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特表2024-546389官能化シリル化ポリマーを含む組成物、硬化組成物、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-20
(54)【発明の名称】官能化シリル化ポリマーを含む組成物、硬化組成物、及び方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20241213BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20241213BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241213BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241213BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241213BHJP
   C08C 19/25 20060101ALI20241213BHJP
   C08F 36/04 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
C08C19/25
C08F36/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539423
(86)(22)【出願日】2022-12-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-25
(86)【国際出願番号】 US2022082529
(87)【国際公開番号】W WO2023130005
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】63/266,190
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タマン,セム
(72)【発明者】
【氏名】アフメド,シャミー
(72)【発明者】
【氏名】チソルム,ブレット ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AC01X
4J002AC03X
4J002AC08X
4J002AC11W
4J002DA036
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD20W
4J002GN01
4J100AB02Q
4J100AS02P
4J100CA31
4J100HA61
4J100HB17
4J100HB61
4J100HC79
4J100HE05
4J100HG31
4J100HG32
4J100JA29
(57)【要約】
【解決手段】 シリル基及び官能基を含むグラフト化剤で修飾されたポリジエンポリマーに由来するシリル化ポリマーを含むポリマー組成物。ポリマー組成物は、シリル化ポリマーは、改善された特性を有するタイヤなどのその硬化生成物を提供するのに役立つ、硬化可能なゴムブレンドである。組成物及びタイヤ構成要素などの硬化生成物を調製するための方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性ポリマー組成物であって、
シリル化ポリジエンポリマーであって、i)ポリジエンと、ii)以下の式:
【化1】
(式中、nは、0~150の整数であり、各Rは、個々に、水素原子、ハロゲン原子、Fg、若しくは一価の有機基であるか、又は2つ以上のR基が一緒になって結合若しくは多価の有機基を形成するが、但し、少なくとも1つのRが水素原子であることを条件とし、
Fgは、式CH=C(R)(R)(式中、R及びRのうちの少なくとも1つは、水素結合、フィラーとの化学反応、又はポリマーのグラフト化に関与し得る官能基を有し、R及びRのうちの1つは、水素原子又は有機基であり得る)を有する化合物に由来する)、あるいは、
【化2】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、Fg、又は一価の有機基であり、Fgは、上で定義した通りであり、nは、2~5である)、
を有する、シリル化グラフト化剤と、の反応生成物を含む、シリル化ポリジエンポリマーと、
天然ゴム、スチレン-ブタジエンコポリマー、及びポリ(1,3-ブタジエン)のうちの1つ以上を含む非シリル化ポリジエンポリマーと、
カーボンブラック及びシリカのうちの1つ以上を含むフィラーと、を含む、硬化性ポリマー組成物。
【請求項2】
前記シリル化ポリジエンポリマーが、a)ブタジエンと、芳香族ビニル化合物及び共役ジエンのうちの1つ以上であるコモノマーとのコポリマー、並びにb)ポリ(1,3-ブタジエン)のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル化合物が、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、スチルベン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルピリジン、1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼン、若しくは1,4-ジビニルベンゼン、又はこれらの組み合わせであり、前記芳香族ビニル化合物が、前記コポリマーの総モノマー含有量の0~50重量%を構成し、前記共役ジエンが、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、2-メチル-2,4-ペンタジエン、シクロペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、若しくは1,3-シクロオクタジエン、又はこれらの組み合わせである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記コポリマーが、スチレン-ブタジエンコポリマー、ポリ(ブタジエン)ホモポリマー、ブタジエン-イソプレンコポリマー、又はスチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマーであり、スチレン含量が、前記コポリマーの総モノマー含量の5~50重量%である、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記フィラーが、前記シリル化ポリジエンポリマー及び前記非シリル化ポリジエンポリマーの合計100重量部に基づいて、約1重量部~約110重量部の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記非シリル化ポリジエンポリマーが、ブチルゴム、ポリブタジエン、合成ポリイソプレン、ポリイソプレン及びエチレン-ジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、ブタジエン-イソプレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマー、並びにエチレン-ブタジエンコポリマーのうちの1つ以上を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記シリル化ポリジエンポリマーが、前記シリル化ポリジエンポリマー及び前記非シリル化ポリジエンポリマーの合計100重量部に基づいて、約10重量部~約75重量部の量で存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記非シリル化ポリジエンポリマーが、2つ以上の異なるポリマーを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記非シリル化ポリジエンポリマーが、ブチルゴム、ポリ(ブタジエン)、天然ゴム、及びスチレン-ブタジエンコポリマーを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記シリル化ポリジエンポリマーが、前記シリル化ポリジエンポリマー及び前記非シリル化ポリジエンポリマーの合計100重量部に基づいて、約15重量部~約50重量部の量で存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記シリル化ポリジエンポリマーが、約50ppm~約2000ppmで変動する主鎖グラフト化窒素含有官能基濃度を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記フィラーが、全ポリマー100重量部に基づいて約1重量部~約120重量部の量のシリカを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリマーが、約75,000g/mol~約1,000,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリマーが、約75,000g/mol~約1,000,000g/molの数平均分子量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物を含む、タイヤ。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載のポリマー組成物を硬化させることによって得られる、硬化ポリマー組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の加硫ポリマー組成物から形成される少なくとも1つの構成要素を含む、物品。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項に記載の硬化性ポリマー組成物を硬化させるための方法であって、
前記ポリマー組成物を得るステップと、
硬化剤を利用して、前記ポリマー組成物を硬化させるステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリル基及び官能基を含むグラフト化剤で修飾されたポリジエンポリマーに由来するシリル化ポリマーを含むポリマー組成物に関する。ポリマー組成物は、好ましくは、シリル化ポリマーが、フィラーの分散、より低い転がり抵抗、及び改善されたスノートラクションを含む改善された特性を有する、タイヤなどのその硬化生成物を提供するのに役立つ、硬化可能なゴムブレンドである。組成物及びタイヤ構成要素などの硬化生成物を調製するための方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
官能化の方法論としてのヒドロシリル化は、非常によく研究されており、広範な工業的用途が見出されている。それは、ポリマー上にシラン官能基を組み込む容易な方法を提供する。シリル化ポリマーは、硬化ポリマー及びゴム組成物を生成するために利用されてきた。
【0003】
国際公開第2015/091020号は、好適な触媒の存在下における不飽和とエポキシド官能基を有するヒドロシランとのヒドロシリル化反応による、ポリマー鎖に沿ってエポキシド基を含む修飾ポリマーを合成するための方法に関する。官能性ポリマー及びそれを含有する架橋性組成物についてもまた、説明されている。
【0004】
米国特許第9,315,600号は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として使用して、共役ジエン化合物及び窒素原子含有ビニル化合物、又は共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及び窒素原子含有ビニル化合物を共重合することによって、ポリマー鎖中の窒素原子及び活性末端を含有する共役ジエンポリマーを得る重合ステップと、修飾剤を反応させる修飾ステップと、を含む、修飾共役ジエンポリマーを生成するための方法に関する。
【0005】
米国特許出願公開第2016/0369015号は、骨格修飾エラストマーポリマー、そのような修飾ポリマーを含むポリマー組成物、加硫ポリマー組成物の調製におけるそのような組成物の使用、及びそれから調製される物品に関する。修飾ポリマーは、報告によれば、ヒステリシス損失の比較的低い、加硫された、すなわち架橋されたエラストマー組成物の調製において有用である。このような加硫組成物は、報告によれば、他の物理的及び化学的特性、例えば、耐摩耗性及び引張強度と併せて、発熱性が低く、転がり抵抗性が低く、ウェットグリップ及びアイスグリップが良好な、タイヤトレッドを含む多くの物品において有用である。更に、未加硫ポリマー組成物は、加工性を呈することが報告されている。
【0006】
欧州特許第3394119号は、以下の式(I):*-SiR1R2-A-B(式中、A及びBは、非ヒドロシリル化類似体HABの融点が70℃未満になるようなものである)のペンダント基を担持する鎖に沿って分布するジエンに由来する単位を含み、エラストマーの総重量に対して10~40重量%の式(I)のペンダント基を含むことを特徴とするジエンエラストマーに関する。そのようなジエンエラストマーを調製するプロセス、それを含む組成物、特にタイヤ用ゴム組成物が開示される。
【発明の概要】
【0007】
上記に鑑みて、当技術分野では、ポリマーの骨格に組み込まれた複数の官能基を含むシリル化ポリジエンポリマーを含む硬化性ポリマー組成物が依然として必要とされている。組成物が硬化すると、フィラーの分散、より低い転がり抵抗、及び改善されたスノートラクションなどの改善された特性が提供される。改善された化合物性能を有する硬化組成物のためのテンプレートが提供される。
【0008】
好ましい実施形態における本発明の組成物は、シリル化ポリジエンポリマーと、少なくとも1つの非シリル化ポリジエンポリマーと、を含む、ポリマーブレンドを含む。他の実施形態では、シリル化ポリジエンポリマー及び少なくとも1つの非シリル化ポリジエンポリマーは、同じモノマーに由来する。例えば、一実施形態では、シリル化ポリジエンポリマーは、スチレン及びブタジエンに由来する繰り返し単位を含む。同様に、非シリル化ポリジエンポリマーも、スチレン及びブタジエンに由来する繰り返し単位を含む。
【0009】
一実施形態では、シリル化ポリジエンポリマーは、シリル化ポリジエンポリマー及び非シリル化ポリジエンポリマーの総重量に基づいて少量(重量)しか存在しない。他の実施形態では、その逆も真であり、非シリル化ポリジエンポリマーは、非シリル化ポリジエンポリマーと同じモノマー単位に由来するシリル化ポリジエンポリマーと比較して少量で存在する。更に他の実施形態では、ポリマー組成物は、同じモノマー単位に由来する等量のシリル化ポリジエンポリマー及び非シリル化ポリジエンポリマーを含む。
【0010】
追加の実施形態では、本発明のポリマー組成物及びそれを含む硬化生成物は、異なるポリマー、例えば、2つ以上のポリマー又は3つ以上のポリマーなどのブレンドに由来し、ポリマーのうちの少なくとも1つは、シリル化ポリジエンポリマーである。シリル化ポリジエンポリマーは、ペンダント官能基、いくつかの実施形態では、好ましくは極性であるペンダント官能基を担持するので、シリル化ポリジエンポリマーを含まない同じ組成物と比較して、組成物について改善されたフィラー分散が得られる。利用されるポリマーは各々、例えば、硬化生成物がタイヤトレッドを含む場合、硬化生成物に望ましい特性、例えば、上で言及されるようなより低い転がり抵抗及び改善されたスノートラクションを与える。いくつかの好ましい実施形態では、ポリマー組成物は、天然ゴム、ポリ(ブタジエン)、イソブテンとイソプレンとのコポリマー(ブチルゴム)、及びスチレン-ブタジエンコポリマーを含み、ポリマーのうちの少なくとも1つは、シリル化されたその少なくとも一部を含む。
【0011】
硬化後、シリル化ポリジエンポリマーを含む本発明のポリマー組成物を含む生成物は、シリル化ポリジエンポリマーを含まない硬化ポリマー組成物と比較して、以下の特性:100℃で1日間エージングした試料について、改善されたペイン効果(ΔG’)、60℃でのTan δ、並びに室温及び100℃での改善されたM300のうちの1つ以上を呈する。ポリマー組成物がカーボンブラック及びシリカのうちの1つ以上であるフィラーを含む場合、注目される性能の改善が増強される。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、i)ポリジエンとii)以下の式を有するシリル化グラフト化剤との反応生成物を含むシリル化ポリジエンポリマーと:
【化1】
(式中、nは、0~8、25、又は150の整数であり、各Rは、個々に、水素原子、ハロゲン原子、Fg、若しくは一価の有機基であるか、又は2つ以上のR基が一緒になって結合若しくは多価の有機基を形成するが、但し、少なくとも1つのRが水素原子であることを条件とし、
Fgは、式CH=C(R(R)(式中、R及びRのうちの少なくとも1つは、水素結合、フィラーとの化学反応、又はポリマーのグラフト化に関与し得る官能基を有し、R1及びRのうちの1つは、水素原子又は有機基であり得る)を有する化合物に由来し、好ましい一実施形態では、化合物は、式CH=CHCHX-R(式中、Xは、O、S、又はNであり、Rは、3~100個の繰り返し基を有するポリエチレンオキシドである、又はXがNである場合にはピペリジンに由来する、又はXがNである場合にはビス(トリメチルシリル)アミンに由来する)を有する)、又は
【化2】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、Fg、又は一価の有機基であり、Fgは、上で定義した通りであり、nは、2~5である)
天然ゴムを含む非シリル化ポリジエンポリマーと、カーボンブラック及びシリカのうちの1つ以上を含むフィラーと、を含む硬化性ポリマー組成物が開示される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
硬化性ポリマー組成物、硬化組成物、及び硬化性ポリマー組成物を用いて形成された硬化生成物は、i)ポリジエンとii)以下の式を有するシリル化グラフト化剤との反応生成物を含むシリル化ポリジエンポリマーと:
【化3】
(式中、nは、0~8、25、又は150の整数であり、各Rは、個々に、水素原子、ハロゲン原子、Fg、若しくは一価の有機基であるか、又は2つ以上のR基が一緒になって結合若しくは多価の有機基を形成するが、但し、少なくとも1つのRが水素原子であることを条件とし、Fgは、式CH=C(R)(R)(式中、R及びRのうちの少なくとも1つは、水素結合、フィラーとの化学反応、又はポリマーのグラフト化に関与し得る官能基を有し、R及びRのうちの1つは、水素原子又は有機基であり得る)を有する化合物に由来し、好ましい一実施形態では、化合物は、式CH=CHCHX-R(式中、Xは、O、S、又はNであり、Rは、3~100個の繰り返し基を有するポリエチレンオキシドである、又はXがNである場合にはピペリジンに由来する、又はXがNである場合にはビス(トリメチルシリル)アミンに由来する)を有する)、又は
【化4】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、Fg、又は一価の有機基であり、Fgは、上で定義した通りであり、nは、2~5である)
天然ゴム、スチレン-ブタジエンコポリマー、及びポリ(1,3-ブタジエン)のうちの1つ以上を含む非シリル化ポリジエンポリマーと、フィラーと、
を含む。シリル化ポリジエンポリマーを生成するためにポリジエンポリマーにグラフトされるグラフト化剤は、ケイ素原子を有することに加えて、官能基、一実施形態では、好ましくは極性である官能基を含み、これにより、組成物ブレンド内のフィラーの相互作用を改善し、硬化組成物において特性を改善することができる。
【0014】
シリル化ポリジエンポリマー
【0015】
シリル化グラフト化剤の合成
【0016】
シリル化グラフト化剤は、シロキサンと、二重結合の1個の炭素原子が置換されているビニル基を有する化合物、いくつかの実施形態では好ましくは不活性雰囲気中において金属触媒の存在下で反応するアリル基を含む極性化合物とに由来する。
【0017】
シロキサン
【0018】
本発明での使用に好適なシロキサンは、異なるケイ素原子に共有結合している少なくとも2個の水素原子を含むことを特徴とする。第1の水素原子は、二重結合の1個の炭素原子が置換されているビニル基を有する化合物、いくつかの実施形態では好ましくはアリル基を含む極性化合物との反応に関与し、第2の水素原子は、ポリマーとのヒドロシリル化反応に関与する。1つ以上の実施形態では、シロキサンは、以下の式によって定義される:
【化5】
(式中、nは、0~8、25、又は150の整数であり、各Rは、個々に、水素原子、ハロゲン原子、若しくは一価の有機基であるか、又は2つ以上のR基が一緒になって結合若しくは多価の有機基を形成するが、但し、各シロキサンが、異なるケイ素原子に結合している水素原子である少なくとも2つのR基を含有することを条件とする。好ましい実施形態では、nは、0である。1つ以上の実施形態では、nは、1~4である。)あるいは
【化6】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基であり、nは、2~5である)。
【0019】
具体的なシロキサンの非限定的な例としては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(TMDS)、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7-オクタアルキルテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラエチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタエチルテトラシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7-オクタアルキルテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、及び2,4,6-トリメチルシクロトリシロキサンが挙げられる。
【0020】
ビニル基を有する化合物
【0021】
グラフト化剤を合成するために、二重結合の1個の炭素原子が置換されているビニル基を有する化合物が利用される。一実施形態では、化合物は、反応条件下でシロキサンと反応するアリル基を含む極性化合物である。一実施形態では、化合物は、式CH=C(R)(R)(式中、R及びRのうちの少なくとも1つは、水素結合、フィラーとの化学反応、又はポリマーのグラフト化に関与し得る官能基を有し、R及びRのうちの1つは、水素原子又は有機基であり得る)を有する。好ましい実施形態では、極性化合物は、式:CH=CHCH-XR(式中、Xは、O、S、又はNであり、Rは、3~100個の繰り返し基を有するポリエチレンオキシドである)を有する。別の好ましい実施形態では、極性化合物は、ピペリジンに由来する。更に別の好ましい実施形態では、極性化合物は、ビス(トリメチルシリル)アミンに由来する。
【0022】
グラフト化剤触媒
【0023】
ヒドロシリル化反応を利用する触媒は、有機金属化合物、塩、又は金属から選択され、金属は、例えば、以下に教示されているようなNi、Ir、Rh、Ru、Os、Pd、及びPt化合物である:米国特許第3,159,601号、米国特許第3,159,662号、米国特許第3,419,593号、米国特許第3,715,334号、米国特許第3,775,452号、及び米国特許第3,814,730号(これらは、参照により全体が本明細書に組み込まれる)。好ましい一実施形態では、触媒は、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)である。触媒は、任意の通常の形態で反応混合物に添加され得るが、好ましくは溶媒中の溶液の形態である。
【0024】
溶媒
【0025】
グラフト化剤を形成する反応は、好適な溶媒(複数可)中で行われ得る。好適な有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が挙げられる。好適な芳香族炭化水素溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ナフタレン、メシチレン、キシレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。好適な脂肪族炭化水素溶媒の例としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、イソペンタン、イソオクタン、2,2-ジメチルブタン、石油エーテル、ケロシン、石油スピリットなどが挙げられるが、これらに限定されない。好適な脂環式炭化水素溶媒の非限定的な例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。更なる他の好適な溶媒としては、テトラヒドロフランなどの極性非プロトン性溶媒が挙げられる。前述の芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、及び脂環式炭化水素溶媒、及び極性非プロトン性溶媒の混合物を使用することができる。ある特定の実施形態では、好ましい有機溶媒としては、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、又はこれらの混合物が挙げられる。グラフト化剤の形成に使用するのに好適な更なる有用な有機溶媒は、当業者に既知である。
【0026】
グラフト化剤の合成
【0027】
好適な反応容器に、所望量のシロキサンと、二重結合の1個の炭素原子が置換されているビニル基を有する化合物と、を充填する。1つ以上の実施形態では、シロキサンは、極性化合物に対して、一般に、1:1超~約5:1、望ましくは1.25:1超~約4:1、好ましくは約1.5:1~約2.5:1の範囲のモル比で使用され、2:1が最も好ましい。1つ以上の実施形態では、反応は本質的に発熱性であるので、反応容器を冷却する。その後、触媒、好ましくは一実施形態では好適な溶媒に溶解させた触媒を容器に加える。1つ以上の実施形態では、不活性雰囲気が利用される。好ましくは、反応混合物は、反応中に撹拌されるか、又は他の方法で混合される。反応混合物を、室温などの温度又は約25℃~約100℃の温度まで、約3~約5時間などの期間にわたって加温する。Hガスの過剰な蓄積を防止するために、反応中は、反応容器を通気させる。
【0028】
所望される場合、金属触媒を除去し、粗生成物を精製するために追加のステップを実施することができる。例えば、反応後に、活性炭を反応混合物に添加し、ある期間、例えば、いくつかの実施形態では、約1時間撹拌することができる。次いで、溶離液として炭化水素系溶媒、例えば、無水ペンタンを用いて、塩基性アルミナのパッドに混合物を通すことができる。溶離液を更に処理し、真空下で濃縮して、シリル化グラフト化剤を得ることができる。
【0029】
シリル化グラフト化剤
【0030】
得られるシリル化グラフト化剤は、以下の式を有する:
【化7】
(式中、各R及びnは、上で定義した通りであるが、但し、少なくとも1つのRが水素原子であることを条件とし、Fgは、式CH=C(R)(R)(式中、R及びRのうちの少なくとも1つは、水素結合、フィラーとの化学反応、又はポリマーのグラフト化に関与し得る官能基を有し、R及びRのうちの1つは、水素原子又は有機基であり得る)を有する化合物に由来し、好ましい一実施形態では、化合物は、式CH=CHCHX-R(式中、Xは、O、S、又はNであり、Rは、3~100個の繰り返し基を有するポリエチレンオキシドである、又はXがNである場合にはピペリジンに由来する、又はXがNである場合にはビス(トリメチルシリル)アミンに由来する)を有する)、あるいは
b)
【0031】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基であり、Fgは、上で定義した通りであり、nは、2~5である)。
【0032】
グラフト化剤によるポリマーのヒドロシリル化
【0033】
本発明のグラフト化ポリマーは、ポリジエンポリマーと、本明細書において説明されるシリル化グラフト化剤と、の反応生成物である。ペンダントケイ素原子をポリマーに付加することに加えて、グラフト化剤は、本明細書において説明される官能基も含む。
【0034】
ポリマーは、ポリマーの主鎖上の1つ以上の場所にペンダント基又は不飽和を含む。本明細書で利用される場合、「グラフト」などの用語は、グラフト化剤のヒドロシリル化によるグラフト化から生じる、ポリマーの主鎖に固定されたペンダント基又は側基を意味すると理解されるべきである。したがって、本発明によれば、グラフト化剤のヒドロシランは、ヒドロシリル化によってポリジエンポリマーの不飽和と反応する。
【0035】
ポリジエンポリマー
【0036】
本明細書で利用される場合、「ポリマー」という用語は、ホモポリマー、すなわち同じモノマーから形成されるポリマー、並びにコポリマー、すなわち2つ以上の異なるモノマーから形成されるポリマーとして定義される。
【0037】
本発明において骨格修飾に付される非グラフト化ポリマーは、ジエンのホモポリマー、又は第1のジエンモノマーと、第2のジエンモノマー及び芳香族ビニル化合物から選択される1つ以上の第2のコモノマーとのコポリマーである。
【0038】
好適なジエンの例としては、(1,3-ブタジエン);イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)などの2-(C1~C5アルキル)-1,3-ブタジエン;2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、2-メチル-2,4-ペンタジエン、シクロペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、及び1,3-シクロオクタジエンが挙げられるが、これらに限定されない。上記のように、2つ以上の共役ジエンを併用してポリマーを形成することができる。1つ以上の実施形態では、ブタジエンはポリジエン中に存在する。
【0039】
ポリマーに使用するのに好適な芳香族ビニル化合物の例としては、モノビニル芳香族化合物、すなわち芳香族基に結合している1つのビニル基を有する化合物、及び芳香族基に結合している2つ以上のビニルを有するジ-又はそれ以上のビニル芳香族化合物が挙げられる。例示的な芳香族ビニル化合物としては、スチレン;2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、及び4-tert-ブチルスチレンなどのC1~C4アルキル置換スチレン;スチルベン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルピリジン;並びに1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼン、及び1,4-ジビニルベンゼンなどのジビニル芳香族化合物が挙げられる。2つ以上の芳香族ビニル化合物が、組み合わせて使用され得る。好ましい芳香族ビニル化合物はモノビニル芳香族化合物であり、より好ましくはスチレンである。
【0040】
いくつかの実施形態では、芳香族ビニル化合物は、ポリマーの総モノマー含有量の5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%を構成する。
【0041】
好ましいポリジエンポリマーとしては、スチレン-ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber、SBR)、ポリ(ブタジエン)、ブチルゴム(butyl rubber、BR)、及びイソプレンゴム(isoprene rubber、IR)が挙げられる。
【0042】
本発明で使用するのに好適なポリマーは、当業者に周知の従来の添加剤を利用する従来の重合技術に従って得ることができる。ポリマーは、例えば、ブロック、ランダム、逐次又はマイクロ逐次であり得、例えば、分散液、エマルジョン、又は溶液中で調製され得る。
【0043】
重合は、バッチ、連続、又は半連続条件下で行うことができる。重合プロセスは、好ましくは、得られるポリマーが反応混合物に実質的に可溶性である溶液重合として、又はポリマーが反応媒体に実質的に不溶性である懸濁/スラリー重合として行われる。重合溶媒としては、開始剤、触媒、又は活性ポリマー鎖を失活させない炭化水素溶媒が従来使用されている。
【0044】
ポリマーのヒドロシリル化
【0045】
本発明の重要な態様において、グラフト化剤のポリマーへのグラフト化は、ポリマーを調製するために利用される重合溶媒中で行うことができる。この方法を利用する場合、グラフト化剤との反応前にポリマーを乾燥させ、続いて再溶媒和させる必要がないので、時間及び費用の両方の節約になる。
【0046】
好ましくは、ポリマー鎖末端の大部分、すなわち50%超、特に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%が、グラフト化剤の添加前に終端される、すなわち、リビングポリマー鎖末端は、好ましくは存在せず、グラフトと反応することができない。ポリマー鎖末端の終端は、カップリング剤、クエンチング剤、若しくは連鎖停止剤の作用によって、鎖末端の官能化によって、又は重合プロセスにおける不純物などの他の手段によって、又は鎖間若しくは鎖内反応によって影響を受け得る。
【0047】
1つ以上の実施形態では、クエンチング剤は、リビングポリマーの鎖末端をプロトン化することができる。クエンチング剤としては、プロトン性化合物を挙げることができ、これには、アルコール、カルボン酸、無機酸、水、又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどの酸化防止剤は、クエンチング剤の添加と一緒に、添加する前に、又は添加した後に、添加され得る。ある特定の実施形態では、クエンチング剤及び/又は酸化防止剤は、ヒドロシリル化反応への干渉を制限するように選択される。用いられる酸化防止剤の量は、ポリマーの重量に対して0.2重量%~1重量%の範囲であり得る。
【0048】
1つ以上の実施形態では、リビングポリマーは、ポリマーの末端に官能基を付与し、それによって、得られるポリマーに少なくとも1つの追加の官能基を担持させる化合物で終端させることができる。
【0049】
有用な停止剤としては、当技術分野において従来用いられているものが挙げられる。リビングポリマーの末端官能化に使用されている化合物の非限定的な例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,109,871号、同第3,135,716号、同第5,332,810号、同第5,109,907号、同第5,210,145号、同第5,227,431号、同第5,329,005号、同第5,935,893号に開示されているものも含めて、二酸化炭素、ベンゾフェノン、ベンズアルデヒド、イミダゾリドン、ピロリジノン、カルボジイミド、尿素、イソシアネート、及びシッフ塩基が挙げられる。追加の例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,519,431号、同第4,540,744号、同第4,603,722号、同第5,248,722号、同第5,349,024号、同第5,502,129号、及び同第5,877,336号に開示されているような、塩化トリブチルスズなどのトリアルキルスズハロゲン化物が挙げられる。他の例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,786,441号、同第5,916,976号、及び同第5,552,473号に開示されているような、ヘキサメチレンイミンアルキルクロリドなどの環状アミノ化合物が挙げられる。他の例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,677,165号、同第5,219,942号、同第5,902,856号、同第4,616,069号、同第4,929,679号、同第5,115,035号、及び同第6,359,167号に開示されているようなN-メチル-2-ピロリドン又はジメチルイミダゾリジノン(すなわち、1,3-ジメチルエチレン尿素)も含めて、N-置換アミノケトン、N-置換チオアミノケトン、N-置換アミノアルデヒド、及びN-置換チオアミノアルデヒドが挙げられる。追加の例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2006/0074197(A1)号、米国特許公開第2006/0178467(A1)号、及び米国特許第6,596,798号に開示されているような環状硫黄含有又は酸素含有アザヘテロ環が挙げられる。他の例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,598,322号に開示されているようなホウ素含有停止剤が挙げられる。更に他の例としては、参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の米国特許公開第2007/0149744(A1)号に開示されているものも含めて、ヘキサメチルシクロトリシロキサンなどの環状シロキサンが挙げられる。更に、他の例としては、参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の米国特許公開第2007/0293620(A1)号及び同第2007/0293620(A1)号に開示されているものも含めて、1-(3-ブロモプロピル)-2,2,5,5-テトラメチル-1-アザ-2,5-ジシラシクロペンタンなどのα-ハロ-ω-アミノアルカンが挙げられる。更なる例としては、γ-メルカプト-プロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシランが挙げられる。なお更なる例としては、3-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル-メチルジエトキシシラン及び3-(1,3-ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。追加の停止剤としては、塩化トリメチルシリル(TMSCI)などであるがこれらに限定されないトリアルキルシリルハロゲン化物、塩化トリフェニルシリルなどであるがこれらに限定されないトリアリールシリルハロゲン化物、並びにtert-ブチルジフェニルシリルクロリド、トリス(ジメチルアミノ)クロロシラン、及び3-シアノプロピルアミノジメチルクロロシランなどのアルキル-アリールシリルハロゲン化物の混合物が挙げられる。停止剤の前述のリストは、限定として解釈されるべきではなく、むしろ可能であると解釈されるべきである。停止剤を用いることができるが、本発明の実施は、具体的な剤又はそのような化合物のクラスに限定されるものではない。
【0050】
1つ以上の実施形態では、リビングポリマーをカップリングして、2本以上のリビングポリマー鎖を互いに連結させることができる。ある特定の実施形態では、カップリング及び停止剤の両方で、リビングポリマーを処理することができ、これらは、一部の鎖をカップリングし、他の鎖の重合を停止させる働きをする。カップリング剤と停止剤との組み合わせは、様々なモル比で使用することができる。カップリング及び停止剤という用語を本明細書において用いてきたが、当業者であれば、ある特定の化合物が、両方の機能に役立ち得ることを理解する。つまり、ある特定の化合物は、ポリマー鎖を結合すること、及び官能基とともにポリマー鎖を提供することの両方を行い得る。当業者はまた、ポリマー鎖を結合する能力はポリマー鎖と反応したカップリング剤の量に依存し得ることを理解する。例えば、反応開始剤におけるリチウムなどの金属の当量とカップリング剤における脱離基(例えば、ハロゲン原子)の当量との比が1対1でカップリング剤を添加する場合、有利な結合を達成することができる。カップリング剤の非限定例としては、金属ハライド、半金属ハライド、アルコキシシラン、及びアルコキシスタンナンが挙げられる。
【0051】
1つ以上の実施形態では、金属ハライド又は半金属ハライドは、式(1)R*(4-n)、式(2)M、及び式(3)M(式中、各R*は、独立して、1~20個の炭素原子を有する一価の有機基であり、Mは、スズ原子、ケイ素原子、又はゲルマニウム原子であり、Mは、リン原子であり、Yは、ハロゲン原子であり、nは、0~3の整数である)によって表される化合物を含む群から選択され得る。
【0052】
式(1)によって表される代表的な化合物としては、ハロゲン化有機金属化合物が挙げられ、式(2)及び(3)によって表される化合物としては、ハロゲン化金属化合物が挙げられる。
【0053】
がケイ素原子を表す場合、式(1)によって表される化合物は、例えば、トリフェニルクロロシラン、トリヘキシルクロロシラン、トリオクチルクロロシラン、トリブチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジヘキシルジクロロシラン、ジオクチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、メチルトリクロロシランなどであり得る。更に、式(2)によって表される化合物としては、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素等を例示することができる。
【0054】
がゲルマニウム原子を表す場合、式(1)によって表される化合物は、例えば、トリフェニルゲルマニウムクロリド、ジブチルゲルマニウムジクロリド、ジフェニルゲルマニウムジクロリド、ブチルゲルマニウムトリクロリドなどであり得る。更に、式(2)によって表される化合物としては、ゲルマニウムテトラクロリド、ゲルマニウムテトラブロミド等を例示することができる。式(3)で表される化合物としては、リンテトラクロリド(Phosphorous trichloride)、リンテトラブロミド(phosphorous tribromide)などを例示することができる。1つ以上の実施形態では、金属ハロゲン化物及び/又は半金属ハロゲン化物の混合物を使用することができる。
【0055】
1つ以上の実施形態では、アルコキシシラン又はアルコキシスタンナンは、式(4)R*(OR^)4-n(式中、各R*は、独立して、1~20個の炭素原子を有する一価の有機基であり、Mは、スズ原子、ケイ素原子、又はゲルマニウム原子であり、OR^は、アルコキシ基であり、R^は、一価の有機基であり、nは、0~3の整数である)によって表される化合物を含む群から選択され得る。
【0056】
式(4)によって表される代表的な化合物としては、テトラエチルオルトシリケート、テトラメチルオルトシリケート、テトラプロピルオルトシリケート、テトラエトキシスズ、テトラメトキシスズ、及びテトラプロポキシスズが挙げられる。
【0057】
グラフト化剤の添加は、カップリング剤(使用される場合)の添加前、添加後、又は添加中、及び鎖末端修飾剤(使用される場合)の添加前、添加後、又は添加中、及び連鎖停止剤(使用される場合)の添加前、添加後、又は添加中に行われ得る。好ましくは、グラフト化剤は、カップリング剤、鎖末端修飾剤、及び連鎖停止剤のいずれかの添加後に添加される。
【0058】
グラフト化剤は、希釈せずに(未希釈)、ポリマー溶液(重合溶液)に直接添加され得るが、溶液中のグラフト化剤を添加することが有益であり得る。添加されるグラフト化剤の量は、モノマー種、グラフト化剤種、反応条件、及び所望の最終特性に応じて変化するが、一般に、溶媒を全く含まないポリマー(すなわち、未修飾ポリマー(ホモポリマー又はコポリマー))の重量に基づいて、約1重量%~約30重量%、望ましくは約2.5重量%~20重量%、好ましくは約5重量%~約15重量%である。
【0059】
ヒドロシリル化は、一般に、50℃~120℃、望ましくは50℃~100℃、好ましくは50℃~80℃の温度範囲で行うことができる。
【0060】
一般に、官能化反応の持続時間及びタイミングに制限はない。ポリマーは、当業者によって容易に確立されるように、好適な時間、一般に、約0.5時間~約10時間の範囲にわたってグラフト化剤と反応する。
【0061】
ヒドロシリル化触媒
【0062】
ヒドロシリル化反応は、当技術分野で既知の通りに行うことができ、通常、ヒドロシリル化触媒の存在下で行われる。2つ以上の触媒化合物が、組み合わせて使用され得る。グラフト化剤の生成について上で説明される触媒を利用することができ、触媒は、参照により本明細書に組み込まれる。1つ以上の実施形態では、好ましい触媒としては、カールシュテット触媒が挙げられる。触媒は、グラフト化剤の添加の前、後、又は同時に添加され得る。ヒドロシリル化触媒の総量は、グラフト化剤の量に依存する。ヒドロシリル化触媒の量が少ないと、グラフト化剤の転化率が低くなりすぎる場合があり、その量が多いと経済的に不利になる場合がある。
【0063】
重合/ヒドロシリル化溶媒
【0064】
本明細書で述べられるように、ポリジエンポリマーを形成するために利用されるモノマーの重合は、好ましくは溶媒中で行われる。1つ以上の実施形態では、ヒドロシリル化反応は、重合溶媒中で直接行われる。他の実施形態では、重合溶媒以外の溶媒又は重合溶媒に加えて、溶媒を利用することができる。
【0065】
溶媒の例としては、グラフト化剤の調製に関して上で説明される溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。当該溶媒は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
グラフト化ポリマー
【0067】
グラフト化の程度は、当業者に公知の方法で、様々な操作条件、例えば、グラフト化される分子の量、反応温度、及び反応時間を変えることによって調整することができる。
【0068】
グラフト化剤とポリジエンポリマーとの反応の結果、シロキサンに由来するケイ素原子に結合している官能基を有するペンダントグラフト、例えば、TDMSが得られる。
【0069】
より具体的には、ポリマーの骨格に結合しているペンダント基は、以下の式を有する:
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
(式中、R及びFgは、上記で定義した通りであり、*は、ポリマー鎖との結合点を示す)。
【0070】
一般に、鎖当たりのグラフト単位の平均数は、約0.25~約15、あるいは約2~約8である。官能基がエチレンオキシド単位を含む場合、主鎖へのエチレンオキシド単位のグラフト化は、一般に、約0.5重量%~約10重量%、好ましくは約0.6重量%~約4.5重量%の範囲であることが見出された。
【0071】
官能基が窒素原子を含む実施形態では、主鎖への窒素含有官能基のグラフト化は、一般に、約50ppm~約2200ppm N/鎖で変動する。
【0072】
実施形態では、ヒドロシリル官能化ポリジエンポリマーは、約75,000g/mol~約1,000,000g/molの重量平均分子量Mwを有し得る。実施形態では、官能化共役ジエンは、75,000g/mol以上、100,000g/mol以上、200,000g/mol以上、又は更には300,000g/mol以上の重量平均分子量Mwを有し得る。実施形態では、官能化共役ジエンは、1,000,000g/mol以下、800,000g/mol以下、600,000g/mol以下、又は更には400,000g/mol以下の重量平均分子量Mwを有し得る。実施形態では、官能化共役ジエンポリマーは、約75,000g/mol~約1,000,000g/mol、約75,000g/mol~約800,000g/mol、約75,000g/mol~約600,000g/mol、約75,000g/mol~約400,000g/mol、約100,000g/mol~約1,000,000g/mol、約100,000g/mol~約800,000g/mol、約100,000g/mol~約600,000g/mol、約100,000g/mol~約400,000g/mol、約200,000g/mol~約1,000,000g/mol、約200,000g/mol~約800,000g/mol、約200,000g/mol~約600,000g/mol、約200,000g/mol~約400,000g/mol、約300,000g/mol~約1,000,000g/mol、約300,000g/mol~約800,000g/mol、約300,000g/mol~約600,000g/mol、又は更には約300,000g/mol~約400,000g/mol、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲の分子量Mwを有し得る。重量平均分子量Mwは、THFを溶媒として用い、Tosoh Ecosec HLC-8320 GPCシステム及びTosoh TSKgel GMHxl-BSカラムを使用するゲル浸透クロマトグラフィによって判定される。PSで較正及び参照。
【0073】
実施形態では、ヒドロシリル官能化ポリジエンポリマーは、約75,000g/mol~約1,000,000g/molの数平均分子量Mnを有し得る。実施形態では、官能化共役ジエンは、75,000g/mol以上、100,000g/mol以上、200,000g/mol以上、又は更には300,000g/mol以上の数平均分子量Mnを有し得る。実施形態では、官能化共役ジエンは、1,000,000g/mol以下、800,000g/mol以下、600,000g/mol以下、又は更には400,000g/mol以下の数平均分子量Mnを有し得る。実施形態では、官能化共役ジエンポリマーは、約75,000g/mol~約1,000,000g/mol、約75,000g/mol~約800,000g/mol、約75,000g/mol~約600,000g/mol、約75,000g/mol~約400,000g/mol、約100,000g/mol~約1,000,000g/mol、約100,000g/mol~約800,000g/mol、約100,000g/mol~約600,000g/mol、約100,000g/mol~約400,000g/mol、約200,000g/mol~約1,000,000g/mol、約200,000g/mol~約800,000g/mol、約200,000g/mol~約600,000g/mol、約200,000g/mol~約400,000g/mol、約300,000g/mol~約1,000,000g/mol、約300,000g/mol~約800,000g/mol、約300,000g/mol~約600,000g/mol、又は更には約300,000g/mol~約400,000g/mol、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲の分子量Mnを有し得る。数平均分子量Mnは、THFを溶媒として用い、Tosoh Ecosec HLC-8320 GPCシステム及びTosoh TSKgel GMHxl-BSカラムを使用するゲル浸透クロマトグラフィによって判定される。PSで較正及び参照。
【0074】
非シリル化ポリジエンポリマー。
【0075】
本発明のポリマー組成物では、1つ以上の非シリル化又は非グラフト化ポリジエンポリマーが利用される。ポリジエンは、炭素-炭素二重結合を含むので、不飽和であり、当技術分野で既知であるように硬化又は加硫することができる。
【0076】
非シリル化ポリジエンポリマーは、少なくとも部分的に共役又は非共役ジエンモノマーに由来し得る。鎖に沿った不飽和の量は、当然ながら、利用される具体的なポリマーに応じて変化する。
【0077】
本発明での使用に好適な非シリル化ポリジエンポリマーの非限定的な例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
【0078】
(a)4~12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーの重合によって得られるホモポリマー、
【0079】
(b)第1の共役ジエンモノマーと、第2の異なる共役ジエンモノマー及び1つ以上のエチレン性不飽和モノマーのうちの1つ以上との共重合によって得られるコポリマー、
【0080】
(c)5~12個の炭素原子を有する非共役ジエンモノマーの重合によって得られるホモポリマー、
【0081】
(d)第1の非共役ジエンと、第2の異なる非共役ジエン及び1つ以上のエチレン性不飽和モノマーのうちの1つ以上との共重合によって得られるコポリマー、
【0082】
(e)エチレン、3~6個の炭素原子を有するアルファ-オレフィン、及び6~12個の炭素原子を有する非共役ジエンモノマーの共重合によって得られる三元コポリマー、
【0083】
(f)任意選択的にハロゲン化された、イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、
【0084】
(g)天然ゴム、
【0085】
(h)その鎖が少なくともオレフィン系モノマー単位と少なくとも1つの共役ジエンに由来するジエン単位と、を含む、不飽和オレフィン系コポリマー、又は
【0086】
(i)(a)~(h)のうちの2つ以上の互いの混合物。
【0087】
ポリマー(a)、(b)、及び(h)を合成するのに有用な好適な共役ジエンモノマーの例としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン;2,3-ジ(C-Cアルキル)-1,3-ブタジエン、例えば、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-エチル-1,3-ブタジエン、若しくは2-メチル-3-イソプロピル-1,3-ブタジエン;アリール-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、又は2,4-ヘキサジエンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
ポリマー(c)、(d)、及び(e)を合成するのに好適な非共役ジエンモノマーの例としては、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、及びジシクロペンタジエンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
コポリマー(b)又は(d)を合成するために1つ以上の共役又は非共役ジエンモノマーとの共重合に使用することができるエチレン性不飽和モノマーとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:8~20個の炭素原子を有するビニル芳香族化合物、例えば、スチレン、オルト-、メタ-、又はパラ-メチルスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、及びビニルナフタレン;3~12個の炭素原子を有するビニルニトリルモノマー、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル;アクリル酸又はメタクリル酸と、1~12個の炭素原子を有するアルコールと、に由来する、アクリル酸エステルモノマー、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレートアクリレート、及びイソブチルメタクリレート。
【0090】
コポリマー(b)又は(d)は、99重量%~1重量%のジエン単位及び1重量%~99重量%のビニル芳香族、窒化ビニル、及び/又はアクリル酸エステル単位を含有し得る。
【0091】
ポリマー(h)を合成するのに好適なモノオレフィンモノマーとしては、エチレン又は3~6個の炭素原子を有するα-オレフィン、例えば、プロピレン、ブチレン、又はイソブチレンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、モノオレフィンモノマーは、エチレン、ブチレン、及び/又はイソブチレンである。
【0092】
ある特定の実施形態によれば、本発明において使用することができるオレフィンコポリマー(h)は、その鎖がオレフィンモノマー単位、すなわち、少なくとも1つのモノオレフィンの挿入に由来する単位と、少なくとも1つの共役ジエンに由来するジエン単位と、を含む、コポリマーである。他の実施形態によれば、単位は、ジエンモノマー及びモノオレフィンモノマーに由来する完全な単位ではない。これらの実施形態によれば、例えば、上で説明されるエチレン性不飽和モノマーに由来する他の単位が、炭素系鎖に存在する。いくつかの実施形態では、オレフィンモノマー単位及びポリマー(h)が優勢である、すなわち、ポリマーに対して50%以上のモル含有率で存在する。
【0093】
上記の説明に基づいて、好適な非シリル化ポリジエンポリマーの例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、又はポリクロロプレン、及びそれらの水素化バージョン;ポリイソブチレン、ブタジエン及びイソプレンとスチレンとのブロックコポリマー、並びにそれらの水素化バージョン、例えば、ポリ(スチレン-b-ブタジエン)(SB)、ポリ(スチレン-b-ブタジエン-b-スチレン)(SBS)、ポリ(スチレン-b-イソプレン-b-スチレン)(SIS)、ポリ[スチレン-b-(イソプレン-stat-ブタジエン)-b-スチレン]、又はポリ(スチレン-b-イソプレン-b-ブタジエン-b-スチレン)(SIBS)、水素化SBS(SEBS)、ポリ(スチレン-b-ブタジエン-b-メチルメタクリレート)(SBM)、及びそれらの水素化バージョン(SEBM);ブタジエンとスチレン及びアクリロニトリル(NBR)とのランダムコポリマー(SBR)、並びにそれらの水素化バージョン;イソプレンとスチレンとのランダムコポリマー(SIR)、及びその水素化バージョン;イソプレン及びブタジエンとスチレンとのランダムコポリマー(SBIR)、並びにその水素化バージョン;ブチル又はハロゲン化ゴム、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン-ジエンコポリマー、並びにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
様々な好ましい実施形態では、ポリジエンポリマーは、好ましくは、単独又は組み合わせで、ポリブタジエン(「BR」と略される)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(natural rubber、NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー、エチレン-ジエンコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物である。そのようなコポリマーは、より好ましくは、ブタジエン-スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン-ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン-スチレンコポリマー(SIR)、イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー(SBIR)、及びエチレン-ブタジエンコポリマー(EBR)からなる群から選択される。
【0095】
本発明で使用するのに好適なポリマーは、当業者に周知の従来の添加剤を利用する従来の重合技術に従って得ることができる。ポリマーは、使用される重合条件の関数である任意の微細構造を有し得る。ポリマーは、例えば、ブロック、ランダム、逐次又はマイクロ逐次であり得、例えば、分散液、エマルジョン、又は溶液中で調製され得る。重合は、バッチ、連続、又は半連続条件下で行うことができる。
【0096】
シリル化ポリジエンポリマーに対する非シリル化ポリジエンポリマーの量は、それを含む組成物の最終用途に応じて変えることができる。とはいえ、1つ以上の実施形態では、硬化性ポリマー組成物は、非シリル化ポリジエンポリマー及びシリル化ポリジエンポリマーの総量に基づいて過半量の非シリル化ポリジエンポリマーを含む。更なる実施形態では、非シリル化ポリジエンポリマーは、全ポリマー100重量部に基づいて、一般に、50重量部を超える量、好ましくは60重量部を超える量で存在する。更なる実施形態では、シリル化ポリジエンポリマーは、シリル化ポリジエンポリマー及び非シリル化ポリジエンポリマー100重量部に基づいて約10重量部~約50若しくは75重量部の量で存在するか、又はシリル化ポリジエンポリマーは、シリル化ポリジエンポリマー及び非シリル化ポリジエンポリマー100重量部に基づいて約15重量部~約35重量部の量で存在する。
【0097】
フィラー
【0098】
好ましい実施形態では、本発明の硬化性ポリマー組成物は、1つ以上のフィラーを含む。フィラーは、ポリマー組成物中で補強剤として機能し、カーボンブラック、シリカ、カーボンナノチューブ、デンプン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、粘土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、層状ケイ酸塩、及びガラスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、及びランプブラックが挙げられる。カーボンブラックのより具体的な例としては、超摩耗ファーネスブラック、中間超摩耗ファーネスブラック、高摩耗ファーネスブラック、高速押出ファーネスブラック、微細ファーネスブラック、半強化ファーネスブラック、中級加工チャンネルブラック、ハード加工チャンネルブラック、導電性チャンネルブラック、及びアセチレンブラックが挙げられる。
【0100】
利用される場合、カーボンブラックは、一般に、全ポリマー100重量部に基づいて、約1~約40、75、100、又は110重量部の量で、望ましくは約5~約38重量部の量で、好ましくは約10~約35重量部の量で添加される。
【0101】
シリカフィラーの非限定的な例としては、湿式法シリカ、乾式法シリカ、合成ケイ酸塩型シリカ、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。粒径が小さく、表面積が大きいシリカは、高い補強効果を呈する。小直径、高凝集型シリカ(すなわち、大きい表面積及び高い吸油性を有する)は、ポリマー組成物中で優れた分散性を呈し、このことは、望ましい特性及び優れた加工性を表す。シリカの平均粒径は、一次粒子径の観点で、いくつかの実施形態では5~60nm、いくつかの実施形態では10~35nmである。更に、シリカ粒子の比表面積(N2A、BET法によって測定)は、いくつかの実施形態では、35~300m/gである。いくつかの実施形態では、シリカは、150~300m/gの表面積を有する。より低いN2A値は、好ましくないことに、低い補強効果につながり得るが、より高いN2A値は、ゴム化合物に増加した粘度、及び悪化した加工性を提供し得る。好適なシリカフィラー直径、粒径、及びBET表面積の例については、国際公開第2009/148932号を参照されたい。
【0102】
シリカは、利用される場合、いくつかの実施形態では、全ポリマー100重量部に基づいて、一般に、約1~約30、40、100、又は120重量部、いくつかの実施形態では、望ましくは約10~約28重量部、いくつかの実施形態では好ましくは約12~約25重量部の量で添加される。
【0103】
いくつかの好ましい実施形態では、複数の異なるフィラー、例えば、カーボンブラック及びシリカの両方が組成物に一緒に添加され、この場合、フィラーの総量は、全ポリマー100重量部に基づいて、一般に、約1~約40、75、100、又は110重量部、好ましくは約10~約35重量部の範囲である。
任意選択的な成分
【0104】
本発明のポリマー組成物において用いられ得る他の成分又は構成成分としては、油、ワックス、スコーチ防止剤、加工助剤、酸化亜鉛、粘着付与樹脂、強化樹脂、ステアリン酸などの脂肪酸、ペプタイザ、カップリング剤、安定剤、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
硬化剤
【0106】
硫黄又は過酸化物系硬化系を含む、多数のゴム硬化剤が用いられ得る。硬化剤は、当技術分野において周知であり、非限定的な例として、参照により本明細書に組み込まれるKirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology and Vulcanization in Encyclopedia of Polymer Science and Engineeringの様々な版の多くの巻に説明されている。硬化剤は、単独、又は組み合わせて使用され得る。
【0107】
硬化ポリマー組成物
【0108】
本発明の硬化ポリマー組成物は、1つ以上の硬化剤を含む本明細書において説明される未硬化ポリマー組成物を、当技術分野で従来公知の条件下及び機械を用いて硬化又は加硫することによって得られる。
【0109】
硬化性ポリマー組成物が、タイヤの製造において用いられる場合、これらの組成物は、標準的なゴムの成形、成型、及び硬化技術を含む通常のタイヤ製造技術に従ってタイヤ構成要素に加工することができる。典型的には、硬化は、組成物を型内で例えば、約40~約180℃に加熱することによって行うことができる。硬化又は架橋されたポリマー組成物は、加硫物と称される場合もあり、この加硫物は、一般に、熱硬化性の三次元ポリマー網状組織を含有する。フィラー及び加工助剤などの組成物の他の成分は、好ましくは、マトリックス又はネットワーク全体に均一に分散される。
【0110】
硬化ポリマー組成物を含む物品
【0111】
本発明の硬化ポリマー組成物は、改善されたフィラーの分散、低い転がり抵抗、及び改善されたスノートラクションのうちの1つ以上を含む特性を呈するので、例えば、タイヤ、又は例えばタイヤトレッド、サイドウォール、及びタイヤの他の部品を含むタイヤの部品、並びに他の工業製品、例えば、ベルト、ホース、振動ダンパー、及び履物構成要素の製造における使用に非常に適している。
【0112】
したがって、本発明の物品は、本発明の硬化ポリマー組成物から形成される少なくとも1つの構成要素を含む。物品は、例えば、タイヤ、タイヤトレッド、タイヤサイドウォール、タイヤカーカス、ベルト、ガスケット、シール、ホース、振動ダンパー、ゴルフボール、又は靴底などの履物構成要素であり得る。
【0113】
実施例
【0114】
シリル化グラフト化剤、その合成方法、それによってグラフト化されたポリマー、シリル化ポリマーを含む組成物、及びその生成方法を説明するために、以下に記載する実施例を提供する。実施例は、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0115】
以下の試験プロトコルを試験に使用した:
【表1】
【0116】
TMDS-プロピルピペリジンの合成
【0117】
100mLのオーブン乾燥させた三つ口フラスコに、不活性雰囲気下で、無水トルエン(1mL)に溶解させた1-アリルピペリジン(5g、0.04モル)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(10.7g、0.08モル)、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)(5mg、0.01モル)、及び撹拌子を充填した。Hガスの蓄積を防止するために、反応中は、フラスコを通気させた。反応が進行するにつれて、反応混合物の色は明黄色から赤みがかった橙色に変化した。5時間後、活性炭(5g)を加え、反応混合物を更に1時間撹拌した。次いで、黒色の不均一な混合物を、溶離液として無水ペンタン(500mL)を用いて塩基性アルミナのパッドに通した。無色の溶離液を真空下で濃縮して、純粋な生成物として無色の液状物を得た(4.58g、44%)。反応性生物のH NMR(400 MHz,CDCl):4.66(1H,Si-H),2.37(4H,br),2.27(2H,triplet),1.64-1.38(9H,multiplet),0.48(2H,triplet),0.16(6H,doublet),0.08(6H,doublet).
【0118】
実施例1-1.40%スチレンを含有する対照SBR系ポリマーの合成
【0119】
窒素パージしたジャケット付きスチール反応器に、3.53ポンドの無水ヘキサン、1.68ポンドのヘキサン中32.2重量%スチレン、及び4.57ポンドのヘキサン中21.0重量%ブタジエンを充填した。反応器のジャケット温度を145°Fに設定し、次いで、反応器に、n-ブチルリチウム(3.49mL、ヘキサン中1.6M、モノマー100グラム当たり0.820mmol)及びヘキサメチレンイミン(HMI)(1.67mL、シクロヘキサン中3.0M、Liに対して0.9当量)の混合物、続いて2,2-ビス(2’-テトラヒドロフリル)プロパン(0.14mL、ヘキサン中1.6M、Liに対して0.04当量)及びカリウムtert-アミレート(0.39mL、シクロヘキサン中0.90M、Liに対して0.078当量)を充填した。バッチ温度は約38分後に約177.1°Fでピークに達した。四塩化スズ(0.91mL、ヘプタン中1.0M、Liに対して0.163当量)をピーク温度で反応器に充填した。更に30分間後、約8Lのイソプロピルアルコール及び15gの2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールの入ったバケツにポリマーセメントを滴下することによって重合反応をクエンチさせた。ポリマーを凝固させ、ドラム乾燥させた。ポリマーを、GPC、NMR、DSC、及びTN分析によって分析し、それらの値を表2に報告した。
【0120】
実施例1-2.THF中でのSBR-g-TMDSプロピルピペリジンの合成
総体積が600mLになるようにTHFに溶解させたSBR(50g)に、シリル化剤(5重量%、2.5g、9.63mmol)及びキシレンPt約2%中の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(1mL)を添加した。ボトルを50℃の水浴中で8時間撹拌し、ボトルを3mLのIPA/BHT溶液(約0.1g BHT/mL IPA溶液)でクエンチし、IPA/BHT溶液の入ったバケツに注ぎ入れ、凝固させ、ドラム乾燥させた。ポリマーを、GPC、NMR、DSC、TN法によって分析し、それらの値を表2に報告した。
【0121】
実施例1-3.ヘキサン中でのSBR-g-TMDSプロピルピペリジンの合成
【0122】
総体積が600mLになるようにヘキサンに溶解させたSBR(50g)に、シリル化剤(5重量%、2.5g、9.63mmol)及びキシレンPt約2%中の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(1mL)を添加した。ボトルを80℃の水浴中で一晩撹拌し、ボトルを3mLのIPA/BHT溶液(約0.1g BHT/mL IPA溶液)でクエンチし、IPA/BHT溶液の入ったバケツに注ぎ入れ、凝固させ、ドラム乾燥させた。ポリマーを、GPC、NMR、DSC、TN法によって分析し、それらの値を表2に報告した。
【0123】
実施例1-4.トルエン中でのSBR-g-TMDSプロピルピペリジンの合成
【0124】
総体積が600mLになるようにトルエンに溶解させたSBRに、シリル化剤(5重量%、2.5g、9.63mmol)及びキシレンPt約2%中の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(1mL)を添加した。ボトルを80℃の水浴中で一晩撹拌し、ボトルを3mLのIPA/BHT溶液(約0.1g BHT/mL IPA溶液)でクエンチし、IPA/BHT溶液の入ったバケツに注ぎ入れ、凝固させ、ドラム乾燥させた。ポリマーを、GPC、NMR、DSC、TN法によって分析し、それらの値を表2に報告した。
【0125】
【表2】
表2は、GPC、NMR、DSC、及びTN試験方法によって特徴付けられた分析結果を示す。実施例1-1は、ヒドロシリル化SBR(実施例1-2、1-3、及び1-4)との比較のための対照として使用したベースSBRを表す。
【0126】
シリル化ポリマーを含む組成物
【0127】
ポリマー組成物を、天然ゴム(NR)、BR、及び上記のSBRポリマーを用いて65gブラベンダーミキサー中で混合した。マスターバッチ及びリミル段階は、125℃の開始温度、60rpmでそれぞれ6分間及び5分間混合した。全てのストックを、マスターバッチ中に150℃~160℃で約2~3分間混合して、シラン化ステップを達成した。最終段階は、90℃の開始温度、50rpmで2分間混合した。グリーンゴムは、MDRトルク測定に基づいて145℃で33分間硬化させた。
【0128】
特許法に従って、最良の形態及び好ましい実施形態を説明してきた。本発明の範囲はそれに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって限定される。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性ポリマー組成物であって、
シリル化ポリジエンポリマーであって、i)ポリジエンと、ii)以下の式:
【化1】
(式中、nは、0~150の整数であり、各Rは、個々に、水素原子、ハロゲン原子、Fg、若しくは一価の有機基であるか、又は2つ以上のR基が一緒になって結合若しくは多価の有機基を形成するが、但し、少なくとも1つのRが水素原子であることを条件とし、
Fgは、式CH=C(R)(R)(式中、R及びRのうちの少なくとも1つは、水素結合、フィラーとの化学反応、又はポリマーのグラフト化に関与し得る官能基を有し、R及びRのうちの1つは、水素原子又は有機基であり得る)を有する化合物に由来する)、あるいは、
【化2】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、Fg、又は一価の有機基であり、Fgは、上で定義した通りであり、nは、2~5である)、
を有する、シリル化グラフト化剤と、の反応生成物を含む、シリル化ポリジエンポリマーと、
天然ゴム、スチレン-ブタジエンコポリマー、及びポリ(1,3-ブタジエン)のうちの1つ以上を含む非シリル化ポリジエンポリマーと、
カーボンブラック及びシリカのうちの1つ以上を含むフィラーと、を含む、硬化性ポリマー組成物。
【請求項2】
前記シリル化ポリジエンポリマーが、a)ブタジエンと、芳香族ビニル化合物及び共役ジエンのうちの1つ以上であるコモノマーとのコポリマー、並びにb)ポリ(1,3-ブタジエン)のうちの1つ以上を含み、
前記芳香族ビニル化合物が、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、スチルベン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルピリジン、1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼン、若しくは1,4-ジビニルベンゼン、又はこれらの組み合わせであり、前記芳香族ビニル化合物が、前記コポリマーの総モノマー含有量の0~50重量%を構成し、前記共役ジエンが、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、2-メチル-2,4-ペンタジエン、シクロペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、若しくは1,3-シクロオクタジエン、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コポリマーが、スチレン-ブタジエンコポリマー、ポリ(ブタジエン)ホモポリマー、ブタジエン-イソプレンコポリマー、又はスチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマーであり、スチレン含量が、前記コポリマーの総モノマー含量の5~50重量%であり、
前記フィラーが、前記シリル化ポリジエンポリマー及び前記非シリル化ポリジエンポリマーの合計100重量部に基づいて、約1重量部~約110重量部の量で存在し、
前記非シリル化ポリジエンポリマーが、ブチルゴム、ポリブタジエン、合成ポリイソプレン、ポリイソプレン及びエチレン-ジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、ブタジエン-イソプレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマー、並びにエチレン-ブタジエンコポリマーのうちの1つ以上を更に含み、
前記シリル化ポリジエンポリマーが、前記シリル化ポリジエンポリマー及び前記非シリル化ポリジエンポリマーの合計100重量部に基づいて、約10重量部~約75重量部の量で存在し、
前記非シリル化ポリジエンポリマーが、2つ以上の異なるポリマーを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記非シリル化ポリジエンポリマーが、ブチルゴム、ポリ(ブタジエン)、天然ゴム、及びスチレン-ブタジエンコポリマーを含み、
前記シリル化ポリジエンポリマーが、前記シリル化ポリジエンポリマー及び前記非シリル化ポリジエンポリマーの合計100重量部に基づいて、約15重量部~約50重量部の量で存在し、
前記シリル化ポリジエンポリマーが、約50ppm~約2000ppmで変動する主鎖グラフト化窒素含有官能基濃度を有し、
前記フィラーが、全ポリマー100重量部に基づいて約1重量部~約120重量部の量のシリカを含み、
前記ポリマーが約75,000g/mol~約1,000,000g/molの重量平均分子量を有するか、又は前記ポリマーが約75,000g/mol~約1,000,000g/molの数平均分子量を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物を含む、タイヤ。

【国際調査報告】