(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】量子系及び方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/20 20220101AFI20241212BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20241212BHJP
G02F 3/00 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
G06N10/20
G06F7/38 510
G02F3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538244
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 GB2022053321
(87)【国際公開番号】W WO2023118849
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598097622
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ストラスクライド
【氏名又は名称原語表記】University of Strathclyde
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド ペレグリ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー デイリー
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン プリチャード
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102BA31
2K102BB10
2K102BD03
2K102EA21
2K102EB20
2K102EB22
(57)【要約】
2つ以上の中性原子を含む量子系を使用して量子ゲート操作を実行する方法であって、2つ以上の中性原子の各原子は、原子の第1の超微細基底状態、原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態及び少なくとも1つの中間励起状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、量子系は、さらに、2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含むものであり、また方法は、パルスシーケンスを生成するステップと、及び生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給して、原子を原子状態間で遷移させるステップと、を備え、パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間原子状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮に入れるものである、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の中性原子を含む量子系を使用して量子ゲート操作を実行する方法であって、前記2つ以上の中性原子の各原子は、前記原子の第1の超微細基底状態、前記原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態及び少なくとも1つの中間励起状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、前記量子系は、さらに、前記2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含むものであり、また前記方法は、パルスシーケンスを生成するステップと、及び生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給して、前記原子を前記原子状態間で遷移させるステップと、を備え、前記パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間原子状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮に入れるものである、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記量子ゲート操作は、前記原子状態間における前記少なくとも2つの中性原子の進展に対応し、前記パルスシーケンスは、前記進展に対する前記少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分の効果を含む前記量子系のモデルの計算又は適用に基づく少なくとも1つの特性を含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記少なくとも1つの特性は、前記パルスの形状、サイズ、振幅、周波数、又は持続時間のうちの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の方法であって、さらに、パルス発生器の操作パラメータを選択及び/又は変更するステップであり、この選択及び/又は変更により前記少なくとも1つの特性を有する前記パルスシーケンスを生成するものである、該操作パラメータを選択及び/又は変更するステップを備える、方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスの前記少なくとも1つの特性は1つ以上のパルスパラメータによって表され、前記方法は、前記計算に基づいて前記1つ以上のパルスパラメータの値を取得するステップ、又は前記モデルを適用するステップを備える、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスの少なくとも1つのパルスは、周波数離調曲線によって特徴付けられ、前記周波数離調曲線は、前記中間状態の少なくとも1つの超微細成分に対する摂動効果を補償するための少なくとも1つの補償特徴を含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記補償特徴は、不連続性、変化率、変化率の調整、最大値、最小値若しくは折り返し点、ピーク及び/又は最低値を含む、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスを生成するステップは、
少なくとも1つのチャープ励起パルスを生成するように少なくとも1つのレーザを制御するステップであって、前記チャープ励起パルスは、前記第2の超微細基底状態と前記リュードベリ状態との間で少なくとも2光子共鳴周波数を含む周波数の範囲にわたる掃引を含むものである、該少なくとも1つのレーザを制御するステップを含む、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスを生成するステップは、
前記少なくとも1つの中間原子状態と前記リュードベリ状態とを非共鳴的に結合するのに十分な周波数の範囲を含む第1のパルスを生成するステップと、及び
前記第1の超微細基底状態と前記リュードベリ状態との間の共鳴周波数を含む周波数の範囲にわたる掃引を含む第2のパルスを生成するステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスは、2光子断熱高速通過(ARP)プロトコルを含む、方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法において、前記量子系は、第1の数の次元を有する第1のモデルによって表され、前記パルスシーケンスは、より低い数の第2の次元を有する第2のモデルによって前記量子系を効果的に表すことができるような十分に大きな周波数範囲にわたる、時間依存離調プロセスの一部として生成される、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記離調プロセスは、単一の有効ラビ周波数及び単一の離調パラメータによって前記量子系を特徴付けることができるようなプロセスである、方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスは、少なくとも有効ラビ周波数及び2光子離調パラメータの時間依存変化によって特徴付けられる、方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法において、前記方法は、さらに、前記生成されたパルスシーケンスにさらなる変調を実行するステップを備える、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記さらなる変調は、最適な量子制御プロセスに基づく、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法において、前記原子状態間の遷移は、ラビ振動を含む、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法であって、前記2つ以上の中性原子に、前記生成されたパルスシーケンスを対称的に供給するステップを備える、方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法において、前記2つ以上の中性原子はアルカリ原子を含む、方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法において、前記2つ以上の中性原子は、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、及びカリウム(K)原子のうちの1つを含む、方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法において、前記生成されたパルスシーケンスは、選択された離調値が課される、超微細基底準位、前記中間状態及び前記リュードベリ状態のエネルギー分離に基づくエネルギーを有する、方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法において、前記パルスシーケンスは、単一キュービットの回転を適用するステップを含む、方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の方法において、前記2つ以上の中性原子における前記リュードベリ状態間のリュードベリ相互作用は、前記2つ以上の中性原子がそれぞれのリュードベリ状態へと同時に励起することを防止する、方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の方法において、もつれた量子状態を準備することが、量子ゲートプロトコルの一部としてもたらされる、方法。
【請求項24】
量子コンピュータ装置であって、
2つ以上の中性原子を含む量子系であり、前記2つ以上の中性原子の各原子は、前記原子の第1の超微細基底状態、前記原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態、及び少なくとも1つの中間原子状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、さらに、前記2つ以上の中性原子における前記リュードベリ状態間の相互作用を含む、該量子系と、
パルスシーケンスを生成し、また生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給して、前前記原子を前記原子状態間で遷移させるように構成されたパルス発生器であり、前記パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間原子状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮する特性を有する少なくとも1つのパルスを含むものである、該パルス発生器と、
を備える、装置。
【請求項25】
方法であって、
量子系用のパルスシーケンスを決定するための計算を実行するステップであり、決定されたパルスシーケンスは、所望の量子ゲート操作が得られるようなパルスシーケンスであり、前記量子系は、2つ以上の中性原子を含み、前記2つ以上の中性原子は、前記原子の第1の超微細基底状態、前記原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態及び少なくとも1つの中間励起状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、前記量子系は、さらに、前記2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含み、前記計算は、前記少なくとも1つの中間状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮に入れるものである、該計算を実行するステップと、
前記決定されたパルスシーケンスを表すパルスシーケンスデータ記憶するステップと、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子計算方法及び装置に関し、特に、量子ゲート操作を実行する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子情報処理を実行するための量子計算装置は、量子ビット又は「キュービット」が量子情報をエンコーディングする、量子回路原理に基づくことができる。デジタル回路と同様に、これらの量子回路は、基礎的要素として量子論理ゲート(量子ゲートとも呼ぶ)を使用することができる。このような量子ゲートを実装するために、様々な物理的量子系又は量子現象を使用することができる。
【0003】
量子ゲートを実装するために使用可能な物理的量子系の例は、中性原子である。実際、過去10年間にわたって、捕捉された中性原子が、量子情報処理の最も有望なプラットフォームの1つとして出現している。最大数百個の部位によって形成される、構成可能な1D、2D、及び3D光学アレイにおける信頼性のある単一原子の充填、初期化及び読み出しが、さらなるアップスケーリングのための基本的な制限なしに達成され得ることが実証されている。
【0004】
[発明が解決しようとする課題]
中性原子キュービットは、リュードベリ状態を用いたもつれを媒介することができる。レーザパルスを有するこのようなリュードベリ量子系を使用して実装される量子ゲートを制御することが知られている。例えば、非特許文献1では、リュードベリ量子系を使用して高忠実度ゲートを実行するための2つの別個の手法について概説している。これらの手法の一方は、単一光子の遷移に基づく分析を用いた断熱高速通過(adiabatic rapid passage:ARP)に基づく。この手法では、最適化された分析パルスが、1光子遷移スキームに対して、ベル状態忠実度F>0.999を生じることが報告された。アルカリ原子におけるこのような手法は、安定な高出力紫外線レーザを使用する必要性、及び/又は著しい反跳後方散乱の存在などの問題を引き起こすおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"Symmetric Rydberg controlledZ gates with adiabatic pulses" by Saffman et.al (Physical Review A 101, 2021)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によれば、2つ以上の中性原子を含む量子系を使用して量子ゲート操作を実行する方法が提供され、この方法において、2つ以上の中性原子の各原子は、原子の第1の超微細基底状態、原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態及び少なくとも1つの中間励起状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、量子系は、さらに、2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含むものであり、またこの方法は、パルスシーケンスを生成するステップと、及び生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給して、原子を原子状態間で遷移させるステップと、を備え、パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間原子状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮に入れるものである。
【0007】
パルスシーケンスは、2光子励起プロトコルに従って生成することができる。少なくとも1つの中間状態は、少なくとも1つの超微細成分状態を含む。少なくとも1つの中間状態は、中間状態の完全な超微細構造を含んでもよい。パルスシーケンスは、少なくとも1つのパルスを含んでもよい。パルスシーケンスの少なくとも1つのパルスは、少なくとも1つの中間状態における完全な超微細構造のうちの少なくとも一部、随意的には全部、を考慮に入れる、少なくとも1つの特性を含んでもよい。
【0008】
本方法は、さらに、量子状態を準備するステップを備えてもよい。準備される量子状態は、もつれた量子状態であってもよい。量子ゲートは、CNOTゲートであってもよい。量子ゲートは、制御位相ゲートであってもよい。量子情報は、2つ以上の中性原子における第1及び第2の超微細基底状態にエンコーディングされてもよい。量子ゲート操作は、制御量子ゲート操作であってもよい。パルスシーケンスは、中間原子状態の完全な超微細構造又は超微細構造の少なくとも一部を含むように設計されてもよい。
【0009】
各原子の少なくとも1つの中間状態は、原子番号、全角運動量量子数J
e及び固定角運動量量子数Iによって表してもよい。中間状態の少なくとも1つの超微細成分は、セットf
eにおけるあるf
eの値を有する状態であってもよく、セットf
eは、
【数1】
【0010】
パルスシーケンスの1つ以上のパルスは、2つ以上の中性原子の各原子にほぼ同時に供給されてもよい。1つ以上のパルスを、2つ以上の中性原子に対称的に印加されてもよい。1つ以上のパルスは、1つ以上のパルスが2つ以上の中性原子の各原子にほぼ同時に入射するように、2つ以上の中性原子の各原子に供給されてもよい。2つ以上の中性原子は、最近接原子であってもよい。
【0011】
2つ以上の中性原子は、前記原子状態間で遷移するように構成される、少なくとも第1の中性原子及び第2の中性原子を含んでもよい。2つ以上の中性原子は、前記原子状態間で遷移するように構成される、第1の中性原子及び第2の中性原子を含んでもよい。
【0012】
第1の中性原子は、第1の量子キュービットに対応し、又は第1の量子キュービットを表してもよい。第2の中性原子は、第2の量子キュービットに対応し、又は第2の量子キュービットを表してもよい。第1の量子キュービットは制御キュービットであってもよく、第2の量子キュービットはターゲットキュービットであってもよい。第1及び第2の中性原子における第1及び第2の超微細基底状態は、第1及び第2の計算状態に対応してもよい。第1及び第2の量子キュービットは、超微細基底状態でエンコーディングされてもよい。
【0013】
2つ以上の中性原子は、対応する原子状態のセット間で遷移するように構成される第3の中性原子を含んでもよく、生成されたパルスシーケンスは、第1、第2、及び第3の中性原子のそれぞれに供給される。第3の中性原子は、第3の量子キュービットに対応し、又は第3の量子キュービットを表してもよい。
【0014】
2つ以上の中性原子は、対応する原子状態のセット間で遷移するように構成される第3及び第4の中性原子を含んでもよく、生成されたパルスシーケンスは、第1、第2、第3及び第4の中性原子のそれぞれに供給される。第3及び第4の中性原子は、第3及び第4の量子キュービットに対応し、又は第3及び第4の量子キュービットを表してもよい。2つ以上の中性原子は、4つより多い中性原子を含んでもよい。2つ以上の中性原子は、複数の量子キュービットに対応する又は代表する、複数の中性原子を含んでもよい。
【0015】
2つ以上の中性原子の第1及び第2の超微細基底状態は、第1及び第2の計算状態に対応してもよい。第1及び第2の量子キュービットは、超微細基底状態でエンコーディングされてもよい。
【0016】
量子ゲート操作は、前記原子状態間における少なくとも2つの中性原子の進展(evolution)に対応してもよい。パルスシーケンスは、前記進展に対する少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分の効果を含む量子系のモデルの計算又は適用に基づく少なくとも1つの特性を含んでもよい。量子ゲート操作は、一連の原子状態間で遷移する少なくとも2つの中性原子に対応してもよい。少なくとも1つの特性は、状態のシーケンスにおける少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分の効果を含む量子系のモデルの計算又は適用に基づいてもよい。少なくとも1つの特性は、少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分が量子系のダイナミクスに及ぼす影響を含む、量子系のモデルの計算又は適用に基づいてもよい。
【0017】
少なくとも1つの特性は、量子系のモデルを使用して決定してもよく、モデルは、少なくとも1つの超微細成分、随意的には、少なくとも1つの中間状態における超微細成分のすべての効果を含む部分を含む。モデルは、原子状態間の遷移に対する少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分の影響をモデル化する部分を含んでもよい。モデルの当該部分は、数学的オブジェクトの成又は項を含んでもよい。
【0018】
モデルは、量子系の動的モデルを含んでもよい。モデルは、パルスシーケンスの少なくとも1つのパラメータと、前記原子状態間の相互作用との間の関係を表してもよい。動的モデルは、中間状態の超微細成分を含む量子系の動的特性を考慮に入れてもよい。
【0019】
量子ゲート操作は、量子系における、原子状態間の所望の進展に対応してもよい。パルスシーケンスの少なくとも1つの特性は、量子系において、原子状態間の所望の進展をもたらしてもよい。動的モデルは、量子系の所望の進展を提供するパルスシーケンスの少なくとも1つの特性を計算するために使用されてもよい。
【0020】
量子ゲート操作は、原子遷移を介した量子系の原子状態の所望の進展に対応してもよい。少なくとも1つのパルスは、パルスシーケンスが原子状態の所望の進展をもたらすように、少なくとも1つの特性を含んでもよい。本方法は、生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給することにより、中間状態の超微細成分を介して、少なくとも超微細基底状態と励起リュードベリ状態との間で電子ポピュレーション(集団)を分布及び/又は遷移させることを含んでもよい。パルスシーケンスは、生成されたパルスシーケンスを供給して、少なくとも1つの中間状態の超微細成分を介して、所望の量子状態に電子ポピュレーションを遷移させることを含んでもよい。
【0021】
モデルは、少なくとも1つの項又は部分を含むことにより、パルスシーケンスの少なくとも1つ以上の特性を変化させるように、超微細状態の周波数分割に基づく少なくとも1つの部分を含んでもよい。動的モデルは、基底状態からリュードベリ状態への遷移のダイナミクスを、少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分を介してモデル化する、少なくとも1つの項又は部分を含んでもよい。
【0022】
少なくとも1つの特性は、パルスの形状、サイズ、振幅、周波数、又は持続時間のうちの少なくとも1つを含む。
【0023】
本方法は、さらに、パルス発生器の操作パラメータを選択及び/又は変更することによって、前記少なくとも1つの特性を有する前記パルスシーケンスを生成することを含んでもよい。
【0024】
パルスシーケンスは、パルス発生器によって生成されてもよい。パルス発生器は、1つ以上のレーザ、好ましくは少なくとも2つのレーザを含んでもよい。パルス発生器は、関連する光学装置、例えば、ステアリング光学系又は光変調デバイスを備えてもよい。パルス発生器の操作パラメータを選択及び/又は変更することは、レーザ及び/又は関連する光学装置及び/又は光変調デバイスの操作パラメータを選択及び/又は変更することを含んでもよい。
【0025】
パルスシーケンスの少なくとも1つの特性は、1つ以上のパルスパラメータによって表すことができ、本方法は、前記計算に基づいて1つ以上のパルスパラメータの値を取得すること、又はモデルを適用することを備える。
【0026】
パルスシーケンスは、1つ以上の断熱パルスを含んでもよい。パルスシーケンスは、断熱急速パルスを含んでもよい。パルスシーケンスは、周波数の変化によって特徴付けられるチャープレーザパルスを含んでもよい。パルスシーケンスは、周波数にわたって断熱スイープを実行することを含んでもよい。パルスシーケンスを生成することは、レーザの周波数及び/又は強度のうちの少なくとも1つを変更することを含んでもよい。
【0027】
モデルの計算又は適用は、2つ以上の中性原子の超微細基底状態から、少なくとも1つの中間状態の超微細成分への許容される全ての遷移の重ね合わせを含むそれらの中性原子のそれぞれのリュードベリ状態への量子遷移を考慮することができる。少なくとも1つの中間原子状態は、複数の中間超微細状態に分解されてもよい。
【0028】
パルスのシーケンスの少なくとも1つのパルスは、周波数離調曲線によって特徴付けられてもよく、周波数離調曲線は、中間状態の1つ以上の超微細成分に対する摂動効果を補償するための少なくとも1つの補償特徴を含む。摂動効果は、外部レーザの印加の結果であってもよい。摂動効果は、ACシュタルクシフトであってもよい。補償特徴は、不連続性、変化率、変化率の調整、最大値、最小値又は折り返し点、ピーク及び/又は最低値のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0029】
離調曲線の形状は、断熱条件によって拘束されてもよい。離調曲線は、有効2光子離調が滑らかになるようにACシフトを補償する特徴を有してもよい。離調曲線は、有効2光子離調がほぼ滑らかとなるように選択されてもよい。
【0030】
パルスシーケンスを生成することは、少なくとも1つのチャープ励起パルスを生成するように少なくとも1つのレーザを制御することを備えてもよく、チャープ励起パルスは、第2の超微細基底状態とリュードベリ状態の間にある少なくとも2光子共鳴周波数を含む周波数の範囲にわたる掃引を含む。
【0031】
パルスシーケンスを生成することは、少なくとも1つの中間原子状態とリュードベリ状態とを非共鳴的に結合するのに十分な周波数の範囲を含む第1のパルスを生成することと、第1の超微細基底状態と前記リュードベリ状態との間の共鳴周波数を含む周波数の範囲にわたる掃引を含む第2のパルスを生成することと、を備える。
【0032】
周波数の範囲は、2光子励起の有効線幅に依存してもよい。パルスシーケンスは、2光子断熱高速通過(ARP)プロトコルを含んでもよい。
【0033】
量子系は、第1の数の次元を有する第1のモデルによって表されてもよく、パルスシーケンスは、より低い数の第2の次元を有する第2のモデルによって量子系を効果的に表すことができるような十分に大きな周波数範囲にわたる、時間依存離調プロセスの一部として生成される。
【0034】
パルスシーケンスは、中間状態の断熱的除去によって量子系の有効2準位記述を取得できるように十分に大きな少なくとも1つの中間状態の離調に対応してもよい。パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間状態の離調が、基底状態と少なくとも1つの中間状態との間のラビ周波数よりもほぼ大きな値を有するようなパルスシーケンスであってもよい。パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間状態が断熱除去を介して中間状態を除去できるように、かなり離れた共鳴音であるようなものであってもよい。
【0035】
離調プロセスは、単一の有効ラビ周波数及び単一の離調パラメータによって量子系を特徴付けることができるようなプロセスであってもよい。
【0036】
量子系は、有効ラビ周波数及び2光子離調を使用して効果的に記述可能な3準位量子系であってもよい。本方法は、これらの量に所望の変動をもたらすように、1つ以上のレーザを制御することを含んでもよい。
【0037】
パルスシーケンスは、少なくとも有効ラビ周波数及び2光子離調パラメータの時間依存変化によって特徴付けられてもよい。有効ラビ周波数及び2光子離調パラメータの範囲は、1つ以上の断熱条件によって拘束されてもよい。
【0038】
本方法は、さらに、生成されたパルスシーケンスにさらなる変調を実行するステップを備えてもよい。
【0039】
さらなる変調は、量子最適な制御プロセスに基づいてもよい。
【0040】
さらなる変調は、パルスシーケンスにおける少なくとも1つのパルスの少なくとも1つの特性を変化させるステップを含んでもよい。少なくとも1つの特性は、パルスの形状、振幅、強度、周波数及び持続時間を含んでもよい。さらなる変調は、パルスパラメータを変化させることによって、単一有効ラビ周波数及び単一離調パラメータの時間依存変化を変調するステップを含んでもよい。本方法は、さらに、少なくとも1つの中間原子状態の完全な超微細構造を考慮する計算又はモデルに基づいて、パルスシーケンスの少なくとも1つの特性又はパラメータを決定するステップと、最適な量子制御プロセスに基づいて、決定された少なくとも1つのパルスパラメータをさらに変調するステップと、を備えてもよい。
【0041】
最適な量子制御プロセスは、量子ゲート操作を表す関数を最適化するようなパルスパラメータを取得するステップを備えてもよい。最適なパルスパラメータは、最適なパラメータを見つけるために数値最適化プロセスを実行するステップによって決定されてもよい。数値最適化プロセスは、パルスパラメータの前記値を見つけるために数値ソルバーを適用するステップを備えてもよい。最適な量子制御プロセスは、直交関数の合計として展開されたエンベロープ関数のパラメータを数値的に最適化することによって、パルスパラメータを取得するステップを備えてもよい。最適化されたパラメータは、形状、サイズ、振幅、周波数、持続時間、ラビ周波数及び離調を含む少なくとも1つの特性を表すパラメータに対応し得る。最適なパラメータは、フーリエ展開制御に基づいてもよい。
【0042】
先行する請求項のいずれかに記載の方法において、生成されたパルスシーケンスは、第1の励起パルス及び第2の励起パルスを含み、第1の励起パルスは、第1の連続波レーザ光を含み、第2の励起パルスは、第2の連続波レーザ光を含む、方法。
【0043】
原子状態間の遷移は、ラビ振動を含んでもよい。
【0044】
本方法は、さらに、2つ以上の中性原子に、生成されたパルスシーケンスを対称的に供給するステップを含んでもよい。本方法は、2つ以上の中性原子のそれぞれに、生成されたパルスシーケンスを対称的に供給するステップを含んでもよい。
【0045】
2つ以上の中性原子は、アルカリ原子を含んでもよい。
【0046】
2つ以上の中性原子は、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、及びカリウム(K)原子のうちの1つを含んでもよい。
【0047】
原子状態は、1つ以上のレーザパラメータ、例えば、線幅及び/又は利用可能な最大レーザパワーに基づいて選択されてもよい。原子状態は、レーザ操作パラメータ、中性原子の種類、中性原子の構成のうちの少なくとも1つに基づいて選択されてもよい。
【0048】
本方法は、さらに、量子系を、ゼロケルビンに近づく温度で維持するステップを備えてもよい。量子系は、ボルツマン定数と温度の積が量子系の任意の関連するエネルギースケールよりも低くなるような温度に維持されてもよい。
【0049】
生成されたパルスシーケンスは、選択された離調値が課される、基底超微細準位、中間状態及びリュードベリ状態のエネルギー分離に基づくエネルギーを有してもよい。
【0050】
本方法は、パルスシーケンスの一部として単一キュービットの回転を適用するステップを備えてよい。本方法は、パルスシーケンスに加えて、単一キュービット回転を適用するステップを備えてもよい。パルスシーケンスは、グローバル位相回転を適用するステップをさらに含む2光子励起スキームの一部であってもよい。
【0051】
2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間のリュードベリ相互作用は、2つ以上の中性原子がそれぞれのリュードベリ状態へと同時に励起することを防止することができる。
【0052】
量子ゲート操作は、もつれた量子状態を準備することを含んでもよい。もつれた量子状態の準備は、量子ゲートプロトコルの一部としてもたらし得る。
【0053】
パルスシーケンスの1つ以上のパルスは、1~1000マイクロ秒の範囲のパルス持続時間を有してもよい。
【0054】
パルスシーケンスは、パルス発生器の第1及び第2のレーザによって生成されてもよい。第1及び第2のレーザは、レーザの最大出力が、5mW~1000mWの範囲、随意的には5mW~500mWの範囲、随意的には5mW~300mWの範囲であってもよい。第1及び第2のレーザは、300nm~1500nmの範囲の波長を有することができる。
【0055】
第2の態様によれば、量子コンピュータ装置が提供され、当該量子コンピュータ装置は、2つ以上の中性原子を含む量子系であり、2つ以上の中性原子の各原子は、原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態、及び少なくとも1つの中間原子状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、量子系は、さらに、2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含む、量子系と、パルスシーケンスを生成し、且つ生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給して、前原子を原子状態間で遷移させるように構成されたパルス発生器であり、パルスシーケンスは、少なくとも1つの中間原子状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮する特性を有する少なくとも1つのパルスを含む、パルス発生器と、を備える。
【0056】
パルス発生器は、少なくとも1つのパルス源を備えてもよい。パルス発生器は、第1及び第2のパルス源を備えてもよい。第1及び第2のパルス源は、それぞれ第1及び第2のレーザを備えてもよい。量子コンピュータ装置は、励起パルス発生器を制御するためのコントローラを備えてもよい。
【0057】
第3の態様によれば、量子系用のパルスシーケンスを決定するための計算を実行するステップを備える方法が提供され、本方法において、決定されたパルスシーケンスは、所望の量子ゲート操作が得られるようなパルスシーケンスであり、量子系は、2つ以上の中性原子を含み、2つ以上の中性原子は、原子の第1の超微細基底状態、原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態及び少なくとも1つの中間励起状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、量子系は、さらに、2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含み、また計算は、少なくとも1つの中間状態の超微細構造の少なくとも一部を考慮に入れるものである。本方法は、さらに、決定されたパルスシーケンスを表すパルスシーケンスデータ記憶するステップを備えてもよい。
【0058】
本方法は、さらに、パルスシーケンスデータを取得するステップと、取得されたパルスシーケンスデータを使用して、決定されたパルスシーケンスを生成するステップと、を備えてもよい。
【0059】
計算は、量子系のモデルを使用又は適用するステップを含んでもよい。計算は、パルスシーケンスの少なくとも1つのパルスの少なくとも1つの特性を決定するステップを含んでもよい。モデルは、中間状態の少なくとも1つの超微細成分が少なくとも1つの特性に及ぼす影響を含む部分を備えてもよい。
【0060】
第4の態様によれば、第3の態様の方法を実行するように構成されるプロセッサを備えるデータ処理装置が提供される。
【0061】
第5の態様によれば、第3の態様の方法を実行するようにプロセッサによって動作可能な命令を備える非一時的コンピュータ可読媒体が提供される。
【0062】
第6の態様によれば、2つ以上の中性原子を含む量子系を使用して量子ゲート操作を実行する方法が提供され、この方法において、2つ以上の中性原子における各原子は、原子の第1の超微細基底状態、原子の第2の超微細基底状態、リュードベリ状態及び少なくとも1つの中間励起状態を含む原子状態の間で遷移するように構成され、量子系は、さらに、2つ以上の中性原子におけるリュードベリ状態間の相互作用を含むものである。量子ゲート操作は、原子状態間の量子系遷移の所望の進展に対応してもよい。本方法は、さらに、パルスシーケンスを表すパルスシーケンスデータを取得するステップであり、パルスシーケンスデータは、量子系のモデルを用いた計算に基づいており、モデルは、量子系のダイナミクスに対する、少なくとも1つの中間状態の少なくとも1つの超微細成分の挙動及び/又は効果を表す少なくとも1つの部分を含み、パルスシーケンスデータは、量子系に所望の進展をもたらす有効ラビ周波数及び2光子離調周波数の値を含むものである、該パルスシーケンスデータを取得するステップを備える。本方法は、さらに、取得されたパルスシーケンスデータに従ってパルスシーケンスを生成するステップと、生成されたパルスシーケンスを2つ以上の中性原子に供給するステップと、を備えてもよい。
【0063】
一態様における特徴は、必要に応じて、任意の他の態様における特徴として提供されてもよい。例えば、方法の特徴が装置の特徴として提供されてもよいし、逆もまた同様である。一態様における任意の特徴は、任意の他の態様における1つ以上の任意の適切な特徴と組み合わせて提供されてもよい。
【0064】
ここで、本発明の様々な態様を、単なる例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図2b】3準位のエネルギー準位スキームにおける中間状態の超微細成分を示す。
【
図3】
図3a~
図3dは、一実施形態による、2光子励起プロトコルの第1のパルスシーケンスを示す。
【
図4】
図4a~
図4dは、さらなる実施形態による、2光子励起プロトコルの第2のパルスシーケンスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下に記載される実施形態は、中性原子における2光子遷移レジーム用の2つ以上のキュービット量子ゲートを実装するための断熱高速通過(ARP:adiabatic rapid passage)ベースのゲートを説明している。中性原子は、荷電していない任意の原子である。好適な中性原子として、アルカリ原子、例えば、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、及びカリウム(K)原子が挙げられる。以下の説明のために、好適な中性原子は、リュードベリ原子状態(1つ以上の電子が、高量子数n、例えば、50より大きな量子数nを有する)に励起することが可能な中性原子である。以下では、ARPパルスを使用する2光子プロセスを通じてリュードベリ準位に励起された、2つ以上のアルカリ原子キュービット間のもつれを生成するスキームについて説明する。
【0067】
背景として、元来の形式では、ARPは、2準位ハミルトニアンの固有状態に続いてラビ周波数(Ω(t)によって表される)及び離調(δ(t)によって表される)を断熱的に掃引することによって、2準位系の状態間でポピュレーションをコヒーレントに遷移させるように設計されてきた。以下で説明される方法は、中間状態の断熱的除去によって効率的な2準位の記述を可能にするために、中間状態の離調が十分に大きくなっている多準位はしご形系を使用する。
【0068】
説明される実施形態において、以下の方法は、中性原子(記載の実施形態ではセシウム原子が使用される)の原子パラメータの正確な値を組み込んでおり、また中間状態の完全な超微細構造を考慮に入れている。以下に記載される方法は、現在利用可能な最良の2キュービットゲートと比較するために示されている。以下に記載される方法は、ベル状態忠実度Fで、
【数2】
を達成するために示されている。例えば
図4を参照して後述するように、最適な制御に基づく更なるパルス整形によって、ほぼ0.998のベル状態忠実度Fを達成することができる。
【0069】
以下では、量子ゲート操作を実行する方法について説明する。このような方法は、量子状態、例えば、もつれた量子状態を準備することを含んでもよいことが理解されよう。
【0070】
図1は、励起ソース12、量子ゲート14、コントローラ16及び読み出しモジュール18を有する量子計算装置10を示す。量子計算装置10は、量子ゲート14に対して量子ゲート操作を実行するように構成される。量子ゲート14を、量子系又は量子系の一部と呼ぶこともある。本実施形態では、量子ゲートは制御位相ゲートであるが、他のゲート、例えば、CNOTゲートを実装してもよいことが理解されよう。以下の方法は、制御位相ゲートを参照して説明されるが、単一のキュービット回転を追加することによって、他のタイプのゲートを実装することが可能になり得ることが理解されよう。例えば、制御位相ゲートは基本量子ゲートとして考えられるが、ターゲットキュービットに対して、記載されたパルスの前に半位相パルスを印加し、その後に半位相パルスを印加することによって、CNOTゲートが提供される。これらの追加のキュービット回転は、別のソース、例えば、更なるレーザによって付与されてもよい。
【0071】
図1は、量子ゲート操作の説明のための、量子計算装置10の一部の概略図として提示されていることが理解されよう。以下で説明する概念を、いくつかの異なる方法で、量子コンピュータとしてスケールアップし、また実装することが可能であることが理解されよう。以下で説明される量子ゲート操作に基づく量子コンピュータの例示的な実装形態は、
図5を参照して提供される。
【0072】
量子ゲート14は、キュービットに対応する又は代表する中性原子を備える。本実施形態では、量子ゲート14は、以下で説明されるように2つのキュービットを有し、その結果、量子ゲート14は、第1及び第2の量子キュービットに対応する2つの中性原子を有する。本実施形態は、2つのキュービットを提供する2つの中性原子を有する量子ゲート14に関するが、量子ゲート14が3つ以上の中性原子を有してもよいことは理解されよう。
【0073】
装置10は、コントローラ16を有する。コントローラ16は、励起ソース12を制御する。よって、コントローラ16は、量子ゲート14の制御をもたらす。より詳細には、励起ソースは、2光子励起スキームに従ってパルスシーケンスを生成するように制御される。2光子励起スキームを実施することは、1つ以上のパルスが所望のパルス特性を有するように、励起ソース12を制御してパルスシーケンスを生成することを含む。パルス特性は、例えば、パルスの形状、サイズ、振幅、及び強度を含む。コントローラ16は、任意の適切な回路又は処理リソースであってもよい。読み出しモジュール18は、キュービットアレイの量子状態を読み出すように構成される。励起ソースの制御16は、励起ソースの1つ以上の操作パラメータを選択及び/又は変更することによって実行されてもよい。
【0074】
励起ソース12は、2光子パルスを生成するように構成されたレーザシステムである。本実施形態では、励起ソース12は、中性原子を励起するための励起パルスを生成するように構成された第1のレーザ及び第2のレーザを有する。第1及び第2のレーザは、励起パルスを量子ゲート14の中性原子に同時に印加するように配置及び構成される。
【0075】
本実施形態では、励起ソースは、対応する光変調装置を有するレーザシステムである。より詳細には、本実施形態は第1のレーザ及び第2のレーザを有し、各レーザは電気光学変調器(又は他の実施形態では音響光学変調器)を有する。電気光学(又は音響光学)変調器は、パルス発生器によって生成されるRF制御信号を受信して、各レーザによって生成されるレーザ光を変調し、それによりレーザパルスの特性(例えば、周波数、振幅及び位相)を変更/選択する。
【0076】
上記では電気光学及び音響光学制御について説明しているが、他の実施形態では、他のタイプの変調器及びレーザパルスを整形する方法を使用してもよいことが理解されよう。以下では、レーザが、所望の形状を有するレーザパルスを生成するように制御されるものとして説明されているが、パルス整形及びパルス特性は、上述のように、光変調器によって制御されてもよいことが理解されよう。本実施形態では、励起ソースは、例えば記憶リソースから所定のパルスシーケンスデータを取得することによって制御されることが理解されよう。所定のパルスシーケンスデータは、所望のパルスシーケンスを表し、またパルスシーケンスの対象である量子系の動的モデルを使用する計算を実行することによって決定される。使用されるモデルは、量子系のダイナミクスに及ぼす中性原子の中間状態の超微細構造の影響をモデル化することを可能にする、少なくとも1つの部分(例えば、行列の成分又は項)を有する。このモデルにより、これらの超微細成分の効果を計算に含めることが可能になる。他の実施形態では、パルスシーケンスデータをリアルタイムで決定及び使用してもよい。
【0077】
本実施形態では、第1及び第2のレーザは、2光子プロトコルに従って第1及び第2の中性原子に励起パルスを同時に供給するように配置及び構成される。さらに、第1及び第2のレーザは、各中性原子に同一のパルスが印加されるように、第1及び第2の中性原子に対して対称的に励起パルスを供給する。中性原子が2つより多い実施形態では、第1及び第2のレーザは、2光子プロトコルに従って、すべての中性原子に励起パルスを同時かつ対称的に提供するように、配置及び構成される。
【0078】
セシウム原子が中性原子である本実施形態では、第1のレーザ(中間状態とリュードベリ状態とを非共鳴的に結合する)は1039nmの波長を有し、第2のレーザ(第2の超微細基底状態と中間状態とを非共鳴的に結合する)は459nmの波長を有する。使用されるレーザ波長は、原子物理学によって決定され、また、例えば励起されている原子に依存することが理解されよう。例えば、ルビジウムの場合、第1のレーザの波長は1004nmであり、第2のレーザの波長は422nmである。使用されるレーザは、典型的には300nm~1500nmの範囲の波長を有する。
【0079】
レーザのパワーに関して、例示的な最大パワーを以下に提供する。例えば、一例では、第1のレーザの最大出力は108.00mWであり、第2のレーザの最大出力は20.23mWであり、別の例では、第1のレーザの最大出力は108.00mWであり、第2のレーザの最大出力は17.70mWである。各レーザのパワーは、(レーザの一方又は両方の)パワーの変更を可能にして、有効ラビ周波数に所望の変更をもたらすのに十分でなければならず、したがって、これらの値の変更が可能であることが理解されよう。5mW~500mWの範囲の最大出力を有するレーザを使用してもよいが、この範囲以外のパワーにおける他の値が、実験及びシステム設定に応じて適切となり得ることが理解されよう。例えば、500mWを超える最大出力を有するレーザを使用してもよい。
【0080】
操作中、コントローラ16は、励起ソース11を制御して、2光子励起プロトコルに従って量子ゲート14の中性原子に励起パルスを生成する。2光子励起プロトコルに従って量子ゲート14に励起パルスを供給することにより、量子ゲート操作が実行される。励起プロトコルは、
図2、3及び4を参照してさらに詳細に説明される。
【0081】
図2を参照すると、2つの中性原子及びそれらの各エネルギー準位が示されている。
図2に示すように、第1の中性原子は、量子ゲート14の第1のキュービットに対応し、制御キュービット及び第2の中性原子は、量子ゲート14の第2のキュービット、すなわちターゲットキュービットに対応する。
図2では、第1の中性原子の原子状態には、したがって、下付き文字「c」(制御用)が割り当てられ、第2の中性原子の状態には、下付き文字「t」(ターゲット用)が割り当てられる。
【0082】
量子ゲート14を形成する中性原子(この実施形態では、第1及び第2の中性原子)はそれぞれ、各中性原子が前記原子状態間で遷移できるような、1組の原子状態によって特徴付けることができる。各中性原子は、(例えば、光子を介した)エネルギー量の受け取り又は放出に応答して、これらの原子状態間を移動可能である。例えば、中性原子は、励起ソース12からの励起パルスとの相互作用に応答して高エネルギー原子状態に移動させることができ、又は励起ソース12からの脱励起パルスとの相互作用に応答して、若しくは自然放出の結果として、より低いエネルギー原子状態に移動させることができる。
【0083】
より詳細には、第1の中性原子は、非結合状態102a、第1の基底状態104a、第2の基底状態106a、中間状態108a及び励起リュードベリ状態110aの間で移動可能である。以下では第1の中性原子の状態のみを説明するが、第2の中性原子は、1組の対応する状態、すなわち、非結合状態102b、第1の基底状態104b、第2の基底状態106b、中間状態108b及び励起リュードベリ状態110bを有することが理解されよう。さらに、量子系が2つより多い中性原子(すなわち、3つ以上)を有する実施形態では、各中性原子が、対応する原子状態の組の間を移動可能であることが理解されよう。
【0084】
図2では、中性原子毎に単一の中間状態のみが描かれているが、これらの中間状態は、中間原子状態の超微細成分に分解されることが理解されよう。中間原子状態の超微細成分を
図2(b)に示す。
図2(b)は、3準位系の中間状態における微細分裂及び超微細分裂を示す。したがって、各中性原子の中間状態は、2つ以上の別個の量子状態(すなわち、異なる超微細量子数を有する複数の量子状態)とみなすことができる。
【0085】
図2(b)に描かれているように、中間状態|e>は、核と電子の間の相互作用に起因する2つ以上の超微細分裂によって記載することができる。全角運動量量子数J
e及び固定角運動量子数Iを有する各中間状態は、量子数f
eによって特徴付けられる複数の超微細構造成分に分割される。中間状態の完全な超微細構造は、f
eのセット
【数3】
におけるすべての可能な値をとるf
eを含む。
【0086】
各超微細成分f
eは、
図2(b)に描かれているように、縮退する。以下に説明する実施形態は、成分f
eへの超微細分割を考慮に入れたモデルを使用する。
【0087】
(ターゲットキュービットに対応する)第1の中性原子の場合、非結合状態102aは、|d>cによって表され、第1の中性原子における他のすべての超微細基底状態を占める。第1の中性原子の第1の基底状態104a及び第2の基底状態106aは、それぞれ第1の制御キュービットの計算状態|0>c及び|1>cに対応する。同様に、第2の中性原子の場合、非結合状態102bは、|d>tによって表され、第2の中性原子における他のすべての超微細基底状態を占める。第2の中性原子の第1の基底状態104b及び第2の基底状態106bは、それぞれ第2のターゲットキュービットの計算状態|0>t及び|1>tに対応する。
【0088】
本実施形態では、第1及び第2の中性原子はセシウム原子であり、T=0ケルビンに近づく温度で維持される。実際には、温度は、ボルツマン定数と温度の積(KBT)が任意の関連するエネルギースケールよりも低くなるように、十分に低く維持されることが理解されよう。本実施形態では、以下の状態が選択される:第1の基底状態104a、104bはそれぞれ、原子状態|0>=|6S1/2、f=3、mf=0>になるように選択される。第2の基底状態106a、108aはそれぞれ、原子状態|1>=|6S1/2、f=4、mf=0>となるように選択される。中間状態108a、108bは、原子状態|e>=|7P1/2>に対応する超微細成分(量子状態の超微細分裂)となるように選択される。上述のように、中間状態|e>は、その超微細成分|fe、mfe>に分解される。励起リュードベリ状態110a、110bはそれぞれ、原子状態|r>=|82S1/2>によって表される。2つより多い中性原子を有する実施形態では、第3の(又はそれ以上の)中性原子の原子状態は、他の中性原子における上記の状態に対応するように選択されることが理解されよう。上記の状態は、例示的な状態としてのみ提示される。リュードベリ状態に適した原子状態は、十分に強い相互作用をもたらす任意のn(例えば、nは50より大きい)を有する。
【0089】
中性原子毎に、計算状態|0>及び|1>は、周波数ωqによって分離された超微細クロック状態でエンコーディングされる。非結合状態|d>は、計算基底以外の全ての他の超微細基底状態を説明する。以下でさらに詳細に説明するように、各中性原子の第2の基底状態|1>は、中間状態離調Δ及び2光子離調δを伴う2光子遷移を介して、各励起リュードベリ状態に結合される。実施形態に従って説明される2光子プロトコルのパルスシーケンスは、中間状態及びリュードベリ状態の両方を介して計算状態(超微細基底状態)を互いに結合し、したがって、状態間の電子ポピュレーション移動を可能にする。
【0090】
図2に示すように、中性原子のリュードベリ状態間には、電位V
rrによって特徴づけられる相互作用112が存在する。この相互作用を、リュードベリ-リュードベリ又は単にリュードベリ相互作用と呼ぶこともある。この双極子-双極子相互作用は、中性原子を励起及び脱励起することによって(すなわち、電子をリュードベリ準位に励起することによって)、オン及びオフにすることができる。リュードベリ相互作用は、第1及び第2の中性原子がリュードベリ状態へと同時に励起することを防止するように作用する。(1つ以上の)中間状態は、リュードベリ状態よりも、第1及び第2の超微細基底状態にエネルギーが近いことが理解される。2中性原子が2つより多い実施形態では、対リュードベリ相互作用(pair-wise Rydberg interactions)が中性原子間に存在し、したがって、1つより多い中性原子の励起を防ぐ。適切な原子構成に関するさらなる詳細は、
図6を参照して与えられる。
【0091】
図2には、上述の原子状態間における周波数レベル及び周波数差も描かれている。以下の説明では、原子状態間の特徴的な差を定義するための数量周波数が使用されるが、光子エネルギーと光子周波数との間の関係のために、エネルギー量も使用してもよいことが理解されよう。以下では、量子系のラビ周波数及び離調について説明し、これらの量の所望の値をレーザによって与えることができることを理解されたい。
【0092】
本実施形態では、
図2に示すように、中間状態の超微細成分|e>及びリュードベリ状態は、ラビ周波数Ω
e
r及び離調δによって、(例えば、第1のレーザによって)非共鳴的に結合される。各原子における第2の超微細基底状態|1>及び中間状態|e>の超微細成分は、(例えば、第2のレーザによって)非共鳴結合され、ラビ周波数Ω
1
e及びレーザ離調Δeを与える。
【0093】
超微細成分の質量中心は、共鳴遷移周波数からΔだけ離調されて|1>になる。非結合準位|d>は、|0>及び|1>とは異なる全ての超微細基底状態を表し、また|e>及び|r>から自然放出によって失われたポピュレーションを、それぞれγe及びγrを用いて蓄積する。
【0094】
パラメータΩe
r及びΩ1
eは、中間状態に対応する各中間超微細成分状態(各成分は|fe、mfe>によって表される)について、励起を|1>から|e>に及び|e>から|r>に駆動するためのラビ周波数に関する。これらの周波数Ωe
r及びΩ1
eは、使用される個々のレーザのラビ周波数であり、またハミルトニアンを完全にパラメータ化する。
【0095】
以下で説明されるように、2光子プロトコルを実施し且つ量子ゲート14を制御するために、有効ラビ周波数ΩR及び有効離調δRによって2光子励起プロセスを効果的に記述できるように、中間状態離調Δが選択される。超微細準位を有する近共鳴遷移を有するリスクを低減するために、パラメータΔは、中間状態の超微細分裂と比較して大きくなるように選択される。このような共振遷移は、大きな誤差をもたらす可能性がある。
【0096】
したがって、レーザパラメータの適切な選択によって、3準位系を2準位系としてモデル化することができる。特に、中間状態がかなり離れた共鳴音である(すなわち、ラビ周波数よりもはるかに大きい値を有する)場合、断熱除去によって中間状態を除去することができる。中間状態のすべての超微細成分を介した基底状態からリュードベリ状態へのすべての許容遷移の重ね合わせが、計算に含まれる。この有効近似において、2光子ラビ周波数は、
【数4】
として定義され、ここで合計は、全ての中間励起状態にわたって実行される。実際には、
図2の3準位系は、有効な時間依存性ラビ周波数及び時間依存性2光子離調に依存するハミルトニアン関数を使用して、モデル化してもよい。
この近似は、
【数5】
となる領域で有効である。
【0097】
異なる値Ω
e
r及びΩ
1
eに対して同一の有効パラメータを取得してもよいが、完全なダイナミクスは等価でなくてもよい。|1>から|r>への有効な離調は、δ
R=δ+Δ
ACであり、共鳴励起のためにゼロに同調され、ここでΔ
ACは、組み合わされたACシュタルクシフト
【数6】
である。結合されたACシュタルクシフトの合計は、中間超微細状態にわたって実行される合計である。
【0098】
上述のように、3準位量子系は、有効なラビ周波数ΩR及び2光子離調を使用して、効果的に記述することができる。したがって、レーザは、これらの量に所望の変動を与えるように、経時的に制御される。有効ラビ周波数ΩRは、第1及び/又は第2のレーザのレーザパワーを制御することによって制御され、2光子離調δは、第1及び/又は第2のレーザの周波数を変化させることによって、及び/又はこれらのレーザの離調を制御することによって制御される。以下に説明する実施形態では、有効ラビ周波数の変動は、第1のレーザを一定パワーに保持し、且つ、第2のレーザのパワーを経時的に変化させることによって、達成される。同様に、2光子離調の変化は、2つのレーザのいずれか(この例では第1のレーザ)の周波数をチャープすることによって達成される。説明される実施形態では、第2のレーザ離調Δは一定に保たれ、したがって、第1のレーザ離調の任意のどんな変化も2光子離調δの変化に対応する。第2のレーザ離調は、一定に保たれ、また中間状態の断熱的除去による効果的な2準位記述を可能にするのに十分大きい。
【0099】
上述のように、励起ソース12は、2つのレーザ、すなわち第1のレーザ及び第2のレーザを有する。本実施形態では、第1のレーザは、中間状態を励起されたリュードベリ状態と非共鳴的に結合するのに十分なパワーを有し、第2のレーザは、第2の基底状態と中間状態とを非共鳴的に結合するのに十分なパワーを有する。2光子励起スキームを、
図3及び
図4を参照して以下で説明する。2光子励起スキームは、励起ソースの1つ以上の操作パラメータを制御することによって実施されてもよいことが理解されよう。
【0100】
本実施形態では、2光子励起スキームは、第1のレーザ励起から第1の励起パルスを生成して、中間状態を励起リュードベリ状態に非共鳴的に結合させることを含む。第1のレーザのパワーは、第1のパルス持続時間の間にレーザのパワーが一定のままとなるようにロックされる。第1のパルス持続時間の間、(第2の基底状態|1>と中間状態を非共鳴的に結合する)第2のレーザのパワーは経時的に変化する。パワーの変化のこの組み合わせが、有効ラビ周波数に所望の変化をもたらす。第2のレーザ離調は一定に保たれるが、中間状態が第2の基底状態と中間状態の間の共鳴から遠く離れるように、十分に高い第1のレーザ離調は、2光子共鳴に変動が生じるように経時的に変化する。
【0101】
図3は、|00>状態から開始し、第1の2光子励起スキームに従ってもたらされるパルスを使用する、ベル状態
【数7】
の準備の一例を示す。
【0102】
記載されている2光子プロトコルは、ゲート操作を実施する。プロトコルの効果は、
【数8】
で与えられる、k+1個のキュービットに対するユニタリ演算によって記述することができる。
【0103】
この操作は、最初の入力成分(entry)が1であり、他のすべての対角が-1である対角行列として、数学的に表される。
【0104】
このゲートがもつれを生成するかどうかは、適用される入力に依存しており、任意の入力状態を適用することができ、出力状態への展開は、上記のゲート行列UC
k
Zによって記述される。|0>k成分は変化せず、他のすべての要素は、それらの複素振幅で-1の係数を得る。以下で説明するランプパルスに続いて、プロトコルは、ターゲット行列UC
k
Zを取得するために追加のグローバル単一キュービットパルスZ(φ)を必要とする。
【0105】
2キュービット制御位相ゲートU
C
k
Zは、断熱高速通過プロトコルと見なすことができる第1の2光子励起スキームに従って提供されるパルスを使用して、実装される。
図3及び
図4に例を示す。ARPパルスを単一キュービットグローバル回転と組み合わせることによって、最大限にもつれた2キュービット状態を準備することができる。
【0106】
図3及び
図4は、|00>状態から開始するベル状態
【数9】
の準備の例を示している。この状態は、制御される位相ゲートUCZの前に、単一キュービット回転X(π/2)をターゲットキュービットに適用し、続いてターゲットベル状態を準備するためにX(π/4)を適用することによって準備される。キュービット位相回転及びARPパルスのタイミング及び持続時間を
図3及び
図4に示す。
【0107】
以下の2光子励起スキームでは、第1及び第2のレーザは、パルスシーケンスを放出するように制御される。全てのプロットについて、中間状態離調は、Δ/2π=30GHzであり、リュードベリ-リュードベリ相互作用強度は、Vrr/2π=578MHzであり、ガウシアンビームウエストは、w=3.5μmであり、|1>⇔|e>間の遷移を結合する第2のレーザの最大パワーは20.23mWであり、|e>⇔|r>間の遷移を結合する第1のレーザの最大パワーは108.00mWである。
【0108】
図3(a)~
図3(d)は、レーザの特性と中性原子の状態のポピュレーションの、時間依存性のプロットを示す。各プロットは、マイクロ秒で示されるx軸(202a、202b、202c、202d)としての時間を有する。
図3では、第1のレーザ及び第2のレーザからのパルスが、以下でパルス持続時間と呼ばれる時間中、中性原子に入射する。特に、
図3(a)及び
図3(b)は、パルス持続時間にわたるレーザパルスの変動を描き、
図3(c)及び
図3(d)は、レーザパルスが量子ゲート14に入射した結果、量子ゲート14の状態ポピュレーションの結果として生じる状態及び変化を描く。励起パルスは、パルスシーケンスの一部として量子ゲートに供給される。
図3(a)及び3(b)は、2光子プロトコル用の解析パルスの形状を示す。
【0109】
レーザチャープは、
図3(a)のライン208の形状(2光子離調)に直接関連する。ライン208は、2つのレーザ間における累積離調の合計を表す。上記では、一方のレーザのみがチャープされるように記載されているが、両方のレーザをチャープして、有効離調(ライン208)に所望の変動を与えてもよいことが理解されよう。
【0110】
図3(a)は、(ライン206によって描かれる)有効単一光子ラビ周波数Ω
R及び(ライン208によって描かれる)2光子離調δの時間依存性を示すプロットである。2光子離調ライン208は、離調曲線と呼ぶこともある。
図3(a)のy軸204は周波数である。
図3(a)に示されるように、ラビ周波数は、2つの反復部分を有する時間依存プロファイル206を有し、各部分は、第1の上昇区間、第2の停滞区間、及び第3の下降区間を有する。離調周波数は、同様に、2つの反復部分を有するプロファイル208を有し、各部分は3つの区間、すなわち、離調周波数を即座に最小値まで低下させる第1区間と、周波数を最小値から最大値まで上昇させる上昇区間と、周波数を最大値から中間値まで低下させる下降区間と、を有する。したがって、このプロファイルは、最大値におけるピークに続いて即座に低下することによって特徴付けることができる。
【0111】
非特許文献1に記載されている既知のパルス形状とは対照的に、非特許文献1の滑らかなパルスから
図3(a)で描かれているパルスへの形状の変化は、主に、δを変化させたときに、原子が有効な離調δ
R=δ+Δ
ACを受けることが原因である。ACシフトは、超微細成分に対する摂動効果である。これらのシフトは、プロセスに含まれる個々のラビ周波数に関して定義される。個々のラビ周波数は2光子遷移であり、結合ACシュタルクシフト
【数10】
として定義される(ここで、合計は、中間超微細状態にわたる)。
【0112】
したがって、ライン208の形状の少なくとも一部は、中間状態の超微細構造の考慮から生じる。特に、離調曲線208は、ACシュタルクシフト等の中間順位に対する摂動効果を補償する少なくとも1つの特徴を有する。特に、第1の部分と第2の部分の間に、形状が滑らかな関数とはならないような、急激な下降209aの形の第1の補償特徴が存在する。例えば、急激な下降209aは、ライン208の第1の部分と第2の部分の間に存在する。第2の補償特徴は、下降区間209bの存在である。時間依存シュタルクシフトの計算に完全な超微細構造を含めることにより、これらのシフトは、これらの補償特徴によって補償される。
【0113】
本明細書で説明される2光子プロトコルは、中間状態の多準位超微細構造を考慮に入れている。超微細構造を無視した場合、モデルは、ACシュタルクシフトと、自然放出の割合への更なる寄与との両方を過小評価することになる。そのような場合、計算されたパルス形状は、研究室で実施されたときに、高忠実度の操作をもたらさないことがある。
【0114】
2光子離調曲線δの形状は、非特許文献1の
図2に示されるものと同様の滑らかなコサインプロファイルに従って、有効離調δ
Rが滑らかに進展することを確実にするように、選択される。使用されるモデルは、目標とされる忠実度を達成するためにラボフレームにおいて必要とされる正確な離調曲線の計算を可能にする。したがって、離調曲線は、滑らかな有効離調を可能にする補償特徴を含む(有効離調は、2光子離調曲線とACシュタルクシフトの合計である)。一般に、中間状態の完全な超微細構造を考慮することなく、誤差は過小評価され、より短いパルスは、低減されたACシフトの項で最適化されることになる。
【0115】
許容可能なARPパルス形状は、断熱条件によって制限される。これは、以下のように表すことができる。
【数11】
δ
Rは、(ACシフト項のせいで)Ω
2を介して、δ及び個々のラビ周波数の両方に依存する。これらの条件は、レーザ用の許容可能なパラメータ空間を定義する。2光子離調δは、離調曲線が不連続である又は離散的なステップを有することを意味する補償特徴を有し得るが、合計有効離調曲線δ
Rは滑らかなままとなる。
【0116】
図3(b)は、ガウシアンビームを仮定した2つのレーザのパワープロファイルを描いており、第1のレーザ及び第2のレーザのパワーの時間依存性が示される。
図3(b)のY軸204bは、レーザが最大値で動作するときの値が1の値に対応するような(最大レーザパワーの分率としての)パワーである。上述のように、中間状態とリュードベリ状態とを非共鳴的に結合する第1のレーザのパワーは、パルス持続時間の間、一定のままである。第1のレーザの出力は、矩形形状のプロファイル212を有する。次いで、(第2の基底状態を中間状態と非共振的に結合する)第2のレーザのパワーは、パルス持続時間にわたって連続的に変化し、サイン形状のパワープロファイル210を有する。第2のレーザのパワーは、(パルス持続時間の半分に対応する)中間点を中心とする対称形状を有する。この形状はサイン状に考えてもよいが、より正確には、この形状は、数学的には関数exp{-(t-T)^4}として表現される。
【0117】
有効ラビ周波数に変動をもたらすための第2のレーザのパワーの変動と、(2光子離調に変動をもたらすための)第1のレーザの離調の変化との組み合わせは、第2の超微細基底状態とリュードベリ原子状態との間の共振周波数を含む周波数の範囲にわたる断熱スイープを提供する。
図3(a)に示す離調は、2光子離調を指す。中間励起状態は、第2の超微細基底状態とは共鳴せず、基底状態とリュードベリ状態の間でポピュレーションの遷移が起こる。
【0118】
図3(c)は、中性原子の中間状態216及び暗基底状態214のポピュレーションの時間的進展のプロットである。
図3(c)のY軸204cはポピュレーションである。中間状態離調が有限であるため、中間状態は、レーザがオンになるたびにポピュレーション増加される。中間状態は、光の自然放出を介して急速に減衰するので、これは誤差を生じ、このグラフは、制御されたゲートを実施する際の支配的な誤差である計算基底からの中間状態を介した漏れを表す。中間状態は、レーザのパワーをオンにした結果としてポピュレーション増加される。プロセスの端部に向かって、中間状態は、レーザをオフにした結果として、並びに自然減衰の影響により、ポピュレーション減少される。
【0119】
図3(d)には、計算状態とリュードベリ状態のポピュレーションの時間的進展及び変動が示されている。
図3(d)のY軸はポピュレーションである。
図3(d)は、ベル状態
【数12】
がパルスシーケンスの端部に向かって実質的にポピュレーション増加されることを示す。
【0120】
散逸効果を考慮に入れるために、Lindbladマスタ方程式による2キュービット密度行列のダイナミクスを決定し、また次式
【数13】
を使用してベル状態の忠実度を計算した。最初の2つの項は、状態|00>及び|11>のポピュレーションであり、最後の項は、|00>及び|11>の間のコヒーレンス項である。
図3に描かれる例では、忠実度は、0.9972として計算される。
【0121】
図4は、2光子励起スキームによるさらなるパルスシーケンスを示す。
図4は、
図3を参照して説明されたパルスシーケンスの変形バージョンである。より詳細には、パルスは、標準的な最適な制御を使用して変調され、制御は、この実施形態ではフーリエ級数展開に基づく。ARPゲートプロトコルに既知の最適な制御パルス整形を適用すると、忠実度は、(|1>及び|e>状態を結合する)第2のレーザのパワーを低減することによって、さらに改善することができる。
図4のパルスシーケンスは、
図3のパルスシーケンスの最適化されたバージョンとみなすことができる。したがって、
図4の参照番号は、
図3について上述した参照番号と対応するように番号付けされる。最適な量子制御の例は、例えば、非特許文献「Phys Rev. A 84, 022326 (2011)」に見出すことができる。
【0122】
さらなる変調は、パルスの形状、振幅、強度持続時間のうちの少なくとも1つを変化させることを含む。更なる変調は、単一の有効ラビ周波数及び単一の離調パラメータの時間依存変化を変えるステップを備えてもよい。本実施形態において、最適な量子制御プロセスは、直交関数の合計として展開されたエンベロープ関数のパラメータを、数値的に最適化することによって実行される。数値最適化プロセスは、数値ソルバーを適用して、パルスパラメータの当該値を見つけるステップを備えてもよい。本実施形態では、(任意のゲート操作を実行する前の)計算及び最適化はオフラインで実行されるが、他の実施形態では、最適化はその場で実行されてもよい。例えば、最適化は、較正測定の実行に応答して実行されてもよい。このような手法は、読み出し速度に匹敵する計算時間を必要とする。
【0123】
図4の全てのプロットにおいて、中間状態離調は、Δ/2π=30GHzであり、リュードベリ-リュードベリ相互作用強度は、V
rr/2π~578MHzであり、ガウシアンビームウエストは、w=3.5μmであり、|1>⇔|e>の間の遷移を結合する第2のレーザの最大パワーは、17.70mWであり、|e>⇔|r>の間の遷移を結合する第1のレーザの最大パワーは、108.00mWである。
図4において、有効ラビ周波数が負の領域では、|1>⇔|e>又は|e>⇔|r>の励起のラビ周波数のいずれかに、位相係数πを組み込まれなければならない。
図4に示される例では、ベル状態の忠実度は、F=0.9983である。上記のレーザパラメータが提示されているが、これらは非限定的な例示として提示されており、上記の方法は、(例えば、パワー/w
2の比率を同一のまま維持することによって、)同等の強度を有するレーザに対して機能するであろうことが理解されよう。
【0124】
図4(a)には、有効単一光子ラビ周波数306及び2光子離調308の時間依存性が示されている。
図3(a)とは対照的に、これらのプロファイルの形状に対する付加的な変調を観察することができる。より詳細には、ラビ周波数は、2つの反復部分を有するプロファイル306を有する。
図3(a)とは対照的に、各部分は、4つの区間、すなわち、(初期値ゼロから第1の負の値までの周波数をとる)第1の下降区間、(第1の負の値からその最大値までの周波数をとる)第2の上昇区間、(最大値から最小値までの周波数をとる)第3の下降区間、及び最小値からその初期値までの周波数をとる第4の上昇区間を有する。
図3(a)とは対照的に、ラビ周波数は負の値をとり、また停滞領域(plateau)を有さない。第1~第4の区間は、反復部分毎に連続的な滑らかな関数を形成するが、第1の部分と第2の部分との間には、不連続性が存在する。各部分は、ピーク及び(より小さい)最低値(nadir)によって特徴付けられてもよい。
【0125】
図4(b)には、2光子離調308の時間依存性が示されている。
図3(a)を参照して説明したように、プロファイル308は、2つの反復部分を有するが、その形状は、
図3(a)とは対照的に変形される。特に、即座に低下し、次いで最大ピークまで上昇するプロファイル208とは対照的に、プロファイル308は、最大ピークに続く追加の二次ピークも有しており、二次ピークは最大ピークよりも低い。全体では、プロファイル308は、2つの繰り返し部分を有し、各部分は5つの区間、すなわち、離調周波数を即座に最小値まで低下させる第1の区間と、離調周波数を最大値まで上昇させる第1の上昇区間と、離調周波数を中間値まで低下させる第1の下降区間と、離調周波数を第2の中間値まで上昇させる第2の上昇区間と、離調周波数を第3の中間値まで低下させる第2の下降区間と、を有する。
【0126】
図4(b)は、ガウシアンビームを仮定した第1のレーザ(312)及び第2のレーザ(ライン310)のパワープロファイルを示す。
図3(b)との比較により、第2のレーザのパワープロファイルに対する追加の変調を観測することができる。第1のレーザ312のパワープロファイルは、
図3(b)を参照して説明したように、第1のレーザのパワープロファイル212に対応するが、第2のレーザ310のパワープロファイルは、パワープロファイル210に比べて変化している。特に、パワーは、印加される合計パワーの尺度(この場合、パワープロファイルの積分)が
図3(b)の尺度よりも低くなるように、変更されている。パワープロファイル310は、対称正弦状形状プロファイル210の変調バージョンである。より正確には、パワープロファイル310の各部分は、
図3の解析の場合の対称的な指数関数(exp{(T
0-t)^
-4})として、時間的に変化する。他の実施形態では、パルスは様々な非自明な形態を有することが理解されよう。
【0127】
パワープロファイルは2つの反復部分を有し、各部分は3つの区間、すなわち、低いピークを有する第1の区間、(利用可能な最大パワーに達する)高いピークを有する第2の区間、及び中間ピークを有する第3の区間を有する。したがって、パワープロファイル310は、第1のピークと、より低い第2のピークとによって特徴付けることができる。
【0128】
図4(c)は、中間状態314及び暗基底状態316のポピュレーションの時間的進展を示す。
図3(c)とは対照的に、追加の変調によるポピュレーションの変動が観察することができる。
図4(d)には、計算状態及びリュードベリ状態のポピュレーションの時間的進展及び変動が示されている。
図3(d)とは対照的に、ベル状態のポピュレーションの改善を観察することができる。
【0129】
上述のARPプロトコルのベンチマークとして、既知のプロトコルに対応するベル状態忠実度を決定して、F=0.9983を得た。既知の単一光子プロトコルと比較すると、見出された忠実度は、上述の方法が高速2キュービットゲートに対する競争的な代替手法を提供できることを示す。
【0130】
上述の実施形態は、既知の方法及びシステムに勝る多くの利点を提示することができる。例えば、既知の方法と比較して、多準位超微細シフトが考慮されており、そのような考慮がないと、ゲート操作の忠実度が制限される可能性がある。
【0131】
上述の実施形態は、主に2原子量子ゲートに関するが、本方法は、マルチ(すなわち、2つより多い)キュービットゲートプロトコルに適用できることが理解されよう。そのようなマルチキュービットゲートは、2つのキュービットゲートの場合に考慮されるのと同一のアーキテクチャとともに、全く同一のモダリティ(複数のキュービットのグローバルアドレッシング)を用いて実装してもよい。マルチキュービットゲートを素のまま実装する利点は、高次ゲートを1及び2キュービットゲートのロットに分離するための要件を回避し(例えば、我々が最適化する3キュービットゲートは、6つの別個の2キュービット操作と同等である)、したがって、並列性の向上及び忠実度の改善を可能にすることである。
【0132】
上記の説明は、単一のゲートに対して量子ゲート操作を実行することに関するが、さらなる実施形態によれば、複数のそのような量子ゲートを有する量子計算装置を提供できることが理解されよう。さらに、量子ゲートを制御する上記の方法に基づく量子計算装置は、いくつかの異なる方法で実装できることが理解されよう。
図5は、そのような量子計算装置をどのように埋め込むことができるかについての非限定的な例を示す。上記で定義された量子ゲートは、どの原子がレーザによって処理されるのかを単に変更することによって、キュービットアレイ内のキュービットの任意の他のサブセットに適用できることが理解されよう。キュービットの例示的な構成を、
図6を参照して説明する。
【0133】
図5に示すシステムは、
図1を参照して説明したシステムに対応するいくつかの構成要素を有する。例えば、
図5は、ゲート操作を実行するためのコントローラ16に対応するコントローラ516と、励起ソース12に対応する励起ソース512と、読み出しモジュール18に対応する読み出しモジュール518と、を有する。
【0134】
図1を参照して説明したように、励起ソースは、リュードベリレーザと呼ぶこともある。システムは、真空チャンバ21内に準備されたキュービットアレイ520(中性原子アレイとも呼ばれる)を有する。キュービットアレイは、量子ゲート14にほぼ対応する1つ以上の量子ゲートを提供する。
【0135】
量子コンピュータは、コントローラ516及び励起ソース512とは別に、中性原子アレイを制御するための中性原子制御装置をさらに有する。特に、中性原子制御装置は、さらに、(例えば、中性原子を冷却し、輸送し、且つ捕捉することによって)中性原子アレイを初期化/装填し、且つ維持するためのレーザを備える。特に、
図5に示されるように、システムは、キュービットを初期化するための冷却レーザ522と、中性原子を捕捉するためのトラップレーザ524とを有する。中性原子アレイは、光学的又は磁気的な中性原子アレイであってもよい。中性原子アレイ520は、キュービットの量子レジスタを提供する複数の中性原子を有する。キュービットは、計算キュービット及び補助キュービットの両方を含んでもよい。
【0136】
読み出しモジュール518は、
図1の読み出しモジュール18に対応し、中性原子アレイ520の1つ以上の量子ゲートの状態を読み出すように構成される。読み出しモジュール518は、中性原子の状態を捕捉するための任意の適切なデバイスであってもよい。
図5の実施形態では、読み出しモジュールは、カメラ526と、蛍光撮像を実行するための関連回路と、を備える。
【0137】
図6は、複数のキュービットの場合の中性原子構成の非限定的な例を示す。これらの中性原子構成は、より大きな中性原子アレイ(例えば、中性原子アレイ520)の一部を形成し得ることが理解されよう。
図6に示されるように、
図6(a)は、制御原子602及びラベリングされたターゲット原子604を有する2原子構成の例を示す。2つの原子間の離隔距離は、Rとラベリングされる。
【0138】
図6(b)は、3、4及び5原子構成の例を示す。
図6(b)(i)は、中央制御原子606及び2つのターゲット原子608a、608bを有する例示的な3原子構成を示す。3つの原子は直角三角形状に配置される。
【0139】
図6(b)(ii)は、中央制御原子610及び3つのターゲット原子612a、612b、614cを有する例示的な4原子構成を示す。3つのターゲット原子は、中央に制御原子が配置された三角形状に配置される。
図6(c)(iii)は、中央制御原子614及び4つのターゲット原子616a、616b、616c、616dを有する例示的な5原子構成を示す。4つのターゲット原子は、菱形内の中央に制御原子614が配置された菱形状に配置される。
図6(d)は、キュービットアレイ内に提供される
図6(c)(iii)の5原子構成を示す。この5原子構成は、さらなる原子618によって囲まれるように示されている。
図6(d)は、どの原子がレーザによってアドレス指定されるかを変更することによって、アレイ内のキュービットの異なるサブセットに量子ゲートをどのように適用することができるかの例である。
【0140】
2つより多い中性原子を有する構成は、対応する対のリュードベリ相互作用を有することが理解されよう。例えば、3原子の構成は、3つのリュードベリ相互作用を有する。
【0141】
上述のものと類似のパラメータ及びグローバル励起スキームを使用することにより、3キュービットUCCZを可能にする最適なパルスシーケンスが、忠実度F>0.995(性能で競合するには、2キュービットゲートの忠実度F>0.999を必要とする)をもたらすことが見出された。加えて、F>0.99となる4キュービットUCCCZを可能にするパルスシーケンスが見出された。
【0142】
当業者は、本発明から逸脱することなく、囲まれた構成の変形が可能であることを理解するであろう。
【0143】
例えば、上述の実施形態では、第1及び第2のレーザは、適切な光変調装置を制御するコントローラによって制御されるものとして説明されているが、代替実施形態では、レーザは、励起パルスを生成するようにコントローラによってもあるいはコントローラによって代替的に制御される、さらなるパルス整形装置(例えば、光学装置)を用いて供給されてもよいことが理解されよう。代替的に、レーザ自体が、所望のパルスシーケンスを生成するように制御されるように構成されてもよい。
【0144】
したがって、特定の実施形態における上記の説明は、例としてのみされており、限定を目的とするものではない。当業者には明らかなように、説明された操作に大きな変更を加えることなく、わずかな変更を加えることができる。
【国際調査報告】