(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-24
(54)【発明の名称】新規フラクソニウム分子キュービット間のモード選択的電荷結合を用いたマルチ・キュービット・アーキテクチャ
(51)【国際特許分類】
H10N 60/12 20230101AFI20241217BHJP
G06N 10/40 20220101ALI20241217BHJP
H10N 60/10 20230101ALI20241217BHJP
H03K 19/195 20060101ALI20241217BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H10N60/12 Z
G06N10/40 ZAA
H10N60/10 K
H03K19/195
G06F7/38 610
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528533
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2022084347
(87)【国際公開番号】W WO2023104685
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】フィンク、アーロン
【テーマコード(参考)】
4M113
5J042
【Fターム(参考)】
4M113AC45
4M113AC50
5J042AA01
(57)【要約】
キュービット構造は、第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ)を有する第1のフラクソニウム・キュービットを含む。第2のフラクソニウム・キュービットが、第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合される。第3のコンデンサが、直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュービット構造であって、
第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ)を含む第1のフラクソニウム・キュービットと、
第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、前記第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合された第2のフラクソニウム・キュービットと、
前記直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合された第3のコンデンサと
を備える、キュービット構造。
【請求項2】
前記第1および第2のコンデンサが、各々、超伝導体コンデンサ・パッドであり、
前記第1のフラクソニウム・キュービットと前記第2のフラクソニウム・キュービットとの間の直列接続の界面における共通ノードが、中間の超伝導体コンデンサ・パッドであり、
前記第1のコンデンサ・パッドと前記第2のコンデンサ・パッドとが、前記第3のコンデンサによって容量結合される、
請求項1に記載のキュービット構造。
【請求項3】
前記第3のコンデンサの前記容量結合が、前記第1および第2のフラクソニウム・キュービットに関連するプラズモン様励起をブライト・モードとダーク・モードとにハイブリッド化させるように構成される、請求項2に記載のキュービット構造。
【請求項4】
前記ダーク・モードが、前記ブライト・モードよりも周波数が高い、請求項3に記載のキュービット構造。
【請求項5】
前記第1のフラクソニウム・キュービット、前記第2のフラクソニウム・キュービット、および前記第3のコンデンサが、第1のダイフラクソニウム・キュービットを作り出し、
前記キュービット構造が、
第2のダイフラクソニウム・キュービットと、
前記第1のダイフラクソニウム・キュービットと前記第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合されたバス共振器と
をさらに備える、
請求項1に記載のキュービット構造。
【請求項6】
前記バス共振器が、前記第1のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合された第1のノードを有し、
前記バス共振器が、前記第2のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合された第2のノードを有する、
請求項5に記載のキュービット構造。
【請求項7】
前記バス共振器構造が、モード選択的電荷結合を行って、結合されていないキュービット・モード間のクロストークを抑制するように構成される、請求項5に記載のキュービット構造。
【請求項8】
前記第1のフラクソニウム・キュービットおよび前記第2のフラクソニウム・キュービットが、共振器誘起位相(RIP)ゲートによって実装される、請求項5に記載のキュービット構造。
【請求項9】
前記第1のフラクソニウム・キュービットおよび前記第2のフラクソニウム・キュービットが、別々のモードにある、請求項5に記載のキュービット構造。
【請求項10】
前記第1および第2のフラクソニウム・キュービットが、ゼロ磁場で動作するように構成される、請求項1に記載のキュービット構造。
【請求項11】
前記第1および第2のフラクソニウム・キュービットの磁束ノイズによる位相緩和を防止するように構成された磁気シールドをさらに備える、請求項1に記載のキュービット構造。
【請求項12】
マルチ・キュービットもつれゲートを提供する方法であって、
第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ)を含む第1のフラクソニウム・キュービットを提供することと、
第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、前記第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合された第2のフラクソニウム・キュービットを提供することと、
第3のコンデンサを前記直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合することと
を含む、方法。
【請求項13】
前記第3のコンデンサによって前記第1のコンデンサ・パッドと前記第2のコンデンサ・パッドとを容量結合することと、
前記第1のフラクソニウム・キュービットと前記第2のフラクソニウム・キュービットとの間の直列接続の界面における共通ノードを、中間の超伝導体コンデンサ・パッドとして構成することと、
前記第1および第2のコンデンサを、各々、超伝導体コンデンサ・パッドとして構成することと
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記容量結合によって、前記第1および第2のフラクソニウム・キュービットに関連するプラズモン様励起をブライト・モードとダーク・モードとにハイブリッド化させることをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のフラクソニウム・キュービット、前記第2のフラクソニウム・キュービット、および前記第3のコンデンサが、第1のダイフラクソニウム・キュービットを作り出し、
前記方法が、
第2のダイフラクソニウム・キュービットを提供することと、
バス共振器を前記第1のダイフラクソニウム・キュービットと前記第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合することと
をさらに含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記バス共振器の第1のノードを前記第1のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合することと、
前記バス共振器の第2のノードを前記第2のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合することと
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記バス共振器によって、モード選択的電荷結合を行って、結合されていないキュービット・モード間のクロストークを抑制することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のフラクソニウム・キュービットと前記第2のフラクソニウム・キュービットとを別々のモードで動作させることをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
磁気シールドを介して前記第1および第2のフラクソニウム・キュービットの磁束ノイズによる位相緩和を防止することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
共振器誘起位相(RIP)ゲートであって、
第1のダイフラクソニウム・キュービットであって、
第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ)を含む第1のフラクソニウム・キュービットと、
第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、前記第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合された第2のフラクソニウム・キュービットと、
前記直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合された第3のコンデンサとを備える、前記第1のダイフラクソニウム・キュービットと、
第2のダイフラクソニウム・キュービットであって、
第4のコンデンサおよび第3の超伝導インダクタと並列な第3のジョセフソン接合(JJ)を含む第3のフラクソニウム・キュービットと、
第5のコンデンサおよび第4の超伝導インダクタと並列な第4のJJを含み、前記第3のフラクソニウム・キュービットと直列に結合された第4のフラクソニウム・キュービットと、
前記直列の第3および第4のフラクソニウム・キュービットと並列に結合された第6のコンデンサとを備える、前記第2のダイフラクソニウム・キュービットと、
前記第1のダイフラクソニウム・キュービットと前記第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合されたバス共振器と
を備える、共振器誘起位相(RIP)ゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、量子コンピューティングに関し、より詳細には、超伝導構造およびその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子コンピューティングとは、超伝導電子回路における量子コンピュータの実装である。量子計算は、情報処理や通信のために量子力学的現象を応用することを研究している。量子計算には様々なモデルが存在し、最も一般的なモデルはキュービットと量子ゲートの概念を取り入れたものである。キュービットは、2つの可能な状態を持つビットの一般化であるが、両方の状態の量子の重ね合わせにあることができる。量子ゲートは論理ゲートの一般化であるが、量子ゲートは、1つまたは複数のキュービットが、初期状態が与えられた場合に、それらにゲートが適用された後に受ける変化を記述する。
【0003】
より多くの超伝導キュービットを含むことが可能であることは、量子コンピュータのポテンシャルを実現できるようにする上で重要となる。しかし、そのようなキュービットの数が増加するにつれて、キュービット間のクロストークが、誤り率を上昇させ得る。超伝導キュービット間のクロストークを制御する技法があったとしても、そのような構造は他の超伝導キュービットよりも低い非調和性を有する傾向があり、これにより、速度が制限され、したがって、量子ゲートの忠実度が制限され得る。重ね合わせやもつれなど、様々な量子力学的現象は、古典的コンピューティング分野における類似物がないため、特殊な構造、技法、材料を必要とし得る。
【発明の概要】
【0004】
以下では、例示的かつ非限定的な実施形態についてまとめる。一実施形態によれば、キュービット構造は、第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ:Josephson Junction)を含む、第1のフラクソニウム・キュービットを含む。第2のフラクソニウム・キュービットが、第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合される。第3のコンデンサが、直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合される。
【0005】
一実施形態では、第1および第2のコンデンサは、各々、超伝導体コンデンサ・パッドである。第1のフラクソニウム・キュービットと第2のフラクソニウム・キュービットとの間の直列接続の界面における共通ノードは、中間の超伝導体コンデンサ・パッドである。第1のコンデンサ・パッドと第2のコンデンサ・パッドとは、第3のコンデンサによって容量結合される。
【0006】
一実施形態では、第3のコンデンサの容量結合は、第1および第2のフラクソニウム・キュービットに関連するプラズモン様励起をブライト・モードとダーク・モードとにハイブリッド化させるように構成される。
【0007】
一実施形態では、ダーク・モードは、ブライト・モードよりも周波数が高い。
【0008】
一実施形態では、第1のフラクソニウム・キュービット、第2のフラクソニウム・キュービット、および第3のコンデンサは、第1のダイフラクソニウム(difluxonium)・キュービットを作り出す。キュービット構造は、第2のダイフラクソニウム・キュービットをさらに含む。バス共振器が、第1のダイフラクソニウム・キュービットと第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合される。
【0009】
一実施形態では、バス共振器は、第1のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合された第1のノードを有する。バス共振器は、第2のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合された第2のノードを有する。
【0010】
一実施形態では、バス共振器構造は、モード選択的電荷結合を行って、結合されていないキュービット・モード間のクロストークを抑制するように構成される。
【0011】
一実施形態では、第1のフラクソニウム・キュービットおよび第2のフラクソニウム・キュービットは、共振器誘起位相(RIP:resonator induced phase)ゲートによって実装される。
【0012】
一実施形態では、第1のフラクソニウム・キュービットおよび第2のフラクソニウム・キュービットは、別々のモードにある。
【0013】
一実施形態では、第1および第2のフラクソニウム・キュービットは、ゼロ磁場で動作するように構成される。
【0014】
一実施形態では、第1および第2のフラクソニウム・キュービットの磁束ノイズによる位相緩和を防止するように構成された磁気シールドがある。
【0015】
一実施形態によれば、マルチ・キュービットもつれゲートを提供する方法は、第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ)を含む第1のフラクソニウム・キュービットを提供することを含む。第2のフラクソニウム・キュービットが、第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合されるように提供される。第3のコンデンサが、直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合される。
【0016】
一実施形態では、第1のコンデンサ・パッドと第2のコンデンサ・パッドとは、第3のコンデンサによって容量結合される。第1のフラクソニウム・キュービットと第2のフラクソニウム・キュービットとの間の直列接続の界面における共通ノードは、中間の超伝導体コンデンサ・パッドとして構成される。第1および第2のコンデンサは、各々、超伝導体コンデンサ・パッドとして構成される。
【0017】
一実施形態では、第1および第2のフラクソニウム・キュービットに関連するプラズマ様励起は、容量結合によってブライト・モードとダーク・モードとにハイブリッド化させられる。
【0018】
一実施形態では、第1のフラクソニウム・キュービット、第2のフラクソニウム・キュービット、および第3のコンデンサは、第1のダイフラクソニウム(difluxonium)・キュービットを作り出す。本方法は、第2のダイフラクソニウム・キュービットを提供することをさらに含む。バス共振器が、第1のダイフラクソニウム・キュービットと第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合される。
【0019】
一実施形態では、本方法は、バス共振器の第1のノードを第1のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに容量結合することをさらに含む。バス共振器の第2のノードが、第2のダイフラクソニウム・キュービットの中間パッドに結合される。
【0020】
一実施形態では、バス共振器によってモード選択的電荷結合を行って、結合されていないキュービット・モード間のクロストークを抑制する。
【0021】
一実施形態では、第1のフラクソニウム・キュービットおよび第2のフラクソニウム・キュービットは、別々のモードで動作される。
【0022】
一実施形態では、第1および第2のフラクソニウム・キュービットは、ゼロ磁場で動作される。
【0023】
一実施形態では、第1および第2のフラクソニウム・キュービットの磁束ノイズによる位相緩和は、磁気シールドを介して防止される。
【0024】
一実施形態によれば、共振器誘起位相(RIP)ゲートは、第1のコンデンサおよび第1の超伝導インダクタと並列な第1のジョセフソン接合(JJ)を含む第1のフラクソニウム・キュービットと、第2のコンデンサおよび第2の超伝導インダクタと並列な第2のJJを含み、第1のフラクソニウム・キュービットと直列に結合された第2のフラクソニウム・キュービットと、直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービットと並列に結合された第3のコンデンサとを備える第1のダイフラクソニウム・キュービットを含む。第4のコンデンサおよび第3の超伝導インダクタと並列な第3のジョセフソン接合(JJ)を含む第3のフラクソニウム・キュービットと、第5のコンデンサおよび第4の超伝導インダクタと並列な第4のJJを含み、第3のフラクソニウム・キュービットと直列に結合された第4のフラクソニウム・キュービットと、直列の第3および第4のフラクソニウム・キュービットと並列に結合された第6のコンデンサとを備える第2のダイフラクソニウム・キュービットがある。第1のダイフラクソニウム・キュービットと第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合されたバス共振器がある。
【0025】
本明細書の教示により、キュービット間のクロストークが少なく、高速で正確な2キュービットもつれゲートを可能にする量子コンピューティング・アーキテクチャが提供される。このアーキテクチャは、不完全に制御されたデバイス・パラメータ(例えば、ジョセフソン接合サイズ)に起因するキュービット周波数における適度なばらつきに対して実質的な影響を受けにくい。キュービットの非調和性を最大化することで、単一キュービット・ゲートや2キュービット・ゲートをできる限り高速にすることが可能となる。
【0026】
これらおよび他の特徴は、添付の図面に関連して読まれる、その例示的な実施形態についての以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0027】
図面は、例示的な実施形態についてのものである。これらは、すべての実施形態を例示するものではない。他の実施形態が、追加または代わりとして使用されてもよい。明らかまたは不必要となり得る詳細が、スペースを節約するため、またはより効果的な例示のために省略されてもよい。いくつかの実施形態が、追加のコンポーネントもしくはステップを用いて、または例示されるすべてのコンポーネントもしくはステップを用いずに、あるいはその両方を行って実践されてもよい。異なる図面に同じ符号が登場する場合、それは同一または同様のコンポーネントまたはステップを指す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】例示的な実施形態による、フラクソニウム・キュービットの例示の回路図である。
【
図1B】可変結合キュービットの例示の回路図である。
【
図1C】例示的な実施形態による、
図1Bの第1のコンデンサおよび第2のコンデンサを表す例示のコンデンサ設計の図である。
【
図1D】例示的な実施形態による、可変結合キュービットの例示のモード構造の図である。
【
図2】例示的な実施形態による、例示のダイフラクソニウム回路の図である。
【
図3】例示的な実施形態による、
図2のダイフラクソニウム・キュービット回路のいくつかの例示のデバイス・パラメータを提供する図である。
【
図4】例示的な実施形態による、2つのダイフラクソニウム・キュービットに対するモード選択的結合を用いるバス共振器の例示の回路の図である。
【
図5】本明細書で説明する1つまたは複数の実施形態による、マルチ・キュービット・アーキテクチャにおいてモード選択的電荷結合を行う例示の非限定的プロセスの例示的なフロー図である。
【
図6】本明細書で説明する1つまたは複数の実施形態が容易にされ得る、例示の非限定的動作環境を提供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
概要
以下の詳細な説明では、多くの具体的詳細が、関連する教示の完全な理解をもたらすための例として記載される。しかし、そのような詳細がなくても本教示を実践できることは明らかであろう。他の事例では、よく知られた方法、手続き、コンポーネント、または回路構成、あるいはこれらの組合せが、本教示の態様を不必要に曖昧にすることを回避するために、詳細なしで、比較的高いレベルで説明されている。
【0030】
本技術を論じる上で、各種重要用語を説明することは役に立ち得る。本明細書で使用する場合、キュービットは、量子ビットを表し、量子ゲートとは、2つのキュービット間の重ね合わせを制御することなど、キュービットに対して実行される操作である。
【0031】
本明細書で使用する場合、もつれゲートとは、外部場(例えば、マイクロ波パルス)を量子プロセッサに印加して、2つ以上の別々のキュービット間のもつれ状態を作り出す操作である。C位相という用語は、制御された位相ゲートに関し、あるキュービットのZ回転は、別のキュービットの状態によって規定される。C位相ゲートとは、両キュービットが最初の励起状態にある場合に限り、一方のキュービットが位相シフトを獲得するもつれゲートである。
【0032】
本明細書で使用する場合、共振器誘起位相(RIP)ゲートとは、マルチ・キュービットもつれゲートである。これにより、キュービット周波数における高い柔軟性が可能となり、大規模アーキテクチャにおける量子演算に適したものとなる。RIPゲートの利点は、キュービットが互いに対して実質的に離調している場合にもそれらを結合できることである。したがって、RIPゲートは、より大きな量子アーキテクチャへの拡張性の妨げとなり得るキュービットの周波数構成に対する制約による困難を克服することができる。RIPゲートは、量子系におけるキュービットと共振器との間の強結合を使用する制御されたZ(CZ:controlled-Z)ゲートである。これは、離調されたパルス状のマイクロ波駆動を、本明細書ではバス共振器と呼ばれることもある、共有バス空洞に印加することにより実現され得る。
【0033】
本明細書で使用する場合、ZZは、C位相ゲートを形成するために使用され得る、状態依存のキュービット相互作用を指す。例えば、ZZ相互作用は、一方のキュービットまたはモードの励起が、他方のキュービットまたはモードの遷移周波数におけるシフトを引き起こす、2つのキュービットまたはモード間の相互作用の一種である。したがって、キュービット周波数における状態依存のシフトは、状態依存の位相シフトと同等にすることができるため、これは、2つの異なるキュービットをもつれさせ、C位相ゲートを作り出す方法を表している。静的ZZ相互作用は、外部のマイクロ波駆動がない場合に、2つのキュービットまたはモード間に存在する相互作用に関する。この「常時オン」の相互作用は、各キュービットの独立した制御を阻害し、望ましくないもつれを作り出すことにより、キュービットの系に対して有害となり得る。理想的には、印加場がない場合、静的ZZ相互作用はゼロとなることが望ましい。
【0034】
本明細書で使用する場合、磁束可変という用語は、周波数が磁束に依存するデバイスに関する。
【0035】
本明細書で使用する場合、フラクソニウム・キュービットとは、コンデンサと大きなインダクタンス(スーパーインダクタと呼ばれることもある)の両方によってシャントされたジョセフソン接合(JJ)を含むキュービットである。この点に関して、
図1Aは、フラクソニウム・キュービットの例示の回路図を示す。フラクソニウム・キュービット100は、コンデンサ108と、インダクタンス・エネルギーE
Lを有する大型のインダクタ110とによってシャントされた、ジョセフソン・エネルギーE
Jを有するJJ106を含む。
【0036】
マルチ・モード・キュービットは、強く相互作用する非調和振動子を含む任意の量子系に関する。複合系は、モード間における強い縦方向の結合を有する(すなわち、一方のモードの励起が、他方の遷移周波数を強力にシフトさせ得る)励起の複数のモードを特徴とする。例えば、そのような系は、可変結合キュービット(TCQ:tunable-coupling qubit)であってもよい。この点に関して、TCQの例示の回路
図120を示す
図1Bを参照されたい。TCQ120は、第2のジョセフソン接合124(
図1Bでは、E
J2と表記)に結合された第1のジョセフソン接合122(
図1BではE
J1と表記)を含む。この例示の実施形態では、第1のジョセフソン接合122または第2のジョセフソン接合124あるいはその両方は、基板(例えば、シリコン(Si)基板など)上に形成された1つもしくは複数の超伝導フィルム(例えば、超伝導金属フィルム)または1つもしくは複数の非超伝導フィルム(例えば、常伝導金属フィルム)あるいはその両方を含むことができる。
【0037】
図1Bに描かれる例示の実施形態に示すように、各ジョセフソン接合は、それぞれ第1のコンデンサC
1(128)および第2のコンデンサC
2(126)として示される、並列に結合された対応するコンデンサを有する。
図1Bに示す例示の実施形態では、第1のコンデンサ128および第2のコンデンサ126は、それぞれ、第1のジョセフソン接合122および第2のジョセフソン接合124にわたる直接容量シャントを表す。この点に関して、
図1Cは、例示的な実施形態による、
図1Bの第1のコンデンサ128および第2のコンデンサ126を表す例示のコンデンサ設計140を示す。例えば、コンデンサ設計140は、ジョセフソン接合132および134によって接続された超伝導パッド130A、130B、および130Cによって実装され得る。
【0038】
TCQ120は、その2つの接合122および124に関連する励起の対称的および反対称的組合せに対応する2つの別個のモードを有する。この点に関して、例示的な実施形態による、TCQの例示のモード構造を示す
図1Dを参照されたい。Bモードは、本明細書ではダーク・モードと呼ばれることもある、Aモードよりも周波数が高い。Aモードは正味の双極子モーメントを有し、一般に、本明細書ではブライト・モードと呼ばれることもある、Bモードよりも周波数が低い。
【0039】
例えば、様々な事例において、2接合キュービットは、ダーク・モードとブライト・モードという2つの別個の励起モードをサポートすることまたは呈することあるいはその両方を行い得る。これらの2つの別個の励起モードは、2つの異なる空間的対称性または2つの異なる遷移周波数(たとえば、ダーク・モード遷移周波数およびブライト遷移周波数)あるいはその両方を有し得る。より具体的には、2接合キュービットのダーク・モードは、正味の双極子モーメントを有していないより高い周波数励起モードとなり得る。別の言い方をすれば、ダーク・モードは、大域的電場に対する結合を控え得る。それとは異なり、2接合キュービットのブライト・モードは、正味の双極子モーメントを有するより低い周波数励起モードとなり得る。すなわち、ブライト・モードは、大域的電場に結合し得る。様々な事例において、2接合キュービットは、ダーク・モード(例えば、したがって、ダーク・モード遷移周波数を有し得る)またはブライト・モード(例えば、したがって、ブライト・モード遷移周波数を有し得る)のいずれかで符号化され得る。
【0040】
様々な態様において、符号化間で2接合キュービットを切り替えるために短いマイクロ波パルスが使用され得る(例えば、ダーク・モードからブライト・モードへ、またはブライト・モードからダーク・モードへ、あるいはその両方で2接合キュービットを切り替えるために、2接合キュービットに好適なマイクロ波パルスが印加され得る)。
【0041】
例えば、
図1Cに描かれる例示の実施形態に示す超伝導キュービット134および第2の超伝導キュービット132は、各々、第1の振動モード(例えば、Aもしくはブライト・モード)または第2の振動モード(例えば、Bもしくはダーク・モード)で動作し得る。いくつかの実施形態では、第1の振動モードおよび第2の振動モードは、互いに対して異なる(例えば、別個の)周波数または異なる(例えば、別個の)空間的対称性あるいはその両方に対応し得る。これらの実施形態において、第1の振動モードおよび第2の振動モードは、第1のジョセフソン接合122および第2のジョセフソン接合124に関連する励起の対称的および反対称的組合せを示すことができる。これらの実施形態において、第1のジョセフソン接合122および第2のジョセフソン接合124に関連する励起のこのような対称的および反対称的組合せは、第1の超伝導パッド130Cと第3の超伝導パッド130Aとの容量結合から生じ得る。
【0042】
本明細書で使用する場合、トランズモンとは、帯電エネルギーEcが、ジョセフソン・エネルギーEjよりもはるかに小さい、超伝導キュービットの一種である。
【0043】
本明細書で使用する場合、駆動ラインは、信号をキュービットに搬送するキュービット制御ラインに関する。
【0044】
本明細書で使用する場合、「結合された」という用語または「電気的に結合された」という用語あるいはその両方は、要素が互いに直接結合されなければならないことを意味するわけではない。すなわち、「結合された」かまたは「電気的に結合された」要素の間に介在要素が設けられてもよい。それとは異なり、ある要素が別の要素に「直接接続された」または「直接結合された」ものとして言及される場合、介在要素は存在しない。「電気的に接続された」という用語は、互いに電気的に接続された要素間の低オーミック電気接続を指す。
【0045】
本明細書で使用する場合、「ロスレス」、「超伝導体」、「超伝導」、「絶対ゼロ」などの特定の用語が、理想的な振る舞いと考えられ得るものを示すために使用され、これらの用語は、所与の適用に対して厳密に理想的でなくてもよいが、許容可能なマージン内にある機能をカバーすることを意図するものである。例えば、特定のレベルのロスまたは公差は、結果として得られる材料および構造が、依然としてこれらの「理想化された」用語で呼ばれ得るほど、許容可能であり得る。
【0046】
本明細書では、様々な要素を説明するために、第1の、第2の、第3の等の用語が使用され得るが、これらの要素は、このような用語によって限定されるべきではない。このような用語は、ある要素を別の要素から区別するために使用されているにすぎない。例えば、例示の実施形態の範囲から逸脱することなく、第1の要素が第2の要素と呼ばれる場合もあり、同様に、第2の要素が第1の要素と呼ばれる場合もある。本明細書で使用する場合、「~または~あるいはその両方(~または~あるいはこれらの組合せ)」という用語は、関連する挙げられた項目のうちの1つまたは複数のあらゆる組合せを含む。
【0047】
本明細書では、例示の実施形態について、理想化または簡略化された実施形態(および中間構造)の概略図を参照して説明する。そのため、例えば、製造技法または公差あるいはその両方の結果として図示の形状からのばらつきが予想され得る。したがって、図に示された領域は、本質的に概略的なものであり、それらの形状は、必ずしもデバイスの領域の実際の形状を示すものではないし、範囲を限定するものでもない。
【0048】
特許請求の範囲によって定義される思想および範囲から逸脱することなく、他の実施形態が使用されてもよく、構造的または論理的変更がなされてもよいことを理解されたい。実施形態の説明は、限定的なものではない。特に、以下に説明する実施形態の要素は、異なる実施形態の要素と組み合わせることができる。
【0049】
本開示は、一般に、超伝導デバイスに関し、より詳細には、キュービット間のクロストークが少なく、高速かつ正確な2キュービットもつれゲートを可能にする量子コンピューティング・アーキテクチャを提供することに関する。キュービットに関連する電磁エネルギーは、いわゆるジョセフソン接合、ならびにキュービットを形成するために使用される容量素子および誘導素子に蓄積することができる。一例では、キュービット状態を読み出すために、空洞周波数においてキュービットに結合するマイクロ波読出し空洞にマイクロ波信号が印加される。送信(または反射)されたマイクロ波信号は、ノイズを阻止または低減し、信号対雑音比を改善するために使用される、複数の熱的分離段階および低ノイズ増幅器を通過する。代替または追加として、1つまたは複数のキュービットをもつれさせるために、マイクロ波信号(例えば、パルス)が使用されてもよい。返された/出力されたマイクロ波信号の振幅または位相あるいはその両方は、キュービットが基底または励起状態に位相緩和したかどうかなど、キュービット状態に関する情報を搬送する。キュービット状態に関する量子情報を搬送するマイクロ波信号は、通常、弱く(例えば、数個のマイクロ波光子程度)、クロストークによって影響を受け得る。
【0050】
より多くのキュービットを含むことが可能であることは、拡張性のある量子コンピュータのポテンシャルを実現できるようにする上で重要である。キュービット間のクロストークは、誤り率を上昇させ得る。一般に、ゲート誤りの2つの主な発生源、すなわち、デコヒーレンス(確率論的)と非理想的相互作用(決定論的)とがある。後者には、寄生結合、非計算的状態への漏出、および制御クロストーク(control crosstalk)が含まれる。
【0051】
本発明者は、量子コンピュータの計算量および信頼性を高めるには、2つの主要な側面に沿った改良が必要であるという認識を得た。1つ目は、キュービット数そのものである。量子プロセッサ内のキュービットが増えるほど、原理的には、より多くの状態を操作および記憶可能となる。2つ目は、低い誤り率であり、これは、キュービット状態を正確に操作し、単に信頼性の低いデータではなく一貫性のある結果をもたらす一連の演算を実行することに関連する。したがって、量子コンピュータのフォールト・トレランスを向上させるためには、論理量子ビットの記憶のために大量の物理的キュービットの使用が必要となる。このように、局所的情報は、古典的コンピュータのパリティ・チェックと同様に、量子コンピュータが局所誤りやキュービットの固有基底における測定の実施に対する影響を受けにくくなるように非局在化され、これにより、よりフォールト・トレラントな量子ビットへと進化する。
【0052】
近年、高い非調和性とコヒーレンス時間の長さから、フラクソニウム・キュービットの使用への積極的関心が高まっている。しかし、他の超伝導キュービットと同様に、フラクソニウム・キュービット間の最小限のクロストークを有する高忠実度の2キュービット・ゲートを実現することは、未解決の難題であった。超伝導キュービット間のクロストークは、TCQ間のモード選択的結合の使用により制御され得るが、そのようなTCQは、他の超伝導キュービットよりも低い非調和性を有する傾向があり、これにより、速度が制限され、したがって、量子ゲートの忠実度が制限され得る。
【0053】
一態様では、本明細書の教示は、古典的コンピューティング・アーキテクチャにおいて呈されることのない、量子回路によって呈される固有の難題により、コンピューティング素子と相互作用するための従来の集積回路技法を超伝導量子回路に直接適用することは、効果的でない可能性があるという本発明者の洞察に基づいている。したがって、本開示の実施形態は、超伝導量子回路を構築すること、特に、キュービットと効率的に相互作用するために使用される方法およびアーキテクチャを選定することに対する従来の集積回路技法の適用性を評価する際に、量子回路に固有の問題が考慮されているという認識にさらに基づく。
【0054】
本明細書の教示は、キュービット間のクロストークが少なく、高速で正確な2キュービットもつれゲートを可能にする量子コンピューティング・アーキテクチャを提供する。このアーキテクチャは、不完全に制御されたデバイス・パラメータ(例えば、ジョセフソン接合サイズ)に起因するキュービット周波数における適度なばらつきに対して実質的な影響を受けにくい。キュービットの非調和性を最大化することで、単一キュービット・ゲートや2キュービット・ゲートをできる限り高速にすることが可能となる。本明細書で説明する技法は、いくつかの方法で実施され得る。例示の実施態様が、以下の図を参照して下記で提供される。
【0055】
例示の回路図
図2は、例示的な実施形態による、ダイフラクソニウム回路200を示す。回路は、第1のコンデンサ228(C
1)および第1の超伝導インダクタ240(E
L1)と並列な第1のジョセフソン接合222(E
J1)を有する第1のフラクソニウム・キュービット250を備える。第2のコンデンサ226(C
2)および第2の超伝導インダクタ242(E
L2)と並列な第2のジョセフソン接合224(E
J2)を有する第2のフラクソニウム・キュービット252がある。第1および第2のフラクソニウム・キュービット250、252は、直列に接続され、共通ノード230を共有している。一実施形態では、共通ノード230は、本明細書では中間パッドと呼ばれることもある、超伝導コンデンサ・パッドである。第1のフラクソニウム・キュービットの第1のノード251および第2のフラクソニウム・キュービットの第1のノード253は、それぞれ、本明細書では下部パッドおよび上部パッドと呼ばれることもある、超伝導コンデンサ・パッドである。上部パッド253と下部パッド251とは、第3のコンデンサC
S232によって容量結合される。そのような容量結合(すなわち、下部コンデンサ・パッド252と上部コンデンサ・パッド250との間の容量結合)によって、2つのフラクソニウム・キュービットに関連するプラズモン様励起が、2つのTCQを有するのと同様に、第1のモードと第2のモードと(例えば、AとBと)にハイブリッド化させられる。
【0056】
例えば、第3のコンデンサ232は、第1のパッド252と第2のパッド250との間の容量結合を表し、そのような容量結合により、互いに対して異なる周波数および異なる空間的対称性を有する第1の振動モードと第2の振動モードとを作り出すことが可能となり得る。この例示の実施形態では、第1の振動モードと第2の振動モードとの間のそのような相互作用により、第1および第2のフラクソニウム・キュービットの拡張状態(例えば、ハイブリッド化された量子状態、ハイブリッド化された振動モード等)を作り出すことが可能となり得る。
【0057】
したがって、回路200のアーキテクチャは、直列に接続された2つのフラクソニウム・キュービット250および252を提供し、追加の容量結合232を含む。このダイフラクソニウムのアーキテクチャは、(従来のトランズモン・キュービットの非調和性に対する)高い非調和性、ならびに(従来のトランズモン・キュービットのコヒーレンス時間に対する)フラクソニウムの高いコヒーレンスを有する新規マルチ・モード・キュービットを生成する。
【0058】
一実施形態では、ダイフラクソニウムの1つのモードに対してのみ、選択的電荷結合が使用される。これにより、キュービット・モード(すなわち結合されていないモード)間のクロストークを抑制しつつ、それでもなお2キュービット・ゲートを可能にすることができるようになる。
【0059】
一実施形態では、ダイフラクソニウム回路200は、以下の式によって与えられるように、ゼロ磁場で動作される。
【0060】
(φext,1=φext,2=0) (式1)
【0061】
デバイスは、磁束ノイズによる位相緩和を防止するために、磁気的に遮蔽され得る。この点に関して、外部磁場を必要とせずに超伝導量子コンピュータを動作させることにより、キュービットの位相緩和を引き起こし、ゲート忠実度を低下させ得る磁束ノイズの影響を抑制することが可能となることに留意されたい。ダイフラクソニウム・キュービット回路200のハミルトニアンは、以下の式によって与えられる。
【0062】
【数1】
(式2)
ここで、n1は、第1のジョセフソン接合の電荷演算子を表し、n2は、第2のジョセフソン接合の電荷演算子を表し、
【数2】
は、(式5で以下に定義される)n1とn2との間の結合エネルギーを表す。
【0063】
異なる容量素子C1、C2、およびCS(すなわち、228、226、および232)の受動エネルギーは、以下の式で与えられる。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
図3は、例示的な実施形態による、
図2のダイフラクソニウム・キュービット回路200のいくつかの例示のデバイス・パラメータを提供する。より具体的には、
図3は、第1のコンデンサC
1(228)、第2のコンデンサC
2(226)、シャント・コンデンサC
S(232)、第1および第2のジョセフソン接合のエネルギーE
J1、E
J2(222、224)、ならびに第1および第2のインダクタのエネルギーE
L1、E
L1(240、242)の例示値を提供する。
図3の例では、Aモードの周波数は5.16GHzであり、-550MHzの非調和性を有する。Bモードの周波数は6.20GHzである。
【0068】
次に、
図4を参照されたい。
図4は、例示的な実施形態による、2つのダイフラクソニウム・キュービットに対するモード選択的結合を有するバス共振器の回路400である。回路400は、
図2の2つのダイフラクソニウム回路200が、バス共振器424によって互いに接続され得ることを示している。
図4に示す例示の実施形態では、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aの中間パッド430Aは、超伝導バス共振器424に容量結合することができ、これは、結合コンデンサ422Aによって表される。同様に、第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bの中間パッド430Bは、超伝導バス共振器424に容量結合することができ、これは、結合コンデンサ422Bによって表される。
【0069】
いくつかの実施形態では、第1および第2のダイフラクソニウム・キュービット402Aおよび402Bは、バス共振器が反対のモード(例えば、ダークまたはブライト)に結合されているとき、同一のモード(例えば、ブライトまたはダーク)においてキュービット情報を符号化してもよい。例えば、第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bが第1のモード(例えば、モードAまたはブライト)にあり、バス共振器が2つのダイフラクソニウム・キュービットの第2のモード(例えば、Bモードまたはダーク・モード)に結合されているとき、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aは、第1のモード(例えば、モードAまたはブライト)にあってもよいし、その逆であってもよい。
【0070】
例えば、超伝導バス共振器424は、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aが、結合モードを含み得る、
図1DのモードBに対応していることに基づいて(例えば、それに従って)、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aおよび第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bに結合され得る。本実施形態において、第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bは、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aおよび第2のダイフラクソニウム・キュービット402BのAモードにおいて量子情報(例えば、キュービット情報、量子状態情報等)を符号化することまたは記憶することをあるいはその両方を行うことを可能にすることができ、
図1DのモードAは、データ・モードを含み得る。本明細書で論ずるモード選択的結合は、キュービット・モード間のクロストークを抑制しつつ、2キュービットもつれゲートを容易にする。上記実施形態で説明したそのようなモード結合方式は、本明細書で説明する主題的開示の実施形態のうちの1つまたは複数を実施するエンティティ(例えば、人間、コンピューティング・デバイス、ソフトウェア・アプリケーション、エージェント、機械学習モデル、人工知能モデル等)によって実現され得るモード選択的結合方式を構成し得る。
【0071】
図4の例示の実施形態では、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aの場合、Aモードの周波数f
Aが5.3GHzとなり、Bモードの周波数f
Bが6.3GHzとなるように、第1および第2のダイフラクソニウム・キュービット402Aおよび402Bのパラメータを選択した。第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bの場合、Aモードの周波数はf
A=5.6GHzであり、Bモードの周波数はf
B6.67GHzである。本明細書で上述したハミルトニアンを使用すると、ダイフラクソニウムAモード間のZZは、非常に小さい0.07kHzであり、これは、例えば、知られたトランズモン・デバイスよりも大幅に小さい。例えば、Aモードにおける第2のダイフラクソニウム・キュービットの励起は、第1のダイフラクソニウム・キュービットの遷移周波数に実質的に影響を及ぼさない。
【0072】
第1のダイフラクソニウム・キュービット402AのAモードとバス共振器424との間のZZ結合は、大きく(例えば、14MHz)、第2のダイフラクソニウム・キュービット402BのAモードとバス共振器424との間のZZ結合も4.4MHzと大きい。
【0073】
したがって、所与のフラクソニウム・キュービットについてのE
JおよびE
Lの間には10%の非対称性がある。バス共振器424は、ダイフラクソニウム・キュービットのBモードに対して約46MHzの交換結合を有する。
図4に示すように、ダイフラクソニウム・キュービット402AのAモードとダイフラクソニウム・キュービット402BのAモードとの間の静的ZZは小さく、低いクロストークを実証している。この点に関して、各Aモードとバス共振器424との間の大きな静的ZZは、キュービット・モードとバス共振器424との間に大きな縦方向結合があることを示していることに留意されたい。この結合により、RIPゲートによって(例えば、バス共振器424を離調駆動する)2キュービット・ゲートを実装することが可能となる。例えば、本実施形態では、超伝導バス共振器424を離調駆動したことに基づいて、デバイス400または超伝導バス共振器424あるいはその両方が、RIPゲートとして動作することができ、これは、超伝導バス共振器424においてマイクロ波駆動(例えば、マイクロ波パルス、マイクロ波信号、制御信号等)があるとき(例えば、超伝導バス共振器424に印加されるマイクロ波信号があるとき)に存在する第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aと第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bとの間のZZ相互作用を生成することができる。
【0074】
例示のプロセス
例示のアーキテクチャ200、300、および400についての前述の概要を踏まえると、ここで、例示のプロセスについての高レベルの議論を検討することが役に立ち得る。そのため、
図5は、本明細書で説明する1つまたは複数の実施形態による、マルチ・キュービット・アーキテクチャにおいてモード選択的電荷結合を行う例示の非限定的プロセス500の例示的なフロー図を示す。プロセス500は、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せにおいて実施され得る一連の動作を表す、論理フローチャートにおけるブロックの集合として示される。ソフトウェアの文脈において、ブロックは、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、記載された動作を実行するコンピュータ実行可能命令を表す。一般に、コンピュータ実行可能命令は、機能を実行するかまたは抽象データ型を実装する、ルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造等を含んでもよい。各プロセスにおいて、動作が説明される順序は、限定として解釈されることを意図したものではなく、プロセスを実施するために、任意の数の説明したブロックを任意の順序で組み合わせることまたはそれらを並列に実行することあるいはその両方を行うことができる。説明の便宜上、プロセス500は、
図2および
図4のアーキテクチャに関して説明される。
【0075】
ブロック502では、第1のコンデンサ228および第1の超伝導インダクタ240と並列な第1のジョセフソン接合(JJ)222を含む、第1のフラクソニウム・キュービット250が提供される。
【0076】
ブロック504では、第2のコンデンサ226および第2の超伝導インダクタ242と並列な第2のJJ224を含み、第1のフラクソニウム・キュービット250と直列に結合された第2のフラクソニウム・キュービット252が提供される。
【0077】
ブロック506では、第3のコンデンサ232が、直列の第1および第2のフラクソニウム・キュービット250、252と並列に結合される。
【0078】
一実施形態では、第1のフラクソニウム・キュービット、第2のフラクソニウム・キュービット、および第3のコンデンサは、第1のダイフラクソニウム・キュービット402Aを作り出す。ブロック508では、第2のダイフラクソニウム・キュービット402Bが提供される。
【0079】
ブロック510では、バス共振器424が、第1のダイフラクソニウム・キュービットと第2のダイフラクソニウム・キュービットとの間に結合される。
【0080】
例示のコンピュータ・プラットフォーム
一実施形態では、本明細書で説明する1つまたは複数の実施形態に従って、マルチ・キュービット・アーキテクチャにおいてモード選択的電荷結合を行うことに関する機能は、少なくとも部分的に1つまたは複数のコンピューティング・デバイスの使用により実行され得る。
図6は、本明細書で説明する1つまたは複数の実施形態が容易にされ得る、例示の非限定的動作環境600を提供する。これらの実施形態の態様は、1つまたは複数のコンピュータ上で実行され得るコンピュータ実行可能命令の一般的な文脈において上で説明したが、当業者は、これらの実施形態がまた、他のプログラム・モジュールと組み合わせて、またはハードウェアとソフトウェアとの組合せとして、あるいはその両方で実施され得ることを認識するであろう。
【0081】
動作環境600は、システム・バス602に接続された、中央処理装置(CPU)604、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)606、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)またはリード・オンリ・メモリ(ROM)608あるいはその両方、キーボード610、マウス612、ディスプレイ614、および通信インターフェース616を含んでもよい。
【0082】
一実施形態では、オペレーティング・システム642、1つまたは複数のアプリケーション・プログラム644、他のプログラム・モジュール646、およびプログラム・データ648を含むいくつかのプログラム・モジュールを、メモリ606、608、またはCPU604あるいはこれらの組合せに記憶することができる。
【0083】
本明細書で説明したモジュール642~648および各種機能は、CPU604、HDD606、またはRAM/ROM608あるいはこれらの組合せの一部であるものとして
図6に示しているが、いくつかの実施形態では、これらのモジュールのうちの1つまたは複数が、コンピューティング・デバイス600のハードウェアに実装されてもよい。例えば、本明細書で論じたモジュールは、部分的にハードウェアかつ部分的にソフトウェアの形態で実装されてもよい。すなわち、
図6に示すメモリ・アドレス変換ユニット640のコンポーネントのうちの1つまたは複数が、トランジスタ、ダイオード、コンデンサ、抵抗、インダクタ、バラクタ、またはメモリスタあるいはこれらの組合せを有する電子回路の形態で実装されてもよい。言い換えれば、モジュール646は、本明細書で説明した特定のタスクおよび機能を実行する1つまたは複数の専用に設計された電子回路を用いて実装されてもよい。
【0084】
結論
本教示の様々な実施形態の説明が、例示の目的で提示されてきたが、網羅的であること、または開示される実施形態に限定することを意図するものではない。説明した実施形態の範囲および思想から逸脱することなく、多くの修正例および変形例が当業者には明らかとなろう。本明細書で使用する技術用語は、実施形態の原理、実際の応用、もしくは市場にある技術に対する技術的改善を最良に説明するように、または他の当業者が本明細書で開示される実施形態を理解できるように選定した。
【0085】
上記では、最良の状態と考えられるものまたは他の例あるいはその両方を説明してきたが、様々な修正がなされてもよいこと、本明細書で開示される主題が様々な形態および例において実装され得ること、ならびに教示が多くの応用例に適用され得るが、本明細書ではそれらの一部のみが説明されていることを理解されたい。以下の特許請求の範囲により、本教示の真の範囲内に収まるあらゆる応用例、修正例、および変形例を特許請求することが意図される。
【0086】
本明細書で論じたコンポーネント、ステップ、特徴、目的、利益、および利点は、例示的なものにすぎない。それらのいずれも、またそれらに関する議論も、保護の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書では様々な利点について論じたが、すべての実施形態が、必ずしもすべての利点を含むわけではないことが理解されよう。別段の記載がない限り、以下の特許請求の範囲を含む、本明細書に記載されるすべての測定値、値、評価、位置、大きさ、サイズ、および他の仕様は、おおよそのものであり、厳密なものではない。これらは、関係する機能、および関連する技術分野の慣例と一致する合理的な範囲を有することが意図される。
【0087】
多くの他の実施形態も企図される。これらは、より少ない、追加の、または異なる、あるいはこれらの組合せのコンポーネント、ステップ、特徴、目的、利益、および利点を有する実施形態を含む。これらはまた、コンポーネントまたはステップあるいはその両方が、異なって配置されるかまたは順序付けられるあるいはその両方が行われる実施形態を含む。例えば、本明細書で論じた任意の信号は、根底にある制御方法を大幅に変更することなく、スケーリング、バッファリング、スケーリングおよびバッファリング、別の状態への変換(例えば、電圧、電流、電荷、時間等)、または別の状態への変換(例えば、高から低および低から高)が行われてもよい。
【0088】
以上、例示的な実施形態とともに説明したが、「例示的」という用語は、最良または最適を意味するものではなく、単に一例であることを意味するものにすぎないことを理解されたい。直前に述べた場合を除き、述べられたかまたは例示されたもののいずれも、特許請求の範囲に記載されるか否かにかかわらず、任意のコンポーネント、ステップ、特徴、目的、利益、利点、または同等のものを公衆に提供することを意図するものではなく、またはそのように解釈されるべきではない。
【0089】
本明細書で使用される用語および表現は、本明細書で具体的な意味が別途設定されている場合を除き、それぞれの対応する調査および研究の領域に関して、そのような用語および表現に与えられる通常の意味を持つことが理解されよう。第1のおよび第2の等の関係語は、1つのエンティティまたは動作と別のエンティティまたは動作との間の実際のそのような関係性または順序を必ずしも必要とするまたは示唆することなく、1つのエンティティまたは動作を別のエンティティまたは動作から区別するためだけに使用され得る。「備える(comprises)」、「備える(comprising)」という用語またはその任意の他の変形例は、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、または装置が、これらの要素を含むだけでなく、明示的に挙げられていないか、またはそのようなプロセス、方法、物品、もしくは装置に固有ではない他の要素を含み得るように、非排他的な包含をカバーすることを意図する。「1つの(a)」または「1つの「an」)によって先行される要素は、さらなる制約なしに、当該要素を含むプロセス、方法、物品、または装置における追加の同一要素の存在を除外しない。
【0090】
本開示の要約書は、読み手が、本技術的開示の本質を迅速に理解することを可能にするために提供される。これは、請求項の範囲または意味を解釈または限定するために使用されるものではないことを理解した上で提出されるものである。また、上記の発明を実施するための形態において、本開示を簡略化することを目的として、様々な実施形態において各種特徴がまとめられてグループ化されていることが分かる。本開示の方法は、特許請求される実施形態が、各請求項に明示的に記載されるものよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものとして解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、本発明の主題は、単一の開示される実施形態のすべての特徴に満たないものにある。したがって、以下の特許請求の範囲は、これにより、各々が、独立して別個に特許請求される主題として、発明を実施するための形態に組み込まれる。
【国際調査報告】