(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-20
(54)【発明の名称】多孔質アイオノマーフリー層状金属合金電気触媒電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/089 20210101AFI20241213BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241213BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241213BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241213BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20241213BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20241213BHJP
【FI】
C25B11/089
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/77
C25B15/02
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/065
C25B11/061
C25B11/077
C25B11/091
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527123
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2022079454
(87)【国際公開番号】W WO2023057656
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511000083
【氏名又は名称】コンセホ スペリオール デ インベスティガシオネス シエンティフィカス(セエセイセ)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
(71)【出願人】
【識別番号】519339493
【氏名又は名称】ウニヴェルシダッド デ カスティーリャ ラ マンチャ
(71)【出願人】
【識別番号】524170005
【氏名又は名称】ファンダシオン ドミンゴ マルティネス
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100160831
【氏名又は名称】大谷 元
(72)【発明者】
【氏名】ユベロ バレンシア,フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ゴンサレス エリペ,アグスティン
(72)【発明者】
【氏名】ヒル ロストラ,ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】エスピノス マンゾロ,ホアン ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス フェルナンデス,エスター
(72)【発明者】
【氏名】デ ルカス コンスエグラ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス サセドン,セリア
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA49
4K011AA50
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021BB01
4K021BB03
4K021BB05
4K021CA10
4K021DB16
4K021DB19
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
(57)【要約】
本発明は、水を酸素と水素とに電気化学的に分割することによって水素製造を目的とした水電解装置において、電極、アノード及びカソードの一部として組み込まれる新しい種類の電気触媒に関する。本発明の電気触媒は、アイオノマーが添加されていない場合に酸素発生反応に向かって高い性能を提供する層状および多孔質構造を特徴とする。本発明の目的は、エネルギー場でフレーム化される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ0.05-1.0mmのマクロ多孔質ガス拡散層及び集電体材料基板と、
0.05μm-5μmの均等厚さを有する電気触媒層と、を有する層状電気触媒電極であって、
前記電気触媒層が第1の表面および第2の表面を含み、前記第1の表面が前記基板の表面と接触しており、前記第2の表面が、前記電気触媒層の厚さによって画定される方向において前記第1の表面の反対側にある層状電気触媒電極であって、
前記基板は、カーボンペーパー、ステンレススチールまたはニッケルから選択され、カーボンペーパー、ステンレススチールおよびニッケルは、マイクロファイバー、スポンジまたはメッシュのような構造を有しており、
前記電気触媒層が、NiFe合金を含み、当該合金中のFeは0.5%-30%重量平均値を有しており、前記電気触媒層の前記第1の表面の前記NiFe合金組成物中のFeの重量は0.5%-2%の間であり、前記第2の表面における前記電気触媒層の前記NiFe合金組成物におけるFe重量は12%-30%の間であり、
前記電気触媒層は、電気インピーダンス分光測定による電極システムのナイキストプロットから決定される触媒負荷ユニット当たりの面積で表される酸素発生反応に対して、1から100cm
2/mgの間の特定の電気化学的活性表面積を有しており、
前記電気触媒層は、Krガス吸着等温線によって測定される20%-50%の間の全気孔率を有し、走査電子顕微鏡の写真フィルム上で直接定量化によって決定される2-100nmの間で変化する細孔径を有するメソポーラス層であることを特徴とする層状電気触媒電極。
【請求項2】
基材ガス拡散層及び集電体としてのマクロ多孔質基材が、メッシュ状構造の形態を有するニッケルである請求項1に記載の層状電気触媒電極。
【請求項3】
前記電気触媒層中の前記合金の化学量論が、第1の表面から前記第2の表面まで均一な組成を有するか、あるいは前記電気触媒層中の前記合金の化学量論は、前記GDL基板と接触している前記第1の表面から最も外側の領域である前記第2の表面まで層厚の方向における前記合金中のFeの重量パーセントの線形組成勾配を有している請求項1又は2に記載の層状電気触媒電極。
【請求項4】
NiFe合金が、合金中のFeの8重量%-12重量%の平均値を有する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極。
【請求項5】
前記電気触媒層の前記第1の表面の前記NiFe合金組成物が前記合金中のFeの重量において0.1%-2%の間であり、前記第2の外側領域では、前記合金中のFeの重量が10%-20%の間である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極。
【請求項6】
前記電気触媒層の多孔度は、全層厚に沿って一定の空隙率を有し、前記層の全体積の20-50%の値を有するか、あるいは前記電気触媒層中の多孔性が、前記第1の表面から前記第2の表面まで直線的に変化する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極。
【請求項7】
前記電気触媒層の第2の表面が、Ni(Fe)O
xH
y化合物の層をさらに含む請求項1ないし6のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極。
【請求項8】
以下の工程を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極を得る方法。
a)カーボンペーパー、ステンレススチールまたはニッケルから選択されるマクロ多孔性ガス拡散層及び集電体材料基板を配置する工程であって、前記カーボンペーパー、ステンレススチール及びニッケルがマイクロファイバー、スポンジ、メッシュ状構造の形態であり、マグネトロンスパッタ蒸着装置の真空チャンバのホルダ内の基板として用いられる工程;
b)工程a)の蒸着装置内に位置するマグネトロンスパッタリングヘッド内に、ターゲットまたはターゲッツとしてニッケルおよび鉄、またはNiFe合金ターゲットを配置する工程であって、前記ターゲットは、ディスク、円形、正方形、円柱及び長方形から選択された形状を有し、前記ターゲットと前記基板との間の距離は、2cm-30cmであり、前記基板表面の法線は、MS-OAD構成におけるスパッタリングによってその表面上に形成されたレーストラックにおけるターゲット表面の法線に対して少なくとも70°の角度で位置しており、
c)ホルダが1分あたり1-10回の回転速度で回転している間に、4-10
-6mbar以下のベース圧力が達成されるまで工程(b)のチャンバ内を真空にし、20-40標準立方センチメートル/分の流量及び5-10
-3mbarのプロセス圧力でArガスを導入し、50W-3000WのパルスDC電力と80-200kHzの周波数とをターゲットに印加することによって、マグネトロンプラズマを点火し、それによってNiFe電気触媒電極の層が蒸着される工程、
と、任意ではあるが、
d)工程(d)で得られた層状電気触媒電極上に、MS-OADから選択された技術または電極の電気化学的サイクルによって、Ni(Fe)O
xH
y化合物の層を蒸着または生成する工程。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記ニッケル/鉄ターゲットまたはターゲッツは、ディスク、正方形、シリンダーおよび長方形から選択される形状を有するニッケルであり、より好ましくは、直径が50-100mmであり、幅が1mm-2mmであり、厚さが0.2-0.3mmであり、ディスク表面に軸方向に巻き付けられた、円形の形状を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
2つの電極を含むことを特徴とする金属電極アセンブリであって、前記電極の少なくとも1つが、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極であることを特徴とする金属電極アセンブリ。
【請求項11】
請求項10に記載の金属電極アセンブリであって、
前記電極のうちの1つは、層状の電気触媒電極であり、アノードとして作用するのに適しており、
第2の電極は、電気触媒として作用し、同じMS-OAD手順に従って別のバッキングガスに蒸着される多孔質Ni層であり、カソードとして作用するのに適した拡散層および集電体材料とを、有し、
アノードとカソードとの間のアセンブリは、アニオン交換膜によって作製され、電極は、アノードとカソードとの間に所望の電圧差を印加する外部電気回路に、一般に1.5-2.5Vで接続される。
【請求項12】
小型システムにおいて電気的に直列に接続された任意の請求項10又は11に記載の少なくとも2つのMEAユニットの積層を含むことを特徴とするAEMWE電解槽。
【請求項13】
請求項12に記載のAEMWE電解槽であって、電極が直列に接続されるように小型システム内に配置された5つ以上のMEAの積層をさらに含み、様々なアノード及びカソード区画を通って電解質が平行に循環し、ガスは入口及び出口チューブを通して別々に放出されることを特徴とする前記電解槽。
【請求項14】
以下の工程(i)および(ii)を含むことを特徴とする水素製造方法
(i)請求項10又は11に記載のアニオン交換膜水電解槽を、0.1Mと4Mの間のKOH溶液であって40℃と85℃の間の温度のもので、好ましくは工程i)の温度が60℃と80
oCの間のもので満たす工程と、
(ii)前記金属電極ユニットセルの各々に1.8V-2.2Vの分極電圧を印加し、前記スタック内で電気的に直列に接続する工程と、を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項15】
水電解装置におけるアノードとしての請求項1ないし7のいずれか一項に記載の層状電気触媒電極の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を酸素と水素とに電気化学的に分裂させることによって水素生成を目的とした水電解装置(water electrolysers)において、アノードに電極の一部として組み込まれる新しい種類の電気触媒(electrocatalyst)に関する。電気触媒は、アイオノマーが添加されていない場合に酸素発生反応(oxygen evolution reaction/OER)に向かって高い性能を提供する層状構造および多孔質構造を特徴とする。本発明の目的は、エネルギーの分野で実現される。
【背景技術】
【0002】
水素は、家庭用、輸送、および工業用セクタにおける操作のためのクリーンで持続可能なエネルギー使用のための有望なエネルギーベクトルである。現在、ほとんどの水素製造は、水蒸気メタン(または他の炭化水素)の改質に依存する。この手順は、CO2を管理不可能な量で大気中に放出する役割を果たす。このため、環境に優しい経路を使用する代替的な水素製造プロセス(例えば、再生可能な供給源からの電気)は、廃棄物排出物のない緊急の必要性を構成する。この文脈では、断続的な再生可能エネルギー源を使用する水の電気分解は、工業的規模でさえも実行可能な代替物として出現しており、このような従来の水素製造方法が知られている。
【0003】
アニオン交換膜水電解(Anion Exchange Membrane Water Electrolysis/AEMWE)は、水素生成のための新生の技術である。それは、低温(典型的には80℃まで)で動作し、他のより伝統的な電解槽(electrolyser)タイプに対していくつかの利点を有する。(例えば、典型的にはPt族金属電気触媒を必要とするプロトン交換膜水電解(Proton Exchange Membrane Water Electrolysis)と比較して)膜及び電気触媒コストの低減、または従来のアルカリ電解法における炭酸カリウムの形成に関連する問題の減少などである。[J.E. Park、S.Y. Kang、S.-H. Oh、J.K. Kim、M.S. Lim、C.-Y. Ahn、Y.-H. Cho、Y.-E.Sung、High-performance anion-exchange membrane water electrolysis、Electrochim.Acta.295(2019)99-106]
【0004】
ニッケル及びニッケル-遷移金属合金系電気触媒電極は、酸素発生反応(OER)及び水素発生反応(hydrogen evolution reaction/HER)の両方のために、塩基性媒体中で高い活性を示した。前者は、より高い過電圧による最も制限的な反応である。これに関して、Ni合金配合物に基づく触媒(例えば、Fe/Ni、Mo/Ni、しかしこれらの組成物に限定されない)は、OER過電圧を減少させることが知られており、白金金属群触媒と比較して、高活性で低コストの電気触媒をもたらす。しかしながら、AEMWEを作製するための電極性能を改善することは、電気触媒の活性相の微細構造、多孔度、量、化学/組成、および電気化学的表面積の最適化を伴う。[A.Lim、H.Kim、D.Henkensmeier、S.Jong Yoo、J.Young Kim、S.Young Lee、Y.-E.Sung、J.H. Jang、H.S. Park、A study on electrode fabrication and operation variables affecting the performance of anion exchange membrane water electrolysis、J.Ind. Eng.Chem.76(2019)410-418]
【0005】
他の要件の中でも、電極電気触媒は、高い電気化学的活性および安定性を提示しなければならず、安価であり、安全な供給を有しなければならない。動作点から、触媒の微細構造、組成、元素分布、および化学的状態に対する精密な制御を達成することも重要である。実用的な活用のために、電気触媒負荷に関連するコストを低減するために、電気触媒は、電解槽(electrolyser)内で起こるOERおよびHER反応に向かって高い特別な活性を有しなければならない。これらの特性および要件は、適切な調製方法の使用によって最適化することができる。
【0006】
水電解のための電極を製造するための最も一般的なルートは、触媒スラリーまたはインクをガス拡散層(gas diffusion layer/GDL)支持体に組み込むことを含む。典型的には、酸素の形成につながる酸化反応が起こるアノード活性部位へのヒドロキシル基の拡散を促進するために、アイオノマー化合物もスラリーまたはインクに添加される。触媒自体は、主に、共沈、水熱、ゾルゲルなどの湿潤経路に続いて粉末として調製されるか、または電着法(electrodeposition method)を使用して電極に直接組み込まれる。これらの古典的なアプローチでは、典型的な工程は、前駆体溶液の調製、沈殿プロセス、洗浄、濾過、乾燥、焼成、および/またはミリングを含む。これらの湿潤経路の明らかな欠点は、それらが望ましくない廃棄物を生成する溶媒を含み、電気触媒の製造手順をスケールアップする際の再現性のハンディキャップを暗示する溶媒を含むことである。
【0007】
特別な特徴および電解槽セルの制約のために、材料触媒の良好な選択は重要な要件であるだけでなく、電極内の電気触媒の最適化された統合を達成する。いわゆる膜電極アセムブリ(membrane electrode assembly/MEA)および完全な積層型セルである。これは、アノードおよびカソードOERおよびHER反応のための最良の電気触媒組成物を見出すことだけでなく、または最も適切なアイオノマー型および負荷の使用であるが、GDLおよび最終的にはセル中の適切な電気触媒材料を統合するための最良の方法も使用する。したがって、電気触媒の合成および統合のために最も適切な手順を選択することは、電気触媒性能を最適化するための重要な要件であり、したがって、セル操作能力を最適化する。
【0008】
スラリーまたはインクを使用するAEMWE触媒電極の伝統的な調製方法は、多くの場合、セル性能を増加させるために高分子有機アイオノマー分子を添加することを含む。アイオノマーの機能は二重(twofold)である。それはGDL担体への結合剤として機能し、電気触媒負荷とアニオン交換膜との間のイオン輸送経路の数を増加させ、反応部位までのアニオン拡散容量を促進する。この化合物は、ガス透過性に影響を及ぼし、その荷電した官能基のおかげで、触媒表面での水とOH-イオンの交換を容易にする。しかしながら、アイオノマーは、静電/共有結合を介して、それらの荷電基が触媒活性部位を占有し、したがってHERおよびOERの過剰電位を増加させる場合にも不利であり得る。経時的に、アイオノマーは化学的分解を受けることがあり、その結果、有効な触媒-アイオノマー界面の劣化、したがって、反応のために利用可能な電極の電気化学的活性表面積も劣化する。したがって、前記アイオノマーの使用を回避する新しい触媒配合物の開発は、電解槽セルの長期間の運転を確実にする必要があることが明らかである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、アイオノマーフリー電極を得るために、斜角蒸着ジオメトリにおけるマグネトロンスパッタリング(magnetron sputtering in oblique angle deposition geometry/MS-OAD)された多孔質及びナノ構造化電極は、膜電極アセムブリに一体化することができ、その後、AEMWE電解槽(装置)を構築するのに適した積層体で一体化することができる。
【0010】
本発明の第1の形態は、厚さ0.05mm-1.0mmのマクロ多孔質ガス拡散層及び集電体材料基板と、0.05μm-5μmの均等厚さを有する電気触媒と、を有する層状電気触媒電極に関する。
前記電気触媒層が第1の表面および第2の表面を含み、前記第1の表面が前記基板の表面と接触しており、前記第2の表面が、前記電気触媒層の厚さによって画定される方向において前記第1の表面の反対側にある層状電気触媒電極であって、
前記基板は、カーボンペーパー、ステンレススチールまたはニッケルから選択され、カーボンペーパー、ステンレススチールおよびニッケルは、マイクロファイバー、スポンジまたはメッシュのような構造を有しており、
前記電気触媒層が、NiFe合金を含み、当該合金中のFeは0.5%-30%の間の重量平均値を有しており、前記電気触媒層の前記第1の表面の前記NiFe合金組成物中のFeの重量は0.5%および2%の間であり、また前記第2の表面における前記電気触媒層の前記NiFe合金組成物中のFeの重量は12%-30%の間であり、
前記電気触媒層は、電気インピーダンス分光測定による電極システムのナイキストプロット(Nyquist plots)から決定される触媒負荷ユニット当たりの面積で表される酸素発生反応(OER)に対して、1から100cm2/mgの間の特定の電気化学的活性表面積(electrochemical active surface area/ECSA)を有しており、
前記電気触媒層は、Krガス吸着等温線によって測定される20%-50%の間の気孔率を有し、走査電子顕微鏡の写真フィルム上で直接定量化によって決定される2-100nmの間で変化する細孔径を有するメソポーラス層であることを特徴とする層状電気触媒電極。
【0011】
本明細書で使用される用語“均等厚さ(equivalent thickness”は、GDL上の電気触媒と同じ蒸着バッチにおいて平坦な基板上に蒸着されたNiFe合金の厚さを指す。
【0012】
本明細書で使用される用語“電気触媒層(electrocatalyst layer)”は、制御された組成、多孔性および微細構造を有する合金層を指し、この合金層は、斜めの角度の幾何学的形状でマグネトロンスパッタリングによってマクロ多孔性基板上に蒸着される。それは、分極電位の印加時にOERまたはHER反応を誘導する電気活性触媒層である。本発明では、細孔サイズは、電子顕微鏡写真を走査することによって直接定量化することによって決定され、細孔容積は、膜およびKrガス吸着等温線によって測定される。この電気触媒層は、上述の第2の表面を介して動作条件下で電解質と接触するように配置される。
【0013】
本明細書で使用される用語“マクロ多孔質(macroporous)”は、走査電子顕微鏡法による直接観察によって決定される、5-100ミクロンの範囲の孔径を有する開気孔構造を指す。空隙は、糸または極細繊維の配列によって、またはスポンジ状もしくはメッシュあるいは類似の構造によって画定され、前記空隙は、5-100ミクロンの範囲のサイズを有する。
【0014】
本明細書で使用される、“マクロ多孔質ガス拡散層および集電体(GDL)”という用語は、電気触媒層の支持体として作用するマクロ多孔質材料を指す。それは、炭素、ニッケル、ステンレススチールやOERが起こる塩基性媒体中で安定した任意の他の材料のいずれかで作製することができる積層体の形態の基材の織布、極細繊維、メッシュまたはスポンジ様構造を指す。
【0015】
本明細書で使用される用語“電気化学的活性表面積(electrochemical active surface area/ECSA)”は、電解質にアクセス可能であり、アノードでOERに使用される電極材料の等価な特定の面積を指す。それは、触媒負荷ユニット当たりの面積で測定され、電気インピーダンス分光法測定による電極システムのナイキストプロットからの電気化学二重層キャパシタンス法に従って決定される。それは、電気触媒層のメソポーラス構造の実際の表面積に関連し、特定の反応を促進するための所与の層の有効性を規定する。ECSAはまた、いくつかの電圧走査速度における電流電圧測定値、いわゆる静電容量法に基づいて、任意の他の方法から決定することができる。本発明の文脈において、それはOERを指す。
【0016】
本発明で使用される電気触媒層は、微細繊維の凝集またはスポンジ状微細構造によって形成される典型的なGDLsのものとして、粗いまたはマクロ多孔性のランダムに配向された表面上に蒸着される。しかし、平均メソ多孔性を維持し、これらの条件下で調製された電気触媒材料に潜在的に高い電気化学的性能を付与する。蒸着プロセスを適切に制御することによって達成可能な電気触媒層の高多孔性および高比ECSAは、OERおよびHERに向かう最適化された性能のための他の必須条件である。選択されたGDLマクロ多孔質材料は、高い電子伝導性を示し、AEMWEセルのアニオン交換膜と電気触媒層との間の界面からのガス(H2またはO2)の外への拡散を可能にし、電気化学セルの基本的な動作条件において高度に安定する。
【0017】
蒸着プロセスを適切に制御することによって達成可能な電気触媒層に沿った多孔の調整された深さ分布および組成は、これらの電気触媒層のさらなる重要な特徴である。
【0018】
本発明において請求されるように、前記電気触媒層をGDL基板上に組み込むことによって製造される電極の別の利点は、使用後にGDLから電気触媒層のかなりの分解または剥離がないことであり、明らかに電極の大きな安定性を証明する。さらに、この安定性は、実験後に電解槽に供給するアルカリ性水溶液の誘導結合プラズマ分析を行った後にFeおよび/またはNiのトレースが観察されなかったことから、確認することができる。
【0019】
従来の電極調製方法を適用する場合、アイオノマーは、触媒インクまたはスラリーに結合剤として添加され、反応部位までのイオン移動輸送に有利である。本発明の電気触媒層の動作は、イオン移動機構によって制限されず、活性触媒層の層間剥離が長期間の動作後検出されなかったことを考慮すると、MS-OAD電気触媒は、触媒層をGDL支持体に固定するためのいかなる結合剤も必要としないことは明らかである。したがって、本発明の電極の電気触媒層は、アイオノマーフリーベース(ionomer-free base)で作動する。
【0020】
GDL基板の最も外側の領域のボイド表面を覆う蒸着層の形態の電気触媒の別の利点は、動作に必要な活性金属相の量が少ないことである。本発明に記載されているように調製された電極は、少なくとも1桁小さい活性材料(例えば、Ni、NiFeなど)を用いた湿式化学的経路によって調製された従来の電極と同様の電気化学的性能を示す。
【0021】
提案された合金電極の別の利点は、均質な分布や二重層または層状分布または滑らかに変化する元素プロファイル分布などを含む、異なるプロファイルによる層構造内の元素分布の深さの制御である。これは、電気触媒層の特性を調整することを可能にする。例えば、GDLとの接触をもたらすために、組成物は、電解質と接触している外部ゾーンにおいて、OERまたはHER反応に向かって特に活性である相組成物と接触している組成物をより迅速に支持する。この制御はまた、最も高価な元素の少数の原子層のみを外側領域に蒸着させて、前記電解質と接触する有効な電気触媒として作用することができるので、金属のコストに関して明らかな利点を有する電極が使用されている。
【0022】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、バッキングガス拡散層および集電体として作用するGDLマクロ多孔性基材は、メッシュ状構造の形態を有するニッケルであり、その理由は、塩基性媒体における化学的分解に対するロバスト性が最も高いからである。
【0023】
他の好ましい実施形態では、電気触媒層中の合金の化学量論は、第1の表面から第2の表面まで均一な組成を有する。または、電気触媒層中の合金の化学量論は、GDL基板との界面における第1の表面から、電解質と接触している最も外側の外部ゾーンで第2の表面まで、層厚の方向における合金中のFeの重量パーセントの線形組成勾配を有する。
【0024】
他の好ましい実施形態では、NiFe合金の化学量論は、合金中のFeの8重量%-12重量%の間の平均値に調整される。この比は、ニッケル原子格子内の鉄原子の均一な分布を保証し、OERを誘導するように操作されたときに最大電流を提供する。
【0025】
他の好ましい実施形態では、電気触媒層の第1の表面のNiFe合金組成物は、合金中のFeの0.1%-2重量%の間であり、第2の外側ゾーンでは、合金中のFeの重量の10%-20%の間である。
【0026】
他の好ましい実施形態では、電気触媒層の多孔率は、層の全体積の20-50%の間の値で層厚全体に沿って一定の多孔率を有し、または、電気触媒層中の多孔率は、第1の表面から第2の表面まで直線的に変化する。より好ましい実施形態では、第1の表面ゾーンの多孔率は20%-30%の間であり、第2の表面ゾーンの多孔率は40%-50%の間である。
【0027】
多孔率の変化するプロファイルは、MS蒸着中のガスプラズマ圧力および/またはMS-OAD中の蒸着角度を変化させることによって達成される。
【0028】
他の好ましい実施形態では、第2の表面における電気触媒は、Ni(Fe)OxHy化合物の層をさらに含む。前記化合物は、表面反応性の向上につながる。これは、触媒膜のバルクの金属キャラクタと組み合わされると、電極の電気抵抗を減少させる特徴があり、OER電気化学プロセスの性能を向上させることにさらに寄与する。
【0029】
本明細書で使用される用語“Ni(Fe)OxHy化合物”は、OERの活性相と見なされるFeおよびNiの混合オキシド水酸化物の層を指す。この層は、NiFe電気触媒触媒の外面上にMS-OADによって直接蒸着させることができるが、最も一般的には、塩基性媒体中の電極の電気化学的サイクルによってFeNi合金から生成される。
【0030】
本発明の第2の態様は、以下のステップを含むことを特徴とする層状電気触媒電極を得るための方法である。
a)カーボンペーパー、ステンレススチールまたはニッケルから選択されるマクロ多孔性ガス拡散層及び集電体材料基板を配置する工程であって、前記カーボンペーパー、ステンレススチール及びニッケルがマイクロファイバー、スポンジ、メッシュ状構造の形態であり、マグネトロンスパッタ蒸着装置の真空チャンバのホルダ内の基板として用いられる工程;
b)工程a)の蒸着装置内に位置するマグネトロンスパッタリングヘッド内に、ターゲットまたはターゲッツとしてニッケルおよび鉄、またはNiFe合金ターゲットを配置する工程であって、前記ターゲットは、ディスク、円形、正方形、円柱及び長方形から選択された形状を有し、前記ターゲットと前記基板との間の距離は、2cm-30cmであり、前記基板表面の法線は、MS-OAD構成におけるスパッタリングによってその表面上に形成されたレーストラックにおけるターゲット表面の法線に対して少なくとも70°の角度で位置しており、
c)ホルダが1分間に1-10回の回転速度で回転している間に、4・10-6mbar以下のベース圧力が達成されるまで、工程(b)のチャンバ内を真空にし、20-40標準立方センチメートル/分の流量及び5・10-3mbarのプロセス圧力でArガスを導入し、50W-3000WのパルスDC電力と、80-200kHzの周波数とをターゲットに印加することによって、マグネトロンプラズマを点火し、それによってNiFe電気触媒電極の層が蒸着される工程、
d)任意ではあるが、工程(d)で得られた層状電気触媒電極上に、MS-OADから選択された技術または電極の電気化学的サイクルによって、Ni(Fe)OxHy化合物の層を蒸着または生成する工程。
【0031】
マグネトロンスパッタリング蒸着技術は、光学系、摩擦学、ハードコーティングなどにおける多種多様な用途のためのコンパクトな層の調製のために業界で広く利用されている古典的な物理蒸着手順である。本発明の特許請求の範囲はまた、高性能のAEMWEセルへのそれらの集積に適した多孔性およびナノ構造の電気触媒層の製造のための最適な選択である。特に、この方法が斜角蒸着構成(MS-OAD)および特定の動作条件で利用される場合、この方法は、ナノ構造および高度に多孔性の電気触媒層を提供し、高い電気化学的活性表面積でギフティングされた結果、AEMWEにおける電極としてのGDL上へのそれらの組み込みに非常に適した結果となる。この方法は、高度に再現性があり、大きな蒸着領域に拡張可能であり、残渣を生成せず、室温で機能する。MS-OAD中の蒸着幾何形状およびプラズマガス圧力の慎重な調整は、組成、負荷および微細構造の厳密な制御を伴うメソポーラスナノ構造化材料をレンダリングする。GDL上に蒸着された結果として生じるナノ構造層は、繊維状/マクロ多孔性GDLバッキングを装飾する触媒中に存在するナノ測定経路を介して、液体反応物(塩基性水溶液)の流れ及び生成されたガス(H2、O2)の排出を容易にする。本発明の方法の別の利点は、調整された組成物および深さにおける多孔性分布を有する深さ組成可変電気触媒層を調製することである。
【0032】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態では、ターゲットは、50mm-100mmの間の直径サイズを有する円盤形状を有し、ステップ(c)のパルスDC電力は、50W-300Wの間であり、周波数は80-140kHzの間である。
【0033】
他の好ましい実施形態では、ニッケル/鉄ターゲットまたはターゲットは、ディスク、円形、正方形、円筒および長方形から選択される形状を有するニッケルであり、より好ましくは、直径が50mm-100mmの間の円形であり、幅が1mm-2mmの間であり、厚さが0.2-0.3mmの間であり、ディスク表面に軸方向に巻き付けられている。
【0034】
プロセスの他の好ましい実施形態では、ターゲットは、2.0重量%-20重量%の間のFeを含有するNiFe合金である。
【0035】
多孔質電気触媒の予想される活性を達成するために、それは、斜めの角度でマグネトロンスパッタリングによって製造される。MS-OADが大きな基材上に本質的に不均一な蒸着物を誘導するという事実のために、蒸着中の基板の移動は、基板への均一な負荷を達成するために必須である。均質な蒸着を達成するための様々な可能性が存在する。
【0036】
第1のMS-OAD構成オプションでは、実験セットアップは、軸がマグネトロンヘッドのいずれかからの粒子束の主方向に対して垂直に配置された回転可能なサンプルホルダからなるGDLバッキング電極は、サンプルホルダに取り付けられ、メソポーラス電極触媒の蒸着中に連続的に回転される。これらの条件では、テクスチャ加工された基材支持体の極細繊維、スポンジ、またはメッシュ状構造は、メソ多孔質NiFe電気触媒層で装飾される。平坦な基板上で、この幾何学的構成および実現手順は、垂直に配向されたメソポーラスナノ柱状構造をレンダリングする。
【0037】
プロセスの別の好ましい実施形態では、電気触媒の蒸着は、スパッタリングターゲットに対してGDL基板の一定の垂直配向で偶数のステップで行われる。各蒸着ステップに対してサンプルホルダを方位角方向に180°回転させる。この構成により、基板表面法線は、ターゲットに対する垂線に対して斜めの角度を形成する。この第2のオプションは、平坦な基板上に蒸着されたときにジグザグの微細構造を生成する。構造化されたGDL支持体を使用する場合、結果は、支持体の浅い領域で細孔表面を覆うナノ構造層であり、かつ基板全体上で電気触媒層の均一な厚さ分布となる。
【0038】
別の構成では、一般に、長方形のスパッタリングターゲットを使用して、可撓性GDLバッキングを、蒸着中にそのシャフト軸の周りを連続的に回転する円筒形サンプルホルダに取り付けることができる。この後者の構成は、ロールツーロール(roll-to-roll)手順と互換性があり、基板上への材料の蒸着の最適化を可能にする。これらの条件では、スパッタリングされたターゲットからの材料の主要な流れは、平均された局所的な斜めの幾何学的形状でGDL基板に到達し、したがって、高いメソ多孔性を保証する。
【0039】
MS-OADプロセスの他の可能な実現もまた、基板全体にわたって電気触媒層の厚さを均質化するために、蒸着の際に、スリットおよび線形可動基板の使用として、または基板のモーメントを与える際の基板のねじれとして、層の体積の50%までの所望の多孔質微細構造を得るために使用することができる。スリットの使用は、ある立体角内でターゲットから来て、面法線に対して斜めに基板に到達する蒸着粒子を選択するように働く。この構成の不便さは、ターゲットから来るスパッタされた材料のごく一部のみがスリットを通って基板まで通過することである。
【0040】
本発明の第3の態様は、2つの電極を含むことを特徴とする膜電極アセンブリ(MEA)であって、前記電極の少なくとも1つは、本発明において上述した電極であり、またアニオン交換膜である。
【0041】
本明細書で使用する場合、膜電極アセンブリ(MEA)という用語は、アノードとカソードとの間に挟まれたアニオン交換膜を指し、アノード/カソードは、それぞれOER/HERに対して最適化された対応する蒸着された電気触媒を有するGLDで構成される。アンサンブル全体は、一般に所与の濃度(典型的には1.0M)を有するKOH水溶液である電解質のアクセスを可能にする双極性金属プレートの間で具現化されかつプレスされ、生成されたガス(アノードにおけるO2、カソードにおけるH2)を放出する。
【0042】
MEAの好ましい実施形態は、以下のとおりである。
・電極の1つは、本発明において上述した電極であり、アノードとして作用するのに適している。
・第2の電極は、電気触媒として作用する多孔質Ni層である。これは、純粋なNiターゲットから別のバッキングガス拡散層およびカソードとして作用するのに適した集電体材料へ同じMS-OAD手順に従って蒸着される。
アノードとカソードとの間のアセンブリは、アニオン交換膜によって作製され、電極は、アノードとカソードとの間に所望の電圧差(一般に1.5-2.5V)を印加する外部電気回路に接続される。
電極のサイズ及びプロセスの効率に応じて、1500mA cm-2までの電流密度を生成することができる。MEAの動作温度は、一般に60-80℃の間である。
【0043】
本発明の第4の態様は、コンパクトなシステムにおいて電気的に直列に接続された少なくとも2つのMEAユニットの積層を含むことを特徴とするアニオン交換膜水電解(AEMWE)電解槽である。好ましい実施形態では、アニオン交換膜水電解(AEMWE)電解槽は、電極が電気的に直列に接続されるように、小型システム内に配置された5つ以上のMEAの積み重ねをさらに含む。電解質は、様々なアノード及びカソード区画を通って平行に循環し、ガスは、出口チューブを通して別々に放出される。
【0044】
本明細書で使用される用語“AEMWE電解槽”は、適切な遮蔽ガスケットおよびプレートならびにガス入口およびガス出口などを用いて、前述のいくつかのMEAのコンパクト積層システムを指す。ここで、水性電解質は、一般にpH=10以上の塩基性条件に調整される。
【0045】
本発明の第5の態様は、以下の工程を含むことを特徴とする水素製造方法である。
(i) 40℃-85℃の間の温度で0.1M-4MのKOH水溶液を用いて、本発明において上述したAEMWE電解槽を供給する。
(ii) MEAユニットセルの各々に1.8V-2.2Vの間の分極電圧を印加し、スタック内で電気的に直列に接続する。
【0046】
好ましい実施形態では、工程(i)の温度は、60℃-80℃である。このように構築されたAEMWE電解槽の利点は、アイオノマーを電気触媒に添加することなくその操作ができ、したがって、電極および電極の劣化または汚染に関連する動作上の問題を回避でき、長い動作時間を容易にすることができる。他の利点は、電気触媒中の活性相の量の有意な減少、およびその結果としての関連するコストの低減である。
【0047】
本発明の第6の態様は、本発明において上述した層状電気触媒電極を、AEMWE電解槽におけるアノードとして使用することである。
【0048】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様または同等の方法および材料を、本発明の実施において使用することができる。明細書および特許請求の範囲を通して、“含む(comprise)”という単語およびその変形は、他の技術を排除することを意図するものではない。特徴、添加剤、成分、または工程、本発明のさらなる目的、利点、および特徴は、説明を検討すると当業者には明らかになり、または本発明の実施によって習得することができる以下の実施例、図面及び配列表は、例示として提供され、本発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、実験例1-5および比較例6における電気触媒の製造に使用されるMS-OADプロセスの幾何学的形状のスキームである。
【
図2】
図2は、実験例1-5および比較例6においてアノードとして使用される調製されたNiFeバイメタル電気触媒のディフラクトグラムである。
【
図3】
図3は、実験例1-5および比較例6においてアノードとして使用される調製されたNiFeバイメタル電気触媒のNi(220)回折ピーク周辺のディフラクトグラムの拡大図である。
【
図4】
図4は、実験例1-5および比較例6で作製した電気触媒について、室温、1.0M KOH電解質および20mV/sの走査速度で実施したサイクリックボルタンメトリー実験である。
【
図5】
図5は、EE-10%Fe-Ni(EE、電気触媒電極)電気触媒の通常図におけるSEM画像を調製し、3電極ガラスセルにおけるその使用後のSEM画像である。
【
図6】温度。実験例2で調製され、実験例4による単一MEA電解セル内に一体化された、40℃および60℃の動作温度での電気触媒の線形掃引ボルタンメトリー特性。
【
図7】アイオノマー。実験例2で調製した電気触媒の線形掃引ボルタンメトリー特性であって、40℃の動作温度でアイオノマーを用いた場合と用いていない場合の単一のMEA電解セルに統合した図である。
【
図8】
図8は、安定性を示す図である。第1及び第200サイクル線形掃引ボルタンメトリー特性は、実験例2で調製し、実験例4による単一MEA電解セルに動作温度40℃で一体化した図である。
【
図9】
図9は、安定性を示す図である。実験例2で調製した電気触媒の2日間、400mA/cm
2および40℃で取得し、40℃の動作温度で単一のMEA電解セルに統合した定電流クロノポテンシオメトリック測定を示す。
【実験例】
【0050】
<実験例1> AEMWE電解槽用に電気触媒電極EE-(5%Fe)Niを作製した。
【0051】
本発明のNiFeバイメタル電気触媒電極は、
図1に記載されるような幾何学的配置を有するMS-OADによって室温(25℃)で調製された。円形ニッケルスパッタリングターゲット(GoodFellow Cambridge Ltd.,99.9 at% 50mm直径)に1つの軸方向に巻かれた鉄ストリップ(GoodFellow Cambridge Ltd.,99.5 at%、1.5mm幅、0.25mm厚さ)をバイメタル合金の供給源として使用した。スパッタリングターゲットは、150WのパルスDC電源(AE Pinnacle+)および120kHzの周波数を使用して操作された。基板として、カーボンペーパーGDL焼成用電極(TGP-H-90、Fuel Cell Earth)を用いた。
【0052】
所望の組成を有するFeNi合金ターゲットによって、NiターゲットをFeストリップに置換する同様の電気触媒層を調製することができる。
【0053】
カーボンペーパー基材を直径10cmの円形の回転可能なサンプルホルダ上に置いた。このホルダをスパッタリングターゲットの表面に対して~78°の角度で配置し、5回/分で連続的に回転させた。蒸着された膜の厚さおよび微細構造を均質化する。この構成はまた、回転ディスクに対して同様の半径方向位置に配置された2つのターゲットからの蒸着と互換性がある。プラズマガスとしては、アルゴンを用いた。30SCCMの流れ(SCCM/標準立方センチメートル/分)を調製チャンバ内に投与し、5・10-3mbarのプロセス圧力をもたらした。システム内のベース圧力は2・10-6mbarであった。所望の量の電気触媒を達成するために、100分間の蒸着時間が必要であった。蒸着速度は、毎分約5nmの蒸着材料の均等厚さであった。
【0054】
カーボンペーパー(TGP-H-90、Fuel Cell Earth)を、電気触媒の支持体として使用した。さらに、研磨されたシリコンウェハを、異なるニッケル系薄膜の断面顕微鏡法分析のための基材としても使用した。本発明者らは、平坦なシリコンウェハ基板上に同時に蒸着された薄膜についての断面SEM分析によって決定された物理的厚さと均等の厚さを定義する。これらの条件では、ナノ構造化バイメタルNiFe合金蒸着物中の鉄含有量は約5重量%であった。
【0055】
<実験例2> AEMWE電解槽用に電気触媒電極EE-(10%Fe)Niを作製した。
【0056】
実験例1と同様にして、Niスパッタリングターゲットに巻き付けた鉄ストリップの数を2等分した以外は、AEMWE電解槽用の電気触媒電極を作製した。これらの条件では、ナノ構造化バイメタルNiFe合金蒸着物中の鉄含有量は、約10重量%であった。
【0057】
所望の組成を有するFeNi合金ターゲットによって、NiターゲットをFeストリップに置換する同様の電気触媒層を調製することができる。
【0058】
<実験例3> AEMWE電解槽用の電気触媒電極EE-(15%Fe)Niを作製した。
【0059】
実験例1と同様にして、Niスパッタリングターゲットに巻き付けた鉄ストリップの数を3等分した以外は、AEMWE電解槽用の電気触媒電極を作製した。これらの条件では、ナノ構造化バイメタルNiFe合金蒸着物中の鉄含有量は約15重量%であった。
【0060】
所望の組成を有するFeNi合金ターゲットによって、NiターゲットをFeストリップに置換する同様の電気触媒層を調製することができる。
【0061】
<実験例4> AEMWE電解槽用の電気触媒電極EE-(20%Fe)Niを作製した。
【0062】
実験例1と同様にして、Niスパッタリングターゲットに巻き付けた鉄ストリップの数を4等分した以外は、AEMWE電解槽用の電気触媒電極を作製した。これらの条件では、ナノ構造化バイメタルNiFe合金蒸着物中の鉄含有量は、約20重量%であった。
【0063】
所望の組成を有するFeNi合金ターゲットによって、NiターゲットをFeストリップに置換する同様の電極触媒層を調製することができる。
【0064】
<実験例5> AEMWE電解槽用の電気触媒電極EE-(30%Fe)Niを作製した。
【0065】
実験例1と同様にして、Niスパッタリングターゲットに巻き付けた鉄ストリップの数を6等分した以外は、AEMWE電解槽用の電気触媒電極を作製した。これらの条件では、ナノ構造化バイメタルNiFe合金中の鉄含有量は約30重量%であった。
【0066】
所望の組成を有するFeNi合金ターゲットによって、NiターゲットをFeストリップに置換する同様の電気触媒層を調製することができる。
【0067】
<実験例6> AEMWE電解槽用の電気触媒電極EE-Niを作製した。
【0068】
AEMWE電解槽のための基準ナノ構造電気触媒電極を、Niスパッタリングターゲットに巻き付けられた鉄ストリップがなかったことを除いて、実験例1と同様にして作製した。
【0069】
<実験例7> 比較のX線回折分析についての実験例
【0070】
実験例1-5及び比較例6で作製した電気触媒電極をX線回折(XRD)により分析した。
図2は、調製されたNiFeバイメタル金属アノードのディフラクトグラムを示す図である。それらは、異なる調製された電気触媒のフィンガープリント分析として働く。それらは、触媒がほとんど多結晶であることを示しており(弱い回折ピークが検出される)、その結果、蒸着が起こる。プロセスは室温であり、鉄原子はニッケル原子ネットワーク内に組み込まれる。
【0071】
図2のディフラクトグラムは、基材として使用されるカーボンペーパーに起因する54.6°での特性の強い回折ピークを示す。加えて、2つのより小さい回折ピーク約44.5°および51.9°は、金属ニッケルまたはNi含有合金に起因する。
【0072】
金属ベースのNiネットワークにおけるNi(220)反射による44.5°のピークの拡大図が
図3に示されており、それらの強度が低下することが明らかである。サンプル中の鉄含有量が増加するにつれて、それらの幅は増加し、それらの位置はシフトする。これらの効果は、Niの面中心立方(face centred cubic/ fcc)構造内に鉄原子がランダムに取り込まれ、一種の合金を形成するためである。金属Feに起因する回折反射の欠如は、Ni構造へのFeの組み込みを確認する。全体として、このXRD分析は、バイメタル電極が小さな結晶子粒径を有する金属合金からなることを示す。
【0073】
<実験例8> ハーフセル構成における電気触媒電極の電気化学的特性評価に関する実験例
【0074】
実験例1-5及び比較例6で作製した電気触媒電極を、3電極ガラスセルのOERに向かって性能評価した(ハーフセル構成)。
【0075】
このセルは、作用アノード(1.0cm2の幾何学的領域)、Ag/AgCl参照電極(KCI、3M、Metrohm (登録商標))および白金箔(Metrohm (登録商標))対向電極を統合する。
【0076】
電気化学的特徴付けは、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定からなる。それらは、Autolab PGSTAT 30-ECOCHEMIEポテンショスタット/ガルバノスタットを用いて実施した。全ての測定を室温及び1.0 M KOH電解質水溶液中で行った。電極を試験する前に、窒素ガス流を少なくとも20分間バブリングし、その後、実験中にバブリングを維持した。CV測定における電圧範囲は、0.00から+750mV vs.Ag/AgCl.CV及び走査速度は20mV/sであった
【0077】
図4は、実験例1-5および比較例6で作製した電極について、3個の電極ガラスセルにおいて室温で実施したサイクリックボルタンメトリー実験を示す。1.0M KOH電解質および20mV/sの走査速度であった。
【0078】
図4に示すように、鉄の取り込みは、OER活性において正の効果を有し、Niについて得られたものに関して、電流密度値(アノードにおけるO
2形成に比例する大きさ)の著しい増加をもたらす。比較例6で作製した電気触媒作用は、鉄の取り込みによる電気触媒活性の改善は、10mA/cm
2に達するために必要とされる過電圧値がEE-(10%Fe)Niアノードに対して最も低かった(すなわち、307mVであった)。
【0079】
この増強は、Ni(OH)
2およびNiOOH中のNi
+2部位に対するFe
+3の置換に関連し、OERにとって優れた活性を有する新しいNi-0局所環境につながる。
図4は、Ni触媒へのFeの増加量の添加が、合金中のニッケル構造に組み込まれているFeの10重量%になるまでOER活性を有利にすることを示す。次いで、10重量%より高い鉄組み込みパーセント率について、OERに向かう応答におけるプラトー(plateau)が達成される。
【0080】
<実験例9> 調製し、使用した電気触媒についてのSEM分析に関する実験例
【0081】
実験例2で作製した電気触媒電極を、ハーフセル構成での操作後に、用意された電子顕微鏡で走査して分析した。
【0082】
図5は、使用された電極のSEM分析が、調製された電極と同様の形態および微細構造を明らかにしたことを示す。この観察は、使用された電極におけるバッキング支持体からの触媒の剥離を破棄し、バイメタル電極の安定性を確認する。
【0083】
<実験例10> 実験例は、単一MEAを有する完全な電解セルの製造についての実験例である。
【0084】
実験例2に記載のEE-(10%Fe)Ni電極(触媒負荷0.35mg/cm2、均等厚540nm)をアノードとして、比較例1に記載したように、EE-Ni電極(負荷0.38mgcm-2、均等厚540nm)をカソードとして用いた。
【0085】
触媒フィルムは、6.25cm2の幾何学的面積でカーボンペーパーに蒸着した。
【0086】
電極は、アニオン交換膜(Fumapem (登録商標)FAA-3-50が燃料電池ストアによって供給される)によって分離された。MEA中の電極の幾何学的面積は5cm2であり、触媒負荷は、MS-OAD蒸着の前後の秤量によって決定された。
【0087】
使用前に、Fumapem (登録商標)FAA-3-50アニオン交換膜を1.0 M KOH溶液中に室温で24時間浸漬して、それを活性化させ、すなわち、純粋な膜中のBr-官能基をOH-基で置換した。
【0088】
流路を有するニッケル双極板を、反応物および生成物の集電体および分配器として使用した。アノード及びカソードリザーバに、2ml/分の流量を有するKOH水電解質溶液を供給した。蠕動(peristaltic)ポンプ(ポンプ駆動5001、Heidolph)を使用して、2つの独立した1.0リットル緩衝区画からの電解質溶液を、流れを再循環させる電極リザーバにインパルス化した。テフロン(登録商標)ガスケットを使用して、ガス漏れを防止し、短絡を回避した。セルを封止するために印加されるボルトトルクは、セルの電気化学的性能を最適化するように選択された。
【0089】
<実験例11> MEA:性能対動作温度の電気化学的特性評価に関する実験例
【0090】
実験例2で調製した電気触媒を、実験例10に記載されているように、単一のMEAによって形成された完全な電解セルにおける水素生成に対する電気化学的特性について評価した。
【0091】
完全なAEMWEセルの電気化学的測定は、オートラボ ポテンショスタット/ガルバノスタットを用いて行った。実験は、40℃および60℃でのプロセス温度で、5mV/sの走査速度で1.0-2.2Vの電位を変化させる線形掃引ボルタンメトリー(LSV)で行った。
【0092】
図6は、40℃および60℃の動作温度における前記セルの線形掃引ボルタンメトリー特性を示す図である。
【0093】
<実験例12> MEAの電気化学的特性評価に関する実験例:電極内のアイオノマーの組み込みに対する性能
【0094】
実験例2で調製した電気触媒を、MEAアセンブリの前の電気触媒の頂部にアイオノマーが添加されたことを除いて、実験例10において同じ条件を有する膜電極アセンブリにおける水素生成に対する電気化学的特性について評価した。
【0095】
図7は、前記セルの電流密度対分極電圧特性を示す。性能の有意な低下は、セルへのアイオノマーの添加に起因した。
【0096】
<実験例13> 実験例は、MEAに組み込まれた電極触媒の安定性についての実験例である。
【0097】
実験例2で調製され、実験例10に記載されているMEAに組み込まれた電気触媒を、運転条件における安定性について評価した。
【0098】
エージング実験は、サイクリックボルタンメトリー測定で行った(200 l-Vサイクル、40℃で50mV/sの走査速度で実施した)。
図8は、初期特性の有意な変動が観察されないことを示す図である。したがって、セルの安定性を証明するものである。
【0099】
定電流クロノポテンシオメトリック実験は、セルの電圧出力を測定し、400mA/cm
2の密度電流を40℃で2日間測定することからなる。
図9は、電圧の弱い増加のみが時間(約5mV/時間)にわたって生じることを示し、したがって、セルの安定性を証明するものである。
【国際調査報告】