(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】シリコーン処理用途のためのコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20241212BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241212BHJP
C09D 7/80 20180101ALI20241212BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/20
C09D7/80
A61L31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538694
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 US2022082129
(87)【国際公開番号】W WO2023122657
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】202111577722.X
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523459642
【氏名又は名称】デュポン テクノロジー(シャンハイ)カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DUPONT TECHNOLOGY (SHANGHAI) CO., LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】591016862
【氏名又は名称】デュポン エレクトロニック マテリアルズ インターナショナル,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】DUPONT ELECTRONIC MATERIALS INTERNATIONAL,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シアオマン チー
(72)【発明者】
【氏名】ジエン リュー
(72)【発明者】
【氏名】チェン-ヤン シアン
(72)【発明者】
【氏名】シアオガン マー
【テーマコード(参考)】
4C081
4J038
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081CA272
4C081DA02
4C081EA06
4J038DL031
4J038GA03
4J038GA09
4J038GA15
4J038JA11
4J038JC30
4J038KA06
4J038LA03
4J038MA09
4J038NA23
4J038PA11
4J038PA19
4J038PB01
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
本明細書では、シリコーンポリマーを溶解し、針、注射器、栓及び薬瓶などの物品の表面の少なくとも一部にシリコーンポリマーをコーティングするための有機溶剤が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング組成物であって、
(i)(a)約25~約50重量%のヘキサメチルジシロキサン、及び、
(b)約50~約75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンを含む、約90~約99重量%の有機溶剤と、
(ii)約1~約10重量%のシリコーンポリマーと、
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
前記シリコーンポリマーは、式(I):
(R
1R
2R
3)
3Si-O-[Si(R
4)(R
5)O]
m-[Si(R
6)(R
7)O]
n-Si(R
8R
9R
10)
3 (I)
(式中、R
1~R
10は、1~4つの炭素原子を有するアルキル基、H、OH、フェニル、ビニル、アルコキシ、ON=C、CH
2(O)CHCH
2OCH
2CH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2NH
2、CH
2CH
2CH
2NHCH
2CH
2NH
2及びOCOCH
3からそれぞれ選択される)
によって表される、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記シリコーンポリマーは、ポリジメチルシロキサン及びアミノアルコキシジメチルシロキサンから選択される、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
物品の表面の少なくとも一部の上に、請求項1に記載のコーティング組成物から形成されたシリコーンポリマーコーティングを有する、物品。
【請求項5】
前記シリコーンポリマーコーティングの厚さは、約0.01~約1マイクロメートルである、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
金属、プラスチック、ゴム、ガラス、紙、セラミック、ラテックス及び木材から選択される材料を含む、請求項4に記載の物品。
【請求項7】
医療デバイスである、請求項4に記載の物品。
【請求項8】
前記医療デバイスは、針、注射器、栓及び薬瓶から選択される、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
式(I);
(R
1R
2R
3)
3Si-O-[Si(R
4)(R
5)O]
m-[Si(R
6)(R
7)O]
n-Si(R
8R
9R
10)
3 (I)
(式中、R
1~R
10は、1~4つの炭素原子を有するアルキル基、H、OH、フェニル、ビニル、アルコキシ、ON=C、CH
2(O)CHCH
2OCH
2CH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2NH
2、CH
2CH
2CH
2NHCH
2CH
2NH
2及びOCOCH
3からそれぞれ選択される)
によって表されるシリコーンポリマーを溶解するための有機溶剤であって、
(a)約25~約50重量%のヘキサメチルジシロキサンと、
(b)約50~約75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンと
を含む有機溶剤。
【請求項10】
物品の表面の少なくとも一部にシリコーンポリマーコーティングを形成する方法であって、
(i)(a)約25~約50重量%のヘキサメチルジシロキサンと、
(b)約50~約75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンとを含む有機溶剤を調製する工程、
(ii)シリコーンポリマーと前記有機溶剤とを約1~約60分間にわたって混合して、コーティング組成物を得る工程、その後、
(iii)前記コーティング組成物を前記物品の前記表面に塗布する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月22日出願の中国特許出願公開第202111577722.X号明細書に対する優先権を主張するものであり、これは、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本開示は、医療デバイスなどの物品にシリコーン材料をコーティングするために使用されるコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
シリコーン材料は、多くの材料の表面に適用され、これらの表面を潤滑する。シリコーン材料は、化学反応性が低く、潤滑性が高いことから、特に医療器具でそのようなシリコーン材料による処理(すなわちシリコーン処理)が行われている。医療器具のシリコーン処理は、患者の痛み又は不快感の軽減にも寄与する。一例は、注射針が患者の皮膚に刺さったとき、患者が貫通力を痛み又は不快感として感じることである。そのような痛み/不快感は、注射針の表面の摩擦が小さいほど軽減される。当然のことながら、注射筒などの医療デバイスの表面のシリコーン処理は、これらデバイスの円滑な取り扱いに寄与する。
【0004】
医療部品にシリコーン材料を適用する場合、シリコーン材料が有機溶剤に溶解され、次いでその溶液が医療部品の表面にコーティングされる。有機溶剤が蒸発した後、シリコーン材料が医療部品の表面にコーティングされる。
【0005】
クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)及びハイドロフルオロカーボン(HFC)などの多くのクロロフルオロカーボンは、溶解力に優れ、且つ化学的/熱的安定性において優れた特性を有することから、シリコーン材料を溶解するための溶剤として使用されている。国際公開第2011/007723A号パンフレットは、HFCと1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとを含む、シリコーン化合物のための溶剤を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オゾン層破壊係数(ODP)及び地球温暖化係数(GWP)のため、モントリオール宣言によれば、CFC/HCFC/HFCタイプのクロロフルオロカーボンは、先進国では2020年までに、発展途上国では2030年までに段階的に廃止される予定である。そのため、シリコーン材料の溶剤として他の候補が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、コーティング組成物であって、
(i)(a)約25~約50重量%のヘキサメチルジシロキサン、及び
(b)約50~約75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンを含む、約90~約99重量%の有機溶剤と、
(ii)約1~約10重量%のシリコーンポリマーと
を含むコーティング組成物を提供する。
【0008】
本開示は、式(I);
(R1R2R3)3Si-O-[Si(R4)(R5)O]m-[Si(R6)(R7)O]n-Si(R8R9R10)3 (I)
(式中、R1~R10は、1~4つの炭素原子を有するアルキル基、H、OH、フェニル、ビニル、アルコキシ、ON=C、CH2(O)CHCH2OCH2CH2CH2、CH2CH2CH2NH2、CH2CH2CH2NHCH2CH2NH2及びOCOCH3からそれぞれ選択される)
によって表されるシリコーンポリマーを溶解するための有機溶剤であって、
(a)約25~約50重量%のヘキサメチルジシロキサンと、
(b)約50~約75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンと
を含む有機溶剤も提供する。
【0009】
本開示は、物品の表面の少なくとも一部にシリコーンポリマーコーティングを形成する方法であって、
(i)(a)約25~約50重量%のヘキサメチルジシロキサンと、
(b)約50~約75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンとを含む有機溶剤を調製する工程、
(ii)シリコーンポリマーと有機溶剤とを約1~約60分間にわたって混合して、コーティング組成物を得る工程、その後、
(iii)コーティング組成物を物品の表面に塗布する工程
を含む方法をさらに提供する。
【0010】
本開示は、以下の図面と併せて以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】シリコーンでコーティングされた針の貫通試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示であり、本方法又は組成物を限定することを意図するものではない。さらに、前述した背景又は以降の詳細な説明で示される何らかの理論に拘束されることを意図しない。実際の例を除き、本明細書で提示される全ての数値は、「約」又は「およそ」記載される値であるとして解釈されることが意図される、終点又は特定の値を有する近似値であることを理解されたい。
【0013】
シリコーン材料の溶解に優れた新規な有機溶剤が開発される。この有機溶剤は、クロロフルオロカーボンではないため、環境問題の懸念が少ない。
【0014】
したがって、本開示の一態様は、コーティング組成物であって、(i)(a)25~50重量%のヘキサメチルジシロキサン、及び(b)50~75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンを含む、90~99重量%の有機溶剤と、(ii)1~10重量%のシリコーンポリマーとを含むコーティング組成物である。
【0015】
本開示の別の態様は、溶液から形成されたシリコーンポリマーコーティングを表面の少なくとも一部に有する物品である。
【0016】
本開示のさらなる態様は、式(I);
(R1R2R3)3Si-O-[Si(R4)(R5)O]m-[Si(R6)(R7)O]n-Si(R8R9R10)3 (I)
(式中、R1~R10は、1~4つの炭素原子を有するアルキル基、H、OH、フェニル、ビニル、アルコキシ、ON=C、CH2(O)CHCH2OCH2CH2CH2、CH2CH2CH2NH2、CH2CH2CH2NHCH2CH2NH2及びOCOCH3からそれぞれ選択される)
によって表されるシリコーンポリマーを溶解するための有機溶剤であって、(a)25~50重量%のヘキサメチルジシロキサンと、(b)50~75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンとを含む有機溶剤である。
【0017】
本開示の別の態様は、物品の表面の少なくとも一部にシリコーンポリマーコーティングを形成する方法であって、
(i)(a)25~50重量%のヘキサメチルジシロキサンと、(b)50~75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテンとを含む有機溶剤を調製する工程、
(ii)シリコーンポリマーと有機溶剤とを1~60分間にわたって混合して、コーティング組成物を得る工程、その後、
(iii)コーティング組成物を物品の表面に塗布する工程
を含む方法である。
【0018】
本明細書では、「シリコーン処理」という語は、物品の表面にシリコーン材料を適用して表面を潤滑するか又は疎水性にするプロセスを意味する。
【0019】
本開示の有機溶剤は、25~50重量%のヘキサメチルジシロキサン(MM)と、50~75重量%の1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテン(HFBE)とを含む。これらの2つの組み合わせは、シリコーンポリマーとの優れた相溶性を示す。好ましくは、有機溶剤は、30~40重量%のMMと、70~60重量%のHFBEとを含む。
【0020】
コーティング組成物は、(i)上で開示された90~99重量%の有機溶剤と、(ii)1~10重量%のシリコーンポリマーとを含む。
【0021】
シリコーンポリマーの一例は、式(I)に開示される構造を有する。
(R1R2R3)3Si-O-[Si(R4)(R5)O]m-[Si(R6)(R7)O]n-Si(R8R9R10)3 (I)
【0022】
式(I)において、R1~R10は、1~4つの炭素原子を有するアルキル基、H、OH、フェニル、ビニル、アルコキシ、ON=C、CH2(O)CHCH2OCH2CH2CH2H2、CH2CH2CH2NH2、CH2CH2CH2NHCH2CH2NH2及びOCOCH3からそれぞれ選択される。好ましくは、R1、R2、R3及びR4は、メチル基であり、ポリジメチルシロキサン(PDMS)として知られている。
【0023】
式(I)として開示されるシリコーンポリマーの例としては、Q7-9120 Silicone Fluid 20cSt、Q7-9120 Silicone Fluid 100cSt、Q7-9120 Silicone Fluid 350cSt、Q7-9120 Silicone Fluid 500cSt、Q7-9120 Silicone Fluid 1000cSt、Q7-9120 Silicone Fluid 12500cSt、Liveo 360 Medical Fluid 20cSt、Liveo 360 Medical Fluid 100cSt、Liveo 360 Medical Fluid 350cSt、Liveo 360 Medical Fluid 1000cSt、Liveo 360 Medical Fluid 12500cst及びMDX4-4159 50%Medical Grade Dispersionが挙げられ、これらは、DuPontから入手可能なシリコーンポリマーである。
【0024】
コーティング組成物中のシリコーンポリマーの濃度は、コーティング組成物の重量を基準として1~10重量%、好ましくはコーティング組成物の重量を基準として1~6重量%、より好ましくはコーティング組成物の重量を基準として2~6重量%である。
【0025】
材料及び物品
本開示のコーティング組成物は、金属、プラスチック、ゴム、ガラス、紙、セラミック、ラテックス及び木材などの多くの材料に適用することができる。
【0026】
多くの医療デバイスは、シリコーンポリマーコーティングを有することができる。そのような医療デバイスの例としては、針、注射器、注射筒、尿道カテーテル、栓(ゴムカバー)及び薬瓶が挙げられる。
【0027】
方法
物品の表面にシリコーンポリマーコーティングを形成する方法を以下に開示する。
【0028】
シリコーンポリマーと、ヘキサメチルジシロキサン(MM)及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテン(HFBE)を含む有機溶剤とを1~60分間にわたって混合して、コーティング組成物を得る。
【0029】
コーティング組成物は、物品の表面に塗布される。スプレーコーティング、ブレードコーティング、塗装又は浸漬などの任意の公知の方法を使用することができる。例として、物品をコーティング溶液に1~10秒間にわたって浸漬し、その後、余分な有機溶剤を1~5秒間にわたって吹き飛ばす。
【0030】
有機溶剤を揮発させた後、シリコーンポリマーコーティングが物品の表面に形成される。例として、有機溶剤を揮発させるために物品は、1~20分間置かれる。
【実施例】
【0031】
<溶解力試験>
表1に開示の通り、ヘキサメチルジシロキサン(MM)と1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテン(HFBE)とを含む溶剤を調製した。シリコーンポリマー(Q7-9120 Silicone Fluid 12500cSt)を溶剤と混合して、溶剤の溶解力を確認した。結果も表1にも示される。
【0032】
【0033】
<貫通試験>
ヘキサメチルジシロキサン(MM)と1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテン(HFBE)とを重量比33:67で含む有機溶剤を調製した。シリコーンポリマー(Liveo 360 Medical Fluid-12500cSt又はMDX4-4159 50%Medical Grade Dispersion)を有機溶剤に混合し、その後、1~60分間にわたって撹拌してコーティング組成物を得た。有機溶液中のシリコーンポリマーの濃度は、6重量%であった。
【0034】
外径 1.65mmのステンレス針及び厚さ0.4mmのTPU膜フィルムを使用した。5本のステンレス針をコーティング溶液に1~5秒間にわたって浸漬し、その後、余分な溶液を1~5秒間吹き飛ばした。次いで、針を50℃のオーブンに10分間入れ、針の表面にコーティングを形成した。
【0035】
設計された時間間隔で貫通力を測定した。処理性能を表すために、5本の針(n=5)の平均をとって表1に記録した。
図1に貫通試験の結果も示される。
【0036】
貫通試験のためにテクスチャアナライザーを使用した。
【0037】
F0、F1、F2、F3の意味
F0:針先を通す力(穿孔力)
F1:針刃先で切断する力(切断力)
F2:針の第1ベベルから切り口を拡げる力(拡張力)
F3:針管を滑らせる力(摺動力)
【0038】
【0039】
HDMSと有機溶剤との間で貫通性能が非常に類似しており、ブランク(処理なし)よりも優れているため、この新しい有機溶剤は、シリコーン処理用途のためのよい溶剤代替品である。
【0040】
前述した詳細な説明では、少なくとも1つの例示的な実施形態が示されているが、多数の変形形態が存在することを理解されたい。例示的な実施形態は、例示に過ぎず、範囲、適用可能性又は構成を決して限定することを意図したものではないことも理解されたい。むしろ、前述した詳細な説明は、当業者が例示的な実施形態を実施するための便利なロードマップを提供するものである。添付の特許請求の範囲に記載の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に記載されている要素の機能及び配置に対する様々な変更形態がなされ得ることが理解される。
【国際調査報告】