(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-20
(54)【発明の名称】接触面を形成する膜を備える光音響検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/00 20060101AFI20241213BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
G01N21/00 A
G01N29/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538776
(86)(22)【出願日】2022-12-24
(85)【翻訳文提出日】2024-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2022087836
(87)【国際公開番号】W WO2023118611
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510132347
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ
(71)【出願人】
【識別番号】523422314
【氏名又は名称】エクリピア
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ジュードゥ ケビン
(72)【発明者】
【氏名】クタール ジャン-ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ニオールテ エティエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ル ロワ マロフ ティボー
【テーマコード(参考)】
2G047
2G059
【Fターム(参考)】
2G047AA04
2G047BC15
2G047CA04
2G047CA07
2G047GD02
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB13
2G059CC15
2G059CC16
2G059EE01
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG08
2G059HH01
2G059KK08
(57)【要約】
本発明は、分析対象媒体(2)に対して接触面(3)を介して適用されるように意図した光音響検出装置(1)に関する。該装置は、中空の空洞(20)と、パルス化又は振幅変調された光源(10)と、空洞を通して延伸する音波(12)を検出する音響検出器(28)とを備える。該装置は、接触面(3)を形成する界面膜(23)を備える。界面膜(23)は、空洞(20)を満たすガスと分析対象媒体(2)との間の境界面を形成し、分析対象媒体(2)と空洞(20)の間の又はゲルの通過を阻止し、界面膜(23)の温度変化の影響下で、空洞(20)内に音響圧力波を生成するように構成される。界面膜(23)の温度変化は、媒体の照射に起因する媒体の加熱により引き起こされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象媒体(2)に対して接触面(3)を介して適用されるように意図した光音響検出装置(1)であって、
ガスが充填され、前記接触面に向かって開口する中空の空洞(20)と、
作動時に、前記空洞(20)を通して前記接触面に向けて、パルス化又は振幅変調された発光スペクトル帯域(Δλ)の入射光ビーム(11)を放射するように構成される光源(10)と、
前記入射光ビームによる前記分析対象媒体の照射の影響下で、前記分析対象媒体(2)の加熱によって生成される音波を検出するように、前記空洞に接続された音響検出器(28)と、
を備え、
前記接触面を形成する界面膜(23)をさらに備え、
前記界面膜は、
前記空洞を満たす前記ガスと前記分析対象媒体との間の境界面を形成し、
前記空洞への前記分析対象媒体の通過を阻止するように構成され、
前記音響検出器は、前記界面膜の温度変化の影響下で前記空洞内に生成される音響圧力波を検出するように構成され、前記界面膜の温度変化は、前記分析対象媒体の照射に起因する前記分析対象媒体の加熱により引き起こされる、
光音響検出装置。
【請求項2】
前記界面膜(23)は、開口されていない、
請求項1に記載の光音響検出装置。
【請求項3】
前記界面膜は、50μm未満又は30μm未満の半径の貫通開口(23
o)を含む、
請求項1に記載の光音響検出装置。
【請求項4】
前記界面膜は、前記貫通開口内に疎水性コーティングを含む、
請求項3に記載の光音響検出装置。
【請求項5】
前記光源は、作動時に、前記入射光ビームが前記分析対象媒体に到達する前に前記界面膜を通過するように配置され、
前記界面膜は、前記入射光ビームが通過した前記界面膜の一部に対応する交差セグメント(23
int)を含み、
少なくとも前記交差セグメントでは、前記界面膜は、前記発光スペクトル帯域において0.4より高い透過率を有する透過性材料で作られる、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項6】
前記透過性材料は、Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF
2、CaF
2、KBr、ZnS、サファイアから選択される少なくとも1つの材料である、
請求項5に記載の光音響検出装置。
【請求項7】
前記界面膜は、取り外し可能である、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項8】
前記界面膜は、前記空洞を充填する前記ガスと接触する内面(23
i)と、前記分析対象媒体に対して適用されるように意図した外面(23
e)との間に延在し、
前記界面膜の前記内面は、前記入射光ビームの反射を最小限に抑えるように構成された反射防止コーティング又は微細構造を備え、及び/又は
前記界面膜の前記外面は、前記入射光ビームの反射を最小限に抑えるように構成された反射防止コーティング又は微細構造を備える、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項9】
前記界面膜の厚さは、20μm~1mmの範囲である、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項10】
前記空洞(20)は、遠位膜によって境界が定められ、前記遠位膜(24)は、前記空洞が前記遠位膜と前記界面膜との間に延在するように、前記界面膜の反対側に位置し、
前記光源(10)は、作動時に、前記入射光ビームが前記界面膜に到達する前に前記遠位膜を通過するように配置される、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項11】
前記空洞は、遠位壁(24)と側壁(22)とによって境界が定められ、前記側壁は、前記遠位壁(24)と前記界面膜の間に延在し、
前記界面膜は、前記側壁の反対側の縁の間に延在する、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項12】
前記空洞の容積は、50μL未満である、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項13】
前記音響検出器は、音響チャネルにより前記空洞に接続される、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項14】
前記界面膜は、0.5W/mKより高い熱伝導率を有する材料から形成される、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の光音響検出装置。
【請求項15】
媒体中の検体を検出する方法であって、前記検体が吸収波長で光を吸収するものであり、該方法は、
界面膜が前記媒体と接触するように、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の装置(1)を前記媒体に対して適用するステップと、
前記検体の前記吸収波長を含む前記発光スペクトル帯域において、前記光源(10)を作動するステップと、
前記音響検出器により光音響圧力波を検出し、前記検出した光音響圧力波に応じて、前記検体の量を推定するステップと、
を含む、方法。
【請求項16】
前記媒体(2)は、液体又はゲルである、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記光源は、500Hz未満のパルス周波数又は変調周波数で、パルス化又は振幅変調される、
請求項15又は16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、光音響検出による検体(分析物)の検出である。
【背景技術】
【0002】
光音響検出は、パルス化又は振幅変調された入射電磁波の分析対象媒体による吸収の影響により生成される音波の検出に基づく。音波は、入射波の吸収の影響下で、分析対象媒体中に存在する対象分子を加熱した後に形成される。加熱により、媒体の変調された熱膨張が起こり、この膨張は、音波の起源である。
【0003】
光音響検出は、入射電磁波の波長を検体の吸収波長に調整することにより、1つの特定の検体に特化され得る。したがって、光音響検出は、ガス中のガス種の検出や、生物組織内の特定の分子の存在の検出に応用されてきた。入射波の波長は、多くの場合、赤外線領域にある。
【0004】
光音響検出装置は、数十Hzから数十kHzの周波数で作動する振幅変調光源、例えばレーザー光源を備える。変調周波数は、分析対象媒体中に存在する対象分子の周期的な加熱によって生じる光音響波の周波数を定義する。光音響検出装置は、周期的な光音響波を検出するように構成される音響検出器を備える。光音響検出装置の応答関数は、測定された圧力振動の振幅と分析対象媒体内の検体の量との間の相関関係を確立するように較正されてもよい。
【0005】
光音響検出を生体媒体、例えば、グルコースのような特定の生体分子を定量するために適用することを可能にする装置が記載されている。装置の例は、米国出願公開第2014/0073899号や米国出願公開第20210302387号に記載される。これらの装置では、分析対象媒体は、周期的な照射の影響下で周期的に加熱される。媒体の周期的な加熱は、媒体と空気で満たされた空洞(キャビティ)の間の境界面に伝播する。境界面における温度変化は、空洞内に周期的な圧力波を発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、前段落で述べた装置と同じ原理に基づくが、液体媒体に適用するのに適した光音響検出装置を設計した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1主題は、分析対象媒体に対して接触面を介して適用されるように意図した光音響検出装置であって、
ガスが充填され、接触面に向かって開口する中空の空洞と、
作動時に、空洞を通して接触面に向けて、パルス化又は振幅変調された発光スペクトル帯域の入射光ビームを放射するように構成される光源と、
入射光ビームによる媒体の照射の影響下で、媒体の加熱によって生成される音波を検出するように、空洞を通って伝播する音波を検出するように構成される、空洞に接続された音響検出器と、
を備え、
接触面を形成する界面膜をさらに備え、
界面膜は、
空洞を満たすガスと分析対象媒体との間の境界面を形成し、
空洞への分析対象媒体の通過を阻止するように構成される、
光音響検出装置である。
【0008】
一実施形態によれば、界面膜は、開口されていない。
【0009】
一実施形態によれば、界面膜は、50μm未満又は30μm未満の半径の貫通開口を含む。界面膜は、貫通開口内に疎水性コーティングを含む。
【0010】
一実施形態によれば、
光源は、作動時に、入射光ビームが分析対象媒体に到達する前に界面膜を通過するように配置され、
界面膜は、入射光ビームが通過した界面膜の一部に対応する交差セグメントを含み、
少なくとも交差セグメントでは、界面膜は、発光スペクトル帯域において0.4より高い透過率を有する透過性材料で作られる。
【0011】
そして、界面膜は、媒体を伝播する光の量を最適化することを可能にする。透過性材料は、Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF2、CaF2、KBr、ZnS、サファイアから選択される少なくとも1つの材料であればよい。界面膜は、モノリシックであり、透過性材料で作られてもよい。
【0012】
一実施形態によれば、界面膜は、取り外し可能である。
【0013】
有利には、
界面膜は、空洞を充填するガスと接触する内面と、分析対象媒体に対して適用されるように意図した外面との間に延在し、
界面膜の内面は、入射光ビームの反射を最小限に抑えるように構成された反射防止コーティング又は微細構造を備え、及び/又は
界面膜の外面は、入射光ビームの反射を最小限に抑えるように構成された反射防止コーティング又は微細構造を備える。
【0014】
界面膜の厚さは、20μm~1mmの範囲であってもよい。
【0015】
一実施形態によれば、
空洞は、遠位膜によって境界が定められ、遠位膜は、空洞が遠位膜と界面膜との間に延在するように、界面膜の反対側に位置し、
光源は、作動時に、入射光ビームが界面膜に到達する前に遠位膜を通過するように配置される。
【0016】
遠位膜は、発光スペクトル帯域において0.4より高い透過率を有する材料を含むか、該材料から作られてもよい。特に、それは、Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF2、CaF2、KBr、ZnS、サファイアから選択される材料の問題である。
【0017】
遠位膜及び透過膜は、同じ材料で作られてもよい。
【0018】
一実施形態によれば、
空洞は、遠位壁と側壁とによって境界が定められ、側壁は、遠位壁と界面膜の間に延在し、
界面膜は、側壁の反対側の縁の間に延在する。
【0019】
空洞の容積は、50μL未満であってもよい。
【0020】
本発明の第2主題は、媒体中の検体を検出する方法であって、検体が吸収波長で光を吸収するものであり、該方法は、
界面膜が媒体と接触するように、媒体に対して本発明の第1主題にかかる装置を適用するステップと、
検体の吸収波長を含む発光スペクトル帯域において、光源を作動するステップと、
音響検出器により光音響圧力波を検出し、検出した光音響圧力波に応じて、より正確には、光音響圧力波の振幅に応じて、検体の量を推定するステップと、
を含む。
【0021】
媒体は、液体又はゲルであってもよく、液体又はゲルを含んでもよい。
【0022】
光源は、500Hz未満のパルス周波数又は変調周波数で、パルス化されてもよく、振幅変調されてもよい。
【0023】
本発明は、以下に列挙する図面を参照して、発明の詳細な説明の残りの部分で提示する実施形態の例の記述を読むことにより、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3A】液体が流れるダクトに対する光音響検出装置の適用例を示す。
【
図3B】液体が流れるダクトに対する光音響検出装置の適用例を示す。
【
図5】界面膜に垂直な横軸に沿って、媒体の周期的な照射(y軸)中に媒体及び空洞内で発生する熱振動の振幅のモデリングを示す。x軸は、横軸に沿った位置に対応する。
【
図6】照射ビームの変調周波数(x軸)の関数として、媒体の周期的な照射の影響下で、分析対象媒体及び空洞内で発生する熱振動の振幅(y軸)のモデリングを示す。
【
図7A】装置の空洞及び界面膜を製造するためのプロセスのステップを概略的に示す。
【
図7B】装置の空洞及び界面膜を製造するためのプロセスのステップを概略的に示す。
【
図7C】装置の空洞及び界面膜を製造するためのプロセスのステップを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施を可能にする装置1を概略的に示す。装置1は、分析すべき媒体2に対して適用されるように構成される。装置は、分析対象媒体に対して適用されることを意図した接触面3を備える。図示の例では、媒体2は、ダクト5を通って流れる液体である。液体は、流れている必要はない。本発明は、容器内に置かれた静的液体の分析に適用可能である。また、本発明は、固体又はゲルの分析にも適用可能である。
【0026】
装置は、分析すべき媒体2に伝播する光ビーム11を放射するように構成される光源10を備える。光源10は、パルス化又は振幅変調される。光ビーム11は、媒体中に存在する分析物4の吸収波長λaを含む発光スペクトル帯域Δλで放射される。装置1の1つの目的は、検体4の存在を検出し、可能であれば、その濃度を推定することである。
【0027】
検体4は、流体、可能であれば、体液又は工業プロセスで使用される流体中に存在する分子であってもよい。例えば、それは、グルコース、アルコール、エタノールの問題であってもよい。
【0028】
好ましくは、発光スペクトル帯域Δλは、可視光又は赤外光にあり、例えば、2μmと15μmの波長の間に広がる。好ましくは、発光スペクトル帯域Δλは、装置1が単一の検体に特異的であるために十分に狭い。検体がグルコースである場合、発光スペクトル帯域は、グルコースの吸収波長、例えば、1034cm-1の波数に対応する波長を中心とする。光源10は、特に、パルスレーザ光源であってもよく、例えば、波長可変量子カスケードレーザ(QCL)であってもよい。他の実施形態によれば、光源は、フィラメント型光源又は発光ダイオードであってもよい。これらの実施形態によれば、問題の吸収波長を中心とする十分に狭い発光スペクトル帯域を画定するために、光源をバンドパスフィルタと関連付けることが好ましい。
【0029】
装置1は、分析対象媒体2に対して適用されることを意図する。それは、空洞が形成された本体21を備える。空洞20は、ガス、例えば、空気で充填される。空洞20は、界面膜23上に開口する。界面膜23は、空洞20と分析対象媒体2との間の境界面を形成する。その膜は、分析対象媒体2と空洞20との間の液体又はゲルの通過を阻止するように構成される。したがって、その膜は、液体又はゲルに対して非多孔性である。その膜は、以下に説明するように、気体に対して多孔性であってもよい。図示の例では、その膜は、液体が流れるダクトの内面と同一平面である。膜は、可撓性であっても剛性であってもよい。
【0030】
光源10は、分析対象媒体2に垂直又は実質的に垂直な入射角で到達するように、光ビーム11を放射するように構成される。実質的に垂直とは、±30°の角度公差内で垂直であることを意味する。好ましくは、光ビーム11は、分析対象媒体2に到達する前に界面膜23を通過する。
【0031】
媒体2中の検体4の存在の影響下で、光音響波12と呼ばれる音波が形成される。光音響波12は、光ビーム11による媒体の周期的な加熱の結果として形成される音響波であり、後者は、パルス化又は振幅変調される。周期的な加熱は、熱伝導によって、媒体2と空洞20の間の境界面に伝達される。境界面では、周期的な光音響波が形成され、空洞20を通って伝搬する。光音響波、特にその振幅は、音響検出器28によって検出される。音響検出器28は、音響チャネル27によって空洞20に接続される。音響検出器は、光音響波の周波数を含む検出スペクトル範囲を有するマイクロフォンであってもよい。光音響波は、光ビーム11のパルス化又は振幅変調周波数で振幅変調される。したがって、音響検出器では、圧力が振幅変調される。測定された音波の振幅は、媒体中の検体の濃度と相関する。
【0032】
空洞20は、界面膜23によって境界が定められる。また、それは、本体21において、側壁22と遠位壁24との間に延在する。側壁22は、界面膜23と遠位壁24との間で、横軸Zに平行な軸の周りに延在する。横軸Zは、界面膜23に垂直である。遠位壁24は、界面膜23に面する。図示の例では、遠位壁24は、界面膜23に平行な遠位膜24と呼ばれる膜によって形成される。光源10は、空洞によって境界が定められる内部空間の外側に配置される。入射光ビームは、遠位膜24を通って伝播し、空洞の遠位壁を形成し、次いで界面膜23を通って分析対象媒体に伝播する。好ましくは、光ビーム11は、後者を加熱することを避けるように、空洞20を境界する側壁22からの距離で伝播する。そうしないと、求められている検体に特異的でない寄生音響信号が形成される。これは、空洞の遠位壁24が、好ましくは、発光スペクトル帯域で透明と考えられる材料で作られた薄い遠位膜によって形成される理由でもある。遠位膜は、分析対象媒体に伝播する光の量を最大にするように、発光スペクトル帯域で高い透過率を有する。媒体に到達する光の量が多いほど、装置の感度は高くなる。
【0033】
空洞の容積は、数μL又は数十μL(マイクロリットル)であってもよい。音響検出器によって検出される圧力波の振幅を増加させるために、空洞の体積は50μL未満であることが好ましいと推定される。
【0034】
媒体2に到達した光ビーム11は、Beer-Lambertの吸収法則に従って、媒体2、特に、検体4によって徐々に吸収される。吸収速度は、入射光ビームを吸収する検体の濃度が増加するにつれて増加する。したがって、検体の濃度が高いほど、入射光ビームによって透過される媒体の厚さは小さくなる。検体によって吸収された光学エネルギーは、熱の形で媒体に伝達される。熱は、媒体を通って界面膜に拡散する。そして、界面膜23は、媒体の周期的な加熱によって引き起こされる周期的な温度変化を受ける。媒体の周期的な加熱は、光ビーム11による周期的な照射によって生じる。
【0035】
界面膜23の周期的な温度変化は、空洞内に周期的な圧力波12を生成し、後者は、音響検出器25によって検出される。膜23の周期的な加熱の影響下で、圧力波が形成される。光音響効果は、媒体を介した熱伝導の影響下で界面膜で生成されるため、間接的である。空洞内に形成される圧力波の周期は、入射光ビーム11の周期に対応する。
【0036】
媒体の温度変化を圧力波の振幅変化に最適に変換するためには、界面膜を形成する材料の熱伝導率が高いことが好ましく、例えば、0.5W/mK、1W/mK、5W/mK、又は10W/mKより高いことが好ましい。また、膜を形成する材料の密度が低いことが好ましい。プラスチックや繊維などの材料は避けることが好ましい。界面膜を形成する材料の比熱容量は低いことが好ましい。。最後に、界面膜は、
図2を参照して説明するように、薄いことが好ましい。
【0037】
界面膜の別の機能は、分析対象媒体の一部が空洞に浸透するのを防ぐことである。したがって、界面膜は、特に、分析対象媒体中に存在する可能性のある液体又はゲルに関して、流体バリアを形成する。これは、空洞内部の汚染を防ぐ。これにより、空洞内のガスの容積を制御することも可能になる。実際、空洞の内部容積の変動は、音響検出器によって行われる測定の解釈にバイアスをもたらす可能性がある。このバイアスは、光音響波の振幅と検体の濃度との間の関係に影響を与える可能性がある。したがって、空洞内部への液体又はゲルの通過を遮断することによって、界面膜は、装置の応答関数を安定させることができる。
【0038】
図2は、界面膜23の一例を概略的に示す。界面膜23は、分析対象媒体と接触することを意図した外面23
eと、空洞内に存在するガスと接触する内面23
iとの間に延在する。外面と内面との間では、その膜は、好ましくは1mm未満の小さな厚さεを有する。有利には、界面膜23の厚さεは、25μmから100μmの間に含まれる。膜が厚いほど、空洞に伝導する熱は少なくなる。
【0039】
界面膜は、光ビーム11が通過する界面膜の部分に対応する交差セグメント23intを含む。少なくとも交差セグメント23intでは、界面膜は、放射ビーム11のスペクトル帯域Δλにおいて高い透過率を有する材料から形成される。高い透過率とは、好ましくは0.4よりも高い、さらに好ましくは0.8よりも高い、例えば0.9以上のオーダーの透過率を意味する。透過率とは、界面膜23によって透過される光強度の一部を意味する。界面膜は、部分的又は全体的にSi、又は赤外線に対して透明な他の材料、例えば、多孔質Si、Ge、AlN、ZnSe、BaF2、CaF2、KBr、ZnS、又はサファイアから形成されてもよい。上述の遠位膜24についても同様である。高い透過率により、媒体に到達する光の量を最大にすることができる。
【0040】
透過率は、特に内面23i、好ましくは内面23i及び外面23eに反射防止コーティングを適用することにより、1に近い値に達するように増加させてもよい。反射防止コーティングは、少なくとも交差するセグメント23intにおいて、薄層の形態で堆積された開口されていない「四分の一波」層の形態をとってもよい。その代わりに、反射防止処理は、少なくとも入射光ビームが伝播する交差するセグメント23intにおいて、内面23i及び任意選択的に外面23eの微細構造からなってもよい。微細構造は、例えば、回折格子を形成してもよく、これにより、発光スペクトル帯域における光の透過を最適化することができる。微細構造の一例は、Douglas S. Hobbs、Brue D. MacLeod、及びJuanita R. Riccobonoの「高性能反射防止表面レリーフ微細構造の開発に関する最新情報」、Proc. SPIE 6545に記載される。
【0041】
界面膜は、単一材料から形成されるモノリシックであってもよいし、複合材料であってもよい。界面膜が複合材料である場合、それは、交差セグメント23int内の発光スペクトル帯域において十分に透明であると考えられる材料と、交差セグメントの外側の別の材料、例えば、銅又はアルミニウムのような非常に良好な熱伝導体とを含んでもよい。
【0042】
図3Aは、液体2が流れるダクト5に上述のような装置1を適用し得る1つの可能な方法を概略的に示す。界面膜23は、液体と空洞との間の境界面において、ダクト内の開口部に配置される。
図3Bは、中央面を示す
図3Aの切断図である。
【0043】
図2に示す例では、界面膜23は、開口されていない。
図4に示す1つの可能性によれば、界面膜23は、膜を貫通して延伸する複数の貫通開口23
oを備える。好ましくは、貫通開口の半径は、5μm~50μm、好ましくは、20μm~30μmである。有利には、開口部は、例えば、疎水処理によって機能化され、膜を通した液体の通過を防止する。このような構成により、空洞の媒体と空気の間の境界面で、各開口部において生成される光音響波を利用することができる。この可能性によれば、貫通開口23
oが界面膜を通した入射光ビームの伝搬を妨げないように、膜23の交差セグメント23
intは、好ましくは開口されない。
【0044】
図4の構成では、膜が良好な熱伝導体であることが有利であるが、必須ではない。したがって、本実施形態では、膜は、多数の開口部を含むポリマーであってもよい。
【0045】
周期的な照明の効果の下で、媒体2及び空洞20内で、横軸Zに沿った位置の関数としての熱振動の振幅をシミュレートした。
図5は、軸Zに平行な軸に沿ったz位置の関数としての熱振動の振幅(y軸-単位Km
2)を示す。その軸は、空洞及び膜に対して中心をなす。この軸は、
図1において一点鎖線で表される。位置z<0は、分析対象媒体2に対応する。位置z>0は、装置に対応する。座標z=0は、媒体/装置の境界面に対応する。まず、膜のない装置を考慮し、対応する結果を曲線a)にプロットした。次に、厚さ50μmの膜23を考慮した。モデリングパラメータは以下の通りである:
-サンプル:温度25℃の水、厚さ1mmより大きい、
-照射ビーム:周波数100Hz、波数1035cm
-1で変調された出力10mWのレーザー光源、
-膜構成:反射防止処理なしのSi(曲線b)又はGe(曲線c)。
【0046】
図5では、Si又はGe膜に対応する曲線は、ほぼ一致している。
【0047】
図6は、光音響波を代表する音響検出器(y軸-ユニットV)で測定した信号の振幅の変化を変調周波数(x軸-Hz)の関数として示す。
【0048】
図5は、光熱効果、すなわち、レーザービームによる分析対象媒体の加熱が界面膜から100μm未満の深さで起こることを示す。さらに、膜厚において温度安定性が観察された。これは、SiとGeの大きな熱拡散距離によるものである。これは、これらの材料が界面膜を形成するのに適していることを確認する。さらに、SiとGeについて得られた非常に類似した値は、これら2つの材料の赤外線における良好な光透過特性に起因する。
【0049】
図6は、100Hzの変調周波数において、膜なしの構成(
図6の曲線a)と比較して、膜の存在下(
図6の曲線b及びc)で、光音響波の振幅が約10倍減衰することを示す。界面膜によって誘起される減衰は、光ビーム11が界面膜を通して伝搬する際、特に、内面23
i及び外面23
eでの反射の効果に起因する。これらの不要な反射は、これら2つの表面に反射防止処理を施すことによって回避すればよい。発明者らは、内面及び外面に反射防止処理を施すことによって、光音響圧力波の振幅が約4倍増大する可能性があると推定する。
【0050】
膜なし、Si膜、及びGe膜というモデル化された3つの構成すべてにおいて、変調周波数が増大するにつれて光音響波の振幅が減少することに留意されたい。これは、周波数が増大するにつれて、膜及び空気中の熱拡散距離が減少するという事実による。
図6では、曲線a(膜なし)と曲線b)及びc)(Si膜又はGe膜)との差は、変調周波数が増大するにつれて増大することが分かる。したがって、変調周波数は比較的低い、例えば、100Hz以下又は数百Hz以下であることが好ましい。膜は、光音響波に対するローパスフィルタとして作用する。
【0051】
界面膜23は、空洞から独立して製造され、空洞に取り付けられてもよい。それは、取り外し可能であってもよい。
【0052】
1つの可能性によれば、空洞は、2つの基板を組み立てることによって得られる。第1基板101は、空洞の一部と界面膜23を形成するようにエッチングされる。
図7Aを参照。界面膜23のレベルでは、基板は、所望の厚さの膜を得るように薄くされる。第2基板102は、空洞の相補的な部分と、任意に遠位膜24を形成するようにエッチングされる。
図7Bを参照。基板101及び102は、一方で界面膜23によって、他方で遠位膜24によって境界が定められる空洞を形成するように、互いにシールされる。
図7Cを参照。
【0053】
装置は、分析対象媒体と膜との間の境界面を越えて延伸するように構成される生体適合性材料を備えてもよい。生体適合性材料は、長期的な生体適合性が保証され、分析対象媒体によって膜に伝達される熱の最適な伝達が可能となるように選択される。生体適合性材料は、金属、例えば、アルミニウム又は銅であってもよい。そして、その厚さは、1μm未満又は1μm程度であってもよい。生体適合性材料は、プラスチックであってもよく、その場合、その厚さは、数十ミクロン又は数百ミクロンである。
【0054】
本発明は、媒体、特に、液体媒体又はゲル中の対象分子の濃度を測定するために使用される可能性がある。本発明の用途は、健康分野だけでなく、食品産業、製薬産業、又は化学産業などの産業分野にも関係する。
【国際調査報告】