(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-25
(54)【発明の名称】タイヤトレッドコンパウンド用の合成物の開発のための機械学習に基づいた予測方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20241218BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01N3/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530568
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 IB2022061318
(87)【国際公開番号】W WO2023095008
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021000029534
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】パオロ パチョッタ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア グイディ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト ロンバルディ
【テーマコード(参考)】
2G061
3D131
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061BA06
2G061BA07
2G061BA08
2G061CA10
2G061CB20
2G061DA11
3D131LA34
(57)【要約】
本発明は、タイヤトレッドコンパウンド用の合成物の開発のための機械学習に基づいた予測方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤトレッドコンパウンドの生産のためにテストされる合成物の静的特性の予測のために、電子計算機を用いて実施される方法であって、
生データデータベース、すなわち、既存の合成物のためのレシピと、参照として使用される、対応する既知の動的性質とから成るデータセット、を提供するステップと、
反復手順に従って、前記生データデータベースに含まれるデータを正規化するステップと、
異常なデータを除去し、特定のカテゴリの実際の成分に関連する新規の偽の成分を追加するため、データマイニングを用いて、正規化された前記データを前処理するステップと、
前処理された前記データを用いた自動学習に基づいて、アルゴリズムをトレーニングするステップと、
テストされる前記合成物の前記静的特性の前記予測のため、テストされる前記合成物の前記レシピを代表する一連の実験データに、トレーニングされた前記アルゴリズムを適用するステップと
を含む方法であって、
前記アルゴリズムは、順番に動作する少なくとも2つのモデリング層、つまり、テストされる前記コンパウンドの異なる温度条件および継時条件を考慮することを目的とした第1層と、物理的制約を取り入れ、適用する第2層とを含む、方法。
【請求項2】
前記静的特性は、異なるテスト条件を適用することにより得られる応力ひずみ曲線に由来する、異なるひずみレベルにおける係数、破断伸び、および破断係数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生データデータベースは、複数の実験測定セッションを代表するデータを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記正規化のステップは、前記実験セッション間を接続し、その変動を減少させ、それらを同じ参照まで減少させるため、反復ごとに、前記データセットで最も繰り返されるレシピ(F
MR)に基づいた反復正規化を提供する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
反復する前記正規化のステップは、参照として使用される反復して選択された前記合成物の対応する特性により予測される前記静的特性の各々を分類することにより実施され、前記参照のレシピは、さまざまな実験セッション間の接続を構成し、これらのセッションを比較可能にすることができる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理のステップは、データマイニングアルゴリズムの適用を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の方法
【請求項7】
前記データマイニングアルゴリズムは、特定のカテゴリの実際の成分に関連する新規の偽の成分を追加するため、異常なデータの除去および/または主成分分析(Principal Component Analysis(PCA))の実行を実施する、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッドコンパウンド用の合成物の開発のため、電子計算機を用いて実施される、機械学習に基づいた、ゴムコンパウンドの静的特性の予測方法に言及する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、タイヤ製造セクターにおけるものであり、特に、タイヤトレッドを製造するために使用される、それらのゴムコンパウンドの組成の判断に関するものである。
【0003】
異なる温度条件および異なる継時条件における、これらのゴムコンパウンドの静的特性(例えば、弾性係数対伸び、破断係数および破断伸び)は、特に、チャンクアウト(Chunk-out)、カット&チップ、引き裂き、および高速耐性の観点から、製品の市場性に関係するタイヤ性能を判断する際に重要な役割を担う。さらに、特定の変形における弾性係数は、プラントにおける特定のプロセスステップ(例えば、ゴム押出およびタイヤ作成)を確実に行うための主要パラメータである。
【0004】
これらの特性は、特に、成分、それらの量、およびそれら2つ以上の間で確立される特別なシナジーの観点から、合成物のために使用されるレシピの特徴により確保される。
【0005】
一般に、合成物のために使用されるレシピの正確な配合設計(formulation)は、目的を完全に達するまで、まず、正しい技術的パッケージを見つけ、続いて、漸進的な微調整によって配合設計を最適化するために、ラボでいくつかの検証ステップを経る必要がある。
【0006】
これらの反復実験キャンペーンの各々により、製品的観点からは、製品を開発するリードタイムおよびコスト(商品化までの時間)が増加し、データ的観点からは、さまざまなテストキャンペーン中に成される測定内のランダムノイズによる固有の変動を有するデータベースが生成される。
【0007】
上記の条件で製品性能を予測するには、典型的に、コンパウンドを検証するための大規模なラボでの検査が必要であり、時間とリソースを要する。
【0008】
そのため、本発明の目的は、請求項1に定義したようなプロセスを提供することにより、先行技術で未解決のままであるこれらの問題を解決することである。
【0009】
特に、本発明の目的は、物理的テストを実施する必要なく、タイヤ用のゴムコンパウンドの生産のため、合成物の重要な静的特性のいくつかを正確に推定するためにラボテストをシミュレーションすることである。
【0010】
本発明の更なる特徴は、対応する従属請求項において定義される。
【0011】
合成物の性質、ひいてはタイヤ性能を予測するソフトウェアツールの使用により、以下のことが可能になる:
-反復的なコスト(原料、労働力など)の著しい減少;
-ラボテストの実行能力および質の最適化(他の活動へのマンパワーの割り当てが可能になる);
-新製品の商品化までの時間の短縮;
-既知の方法論に関する予測精度の向上。
【0012】
本発明の特徴および利用に伴う、先行技術よりも明らかに優位な他の点については、純粋に非限定的な例として与えられる、本発明の好適な実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0013】
添付の図面における図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】例として、本発明のプロセスを示す図である。
【
図1B】例として、本発明のプロセスを示す図である。
【
図1C】例として、本発明のプロセスを示す図である。
【
図2】本発明に係る、利用可能な機械学習アルゴリズムのブロック図である。
【
図3】元の破断係数の値Tb対予測されたTb値の散布図の例である。
【
図4】さまざまな実験セッション間の、「接続」、すなわち、変動を減少させる可能性を表す図である。
【
図5】同じレシピであるが、4つの異なるテスト条件下に対応するゴムサンプルの応力ひずみ曲線を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の図面を参照し、本発明について以下で説明する。
【0016】
【0017】
そのため、タイヤ用のゴムコンパウンドの生産に使用される合成物の静的特性(例えば、弾性係数対伸び、破断係数、および破断伸び)の予測についての方法論が説明される。
【0018】
一般的には、プロセスは、以下の手順を伴う:
-生データデータベース、すなわち、既存の合成物のためのレシピと、対応する既知の静的特性とから成るデータセット、の生成(N回の実験セッション、各々、MN個のコンパウンドに対するテストを含む);
-生データデータベースに含まれるデータの反復正規化の手順;
-データマイニングを用いた、正規化されたデータの前処理;
-物理的制約も取り入れる、自動学習(機械学習、例えば、人工ニューラルネットワーク)に基づいたアルゴリズムのトレーニングおよび適用。
【0019】
物理的制約は、コンパウンドが、異なる温度(例えば、室温、高温)および継時(例えば、継時、高温継時)条件の下で応力ひずみテストを受けたときに順守しなければならない物理的なルールとして理解される。
【0020】
図5に示されるこれらのルールは、以下の表にまとめられうる。
【表1】
【0021】
より正確には:
-継時および高温テスト条件は、TbおよびEb値の全体的な減少をもたらす。
-高温テスト条件は、継時テスト条件と比較して、TbおよびEb値の大きな減少をもたらす。
-継時テスト条件は、Mxx値の全体的な増加をもたらす。
-高温テスト条件は、Mxx値の全体的な減少をもたらす。
【0022】
特に、使用される機械学習アルゴリズムは、順次、機械学習アルゴリズムのスタックに基づく。具体的には、本発明の好適な実施形態によれば、スタックは、順次、2つのモデリング層の適用をもたらす。
【0023】
機械学習アルゴリズムのスタックは、ゴムコンパウンドの静的特性の予測を実施し、同時に、異なるテスト条件下で得られる応力ひずみ曲線間の関係に対する物理的制約を適用することを目的とする。
【0024】
より具体的には、スタックの第1層は、具体的には、テスト条件ごとに静的特性予測を行うことを目的とする。各モデル(すなわち、Ml、Mk、Mj、Mi)は、特定の温度/継時条件(すなわち、コンパウンド条件)に割り当てられる。とはいえ、これらの予測には、それらの間に物理的な一貫性が欠けている可能性がある。すなわち、同じ配合設計であるが、異なる物理的実験テスト条件においてテストを実施することにより観察される変動は、配慮されないかもしれない(
図5参照)。この理由は、予測が、異なる機械学習モデルから得られたという事実による。そのような物理的な一貫性をもたらすために、機械学習アルゴリズムのスタックの第2層が開発され、トレーニングされた。実際、スタックの第2層に属している機械学習アルゴリズムは、(前の層におけるような)配合設計だけでなく、異なるテスト条件下で推定されるコンパウンドの静的特性もインプットとして受け取ることによりトレーニングされる。このことは、これらのアルゴリズムが、物理的テスト条件が変化するにつれて特性間で観察される相互関係(
図5参照)を自動的に学習することができ、必要な物理的制約を自動的かつ暗黙的に刷り込むように管理することを意味する。
【0025】
上述したように、正規化され、前処理されたデータベースに含まれるデータセットを使用してモデルをトレーニングするステップの後であれば、データベースにおける生データにアルゴリズムをそのまま直接適用するよりずっと正確に、合成物の静的特性を予測することが可能である。
【0026】
実際、このようにして、データベースのノイズおよびデータの固有の変動の、予測精度に対する影響を大幅に減少させることが可能である。
【0027】
実際、データの反復正規化の手順を用いた、同じ参照種(N回の実験セッションの各々に存在するMN個のコンパウンドの少なくとも1つ)に対する多数のラボテストに関するデータを使った操作、その目的は、固有の実験変動を減少させることである。実際に、特定の実験セッション中に実施される各繰り返しテストは、これらの特定の実験の条件による変動率を推定するのに使用される。
【0028】
さらに、前処理手順(データマイニング)は、新規の能力を開発し、異常なデータを除去し、主成分分析(Principal Component Analysis(PCA))を実施することにより、予測の正確性を改善するのに使用される。
【0029】
最後に、例えば、人工ニューラルネットワーク(artificial neural network(ANN))を通して実施された、機械学習アルゴリズム、というよりアルゴリズムのスタックは、試験の対象となるコンパウンドの主な静的特性のいくつか、例えば、既に示されたような、異なるテスト条件および異なるコンパウンド条件で得られる応力ひずみ曲線、の予測を実施する。
図2を参照すると、モデルの第1層は、さまざまな可能性のある条件を考慮する一方、第2層は、以下でより詳細に説明するような、物理的制約を取り入れ、適用する。
[理論的背景]
【0030】
ポリマーマトリクス複合材料は、応力を受けたとき、特徴的な弾性および粘性反応の両方を示すユニークな物質である。ゴムコンパウンドの応力ひずみ特性は、通常、ASTM手順に従って、特徴的なドッグボーン形状のサンプルに、破断するまで張力をかけることにより測定される。
【0031】
非常に低いひずみの場合、もたらされる応力と加えられたひずみとの比率は、フックの法則に従う、ヤング率と呼ばれる定数であり、一定の制限より低い、通常100%程度のひずみで有効である。変形が増加するにつれ、直線性は損なわれ、フックの法則はもはや適用されなくなり、ゴムは、破断するまで、その係数の値において非線形の増加を示し、貯蔵エネルギーを放出する。この性質は、ゴム製造プロセスのさまざまな段階だけでなく、さまざまな理由で、タイヤ自体の組み立て中も大きなインパクトを及ぼす。
【0032】
応力ひずみテストのアウトプット(すなわち、応力ひずみ)は、応力対ひずみ曲線であり、そこから、サンプルの、異なるテスト温度および異なる継時条件における以下のパラメータを抽出することが可能である:
●異なるひずみレベルにおける係数(すなわち、Mxx、ここで、xxはひずみレベルを表す)
●破断伸びおよび破断係数(すなわち、それぞれ、EbおよびTb)。
【0033】
結果は、開発されたアルゴリズムにより予測されるような応力ひずみ曲線の値を、複数の新規の実験レシピに対して実験的に知られたものと比較することにより有効となるが、これら複数の新規の実験レシピは、トレーニングステップ中に機械学習アルゴリズムのスタックを供給するのには当然使用されなかった。
【0034】
図3は、テストセットにおける性能の例として、元のTb値対予測されたTb値の散布図を示す。図に示すように、分散は、高いR
2値(>0.95)により特徴付けられる。
【0035】
本発明によれば、ANNアルゴリズムトレーニングステップの前に、重要な前処理ステップが実施されることに注意すべきである。より具体的には、上述のデータ正規化手順+データマイニングを用いた前処理ステップである。
[反復データ正規化手順]
【0036】
この正規化手順は、最も優れたパフォーマンス改善を示した。この種の適用においては、繰り返される実験セッションにより、通常、標的特性に関して高い変動を観察することができる。実際に、いくつかのレシピは、いくつかの実験セッションにおいて繰り返されることが多く、それらの標的特性が有意差を示すことがある。実施されたN回の実験セッションを全て調査することにより、MN個の可能性のあるレシピのうち、実験セッションに関するこの変動を減少させるのに使用される種々のレシピを見つけることができる。
【0037】
正規化は、さまざまな実験セッションに共通するレシピの物理的特性を参照することにより、各実験セッションで実施される。このようなレシピが実験セッションのいくつかを正規化するのに使用できない場合、このようなレシピがそれらの実験セッションに含まれない限り、新規のレシピが選択されることになり、少なくとも1つの既に正規化された実験セッションに、およびまだ正規化されていない実験セッションに含まれるようにする。この選択によって、正規化を反復して拡張し、新規の実験セッションに適用することが可能になる。
【0038】
図4は、さまざまな実験セッション間の、「接続」、すなわち、共通の配合設計(レシピ)を用いて変動を減少させる可能性、を示す。スポットが実験セッションを表す一方、線は「接続」、すなわち、参照コンパウンド/配合設計(レシピ)を用いた実験セッションの正規化の方法を表す。グラフは、実験セッションを「接続」(すなわち、正規化)し、それによりその変動を減少させる全ての可能性のある方法を表す。提示されたグラフを見れば理解できるように、各実験セッションは、多くの他のセッションとリンクしていてよい。そのため、このような手順は、できるだけ多くの実験セッションで変動を減少させるために、反復して実施されてよい。
【0039】
数学的観点から、これらの接続は、多くの方法で成されてよく、そのため、異なる正規化手順が使用されてよい。
【0040】
本発明によれば、各標的特性は、実験セッションで参照として使用されるレシピに対応する特性により分類される。
【0041】
操作的観点から、反復正規化手順は、以下のように実施される:
1.データセットにおいて最も繰り返されているレシピF
MR(最も繰り返された配合設計)を含む全ての実験セッションを選択する;
2.前のポイントで選択された、実験セッションの全てに含まれる配合設計全ての物理的特性は、レシピF
MRの対応する特性を参照することにより正規化される;
3.各正規化された実験セッションSS
Normalizedは、レシピF
C(共通の配合設計)を用いて、
図4のグラフに従って、正規化されていない実験セッションSS
NotNormalizedに接続され、ひいては:
a.SS
NotNormalizedに含まれるレシピF
Cの物理的特性は、SS
Normalizedに含まれるF
Cの物理的特性を参照とみなすことにより正規化される;
b.SS
NotNormalizedに含まれるレシピ全ての物理的特性は、(既に前もって正規化された)SS
NotNormalizedに含まれるF
Cの物理的特性を参照とみなすことにより正規化される;
4.ポイント3に記載の手順は、
図4のグラフに従って、実験セッション全てに反復して適用される。
【0042】
本発明によれば、かつ既知の先行技術で生じることに反して、データ正規化は、データセット全体に適用されるわけではないことを強調するのが重要である。正規化手順は、特定の、標的化された方法で各実験セッションに適用され、個々の実験セッションを他のセッションと比較可能にするために開発され、それにより、データセット全体を形成する。この目的は、実験セッションに関する変動を減少させることにより実現される。このことは、有害な非線形性をもたらす限りにおいて、既知の技術では一般に奨励されないことが、すなわち、本発明に係る、異なる方法での異なるデータセットの正規化が、
図4のグラフの接続に従って判断される反復正規化の実装によって、所望の結果を実現するのに使用され、活用されることを意味する。
【0043】
正規化手順は、以下のように説明されうる:
【数1】
【0044】
以下の表2は、正確性の観点から、データ正規化手順を実施することと実施しないこととの差を示す。
【0045】
この際、正確性は、標的パーセント誤差より低いパーセント予測誤差を示すレシピのパーセンテージとして定義される。M100値予測モデルは、データ正規化手順の適用によって約30%の正確性の向上を示した(DELTA列参照)。一方、EbおよびTb値予測モデルは、約26%の正確性の向上を示した。
【表2】
【0046】
この表は、例として、データ正規化手順のインパクトを強調するため、M100、Eb、およびTbの予測の正確性を示す。正規化データ処理は、個々の標的特性の予測性能を改善する。興味深いことに、正規化手順は、(正規化なしの54.2%の正確性から、正規化されたデータの83.7%の正確性へ)約30%のM100の予測正確性の改善をもたらす。
[データマイニングを使用した前処理]
【0047】
「トレーニングステップ」中にアルゴリズムを構築するのに使用される実験データセットに対して、正確なデータマイニング操作(反復正規化、異常データ除去、PCA)が実施されたときに、予測の正確性が大幅に改善される。実際に、PCAは、トレーニングデータセットのレシピから、標的特性に影響を与えない成分を除去し、データセットの情報的内容を強調するために特別に作成された、新規の偽の成分を追加することができる。
【0048】
特性の情報的貢献(ひいては、拡大解釈すると、データセットの情報的貢献)という言葉により、予測されている物理的特性へのその特性の影響が、その性能と合致して、さらに量およびその他の成分との相互作用に関連して、モデルにより上手く解釈されるという事実が言及されている。特定の成分の増加/減少に続く、問題となっているその1つの特性に関する2Mpaの正確な増加は、モデルにより適切に解釈されれば、有益な情報的貢献である比率となる。
【0049】
異常データ除去手順は、個々の実験セッション単独、およびさまざまな実験セッション全てをまとめての両方を考慮することにより実施されるように設計されている。手順のこの二面性により、1つ1つのセッションをうまく利用することが可能になる。
【0050】
後続の予測モデルの作成を促進することを目的として、新規の偽の成分を追加するために、元の成分は、特定のカテゴリ、すなわち、ポリマー、賦形剤、促進剤などに分類されている。続いて、PCAが各成分カテゴリに適用され、その特定の成分カテゴリの情報的内容を強化しうる新規の偽の成分が推定された。これに関連して、PCAに供給されるような、実際の成分の線形結合を偽の成分として定義し、その特定のカテゴリの成分の情報的貢献が強調されるようにすることができる。この線形結合は、そのため、初期の成分の情報的貢献を兼ね備える。このことから、続いて、偽の成分により成された情報的貢献により、初期の成分の情報的貢献がまとめられ、増強される。最後に、成分のカテゴリごとに、このような方法で判断された偽の成分が、予測アルゴリズムが処理をする役目をこなすインプットリスト(すなわち、成分)に追加され、それにより、元の情報的貢献、および偽の成分において増強された情報的貢献の両方が、分析される。
[静的特性に関する物理的条件の管理]
【0051】
予測の質も、「トレーニングステップ」中にアルゴリズムにより満たされるべき一連の物理的条件に依存する。
【0052】
特に、モデルが所定の物理的制約を同時に満たすように強いられたとき、予測は、より信頼性が高くなる。実際、明確な実験的証拠により裏付けられた材質科学によって、同じ配合設計の場合、応力ひずみ曲線の推定値は、実験テスト条件が変化するにつれて変化することが教示されている(
図5参照)。これらの変化は非常に複雑な性質を想定し、それゆえ、暗黙的かつ自動的に変化を推定し、適用することができる方法の識別は、非常に役に立つ可能性がある。機械学習アルゴリズムによって、データ駆動型モデリングの適用は、異なる実験テスト条件およびそれらの相互関係を説明する必要な物理的制約を推定し、課す可能性を効果的にもたらしている。このような制約は、機械学習アルゴリズムのスタックの適用を通して実施される。
【0053】
特に、使用されるアルゴリズムのスタックの図式的配置を示す
図2を参照すると、モデルの第2層は、物理的制約を取り入れ、適用する。
【0054】
より具体的には、機械学習アルゴリズムのスタックの第1層は、予測される静的特性の第1の推定値を提供するように開発されている。実際、スタックのこの層においては、考慮される物理的テスト条件の各々の静的特性を予測するために、専用の機械学習アルゴリズムが開発され、トレーニングされることになる。このため、アルゴリズム(すなわち、
図2のモジュールM
i、M
j、M
k、M
l)は、以下のインプットによりトレーニングされる:
1.レシピ:レシピ/配合設計全て(すなわち、全ての量の成分)がインプットとして供給される;
2.物理的特性。
【0055】
それとは異なり、機械学習アルゴリズムのスタックの第2層は、以下のインプットが与えられ、物理的整合性がモデル自体に「教示」されたため、物理的制約を課し、ひいては、静的特性の最適な推定をもたらすことができるように開発されている:
1.レシピ:レシピ/配合設計全て(すなわち、全ての量の成分)がインプットとして供給される;
2.物理的制約:研究された物理的テスト条件全てに対応する静的特性がインプットとして提供される。ツールを利用する、ひいては特性をリアル予測するステップにおいて、これらのインプットは、スタックの前の層において予測された特性に対応することになる。
【0056】
結論として、スタックの第2層に属している機械学習アルゴリズムは、特定のアウトプットを予測するようにトレーニングされており、異なる物理的テスト条件に対応するアウトプット全体をインプットとして有するため、物理的テスト条件に依存するアウトプット間の差が何であるかを自動的に推測することができる、すなわち、必要な物理的制約の自動的かつ暗黙的な学習を生じさせることができる。
【0057】
第2層は、物理的特性の最終的な推定を実施するように設計されている。このため、第2層は、物理的特性の予測(すなわち、それらの最終的な推定)を実施するために、以下を使用してトレーニングされる:
-物理的特性の第1の推定;
-物理的特性。
【0058】
そのため、機械学習アルゴリズムのスタックの第2層は、異なる実験テスト条件に関係する物理的制約を暗黙に課すことにより、スタックの第1層におけるアルゴリズムにより成された予測を精緻化する。
【0059】
本手順の目的は、物理的制約を考慮する予測を行うことができるモデルを促進することである。
【0060】
本発明は、その好適な実施形態を参照して、ここまで説明された。純粋に例として、本明細書に記載された好適な実施形態において実装された技術特徴の各々は、これまで記載された以外の方法で、他の特徴とも有利に結びつけられ、同じ発明の核に属し、以下に記載する特許請求の範囲により与えられる保護の範囲内に全て含まれる他の実施形態を形作ってよいことが意図されている。
【国際調査報告】