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特表2024-546497Claudin18.2を標的とする抗体―薬物複合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-24
(54)【発明の名称】Claudin18.2を標的とする抗体―薬物複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20241217BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241217BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241217BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20241217BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241217BHJP
   A61K 31/537 20060101ALI20241217BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/19
C07K16/28
A61K31/537
A61K31/4745
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535848
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 CN2022139637
(87)【国際公開番号】W WO2023109953
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】202111551337.8
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523353465
【氏名又は名称】フォートビタ バイオロジクス(シンガポール)プライベート リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】フー カイチエ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ショアイシアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ シャオダン
(72)【発明者】
【氏名】ルー ジャア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB13
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA19
4C084BA14
4C084BA41
4C084DA01
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG06
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086NA14
4C086ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、Claudin18.2を標的とする抗体-薬物複合体(ADC)および上記分子を含む組成物に関する。本発明は、これらの抗体もしくは抗体断片の治療および診断の使用にさらに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
Ab-(L-(D)(I)
を有する抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
式中、
Abは、CLDN18.2(例えばヒトCLDN18.2)に結合する抗体もしくはその断片であり、
Lはリンカーであり、
Dは薬物、例えば抗腫瘍化合物であり、かつ
pは1~10、例えば1~9、2~8、3~7、4~6、もしくは2~6であり、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10であり、
rは1~5、好ましくは1または2であり、
ここで
前記式(I)中のAbは、それぞれ配列番号1、2および3に示されるアミノ酸配列のHCDR1、HCDR2およびHCDR3、ならびにそれぞれ配列番号6、7および8に示されるアミノ酸配列のLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、
前記抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
前記式(I)中のAbは、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含み、
前記重鎖可変領域は、
(i)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなる、もしくは
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなる、もしくは
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域に生じない、および/または
前記軽鎖可変領域は、
(i)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなる、もしくは
(ii)配列番号9のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなる、もしくは(iii)配列番号9のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域に生じない、
前記抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項3】
前記式(I)中のAbは、重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域をさらに含む、
請求項1または2に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項4】
前記式(I)中のAbは、IgG抗体である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項5】
前記式(I)中のAbの重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4から選択され、好ましくはIgG1である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
前記式(I)中のAbは、重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は、
(i)配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、
(ii)配列番号11のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、または
(iii)配列番号11のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、および
前記軽鎖は、
(i)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、または
(iii)配列番号12のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなる、
前記抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項7】
前記式(I)中のAbはヒト抗体である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項8】
前記式(I)中のAbは抗原結合断片、例えばFv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、dAb(domain antibody)、線状抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、単一ドメイン抗体(例えば、VHH)、二価抗体もしくはその断片、またはラクダ科抗体である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項9】
前記リンカーは、MC-VC-PAB、vc-PAB、SMCCまたはMC-GGFGである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項10】
前記抗体は、改変されたグリコシル化を有する抗体、例えばインビトロでの糖鎖の酵素的修飾(例えば、グリコシダーゼ(エンドグリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼなど)による糖鎖の修飾)後に得られた抗体であり、好ましくは、前記改変されたグリコシル化を有する抗体は、抗体のグリコシル化部位の糖鎖が不均一な構造のN糖鎖から、反応性基(例えば、アジド基、ケトン基およびアルキニル基などの、リンカー部分と反応できる任意の反応性基)を持つ単一構造のN糖鎖に改変された抗体であり、より好ましくは、前記N-グリコシル化部位は、前記抗体のFcドメインの保存的なN-グリコシル化部位、例えばAsn297である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項11】
前記リンカーは、部位特異的カップリングを実現することができるリンカーであり、好ましくは抗体オリゴ糖に連結するリンカーであり、好ましくは、前記オリゴ糖リンカーは、アルキニル基を含むリンカーであり、最も好ましくは、前記オリゴ糖リンカーは、前記抗体のFcドメインの保存的なN-グリコシル化部位(Asn297など)にあるN-糖鎖上の反応性基(アジド基など)との特異的部位カップリングを実現することができるリンカーである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項12】
前記抗腫瘍化合物は、細胞傷害剤もしくは化学療法剤であり、例えばエキサテカン(Exatecan)、Dxd、MMAEもしくはDM1である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項13】
式IIを有する抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
【化1】
式中
Abは、請求項1~8のいずれか一項に定義されるとおりであり、
はリンカーであり、
Eは糖または糖誘導体であり、好ましくは、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、グルコース(Glc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、グルクロン酸(Gcu)、フコース(Fuc)およびN-アセチルノイラミン酸(シアル酸)から選択され、
GlcNAcはN-アセチルグルコサミン、Fucはフコースであり、
Dおよびrは、請求項1~8のいずれか一項の式Iに定義されるとおりであり、
bは、0もしくは1であり、
xは、1、2、3もしくは4であり、
yは、1~20である、
前記抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項14】
xは、1もしくは2であり、および
yは、1~10であり、
好ましくは、xは1、およびyは2である、
請求項13に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項15】
EはGalNAcである、
請求項13に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項16】
Eは6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトースであり、および6位のC原子を介してLに連結する、
請求項15に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項17】
Abに連結するGlcNAcは、前記抗体の前記2つの重鎖のAsn297-グリコシル化部位に存在する、
請求項13~15のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項18】
請求項11~17のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
は、下記構造を有する:
【化2】
Qは、-N(H)C(O)CH-または-CH-であり、
は、独立的に水素、ハロゲン、-OR、-NO、-CN、-S(O)、C-C12アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C-C12アルキルアリール基、C-C12アルキルヘテロアリール基、アリールC-C12アルキル基およびヘテロアリールC-C12アルキル基から選択され、および、前記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリール基、アリールアルキル基およびヘテロアリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基Rは、縮合、架橋もしくはスピロ結合されたシクロアルキル基または縮合もしくはスピロ結合された芳香族炭化水素もしくはヘテロ芳香族炭化水素置換基を形成するために共に連結され得、および、Rは、独立的に水素、ハロゲン、C-C24アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C-C12アルキルアリール基、C-C12アルキルヘテロアリール基、アリールC-C12アルキル基およびヘテロアリールC-C12アルキル基から選択され、
およびRはそれぞれ、独立的に水素、ハロゲン、C-C24アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C-C12アルキルアリール基、C-C12アルキルヘテロアリール基、アリールC-C12アルキル基およびヘテロアリールC-C12アルキル基から選択され、
cは、0、1、2、3もしくは4であり、
mは、0もしくは1であり、
nは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10であり、
Yは、O、SもしくはNRであり、
およびLはそれぞれ、独立的にC-C12アルキル基であり、当該アルキル基における1つまたは複数の炭素原子は、O、Nおよび/またはSが互いに直接連結しないことを条件として、O、NおよびSから選択されるヘテロ原子で任意選択で置換され、
はそれぞれ、独立的に切断可能なリンカーである、
前記抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項19】
はそれぞれ、独立的に
【化3】
であり、
およびRはそれぞれ、独立的に水素およびC-C12アルキル基から選択され、および
Arは、アリール基から選択される、
請求項18に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項20】
はそれぞれ、独立的に
【化4】
である、
請求項19に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項21】
-L-は、下記構造
【化5】
を有する、
請求項13~17のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項22】
前記抗体-薬物複合体は1~15、例えば2~10、2~8もしくは3~5のDAR平均値を有する、
請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項23】
前記抗体-薬物複合体は、
【化6-1】
【化6-2】
から選択され、
式中、AbはHB37A6であり、
式中、qはDAR平均値を表し、
IEX019-02、IEX019-04、IEX019-05において、qは2~5、例えば3~5もしくは3.5~4.5であり、
IEX019-03において、qは5~11、例えば7~9もしくは7.5~8.5である、
請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項24】
医薬組成物であって、
請求項1~23のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、および任意選択で、1つまたは複数の他の治療剤、例えば化学療法剤、血管新生抑制剤、サイトカイン、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物もしくは免疫調節剤、並びに任意選択で、薬用補助材料、を含む、
前記医薬組成物。
【請求項25】
医薬組合せであって、
請求項1~23のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、および任意選択で、1つまたは複数の他の治療剤、例えば化学療法剤、血管新生抑制剤、サイトカイン、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物もしくは免疫調節剤、を含む、
前記医薬組合せ。
【請求項26】
対象における腫瘍を予防または治療する方法であって、
有効量の請求項1~23のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、または請求項24に記載の医薬組成物、もしくは請求項25に記載の医薬組合せを前記対象に投与することを含む、
前記方法。
【請求項27】
前記腫瘍は癌であり、好ましくは、前記癌は上昇したレベル(例えば、核酸またはタンパク質レベルでの)のCLDN18.2を有し、好ましくは、前記対象の腫瘍細胞は中程度または高程度にCLDN18.2を発現し、前記癌は、例えば上皮癌または消化管癌であり、例えば、胃癌、胃食道接合部癌、膵臓癌、結腸直腸癌または結腸癌である、
請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法は、治療方式および/または他の治療剤などの1つまたは複数の療法を患者に投与することをさらに含み、好ましくは、前記治療方式は放射線治療もしくは手術を含み、または、前記治療剤は化学療法剤、血管新生抑製剤、サイトカイン、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物もしくは免疫調節剤を含む、
請求項26または27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Claudin18.2(CLDN18.2)を標的とする抗体-薬物複合体(ADC)および上記分子を含む組成物に関する。本発明は、これらの抗体もしくは抗体断片の治療および診断の使用にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
Claudinsは、タンパク質ファミリーの一つであり、細胞のタイトジャンクションを構成する重要な組成部分である。それらは、細胞間の分子運動を制御する細胞間バリアを確立し、細胞間の分子の運動を制御することができる。Claudinsファミリータンパク質は、4回膜貫通ドメインを有し、そのN末端とC末端は、いずれも細胞質に含まれる。異なるClaudinsタンパク質は異なる組織で発現され、その機能の変化は各組織の癌形成に関連している。例えば、Claudin-1は結腸癌で発現されているとともに、予後価値が示され、Claudin-18は胃癌、膵臓癌で高発現され、Claudin-10の発現は肝細胞癌で高発現されている。Claudinsは、細胞膜表面タンパク質として、各種の治療戦略の有用な標的である。
【0003】
Claudinー18のアイソタイプ2(Claudin 18.2またはCLDN18.2)は、高選択的細胞系マーカーであり、その正常組織での発現は、胃粘膜が分化した上皮細胞に厳密に限られるが、胃幹細胞領域に発現されない。CLDN18.2は、かなり多くの原発性胃癌に発現されているとともに、胃転移の癌組織にその発現レベルを保っている。胃癌以外、膵臓癌にもCLDN18.2の発現が見られ、これらの癌を治療する理想的な標的分子である(Singh, P., Toom, S. & Huang, Y. Anti-CLDN18.2 antibody as new targeted therapy for advanced gastric cancer. J Hematol Oncol 10, 105 (2017). https://doi.org/10.1186/s13045-017-0473-4)。
【0004】
胃癌に関しては、2014年には全国で胃癌の新発症例が約41万例、死亡例が約29万例であり、世界の発症人数、死亡人数のほぼ半分を占めており、かつ依然として増加の傾向にある。しかし、満足されない臨床腫瘍治療の要求が大量存在しているため、Claudin18.2を標的とする薬物の開発が非常に必要である。
【0005】
治療用抗体の臨床的成功にもかかわらず、細胞表面腫瘍抗原を標的とする裸のMAbが単独で十分な効果を提供することはほとんどなかった。MAbの低い活性を増加させるために、新たな戦略は、毒性分子への結合に焦点を当てる。植物および細菌毒素ならびに小さな化学療法分子は、極少量で非常に効果的で、活性を有するため、良好な候補物となる可能性がある。
【0006】
過去数年間の技術的進歩により、癌の治療のための抗体-薬物複合体(ADC)の分野では最近、免疫原性、親和性、特異性、望ましくない毒性、生産性、半減期などに関して最初に呈する問題を解決することを目的として、製薬会社によってますます開発活動が増加している。
【0007】
いくつかの進歩が達成されているが、腫瘍を治療するための他の治療戦略、ならびにそのような治療戦略において使用される成分、特に親和性が高く、特異性が高く、および/または免疫原性リスクが低い抗Claudin18.2に対する抗体、ならびに活性が比較的高く、毒性が低く、半減期が長く、特異性が高く、または親和性が高く、および/または半減期もしくはファーマコフォア特性が良好であるADC分子の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、Claudin18.2を標的とする抗体-薬物複合体(ADC)を提供し、上記複合体は、以下の利点を有する。
【0009】
(1)ヒトCLDN18.2を発現する標的細胞に結合し、それと高い親和性を有する。
(2)エンドサイトーシスにより細胞に入り、標的細胞を殺傷することができ、いくつかの実施形態において、本発明のADCは、高いエンドサイトーシス効率を有する。
(3)顕著なバイスタンダー殺傷効果を有する。
(4)高い抗腫瘍薬効を有する。
(5)低い毒性を有する。
(6)良好な安定性を有する。
(7)良好な創薬可能性を有する。
【0010】
いくつかの実施形態において、CLDN18.2は細胞表面で発現または過剰発現され、いくつかの実施形態において、標的細胞はCLDN18.2を発現するCHO細胞または293細胞、例えばCHO-S細胞またはHEK293細胞であり、いくつかの実施形態において、標的細胞はCLDN18.2を発現する癌細胞、例えばCLDN18.2を天然に発現する細胞、CLDN18.2を人工的トランスフェクションによって発現する細胞、または人工的トランスフェクションによって発現レベルが増加したCLDN18.2を有する細胞であり、例えばCLDN18.2を発現する胃癌細胞、膵臓癌細胞株または結腸癌もしくは結腸直腸癌細胞株である。いくつかの実施形態において、標的細胞は、中程度のhCLDN18.2の発現レベルを有する細胞株、例えばNUGC-4、SNU620である。いくつかの実施形態において、標的細胞は、高発現レベルの細胞株、例えばhCLDN18.2を過剰発現するDAN-G細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】HB37A6抗体が細胞表面のCLDN18.2と特異的に結合することを示す。
図2】HB37A6抗体が細胞表面のCLDN18.1と結合していないことを示す。
図3】HB37A6抗体と、胃癌細胞株NUGC-4、胃癌細胞株KATO III-hCLDN18.2および膵臓癌細胞株DAN-G-hCLDN18.2との結合を示す。
図4】HB37A6抗体の膵臓癌マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。
図5】HB37A6抗体の胃癌マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。
図6】IEX019分子の細胞結合作用を示す。
図7】IEX019分子のDANG-hCLDN18.2細胞でのエンドサイトーシスを示す。
図8A】IEX019分子のhCLDN18.2を低発現する細胞株での殺傷效果(図8A)、IEX019分子のhCLDNA8.2の中程度発現レベルの細胞株での殺傷效果(図8B)およびIEX019分子のhCLDN18.2細胞株を高発現する殺傷效果(図8C)を示す。
図8B】IEX019分子のhCLDN18.2を低発現する細胞株での殺傷效果(図8A)、IEX019分子のhCLDNA8.2の中程度発現レベルの細胞株での殺傷效果(図8B)およびIEX019分子のhCLDN18.2細胞株を高発現する殺傷效果(図8C)を示す。
図8C】IEX019分子のhCLDN18.2を低発現する細胞株での殺傷效果(図8A)、IEX019分子のhCLDNA8.2の中程度発現レベルの細胞株での殺傷效果(図8B)およびIEX019分子のhCLDN18.2細胞株を高発現する殺傷效果(図8C)を示す。
図9】IEX019分子のバイスタンダー殺傷効果を示す。
図10A】IEX019分子のマウスにおける腫瘍抑制効果(図10A)および体重変化(図10B)を示す。
図10B】IEX019分子のマウスにおける腫瘍抑制効果(図10A)および体重変化(図10B)を示す。
図11A】IEX019分子のマウスにおける腫瘍抑制効果(図11A)および体重変化(図11B)を示す。
図11B】IEX019分子のマウスにおける腫瘍抑制効果(図11A)および体重変化(図11B)を示す。
図12A】IEX019分子のマウスにおける腫瘍抑制効果(図12A)および体重変化(図12B)を示す。
図12B】IEX019分子のマウスにおける腫瘍抑制効果(図12A)および体重変化(図12B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
I.定義
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するに先立ち、本明細書に記載される特定の方法学、形態または試薬が変更され得るため、本発明はそれらに限定されるものではないことが理解すべきである。また、本明細書に使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定しようとは意図せず、本発明の範囲は、特許請求の範囲のみによって限定されると理解すべきである。特に定義のない限り、本明細書に使用される技術・科学用語は、当業者による通常の理解と同じ意味を有する。
【0014】
本明細書を解釈するために次の定義が使用され、また、適切であるならば、単数形で使用される用語には複数形が含まれてもよく、その逆も同様である。本明細書で使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定するためのものではないと理解しなければならない。
【0015】
「約」という用語は、数字または数値とともに使用される場合、下限として指定された数字または数値より5%小さく、上限として指定された数字または数値より5%大きい範囲内の数字または数値をカバーすることを意味する。
【0016】
本明細書で使用されるように、用語「および/または」は、選択可能なオプションのうちのいずれか1つ、または選択可能なオプションの2つもしくは複数を指す。
【0017】
本明細書で使用されるように、用語「含有する」または「含む」とは、上記要素、整数またはステップを含むが、任意の他の要素、整数またはステップを排除しないことを意味する。本明細書において、用語「含有する」または「含む」が使用される場合、特に断りのない限り、上記他の要素、整数またはステップの組合せの場合も包含する。例えば、ある具体的な配列を「含む」抗体可変領域が言及される場合、この具体的な配列からなる抗体可変領域を包含することも意図する。
【0018】
本明細書に使用される用語「CLAUDIN」または「CLDN」は、細胞間のタイトジャンクション構造を決定する最も重要な骨格タンパク質であり、接着接合に関与するとともに、腫瘍細胞の転移と侵襲に重要な役割を果たす。Claudinタンパク質は、哺乳動物上皮と内皮細胞に広く存在しており、主に上皮細胞側面および基底細胞質膜上に分布している。異なるClaudinタンパク質は、異なる組織においてそれぞれ特異的発現を有し、そのうち、Claudin18(CLDN18)遺伝子は、3q22.3に位置づけられ、分子量が24kDaであり、261個のアミノ酸残基を有し、Claudinsスーパーファミリーメンバーに属し、そのタンパク質構成が、2つの細胞外ループと4つの膜透過領域を有する。ヒトCLDN18またはClaudin18タンパク質の2つのサブタイプは、それぞれClaudin18.1またはCLDN18.1(UniProt ID:P56856-1)およびClaudin18.2またはCLDN18.2(UniProt ID:P56856-2)であり、両方のタンパク質の一次構造配列において、N末端シグナルペプチドから細胞外ループ1(Loop1)構造までのある位置でのアミノ酸残基のみが異なり、特に細胞外ループ1上に、CLDN18.1とCLDN18.2は、8つのアミノ酸のみが異なる。CLDN18の2種類のサブタイプタンパク質の種間配列相同性も非常に高い。そのうち、CLDN18.2の細胞外ループ1は、ヒト、マウス、アカゲザルなどの異なる生物に配列が完全に一致し、ヒトとマウスのCLDN18.2タンパク質の相同性が84%に達することで、CLDN18.2タンパク質配列は極めて保存性の高いことが明らかになった(O.Tureci.ら.,Gene 481:83-92,2011)。CLDN18.2またはその任意の変異体とアイソタイプは、それらを天然的に発現する細胞または組織から単離し、或いは、この分野でよく知られている技術および/または本明細書に記載の技術により組換えて産生することができる。一実施形態において、本明細書に記載のCLDN18.2は、ヒトCLDN18.2である。
【0019】
本明細書に使用される用語「抗CLDN18.2抗体」、「抗CLDN18.2」、「CLDN18.2抗体」、「CLDN18.2と結合する抗体」または「CLDN18.2と特異的に結合する抗体」とは、十分な親和性で(ヒト)CLDN18.2と結合することにより、(ヒト)CLDN18.2を標的とする治療剤として用いることができる抗体である。一実施形態において、上記(ヒト)CLDN18.2抗体は、インビトロまたはインビボで高い親和性で(ヒト)CLDN18.2と結合する。一実施形態において、上記(ヒト)CLDN18.2抗体は、CLDN18.1と結合しない。一実施形態において、上記(ヒト)CLDN18.2抗体は、CLDN18.2を発現する細胞と結合するが、CLDN18.1を発現する細胞と結合しない。いくつかの実施形態において、上記結合は、例えば、放射免疫測定(RIA)、バイオレイヤー干渉測定法(BLI)、MSD測定法または表面プラズモン共鳴法(SPR)またはフローサイトメトリーで測定される。
【0020】
様々な手段、例えば抗CLDN18.2抗体によって、細胞におけるCLDN18.2の発現を決定することができる。例えば、「CLDN18.2を高発現する」細胞と抗CLDN18.2抗体との結合強度(例えば、FACSによって測定される)は、抗CLDN18.2抗体とCLDN18.2を発現しない細胞との結合強度の500倍、600倍、700倍、800倍、900倍もしくは好ましくは1000倍以上であってもよく、例えば1100倍、1200倍、1300倍、1400倍以上もしくはそれより高い。例えば、「CLDN18.2を中程度に発現する」細胞と抗CLDN18.2抗体との結合強度(例えば、FACSによって測定される)は、抗CLDN18.2抗体とCLDN18.2を発現しない細胞との結合強度の5倍~500倍であってもよく、例えば6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍またはそれより高いが、500倍を超えないものである。
【0021】
用語「完全抗体」、「全抗体」または「全長抗体」は、本明細書において互換的に使用可能であり、天然の免疫グロブリン分子構造を有する抗体分子を指す。一般的な4鎖IgG抗体である場合、全長抗体は、ジスルフィド結合によって相互連結された2本の重鎖(H)および2本の軽鎖(L)を含む。重鎖のみを有して軽鎖を欠いた重鎖抗体である場合、全長抗体は、ジスルフィド結合によって相互連結された2本の重鎖(H)を含む。
【0022】
一般的な4鎖IgG抗体では、全長抗体重鎖は、一般的に重鎖可変領域(本明細書においてVHと略す)と重鎖定常領域とからなり、ここで、重鎖定常領域は、少なくとも3つのドメインCH1、CH2およびCH3を含む。全長抗体軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略す)と軽鎖定常領域とからなり、ここで、軽鎖定常領域は1つのドメインCLからなる。それぞれの重鎖可変領域VHおよびそれぞれの軽鎖可変領域は、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシ末端へFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4という順に配列される。
【0023】
用語「抗体断片」は、完全な抗体の一部を含む。好ましい実施形態において、抗体断片は抗原結合断片である。
【0024】
「抗原結合断片」とは、完全な抗体の一部を含むとともに、完全な抗体の結合する抗原と結合する、完全な抗体とは異なる分子を指す。抗体断片の例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、dAb(domain antibody)、線状抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、単一ドメイン抗体(例えば、VHH)、二価抗体もしくはその断片、あるいはラクダ科抗体を含むが、これらに限定されない。
【0025】
用語「抗原」とは、免疫応答を引き起こす分子を指す。このような免疫応答は、抗体の産生または特異性免疫細胞の活性化に関係し、あるいは両方に関係する可能性がある。当業者であれば、ほぼすべてのタンパク質またはペプチドを含む高分子は、いずれも抗原として利用できると理解される。なお、抗原は、組換えDNAまたはゲノムDNAから誘導されてもよい。本明細書に使用されるように、用語「エピトープ」とは、抗原(例えば、CLDN18.2)における抗体分子と特異的に相互作用する部分を指す。
【0026】
「相補性決定領域」、「CDR領域」または「CDR」は、抗体可変ドメインにおいて、配列において超可変であるとともに構造上に形成されて決定されたループ(「超可変ループ」)であり、および/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む領域である。CDRは、主に抗原エピトープに結合する役割を果たす。重鎖および軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、N-末端から順に番号付けられる。抗体の重鎖可変ドメインにあるCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3と呼ばれ、抗体の軽鎖可変ドメインにあるCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と呼ばれる。1つの所定の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のアミノ酸配列において、各CDRの精確なアミノ酸配列の境界は、多くの公知の抗体CDR割り当てシステムのいずれか1種またはその組合せにより決定されることができ、上記割り当てシステムは、例えば、抗体の3次元構造とCDRループのトポロジーに基づくChothia(Chothiaら.(1989)Nature 342:877~883、Al-Lazikaniら、「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」、Journal of Molecular Biology、273、927~948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、4th Ed.、U.S.Department of Health and Human Services、National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際ImMunoGeneTics database(IMGT)(ワールドワイドウェブのimgt.cines.fr/にて利用可能)、および大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義(Northら、「A New Clustering of Antibody CDR Loop Conフォーマットions」、Journal of Molecular Biology、406、228~256(2011))を含む。
【0027】
以下は、kabat、AbM、Chothia、ContactおよびIMGT方案で定義されたCDRの領域範囲である。
【0028】
【表1】
【0029】
CDRは、参照CDRの配列(例えば、本発明の例示的なCDRのいずれか1つ)と同じKabat番号付け位置を有することで決定されてもよい。
【0030】
特に断りのない限り、本発明において、「CDR」または「CDR配列」という用語は、上記いずれか1つの方法で決定されるCDR配列をカバーする。
【0031】
特記しない限り、本発明において、抗体可変領域における残基位置(重鎖可変領域残基と軽鎖可変領域残基を含む)に言及する場合、Kabat番号付けシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991))に基づく番号付け位置を指す。
【0032】
一実施形態において、本発明に係る抗体の重鎖可変領域CDRは、以下のルールで決定される。
【0033】
VH CDR1は、AbMルールで決定され、また、VH CDR2とVH CDR3は、いずれもKabatルールで決定される。
【0034】
一実施形態において、本発明に係る抗体の軽鎖可変領域CDRは、Kabatルールで決定される。
【0035】
一実施形態において、本発明に係る抗体の重鎖可変領域CDRは、以下のルールで決定される。VH CDR1は、AbMルールで決定され、また、VH CDR2とVH CDR3は、いずれもKabatルールで決定され、かつ軽鎖可変領域CDRは、Kabatルールで決定される。
【0036】
異なる割り当てシステムによって得られた同一抗体の可変領域のCDRの境界は、差異があり得ると注意すべきである。即ち、異なる割り当てシステムで定義された同一抗体の可変領域のCDR配列には、違いがある。従って、本発明で定義された具体的なCDR配列により抗体が限定される場合、上記抗体の範囲には、可変領域配列が上記具体的なCDR配列を含むが、異なる方案(例えば、異なる割り当てシステムのルールまたは組合せ)が使用されるので、かかるCDR境界が本発明に定義された具体的なCDR境界と異なるような抗体も含まれる。
【0037】
異なる特異性を有する(即ち、異なる抗原の異なる結合部位を対象とする)抗体は、(同一の割り当てシステムにおいて)異なるCDRを有する。しかし、CDRが抗体間で異なるにもかかわらず、CDRにおいては、抗原との結合に直接関与するアミノ酸位置の数が限られている。Kabat、Chothia、AbM、ContactおよびNorth方法のうちの少なくとも2つにより、最小重複領域を決定して抗原結合用の「最小結合単位」を提供することができる。最小結合単位は、CDRの1つのサブ部分であってもよい。当業者に知られているように、抗体の構造とタンパク質の折り畳みによって、CDR配列の残り部分の残基を決定することができる。従って、本発明は、本明細書で提供されるいずれのCDRの変異体についても考慮する。例えば、1つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基は変わらないように保持するが、KabatまたはChothiaに基づいて定義された残りのCDR残基は、保存的なアミノ酸残基で置換されてもよい。
【0038】
用語「Fc領域」は、本明細書において、少なくとも一部の定常領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。当該用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。天然の免疫グロブリン「Fcドメイン」は、2つまたは3つの定常ドメイン、すなわち、CH2ドメイン、CH3ドメインおよび選択的なCH4ドメインを含む。例えば、天然抗体において、免疫グロブリンFcドメインは、IgG、IgAおよびIgD類抗体の2本の重鎖に由来する第2および第3の定常ドメイン(CH2ドメインおよびCH3ドメイン)を含み、またはIgMおよびIgE類抗体の2本の重鎖に由来する第2、第3および第4の定常ドメイン(CH2ドメイン、CH3ドメインおよびCH4ドメイン)を含む。本明細書において特に断りのない限り、Fc領域または重鎖定常領域におけるアミノ酸残基の番号は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interes,5th edition,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載のEU番号付けシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に基づいて番号が付けられる。本明細書において、用語「Fc領域」は、免疫グロブリンの重鎖可変領域VHと軽鎖可変領域VL、および重鎖定常領域CH1と軽鎖定常領域CLを含まないが、場合によっては、重鎖定常領域のN末端にあるヒンジ領域を含める。
【0039】
「IgG形態の抗体」は、抗体の重鎖定常領域の属するIgG形態を指す。すべての同じタイプの抗体は、その重鎖定常領域がいずれも同じであり、異なるタイプの抗体は、その重鎖定常領域が異なる。例えば、IgG4形態の抗体は、その重鎖定常領域がIgG4由来のものであることを指し、またはIgG1形態の抗体は、その重鎖定常領域がIgG1由来のものであることを指す。
【0040】
本明細書に用いられるように、「結合」または「特異的に結合」という用語は、結合作用が抗原に対して選択的であり、かつ不要または非特異的な相互作用と区別できることを意味する。抗原結合部位の特定の抗原との結合能力は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)またはこの分野における既知の通常の結合測定法、例えば、放射免疫測定(RIA)やバイオレイヤー干渉測定法やMSD測定法や表面プラズモン共鳴法(SPR)で測定することができる。
【0041】
本明細書に用いられるように、「抗体-薬物複合体(ADC)」は、抗体と薬物とを連結することによって得られる構造を指す。
【0042】
本明細書に使用される一般的な用語「糖」は、グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)およびフコース(Fuc)などの単糖類を示す。本明細書に使用される用語「糖誘導体」は、単糖類の誘導体、すなわち置換基および/または官能基を含む単糖類を表す。糖誘導体の実例は、グルコサミン(GlcN)、ガラクトサミン(GalN)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N-アセチルノイラミン酸(NeuNAc)、N-アセチルムラミン酸(MurNAc)、グルクロン酸(GlcA)およびイズロン酸(IdoA)などのアミノ糖および糖酸を含む。糖誘導体の実例は、本明細書でE(A)xとして表される化合物をさらに含み、式中、Eは糖または糖誘導体であり、および、Eはx個の官能基Aを含む。
【0043】
コア-N-アセチルグルコサミン置換基(コア-GlcNAc置換基)は、本明細書では、C1を介して、好ましくは抗体のアスパラギンアミノ酸の側鎖上のアミド窒素原子のN-グリコシド結合を介して、抗体に結合するGlcNAcとして定義される。上記コア-GlcNAc置換基は、抗体の天然グリコシル化部位に存在することができるが、抗体の異なる部位に導入することもできる。本明細書では、コア-N-アセチルグルコサミン置換基は単糖類置換基、または(上記コア-GlcNAc置換基がフコシル化される場合)二糖コア-(Fucα1-6)GlcNAc置換基であり、GlcNAc(Fuc)とも呼ばれる。
【0044】
「グリコシル化改変」は、グリコシル化プロセスを通じて抗体の糖鎖を改変するプロセスを指す。抗体のグリコシル化は、様々な目的のためにさらに改変され、新たにグリコシル化された抗体を得ることができる。例えば、FcγR親和性および補体結合/エフェクター機能を除去するためにグリコシル化を除去し、Fc媒介性ADCCおよびCDC効果を強化するためにフコースおよびシアル酸基を減少させ、二分化N-アセチルグルコサミン、ガラクトースおよびマンノースを増加させる。当該分野で既知のグリコシル化改変方法は、例えば、抗体のグリコシル化部位を変更することで抗体表面の糖鎖を増加または減少させること、あるいはインビトロで糖鎖を化学的もしくは酵素的修飾すること、あるいは発現システムのグリコシル化経路(例えば、グリコシダーゼおよびグリコシルトランスフェラーゼなどの酵素で構成される)を変更することで抗体のグリコシル化を触媒すること、ならびに、細胞培養条件に影響を与えることで抗体のグリコシル化を変更することである。いくつかの実施形態において、本発明の「グリコシル化改変」は、インビトロでの糖鎖の酵素的修飾によって行われる。好ましくは、本発明のグリコシル化改変は、グリコシダーゼ(エンドグリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼなど)による糖鎖の修飾によって行われる。
【0045】
本発明の改変されたグリコシル化を有する抗体は、天然グリコシル化モードを有する抗体と比較して、グリコシル化モードが改変された抗体を指す。好ましくは、上記の改変されたグリコシル化を有する抗体は、発現システム(例えば、哺乳動物細胞)での発現後の抗体が、インビトロでの糖鎖の酵素的修飾(例えば、グリコシダーゼ(エンドグリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼなど)による糖鎖の修飾)後に得られた抗体を指す。より好ましくは、本発明の改変されたグリコシル化を有する抗体は、コア-GlcNAcおよびそれと連結する糖誘導体E(A)xを含む抗体を指し、ここで、GlcNAcは、C1を介して、好ましくは抗体のアスパラギンアミノ酸の側鎖上のアミド窒素原子のN-グリコシド結合を介して、抗体に結合する。GlcNAc-E(A)x置換基における-GlcNAc置換基がフコシル化されている場合、一般に、フコースは、α-1,6を介して-GlcNAc置換基のC6に連結する。フコシル化された-GlcNAc置換基はコア-GlcNAc(Fuc)を指し、フコシル化されたGlcNAc-E(A)x置換基はGlcNAc(Fuc)-E(A)xを指す。
【0046】
本明細書に記載の用語「部位特異的カップリング」は、リンカーを介して薬物/活性物質を抗体の特定部位に特異的に連結するカップリングを指す。
【0047】
本明細書に記載の用語「アルキル基」は、完全に飽和の分岐鎖または非分岐鎖の炭化水素基を指す。アルキル基は、好ましくは、1個~24個の炭素原子、より好ましくは1個~16個の炭素原子、1個~12個の炭素原子、1個~6個の炭素原子または1個~4個の炭素原子を含む。アルキル基の代表的な例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などを含むが、これらに限定されない。
【0048】
用語「アリール基」は、環部分に6個~20個、例えば6個~12個の炭素原子を有する単環式または二環式芳香族炭化水素基を指す。好ましくは、アリール基は(C-C10)アリール基である。非限定的な例は、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基またはテトラヒドロナフチル基を含み、これらのそれぞれは任意選択で、1個~4個の置換基で置換されてもよく、上記置換基は、例えばアルキル基、トリフルオロメチル基、シクロアルキル基、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシル基、アルキル-C(O)-O-、アリール-O-、ヘテロアリール-O-、アミノ基、メルカプト基、アルキル-S-、アリール-S-、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アルキル-O-C(O)-、カルバモイル基、アルキル-S(O)-、スルホニル基、スルホンアミド基、ヘテロシクリル基などであり、式中、Rは、独立的に水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリール-アルキル-、ヘテロアリール-アルキル-などである。
【0049】
用語「シクロアルキル基」は、環状アルキル基、すなわち、環状構造を有する一価の飽和もしくは不飽和炭化水素基である。シクロアルキル基は、環状構造を有する飽和もしくは部分飽和(1個もしくは2個の二重結合を含む)の炭化水素基の全てを含む。シクロアルキル基は、3個またはそれより多くの、例えば3個~18個、3個~10個、もしくは3個~8個の炭素原子を環内に含んでもよく、一般に、本発明によれば、3個~6個の原子を含む。シクロアルキル基の実例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基を含むが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書に用いられるように、用語「ヘテロアリール基」は、N、OもしくはSから選択される1個~8個のヘテロ原子を含む5員~20員(例えば、5員~14員、5員~8員、5員~6員)の単環式、二環式または縮合多環式環系を指す。好ましくは、ヘテロアリール基は5員~10員環系である。代表的なヘテロアリール基は、2-チエニル基もしくは3-チエニル基、2-フリル基もしくは3-フリル基、2-ピロリル基もしくは3-ピロリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基もしくは5-イミダゾリル基、3-ピラゾリル基、4-ピラゾリル基もしくは5-ピラゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基もしくは5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基もしくは5-イソチアゾリル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基もしくは5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基もしくは5-イソオキサゾリル基、3-トリアゾリル基もしくは5-1,2,4-トリアゾリル基、4-トリアゾリル基もしくは5-1,2,3-トリアゾリル基、テトラゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基、3-ピリダジニル基もしくは4-ピリダジニル基、3-ピラジニル基、4-ピラジニル基もしくは5-ピラジニル基、2-ピラジニル基、2-ピリミジニル基、4-ピリミジニル基もしくは5-ピリミジニル基を含む。
【0051】
用語「薬学的に許容される塩」は、本発明のADC複合体の生物学的効果および性能を保持する塩を指し、また、当該塩は生物学的にまたは他の点で望ましくない。本発明のADC複合体は、酸付加塩および塩基付加塩を含む、それらの薬学的に許容される塩の形態で存在することができる。本発明において、薬学的に許容される非毒性の酸付加塩は、本発明におけるADC複合体と、有機酸または無機酸とが形成される塩を意味し、有機酸または無機酸は、塩酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、過塩素酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、サリチル酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、プロピオン酸、安息香酸、p-トルエンスルホン酸、リンゴ酸などを含むが、これらに限定されない。薬学的に許容される非毒性の塩基付加塩は、本発明のADC複合体と、有機塩基または無機塩基とが形成される塩を意味し、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩またはマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、N基含有の有機塩基と形成されるアンモニウム塩などの有機塩基塩を含むが、これらに限定されない。
【0052】
用語「溶媒和物」は、1つまたは複数の溶媒分子と、本発明のADC複合体とが形成される結合物を表す。溶媒和物を形成する溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを含むが、これらに限定されない。
【0053】
文脈による矛盾がない限り、本明細書では、「薬学的に許容される」および「薬用」は、互換的に使用される。
【0054】
用語「薬物:抗体比」または「DAR」は、本明細書に記載のAb部分にカップリングされる小分子薬物部分(D)とAb部分との比を指す。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、DARは、式Iにおけるpおよびrによって決定することができ、例えばDARは1~20、例えば2~18、4~16、5~12、6~10、2~8、3~8、2~6、4~6、6~10であってよく、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15である。DARは、生成物中の分子集団のDAR平均値、すなわち検出方法によって(例えば、質量分析、ELISA測定、電気泳動および/またはHPLCなどの従来の方法によって)測定された生成物中の本明細書に記載のAb部分にカップリングされる小分子薬物部分(D)とAb部分との全体的な比率として計算することもでき、このDARは、本明細書ではDAR平均値と呼ばれる。いくつかの実施形態において、本発明にかかる複合体のDAR平均値は1~20、例えば2~18、4~16、5~12、6~10、2~8、3~8、2~6、4~6、6~10、例えば1.0~8.0、2.0~6.0であり、例えば0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8.0、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9もしくは10.0という値のうちの2つを端点とする範囲である。
【0055】
本明細書に記載の用語「治療剤」は、癌などの腫瘍の治療または予防に有効ないずれの物質も含み、化学療法剤、サイトカイン、血管新生抑制剤、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物、または免疫調節剤(例えば、免疫抑制剤)を含む。
【0056】
用語「細胞傷害剤」は、本発明において細胞機能を抑制または阻止し、および/または細胞死または破壊を引き起こす物質を指す。
【0057】
「化学療法剤」は、癌または免疫系疾患の治療に有用な化学化合物を含む。
【0058】
用語「小分子薬物」とは、生物学的プロセスを調節できる低分子量の有機化合物を指す。「小分子」は、10kD未満、一般的に2kD未満、好ましくは1kD未満の分子量を有する分子として定義される。小分子は、無機分子、有機分子、無機成分含有有機分子、放射性原子含有分子、合成分子、ペプチド模倣体、および抗体模倣体を含むが、これらに限定されない。治療剤として、小分子は、大分子よりも細胞透過性が高く、分解に対して感受性が高く、免疫応答を誘発しにくい。
【0059】
本明細書に使用される用語「免疫調節剤」は、免疫応答を抑制または調節する天然または合成の活性薬剤または薬剤を指す。免疫応答は、体液応答または細胞応答であってもよい。免疫調節剤は、免疫抑制剤を含む。いくつかの実施形態において、本発明の免疫調節剤は、免疫チェックポイント抑制剤または免疫チェックポイントアゴニストを含む。
【0060】
用語「有効量」とは、本発明の抗体もしくは断片または組成物または組合せの1回分または複数回分の量を患者に投与した後、治療または予防が必要な患者に所望の効果が得られるという量または投与量を指す。
【0061】
「治療有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の治療結果を効果的に実現するための量を指す。治療有効量は、抗体もしくは抗体断片または組成物または組合せのいずれの毒性または有害作用も治療による有益な作用に及ばないという量でもある。未治療の対象と比較して、「治療有効量」は、好ましくは、測定可能なパラメータ(例えば腫瘍体積)を少なくとも約30%、さらに、より好ましくは少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%ひいては100%抑制する。
【0062】
「予防有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の予防結果を効果的に実現するための量を指す。一般的に、予防目的の用量が対象における疾患の初期段階より前にまたは疾患の初期段階に適用されるため、予防有効量は治療有効量を下回る。
【0063】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」は、交換して使用されてもよく、外因性核酸が導入された細胞を指し、この細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」と「形質転換細胞」を含み、初代形質転換細胞および継代数に関係なくそれに由来する子孫を含む。子孫は、核酸の内容において親細胞とは全く同じではない可能性があり、変異を含んでもよい。本明細書では、初代形質転換細胞からスクリーニングまたは選択された同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫を含む。
【0064】
本明細書で使用される用語「標識」とは、試薬(例えば、ポリヌクレオチドプローブもしくは抗体)に直接的または間接的に結合または融合され、かつ、その結合または融合の対象試薬による検出を促進する化合物または組成物を指す。標識は、それ自体が検出可能(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)であるか、または、酵素触媒によって標識される場合に、検出可能な基質化合物または組成物の化学的改変に触媒作用を及ぼすことができる。当該用語は、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリング(すなわち、物理的連結)することによってプローブもしくは抗体を直接標識すること、および、直接標識されている別の試薬との反応によりプローブもしくは抗体を間接的に標識することを含もうとする。
【0065】
「個体」または「対象」は、哺乳動物を含む。哺乳動物は、家畜(例えば、ウシ、ヤギ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類動物(例えば、ヒト、サルなどの非ヒト霊長類動物)、ウサギ、およびげっ歯類動物(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、個体または対象はヒトである。
【0066】
「単離された」抗体または他の分子(例えば、ADC分子)は、その天然環境またはその発現環境の成分から分離された抗体または分子である。いくつかの実施形態において、抗体またはADC分子は、純度が95%または99%を超えるように精製され、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって決定される。
【0067】
用語「抗腫瘍作用」とは、さまざまな手段により表示できる生物学的効果であり、例えば、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍細胞増殖の低減または腫瘍細胞の生存率の減少を含むが、これらに限定されない。
【0068】
用語「腫瘍」および「癌」は、本明細書において交換して使用され、固形腫瘍および血液腫瘍を含む。
【0069】
用語「癌」および「癌性」は、一般的に細胞の成長が調節されないことを特徴とする哺乳動物の生理障害を指し、または説明する。一部の実施形態において、本発明の抗体による治療に適する癌は、胃癌、膵臓癌または胃食道接合部癌を含み、これらの癌の転移性形態を含む。
【0070】
用語「腫瘍」とは、悪性か良性かを問わず、すべての腫瘍性(neoplastic)の細胞の成長と増殖、およびすべての前癌性(pre-cancerous)と癌性の細胞や組織を指す。用語「癌」、「癌性」および「腫瘍」は、本明細書で言及される場合、互いに排他的ではない。
【0071】
用語「薬用補助材料」は、活性物質とともに投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全もしくは不完全))、賦形剤、ベクターや安定化剤などを指す。
【0072】
用語「医薬組成物」とは、それに含まれる活性成分の生物学的活性を有効にする形態で存在するとともに、上記組成物が投与された対象に許容されない毒性がある別の成分を含まない組成物を指す。
【0073】
用語「医薬組合せ」は、非固定組合せの製品または固定組合せの製品であり、薬物キット、医薬組成物を含むが、これらに限定されない。用語「非固定組合せ」とは、活性成分(例えば、(i)本発明のADC分子、および(ii)他の治療剤)が、別個の実体で同時に、特定の時間制限なしに、または同じもしくは異なる時間間隔で、患者に順に投与されるものを指し、ここで、このような投与は、患者のインビボにおいて予防的または治療的に有効なレベルの2つ以上の活性剤を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組合せで使用される本発明のADC分子および他の治療剤は、それらが単独で使用されるレベルを超えないレベルで投与される。用語「固定組合せ」とは、2つ以上の活性剤が単一実体の形態で同時に患者に投与されるものを指す。好ましくは、2つ以上の活性剤の用量かつ/または時間間隔を選択することにより、各成分の併用が疾患または病症の治療において、いずれか1つの成分を単独で使用する場合よりもよい効果を達成することができる。各成分はそれぞれ、単独の製剤形態であってもよく、その製剤形態は同じであってもよく、異なってもよい。
【0074】
用語「組合せ療法」とは、2つ以上の治療剤または治療形態(例えば、放射線治療や手術)を投与することにより、本明細書に記載の疾患を治療するものを指す。そのような投与は、ほぼ同時に、例えば、一定の割合の活性成分を有する単一のカプセルで、これらの治療剤を共投与することを含む。または、このような投与は、複数または別個の容器(例えば、錠剤、カプセル、粉末および液体)での各有効成分の共投与を含む。粉末および/または液体は、投与前に所望の用量に再構成または希釈することができる。なお、このような投与は、各タイプの治療剤を実質的に同じ時間、または異なる時間で順番によって使用することを含む。いずれの場合においても、治療プログラムは、本明細書に記載の病症または病状の治療における医薬組合せの有益な効果を提供する。
【0075】
本明細書で使用される場合、「治療」とは、存在している症状、病症、病状または疾患の進行もしくは重症度を軽減、中断、遅延、寛解、停止、低減、または逆転することを指す。
【0076】
本明細書で使用される場合、「予防」は、疾患、病症、または特定の疾患もしくは病症に係る症状の発生または進行に対する阻害を含む。いくつかの実施形態において、癌の家族歴がある対象は、予防プログラムの候補である。一般的に、癌の背景では、用語「予防」とは、癌にかかる病徴または症状が生じる前に、特に、癌に罹患するリスクのある対象に癌が生じる前の医薬投与を指す。
【0077】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、それに連結された別の核酸を増殖可能な核酸分子を指す。当該用語は、自己複製の核酸構造であるベクター、およびそれが導入された宿主細胞のゲノムに結合されたベクターを含む。一部のベクターは、それに操作可能に連結された核酸の発現をガイドすることができる。かかるベクターは本明細書において、「発現ベクター」と呼ばれる。
【0078】
「対象/患者/個体試料」とは、患者または対象から得た細胞または流体の集まりを指す。組織または細胞試料の由来としては、新鮮な、冷凍されたおよび/または保存された器官や組織試料や生検試料や穿刺試料などの固形組織、血液もしくは任意の血液成分、脳脊髄液、羊膜液(羊水)、腹膜液(腹水)や間質液などの体液、対象における妊娠もしくは発育の任意段階に由来する細胞であってもよい。組織試料は、自然界において天然に組織と混ぜ合わせない化合物、例えば、防腐剤、抗凝固剤、緩衝剤、固定剤、栄養素、抗生物質などを含んでもよい。
【0079】
II.抗体-薬物複合体
【0080】
本発明は、式(I):
Ab-(L-(D) (I)
を有する抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
式中、
Abは、CLDN18.2(例えばヒトCLDN18.2)に結合する抗体もしくはその断片であり、
Lはリンカーであり、
Dは、プロドラッグ、好ましくは抗腫瘍化合物を含む薬物であり、かつ
pは1~10、例えば1~9、2~8、3~7、4~6、もしくは2~6であり、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10であり、
rは1~5、例えば1、2、3、4もしくは5であり、好ましくは1または2である、抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を提供する。
【0081】
いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbはヒト抗体もしくはヒト化抗体であり、好ましくはヒト抗体である。いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは抗体断片であり、好ましくは、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)などの抗原結合断片、dAb(domain antibody)、線状抗体、単鎖抗体(例えばscFv)、単一ドメイン抗体(例えば、VHH)、二価抗体もしくはその断片、またはラクダ科抗体である。
【0082】
いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体である。
【0083】
本発明の好ましい実施形態において、Abは、重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(HCDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む。
【0084】
本発明の好ましい実施形態において、Abは、軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(LCDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、Abは、重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(HCDR)および軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(LCDR)を含む。
【0086】
いくつかの態様において、Abは、重鎖可変領域(VH)を含む。いくつかの態様において、Abは、軽鎖可変領域(VL)を含む。いくつかの態様において、Abは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態において、上記重鎖可変領域は、重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(HCDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む。いくつかの実施形態において、上記軽鎖可変領域は、軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(LCDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、VHは、
(i)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなる、もしくは
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、好ましくは、上記アミノ酸変化はCDR領域に生じない。
【0088】
いくつかの実施形態において、VLは、
(i)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなる、もしくは
(ii)配列番号9のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、好ましくは、上記アミノ酸変化はCDR領域に生じない。
【0089】
いくつかの実施形態において、本発明にかかるVHからの3つの相補性決定領域(HCDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3は、
(i)配列番号4に示されるVHに含まれる3つの相補性決定領域であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3、あるいは
(ii)(i)の配列に対して、上記3つのHCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ5個、4個、3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)が含まれる配列である。
【0090】
いくつかの実施形態において、本発明にかかるVLからの3つの相補性決定領域(LCDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3は、
(i)配列番号9に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3、あるいは
(ii)(i)の配列に対して、上記3つのLCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ5個、4個、3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)が含まれる配列である。
【0091】
いくつかの実施形態において、HCDR1は、配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、HCDR1は、配列番号1のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、HCDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、HCDR2は、配列番号2のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、HCDR3は、配列番号3のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、HCDR3は、配列番号3のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0094】
いくつかの実施形態において、LCDR1は、配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、LCDR1は、配列番号6のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0095】
いくつかの実施形態において、LCDR2は、配列番号7のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、LCDR2は、配列番号7のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0096】
いくつかの実施形態において、LCDR3は、配列番号8のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、LCDR3は、配列番号8のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0097】
いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、重鎖定常領域を含む。いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、軽鎖定常領域を含む。いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、重鎖定常領域および軽鎖定常領域をさらに含む。
【0098】
いくつかの実施形態において、本発明の重鎖定常領域HCは、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4の重鎖定常領域、好ましくはIgG1の重鎖定常領域であり、例えば野生型IgG1重鎖定常領域である。いくつかの実施形態において、本発明の抗体軽鎖定常領域LCは、lambdaまたはKappa軽鎖定常領域である。
【0099】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明の重鎖定常領域HCは、
(i)配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号5のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0100】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体軽鎖定常領域LCは、
(i)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号10のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0101】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbは重鎖を含む。本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbは軽鎖を含む。本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbは重鎖および軽鎖を含む。
【0102】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の重鎖は、重鎖可変領域および重鎖定常領域を含むかまたはそれらからなる。本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の軽鎖は、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含むかまたはそれらからなる。
【0103】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、CLDN18.2に特異的に結合し、かつ配列番号4に示されるVHに含まれる3つの相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3、かつ/または配列番号9に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0104】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、それぞれ配列番号1、2および3に示されるアミノ酸配列のHCDR1、HCDR2およびHCDR3、かつ/または、それぞれ配列番号6、7および8に示されるアミノ酸配列のLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0105】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbは、
配列番号4に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなるVH、かつ/または
配列番号9に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなるVLを含む。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbはVHおよびVLを含み、ここで、VHのアミノ酸配列は配列番号4に示され、かつVLのアミノ酸配列は配列番号9に示される。
【0107】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の式(I)中のAbはIgG抗体であり、すなわちCLDN18.2に結合する重鎖および軽鎖を含むものである。いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは完全抗体である。
【0108】
いくつかの実施形態において、式(I)中のAbの重鎖は、
(i)配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、
(ii)配列番号11のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、または
(iii)配列番号11のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0109】
いくつかの実施形態において、式(I)中のAbの軽鎖は、
(i)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、もしくはそれらからなり、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列を含む、もしくはそれからなり、または
(iii)配列番号12のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のAbは重鎖および軽鎖を含み、ここで、重鎖のアミノ酸配列は配列番号11に示され、かつ軽鎖のアミノ酸配列は配列番号12に示される。
【0111】
本発明の一実施形態において、本明細書に記載のアミノ酸変化は、アミノ酸の置換、挿入または欠失を含む。好ましくは、本明細書に記載のアミノ酸変化はアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である。好ましい実施形態において、本発明に記載のアミノ酸変化は、CDR外の領域(例えば、FR)に生じる。より好ましくは、本発明に記載のアミノ酸変化は、重鎖可変領域外かつ/または軽鎖可変領域外の領域に生じる。いくつかの実施形態において、本発明に記載のアミノ酸変化は、抗体重鎖定常領域のFc領域で生じる。
【0112】
いくつかの実施形態において、置換は保存的置換である。保存的置換とは、1つのアミノ酸が同種の別のアミノ酸によって置換され、例えば、1つの酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸によって置換され、1つの塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸によって置換され、または1つの中性アミノ酸が別の中性アミノ酸によって置換されたことを指す。ある実施形態において、置換は、抗体のCDR領域に生じる。一般的に、得られた変異体は、親抗体に対してある生物学的特性(例えば、向上した親和性)において修飾(例えば、改善)を有し、かつ/または親抗体の実質的に保持されたある生物学的特性を有する。例示的な置換変異体は、親和性成熟抗体である。
【0113】
本発明の式(I)中の抗体Abは、改変されたグリコシル化を有する抗体であってもよい。いくつかの実施形態において、上記抗体は、インビトロでの糖鎖の酵素的修飾(例えば、グリコシダーゼ(エンドグリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼなど)による糖鎖の修飾)後に得られた抗体である。いくつかの実施形態において、上記の改変されたグリコシル化を有する抗体は、抗体のグリコシル化部位の糖鎖が不均一な構造のN糖鎖から反応性基(例えば、アジド基、ケトン基およびアルキニル基などの、リンカー部分と反応できる任意の反応性基)を持つ単一構造のN糖鎖に改変された抗体を指す。一好ましい実施形態において、抗体のN-グリコシル化部位は、抗体Fcドメインの保存的なN-グリコシル化部位、例えばAsn297である。
【0114】
本発明に適する抗体グリコシル化の改変方法は、例えば、PCT/NL2013/050744、PCT/EP2016/059194またはPCT/EP2017/052792を参照し、上記特許出願は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0115】
一好ましい実施形態において、本発明の改変されたグリコシル化を有する抗体は、GlcNAc-E(A)置換基を含む抗体であり、式中、GlcNAcはN-アセチルグルコサミンであり、式中、E(A)xはx個の官能基Aを含む糖誘導体であり、式中、Aは独立的にアジド基、ケトン基およびアルキニル基から選択され、かつxは1、2、3もしくは4であり、ここで、上記GlcNAc-E(A)x置換基は、上記GlcNAc-E(A)x置換基のN-アセチルグルコサミンのC1を介して上記抗体に結合し、ここで、上記N-アセチルグルコサミンは、任意選択でフコシル化される。N-アセチルグルコサミンがフコシル化された場合、それはC6を介してフコース(Fuc)に結合する。
【0116】
一実施形態において、本発明の改変されたグリコシル化を有する抗体は、式(III)の抗体であり、式中、Abは抗体を表し、GlcNAcはN-アセチルグルコサミン、Fucはフコース、bは0もしくは1、yは1~20であり、式中、E(A)xはx個の官能基Aを含む糖誘導体であり、式中、Aはアジド基、ケトン基およびアルキニル基であり、かつxは1、2、3もしくは4である。一好ましい実施形態において、yは1~10であり、より好ましくは、yは1、2、3、4、5、6、7もしくは8であり、さらに好ましくは、yは1、2、3もしくは4、最も好ましくは、yは1もしくは2である。
【化1】
【0117】
改変されたグリコシル化を有する抗体のGlcNAc-E(A)x置換基における糖誘導体E(A)xは、例えば、β(1,4)-グリコシド結合を介して上記GlcNAcのC4に結合するか、あるいはα(1,3)-グリコシド結合を介して上記GlcNAcのC3に結合することができ、好ましくは、β(1,4)-グリコシド結合を介して上記GlcNAcのC4に結合する。上記GlcNAc-E(A)x置換基のN-アセチルグルコサミンは、C1を介して上記抗体に結合し、好ましくは、N-グリコシド結合を介して上記抗体のアスパラギンの側鎖におけるアミド窒素原子(GlcNAcβ1-Asn)に結合する。上記GlcNAc-E(A)x置換基におけるGlcNAcは、任意選択でフコシル化される。対応的には、抗体-薬物複合体におけるGlcNAc-Eは存在する場合、前述のとおり連結することもできる。
【0118】
一好ましい実施形態において、上記官能基Aはアジド基である。Aがアジド基である場合、好ましくは、Aは、C2、C3、C4もしくはC6に結合する。前述のとおり、E(A)xにおける1つまたは複数のアジド置換基は、上記糖または糖誘導体EのC2、C3、C4もしくはC6に結合してヒドロキシ基(OH)を置換することができる。官能基Aの結合位置は、Aを含む糖とリンカーとが連結する位置に対応することが理解されるべきである。
【0119】
一好ましい実施形態において、糖誘導体E(A)xは、糖または糖誘導体Eに由来する。一好ましい実施形態において、Eは糖または糖誘導体であり、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、グルコース(Glc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、グルクロン酸(Gcu)、フコース(Fuc)およびN-アセチルノイラミン酸(シアル酸)から選択され、好ましくはGal、GlcNAc、グルコースおよびGalNAcであり、最も好ましくはGalNAcである。
【0120】
別の好ましい実施形態において、上記E(A)xはGalNAc-Nであり、好ましくは、E(A)xは6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトースである。
【0121】
矛盾しない限り、糖に関する上記の記載および説明(GlcNAc-E(A)xのグリコシド結合の連結方式を含むが、これらに限定されない)は、下記の式(II)の複合体に対応する糖、例えば糖の連結方式に同様に適用されることが理解されるべきである。いくつかの実施形態において、反応性基(例えば官能基A)が抗体のグリコシル化改変において抗体の糖鎖に連結されるため、「改変されたグリコシル化を有する抗体」は当該反応性基を含む抗体として定義されるが、抗体-薬物複合体が形成される場合、当該反応性基はリンカー部分と反応させて、さらにリンカー部分と新しい基を形成し、それにより抗体薬物複合体において、当該新しい基はリンカーの一部と見なされることが当業者には理解できる。
【0122】
好ましくは、本発明の抗体はモノクローナル抗体、より好ましくはIgG抗体(例えば四鎖IgG抗体)、最も好ましくはIgG1抗体である。一実施形態において、上記抗体は完全抗体である。
【0123】
上記修飾された抗体が完全抗体である場合、上記抗体は、好ましくは2つまたはそれ以上、より好ましくは2つのGlcNAc-E(A)x置換基を含み、上記GlcNAc-E(A)x置換基は、任意選択でフコシル化される。しかし、上記修飾された抗体が抗体断片、例えばFabもしくはFc断片である場合、当該抗体は、1つのGlcNAc-E(A)x置換基のみを有する可能性があり、それが任意選択でフコシル化される。上記GlcNAc-E(A)x置換基は、上記置換基が抗原と当該抗体の抗原結合部位との結合を妨げない限り、抗体の任意の位置にすることができる。一実施形態において、上記GlcNAc-E(A)x置換基は、抗体のFcドメインに位置し、より好ましくは、CH2ドメインに位置する。
【0124】
上記のように、本発明の改変されたグリコシル化を有する抗体は、1つ以上のGlcNAc-E(A)x置換基、例えば2つのGlcNAc-E(A)x置換基を含む。
【0125】
一好ましい実施形態において、GlcNAc-E(A)x置換基は、上記抗体の天然N-グリコシル化部位(例えば天然保存的N-グリコシル化部位)、例えばFc領域(より好ましくはCH2ドメイン)のグリコシル化部位に存在する。さらなる好ましい実施形態において、上記抗体はIgG抗体であり、かつ上記GlcNAc-E(A)x置換基は、IgG抗体の天然N-グリコシル化部位(天然保存的N-グリコシル化部位)に存在する。さらなる好ましい実施形態において、上記天然部位はIgG抗体のAsn297-グリコシル化部位である。上記Asn297-グリコシル化部位は、IgG抗体の重鎖のFc領域に存在する。一好ましい実施形態において、上記GlcNAc-E(A)x置換基は、抗体の2つの重鎖のAsn297-グリコシル化部位に存在する。
【0126】
いくつかの実施形態において、本発明の式(I)中のLはリンカーである。当該分野で既知の任意のリンカーを用いて本発明の抗ヒトCLDN18.2に連結することができ、好ましくは、リンカーは、ADCの部位特異的カップリングを実現することができる。
【0127】
いくつかの実施形態において、本発明に適用するリンカーは、抗体を薬物にカップリングすることができる任意のリンカーであってもよい。いくつかの実施形態において、リンカーは、部位特異的カップリングを実現できる技術に使用されるリンカーであってもよい。
【0128】
一好ましい実施形態において、本発明のリンカーは、抗体のオリゴ糖に連結するリンカーである。本明細書に定義される「抗体のオリゴ糖に連結するリンカー」は、抗体のグリコシル化部位での糖鎖の反応性基に連結して抗体を薬物にカップリングする任意のリンカーを指す。抗体のグリコシル化部位での糖鎖は一般にN-糖鎖であり、かつ、通常、不均一な構造のN糖鎖から反応性基を持つ単一構造のN糖鎖に改変するように改変され、さらに当該糖鎖が持つ反応性基を用いて「リンカー」に連結し、薬物と抗体との部位特異的カップリングを実現し、抗体-薬物複合体を得る。一好ましい実施形態において、抗体のN-グリコシル化部位は抗体Fcドメインであり、好ましくは、CH2ドメインの保存的N-グリコシル化部位、例えばAsn297である。従って、一実施形態において、本発明の「抗体のオリゴ糖に連結するリンカー」は、特に抗体Fcドメインの保存的なN-グリコシル化部位(例えばAsn297)でのN-糖鎖の反応性基と部位特異的カップリングを実現できる任意のリンカー、例えばPCT/NL2013/050744に記載のリンカーまたはPCT/EP2021/075401のリンカーであり、その全体が本明細書に組み込まれる。一実施形態において、本発明の反応性基は、アジド基、ケトン基またはアルキニル基である。一実施形態において、本発明のリンカーは、アルキニル基を含むリンカーである。一実施形態において、本発明の反応性基は、アジド基、ケトン基またはアルキニル基、好ましくはアジド基であり、かつ本発明のリンカーは、アルキニル基を含むリンカーである。本発明においてこのようなリンカーに言及される場合、反応性基はリンカーの基と反応させて新しい基を形成するため、抗体-薬物複合体における反応性基の反応後に形成される基を「リンカー」の一部として定義することもでき、例えば、本発明の式(II)に示されるとおりである。
【0129】
本発明に適用するリンカーは、例えば、Val-Citリンカー(vc-PABなど)、cBu-CitリンカーおよびCXリンカーなどのカテプシン分解リンカー、SMCCリンカーまたはMDリンカーなどの切断不能なリンカー、酸感受性リンカー、シリコーン構造のリンカー、disulfide-carbamateリンカー、MC-GGFGリンカー、TRXリンカー、ガラクトシド含有リンカー、ピロホスフェートリンカー、近赤外線感受性リンカー、紫外線感受性リンカー例えばPC4APをさらに含む(Antibody-drug conjugates:Recent advances in linkerchemistry、Su、Z.、Xiao、D.、Xie、F.、Liu、L.、Wang、Y.、Fan、S.、Li、S.(2021).Antibody-drug conjugates:Recent advances in linker chemistry. Acta Pharmaceutica Sinica B.)。本発明に適用されるリンカーは、1つまたは複数のリンカーの組合せであってもよく、例えばカテプシン分解リンカーは、他のタイプのリンカーと組み合せて新しいリンカーを構成することができる。従って、本発明に記載の「リンカー」は、本発明の抗体を薬物にカップリングすることができる限り、単一タイプのリンカーまたは異なるタイプのリンカーの組合せを包含する。従って、一実施形態において、本発明に適用されるリンカーは、MC-VC-PAB、vc-PAB、SMCCまたはMC-GGFGである。
【0130】
本発明の式(I)中のDは、抗腫瘍効果を有するとともに、リンカー構造に連結可能な置換基、部分構造を有する化合物であれば、任意の抗腫瘍化合物であってもよく、特に制限されない。例えば、抗腫瘍化合物は、腫瘍に作用する薬学的に活性な化合物であってもよい。抗腫瘍性化合物の場合、リンカーの一部もしくは全てが好ましくは、腫瘍細胞内で切断され、抗腫瘍性化合物部分が遊離して抗腫瘍効果を示すことができる。薬物との連結部分でリンカーが切断される場合、未修飾の構造で抗腫瘍性化合物が遊離することで、その本来の抗腫瘍効果を発揮することができる。
【0131】
いくつかの実施形態において、抗腫瘍化合物は、例えば細胞傷害剤または化学療法剤であってもよく、イキシテカン(トポイソメラーゼI抑制剤エキサテカン(Exatecan))、Dxd(新規トポイソメラーゼI抑制剤エキサテカン(Exatecan)誘導体)などのカンプトテシン系化合物、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)などのオーリスタチン系化合物、または小分子微小管抑制剤DM1などのマイタンシン系化合物などである。本発明の実施例における構造は、これらの抗腫瘍性化合物の代表的な化合物の構造を示す。
【0132】
一実施形態において、本発明は、(II)に記載の抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、
【化2】
Abは、明細書に定義される抗体を表し、
はリンカーであり、
Eは、糖または糖誘導体、例えば上記に定義される糖または糖誘導体であり、
GlcNAcはN-アセチルグルコサミン、Fucはフコースであり、
Dおよびrは、上記の式Iに定義されるとおりであり、
bは、0もしくは1、例えば0であり、
xは、1、2、3もしくは4、好ましくは1もしくは2であり、
yは、1~20であり、例えば、yは1~10、より好ましくは、yは1、2、3、4、5、6、7もしくは8、さらに好ましくは、yは1、2、3もしくは4である、抗体-薬物複合体またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を提供する。
【0133】
一実施形態において、Fucはフコースであり、bは0もしくは1、例えば0であり、かつ/またはxは1もしくは2、より好ましくは2であり、かつ/またはyは1もしくは2、より好ましくは2である。
【0134】
一実施形態において、式(II)において、Eは、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、グルコース(Glc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、グルクロン酸(Gcu)、フコース(Fuc)およびN-アセチルノイラミン酸(シアル酸)、好ましくはGal、GlcNAc、グルコースおよびGalNAc、最も好ましくはGalNAcから選択され、例えば6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトースであり、好ましくは、6位のC原子を介してLに連結する。
【0135】
一好ましい実施形態において、Abに連結するGlcNAcは、上記抗体の天然N-グリコシル化部位(例えば天然保存的N-グリコシル化部位)、例えばFc領域のグリコシル化部位に存在する。さらなる好ましい実施形態において、上記抗体はIgGであり、かつ上記GlcNAcは、IgGの天然N-グリコシル化部位(例えば天然保存的N-グリコシル化部位)、例えばFc領域のグリコシル化部位に存在する。さらなる好ましい実施形態において、上記天然部位は、IgGのAsn297-グリコシル化部位である。上記Asn297-グリコシル化部位は、IgG抗体の重鎖のFc領域に存在する。一好ましい実施形態において、上記GlcNAc基は、抗体の2つの重鎖のAsn297-グリコシル化部位に存在する。
【0136】
一実施形態において、式(II)において、Lは、以下の構造を有し、
【化3】
Qは、-N(H)C(O)CH-または-CH-であり、
は、独立的に水素、ハロゲン、-OR、-NO、-CN、-S(O)、C-C12アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C-C12アルキルアリール基、C-C12アルキルヘテロアリール基、アリールC-C12アルキル基およびヘテロアリールC-C12アルキル基から選択され、および、上記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリール基、アリールアルキル基およびヘテロアリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基Rは、架橋もしくはスピロ結合されたシクロアルキル基あるいは縮合もしくはスピロ結合された芳香族炭化水素もしくはヘテロ芳香族炭化水素置換基を形成するために共に連結され得、および、Rは、独立的に水素、ハロゲン、C-C24アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C-C12アルキルアリール基、C-C12アルキルヘテロアリール基、アリールC-C12アルキル基およびヘテロアリールC-C12アルキル基から選択され、
およびRはそれぞれ、独立的に水素、ハロゲン、C-C24アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C-C12アルキルアリール基、C-C12アルキルヘテロアリール基、アリールC-C12アルキル基およびヘテロアリールC-C12アルキル基から選択され、
cは、0、1、2、3もしくは4であり、
mは、0もしくは1であり、
nは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10であり、
Yは、O、SもしくはNRであり、
およびLはそれぞれ、独立的にC-C12アルキル基であり、当該アルキル基における1つまたは複数(例えば1、2、3もしくは4個)の炭素原子は、O、Nおよび/またはSが互いに直接連結しないことを条件として、任意選択でO、NおよびSから選択されるヘテロ原子で置換され、
はそれぞれ、独立的に切断可能なリンカーである。
【0137】
mが0である場合、Qが存在せず、それによりトリアゾールの関連窒素原子が共有単結合によってE部分に直接連結することを意味することが理解されるべきである。
【0138】
一実施形態において、Lはそれぞれ、独立的に
【化4】
であり、
ここで、RおよびRはそれぞれ、独立的に水素およびC-C12アルキル基から選択され、
Arはアリール基から選択され、好ましくはフェニル基であり、
一実施形態において、Lはそれぞれ、独立的に
【化5】
である。
【0139】
一実施形態において、式中、-L-は以下の構造を有する。
【化6】
【0140】
一実施形態において、上記抗体-薬物複合体は、1~15、例えば1~10、2~8、2~6もしくは3~5のDAR平均値を有する。
【0141】
一実施形態において、本発明的抗体-薬物複合体は、
【化7-1】
【化7-2】
から選択され、
式中、AbはHB37A6であり、
式中、qはDAR平均値を表し、
IEX019-02、IEX019-04、IEX019-05において、qは2~5、例えば3~5、3~4もしくは3.5~4.5であり、
【0142】
IEX019-03において、qは5~11、例えば6~10、7~9もしくは7.5~8.5である。
【0143】
III.本発明のADC分子の製造
【0144】
本発明の一態様は、改変されたグリコシル化を有する抗体を調製する方法であって、
【0145】
(1)グリコシル化抗体の調製:抗体の発現に適する条件で、上記抗体(例えば、いずれか1つのポリペプチド鎖、および/または複数のポリペプチド鎖)をコードする核酸または上記核酸を含む発現ベクターを含む宿主細胞を培養し、上記で提供されるように、および、任意選択で上記宿主細胞(または宿主細胞培地)から上記抗体を回収し、コアN-アセチルグルコサミン置換基(コア-GlcNAc置換基)を含む抗体を得て、ここで、上記コアN-アセチルグルコサミンおよび上記コアN-アセチルグルコサミン置換基は、任意選択でフコシル化されることと、
【0146】
(2)トリミングされた抗体の調製:ステップ(1)で調製された抗体を、エンドグリコシダーゼ存在下で脱グリコシル化して、コアN-アセチルグルコサミン置換基を含む抗体を得て、ここで、上記コアN-アセチルグルコサミンおよび上記コアN-アセチルグルコサミン置換基は、任意選択でフコシル化されることと、
【0147】
(3)(2)で得られたトリミングされた抗体を、適切な触媒の存在下で式E(A)x-Pの化合物と接触させ、GlcNAc-E(A)x置換基を含む抗体を得て、上記GlcNAc-E(A)x置換基は、当該GlcNAc-E(A)x置換基のN-アセチルグルコサミンのC1を介して上記抗体に結合し、ここで、上記触媒は、グリコシルトランスフェラーゼであり、ここで、Pは、ウリジン二リン酸(UDP)、グアノシン二リン酸(GDP)およびシチジン二リン酸(CDP)から選択されることと、を含む方法を提供する。
【0148】
ステップ(1)を実施するために、抗体(例えば上記の抗体、例えば、いずれか1つのポリペプチド鎖、および/または複数のポリペプチド鎖)をコードする核酸を単離し、それを1つまたは複数のベクターに挿入し、宿主細胞におけるさらなるクローニングおよび/または発現に用いる。このような核酸は、通常のプロセスにより単離してシークエンシングすることが容易である(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって行われる)。
【0149】
ステップ(2)のエンドグリコシダーゼは、グリコシル化抗体の性質に従って選択することができ、例えばEndo S、Endo A、Endo F、Endo M、Endo DおよびEndo H酵素および/またはそれらの組合せから選択され、また、例えばEndo S、Endo S49、Endo Fまたはそれらの組合せである。一好ましい実施形態において、上記エンドグリコシダーゼは、PCT/EP2017/052792に記載のエンドグリコシダーゼであり、最も好ましくはPCT/EP2017/052792のEndo SHである。
【0150】
ステップ(3)のグリコシルトランスフェラーゼは、好ましくはβ-(1,4)-Nアセチルガラクトサミントランスフェラーゼのグリコシルトランスフェラーゼであるか、またはそれに由来し、より好ましくはPCT/EP2016/059194に記載の任意のβ-(1,4)-GalNAcT酵素である。いくつかの実施形態において、上記β-(1,4)-GalNAcT酵素は、無脊椎動物のβ-(1,4)-GalNAcT酵素であるか、またはそれに由来する。β-(1,4)-GalNAcT酵素は、当業者に既知の任意の無脊椎動物のβ-(1,4)-GalNAcT酵素であってもよく、またはそれに由来してもよい。好ましくは、β-(1,4)-GalNAcT酵素は、線形動物門(Nematoda)由来、好ましくはクロマドラ綱(Chromadorea)もしくは双腺綱(Secernentea)由来、あるいは節足動物門(Arthropoda)由来、好ましくは昆虫綱(Insecta)由来のβ-(1,4)-GalNAcT酵素であるか、またはそれに由来する。より好ましくは、β-(1,4)-GalNAcT酵素は、ミレスチネロリ線虫、ブタ回虫、イラクサギンウワパ、ショウジョウバエ、腐生果実線虫、Caeno rhabditis briggsae、呉策線虫、ロバリアムシ、ピセオロギ、ヤマシロアリ、ツバダカメバエ、ビキおよびハムスチョウ由来のβ-(1,4)-GalNAcT酵素であるか、またはそれに由来する。好ましくは、ステップ(3)に適するグリコシルトランスフェラーゼは、PCT/EP2016/059194に開示され、TnGalNAcTとして命名されるイラクサギンウワパβ-(1,4)-GalNAcT酵素(例えばHis-TnGalNacT)である。
【0151】
本発明の別の態様は、本発明の抗体を使用してADCを調製する方法を提供する。本発明における「ADC」は、リンカー(L)を介して生物学的および/薬学活性を有する活性物質(D)にカップリングされた抗体として定義される。上記方法は、1つまたは複数の本発明に定義されるリンカー(L)を介して、本発明の抗体を1つ以上の活性物質Dにカップリングすることを含む。好ましくは、リンカー-活性物質を抗体に部位特異的にカップリングする。
【0152】
一実施形態において、本発明のADCを調製する方法であって、(式III)のグリコシル化抗体を、
【化8】
式中、各変数または記号の意味は上記に定義されるとおりであり、
アルキニル基および1つまたは複数(例えば1、2、3もしくは4個)の薬物分子を含むリンカー-薬物化合物(linker-payload)と反応させ、
(式II)の抗体-薬物複合体を生成することを含み、
【化9】
式中、各変数または記号の意味は上記に定義されるとおりである、方法を提供する。
【0153】
一実施形態において、上記リンカー-薬物化合物は、下記式の構造を有し、
【化10】
式中、各変数は上記に定義されるとおりである。
【0154】
IV.医薬組成物
【0155】
いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載の任意のADC分子またはその薬学的に許容される塩を含む組成物であって、好ましくは医薬組成物または医薬製剤である、組成物を提供する。一実施形態において、上記組成物は、薬用補助材料をさらに含む。一実施形態において、組成物、例えば医薬組成物は、本発明のADC分子、および1つまたは複数の他の治療剤の組合せを含む。
【0156】
本発明は、本発明のADC分子またはその薬学的に許容される塩を含む組成物(医薬組成物を含む)をさらに含む。これらの組成物はまた、適切な薬用補助材料、例えば、この分野での既知の薬用ベクター、緩衝剤を含む薬用賦形剤を含んでもよい。
【0157】
本明細書で使用されるように、「薬用ベクター」は、生理学的に適合する溶剤、分散媒体、等張剤、吸収遅延剤などのいずれかまたは全てを含む。
【0158】
薬用補助材料の使用およびその使用については、『Handbook of Pharmaceutical Excipients』、第八版、R.C.Rowe、P.J.SeskeyおよびS.C.Owen、Pharmaceutical Press、London、Chicagoも参照される。
【0159】
本発明の組成物は、さまざまな形態であってもよい。これらの形態は、例えば、液体、半固体および固体の剤型、例えば、液体溶液剤(例えば、注射用溶液剤と輸注用溶液剤)、分散剤若しくは懸濁剤、リポソーム剤および坐剤を含む。好ましい形態は、所望の投与モードと治療的使用によって決定される。
【0160】
所望の純度を有する本発明のADC分子を1つまたは複数の任意選択の薬用補助材料と混合することにより、本明細書に記載のADC分子の薬物を製造することができ、好ましくは、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で行われる。
【0161】
本発明の医薬組成物または製剤は、1種以上の活性成分をさらに含んでもよく、上記活性成分は、治療される特定の適応症に必要なものであり、好ましくは、互いに悪影響を与えない相補的な活性を有する活性成分である。例えば、化学療法剤、血管新生抑制剤、サイトカイン、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物もしくは免疫調節剤(例えば免疫チェックポイント抑制剤またはアゴニスト)などを含む、他の治療剤をさらに提供することも望ましい。上記活性成分は、目的とする使用に有効な量で適切に組合せて存在する。
【0162】
持続放出製剤を製造することができる。持続放出製剤の適切な実例は、抗体を含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリックスを含み、上記マトリックスは、例えば、フィルムまたはマイクロカプセル形態のような成形品である。
【0163】
VII.医薬組合せおよび薬物キット
【0164】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のADC分子、および1つまたは複数の他の治療剤(例えば、化学療法剤、血管新生抑制剤、サイトカイン、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物もしくは免疫調節剤(例えば免疫チェックポイント抑制剤またはアゴニスト)などを含む治療剤)を含む、医薬組合せまたは医薬組合せ製品をさらに提供する。
【0165】
本発明の別の目的は、本発明の医薬組合せを含む薬物キットを提供することであり、好ましくは、上記薬物キットは、医薬用量単位の形態である。これにより、投与プログラムまたは医薬投与間隔によって用量単位を提供することができる。
【0166】
一実施形態において、本発明の薬物キットは、同一のパッケージにおいて、
-本発明のADC分子を含む医薬組成物を含有する第1の容器、
-他の治療剤を含む医薬組成物を含有する第2の容器、を含む。
【0167】
VIII.使用および方法
【0168】
本発明の一態様は、対象において腫瘍(例えば、癌)を予防または治療する方法であって、有効量の本発明のADC分子、医薬組成物、医薬組合せまたは薬物キットを対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0169】
いくつかの実施形態において、上記腫瘍(例えば、癌)患者は、(例えば、核酸やタンパク質レベルなどのレベルが上昇した)CLDN18.2を有する。いくつかの実施形態において、上記患者の腫瘍細胞は、CLDN18.2を発現し、例えば、CLDN18.2を中程度に発現し、好ましくはCLDN18.2を高発現する。
【0170】
いくつかの実施形態において、上記腫瘍、例えば癌は、固形腫瘍と血液腫瘍および転移性病巣を含む。一実施形態において、固形腫瘍の例は、悪性腫瘍を含む。癌は、早期、中期または末期にある癌または転移性癌であってもよい。
【0171】
一具体的な実施形態において、本発明のADC分子は、腫瘍細胞を殺傷し、かつ/または、例えばCLDN18.2を発現する腫瘍細胞、例えば消化管腫瘍細胞、例えば胃癌細胞、膵臓癌細胞、結腸癌細胞または結腸直腸癌細胞などの腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。
【0172】
いくつかの実施形態において、腫瘍は腫瘍の免疫回避である。
【0173】
いくつかの実施形態において、上記腫瘍は癌、例えば上皮腫瘍、例えば消化管腫瘍、例えば上皮癌または消化管癌、例えば胃癌、胃食道接合部癌、膵臓癌、結腸直腸癌または結腸癌である。
【0174】
対象は、霊長類などの哺乳動物であってもよく、好ましくは、高等霊長類、例えば、ヒト(例えば、本明細書に記載の疾患に罹患しているかまたは本明細書に記載の疾患に罹患するリスクのある個体)である。一実施形態において、対象は、本明細書に記載の疾患(例えば、癌)に罹患しているかまたは本明細書に記載の疾患に罹患するリスクがある。一部の実施形態において、対象は、化学療法治療および/または放射線治療などの他の治療を受けるか、または既に受けた。いくつかの実施形態において、対象は、その前に既に免疫療法を受けたか、または受けている。
【0175】
他の態様において、本発明は、薬物の生産または製造における、ADC分子、医薬組成物、医薬組合せまたは薬物キットの使用であって、上記薬物は、本明細書に記載の使用に用いられ、例えば本明細書にかかる関連疾患または病状を予防または治療するために用いられる、使用を提供する。
【0176】
いくつかの実施形態において、本発明のADC分子、医薬組成物、医薬組合せまたは薬物キットにより、病状および/または病状に関連する症状の発症が遅延される。
【0177】
いくつかの実施形態において、本発明のADC分子または医薬組成物は、さらに1つまたは複数の他の療法、例えば治療方式および/または他の治療剤と組み合わせて投与され、本明細書に記載の使用に用いられ、例えば本明細書にかかる関連疾患または病状を予防および/または治療するために用いられることができる。
【0178】
いくつかの実施形態において、治療方式は、外科手術、放射線治療、局所照射または集中的照射などを含む。
【0179】
いくつかの実施形態において、治療剤は、化学療法剤、血管新生抑制剤、サイトカイン、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物もしくは免疫調節剤(例えば免疫チェックポイント抑制剤またはアゴニスト)から選択される。
【0180】
例示的な他の抗体は、免疫チェックポイントに特異的に結合する抗体を含む。
【0181】
本発明の療法の組合せは、併用投与(例えば、2種または複数種の治療剤が同一の製剤または別個の製剤に含まれる)、個別投与を含み、後者の場合は、本発明のADC分子の投与は、別の治療剤および/または薬剤の投与の前に、同時に、および/または後に行われてもよい。
【0182】
医薬組成物の投与経路は、既知の方法、例えば、経口、静脈内注射、腹腔内、脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、または病巣内経路により、持続放出系により、またはインプラント装置によるものである。ある実施形態において、組成物は、ボーラス注射または連続輸注またはインプラント装置によって投与することができる。
【0183】
組成物は、インプラント膜、スポンジ、または所望の分子を吸収またはカプセル化する別の適切な材料を介して局所的に投与されてもよい。ある実施形態において、インプラント装置が使用される場合、上記装置は、任意の適切な組織または器官にインプラントすることができ、拡散、持続放出ボーラス、または連続投与によって所望の分子を送達することができる。
【0184】
本発明にかかる上記と他の態様および実施形態は、図面(図面の簡単な説明がその後に続く)と以下の発明の詳細な説明において記載され、以下の実施例に例示されている。上記および本願にわたって説明された特徴のいずれかまたはすべては、本発明の各実施形態において組合せることができる。以下の実施例を用いて本発明をさらに説明するが、実施例は、限定ではなく、説明することで記載され、当該業者は、様々な変更を行うことができると理解すべきである。
【実施例
【0185】
実施例1.1、安定発現細胞株の構築
【0186】
ヒトCLDN18.2の過剰発現細胞株の調製
【0187】
メーカーの取扱説明書によって、Freedom(登録商標) CHO-S(登録商標)試薬キット(Invitrogen、A1369601)を使用して、ヒトClaudin18.2(CLDN18.2と略称し、以下同様である)を安定発現する細胞株を構築した。まず、ヒトCLDN18.2(UniProt ID:P56856-2)の全長遺伝子を、ベクターpCHO1.0に構築し、プラスミドを構築し、化学的トランスフェクション法と電気的トランスフェクション法により、構築されたプラスミドをそれぞれCHO-S細胞(Invitrogen、A1369601)とHEK293細胞(Invitrogen、A14527)へ導入し、トランスフェクションした細胞は、2ラウンドのプレススクリーニングを経て、CLDN18.2をそれぞれ発現した細胞プール(pool)を得た。次に、フローサイトメトリー(MoFlo XDP、Beckman Coulter)によりCLDN18.2を高発現した細胞をソーティングし、希釈法によりCLDN18.2を安定発現したモノクローナル細胞株CHO-hCLDN18.2およびHEK293-hCLDN18.2を得た。
【0188】
ヒトCLDN18.1の過剰発現細胞株の調製
【0189】
メーカーの取扱説明書によって、Freedom(登録商標) CHO-S(登録商標)試薬キット(Invitrogen、A1369601)を使用して、ヒトClaudin18.1(CLDN18.1と称する。以下は、同じである)を安定発現する細胞株を構築した。まず、ヒトCLDN18.1(UniProt ID:P56856-1)の全長遺伝子を、ベクターpCHO1.0(Invitrogen、A1369601)に構築し、プラスミドを形成し、化学的トランスフェクション法により構築されたプラスミドをCHO-S細胞(Invitrogen、A1369601)へ導入し、トランスフェクションした細胞は、2回のプレススクリーニングを経て、CLDN18.1をそれぞれ発現する細胞プール(pool)を得た。次に、フローサイトメトリー(MoFlo XDP、Beckman Coulter)によりCLDN18.1を高発現した細胞をソーティングし、希釈法によりCLDN18.1を安定発現したモノクローナル細胞株CHO-hCLDN18.1を得た。
【0190】
CLDN18.2を過剰発現する腫瘍細胞株の構築
【0191】
ヒトCLDN18.2(UniProt ID:P56856-2)の全長遺伝子をベクターpWPT-GFP(Addgene、12255)に構築し、その中のGFP配列を置き換え、レンチウイルスのパッケージングベクターpsPAX2(Addgene、12260)とpMD2.G(Addgene、12259)と共にHEK293T(ATCC、CRL-3216)細胞にトランスフェクションし、ウイルスのパッケージングを行った。48時間および72時間後の培養上清をそれぞれ収集し、PEG8000を用いてレンチウイルスの濃縮を行った。濃縮したウイルスで膵臓癌DAN-G細胞(CLS Cell Lines Service GmbH、300162)および胃癌KATO III細胞(ATCC、HTB-103)をトランスフェクトし、次にフローサイトメーター(MoFlo XDP、Beckman Coulter)を用いてCLDN18.2を発現する細胞をソーティングし、CLDN18.2を安定的にトランスフェクションした腫瘍細胞株DAN-G-hCLDN18.2およびKATO III-hCLDN18.2を得た。
【0192】
実施例1.2、CLDN18.2モノクローナルの生成
【0193】
本発明はハイブリドーマ技術を用いて、実施例1により得られた細胞(CHO-hCLDN18.2)によってマウスH2L2完全ヒト抗体遺伝子組換えマウス(Harbour BioMedから購入)を免疫させた。次に、マウスの脾臓細胞を取得し、骨髄種細胞と電気融合した。続いて、上清を収集し、フローサイトメトリー(FACS)により抗CLDN18.2抗体を特異的に発現したハイブリドーマ細胞をスクリーニングし、かつ分泌された抗体は、CLDN18.1と結合しなかった。実施例1により得られた検出すべき細胞(HEK293-hCLDN18.2)をカウントし、1×10個細胞/mLに希釈し、U形底を有する96ウェルプレートに100μL/ウェルで加入した。500gで5min遠心分離し、細胞培地を除去した。ハイブリドーマの96ウェルプレートで培養された上清をU形プレートに加入し、細胞を再懸濁し、1ウェル当たり100μL加入し、氷上で30min静置した。500gで5min、上清を除去し、PBSで細胞を1回洗浄した。1ウェル当たり100μLの抗マウスFabのFITCで標識された二次抗体(1:500でPBSに希釈した)を加入し、陽性対照抗体に100μLの抗ヒトFabのFITCで標識された二次抗体を加入した。氷上で30min遮光してインキュベートした。500gで5min、上清を除去し、PBSで細胞を1回洗浄した。50μLの1×PBSで細胞を再懸濁し、FACSで機上検出を行った。陽性クローンを上記と同様の方法でCHO-hCLDN18.1の再スクリーニングを行った。2ラウンドのスクリーニングにより、完全ヒト抗体クローンHB37A6を得た。
【0194】
実施例1.3、組換えCLDN18.2モノクローナル抗体の調製
【0195】
抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6(CN202010570517.Xを参照)および対照抗体zolbetuximab(Zmabと略称され、配列はINN117から由来)を、全長モノクローナル抗体の形態でHEK293細胞(Invitrogen、A14527)に発現させた。
【0196】
まず、発現ベクターを構築し、HB37A6および対照抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列表の情報を参照)をヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号5)および軽鎖kappa定常領域(配列番号10)のN末端にそれぞれ配置した。その後、N末端シグナルペプチドを有するpcDNA3.1発現ベクターに構築し、軽重鎖発現ベクターを得た。得られた軽重鎖発現ベクターをPEI(Polysciences Inc、23966)をHEK293細胞に同時トランスフェクションし、7日培養した後、培地上清を収集した。上清をProtein Aカラム(Hitrap Mabselect Sure、GE 11-0034-95)により精製した後、限外濾過してPBS(Gibco、70011-044)に液交換し、A280法で濃度を検出し、SEC-HPLC法で純度を測定し、純度が95%超の抗体溶液を得て、組換えCLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6を得た。
【0197】
具体的なトランスフェクションおよび精製手順は以下のとおりである:
【0198】
必要なトランスフェクション体積に応じて、Expi293細胞(Invitrogen、A14527)を継代し、トランスフェクションの前日に細胞密度を1.5×10個の細胞/mLに調整した。トランスフェクションの当日に細胞密度は約3×10cell/mLであった。最終体積1/10のOpti-MEM培地(Gibco、31985-070)をトランスフェクション緩衝液として取り、トランスフェクション細胞1.0μg/mLとなるように適切なプラスミドを加え、均一に混合した。適切なポリエチレンイミン(PEI)(Polysciences、23966)をプラスミドに加え(プラスミドとPEIの割合は293F細胞で1:3である)、均一に混合した後に室温で20minインキュベートして、DNA/PEI混合物を得た。DNA/PEI混合物を細胞に徐々に加えながら、フラスコを軽く振とうした後、36.5℃、8%のCOインキュベーターで培養し、7日間後に細胞液を得て、細胞上清を収集して精製した。
【0199】
精製に使用したProtein Aカラム(Hitrap Mabselect Sure、GE、11-0034-95)を0.1MのNaOHで2h処理し、ガラス瓶などを蒸留水で洗浄した後に180℃で4h乾燥させた。精製前に、収集した細胞液を4500rpmで30min遠心分離し、上清を0.22μmのフィルターでろ過した。10カラム体積の結合緩衝液(リン酸ナトリウム20mM、NaCl 150mM、PH7.0)を用いてProtein Aカラムを平衡させた。ろ過した上清を精製カラムに加えた後、10カラム体積の結合緩衝液を用いて平衡させた。溶離緩衝液5mL(クエン酸+クエン酸ナトリウム0.1M、pH3.5)を加えて溶離液を収集し、溶離液1mLあたりに2Mの濃度であるTris-HCl 80μLを加えた。収集した抗体を限外ろ過により濃縮してPBS(Gibco、70011-044)に交換し、濃度を検出した。
【0200】
実施例1.4、SPR法によるCLDN18.2抗体の親和性の測定
【0201】
表面プラズモン共鳴法(Surface plasmon resonance、SPR)を用いて、ヒトCLDN18.2に結合するHB37A6の平衡解離定数(K)を測定した。メーカーの取扱説明書によって、アミノカップリング試薬キット(GE Healthcare、BR-1006-33)を用いて、ヒトClaudin18.2(GenScrip、P50251802)をCM5チップ(GE Healthcare、29-1496-03)の表面にカップリングし、カップリングした後、1Mのエタノールアミンを注入し、残りの活性化部位を封止した。メーカーの取扱説明書によって、Biacore(GE Healthcare、T200)でチップ表面抗原と移動相での抗体との結合と解離を検出して、親和性および動態定数を取得した。勾配希釈された抗体(0nM~100nM)を、低い濃度から高い濃度の順でチップ表面を流れ、結合時間が180s、解離時間が600sであった。最後に、10mMのGlycine pH 1.5(GE Healthcare、BR-1003-54)を用いてチップを再生した。データ結果を、Biacore T200解析ソフトウェアを用いて1:1の結合モデルで動態解析を行った。表1に示すように、HB37A6の親和性は、対照抗体Zmabよりも優れた。
【0202】
【表2】
【0203】
実施例1.5、CLDN18.2抗体のCLDN18細胞との結合特異性
【0204】
フローサイトメトリー(FACS)により、それぞれ実施例1により得られたヒトCLDN18.2およびヒトCLDN18.1を安定的にトランスフェクションしたCHO-S細胞株(すなわち、実施例1に記載したように調製したCHO-hCLDN18.2およびCHO-hCLDN18.1)に対する上記抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6および対照抗体Zmabの結合を測定した。
【0205】
具体的には、実施例1により得られた検出すべき細胞(CHO-hCLDN18.2およびCHO-hCLDN18.1)をカウントし、1×10個細胞/mLに希釈し、U形底を有する96ウェルプレートに100μL/ウェルで加入した。500gで5min遠心分離し、細胞培地を除去した。抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6および対照抗体Zmabを1ウェルあたり100μLでU形プレートに加えて細胞を再懸濁し、抗体の開始濃度を900nMとし、次に順に3倍希釈し、合計10濃度点とした。氷上で30min静置した。500gで5min、上清を除去し、PBSで細胞を1回洗浄した。1ウェルあたり100μLのヤギ抗ヒトFcのPEで標識された二次抗体(SouthernBiotech、J2815-5H87B)を加入した。氷上で30min遮光してインキュベートした。500gで5min、上清を除去し、PBSで細胞を1回洗浄した。50μLの1×PBSで細胞を再懸濁し、FACSで機上検出を行った。GraphPad Prismソフトウェアを用いて実験データを分析し、図1および図2を得た。図1および図2に示すように、上記抗体はいずれも、ヒトCLDN18.2に特異的に結合するが(図1)、ヒトCLDN18.1に結合しなかった(図2)。
【0206】
実施例1.6、CLDN18.2抗体と腫瘍細胞株との結合
【0207】
実施例1.5を参照し、FACSにより、HB37A6と胃癌細胞株NUGC-4(JCRB、JCRB0834)、胃癌細胞株KATO III-hCLDN18.2および膵臓癌細胞株DAN-G-hCLDN18.2との結合を測定した。図3は、完全ヒト抗体HB37A6がいずれも、比較的良い腫瘍細胞への特異的結合を有し、対照抗体Zmabよりも優れることを示した。
【0208】
実施例1.7、CLDN18.2抗体のインビボでの抗腫瘍効果
【0209】
1、DAN-G-CLDN18.2担腫瘍マウスモデルに対する抗体の活性
【0210】
HB37A6抗体を使用して、ヒト膵臓癌に罹患したNOD-SCIDマウス(雌のNOD-SCIDマウス(15g~18g)で、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)における抗腫瘍効果を試験した。実施例1で構築されたヒト膵臓癌細胞DAN-G-hCLDN18.2に対して通常の継代培養を行い、後続のインビボ実験に用いた。細胞を遠心分離して収集し、PBS(1×)でDAN-G-hCLDN18.2を分散し、12×10個/mLの細胞密度である懸濁液を得た。細胞懸濁液とmatrigelゲルを1:1で混合し、6×10個/mLの細胞濃度である細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってNOD-SCIDマウスの右側腹部領域に皮下接種し、DAN-G-CLDN18.2担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0211】
腫瘍細胞を5日間接種した後、各マウスの腫瘍体積を検出し、腫瘍体積が43.36mm~89.47mmの範囲にあるマウスを、腫瘍体積の大きさによってS形群分けた(1群あたり8匹)。
【0212】
各マウスにhIgG(Equitech-Bio、ロット番号160308-02)、HB37A6および対照抗体Zmabを投与し、投与量は、1回あたり10mg/kgであり、それぞれ接種後の5日目、9日目、12日目、16日目に投与し、マウスの腫瘍体積を週に2回~3回監視した。腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積をV=L×W/2という式により算出した。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0213】
2、NUCG-4担腫瘍マウスモデルに対する抗体の活性
【0214】
HB37A6抗体を選択して、ヒト胃癌に罹患したNOGマウス(雌のNOGマウス(15g~18g)で、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)における抗腫瘍効果を試験した。PBMC細胞(Allcells)を蘇生し、細胞を遠心分離して収集し、2.5×10個/mLの細胞密度である細胞懸濁液になるように、PBS(1×)でPBMC細胞を分散し、0日目に0.2mLの細胞懸濁液を取ってNOGマウスの眼静脈注射に用いて、NOGヒト化マウスモデルを確立した。
【0215】
NUGC-4細胞に対して通常の蘇生継代培養を行い、後続のインビボ実験に用いた。細胞を遠心分離して収集し、12×10個/mLの細胞密度になるように、PBS(1×)でNUGC-4細胞を分散し、matrigelゲルと1:1で混合し、6×10個/mLの細胞濃度である細胞懸濁液を調製した。5日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってNOGヒト化マウスの右側腹部領域に皮下接種し、NUCG-4担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0216】
腫瘍細胞を接種した後の1日目にランダムに群分け、1群あたり7匹で、各マウスにhIgG(Equitech-Bio、ロット番号160308-02、対照群)、HB37A6および陽性対照抗体Zmab(治療群)を投与し、投与量は、1回あたり10mg/kgであり、それぞれ接種後の1日目、5日目、8日目、12日目に投与し、マウス腫瘍体積と体重を週に2回~3回監視した。腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積をV=L×W/2という式により算出した。電子天びんを用いて体重を測定した。接種後の26日目に、相対腫瘍抑制率(TGI%)を算出し、計算式は、
【0217】
TGI%=100%×(対照群腫瘍体積ー治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積ー対照群投与前腫瘍体積)であった。
【0218】
3、結果
【0219】
結果は図4に示すように、HB37A6および対照抗体Zmabがヒト膵臓癌DAN-G-CLDN18.2マウスモデルでいずれも腫瘍成長を抑制することができ、HB37A6のTGIが28%、ZmabのTGIが24%であった。図5に示すように、HB37A6は、ヒト胃癌NUGC-4マウスモデルにおいて対照抗体Zmabよりも優れた抗腫瘍効果を示し、HB37A6のTGIが31%、ZmabのTGIが0%であった。
【0220】
実施例2.1 IEX019 ADC分子の合成
【0221】
IEX019
【0222】
HB37A6に基づいて、異なる小分子化合物にカップリングしたADCの合成をさらに設計した。具体的なプロセスは以下のとおりである。
【0223】
実施例2.1.1 IEX019-02の調製
【0224】
1).化合物6の調製
【化11】
【0225】
雰囲気で、BCN-OH(5、1.5g、10mmol)のDCM(150mL)溶液にクロロスルホニルイソシアネート(CSI)(0.87mL、1.4g、10mmol)、EtN(2.8mL、2.0g、20mmol)および2-(2-アミノエトキシ)エタノール(1.2mL、1.26g、12mmol)を加えた。混合物を10分間撹拌し、NHCl水溶液(飽和、150mL)を加えることでクエンチした。分離後、水層をDCM(150mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥(NaO4)し、濃縮した。残留物はカラムクロマトグラフィーにより精製された。淡黄色濃厚油状生成物6(2.06g、5.72mmol、57%)を得た。
【0226】
H NMR(400MHz、CDCl)δ(ppm)6.0(bs、1H)、4.28(d、J=8.2Hz、2H)、3.78-3.73(m、2H)、3.66-3.61(m、2H)、3.61-3.55(m、2H)、3.34(t、J=4.9Hz、2H)、2.37-2.15(m、6H)、1.64-1.48(m、2H)、1.40(quintet、J=8.7Hz、1H)、1.05-0.92(m、2H).
【0227】
2)化合物7の調製
【化12】
【0228】
DCM(10mL)中の6(47mg、0.13mmol)の撹拌溶液にCSI(11μL、18mg、0.13mmol)を加えた。30分間後、EtN(91μL、66mg、0.65mmol)およびジエタノールアミン(16mg、0.16mmol)のDMF(0.5mL)溶液を加えた。30分間後、クロロギ酸p-ニトロフェニル(52mg、0.26mmol)およびEtN(54μL、39mg、0.39mmol)を加えた。さらに4.5時間後、反応混合物を濃縮し、残留物はグラジエントカラムクロマトグラフィー(33→66%のEtOAc/ヘプタン(1%のAcOH))により精製され、無色油状物7(88mg、0.098mmol、75%)を得た。
【0229】
H NMR(400MHz、CDCl)δ(ppm)8.28-8.23(m、4H)、7.42-7.35(m、4H)、4.52(t、J=5.4Hz、4H)、4.30(d、J=8.3Hz、2H)、4.27-4.22(m、2H)、3.86(t、J=5.3Hz、4H)、3.69-3.65(m、2H)、3.64-3.59(m、2H)、3.30-3.22(m、2H)、2.34-2.14(m、6H)、1.62-1.46(m、2H)、1.38(quintet、J=8.7Hz、1H)、1.04-0.92(m、2H).
【0230】
3).化合物9の調製
【化13】
【0231】
化合物8(163mg、240μmol)を、乾燥DMF(0.9mL)中のメシル酸イクサノテカン(125mg、235μmol)およびDIPEA(61mg、82μL、0.47mmol)の混合物に添加した。20時間後、反応混合物を9mLのDCMに希釈し、グラジエントカラムクロマトグラフィー(0→40%のMeOH/DCM)により精製され、9(155mg、159μmol、68%)を得た。LCMS(ESI+)C5554FN10 (M+H)の計算値:977.39、実測値:977.80。
【0232】
4).化合物1の調製
【0233】
DMF(1.6mL)中の化合物9(155mg、159μmol)の溶液にEtN(73mg、101μL、0.72mmol)および化合物7(65mg、72μmol)のDMF(1.4mL)溶液を加えた。反応混合物を24時間撹拌し、DCM(20mL)で希釈し、グラジエントカラムクロマトグラフィー(0→40%のMeOH/DCM)により精製され、淡黄色固体化合物1(94mg、44μmol、28%)を得た。LCMS(ESI+)C1021181629 2+(M/2+H)の計算値:1066.88、実測値:1067.12。
【0234】
5)HB37A6-(GlcNAc(Fuc)-6-N-GalNAc)へのHB37A6の酵素的再構成
【0235】
実施例1.3に従って、HEK293細胞でHB37A6を発現させ、精製した。PCT/EP2017/052792に記載されるように、得られたHB37A6(16.4mg/mL)をEndoSH(1%のw/w)とともにインキュベートし、Asn297位置に-GlcNAcまたはGlcNAc(Fuc)を有するトリミングされたHB37A6を得た。上記トリミングされたHB37A6を、PCT/EP2016/059194に開示された酵素His-TnGalNAcT(4.5%のw/w)およびPCT/EP2016/059194に開示された6-アジド-GalNAc-UDP(抗体に対して、25eq(当量))(MnClのヒスチジン(20mM)+NaCl(150mM)を含む溶液6mM中)とともに、30℃で16時間インキュベートした。
【0236】
続いて、50mLのprotAカラム(Hitrap Mabselect Sure、GE、11-0034-95)を使用して上記で得られたインキュベーション混合物を精製した。上記で得られたインキュベーション混合物をカラムにかけ、TBS+0.2%のTritonおよびTBSでカラムを洗浄した。続いて、pH2.9の0.1M酢酸塩緩衝液でカラムを溶離し、pH7.2の2.5MのTris-HClで中和した。PBSで3回透析した後、Vivaspin Turbo 15限外ろ過装置(Sartorius)を用いて、得られた(修飾された)グリコシル化抗体を32.6mg/mLに濃縮した。
【0237】
得られたグリコシル化抗体を質量分析により分析した。主なステップは以下のとおりである。質量分析前に、Fc/2断片の分析を可能にするように、IdeSでグリコシル化抗体を処理した。20μgの(修飾された)グリコシル化抗体溶液およびIdeS(FabricatorTM)(1.25U/μL)を、pH6.6のPBS中に10μLの総体積で37℃で1時間インキュベートした。試料を80μLに希釈し、次にJEOL AccuTOF(ESI-TOF)で分析し、Magtranソフトウェアを使用してデコンボリューションされたスペクトルを取得した。IdeS消化試料の質量分析により、得られたHB37A6-(GlcNAc(Fuc)-6-N-GalNAc)に対応する主な生成物が示され、観察された質量は24330.4であった。
【0238】
従って、上記の結果により、2つの重鎖がいずれもAsn297に位置するGlcNAcが6-アジド-GalNAcで置換された(4位置換)HB37A6-(GlcNAc(Fuc)-6-N-GalNAc)を得たことが実証された。
【0239】
6)HB37A6-SYNtecan E複合体(IEX019-02)の調製
【0240】
本発明による生物複合体IEX019-02は、リンカー-複合体とする化合物1(linker-payload)を、生物分子とするアジド修飾されたHB37A6-(GlcNAc(Fuc)-6-N-GalNAc)にカップリングすることで調製された。従って、HB37A6-(GlcNAc(Fuc)-6-N-GalNAc)(10.8mL、350mg、32.6mg/mL、pH7.4のPBS)溶液に、pH7.4のPBS(808μL)、1,2-プロピレングリコール(11.3mL)および化合物1(350μL、40mMのDMF溶液)を加えた。反応を室温で一晩インキュベートし、次にろ過し、pH7.4のPBSに透析した。木炭(350mg)を加えた後に、室温で一晩回転させることで、残留した遊離payloadを除去した。遠心分離およびろ過によって木炭を除去し、Superdex200 26/600SEC(GE Healthcare)カラムを備えたAKTA Purifier-10(GE Healthcare)でADCを精製した。
【0241】
IdeS消化試料の質量分析は、2種類の主な生成物がいずれも得られたADC、すなわちHB37A6-SYNtecan E複合体に対応することを示した。第1のピーク:観察された質量は、カップリングしたFc/2断片(payloadの2x閉鎖ラクトン型)に対応する、26469 Da(計算質量は26465 Da)であった。第2のピーク:観察された質量は、結合したFc/2断片(payloadの2x開放カルボン酸塩型)に対応する、26499 Da(計算質量は26501 Da)であった。
【0242】
調製された構造は以下のとおりであった。UV、SEC、RP-HPLC、LC-MSを用いてADC生成物の濃度、DAR値およびSEC純度を測定した。SE-HPLCにより検出されたモノマー純度は99%を超え、6.12mg/mLの濃度であった。
【0243】
【化14】
式中、qはDAR平均値を表し、例えば3~5、3.2~4.8もしくは3.5~4.5であり、例えば表2で測定された3.52であった。
【0244】
式中、AbはHB37A6であった。
【0245】
実施例2.1.2 IEX019-03の調製
【化15】
【0246】
式中、qはDAR平均値を表し、例えば5~11、6~10、7~9もしくは7.5~8.5であり、例えば表2で測定された7.9であった。
【0247】
式中、AbはHB37A6であった。
【0248】
(a)還元剤溶液(水に溶解したTCEP(Sigma、C4706))をHB37A6溶液(PBS緩衝液(Thermo、10010023)に溶解した抗体HB37A6)に加え、反応混合物を振とう器に2h~4h置き、ここで
(i)HB37A6の最適な濃度は5mg/mL~10mg/mLであった。
(ii)TCEP/mAbの最適なモル比は4.5~6.5であった。
(iii)反応の最適な温度は20℃~37℃であった。
(iv)反応の最適なpH値は一般に6.5~8.0の間であった。
【0249】
(b)過剰のリンカー-毒素MC-GGFG-DXD(Levena biopharmaから購入し、SET0218、構造は下記のとおり)をDMSOに溶解し、ステップ(a)で還元された抗体のチオール基と反応させた。反応混合物を振とう器に1h~2h置き、ここで
(i)DXD/mAbの最適なモル比は10.0~12.0であった。
(ii)反応の最適な温度は20℃~37℃であり、
ADC粗生成物を得た。
【0250】
(c)得られたADC粗生成物は、スピン脱塩、限外ろ過または透析により精製され、最終ADC生成物IEX019-03を得た。
【0251】
(d)HIC、LC-MSおよびSEC HPLCを用いてADC生成物を検出し、DAR平均値およびSEC純度を決定した。
【0252】
【化16】
【0253】
実施例2.1.3 IEX019-04の調製
【化17】
式中、qはDAR平均値を表し、例えば3~5、3.2~4.8もしくは3.0~4.0であり、例えば表2で測定された3.5であった。
【0254】
式中、AbはHB37A6であった。
【0255】
この分子の調製は以下の方法に従って調製された。
【0256】
(a)還元剤溶液(水に溶解したTCEP(Sigma、C4706))を抗体HB37A6溶液(PB緩衝液に溶解した抗体HB37A6)に加え、添加完了後に反応混合物を振とう器に2h~4h置き、ここで
(i)抗体HB37A6の最適な濃度は5mg/mL~10mg/mLであった。
(ii)TCEP/mAbの最適なモル比は1.9~2.7であった。
(iii)還元反応の最適な温度は20℃~37℃であった。
(iv)反応の最適なpH値は一般に6.5~8.0の間であった。
【0257】
(b)反応基(マレイミド結合薬)を含む過剰のリンカー-payload MC-VC-PAB-MMAE(Levena Biopharmaから購入し、SET0201)を有機溶媒DMSOに溶解し、ステップ(a)で生成された還元チオール基と反応させた。反応混合物を振とう器に1h~2h置いた。
(i)MC-VC-PAB-MMAE/mAbの最適なモル比は8.0~10.0であった。
(ii)結合反応の最適な温度は20℃~37℃であった。
【0258】
(c)結合反応が完了した後、アセチルシステイン溶液を加えてステップ(b)の反応を停止した。混合後に、20℃~25℃で5分間~15分間インキュベートした。
【0259】
(d)得られたADC粗生成物は、スピン脱塩、限外ろ過または透析により精製され、最終ADC生成物IEX019-04を得た。
【0260】
(e)HIC、SEC-HPLCを用いてADC生成物を検出し、DAR平均値およびSEC純度を決定した。
【0261】
【化18】
【0262】
実施例2.1.4 IEX019-05の調製
【化19】
【0263】
式中、qはDAR平均値を表し、例えば3~5、3.2~4.8もしくは3.0~4.5であり、例えば表2で測定された3.3であった。
【0264】
式中、AbはHB37A6であった。
【0265】
この分子は以下の方法に従って調製された。
【0266】
(a)リンカー-payload SMCC-DM1溶液(Levena Biopharmaから購入し、SET0101、DMSOなどの有機溶媒に溶解したもの)を抗体HB37A6溶液(抗体HB37A6溶于PB緩衝液中)に加え、加えた後、反応混合物を振とう器に2h~5h置き、ここで
(i)抗体HB37A6の最適な濃度は5mg/mL~10mg/mLであり、
(ii)リンカー-payload/mAbの最適なモル比は5.5~6.5であり、
(iii)反応の最適なpH値は一般に6.5~8.0の間であり、
(iv)反応の最適な温度は20℃~37℃であり、
ADC粗生成物を得た。
【0267】
(b)得られたADC粗生成物は、スピン脱塩、限外ろ過または透析により精製され、最終ADC生成物IEX019-05を得た。
【0268】
(c)紫外分光光度法、SEC高速液体クロマトグラフィーを用いてADC生成物のDAR平均値およびSEC純度を測定した。
【0269】
【化20】
【0270】
実施例2.1.5 IEX019-06の調製
【0271】
調製プロセスは、対照抗体IgGでHB37A6モノクローナル抗体を置換する以外、IEX019-02と類似した。
【0272】
実施例2.1.6 IEX019-07の調製
【0273】
調製プロセスは、対照抗体IgGでHB37A6モノクローナル抗体を置換する以外、IEX019-04と類似した。
【0274】
全てのモノクローナル抗体およびADCの情報を表2にまとめた。
【0275】
【表3】
【0276】
実施例2.2 IEX019分子の細胞結合実験
【0277】
小分子カップリングにより標的細胞に対するIEX019-01モノクローナル抗体の結合特性が変化するかどうかを検出するために、発明者らは、DAN-G細胞株(hCLDN18.2陰性)および実施例1で調製したDAN-G-hCLDN18.2細胞株(hCLDN18.2を過剰発現)を使用し、フローサイトメトリー技術により標的に対するIEX019-01およびIEX019-02の親和性が検出された。実験方法は実施例1.5と同様であった。
【0278】
IEX019-01およびIEX019-02はいずれも、非標的細胞DAN-Gに結合しないが、DANG-hCLDN18.2に対する親和性が非常に高く、抗体の結合が標的の発現特異性に依存し、かつエキサテカン(Exatecan)のカップリングが抗体の結合に影響を与えないことを示した。同時に、対照分子IEX019-06(モノクローナル抗体は、同じ技術によりエキサテカン(Exatecan)毒素にカップリングしたIgGの陰性対照である)は標的細胞に結合しなかった(図6)。
【0279】
実施例2.3 IEX019分子のエンドサイトーシス実験
【0280】
強いエンドサイトーシスは、ADC薬物の重要な特性の1つである。ADCが細胞膜表面の抗原に結合した後、エンドサイトーシスによりADC-抗原複合体が細胞に入り、標的細胞を殺傷した。従って、ADCのエンドサイトーシス効率は、腫瘍抑制効果を決定する重要な指標の1つである。
【0281】
小分子化合物にカップリングした抗体のエンドサイトーシス効率を検出するために、発明者らは、フローサイトメトリー技術により、DANG-hCLDNA18.2細胞での異なるIEX019分子のエンドサイトーシスが検出された。DANG-hCLDNA18.2細胞を消化した後、細胞密度を調整し、1×10個細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。500gで3min遠心分離し、上清を捨てた。100μLの検出すべき分子を取って細胞を再懸濁し(50nMの分子濃度)、各試料に5回の反復を設定した(すなわち、エンドサイトーシス時間:0h、1h、2h、3h、4h)。氷上に置き、1hインキュベートした。1h後、500gで3min遠心分離し、上清を捨てた。各ウェルに200μLのFACS buffer(1%のFBS、1×PBS)を加え、2回洗浄した。そのうちの1セットの試料を取り、新しい96ウェルプレートに移し、37℃で4hインキュベートした。残りの試料を氷上で引き続きインキュベートした。先の操作を繰り返し、試料をそれぞれ37℃で3h、2h、1h、0hインキュベートした。特定のインキュベート時間が完了した後、500gで3min遠心分離し、上清を捨てた。1:400で希釈した抗hFC-PE抗体100μL(SouthernBiotech)を各ウェルに加え、氷上で遮光して30分間インキュベートした。二次抗体のインキュベートが完了した後、500gで3min遠心分離し、上清を捨てた。各ウェルに200μLのFACS bufferを加え、2回洗浄し、最後に100μLのPBSで細胞を再懸濁し、機上検出を行った。
【0282】
実験結果は図7に示すように、37℃での0hのインキュベーションをエンドサイトーシスのゼロ点として、2hインキュベートした後、全ての分子がエンドサイトーシスの最大限、約60%に達し、IEX019-01に基づいて設計し合成したADC分子が腫瘍細胞に結合した後、モノクローナル抗体と一致した強いエンドサイトーシス能力を維持することを示した。
【0283】
実施例2.4:IEX019分子のインビトロ細胞殺傷効果
【0284】
CellTiter-Glo(Promega、G9242)検出試薬キットを用いて、異なるレベルのhCLDNA8.2を発現する様々な細胞株における(表3)、ADCsによる細胞生存率の影響を検出した。
【0285】
【表4】
【0286】
使用した細胞をEDTA/Trypsinで消化した後、密度を調整し、96ウェルプレートに均一に播種し(表4)、希釈後の特定の濃度である試料IEX019分子(IEX019-02、IEX019-03、IEX019-04、希釈開始濃度を100nMとし、希釈倍数は3)を添加し、IEX019分子を添加していないウェルを対照とした。37℃のインキュベーターに放置して5日間インキュベートした。5日後、各ウェルに100μLのCellTiter-Glo検出試薬を加え、室温で30minインキュベートし、マイクロプレートリーダーを用いて検出した。相対細胞生存率(相対細胞生存率=試料/対照×100%)を計算し、Graph Pad Prism8.0で曲線をフィッテイングした。
【0287】
図8に示すように、細胞株に対するADC分子の殺傷は、表面hCLDN18.2の発現レベルに依存した。hCLDNA8.2陰性のDANGにおいて、IEX019分子は細胞生存率に顕著な影響を与えず(図8A)、中程度発現レベルの細胞株(NUGC-4、SNU620)において、IEX019分子は細胞に一定の程度の殺傷を示し(図8B)、高発現細胞株DAN-G-hCLDN18.2において、IEX019分子はいずれも顕著な殺傷効果を示した(図8C)。IEX019分子が良好な選択性および有効性を有することを示した。
【0288】
【表5】
【0289】
実施例2.5:バイスタンダー殺傷効果(Bystander killing effect)
【0290】
ADC薬物の合成プロセスにおいて、小分子化合物は、切断可能な(cleavable)リンカーを介して抗体に連結し、細胞膜にエンドサイトーシスされた後、リンカーは切断され、小分子が放出されて標的細胞を死滅させた。標的細胞が死滅した後、小分子化合物は、標的細胞から細胞隙間に放出され、一定の範囲内の非標的細胞をさらに殺傷し、このような効果はバイスタンダー殺傷効果と呼ばれる。腫瘍内部の細胞は、標的発現レベルで大きく異なる(腫瘍の不均一性)ため、バイスタンダー殺傷効果は、腫瘍細胞に対する効果的な殺傷、腫瘍成長に対する抑制に非常に重要であった。
【0291】
本発明は、非標的細胞DAN-Gおよび標的細胞DANG-hCLDN18.2を用いて、IEX019分子のバイスタンダー殺傷効果を検出した。
【0292】
細胞をEDTA/Trypsinで消化した後、密度を調整し、6ウェルの細胞培養プレートを準備し、DANG細胞およびDANG-hCLDN18.2をそれぞれ7.5×10個加え、2種類の細胞を共培養した。各ウェルに200μLの測定すべき試料(IgG(配列番号21、配列番号22)、IEX019-02、IEX019-05、IEX019-06、エキサテカン(Exatecan)(Macklin、E881532)を加え、50nMの最終濃度であり、各試料に3個の反復を設定した。細胞培養プレートを37℃のインキュベーターに放置し、5日間培養した。5日後、培養液上清を捨て、PBSで洗浄した後、Trypsin-EDTAを加えて細胞を消化し、消化された全ての細胞を収集し、96ウェルプレートに移した。フローサイトメトリー技術の抗体インキュベーションプロセスに従って、一次抗体(IEX019-01、100nM)、二次抗体(抗hFc-PE、SouthernBiotech)とともに4℃でそれぞれインキュベートし、それぞれ1hおよび0.5hインキュベートした。PBS洗浄後、live/dead Violet染料(Thermo、L34964)を1:1000で希釈し、各ウェルに100μLを加え、4℃で20minインキュベートした。PBS洗浄後、100μLのPBSで細胞を再懸濁し、機上検出を行った。live/dead染料を用いて各試料を集団に分け、ここで、IEX019-01陰性(すなわち、hCLDN18.2陰性)の集団はDAN-G細胞、IEX019-01陽性(すなわち、hCLDN18.2陽性)の細胞はDAN-G-hCLDN18.2であった。各試料中の2種類の細胞数をそれぞれ統計し、下記の方程に従って各種類の細胞の相対細胞生存率を算出し、Graph Pad Prism8.0で曲線をフィッテイングした。
【0293】
DANG細胞の相対生存率=試料群のDNAG細胞数/IgG群のDNAG細胞数×100%
【0294】
DANG-hCLDN18.2細胞の相対生存率=試料群のDNAG-18.2細胞数/IgG群のDNAG-18.2細胞数×100%
【0295】
IgG群の細胞生存率を100%とした。
【0296】
図9に示すように、陰性対照試料IEX019-06は、2種類の細胞に対していずれも殺傷効果がなく、IEX019-05分子は、切断不可能なリンカーを介してDM1毒素をIEX019-01モノクローナル抗体に連結し、周囲の非標的細胞を殺傷する能力がないため、DANG-hCLDNA8.2細胞のみを殺傷することができ、DANG細胞に影響を与えなかった。IEX019-02のみが顕著なバイスタンダー殺傷効果を有し、標的細胞および非標的細胞を同時に死滅することができる。
【0297】
実施例2.6:DAN-G-hCLDN18.2マウス移植腫瘍モデルにおけるIEX019分子の抗腫瘍薬効
【0298】
IEX019分子のインビボ薬効を実証するために、発明者らは、DANG-hCLDN18.2細胞をCB-17-SCIDマウスに接種し、本発明の抗体分子の抗腫瘍薬効を測定した。実験では、SPFグレードの雌CB-17-SCIDマウス(14g~17g、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)を使用し、合格証明書番号はNO.110011201108225246であった。
【0299】
DANG-hCLDN18.2細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でDANG-hCLDN18.2細胞を分散させ、3×10個/mLの細胞濃度を有する細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってCB-17 SCIDマウスの右腹部領域に皮下接種し、DANG-hCLDN18.2担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0300】
腫瘍細胞を接種した5日目に、腫瘍体積が50.16mm~136.68mmの全てのマウスを蛇形に群分けし(各6匹のマウス)、表5に示した投与量および方式で、接種後の5日目に投与し、図10a、10bに示すように、マウスの腫瘍体積および体重を週に2回監視し、92日後に監視が終了した。
【0301】
接種後の50日目に、相対腫瘍抑制率(TGI%)を算出し、計算式は、
TGI%=100%×(対照群腫瘍体積ー治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積ー対照群投与前腫瘍体積)であった。
【0302】
腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は、V=L×W/2という式により算出した。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0303】
【表6】
【0304】
腫瘍抑制率の結果は表6および図10Aに示すように、接種後の50日目に、IEX019-01モノクローナル抗体と比較し、IEX019-02単回投与後の腫瘍抑制率が103.60%に達し、IEX019-03およびIEX019-04よりも明らかに優れ、腫瘍抑制率がそれぞれ93.70%および35.20%であった。接種の82日後に、IEX019-02群のマウス腫瘍の100%が完全に退縮した。同時に、発明者らは、マウスの体重を検出し、結果は図10Bに示され、マウスの体重に有意差がなかった。
【0305】
【表7】
【0306】
実施例2.7:NUGC-4マウス移植腫瘍モデルにおけるIEX019分子の抗腫瘍薬効
【0307】
IEX019分子のインビボ薬効を実証するために、発明者らは、NUGC-4細胞をCB-17-SCIDマウスに接種し、本発明の抗体分子の抗腫瘍薬効を測定した。
【0308】
実験では、SPFグレードの雌CB-17-SCIDマウス(14g~17g、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)を使用し、合格証明書番号はNO.110011201109348141であった。
【0309】
NUGC-4細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でNUGC-4細胞を分散させ、3×10個/mLの細胞濃度を有する細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってCB-17 SCIDマウスの右腹部領域に皮下接種し、NUGC-4担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0310】
腫瘍細胞を接種した5日目に、腫瘍体積が72.25mm~140.50mmの全てのマウスを蛇形に群分けし(各6匹のマウス)、表7に示した投与量および方式で、接種後の5日目に投与し、図11A、11Bに示すように、マウスの腫瘍体積および体重を週に2回監視し、40日後に監視が終了した。
【0311】
接種後の33日目に、相対腫瘍抑制率(TGI%)を算出し、計算式は、
TGI%=100%×(対照群腫瘍体積ー治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積ー対照群投与前腫瘍体積)であった。
【0312】
腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は、V=L×W/2という式により算出した。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0313】
【表8】
【0314】
腫瘍抑制率の結果は表8および11Aに示すように、接種後の33日目に、陰性対照IEX019-06、IEX019-02およびIEX019-03の単回投与に対する腫瘍抑制率は、それぞれ80.04%および54.31%であった。同時にマウスの体重を検出し、結果は図11Bに示すように、マウスの体重に有意差がなかった。
【0315】
【表9】
【0316】
実施例2.8:SNU620マウス移植腫瘍モデルにおけるIEX019分子の抗腫瘍薬効
【0317】
IEX019分子のインビボ薬効を実証するために、発明者らは、SNU620細胞をCB-17-SCIDマウスに接種し、本発明の分子(IEX019-02)の抗腫瘍薬効を測定した。実験では、SPFグレードの雌CB-17-SCIDマウス(18g~20g、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)を使用し、合格証明書番号はNO.110011211102179364であった。
【0318】
SNU620細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でSNU620細胞を分散させ、3×10個/mLの細胞濃度を有する細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってCB-17 SCIDマウスの右腹部領域に皮下接種し、SNU620担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0319】
腫瘍細胞を接種した7日目に、腫瘍体積が58.1mm~117.3mmの全てのマウスを蛇形に群分けし(各6匹のマウス)、表9に示した投与量および方式で、接種後の7日目に投与し、図12a、12bに示すように、マウスの腫瘍体積および体重を週に2回監視し、39日後に監視が終了した。
【0320】
接種後の39日目に、相対腫瘍抑制率(TGI%)を算出し、計算式は、
TGI%=100%×(対照群腫瘍体積ー治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積ー対照群投与前腫瘍体積)であった。
【0321】
腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は、V=L×W/2という式により算出した。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0322】
【表10】
【0323】
腫瘍抑制率の結果は表10および図12Aに示すように、接種後の39日目に、hIgGと比較し、IEX019-02 10mg/kg単回投与後の腫瘍抑制率が143.77%、マウス腫瘍の100%が完全に退縮した。マウスの体重は、各投与群においてhIgG対照群と比較して、いずれも有意差がなかった(図12B)。
【0324】
【表11】
【0325】
配列情報:
【表12-1】
【表12-2】
【表12-3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
【配列表】
2024546497000001.xml
【国際調査報告】