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特表2024-546347非対称勾配屈折率光学素子を含むオフサルミックレンズの製造方法
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  • 特表-非対称勾配屈折率光学素子を含むオフサルミックレンズの製造方法 図1
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  • 特表-非対称勾配屈折率光学素子を含むオフサルミックレンズの製造方法 図8A
  • 特表-非対称勾配屈折率光学素子を含むオフサルミックレンズの製造方法 図8B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】非対称勾配屈折率光学素子を含むオフサルミックレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/12 20060101AFI20241212BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20241212BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20241212BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20241212BHJP
   F21V 7/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G02B1/12
G02C7/06
G02C7/04
F21S2/00 355
F21V7/00 590
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539748
(86)(22)【出願日】2023-10-23
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 GB2023052763
(87)【国際公開番号】W WO2024089401
(87)【国際公開日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】63/420,173
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521013611
【氏名又は名称】クーパーヴィジョン インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】チェンバレン ポール
(72)【発明者】
【氏名】サハ スーラフ
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドリー アーサー
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
【Fターム(参考)】
2H006BC07
2H006BD01
2K009CC21
2K009DD05
2K009FF03
(57)【要約】
オフサルミックレンズを製造する方法(100)が記載される。本方法は、レンズ基材を用意するステップ(103)及び光硬化性フィルムを用意するステップ(105)を含む。本方法は、デジタル光投影システムを用いてフィルムの少なくとも1つの領域を光硬化させ、それにより非対称屈折率分布を持つ光硬化済み勾配屈折率光学素子を生じさせるステップ(107)を含む。本方法は、フィルムをレンズ基材の表面に被着させるステップ(109)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフサルミックレンズを製造する方法であって、
レンズ基材を用意するステップと、
光硬化性フィルムを用意するステップと、
デジタル光投影システムを用いて前記フィルムの少なくとも1つの領域を光硬化させ、それにより非対称屈折率分布を持つ少なくとも1つの光硬化済み光学素子を作製するステップと、
前記フィルムを前記レンズ基材の表面に被着させるステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記デジタル光投影システムを用いるステップは、グレースケール像を用いて前記フィルム上への前記デジタル光投影システムからの光の投影を制御するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、
前記フィルムのデザインを創作するステップを含み、前記デザインは、光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンを含み、
前記デザインを用いて前記グレースケール像を形成するステップを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンは、前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の少なくとも1つの環状リングからなる、請求項4記載の方法。
【請求項5】
前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンは、前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の複数の同心環状リングからなる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々にとって所望の非対称屈折率分布をモデル化するステップと、前記所望の非対称屈折率分布を生じさせるのに必要とされる少なくとも1つの光暴露条件を決定するステップとを含む、請求項1~5のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々にとって前記モデル化された所望の非対称屈折率分布は、非対称多項式関数によって定められる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記モデル化された所望の非対称屈折率分布の結果として、前記フィルムの表面に平行な平面内において半径方向に変化している非対称屈折率分布が得られる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記モデル化された所望の屈折率分布の結果として、前記フィルムの表面に平行な少なくとも1つの直線方向に変化している非対称屈折率分布が得られる、請求項6~8のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
前記モデル化された所望の屈折率分布の結果として、前記フィルムの表面に非平行な平面内において円周方向に変化している非対称屈折率分布が得られる、請求項6~9のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項11】
前記モデル化ステップは、少なくとも2つの互いに異なる光硬化済み勾配屈折率光学素子について少なくとも2つの互いに異なる所望の屈折率分布をモデル化するステップを含む、請求項6~10のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項12】
前記モデル化ステップは、前記所望のパターン内の前記光学素子の位置に応じて、前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々について所望の屈折率分布を選択するステップを含む、請求項1~5のうちいずれか一に従属する請求項6~11のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項13】
前記モデル化ステップは、光暴露条件の関数として屈折率変化マップを測定し又はプロットするステップを含む、請求項6~12のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項14】
前記モデル化ステップは、前記屈折率変化マップを、前記フィルム上への光の投影を制御するためのデジタル光投影強度マップに変換するステップを含む、請求項6~13のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項15】
前記デジタル光投影システムがかなりの非線形応答を生じさせるかどうかを判定するステップと、かなりの非線形応答を前記デジタル光投影強度中に組み込むステップとを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々にとって前記所望の非対称屈折率分布は、約1μm~5mmの直径又は幅を有する光硬化済み勾配屈折率光学素子を生じさせる、請求項6~15のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項17】
前記デジタル光投影システムは、デジタルミラー装置を含む、請求項1~16のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項18】
前記デジタル光投影システムは、440nm~660nmの照明波長を有する、請求項1~17のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項19】
前記デジタル光投影システムの画素分解能は、100μm未満である、請求項1~18のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項20】
前記フィルムは、前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の作製後に前記レンズの表面に被着される、請求項1~19のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項21】
前記フィルムを前記レンズの表面に被着させる前記ステップは、接着剤を用いて前記フィルムを前記レンズにくっつけるステップを含む、請求項1~20のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項22】
前記フィルムを前記オフサルミックレンズへの被着に適するよう切断し又は形作るステップを含む、請求項1~21のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項23】
前記オフサルミックレンズは、眼鏡レンズである、請求項1~22のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項24】
前記オフサルミックレンズは、コンタクトレンズである、請求項1~22のうちいずれか一に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オフサルミックレンズを製造する方法に関し、このオフサルミックレンズの表面にはフィルムが被着され、このフィルムが、デジタル光投影(DLP)技術を用いて光硬化された非対称屈折率分布を持つ少なくとも1つの勾配屈折率光学素子を含む。
【背景技術】
【0002】
子供や大人を含む多くの人々は、近視(無限遠方光線が網膜の前に結像する状態)を矯正するためにオフサルミックレンズを必要とし、多くの大人は、老視(調節が加齢によりできず、それゆえ、近くの物体に焦点を合わせることができない状態)を矯正するためにオフサルミックレンズを必要とする。オフサルミックレンズはまた、遠視(無限遠方光線が網膜の後ろに結像する状態)、乱視、又は円錐角膜(角膜が次第に膨らんで円錐の形をとる状態)を矯正するために必要とされる場合がある。
【0003】
光学的矯正が行われなければ、近眼は、遠くの物体からの到来光を網膜の前に位置する場所に合焦させる。その結果、光は、網膜(これを越えると光は発散する)の前に位置する平面に向かって収束し、そして網膜に向かって発散して網膜への到達時に焦点が合わなくなる。近視を矯正するための従来型レンズ(例えば、眼鏡レンズ又はコンタクトレンズ)は、遠くの物体からの到来光の収束具合を減少させ(コンタクトレンズに関して)、又は発散を生じさせ(眼鏡レンズに関して)、その後に、到来光は、眼に達し、その結果、焦点の位置は、網膜上にずらされるようになる。
【0004】
老眼では、水晶体は、近くの物体に合わせて調節するために形を効果的に変えることはなく、したがって、老視の人々は、近くの物体に焦点を合わせることができない。老視を矯正するための従来型レンズ(例えば、眼鏡レンズやコンタクトレンズ)は、近視野向きに最適化された領域及び遠視野向きに最適化された領域を含む2焦点(バイフォーカル)又は累積多焦点レンズを含む。老視はまた、2焦点もしくは累積多焦点レンズ、又はモノビジョンレンズ(互いに異なる処方箋が各眼について提供され、一方の眼には遠見視力レンズが提供され、もう一方の眼には近見視力レンズが提供される)を使用して治療する場合がある。
【0005】
数十年前、子供又は若い人の近視の進行を遅らせ又は抑えるには、矯正不足にし、すなわち、焦点を網膜に近づけるが、完全には網膜上に移動させないようにすることが示唆された。しかしながら、このアプローチの必然的な結果として、近視を完全に矯正するレンズを用いて得られる遠見視力と比較して、遠見視力が低下する。さらに、矯正不足が増悪中の近視を制御する上で効果的であるということは、現在では疑わしいと考えられている。より最近のアプローチは、遠見視力の完全矯正を提供する領域と、矯正不足にし又は近視によるデフォーカスを意図的に引き起こす領域との両方を有するレンズを提供することである。レンズの完全矯正領域を通過した光と比較して、ある特定の領域における光の散乱を増大させるレンズもまた提供される場合がある。これらのアプローチは、子供又は若い人の近視の増悪又は進行を抑え又は遅らせることができ、しかも良好な遠視野を提供できることが示唆されてきた。
【0006】
デフォーカスをもたらす領域を有するレンズの場合、遠見視力の完全矯正をもたらす領域は、ベース度数(ベースパワー又は屈折力)領域と通称され、矯正不足をもたらし又は近視によるデフォーカスを意図的に引き起こす領域は、加入度数領域又は近視デフォーカス領域と通称される(ジオプトリーで表される度数は、遠見矯正ベース度数領域の度数よりも幾分プラス(+)又は幾分マイナス(-)だからである)。加入度数領域の表面(典型的には、前方表面(anterior surface))は、遠用度数領域の曲率半径よりも小さな曲率半径を有し、したがって、眼に対して幾分プラスの又は幾分マイナスの度数を提供する。加入度数領域は、到来する平行光線(すなわち、遠くからの光)を眼内で網膜の前(すなわち、レンズの近くに位置する)に合焦させる設計されており、他方、遠用度数領域は、光を合焦させて網膜のところ(すなわち、レンズから離れたところ)に像を結ぶことができるよう設計されている。レンズ装用者が近くの標的を見ながら調節力を用いて遠見度数領域を通過した光を合焦させているとき、加入度数領域は、光を網膜の前に合焦させる。
【0007】
ある特定の領域で光の散乱を増大させるレンズの場合、散乱を増大させる特徴がレンズ表面に組み込まれる場合があり、又は、レンズを形成するために用いられる材料中に組み込まれる場合がある。例えば、散乱要素が熱的又は機械的もしくは光誘導方法によってレンズ表面に作られ又はレンズ内に埋め込まれる場合がある。散乱要素は、例えば、レンズ材料中に埋め込まれる光学素子を形成するためのレーザ誘導材料変化の場合がある。
【0008】
近視の進行を軽減するコンタクトレンズの既知の一形式は、MISIGHT(クーパーヴジョン・インコーポレーテッド(CooperVision, Inc.))の名称で市販されている二重焦点コンタクトレンズである。この二重焦点レンズは、二重焦点レンズが、調節力のある人が遠くの物体と近くの物体の両方を見るために距離補正(すなわち、ベース度数)を用いることができるようにするある特定の光学寸法を備えているという点で、老視の視力を向上させるよう構成されたバイフォーカル又は多焦点コンタクトレンズとは異なっている。加入度数を有する二重焦点レンズのトリートメントゾーンはまた、遠見距離と近見距離の両方のところに近視的にデフォーカスされた像をもたらす。
【0009】
これらのレンズは、近視の増悪又は進行を抑え又は遅らせる上で有益であることが判明したが、環状加入度数領域は、望ましくない視覚的副作用を生じさせる場合がある。網膜の前で環状加入度数領域により合焦される光は、焦点から発散して、網膜のところにデフォーカス環状部を形成する。したがって、これらレンズの装用者は、特に小さな光る物体、例えば、街路灯や車のヘッドライトに対して網膜上に作られる像を包囲したリング又は「ハロ」を見る場合がある。また、理論上、近くの物体に焦点を合わせるために眼の生まれつきの調節力(すなわち、焦点距離を変える目の生まれつきの能力)を用いるのではなく、装用者は、近くの物体に焦点を合わせるための追加の環状加入度数領域を利用する場合があり、換言すると、装用者は、老視矯正レンズが用いられているのと同一のやり方でレンズを偶発的に用いる場合があり、これは、若年の被験者にとって望ましくない。
【0010】
近視の治療の際に使用できる別のレンズが開発された。これらレンズでは、環状領域は、網膜の前に単一の軸上像が生じないよう構成されており、それにより、かかる像が近くの標的に焦点を合わせて眼の調節の必要を回避するために使用されるということがなくなる。これとは異なり、遠くの点光源は、環状領域によって近くの加入度数焦点面のところにリング状の焦線に結像され、それにより遠方焦点面のところで網膜上の周囲の「ハロ」効果を生じさせないで、小さなスポットサイズの光を生じさせる。
【0011】
近視を治療するためには、追加の近視デフォーカスを導入するレンズを提供することが有益な場合があることが認識されている。老視を治療するためには、焦点深度の拡張を生じさせるレンズを提供することが有益な場合がある。
【0012】
デフォーカスを導入するトリートメント部分を含む既知のレンズは、典型的には、特定のトリートメントをレンズ装用者に提供するように設計されていることが認められた。レンズは、コスト高でありかつ設計が複雑な場合があり、そして、経時的にレンズ装用者の要求が変わった場合、レンズは、異なる矯正度をもたらす異なるレンズを購入する必要が生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、近視の増悪を防ぎ又は遅らせる際に用いられる既知のレンズに対して簡単でありしかも費用効果の良い代替手段を提供することを目的としている。かかるレンズはまた、老視、遠視、乱視、円錐角膜又は他の屈折異常と関連した視力を矯正し又は改善する上で有益である場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の観点によれば、本開示は、請求項1記載の方法を提供する。
【0015】
次に、添付の略図を参照して例示の実施形態について説明するが、これらは例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にしたがって、オフサルミックレンズを製造する方法を示す流れ図である。
図2A】本発明の一実施形態にしたがって、複数の光硬化済みGRIN光学素子を含むフィルムの平面図である。
図2B図2AのレンズのGRIN光学素子のうちの1つの平面図である。
図2C図2Aに示すGRIN光学素子の斜視図である。
図2D図2B及び図2Cに示すGRIN光学素子の屈折率分布を示すグラフ図である。
図2E】オフサルミックレンズに被着された図2Aのフィルムの断面図である。
図3】本発明の一実施形態にしたがって、グレースケール像を用いたオフサルミックレンズを製造する方法を示す流れ図である。
図4】非対称屈折率分布をもつ単一の光硬化済みGRIN光学素子を生じさせるようDLPからの光を制御するために用いられるグレースケール像を示す図である。
図5A】本発明の一実施形態にしたがって、光硬化済みGRIN光学素子にとって望ましい存在場所を定めるために用いられる格子の略図である。
図5B】非対称屈折率分布をもつ光硬化済みGRIN光学素子の三角形格子配列を生じさせるためにDLPからの光を制御するために用いられるグレースケール像を示す図である。
図6】非対称屈折率分布をもつGRIN光学素子向きのモデル化された屈折率分布を示す2Dプロット図である。
図7】本発明の一実施形態としての方法で用いられる光強度マップへのモデル化された所望の屈折率分布の変換の仕方を示す流れ図である。
図8A】本発明の一実施形態による方法を用いて作られた、複数の光硬化済みGRIN光学素子を含むフィルムを備えたレンズの平面図である。
図8B図8Aのレンズの断面側面図である。
図9】本発明の方法にしたがって製造されたレンズを含む一本の眼鏡の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の観点によれば、本開示は、オフサルミックレンズを製造する方法を提供する。本方法は、レンズ基材を用意するステップと、光硬化性フィルムを用意するステップとを含む。本方法は、デジタル光投影システムを用いてフィルムの少なくとも1つの領域を光硬化させ、それにより非対称屈折率分布をもつ少なくとも1つの勾配屈折率光学素子を生じさせるステップを含む。本方法は、フィルムをレンズ基材の表面に被着させるステップを含む。
【0018】
フィルムは、架橋済みポリマーフィルムであるのがよい。フィルムは、薄膜であるのがよい。フィルムは、架橋されていないポリマーのマトリックスから形成されたものであるのがよい。フィルムは、Bayfol(登録商標)HXフィルムであるのがよい。フィルムは、一様な厚さを有するのがよい。
【0019】
オフサルミックレンズ(以下、レンズという場合がある)は、近視の発症又は進行を防ぎ又は遅らせるレンズであるのがよい。レンズは、老視、遠視、乱視、円錐角膜又は他の屈折異常と関連した視力を矯正し又は改善するためのレンズであるのがよい。
【0020】
レンズ基材は、レンズの製造中にオフサルミックレンズに被着されるのがよい。変形例として、レンズ基材は、オフサルミックレンズであってもよい。
【0021】
フィルムは、レンズの表面全体又はレンズの表面の実質的に全てを覆うのがよい。変形例として、フィルムは、レンズの表面の一部分を被覆してもよい。フィルムは、レンズの表面の中央部分、例えば、オフサルミックレンズが用いられる場合、レンズ装用者の眼の前に位置するよう構成される部分を覆うのがよい。フィルムは、レンズの中心を包囲した表面の環状領域を覆うのがよい。フィルムによって覆われないレンズの周辺領域が設けられるのがよい。
【0022】
フィルムのベース屈折率は、一様であるのがよい。フィルムのベース屈折率は、1.3~1.8、好ましくは約1.5であるのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも大きい平均屈折率を有するのがよい。変形例として、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも小さい平均屈折率を有してもよい。
【0023】
レンズは、光軸を有する。レンズの光軸は、光の遠方点源に対して定められる。レンズの光軸上に位置する遠方点源(以下、軸上の遠方点源ということがある)からの光は、レンズの光軸上に合焦される。光軸は、レンズの中心線に沿って位置するのがよい。例えば、レンズがコンタクトレンズである場合、光軸は、一般に、レンズの中心線に沿って位置する。しかしながら、光軸は、当然のことながら、レンズの中心線に沿って位置しない場合があり、これは、眼鏡レンズの場合にそうであると言え、レンズの光軸の位置は、装用者の瞳孔間距離で決まり、レンズの形状によっては、レンズの中心線と一致しない場合がある。フィルムがレンズに被着されると、少なくとも1つの勾配屈折率(GRIN)光学素子は、光軸上の遠方点源からの光をレンズの光軸から第1の距離のところに位置する点に合焦させる。
【0024】
フィルムがレンズに被着されると、フィルムを通過した軸上の遠方点源からの光は、レンズの光軸上の焦点に合焦される。ベースパワー焦点面は、レンズの光軸に垂直であり、かつレンズの焦点を通る表面と定義される場合がある。本明細書で用いる表面という用語は、物理的な表面を意味せず、遠くの物体からの光を合焦させる点を通って描かれ得る表面を意味する。かかる表面は、像面(たとえこれが曲面の場合があっても)又は像シェルとも称される。眼は光を湾曲した網膜上に合焦させ、完全に焦点の合った眼では、像シェルの曲率は、網膜の曲率に一致する。したがって、眼は、光を平坦な数学的平面上に合焦させることはない。しかしながら、当該技術分野においては、網膜の湾曲面は、一般に平面と呼ばれる。フィルムがレンズに被着されると、フィルムを通る軸上の点源からの光は、ベース度数焦点面のところでレンズの光軸上の焦点に合焦される。
【0025】
本開示の文脈において、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの表面に平行な平面内に漸変しかつ非対称の屈折率分布をもつ素子である。各素子は、実質的に円筒形であり、あるいは楕円形もしくは長円形断面をもつ円筒形である場合があり、各素子の円柱軸は、層の平面に垂直であるのがよい。各素子は、実質的に回転楕円体状又は立方体状であるのがよい。各素子は、フィルムの表面に平行な平面でみて、円形、楕円形、長円形、又は正方形の断面を有するのがよい。各素子は、円形、楕円形、長円形、又は正方形の断面及びフィルムの表面と同一平面上に位置する平坦な表面を有するのがよい。本発明の諸実施形態では、少なくとも1つのGRIN光学素子全体の屈折率の変化は、少なくとも1つの横方向、すなわち、層の表面に平行にのびる方向でみて非対称である。非対称屈折率分布の結果として、フィルムがレンズに被着されると、少なくとも1つのGRIN光学素子を通る軸上の遠方点源からきた光は、レンズの光軸上に位置しない点(すなわち、軸外れ焦点)の方へ方向づけられる。
【0026】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、それ自体の局所光軸を有するレンズである。フィルムがレンズに被着されると、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々の局所光軸は、非対称屈折率分布の結果としてレンズの光軸に対して傾けられる。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々の局所光軸は、遠くの点光源に対して定められる。GRIN光学素子の局所光軸上に位置する遠方点源(以下、軸上遠方点源という場合がある)からの光は、当該GRIN光学素子の局所光軸上に合焦される。フィルムの表面に平行な方向(すなわち、横方向)に屈折率の非対称変化を示すGRIN光学素子は、レンズの光軸に対して傾けられた局所光軸を有し、その結果、各GRIN光学素子を通過する軸上遠方点源からの光は、レンズの光軸から第1の距離のところに位置する点に合焦される。各GRIN光学素子の焦能力は、当該GRIN光学素子の屈折率分布で決まる。
【0027】
少なくとも1つのGRIN光学素子のうちの任意のもの又は全ては、フィルムがレンズに被着されると、GRIN光学素子を通過する軸上遠方点光からの光線がベース度数焦点面のところでレンズの光軸を中心とする光の小さなスポットを形成するよう構成されるのがよい。したがって、GRIN光学素子の各々が光を軸外れ焦点に向かって合焦させることができるが、ベース屈折率をもつレンズの領域を通過した光から形成される像と、GRIN光学素子を通過した光から形成される焦点ぼけ像の近似的な重ね合わせは、網膜のところに結ばれる像の品質又はコントラストを向上させることができ、また、レンズ装用者の視力を向上させることができる。変形例として、少なくとも1つのGRIN光学素子のうちの任意のもの又は全ては、フィルムがレンズに被着されると、GRIN光学素子を通過した軸上遠方点源からの光がベース度数焦点面のところでレンズの光軸と交差することがないよう構成されるのがよい。これにより、網膜のところに結ばれる像のコントラストの減少又は像品質の低下が生じる場合があり、このことは、近視の進行を制限するうえで有利となる場合がある。
【0028】
屈折率の非対称変化は、屈折率の半径方向変化であるのがよく、すなわち、屈折率は、GRIN光学素子の中心のところの点から半径方向外方に、しかもフィルムの表面に平行な平面(すなわち、横断面)に延びながら変化する場合がある。屈折率の非対称変化は、円周方向の変化であるのがよく、すなわち、屈折率は、フィルムの表面に平行な平面においてGRIN光学素子の周囲に沿ってぐるりと変化するのがよく、屈折率の変化は、GRIN光学素子の異なるメジアンに沿って異なっているのがよい。
【0029】
屈折率の非対称変化は、フィルムの表面に平行な直線方向における変化であるのがよい。
【0030】
屈折率の非対称変化は、横断面において、直線方向の変化と、半径方向及び/又は円周方向の変化の組み合わせであるのがよい。
【0031】
有利には、GRIN光学素子は、焦点ぼけを提供することができる。焦点ぼけは、近視の増悪を防ぎ又は遅らせるのに役立ち得ると考えられる。焦点ぼけは、老視、遠視、乱視、円錐角膜又は他の屈折異常と関連した視力を矯正又は改善するのに役立ち得ると考えられる。GRIN光学素子は、これらGRIN光学素子がフィルム全体にわたってランダムな屈折率変調を提供し、それにより網膜全体にわたる光の広がり具合を増大させるとともに像コントラストを低減するよう配置されるのがよい。
【0032】
少なくとも1つのGRIN光学素子のうちの任意のものの屈折率の変化は、非対称多項式関数によって規定されるのがよい。
【0033】
フィルムは、複数のGRIN光学素子を含むのがよい。フィルムは、層全体にわたってランダムに分布して配置された複数のGRIN光学素子を含むのがよい。複数のGRIN光学素子は、フィルムの一部にわたってランダムに分布して配置されるのがよい。フィルムは、少なくとも1つの環状リングを形成するよう配置された複数のGRIN光学素子を含むのがよい。少なくとも1つの環状リングは、形状が円形、長円形、又は楕円形であるのがよい。フィルムは、フィルムの平面に実質的に垂直な方向に延びるフィルム軸線を有するのがよい。フィルムは、実質的に円形の断面を有し、フィルム軸線は、フィルムの半径方向中点のところに位置決めされるのがよく、あるいはフィルム軸線は、フィルムの半径方向中点の近くに位置するのがよい。少なくとも1つの環状リングは、中心がフィルム軸線上に位置するのがよい。フィルムがレンズに被着されると、フィルム軸線は、レンズの光軸と一致するのがよい。フィルムがレンズに被着されると、フィルムは、少なくとも1つの環状リングの中心がレンズの光軸上に位置するよう構成されるのがよい。フィルムは、複数のGRIN光学素子が、レンズの光軸から互いに異なる半径方向距離を置いたところに位置する少なくとも2つの同心環状リングを形成するよう配置されるのがよい。
【0034】
レンズが眼鏡レンズである場合、GRIN光学素子をレンズ基材の比較的広い領域全体にわたって分布して配置するのが有利な場合があり、というのは、これにより、レンズ装用者の眼がレンズに対して相対的に動くときにGRIN光学素子により引き起こされるデフォーカスを維持することができる場合があるからである。複数のGRIN光学素子が眼鏡レンズ全体にわたって分布して配置されることにより、一貫した近視デフォーカスを維持することができる場合がある。
【0035】
GRIN光学素子は、フィルム全体又はフィルムの一部分にわたって一定間隔で位置決めされるのがよい。GRIN光学素子は、三角形格子の格子点上に配置されるのがよい。GRIN光学素子は、正方形又は長方形格子の格子点上に配置されるのがよい。
【0036】
GRIN光学素子は、フィルム上に環状パターンを形成するよう配置されるのがよい。フィルムがレンズに被着されると、フィルムは、環状パターンがGRIN光学素子のないレンズの中央領域を残すよう構成されるのがよい。レンズは、最大8mmの直径を有する中央領域を有するのがよく、この中央領域にはGRIN光学素子がない。環状パターンは、単一の環状域又は複数の同心環状域を有するのがよい。
【0037】
フィルムは、GRIN光学素子の少なくとも1つの第2の環状リングを含むのがよい。フィルムがレンズに被着されると、光学素子の第2の環状リングは、レンズの光軸から異なる半径方向距離を置いたところに位置決めされるのがよい。
【0038】
GRIN光学素子のうちの少なくとも2つは、実質的に同一であるのがよく、すなわち、これらGRIN光学素子は、同一寸法・形状のものであるのがよく、これらGRIN光学素子は、同一の非対称屈折率分布を有するのがよい。この場合、フィルムがレンズに被着されると、少なくとも2つのGRIN光学素子は、軸上遠方点源からの光を、レンズの光軸上に位置せず、しかも同一の焦点面上に位置する点に向かって合焦させることができる。少なくとも2つのGRIN光学素子の屈折率分布は、レンズが眼上に位置決めされると、GRIN光学素子を通過した軸上遠方点源からの光が、ベース度数焦点面よりもレンズの後方表面の方に近い表面のところに位置するよう変化するのがよい。少なくとも2つのGRIN光学素子の屈折率分布は、レンズが眼上に位置決めされると、GRIN光学素子を通過した軸上遠方点源からの光が、ベース度数の焦点表面よりもレンズの後方表面からさらに遠くに位置する表面のところに合焦されるよう変化するのがよい。
【0039】
フィルムがレンズに被着されると、レンズの光軸から同一の半径方向距離のところに位置決めされている実質的に同一のGRIN光学素子(例えば、中心が光軸上に位置する円形同心リングの状態に配列されたGRIN光学素子)は、光をレンズの光軸から等距離のところに位置し、しかも同一の焦点面上に位置する軸外れの点に向かって合焦させるのがよい。したがって、これらGRIN光学素子を通過した光から形成される焦点は、焦点面のところに円形リングを形成することができる。同様に、実質的に同一のGRIN光学素子は、中心が光軸上に位置する楕円形又は長円形のリングを形成するよう配置されるのがよく、これらGRIN光学素子を通過した軸上遠方点源からの光で形成された焦点は、焦点面のところに楕円形又は長円形のリングを形成することができる。
【0040】
GRIN光学素子のうちの少なくとも2つは、互いに異なる非対称屈折率分布を有するのがよい。この場合、少なくとも2つのGRIN光学素子は、互いに異なる局所光軸を有する。フィルムがレンズに被着されると、互いに異なる屈折率分布を有するとともに、レンズの光軸から同一の半径方向距離を置いたところに位置決めされた第1及び第2のGRIN光学素子の場合、第1のGRIN光学要素を通過した軸上遠方点源からの光は、レンズの光軸から第1の距離だけ離れたところに位置する点に合焦され、第2のGRIN光学要素を通過した軸上遠方点源からの光は、レンズの光軸から第2の異なる距離だけ離れたところに位置する点に合焦されるのがよい。GRIN光学素子の各々の焦点は、GRIN光学素子の非対称屈折率分布、及びGRIN光学素子の位置で決まる。
【0041】
フィルムがレンズに被着されると、互いに異なる屈折率分布を有するGRIN光学素子のうちの少なくとも2つは、互いに異なる焦点面に向かって光を合焦させることができる。
【0042】
複数のGRIN光学素子の各々は、屈折率の異なる変化を有するのがよい。変形例として、GRIN光学素子のなかには、屈折率が同一の変化を有するものがあれば、屈折率が異なる変化を有するものもある。複数のGRIN光学素子は、屈折率が同一又はほぼ同じ変化を有するGRIN光学素子をクラスタ又は順番のついた配列状態にグループ化することができるよう分布して配置されるのがよい。フィルムは、複数の別々の部分に分割可能であるのがよく、各部分は、屈折率が同一、又はほぼ同じ変化を有するGRIN光学素子を含む。
【0043】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々の屈折率分布と、フィルムがレンズに被着されたときのフィルム軸線、及び/又はレンズの光軸からの当該光学素子の半径方向位置との間には相関関係が存在する場合がある。フィルム軸線、及び/又はレンズの光軸から同一の半径方向距離を置いたところに位置決めされた(例えば、中心がフィルム軸線、及び/又はレンズの光軸上に位置する円形リング周りに位置決めされた)GRIN光学素子は、同一の屈折率分布を有することができる。フィルム軸線及び/又はレンズの光軸から互いに異なる半径方向距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子は、互いに異なる屈折率分布を有することができる。
【0044】
フィルム軸線、及び/又はレンズの光軸から比較的長い半径方向距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子は、結果的にフィルム軸線、及び/又はレンズの光軸から比較的短い半径方向距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子よりも大きな焦能力をもたらす屈折率分布を有することがある。オフサルミックレンズが使用状態にあるとき、レンズの光軸から比較的長い半径方向距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子は、レンズの光軸から比較的短い半径方向距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子よりも、レンズ基材の後方表面の近くに位置する表面に向かって軸上遠方点光源からの光を合焦させることができる。
【0045】
フィルムは、第1の円形リングを形成するGRIN光学素子を含むのがよく、これらGRIN光学素子は、第1の屈折率分布を有するのがよい。フィルムは、第2の円形リングを形成するGRIN光学素子を含むのがよく、これらGRIN光学素子は、第2の異なる屈折率分布を有するのがよい。第1の円形リングは、第2の円形リングよりもレンズの光軸及び/又はフィルムの軸線から短い半径方向距離を置いたところに位置するのがよい。フィルムがレンズに被着されると、第1の屈折率分布の結果として、GRIN光学素子は、第1の焦点面に向かって光を合焦させる第1のリングの一部をなすことができ、第2の屈折率分布の結果として、GRIN光学素子は、第2の焦点面に向かって光を合焦させる第2のリングの一部を形成することができる。レンズがユーザーによって装用されているとき、第1の焦点面及び/又は第2の焦点面は、ベース焦点面よりもレンズの後方表面の近くに位置するのがよい。第1の焦点面は、第2の焦点面よりもレンズの後方表面の近くに位置するのがよい。第1の焦点面は、第2の焦点面よりもレンズの後方表面から離れて位置するのがよい。
【0046】
フィルムは、多数の同心環状リングを形成するGRIN光学素子を含むのがよい。同一環状リング内のGRIN光学素子は、同一の屈折率分布を有するのがよい。異なる環状リングを形成するGRIN光学素子は、異なる屈折率分布を有するのがよい。レンズの光軸及び/又はフィルム軸線から比較的長い半径方向距離のところに位置決めされた環状リングは、結果的に当該光学素子の大きな焦能力が得られるようにする屈折率の変化を有するGRIN光学素子を含むのがよい。レンズが使用されているとき、レンズ基材の光軸から比較的長い半径方向距離のところに位置決めされた環状リングは、レンズの光軸から比較的短い半径方向距離のところに位置決めされた環状リングよりもレンズの後方表面の近くに位置する表面に向かって光を合焦させるGRIN光学素子からなるのがよい。変形例として、レンズの光軸及び/又はフィルム軸線から比較的長い半径方向距離のところに位置決めされた環状リングは、小さい焦能力を有するGRIN光学素子を含んでもよい。かかるレンズを構成するオフサルミックレンズが使用されているとき、レンズの光軸から比較的長い半径方向距離のところに位置決めされた環状リングは、レンズの光軸から比較的短い半径方向距離のところに位置決めされた環状リングよりも、レンズの後方表面から離れて位置する表面に向かって光を合焦させるGRIN光学素子からなるのがよい。
【0047】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、GRIN光学素子に入射する光について、フィルムの残部に入射する光と比較して、追加の散乱を生じさせることができる。
【0048】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率と比較して、少なくとも0.001、好ましくは少なくとも0.005という屈折率の最小の差を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.001大きい最小屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.005大きい最小屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.005小さい最大屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.001小さい最大屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率と比較して、0.1未満、好ましくは0.025未満の屈折率の最大の差を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.1大きい最大屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.025大きい最大屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.1小さい最小屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率よりも0.025小さい最小屈折率を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、ベース屈折率に等しい最小屈折率を有してもよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、-25D~+25D、好ましくは-0.25D~+25.0Dの最小屈折率を有するのがよい。近視の進行又は増悪を防ぎ又は遅らせる際に用いられるレンズの場合、各GRIN光学素子は、-0.25~+25.0Dの最小屈折率を有するのがよい。遠視の進行又は増悪を防ぎ又は遅らせる際に用いられるレンズの場合、各GRIN光学素子は0.0~-25.0Dの最小屈折率を有するのがよい。
【0049】
フィルムは、有限厚さを有し、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの厚みを貫通して延びるのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの厚みを部分的にしか貫通していなくてもよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルム内に埋め込まれるのがよい。フィルムの厚さは、一様であるのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの厚さに変化を加えないでフィルム内に埋め込まれるのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、一様な厚さを有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの表面と同一平面に位置する平坦な表面を有するのがよい。
【0050】
フィルムは、少なくとも1つのGRIN光学素子を含む架橋済みポリマーフィルムであるのがよい。フィルムは、非架橋ポリマーのマトリックスで作られたものであるのがよい。フィルムは、レンズ基材に結合されるのがよい。フィルムは、プラズマを用いてレンズ基材に結合されるのがよい。フィルムはレンズ基材に接着されてもよい。フィルムは、硬化性接着剤を用いてレンズ基材に接着されるのがよい。
【0051】
フィルムは、レンズ基材及び/又はレンズの前方表面に設けられるのがよい。フィルムは、レンズ基材及び/又はレンズの後方表面に設けられるのがよい。フィルムは、レンズ基材及び/又はレンズの前方表面と後方表面の両方に設けられるのがよい。フィルムは、Bayfol(登録商標)HXフィルムからなるのがよい。フィルムは、レンズ基材に取り外し可能にくっつけられ又は違ったやり方で被着されるのがよく、すなわち、フィルムは、レンズ基材から容易に取り外せるのがよい。フィルムは、再利用可能であるのがよく、したがって、フィルムを容易に取り外してこれを同一の基材又は異なるレンズ基材に再び被着させることができるようになっている。
【0052】
フィルムは、一様厚さを有するのがよい。
【0053】
フィルムは、柔軟性のある透明なフィルムであるのがよい。コンタクトレンズの場合、フィルムは、1μm~100μm、好ましくは10μm~20μm、より好ましくは14μm~18μmの厚さを有するのがよい。眼鏡レンズの場合、フィルムは、1μm~1000μm、好ましくは10μm~20μm、より好ましくは14μm~18μmの厚さを有するのがよい。
【0054】
レンズ基材は、レンズの製造中、オフサルミックレンズに被着されるのがよい。レンズ基材は、オフサルミックレンズに取り外し可能にくっつけられる、又は違ったやり方で被着されるのがよく、すなわち、レンズ基材は、オフサルミックレンズから容易に取り外せるのがよい。レンズ基材は、再使用可能であるのがよく、その結果、レンズ基材を容易に取り外すことができ、そして同一のレンズ基材に又は異なるレンズ基材に再び取り付けることができるようになっている。変形例として、レンズ基材は、オフサルミックレンズであってもよい。
【0055】
オフサルミックレンズは、眼鏡レンズであってもよい。眼鏡レンズは、PMMA、CR-39、ポリカーボネート、Trivex(登録商標)、又はクラウンガラスからなるのがよい。オフサルミックレンズは、コンタクトレンズであってもよい。フィルムは、オフサルミックレンズの前方表面に設けられるのがよい。本開示の文脈において、オフサルミックレンズの前方表面は、オフサルミックレンズがレンズ装用者によって装用されているとき、レンズの前方に向いた表面又は外面である。
【0056】
オフサルミックレンズは、形状が円形であるのがよい。オフサルミックレンズは、形状が楕円形であってもよい。オフサルミックレンズは、形状が長円形であってもよい。オフサルミックレンズは、形状が長方形であってもよい。オフサルミックレンズは、形状が正方形であってもよい。オフサルミックレンズの前方表面は、1200mm2~3000mm2の面積を有するのがよい。オフサルミックレンズは、透明のガラス又は硬質プラスチック、例えばポリカーボネートで作られるのがよい。オフサルミックレンズは、実質的に平坦であるのがよく、かかるオフサルミックレンズは、レンズ度数を提供する少なくとも1つの湾曲表面を有するのがよい。
【0057】
オフサルミックレンズは、コンタクトレンズであってもよい。本明細書で用いるコンタクトレンズという用語は、眼の前方表面上に配置できるオフサルミックレンズを指している。かかるコンタクトレンズは、臨床的に許容できる眼球上の運動を提供し、また、人の片眼又は両眼に固着しないことが理解されよう。コンタクトレンズは、角膜レンズ(例えば、眼の角膜上に位置したままのレンズ)の形態をしているのがよい。レンズがコンタクトレンズである実施形態では、レンズは、60mm2~750mm2の表面積を有するのがよい。レンズは、円形の形をしているのがよい。レンズは、長円形の形をしていてもよい。レンズは、楕円形の形をしていてもよい。レンズは、10mm~15mmの直径を有するのがよい。
【0058】
レンズは、硬質(ハード)コンタクトレンズであってもよい。レンズは、気体透過性のハードコンタクトレンズであってもよい。
【0059】
コンタクトレンズは、トーリックコンタクトレンズであってもよい。例えば、トーリックコンタクトレンズは、人の乱視を矯正するように形成された光学ゾーンを有するのがよい。レンズは、強膜コンタクトレンズであってもよい。
【0060】
オフサルミックレンズは、ソフトコンタクトレンズ、例えばヒドロゲルコンタクトレンズ又はシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであるのがよい。
【0061】
オフサルミックレンズは、エラストマー材料、シリコーンエラストマー材料、ヒドロゲル材料、もしくはシリコーンヒドロゲル材料、又はこれらの混合物からなるのがよい。コンタクトレンズの分野で理解されているように、ヒドロゲルは、平衡状態では水を保持し、そしてシリコーン含有化学物質のない材料である。シリコーンヒドロゲルは、シリコーン含有化学物質を含むヒドロゲルである。本発明との関連で説明するヒドロゲル材料及びシリコーンヒドロゲル材料は、平衡含水率(EWC)が少なくとも10%~約90%(重量/重量)である。幾つかの実施形態では、ヒドロゲル材料又はシリコーンヒドロゲル材料のEWCは、約30%~約70%(重量/重量)である。比較例を説明すると、本発明との関連において説明するシリコーンエラストマー材料の含水率は、約0%~10%未満(重量/重量)である。代表的には、本発明の方法又は装置で用いられるシリコーンエラストマー材料の含水率は、0.1%~3%(重量/重量)である。適当なレンズ配合物の例としては、以下の米国一般名(USAN)を有する配合物が挙げられ、かかる米国一般名は、メタフィルコン(methafilcon)A、オキュフィルコン(ocufilcon)A、オキュフィルコンB、オキュフィルコンC、オキュフィルコンD、オマフィルコン(omafilcon)A、オマフィルコンB、コンフィルコン(comfilcon)A、エンフィルコン(enfilcon)A、ステンフィルコン(stenfilcon)A、ファンフィルコン(fanfilcon)A、エタフィルコン(etafilcon)A、セノフィルコン(senofilcon)A、セノフィルコンB、セノフィルコンC、ナラフィルコン(narafilcon)A、ナラフィルコンB、バラフィルコン(balafilcon)A、サムフィルコン(samfilcon)A、ロトラフィルコン(lotrafilcon)A、ロトラフィルコンB、ソモフィルコン(somofilcon)A、リオフィルコン(riofilcon)A、デレフィルコン(delefilcon)A、ベロフィルコン(verofilcon)A、カリフィルコン(kalifilcon)Aなどである。
【0062】
変形例として、各レンズは、シリコーンエラストマー材料を含んでもよく、本質的にこれから成っていてもよく、又はこれから成っていてもよい。例えば、レンズは、ショアーA硬さが3~50のシリコーンエラストマー材料を含んでもよく、本質的にこれから成っていてもよく、あるいはこれから成っていてもよい。ショアーA硬さは、当業者には理解されるように、従来方法を用いて(例えば、方法DIN53505を用いて)決定できる。他のシリコーンエラストマー材料を、例えばヌシル・テクノロジー(NuSil Technology)社又はダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Company)社から得ることができる。
【0063】
オフサルミックレンズは、光学ゾーンを有するのがよい。光学ゾーンは、光学機能を備えたレンズの部分を包囲する。光学ゾーンは、使用時、眼の瞳孔を覆って又はこの前に位置決めされるよう構成されている。光学ゾーンは、周辺ゾーンによって包囲されるのがよい。周辺ゾーンは、光学ゾーンの一部ではなく、光学ゾーンの外側に位置している。コンタクトレンズの場合、周辺ゾーンは、レンズが装用されている時に虹彩の上に位置するのがよい。周辺ゾーンは、機械的な機能を実行するのがよく、例えば、レンズのサイズを大きくしてレンズを取り扱いやすくすることができる。コンタクトレンズの場合、周辺ゾーンは、バラスト安定作用を提供してレンズの回転を阻止するとともに/あるいは、レンズ装用者にとっての快適さを高める異形領域をもたらす。周辺ゾーンは、コンタクトレンズのエッジまで延びるのがよい。本発明の諸実施形態では、フィルムがレンズ基材に被着されると、フィルムは、光学ゾーンを覆うことができるが、これが周辺ゾーンを覆うことがないようになっているのがよい。
【0064】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、1μm~5mm、好ましくは10μm~2mmの幅を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、1μm3~5mm3、好ましくは10μm3~2mm3の体積を有するのがよい。複数のGRIN光学素子は、フィルムの体積の5%~80%を占めるのがよい。複数のGRIN光学素子は、フィルムの表面積の20%~80%を覆うのがよい。フィルムは、2~5000個のGRIN光学素子を含むのがよい。
【0065】
レンズは、中央領域及び中央領域を包囲した環状領域を有するのがよい。フィルムがレンズに被着されると、フィルムは、環状領域の一部分を覆うのがよい。フィルムが中央領域を覆っていない場合もあり、したがって、中央領域にはGRIN光学素子がない場合もある。フィルムは、環状領域の全てを覆ってもよく、あるいは環状領域の一部を覆ってもよい。本明細書で用いられる環状領域という用語は、中央領域の外縁全体にわたって延びてもよく、あるいは、中央領域の外縁に沿って部分的に延びてもよい領域を指している。環状領域は、形状が円形、長円形、又は楕円形であるのがよい。環状領域は、複数のGRIN光学素子を含むのがよい。複数のGRIN光学素子は、環状領域全体もわたってぐるりと分布して配置されてもよく、あるいは環状領域の一部分にわたって分布して配置されてもよい。
【0066】
フィルムは、ベース屈折率を有するフィルムの領域によって半径方向に隔てられた複数の同心環状領域を含むのがよい。
【0067】
レンズは、フィルムとレンズ基材の表面との間に設けられた接着剤をさらに有するのがよい。接着剤は、透明な接着剤、例えばエポキシ系接着剤からなるのがよい。接着剤は、接着剤層であるのがよい。接着剤層は、レンズの製造中、レンズ基材の前方表面に被着されるのがよい。接着剤は、層をレンズ基材の表面に永続的に接着させることができる。変形例として、フィルムは、レンズ基材の表面に結合されてもよい。フィルムは、基材の表面に永続的に結合されてもよく、あるいは不可逆的に結合されてもよい。
【0068】
レンズは、フィルムの前方表面上に設けられた保護層をさらに有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子を含むフィルムの前方表面は、レンズが通常の使用状態にあり、レンズ装用者によって装用されているとき、フィルムの前方に向いた表面又は外面である。保護層は、フィルムの前方表面の全て又は一部を覆うのがよい。保護層は、透明な層であるのがよい。保護層はポリカーボネート(PC)からなるのがよい。保護層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はセルローストリアセテート(TAC)からなっていてもよい。保護層は、無視できるほどの複屈折を有する物質からなっていてもよい。保護層は、水に対して不透過性であるのがよい。保護層は、傷の付きにくいものであるのがよい。保護層は、ベース屈折率を有するのがよい。保護層は、ある程度のUV保護作用を提供するのがよい。保護層は、接着剤を用いてフィルムにくっつけられるのがよい。
【0069】
本開示の文脈において、光硬化済みGRIN光学素子は、光硬化、又は光重合によって形成されたGRIN光学素子である。光硬化済みGRIN光学素子は、光重合性又は光硬化性分子又は他の光硬化性要素で作られるのがよい。光硬化の結果として、光硬化済み領域全体にわたって非対称漸変屈折率が得られる。光硬化性分子は、フィルム内に分散して配置されるのがよい。光硬化性分子は、架橋ポリマーマトリックス内に又は樹脂内に分散して配置されるのがよい。
【0070】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの表面に平行な平面又は方向において非対称である屈折率分布を有するのがよい。非対称屈折率分布は、非対称多項式関数によって規定されるのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、半径方向において、フィルムの表面に平行な面内で変化する非対称屈折率分布を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、フィルムの表面に平行な少なくとも1つの直線方向において変化する非対称屈折率分布を有するのがよい。少なくとも1つのGRIN光学素子の各々は、円周方向において、フィルムの表面に平行な面内で変化する非対称屈折率分布を有するのがよい。
【0071】
本開示の文脈において、デジタル光投影(DLP)システムは、光を光硬化性フィルムの方へ差し向け、それによりフィルムの一領域を光硬化させることができるよう用いられる光照射システムである。用いられるDLPシステムは、標的フィルム材料の光重合又は光硬化に適した波長を有する。例えば、Bayfol(登録商標)HXフィルムの場合、DLPシステムは、440nmから660nmまでの範囲の波長を有するのがよい。DLPシステムの画素分解能は、100μm未満、好ましくは30μm未満、より好ましくは10μm未満であるのがよい。DLPシステムは、商用DLPシステム、例えば、波長が460nmであり、画素分解能が30nmである3DLP9000-LED.9"WQXGA光エンジンであるのがよい。DLPシステムは、微小電気機械システム(MEMS)を含むのがよい。DLPシステムは、デジタルミラー装置を含むのがよい。デジタルミラー装置は、光を方向づけることができ、かつ/あるいはフィルムに向かう光の透過を制御することができる。
【0072】
DLPシステムは、フィルム全体、又はフィルムの一領域を照射するよう使用できる。DLPシステムは、個々の光硬化性要素もしくは分子、又は複数の個々の光硬化性分子を光硬化するために使用できる。複数の個々の光硬化性分子は、連続的に光硬化させてもよく、同時に光硬化させてもよい。DLPシステムは、フィルムの環状領域、又はフィルムの複数の同心環状領域を照射するために使用できる。
【0073】
デジタル光投影システムを用いる場合、グレースケール像を用いてフィルム上への光の投影を制御するのがよい。グレースケール像は、DLPシステムからフィルム上に光を投影するためのテンプレートとなることができる。グレースケール像は、“.bmp”(拡張子が.bmp(ビットマップ)である)像であるのがよい。グレースケール像は、フィルムのいくつかの領域をマスキングすることができ、その結果、これら領域は、DLPシステムからの光に暴露されず、他方、フィルムの少なくとも1つの領域をDLPシステムからの光に暴露することができるようになっている。グレースケール像は、複数の領域をDLPシステムからの光に暴露することができる。DLPシステムからの光に暴露されたフィルムの領域を光硬化して、光硬化済みGRIN光学素子を生じさせることができる。
【0074】
レンズを製造する方法は、フィルムのデザインを生じさせるステップを含むのがよく、デザインは、非対称屈折率分布を有する光硬化済みGRIN光学素子の所望のパターンを有する。本方法は、デザインを用いてグレースケール像を生じさせるステップを含むのがよい。
【0075】
グレースケール像は、上述の光硬化済みGRIN光学素子の構成例のうちの任意のものを生じさせるために設計されているのがよく、GRIN光学素子は、非対称屈折率分布を有する。グレースケール像は、DLPシステムからの光がフィルムに達することができるようにする複数のアパーチュアを有するのがよい。DLPシステムからの光によって照明されたフィルムの領域を光硬化させるのがよい。かかる像は、光がフィルムに達するのを阻止し又はマスキングする複数の部分を有するのがよい。DLPシステムからの光によって照明されないフィルムの領域は、光硬化されない。かかる像は、パターンをなして配列された複数のアパーチュアを有するのがよい。光硬化済みGRIN光学素子の所望のパターンは、フィルムの格子点上に配置されたGRIN光学素子のアレイであるのがよく、この場合、像は、格子点上に配置された複数のアパーチュアを有するのがよい。格子は、三角形格子で、正方形格子、あるいは立方体状格子であるのがよい。変形例として、光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンは、光硬化済み勾配屈折率光学素子の少なくとも1つの環状リングを含むのがよい。光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンは、光硬化済み勾配屈折率光学素子の複数の同心環状リングを含むのがよい。
【0076】
本方法は、少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子の各々について所望の非対称屈折率分布をモデル化するステップ、及び所望の非対称屈折率分布を生じさせるために必要な少なくとも1つの光暴露条件を決定するステップを含むのがよい。
【0077】
モデル化は、所望の非対称屈折率分布を有するGRIN光学素子を光硬化するのに必要な光照射強度及び/又は光照射持続時間及び/又は光照射波長を決めるために使用されるのがよい。これら条件は、DLPシステムの特性、例えば、光源の波長、強度及び形式で決まるのがよい。かかる条件は、フィルムの特性、例えば、フィルム材料及びフィルム厚さで決まるのがよい。モデル化は、任意適当なモデル化ソフトウェア、例えばMATLAB(登録商標)を用いて実施されるのがよい。モデル化は、実験(測定)データ、又は理論(予測)データを用いて実施されるのがよい。予測データは、フィルム材料及び/又はDLPシステムの既知の特性に基づくのがよい。光硬化済みGRIN光学素子の各々の所望の屈折率分布は、非対称多項式関数によって規定されてもよく、又は非対称多項式関数によって近似されてもよい。所望の非対称屈折率分布は、単一の光硬化済みGRIN光学素子についてモデル化されてもよく、又は複数の光硬化済みGRIN光学素子についてモデル化されてもよい。複数のGRIN光学素子を含むフィルムに関し、少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子の各々の所望の非対称屈折率分布は、同一であってもよく、あるいは光硬化済みGRIN光学素子の各々は、異なる所望の非対称屈折率分布を有してもよい。
【0078】
モデル化ステップは、所望の屈折率変化マップを光照射条件の関数として測定し又はプロットするステップを含むのがよい。光照射条件は、光強度、照射持続時間、又は光波長であるのがよい。マップは、平坦ではない表面を有するマップとして生成されてもよい。マップは、3Dマップとして生成されてもよい。マップは、光硬化済みGRIN光学素子の所望の屈折率分布を生じさせるよう繰り返しアップデートされるとともに/あるいは最適化されるのがよい。マップは、単一の光硬化済みGRIN光学素子のための屈折率変化マップであるのがよく、又は複数の光硬化済みGRIN光学素子のための屈折率変化マップであるのがよい。マップは、DLP画像化システムで用いられる屈折率勾配画素行列を生じさせるために用いられるのがよい。画素行列は、フィルム全体にわたって所望の屈折率変化を生じさせるよう、DLP画像化システムの各画素について所望の光露光条件を特定するのがよい。屈折率勾配画素行列は、単一の光硬化済みGRIN光学素子を生成するように構成されてもよく、又はフィルム全体にわたって分布して配置された2~5000個の光硬化済みGRIN光学素子を生じさせるよう構成されてもよい。屈折率勾配画素行列は、フィルムの面積のうちの20%~80%にわたって光硬化済みGRIN光学素子を生じさせるよう構成されているのがよい。
【0079】
モデル化ステップは、屈折率変化マップをデジタル光投影強度マップに変換するステップを含むのがよい。デジタル光投影強度マップは、DLPシステムのための画素行列であるのがよい。デジタル光投影強度マップは、屈折率勾配画素行列から生成されるのがよい。デジタル光投影強度マップは、DLPシステムで用いられるグレースケール像を生じさせる場合に用いられるのがよい。デジタル光投影強度マップは、DLPシステムで用いられる所要の照射条件を決定するために用いられるのがよい。DLP強度マップは、“.bmp”像を生じさせるために使用されるのがよい。像は、8ビット像であるのがよい。光暴露条件は、フィルムの形式、光硬化済みGRIN光学素子の所望のパターン又は配置状態、フィルムの特性、及びDLP画像化システムの特性で決まるのがよい。したがって、デジタル光投影強度マップは、所要の照射条件を決定することによって、フィルム上への光の投影を制御するために使用されるのがよい。
【0080】
モデル化された所望の屈折率分布の結果として、屈折率変化マップがデジタル光投影強度マップに変換されたときに非対称屈折率分布を得ることができる。
【0081】
所望の屈折率分布の結果として、フィルムの表面に平行な平面内で半径方向において変化している非対称屈折率分布を得ることができる。所望の屈折率分布の結果として、フィルムの表面に平行な少なくとも1つの直線方向において変化する非対称屈折率分布を得ることができる。所望の屈折率分布の結果として、フィルムの表面に平行な平面内で円周方向において変化する非対称屈折率分布を得ることができる。
【0082】
モデル化ステップは、少なくとも2つの異なる光硬化済みGRIN光学素子のための少なくとも2つの異なる所望の屈折率分布をモデル化するステップを含むのがよい。モデル化ステップは、所望のパターン内の光学素子の位置に応じて、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々について所望の屈折率分布を選択するステップを含むのがよい。GRIN光学素子の所望のパターンが、光硬化済み勾配屈折率光学素子の複数の同心環状リングを含む場合、モデル化ステップは、同一の環状リングを形成するGRIN光学素子のための同一の所望の屈折率分布を選択するステップを含むのがよい。モデル化ステップは、異なる環状リングの一部をなすGRIN光学素子のための異なる所望の屈折率分布を選択するステップを含むのがよい。モデル化ステップは、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々のための所望の屈折率を選択し、その結果、フィルム軸線から同一の半径方向距離のところに位置決めされたGRIN光学素子が同一の所望の屈折率分布を有するようにするステップを含むのがよい。モデル化ステップは、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々のための所望の屈折率分布を選択し、その結果、フィルム軸線から比較的長い距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子がより非対称の所望の屈折率分布を有するようにするステップを含むのがよい。変形例として、モデル化ステップは、少なくとも1つのGRIN光学素子の各々のための所望の屈折率分布を選択し、その結果、フィルム軸線から比較的長い距離を置いたところに位置決めされたGRIN光学素子がより対称的な所望の屈折率分布を有するようにするステップを含んでもよい。
【0083】
本方法は、グレースケール像及び/又はデジタル光投影強度マップを用いて、フィルムを横切って光暴露部への光の投影を制御しながら、DLPからの光にフィルムを露光するステップを含むのがよい。本方法は、フィルムの最小現像時間にわたって待機するステップを含むのがよい。本方法は、フィルムの最小現像時間にわたって待機した後、DLPシステム又はUVオーブンを用いて、フィルムをフラッド硬化し又はフラッド暴露するステップを含むのがよい。
【0084】
DLPシステムは、非線形強度応答を生じさせる光学部品を含むのがよい。本方法は、任意の画素又は画素全体について著しい非線形応答が存在するかどうかを判定するステップを含むのがよい。著しい非線形応答が存在する場合、本方法は、デジタル光投影強度マップを適用して非線形応答を考慮に入れるステップを含むのがよい。
【0085】
少なくとも1つのGRIN光学素子の各々のための所望の屈折率分布は、直径が約1μm~5.0mmの光硬化済みGRIN光学素子を生じさせることができる。モデル化された屈折率分布は、直径が約1μm~5.0mmの少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を生じさせるよう構成されているのがよい。モデル化された屈折率分布は、直径が約1μm~5.0mmの少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を生じさせるために最適化され又は繰り返し最適化されるのがよい。少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子の各々のための所望の屈折率分布は、堆積が1μm3~5mm3の光硬化済みGRIN光学素子を生じさせることができる。少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子の各々のための所望の屈折率分布は、フィルムの表面に平行な方向において非対称分布を有する円盤状光硬化済みGRIN光学素子又は球状光硬化済みGRIN光学素子を生じさせることができる。モデル化された屈折率分布は、上述した特性のうちの任意のものを有する少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を生じさせるよう最適化され又は繰り返し最適化されるのがよい。
【0086】
本方法は、フィルムを光硬化後にレンズ又はレンズ基材の表面に被着させるステップを含むのがよい。フィルムを光硬化のために第2の基材上に設けるのがよく、その後、第2の基材から取り除いて、レンズ又はレンズ基材に被着させるのがよい。第2の基材は、ガラススライドであるのがよい。フィルムは、光硬化に先立ってレンズの表面に被着されるのがよい。フィルムは、接着剤、例えばエポキシ系接着剤を用いてレンズの表面にくっつけられるのがよい。接着剤は、接着剤層であるのがよい。接着剤層は、レンズの製造中、レンズの前方表面に被着されるのがよい。接着剤層は、レンズ表面へのフィルムの被着に先立って、フィルムの後方表面に被着されるのがよい。接着剤は、フィルムをレンズの表面に永続的にくっつけることができる。接着剤は、フィルムをレンズの表面に取り外し可能にくっつけることができる。
【0087】
フィルムの一領域を光硬化する前又は後である場合があるレンズ又はレンズ基材へのフィルムの被着に先立って、フィルムは、オフサルミックレンズへの被着に適するよう切断され又は形作られるのがよい。フィルムは、レンズの表面全体又はレンズの表面の一部を覆うよう切断され又は形作られるのがよい。フィルムは、円形、長円形、又は楕円形であるよう切断され又は形作られるのがよい。フィルムは、レンズの光学ゾーン、又はレンズ装用者がレンズを装用する時にレンズ装用者の網膜の前に位置するレンズの領域を覆うよう切断され又は形作られるのがよい。
【0088】
光硬化に先立って、保護層がフィルムの表面に被着されるのがよい。本方法は、光硬化に先立って保護層を除去するステップを含むのがよい。保護層は、ポリプロピレンからなるのがよい。
【0089】
光硬化済みフィルムをレンズに被着した後、本方法は、保護層をレンズの前方表面(すなわち、光硬化済み層の上に)被着するステップを含むのがよい。保護層は、少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を含むフィルムの前方表面の全て又は一部を覆うのがよい。保護層は、透明な層であるのがよい。保護層は、ポリカーボネート(PC)からなるのがよい。保護層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はセルローストリアセテート(TAC)からなっていてもよい。保護層は、無視できるほどの複屈折を有する物質からなっていてもよい。保護層は、水に対して不透過性であるのがよい。保護層は、傷の付きにくいものであるのがよい。保護層は、ベース屈折率を有するのがよい。保護層は、ある程度のUV保護作用を提供するのがよい。保護層は、接着剤を用いて少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を含むフィルムにくっつけられるのがよい。
【0090】
図1は、本発明の一実施形態に従って、オフサルミックレンズを製造する方法100を示す流れ図である。第1のステップ103では、オフサルミックレンズを用意し、第2のステップ105では、光硬化性のフィルムを用意する。第3のステップ107では、デジタル光投影システム(DLP)を用いて非対称屈折率分布を持つ少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を光硬化性フィルム内に生じさせる。DLPシステムは、光を光硬化済みフィルムの方へ方向づけてフィルムの一領域を照明し、それにより非対称屈折率分布を持つ少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を作製する。第4のステップ109では、フィルムをレンズ基材の表面に被着させる。
【0091】
図2Aは、本発明の一実施形態としての方法を用いて作製された、複数の光硬化済みGRIN光学素子7a,7bを含むオフサルミックレンズに被着可能なフィルム1の概略平面図である。GRIN光学素子7a,7bは、同心円9a,9b(破線9a,9bは、眼の案内として提供されており、フィルム1の構造的特徴を表すものではない)の状態に配列されている。同心円の中心は、フィルム軸線3上に位置し、このフィルム軸線は、フィルム1の平面に実質的に垂直である方向に延びている。図2Bは、図2Aに示すフィルム1のGRIN光学素子のうちの一方7aの平面図であり、図2Cは、同一の光学素子7aを斜視図で示している。GRIN光学素子7a,7bの各々は、形状が実質的に円筒形であり、フィルム1の表面に平行な平面で見て楕円形の断面を備えている。GRIN光学素子7a,7bの各々は、光学素子7a,7bのシリンダー軸に垂直である平面内において、すなわち、フィルム1の表面に平行な平面内において、半径方向と横方向の両方向に変化している屈折率分布を有し、その結果、光学素子7a,7b全体にわたって非対称屈折率分布が生じている。光学素子7aのシリンダー軸に垂直な平面内で光学素子7a,7bの表面を横切る方向における屈折率は、フィルム1の前方表面に平行な平面内の点“X”から半径方向外方に、そしてフィルム1の前方表面に平行な矢印“Y”によって指示された方向に変化している。屈折率分布は、光学素子7a,7bのシリンダー軸に平行な方向“Z”(図2C参照)に一定である(すなわち、変化していない)。屈折率の変化は、図2Dに示すように、方向“Y”において非対称分布22を示す。
【0092】
内側の円9aを形成するGRIN光学素子7aは全て、同一の屈折率分布を有し(図2B及び図2Cに示すように)、また全て、フィルム軸線3から同一の半径方向距離を置いたところに位置づけられている。図2Eは、レンズ基材5(この場合、レンズ基材5は、オフサルミックレンズ5である)に被着された状態の図2Aのフィルム軸線1の断面図である。フィルム軸線3は、レンズ5の光軸2と一線をなしている。GRIN光学素子7aが非対称屈折率分布を有しているので、フィルム1がレンズ5に被着されると、GRIN光学素子7aの局所光軸は、レンズ5の光軸2に対して傾けられることになる。ベース屈折率を有するフィルム1の一領域を通過したレンズ5の光軸2上の遠方点光源(以下、軸上遠方点光源という)からの光は、光軸2上のスポット11に合焦される。GRIN光学素子7aを通過した軸上遠方点源からの光は、レンズ5の光源2から離れたところに合焦される。内側リング9aを形成するGRIN光学素子7aを通過した軸上遠方点源からの光は、焦点面17のところで焦点15a,15bのリングを形成することになる。レンズ5がレンズ装用者によって装用されると、内側リング9aを形成しているGRIN光学素子7aは、軸上遠方点源からの光を、ベース度数焦点面と比較して、レンズ5の後方表面の近くに(すなわち、網膜から離れて、又は角膜の近くに)位置する加入度数焦点面17の方へ合焦させる。GRIN光学素子7aの各々の局所光軸は、レンズの光軸と交差し、内側リング9aを形成しているGRIN光学素子7aを通過した軸上遠方点源からの光線は、非合焦光の小さなスポットサイズがベース度数表面13のところに作られるよう方向づけられる。これにより、レンズ装用者の網膜のところに作られる像の品質を向上させることができる。
【0093】
外側のリング9aを形成しているGRIN光学素子7bは全て、内側リング9aを形成しているGRIN光学素子7aと同一の屈折率変化を示す(図2A及び図2Eに示すように)。外側リング9aを形成しているGRIN光学素子7bは全て、レンズ5の光軸2及びフィルム軸線3のから同一の半径方向距離を置いたところに、かつ内側リング9aを形成しているGRIN光学素子7aよりも光軸2及びフィルム軸線3から長い距離を置いたところに位置づけられている。
【0094】
GRIN光学素子7bは、中心がフィルム軸線3に一致したレンズ5の光軸2上に位置する円の状態に配列されている。これらGRIN光学素子は、GRIN光学素子7bを通過した軸上遠方点源からの光を合焦させて焦点19a,19bのリング(図2Eに示されている)を形成する局所光軸を有している。焦点19a,19bのリングは、GRIN光学素子7aの.内側リング9aを通過した光から形成される焦点15a,15bのリングよりも大きな半径を有する。外側リング9bを形成しているGRIN光学素子7bの屈折率分布は、内側リング9aを形成しているGRIN光学素子7bの屈折率分布と同一である。レンズ5が装用者によって装用されているとき、外側リング9bを形成しているGRIN光学素子7bは、内側リング9aを形成しているGRIN光学素子7aと同一の加入度焦点面17の方へ光を合焦させる。GRIN光学素子7bの各々の局所光軸は、レンズ4の光軸2及びフィルム軸線3と交差し、外側リング9bを形成しているGRIN光学素子7bを通過した軸上遠方点源からの光線は、非合焦状態の光の小さなスポットサイズがベース度数表面13のところに形成されるよう方向づけられる。これにより、レンズ装用者の網膜のところに作られる像の品質を向上させることができる。
【0095】
図3は、本発明の一実施形態に従って、グレースケールを用いてオフサルミックレンズを製造する方法1300を示す流れ図である。第1のステップ1301では、非対称屈折率分布を持つGRIN光学素子の一パターンを含むフィルムのデザインを創作する。このデザインは、GRIN光学素子の所望のパターンを含む。第2のステップ1302では、パターンを用いてグレースケール像を生成する。第3のステップ1303では、所望の非対称屈折率分布を各GRIN光学素子についてモデル化する。第4のステップでは、オフサルミックレンズを用意し(1304)、第5のステップでは、光硬化性フィルムを用意する(1305)。グレースケール像を用いて、デジタル光投影システムからの光をフィルム上に投影するためのテンプレートを提供する。グレースケール像は、フィルムの幾つかの領域をマスキングしてこれら領域が光に暴露されないようにする一方で、他の領域を光に暴露させるようにする。DLPシステムからの光に暴露されたフィルムの領域を光硬化させて非対称屈折率分布を持つGRIN光学素子を作製する。したがって、第6のステップでは、DLPシステム及びグレースケール像を用いて、少なくとも1つの光硬化済みGRIN光学素子を光硬化性フィルム内に作製する。最終のステップ1309では、フィルムをレンズ基材の表面に被着させる。
【0096】
図4は、本発明の一実施形態としての方法で使用できるグレースケール像411を示している。グレースケール像411の暗領域413は、光に暴露されない領域を指している。グレースケール像411の明領域415は、光を透過させる領域を指している。光に暴露されるフィルムの領域を光硬化させて光硬化済みGRIN光学素子を作製する。
【0097】
図5Aは、本発明の諸実施形態としての方法で、光硬化済みGRIN光学素子のための所望の配置場所を定めるために用いられる格子の略図517である。格子は、三角形格子パターンを有する。各格子点510は、GRIN光学素子が光硬化性フィルム上に作られる配置場所を定めている。格子パターンは、図5Bに示すように、各格子点上により明るい領域515、光を透過させることができる指定領域、及び光に暴露されないより暗い領域513を含むグレースケール像511を作るために用いられる。
【0098】
図6は、非対称屈折率分布を持つGRIN光学素子向きのモデル化屈折率分布の断面を取った2次元スライス612を示している。GRIN光学素子は、3次元(2次元スライスが説明を簡単にするために図6に示されている)の非対称多項式関数によって定められた漸変屈折率を有する。
【0099】
図7は、本発明の一実施形態としての方法で使用されるモデル化された所望の屈折率分布を光強度マップに変換する各種ステップを示す流れ図700である。流れ図は、図6に示す分布に類似したGRIN光学素子向きのモデル化屈折率分布のグラフ712で開始する。屈折率の変化と強度応答の関係を表すプロット719を用いて特定のフィルム及びDLPシステムに関して、特定の屈折率変化を生じさせるために必要とされる光暴露を特徴づける。このプロット719及びモデル化屈折率分布を用いて、デジタル光投影強度マップ721を作ることができ、このマップは、DLPシステム用の画素行列である。図7aでは、この強度マップ721の断面を取った2Dスライスが示されている。これは、グレースケール像711を作るために用いられ、このグレースケール像は、DLPシステムで用いられる所要の暴露条件を含む。次に、グレースケール像711を用いて光硬化性フィルムをDLPからの光に暴露させ、それによりフィルムの受ける光暴露パターンを制御する。非対称屈折率分布を持つ光硬化済みGRIN光学素子をフィルムの表面上に作製する。
【0100】
図8Aは、本発明の一実施形態としての方法を用いて製造されたオフサルミックレンズを用意205の平面図である。図8Bは、図8Aに示すレンズ205の断面側面図である。レンズ205の前方表面には接着剤によってベース屈折率を有するフィルム201がくっつけられている。フィルム201は、レンズ205の中央領域に広がっている。レンズ201お中央領域は、周辺領域204で囲まれている。フィルム201は、複数のGRIN光学素子207を含み、本発明の一実施形態としての方法を用いてこれらGRIN光学素子を光硬化させる。GRIN光学素子207は、フィルム201の表面全体にわたってランダムに分布して配置されるとともに、フィルム201の厚みを貫通している。GRIN光学素子207は各々、レンズ205の光軸202に垂直な平面内において、当該光学素子回りの円周方向に、かつ当該素子の中心から外方に延びる半径方向に変化している屈折率の勾配を有する。各光学素子207は、屈折率について同一の変化を呈する。フィルム201のベース屈折率は、一定であり、フィルム201は、一様な厚さを有する。
【0101】
図9は、本発明の方法に従って製造された1本の眼鏡325の平面図である。1本の眼鏡325には2つのレンズ305が入っている。各レンズ305は、中心が光軸302上に位置し、このレンズ305の前方表面上にはフィルム301が施されている。フィルム301のベース屈折率は、一様であり、フィルム301は、一様な厚さを有する。フィルム301は、レンズ305の前方表面を覆っている。フィルム301を通過した軸上遠方点源からの光は、ベース度数焦点面(図示せず)のところでレンズ305の光軸302上のスポットに合焦される。
【0102】
各フィルム301は、同心円309a,309b(破線309a,309bは、眼の案内として提供されており、フィルム1の構造的特徴を表すものではない)の状態に配列されている。GRIN光学素子307a,307bの各々は、フィルム301の平面に平行な光学素子307a,307bを横切る半径方向と横方向の両方向に変化している屈折率分布を有し、その結果、非対称分布が生じている。内側の円309aを形成しているGRIN光学素子307aは全て、屈折率について同一の変化を呈し、また全て、レンズ305の光軸302から同一の半径方向距離を置いたところに位置づけられている。GRIN光学素子307aは、非対称屈折率分布を持っているので、GRIN光学素子307aを通過した軸上遠方点源からの光は、光軸302から離れたところに合焦されることになる。GRIN光学素子307aは、中心が各レンズ301の光軸302上に位置する円の状態に配列され、内側リング309aを形成するGRIN光学素子307aを通過した軸上遠方点源からの光は、焦点のリングを形成することになる。
【0103】
外側リング309bを形成しているGRIN光学素子307bもまた全て、屈折率について同一の変化を呈するが、これら光学素子307bは、内側リング309bを形成しているGRIN光学素子307aとは異なる屈折率変化を示している。外側リング309bを形成しているGRIN光学素子307bは全て、レンズの光軸302から同一の半径方向距離のところに、かつ内側リング309aを形成しているGRIN光学素子307aよりも光軸302から長い距離を置いたところに位置づけられている。外側リング309bを形成しているGRIN光学素子307bを通過した軸上遠方点源からの光は、焦点のリングを形成する。この焦点リングは、GRIN光学素子307aの内側リング309aを通過した光で作られる焦点リングよりも大きな半径を有する。外側リング309bを形成しているGRIN光学素子307bの屈折率分布は、内側リング309aを形成しているGRIN光学素子307aの屈折率分布とは異なっている。レンズの305が装用者によって装用されているとき、内側リング309aを形成しているGRIN光学素子307aを通過した光は、第1の焦点面上の点に合焦され、外側リング309bを形成しているGRIN光学素子307bを通過した光は、これとは異なる第2の焦点面上の点に合焦されることになる。レンズ305がレンズ装用者によって装用されているとき、第1の焦点面と第2の焦点面の両方は、ベース度数焦点面よりもレンズ305の後方表面の近くに位置する。
【0104】
特定の実施形態を参照して本発明を説明するとともに図示したが、当業者であれば、本発明が本明細書では具体的には説明していない多くの互いに異なる変形例で実施できることは理解するであろう。ある特定の考えられる変形例だけを次に説明するが、これらは例示に過ぎない。
【0105】
上述した本発明の例示の実施形態では、各GRIN光学素子は、結果的にレンズのベース屈折率よりも高い焦能力が得られるようにする屈折率分布を有する。他の例示の実施形態では、GRIN光学素子は、結果的にレンズのベース屈折率よりも低い焦能力が得られるようにする屈折率分布を有してもよい。
【0106】
上述の例示の実施形態では、フィルムは、レンズ(すなわち、レンズ基材がレンズの一部を形成し、あるいは、レンズ基材がレンズそのものである)の表面に被着される。他の実施形態では、層が基材に被着され、その後、基材がレンズの表面に被着されるのがよい。
【0107】
上述の説明において、既知の明らかな又は予測可能な均等例を有する整数又は要素に言及したが、かかる均等例については、これらが個々に記載されているかのごとく本明細書に記載されているものとする。任意のかかる均等例を含むものとみなされるべき本発明の真の範囲を定める特許請求の範囲を参照すべきである。また、読者には理解されるように、有利であり、好都合であるなどと説明された本開示の整数又は特徴は、オプションであり、独立形式の請求項の範囲を限定するものではない。さらに、理解されるべきこととして、本発明の幾つかの実施形態では利益があると考えられるが、かかるオプションとしての整数又は特徴は、望ましいものではない場合があり、したがって、他の実施形態では記載されていない場合がある。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフサルミックレンズを製造する方法であって、
レンズ基材を用意するステップと、
光硬化性フィルムを用意するステップと、
デジタル光投影システムを用いて前記フィルムの少なくとも1つの領域を光硬化させ、それにより非対称屈折率分布を持つ少なくとも1つの光硬化済み光学素子を作製するステップと、
前記フィルムを前記レンズ基材の表面に被着させるステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記デジタル光投影システムを用いるステップは、グレースケール像を用いて前記フィルム上への前記デジタル光投影システムからの光の投影を制御するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、
前記フィルムのデザインを創作するステップを含み、前記デザインは、光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンを含み、
前記デザインを用いて前記グレースケール像を形成するステップを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンは、前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の少なくとも1つの環状リングからなる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の所望のパターンは、前記光硬化済み勾配屈折率光学素子の複数の同心環状リングからなる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々にとって所望の非対称屈折率分布をモデル化するステップと、前記所望の非対称屈折率分布を生じさせるのに必要とされる少なくとも1つの光暴露条件を決定するステップとを含む、請求項記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々にとって前記モデル化された所望の非対称屈折率分布は、非対称多項式関数によって定められる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記モデル化された所望の非対称屈折率分布の結果として、前記フィルムの表面に平行な平面内において半径方向に変化している非対称屈折率分布が得られる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記モデル化された所望の屈折率分布の結果として、前記フィルムの表面に平行な少なくとも1つの直線方向に変化している非対称屈折率分布が得られる、請求項記載の方法。
【請求項10】
前記モデル化された所望の屈折率分布の結果として、前記フィルムの表面に非平行な平面内において円周方向に変化している非対称屈折率分布が得られる、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記モデル化ステップは、少なくとも2つの互いに異なる光硬化済み勾配屈折率光学素子について少なくとも2つの互いに異なる所望の屈折率分布をモデル化するステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項12】
前記モデル化ステップは、前記所望のパターン内の前記光学素子の位置に応じて、前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々について所望の屈折率分布を選択するステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項13】
前記モデル化ステップは、光暴露条件の関数として屈折率変化マップを測定し又はプロットするステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項14】
前記モデル化ステップは、前記屈折率変化マップを、前記フィルム上への光の投影を制御するためのデジタル光投影強度マップに変換するステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項15】
前記デジタル光投影システムがかなりの非線形応答を生じさせるかどうかを判定するステップと、かなりの非線形応答を前記デジタル光投影強度中に組み込むステップとを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の各々にとって前記所望の非対称屈折率分布は、約1μm~5mmの直径又は幅を有する光硬化済み勾配屈折率光学素子を生じさせる、請求項記載の方法。
【請求項17】
前記デジタル光投影システムは、デジタルミラー装置を含む、請求項記載の方法。
【請求項18】
前記デジタル光投影システムは、440nm~660nmの照明波長を有する、請求項記載の方法。
【請求項19】
前記デジタル光投影システムの画素分解能は、100μm未満である、請求項記載の方法。
【請求項20】
前記フィルムは、前記少なくとも1つの光硬化済み勾配屈折率光学素子の作製後に前記レンズの表面に被着される、請求項記載の方法。
【請求項21】
前記フィルムを前記レンズの表面に被着させる前記ステップは、接着剤を用いて前記フィルムを前記レンズにくっつけるステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項22】
前記フィルムを前記オフサルミックレンズへの被着に適するよう切断し又は形作るステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項23】
前記オフサルミックレンズは、眼鏡レンズである、請求項記載の方法。
【請求項24】
前記オフサルミックレンズは、コンタクトレンズである、請求項記載の方法。
【国際調査報告】