある間に前記試料を質量分析することを含む、試料中のタンパク質の検出方法。
【請求項2】
流体デバイス内のサンプル中のタンパク質の検出方法であって、
前記タンパク質に対するリガンドをそれぞれ含む固体支持体と、前記デバイス内の試料とを接触させることであって、それによって前記リガンドが前記試料の前記タンパク質に結合し、前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む各固体支持体が、前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む他の固体支持体とは異なる固有のバーコードを含むこと;
前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む前記固体支持体を、前記流体デバイス内の第1の位置から第2の位置に移送することであって、前記第2の位置が前記流体デバイス内にあるか、又は前記流体デバイスの外部であること;並びに
前記第2の位置で前記試料を質量分析すること
を含む方法。
【請求項3】
前記試料中の前記タンパク質が還元される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料を質量分析する前に、前記試料中の前記タンパク質を還元することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が系内で還元されるか、又は前記タンパク質が前記質量分析装置内で還元される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析が、マトリックス支援レーザー脱離質量分析/イオン化飛行時間/飛行時間(MALDI-TOF/TOF)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記質量分析が、液体クロマトグラフィー質量分析/質量分析(rpLC-MS/MS)、疎水性相互作用クロマトグラフィー質量分析(HIC-MS)、又は陽イオン交換クロマトグラフィー質量分析(CEX-MS)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記LC-MS/MSがエレクトロスプレーイオン化を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が調整培地を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が、大きいペプチド、抗体、抗体断片、抗体融合ペプチド又はその抗原結合断片を含むか、又はそれからなる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が質量分析される前に部分的に精製される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質を部分的に精製することをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記部分的に精製することが、前記試料を質量分析する前に前記試料を前記タンパク質に対するリガンドを含む固体支持体と接触させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む前記固体支持体が固有のバーコードを含み、前記部分的に精製することが、他のタンパク質に結合したリガンドを含み且つ固有のバーコードとは異なる他のバーコードを含む他の固体支持体をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料を質量分析することが、前記固体支持体を含むバッチに対して行うことを含み、前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む前記固体支持体が固有のバーコードを含み、前記固体支持体が、他のタンパク質に結合したリガンドを含み且つ他のバーコードを含む少なくともある程度の他の固体支持体をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記部分的に精製することが、前記試料を質量分析する前に、前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む前記固体支持体を、前記流体デバイス内の第1の位置から前記流体デバイス内の第2の位置に移送することをさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記部分的に精製することが、前記試料を質量分析する前に、前記タンパク質に結合した前記リガンドを含む前記固体支持体を、前記流体デバイス内の第1の位置からマルチウェルプレート上の第2の位置に移送することをさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記固体支持体が、抗FCタンパク質、タンパク質A、若しくはタンパク質Gを含むか、又は前記固体支持体がタンパク質A若しくはタンパク質Gを含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記固体支持体が、抗FCタンパク質、タンパク質A、若しくはタンパク質Gを含むか、又は前記固体支持体がタンパク質A若しくはタンパク質Gを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
前記流体デバイスがマイクロ流体チップ又は隔離ペンである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記流体デバイスがシリコン表面を含み、前記試料がシリコン表面上に配置される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記質量分析プレートの表面に取り付けられた流体デバイスを含む、質量分析プレート。
【請求項24】
前記流体デバイスが開口しており、それによって、質量分析計が直接係合するように前記流体デバイスの内部が構成されている、請求項23に記載の質量分析プレート。
【請求項25】
前記質量分析が、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間/飛行時間MALDI-TOF/TOF)である、請求項23又は24に記載の質量分析プレート。
【請求項26】
前記質量分析が、液体クロマトグラフィー質量分析/質量分析(rpLC-MS/MS)、疎水性相互作用クロマトグラフィー質量分析(HIC-MS)、又は陽イオン交換クロマトグラフィー質量分析(CEX-MS)である、請求項23又は24に記載の質量分析プレート。
【請求項27】
前記LC-MS/MSがエレクトロスプレーイオン化を含む、請求項26に記載の質量分析プレート。
【請求項28】
請求項23~27のいずれか一項に記載の質量分析プレートを含む、試料中のタンパク質を検出するためのシステム。
【請求項29】
対照又はタンパク質標準をさらに含む、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
請求項23~29のいずれか一項に記載の質量分析プレートを含むキット。
【請求項31】
抗FCタンパク質、タンパク質A、又はタンパク質Gなどのリガンドを含む固体支持体をさらに含む、請求項28~30のいずれか一項に記載のシステム又はキット。
【請求項32】
前記固体支持体が、少なくとも約1μmの平均径を有するビーズなどのビーズを含む、請求項2、14~20のいずれか一項に記載の方法、又は請求項31に記載のシステム若しくはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月23日に出願された米国仮特許出願第63/293,502号及び2022年12月14日に出願された米国仮特許出願第63/432,522号に基づく優先権の利益を主張するものであり、これらの開示は共にその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、流体デバイス内のタンパク質に対する直接のマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、又は流体デバイス外のタンパク質に対する逆相液体クロマトグラフィー質量分析(rpLC-MS)など、質量分析を使用してタンパク質を検出及び分析する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
MALDI-MS及びrpLC-MSは、生体分子の分子量(Mw)を決定するために広く使用されている技術であり、小分子、ペプチド、及びタンパク質のMwを迅速に決定するための非常に優れた能力を有している。MALDI-MSターゲットプレート上に固定された薄い組織切片に対して、MALDI-MSイメージングなどの質量分析イメージングが使用される。多くの分析技術は、光線が及ぼす力に基づいており(光操作として知られている)、細胞レベルでのインタラクティブな生物学を可能にし、ひいては創薬の新たな機会を切り開く。マイクロ及びナノスケールの系で高度に選択的且つ動的なプロセスを可能にする光操作は、多くの科学分野にわたって汎用的で統合的な技術であることが証明されている。この技術は、固体構造と流体構造の両方に指定された力を生み出す光誘起電気運動に基づいている(1)。例えば、Berkeley Lights(BLI)Beacon(登録商標)Optofluidic System(Emeryville,CA)の統合技術などの市販の流体デバイスは、抗体の発見、クローンの選択、遺伝子編集、表現型と遺伝子型の対応付け、及び細胞株の開発など、商業的な高分子医薬品開発に適用可能な幅広い用途に対応する柔軟性と能力を備えている。RPLC-MSは、医薬品及びバイオ医薬品関連分子のMwを決定するためにも広く使用されている技術である(12)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
振とうフラスコ及びバイオリアクターにおける分子の性能を予測する「オンマイクロチップ」アッセイを開発するニーズが存在する。本明細書では、流体デバイス内のタンパク質に対してMALDI-MSなどの質量分析を使用する方法が開示される。加えて、開示される方法は、タンパク質産生細胞を流体デバイス内で増殖させ、調整培地などのタンパク質を含む培地上で質量分析を直接行うことを可能にする。
【0005】
一態様では、本明細書では、流体デバイス内のタンパク質を検出する方法が開示される。様々な実施形態において、方法は、試料が流体デバイス内にある間に試料を質量分析することを含む。いくつかの実施形態では、試料内のタンパク質は還元される。本明細書に開示の方法は、タンパク質レベルを検出し、タンパク質の分子量(Mw)の変化を識別する方法、又はタンパク質への修飾を分析する方法を提供する。例えば、タンパク質が抗体である場合、この方法は、オンチップで増殖した抗体産生細胞から、クリッピング、軽鎖と重鎖のペアリング及びミスペアリング(例えば多重特異性mAbsの場合)、並びに他の翻訳後修飾の識別と共に、抗体の重鎖及び軽鎖のMwなどの決定を可能にする。
【0006】
いくつかの実施形態では、本開示は、タンパク質に対するリガンドをそれぞれ含む固体支持体と、デバイス内の試料とを接触させることであって、それによってリガンドが試料のタンパク質に結合し、タンパク質に結合したリガンドを含む各固体支持体が、タンパク質に結合したリガンドを含む他の固体支持体とは異なる固有のバーコードを含むこと;タンパク質に結合したリガンドを含む固体支持体を、流体デバイス内の第1の位置から第2の位置に移送することであって、第2の位置が流体デバイス内にあるか、又は流体デバイスの外部であること;並びに第2の位置で試料を質量分析することを含む、流体デバイス内の試料中のタンパク質を検出する方法を提供する。
【0007】
様々な実施形態において、タンパク質を検出する方法は、試料を質量分析する前に、試料中のタンパク質を還元することをさらに含む。例えば、試料中のタンパク質をシナピン酸及びTCEPと接触させることによって、例えばシナピン酸の存在下で試料中のタンパク質をTCEPと混合することによって、タンパク質を還元することができる。例えば、タンパク質は、系内で還元されてもよく、或いは試料を質量分析する前に、例えばMALDIプレートなどの質量分析プレート上で還元されてもよい。
【0008】
本開示の方法は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)が可能な任意のタイプの質量分析法を用いて行うことができる。例えば、本明細書に記載の方法で使用するための質量分析としては、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間/飛行時間(MALDI-TOF/TOF)、液体クロマトグラフィー質量分析/質量分析(rpLC-MS)、疎水性相互作用クロマトグラフィー質量分析(HIC-MS)、又は陽イオン交換クロマトグラフィー質量分析(CEX-MS)が挙げられる。関連する実施形態では、rpLC-MSはエレクトロスプレーイオン化(ESI)を含む。
【0009】
本開示の方法のいずれにおいても、試料は、タンパク質を含む任意の液体又は製剤である。様々な実施形態において、試料は、安定性及び/又は構造的完全性又は他の属性について処理、測定、又は分析されるタンパク質を含む流体である。いくつかの実施形態では、試料は、調整培地、又はタンパク質が精製若しくは単離される任意の液体を含むか、又はそれらからなる。いくつかの実施形態では、試料は、タンパク質を産生する細胞を含む。
【0010】
本開示の方法のいずれにおいても、タンパク質は、抗体、抗体タンパク質生成物、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))分子、抗体断片、抗体融合ペプチド若しくはその抗原結合断片、ペプチド、成長因子、又はサイトカインを含むか、又はからなる。関連する実施形態では、抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。本明細書で使用される場合、「抗体タンパク質生成物」という用語は、様々な例において、抗体の構造に基づくが天然には見出されないいくつかの抗体代替物の内のいずれか1つを指す。一部の態様では、抗体タンパク質生成物は、少なくとも約12kDa~1MDaの範囲内の分子量を有しており、例えば、少なくとも約12kDa~750KDa、少なくとも約12kDa~250kDa、又は少なくとも約12kDa~150kDaの範囲内の分子量を有する。ある特定の態様では、抗体タンパク質生成物は、さらに高次の価数ではない場合には、単量体(n=1)から二量体(n=2)、三量体(n=3)、四量体(n=4)までの価数(n)範囲を有する。抗体タンパク質生成物は、一部の態様では、完全な抗体構造に基づくもの、及び/又は完全な抗原結合能を保持する抗体断片を模倣するものであり、例えば、scFv、Fab、及びVHH/VH(後述する)である。完全な抗原結合部位を保持する最小の抗原結合抗体断片は、専ら可変(V)領域からなるFv断片である。可溶性で柔軟なアミノ酸ペプチドリンカーを使用して、V領域をscFv(一本鎖断片可変)断片に連結させて分子を安定化させるか、又は定常(C)ドメインをV領域に加えてFab断片[断片、抗原結合性]を生成する。scFv断片及びFab断片はいずれも、宿主細胞(例えば原核生物宿主細胞)中で容易に産生され得る。他の抗体タンパク質生成物として、オリゴマー化ドメインに連結されたscFvを含む異なる型を含むダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディ、又はミニボディ(ミニAbs)のような、ジスルフィド結合で安定化されたscFv(ds-scFv)、一本鎖Fab(scFab)、並びに二量体及び多量体抗体型が挙げられる。最小の断片は、ラクダ科重鎖Ab及び単一ドメインAb(sdAb)のVHH/VHである。新規の抗体フォーマットを作出するのに最も頻繁に用いられる構築ブロックは、約15個のアミノ酸残基のペプチドリンカーによって連結された重鎖及び軽鎖由来のVドメイン(VHドメイン及びVLドメイン)を含む単鎖可変(V)ドメイン抗体断片(scFv)である。ペプチボディ又はペプチド-Fc融合体は、さらに別の抗体タンパク質生成物である。ペプチボディの構造は、Fcドメイン上にグラフト化された生物活性ペプチドを含む。ペプチボディは、当該技術分野で十分に説明されている。例えば、Shimamoto et al.,mAbs 4(5):586-591(2012)を参照されたい。他の抗体タンパク質生成物として、一本鎖抗体(SCA);ダイアボディ;トリアボディ;テトラボディ;二重特異性抗体又は三重特異性抗体等が挙げられる。二重特異性抗体は、下記の5つの主要なクラス: BsIgG、付加IgG、BsAb断片、二重特異性融合タンパク質、及びBsAbコンジュゲートに分類され得る。例えば、Spiess et al.,Molecular Immunology 67(2)Part A:97-106(2015)を参照されたい。例示的な態様では、抗体タンパク質生成物は、人工の二重特異性モノクローナル抗体である二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))分子を含むか、又はそれからなる。BiTE(登録商標)分子は、異なる抗体の2つのscFvを含む融合タンパク質である。1つは、CD3に結合し、もう1つは、標的抗原に結合する。BiTE(登録商標)分子は、当該技術分野で既知である。例えば、Huehls et al.,Immuno Cell Biol 93(3):290-296(2015);Rossi et al.,MAbs 6(2):381-91(2014);Ross et al.,PLoS One 12(8):e0183390を参照されたい。
【0011】
様々な実施形態において、タンパク質は質量分析される前に部分的に精製される。「精製」という用語は、タンパク質を含む混合物の成分からタンパク質を単離又は分離することを指し、そのような混合物には、粗製材料、細胞溶解物、調整培地、又はタンパク質を含む他の細胞培養材料が含まれる。「部分的に精製」という用語は、タンパク質を含む混合物の成分の一部を除去するが全ては除去しないことを指す。混合物から除去される成分には、細胞破片、タンパク質凝集体、脂肪、及び/又はプロテアーゼが含まれる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、タンパク質を部分的に精製することをさらに含む。精製ステップは、当該技術分野で公知の任意の方法を用いて行うことができる。例えば、部分的な精製は、試料を質量分析する前に、タンパク質に対するリガンドを含む固体支持体(例えばビーズ)と試料を接触させることを含み得る。本明細書において、タンパク質に対する「リガンド」とは、タンパク質に結合する抗体又は結合パートナーなど、タンパク質に結合する化学物質を指す。例えば、タンパク質がサイトカインを含むか又はサイトカインからなる場合、本明細書における目的のためのリガンドの例には、対応するサイトカイン受容体(又はその結合断片)が含まれる。例えば、タンパク質が抗体を含むか抗体からなる場合、本明細書における目的のためのリガンドの例には、その抗体に対する抗原、抗イディオタイプ抗体、抗Fc抗体、タンパク質A、又はタンパク質Gが含まれる。例示的な実施形態では、固体支持体(例えばビーズ)は抗FCタンパク質、タンパク質A、若しくはタンパク質Gを含むか、又は固体支持体(例えばビーズ)はタンパク質A若しくはタンパク質Gを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、タンパク質に結合したリガンドを含む固体支持体は固有のバーコードを含み、部分的な精製は、他のタンパク質に結合したリガンドを含み且つ固有のバーコードとは異なる他のバーコードを含む他の固体支持体をさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、本開示の方法において試料を質量分析することは、固体支持体を含むバッチに対して行うことを含み、タンパク質に結合したリガンドを含む固体支持体は固有のバーコードを含み、固体支持体は、他のタンパク質に結合したリガンドを含み且つ他のバーコードを含む少なくともある程度の他の固体支持体をさらに含む。「バッチ」という用語は、複数のウェル又は容器からの試料を含む複数の固体支持体を指す。
【0015】
例えば、部分的な精製は、試料を質量分析する前に、タンパク質に対するリガンドを含む固体支持体(例えばビーズ)と試料を接触させることを含み得る。いくつかの実施形態では、部分的な精製は、試料を質量分析する前に、タンパク質に結合したリガンドを含む固体支持体(例えばビーズ)を、流体デバイス内の第1の位置から流体デバイス内の第2の位置に移送することをさらに含む。第2の位置は、第2の流体チップ、第2の流体プレート、又は流体デバイス内の第2の領域、流路、チャネル、チャンバー、若しくはペンであってよい。さらに、第2の位置は、流体デバイスの外側、例えば96ウェルプレート又は384ウェルプレートなどのマルチウェルプレート内のウェルである。
【0016】
本開示の方法のいずれにおいても、方法は、当該技術分野で公知の任意の流体デバイス又は流体装置を用いて行うことができる。流体デバイス(又は流体装置)は、流体を保持するように構成された1つ以上の独立した回路を含むデバイスであり、各回路は流体的に相互接続された回路要素から構成される。回路要素には、限定するものではないが、領域、流路、チャネル、チャンバー、及び/又はペン、並びに流体が流体デバイスに出入りできるように構成された少なくとも1つのポートが含まれる。流体回路は、マイクロ流体デバイスの第1のポート(例えば入口)に流体的に接続された第1の端部と、流体デバイスの第2のポート(例えば出口)に流体的に接続されているか、又は第2の流体デバイス、若しくは流体デバイスの第2の領域、流路、チャネル、チャンバー、若しくはペンに接続されている第2の端部と、を有するように構成することができる。流体デバイスはマイクロ流体デバイスであってよいが、ナノスケールなどの他のスケールも適している。例えば、流体デバイスは、マイクロ流体チップ、マイクロ流体チャネル、マイクロ流体セル、ナノ流体チップ、ナノ流体チャネル、ナノ流体セル、又は隔離ペンであってよい。流体デバイスの独立した回路又は回路群は、上に試料を配置できるように構成されたシリコン表面などのシリコンを含んでいてもよい。例えば、独立した回路又は回路群は、少なくとも1つのシリコン表面によって画定された流動領域を含んでいてもよい。例として、独立した回路又は回路群は、少なくとも1つのシリコン表面によって画定されたマイクロ流体チャネル又はナノ流体チャネルを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロ流体チャネル又はナノ流体チャネルはシリコンにエッチングされている。質量分析は、シリコン表面上で行われてもよいことが理解されるであろう(例えばLewis et al.,“Desorption/ionization on silicon(DIOS)mass spectrometry: background and applications.” International Journal of Mass Spectrometry 226(2003)107-116を参照のこと)。そのため、いくつかの実施形態の方法では、試料は流体デバイスのシリコン表面上に配置される。
【0017】
マイクロ流体デバイスでは、回路は、マイクロ流体チャネルを含むことができる流動領域と、少なくとも1つのチャンバーとを含み、約1mL未満、例えば約750、500、250、200、150、100、75、50、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、又は2μL未満の流体の体積を保持する。特定の実施形態では、マイクロ流体回路は、約1~2、1~3、1~4、1~5、2~5、2~8、2~10、2~12、2~15、2~20、5~20、5~30、5~40、5~50、10~50、10~75、10~100、20~100、20~150、20~200、50~200、50~250、又は50~300μLを保持する。マイクロ流体回路は、マイクロ流体デバイス内の第1のポート(例えば入口)に流体的に接続された第1の端部と、マイクロ流体デバイス内の第2のポート(例えば出口)に流体的に接続された第2の端部とを有するように構成されてもよい。
【0018】
本明細書において、「ナノ流体デバイス」又は「ナノ流体装置」とは、約1μL未満、例えば約750、500、250、200、150、100、75、50、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1nL以下の流体の体積を保持するように構成された少なくとも1つの回路要素を含む流体回路を有するタイプの流体デバイスである。ナノ流体デバイスは、複数の回路要素(例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000、又はそれ以上)を含んでいてもよい。特定の実施形態では、少なくとも1つの回路要素の1つ以上(例えば全て)は、約100pL~1nL、100pL~2nL、100pL~5nL、250pL~2nL、250pL~5nL、250pL~10nL、500pL~5nL、500pL~10nL、500pL~15nL、750pL~10nL、750pL~15nL、750pL~20nL、1~10nL、1~15nL、1~20nL、1~25nL、又は1~50nLの流体の体積を保持するように構成される。別の実施形態では、少なくとも1つの回路要素のうちの1つ以上(例えば全て)は、約20nL~200nL、100~200nL、100~300nL、100~400nL、100~500nL、200~300nL、200~400nL、200~500nL、200~600nL、200~700nL、250~400nL、250~500nL、250~600nL、又は250~750nLの流体の体積を保持するように構成される。
【0019】
本明細書で使用される「流体チャネル」又は「フローチャネル」は、水平方向と垂直方向の両方の寸法よりも大幅に長い長さを有する流体デバイスの流動領域を指す。例えば、フローチャネルは、水平方向又は垂直方向のいずれかの寸法の少なくとも5倍の長さ、例えば少なくとも10倍の長さ、少なくとも25倍の長さ、少なくとも100倍の長さ、少なくとも200倍の長さ、少なくとも500倍の長さ、少なくとも1,000倍の長さ、少なくとも5,000倍の長さ、又はそれ以上であってよい。いくつかの実施形態では、フローチャネルの長さは、約50,000ミクロン~約500,000ミクロンの範囲であり、その間の任意の範囲が含まれる。いくつかの実施形態では、水平方向の寸法は約100ミクロン~約1,000ミクロンの範囲(例えば約150ミクロン~約500ミクロン)であり、垂直方向の寸法は約25ミクロン~約200ミクロンの範囲、例えば約40ミクロン~約150ミクロンである。なお、フローチャネルは流体デバイス内で様々な異なる空間構成を有していてもよく、そのため完全に直線的な要素に限定されない。例えば、フローチャネルは、曲線、湾曲、螺旋、傾斜、下降、分岐(例えば複数の異なる流路)、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかの構成を有する1つ以上のセクションを含むことができる。加えて、フローチャネルは、その経路に沿って異なる断面積を有し、広がったり狭まったりしてその中に目的の流体を流れさせることができる。
【0020】
本開示は、MALDI質量分析ターゲットプレートの表面に取り付けられた流体デバイスを含むMALDI質量分析ターゲットプレートも提供する。 いくつかの実施形態では、流体デバイスは開口しており、それによって、質量分析計が直接係合するように流体デバイスの内部が構成されている。例えば、本明細書で説明されている方法で使用される質量分析として、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間/飛行時間(MALDI-TOF/TOF)、又は液体クロマトグラフィー質量分析/質量分析(LC-MS/MS)が挙げられる。関連する実施形態では、LC-MS/MSは、エレクトロスプレーイオン化を含む。
【0021】
さらに、本開示は、本明細書に開示の質量分析プレートのいずれかを含む、試料中のタンパク質を検出するためのシステムを提供する。いくつかの実施形態では、システムは、対照又はタンパク質標準をさらに含む。加えて、様々な実施形態において、システムは、抗Fcタンパク質、タンパク質A、又はタンパク質Gなどのリガンドを含む固体支持体(例えばビーズ)をさらに含む。
【0022】
本開示は、本明細書に開示の質量分析プレートを含むキットも提供する。様々な実施形態において、キットは、抗Fcタンパク質、タンパク質A、又はタンパク質Gなどのリガンドを含む固体支持体(例えばビーズ)をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】MALDIプレート上にスポッティングされたタンパク質のMALDI-MS分析からのマススペクトルである。上段は1mg/mLのタンパク質のマススペクトル、中段は0.5mg/mLのタンパク質のマススペクトル、下段は0.125mg/mLのタンパク質のマススペクトルである。
図2】発現したmAbを含む調整培地のMALDI-MS分析からのマススペクトルである。スペクトルは軽鎖が支配的である一方で、インタクトな抗体に対応するシグナル(矢印で示される)は抑えられていた。
図3A】発現した抗体を含む11日目の調整培地の分離から得られたRP-HPLCクロマトグラムであり、発現した抗体を含む調整培地で3つの主要なピークが検出されていることを示している。
図3B】溶出したRP-HPLC画分を識別する還元SDS-PAGEであり、ピーク3a及び3bからのRP-HPLC画分の還元SDS-PAGE同定を示しており、最後のレーンの精製されたmAb対照とサイズが一致している。
図4A】LC-ESI-MSによるピーク1のRP-HPLC溶出液の分析からのrpLC-MS ESIスペクトルを示しており、ピーク1がシステイン化軽鎖とグルタチオン化軽鎖との混合物であることを同定している。
図4B】LC-ESI-MSによるピーク2のRP-HPLC溶出液の分析からのrpLC-MS ESIスペクトルを示しており、ピーク2が軽鎖二量体及びシステイン又はグルタチオン付加物を有する二量体であることを同定している。
図5】タンパク質A/Gスピンカラムを用いたアフィニティー精製後の調整培地分析からのRP-HPLCクロマトグラム及びESIスペクトルを示す。上段は、タンパク質A/Gスピンカラムを使用した調整培地からの発現したmAbの回収であり、軽鎖誘導体が非結合画分に溶出していることを示している。下段は、1%酢酸で溶出した後、結合画分にmAbが存在することを確認するRP-HPLCである。
図6】Pierceタンパク質A/G磁気ビーズへの結合により、調整培地からmAbの80%が回収されたことを示すRP-HPLCクロマトグラムである。上段は、磁気ビーズを添加する前の調整培地中のmAbの存在量を示す(ピーク3)。下段は、磁気ビーズを添加した後に調整培地中のmAbの存在量が減少したこと(ピーク3の減少)を示しており、mAbのほとんどがビーズに結合したことを証明している。
図7】結合したmAbを有するタンパク質A/G磁気ビーズの直接分析からのMALDI-MSスペクトルであり、インタクトなmAbのMwを示す。
図8】Pierceタンパク質A/G磁気ビーズに結合したmAbのオンプレート還元からのMALDI-MSスペクトルである。
図9】Promegaタンパク質Aビーズへの結合による調整培地からのmAbの回収を示すRP-HPLCクロマトグラムである。ピーク1はmAb軽鎖である。ピーク2はmAb軽鎖二量体である。ピーク3は目的のmAbである。上段は、タンパク質Aビーズを添加する前の調整培地中のmAbの存在量を示している。下段は、タンパク質Aビーズを添加した後に調整培地中のmAbの存在量が減少したこと(ピーク3の劇的な減少)を示しており、mAbのほとんどがビーズに結合したことを証明している。
図10】結合したmAbを有するPromegaタンパク質A磁気ビーズの直接分析からのMALDI-MSスペクトルであり、インタクトなmAb分子のMwを示す。
図11】分析前のタンパク質A磁気ビーズから酸溶出した後のmAbのMALDI-MSスペクトルである。
図12】ビーズに結合したmAbの直接分析から得られた重ね合わせたスペクトルであり、分析前に酸溶出ステップを含めることでシグナルが3倍に増加したことを示している。
図13】MALDI-MSプレートのガラスカバー上で直接還元した後のmAbのMALDI-MSを示す。
図14】MALDI-MSターゲットプレートに取り付けられたBLIチップの表面を示す。
図15】、MALDI-MSターゲットプレートの背面ポケット(「額縁」)に取り付けられたBLIチップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
MALDI-MSイメージングなどの質量分析イメージングは、MALDI-MSターゲットプレート上に固定された薄い組織切片に対して一般的に使用される。本明細書では、試料が流体デバイス内にある間に試料を質量分析することによって試料中のタンパク質を検出する方法が開示される。本方法、システム、及び装置では、MALDI-MSターゲットプレートは、BLIチップを収容/搭載するように変更することができる。例えば、MALDIレーザーは、典型的には直径10~20μm(特殊焦点)であり、マイクロ流体ペンは幅約60μmであるため、レーザーの寸法はBLIペン内に「収まる」。
【0025】
BLIペンから直接MALDI-MSによってmAbs及び/又は多重特異性などの分子のMwを分析/測定することができれば、測定されるMwに基づいて、分子が期待される分子である場合を決定することができる。鎖のペアリング及びミスペアリング、並びに翻訳後修飾(PTM)のレベルを特定できる可能性がある。質量分析の精度及び感度は、ターゲットプレート上でmAbを還元することによって改善することができ、或いは抗体を系内で還元(例えば固体基材上で還元)してもよく、或いは抗体を質量分析プレート上で直接還元してもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、質量分析プレートは流体デバイスを収容するように構成される。例えば、流体デバイス、流体チップ、又は流体チャンバー若しくはチャネル、又は隔離ペンは、質量分析プレート上に取り付けられるか機械加工されてもよい。例えば、質量分析プレートは、流体デバイスをその上に取り付けるように構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、流体デバイスは、MSプレート又はMSマトリックスの表面に取り付けられる。別の実施形態では、流体デバイスは、質量分析プレートの背面ポケットの中に取り付けられる。これらの実施形態では、流体デバイスは、開口していてもよく、或いはMSマトリックスを挿入するため及び/又は質量分析計によるアクセスを可能にするための取り外し可能なカバーを備えていてもよい。取り外し可能なカバーは、ガラス、結晶、又はポリマーのカバースリップを含み得る。
【0027】
別の実施形態では、液体MSマトリックスは流体デバイスに直接流し込まれる。例えば、MSがMALDI-MSであり、流体デバイスがチップ又は隔離ペンである場合、液体MALDIマトリックスは、BLI Beacon(登録商標)マイクロ流体システムなどのマイクロ流体システムを使用して、チップ又はペンに直接流し込まれる。取り外し可能なカバーを含む流体チップの場合、カバーは、MSマトリックスが中に流し込まれる前又は後に取り外すことができる。
【0028】
流体デバイスは、チャンバー又は隔離ペン内で単一の細胞を成長及び増殖させることを可能にし、これにより、検出対象のタンパク質を産生する細胞のクローン選択が可能になる。クローン選択により、創薬及び生物学的薬物製造、例えば抗体産生の際の大規模なタンパク質の産生及び精製のためのクローンの選択が可能になる。質量分析により、分析対象のタンパク質のMwを変化させる翻訳後修飾、例えばグリコシル化、システイン化、グルタチオン化、酸化、脱アミノ化、糖化、リン酸化、硫酸化、又はユビキチン化などの、タンパク質の修飾の分析が可能になる。さらに、質量分析により、ミスペア種及び断片化タンパク質の決定も可能になる。本開示の方法は、細胞が増殖している間の細胞の継続的な分析も可能にし、アッセイを同じ増殖細胞で繰り返すことができる。
【0029】
コロニー内の再生可能な全ての生細胞が単一の前駆細胞から誘導される娘細胞である場合に、生物細胞のコロニーは「クローン」である。特定の実施形態では、クローンコロニー中の全ての娘細胞は、10回以下の分裂によって単一の親細胞から誘導される。別の実施形態では、クローンコロニー中の全ての娘細胞は、14回以下の分裂によって単一の前駆細胞から誘導される。別の実施形態では、クローンコロニー中の全ての娘細胞は、17回以下の分裂によって単一の前駆細胞から誘導される。別の実施形態では、クローンコロニー中の全ての娘細胞は、20回以下の分裂によって単一の前駆細胞から誘導される。「クローン細胞」という用語は、同じクローンコロニーの細胞を指す。
【0030】
本明細書において、生物細胞の「コロニー」とは、2個以上の細胞(例えば約2~約20個、約4~約40個、約6~約60個、約8~約80個、約10~約100個、約20~約200個、約40~約400個、約60~約600個、約80~約800個、約100~約1000個、又は1000個を超える細胞)を指す。
【0031】
本明細書において、「細胞を維持する」という用語は、流体成分と気体成分の両方を含み、任意選択的には表面も含む環境を提供することを指し、この環境は細胞を生存させ続ける及び/又は増殖させるために必要な条件を提供する。
【0032】
本明細書において、細胞について言及する場合の「増殖」という用語は、細胞数の増加を指す。
【0033】
質量分析
例示的な態様では、本方法は、質量分析を使用して試料中のタンパク質を検出することを含む。本明細書では、試料が流体デバイス内にある際に試料を質量分析する方法が開示される。質量分析は、イオンの質量/電荷を測定するために使用される。本明細書の方法は、ESIが使用可能な質量分析を含むことができる。
【0034】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)は、生体分子のMwを決定するための単純で効果的な広く使用されている技術であり、小分子(2)、ペプチド、及びタンパク質(3)の迅速なMw決定のための優れた能力を備えている。1985年にKarasとHillenkampによって初めて報告されており、その中でMALDIはアミノ酸とジペプチドの選択を分析するために使用された(4)。様々な実施形態において、方法はMALDI-MSを含む。
【0035】
MALDI-MSイメージングは、多くの異なる組織標本/試料を分析する能力を有している。簡単に説明すると、薄い組織切片をMALDI-MSターゲットプレートに固定し、マトリックスでコーティングして(質量分析計内の)レーザーでアブレーションする。検出には、典型的には、飛行時間型(ToF)分析装置が使用されるが、MALDIはイオンサイクロトロン共鳴(ICR)(5)とOrbitrap(6)MSシステムの両方と組み合わせられている。タンパク質から、ペプチド、タンパク質修飾、小分子、薬物及びその代謝物、医薬品成分、内因性細胞代謝物、脂質、並びにその他の被検物質に至るまで、非常に多様な被検物質が、薄い組織切片のMALDI-MSイメージングによって利用可能になる(7)。この方法はラベルフリーであり、同じ組織切片内の数百から数千の分子を同時に多重分析することができる。様々な実施形態において、質量分析はMALDI-MSを含むか、又はこれからなる。様々な実施形態において、この質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間/飛行時間(MALDI-TOF/TOF)を含むか、又はこれからなる。MALDI TOF/TOFは、断片化されたペプチドを検出するための効率的な方法である。様々な実施形態において、この質量分析は、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析とも称される液体クロマトグラフィー-質量分析/質量分析(LC-MS/MS)を含むか、又はこれからなる。本開示では、MALDI-TOF/TOF及びMALDI-LIFT-TOF/TOFという2つの用語は、互換的に使用される。
【0036】
試料
試料は、安定性及び/又は構造的完全性について測定、処理、又は分析することができる任意のタイプのタンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、試料は、タンパク質を精製又は単離することができる調整培地又は任意の液体を含むか、又はそれらからなる。様々な実施形態において、本明細書で開示されている方法にそのように供されるタンパク質試料は、大きいペプチド、抗体、抗体断片、抗体融合ペプチド又はその抗原結合断片を含むか、又はからなる。関連する実施形態では、抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。
【0037】
様々な実施形態において、試料内のタンパク質は還元される。タンパク質は、感度を向上させるために還元される。タンパク質は、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して還元される。例えば、タンパク質は、シナピン酸中のジチオトレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、及びTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)などの酸化還元剤で還元される。さらに、試料中のタンパク質をシナピン酸中のTCEP及びTCEPと混合するか、又は試料中のタンパク質を酢酸と接触させることによって、タンパク質が還元される。例えば、タンパク質は酢酸で固体支持体(例えばビーズ)から放出され、その後TCEP及びシナピン酸が添加される。タンパク質は質量分析プレートに挿入される前に還元することができ、或いはタンパク質は質量分析プレートに挿入された後に還元されてもよい。
【0038】
流体デバイス
流体デバイスとは、少量の流体を使用して様々なタイプの分析を行う装置を指す。流体デバイスは、流体を保持するように構成された1つ以上の独立した回路を含み、各回路は流体的に相互接続された回路要素から構成される。回路要素には、限定するものではないが、領域、流路、チャネル、チャンバー、及び/又はペン、並びに流体が流体デバイスに出入りできるように構成された少なくとも1つのポートが含まれる。これらのデバイスは、分析用の流体を含むチップ、セル、チャネル、又は隔離ペンを使用する。
【0039】
マイクロ流体デバイスは、通常、少なくとも1つの寸法が1mm未満の1つ以上のチャネルを有する。マイクロ流体デバイスで使用される一般的な流体としては、全血試料、細菌細胞懸濁液、タンパク質又は抗体溶液、及び様々な緩衝液が挙げられる。マイクロ流体デバイスは、分子拡散係数、流体粘度、pH、化学結合係数、及び酵素反応速度など、様々な測定値を得るために使用することができる。マイクロ流体デバイスの他の用途としては、キャピラリー電気泳動、等電点電気泳動、免疫学的検定、フローサイトメトリー、質量分析による分析のためのタンパク質の試料注入、PCR増幅、DNA分析、細胞操作、細胞分離、細胞パターン形成、及び化学勾配形成などが挙げられる。これらの用途の多くは臨床診断に有用である。
【0040】
マイクロ流体デバイスを使用する利点には、これらのチャネル内の流体の体積が非常に小さく、通常は数ナノリットルであり、使用される試薬及び被検物質の量がかなり少ないことが含まれる。さらに、タンパク質産生細胞を分析する場合、比較的少数の細胞(さらには単一の細胞)で分析に十分な量及び濃度のタンパク質を産生することができ、コロニー増殖のための培養時間を短縮又は回避することができる。マイクロ流体デバイスの構築に使用される製造技術は、後でさらに詳しく説明するが、比較的安価であり、非常に精巧な多重化デバイスにも大量生産にも非常に適している。マイクロ流体技術により、同じ基材チップ上で複数の異なる機能を実行するための高度に統合されたデバイスの製造が可能になる。
【0041】
本開示の方法では、市販のデバイスを含む任意の流体デバイスを使用することができる(又は使用できるように変更することができる)。流体デバイスは、細胞などの流体デバイス内の物質を操作するために光を使用することができる光流体システムで使用するように構成することができる。本明細書では、例示的なマイクロ流体デバイスとして、Berkley Lights(BLI)ペンを含むチップについて説明される。例えば、BLIペンは、Beacon(登録商標)Optofluidic System、Lightning(商標)Optofluidic System、又はCulture Station System(BLI.Emeryville,CA)で分析することができる。他の例示的な光流体システムは、Cyto-Mine(登録商標)システム(Sphere Fluidics,Great Abington,Cambridge,UK)である。
【0042】
本開示の方法のいずれにおいても、単一の細胞又は少数の細胞(約1~10個)が流体デバイス内に播種され、これらの細胞が検出対象のタンパク質を発現する。流体デバイス内の細胞によって発現されたタンパク質は、本開示の方法のいずれかを使用して、流体デバイス内にある間にMSによって直接サンプリングされる。このシナリオでは、流体デバイス内で発現されたタンパク質は、MS分析の前にMALDIマトリックスで固定及び/又はコーティングされる必要がある。その後、BLIチップなどの流体デバイスが既存のMALDI-MSターゲットプレートにロードされ、その後の分析のためにMS装置にロードされる。流体デバイス内の過剰発現タンパク質の処理方法(マトリックス内の還元剤の有無)に応じて、タンパク質は還元条件又は非還元条件のいずれで分析することもできる。例えば、分析対象のタンパク質がモノクローナル抗体である場合、モノクローナル抗体は還元条件(軽鎖及び重鎖)又は非還元(インタクト)条件のいずれで分析することもできる。
【0043】
様々な実施形態において、本開示の方法で実施されるMSはMALDI-MSである。MALDIレーザーの特殊な焦点のため、このタイプのMSは、本開示の方法を効率的に実施するのに非常に適している。本開示の方法で考慮すべきもう1つの特徴は、流体デバイス、例えば隔離ペンの寸法である。MALDI MS装置内の最新のレーザーは、典型的には固体の窒素ベースのNd-YAG/YLF(ネオジムドープイットリウムアルミニウムガーネット/イットリウムリチウムフルオライド)レーザーであり、1.1μm~8.4μmのレーザースポット径を実現することが文書化されている(8、9)。利用可能なマイクロ流体チップの寸法には、130×370μm、50×370μm、40×200μm、40×160μmが含まれる(これらのサイズはBLI,Emeryville,CAから市販されている)。したがって、利用可能な隔離ペンの寸法に基づくと、最新のMALDI-MSレーザーは現行のペン内に容易に「収まり」、マトリックス固定タンパク質のアブレーション/分析に使用される。さらに、最新のレーザーの現行の繰り返し率は最大5kHz(10)であるため、最も一般的に入手可能な流体チップ(40×160μm)を数時間で完全に分析することができる。
【0044】
部分的なタンパク質精製及び試料のプーリング
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、試料をMSにかける前に、試料中のタンパク質を部分的に精製することを含む。部分的な精製は、当該技術分野で公知の任意の方法で行うことができる。例えば、部分的な精製は、試料を質量分析する前に、タンパク質に対するリガンドを含むビーズ又は樹脂などの固体支持体と試料を接触させることを含み得る。タンパク質に対するリガンドは、タンパク質に結合する抗体又は結合パートナーなど、タンパク質に結合する化学物質であってよい。例示的な実施形態では、タンパク質はモノクローナル抗体であり、固体支持体は抗Fcタンパク質、タンパク質A、又はタンパク質Gを含むビーズであり、部分的な精製は、試料をMSにかける前に、抗体に結合したリガンドを含むビーズを流体デバイス内の第1の位置から流体デバイス内の第2の位置に移送することを含む。
【0045】
固体支持体(例えばビーズ)は、(逆相液体クロマトグラフィー質量分析)rpLC-MS分析のために流体デバイスから取り出され、別のMSターゲットプレート又は96ウェル及び/若しくは384ウェルプレートに移動される(11、12)。固体支持体(例えばビーズ)に捕捉されたタンパク質を流体デバイスから移動させることで、「プーリング」が可能になり、したがってMS感度が向上する。rpLC-MSの移動相は酸性であるため、これは捕捉されたタンパク質を固体支持体(例えばビーズ)から溶出させることと適合性を有する。
【0046】
さらに、本開示の方法のいずれにおいても、MSは、タンパク質配列情報を取得若しくは確認するために及び/又は翻訳後修飾の同定若しくは定量を行うために実施されるタンデムMS(MALDI-MS/MSとrpLC-MS/MSの両方)であってもよい。「トップダウンMS/MS」は、還元されていない試料に対して行われるMS/MSを指す。「ミドルダウンMS/MS」は、還元された材料に対して行われるMS/MSを指す。「ボトムアップMS/MS」は、還元されてからタンパク質分解によって消化された材料に対して行われるMS/MSを指す。
【0047】
タンパク質を精製又は部分的に精製するための適切な固体支持体には、例えばビーズ又は樹脂が含まれる。固体支持体がビーズである場合、ビーズは、単一のビーズがMS用の量のタンパク質を含むことができるサイズのものとすることができる。例えば、本明細書の実施例に示されているように、少なくとも約1μmの平均径を有するビーズは、MSによる分析に十分な量のタンパク質を含むことができる。例えば、固体支持体は、少なくとも約1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、10μm、20μm、又は40μmの平均径を有するビーズを含むか又はそれらからなり、この平均径には、列挙した任意の2つの値の間の範囲、例えば1~5μm、1~10μm、1~20μm、1~40μm、5~10μm、5~20μm、5~40μm、10~20μm、又は10~40μmが含まれる。いずれの固体支持体についても、タンパク質に対するリガンドは、例えば共有結合によって固体支持体上に固定することができる。いくつかの方法では、ビーズは磁性ビーズであってよい。固体支持体が樹脂である場合、樹脂は、セルロース、ポリスチレン、アガロース、及びポリアクリルアミド又はアガロースなどのポリマー樹脂であってよい。
【0048】
いくつかの方法では、MSは、それぞれが異なるタンパク質を含む固体支持体のバッチに対して行うことができる。例えば、リガンドを含む単一ビーズを、ペンなどの流体デバイスの独立した場所でそれぞれタンパク質に結合させ、それぞれの単一ビーズが異なるクローン細胞又はクローン細胞のコロニーによって産生されたタンパク質を含むようにすることができる。その後、単一のビーズを第2の位置にプーリングし、その第2の位置(流体デバイス内又は流体デバイスの外部)で分析することができる。そのような方法では、各独立した位置(例えばペン)に関連するビーズは、その位置のクローンから誘導されるタンパク質がプールから同定され得るようにバーコード化することができる。例えば、各位置のタンパク質は固有のペプチド又はPTMバーコードを含むことができ、或いは各ビーズ又はその上のリガンドは固有のバーコードを含むことができる。適切なバーコードの例としては、固有の配列又は分子量を持つペプチド若しくは核酸、色素若しくは色素の組み合わせ、グリカン及び/若しくは炭水化物若しくはそれらの組み合わせ、又蛍光体若しくは蛍光体の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、ビーズは、異なるクローンのタンパク質を含む流体デバイス上の各独立した位置(例えばペン)が単一のビーズのみを収容できるようにサイズ決めされる。例えば、各ビーズは、一度に1つより多いビーズが独立した位置に配置されないように、独立した位置の直径の少なくとも半分の直径を有することができる。各ビーズは、固有のバーコードを含むことができる。いくつかの実施形態では、ビーズは、タンパク質を含む位置でバーコード化される。例えば、各位置(例えばペン)は、(その位置の細胞又はクローン細胞によって産生される)固有のペプチド又は核酸バーコードを含んでいてもよく、これは系内でビーズ上に固定される。
【0049】
いくつかの方法は、固体支持体を有する装置内に試料を含み、各固体支持体はタンパク質に対するリガンドを含む。リガンドは試料のタンパク質に結合することができ、タンパク質に結合したリガンドを含む各固体支持体は、タンパク質に結合したリガンドを含む他の固体支持体とは異なる固有のバーコードを含むことができる。タンパク質に結合したリガンドを含む固体支持体は、流体デバイス内の第1の位置から第2の位置に移動することができる。MS(MALDI-MS又はLC-MSのいずれか)は、第2の位置でタンパク質に対して行うことができる。第2の位置は、流体デバイス内、例えば流体デバイスの開放されている領域、或いは取り外し可能なカバーを含む領域であってよく、その結果その領域内のタンパク質をMS(MALDI-MS又はLC-MSのいずれか)によって分析することができる。或いは、第2の位置は、流体デバイスの外部、例えば96ウェルプレート又は384ウェルプレートなどのマルチウェルプレート内のウェルであってもよい。固体支持体は、第2の位置でMSによってバッチで分析することができる。固体支持体は、各ビーズのタンパク質のクローン起源を決定するために使用することができる。
【実施例
【0050】
基本方法
タンパク質A/G磁気ビーズ(カタログ88802)は、Thermo Fisherから購入した。Magne(登録商標)タンパク質Aビーズ(カタログG8781)は、Promegaから入手した。
【0051】
磁気ビーズを使用したmAbの部分精製。
磁気ビーズ(20μL)スラリーを1.5mLマイクロ遠沈管に移し、その後500μLのPBSで洗浄した。ボルテックスミキサーを使用して混合した後、管を磁気スタンドに置き、ビーズを「薄い帯」として沈降させた。液体を除去し、100μLの調整培地をビーズに添加し、その後室温で30~60分間穏やかに振とうした。ビーズが沈降した後、液体部分(結合していない試料)を除去し、RP-HPLCを使用して分析した。その後、ビーズを500μLのPBSで洗浄した。ビーズが沈降した後、液体部分(洗浄液)を注意深く除去した。結合したmAbを含む残りのビーズに20μLのPBSを添加し、混合してスラリーを生成した。スラリー(1μL)をMALDIプレート上にスポッティングし、続いてマトリックス(0.1%TFA50%アセトニトリル中の10mg/mLのシナピン酸)2μLと5%酢酸1μLを添加した。スポットはMALDI-MSの前に室温で乾燥させた。
【0052】
mAbのオンプレート還元
結合したmAbを含むビーズをMALDIプレート上に置き、ビーズをシナピン酸(2μL)(上記の通り)及び20mMのTCEPと接触させた。試料及びその還元物を室温で乾燥させた。その後乾燥したスポットについてMALDI-MSを行った。
【0053】
もう1つの方法として、mAbを1%酢酸(10μL)及び0.1MのTCEPで希釈した。試料を37℃で20分間インキュベートし、その後MALDIプレート上に置き(1μL)、室温で乾燥させた。シナピン酸(1μL)をスポット上に重ね、風乾し、MALDI-MSで質量測定した。
【0054】
MALDI-MS装置
MALDI-MSは、Bruker UltrafleXtreme TOF/TOF MALDI質量分析計を使用して実施した。装置は、2000HzのSmartbeam II(Nd:YAG)レーザーを備えており、リニアポジティブモードで操作し、外部標準としてBSAを使用して較正した。使用した加速電圧は25kVに設定した。レーザー出力を最適化し、通常、試料ごとに5000~8000回のレーザーショットを収集した。
【0055】
全てのLC-MSデータは、1290 Infinity LCシステムを有するAgilent 6224 TOF LC/MSシステムで取得した。クロマトグラフィー分離は、70℃の温度で操作されるZorbax SB300-C8 3.5μm 2.1×50mmカラムを使用して達成した。使用した溶媒は以下の通りであった:移動相Aは、0.1%v/vのTFAを含有する水であった。移動相Bは、0.1%v/vのTFAを含有する90%のn-プロパノールであった。初期勾配条件は、0.0~1.0分の20%の移動相B;1.0~9.0分、20~70%の移動相B;9.0~10.0分、70~100%の移動相Bであり、100%でさらに1分間保持した。流量は、0.4mL/分であった。
【0056】
BLIチップを組み込むためのMALDI-MSターゲットプレートエンジニアリング
BLIチップをMALDIプレートに取り付けるための2つのオプションが開発された。最初に、MALDIプレートの前面にフライス加工されたポケットの表面に、BLIチップを取り付けた。ポケットの深さは、BLIチップの表面がMALDIチップの前面と一致するようにした。BLIチップは、BLIチップの既存の穴を通り、MALDIプレートのタップ穴にねじ込まれる2本のM2ネジによってポケットに固定した(図12)。
【0057】
次に、BLIチップをMALDIプレートの後部のポケットに取り付ける。ポケットの周囲は、BLIチップが「額縁」に捕らえられるように、MALDIプレートを完全に貫通してはフライス加工されていない。ポケットの中心は、MALDIプレートを貫通してフライス加工され、その結果BLIチップの前面が露出し、マイクロ流体コンポーネントの表面がMALDIプレートの表面と一致した(図14)。BLIチップは、MALDIプレートがMALDIプレートキャリアに取り付けられたときにポケットに固定された。
【0058】
実施例1:
クローン評価のためのMALDI-MSの評価
流体デバイスと組み合わせたMALDI-MSがクローン評価のために使用できるか否かを決定するための実験を設定した。最初に、mAbを1×PBSで1mg/mLに希釈し、次いで5μLのタンパク質を5μLの1×PBSと混合して、0.5mg/mL、0.25mg/mL、及び0.125mg/mLに段階希釈した。MALDIは上述した通りに実施した。MALDIプレートスポッティングについては、各タンパク質濃度の1μLをシナピン酸(0.1%TFA中の50%MeCN中で10mg/mL)1μLと混合し、その後1μLをMALDIプレート上にスポッティングして風乾し、Mwを測定した。これは0.5μg、0.25μg、0.125μg、及び0.0625μgのmAbをウェル上にスポッティングすることに相当する。データは図1のマススペクトルに示されている。0.25mg/mLの物質では「良いスポット」が得られず、下段はより広いピークである。この実験は、MALDI-MSプレート上でmAbが観察され、この方法を流体デバイスと組み合わせて使用することでmAbを検出できることを示している。
【0059】
実施例2
調整培地中のmAb発現を直接モニタリングするためのMALDI-MSの評価
モノクローナル抗体(ここではmAb2と表す)を発現する細胞からの調整培地を、上述したMALDI-MSを使用して分析した。調整培地は11日間培養した後に回収し、MALDIプレート上に直接スポッティングし、マトリックスを添加し、試料を風乾し、Mwを測定した。
【0060】
図1に示されているように、還元されていない試料のマススペクトルは、マススペクトルが軽鎖シグナルによって支配されている一方で、インタクトなmAbのシグナルが抑えられていることを示している(矢印で示される)。何がインタクトmAbのシグナルを妨害しているのかを調べるために、11日目の調整培地をRP-HPLCとLC-ESI-MSを使用して分析した。調整培地のRP-HPLC分析からは、遊離システイン化軽鎖、遊離グルタチオン化軽鎖、軽鎖二量体、及びAbであると同定された物質を含む、その複雑さが示された。図2Aは、RP-HPLCクロマトグラムを示しており、調整培地は3つの主要なピーク(ピーク1、2、3a、及び3b)に分離した。図2Bは、発現したmAbがピーク3で溶出したことを示すRP-HPLC画分の還元SDS-PAGE分析を示している。
【0061】
図3A及びBは、ピーク1及び2からのRP-HPLC画分を同定するLC-ESI-MSデータを示している。図3Aは、ピーク1にシステイン化軽鎖とグルタチオン化軽鎖との混合物が含まれていることを示している。図3Bは、ピーク2が、軽鎖二量体と、システイン又はグルタチオンの付加物のいずれかを含む二量体に対応していることを示している。したがって、調整培地の分析から、過剰発現した軽鎖(遊離システイン化軽鎖、遊離グルタチオン化軽鎖、軽鎖二量体)、mAb、及びポリマー様物質を多く含む複雑な混合物であることが示された。RP-HPLC画分のピーク3でポリマー様物質がmAbと共溶出していることが、mAbのMw測定が失敗した理由であると考えられる。したがって、MALDI-MSによって調整培地中のmAb発現を分析するためには、予備的な精製ステップが有益である。
【0062】
実施例3
部分精製ステップ後のmAbのMALDI-MS分析
MALDI-MS分析の感度を向上させるために、試料をMALDI-MSにかける前にタンパク質を部分的に精製した。前述したように、11日目の調整培地をタンパク質A/Gスピンカラム(Pierce)に接触させた。図4は、発現したmAbがタンパク質A/Gスピンカラムを使用して調整培地から回収されたことを示している。上段のクロマトグラムは、軽鎖誘導体が非結合画分で回収され、結合したmAbが1%酢酸溶出液で検出されたことを示しており、そのMwは下段のESIスペクトルに示されている。したがって、タンパク質A/G磁気ビーズは、その後のMALDI-MSによるキャラクタリゼーションに適するmAbの予備精製ステップに使用された。
【0063】
ビーズを調整培地に添加してmAbを捕捉し、その後磁気スタンドを使用して回収し、洗浄し、20μLのPBSと混合し、1μLのスラリーをMALDIプレート上にスポッティングした。これに続いて2μLのシナピン酸MALDIマトリックスと1μLの5%酢酸を添加して結合したmAbを溶出し、その後RP-HPLC及びLC-ESI-MSによって分析した。その後、スポットを風乾し、MALDI-MSにかけた。図5は、タンパク質A/G磁気ビーズが調整培地から最大80%のmAbを回収したことを示すRP-HPLCクロマトグラムである。下段の赤いクロマトグラムはRP-HPLC分析である。図6は、タンパク質A/G磁気ビーズに結合した状態でMALDI-MSで直接分析したmAbのマススペクトルを示す。
【0064】
ビーズ上で直接還元した後にmAbを検出できるか否かを試験するために、MALDIプレート上にスポッティングしたビーズに添加されたマトリックスに20mMのTCEPを添加した。還元は室温で行い、スポットはMALDI-MSを行う前に風乾した。図7は、軽鎖が検出され、重鎖からのシグナルが抑制されたことを示している。これは、おそらくグリコシル化され、それによってイオンシグナルとmAbの不完全な還元によるインタクトなmAbからのピーク(これはさらに最適化できる)とが減少したためと考えられる。図7では、49300イオンがmAbの3+イオンである。98636ピークは(Fab)である。23436イオンは軽鎖である。これらの相対量は、相対的な割合を示すものではない。これらのデータは、ビーズに結合したmAbの構成成分が、オンプレートで還元した後に容易に直接分析できることを示している。
【0065】
前述したビーズ実験を、同じ実験条件下でPromegaタンパク質Aビーズを使用して繰り返した。ここでも、ピーク3の減少は、調整培地中のmAbのほとんどがビーズに結合していたことを示している(図8)。ビーズの直接分析からは、上記タンパク質A/Gビーズを使用した場合と同様の結果が示された(図9を参照)。別の実験では、mAbが結合したビーズ2μLをマイクロ遠沈管に移し、5μLの5%酢酸を添加した。ビーズが沈降した後、溶液1μLをMALDI-MSにかけたところ、3倍の強度のシグナルが得られた(図10及び11を参照)。したがって、タンパク質A磁気ビーズを用いて調整培地からmAbを部分的に精製することを、MALDI-MSによる分析の前に容易に採用することができる。
【0066】
実施例4
MALDI-MSプレートのガラスカバー上で還元した後のmAbのMALDI-MS分析
MALDI-MSプレートのガラスカバー上でmAbを直接還元した後、mAbをMALDI-MSで分析できるか否かを調べるためにアッセイを実施した。1%酢酸と0.1MのTCEPとを含む50%アセトニトリル10μLでmABを希釈し、1μLのスラリーをMALDIプレート上にスポッティングした。続いて、シナピン酸(0.1%のTFAを含む50%アセトニトリル1mLあたり10mg)をガラスカバー上のmABスポット上に直接重ね、MALDI-MSを行う前に風乾した。
【0067】
図13は、軽鎖が検出され、重鎖からのシグナルが抑制されたことを示している。これは、おそらくグリコシル化され、それによってイオンシグナルとmAbの不完全な還元によるインタクトなmAbからのピーク(これはさらに最適化できる)とが減少したためと考えられる。22798.1ピークは軽鎖であり、50495.7ピークは重鎖である。これらの相対量は、相対的な割合を示すものではない。これらのデータは、オンプレート還元後にmAbの構成成分を容易に直接分析できることを示している。
【0068】
実施例5
マイクロ流体デバイスにおける抗体/形質細胞のMALDI-MSスクリーニング。
MALDI-MSを使用して、調整培地中で、並びに還元及び非還元条件のタンパク質A/Gビーズ上で直接、mAbのMwを正確に分析できることを示す前述した実施例の概念実証データは、MALDI-MSアッセイが、MALDIターゲットプレート上に取り付けられたBLIチップ上の分泌抗体をスコアリングするために適合させることができることを示している。
【0069】
BLIチップのMALDIターゲットプレートへの取り付け:MALDIレーザーの空間焦点は直径10~20μmである一方で、BLIペンの幅は約60μmであるため、レーザーの寸法はBLIペン内に「収まる」。抗体産生細胞は、懸濁液を入口に流し込み、細胞が流動領域/マイクロ流体チャネル内に位置するときにフローを停止することによって、マイクロ流体デバイスに取り込まれる。その後、細胞を、1ペンあたり1個の細胞を目標にして、隔離ペンにロードする。細胞は、光活性化DEP力(OEP技術)を使用して、流動領域/マイクロ流体チャネルから隔離ペンの分離領域に移動される。
【0070】
MALDI-MSを使用する細胞のアッセイ:ペンに詰めてから数日後、細胞のアッセイを行って分泌された抗体の分子量を分析し、その後これを予想される分子量と比較して、正しい抗体が発現されているかどうかを判断する。さらに、MALDI-MS分析により、鎖のミスペアリングの検出及び翻訳後修飾の特定が可能になる。プレート/チップ上での抗体の還元により、質量の精度及び感度が向上する。
【0071】
Fc捕捉ビーズ及び/又はProA/G捕捉ビーズをBLIペンから取り出し、別のMALDI-MSターゲットプレートに移すか、又は逆相液体クロマトグラフィー質量分析(11、12)rpLC-MS分析用の96ウェルプレート及び/又は384ウェルプレートに移す。ビーズに捕捉されたmAbをBLIチップ/ペンから移動させることにより、「プーリング」が可能になり、そのためMS感度が向上する。任意選択的には、ビーズをバーコード化し、各ビーズ上のタンパク質の起源のクローンを特定できるようにすることもできる。rpLC-MSの移動相は酸性であるため、捕捉されたmAbを抗Fc及び/又はProA/Gビーズから溶出させることに対して適合性を有している。
【0072】
参考文献
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図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】