(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】油圧部品用薄肉コーティング
(51)【国際特許分類】
E02F 9/00 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
E02F9/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531197
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 US2022080309
(87)【国際公開番号】W WO2023107821
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391020193
【氏名又は名称】キャタピラー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソーデレ、ダニエル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ゴスロビッチ、クルト エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン、スティーブン ジェイ.
(57)【要約】
油圧部品用薄肉コーティングを提供する。機械100の油圧システム(114)部品(116、118、120)の例は、高速度空気燃料(HVAF)サーマルスプレー(218)により堆積された保護コーティング(504)を含み、高い密着強度および表面形状を示し、潤滑剤の密着を促進し、油圧システム(114)からの油および/または油圧流体の漏れを低減させる。コーティング(504)は、R
Z値が2μm未満の表面粗さおよび1000ビッカース以上の硬度を有することができる。HVAFコーティング504は、従来の厚さ100μm未満のコーティングよりも薄くてもよい。HVAFコーティング(504)は、高速酸素燃料(HVOF)によって達成される接着強度よりも高い接着強度で、さまざまな鋼部品に堆積することができる。HVAFコーティング(504)は、時間のかかる粗面化および/または後研磨操作なしで形成できるため、従来のコーティングに比べてコストを節約できる。コーティング(504)の動作寿命は1000時間以上であってもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧部品(116、118、120)であって、
鋼表面(502)と、
前記鋼表面上に配置されたコーティング(504)と、を含み、
前記コーティング(504)は、タングステンカーバイド(WC)を含み、
前記コーティング(504)の厚さは100マイクロメートル(μm)未満であり、
前記コーティング(504)は、ピーク・タレー深さ(Rz)が2μm以下であることを特徴とする表面形態を含み、また、
前記コーティング(504)は、1000ビッカースを超える硬度を有することを特徴とする、油圧部品(116、118、120)。
【請求項2】
前記油圧部品(116、118、120)は、(i)ロッド(120)、(ii)シリンダ(116)、または(iii)ピストン(118)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の油圧部品(116、118、120)。
【請求項3】
鋼バルク部分であって、前記鋼表面(502)が前記鋼バルク部分の上に位置し、前記鋼バルク部分は、(i)アメリカ鉄鋼協会(AISI)4130鋼、(ii)AISI 4330鋼、または(iii)低合金鋼のうちの少なくとも1つを含む、鋼バルク部分をさらに含む、請求項1に記載の油圧部品(116、118、120)。
【請求項4】
前記コーティング(504)は、さらにコバルト(Co)およびクロム(Cr)を含む、請求項1に記載の油圧部品(116、118、120)。
【請求項5】
前記コーティング(504)の厚さは25μm未満である、請求項1に記載の油圧部品(116、118、120)。
【請求項6】
前記コーティング(504)は、1300ビッカースを超える硬度を特徴とする、請求項1に記載の油圧部品(116、118、120)。
【請求項7】
方法(300)であって、
鋼表面(502)を有する鋼部品(116、118、120)を形成するステップと、
前記部品(116、118、120)を研磨するステップと、
高速空気燃料(HVAF)サーマルスプレー(218)を使用して、前記鋼表面(502)の少なくとも一部に前記コーティング(504)を堆積するステップであって、前記コーティング(504)は、タングステンカーバイド(WC)、コバルト(Co)、およびクロム(Cr)を含み、前記コーティング(504)の厚さは100μm未満である、前記ステップと、
前記コーティング(504)を山谷深さ(Rz)2μm以下まで磨くステップと、を含む、方法(300)。
【請求項8】
鋼表面(502)を誘導加熱するステップと、
前記鋼表面(502)を焼き入れして、前記鋼表面(502)の硬度が少なくとも50ロックウェル硬度スケールC(HRC)となるようにするステップと、を含む、請求項7記載の方法(300)。
【請求項9】
HVAFサーマルスプレー(218)は、焼結され粉砕された粉末原料(404)を使用する、請求項7に記載の方法(300)。
【請求項10】
前記コーティング(504)は、1000ビッカーを超える硬度を有する、請求項7に記載の方法(300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧部品の形成に関する。より具体的には、本開示は、油圧ロッドおよび/またはシリンダを薄肉コーティングでコーティングすることに関する。
【背景技術】
【0002】
機械は、建設、鉱業、舗装、林業、その他の同様の業界で広く使用されている。これらの機械は、土などの材料の持ち上げ、移動、投棄などのさまざまな作業を実行するために使用される。その結果、これらの機械は一般的に作業具、またはツールを装備している。機械のツールには、油圧システムが含まれていることや、油圧システムによって操作されることがよくある。油圧システムは、一般的に、シリンダと、シリンダ内に位置するピストン、またはロッドを含む。油圧システムは、シリンダ内の流体の圧力を調整してロッドをシリンダから引き出したり、シリンダ内に引き込んだりすることで、動作を実行するように制御される。シリンダ内の圧力は、ポンプとリリースメカニズムを使用して油圧流体を加圧または減圧することで増減する。そのため、油圧システムの部品はシリンダ内で高圧にさらされる。
【0003】
油圧システムは、多くの場合、高温、低温、湿気などの厳しい環境条件で動作する。また、過酷な動作環境は、油圧部品の摩耗を加速させる。例えば、水分の存在下で動作するとロッドが酸化し、ロッドが油圧システムのシリンダ内を移動すると、付着や油漏れの問題が発生する。幾つかの場合、ロッドが十分な範囲のフィルムでコーティングされていない場合、水やその他の酸化剤がコーティングを貫通して、下にある鋼鉄が酸化することがある。これによりコーティングに気泡が発生し、ロッドの保護コーティングがさらに剥離する。加えて、ロッド上の酸化部位は、油圧システムの動作中に付着および/または油漏れを引き起こす。
【0004】
油圧システムのロッドに保護コーティングを施す例は、中国特許第11,033,135号(以下、「135特許」という)に記載されている。「135特許」では、200μmから300μmの範囲で主にニッケル(Ni)コーティングが記載されている。このプロセスでは、Ni含有材料を複数回塗布する必要がある場合があり、時間とコストのかかるプロセスになる。さらに、「135特許」のプロセスは、Ni含有材料に特有のものであり、タングステンカーバイド(WC)材料を含むサーマルスプレーコーティングなど、他の種類のより薄くコスト効率の高いコーティングには適用されない。
【0005】
本開示の実施形態は、上述した不備を克服することに向けたものである。
【発明の概要】
【0006】
本開示の一例では、油圧部品は、鋼表面と、この鋼表面上に配置されたコーティングとを含む。コーティングはタングステンカーバイド(WC)を含み、コーティングの厚さは100マイクロメートル(μm)未満である。コーティングはさらに、山谷深さ(Rz)が2μm以下であることを特徴とする表面形態を含む。コーティングはさらに、さらに、1000ビッカースを超える硬度を有することを特徴とする。
【0007】
本開示の他の例では、機械は、鋼表面と、高速度空気燃料(HVAF)サーマルスプレー堆積コーティングとを含む油圧部品を含む。コーティングの厚さは100マイクロメートル(μm)未満である。コーティングはさらに、山谷深さ(Rz)が2μm以下であることを特徴とする表面形態を含む。コーティングはさらに、1000ビッカースを超える硬度を有することを特徴とする。
【0008】
本開示のさらに別の例では、方法は、鋼表面を有する鋼部品を形成することと、その部品を研磨することとを含む。方法は、さらに、高速空気燃料(HVAF)サーマルスプレーを使用して、鋼表面の少なくとも一部にコーティングを堆積するステップであって、コーティングはタングステンカーバイド(WC)、コバルト(Co)、およびクロム(Cr)を含み、コーティングの厚さは100μm未満である、前記ステップをさらに含む。方法は、前記コーティング(504)を山谷深さ(Rz)2μm以下まで磨くステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の例に従って形成された1つまたは複数の油圧部品を備えた例示的な機械の概略図である。
【
図2】本開示の例に係る、
図1に示される機械の油圧部品を形成するための薄肉コーティングシステムの一例の概略図である。
【
図3】本開示の例に係る、
図1に示される機械の薄肉コーティングを備えた油圧部品を形成するための例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の例に係る、
図1に示すような機械の油圧部品の薄肉コーティングを堆積するための粉末の例を示す顕微鏡写真である。
【
図5】本開示の例に係る、鋼表面およびその上のコーティングを備えた例示的な部品表面の磨かれた断面画像である。
【
図6】本開示の例に係る、薄肉コーティングを施したロッドの一例を曲げ試験にかけたときの断面図および顕微鏡写真である。
【
図7】本開示の例による薄くて緻密なコーティング、および従来のメカニズムによって堆積されたコーティングの磨かれた断面顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
可能な限り、図面において、同一の参照番号を使用して同一または類似の部品を示す。
図1は、本開示の例に従って形成された1つまたは複数の部品を備えた例示的な機械100の概略図である。機械100はブルドーザーとして描かれているが、機械100は、建設、農業、採鉱、舗装、輸送などで使用されるものなど、任意の適切なタイプであってもよいことを理解されたい。他の例では、機械100は、トラック、採鉱トラック、ローダー、掘削機、タンク、バックホー、掘削機、トレンチャ、コンバイン、またはその他のオンハイウェイまたはオフハイウェイ車両など、任意の適切な機械100であってもよい。
【0011】
機械100は、機械100の他の要素が取り付けられるフレーム102を含む。機械100は、図示のように、トラックチェーンアセンブリ等の推進システム104を含む。あるいは、機械100は、車輪やタイヤなど、他の適切なタイプの推進システム104を有してもよい。機械100は、炭化水素燃料を用いた内燃機関等のエンジン106をさらに含む。あるいは、機械100は、電動機械であってもよい。機械100は、排気システム108および/または1つまたは複数の油圧システム114によって移動可能な切断刃112を有する1つまたは複数の作業システム110を含む。機械100は、エンジン106と推進システム104とを機械的に結合するトランスミッションシステム(図示しない)も含む。本開示の例によれば、推進システム104、エンジン106、排気システム108、作業システム110、油圧システム114、トランスミッションなどのさまざまな部品を含む機械100の任意の部品は、本明細書に開示されたプロセスによって形成されてもよい。加えて、機械100の前述の部品のいずれも、本明細書で開示されたプロセスによって形成された場合、本明細書で開示された構造および結果として生じる材料特性を有してもよい。機械100は、本明細書で開示されたコーティングやプロセスに応じて形成され得る、本明細書では説明しない他の種々の適切な部品を含んでもよい。例えば、一部の機械100は、車軸をフレーム102に結合するサスペンションシステムを含んでもよい。このようなサスペンションシステムは、油圧システム114と同様の流体メカニズムによって地上力を減衰させるばねユニットおよびダンパユニットを含んでもよい。
【0012】
油圧システム114は、断面図に示すように、断面図に示すように、シリンダ116と、ピストンロッドまたはロッド120にしっかりと結合されたピストンを含む。ピストン118およびロッド120は、シリンダ116に移動可能に結合されている。ピストン118は、作業システム110に機械的に結合され、土砂の持ち上げや砂利の再分配などの作業タスクを実行する。動作中のシリンダ116、ピストン118、および/またはロッド120には、加圧された油圧流体などによって比較的高いレベルの応力が加わってもよい。加えて、油圧システム112の動作中に、ピストン118および/またはロッド120がシリンダ116に衝突してもよい。さらに、油圧システム114の動作中に、ロッド120がシリンダ116の一部に沿ってスライドし、ロッド120の長さに沿って摩擦力が生じてもよい。したがって、シリンダ116および/またはロッド120は、ロッド120の外径の摩耗などの摩擦学的故障を起こしやすくなる。加えて、動作条件により、シリンダ116、ピストン118、および/またはロッド120は酸化および/または他の形態の腐食を受ける場合がある。ロッド120などのこの種の酸化欠陥は、過度の摩擦力、潤滑油の漏れ、油圧流体の漏れ、および/または油圧システム114のその他の動作障害および/または劣化につながる可能性がある。本明細書に開示されたような処理メカニズムおよび材料組成は、ロッド120、シリンダ116および/またはピストン118に適用すると、硬質クロムメッキ等でコーティングされたものよりも比較的耐食性が高く、密度の低いサーマルスプレーコーティングにより、油圧システム114の寿命が長く、および/または、より最適な動作につながる。
【0013】
本開示の例では、ロッド120、ピストン118、および/またはシリンダ116の内径は、これらの部品を酸化および/または腐食から保護するとともに、油圧システム114の機能にとって理想的な、または少なくとも改善された表面トポロジーを提供するために、薄くて高密度のコーティングでコーティングされてもよい。たとえば、ロッド120は、ロッド120の表面に所望のレベルの表面潤滑を維持する表面トポロジーを提供するコーティングでコーティングされてもよい。これにより、ロッド120はシリンダ116内で往復、回転、および/または伸縮式に動くことができる。さらに、コーティングは、ロッド120または機械100の他の部品をあらゆる種類の酸化および/または腐食から保護してもよい。コーティングは、より均一に塗布され、ピンホール欠陥が少なく、腐食条件に対する下層の鋼製部品の優れた保護を提供し、接着強度が向上し、コーティングをより薄くでき、処理ウィンドウが広くなり、硬度が高くなり、それにより、耐久性が向上し、動作寿命が長くなり、粗さプロファイルが改善され、および/またはロッド120または機械100の他の部品の従来のコーティングと比較して低コストで塗布され得る。油圧システム114はドーザー内に示されているが、ここで開示されている油圧システム114は、任意の適切な機械100に適用できることは理解されるべきである。たとえば、ここで開示されているコーティングを備えた油圧システム114は、オフハイウェイトラック、採掘トラックなどのあらゆる種類のトラックで使用できる。このような油圧システム114は、持ち上げ、吊り下げ、牽引、伸長などの任意の適切な用途で使用できる。
【0014】
幾つかの場合、ロッド120上の従来のコーティングは、被覆が不十分で不完全であるため、ロッド120の下層の鋼に水分が侵入し、鋼表面が酸化(錆の形成など)されることがある。ロッド120上のこれらの表面酸化箇所により、ロッド120の表面に膨張や突起(錆の泡など)が生じることがある。油圧システム114の動作中、ロッド120がシリンダ116と接触しながらシリンダ116に出入りすると、酸化によって生じた突起がせん断されることがある。この酸化された領域のせん断により、油圧システム114の動作中に摩擦力がさらに増大することがある。加えて、酸化部位によって表面トポグラフィーが増大すると、動作中に潤滑剤や油圧流体がさらに漏れることがある。これらおよびその他の問題は、本明細書に開示されたコーティングおよび/またはプロセスを使用することにより回避および/または緩和される。サスペンションシステム(複数可)は、動作中に同様の故障モードを経験する可能性がある。
【0015】
幾つかの場合、油圧システム114に関連するもの以外の部品が、本明細書で開示されているコーティングおよびプロセスでコーティングされる可能性がある。例えば、作業システム110の切断刃112および/または他の部品は、砂利の移動、石の拾い上げ、アスファルトの再分配など、摩擦学的および/または熱的に厳しい動作環境にさらされる可能性がある。多くの場合、切断刃112は硬い物体(例えば、岩)との衝撃を繰り返し受け、幾つかの場合比較的高温(例えば、熱アスファルトおよび/またはタールを分配する際、摩擦加熱等による)の影響を受けることもある。本発明の態様は、本発明に記載のように、切断刃112および/または作業システム110の他の部品を、保護コーティング等のコーティングで形成することができる。これにより、切断刃112の使用寿命を長くすることができる。エンジン106は、本明細書に開示されたように、コーティングおよび/またはプロセスによっても強化され、これらの部品の表面特性および/または寿命を向上させることができる各種の部品を含んでもよい。
【0016】
別の例として、推進システム104には、トラックシューやブッシングなどの1つまたは複数の部品が含まれる場合がある。これらの部品は、高レベルのストレスや摩擦力が加わる過酷な環境にさらされる可能性がある。たとえば、トラックシューは地面または他の表面に接触し、その上で機械100を推進する。したがって、トラックシューは、機械100が摩耗面を移動する際に、数十トンまたは数百トンにもなる機械100全体の重量を支える。同様に、ブッシングは、非常に高い負荷で推進システム104の他の金属部品に擦り付けられる。これにより、ひび割れ、かじり、その他の欠陥などのさまざまな問題が発生する可能性がある。推進システム104は、トラック推進システムの形態で、転動体、スプロケット、フロントアイドラー、リアアイドラー、トラックローラーなどの他の部品を含み、これらは、重い負荷および/または高レベルの摩耗が加わる過酷な条件下で動作する。したがって、推進システム104には、本明細書で開示されているコーティングおよび/またはプロセスで強化して、それらの部品の耐久性および/または寿命を改善できるさまざまな部品が含まれる場合がある。さらに、本明細書で開示されているコーティングおよびプロセスは、トラック(たとえば、採掘トラック)のサスペンションシステムなどのサスペンションシステム(複数可)の部品に適用できる。
【0017】
本開示の例によれば、ロッド120および/または油圧システム114および/または機械100の他の部品は、サーマルスプレーを使用して堆積されたコーティングでコーティングできる。このサーマルスプレーには、従来の高速酸素燃料(HVOF)プロセスよりもそれぞれ低い、および高い粉末温度および速度を生成する高速空気燃料(HVAF)プロセスが含まれる場合がある。例示的な実施形態では、HVAFプロセスは、タングステンカーバイド(WC)を含むコーティングを提供する粉末原料を使用してもよい。幾つかの場合、コーティングにさらにコバルト(Co)および/またはクロム(Cr)が含まれてもよい。例えば、粉末原料は、約86重量%のWCであり、残部はCo、Crであってもよい。例えば、粉末原料の組成、および、コーティングは、WCが86重量%、Coが10重量%、Crが4重量%程度であってもよい。他の場合、WC含有量は、約50重量%から約95重量%であってもよい。本開示のいくつかの例では、粉末原料は焼結され、粉砕され、粉末中のWC粒子のサイズは約0.3μmから約1.5μmであってもよい。本開示の他の例では、粉末原料は焼結され、粉砕され、粉末中のWC粒子のサイズは約0.5μmから約1μmであってもよい。本明細書の議論はWCベースのコーティングに焦点を合わせているが、本明細書の開示に従って、Crベース、Niベースのコーティング、炭化クロム(Cr2C3)コーティング、ステライト合金コーティング、高Cr/Niステンレス鋼合金コーティングなど、任意の適切なコーティングを使用できることを理解されたい。
【0018】
コーティングは、ロッド120上にHVAFサーマルスプレーを使用して、約15μmから約80μmの範囲の厚さで提供されてもよい。他の場合、コーティングの厚さの範囲は約25μmから約60μmの間であってもよい。例えば、幾つかの場合、コーティングの厚さは約40μmであってもよい。コーティングの硬度は、約800ビッカースから約1400ビッカースであってもよい。幾つかの場合、コーティングの硬度は、約1100ビッカースから約1300ビッカースであってもよい。さらに他の場合、コーティングの硬度は、約1150ビッカースから約1250ビッカースであってもよい。
【0019】
本開示の例によれば、Rzおよび/またはRZDINで測定した表面仕上げは約2μm未満であってもよい。本明細書で使用されているRzは、プロファイロメータ、光学粗さ測定ツールなどの表面仕上げ測定ツールによって決定される山谷深さを定義する。ここで、RZDINは、プロファイロメータ、光学粗さ測定ツールなどの表面仕上げ測定ツールによって決定される、所定のスキャン長さにわたる所定の数の山と谷の山谷深さを定義する。たとえば、幾つかの場合、半径5μmのダイヤモンドチップと7つの0.8mmカットオフサンプリング長さ(合計5.6mm)およびガウスフィルタを備えた表面プロファイロメータが使用されてもよい。例えば、RZDINは、5.6ミリメートル(mm)の表面粗さ計スキャンにおける上位5つの山と下位5つの谷の平均山谷深さとして定義されてもよい。言い換えれば、RZDINはRZDIN={(P1+P2+P3+P4+P5)-(D1+D2+D3+D4+D5)}/5として定義されてもよく、ここで、P1、P2、P3、P4、およびP5は、所定のスキャン長さ(例:5.6mm)にわたる上位5つのピーク高さを表し、同様に、D1、D2、D3、D4、およびD5は、所定のスキャン長さにわたる下位5つの谷の高さを表す。幾つかの場合、コーティングの表面トポロジーをスキャンする際のノイズおよび/またはサンプリング誤差の影響を低減するために、Rzの代わりにRZDINメトリックを使用してもよい。コーティングのRzおよび/またはRZDINは、約0.6μm~約1.8μmの範囲であってもよい。他の場合、コーティングは、Rzおよび/またはRZDIN値を約1μm~約1.4μmの範囲で有していてもよい。ここで説明するように、Rzおよび/またはRZDIN値を持つコーティングは、油圧システム114の部品(ロッド120、シリンダ116、ピストン118など)の表面における潤滑剤(例えば、油)の保持において優れた性能を発揮するとともに、ロッド120がシリンダ116内でストロークされる際に潤滑剤および/または油圧流体の漏れの量を減らすことができる。
【0020】
本明細書に記載のように、サーマルスプレーコーティングでコーティングされたロッド120、ピストン118、シリンダ116、および/または機械100のその他の部品は、あらゆる種類の鋼または他の金属材料などの適切な材料で形成してもよい。たとえば、ロッド120、ピストン118、シリンダ116、および/または機械100のその他の部品は、アメリカ鉄鋼協会(AISI)4130鋼、AISI4330鋼、あらゆる種類の低炭素鋼、あらゆる種類の中炭素鋼、あらゆる種類の高炭素鋼、あらゆる種類の合金鋼などを使用して形成してもよい。本明細書に記載のように、コーティングを形成するためのHVAFプロセスは、部品を粗くすることなくこれらの材料に直接堆積できるため、予備堆積および/または後堆積の処理が削減される。
【0021】
実施形態の例では、HVAFプロセスは、低温かつ高速で粒子を生成するという点でHVOFのような従来のプロセスとは異なり、これらを組み合わせることで、非常に高い接着強度を持つ高密度のコーティングが得られ得る。ここで説明する粉末原料を使用するHVAFサーマルスプレープロセスでは、ピンホールが少なく高密度のコーティングが得られるため、従来のHVOFコーティング技術に比べて大幅に薄い層で、下層の基板の腐食保護を大幅に向上させることができる。加えて、さらに、コーティングを形成する際のさまざまな操作の数を減らし、より薄いコーティングや高品質のコーティングを使用できることにより、油圧システム114部品をコーティングする従来の技術に比べてコストを節約できる。
【0022】
HVAFプロセスでは、比較的高いコーティング速度と高い表面接着も可能になる。実施形態の例では、HVAFプロセスでは、ノズルから空気および燃料とともにコーティング粉末または原料粉末を噴射してもよい。加圧プロパン、プロピレン、天然ガスなどの燃料は、加圧空気とともに、ノズルを通して供給される混合物として、その燃焼炎でコーティング粉末を搬送してもよい。例えば、コーティング粉末は、ロッド120などの油圧システム114部品にWCを堆積するためのWCベースの粉末であってもよい。本明細書で説明する粉末原料を使用するHVAFサーマルスプレープロセスは、コーティングされる部品の下にある鋼表面への接着強度が比較的高いため、グリットブラストなどの粗面化プロセスが通常必要なHVOFプロセスとは異なり、コーティングをスプレーする前に部品を粗面化する必要がない。
【0023】
加えて、さらに、HVAFサーマルスプレープロセスは、厚さ100μm未満の層などの比較的薄いコーティングを堆積するために使用されてもよい。ロッド120などの部品をコーティングした後、HVOFを使用したコーティングで通常使用される粗い表面ではなく滑らかな表面にスプレーすることでコーティング表面の粗さが減少するため、後研磨プロセスが必要ではなくてもよい。したがって、粗面化前処理の排除/削減、後研磨処理の排除/削減、さらには腐食保護を低下させることなく部品に薄肉コーティングを堆積する能力により、処理時間が短縮され、したがって、本明細書に記載のコーティングで部品を形成するコストが削減される可能性がある。
【0024】
図2は、本開示の例に係る、
図1に示す機械100の油圧部品116、118、120を形成するための例示的な薄いコーティングシステム200の概略図である。コーティングシステム200(HVAF)サーマルスプレーコーター200とも呼ばれる)には、HVAFサーマルスプレープロセスを実行するために使用される1つまたは複数の燃料用の燃料入口(複数可)202、空気入口204、および粉末入口206が含まれまる。HVAFサーマルスプレーコーター200には、粉末燃料混合室208、ガス混合室210、プレチャンバー212、燃焼室214、およびノズル216も含まれている。
【0025】
動作中、HVAFサーマルスプレーコーター200には、燃料入口(複数可)202を介して、あらゆる種類の適切な燃料が供給されてもよい。燃料は、空気および粉末原料の存在下で燃焼できるあらゆる種類の燃料であってもよい。例えば、燃料には、プロパン、プロピレン、天然ガスなどのあらゆる種類のガス相炭化水素燃料が含まれる。空気は、加圧タンクから空気入口204を介して供給されてもよい。粉末原料は、粉末入口206を介して供給される。粉末原料については、
図4を参照して詳しく説明する。
【0026】
粉末原料は、粉末燃料混合室208で1つまたは複数の燃料と混合されてもよい。この粉末と燃料の混合物はガス混合室208に流れ、そこで粉末と燃料の混合物はさらに空気と混合される。粉末、燃料、空気の混合物は、次にプレチャンバー212を通過し、そこでさらに混合が行われ、燃焼室214に流れ、そこで混合物が点火される。この点火された混合物は、次にノズル216を通過し、サーマルスプレー218として流れる。燃料と空気は、サーマルスプレー218がノズル216を通過するときに、その流れで粉末を搬送する。サーマルスプレー218がコーティングされる部品の表面に接触すると、粉末内の材料がコーティングされる表面に付着してコーティングが行われる。
【0027】
コーティングは、ノズル216をスキャンまたは横断することによって、たとえばHVAFサーマルスプレーコーター200をコーティングされる部品領域の表面上でスキャン動作で移動させることによって、部品上に堆積させてもよい。あるいは、コーティングされる部品の領域は、サーマルスプレー218内で横断されてもよい。例えば、サーマルスプレー218は、ロッド120の外面(例えば、外径)上でスキャンされ、ロッド120の外面にコーティングが施されてもよい。別の例として、サーマルスプレー218は、ピストン118の外面上でスキャンされてもよい。さらに別の例として、サーマルスプレーは、シリンダ116の内面(例えば、内径)上でスキャンされてもよい。いくつかの場合、シリンダ116の場合のように、幾何学的な制限によりコーティングされる表面のフルスケールスキャンが不可能な場合は、サーマルスプレー218は、コーティングされる表面にできるだけ近づけて提供されてもよい。例えば、シリンダ116の開口端の1つにサーマルスプレーを塗布して、シリンダ116の内面をコーティングできるようにしてもよい。
【0028】
HVAFサーマルスプレープロセスでは、サーマルスプレーの炎と粒子の温度が低いため、粉末原料の材料と部品の下にある鋼表面との間の接着性が高まる。接着性が優れているため、HVAFサーマルスプレープロセスでは、コーティング前に部品表面をグリットブラストする必要がなくてもよい。グリットブラストは、HVOFなどの従来のコーティング技術では、部品の表面を粗くして、部品の粗い鋼表面へのコーティングの接着性を高めるために必要になることがよくある。また、HVAFコーティングをより滑らかで粗くない表面に直接塗布すると、堆積後のスプレーされたHVAFコーティング表面の粗さが低くなり、HVOFなどの従来のコーティング技術と比較して、目的の表面仕上げを達成するために必要な研磨時間または磨く時間を短縮できる。したがって、本明細書の開示によりグリットブラスト処理が不要になることで、コータ100の部品のコストが削減され、最終部品のコストが削減される。
【0029】
保護コーティングを施す従来の技術でグリットブラスト処理が使用される場合、鋼鉄表面は不均一に粗くなることがよくある。加えて、グリットは部品の鋼鉄表面に埋め込まれることがよくある。このような表面ムラを補うために、従来の技術では、本明細書に開示されている技術に必要なコーティングよりもはるかに厚いコーティングが提供されることがよくある。たとえば、従来の技術では、コーティングの厚さは約300μm以上になってもよい。従来の技術で使用されるより厚いコーティングは、その後、十分な表面の均一性と滑らかさを提供するために研磨される。たとえば、従来の技術を使用したコーティングは、約180μm程度に研磨されてもよい。本明細書に開示されている技術では、事前の粗面化処理(グリットブラスト処理など)なしで、部品の滑らかな鋼鉄表面に直接コーティングを堆積することができる。その結果、本明細書で開示されているように、100μm未満、15μm程度などのより薄いコーティングを堆積することができる。加えて、予備粗面化および後研磨のプロセスが実行されないため、本明細書で説明されているこの技術は、従来の技術と比較してコスト削減につながる。
【0030】
本明細書で開示されているコーティングは、表面仕上げ、硬度、密度、および歪み許容度の所望のレベルを可能にする。従来のプロセスで使用される研磨ステップではなく、研磨ステップにより、2μm未満の所望のRZおよび/またはRZDIN表面形態が提供される。本明細書で開示されているコーティングの組成は、800ビッカースを超える、いくつかの場合1300ビッカースを超える好ましいレベルの硬度を提供する。加えて、本明細書で開示されているコーティングは、HVAFコーティングプロセスおよび優先的な原料粉末のサイズ、微細構造、および組成の結果として、微粒子構造を有する。これにより、より薄いコーティング厚で下にある部品を適切に保護できる、より高密度のフィルムが可能になる。より薄いコーティングは、従来のコーティングフィルムと比較して、さまざまな利点を提供する。部品の鋼とコーティングとの間の弾性係数の大幅な不一致は、特にコーティングされた部品内で曲げ応力が発生した場合、使用中にひずみおよび/または応力によって引き起こされる欠陥、例えば欠けや剥離を引き起こす。より薄いコーティングを使用することにより、本明細書に開示される機械100部品のひずみ許容度が改善される。さらに、コーティングの細粒構造により、従来のコーティング技術と比較して優れたシール性能が実現される。本明細書に開示されるコーティングが施されたロッド120は、100時間を超えるシール保護を提供し、動作中に潤滑剤および/または油圧流体の漏れが少ない。
【0031】
図3は、本開示の例に係る、
図1に示されるような機械の薄肉コーティングを備えた油圧部品を形成するための例示的な方法を示すフローチャートである。方法300は、本明細書で説明されているように、任意の適切な部品を使用して実行してもよい。本開示の例において、部品は、シリンダ116、ピストン118、および/またはロッド120などの油圧システム114に関連するさまざまな部品であってもよい。他の例では、部品は、エンジン106および/または推進システム104からの部品など、機械100の他の部分であってもよい。いくつかの例では、方法300は、トラックのサスペンションシステムなどのサスペンションシステムの部品(シリンダ、ストラットなど)に適用してもよい。
【0032】
ブロック302では、部品が鋼製で形成されている。これは、後続の処理の前に、シリンダ116、ピストン118、ロッド120などの部品を形成することである。部品は、AISI4130鋼、AISI4330鋼、低合金鋼、あらゆる種類の低炭素鋼、あらゆる種類の中炭素鋼、あらゆる種類の高炭素鋼、あらゆる種類の合金鋼など、任意の適切なタイプの鋼を使用してもよい。部品は、任意の適切な熱間成形機構および/または機械加工技術などの任意の適切な機構によって形成されてもよい。例えば、鋳造、圧延、熱間圧延、冷間圧延、押し出し、それらの組み合わせなど、あらゆるタイプの方法を使用して、粗い部品を形成してもよい。加えて、または代替的に、粗い部品は、あらゆるタイプの成形、旋削、フライス加工、穴あけ、研削、チゼル加工、旋盤加工、および/またはその他の機械加工技術など、部品の形成に適したあらゆる機械加工技術によって形成してもよい。
【0033】
部品は、粗い形成中、フェライト、パーライト、ベイナイト、セメンタイト、マルテンサイト、および/またはオーステナイトなどのあらゆる適切な結晶構造であってもよい。幾つかの場合、出発鋼は、比較的高いレベルの比較的柔らかいフェライトおよび/またはパーライト結晶構造を有してもよい。初期の低炭素鋼、中炭素鋼、または高炭素鋼は、比較的柔らかく延性があり、シリンダ116などの粗い部品をより簡単に形成してもよい。例えば、鋼の初期硬度は約35HRCから約50HRCの範囲であってもよい。出発鋼が十分に柔らかくない場合、焼き戻しプロセスが実行されてもよい。例では、焼き戻しプロセスは、粗い部品を形成する前に、炭素鋼共晶温度未満で数時間の焼き戻しを実施してもよい。たとえば、部品を粗く形成する前に、鋼を焼き戻すために3時間200°Cに保持してもよい。ここで、および本開示全体にわたって、温度および/または時間の範囲は例であり、本開示の例に従って、より短いまたはより長い温度および期間を使用してもよい。
【0034】
ブロック304で、部品が硬化される。部品の形状を形成した後、適切な硬度、粒構造、および/または応力/ひずみプロファイルを提供するために、部品にさまざまな操作を施してもよい。たとえば、鋼を硬化するための炉加熱および焼入れプロセスなど、さまざまな硬化操作を実行してもよい。あるいは、浸炭、ハードフェーシングなどの他の表面硬化操作を実行してもよい。成形後の硬化技術の結果として、部品の表面領域の硬度は、約45HRCから約65HRCの範囲にあってもよい。たとえば、ロッド120などの部品の硬度は約56HRCであってもよい。硬化後、部品の結晶構造は主にマルテンサイトおよび/またはオーステナイトであってもよい。
【0035】
幾つかの場合、部品の表面硬化のために誘導加熱操作が実行される。誘導加熱プロセスは、部品の表面で実行してもよい。たとえば、シリンダ116の場合、シリンダ116内の内面から誘導加熱を実行してもよい。誘導加熱プロセスでは、部品の表面から比較的浅い深さを、鋼を硬化する温度まで加熱してもよい。誘導加熱後、部品は、強制空気焼入れ、油焼入れなどによって焼入れされ、部品の表面に近い領域が硬化されてもよい。硬化の深さは、部品表面から約2mm~約5mmであってもよい。したがって、表面に近い領域が比較的硬く、残りの部品が表面に比べて比較的柔らかい硬度プロファイルを有してもよい。加えて、部品の比較的硬い部分と部品の残りの部分は、実質的に同じ炭素濃度および組成を持つ。いくつかの例では、部品の表面の硬い部分は圧縮応力を受け、部品の残りの部分は引張応力を受けてもよい。硬化プロセス後の部品の表面の硬度は、約45HRCから約65HRCの範囲であってもよい。たとえば、シリンダ116などの部品は、約56HRCの硬度を有してもよい。
【0036】
ブロック306で、部品は予備研磨される。この予備研磨プロセスは任意であってもよく、部品が制御された寸法および形状に研磨されてもよい。幾つかの場合、この予備研磨により部品の表面が滑らかになり、部品の形成や硬化プロセスによって生じた粗さが除去されてもよい。
【0037】
ブロック308では、HVAFサーマルスプレープロセスを使用して、部品にコーティングが施される。ここで開示されている粉末原料と組み合わせたHVAFサーマルスプレープロセスにより、ここで説明する優先的な材料、構造、およびプロセス特性が得られる。
図2に関連して説明したように、コーティングは、コーティングされる部品の表面に対してノズル216を走査または横断させることによって部品上に堆積させてもよい。このようにして、粉末原料内の材料が部品の鋼の表面に付着してコーティングを形成する。
【0038】
HVAFサーマルスプレープロセスでは、WC含有コーティングを提供する粉末原料を使用することができる。コーティングには、Co、Cr、および/またはその他の適切な材料がさらに含まれてもよい。例えば、粉末原料は、約86重量%のWCであり、残部はCo、Crであってもよい。例えば、粉末原料の組成、および、コーティングは、WCが86重量%、Coが10重量%、Crが約4重量%であってもよい。他の場合、WC含有量は、重量で約50%から約97%の範囲であってもよい。本開示のいくつかの例では、粉末原料は焼結され、粉砕され、粉末中のWC粒子のサイズは約0.3μmから約1.5μmであってもよい。本開示の他の例では、粉末原料は焼結され、粉砕され、粉末中のWC粒子のサイズは約0.5μmから約1μmであってもよい。本明細書の議論はWCベースのコーティングに焦点を合わせているが、本明細書の開示に従って、Crベース、Niベースのコーティング、Cr2C3コーティング、ステライト合金コーティング、高Cr/Niステンレス鋼合金コーティングなど、任意の適切なコーティングを使用できることを理解されたい。
【0039】
コーティングは、HVAFサーマルスプレーを使用して、100μm未満の適切な厚さで部品に施してもよい。例えば、コーティングは約15μmから約80μmの範囲で堆積してもよい。他の場合、コーティングの厚さの範囲は約25μm~約60μmであってもよい。例えば、コーティングの厚さは約40μmであってもよい。コーティングする表面の面積に応じて、部品のコーティングには約5分~約20分かかってもよい。部品の表面をコーティングするのに必要な時間は、HVOFなどの従来の技術よりも10倍以上速くてもよい。
【0040】
WCの硬度のため、コーティングは比較的高いレベルの硬度を有してもよい。例えば、コーティングの硬度は約800ビッカースから約1400ビッカースであってもよい。コーティングの硬度は約1100ビッカースから約1300ビッカースであってもよい。さらに他の場合、コーティングの硬度は約1150ビッカースから約1250ビッカースであってもよい。
【0041】
ブロック310では、部品が研磨される。磨きプロセスは、テープ磨きなどの任意の適切なメカニズムによって実行できる。たとえば、20μmのダイヤモンド超仕上げテープ/ベルトを使用して、部品の表面を磨いてもよい。堆積時の平滑度が比較的高いため、部品の表面を磨くには、テープを数回通すだけでよい。言い換えれば、磨きは、コーティングを堆積する従来の技術に必要なものと比較して、比較的迅速で安価なプロセスであってもよい。
【0042】
磨き操作後、コーティングは、Rzおよび/またはRZDINで測定して、約2μm未満の表面仕上げを有する。いくつかの場合、コーティングのRzおよび/またはRZDINは、約0.6μm~約1.8μmの範囲にあってもよい。他の場合、コーティングは、約1μm~約1.4μmの範囲のRzおよび/またはRZDIN値を有してもよい。ここで説明するように、Rzおよび/またはRZDIN値を持つコーティングは、油圧システム114の部品(ロッド120、シリンダ116、ピストン118など)の表面における潤滑剤(例えば、油)の保持において優れた性能を発揮するとともに、ロッド120がシリンダ116内でストロークされる際に潤滑剤および/または油圧流体の漏れの量を減らすことができる。一般に、より滑らかな表面を有するHVAFサーマルスプレープロセスは、HVOFなどの従来の技術と比較して、磨きプロセスのプロセスウィンドウを大きくしてもよい。
【0043】
なお、方法300には、従来の技術でよく使用される、部品のHVAFサーマルスプレーコーティング前の粗面化(例えば、グリットブラスト)操作が含まれていない。さらに、従来の技術でよくあるように比較的厚いコーティングが堆積されないため、後研磨プロセスも必要ではない。これらの比較的時間のかかる操作を排除することで、本明細書で説明するように、これらの部品を製造する従来の方法と比較して、部品の製造コストを削減できる可能性がある。加えて、方法300では、従来の技術と比較して、好ましい表面形態、硬度、および応力プロファイルを備えた部品が得られる。
【0044】
方法300の操作の一部は、提示された順序以外で、追加の要素を使用して、および/または一部の要素なしで実行してもよい。方法300のいくつかの作業は、さらに実質的に同時に行われてもよく、したがって、上記に示した作業の順序とは異なる順序で終了してもよい。
【0045】
図4は、本開示の例に従って、
図1に示した機械100の油圧システム114部品の薄肉コーティングを堆積するための粉末400、402、404、406の例を示す顕微鏡写真である。図に示すように、粉末400には、重量で約86%のWC、重量で約10%のCo、および重量で約4%のCrが含まれており、粉末原料の比較的丸い形状からわかるように、凝集したWC、Co、およびCr粒子の噴霧乾燥によって処理され、その後焼結される。粉末402は粉末400と同じ粉末原料であるが、粉末400は粉末402の断面図を示すように磨かれている。凝集および焼結された粉末400は、
図3のブロック308の操作などのHVAFサーマルスプレー操作で使用して、ここで説明する特性を持つコーティングを提供してもよい。
【0046】
粉末404は、粉末400と同じ粉末原料を示しており、つまり、粉末404には、約86重量%のWC、約10重量%のCo、約4重量%のCrが含まれているが、粉末404は、WC、Co、およびCr粒子の圧縮混合物を焼結して高密度のモノリスを形成し、その後、圧縮力および/またはせん断力を与えるローラー間などの適切なメカニズムによって焼結されたモノリスを粉砕して、404に示す高密度の角張った粒子を形成する。粉末406は粉末404と同じ粉末原料であるが、粉末406は粉末404の断面図を示すように磨かれている。焼結および粉砕された粉末404は、
図3のブロック308の操作などのHVAFサーマルスプレー操作で使用して、本明細書で説明する特性を持つコーティングを提供してもよい。凝集および焼結された粉末400と焼結および粉砕された粉末404はどちらも、本明細書で開示されているように、高い接着強度を持つ高密度コーティングを形成するのに適している。
【0047】
図5は、開示の例による、鋼表面502とその上のコーティング504を備えた例示的な部品500の断面図である。図に示すように、鋼表面502とコーティング504の間の界面は滑らかである。コーティング504は非常に高密度であり、ピンホール欠陥はほとんどないこのフィルムにより、腐食および/または酸化に対する保護時間が長くなる。例えば、この比較的高品質のコーティング504により、部品500は中性または酢酸塩水噴霧試験のいずれにおいても1000時間以上の寿命を持ってもよい。いくつかの場合、部品500は現場で3000時間以上の寿命を持ってもよい。他の場合、部品500は現場で6000時間以上の寿命を持ってもよい。
【0048】
図6は、本開示の例による薄いHVAFコーティングを施したロッド600の例であり、曲げ試験を受ける。長さ380mm、直径38mmのロッド600に100キロニュートン(kN)の力が加わり、ロッド600が7mmたわむ。曲がったロッド602の概略図と曲がったロッド604の写真が示されている。このレベルの曲げがあっても、本明細書の開示に従って堆積されたコーティング606は、ロッド600の下にある鋼608に完全に接着されている。
【0049】
図7は、本開示の例による、従来のメカニズムによって堆積された既存のコーティング702上に直接堆積された薄いHVAFコーティング700の断面図を示す。コーティング700は、コーティング702と比較して、より高密度であり、開口部および/または欠陥が少ない。優れたコーティング700は、本明細書に開示された材料組成物、粉末原料、および/またはプロセスを使用して製造できることは理解されるべきである。製造された部品コーティング700は、特に部品が過酷な条件(例えば、酸性条件、酸化環境など)で動作する場合、腐食および/または酸化に対する耐性が向上し得る。加えて、コーティング700は、潤滑、高硬度、および下層の鋼に対する高レベルの接着に有利な表面形態を提供する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示は、油圧システム114の部品などの機械100の部品をコーティングするためのシステム、構造、および方法について説明する。油圧システム114の部品は、例えば、シリンダ116、ピストン118および/またはロッド120を含んでもよい。このコーティングは、機械100の部品に設けられ、部品が形成された鋼の酸化および/または腐食を防止および/または低減する硬質保護層を提供してもよい。コーティングはまた、油および/または油圧流体の漏れを減らしながら、部品の表面への潤滑剤の付着を促進する好ましい表面形態を提供する。ここで開示されているように、HVAFサーマルスプレーを使用したコーティングおよびその処理は、従来のHVOF技術と比較して、部品の下にある鋼への強力な接着強度を備えた高密度コーティングを提供する。さらに、HVAFベースのコーティングにより、処理ステップが排除および/または削減され、部品の表面にこの保護コーティングを提供するコストが削減される。
【0051】
本明細書に記載のシステム、装置、および方法の結果として、シリンダ116、ピストン118、および/またはロッド120などの機械100の部品の動作寿命が長くなってもよい。例えば、本明細書に記載の油圧システム114の部品は、本明細書に記載のように、保護コーティングを有していない従来の油圧システム114の部品よりも、寿命が長くてもよい。ロッド120等の部品により、機械100の部品の摩耗寿命が大幅に向上してもよい。例えば、コーティングされたロッドは、従来のコーティングされたロッドよりも長い、3000時間を超える、または6000時間以上の動作寿命を持ってもよい。他の場合、本明細書の開示によると、油圧システムまたはサスペンションシステムの最初の修理(再コーティングなしの再シールおよび/または再磨き)は、約4000時間から約20,000時間の範囲にあってもよい。現場のダウンタイムを短縮し、整備やメンテナンスの頻度を低減し、機械100などの重機のコストを全体的に低減することができる。信頼性の向上と現場レベルのダウンタイムの短縮により、ユーザーエクスペリエンスも向上し、機械100をより長い時間、またその寿命のより大きな割合で本来の目的に充てることができる。機械100の動作時間の改善と予定メンテナンスの削減により、より効率的なリソースの展開(例えば、建設現場でのより少ないが信頼性の高い機械100)が可能になる。したがって、本明細書に開示された技術は、プロジェクトリソース(例えば、建設リソース、鉱業リソースなど)の効率を向上させ、プロジェクトリソースの動作時間をより大きくし、プロジェクトリソースの財務性能を向上させる。
【0052】
コーティング部品の寿命の向上に加えて、コーティング部品の表面形態が好ましく、作業性能が向上し得る。例えば、ロッド120は、動作中に潤滑剤の付着を促進し、さらに低レベルの油漏れまたは油圧流体漏れをもたらす表面形態を有していてもよい。したがって、本明細書に記載のコーティングの好ましい表面形態により、コーティングされた部品の性能が向上する。
【0053】
なお、保護コーティングを形成するプロセスは、さまざまな油圧システム114部品のコンテキストで説明されているが、ここで説明するメカニズムは、あらゆる業界で使用されるさまざまなシステムのさまざまな機械部品に適用できる。たとえば、ここで説明する保護コーティングは、金属加工機器、建設機器、自動車部品などの工業用製造機器に適用できる。
【0054】
本開示の態様は、上記の実施形態を参照して具体的に示され、説明されてきたが、当業者は、開示される内容の趣旨および範囲から逸脱することなしに、開示された機械、アセンブリ、システム、および方法の修正によって、様々な追加の実施形態が企図され得ることを理解するであろう。そのような実施形態は、請求項およびその任意の均等物に基づいて決定される本開示の範囲内に入るものとして理解されるべきである。
【0055】
本明細書で別段の指示がない限り、本明細書における値の範囲の記述は、範囲内に入っている個々の値を個別に参照するための簡潔な方法としてのみ意図されており、個々の値は、本明細書で個別に記述されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書で説明するすべての方法は、本明細書で特に明記しない限り、任意の適切な順序で実行できる。
【国際調査報告】