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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ペロブスカイト太陽電池と製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20241218BHJP
   H10K 30/88 20230101ALI20241218BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20241218BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20241218BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20241218BHJP
   H10K 71/40 20230101ALI20241218BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/88
H10K30/40
H10K85/50
H10K71/12
H10K71/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536255
(86)(22)【出願日】2021-12-31
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 CN2021143789
(87)【国際公開番号】W WO2023123394
(87)【国際公開日】2023-07-06
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】LEVEL 19, CHINA BUILDING, 29 QUEEN’S ROAD CENTRAL, CENTRAL, CENTRAL AND WESTERN DISTRICT, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【弁理士】
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】梁 ▲偉▼▲風▼
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 娟娟
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ ▲長▼松
(72)【発明者】
【氏名】▲塗▼ 保
(72)【発明者】
【氏名】郭 文明
(72)【発明者】
【氏名】郭 永▲勝▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 国▲棟▼
(72)【発明者】
【氏名】▲欒▼ 博
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
5F251AA11
5F251XA51
(57)【要約】
本発明は、少なくとも電極と、電子輸送層と、正孔輸送層と、ペロブスカイト層と、不動態化層とを含むペロブスカイト太陽電池を提供する。ここで、不動態化層には不動態化剤が含有され、不動態化剤は、アザ縮合二環式化合物及び/又はアザ縮合二環式化合物と酸から形成された有機塩を含み、アザ縮合二環式化合物の各縮合環は、独立して五員又は六員の飽和環、不飽和環又は芳香環であり、且つアザ縮合二環式化合物の縮合環は、1~5個の窒素原子を含み、上記縮合環は、置換基のない環、又は炭素原子数が1~3である1又は2個の置換基により置換されたものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト太陽電池であって、
少なくとも電極と、電子輸送層と、正孔輸送層と、ペロブスカイト層と、不動態化層と、任意選択的なベース層とを含み、前記不動態化層には不動態化剤が含有され、前記不動態化剤は、アザ縮合二環式化合物及び/又は前記アザ縮合二環式化合物と酸から形成された有機塩を含み、前記アザ縮合二環式化合物の各縮合環は、独立して五員又は六員の飽和環、不飽和環又は芳香環であり、且つ前記アザ縮合二環式化合物の縮合環は、1~5個の窒素原子を含み、
前記縮合環は、置換基のない環、又は炭素原子数が1~3である1又は2個の置換基により置換された環である、ことを特徴とするペロブスカイト太陽電池。
【請求項2】
前記アザ縮合二環式化合物は、プテリジン、1,5,7-トリアジドビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン、キナゾリン、キノリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、イミダゾ[1,2-a]ピリミジン、5,6,7,8-テトラヒドロインドリジン、1-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-ピロリジン及び2,4-ジメチルキノリンのうちの一種から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項3】
前記有機塩における酸イオンは、O、S、P、N、F、I、Br、Cl、C及びHを含む酸イオンのうちの一種から選択される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項4】
前記酸イオンは、酢酸、リン酸、硝酸、塩素酸、スルホン酸、硫酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸のうちの一種に由来する酸イオンから選択される、ことを特徴とする請求項3に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項5】
前記不動態化層は、前記不動態化剤を溶解した貧溶媒を前記ペロブスカイト層上に塗布して形成された層であり、
前記貧溶媒は、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、エチルエーテル、ベンゼン、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール、クロロホルム、酪酸メチル、アニソール、キシレン及びメシチレンのうちの少なくとも一種から選択される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項6】
前記ペロブスカイト層におけるペロブスカイトと、前記不動態化層における前記不動態化剤とのモル量の比は、100~800であり、200~600又は250~400であってもよい、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペロブスカイト太陽電池を含む、ことを特徴とする発電装置。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペロブスカイト太陽電池を含む、ことを特徴とする電力消費装置。
【請求項9】
ペロブスカイト太陽電池の製造方法であって、
ペロブスカイト層を担持する層上にペロブスカイト前駆体溶液を塗布してから、不動態化剤を含有する貧溶媒を直接塗布し、その後にアニーリングを行うステップを含み、
前記不動態化剤は、アザ縮合二環式化合物又は前記アザ縮合二環式化合物と酸から形成された有機塩を含み、
前記アザ縮合二環式化合物の各縮合環は、独立して五員又は六員の飽和環、不飽和環又は芳香環であり、且つ前記アザ縮合二環式化合物の縮合環は、1~5個の窒素原子を含み、
前記縮合環は、置換基のない環、又は炭素原子数が1~3である1又は2個の置換基により置換された環である、ことを特徴とするペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記アザ縮合二環式化合物は、プテリジン、1,5,7-トリアジドビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン、キナゾリン、キノリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、イミダゾ[1,2-a]ピリミジン、5,6,7,8-テトラヒドロインドリジン、1-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-ピロリジン及び2,4-ジメチルキノリンのうちの一種から選択される、ことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機塩における酸イオンは、O、S、P、N、F、I、Br、Cl、C及びHを含む酸イオンのうちの一種から選択される、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記酸イオンは、酢酸、リン酸、硝酸、塩素酸、スルホン酸、硫酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸のうちの一種に由来する酸イオンから選択される、ことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記貧溶媒は、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、エチルエーテル、ベンゼン、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール、クロロホルム、酪酸メチル、アニソール、キシレン及びメシチレンのうちの少なくとも一種から選択される、ことを特徴とする請求項9~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記貧溶媒において、前記不動態化剤の濃度は、0.1~10mmol/mLである、ことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ペロブスカイト前駆体溶液におけるペロブスカイト前駆体と、前記貧溶媒における前記不動態化剤とのモル量の比は、200~8000であり、800~1600又は1000~1200であってもよい、ことを特徴とする請求項9~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性が向上したペロブスカイト太陽電池、及びペロブスカイト太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化進行の緩和及びエコ文明の建設がますます注目されるようになるにつれて、エネルギーの多様化及びグリーンエネルギーの開発もより多くの関心を集めている。ここで、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電は、エネルギー変換時にカーボンの排出がなく、そして機器設置の自由度が高いため、広く応用されるようになってきている。しかし、現在の主流となる太陽光発電装置は、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを使用するシリコン系太陽電池パネルであり、このシリコン系太陽電池パネルは、電池パネル重量が大きく、生産プロセスが複雑で、生産過程におけるエネルギー消費とコストが大きいなどの問題が存在する。
【0003】
上記問題を解決するために、溶液プロセスで製造可能な太陽電池が提案されている。それらのうち、光変換層としてのペロブスカイト型結晶構造を含む太陽電池は、シリコン系太陽電池の変換効率に近いため、大いに注目を集めている。
【0004】
しかし、ペロブスカイト型結晶構造は、脆弱で、使用環境下で格子の形態を長期間一定に維持しにくいため、ペロブスカイト太陽電池の寿命に顕著な影響を与える要因となる。
【0005】
ペロブスカイト型結晶の安定性を向上させるために、CN106062983Aは、ペロブスカイト太陽電池を製造する時、析出したペロブスカイト層上に、チオフェンやピリジンなどの不動態化剤を含有する不動態化層をさらに形成することを提案している。しかし、本発明者は、従来技術における不動態化剤の選択において改善の余地を見出した。
【0006】
また、従来技術において、不動態化層を形成する方法として、一般的にはペロブスカイト層を担持する層上に、ペロブスカイト前駆体を含有する溶液を塗布してから、貧溶媒を塗布してペロブスカイト溶媒を抽出し、ペロブスカイト構造を析出させ、加熱して過剰な溶媒を除去し、ペロブスカイトを有効ペロブスカイト相に変化させ、ペロブスカイト表面に不動態化剤を塗布し、最後にアニーリングして溶媒を除去し、ペロブスカイト層上に不動態化層が形成される。しかし、このような不動態化層の生成方法にも、さらに簡略化する余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ペロブスカイト太陽電池の製造過程及びデバイスの運行過程において、深い準位と浅い準位の欠陥が存在し、これらの欠陥は、電池の効率と長期安定性に深刻な影響を与えている。実験により、有機小分子のアンモニウム塩は、ペロブスカイト表面の欠陥を不動態化させ、デバイス効率と安定性を向上できることを発見した。しかしながら、現在の不動態化剤の多くは、単環系の有機小分子アミンであり、それは、電池デバイス効率と安定性を向上させる点で効果効果がまだ十分ではない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電池効率と安定性を向上させる点で効果がより高い不動態化層を含むペロブスカイト太陽電池、及び該不動態化層を含有するペロブスカイト太陽電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、少なくとも電極と、電子輸送層と、正孔輸送層と、ペロブスカイト層と、不動態化層とを含むペロブスカイト太陽電池であり、
上記不動態化層には不動態化剤が含有され、不動態化剤は、アザ縮合二環式化合物及び/又はアザ縮合二環式化合物と酸から形成された有機塩を含み、アザ縮合二環式化合物の各縮合環は、独立して五員又は六員の飽和環、不飽和環又は芳香環であり、且つアザ縮合二環式化合物の縮合環は、1~5個の窒素原子を含み、上記縮合環は、置換基のない環、又は炭素原子数が1~3である1又は2個の置換基により置換された環である。
【0010】
上記ペロブスカイト太陽電池において、好ましくは、上記アザ縮合二環式化合物は、プテリジン、1,5,7-トリアジドビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン、キナゾリン、キノリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、イミダゾ[1,2-a]ピリミジン、5,6,7,8-テトラヒドロインドリジン、1-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-ピロリジン及び2,4-ジメチルキノリンのうちの一種から選択される。
【0011】
上記ペロブスカイト太陽電池において、好ましくは、有機塩における酸イオンは、O、S、P、N、F、I、Br、Cl、C及びHを含む酸イオンのうちの一種から選択される。
【0012】
上記ペロブスカイト太陽電池において、好ましくは、酸イオンは、酢酸、リン酸、硝酸、塩素酸、スルホン酸、硫酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸のうちの一種に由来する酸イオンから選択される。
【0013】
上記ペロブスカイト太陽電池において、好ましくは、不動態化層は、不動態化剤を溶解した貧溶媒をペロブスカイト層上に塗布して形成された層である。貧溶媒は、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、エチルエーテル、ベンゼン、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール、クロロホルム、酪酸メチル、アニソール、キシレン及びメシチレンのうちの少なくとも一種から選択される。
【0014】
上記ペロブスカイト太陽電池において、好ましくは、ペロブスカイト層におけるペロブスカイトと、不動態化層における不動態化剤とのモル量の比は、100~800であり、200~600又は250~400であってもよい。
【0015】
これにより、上記不動態化剤を使用することによって、電池効率と安定性が向上したペロブスカイト太陽電池を得ることができる。
【0016】
本発明の別の態様は、上記ペロブスカイト太陽電池を使用する発電装置を提供する。これにより、効率と安定性が向上した発電装置を提供することができる。
【0017】
本発明の別の態様は、上記ペロブスカイト太陽電池を使用する電力消費装置を提供する。これにより、効率と安定性が向上した電力消費装置を提供することができる。
【0018】
本発明の別の態様は、上記ペロブスカイト太陽電池における不動態化層を形成する方法を提供し、該方法は、
ペロブスカイト層を担持する層上にペロブスカイト前駆体溶液を塗布してから、不動態化剤を含有する貧溶媒を直接塗布し、その後にアニーリングを行うステップを含むことを特徴とし、
ここで、不動態化剤は、アザ縮合二環式化合物及び/又はアザ縮合二環式化合物と酸から形成された有機塩を含み、アザ縮合二環式化合物の各縮合環は、独立して五員又は六員の飽和環、不飽和環又は芳香環であり、且つアザ縮合二環式化合物の縮合環は、1~5個の窒素原子を含み、上記縮合環は、置換基のない環、又は炭素原子数が1~3である1又は2個の置換基により置換された環である。
【0019】
上記方法において、好ましくは、アザ縮合二環式化合物は、プテリジン、1,5,7-トリアジドビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン、キナゾリン、キノリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、イミダゾ[1,2-a]ピリミジン、5,6,7,8-テトラヒドロインドリジン、1-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-ピロリジン及び2,4-ジメチルキノリンのうちの一種から選択される。
【0020】
上記方法において、好ましくは、有機塩における酸イオンは、O、S、P、N、F、I、Br、Cl、C及びHを含む酸イオンのうちの一種から選択される。
【0021】
上記方法において、好ましくは、酸イオンは、酢酸、リン酸、硝酸、塩素酸、スルホン酸、硫酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸に由来する酸イオンのうちの一種から選択される。
【0022】
上記方法において、好ましくは、貧溶媒は、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、エチルエーテル、ベンゼン、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール、クロロホルム、酪酸メチル、アニソール、キシレン及びメシチレンのうちの少なくとも一種から選択される。
【0023】
上記方法において、好ましくは、貧溶媒において、不動態化剤の濃度は、0.1~10mmol/mLである。
【0024】
上記方法において、好ましくは、ペロブスカイト前駆体溶液におけるペロブスカイト前駆体と、貧溶媒における不動態化剤とのモル量の比は、200~8000であり、800~1600又は1000~1200であってもよい。
【0025】
これにより、より簡単な方法で不動態化層を形成し、全方位からペロブスカイト構造の表面と結晶粒界を不動態化させ、電池効率と安定性がより高いペロブスカイト太陽電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるペロブスカイト太陽電池は、電池効率と安定性を向上させることができ、そして本発明による製造方法は、より簡単な方式で上記利点を有するペロブスカイト太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ペロブスカイト太陽電池の構造概略図である。
図2】ペロブスカイト構造の構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明が解決しようとする技術的課題、技術案及び有益な効果をより明瞭にするために、以下、図面と実施例を結び付けながら本発明をさらに詳細に説明する。理解すべきこととして、ここで記述された具体的な実施例は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。
【0029】
ペロブスカイト太陽電池
まず、本発明のペロブスカイト太陽電池について簡単に説明する。図1に示すように、本発明のペロブスカイト太陽電池に、順次第1の電極層2と、電子輸送層3と、ペロブスカイト層4と、不動態化層5と、正孔輸送層6と、第2の電極層7とが含まれる。光がペロブスカイト層上に照射される時、ペロブスカイト構造は、光子のエネルギーを吸収して、自由電子と正孔(以下、電子と正孔を「キャリア」と総称する場合がある)を生成し、生成した自由電子と正孔は、それぞれ電子輸送層と正孔輸送層を介して第1の電極と第2の電極に伝導され、第1の電極と第2の電極との間に電圧を発生させ、これにより光電間のエネルギー変換を実現する。説明すべきこととして、図1は、ペロブスカイト層4の一側に不動態化層5を形成する一実施形態を概略的に示すものに過ぎないが、本発明は、この構造に限定されず、例えばペロブスカイト層4のいずれか一側又は両側に不動態化層5を形成してもよい。
【0030】
1.1 ペロブスカイト層4
ペロブスカイト層にはペロブスカイト構造の結晶体を含有し、図2に示す結晶構造を有する。太陽電池に一般的に用いられるペロブスカイト構造は、ABX構造として表してもよく、ここでAは、一定の大きさを有し且つ正に帯電したイオンであり、例えば、セシウムなどのアルカリ金属のイオン、メチルアミン(CHNH)、ホルムアミジン(HNCHNH)などの窒素含有小分子有機物のイオンなどであり、Bサイトは、遷移金属元素のイオンで、例えばPb又はSnのイオンであり、Xサイトは、ハロゲンイオンで、例えばBr又はIのイオンである。
【0031】
説明すべきこととして、一般的なABX構造において、BとXから構成されたB-X八面体にAを充填することにより、格子構造を形成する。そのため、Aサイトカチオンにはサイズの要件があり、一般的に該サイズ要件は、「許容因子」と呼ばれ、該許容因子は、0.8-1.2の間である必要がある。該許容因子が大き過ぎ又は小さ過ぎると、格子構造の安定性に顕著な影響を及ぼすか、又は所望の構造を形成できなくなる。
【0032】
ペロブスカイト構造の不安定性について、具体的には、ペロブスカイト太陽電池の製造過程及びデバイスの運行過程に存在する深い準位及び浅い準位の欠陥と関係があり、これらの欠陥は、電池の効率と長期安定性に深刻な影響を与えている。また、カルシウム構造の不安定性の原因として、水と接触する時に加水分解が発生しやすいことも挙げられる。
【0033】
1.2 不動態化層5
不動態化層は、ペロブスカイト構造の安定性と太陽電池機器の寿命を向上させるために、ペロブスカイト層と電子輸送層及び/又は正孔輸送層との間に設置される層であり、それは、不動態化剤を含有する。
【0034】
本発明者は、従来の不動態化剤に比べて、下記不動態化剤を使用する時に、電池効率の向上及び電池寿命の延長に対して効果がより高いことを見出した。本発明における不動態化剤は、アザ縮合二環式化合物及び/又はアザ縮合二環式化合物と酸から形成された有機塩を含み、アザ縮合二環式化合物の各縮合環は、独立して五員又は六員の飽和環、不飽和環又は芳香環であり、且つアザ縮合二環式化合物の縮合環は、1~5個の窒素原子を含み、上記縮合環は、置換基のない環、又は炭素原子数が1~3である1又は2個の置換基により置換された環である。
【0035】
上記縮合環上の置換基として、炭化水素基、アルコール基、エーテル基、エステル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、又はそれらの組み合わせであってもよく、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、カルビノール基、アルコール基、n-プロパノール基、イソプロパノール基、メチルエーテル基、エチルエーテル基、プロピルエーテル基、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピオエステル基、ホルムアルデヒド基、アセトアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、メチルケトン基、エチルケトン基、アセトン基、ギ酸基、酢酸基、プロピオン酸基、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオンアミド基が挙げられる。
【0036】
Aサイトで例えばホルムアミジンを使用する場合、ホルムアミジンを有機成分とし、直射日光による高温及び欠陥に起因する非放射再結合は、いずれもデバイスの昇温につながり、ホルムアミジンの揮発を引き起こし、Aサイトの欠陥を引き起こす。従来の界面不動態化剤の多くは、二次元構造を形成しており、Aサイトカチオンの揮発が阻止されるが、Aサイトは、変位が発生して複数箇所の欠陥を形成する可能性がある。欠陥が増えて、自由電子又は正孔などのキャリアが捕獲されるため、デバイスの内部抵抗の増加を引き起こし、キャリア抽出が難しくなり、短絡電流が小さくなる。またペロブスカイトの分解は、デバイス安定性の低下を引き起こす。そのため、従来の不動態化剤を利用して不動態化を行うことは、デバイスの長期安定性の向上に対して効果が高くない。
【0037】
本発明では、アザ縮合二環式化合物及び/又はそれと酸から形成された有機塩を含有する上記不動態化剤を採用してペロブスカイト結晶粒界と表面の欠陥を不動態化させる。
【0038】
本発明の不動態化剤における上記アザ縮合二環式化合物及び/又はそれと酸から形成された有機塩の環上の窒素原子は、強いプロトン結合能力を有し、Aサイトと一つの強い化学結合を形成することで、Aサイトカチオンの様々原因による分解又は揮発を防止することができ、使用中に有害な水素空孔が発生しにくく、不動態化の安定性及びデバイスの効率を向上させる。
【0039】
該アザ縮合二環式化合物の具体的な例として、実施例に使用される物質が挙げられるが、本発明は、これらの化合物に限定されない。
【0040】
その原理はまだ明確にされていないが、推定できるように、従来技術に比べて、本発明に使用される化合物は、その環の個数が増えており、材料の疎水性が向上し、疎水官能基として導入可能であり、ペロブスカイトの水安定性を顕著に向上させることができる。また、アザ環上の窒素とペロブスカイトのAサイトは、強いプロトン結合エネルギーを有するため、Aサイトイオンの流失を抑制することができ、これにより不動態化の効果を高める。
【0041】
上記化合物と形成された有機塩における酸イオンは、O、S、P、N、F、I、Br、Cl、C及びHを含む酸イオンのうちの一種から選択される。
【0042】
具体的に列挙すると、酢酸、リン酸、硝酸、塩素酸、スルホン酸、硫酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸のうちの一種に由来する酸イオンから選択される。
【0043】
酸イオンは、好ましくは、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸から選択される一種に由来し、これは、酸イオンとしてハロゲンを選択して用いる時に、ペロブスカイト表面のハロゲン空孔を補うことができるからである。Xサイトの欠陥を補うことができ、Aサイトカチオンと水素結合を形成してAサイトカチオンを安定化できるという点から、酸イオンは、好ましくは、フッ化水素酸に由来する。
【0044】
また酸イオンは、好ましくは、酸素、硫黄、リンなどを含む酸のうちの一種に由来し、例えばカルボン酸、スルホン酸、硫酸及びリン酸のうちの一種に由来する。これは、これらの酸に由来する酸イオンが、Aサイトのイオンと水素結合を形成できるとともに、Bサイトのイオンをアンカリングできるからであり、それによってAサイトとBサイトのイオンを安定化させ、さらにペロブスカイト構造を安定化させ、電池デバイスの長期安定性を向上させる効果を達成する。
【0045】
上記ペロブスカイト太陽電池において、好ましくは、ペロブスカイト層におけるペロブスカイトと、不動態化層における不動態化剤とのモル量の比(ペロブスカイトのモル量/不動態化剤のモル量)は、100~800であり、200~600又は300~400であってもよい。ペロブスカイトに対して、不動態化剤の量が少な過ぎると、ペロブスカイト構造の欠陥を十分に不動態化させることができず、理想的な疎水性を付与することもできない。不動態化剤の量が多過ぎると、不動態化の効果が飽和に達して費用効果比が低下してしまい、またキャリア輸送の妨害、内部抵抗の増加ひいては電池失効などの悪影響を及ぼす可能性もある。
【0046】
1.3 電子輸送層3と正孔輸送層6
電子輸送層と正孔輸送層は、ペロブスカイト層と不動態化層の両側になされた層であり、それぞれペロブスカイト層上で生成した自由電子と正孔を輸送するためのものである。電子と正孔を分離して、さらに第1の電極及び第2の電極に輸送することによって、正孔と電子との再結合による変換効率の低下を回避する。説明すべきこととして、図1には、本発明が取り得る一態様のみを示しており、本発明の電子輸送層と正孔輸送層の位置は、交換してもよい。
【0047】
電子輸送層と正孔輸送層のうちの少なくとも一方は、可視光波長域での光線透過率が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上である。
【0048】
電子輸送層として、該層は、一般的な電子輸送材料によって構成され、当業者であれば、変換効率に有利な範囲内で適切に選択することができる。例えば酸化スズ、酸化チタン、PCBM、C60を使用してもよく、好ましくは酸化スズを使用する。また該層の製造方法について、塗布、蒸着、アニーリングなどの一般的な方法を適切に組み合わせて製造することができる。
【0049】
正孔輸送層として、該層は、一般的な正孔輸送材料によって構成され、当業者であれば、変換効率に有利な範囲内で適切に選択することができる。例えばPTAA、spiro、PEDOT:PSSを使用してもよく、好ましくは、spiroを使用する。また該層の製造方法について、塗布、蒸着、アニーリングなどの一般的な方法を適切に組み合わせて製造することができる。
【0050】
1.4 第1の電極2と第2の電極7
第1の電極は、電子輸送層の、ペロブスカイト層の方向と逆である方向に積層されており、電子輸送層から伝導してきた電子を外部へガイドして利用に供する電極である。第2の電極は、正孔輸送層の、ペロブスカイト層の方向と逆である方向に積層されており、正孔輸送層から伝導してきた正孔を外部へガイドして利用に供する電極である。説明すべきこととして、図1には、本発明が取り得る一態様のみを示しており、本発明の第1の電極と第2の電極の位置は、交換してもよい。
【0051】
第1の電極と第2の電極として、それが不透明電極である時、電極用の一般的な材料から構成されてもよく、当業者であれば、変換効率に有利な範囲内で適切に選択することができる。例えば金、銀、銅、アルミニウムなどを使用してもよく、好ましくは金を使用する。また該層の製造方法について、塗布、蒸着、アニーリングなどの一般的な方法を適切に組み合わせて製造することができる。
【0052】
第1の電極と第2の電極のうちの少なくとも一方が透明電極であり、該透明電極の可視光波長域での光線透過率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上である。透明電極である時、透明電極用の一般的な材料から構成されてもよく、当業者であれば、変換効率に有利な範囲内で適切に選択することができる。例えば導電性酸化物、金属グリッド、超薄型金属層、金属ナノワイヤ、炭素系透明材料、ポリマなどを使用してもよい。光透過性が高い点から、好ましくは導電性酸化物を使用する。また該電極の製造方法について、塗布、蒸着、アニーリングなどの一般的な方法を適切に組み合わせて製造することができる。
【0053】
1.5 ベース1
必要のある場合、第1の電極及び/又は第2の電極の外側には、ベースをさらに有してもよい。ベースは、ペロブスカイト太陽電池全体を支持して、操作と組み立てなどを容易にするために用いられる。
【0054】
該ベースは、ポリミイド(PI)、ポリブチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、超薄型ガラスなどの有機又は無機の可撓性材質であってもよく、又はガラス板、金属板などの剛性材質であってもよい。
【0055】
第1の電極と第2の電極の外側にはいずれもベースを有する場合、少なくとも一つのベースの可視光波長域での光線透過率が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上である。そして該透光性のベースは、透明な電極の一側に配置される。
【0056】
また、第1の電極及び/又は第2の電極がペロブスカイト太陽電池を支持するのに十分な能力を有する時、ベースは、省略してもよい。
【0057】
ペロブスカイト太陽電池の製造方法
本発明のペロブスカイト太陽電池の製造方法は、
ペロブスカイト層を担持する層上にペロブスカイト前駆体溶液を塗布すること(ステップ1)と、ペロブスカイト前駆体溶液層上に上記不動態化剤を含有する貧溶媒を直接塗布すること(ステップ2)と、アニーリングを行うこと(ステップ3)とを含む。ここで、ステップ1とステップ2の塗布は、回転塗布、ブレード塗布、ロール塗布、スプレー塗布などの一般的な方法を採用することができるが、厚さを良く制御できるという観点からすると、好ましくは回転塗布を採用する。
【0058】
このような製造方法は、不動態化層の製造ステップを簡略化し、複数回のアニーリングによるペロブスカイト構造への影響を回避することができる。そしてペロブスカイト構造を形成する過程において不動態化を実現することができる。
【0059】
具体的には、本発明の方法は、従来技術に比べてアニーリング処理の回数が減少し、ペロブスカイトの複数回のアニーリングを回避し、時間コストを節約し、製造効率を向上させることができる。
【0060】
そして、本発明の方法では、ペロブスカイト相が安定していない時に不動態化剤を加え、不動態化剤は、結晶粒界及び表面でペロブスカイトとより良くボンディングすることができ、ペロブスカイト相をさらに安定化させる。
【0061】
不動態化剤は、ペロブスカイト層の表面に存在するだけでなく、結晶粒界の深いところまで入り込むことができるため、結晶粒界と表面を同時に不動態化させ、全方位の不動態化を実現することができる。このように、電子と正孔との結晶粒界及び表面での再結合をより効果的に防止することができる。そして、結晶粒界が小さい場合であっても、本発明の方法を利用することで、分子体積が大きい不動態化剤を結晶粒界の深いところに入らせることができる。それとともに、不動態化剤は貧溶媒にのみ存在するため、該不動態化剤は、ペロブスカイト構造の形成に影響を与えない。これに関して、従来技術では実現しにくい。
【0062】
2.1 ペロブスカイト前駆体溶液
ペロブスカイト前駆体溶液にペロブスカイト前駆体と溶媒とが含まれる。具体的に、ペロブスカイト前駆体は、Aイオン、Bイオン及びXイオンを含む物質である。ペロブスカイト前駆体溶液として、例えばBXとAXとの溶媒中での混合物を列挙できる。ここで、Aは、前述したとおり、セシウムなどのアルカリ金属又はメチルアミン、ホルムアミジンなどの窒素含有小分子有機物の化合物から選択されてもよく、Bは、Sn又はPbであり、Xは、ハロゲンである。
【0063】
ペロブスカイト前駆体溶液における溶媒について、BXとAXを溶解可能で、貧溶媒と相溶できるとともに、加熱で除去できればよく、現在一般的に使用される溶媒から適切に選択してもよい。当業者であれば、従来技術から任意適切な組み合わせを選択してペロブスカイト前駆体溶液を製造することができる。
【0064】
モルでのBXとAXとの比(BX/AX)について、ペロブスカイト層の構造を十分に形成できるという角度から考慮すると、該比は、1以上、1.01以上、1.02以上、1.03以上、1.04以上、1.05以上であり、コスト節約の角度から考慮すると、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下である。
【0065】
ペロブスカイト前駆体溶液において、ペロブスカイト前駆体の濃度は、形成されるペロブスカイト層の厚さを調節するために用いられ、理想的な濃度については、BXの濃度で、0.2~5mmol/mL、0.3~4mmol/mL、0.4~3mmol/mL、0.5~2mmol/mLである。該濃度である時、好ましいペロブスカイト構造の形成に有利である。
【0066】
説明すべきこととして、Aイオンの許容因子は、0.8~1.2である必要があり、イオンの体積が大き過ぎて許容因子が1.2を超えると、格子の変形を引き起こすか、又はB-X八面体構造に充填されにくくなり、さらにペロブスカイト構造を形成できないという懸念をもたらす。該構造を形成できるとしても、ペロブスカイトの結晶化過程が遮断されるため、ペロブスカイト結晶品質の低下を引き起こし、過剰な結晶粒界が形成され、深い準位の欠陥が発生し、キャリアが捕獲され、光電変換効率と安定性が低下するという懸念をもたらす。
【0067】
二種以上のAイオンを含有する時、好ましくはその許容因子は、いずれも0.8~1.2である。これは、大きな分子が存在すると、上記と同様に結晶構造を破壊するからであり、添加剤として使用しても、構造が大きいため、結晶品質の不良を引き起こし、良好な安定性を達成しにくい。
【0068】
2.2 不動態化剤を含有する溶液
本方法における、不動態化剤を含有する溶液は、貧溶媒と不動態化剤とを含む。
【0069】
貧溶媒は、ペロブスカイト前駆体をペロブスカイト構造に変化させるための溶媒である。本発明における貧溶媒は、ペロブスカイト前駆体の溶解度が小さい溶媒であり、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、エチルエーテル、ベンゼン、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール、クロロホルム、酪酸メチル、アニソール、キシレン及びメシチレンのうちの少なくとも一種から選択される。貧溶媒は、好ましくは、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及び酢酸エチルから選択される少なくとも一種の第1の貧溶媒に、エチルエーテル、ベンゼン、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール、クロロホルム、酪酸メチル、アニソール、キシレン及びメシチレンから選択される少なくとも一種の第2の貧溶媒を添加して形成された混合溶媒である。
【0070】
貧溶媒における第1の貧溶媒と第2の貧溶媒との比率を調節することによって、貧溶媒への前駆体の溶解性を調節することができ、これにより貧溶媒と、前駆体溶液における前駆体とが接触する時、ペロブスカイト構造の析出速度と結晶のサイズを制御することができる。
【0071】
貧溶媒において、第1の貧溶媒と第2の貧溶媒との比(体積)は、100:0~100:50であり、好ましくは100:0~100:10である。このような比率で貧溶媒を混合して製造する時、ペロブスカイト構造の析出速度と結晶のサイズを有利に制御することができる。
【0072】
本発明の貧溶媒には本発明の不動態化剤が含有され、ここでは説明を省略する。説明すべきこととして、従来技術における不動態化剤でも、本発明の不動態化層の形成方法に用いることができる。従来技術における不動態化剤とする。
【0073】
貧溶媒において、不動態化剤の濃度は、0.1~10mmol/mLであり、0.5~8mmol/mL、1~5mmol/mL、2~3mmol/mLであってもよい。上記範囲内にある時、ペロブスカイト構造の析出に影響を与えることなく、不動態化層における不動態化剤の含有量の制御を容易にすることができる。
【0074】
ペロブスカイト前駆体溶液におけるペロブスカイト前駆体と、貧溶媒における不動態化剤とのモル量の比(R)は、200~8000であり、800~1600又は1000~1200であってもよい。ペロブスカイト前駆体に対して、不動態化剤の量が少な過ぎると、ペロブスカイト構造の欠陥を十分に不動態化させることができず、理想的な疎水性を付与することもできない。不動態化剤の量が多過ぎると、不動態化の効果が飽和に達して費用効果比が低下してしまい、またキャリア輸送の妨害、内部抵抗の増加ひいては電池失効などの悪影響を及ぼす可能性もある。
【0075】
2.3 アニーリング
本発明において、ペロブスカイト前駆体溶液と貧溶媒を塗布した後に、アニーリング処理を行う。アニーリング処理過程において、前駆体溶液における溶媒と貧溶媒が揮発し、前駆体が析出してペロブスカイト構造を形成しペロブスカイト層と不動態化層を形成すると同時に、不動態化剤は、ペロブスカイト構造の結晶粒界と表面を不動態化させる。
【0076】
アニーリング処理の条件について、使用される溶媒の種類及びアニーリング機器のパラメータに従って適切に設定してもよく、特に制限はない。しかし、良好な秩序のあるペロブスカイト構造を取得できるという角度から、80℃~200℃で10分~2時間アニーリングしてもよい。例えば、後述の実施例におけるアニーリング条件を採用してもよい。
【0077】
発電装置
本発明の発電装置は、上記ペロブスカイト太陽電池を含む発電装置であり、該ペロブスカイト太陽電池は、一つ又は複数であってもよい。該発電装置は、制御システムと輸送システムをさらに有する。本発明の発電装置は、制御システムと輸送システムを介して、上記太陽電池から発生した電気エネルギーを電力消費機器に適合可能な電気エネルギーに調整する。説明すべきこととして、ここでいう「含む」とは、発電装置と太陽電池とが電気的に接続される場合を指す。
【0078】
電力消費装置
本発明の電力消費装置は、上記ペロブスカイト太陽電池を含む電力消費装置であり、該ペロブスカイト太陽電池は、一つ又は複数であってもよい。該電力消費装置は、上記ペロブスカイト太陽電池から発生した電気エネルギーを利用するシステムをさらに有する。電気エネルギーを利用する該システムについては、例えば電気エネルギーを運動エネルギー、内部エネルギー、光エネルギー又は化学エネルギーなどに変換するシステムを列挙できる。説明すべきこととして、ここでいう「含む」とは、電力消費装置と太陽電池とが電気的に接続される場合を指す。
【0079】
実施例
以下、本出願の技術案の実施例について詳細に説明する。以下の実施例は、本出願の技術案をより明確に説明するためのものであり、例示に過ぎず、これによって本出願の保護範囲が制限されるものではない。
【0080】
特に定義されない限り、本明細書に使用されるすべての技術的と科学的用語は、当業者に一般的に理解される意味と同じであり、本明細書で使用される用語は、具体的な実施例を説明するためにのみ用いられ、本出願を制限することを意図するものではない。本出願の明細書と特許請求の範囲及び上記図面の説明における用語である「含む」と「有する」及びそれらの任意の変形は、非排他的な「含有」を意図的にカバーするものである。
【0081】
本出願の実施例の説明では、用語「第1」、「第2」などは、異なる対象を区別する目的だけに用いられ、相対的な重要性を明示又は示唆し、又は指示された技術的特徴の数、特定の順序又は主副関係を暗黙的に示すと理解してはならない。本出願の実施例の説明において、「複数」とは、特に断りのない限り、二つ以上を意味する。
【0082】
本明細書において「実施例」と言及する場合、実施例と合わせて記述された特定の特徴、構造又は特性が本出願の少なくとも一つの実施例に含まれ得ることを意味する。明細書の各位置でのこのフレーズの出現は、必ずしもすべてが同じ実施例を指すものではなく、他の実施例と相互排他する独立した又は代替的な実施例でもない。当業者であれば明確且つ暗黙的に理解するように、本明細書に記述された実施例は、他の実施例と組み合わせることができる。
【0083】
本出願の実施例の説明において、用語「及び/又は」は、関連対象の関連関係を説明するものに過ぎず、三つの関係が存在し得ることを表し、例えば、A及び/又はBは、単独のA、AとBとの組み合わせ、単独のBの三つのケースを表すことができる。また、本明細書における「/」といる文字は、一般的には前後関連対象が「又は」の関係であることを表す。
【0084】
本出願の実施例の説明において、技術用語「内」、「外」などで示される方位又は位置関係は、図面に示す方位又は位置関係に基づくものであり、本出願の実施例の説明の便宜又は説明の簡略化を図るためのものであり、言及された装置又は素子が特定の方位を有し、特定の方位で構造し操作されることを指示又は暗示するものではないため、本出願の実施例を限定するものと理解されるべきでない。
【0085】
本出願の実施例では、一般的な構造のペロブスカイト太陽電池のみが示されているが、本発明は、逆型構造のペロブスカイト太陽電池に用いられてもよい。
【実施例
【0086】
ペロブスカイト太陽電池の製造
実施例1
[電子輸送層の製造]
15%の酸化スズ溶液と脱イオン水とを1:3で混合し、室温で1h撹拌し、70μLを取って導電ガラス表面に回転塗布し、150℃で15分加熱した。
【0087】
[ペロブスカイト層と不動態化層の製造]
AXとしてのヨウ化ホルムアミジン及びクロロメチルアミンと、BXとしてのヨウ化鉛とを、(BX/AX=1.05)でDMFとDMSOとの混合溶液(DMF:DMSO=4:1)に添加して、ペロブスカイト溶液を調製し、室温下で1h磁気撹拌し、濾過して使用に備え、溶液におけるペロブスカイト前駆体の最終的な濃度は、ヨウ化鉛で、1.5mmol/mLである。後述の表1と表2における不動態化材料を貧溶媒に溶かし、電子輸送層を回転塗布完了した導電ガラスにUVを15分照射し、ガラス上に60μLのペロブスカイト溶液を滴加し、不動態化材料を溶解した貧溶媒を600μL加え、150℃で1hアニーリングし、これによりペロブスカイト層と不動態化層とを同時に形成し、最終的に厚さが500nmのペロブスカイト層と、厚さが2nmの不動態化層とを形成した。ペロブスカイトと不動態化剤との量の比(モル比)は、300である。
【0088】
[正孔輸送層の製造]
spiroにLi-TFSI、tBP及びFK209を加え、1h撹拌し、濾過して使用に備え、ペロブスカイト層と不動態化層とが形成された導電ガラス上に60μLのspiroを滴加し、回転塗布して、正孔輸送層を形成した。
【0089】
[裏面電極の製造]
回転塗布して形成された上記正孔輸送層上に、一般的な方法によって、真空蒸着機器において蒸着厚さが80nmである銀を形成し、完全なペロブスカイト太陽電池を得た。
【0090】
実施例2~16
ペロブスカイト層と不動態化層の形成条件を、表1と表2に示すものに置き換えること以外、実施例1と同様な方式でペロブスカイト太陽電池を製造した。
【0091】
比較例1~3
表1と表2に示す不動態化剤をペロブスカイト前駆体溶液に添加するとともに、貧溶媒に不動態化剤を添加していないこと以外、実施例1と同様な方式でペロブスカイト太陽電池を製造した。
【0092】
比較例4
不動態化剤を添加していないこと以外、実施例1と同様な方式でペロブスカイト太陽電池を製造した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
電池特性テスト(I-Vテスト)
上記方式で得られた各実施例と比較例の、それぞれ20個の太陽電池に対して、ENLITECH社のソーラシミュレータを利用して、25℃で一つの照射強度でI-Vテストを行い、各実施例と比較例の太陽電池のテスト結果の平均値を以下の表3に示した。
【0096】
【表3】
【0097】
安定性試験
上記方式で得られた各実施例と比較例の、それぞれ20個の太陽電池を、湿度制御可能なグローブボックスに保存し、摂氏25度の恒温、60%RHの恒湿の条件下で、エージング処理を30日行って安定性テストを行い、各実施例、比較例及び参考例の、安定性試験後に損傷していない電池のI-Vテスト結果の平均値、効率維持率、損傷電池個数及び損傷率を以下の表4に示した。
【0098】
【表4】
【0099】
上記表3と4の結果から分かるように、本発明の不動態化剤を使用したペロブスカイト太陽電池は、本発明の不動態化剤を使用していないものに比べて、デバイス効率と安定性を向上させる点でより顕著な効果があり、不動態化を実行していない電池は、一定期間放置した後に、電池効率の減衰が顕著であり、カチオンが同じである場合、酸イオンとしてO、S、P、Nなどの元素を含む有機酸を採用することは、不動態化の効果がより高い。そして、本発明の不動態化剤を使用したペロブスカイト太陽電池の一定期間放置後の電池損傷率は、顕著に抑制されている。
【0100】
また、以下のことも発見した。本発明の不動態化層とペロブスカイト層の製造方法を使用して得られたペロブスカイト太陽電池は、本発明の方法を使用していないものに比べて、ペロブスカイトを二回加熱してアニーリングすることが回避され、デバイス安定性が高く、そしてウェット膜の状況下で不動態化材料を加えて、結晶を制御することで、不動態化材料をより良く結晶粒界及び表面に充填することができ、ペロブスカイトをより良く保護し、ペロブスカイトの安定性を高める。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、エネルギー変換効率が高く安定性に優れているペロブスカイト太陽電池、及び該太陽電池の製造方法を提供することができる。これは、気候変動に対応し、エコ文明を建設することに対して、非常に重要な意義を有する。
【符号の説明】
【0102】
1:ベース、2:第1の電極、3:電子/正孔伝導層、4:ペロブスカイト層、5:不動態化層、6:正孔/電子伝導層、7:第2の電極
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
ペロブスカイト太陽電池の製造過程及びデバイスの運行過程において、深い準位と浅い準位の欠陥が存在し、これらの欠陥は、電池の効率と長期安定性に深刻な影響を与えている。実験により、有機小分子のアンモニウム塩は、ペロブスカイト表面の欠陥を不動態化させ、デバイス効率と安定性を向上できることを発見した。しかしながら、現在の不動態化剤の多くは、単環系の有機小分子アミンであり、それは、電池デバイス効率と安定性を向上させる点で効果効果がまだ十分ではない。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0102
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0102】
1:ベース、2:第1の電極、3:電子/正孔輸送層、4:ペロブスカイト層、5:不動態化層、6:正孔/電子輸送層、7:第2の電極
【国際調査報告】