(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】過酸化水素の新規な製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 15/023 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C01B15/023 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529585
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2022084049
(87)【国際公開番号】W WO2023117360
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524171873
【氏名又は名称】ソルベイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】フォルミガ,ヌーノ
(72)【発明者】
【氏名】フェスタス,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】フェデーリ,マッシモ
(57)【要約】
過酸化水素の新規な製造方法。本発明は、アントラキノンプロセスによる過酸化水素の新規な製造方法に関する。特に、本発明は、過酸化水素プロセスからの水相中の過酸化水素を再循環する及び抜き出すための新規な流れ構成に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノンプロセスによる過酸化水素の製造方法であって、
(1)水素化反応器中、不均一系触媒の存在下、1つ以上のアントラキノン誘導体を含む有機運転液を水素化して、1つ以上の水素化アントラキノン誘導体を含む水素化された有機運転液を得る工程;
(2)工程(1)で得られた前記水素化された有機運転液を、上部領域、中間領域、及び下部領域に分かれた酸化反応器において、工程(1)で得られた前記水素化された有機運転液を前記酸化反応器の前記上部領域に導入し、酸素含有ガスを前記酸化反応器の前記下部領域に導入することによって酸化することで、向流プロセスで過酸化水素を形成し、過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を得る工程;
(3)工程(2)で得られた過酸化水素を含有する前記酸化された有機運転液を、脱気/デカンター複合装置に送るか、又は工程(2)で得られた過酸化水素を含有する前記酸化された有機運転液を、前記酸化反応器の前記下部領域で直接デカンテーションしてから、続いて溶解した過酸化水素を含有する前記酸化された有機運転液を脱気装置に送り、同伴ガスを膨張させて、過酸化水素を含有する前記酸化された有機運転液を脱気する工程;
(4)工程(3)で得られた前記脱気され酸化された有機運転液を抽出塔の下部に導入し、水溶液と一緒にして過酸化水素を含む水相と有機相とを形成する工程;
(5)工程(4)で得られた前記水相を前記抽出塔の前記下部から抜き出し、前記有機相を前記抽出塔の前記上部から抜き出し、前記有機相を前記水素化反応器に戻す工程;
(6)工程(5)で前記抽出塔から抜き出した前記水相の少なくとも一部を前記酸化反応器の前記中間領域に戻す工程;及び
(7)過酸化水素水溶液を回収する工程;
を含む方法。
【請求項2】
前記過酸化水素水溶液が、工程(7)において、前記酸化反応器の前記下部領域から前記過酸化水素水溶液を抜き出すことによって回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記過酸化水素水溶液が、工程(7)において、工程(6)で前記酸化反応器の前記中間領域に戻された前記水相を含む前記酸化された有機運転液を、前記酸化された有機運転液をデカンテーションして過酸化水素を含む水相と有機相とを得る前記脱気/デカンター装置に送り、過酸化水素を含む前記水相を前記装置から抜き出すことによって回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(5)で得られた過酸化水素を含む前記水相のうち、前記酸化反応器の前記中間領域に戻されない部分が、工程(7)で過酸化水素水溶液として回収される請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化反応器の前記中間領域が、前記酸素含有ガスが導入される高さよりも上であり前記有機運転液が前記酸化反応器に導入される高さよりも下である領域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化反応器の前記中間領域が、反応を促進する内部構造を含んでおり、前記内部構造が、好ましくはトレイ、充填材、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化反応器の前記上部領域が気液分離部であり、前記酸化反応器の前記中間領域が酸化反応部であり、前記酸化反応器の前記下部領域が過酸化水素沈降部及び/又は回収部であり、前記酸化反応器が好ましくは塔である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸素含有ガスが、空気、酸素と不活性ガスとの混合物、空気と酸素との混合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液が脱塩水を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化反応器が1つ以上の冷却器を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化反応器が、約1~約10bargの圧力で運転される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化反応器内に存在する過酸化水素の局所濃度が0~約70重量%に制御される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記脱気装置又は前記脱気/デカンター複合装置が、脱気を助ける内部構造を備えており、前記脱気/デカンター複合装置内の前記デカンターが空であるか、又はデカンテーションを助けるための充填材などの結合媒体を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(3)で得られた前記有機運転液が、向流プロセスで工程(4)の前記水溶液と混合される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記有機運転液の溶媒及び前記アントラキノン誘導体が、
【数1】
として定義される約85以上の分配係数Kで前記プロセスが運転されるように選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノンプロセスによる過酸化水素の新規な製造方法に関する。特に、本発明は、過酸化水素プロセスからの水相中の過酸化水素を再循環する及び抜き出すための新規な流れ構成に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、世界的に生産されている最も重要な無機化学薬品の1つである。その工業用途には、織物、パルプ及び紙の漂白、有機合成(プロピレンオキシド)、無機化学薬品及び洗浄の製造、環境並びに他の用途が含まれる。
【0003】
過酸化水素の合成は、アントラキノン(ループ)プロセス又はAO(自動酸化)プロセスとも呼ばれる、リードル-プフライデラープロセス(Riedl-Pfleiderer process)を大スケールで使用することによって主として達成される。このプロセスは、有機アントラキノンを溶媒に溶解し、この「運転液(Working Solution)」(WS)混合物をプラント全体に循環させる循環プロセスである。
【0004】
AOプロセスの最初の工程は、水素ガスと触媒とを使用して、有機運転液中に存在するアントラキノン誘導体を化学還元することである。次いで、有機溶媒と、ヒドロキノンと、キノン種との混合物は、触媒から分離され、ヒドロキノン種は、酸素、空気、又は酸素に富む空気を使用して酸化され、その結果キノンが再生され、それと同時に過酸化水素が形成される。
【0005】
次いで、過酸化水素は、典型的には抽出塔において水で抽出され、粗製過酸化水素水溶液の形態で回収され、運転液は、水素化装置に戻されて、ループを完成する。
【0006】
したがって、先行技術による標準的な過酸化水素プラントの典型的な配置は、水素化装置から始まり、次いで酸化反応器、その後に抽出塔が続くものであると簡略的に述べることができる。過酸化水素は、典型的には、抽出塔からの脱塩水の流れの中で運転液から抽出される。その後、運転液は抽出塔から水素化装置に戻される(
図1を参照)。
【0007】
過酸化水素を製造するためのアントラキノンプロセスのさらなる詳細は、例えば、Kirk-Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,August 2001,Chapter“Hydrogen Peroxide”;又はUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,fifth edition,1989,Volume A13,pages449-454等の標準教科書に開示されている。
【0008】
還元反応と酸化反応はいずれも収率と選択性の点で非常に効率的であるものの、一部の変性アントラキノン種が運転液混合物中で形成される場合がある。
【0009】
主に酸化反応器の中で形成される典型的な変性アントラキノン種は、6-アルキル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4a,9a-エポキシアントラセン-9,10-ジオンである。望ましくない分解種である6-アルキル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4a,9a-エポキシアントラセン-9,10-ジオンの形成が、過酸化水素と、酸化反応器における水素化装置由来のテトラヒドロアントラキノン種の両方の存在によって増加することは、当該技術分野において周知である(例えばUllmann,F.,Gerhartz,W.,Yamamoto,Y.S.,Campbell,F.T.,Pfefferkorn,R.,Rounsaville,J.F.,&Ullmann,F.(1985),Ullmann’s encyclopedia of industrial chemistry,Weinheim,Federal Republic of Germany: VCH、及び米国特許出願公開第2001/0028873号明細書を参照)。水素化装置触媒からの微量のパラジウム又は他の貴金属は、酸化反応器中で触媒として作用し、その結果この望ましくない副生成物の形成を促進する場合がある。
【0010】
さらに、エポキシドの形成は過酸化水素の存在によって触媒される(例えば米国特許出願公開第2003/0109726号明細書を参照)。そのため、先行技術で公知のAOプロセスでは、6-アルキル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4a,9a-エポキシアントラセン-9,10-ジオンなどのエポキシド種の形成を最小限に抑えるために、酸化反応器中の過酸化水素の濃度を最小限に抑える必要がある。
【0011】
さらに、有機溶液と過酸化水素とを混合すると、過酸化水素の濃度が一定濃度を超え、且つ有機溶液と過酸化水素が一定の比率になった場合に、爆轟を伝播できる混合物が形成され得ることも知られている。酸化反応器内には高濃度の過酸化水素の小さなポケットが容易に形成され得るため、これは従来技術で公知のAOプロセスに特有のリスクである。これらのポケット内の過酸化水素濃度は約60重量%以上であり、運転の安全限界を大きく超えている。高濃度の過酸化水素水の小さなポケットは、有機運転液が運転液のループ内で以前に抽出塔内の水相と接触して「濡れている」ために生じる(残留水滴とも呼ばれる)。
【0012】
加えて、当該技術分野で知られているAOプロセスのさらなる問題は、ヒドロキノン種が酸化されてキノン種に戻ることに起因して酸化反応器において運転液の極性がわずかに低下し、これによって水相に関して運転液の過飽和が引き起こされることである。その結果、少量の水相が有機溶液から出てくる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、先行技術文献において特定された困難又は欠点のうちの1つ以上を克服することを目的とする。
【0014】
特に、本発明の目的は
・酸化反応器内の過酸化水素の濃度を制御すること;
・安全限界を超える過酸化水素濃度の生成を回避すること;
・抽出効率を高め、その結果過酸化水素の生産率を向上させること;
・望ましくない分解されたアントラキノン種の形成を減らすこと;
である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、アントラキノンプロセスによる過酸化水素の製造方法であって、
(1)水素化反応器中、不均一系触媒の存在下、1つ以上のアントラキノン誘導体を含む有機運転液を水素化して、1つ以上の水素化アントラキノン誘導体を含む水素化された有機運転液を得る工程;
(2)工程(1)で得られた水素化された有機運転液を、上部領域、中間領域、及び下部領域に分かれた酸化反応器において、工程(1)で得られた水素化された有機運転液を酸化反応器の上部領域に導入し、酸素含有ガスを前記酸化反応器の下部領域に導入することによって酸化することで、向流プロセスで過酸化水素を形成し、過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を得る工程;
(3)工程(2)で得られた過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を、脱気/デカンター複合装置に送るか、又は工程(2)で得られた過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を、酸化反応器の下部領域で直接デカンテーションしてから、続いて溶解した過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を脱気装置に送り、同伴ガスを膨張させて、過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を脱気する工程;
(4)工程(3)で得られた脱気され酸化された有機運転液を抽出塔の下部に導入し、水溶液と一緒にして過酸化水素を含む水相と有機相とを形成する工程;
(5)工程(4)で得られた水相を抽出塔の下部から抜き出し、有機相を抽出塔の上部から抜き出し、有機相を水素化反応器に戻す工程;
(6)工程(5)で抽出塔から抜き出した水相の少なくとも一部を酸化反応器の中間領域に戻す工程;及び
(7)過酸化水素水溶液を回収する工程;
を含む方法に関する。
【0016】
本発明によれば、過酸化水素水溶液は次の2つの方法で回収することが好ましい:
(a)過酸化水素水溶液は、酸化反応器の下部領域から直接抜き出すことができる(水相が酸化反応器の底部でより高密度の分離相を形成するため、好ましくはデカンテーションによって行われる)、或いは
(b)工程(6)において酸化反応器の中間領域に戻される、酸化された水相含有運転液を、脱気/デカンター複合装置に送り、そこで酸化された有機運転液をデカンテーションして過酸化水素を含む水相と有機相とを得てから、過酸化水素を含む水相を前記装置から抜き出す。
【0017】
さらに、本発明によれば、工程(5)で得られた水相のうち、酸化反応器の中間領域に戻されない部分は、工程(7)で過酸化水素水溶液として回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1-3】
図1~
図3は、先行技術(
図1)及び本発明(
図2及び
図3)によるプロセス流の流れ構成を概略的に示しており、装置1は酸化反応器であり、装置2は抽出塔であり、装置3は脱気装置又は脱気/デカンター複合装置であり、WSは有機運転液であり、DMWは脱塩水である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の本配合物が説明される前に、そのような実施形態は当然変化し得るため、記載される特定の実施形態に本発明が限定されないことは理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるであろうから、本明細書で用いられる専門用語が限定的であることを意図しないこともまた理解されるべきである。
【0020】
用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、「からなる(comprised of)」は、本明細書で用いるところでは、「含む(including)」、「包含する(includes)」又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同じ意味であり、包括的であるか又は制約がなく、そして追加の、非列挙のメンバー、要素又は方法ステップを排除しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「からなる(comprised of)」は、本明細書で用いるところでは、用語「からなる(consisting of)」、「なる(consists)」及び「からなる(consists of)」を含むことが十分理解されるであろう。
【0021】
本出願の全体にわたって、用語「約」は、ある値が、その値を測定するために用いられている装置又は方法についての誤差の標準偏差を含むことを示すために用いられる。
【0022】
本明細書で用いるところでは、用語「重量%(% by weight)」、「重量%(wt.-%)」「重量百分率」、又は「重量による百分率」は、同じ意味で用いられる。
【0023】
終点による数範囲の列挙は、その範囲内に含まれるすべての整数を含み、必要に応じて分数を含む(例えば要素の数に言及する場合には、例えば1~5は、1、2、3、4を含むことができ、例えば測定値に言及する場合には、1.5、2、2.75及び3.80も含むことができる)。終点の列挙はまた、終点値それら自体を含む(例えば1.0~5.0は、1.0及び5.0の両方を含む)。本明細書に列挙されるいかなる数範囲も、その中に含まれるすべての部分的な範囲を含むことを意図する。
【0024】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、それらの全体を参照により本明細書によって援用される。特に、本明細書で具体的に言及されるすべての参考文献の教示は、参照により援用される。
【0025】
特に定義されない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明を開示するのに用いられるすべての用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般に理解される意味を有する。特に、本発明の方法で使用される反応器は、別段の指示がない限り、従来技術で通常使用される反応器である。
【0026】
さらなる指針によって、用語定義は、本発明の教示をより良く十分理解するために含められる。
【0027】
次節において、本発明の異なる代替手段、実施形態及び変形がより詳細に定義される。そのように定義される各代替手段及び実施形態は、任意の他の代替手段及び実施形態と組み合わせられてもよく、そしてこれは、同じパラメータの値範囲が分離させられる場合にそれとは反対に明らかに示されないか又は明らかに矛盾しない限り、各変形についてもである。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴が、好ましい又は有利であると示される任意の他の1つ又は複数の特徴と組み合わせられてもよい。
【0028】
さらに、本説明に記載される特定の特徴、構造又は特性は、1つ以上の実施形態において、この開示から当業者に明らかであろうように、任意の好適な方法で組み合わせられてもよい。さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの、しかし他のものではない特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、当業者によって理解されるであろうように、異なる実施形態を形成する。
【0029】
本発明は、アントラキノンプロセスによる過酸化水素の製造方法であって、
(1)水素化反応器中、不均一系触媒の存在下、1つ以上のアントラキノン誘導体を含む有機運転液を水素化して、1つ以上の水素化アントラキノン誘導体を含む水素化された有機運転液を得る工程;
(2)工程(1)で得られた水素化された有機運転液を、上部領域、中間領域、及び下部領域に分かれた酸化反応器において、工程(1)で得られた前記水素化された有機運転液を前記酸化反応器の上前記部領域に導入し、酸素含有ガスを前記酸化反応器の前記下部領域に導入することによって酸化することで、向流プロセスで過酸化水素を形成し、過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を得る工程;
(3)工程(2)で得られた過酸化水素を含有する前記酸化された有機運転液を、脱気/デカンター複合装置に送るか、又は工程(2)で得られた過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を、酸化反応器の下部領域で直接デカンテーションしてから、続いて溶解した過酸化水素を含有する前記酸化された有機運転液を脱気装置に送り、同伴ガスを膨張させて、過酸化水素を含有する酸化された有機運転液を脱気する工程;
(4)工程(3)で得られた脱気され酸化された有機運転液を抽出塔の下部に導入し、水溶液と一緒にして過酸化水素を含む水相と有機相とを形成する工程;
(5)工程(4)で得られた水相を抽出塔の下部から抜き出し、有機相を抽出塔の上部から抜き出し、有機相を水素化反応器に戻す工程;
(6)工程(5)で抽出塔から抜き出した水相の少なくとも一部を酸化反応器の中間領域に戻す工程;及び
(7)過酸化水素水溶液を回収する工程;
を含む方法に関する。
【0030】
用語「アルキルアントラキノン誘導体」は、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖若しくは分岐脂肪族型の少なくとも1個のアルキル側鎖で1位、2位、又は3位において置換された9,10-アントラキノンを意味することが意図されている。通常、これらのアルキル鎖は、9個未満の炭素原子、そして好ましくは6個未満の炭素原子を含む。このようなアルキルアントラキノン誘導体の例は、2-エチルアントラキノン(EQ)のようなエチルアントラキノン、2-イソプロピルアントラキノン、2-sec-及び2-tert-ブチルアントラキノン(BQ)、1,3-、2,3-、1,4-及び2,7-ジメチルアントラキノン、2-iso-及び2-tert-アミルアントラキノンのようなアミルアントラキノン(AQ)及びこれらのキノンの混合物である。
【0031】
用語「テトラヒドロアルキルアントラキノン」は、上で明記した9,10-アルキルアントラキノンに相当する9,10-テトラヒドロキノンを意味することが意図されている。したがって、EQ及びAQに関して、それらはそれぞれETQ及びATQで表され、還元形態(テトラヒドロアルキルアントラキノン)はそれぞれETQH及びATQHである。
【0032】
好ましくは、AQ若しくはEQ、又は両方の混合物が使用される。
【0033】
「脱気/デカンター複合装置」という用語は、脱気装置とデカンターの両方の機能を同時に実行する単一の容器又は装置を指すことが意図されている。或いは、脱気/デカンター複合装置は、互いに直接又は別の装置の部品を介して接続された、2つの別個の連続した容器又は装置部品であってもよい。
【0034】
本発明の第1の処理工程では、1つ以上のアントラキノン誘導体を含有する有機運転液が不均一系触媒の存在下で水素化されて、1つ以上の水素化アントラキノンを含有する有機運転液(水素化された有機運転液とも表される)を与える。この処理工程で水素化できる運転液は、当該技術分野で公知である。適切な運転液は、典型的には、アントラキノン誘導体と使用されるアントラヒドロキノン誘導体とを溶解する不活性溶媒、又は混合溶媒であってそのうちの1つの溶媒がアントラキノン誘導体を溶解し、1つの溶媒が使用されるアントラヒドロキノン誘導体を溶解する混合溶媒を含む。
【0035】
運転液の有機溶媒は、典型的には2つの溶媒の混合物であり、一方はキノン類の良溶媒(一般的に非極性溶媒、例えば芳香族化合物の混合物)であり、他方はヒドロキノン類の良溶媒(一般的に極性溶媒、例えば長鎖アルコール)である。複数の適切な溶媒が従来技術で公知である。AOプロセスで通常使用される極性溶媒の例は、ジイソブチルカルビノール(DIBC)、リン酸トリオクチル(TOP)、テトラブチル尿素(TBU)、及び2-メチルシクロヘキシルアセテート(Sextate)である。非極性溶媒の例は重質芳香族溶媒ナフサ(C9/C10)であるS150であり、これは、限定するものではないが、Solvesso 150、Caromax、又はShellsol A150として商業的に知られている。
【0036】
本発明の方法で使用することができる適切な不均一系触媒は、従来技術で周知である。不均一系触媒は、パラジウム、白金、金、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、及びそれらの混合物から選択することができ、担体を含んでいてもよい。さらに、触媒は固定床触媒であってもスラリー触媒であってもよい。
【0037】
水素化された有機運転液が本発明による酸化反応を実施するための酸化反応器に導入される前に、水素化された有機運転液は不均一系触媒から分離される。これは、従来技術で公知の任意の方法によって行うことができる。
【0038】
本発明の方法において、生成する過酸化水素の分解を低減し、有機相と水相との分離を改善する目的で、1つ以上の酸性化化合物及び1つ以上の安定化化合物を添加することができる。
【0039】
酸性化化合物は、溶液のpHを酸性範囲(好ましくは0~6のpH範囲)に維持することを目的とした無機酸から選択することができる。使用される酸は、通常、硫酸、硝酸、リン酸、又はこれらの酸の2つ以上の混合物から選択される。
【0040】
安定化化合物は、通常、スズ酸、カルボン酸、例えばクエン酸、若しくはリン含有酸の無機塩、又はこれらの安定化化合物のうちの2つ以上の混合物である。スズ酸、ピロリン酸、メタリン酸、及びポリリン酸のアルカリ金属塩、並びにそれらの混合物などの安定化化合物を用いると、良好な結果が得られる。
【0041】
無機塩は、対応する酸の全ての水素原子が1つ以上の金属原子で置換された化合物、及び酸の水素原子の一部のみが1つ以上の金属原子で置換されており依然として酸性の性質を持つ化合物を表すことが意図されている。
【0042】
本発明の方法では、酸性化化合物と安定化化合物の両方を、装置1(酸化反応器)及び/又は装置2(抽出塔)及び/又は装置3(脱気装置又は脱気/デカンター複合装置)に入る液体流のいずれかに添加することができる。本発明によれば、好ましくは塔である酸化反応器は、上部領域、中間領域、及び下部領域の3つの領域に分割される。
【0043】
好ましくは、酸化反応器の中間領域は、酸素含有ガスが導入される高さよりも上であり有機運転液が酸化反応器に導入されるレベルより下である領域である。
【0044】
さらに、酸化反応器の中間領域は、反応を促進する内部構造を含むことが好ましい。これらの内部構造は、トレイ、充填材、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることがさらに好ましく、トレイは、好ましくは有孔トレイである。好ましくは、酸化反応器の中間領域はトレイを含む。さらに、酸化反応器の上部領域及び/又は下部領域はトレイを含まないことが好ましい。
【0045】
加えて、酸化反応器の上部領域が気液分離部であり、中間領域が酸化反応部であり、下部領域が過酸化水素沈降部、より好ましくは運転液を脱気装置に移送するためのデカンテーション部、又は回収された流体を脱気/デカンター複合装置に移送するための回収部のいずれかであることが好ましい。
【0046】
本発明で使用される酸化反応器は、向流で運転される。すなわち、好ましくは空気、酸素と不活性ガスとの混合物、空気と酸素との混合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酸素含有ガスが酸化反応器の下部領域に入り、水素化された有機運転液が酸化反応器の上部領域に入る。例えば中国特許第106672911号明細書に記載されているように並流方式ではなく向流方式で運転すること、すなわち酸素含有ガスと水素化された有機運転液が共に酸化反応器の下部領域に導入されると、反応器上部で運転液からオフガスを分離し易くなるため大きな利点を提供する。さらに、向流構成で運転することにより、ミストが形成されるリスクが低減される。このミストは、爆発性混合物になる可能性があり、火花によって着火して爆発を引き起こす可能性がある。
【0047】
好ましくは、本発明の酸化反応器は、約50℃~約68℃、より好ましくは約52℃~約65℃、さらにより好ましくは約57℃~約62℃の温度で機能する。酸化反応器が最適な温度で確実に機能するようにするために、酸化反応器は冷却器を備えていてもよい。冷却器の数は運転流量に依存し、当業者であれば容易に決定することができる。
【0048】
酸化反応器は、好ましくは約1~約10barg、約1.5~約9.5barg、約3~約9barg、約4~約8.5barg、より好ましくは約5~約8bargの圧力で運転される。
【0049】
酸化反応を十分に行うための酸化反応器内の運転液の滞留時間は、好ましくは約7~約40分、より好ましくは約10~約35分、又は約12~約20分である。
【0050】
酸化反応器内の局所過酸化水素濃度は、0~約70重量%、特には約25~約55重量%、より好ましくは約40~約52重量%に制御することができる。
【0051】
本発明の処理工程(2)で得られた過酸化水素を含む酸化された有機運転液は、好ましくは複数の又は単一のパイプ/煙突を通して、同伴ガスの膨張及び酸化された有機運転液の脱気のために脱気装置/デカンター装置に送られる。前記装置は、約0.05~約1.50barg、好ましくは約0.1~約1.0bargの運転圧力をわずかに上回って運転される。
【0052】
本発明の方法の好ましい実施形態では、脱気装置又は脱気/デカンター複合装置には、脱気を助ける内部構造が取り付けられる。脱気/デカンター複合装置内のデカンターは空であるか、又はデカンテーションを助けるための充填材などの結合媒体を含む。
【0053】
運転液は、脱気及びデカンテーションを可能にするために脱気/デカンター複合装置内に一定時間留まる。或いは、運転液は、脱気を可能にするために脱気装置内に一定時間留まる。
【0054】
本発明によれば、運転液を脱気(及び任意選択的にはデカンテーション)した後、脱気(及び任意選択的にはデカンテーション)され酸化された運転液が抽出塔の下部に導入され、好ましくは向流プロセスで水溶液と一緒にされて、過酸化水素を含む水相と有機相とを形成する。向流プロセスを行うために、水溶液、好ましくは脱塩水(DMW)が抽出塔の上部に添加される。
【0055】
それらの密度差のため、過酸化水素を含む水相は抽出塔の下部から抜き出され、有機相は抽出塔の上部から抜き出されてから水素化反応器に戻され、AOプロセスを継続することができる。
【0056】
(粗製)過酸化水素水溶液が抽出塔から回収されるだけの先行技術のプロセスとは対照的に、本発明によれば、抽出塔から抜き出される過酸化水素を含む水相の少なくとも一部、好ましくは水相の全量が、酸化反応器に戻される。それにも関わらず、本発明によれば、抽出塔から抜き出されてから酸化反応器の中間領域に戻されない過酸化水素を含む水相の一部は、過酸化水素水溶液として回収することができる。
【0057】
抽出塔から得られる水相の少なくとも一部は、上で定義した酸化反応器の中間領域に導入される。酸化反応器への水性再循環流の正確な導入位置は、酸化反応器に再循環されて戻された水相の過酸化水素濃度と、既に酸化反応器内にある水相液滴中の過酸化水素濃度とのバランスをとる必要性によって決定される。特に、水相は、酸化反応器に再循環されて戻される水相の過酸化水素濃度が酸化反応器内に既に存在する過酸化水素濃度と一致する場所で酸化反応器に導入する必要があり、これは酸化反応器の中間領域で生じる。
【0058】
抽出塔から抜き出された水相が酸化反応器の中間領域に戻されると、酸化反応器内で有機運転液中に形成された過酸化水素の一部が抽出塔から来る水相に抽出される。マスバランスにより、前記形成された水相の過酸化水素濃度は、抽出塔から再循環される水相の流量に反比例する。手短にいうと、酸化反応器内の過酸化水素濃度は、再循環流がないときに最も高くなり、抽出塔から来る水相流の全流量が酸化反応器に戻されるときに最も低くなる。
【0059】
抽出塔からの水相の少なくとも一部を酸化反応器の中間領域に再循環させることにより、酸化反応器内の過酸化水素濃度を制御することが可能になる。特に、酸化反応器内の局所的な過酸化水素濃度が高くなって安全限界を超えることを回避することができる。過酸化水素濃度の目標を安全運転領域内に設定することが可能である。
【0060】
酸化反応器内の過酸化水素濃度を制御するという利点に加えて、抽出塔から得られる水相の少なくとも一部を酸化反応器の中間に再循環するという化学的利点も存在する。過酸化水素を含む水相の少なくとも一部を酸化反応器の中間領域に再利用することにより、酸化反応器内の過酸化水素の平均濃度が低下し、その結果望ましくない6-アルキル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4a,9a-エポキシアントラセン-9,10-ジオン種の形成が減少する。
【0061】
本発明によれば、過酸化水素水溶液の回収は次の2つの方法で行うことができる:
(a)過酸化水素水溶液は、酸化反応器の下部領域から直接抜き出すことができる(水相は酸化反応器の底部でより高密度の分離相を形成するため、デカンテーションによって行うことが好ましい);又は
(b)工程(6)で酸化反応器の中間領域に戻された水相を含む酸化された運転液を脱気装置/デカンター装置に送り、そこで酸化された有機運転液をデカンテーションして過酸化水素を含む水相を得てから、その後過酸化水素水溶液を前記装置から抜き出すことができる。
【0062】
酸化反応器の酸化された有機運転液からの過酸化水素水溶液の分離、すなわち過酸化水素水溶液の回収は、デカンテーションによる2相(水相と有機相)の密度の差によって行われる。デカンテーションは、酸化反応器の下部領域又は脱気装置/デカンター装置のいずれかで行われる。デカンテーションは、酸化反応器又はデカンター/脱気装置における二相の滞留時間及び密度差のみによって達成されること、すなわち酸化反応器又はデカンターのデカンテーション部が、デカンテーションを促進する結合媒体又は他の内部構造を含まないこと、すなわちデカンテーション部/デカンターが空であることがさらに好ましい。
【0063】
そうではあるものの、本発明によれば、酸化反応器及び/又は脱気/デカンター装置は、構造化充填材などのデカンテーションを改善するための設備を含んでいてもよい。デカンテーション内部構造材料は、ステンレス鋼、ポリマー(例えばPTFE、ETFE)、セラミック、又はこれらの要素の混合であってよい。
【0064】
回収された過酸化水素溶液は、当該技術分野で公知の方法によって、その後の使用のために精製及び/又は濃縮することができる。
【0065】
実施例で実証されるように、本発明の新規なプロセス流れ構成を使用し、有機運転液の組成、特に有機溶媒混合物の溶媒とアントラキノン誘導体との組成を考慮することにより、次式
【数1】
で定義される約85以上、好ましくは約100以上、より好ましくは約140以上の分配係数Kでプロセスを運転することが可能である。
【0066】
さらに、本発明の方法は、高い生産性、すなわち好ましくは運転液1kgあたり14gを超える過酸化水素の生産性を示す。特に、プロセスの生産性が運転液1kg当たり約8~約20gの過酸化水素、好ましくは運転液1kg当たり約14~20gの過酸化水素となるようにプロセスを運転することが可能である。
【0067】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示される。以下の実施例は説明目的のためのものにすぎず、本発明をそれに制限するために使用されるのではないことは理解されるはずである。
【実施例】
【0068】
以下の式及び計算は、本発明のプロセスを使用することにより、酸化塔内で過酸化水素(H2O2)濃度を目標とすることができる理由及び方法を示す:
【0069】
定義及びバランス
WS=運転液
w=水
hp=H2O2
F=流れ
R=抽出塔から酸化塔への再循環流
P=製造ユニットを出る水相の生成物流
Prod=生産性(運転液1kg当たりのH2O2のg)
C=水相中のH2O2濃度(%wt/wt)
Dp=残留水滴
M=反応により酸化装置中で生成したH2O2の質量
K=(P中のhpの質量/P中のwの質量)/(WS中のhpの質量/WSの質量)
流れの命名規則の例:
FWShpout-運転液過酸化水素流出流(酸化装置を出る)
A=流出比率(P中のhpの質量/P中のwの質量)
B=流出比率(WS中のhpの質量/WSの質量)
K=A/B-分配係数
合計流入H2O2=合計流出H2O2
合計流入H2O2=M+FRhpin
合計流出H2O2=FWShpout+FPhpout
合計流出H2O2=FWSout*A/K+Fwout*A
A=合計流出hp/(FWSout/K+Fwout)
分配係数Kは、運転液中の極性溶媒の濃度を変えること、及び/又は極性溶媒の種類を変えることによって変えることができる。Kの値は、当業者によるラボ実験によって決定することができる。
【0070】
抽出塔から酸化反応器への水性流の再循環を用いた実施例1~3。
これらの計算例は、
図2と
図3の両方に当てはまる。
図2の場合、水性生成物の流れPは、装置1の酸化反応器から直接出る。この例を
図3に適用する場合、バランスは酸化塔である装置1のみに適用されるが、水性生成物Pは系から出る前に装置3であるデカンターに移動すると想定される。装置3はマスバランスを変化させない。
【0071】
実施例は3つのバリエーションを取り扱う:
・実施例1:抽出塔から酸化塔に入る再循環流中の過酸化物の流量と濃度を変化させることにより、プロセスから出る生成物流中の過酸化水素濃度をどのように一定に保つことができるかを実証するために、分配係数Kを変化させる。
・実施例2:抽出塔からの再循環における過酸化水素の濃度と流量を変化させることにより、一定の生産性及び/又は分配係数Kで生成物濃度を変化させる。
・実施例3:生産性が異なる場合であっても、酸化装置又は脱気/デカンター複合装置から出る生成物流中の過酸化水濃度をどのように一定に保つことができるかを実証するために、生産性を変化させる。
【0072】
この3つのバリエーションは、酸化塔内で形成される過酸化水素の濃度を制御し、酸化塔内で有機物と爆発性混合物を形成する可能性のある濃度未満に維持できることを示している。水溶液中の過酸化水素の濃度の場合、過酸化水素水溶液と有機溶液との間に爆発性混合物が形成され得ることが知られている。このような爆発性混合物を回避するためには、酸化塔内の過酸化水素濃度を制御するための制御可能なシステムを備えることが最も重要である。以下の実施例は、このような爆発性混合物を回避するために、水相中の過酸化水素の濃度をどのように制御できるかを示している。
【0073】
表1の実施例は、抽出塔からの水相の全流量が酸化塔の中間領域に向けられ、そのため全ての生成物が酸化の下部領域又は脱気/デカンター複合装置のいずれかに回収されることを考慮している。
【0074】
【0075】
式
FWSout=FWSin
Mhp=FWSin*Prod/1000
FPhpout=Mhp
FPwout=FPhpout/CP*(100-CP)
FRwin=FPwout
B=A/K=CP/(100-CP)/K
FWShpout=B*FWSout
FRhpin=FWShpout
CRhpin=FRhpin/(FRhpin+FRwin)*100
【0076】
入力
Prod
K
FWSin
CP
【0077】
抽出塔から酸化反応器への再循環を行わない実施例4~6
これらの計算例は
図1に当てはまる。
【0078】
抽出塔から酸化反応器への再循環を行わない実施例は、3つのバリエーションに分けられる。
・実施例4:分配係数Kを変化させ、酸化装置内の残留水滴中の過酸化水素濃度を計算する。
・実施例5:再循環流がないため酸化装置内の条件が変化せず、抽出塔内の濃度を変化させることができる。
・実施例6:酸化装置内の残留水滴中の過酸化水素濃度がどのように安全閾値を超えるかを示すために、生産性を変化させる。
【0079】
表2では、H2O2の質量濃度(表の最後の行)は、再循環流が存在せず装置2に水の添加がないため、大きな水相ではなく計算される。しかし、むしろ、抽出塔で分離されずに触媒と接触するWSに溶解した残留DMWとH2O2が水を生成する場所である水素化区域を経由して入る残留水のため、酸化装置に入るWSは「湿った」状態にある。
【0080】
この残留水は、酸化装置に入る水素化運転液に混合された液滴形態として存在する。このため、過酸化水素濃度が一定の濃度を超えると、爆轟を伝播できる混合物が形成される。
【0081】
【0082】
式
FWSout=FWSin
FRwin-InputZero
FRhpin-InputZero
CRhpin-InputZero
FPwout=FRwin
FPhpout=Mhp
FWShpout=B*FWSout
Mhp=FWSin*Prod/1000
B=Mhp/FWSout
DpRatio=B*K
DpConc=DpRatio/(DpRatio+1)*100
【0083】
入力
Prod
K
FWSin
FRhpin
CRhpin
FPwout
【0084】
表1と表2、特に「分配係数Kの変化」の列を比較すると、本発明では分配係数K(115~206で変化する)に関わらず、再循環流を利用すると酸化反応器内で45%の同じ生成物濃度が得られることを観察することができる。
【0085】
表2からは、抽出塔から酸化反応器への再循環流がないと、酸化反応器内の残留水滴内の過酸化水素濃度が66%を超える濃度に到達し得ることを観察することができる。これらの実施例では、17g H2O2/kgWSの生産性で、酸化反応器内で66%~78%の残留水滴濃度が得られる。このような濃度は、運転安全領域から大きく外れている。本発明によれば、運転液中の過酸化水素の運転生産性が14g/kgを超える場合、或いは「高生産性」と呼ばれる場合には、酸化反応器を安全な形で運転することが可能である。
【0086】
分配係数がおよそ140(例えば85)未満で生産性が8g/kgである場合にのみ、水の再循環なしで運転し、安全運転限界内の過酸化水素濃度を達成することが可能である。分配係数の値が非常に低いと、抽出塔の働きが不十分になる。
【0087】
特に表1と表2の両方の「抽出からのリサイクル濃度の変化」の列を比較することによって、本発明の方法を使用することにより過酸化水素濃度を目標にすることができることが実証される。これらの実施例では、17g/kgの生産性と115の分配係数を考慮して、濃度は40%~50%に制御されるが、再循環流が存在しない場合には濃度は66%になる。この表は、抽出塔から酸化塔に入る過酸化水素の流量と濃度を制御することによって、酸化装置内で形成される過酸化水素の濃度を制御できることを示している。本発明の表1の実施例では、酸化装置内で形成される過酸化水素の濃度は、一定の生産性及び分配係数Kで40~50%で変化する。実際、抽出塔から酸化塔に入る再循環流の流量及び濃度を変えることによって最大66%の濃度を目標にすることができる(表2の実施例)。酸化反応器に再循環流を導入することにより、過酸化水素の正確な望まれるH2O2濃度を予測して目標とすることが可能になる。再循環流がない場合には、残留水滴中のH2O2濃度は、常に分配係数Kと生産性によって純粋に決定される。
【0088】
表1と表2、特に「生産性の変化」の列を比較すると、本発明では、一定の分配係数KでWS生産性を変化させた場合、再循環流を用いると、酸化装置内の同じ目標の45.0%のH2O2濃度を達成できることを観察することができる。
【0089】
これを使用しない場合、酸化装置内の残留水滴の濃度は53%~72%に到達し、運転安全領域外になる。このことは、再循環流なしでは高い生産性で運転することが危険であることを意味する。このことは、本発明により、無視できる安全性リスクで高い生産性(>14g H2O2/kg WS)で運転することが可能であることを意味する。
【0090】
再循環流を使用せずに運転安全領域内に留まらせるためには、プラントを低い生産性と低い分配係数で運転しなければならず、プラントの運転が非効率になる。
【0091】
まとめると、抽出塔から抜き出された水相の少なくとも一部を酸化反応器の中間領域に戻す再循環は、次の利点を有する:
・酸化反応器上部での気相からの有機相の分離の改善:
有機溶液を酸化反応器の下方に流し、空気を向流で酸化反応器の上方に流すことにより、酸化反応器のヘッドスペースで両方の相を分離する必要がある場合に、酸化反応器のヘッドスペースでの危険な爆発性ミストの形成を大幅に減らすことができる。
・酸化反応器内の過酸化水素濃度の制御:
酸化装置内の過酸化水素の濃度は、反応生産性(g/kg)及び分配係数Kには依存しない。酸化塔から制御された強度で生成されるため、プロセスのさらに下流に蒸留塔を設ける必要をなくすことができる。
・高濃度H2O2生成の回避:
本発明は、高い生産性での運転と組み合わせることで、酸化塔内で形成されるH2O2水溶液の濃度の制御を可能にし、安全限界を超える濃度を回避することができる。
・抽出効率の向上:
酸化装置内で水溶液と有機溶液とを混合することにより、H2O2抽出の段階が1つ増えることになり、全体的な抽出効率が向上する。
・6-アルキル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4a,9a-エポキシアントラセン-9,10-ジオンの形成率の低下:
ヒドロキノンとH2O2との組み合わせにより、6-アルキル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4a,9a-エポキシアントラセン-9,10-ジオンの形成速度が増加することが知られている。これは転換が必要な種である。転換のプロセスで損失が生じ、キノンの消費量が多くなる。WSと接触するH2O2の濃度を下げることにより(H2O2が水相に移動するため)、エポキシド形成速度が低下し、その後のキノンの消費量も低下する。
【国際調査報告】