(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-25
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
C04B 28/10 20060101AFI20241218BHJP
C04B 28/30 20060101ALI20241218BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20241218BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20241218BHJP
B28B 23/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C04B28/10
C04B28/30
C04B14/38 A
C04B14/42 Z
C04B14/42 B
B28B23/02 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024536149
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2021086164
(87)【国際公開番号】W WO2023110102
(87)【国際公開日】2023-06-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524226966
【氏名又は名称】オリメント アール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【住所又は居所原語表記】Gemeinschaftsstrasse 6, 04571 Rotha OT Espenhain, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100173691
【氏名又は名称】高橋 康久
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ベルマン, フランク
(72)【発明者】
【氏名】ルドウィグ, ホルスト-マイケル
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA17
4G112PA20
(57)【要約】
本発明は、MgOおよび/またはオリビン系バインダーのセメント硬化体と、耐荷重力を高めるための補強要素とを含む複合材料に関する。補強要素は、11未満のpH値に耐性がある、および/または11未満のpH値に対する保護部を有する。追加的にまたは代替的に、セメント硬化体の細孔溶液のpH値を上昇させるための薬剤が、セメント硬化体のMgOおよび/またはオリビン系バインダーに添加される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgOおよび/またはオリビン系バインダーから構成されるセメント硬化体であって、出発材料として、天然または人工のオリビン源の形態、および/または強化された蛇紋岩の形態のフォルステライト源を含む前記セメント硬化体と、
耐荷重性を高めるための補強要素と、を含み、
前記補強要素は、
11未満のpH値に耐性がある、
11未満のpH値に対する保護部を有する、および/または
前記セメント硬化体の細孔溶液のpH値を、11以上のpH値に上昇させるための薬剤が、前記セメント硬化体の前記MgOおよび/または前記オリビン系バインダーに添加される、ことを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記セメント硬化体の前記細孔溶液は、11以下のpH値を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記MgOおよび/または前記オリビン系バインダーは、MgOおよびSiO
2、MgOおよびMgCO
3、MgOおよびガラス粉末、オリビンおよびSiO
2、オリビンおよびガラス粉末、オリビンおよびトラス、オリビンおよびポゾラン、強化された蛇紋岩およびSiO
2、強化された蛇紋岩およびガラス粉末、またはそれらの組合せを含む請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記補強要素は、炭素繊維および/またはガラス繊維を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記補強要素は、保護層なしで、11未満のpH値に耐えるように構成される請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記炭素繊維および/または前記ガラス繊維は、繊維補強材、メッシュ補強材、バー補強材および/または他の補強材の形態である請求項4または5に記載の複合材料。
【請求項7】
ポルトランドセメントクリンカーが、前記MgOおよび/または前記オリビン系バインダーに加えて、前記セメント硬化体に含められている請求項1~6のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項8】
前記補強要素は、鋼鉄補強材を含む請求項1~7のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項9】
前記補強要素は、11未満のpH値を有するアルカリ性環境に対して保護するための保護層を含む請求項1~8のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項10】
11未満のpH値を有するアルカリ性環境に対する保護のために、前記補強要素は、溶融亜鉛めっきされ、および/または、塗料またはワニスの層、特にプラスチック製の層を含む請求項1~9のいずれか一項に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体と補強要素とから構成される複合材料に関する。
【0002】
鉄筋コンクリートの使用は、現在の建設産業にとって不可欠である。鉄筋コンクリートでは、コンクリートが、圧縮応力を吸収する一方、鋼鉄補強インサートが、引張力を伝達する役割を果たす。同時に、コンクリートは、鋼鉄を腐食から保護する。この腐食保護は、コンクリートの細孔溶液中の非常に高いpH値に基づく。約11以上のpH値では、通常の補強鋼鉄は、錆びることはない。なぜなら、その表面上に非常に薄い不動態化層が形成され、これにより、鋼鉄表面を酸素および水の侵入に対して封止し、したがって腐食を防止するからである。DIN EN 197に準拠したセメントを用いて製造されたコンクリートの細孔溶液では12.5を超えるpH値が存在し、したがって、これらのセメントの使用は、鋼鉄補強材のための効果的な腐食保護を意味する。複合建材である鉄筋コンクリートは、低コストで高い性能および耐久性を提供し、これらの理由のためにしばしば使用される。しかしながら、補強鋼鉄の製造は、銑鉄および鋼鉄の製造中の高いCO2排出を含む、高い環境負荷を伴う。
【0003】
補強材の製造中における二酸化炭素の排出を低減するために、様々な代替材料が提案されている。これらには、特に、炭素繊維およびガラス繊維が含まれる。両方の材料は、非常に高い引張強度を有し、鉄筋コンクリートにおける引張力を伝達するために使用することもできる。別の利点は、両方の種類の繊維の耐腐食性である。炭素繊維およびガラス繊維の両方は、通常、水および/または酸素と反応しない。
【0004】
しかしながら、高いpH値は、炭素繊維および/またはガラス繊維の結合効果および耐久性に有害な影響を及ぼす可能性がある。この理由のため、DIN EN 197に準拠した標準的なセメントにおける使用は、これらのセメントが細孔溶液中で高いpH値を有するので、困難をもたらし得る。ガラス繊維では、このような高いpH値が繊維を溶解し、したがって繊維の強度を弱める。この理由から、アルカリに対する耐薬品性の高いタイプのガラスが、コンクリート建設における補強材として使用されるか、または、ガラスは、保護層を伴って、セメント硬化体の細孔溶液との直接接触から保護されなければならない。炭素繊維の場合、個々の炭素繊維を一緒に結合するプラスチックが、影響を受ける可能性がある。したがって、pH値が高いと、両方のタイプの補強材に損傷を与える可能性がある。
【0005】
DE 2409231 A1から、無機バインダー、例えばセメントを伴う鉱物繊維の使用が知られている。上記の課題を回避するために、CO2による追加処理によってpH値を低下させることが提案されている。
【0006】
さらに、酸化マグネシウムおよびリン酸アルミニウムをベースとするバインダーはUS 5,002,610から知られており、これは非常に迅速に硬化する。しかしながら、製造プロセスは極めて複雑であり、種々の構成要素の複数回の乾燥、粉砕、および再混合を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の基礎をなす目的は、補強要素として、炭素繊維、ガラス繊維、および鋼鉄補強材を含み得る複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、請求項1の特徴を有する複合材料によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
さらなる有利な実施形態は、従属請求項、さらなる説明、および例示的な実施形態において特定される。
【0010】
請求項1によれば、本発明による複合材料は、MgOおよび/またはオリビン系バインダーから構成されるセメント硬化体を含むことが規定される。オリビン系バインダーは、天然オリビン源もしくは人工オリビン源の形態、および/または強化された蛇紋岩の形態のフォルステライト源を出発材料として使用する。本発明の観点から、強化された蛇紋岩は、特に、少なくとも500°Cの温度へ加熱された蛇紋岩として理解される。用語「強化」の代わりに、用語「焼成」がしばしば使用される。
【0011】
さらに、本発明による複合材料は、耐荷重性を高めるための補強要素を含む。本発明によれば、これらの補強要素は、11未満のpH値に耐性がある、11未満のpH値に対する保護部を有する、および/または、セメント硬化体の細孔溶液のpH値を11以上のpH値に上昇させるための薬剤が、セメント硬化体のMgOおよび/またはオリビン系バインダーに添加される。言い換えれば、本発明によれば、上述の3つの条件のうちの少なくとも1つが提供される。
【0012】
本発明の基本的なアイデアは、比較的高いpH値を有する公知のポルトランドセメント系セメントからそれることにおいて見ることができる。本発明によれば、本発明に従って理解されるように、MgO-またはオリビン系バインダーで作られたセメント硬化体の細孔溶液は、通常、11未満のpH値を有することが認識される。これは、さらなる処理なしではpH値11超の媒体に対して安定ではない、ガラス繊維もしくは炭素繊維または両方の組合せから作られた補強要素を使用することを可能にする。
【0013】
他の補強要素が使用される場合、本発明によれば、本発明によるセメント硬化体の細孔溶液中に存在する11未満のpH値に対する保護部が、それらに提供される。
【0014】
これに代えて、またはこれに加えて、使用される補強材に応じて、他の薬剤をMgOおよび/またはオリビン系バインダーに添加して、細孔溶液のpH値を11より高いpH値に上昇させることができる。例えば、消石灰、生石灰、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ、CKD(セメントキルンダスト、セメント製造からのキルンダスト)をこの目的のために添加することができる。
【0015】
少なくとも、強化された蛇紋岩を出発製品に使用する場合、好ましくはまた、天然または人工のオリビン源を使用する場合、出発製品は、エーライトおよびビーライトを含むべきではない。エーライトおよびビーライトは、硬化障害を引き起こし得るからである。MgOおよび/またはオリビン系バインダーからのセメント硬化体の製造方法は、例えば、PCT/EP2021/061726に記載されている。
【0016】
セメント硬化体の細孔溶液のpH値が11以下であると有利である。これは、本発明によるセメント硬化体が、MgOおよび/またはオリビン系バインダーからなる場合に特に当てはまる。このように、ガラス繊維および/または炭素繊維で作られた補強要素と共に使用するために、セメント硬化体の基礎材にさらなる調整を行う必要はない。
【0017】
MgOまたはオリビン系バインダーが、MgOおよびSiO2、MgOおよびMgCO3、MgOおよびガラス粉末、オリビンおよびSiO2、オリビンおよびガラス粉末、オリビンおよびトラス、オリビンおよびポゾラン、強化された蛇紋岩およびSiO2、強化された蛇紋岩およびガラス粉末、および/または、それらを個々に、もしくはそれらの組合せを含む場合、有益である。これらの出発材料を使用することにより、ポルトランドセメントをベースとする混合物と比較して良好な強度を有し、なおかつ11以下のpHを有するセメント硬化体を製造することができる。
【0018】
トラスは、ケイ素化合物とアルミニウム化合物とから主としてなる天然のポゾランである。ポゾランは、二酸化ケイ素、アルミナ、石灰石、酸化鉄およびアルカリ性物質から作られる人工または天然の岩石であり、通常、熱の影響下で形成される。水酸化カルシウムおよび水と組み合わせられると、それらは結合することができる。
【0019】
原則として、本発明によれば、任意の補強要素を使用することができる。しかしながら、補強要素が、炭素繊維および/またはガラス繊維を含む場合、特に有利である。これらの繊維は、より軽量である一方で、製造中に生成されるCO2が著しく少ないという従来の鋼鉄補強材に勝る利点を提供する。
【0020】
補強要素は、保護層なしで、11未満のpH値に耐えるように構成されると有利である。これは、特に、炭素繊維および/またはガラス繊維で作られた補強要素で可能である。しかしながら、原則的に、このような低いpH値に対して保護層を適用することもできる。
【0021】
炭素繊維および/またはガラス繊維が、繊維補強材、メッシュ補強材、バー補強材、および他の補強材の形態である場合、さらに有利である。炭素繊維および/またはガラス繊維を使用する利点は、それらを任意の形状に形成し、次いで複合材料を製造するために使用することができることである。これは、予想される荷重に応じて、最適な形態の補強材を提供することができることを意味する。
【0022】
さらなる実施形態では、鋼鉄補強材が、本発明による複合材料中に、代替的にまたは追加的に存在してもよい。鋼鉄補強材を使用する場合、MgOおよび/またはオリビン系バインダーに加えて、特にポルトランドセメントクリンカーをセメント硬化体に添加することが好ましい。これは、低いpH値に起因する鋼鉄補強材の腐食が防止されるように、pH値を増加させるのに特に適している。さらに、ポルトランドセメントクリンカーは、pH値に影響を及ぼす他の物質に対する利点、すなわち、それ自体が強度に別個に寄与するという利点を有する。
【0023】
また、補強要素は、11未満のpH値を有するアルカリ性環境から保護するために、少なくとも1つの保護層を有していてもよい。この保護層は、例えば、塗料および/またはワニスを塗布することによって適用することができる。保護層は、プラスチックベースとすることができる。別の選択肢としては、鋼鉄補強材に溶融亜鉛めっきを適用することがある。
【0024】
本発明を検証するために、本発明による2つのバインダーの細孔溶液を、6ヶ月の水和の後により詳細に調べた。
【0025】
第1に、外来イオンを含まない純粋な合成フォルステライトからなるバインダーを分析した。第2のサンプルでは、純粋なフォルステライトの代わりに、2:1の比におけるフォルステライトとシリカガラスとの混合物を使用して、複合材料のセメント硬化体を製造した。
【0026】
半年間の水和後、第1のサンプルのpH値は9.5であったが、第2のサンプルのpH値は、8.2のあたりであった。
【0027】
したがって、オリビン群に属するフォルステライトの使用は、古典的なポルトランドセメントクリンカーから製造されるセメント硬化体と比較して、非常に低いpH値を有する複合材料用のバインダーを製造することを可能にする。この低いpH値に起因して、ガラス繊維補強材および/または炭素繊維補強材は、追加の前処理なしで最初から使用することができる。
【0028】
本発明による複合材料を使用することにより、製造中のCO2排出量が非常に大きい鋼鉄補強材の使用を省略することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO
系バインダーおよび/またはオリビン系バインダーから構成されるセメント硬化体であって、出発材料として、天然または人工のオリビン源の形態、および/または強化された蛇紋岩の形態のフォルステライト源を含む前記セメント硬化体と、
耐荷重性を高めるための補強要素と、を含み、
前記補強要素は、
11未満のpH値に耐性がある
炭素繊維および/またはガラス繊維を含む、および/または、
溶融浸漬された、および/または、塗料層もしくはワニス層を含む鋼鉄補強材を含み、これにより、11未満のpH値に対する保護部を有する、ことを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記セメント硬化体
の細孔溶液は、11以下のpH値を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記MgO
系バインダーおよび/または前記オリビン系バインダーは、MgOおよびSiO
2、MgOおよびMgCO
3、MgOおよびガラス粉末、オリビンおよびSiO
2、オリビンおよびガラス粉末、オリビンおよびトラス、オリビンおよびポゾラン、強化された蛇紋岩およびSiO
2、強化された蛇紋岩およびガラス粉末、またはそれらの組合せを含む請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記補強要素は、保護層なしで、11未満のpH値に耐えるように構成される請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記炭素繊維および/または前記ガラス繊維は、繊維補強材、メッシュ補強材、バー補強材および/または他の補強材の形態である請求項
1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
ポルトランドセメントクリンカー
を含むバインダーが、前記MgO
系バインダーおよび/または前記オリビン系バインダーに加えて、
製造用の前記セメント硬化体に含められている請求項1~
5のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
11未満のpH値を有するアルカリ性環境に対する保護のために、前記補強要素は、
前記塗料層または前記ワニス層として、プラスチック製の塗料またはワニスの層を含む請求項1~
6のいずれか一項に記載の複合材料。
【国際調査報告】