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特表2024-546409非熱処理型高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-24
(54)【発明の名称】非熱処理型高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20241217BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20241217BHJP
   B22D 17/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C1/02 503J
B22D17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521341
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 CN2022080807
(87)【国際公開番号】W WO2023103201
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】202111507879.5
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524132069
【氏名又は名称】シェンユアンチュアン (シャンハイ) アドバンスド マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ワン, シン
(57)【要約】
【要約】
本発明は非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造プロセスを開示する。当該合金は、Mn/Fe比率を一定範囲内に制御することでFe元素による悪影響を効果的に抑制できる。また、レアアースを一定の比率で導入することで、材料中のSiを効果的に微細化し、Al・Cuなどの元素と共に高温相を形成することで、材料がダイカスト一体成型の大型構造部品に適用した場合の変形抵抗を向上させることができる。大型ダイカスト品の本体をサンプリングして、試験したところ、前記合金のF材は290mpaの引張強度、140Mpaの降伏強度、13%の伸びに達することができ、優れたダイカスト性を備えるほか、クリーンエネルギーを使用しているため、低炭素排出量の基準を満たせる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で各成分の含有量が:Si:6.3~8.3%、Fe:0.07~0.45%、Cu:0.05~0.5%、Mn:0.5~0.8%、Mg:0.15~0.35%、Ti:0.01~0.2%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上を含むレアアースの総量:0.04~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%となっており、残部がAl及び0.2%以下の残りの不純物であることを特徴とする非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材。
【請求項2】
質量%で各成分の含有量が:Si:6.3~7.0%、Fe:0.2~0.4%、Cu:0.35~0.45%、Mn:0.5~0.8%、Mg:0.25~0.35%、Ti:0.1~0.2%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上を含むレアアースの総量:0.04~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%となっており、残部がAl及び0.2%以下の残りの不純物であることを特徴とする請求項1に記載のAl-Si合金ダイカスト材。
【請求項3】
質量%で各成分の含有量が:Si:6.4~7.1%、Fe:0.10~0.25%、Cu:0.05~0.28%、Mn:0.5~0.8%、Mg:0.25~0.35%、Ti:0.03~0.16%、Sr:0.025~0.035%、La/Ce/Scの1種を含むレアアースの総量:0.04~0.15%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%となっており、残部がAl及び0.2%以下の残りの不純物であることを特徴とする請求項1に記載の非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材。
【請求項4】
質量%で各成分の含有量が:Si:7.0~7.7%、Fe:0.15~0.3%、Cu:0.2~0.35%、Mn:0.6~0.8%、Mg:0.2~0.3%、Ti:0.05~0.2%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上を含むレアアースの総量:0.04~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%となっており、残部がAl及び0.2%以下の残りの不純物であることを特徴とする請求項1に記載のAl-Si合金ダイカスト材。
【請求項5】
質量%で各成分の含有量が:Si:7.7~8.3%、Fe:0.07~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Mn:0.6~0.8%、Mg:0.15~0.3%、Ti:0.01~0.15%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上を含むレアアースの総量:0.04~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%となっており、残部がAl及び0.2%以下の残りの不純物であることを特徴とする請求項1に記載のAl-Si合金ダイカスト材。
【請求項6】
270MPa以上の引張強度、130MPa以上の降伏強度、および11%以上の伸びを有することを特徴とする請求項1~5のうち、いずれかに記載のAl-Si合金ダイカスト材。
【請求項7】
前記Al-Si合金ダイカスト材を調製するための焼損を起こしにくい原料を加熱溶融して、アルミニウム合金液を得て、当該アルミニウム合金液にスラグ除去と精錬を行った後に焼損しやすい原料を添加し、成分が規定値に達した後、鋳込み処理を行い、前記Al-Si合金ダイカスト材を得ることを特徴とする請求項1~6のうちのいずれかに記載のAl-Si合金ダイカスト材の製造プロセス。
【請求項8】
前記Al-Si合金ダイカスト材を成形温度が680~720℃、ダイカスト速度が2.5~5m/s、保温時間が2~10秒でダイカスト成形させ、非熱処理状態のダイカスト品を得ることを特徴とする請求項7に記載の製造プロセス。
【請求項9】
各原料が完全に溶融した後、前記アルミニウム合金液を均一に撹拌し、静置した後にサンプリングおよび分析を行い、必要な元素の含有量を成分比の要求範囲内に調整することを特徴とする請求項7に記載の製造プロセス。
【請求項10】
使用する精錬用フラックスにナトリウムイオンを含まないことを特徴とする請求項7に記載の製造プロセス。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
【0002】
本出願は、2021年12月10日に出願された中国特許出願第202111507879.5号(発明の名称「非熱処理型高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造方法」)の優先権を主張するものであり、当該出願の全体は参照により本出願に組み込まれている。
【0003】
本発明は、金属材料の技術分野に関し、具体的には非熱処理型高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
「CO2排出量ピークアウト・カーボンニュートラル」政策のさらなる推進により、炭素排出量の目標値が次第に引き下げられていくなか、再生アルミニウムは低エネルギー消費という明らかな優位性を発揮し、アルミニウム産業の「電気代の値上げに伴い、価格が上昇する」という電気依存からも脱却できるため、再生アルミニウム産業を主導産業とすることは、アルミニウム産業の健全で安定した長期的な発展により資することである。再生アルミニウムの炭素排出量は、火力発電による電気分解の方法でのアルミニウム新地金生産の炭素排出量よりも大幅に下回っており、火力発電による電気分解の方法でアルミニウム新地金1トンを生産するには二酸化炭素排出量が約12トンに対し、再生アルミニウム1トンの製造による二酸化炭素排出量は約300Kgに過ぎず、またその製造が、標準炭3.4トンと14立方メートルの水を節約し、固形廃棄物の排出量を20トン削減することができる。標準炭1トンから排出される二酸化炭素は3トンを基に計算する場合、他の補助原料から排出される二酸化炭素と合わせて、再生アルミニウム1トンは合計で約11.5トンの二酸化炭素排出を削減することができる。同時に、再生アルミニウムの経済的利益も大きい。アルミニウム新地金の生産にはボーキサイトの採掘、長距離輸送などが必要で、アルミナの抽出と火力発電による電気分解でのアルミニウム新地金生産には膨大なエネルギーを消費するため、アルミニウム新地金に比べて、再生アルミニウムの生産コストは低い。中国のアルミニウムスクラップ保有量の急速な成長と、廃棄物資源のリサイクルシステムの継続的な改善により、アルミニウムスクラップの価格はさらに低下すると予想され、火力発電による電気分解の方法でのアルミニウム新地金生産に対し、再生アルミニウム製造のコストの優位性はより顕著になると思われる。その他、アルミニウム新地金の生産での電気分解を水力、風力、太陽光発電など、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーに替える方法も考えられる。
【0005】
近年、新エネルギー車は続々と登場し、発展している。ただし、駆動用バッテリーの重量および航続距離の制約に加え、厳しい自動車省エネ・炭素排出量削減政策により、バッテリー駆動型の新エネルギー車の車両設計と材料選定においては、従来の自動車よりも車体軽量化の需要が高まっている。アルミ合金は軽量材料の一つであり、技術、運用の安全性とリサイクルの面では比較的に優位性があるため、自動車産業において徐々に鉄鋼に取って代わり、ダイカスト成形プロセスを応用し、自動車部品の製造に広く活用されている。
【0006】
自動車産業と航空宇宙産業では、部品に厳しい要求が課せられており、特に変形時に優れた衝撃靭性と高い伸びが要求されている。自動車業界ではこのような要求をもとに、一体化した大型の車体構造部品に、引張強度が180MPa超え、降伏強度が120MPa超え、伸びが10%超えのアルミ合金ダイカスト品を必要としている。従来のAl-Si系合金は、強度が高く、鋳造性が良い。ただし、その塑性が悪く、伸びが低いため、自動車用大型一体化成形ダイカスト品の基準を満たすことができない。近年、自動車産業市場の需要を満たすために、高靭性アルミニウム合金の開発がますます注目されている。例えば、ドイツのラインランド社が開発したSilafont-36合金(特許公開番号:US 6364970B1)は、室温での伸びが6%以下だが、長時間のT7熱処理を経て、引張強度が約210Mpa、降伏強度が140Mpa、伸びが15%になり、自動車構造部品の要件を満たせる。ただし、当該プロセスの生産効率は低い上、熱処理プロセスが複雑で、熱処理工程の適切なコントロールが困難であるため、熱処理コストが非常に高い。もう一つの例として、上海交通大学が開発した非熱処理強化高強度高靭性Al-Mg-Si系合金ダイカスト材(特許開示番号:CN 108754256A)は、機械的性質がより優れているが、Al-Mg-Si系合金であるため、鋳造性が悪く、高マグネシウム含有量により酸化および焼損が発生しやすい。上述に加え、当該合金のアルミニウム液は粘度と収縮率が高く、ダイカスト金型への侵食が強く、金型の寿命を短縮するため、大型車体構造部品には適さない。また、鳳陽愛爾思と上海交通大学は、非熱処理自己強化Al-Si合金(特許公開番号:CN 104831129A)を開発した。ただし、当該合金は不純物元素に対する要求が高く、その生産にアルミニウムスクラップの使用が不可能で、将来の「CO2排出量ピークアウト・カーボンニュートラル」をもとにする各目標も満たせない。それに加えて、当該合金の精密ダイカスト下の鋳造品の伸びは約7.5%と、現段階の大型車体構造部品の高靭性の要件を満たすことができない。さらに、上海永茂泰汽車零部件と上海交通大学が開発した高強度靭性アルミ合金ダイカスト材(特許公開番号:CN 109881056A)は鋳造性が良いが、非熱処理状態でのダイカスト品の伸びがわずか7%であり、高靭性が要求される自動車構造部品に適用できない。蘇州慧馳軽合金が開発した高靭性アルミ合金ダイカスト材(特許公開番号:CN 106636787A)は鋳造性と強度は良いが、不純物元素の含有量が0.005%未満を必要とし、不純物含有量に対する要求が極めて高く、その生産にアルミニウムスクラップを使用することが不可能である一方、非熱処理状態でのダイカスト品の伸びもわずか9.7%であるため、高靭性が要求される自動車構造部品に適用できない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の概要部分は、後に実施例で詳細に説明される構想を簡単な形で紹介する。本発明の概要部分は、保護が主張される技術的解決策の主要・必要な特徴の特定と、保護が主張される技術的解決策の範囲の限定を目的としていない。
【0008】
本発明は、発生する炭素排出量を低減し、熱処理なしで11%~16%の伸びを達成できる非熱処理型高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造方法を提供する。
【0009】
本発明の態様1として、合金の総重量に基づいて、本発明の実施例で提供された非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材の各成分の質量%は以下の通りである。
【0010】
Si:6.3~8.3%、Fe:0.07~0.45%、Cu:0.05~0.5%、Mn:0.5~0.8%、Mg:0.15~0.35%、Ti:0.01~0.2%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上からなるレアアースの総量:0.04%~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%で、その他の不純物の総量は0.2%以下であることが好ましく、残部がAlである。
【0011】
前記Al-Si合金ダイカスト材の各成分の質量%は以下の通りにしてもよい。
【0012】
Si:6.3~7.0%、Fe:0.2~0.4%、Cu:0.35~0.45%、Mn:0.5~0.8%、Mg:0.25~0.35%、Ti:0.1~0.2%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上からなるレアアースの総量:0.04%~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%で、その他の不純物の総量は0.2%以下であることが好ましく、残部がAlである。
【0013】
前記Al-Si合金ダイカスト材の各成分の質量%は以下の通りにしてもよい。
【0014】
Si:6.4~7.1%、Fe:0.10~0.25%、Cu:0.05~0.28%、Mn:0.5~0.8%、Mg:0.25~0.35%、Ti:0.03~0.16%、Sr:0.025~0.035%、La/Ce/Scの1種以上からなるレアアースの総量:0.04%~0.15%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%で、その他の不純物の総量は0.2%以下であることが好ましく、残部がAlである。
【0015】
前記Al-Si合金ダイカスト材の各成分の質量%は以下の通りにしてもよい。
【0016】
Si:7.0~7.7%、Fe:0.15~0.3%、Cu:0.2~0.35%、Mn:0.6~0.8%、Mg:0.2~0.3%、Ti:0.05~0.2%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上からなるレアアースの総量:0.04%~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%で、その他の不純物の総量は0.2%以下であることが好ましく、残部がAlである。
【0017】
前記Al-Si合金ダイカスト材の各成分の質量%は以下の通りにしてもよい。
【0018】
Si:7.7~8.3%、Fe:0.07~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Mn:0.6~0.8%、Mg:0.15~0.3%、Ti:0.01~0.15%、Sr:0.015~0.035%、La/Ce/Scの1種以上からなるレアアースの総量:0.04%~0.2%、Ni:0.001~0.1%、Zn:0.005~0.1%、Ga:0.01~0.03%で、その他の不純物の総量は0.2%以下であることが好ましく、残部がAlである。
【0019】
前記Al-Si合金ダイカスト材は、270MPa以上の引張強度、130MPa以上の降伏強度、および11%以上の伸びを示すことができる。
【0020】
本発明の態様2として、本発明の実施例で提供されるAl-Si合金ダイカスト材の製造プロセスは以下のとおりである。
【0021】
まず、前記Al-Si合金ダイカスト材を調製するための焼損を起こしにくい原料を加熱溶融して、アルミニウム合金液を得る。次に、前記アルミニウム合金液にスラグ除去と精錬を行った後に焼損しやすい原料を添加し、成分が規定値に達した後、鋳込み処理を行い、前記Al-Si合金ダイカスト材を得る。
【0022】
本発明は前記Al-Si合金ダイカスト材をダイカスト成形させることができる。なお、前記Al-Si合金ダイカスト材は、成形温度が680~720℃、ダイカスト速度が2.5~5m/s、保温時間が2~10秒で、非熱処理状態のダイカスト品を得ることを特徴とするAl-Si合金ダイカスト材である。
【0023】
本発明は各原料が完全に溶融した後、前記アルミニウム合金液を均一に撹拌し、静置した後にサンプリングおよび分析を行い、必要な元素の含有量を成分比の要求範囲内に調整することができる。
【0024】
本発明は使用される精錬用フラックスをナトリウムイオンを含まないものにすることができる。
【0025】
本発明は、非熱処理型高靭性Al-Si合金ダイカスト材及びその製造方法を提供する。本発明により調製されるアルミニウム合金は、自動車車体の構造部品の要求を満たすためにT7熱処理を必要とする従来のアルミニウム合金ダイカスト材の限界を打破した上、アルミニウムスクラップから製造することができ、製造工程で発生する炭素排出量を低減し、熱処理なしで伸びが11~16%に達することができる。
【0026】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明はいずれも例示的なものであり、保護が主張される本発明のさらなる説明を提供することを意図としているものであることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
添付の図面と以下の実施形態を参照することにより、本開示の実施例の前述および他の特徴、優位性、および態様はより明瞭になる。添付図面全体を通して、同一または類似の添付符号は、同一または類似の要素を示す。添付図面は概略的なものであり、原図および要素は必ずしも縮尺通りに描かれているとは限らないことを理解すべきである。
図1】本発明の実施例2で得られたアルミダイカストのミクロ組織の金属組織図であり、図(a)は100倍のミクロ組織の金属組織図、図(b)は500倍のミクロ組織の金属組織図である。
図2】実施例2で得られたアルミダイカストの流動性テスト金型である。
図3】実施例2、比較例1、比較例2で得られたアルミダイカストの引張応力ひずみ曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参考に本開示の実施例についてさらに詳細に説明する。添付図面には一部の実施例が示されているが、本開示はこれらに限定されるものではなく、以下に説明される実施例の範囲を超えた様々な形態で実施できると理解されるべきである。これらの実施例の提供は、本開示へのより完全かつ徹底的な理解を目的とする。また、本開示の添付図面及び実施例は単なる例示であり、本開示の保護範囲を限定することを意図するものではないことを理解すべきである。
【0029】
なお、本開示方法の実施形態に記載されている各工程は、異なる順序で、および/または並行して実行されてもよいことを理解すべきである。さらに、本方法の実施形態は、追加の工程を含んでもよく、および/または示された工程の実行を省略してもよい。従って、本開示の範囲は、これらに限定されるものではない。
【0030】
本開示は、非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材およびその製造方法を提供する。以下、添付図面を参考に本開示の実施例について詳細に説明する。
【0031】
実施例1
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、質量%で各成分の含有量が:Mg:0.2%、Si:6.5%、Fe:0.15%、Cu:0.1%、Mn:0.5%、Ti:0.03%、Sr:0.025%、La・Ce総量:0.05%、Ni:0.005%、Zn:0.006%、Ga:0.015%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0032】
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカストの製造方法は、以下の工程を含む。
【0033】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0034】
(2)材料:金属Alの鋳塊、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を予め用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0035】
(3)炉内融解:まず、金属Alの鋳塊を炉内に投入し、溶融温度を760~790℃に維持しつつ溶融を行う。Al鋳塊が全て溶融した後に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0036】
(4)精錬およびスラグ処理:アルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0037】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0038】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0039】
(7)鋳込みまたはダイカスト:炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0040】
実施例2
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、質量%で各成分の含有量が:Mg:0.3%、Si:6.9%、Fe:0.2%、Cu:0.2%、Mn:0.6%、Ti:0.07%、Sr:0.02%、La:0.1%、Ni:0.003%、Zn:0.07%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0041】
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカストの製造方法は、以下の工程を含む。
【0042】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0043】
(2)材料:金属Alの鋳塊もしくはアルミニウムスクラップ、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を予め用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0044】
(3)炉内融解:まず、金属Al鋳塊またはアルミニウムスクラップを炉内に投入し、溶融温度を760~790℃に維持しつつ溶融を行う。Al鋳塊またはアルミニウムスクラップが全て溶融した後に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0045】
(4)精錬およびスラグ処理:アルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0046】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0047】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0048】
(7)鋳込みまたはダイカスト:炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0049】
実施例3
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、質量%で各成分の含有量が:Mg:0.35%、Si:7.5%、Fe:0.25%、Cu:0.3%、Mn:0.7%、Ti:0.15%、Sr:0.03%、Ce:0.08%、Ni:0.08%、Zn:0.09%、Ga:0.025%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0050】
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカストの製造方法は、以下の工程を含む。
【0051】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0052】
(2)材料:金属Alの鋳塊もしくはアルミニウムスクラップ、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を予め用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0053】
(3)炉内融解:まず、金属Al鋳塊またはアルミニウムスクラップを炉内に投入し、溶融温度を760~790℃に維持しつつ溶融を行う。Al鋳塊またはアルミニウムスクラップが全て溶融した後に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0054】
(4)精錬およびスラグ処理:アルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0055】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0056】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0057】
(7)鋳込みまたはダイカスト:炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0058】
実施例4
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、質量%で各成分の含有量が:Mg:0.25%、Si:7.8%、Fe:0.35%、Cu:0.4%、Mn:0.8%、Ti:0.2%、Sr:0.035%、Sc:0.15%、Ni:0.02%、Zn:0.08%、Ga:0.012%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0059】
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカストの製造方法は、以下の工程を含む。
【0060】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0061】
(2)材料:金属Alの鋳塊もしくはアルミニウムスクラップ、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を予め用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0062】
(3)炉内融解:まず、金属Al鋳塊またはアルミニウムスクラップを炉内に投入し、溶融温度を760~790℃に維持しつつ溶融を行う。Al鋳塊またはアルミニウムスクラップが全て溶融した後に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0063】
(4)精錬およびスラグ処理:アルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0064】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0065】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0066】
(7)鋳込みまたはダイカスト:炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0067】
実施例5
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、質量%で各成分の含有量が:Mg:0.15%、Si:8.3%、Fe:0.45%、Cu:0.5%、Mn:0.65%、Ti:0.15%、Sr:0.03%、La・Sc総量:0.2%、Ni:0.08%、Zn:0.01%、Ga:0.018%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0068】
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカストの製造方法は、以下の工程を含む。
【0069】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0070】
(2)材料:金属Alの鋳塊もしくはアルミニウムスクラップ、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を予め用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0071】
(3)炉内融解:まず、金属Al鋳塊またはアルミニウムスクラップを炉内に投入し、溶融温度を760~790℃に維持しつつ溶融を行う。Al鋳塊またはアルミニウムスクラップが全て溶融した後に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0072】
(4)精錬およびスラグ処理:アルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0073】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0074】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0075】
(7)鋳込みまたはダイカスト:炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0076】
実施例6
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、リサイクルされたアルミニウムスクラップを原料として、以下の工程によって製造される。
【0077】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0078】
(2)材料:まず、リサイクルされたアルミニウムスクラップを選別し、処理する。次に、合金の成分比に基づいて金属Alの鋳塊、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0079】
(3)炉内融解:まず、順序を沿って金属Alの鋳塊およびアルミニウムスクラップを40%・60%の質量比で炉内に投入し、炉内温度を760~790℃に維持しつつ製錬をする。全て溶融した後にサンプリングおよび分析を行い、他の元素をそれぞれの割合に応じて添加する。次に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0080】
(4)精錬およびスラグ処理:成分分析で合格したアルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0081】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0082】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0083】
(7)鋳込みまたはダイカスト:最終的に質量%で各成分の含有量が:Mg:0.25%、Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Ti:0.12%、Sr:0.028%、La・Ce・Sc総量:0.2%、Ni:0.005%、Zn:0.06%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0084】
実施例7
本実施例の炭素排出量が低く再生可能な非熱処理高靭性Al-Si合金ダイカスト材は、リサイクルされたアルミニウムスクラップを原料として、以下の工程によって製造される。
【0085】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0086】
(2)材料:まず、リサイクルされたアルミニウムスクラップを選別する。次に、合金の成分比に基づいて金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Zn及び金属Ga、Al-Sr中間合金、希土類アルミニウム中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0087】
(3)炉内融解:まず、アルミニウムスクラップを100%の質量比で炉内に投入し、炉内温度を760~790℃に維持しつつ製錬する。全て溶融した後にサンプリングおよび分析を行い、他の元素をそれぞれの割合に応じて添加する。次に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属CuもしくはAl-Cu中間合金、金属Ni、金属Znおよび金属Gaを添加して製錬を行う。
【0088】
(4)精錬およびスラグ処理:成分分析で合格したアルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0089】
(5)他の金属元素の添加:溶湯温度を740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、希土類アルミニウム中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、微細化および接種を行い、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0090】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0091】
(7)鋳込みまたはダイカスト:最終的に質量%で各成分の含有量が:Mg:0.3%、Si:7.7%、Fe:0.15%、Cu:0.3%、Mn:0.7%、Ti:0.15%、Sr:0.035%、Ce:0.08%、Ni:0.1%、Zn:0.1%、Ga:0.03%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0092】
比較例1
本比較例は実施例2を基にSr元素を減少してLa元素を除いたもので、質量%で各成分の含有量が:Si:6.9%、Fe:0.2%、Cu:0.2%、Mn:0.6%、Mg:0.3%、Ti:0.07%、Sr:0.008%、Ni:0.003%、Zn:0.07%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0093】
本比較例におけるアルミニウム合金ダイカスト材の製造方法は、以下の工程を含む。
【0094】
(1)炉内投入前の準備:炉の底を清浄にし、炉壁が赤色になるまで予熱する。同時に、すべての作業工具に黒鉛粉末を塗布し、乾燥および予熱を行う。
【0095】
(2)材料:金属Alの鋳塊、金属Mgの鋳塊、工業用シリコン、金属Cu、Al-Mn中間合金もしくは金属Mn、金属Fe、Al-Ti中間合金、Al-Sr中間合金などアルミニウム合金を構成する各元素の原料を予め用意し、焼損量を適宜考慮した上で、上記の合金成分比通りに添加する。
【0096】
(3)炉内融解:まず、金属Alの鋳塊を炉内に投入し、製錬温度を670~690℃に維持しつつ製錬を行う。Al鋳塊が全て溶融した後に温度を上昇させ、炉内温度を760~780℃に維持して、工業用シリコン、金属Fe、金属Cu、Al-Mn中間合金もしくは金属Mnを添加して製錬を行う。
【0097】
(4)精錬およびスラグ処理:成分分析で合格したアルミ合金融体の温度を740~760℃に維持しつつ均一に撹拌し、アルミニウム合金専用の精錬用フラックスを加えて、粉体吹込みによる一次精錬と二次精錬を行う。2回の精錬の時間間隔を50~60分間にコントロールし、毎回の精錬後にスラグ処理を行い、液面上の融剤と浮きかすを除去する。
【0098】
(5)他の金属元素の添加:溶湯の温度が740~760℃に維持しつつ、炉内にAl-Ti中間合金、金属Mg、Al-Sr中間合金の鋳塊を加えて製錬し、アルミニウム合金融体を得た後に、サンプリングおよび分析を行う。
【0099】
(6)炉内脱ガス。製錬温度を740~760℃に維持しつつ、窒素ガスにより約30~50分間の炉内脱ガスを行い、15~30分間静置する。
【0100】
(7)鋳込みまたはダイカスト:炉内投入前の成分分析結果が合格と判明した後、適切な鋳込み温度下で鋳込みを行い、鋳塊を作成する、またダイカストプロセスで高圧鋳造し、非熱処理状態のダイカスト品を作成する。
【0101】
比較例2
本比較例は実施例2を基にSr元素を増加してLa元素を除いたもので、質量%で各成分の含有量が:Si:6.9%、Fe:0.2%、Cu:0.2%、Mn:0.6%、Mg:0.3%、Ti:0.07%、Sr:0.05%、Ni:0.003%、Zn:0.07%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0102】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0103】
比較例3
本比較例は実施例6を基にLa、Ce、Sc、Zn、NiおよびGa元素を除いたもので、質量%で各成分の含有量が:Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Mg:0.25%、Ti:0.12%、Sr:0.028%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0104】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0105】
比較例4
【0106】
本比較例は実施例6を基にLa、Ce、Sc元素を除いたもので、質量%で各成分の含有量が:Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Mg:0.25%、Ti:0.12%、Sr:0.028%、Ni:0.06%、Zn:0.005%、Ga: 0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0107】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0108】
比較例5
本比較例は実施例6を基にLa、Ce、Sc元素を高い比率で添加したもので、質量%で各成分の含有量が:Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Mg:0.25%、Ti:0.12%、Sr:0.028%、La:0.2%、Ce:0.2%、Sc:0.2%、Ni:0.06%、Zn:0.005%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0109】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0110】
比較例6
本比較例は実施例6を基にLa元素を高い比率で添加したもので、質量%で各成分の含有量が:Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Mg:0.25%、Ti:0.12%、Sr:0.028%、La:1.0%、Ni:0.06%、Zn:0.005%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0111】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0112】
比較例7
本比較例は実施例6を基にSc元素を高い比率で添加したもので、質量%で各成分の含有量が:Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Mg:0.25%、Ti:0.12%、Sr:0.028%、Sc:0.5%、Ni:0.06%、Zn:0.005%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0113】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0114】
比較例8
本比較例は実施例6を基にSc元素を高い比率で添加したもので、質量%で各成分の含有量が:Si:7.0%、Fe:0.35%、Cu:0.25%、Mn:0.6%、Mg:0.25%、Ti:0.12%、Sr:0.028%、La:0.01%、Sc:0.01%、Ni:0.06%、Zn:0.005%、Ga:0.02%となっており、残部がアルミニウムおよび0.2%以下の残りの不純物である。
【0115】
本比較例の製造方法は比較例1と同じである。
【0116】
表1は実施例1~7および比較例1~8で製造されたアルミニウム合金の成分を示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表2は、実施例1~7および比較例1~8で製造されたアルミニウム合金鋳塊本体からサンプリングされたF材、および同材料を180℃で30分間加熱したものを、室温下で測定された機械的性質および流動性を併記したものである。
【表2】
【0119】
表1および表2によれば、実施例2に比べて、Sr元素含有量を大幅に減少させ、レアアースを添加しない比較例1の降伏強度が26Mpa、伸びが4.2%低下した。実施例2に比べて、Sr元素含有量を大幅に増加させ、レアアースを添加しない比較例2は、降伏強度が17Mpa、伸びが4.9%低下した。実施例6に比べて、レアアース、Zn、NiおよびGa元素を添加しない比較例3は、降伏強度が25Mpa、伸びが3.3%低下した。実施例6に比べて、レアアースを添加しない比較例4は、降伏強度が23Mpa、伸びが3.6%低下した。実施例6に比べて、レアアースのLa・Ce・Scの総添加量を0.6%に調整した比較例5は、降伏強度が18Mpa、伸びが4.8%低下した。実施例6に比べて、レアアースのLaの添加量を1.0%に調整した比較例6は、降伏強度が16Mpa、伸びが5.1%低下した。実施例6に比べて、レアアースのScの添加量を0.5%に調整した比較例7は、降伏強度が20Mpa、伸びが4.1%低下した。実施例6に比べて、レアアースのLa・Scの総添加量を0.02%に調整した比較例8は、降伏強度が16Mpa、伸びが4.2%低下した。従って、には、Sr及びレアアースのLa・Ce・Sc元素の含有量が本発明の範囲内にのみ、優良な機械的性質を発揮させることができる。SrまたはレアアースのLa・Ce・Sc元素の含有量が少なすぎる、または多すぎる場合、総合的な機械的性質は低下する。
【0120】
以上、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明した。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。他の適切な方法で各技術的特徴を任意に組み合わせるなど、本発明の技術的思想の範囲内で本発明の技術的手段に対して様々な簡単な変更を行うことができる。これらすべての簡単な変更および組み合わせは、本発明の開示内容とみなされ、本発明の保護範囲内に属する。

図1
図2
図3
【国際調査報告】