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特表2024-546377鋼板表面処理用溶液組成物、これを用いて表面処理された鋼板及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-20
(54)【発明の名称】鋼板表面処理用溶液組成物、これを用いて表面処理された鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/30 20060101AFI20241213BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C23C22/30
C23C28/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537521
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 KR2022020821
(87)【国際公開番号】W WO2023121213
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0182935
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523225243
【氏名又は名称】ユニコ精密化学株式会社
【氏名又は名称原語表記】UNICOH SPECIALTY CHEMICALS CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-クク
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ス-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ホ-チョル
【テーマコード(参考)】
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA22
4K026BA03
4K026BA08
4K026BB08
4K026BB10
4K026CA13
4K026CA19
4K026CA30
4K026CA32
4K026CA33
4K026CA37
4K026CA39
4K026DA02
4K026DA03
4K026DA06
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC09
4K044CA11
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
本発明は、鋼板の耐食性及び耐黒変性を向上させることができる溶液組成物、これを用いて表面処理された鋼板及び上記鋼板を製造する方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)3価クロム化合物0.1~10重量%、
(b)酸度調節剤0.1~10重量%、
(c)密着性向上剤1~20重量%、
(d)耐食性改善剤1~15重量%、
(e)被膜形成剤0.1~25重量%、
(f)潤滑剤0.01~2重量%、
(g)助溶剤0.5~10重量%、及び
(h)残部溶剤を含む、鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項2】
前記3価クロム化合物は、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、フッ化クロム、塩化クロム、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項3】
前記酸度調節剤は、リン酸、硝酸、硫酸、フッ酸、塩酸、(NH)HPO、(NHHPO、NaHPO、NaHPO、フィチン酸(Phytic acid)、グリコール酸、乳酸、酢酸、シュウ酸、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項4】
前記密着性向上剤は、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)、ビニルエポキシシラン、ビニルトリエポキシシラン、3-アミノプロピルトリエポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタグリオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシトリメチルジメトキシシラン、N-(3-(trimethoxysilyl)propyl)ethylenediamine(AEAPTMS)、2-(3,4-Epoxycyclohexyl)ethyltrimethoxysilane、2-(3,4-Epoxycyclohexyl)ethyltriethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propyltrimethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propyltriethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propylmethyldiethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propylmethyldimethoxysilane、3-Aminopropyltriethoxysilane、3-Aminopropyltrimethoxysilane、3-Aminopropylmethyldiethoxysilane、N-(2-Aminoethyl-3-aminopropyl)methyldimethoxysilane、N-(2-Aminoethyl-3-aminopropyl)trimethoxysilane、Diethylenetriaminopropyltrimethoxysilane、3-Ureidopropyltrimethoxysilane、N-Phenylaminopropyltrimethoxysilane、(3-Glycidyloxypropyl)trimethoxysilane(GPTMS)、Methyltrimethoxysilane(MTMS)、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項5】
前記耐食性改善剤は、バナジルアセチルアセトネート(Vanadyl acetylacetonate)、メタバナジン酸アンモニウム(Ammonium metavanadate)、メタバナジン酸カリウム(Potassium metavanadate)、メタバナジン酸ナトリウム(Sodium metavanadate)、バナジウム三酸化物(Vanadium trioxide)、バナジウムアセチルアセテート、アンモニウムメタバナデート、酸化ケイ素、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項6】
前記被膜形成剤は、Polyurethane resin(Cationic or Non-ionic)、Acrylic Emulsion(Cationic or Non-ionic)、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項7】
前記潤滑剤は、Polytetrafluoroethylene(PTFE)、Polyethylene(PE)、Carnauba系ワックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項8】
前記助溶剤は、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、タローアルコール(Tallow alcohol)、2-ブトキシエタノール(2-butoxyethanol)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(Diethylene glycol monobutyl ether)、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項9】
前記溶剤は水である、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項10】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一面に請求項1~9のいずれか一項の組成物から形成されたコーティング層と、を含む、表面処理された鋼板。
【請求項11】
前記コーティング層は0.2~3.0μmの厚さである、請求項10に記載の表面処理された鋼板。
【請求項12】
鋼板を提供する段階と、
前記鋼板の少なくとも一面に請求項1~9のいずれか一項の組成物を塗布する段階と、
前記組成物が塗布された鋼板を50~250℃で熱処理する段階と、を含む、表面処理された鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記鋼板はZn-Al-Mg系溶融亜鉛めっき鋼板である、請求項12に記載の表面処理された鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記組成物を塗布する段階は、
バーコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、及びディッピング(dipping)コーティング方法の中から選択された1つ以上の方法で行うものである、請求項12に記載の表面処理された鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の耐食性及び耐黒変性を向上させることができる溶液組成物、これを用いて表面処理された鋼板及び上記鋼板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、及びアルミニウム(Al)を含有するめっき層が形成された高耐食溶融めっき鋼材は、赤さび(red rust)耐食性に優れた鋼材として知られている。
【0003】
ところで、このような高耐食溶融めっき鋼材は、露出面がほとんど亜鉛又は亜鉛合金からなっているため、一般環境、特に、湿潤雰囲気に露出されたときに表面に点状の腐食性欠陥が発生し易く、外観が悪くなるという問題がある。また、最近では、賃加工工程において、ロールを通過する際に溶融めっき鋼材のコーティング層がロールに付いてしまう異物性欠陥も発生している。
【0004】
このような問題点を解決するために、従来はめっき処理された鋼板に6価クロム又はクロメート処理を行うことで耐食性及び耐黒変性を確保してきた。しかし、6価クロムが有害環境物質として指定され、現在は6価クロムの使用に対する規制が強化されている実情である。さらに、6価クロムをめっき鋼板の表面処理剤として使用すると、鋼板の表面が黒色に変わるか、黒点が生じるという欠陥の問題がある。
【0005】
そこで、現在は、3価クロムを含有する表面処理溶液組成物をめっき鋼板上にコーティングして、めっき鋼板の耐食性と耐黒変性を確保する方法が開発されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、3価クロムを含有する組成物に鋼板を沈積させて化成処理する方式を適用している。この方式は、鉄鋼会社の連続工程に適用するには沈積時間が長く、化成処理方法は鋼板の耐指紋性を阻害するなどの問題がある。
【0007】
一方、特許文献2及び3では、3価クロムを含有する組成物をめっき鋼板上にスプレー又はロールコータ方式でコーティングすることにより、鉄鋼会社の連続ラインへの適用が可能であり、耐指紋性を確保することができると開示している。しかし、これらの組成物には多孔質のシリカ成分が含まれることから、湿潤な雰囲気において変色発生の激しいMg、Al系合金には適していない。その上、多孔質のシリカは吸湿性質が強く、Zn-Mg-Al系合金鋼板では急激な変色発生を誘発させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許公開公報第10-2009-0024450号
【特許文献2】韓国特許公開公報第10-2004-0046347号
【特許文献3】日本特許公開公報第2002-069660号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一実施形態は、高耐食めっき鋼板の表面に適用されるコーティング溶液の組成を制御して、鋼板の外観耐食性と耐黒変性を向上させるものであって、溶液安定性に優れた溶液組成物を提供し、これを用いて表面処理された鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。本発明の課題は本明細書の内容全般から理解されることができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、(a)3価クロム化合物0.1~10重量%、(b)酸度調節剤0.1~10重量%、(c)密着性向上剤1~20重量%、(d)耐食性改善剤1~15重量%、(e)被膜形成剤0.1~25重量%、(f)潤滑剤0.01~2重量%、(g)助溶剤0.5~10重量%、及び(h)残部溶剤を含む、鋼板表面処理用溶液組成物を提供する。
【0012】
本発明の他の一実施形態は、鋼板と、上記鋼板の少なくとも一面に上記溶液組成物から形成されたコーティング層と、を含む、表面処理された鋼板を提供する。
【0013】
本発明の他の一実施形態は、鋼板を提供する段階と、上記鋼板の少なくとも一面に上記溶液組成物を塗布する段階と、上記組成物が塗布された鋼板を50~250℃で熱処理する段階と、を含む、表面処理された鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、溶液安定性に優れた溶液組成物を提供することができ、上記溶液組成物を鋼板上にコーティングさせることによって、優れた耐食性と耐黒変性を有する鋼板を提供することができる。
【0015】
さらに、コーティング過程で異物欠陥を改善することによって製品の寿命を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態において、表面(エッジ部)腐食が発生しためっき鋼板(a)及び表面腐食が発生していないめっき鋼板(b)を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の発明者らは、鋼板、例えば高耐食溶融めっき鋼材をコーティング処理するにあたり、コーティング処理された鋼板の耐食性だけでなく、耐黒変性を向上させるのに有利な溶液組成物を得るために深く研究した。
【0018】
その結果、3価クロム化合物と共に、酸度調節剤、密着性向上剤、耐食性改善剤、被膜形成剤、潤滑剤、及び助溶剤を適量で混合した溶液組成物を提供することができ、この溶液組成物は溶液安定性が高い。このような溶液組成物を鋼板に表面処理する場合、意図する効果が得られることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明の一実施形態による鋼板表面処理用溶液組成物について具体的に説明する。
【0021】
本発明による溶液組成物は、(a)3価クロム化合物0.1~10重量%、(b)酸度調節剤0.1~10重量%、(c)密着性向上剤1~20重量%、(d)耐食性改善剤1~15重量%、(e)被膜形成剤0.1~25重量%、(f)潤滑剤0.01~2重量%、(g)助溶剤0.5~10重量%、及び(h)残部溶剤を含むことができる。
【0022】
本発明の溶液組成物の含有量は、全100重量%を基準とする。
【0023】
後述にて具体的に説明するが、上記溶液組成物は、組成物を塗布することができる基材(substrate)の少なくとも一面にコーティング層を形成することができる。本発明において、上記基材は上述した鋼板、例えば高耐食溶融めっき鋼材であることができ、非制限的な一例としてZn-Mg-Al系合金めっき鋼板であることができる。
【0024】
以下では、上記溶液組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0025】
(a)3価クロム化合物0.1~10重量%
【0026】
本発明の溶液組成物において、3価クロム化合物は、鋼板の表面で主に不溶性被膜を形成し、バリア効果(Barrier effect)による耐食性向上を図る。
【0027】
本発明の溶液組成物において、上記3価クロム化合物の含有量が0.1%未満であると、堅固な不溶性被膜を十分に形成できないことから鋼板の表面に浸透する水分を効果的に遮断することができず、その結果、耐食性を確保できなくなる。一方、その含有量が10%を超えると、過度なクロム成分によって異物欠陥が発生するおそれがある。
【0028】
本発明において、上記3価クロム化合物の種類について特に制限はしないが、好ましくは硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、フッ化クロム、塩化クロム、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0029】
(b)酸度調節剤0.1~10重量%
【0030】
本発明の溶液組成物において、酸度調節剤は、溶液のpHを調節して組成物内の成分が溶液中に安定して存在し、コーティング条件下で適切に反応して被膜を安定的に形成できるようにする役割を果たす。
【0031】
このような酸度調節剤の含有量が0.1%未満であると、溶液のpHが高くなって溶液安定性が低下するおそれがあり、一方、その含有量が10%を超えると、乾燥後の残留酸によって耐食性等を確保できなくなる可能性がある。
【0032】
本発明において、上記酸度調節剤の種類について特に制限はしないが、好ましくはリン酸、硝酸、硫酸、フッ酸、塩酸、(NH)HPO、(NHHPO、NaHPO、NaHPO、フィチン酸(Phytic acid)、グリコール酸、乳酸、酢酸、シュウ酸、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0033】
(c)密着性向上剤1~20重量%
【0034】
本発明の溶液組成物において、密着性向上剤は、上記3価クロム化合物及び被膜形成剤等と結合し、鋼板とも結合してコーティング層の密着性及び耐食性等を向上させる役割を果たす。
【0035】
このような密着性向上剤の含有量が1%未満であると、鋼板との密着性を十分に確保できないことから異物欠陥が発生する可能性がある。一方、その含有量が20%を超えると、塗膜形成後に残存する量が過度になり、耐食性等を確保できない可能性がある。
【0036】
本発明において、上記密着性向上剤の種類について特に制限はしないが、好ましくはビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)、ビニルエポキシシラン、ビニルトリエポキシシラン、3-アミノプロピルトリエポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタグリオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシトリメチルジメトキシシラン、N-(3-(trimethoxysilyl)propyl)ethylenediamine(AEAPTMS)、2-(3,4-Epoxycyclohexyl)ethyltrimethoxysilane、2-(3,4-Epoxycyclohexyl)ethyltriethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propyltrimethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propyltriethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propylmethyldiethoxysilane、3-(2,3-Epoxypropoxy)propylmethyldimethoxysilane、3-Aminopropyltriethoxysilane、3-Aminopropyltrimethoxysilane、3-Aminopropylmethyldiethoxysilane、N-(2-Aminoethyl-3-aminopropyl)methyldimethoxysilane、N-(2-Aminoethyl-3-aminopropyl)trimethoxysilane、Diethylenetriaminopropyltrimethoxysilane、3-Ureidopropyltrimethoxysilane、N-Phenylaminopropyltrimethoxysilane、(3-Glycidyloxypropyl)trimethoxysilane(GPTMS)、Methyltrimethoxysilane(MTMS)、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0037】
(d)耐食性改善剤1~15重量%
【0038】
本発明の溶液組成物において、耐食性改善剤は、上記3価クロム化合物と被膜形成剤との間に存在し得る間隙を満たしながら不動態被膜を形成し、腐食生成を抑制する役割を果たす。
【0039】
このような耐食性改善剤の含有量が1%未満であると、不動態被膜を十分に形成できないことから耐食性確保に困難があり、一方、その含有量が15%を超えると、過度に高い固形分によって溶液安定性が低下する可能性がある。
【0040】
本発明において、上記耐食性改善剤の種類について特に制限はしないが、好ましくはバナジルアセチルアセトネート(Vanadyl acetylacetonate)、メタバナジン酸アンモニウム(Ammonium metavanadate)、メタバナジン酸カリウム(Potassium metavanadate)、メタバナジン酸ナトリウム(Sodium metavanadate)、バナジウム三酸化物(Vanadium trioxide)、バナジウムアセチルアセテート、アンモニウムメタバナデート、酸化ケイ素、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0041】
(e)被膜形成剤0.1~25重量%
【0042】
本発明の溶液組成物において、被膜形成剤は、鋼板表面で3価クロム化合物、密着性向上剤、架橋剤と共に堅固な被膜層を形成するために添加する成分である。すなわち、無機系成分だけでは不十分な被膜形成作用を向上させ、鋼板の耐アルカリ性、造管油侵害性等を向上させるのに有利である。
【0043】
このような被膜形成剤の含有量が0.1%未満であると、被膜形成が十分でなく、造管油侵害性、耐アルカリ性を確保するのに困難がある。一方、その含有量が25%を超えると、異物欠陥が発生するおそれがある。
【0044】
本発明において、上記被膜形成剤の種類について特に制限はしないが、好ましくはPolyurethane resin(Cationic or Non-ionic)、Acrylic Emulsion(Cationic or Non-ionic)、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0045】
(f)潤滑剤0.01~2重量%
【0046】
本発明の溶液組成物において、潤滑剤は、鋼板表面のスリップ性を向上させ、加工性を向上させて異物欠陥の発生を抑制する役割を果たす。
【0047】
このような潤滑剤の含有量が0.01%未満であると、鋼板表面のスリップ性が十分でないことから異物欠陥が発生するおそれがある。一方、その含有量が2%を超えると、溶液安定性が低下する可能性がある。
【0048】
本発明において、上記潤滑剤の種類について特に制限はしないが、好ましくはPolytetrafluoroethylene(PTFE)、Polyethylene(PE)、Carnauba系ワックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0049】
(g)助溶剤0.5~10重量%
【0050】
本発明の溶液組成物において、助溶剤は、コーティング作業中の乾燥過程で溶剤の揮発速度を調節し、乾燥後の被膜表面の欠陥を抑制する役割を果たす。
【0051】
このような助溶剤の含有量が0.5%未満であると、乾燥中の揮発速度を調節する効果が不十分であることから、主溶剤の蒸発速度が沸点で急激に沸騰して、いわゆるポッピング(popping)という表面欠陥が発生し、これにより耐食性低下などの問題が生じる。一方、その含有量が10%を超えると、溶液の粘度及び密度などの急激な変化によって溶液安定性が低下する可能性がある。
【0052】
本発明において、上記助溶剤の種類について特に制限はしないが、好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、タローアルコール(Tallow alcohol)、2-ブトキシエタノール(2-butoxyethanol)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(Diethylene glycol monobutyl ether)、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0053】
(h)溶剤
【0054】
本発明の溶液組成物は残部成分として溶剤を含むことができ、本発明において、上記溶剤として水(蒸留水、脱イオン水)を使用することができる。
【0055】
以下、本発明の他の一実施形態による、上述した溶液組成物を表面処理して一定のコーティング層を含む、表面処理された鋼板について詳細に説明する。
【0056】
本発明において、上記溶液組成物を表面処理できる鋼板については特に限定しないが、例えばめっき鋼板であることができる。
【0057】
本発明で対象とするめっき鋼板は、電気めっき鋼板、電気合金めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融アルミニウムめっき鋼板、及びアルミニウムめっき鋼板など、全ての種類のめっき鋼板に適用できるという点に留意する必要がある。
【0058】
ただし、非制限的な例として、溶融亜鉛めっき鋼板又は三元系(Zn-Mg-Al系)溶融亜鉛めっき鋼板であってもよいことを明らかにする。
【0059】
上述しためっき鋼板の少なくとも一面に本発明の溶液組成物をコーティング処理することにより、表面にコーティング層を形成することができる。このとき、コーティング層は、めっき鋼板のめっき層上に0.2~3.0μmの厚さで形成されることができる。
【0060】
上記コーティング層の厚さが0.2μm未満であると、コーティング層による耐食性、耐黒変性等の効果が十分に得られず、一方、3.0μmを超えると、コーティング層を形成するための連続作業を通過する過程で接触するロールと摩擦し、コーティング層の脱落による異物欠陥が発生するおそれがある。
【0061】
ここで、上記厚さは乾燥後の厚さを意味する。
【0062】
さらに、本発明において、上記溶液組成物を用いた表面処理された鋼板の製造方法について説明する。
【0063】
具体的に、鋼板を提供する段階と、上記鋼板の少なくとも一面に本発明の溶液組成物を塗布する段階と、上記組成物が塗布された鋼板を熱処理する段階と、を含むことができる。
【0064】
上記鋼板は上述しためっき鋼板であることができ、非制限的な例として、溶融亜鉛めっき鋼板又は三元系(Zn-Mg-Al系)溶融亜鉛めっき鋼板であることができる。
【0065】
本発明の溶液組成物を上記鋼板に塗布するにあたり、一般的に使用されるコーティング法を適用することができるため、特に限定はしない。
【0066】
例えば、バーコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディッピング(dipping)コーティングなどの方法の中から1つの方法を選択して適用することができる。
【0067】
一方、上述したコーティング法により組成物を塗布した鋼板を熱処理することで、一定の厚さでコーティング層を形成することができる。
【0068】
このとき、熱処理は50~250℃の温度範囲で行うことが好ましいが、上記熱処理温度が50℃未満であると、まともな固形のコーティング層が形成されずに液状の溶液が残存するようになり、目標とする耐食性を確保できない可能性がある。一方、その温度が250℃を超えると、過度に高い温度により被膜層の劣化及び変色が発生するという問題があり、これにより耐食性及び耐黒変性に劣る可能性がある。
【0069】
本発明では、上記熱処理工程中に塗布された組成物が固形の形状を有するように乾燥する工程も含むことができ、上記熱処理が完了した鋼板は、乾燥後の厚さで0.2~3.0μmのコーティング層を有することができる。このとき、乾燥方法としては特に限定されないが、熱風乾燥炉又は誘導加熱炉(インダクションオーブン)等の設備を利用できることを明らかにし、乾燥条件は通常の方法によることができる。
【0070】
以下、本発明について実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【実施例
【0071】
[鋼板表面処理用溶液組成物の製造]
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物の物性を測定するために、次のような物質を使用して溶液組成物を製造した。
【0072】
まず、蒸留水(溶剤)に酸度調節剤としてリン酸を添加した後、約40℃で3価クロム化合物である硝酸クロムを添加し、約30分間撹拌させた。同じ方式で、密着性向上剤である3-Glycidoxypropyltrimethoxysilane、耐食性改善剤である酸化ケイ素、被膜形成剤であるウレタン樹脂、潤滑剤であるPEワックス、及び助溶剤であるエタノールを30分おきにそれぞれ添加しながら撹拌させた。
【0073】
このとき、各成分の含有量は下記表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
溶液安定性
製造された溶液組成物が一定の条件において溶液の安定性が維持されるかを確認するために、次のような実験を行った。
【0076】
上記発明例1~15及び比較例1~14の各溶液組成物の初期粘度(Vi)を測定した後、50℃のオーブンで120時間保管し、25℃に冷却させて、25℃での粘度(VI)を測定した。それぞれ測定された粘度値を下記数学式1に代入し、測定された値(ΔV)によって溶液安定性を評価した。その結果は下記表3に示す。
【0077】
[数学式1]
△V=(Vl-Vi)/Vi×100(%)
【0078】
<溶液安定性の評価基準>
○:ΔV値が20(%)未満であるか、又は目視観察時にゲル化現象が見られない
×:ΔV値が20(%)以上であるか、又は目視観察時にゲル化現象が見られる
【0079】
[表面処理された鋼板の製造]
次に、上記製造された溶液組成物を鋼板表面にバーコーティング法で塗布した後、インダクションオーブンに通過させながら熱処理を行い、それぞれの表面処理された鋼板を獲得した。上記バーコーティング時の被膜付着量がCrを基準として約25mg/mとなるように実施した。
【0080】
このとき、溶液組成物を塗布するための鋼板としては、Zn-Al-Mg系合金溶融亜鉛めっき鋼板(Al:13.0%、Mg:5.0%)を用い、7cm×15cm(横×縦)に切断して脱脂処理した試験片で作製した。
【0081】
上記表面処理時の熱処理温度と形成されたコーティング層の厚さについては下記表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
上記によって製造された表面処理された鋼板の物性を測定するために、次のような方法及び基準で平板耐食性、加工部耐食性、造管油侵害性、耐アルカリ性、点状腐食耐食性、異物欠陥等を測定した。各結果は下記表3に示す。
【0084】
平板耐食性
ASTM B117で規定した方法に基づいて、各鋼板(試験片)に対して溶液組成物を処理した後、時間経過による鋼板の白さび発生率を測定した。
【0085】
<平板耐食性の評価基準>
○:白さび発生時間が144時間以上
△:白さび発生時間が96時間以上144時間未満
×:白さび発生時間が96時間未満
【0086】
加工部耐食性
上記によって表面処理された鋼板(試験片)をエリクセンテスター(Erichsen tester)を用いて6mmの高さに押し上げた後、24時間経過したときの白さび発生程度を測定した。
【0087】
<加工部耐食性の評価基準>
○:白さびが発生しないか、又は発生してもかなり微細である場合
△:円に白さびが発生して一部流れたが、外に流れていない場合
×:白さびが発生して円の外に流れた場合
【0088】
造管油侵害性
上記によって表面処理された鋼板(試験片)を常温で造管油に沈積して24時間維持した後、沈積前/後の色差を測定した。このとき、造管油は、韓国のBuhmwoo社のBW WELL MP-411を10%水に希釈して使用した。
【0089】
<造管油侵害性の評価基準>
○:ΔE≦2
△:2<ΔE≦3
×:3<ΔE
【0090】
耐アルカリ性
上記によって表面処理された鋼板(試験片)を60℃の脱脂溶液に2分間沈積した後、水洗、エアブローイング(air blowing)し、前/後の色差を測定した。このとき、アルカリ脱脂溶液はパーカライジング社のFinecleaner L 4460 A:20g/2.4L+L 4460 B:12g/2.4L(pH=12)を使用した。
【0091】
<耐アルカリ性の評価基準>
○:ΔE≦2
△:2<ΔE≦4
×:4<ΔE
【0092】
点状腐食耐食性
上記によって表面処理された鋼板(試験片)の表面に噴霧器を用いて露ができるようにした後、上記噴霧処理された2枚の鋼板を突き合わせて包装し、恒温恒湿器に入れて高温湿度(42℃、95%)で6時間、低温湿度(15℃、60%)で6時間を1サイクルとして8サイクル(cycle)行った後、表面の点状欠陥個数を測定した。このとき、鋼板のスキャン面積を150×50mmに設定し、これを100倍に拡大して腐食性点状欠陥面積が29500μm以上のものの数のみを数えた。
【0093】
<点状腐食耐食性の評価基準>
○:点状個数≦20
△:20<点状個数≦40
×:40<点状個数
【0094】
異物欠陥
上記によって表面処理された鋼板(試験片)の異物欠陥を評価するために、表面積が約4cmの探針に白いガーゼをかぶせた後、探針の上に重さ10kgの錘を載せ、この探針を上記鋼板表面に100回往復摩擦させた後、摩擦前/後のガーゼの白色度値(ΔL=Lbefore-Lafter)を測定した。このとき、高湿条件を模写するために湿度チャンバ内に上記鋼板と探針を位置させ、上記チャンバ内を加湿器を用いて95%以上の湿度に維持させた後、摩擦評価を行った。
【0095】
<異物欠陥の評価基準>
○:ΔL≦2.5
△:2.5<ΔL≦5.0
×:5.0<ΔL
【0096】
【表3】
【0097】
上記表3に示すように、発明例1~15の溶液組成物は溶液安定性に優れ、このような溶液組成物で表面処理された鋼板も全ての評価結果において極めて優れた結果を示した。
【0098】
これに対し、比較例1は、3価クロム化合物を添加していない場合であって、バリア効果による耐食性が十分でなく、平板耐食性、加工部耐食性、点状腐食耐食性に劣っていた。
【0099】
比較例2は、3価クロム化合物の含有量が過度に高い場合であって、異物欠陥が発生したことが分かる。
【0100】
比較例3は、酸度調節剤が添加されていない場合であって、溶液安定性に劣り、このような溶液組成物を表面処理した鋼板の平板耐食性、加工部耐食性に劣っていた。
【0101】
比較例4は、酸度調節剤の含有量が過度な場合であって、溶液中に残留する酸が多くなり、表面処理された鋼板の平板耐食性、加工部耐食性、点状腐食耐食性に劣っていた。
【0102】
比較例5は、密着性向上剤の含有量が不十分な場合であって、異物欠陥が発生した。
【0103】
比較例6は、密着性向上剤の含有量が高すぎる場合であって、残存する未反応シランにより、表面処理された鋼板の平板耐食性、加工部耐食性、点状腐食耐食性に劣っていた。
【0104】
比較例7は、耐食性改善剤の含有量が不十分な場合であって、耐食性が十分でなく、平板耐食性、加工部耐食性、点状腐食耐食性に劣っていた。
【0105】
比較例8は、耐食性改善剤の含有量が過度な場合であって、過度に多くなった固形分によって溶液安定性に劣り、表面処理された鋼板の耐アルカリ性に劣り、異物欠陥が発生した。
【0106】
比較例9は、被膜形成剤が添加されていない場合であって、表面処理された鋼板の造管油侵害性、耐アルカリ性に劣っていた。
【0107】
比較例10は、被膜形成剤の含有量が過度な場合であって、異物欠陥が発生した。
【0108】
比較例11は、潤滑剤が添加されていない場合であって、異物欠陥が発生した。
【0109】
比較例12は、潤滑剤の含有量が過度な場合であって、溶液安定性が不十分であり、表面処理された鋼板の加工部耐食性に劣っていた。
【0110】
比較例13は、助溶剤が添加されていない場合であって、表面処理された鋼板の表面欠陥が発生しただけでなく、平板耐食性、加工部耐食性、点状腐食耐食性などの耐食性特性に極めて劣っていた。
【0111】
比較例14は、助溶剤の含有量が過度な場合であって、溶液安定性に劣り、表面処理された鋼板の加工部耐食性に劣っていた。
【0112】
図1は、本発明による溶液組成物を用いて表面処理された鋼板(発明例1)の表面形状と、従来の組成物により表面処理された鋼板の表面形状とを観察して示したものである。
【0113】
図1に示すように、従来の溶液組成物で表面処理された鋼板(a)は、エッジ部で欠陥が発生したのに対し、本発明の溶液組成物で表面処理された鋼板(b)は、欠陥なくエッジ部まで表面が滑らかであることを確認することができる。
図1(a)】
図1(b)】
【国際調査報告】