(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】消泡剤存在下でヒドラジン水和物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/16 20060101AFI20241212BHJP
B01D 19/04 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C01B21/16 B
B01D19/04 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537414
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 FR2022052450
(87)【国際公開番号】W WO2023118739
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サージ,ジャン-マルク
(72)【発明者】
【氏名】アシャール,エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4D011
【Fターム(参考)】
4D011CA01
4D011CA02
4D011CA04
4D011CC04
(57)【要約】
本発明は、ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサンまたはポリアルキル-アリールシロキサン式の少なくとも1つのシリコーンの存在下で、蒸留塔内でアジンを加水分解する工程を含む、ヒドラジン水和物の製造方法に関する。
本発明はまた、アジン水和物の製造方法において、ポリジアルキルシロキサン式の少なくとも1つのシリコーンを消泡剤として使用することに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドラジン水和物の製造方法であって、
ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサンまたはポリアルキルアリールシロキサン式の少なくとも1つのシリコーンの存在下、蒸留塔内でアジンを加水分解する工程を含む、ヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項2】
前記シリコーンが、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンおよびポリエチルフェニルシロキサンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項3】
前記シリコーンの粘度が25℃で5から1,000,000cSt、好ましくは50から100,000cSt、さらに特に80から10,000cStであることを特徴とする請求項1または2に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項4】
前記シリコーンがポリジメチルシロキサンであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項5】
前記シリコーンが水性エマルジョンの形態であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項6】
前記シリコーンを前記蒸留塔の塔頂部に導入し、水を加水分解のために塔内に導入することを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項7】
前記シリコーンが、前記アジンに対して重量基準で1ppmから5000ppmの範囲の含有量で導入され、好ましくは、前記アジンに対して重量基準で5ppmから4000ppmの範囲の含有量で導入されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項8】
前記アジンがメチルエチルケトンアジンまたはジメチルケトンアジンであり、好ましくは前記アジンがメチルエチルケトンアジンであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載のヒドラジン水和物の製造方法。
【請求項9】
以下の工程を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載のヒドラジン水和物の製造方法:
- 前記加水分解する工程の前に、少なくとも1種の活性剤を含む溶液の存在下でアンモニア、過酸化水素およびケトンを反応させて、作業溶液中にアジンを形成する工程。
【請求項10】
以下の工程を含むことを特徴とする、請求項9に記載のヒドラジン水和物の製造方法:
- 作業溶液からアジンを分離する工程、
- 水、アンモニア、ケトンおよびCO
2を含むストリームの形で、反応水及び過酸化水素希釈水によって供給される水を除去する間、作業溶液を少なくとも130℃となるように再生する工程、及び、
- 消泡剤として、請求項1-5のいずれか一項に記載される少なくとも1つのシリコーンの存在下で、前記工程で得たストリームをストリッピングカラムに通す工程。
【請求項11】
請求項1-5のいずれか一項に記載の少なくとも1種のシリコーンの、アジン水和物製造プロセスにおける消泡剤としての使用。
【請求項12】
前記シリコーンを、アジンの加水分解用の蒸留塔に導入することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
アジンを形成するためのアンモニア、過酸化水素およびケトンの反応工程の後に回収された作業溶液を再生する工程からの流れが供給されるアンモニアストリッピングカラムに、前記シリコーンが導入されることを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドラジン水和物の製造方法に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、ケトンの存在下でアンモニアを過酸化水素および活性剤で酸化することにより得られるアルキルケトンアジンからヒドラジン水和物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドラジンは、主にボイラー水(例えば原子力発電所)の脱酸素処理に使用され、また、医薬品や農薬の誘導体の製造にも使用されている。
【0004】
したがって、ヒドラジン水和物の製造に対する産業上のニーズがある。
【0005】
ヒドラジン水和物は、ラシヒ法、バイヤー法、または過酸化水素を用いて工業的に製造される。
【0006】
ラシヒ法では、アンモニアを次亜塩素酸塩で酸化してヒドラジン水和物の希釈溶液を得、これを蒸留して濃縮する必要があるが、この方法は選択性が低く、生産性が低く、汚染度が高いため、事実上、現在では使用されていない。
【0007】
バイエル法はラシヒ法の改良法であり、アセトンを使用して、次式のアジンの形で形成されたヒドラジンを捕捉することにより化学平衡をシフトさせる。
【化1】
【0008】
その後、アジンを単離し、加水分解してヒドラジン水和物を得るが、収率は向上するものの環境への排出量は改善されない。
【0009】
過酸化水素を用いる方法は、過酸化水素を活性化する手段の存在下で、アンモニアとケトンの混合物を過酸化水素で酸化してアジンを直接生成し、その後、これを加水分解してヒドラジン水和物を得るだけである。収率は高く、この方法は汚染が少ない。この過酸化水素法については多数の特許が開示しており、その例としては、US3972878、US3972876、US3948902、US4093656などがある。
【0010】
これらの方法は、Ullmann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry(1989),vol.A13,pages182-183および付属の参考文献にも記載されている。
【0011】
過酸化水素プロセスでは、ケトンおよび過酸化水素活性化手段の存在下で、アンモニアが過酸化水素によって酸化され、以下の全体反応に従ってアジンが形成される。
【化2】
【0012】
活性化手段、すなわち活性剤は、ニトリル、アミド、カルボン酸、またはセレン、アンチモン、またはヒ素誘導体であってもよい。次に、アジンは加水分解されてヒドラジンとなり、ケトンは以下の反応に従って再生される。
【化3】
【0013】
この加水分解は実際には2段階で行われ、中間体ヒドラゾンが形成される。
【化4】
【0014】
アジンが過酸化水素プロセスによって製造されるか、または他のプロセスによって製造されるかにかかわらず、メチルエチルケトンは水性媒体に難溶性であるため、有利に使用される。
【0015】
実際、過酸化水素を用いるプロセスでは、メチルエチルケトンのアジンは反応媒体に比較的溶けにくく、反応媒体は、市販の30~70重量%過酸化水素水溶液が使用されるため、必然的に水性である。したがって、このアジンは回収が容易であり、デカンテーションするだけで分離できる。特にアルカリ環境、すなわちアンモニア反応混合物では、非常に安定している。現在のプロセスでは、次に、前記アジンを精製し、反応蒸留塔で加水分解して、最終的にメチルエチルケトンを塔頂から放出してリサイクルし、とりわけ、ヒドラジン水和物の水溶液を塔底から放出する。これには、不純物としての炭素生成物が可能な限り少なく、無色でなければならない。
【0016】
アジンの加水分解は公知である。例えば、EC Gilbertは、Journal of the American Chemical Society vol.51、pages3397-3409(1929)で、アジン生成の平衡反応およびアジン加水分解反応について説明し、水溶性アジンの場合のシステムの熱力学的パラメータを提供している。例えば、アセトンアジンの加水分解は、文献US4724133 (Schirmann他) に記載されている。反応塔で加水分解を実行し、蒸留塔の塔頂でケトンを、塔底でヒドラジン水和物を連続的に分離することにより、完全な加水分解を達成できる。もちろん、このシステムは、特許FR1315348、GB1211547、GB1164460、US4725421(Schirmann他)、または WO00/37357に記載されているように、連続運転に最適である。
【0017】
ヒドラジン水和物の効率的な製造プロセスは、文献WO2020/229773によって知られている。
【0018】
一般に、加水分解工程に蒸留塔を使用して合成プロセスを連続的に実行する。しかし、加水分解工程中に蒸留塔内に泡が発生することが指摘されている。泡の先端は、蒸気流と液相を同時に引き起こし、生成物の効率的な分離を妨げる。
【0019】
カラム内に泡が存在すると、カラムの生産性が制限され、したがって製造プロセスの生産性も制限される。実際、この泡が現れるとすぐに、選択性低下を抑制するためにプロセスの速度を低下させる必要がある。
【0020】
別の文脈では、文献EP0761595は、加水分解工程におけるカラムの詰まりの防止剤として、ポリオキシエチレン基を有する非イオン性界面活性剤及びシリカの使用を開示している。
【0021】
しかし、これらの化合物は泡の発生を抑える効果がなく、耐熱性もないことが指摘されている。実際、これらの製品は劣化する傾向がある。そのため、製造回路を汚染し、最終製品の不純物の原因となる。
【0022】
ヒドラジン合成プロセスでは、アジンの加水分解または水相の再生の条件が非常に厳しく、ボイラー内の温度を160から180℃までの範囲に設定し、壁の温度をさらに高く設定している。そこで、提案されている消泡剤が温度の影響で分解しないことが不可欠である。
【0023】
したがって、本発明の1つ目の目的は、蒸留塔内に泡が発生することなく加水分解工程を含むヒドラジン水和物の製造方法を提供することである。そして、望ましい目的は、経時的に安定した加水分解反応を行うことである。
【0024】
本発明による製造方法は、本明細書で前述した目的を満たす。
【0025】
本発明者らは、驚くべきことに、特定のシリコーンを使用することで、加水分解工程中に蒸留塔内で泡が発生するのを防ぐことで、生産速度を安定化できることを発見した。さらに、これらの消泡剤は高温に耐性があるので、分解に対する感受性が低く、蒸留塔および製造回路を全く汚染しないか、ほとんど汚染しない。実際、システム内の試薬のすべてまたは一部がリサイクルされる場合、請求されたシリコーンは製造システム内でほとんど不純物として残らない。
【0026】
したがって、本発明は、ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサンまたはポリアルキルアリールシロキサン式の少なくとも1つのシリコーンの存在下、蒸留塔内でアジンを加水分解する工程を含む、ヒドラジン水和物の製造方法に関する。
【0027】
本発明はまた、ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサンまたはポリアルキルアリールシロキサン式のうちの1つをアジン水和物の製造方法における消泡剤として使用することに関する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の他の特徴、態様、主題および利点は、以下の説明を読むことにより明らかになるであろう。
【0029】
本明細書で使用されている「…から…まで」および「…から…(の間)」という表現は、言及されている各制限を含むものとして理解されるべきであることが明記されている。
【0030】
ヒドラジン水和物の製造は、以下の工程に従って行われる:
- アンモニア、過酸化水素および式R1R2C=Oであるケトンを、少なくとも1つの活性剤を含む溶液の存在下で反応させて、作業溶液中にアジンを形成する。
- 形成されたケトンのアジンを加水分解してヒドラジン水和物を得る。
【0031】
反応蒸留塔に、前工程からのアジンを含む有機相と水が注入されて、加水分解工程がバッチ式または連続式で行われる。加水分解工程は連続式が好ましい。
【0032】
加水分解は、充填蒸留塔またはプレート蒸留塔で行うことができる。
【0033】
好ましくは、蒸留は加圧下、より具体的には2から25barの圧力下で行われる。
【0034】
有利には、蒸留は、塔底温度が150℃から200℃、好ましくは175℃から190℃で行われる。
【0035】
好ましい実施形態によれば、加水分解は、充填蒸留塔またはプレート蒸留塔で実施することができ、好ましくは、2から25barの圧力下、および150℃から200℃の塔底温度で運転される。
【0036】
従来の充填カラムが適している場合もあるが、一般的にはプレートカラムが使用される。プレート上で許容される滞留時間とカラム内の圧力、それゆえ運転温度に応じて、プレートの数は変化する可能性がある。一般的に、8から10barの圧力下、175℃から190℃で運転する場合、必要なプレートの数は40から70の範囲である。
【0037】
このカラムに供給する、アジンに対する水のモル比は、少なくとも化学量論値より大きく、有利には5から30、好ましくは10から20である。
【0038】
加水分解工程を受けるアジンは、式R1R2COのケトンの存在下でのアンモニアの酸化反応生成物である。R1およびR2基は、互いに独立して、直鎖または分岐鎖C1-C10アルキル基を示す。特に、R1およびR2基は、互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチル基を示す。好ましくは、ジメチルケトンおよびメチルエチルケトンが使用される。特に好ましくは、メチルエチルケトンが使用される。したがって、好ましいアジンは、MEKazineと呼ばれるメチルエチルケトンのアジンである。
【0039】
本発明の目的のために、シリコーンは、式-(Si(-R3)(-R4)-O-)の同一または異なる単位を含み、R3およびR4基は、互いに独立して、アルキル基またはアリール基を示す。
【0040】
本発明による方法においては、少なくとも1種のポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサンまたはポリアルキル-アリールシロキサンシリコーンが反応媒体に添加される。このシリコーンはカラム内での泡の形成を防止する。
【0041】
好ましくは、本発明によるシリコーンは、不揮発性であり、言い換えれば、25℃で5cStを超える粘度を有し、特に、25℃で13.3Pa未満の蒸気圧を有するシリコーンオイルである。
【0042】
本発明において、ポリジアルキルシロキサンとは、直鎖、分岐または環状のC1-C18アルキル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチルを含み、置換基としてフッ素原子を有していてもよいシロキサンを意味するものと理解される。
【0043】
本発明において、ポリジアリールシロキサンとは、C6-C10アリール基、好ましくはフェニル基を含み、任意にフッ素原子を有していてもよいシロキサンを意味するものと理解される。
【0044】
本発明において、ポリアルキル-アリールシロキサンとは、C1-C18アルキル基およびC6-C10アリール基、好ましくはメチル基およびフェニル基を含み、任意にフッ素原子を有していてもよいシロキサンを意味するものと理解される。
【0045】
本発明によるシリコーンは、好ましくは不揮発性であり、25℃で5cStを超える粘度を有し、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンおよびポリエチルフェニルシロキサンから選択することができる。有利には、本発明によるシリコーンは、脂肪族ポリジアルキルシロキサンであり、好ましくは、以下、PDMSと呼ばれるポリジメチルシロキサンである。
【0046】
具体的な実施形態によれば、本発明のプロセスで使用されるシリコーンの粘度は、25℃で5から1,000,000cStであり、好ましくは50cStから100,000cStであり、さらに好ましくは80から10,000cStである。
【0047】
動粘度の国際単位系はm2/sである。シリコーン製造業者によっては、動粘度をセンチストークスまたはcStで表すところもある。1cSt=0.01St=1mm2/sであることに留意する必要がある。
【0048】
他の製造業者も、粘度をセンチポアズ、cP、cPsまたはcsで表している。1cP=0.001Pa・sであることに留意する必要がある。
【0049】
有利には、シリコーンは、好ましくは水性エマルジョンの形態であり得る。シリコーンは、好ましくは、エマルジョンの全重量に対して1から45重量%、好ましくは4から30重量%の含有量で水性エマルジョン中に存在する。
【0050】
好ましくは、シリコーンはシリカと混合することができる。好ましくは、シリカは、シリコーンとシリカの混合物の全重量に対して1から45重量%、好ましくは4から30重量%の含有量で存在する。
【0051】
例として、以下のポリジメチルシロキサンが挙げられる。
- Wackerが提案するAK範囲(25℃で5-60,000cSt)(AK 100、AK 1000、AK 12500など);
- Dowが提案するXiameter PMXシリーズ(Xiameter PMX 200 Silicone Fluid 100 cPs、Xiameter PMX 200 Silicone Fluid 350 cPs、Xiameter PMX 200 Silicone Fluid 1000 cPsなど);
- Elkem が提案するBluesilシリーズ (Bluesil 47 V 100、Bluesil 47V 500、Bluesil 47 V 1000など)。名前の最後の数字は、オイルの粘度 (mPas) に関する情報を示す。
【0052】
Elkemは、例えばSilcolapse RG12という、水性エマルジョン中に配合されたポリジメチルシロキサンを提案している。
【0053】
Elkemはまた、例えばSilcolapse 411という、ポリジメチルシロキサン中のシリカ懸濁液も提案している。
【0054】
本発明によるアリール基を有するシリコーンとしては、ポリジアリールシロキサン、特にポリジフェニルシロキサン、およびポリアルキル-アリールシロキサンを使用することができる。例として、以下の市販品が挙げられる、
- Shin EtsuがKF 96-100、KF 96-1000という名称で販売しているメチルフェニルポリシロキサン、粘度5~10,000mm2/s(センチストークス)の粘度範囲のシリコーンを提供している、
- WackerがASシリーズ(特にAS 100PDMS)で販売しているメチルフェニルシロキサン、
- Shin EtsuがKF 500-100、KF 50-1000、KF-54という名称で販売しているメチルフェニルポリシロキサン。
【0055】
フッ素化シリコーンのうち、-(Si(-CH3)(-CH2-CH2-CF3)-O-)ユニットを含むシリコーンが好ましい。
【0056】
Momentiveが販売する市販品FF160とFF170が適している。
【0057】
Dowが販売する300cSt、1000cSt、さらには10000cStのFS-1265流体製品も使用することができる。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、シリコーンの混合物を使用することができる。
【0059】
バッチ処理する場合、加水分解工程の前にシリコーンを反応媒体に添加することができる。シリコーンは媒体に溶解した状態でも分散した状態でもかまわない。また、カラムに直接添加することもできる。
【0060】
典型的には、連続プロセスでは、水は好ましくはカラムの塔頂部に導入され、一方、アジン有機相は好ましくはカラムの中間部と塔頂部の間に導入される。
【0061】
消泡剤は、好ましくは、水相とともにカラムの塔頂部でシステムに添加される。
【0062】
好ましくは、シリコーンは、ジアルキルケトンのアジンに対して重量で1ppmから5000ppmの範囲の含有量で導入され、好ましくは、ジアルキルケトンのアジンに対して重量で5ppmから4000ppmの範囲の含有量で導入される。
【0063】
シリコーンのみの形態である場合、シリコーンは、ジアルキルケトンのアジンに対して重量で10ppmから4000ppmの範囲の含有量で導入され、好ましくはジアルキルケトンのアジンに対して重量で20ppmから1000ppmの間、より具体的にはジアルキルケトンのアジンに対して重量で40ppmから500ppmの間である。
【0064】
シリコーンが水性エマルジョンの形態である場合、エマルジョンは、ジアルキルケトンのアジンに対して重量基準で1ppmから500ppmの範囲の含有量で導入され、好ましくは、ジアルキルケトンのアジンに対して1ppmから200ppmの範囲の含有量で導入される。
【0065】
加水分解後、塔頂にケトンが、特に水との共沸混合物の形で得られ、塔底にヒドラジン水和物の水溶液が得られる。
【0066】
カラムの底部では、ヒドラジン水和物の重量比が30%、さらには45%までの溶液が得られる。
【0067】
さらに、消泡剤は、アジン合成プロセスの別のカラムで使用することもできる。
【0068】
反応工程に続いて、アジンは水相から分離される。水相は、アジンの形成後に得られる、水および活性剤を含む作業溶液である。分離は、例えばデカンテーションによって行われる。次に、作業溶液が再生される。作業溶液を再生およびリサイクルする方法は、文献EP399866において公知であり、その内容は本明細書に参照により組み込まれる。反応水および過酸化水素希釈水によって供給される水を、水、アンモニア、ケトンおよびCO2を含むストリームの形で除去する間、作業溶液は少なくとも130℃に維持される。前の工程で得られたストリームは、消泡剤として、本明細書で前に定義した少なくとも1つのシリコーンの存在下で、ストリッピングカラムに導入される。アンモニアストリッピングカラムは、文献EP0518728から公知であり、その内容は本明細書に参照により組み込まれる。プロセスのこの段階でシリコーンを使用すると、回路内に不純物を生成することなく、カラムでの蒸留を持続可能な方法で安定させることもできる。
【0069】
本発明はまた、本明細書において前述したポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサンまたはポリアルキルアリールシロキサン式の少なくとも1つのシリコーンを、アジン水和物の製造方法における消泡剤として使用することに関する。
【0070】
一つの実施形態によれば、シリコーンを蒸留塔に導入してアジンの加水分解を可能にする。
【0071】
他の実施形態によれば、アンモニア、過酸化水素およびケトンによるアジン生成のための反応工程後に回収された作業溶液を再生する工程からのフローが供給されるアンモニアストリッピングカラムに、シリコーンは導入される。
【0072】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0073】
<一連の工業テスト>
【0074】
比較例1
【0075】
文献WO2020/229773の実施例1に開示されているプロセスを、MEKazineからのヒドラジン水和物の合成のために実施した。この文献に開示されている加水分解カラムを、添加剤を加えずに、導入ヒドラジンの流量6000kg/hおよび水の流量12,000kgで使用した。
【0076】
5日後、カラムの詰まりと蒸留の不安定性が観察されたため、プレート上の正しい温度プロファイルを再び確立するために生産速度を下げる必要が生じた。
【0077】
カラムの底部は180℃であり、カラム内の圧力は絶対圧力9barであった。
【0078】
比較例2
【0079】
文献WO2020/229773の実施例1に開示されているプロセスを、MEKazineからのヒドラジン水和物の合成のために実施した。この文献に記載されている加水分解カラムを使用し、パルミチン酸のエトキシレート誘導体を添加した。
【0080】
運転開始から約15日後、ボイラーの壁面およびヒドラジン水和物濃縮トレインのその他の部分に堆積物が形成されていることが観察された。分析の結果、この堆積物はパルミチン酸ヒドラジドであると判定された。
【0081】
本発明による実施例3
【0082】
文献 WO2020/229773の実施例1に開示されているプロセスを、MEKazineからのヒドラジン水和物の合成のために実施した。この文献に記載されている加水分解カラムを、導入ヒドラジン6000kg/hおよび水12,000kgに対して1-2kg/hの流量でXiameter PMX 200 Silicone Fluid 100 cPsという商品名のPMDS 100 cPsシリコーンを添加して使用した。カラムはこの状態で2か月以上安定して動作した。
【0083】
これら3つの例の結果を、以下の表1にまとめて示す。
【表1】
【0084】
これらの結果は、本発明のシリコーンにより、プロセス回路を劣化生成物で汚染することなく、持続可能な方法で蒸留を安定化することを可能にすることを示している。
【0085】
<一連の実験室テスト>
【0086】
添加剤の消泡効果を実験室で試験した。
【0087】
蒸留アジン精製工程から採取したメチルエチルケトンアジン10gを水90mLに導入し、窒素流速300mL/分の流通下、95℃で還流した。反応媒体から泡が発生した。泡の高さが安定するまで数分間待つ必要があった。泡は反応器内の液体レベルより4-5cm高い高さで安定した。
【0088】
ぜん動ポンプを用いて反応媒体に消泡剤を添加した。流量は0.1g/min(評価した消泡剤化合物ごとに事前に調整済み)で、この流量で消泡剤を10-15秒ごとに約1滴ずつ導入できる細いチューブを介して添加した。
【0089】
消泡剤の導入中に泡の高さ(H)の減少の変化を記録した(Hinitial-H(t))/Hinitial。
【0090】
これらの実施例の結果を以下の表2にまとめて示す。実施例4-8は本発明によるものであり、実施例9および10は比較例である。
【表2】
【0091】
1使用される消泡剤はPDMS 100 cPsシリコーンである。これはDowからXiameter PMX 200 Silicone Fluid 100 cPsという商品名で販売されている。
【0092】
2使用される消泡剤は、シリカを10重量%含むPDMS 500 cPsシリコーンであり、ElkemからSilcolapse 411という商品名で販売されている。
【0093】
3使用した消泡剤はPDMS 1000 cPsシリコーンである。これはSigma-Aldrichから「シリコーンオイル」という商品名で販売されており、粘度は1000cPsである。
【0094】
4使用した消泡剤はPMDS 10000 cPsシリコーンである。これはSigma-Aldrichから「シリコーンオイル」という商品名で販売されており、粘度は10000cPsである。
【0095】
5使用される消泡剤は、シリコーン10重量%およびシリカ10重量%を含む水性エマルジョンであり、ElkemからSilcolapse RG12という商品名で販売されている。
【0096】
6使用した消泡剤は、質量2000g/mol、EO単位10%、粘度350cPsのEO/POポリエーテルであり、BASFからPluronic PE 6100という商品名で販売されている。
【0097】
7使用した消泡剤は、質量3500g/mol、EO単位10%、粘度800cPsのEO/POポリエーテルであり、BASFからPluronic PE 10100という商品名で販売されている。
【0098】
実施例9および10に関して、消泡剤を添加すると、最初の滴が媒体に添加されるとすぐに、実施例9の場合には泡の高さが最大55%増加するという発泡特性が観察される。
【0099】
さらに、比較例8および9では、泡レベルが安定していないことが観察され、泡レベルは減少した後、増加する。
【0100】
本発明の実施例においては、泡の急激な減少が観察される。
【0101】
その結果、本発明のシリコーンは、蒸留塔に導入されるとすぐに泡の形成を防止する。その効果は即時的と云える。
【国際調査報告】