(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-25
(54)【発明の名称】血中無細胞DNAベースの乳癌治療の予後予測方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20241218BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20241218BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241218BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241218BHJP
G16B 30/10 20190101ALI20241218BHJP
G16B 40/00 20190101ALI20241218BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20241218BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6806 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
G16B30/10
G16B40/00
G16H50/20
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533995
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 KR2022019625
(87)【国際公開番号】W WO2023106768
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0172562
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523165307
【氏名又は名称】ジーシー ゲノム コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】GC GENOME CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】チョ ウンヘ
(72)【発明者】
【氏名】アン ジンモ
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュンナム
(72)【発明者】
【氏名】イ テリム
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジュヒョク
(72)【発明者】
【氏名】キム ゴンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム ミンファン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
5L099
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029BB20
4B029FA15
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QR90
4B063QS10
4B063QS36
4B063QS39
5L099AA04
(57)【要約】
本発明は、血中無細胞DNAベースの乳癌治療の予後予測方法に関し、より具体的には、抗癌治療前の生体試料から無細胞DNA(cell free DNA、cfDNA)を抽出し、配列情報を獲得した後、染色体領域の正規化校正及び回帰分析を用いてI点数を取得し、前記I点数と抗癌治療後の乳房のイメージ情報を共に分析する段階を含む無細胞DNAベースの乳癌治療の予後予測方法に関する。本発明に係る乳癌の予後予測方法は、次世代塩基配列分析技法(Next Generation Sequencing、NGS)を用いて乳癌患者の予後予測正確度を高めるだけでなく、検出しにくかった非常に低い濃度の無細胞DNAをベースにした予後予測正確度を高め、商業的活用度を高めることができる。したがって、本発明の方法は、乳癌患者の予後判断に有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む無細胞DNA(cell free DNA、cfDNA)ベースの乳癌の予後予測方法:
a)抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を獲得する段階;
b)前記配列情報(reads)を参照集団の標準染色体配列データベース(reference genome database)に整列する段階;
c)前記整列された配列情報(reads)に対して品質を確認し、基準値(cut-off value)以上の配列情報のみを選別する段階;
d)前記標準染色体を一定の区間(bin)に分け、前記選別された配列情報(reads)に対して、各区間の量を確認して正規化する段階;
e)参照集団の正規化された各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記d)段階で正規化した値の間のZ点数を計算する段階;
f)前記Z点数(Z score)を用いて染色体を区分し、I点数を計算する段階;
g)抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得する段階;及び
h)前記計算されたI点数(I-score)が基準値(cut-off value)以上で、乳房組織イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する段階。
【請求項2】
前記a)段階は、次の段階を含む方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法:
(a-i)採取された無細胞DNAから塩析方法(salting-out method)、カラムクロマトグラフィー方法(column chromatography method)、又はビーズ方法(beads method)を用いてタンパク質、脂肪、及びその他の残余物を除去し、精製された核酸を取得する段階;
(a-ii)前記精製された核酸に対して、シングル-エンドシーケンシング(single-end sequencing)又はペア-エンドシーケンシング(pair-end sequencing)ライブラリー(library)を製作する段階;
(a-iii)前記製作されたライブラリーを次世代遺伝子配列検査機(next-generation sequencer)で反応させる段階;及び
(a-iv)前記次世代遺伝子配列検査機で核酸の配列情報(reads)を獲得する段階。
【請求項3】
前記(a-i)段階と前記(a-ii)段階との間に、前記(a-i)段階で精製された核酸を、酵素的切断、粉砕又はハイドロシェア方法(hydroshear method)で無作為断片化(random fragmentation)し、シングル-エンドシーケンシング又はペア-エンドシーケンシングライブラリーを製作する段階をさらに含む方法で行われることを特徴とする、請求項2に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項4】
前記a)段階の配列情報を獲得する段階は、分離された無細胞DNAを0.01~100リードの深さで全長ゲノムシーケンシングを通じて獲得することを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項5】
前記c)段階は、次の段階を含む方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法:
(c-i)整列された各核酸配列の領域を特定する段階;及び
(c-ii)前記領域内で整列一致度点数(mapping quality score)とGC比率の基準値を満足する配列を選別する段階。
【請求項6】
前記基準値は、前記整列一致度点数(mapping quality score)が15~70で、GC比率は30~60%であることを特徴とする、請求項5に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項7】
前記c)段階は、染色体の中心体又は末端体のデータを除いて行われることを特徴とする、請求項5に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項8】
前記d)段階は、次の段階を含む方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法:
(d-i)標準染色体を一定の区間(bin)に分ける段階;
(d-ii)前記区間別に整列されたリードの個数及び各リードのGC量を算出する段階;
(d-iii)前記リードの個数及びGC量に基づいて回帰分析を実施し、回帰係数を算出する段階;及び
(d-iv)前記回帰係数を用いてリードの個数を正規化する段階。
【請求項9】
(d-i)での一定の区間(bin)は100kb~2Mbであることを特徴とする、請求項8に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項10】
前記e)段階は、下記の数式1で計算することを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【数1】
【請求項11】
前記(f)段階は、次の段階を含む方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法:
(f-i)各区間別のZ点数をベースにしてCBS(Circular Binary Segmentation)方法で染色体領域を区分する段階;
(f-ii)区分された各染色体領域(segment)別のZ点数(Segment Z score)を、領域に含まれた区間(bin)別に計算されたZ点数の平均として計算する段階;
(f-iii)各区間(bin)に対して局所回帰分析(LOESS)を行い、平滑化された(smoothed)Z点数(Zn)を計算する段階;
(このとき、n∈{1,…,N}で、N=全体のbinの個数である。)
(f-iv)数式2でノイズと関連したn_scoreを計算する段階;及び
【数2】
(このとき、
【数3】
であり、これは、i)段階で計算したbin別のZ点数を意味する。)
(f-v)下記の数式3でI点数を計算する段階。
【数4】
(このとき、
【数5】
であり、これは、i)段階で計算した、領域(segment)別のZ点数を意味する。)
【請求項12】
前記乳房組織イメージは、乳房組織サンプル組織化学染色イメージ及び乳房組織サンプル組織蛍光染色イメージからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項13】
前記乳房組織イメージ判読情報が陽性であることは、イメージで癌細胞が確認されることを意味することを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項14】
前記I点数の基準値は5~10であることを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項15】
前記I点数が基準値以上で、イメージ判読情報が陰性である場合は、中等度危険群として分類し、I点数が基準値未満で、イメージ判読情報が陽性である場合は、高度危険群として分類し、I点数が基準値以上で、イメージ判読情報が陽性である場合は、超高度危険群として分類する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のcfDNAベースの乳癌の予後予測方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法で乳癌の予後を予測する段階を含む乳癌の予後判断のための情報の提供方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法で乳癌の予後を予測する段階を含む乳癌の予後判断方法。
【請求項18】
抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を解読する解読部;
解読された配列を参照集団の標準染色体配列データベースに整列する整列部;
整列された配列情報(reads)に対して基準値(cut-off value)以上のサンプルの配列情報のみを選別する品質管理部;
選別された配列情報(reads)に対して、参照集団サンプルと比較してZ点数(Zscore)を計算した後、これに基づいてI点数(I-score)を計算するI点数計算部;
抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得するイメージ判読情報受信部;及び
I点数が基準値(cut-off value)以上で、イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する決定部;を含むcfDNAベースの乳癌の予後予測装置。
【請求項19】
コンピューター読み取り可能な媒体として、乳癌の予後を予測するプロセッサによって実行されるように構成される命令を含み、
a)抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を獲得する段階;
b)前記配列情報(reads)を参照集団の標準染色体配列データベース(reference genome database)に整列する段階;
c)前記整列された配列情報(reads)に対して品質を確認し、基準値(cut-off value)以上の配列情報のみを選別する段階;
d)前記標準染色体を一定の区間(bin)に分け、前記選別された配列情報(reads)に対して、各区間の量を確認して正規化する段階;
e)参照集団の正規化された各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記d)段階で正規化した値の間のZ点数を計算する段階;
f)前記Z点数(Z score)を用いて染色体を区分し、I点数を計算する段階;
g)抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得する段階;及び
h)前記計算されたI点数(I-score)が基準値(cut-off value)以上で、乳房組織イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する段階;
を含むプロセッサによって実行されるように構成される命令を含むコンピューター読み取り可能な媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中無細胞DNAベースの乳癌治療の予後予測方法に関し、より具体的には、抗癌治療前の生体試料から無細胞DNA(cell free DNA、cfDNA)を抽出し、配列情報を獲得した後、染色体領域の正規化校正及び回帰分析を用いてI点数を取得し、前記I点数と抗癌治療後の乳房のイメージ情報を共に分析する段階を含む無細胞DNAベースの乳癌治療の予後予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、乳房に生じた癌細胞からなる腫塊として、全世界的に肺癌に次いで2番目に一般的な類型の癌であり、肺癌、胃癌、肝癌、結腸癌に次いで5番目に死亡率の高い癌として知られている。また、乳癌は、女性にとって最も一般的な癌であり、2番目に死亡率が高い癌である。
【0003】
乳癌発病に対する危険因子は、人種、年齢及び癌抑制遺伝子BRCA-1、BRCA-2及びp53での突然変異などを含む。アルコール摂取、高脂肪食、運動不足、外因性閉経後のホルモン及びイオン化放射線も乳癌の発病危険を増加させる。乳癌は、ホルモン受容体(エストロゲン受容体又はプロゲステロン受容体)とHER2(human epidermal growth factor receptor 2)の発現状態によってルミナールA型、ルミナールB型、HER2型及び三重陰性乳癌(TNBC)の4種類の亜型に区分されている。それぞれの乳癌の各亜型は、区分される分子的特徴を有している。
【0004】
現在の乳癌に対する治療方法として、腫瘍除去手術後、抗癌化学治療、抗ホルモン治療、標的治療或いは放射線治療などのように、今後の再発を減少させるための追加補助的な治療が必要な場合がある。初期乳癌患者の70%~80%は、他の臓器への転移危険が非常に少ないために抗癌化学療法が必要でないにもかかわらず、既存の乳癌治療ガイドラインでは正確な判別が難しいので、大多数の患者が手術後に行われる抗癌化学療法と放射線治療の処方を受けている実情である。しかし、化学治療の効果が大きくない患者に持続的に抗癌剤を投与すると副作用のみを増加させ、患者に望まない苦痛を与え得る。よって、初期乳癌患者における今後の癌の予後を明確に予測し、現時点で最も適切な治療方法を賢明に選択し、転移性再発などの悪い予後に備える必要がある。
【0005】
乳癌治療が開始されると、周期的に癌の進行を観察しなければならないが、診断方法によって費用と時間が要求され、患者の腫塊のサイズが小さいか、癌細胞数が少ない場合、癌を発見して診断することは非常に難しい。予後を予測できる一部の製品が存在しているが、未だに高価であり、治療過程中の状態を確認できなく、検査する単一時点でのみ単純予後を予測することができる。
【0006】
一方、既存には、乳癌の予後的指標として、主に増殖及び細胞周期信号に重点を置いてきた。そこで、増殖/細胞周期調節遺伝子は、マーカーとして用いて予後予測のための遺伝子発現ベースの分析法に適用されてきた。代表的に、オンコタイプ(Oncotype)DX、MammaPrint、PAM50、Endopredictなどの製品は、凍結又はホルマリン固定されたパラフィン包埋(FFPE)サンプルにおいて増殖遺伝子を対象とした複合遺伝子発現プロファイリング技法に基づいた商業的な分析方法である。しかし、これらの商用のキットは、それぞれがターゲットとする乳癌の亜型が制限されており、乳癌分子の各亜型にあまねく使用されにくいという限界点を有する。前記オンコタイプDX、MammaPrint、PAM50、Endopredictキットは、ER+類型の乳癌を主要なターゲットとする。これらの商業的キットから確認できるように、これらは、ホルモン受容体陽性である乳癌の亜型に対してのみ予後予測が可能であり、ホルモン受容体陰性である乳癌の亜型に対する商業的キットは未だに存在していない実情である。
【0007】
現在の状況を勘案したとき、患者の生存結果及び補助化学療法に対する反応をより正確に予測するためには、乳癌の予後予測に使用される既存の分析法の改善が要求されており、多様な乳癌の類型にあまねく適用可能な予後分析方法が必要な実情である。
【0008】
最近は、液体生検(Liquid biopsy)技術に基づいて、細胞の怪死(necrosis)、細胞の自殺(apoptosis)、分泌(secretion)によって血漿内に存在する無細胞DNA(cfDNA;cell-free DNA)を用いて染色体異常を検出しようとする研究が進められている。特に、腫瘍細胞から由来した血中無細胞DNAは、正常細胞で現れない腫瘍特異的な染色体異常及び突然変異を含んでおり、半減期が2時間程度に短いので、腫瘍の現在の状態を反映するという長所を有する。また、非侵襲的且つ反復的に採取が可能であるので、血中無細胞DNAは、癌の診断、モニタリング及び予後観測などの癌と関連した多様な分野で腫瘍特異的なバイオマーカーとして脚光を浴びている。
【0009】
分子診断技術の発展に伴い、デジタル核型解析(Digital Karyotyping)、PARE分析、NGSなどを通じて癌患者の血中無細胞DNAで腫瘍特異的な染色体異常の検出が可能であるという研究と共に、これを臨床的に確認した研究結果が発表されたことがある(Leary RJ et al.,Sci Transl Med.Vol.4,Issue 162.2012)。Daniel G.Stoverは、転移性TNBC(Triple-Negative Breast Cancer)患者164人を対象にして、cfDNAを通じて組織特異的CNAを分析したことがある(Stover DG.et al.,J Clin Oncol.Vol.36(6):543-553)。その結果、NOTCH2、AKT2、AKT3のような特定遺伝子のコピー数増加(copy number gain)が転移性TNBCで原発性TNBCに比べて高く現れており、18q11と19p13染色体の重複を有する転移性TNBC患者の生存率が統計的に有意に低いことを確認したことがある。
【0010】
このような技術背景下で、本発明者等は、血中無細胞DNAベースの乳癌の予後予測方法を開発するために鋭意努力した結果、抗癌治療前に取得した血液サンプルの血中無細胞DNAで染色体領域の正規化校正及び回帰分析を行い、その結果を癌治療後の映像イメージ判読情報と統合して分析する場合、高い敏感度で乳癌患者の予後を予測できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、無細胞DNA(Cell Free DNA、cfDNA)ベースの乳癌の予後予測方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、乳癌の予後を予測する装置を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記方法で乳癌の予後を予測するプロセッサによって実行されるように構成される命令を含むコンピューター判読可能な媒体を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記方法を含む乳癌の予後判断のための情報の提供方法を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記方法を含む乳癌の予後判断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明は、a)抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を獲得する段階;b)前記配列情報(reads)を参照集団の標準染色体配列データベース(reference genome database)に整列(alignment)する段階;c)前記整列された配列情報(reads)に対して品質を確認し、基準値(cut-off value)以上である配列情報のみを選別する段階;d)前記標準染色体を一定の区間(bin)に分け、前記選別された配列情報(reads)に対して、各区間の量を確認して正規化する段階;e)参照集団の正規化された各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記d)段階で正規化した値の間のZ点数を計算する段階;f)前記Z点数(Z score)を用いて染色体を区分し、I点数を計算する段階;g)抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得する段階;及びh)前記計算されたI点数(I-score)が基準値(cut-off value)以上で、乳房組織イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する段階;を含む、無細胞DNA(cell free DNA、cfDNA)ベースの乳癌の予後予測方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を解読する解読部;解読された配列を参照集団の標準染色体配列データベースに整列する整列部;整列された配列情報(reads)に対して基準値(cut-off value)以上であるサンプルの配列情報のみを選別する品質管理部;選別された配列情報(reads)に対して、参照集団サンプルと比較してZ点数(Z score)を計算した後、これに基づいてI点数(I-score)を計算するI点数計算部;抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得するイメージ判読情報受信部;及びI点数が基準値(cut-off value)以上で、イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する決定部;を含むcfDNAベースの乳癌の予後予測装置を提供する。
【0018】
また、本発明は、コンピューター判読可能な媒体として、乳癌の予後を予測するプロセッサによって実行されるように構成される命令を含み、a)抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を獲得する段階;b)前記配列情報(reads)を参照集団の標準染色体配列データベース(reference genome database)に整列する段階;c)前記整列された配列情報(reads)に対して品質を確認し、基準値(cut-off value)以上の配列情報のみを選別する段階;d)前記標準染色体を一定の区間(bin)に分け、前記選別された配列情報(reads)に対して、各区間の量を確認して正規化する段階;e)参照集団の正規化された各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記d)段階で正規化した値の間のZ点数を計算する段階;f)前記Z点数(Z score)を用いて染色体を区分し、I点数を計算する段階;g)抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得する段階;及びh)前記計算されたI点数(I-score)が基準値(cut-off value)以上で、乳房組織イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する段階;
を含むプロセッサによって実行されるように構成される命令を含むコンピューター判読可能な媒体を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記方法を含む乳癌の予後判断のための情報の提供方法を提供する。
また、本発明は、前記方法を含む乳癌の予後判断方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のcfDNAベースの乳癌の予後予測のための全体フローチャートである。
【
図2】リードデータ(read data)のQC(品質管理、quality control)過程中の、LOESSアルゴリズムによるGC校正前後のシーケンシングリード数の補正結果を図式化したものである。
【
図3】本発明の方法による乳癌の進行及び生存有無の予測に対するカプランマイヤー(Kaplan Meier)分析結果であり、(A)は探索群、(B)は検証群での結果である。
【
図4】本発明の方法による乳癌の進行及び生存有無に対する危険度分析結果であり、(A)は探索群、(B)は検証群での結果である。
【
図5】本発明のI点数と病理学的完全奏効(pathological complete response、pCR)との関係をカプランマイヤー(Kaplan Meier)分析で確認した結果であり、(A)は探索群、(B)は検証群での結果である。
【
図6】本発明のI点数とpCRを細分化したグループ別の乳癌患者の生存有無に対する予後予測結果である。
【
図7】本発明のI点数とpCRを細分化したグループ別の乳癌患者の生存有無に対する予後予測における危険度評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
他の方式で定義されない限り、本明細書で使用された全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用された命名法及び以下で記述する実験方法は、本技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0022】
「第1」、「第2」、「A」、「B」などの用語は、多様な構成要素を説明するのに使用され得るが、該当の各構成要素は、前記各用語によって限定されるものではなく、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ使用される。例えば、以下で説明する技術の権利範囲を逸脱しない範囲で、第1構成要素は第2構成要素と命名されてもよく、これと同様に、第2構成要素は第1構成要素と命名されてもよい。「及び/又は」という用語は、複数の関連した記載項目の組み合わせ又は複数の関連した記載項目のうちいずれかの項目を含む。
【0023】
本明細書で使用される用語において、単数の表現は、文脈上、明らかに異なる意味で解釈しない限り、複数の表現を含むものと理解しなければならなく、「含む」などの用語は、説示された特徴、個数、段階、動作、構成要素、部分品又はこれらの組み合わせが存在することを意味するものであって、一つ又はそれ以上の他の特徴、個数、段階、動作、構成要素、部分品又はこれらの組み合わせの存在又は付加可能性を排除しないものと理解しなければならない。
【0024】
図面に対して詳細に説明する前に、本明細書での各構成部に対する区分は、各構成部が担当する主な機能別に区分したものに過ぎないことを明らかにする。すなわち、以下で説明する2個以上の構成部が一つの構成部に合わされたり、又は一つの構成部がより細分化された機能別に2個以上に分化されて備えられてもよい。そして、以下で説明する構成部のそれぞれは、自身が担当する主な機能以外にも、他の構成部が担当する機能のうち一部又は全部の機能を追加的に行うこともでき、構成部のそれぞれが担当する主な機能のうち一部の機能が、他の構成部によって専担されて行われることも可能であることは当然である。
【0025】
また、方法又は動作方法を行うにおいて、前記方法をなす各過程は、文脈上、明らかに特定の順序を記載しない以上、明記された順序と異なる順序で起こり得る。すなわち、各過程は、明記された順序と同一に起こってもよく、実質的に同時に行われてもよく、反対の順序で行われてもよい。
【0026】
本発明では、乳癌患者のサンプルから獲得した配列分析データを正規化し、基準値に基づいて整理した後、一定の区間(bin)に分け、各区間(bin)別のリード量を正規化した後、参照集団サンプルとのZ点数(Z score)を計算し、導出されたZ点数(Z score)をベースにして染色体を再度分けた後(segmentation)、これに基づいてI点数(I-score)を計算し、I点数(I-score)が基準値以上であると悪い予後を示し、基準値未満であると良い予後を示すと判断できることを確認した。具体的には、I点数の基準値と病理学的完全奏効(pathological complete response、pCR)の有無によって乳癌による死亡又は進行に対する危険群を分類して確認することができる。より具体的には、I点数が基準値以上で、イメージ判読情報が陰性である場合は、中等度危険群として分類し、I点数が基準値未満で、イメージ判読情報が陽性である場合は、高度危険群として分類し、I点数が基準値以上で、イメージ判読情報が陽性である場合は、超高度危険群として分類できることを確認した。
【0027】
すなわち、本発明の一実施例では、正常人20人と抗癌治療前の乳癌患者456人の血液から抽出したDNAをシーケンシングした後、LOESSアルゴリズムを用いて品質を管理し、染色体を一定の区間(bin)に区分し、各区間別にマッチングされるリード量をGC比率で正規化した後、正常人のサンプルで各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記正規化した値とのZ点数(Z score)を計算し、これに基づいてZ点数(Z score)が急変する染色体領域を再度分けた後(segmentation)、これを用いてI点数(I-score)を計算し、抗癌治療後の乳癌患者のpCR情報を共に分析し、I点数(I-score)が7.81以上で、pCRでない場合は、乳癌患者の予後が悪いと判定する方法を開発した(
図1)。
【0028】
本発明において、「リード(reads)」という用語は、当業界に知られている多様な方法を用いて配列情報を分析した一つの核酸断片を意味する。よって、本明細書において、「配列情報」及び「リード」という用語は、シーケンシング過程を通じて配列情報を取得した結果物である点で同一の意味を有する。
【0029】
本発明において、「予後予測」という用語、「予後」と同じ意味で使用されるが、疾患の経過及び結果を予め予測する行為を意味する。より具体的には、予後予測とは、疾患の治療後の経過が患者の生理的又は環境的状態によって変わり得るので、このような患者の状態を総合的に考慮した上で、治療後の病気の経過を予測する全ての行為を意味すると解釈され得る。
【0030】
本発明の目的上、前記予後予測は、乳癌の治療後、疾患の経過を予め予想し、癌の進行、癌の再発及び/又は癌の転移の危険度を予測する行為であると解釈され得る。例えば、「良い予後」という用語は、乳癌治療後、患者の癌の進行、癌の再発及び/又は癌の転移の危険度が1より低い値を示し、乳癌患者が生存する可能性が高いことを意味し、他の意味では「肯定的予後」とも表現される。「悪い予後」という用語は、乳癌治療後、患者の癌の進行、癌の再発及び/又は癌の転移の危険度が1より高い値を示し、乳癌患者が死亡する可能性が高いことを意味し、他の意味では「否定的予後」とも表現される。
【0031】
本発明において、「危険度」という用語は、乳癌の治療後、患者に癌の進行、再発及び/又は癌の転移などが現れる確率に対するオッズ比、危険比などを意味する。
【0032】
したがって、本発明は、一観点において、
a)抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を獲得する段階;
b)前記配列情報(reads)を参照集団の標準染色体配列データベース(reference genome database)に整列する段階;
c)前記整列された配列情報(reads)に対して品質を確認し、基準値(cut-off value)以上である配列情報のみを選別する段階;
d)前記標準染色体を一定の区間(bin)に分け、前記選別された配列情報(reads)に対して、各区間の量を確認して正規化する段階;
e)参照集団の正規化された各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記d)段階で正規化した値の間のZ点数を計算する段階;
f)前記Z点数(Z score)を用いて染色体を区分し、I点数を計算する段階;
g)抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得する段階;及び
h)前記計算されたI点数(I-score)が基準値(cut-off value)以上で、乳房組織イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する段階;を含む無細胞DNA(cell free DNA、cfDNA)ベースの乳癌の予後予測方法に関する。
【0033】
本発明において、抗癌治療は、癌を治療できる方法であればいずれも制限なく利用可能であり、好ましくは、先行療法(neoadjuvant therapy)、先行化学療法(neoadjuvant chemotherapy)、補助抗癌化学療法、手術治療、及び放射線治療で構成された群から選ばれ得るが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明において、
前記a)段階は、
(a-i)採取された無細胞DNAから塩析方法(salting-out method)、カラムクロマトグラフィー方法(column chromatography method)、又はビード方法(beads method)を用いてタンパク質、脂肪、及びその他の残余物を除去し、精製された核酸を取得する段階;
(a-ii)前記精製された核酸に対して、シングル-エンドシーケンシング(single-end sequencing)又はペア-エンドシーケンシング(pair-end sequencing)ライブラリー(library)を製作する段階;
(a-iii)前記製作されたライブラリーを次世代遺伝子配列検査機(next-generation sequencer)に反応させる段階;及び
(a-iv)前記次世代遺伝子配列検査機で核酸の配列情報(reads)を獲得する段階;を含む方法で行われることを特徴とし得る。
【0035】
本発明において、前記(a-i)段階と前記(a-ii)段階との間に、前記(a-i)段階で精製された核酸を、酵素的切断、粉砕又はハイドロシェア方法(hydroshear method)で無作為断片化(random fragmentation)し、シングル-エンドシーケンシング又はペア-エンドシーケンシングライブラリーを製作する段階をさらに含む方法で行われることを特徴とし得る。
【0036】
本発明において、前記a)段階の配列情報を獲得する段階は、分離された無細胞DNAを0.01乃至100リードの深さで全長遺伝体シーケンシングを通じて獲得することを特徴とし得る。
【0037】
本発明において、前記次世代遺伝子配列検査機(next-generation sequencer)は、これに制限されないが、イルミナ株式会社のハイセック(Hiseq)システム、イルミナ株式会社のマイセック(Miseq)システム、イルミナ株式会社のゲノム分析機(GA)システム、ロシュ株式会社(Roche Company)の454 FLX、アプライドバイオシステムズ株式会社のSOLiDシステム、ライフテクノロジーズ株式会社のイオントレントシステムであり得る。
【0038】
本発明において、前記生体試料は、個体から得られたり、個体から由来した任意の物質、生物学的体液、組織又は細胞を意味するものであって、例えば、全血(whole blood)、白血球(leukocytes)、末梢血液単核細胞(peripheral blood mononuclear cells)、白血球軟層(buffy coat)、血漿(plasma)及び血清(serum)を含む血液、喀痰(sputum)、涙(tears)、粘液(mucus)、洗鼻液(nasal washes)、鼻腔吸引物(nasal aspirate)、呼吸(breath)、小便(urine)、精液(semen)、唾(saliva)、腹腔洗浄液(peritoneal washings)、骨盤内流体液(pelvic fluids)、嚢胞液(cystic fluid)、脳脊髄膜液(meningeal fluid)、羊水(amniotic fluid)、腺液(glandular fluid)、膵液(pancreatic fluid)、リンパ液(lymph fluid)、胸水(pleural fluid)、乳頭吸引物(nipple aspirate)、気管支吸引物(bronchial aspirate)、滑液(synovial fluid)、関節吸引物(joint aspirate)、機関分泌物(organ secretions)、細胞(cell)、細胞抽出物(cell extract)、精液、毛髪、唾液、小便、口腔細胞、胎盤細胞、脳脊髄液(cerebrospinal fluid)及びその混合物を含み得るが、これに制限されるものではない。
【0039】
本発明において、「参照集団」という用語は、標準塩基配列データベースのように比較可能な基準(reference)集団であり、現在、特定疾患又は病症がない人の集団を意味する。本発明において、前記参照集団の標準染色体配列データベースにおける標準塩基配列は、NCBIなどの公共保健機関に登録されている参照染色体であり得る。
【0040】
本発明において、前記整列段階は、これに制限されないが、BWAアルゴリズム及びHg19配列を用いて行われるものであり得る。
【0041】
本発明において、前記BWAアルゴリズムには、BWA-ALN、BWA-SW又はBowtie2などが含まれ得るが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明において、前記c)段階において、前記整列された配列情報に対して品質を確認することは、整列一致度点数(Mapping Quality Score)指標を用いて実際のシーケンシングリードが参照染色体配列とどれほど一致するのかを確認することを意味する。
【0043】
本発明において、前記c)段階は、
(c-i)整列された各核酸配列の領域を特定する段階;及び
(c-ii)前記領域内で整列一致度点数(mapping quality score)とGC比率の基準値を満足する配列を選別する段階;を含んで行われることを特徴とし得る。
【0044】
本発明において、前記(c-i)段階の核酸配列の領域を特定する段階において、核酸配列の領域は、これに制限されないが、20kb~1MBであり得る。
【0045】
本発明において、前記(c-ii)段階において、前記基準値は、前記整列一致度点数(mapping quality score)が所望の基準によって変わり得るが、具体的には、15乃至70、より具体的には30乃至65、最も具体的には60であり得る。前記(c-ii)段階において、前記GC比率が所望の基準によって変わり得るが、具体的には20%乃至70%、より具体的には30%乃至60%であることを特徴とし得る。
【0046】
本発明において、前記c)段階は、染色体の中心体又は末端体のデータを除いて行われることを特徴とし得る。
【0047】
本発明において、「中心体」という用語は、各染色体長腕(q arm)の開始点から1Mb内外であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明において、「末端体」という用語は、各染色体短腕(p arm)の開始点から1Mb内外以内、又は長腕(q arm)の終了点から1Mb以内であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明において、前記d)段階は、
(d-i)標準染色体を一定の区間(bin)に分ける段階;
(d-ii)前記区間別に整列されたリードの個数及び各リードのGC量を算出する段階;
(d-iii)前記リードの個数及びGC量に基づいて回帰分析を実施し、回帰係数を算出する段階;及び
(d-iv)前記回帰係数を用いてリードの個数を正規化する段階;を含んで行われることを特徴とし得る。
【0050】
本発明において、(d-i)での一定の区間(bin)は、具体的には100kb乃至2000kbであり得る。
【0051】
本発明において、前記(d-i)段階の核酸配列の領域を特定する段階において、一定の区間(bin)は、これに制限されないが、100kb乃至2MB、具体的には500kb乃至1500kb、より具体的には600kb乃至1600kb、さらに具体的には800kb乃至1200kb、最も具体的には900kb乃至1100kbであり得る。
【0052】
本発明において、前記(iii)段階の回帰分析は、回帰係数を算出できる回帰分析方法であればいずれも利用可能であり、具体的には、LOESS分析であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明において、前記e)段階のZ点数(Z score)を計算する段階は、特定領域(bin)別のシーケンシングリード値を標準化することを特徴とすることができ、具体的には、下記の数式1で計算することを特徴とし得る。
【数1】
【0054】
本発明において、前記(f)段階は、
(f-i)各区間別のZ点数(Z score)をベースにしてCBS方法(Circular Binary segmentation method)で染色体領域を区分する段階;
(f-ii)区分された各染色体領域(segment)別のZ点数(Segment Z score)を、領域に含まれた区間(bin)別に計算されたZ点数の平均として計算する段階;
(f-iii)各区間(bin)に対して局所回帰分析(LOESS)を行い、平滑化された(smoothed)Z点数(Zn)を計算する段階;
(このとき、n∈{1,…,N}で、N=全体binの個数である。)
(f-iv)数式2でノイズと関連したn_scoreを計算する段階;及び
【数2】
(このとき、
【数3】
であり、これは、i)段階で計算したbin別のZ点数を意味する。)
(f-v)下記数式3でI点数を計算する段階;
【数4】
(このとき、
【数5】
であり、これは、i)段階で計算した、segment別のZ点数を意味する。)
を含む方法で行われることを特徴とし得る。
【0055】
本発明において、CBSアルゴリズムは、前記段階で計算されたZ点数の変化が発生する地点を検出する方法を意味する。
【0056】
すなわち、染色体のZ点数の変化が開始される任意の地点をi、終了する任意の地点をj、全体領域の長さをN、rを各核酸配列(特定bin区間)のbin値、sを各bin値の標準偏差と仮定すると、1<=i<j<=Nの条件下で下記の数式を満足する。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0057】
ここで、(ic,jc)は、Z点数の変化が実際に起こった位置を意味し、maxは最大値、argは偏角を意味する。
【0058】
本発明において、前記I点数の基準値は、予後予測を行える値であれば制限なく使用可能であり、好ましくは5乃至10であることを特徴とすることができ、最も好ましくは7.81であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0059】
本発明において、前記乳房組織イメージは、抗癌治療後、癌細胞の存在有無を確認できるイメージであれば制限なく利用可能であり、好ましくは、乳房組織イメージは、磁気共鳴映像(magnetic resonance imaging、MRI)イメージ、乳房組織サンプル組織化学染色イメージ、超音波イメージ、X線イメージ又は乳房組織サンプル組織蛍光染色イメージであってもよく、さらに好ましくは、乳房組織サンプル組織化学染色イメージ及び乳房組織サンプル組織蛍光染色イメージで構成された群から選ばれることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0060】
本発明において、前記乳房組織イメージ判読情報が陽性であることは、イメージで癌細胞が確認されることを意味し、陰性であることは、イメージで癌細胞が確認されないことを意味する。
【0061】
本発明において、前記乳房組織イメージ判読情報は、病理学的完全奏効を判断する指標として使用され得る。病理学的完全奏効は、乳癌患者が先行療法及び手術を受けたとき、乳房浸潤性癌がない状態と定義される。
【0062】
本発明において、前記方法は、I点数が基準値以上で、イメージ判読情報が陰性である場合は、中等度危険群として分類し、I点数が基準値未満で、イメージ判読情報が陽性である場合は、高度危険群として分類し、I点数が基準値以上で、イメージ判読情報が陽性である場合は、超高度危険群として分類する段階をさらに含むことを特徴とし得る。
【0063】
本発明は、他の観点において、抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を解読する解読部;
解読された配列を参照集団の標準染色体配列データベースに整列する整列部;
整列された配列情報(reads)に対して基準値(cut-off value)以上のサンプルの配列情報のみを選別する品質管理部;
選別された配列情報(reads)に対して、参照集団サンプルと比較してZ点数(Z score)を計算した後、これに基づいてI点数(I-score)を計算するI点数計算部;
抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得するイメージ判読情報受信部;及び
I点数が基準値(cut-off value)以上で、イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いと判定する決定部;を含むcfDNAベースの乳癌の予後予測装置に関する。
【0064】
本発明において、前記解読部は、独立した装置から抽出された核酸を注入する核酸注入部;及び注入された核酸の配列情報を分析する配列情報分析部;を含むことができ、好ましくはNGS分析装置であり得るが、これに限定されるものではない。
【0065】
本発明において、前記解読部は、独立した装置で生成された配列情報データを受信して解読することを特徴とし得る。
【0066】
本発明において、前記イメージ判読情報受信部は、独立した装置で生成されたイメージ判読情報を受信することを特徴とし得る。
【0067】
本発明は、さらに他の観点において、乳癌の予後を予測するプロセッサによって実行されるように構成される命令を含み、
a)抗癌治療前の生体試料から分離された無細胞DNAの配列情報を獲得する段階;b)前記配列情報(reads)を参照集団の標準染色体配列データベース(reference genome database)に整列する段階;c)前記整列された配列情報(reads)に対して品質を確認し、基準値(cut-off value)以上の配列情報のみを選別する段階;d)前記標準染色体を一定の区間(bin)に分け、前記選別された配列情報(reads)に対して、各区間の量を確認して正規化する段階;e)参照集団の正規化された各区間(bin)にマッチングされるリードの平均と標準偏差を求めた後、前記d)段階で正規化した値の間のZ点数を計算する段階;f)前記Z点数(Z score)を用いて染色体を区分し、I点数を計算する段階;g)抗癌治療後の乳房組織イメージ判読情報を取得する段階;及びh)前記計算されたI点数(I-score)が基準値(cut-off value)以上で、乳房組織イメージ判読情報が陽性である場合、乳癌の予後が悪いことで判定する段階;
を含むプロセッサによって実行されるように構成される命令を含むコンピューター判読可能な媒体に関する。
【0068】
本発明は、さらに他の観点において、前記方法を含む乳癌の予後判断のための情報の提供方法に関する。
【0069】
本発明において、前記乳癌は、乳房で発生する全ての種類の癌を制限なく含み、より具体的には、乳管上皮内癌、消炎上皮内癌、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性乳管癌及び非浸潤性小葉癌を含むが、これに限定されるものではない。
【0070】
本発明の「予後(prognosis)」という用語は、癌の進行、癌の再発及び/又は癌の転移可能性の予測を意味する。本発明の前記予測方法は、任意の特定患者に対する最も適切な治療方法を選択することであり、臨床的に治療決定を下すために使用され得る。本発明の前記予測方法は、患者の癌の進行、癌の再発及び/又は癌の転移が発生する可能性が高いかどうかを判断することに対する診断及び/又は診断を補助する価値のある道具である。
【0071】
他の様態において、本願に係る方法は、コンピューターを用いて具現され得る。一具現例において、コンピューターは、チップセットに連結された一つ以上のプロセッサを含む。また、チップセットには、メモリ、記憶装置、キーボード、グラフィックアダプタ(Graphics Adapter)、ポインティング装置(Pointing Device)及びネットワークアダプタ(Network Adapter)などが連結されている。一具現例において、前記チップセットの性能は、メモリコントローラーハブ(Memory Controller Hub)及びI/Oコントローラーハブによって獲得可能である。他の具現例において、前記メモリは、チップセットの代わりにプロセッサに直接連結されて使用され得る。記憶装置は、ハードドライブ、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD又はその他のメモリ装置を含むデータを維持できる任意の装置である。メモリは、プロセッサによって使用されたデータ及び命令に関与する。前記ポインティングデバイスは、マウス、トラックボール(Track Ball)又は他の類型のポインティングデバイスであってもよく、キーボードと組み合わせ、入力データをコンピューターシステムで伝送するのに使用される。前記グラフィックアダプタは、ディスプレイ上でイメージ及び他の情報を示す。前記ネットワークアダプタは、近距離又は長距離通信網でコンピューターシステムと連結される。しかし、本願に使用されるコンピューターは、上記のような構成に制限されるものではなく、一部の構成がないか、追加の構成を含むことができ、また、記憶装置領域ネットワーク(Storage Area Network、SAN)の一部であり得る。本願のコンピューターは、本願による方法を行うためのプログラムにおいてモジュールの実行に適するように構成され得る。
【0072】
本願において、モジュールとは、本願による技術的思想を行うためのハードウェアと、前記ハードウェアを駆動するためのソフトウェアとの機能的及び構造的結合を意味し得る。例えば、前記モジュールは、所定のコードと前記所定のコードが行われるためのハードウェアリソース(Resource)の論理的な単位を意味することができ、必ずしも物理的に連結されたコードを意味したり、一種類のハードウェアを意味するものではないことは本願の技術分野の当業者にとって自明である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎなく、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものとして解釈されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0074】
実施例1.乳癌患者及び正常人でのI点数計算
【0075】
I点数は、大韓民国特許第10-2019-0019315号に記載の方法を用いて計算した。
【0076】
より具体的には、PEARLY臨床試験(NCT02441933)に参加して抗癌治療(neoadjuvant therapy)を受け、手術を進行した456人の乳癌患者の抗癌治療前の血漿検体と20人の正常人の血漿検体から無細胞DNAを抽出し、全長染色体に対するライブラリーを製造した。無細胞DNAの抽出は、次のような順序で行った。1)EDTAチューブで採血した後、4時間以内に1600gで10分、3000gで10分間順次に遠心分離し、上澄液(血漿)を分離し;2)分離された血漿中の0.6mlを用いて血漿循環(plasma circulating)DNAキット(Tiangen、China)で無細胞DNAを抽出し;3)最終的に抽出された無細胞DNAをQubit 2.0フルオロメーター(Fluorometer)に反応させ、濃度(ng/μl)を測定する。;ライブラリーの製造は、MGIEasey無細胞(Cell-free)DNAライブラリープレップキット(library Prep Kit)(MGI、China)をベースにして行い、合計2ng~6ngの無細胞DNAを反応に使用した。
【0077】
完成したライブラリーは、DNBSEQ-G400シーケンシング(sequencing)装備(MGI)で塩基配列分析を行い、1サンプル当たりに平均17millionリード(read)の配列情報データを生産した。
【0078】
次世代塩基配列分析(NGS)装備でBclファイル(塩基配列情報を含む)をfastq形式に変換した後、fastqファイルのライブラリー配列を、BWA-memアルゴリズムを用いて参照染色体Hg19配列を基準にして整列した。整列一致度点数(Mapping quality score)が60を満足することを確認した。
【0079】
GC量によって各染色体座位区間(bin)のシーケンシングリード数の分布が偏向されることを確認し(
図2)、回帰分析を用いて染色体別のGC比率によって整列されたライブラリー配列の数字を校正した。
【0080】
その後、下記の数式1でZ点数(Z score)を計算した。
【数1】
【0081】
I点数を計算するために、計算されたbin別のZ点数をデータとして使用し、CBSアルゴズムで染色体を分割(Segmentation)する過程が先行された。
【0082】
その後、下記の段階を通じてI点数を計算した。
【0083】
i)分割された各染色体領域(segment)別のZ点数を、領域に含まれた区間(bin)別に計算されたZ点数の平均として計算する段階;
ii)各区間(bin)に対して局所回帰分析(LOESS)を行い、平滑化された(smoothed)Z点数(Zn)を計算する段階;(このとき、n∈{1,…,N}で、N=全体のbinの個数である。)
iii)数式2でノイズと関連したn_scoreを計算する段階;及び
【数2】
(このとき、
【数3】
であり、これは、i)段階で計算したbin別のZ点数を意味する。)
iv)下記数式3でI点数を計算する段階。
【数4】
(このとき、
【数5】
であり、これは、i)段階で計算した、segment別のZ点数を意味する。)
【0084】
実施例2.I点数が乳癌の進行及び生存に及ぼす影響確認
【0085】
実施例1の乳癌患者を232人の探索群(exploratory group)と233人の検証群(validation group)に分けた後、探索群でI点数と無疾病生存率(DFS、disease-free survival)との連関性を単変量(univariate)Cox回帰(regression)及び最大ログランク検定(maximal log-rank test)で分析した結果、I点数が7.81以上であるグループでのDFSが著しく減少することを確認し、疾病の無増悪期間に対する危険比(Hazard Ratio、HR)が増加することを確認した(
図3A及び
図4A)。併せて、同一の結果を検証群でも確認できた(
図3B及び
図4B)。
【0086】
【表1】
Abbreviations:IQR、interquartile range;SD、standard deviation;pCR、pathologic complete response;CNA、copy number aberration
*calculated by t-test
**calculated Fisher’s exact test
【0087】
実施例3.I点数とpCRとの関係確認
【0088】
乳癌の予後予測の強力な因子である病理学的完全奏効(pathological complete response)の有無とI点数との関係を多変量(multivariate)Cox解析で確認した結果、
図5に記載したように、探索群では、pCRの有無と関係なく、I点数が基準値以上であるとDFSが減少することを確認した。
【0089】
また、pCRとI点数がそれぞれ独立的な予後予測因子として作動するので、これらの二つを組み合わせて4個のグループに分離する場合、さらに細分化された予後予測が可能であることを確認した(
図6及び
図7)。
【0090】
4個のグループは、
(1)I点数が基準値以上で、pCRでないグループ
(2)I点数が基準値以上で、pCRがあるグループ
(3)I点数が基準値未満で、pCRでないグループ、及び
(4)I点数が基準値未満で、pCRがあるグループ
であり、
図6及び
図7に記載したように、1番のグループの予後が最も悪く、4番のグループの予後が最も良いことを確認した。
【0091】
以上では、本発明の内容の特定部分を詳細に記述したが、当業界で通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は好ましい実施様態に過ぎなく、これによって本発明の範囲が制限されないことは明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義されると言えるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る乳癌の予後予測方法は、次世代塩基配列分析技法(Next Generation Sequencing、NGS)を用いて乳癌患者の予後予測正確度を高めるだけでなく、検出しにくかった非常に低い濃度の無細胞DNAに基づく予後予測正確度を高め、商業的活用度を高めることができる。したがって、本発明の方法は、乳癌患者の予後判断に有用である。
【国際調査報告】