(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】不安障害の治療および/または予防におけるポストバイオティクスの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/745 20150101AFI20241219BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241219BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20241219BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20241219BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241219BHJP
A23G 9/36 20060101ALI20241219BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20241219BHJP
A23C 19/09 20060101ALI20241219BHJP
A23L 7/117 20160101ALI20241219BHJP
A21D 2/08 20060101ALI20241219BHJP
A23G 3/36 20060101ALI20241219BHJP
A23G 4/12 20060101ALI20241219BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20241219BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K35/745
A23L33/135
A23C9/13
A23C9/152
A23L2/00 F
A23G9/36
A23L2/52 101
A23L13/00 A
A23C19/09
A23L7/117
A21D2/08
A23G3/36
A23G4/12
A61K35/747
A61P25/22
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/70
A61K9/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533866
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2022086359
(87)【国際公開番号】W WO2023111270
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519017731
【氏名又は名称】バイオポリス ソシエダッド リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チェノル クアドロス,マリア エンパル
(72)【発明者】
【氏名】マルトレイ ゲローラ,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】トルタハーダ セラ,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ラモン ヴィダル,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ロハス マルティネス,アントニア
(72)【発明者】
【氏名】バラゲル ヴィダル,フェラン
(72)【発明者】
【氏名】ジョピス プラ,シルビア
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス アビラ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ロブレス ロドリゲス,ヴァネッサ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス リエスコ,マルタ
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B025
4B032
4B042
4B117
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GB13
4B014GB18
4B014GB19
4B014GG18
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4C087ZA05
(57)【要約】
本発明は、非生存のBifidobacterium longum株およびLactobacillus rhamnosus株を含むポストバイオティクス組成物、ならびに不安障害の治療および/または予防におけるそれに関連した使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非生存Bifidobacterium longum株CECT 7347および非生存Lactobacillus rhamnosus株CECT 8361を含むポストバイオティクス組成物。
【請求項2】
前記非生存Bifidobacterium longum株およびLactobacillus rhamnosus株が熱処理されている、請求項1に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項3】
前記ポストバイオティクス組成物が、医薬組成物または栄養組成物である、請求項1または2に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含む、請求項3に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項5】
前記組成物が、液体の形態または固体の形態で製剤化されている、請求項3または4のいずれかに記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項6】
前記固体の製剤が、錠剤、薬用ドロップ、菓子、チュアブル錠剤、チューインガム、カプセル、サシェ、粉末、ゲル、顆粒、コーティングされた粒子またはコーティングされた錠剤、錠剤および胃耐性の錠剤およびカプセル剤、ならびに分散性のストリップおよびフィルムからなる群から選択される、請求項5に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項7】
前記液体の製剤が、経口溶液、懸濁液、液滴、乳剤およびシロップからなる群から選択される、請求項5に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項8】
前記栄養組成物が、食品または栄養サプリメントである、請求項3に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項9】
前記食品が、果物または野菜のジュース、アイスクリーム、乳児用調製粉乳、牛乳、ヨーグルト、チーズ、発酵乳、粉乳、シリアル、焼き菓子、乳ベースの製品、肉製品および飲料からなる群から選択される、請求項8に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項10】
前記組成物中のB. longumおよびL. rhamnosusの合計濃度が10
3から10
12細胞の間である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項11】
医薬品として使用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載のポストバイオティクス組成物。
【請求項12】
不安障害の治療および/または予防における使用のための、請求項1~10のいずれか1項に記載のポストバイオティクス組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、非生存のBifidobacterium longum株およびLactobacillus rhamnosus株を含むポストバイオティクス組成物、ならびに不安障害の治療および/または予防におけるそれに関連した使用に関する。
【0002】
〔背景技術〕
「腸脳軸」と呼ばれる脳と腸との双方向コミュニケーションが、腸の恒常性とともに脳機能の維持においても潜在的な役割を果たしていることを示す証拠が増えつつある。経口投与されたプロバイオティクスなどの明確なタイプの微生物が、腸脳軸を修正し、ストレス応答を制御し得ることを示唆する研究があり、プロバイオティクスが「微生物叢・腸・脳軸」を調節することによって、うつ病または不安障害などの気分障害の管理に治療的役割を果たし得ることが示唆されている。
【0003】
多くの生存プロバイオティクス株および混合物が、不安およびその他の行動指標に影響を及ぼすことが報告されている。しかしながら、非生存の、無生物の、不活性化または熱処理された形態の微生物の使用に関する、不安に対する肯定的な結果についての証拠は非常に限られており、これにはプロバイオティクスの無生物形態が含まれるがこれらに限定されず、これらは全てポストバイオティクスとして知られ、ゴーストプロバイオティクスまたはパラプロバイオティクスとも表現される。
【0004】
これらの非生存微生物株の使用は、厳しい環境での製品の使用、細胞の生存能力にダメージを与えるような過酷なマトリックスまたはプロセスの使用を可能にし、産業応用に極めて適している。
【0005】
したがって、不安障害の治療のためのポストバイオティクス組成物を開発する必要がある。
【0006】
〔発明の説明〕
本発明の著者らは、非生存のLactobacillus rhamnosus株およびBifidobacterium longum株の混合物を長期間摂取すると、Danio rerio(ゼブラフィッシュ)をベースとした行動および不安のモデルにおいて良好な結果が得られることを発見した。驚くべきことに、最良の結果が得られたのは、生存もしくは非生存の各菌種単独、または生存プロバイオティクスのブレンド自体ではなく、熱処理したポストバイオティクスのブレンドであった。
【0007】
さらに、熱処理したLactobacillus rhamnosus(L. rhamnosus)株およびBifidobacterium longum(B. longum)株の異なる組み合わせによる比較アッセイを、Caenorhabditis elegans(C. elegans)不安モデルで実施し、B. longum種およびL. rhamnosus種に属する他の熱処理株の組み合わせと比較すると、熱処理したB. longum株CECT 7347(HT-ES1またはHT-IATA-ES1とも命名)およびL. rhamnosus株CECT 8361(HT-BPL15またはHT-BPL0015とも命名)のブレンドによる処理に関連して不安行動が有意に改善して減少することが示された(実施例3)。
【0008】
したがって、一態様において、本発明は、非生存Bifidobacterium longum CECT 7347株および非生存Lactobacillus rhamnosus CECT 8361株を含むポストバイオティクス組成物(「本発明のポストバイオティクス組成物」または「本発明の組成物」)に関する。
【0009】
L. rhamnosus CECT 8361(BPL15またはBPL0015)は、生後3カ月未満の健康で授乳中の小児の糞便から単離された。この菌株は2013年5月27日、ブダペスト条約に基づき、国際寄託機関としてスペイン微生物株保存機関に寄託された(所在地:Building 3 CUE, Parc Cientificat Universitat de Valencia, C/ Catedratico Agustin Escardino, 9, 46980 Paterna (Valencia) SPAIN)。寄託番号はCECT 8361であった。
【0010】
B. longum CECT 7347(ES1またはIATA-ES1)は、生後3カ月未満の健康で授乳中の小児の糞便から単離され、ブダペスト条約に基づき2007年12月20日に国際寄託機関としてのスペイン微生物株保存機関に寄託された(所在地:Building 3 CUE, Parc Cientificitat Universitat de Valencia, C/ Catedratico Agustin Escardino, 9, 46980 Paterna (Valencia) SPAIN)。寄託番号はCECT 7347であった。
【0011】
本明細書で使用される場合、用語「ポストバイオティクス組成物」は、無生物細菌またはその成分を含む、少なくとも1つのポストバイオティクスを含むあらゆる組成物に関する。国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会(ISAPP)が提供する定義によれば、ポストバイオティクスは、「宿主に健康上の利益を与える無生物微生物および/またはその成分の調製物」である(Sallines et al. 2021 Nature Rev Gastroenterol Hepatol. 18(9):649-667)。これに対して、世界保健機関(WHO)によれば、プロバイオティクスは、「適切な量を投与することで、宿主に健康上の利益を与える生きた微生物」である。
【0012】
ここ数年、競合的排除による病原体からの宿主の保護または免疫系の調節など、健康を促進する作用を示す腸内細菌叢のメンバーに研究の焦点が当てられている。用語「腸内細菌叢」は、ヒトの消化管内で適応し生存するために進化した多様な微生物群に関連している。腸内細菌叢は様々な方法でそのヒト宿主と相互作用する。微生物は無害な常在菌、日和見病原体、または健康を促進する微生物もしくはプロバイオティクス微生物であり得る。後者の活性に関する研究はこの20年間で大幅に増加し、プロバイオティクス剤が多くの臨床研究および動物モデルを用いた研究で調査されている。
【0013】
本発明において、ポストバイオティクス組成物は、B. longumおよびL. rhamnosusに属する非生存細菌を含む。両種の分類を以下に詳述する。
【0014】
【0015】
Bifidobacterium属のメンバーは、ヒトの消化管(GIT)に最初にコロニー形成した微生物のひとつであり、その宿主に健康上の利益をもたらすと考えられている。ビフィズス菌は、その関連する健康上の利益と、一般的に安全であると認識されていることから、プロバイオティクス剤として商業的に利用されてきた。健康増進効果があるとされることから、ビフィズス菌は多くの機能性食品に有効成分として配合されている。
【0016】
ビフィズス菌は、ヒトの口腔、昆虫の腸、下水など、動物のGITに直接または間接的に関連するさまざまな生態学的地位に、天然に存在している。ビフィズス菌がこのような特殊な生態学的地位で生き残るためには、競争力を高めるための特異的な適応が必要である。
【0017】
Bifidobacteriumはグラム陽性、非運動性で、しばしば分岐した嫌気性細菌である。Bifidobacteriumは、哺乳動物のGIT細菌叢を構成する細菌の主要な属のひとつであり、30種類以上の種から構成される。その中でもB. longumはカタラーゼ陰性の分岐した棒状の細菌である。
【0018】
Lactobacillus(現在はLacticaseibacillusとして知られる)はLactobacillaceae科最大の属である。23属に再分類される以前(Zheng et al. 2020 Int J Syst Evol Microbiol. 70(4):2782-2858)、196の有効な発表種からなり、果物、肉、サワードウ、野菜、ワインなどの発酵食品に関連する環境から一般的に単離されるだけでなく、ヒトおよび動物の消化管および膣からも単離される。現在、これらは食品、飼料、医薬品、バイオテクノロジーに関連する分野で広く応用されており、例えば、乳製品のスターター、プロバイオティクス、ワクチンキャリアー、サイレージの接種剤として使用されている。
【0019】
乳酸桿菌はグラム陽性、棒状、通性嫌気性または微好気性、非芽胞形成性、耐酸性、カタラーゼ陰性の細菌で、DNA G+C含量は46~58mol%である。Lactobacillus casei、Lactobacillus paracaseiおよびLactobacillus rhamnosusは系統学的にも表現型的にも近縁であり、以前はL. caseiグループとみなされていた(Zheng et al. 2020 Int J Syst Evol Microbiol. 70(4):2782-2858)。このグループの一部であるプロバイオティクス菌株は、発酵乳製品または食品サプリメントにおいて、宿主の健康を増進するプロバイオティクスとして世界中で使用されている。
【0020】
本発明のポストバイオティクス組成物は、非生存形態の細菌B. longumおよびL. rhamnosusを含む。本明細書で使用する場合、用語「非生存」、「無生物」、「不活性」または「不活性化」は、代謝的または生理学的に不活性な微生物、すなわち、栄養投与後に代謝活性および伸長能力を保持しない微生物に関する。生存能力は、微生物が固体培地上でコロニーを形成する能力、すなわち培養能力とは無関係である。
【0021】
食品産業における熱加工の歴史は古く、微生物を不活性化するために熱加工が使われることは多い。微生物を不活性化する一般的な方法は熱処理である。熱は微生物にとって致死的であるが、それぞれの種には特有の熱耐性がある。低温殺菌、チンダリゼーション、オートクレーブなどの熱破壊プロセスでは、破壊速度は増殖速度と同様に対数的である。したがって、熱にさらされた細菌は、存在する細菌の数に比例した速度で死滅する。このプロセスは、曝露温度と、所望の破壊速度を達成するためにこの温度で必要な時間との両方に依存する。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、非生存のBifidobacterium longum株およびLactobacillus rhamnosus株は熱処理されている。従って、好ましい実施形態は、非生存B. longum株CECT 7347が熱処理されており、非生存Lactobacillus rhamnosus株CECT 8361が熱処理されている、本発明の組成物を提供する。
【0023】
本発明はまた、本発明のポストバイオティクス組成物の一部であり得るB. longum CECT 7347株およびL. rhamnosus CECT 8361株(「親株」)に由来する細菌株も企図しており、それは、これらの細菌株が被験体における不安障害の症状を軽減および/または改善する能力を保持するためである。
【0024】
本発明の組成物内に含まれる親株に由来する細菌株の例としては、本発明の菌株のゲノムと比較してそのゲノムに変異を示す遺伝子改変生物が挙げられ、ここで、突然変異は、被験体における不安障害の症状を軽減および/または改善する菌株および/またはその成分の能力に影響しない。
【0025】
B. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361に由来する菌株は、天然に、または当技術分野で公知の突然変異誘発法、例えば、限定されないが、突然変異誘発剤もしくはストレス因子の存在下で親株を増殖させるか、もしくは特定の遺伝子の改変、欠失および/もしくは挿入を指向する遺伝子工学によって意図的に産生することができる。
【0026】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、被験体における不安障害の症状を予防、軽減および/または改善する能力を保持する、B. longum CECT 7347株およびL. rhamnosus CECT 8361株に由来する遺伝子組換え生物を企図し、したがって、前記障害の治療および/または予防に有用な前記組成物を企図する。
【0027】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明はまた、B. longum CECT 7347株および/またはL. rhamnosus CECT 8361株によって分泌される細菌成分、代謝産物および分子、ならびに/または前記成分を含む組成物、ならびに不安障害の治療および/または予防のためのそれらの使用を企図する。
【0028】
細菌成分としては、限定されないが、細胞壁の成分(非限定的な例として、ペプチドグリカン);核酸;膜成分;ならびにタンパク質、脂質、炭水化物およびそれらの組み合わせ(リポタンパク質、糖脂質または糖タンパク質など)が挙げられる。代謝産物としては、増殖中、技術的プロセスにおける細菌の使用中、または細菌の保存中の代謝活性の結果として、細菌によって産生または修飾される任意の分子が挙げられる。これらの代謝産物の例としては、限定されないが、有機酸および無機酸、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、脂質、炭水化物、リポタンパク質、糖脂質、糖タンパク質、ビタミン、塩、ミネラルまたは核酸が挙げられる。分泌分子としては、増殖中、技術的プロセス(例えば、食品加工または薬物)における細菌の使用中、または細菌の保存中に、細菌によって外部に分泌または放出される任意の分子が挙げられる。これらの分子の例としては、限定されないが、有機酸および無機酸、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、脂質、炭水化物、リポタンパク質、糖脂質、糖タンパク質、ビタミン、塩、ミネラルまたは核酸が挙げられる。
【0029】
本発明の組成物は、医薬投与用、すなわち、任意の投与手段によって被験体に投与される医薬製品の一部を形成する;および/または食品投与用、すなわち、被験体の食事で消費される食品または栄養サプリメントの一部を形成するように製剤化され得る。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、医薬組成物(「本発明の医薬組成物」)および/または栄養組成物(「本発明の栄養組成物」)である。
【0030】
本発明の組成物は、非生存のB. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361(ならびに/またはそれらに由来する任意の菌株および/もしくは細胞成分)を任意の適切な濃度で含む。
【0031】
さらに、本発明の組成物は、(i)被験体における不安障害の予防および/または治療に有用な活性として、任意の生物学的、薬理学的および/または獣医学的に有用な活性を有する1つ以上の成分または化合物;および/または(ii)被験体への投与により、本発明の組成物に含まれるポストバイオティクスの活性を増加、増強および/または促進し得る1つ以上の成分を含み得る。当業者に理解されるように、追加の成分または化合物は、本発明の組成物の非生存株によって発揮される効果に影響を及ぼさないものでなければならない。
【0032】
用語「医薬組成物」には、獣医学的組成物も包含される。
【0033】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤をさらに含む。
【0034】
用語「賦形剤」は、本発明の組成物の任意の成分もしくは化合物、すなわち本発明の菌株の吸収を助ける物質、または成分もしくは化合物を安定化させる物質、および/または医薬組成物の調製を、それに一貫性を与える意味、またはそれをより快適にするための風味を与えるという意味で補助する物質を指す。従って、賦形剤は、本段落に記載されていない他の賦形剤を除外することなく、成分(例えば、デンプン、糖もしくはセルロース)を結合させる機能、甘味付与機能、着色機能、有効成分を保護する機能(例えば、空気および/もしくは湿気から遮断する機能)、錠剤、カプセル剤もしくは他の任意の提示物を充填する機能、または成分の溶解を促進する崩壊機能を有することができるが、これらに限定されない。従って、用語「賦形剤」は、ガレヌス形態に含まれ、有効成分もしくはその関連物に添加され、それらの調製および安定性を可能にし、それらの感覚器を刺激する特性を変更し、または医薬組成物の物理的および化学的特性およびそのバイオアベイラビリティを決定する物質として定義される。「薬学的に許容可能な」賦形剤は、医薬組成物の成分または化合物の活性を可能にしなければならず、すなわち、本発明の菌株によって発揮される効果に影響を及ぼさないものでなければならない。
【0035】
「ガレヌス形態」または「医薬形態」とは、有効成分および賦形剤が、医薬組成物または薬物を提供するために適合した形態のことである。これは、医薬組成物が製造者によって提示される形態と投与される形態との組み合わせによって定義される。
【0036】
「ビヒクル」または「担体」は、好ましくは不活性物質である。担体の機能は、他の成分もしくは化合物の組み込みを容易にし、より良好な投薬および投与を可能にし、ならびに/または医薬組成物に一貫性および形態を与えることである。したがって、担体は、本発明の医薬組成物の成分または化合物のいずれかを所定の体積または重量に希釈するために薬物中で使用される物質であり;あるいは、これらの成分または化合物を希釈しなくても、より良好な投薬および投与を可能にし、ならびに/または薬物に一貫性および形態を与えることができる物質である。提示が液体である場合、薬学的に許容可能な担体は希釈剤である。担体は天然でも非天然でもよい。薬学的に許容可能な担体の例としては、これに限定されるものではないが、水、塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、デンプン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、脂肪酸エステルペトロエトラール(petroetrals)、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0037】
さらに、賦形剤および担体は薬理学的に許容可能でなければならない。すなわち、賦形剤および担体は、それが投与される被験体に損傷を与えないように許可され、評価される。
【0038】
それぞれの場合において、組成物の提示は、使用される投与の種類に適合される。従って、組成物は、溶液または臨床的に許容される他の任意の投与形態で、治療上有効な量で提示され得る。本発明の組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液、坐剤、ゲルまたはミクロスフェアなどの固体、半固体または液体の調製物へと製剤化することができる。特定の実施形態において、本発明の組成物は、液体の形態または固体の形態で製剤化されている。
【0039】
別の特定の実施形態において、固体の製剤は、錠剤、薬用ドロップ、菓子、チュアブル錠剤、チューインガム、カプセル、サシェ、粉末、ゲル、顆粒、コーティングされた粒子またはコーティングされた錠剤、錠剤、ピル、トローチ、胃耐性の錠剤およびカプセル、ならびに分散性のストリップおよびフィルムからなる群から選択される。
【0040】
別の特定の実施形態において、液体の製剤は、経口溶液、懸濁液、液滴、乳剤およびシロップからなる群から選択される。
【0041】
同様に、例えば、リポソーム、マイクロバブル、微粒子またはマイクロカプセル等への封入を含む、本発明の組成物の徐放性投与に使用できる種々の系が知られている。適切な徐放性形態、ならびにそれらの調製のための材料および方法は、当該技術分野において周知である。したがって、本発明の組成物の経口投与可能な形態は、少なくとも1つのコーティングまたはマトリックスをさらに含む徐放性形態である。徐放性のコーティングまたはマトリックスとしては、限定されないが、天然、半合成もしくは合成のポリマー、水不溶性もしくは変性の、ワックス、脂肪、脂肪アルコール、脂肪酸、天然、半合成もしくは合成の可塑剤、またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。腸溶性コーティングは、当業者に知られている従来のプロセスを用いて適用することができる。
【0042】
上述したことに加えて、本発明は、本発明の組成物が、本発明の組成物の一部ではない他の成分または化合物とともに被験体に投与される可能性も包含する。そのような成分または化合物の例は、先行する段落に詳述されている。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の組成物は栄養組成物である。本発明の栄養組成物はまた、任意の適切な濃度の非生存細菌B. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361(ならびに/またはそれらに由来する任意の菌株および/もしくは細胞成分)を含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、任意の適切な濃度のL. rhamnosus CECT 8361およびB. longum CECT 7347(ならびに/またはそれらに由来する任意の菌株および/もしくは細胞成分)を含む。
【0045】
本発明の組成物が栄養組成物として製剤化されている場合、前記栄養組成物は、食品であるか、またはヒトおよび/もしくは動物の消費を意図した食品もしくは食品生産物に組み込まれ得る。
【0046】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の栄養組成物は食品または栄養サプリメントである。
【0047】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の栄養組成物は、特定の栄養的および/または機能的な、生物学的および/または生理学的目的のための食品である。本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明の栄養組成物は薬用食品である。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明の栄養組成物は、栄養サプリメントまたは食事療法サプリメントである。
【0049】
本発明において、「栄養組成物」という用語は、それを消費する被験体に栄養素を提供することに関係なく、身体の1つ以上の機能に有益な影響を与え、それにより、より良い健康およびウェルネスを推進および/または提供する任意の食品を指す。本発明において、前記栄養組成物は、不安障害を緩和、軽減、治療および/または予防することを意図している。
【0050】
用語「サプリメント」は、「食事療法サプリメント」、「栄養サプリメント」、「食品サプリメント」、または「滋養サプリメント」もしくは「滋養成分」のいずれかの用語と同義であり、濃縮された栄養源または栄養的もしくは生理学的効果を有する他の物質からなる、被験体の通常の食事を補助することを目的とする製品または調製物を指す。本発明において、B. longum CECT 7347、L. rhamnosus CECT 8361、ならびに/またはそれらに由来する任意の菌株および/もしくは細胞成分は、被験体に対して栄養的および/または生理学的効果を有する「物質」である。
【0051】
食品サプリメントは、単一形態でも複合形態でもよく、投薬形態、すなわち、カプセル、ピル、錠剤およびその他類似の形態、粉末のサシェ、液体のアンプル、滴下式ディスペンサーボトル、ならびにその他類似の形態の液体および粉末で、一度に摂取されるように設計された形態で販売され得る。
【0052】
滋養成分中に存在する栄養素およびその他の要素は多岐にわたり、中でもビタミン、ミネラル、アミノ酸、必須脂肪酸、繊維、酵素、植物および植物抽出物が挙げられる。それらの役割は食事中の栄養素の供給を補完することであるため、それらをバランスの取れた食事の代用品として使用すべきではなく、摂取量は医師または栄養士が明示的に推奨する1日の摂取量を超えるべきではない。本発明の組成物は、いわゆる「特別なグループのための食品」、すなわち特定の栄養ニーズを満たす食品の一部とすることもできる。
【0053】
本発明の組成物を構成し得る食品の例としては、限定されないが、飼料、乳製品、野菜製品、肉製品、スナック、チョコレート、飲料、ベビーフード、シリアル、フライ食品、工業用ベーカリー製品およびビスケットが挙げられる。乳製品の例としては、限定されないが、発酵乳由来の製品(例えば、限定されないが、ヨーグルトまたはチーズ)または非発酵乳由来の製品(例えば、限定されないが、アイスクリーム、バター、マーガリンまたは乳清)が挙げられる。野菜製品としては、例えば、限定されないが、任意の提示の形態のシリアル、発酵物(例えば、豆乳ヨーグルト、オーツ麦ヨーグルトなど)または非発酵物、およびスナックなどが挙げられる。飲料としては、限定されないが、非発酵乳が挙げられる。
【0054】
いくつかの実施形態では、食品生産物または食品は、果物または野菜のジュース、アイスクリーム、乳児用調製粉乳、牛乳、ヨーグルト、チーズ、発酵乳、粉乳、シリアル、焼き菓子、乳ベースの製品(ミルクセーキまたはスムージーなど)、肉製品および飲料からなる群から選択される。
【0055】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、B. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361に加えて、他の微生物を含んでもよい。
【0056】
当業者に理解されるように、B. longum株およびL. rhamnosus株は、不安障害を緩和、軽減、治療および/または予防する効果などの、それらの効果を発揮するために、治療上有効な量で、本発明の組成物中に共同でまたは別々に存在しなければならない。
【0057】
本発明の文脈において、「治療上有効な量」とは、栄養組成物または医薬組成物の成分または化合物の任意の量であり、被験体に投与された場合に、所望の効果をもたらすのに十分な量である。栄養組成物または医薬組成物の前記成分または化合物は、細菌株B. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361を指す。治療上有効な量は、例えば、被験体の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食事、ならびに投与の様式および時間、排泄率または他の薬物との共治療の可能性に応じて変化し得る。疑義を避けるために、前記薬物は、不安障害の予防および治療のため、またはその他の症状のために処方されることがある。
【0058】
本発明の組成物のいくつかの実施形態において、B. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361の微生物の合計濃度は、103から1012cfuまたは細胞の間、好ましくは109cfuまたは細胞である。
【0059】
本発明の組成物のいくつかの具体的な実施形態において、B. longum CECT 7347およびL. rhamnosus CECT 8361の微生物の量は、103から1012cfuまたは細胞の間、好ましくは109cfuまたは細胞である。いくつかの具体的な実施形態において、本発明の栄養組成物は、ヒト用の食品または栄養サプリメントである。
【0060】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の栄養組成物は、家畜および/またはペット用の食品または栄養サプリメントである。
【0061】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の栄養組成物は、健康なヒトにおける不安障害の予防のための食品または栄養サプリメントである。
【0062】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の栄養組成物は、健康な家畜および/またはペットの不安障害の予防のための食物または栄養サプリメントである。
【0063】
別の好ましい実施形態において、本発明の組成物は、Bacillus属の種、Lactobacillus属の種、Streptococcus属の種、Bifidobacterium属の種、Saccharomyces属の種、Kluyveromyces属の種、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される微生物またはそれらの成分をさらに含む。
【0064】
上述したように、様々な症状に対するプロバイオティクスの使用、または一般的な健康状態を改善するためのプロバイオティクスの使用は十分に確立されているが、ポストバイオティクスの使用についてはそうではない。特に、多くのプロバイオティクス菌株および混合物が、不安およびその他の行動指標に対する効果を有することが報告されている一方で、ポストバイオティクスの使用に関連する、不安に対する肯定的な結果についての証拠はあまりない。本出願は、不安障害の治療における非生存のL. rhamnosus株およびB. longum株を含むポストバイオティクス組成物の有効性を実証したデータを初めて提供する。
【0065】
したがって、他の態様において、本発明は、医薬品として使用するための本発明の組成物に関する。
【0066】
用語「医薬品」は、本明細書で使用される場合、被験体における疾患の予防、診断、緩和、治療もしくは治癒のために使用される任意の組成物/物質、または薬理学的、免疫学的もしくは代謝学的作用を発揮することによって生理学的機能を回復、修正もしくは改変する目的で被験体に投与され得る任意の組成物/物質を指す。
【0067】
他の態様において、本発明は、被験体における不安障害の治療および/または予防に使用するための、本発明の組成物に関する。
【0068】
本明細書で使用される場合、用語「治療する」または「治療」は、疾患もしくは病理学的状態を阻害すること、すなわち、その発症を停止させること;疾患もしくは病理学的状態を緩和すること、すなわち、疾患もしくは病理学的状態の退行を引き起こすこと;および/または被験体において疾患もしくは病理学的状態を安定化させることを含む。本発明において、疾患または病理学的状態は、少なくとも1つの不安障害である。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「予防」は、特に被験体が病理学的状態の素因を有するが、まだ診断されていない場合に、被験体の疾患または病理学的状態の発生を回避することを意味する。本発明において、疾患または病理学的状態は、少なくとも1つの不安障害である。
【0070】
本発明の文脈において、用語「被験体」は、任意の種の任意の動物に関する。被験体の例としては、限定されないが以下のものが挙げられる:鳥類(雌鶏、ダチョウ、ヒヨコ、ガチョウ、パートリッジなど)、ウサギ、ノウサギ、ペット(イヌ、ネコなど)、ヒツジ、ヤギ類の家畜(ヤギなど)、ブタ類(イノシシ、ブタなど)、ウマ科の家畜(ウマ、ポニーなど)、ウシ(雄牛(bulls)、雌牛、雄牛(oxen)など)などの商業的関心のある動物;雄鹿、シカ、トナカイなどの狩猟的関心のある動物;およびヒト。
【0071】
いくつかの実施形態では、対象は哺乳動物であり、いくつかの好ましい実施形態では、哺乳動物は任意の人種、性別、年齢のヒトである。
【0072】
他のいくつかの好ましい実施形態において、哺乳動物は、雌牛、ウマ、ヤギ、ラマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、または商業目的のために飼育もしくは繁殖された任意の動物を含むが、これらに限定されない家畜である。他の好ましい実施形態では、哺乳動物はペットであり、イヌ、ネコ、ウサギなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、食事を通して被験体に投与される。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の組成物の投与体制は、少なくとも1日1回;1日2回;または1日3回であり、主な食物摂取(朝食および/または昼食および/または夕食)それぞれと共に1回である。
【0075】
ポストバイオティクスの使用は、特にその製造における、産業上の利用可能性と極めて関連している。これにより、従来のプロバイオティクスの安定性を損なうような、熱または湿気にさらされる厳しい環境下での製品の使用だけでなく、プロバイオティクス細胞の生存率を損なうような過酷なマトリックスまたは工程(例えば、飼料の押し出し)の使用も可能になる。
【0076】
さらに、ポストバイオティクスとプロバイオティクスとの両方を使用することで、従来の不安障害の治療法よりも多くの利点があり、フルオキセチンのような標準的な薬物の典型的な副作用を避けることができ、そのような副作用としては限定されないが、不眠症、筋肉の緊張、吐き気、性的機能不全が挙げられる。
【0077】
上記で説明したように、本発明の一態様は、不安障害の治療および/または予防に使用するための、非生存のB. longum CECT 7347株およびL. rhamnosus CECT 8361株を含むポストバイオティクス組成物に関する。
【0078】
不安は、緊張感、心配性な思考、血圧上昇などの身体的変化を特徴とする感情である。不安はストレスに対する正常な反応であり、状況によっては有益な場合もあるが、不安障害は通常の緊張感または不安感とは異なり、過度の恐怖または不安を伴う。不安は人間だけでなく、他の動物、特に他の非ヒトの哺乳動物も経験することがある。
【0079】
不安障害は、人間の精神障害の中で最も一般的なものであり、成人の30%近くが人生のある時点で罹患する。不安障害としては、限定されないが、全般性不安障害、パニック障害、特定の恐怖症、広場恐怖症、社交不安障害(以前は社会恐怖症と呼ばれていた)、騒音嫌悪および分離不安障害が挙げられる。
【0080】
全般性不安障害は、日常生活に支障をきたすほどの持続的で過剰な心配を伴う。落ち着かない、イライラする、または疲れやすい、集中力がない、筋肉の緊張、または睡眠障害などの身体症状を伴うこともある。
【0081】
パニック障害は通常、繰り返し起こるパニック発作、かなり重い症状を伴う身体的および心理的な苦痛の甚だしい組み合わせによって特徴づけられる。発作は、恐怖の対象への反応など予期されたものであることもあれば、明らかに理由もなく起こる予期せぬものであることもある。うつ病または心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの他の精神疾患と併発することもある。
【0082】
特定の恐怖症とは、一般に害のない特定の対象、状況、または活動に対する過剰で持続的な恐怖である。
【0083】
広場恐怖症は、逃げ出すことが困難な状況もしくは恥ずかしい状況に置かれる、またはパニック症状が出ても助けが得られないかもしれない状況に置かれることへの恐怖である。恐怖は実際の状況に比例せず、一般的に6か月以上続き、機能障害を引き起こす。
【0084】
社交不安障害は、社会的相互作用の中で、恥をかかされたり、屈辱を感じたり、拒絶されたり、見下されたりすることに対する大きな不安および不快感を特徴とする。その恐怖または不安は、日常生活に支障をきたし、少なくとも6か月は続く。
【0085】
不安障害の原因は現在のところ不明であるが、おそらく遺伝的、環境的、心理的、発達的などの要因が複合的に関与していると考えられる。
【0086】
不安障害にはそれぞれ独特の特徴があるが、そのほとんどは心理療法および薬物療法によく反応する。薬物療法は不安障害を治癒させるものではないが、症状をかなり緩和する。最も一般的に使用される薬物は抗不安薬(一般に短期間のみ処方される)および抗うつ薬である。心臓の病気に使用されるβ遮断薬は、不安の身体的症状をコントロールするために使用されることもある。
【0087】
本発明において、「不安障害」という用語は、上述した不安障害だけでなく、関連する病気も含み、この関連する病気としては心的外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害、強迫性障害、適応障害などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
PTSDは、自然災害、重大な事故、テロ行為などの心的外傷となる出来事を経験もしくは目撃した人、または死、性的暴力、もしくは重傷に脅かされた人に起こり得る精神障害である。PTSDは、民族、国籍、または文化を問わず、また年齢を問わず、全ての人に発症する可能性がある。PTSDの人は、心的外傷となるような出来事が終わった後も、その体験に関連した激しく不穏な思考および感情が長く続く。また、PTSDの人は、悲しみ、恐怖、または怒りを経験し、他人との距離を感じたり、疎遠になったりすることもある。
【0089】
急性ストレス障害は、PTSDと同様に心的外傷となる出来事に反応して発症し、症状も似ている。しかし、その症状は前記出来事の3日後から1か月後に起こり、大きな苦痛および日常生活上の問題を引き起こす。急性ストレス障害の人の約半数はPTSDに移行する。精神療法および薬物療法は両方とも、症状をコントロールし、急性ストレス障害からPTSDへの進展を防ぐことに役立つ。
【0090】
強迫性障害(OCD)は、繰り返し起こる望ましくない思考、発想または感覚(強迫観念)によって、繰り返し何かをしなければならない(強迫行為)という衝動に駆られる障害である。これらの強迫行為は、その人の日常生活および社会的な交流を著しく妨げ、重大な苦痛を引き起こし、仕事または社会的な機能を損なうことがある。
【0091】
適応障害もまた、ストレスとなる生活上の出来事(または複数の出来事)に反応して発症する。ストレス因子に反応して人が経験する情動症状または行動症状は、発生した出来事の種類に対して合理的に予想されるものに比べて、より重い、または強い。症状には、悲しみ、絶望感、ならびに震え、動悸、および頭痛などの身体的症状が含まれることがある。これらの症状は、被験体の生活の重要な領域において重大な苦痛または機能障害を引き起こし、通常、ストレスとなる出来事から3か月以内に始まる。これらの症状は、ストレス因子またはその結果が終わってから6か月以内には収まる。この障害は通常、精神療法で治療される。
【0092】
上記のように、動物、特に哺乳動物も不安を発症することがある。例えば、分離不安はペットによく見られる。分離不安は、犬または猫が保護者から引き離されたときに誘発される。動物による逃避の試みはしばしば極端で、自傷行為に至ることもある。社会的ストレスもペットの福祉に重要な役割を果たしているという証拠がある。さらに、社会的ストレス、輸送、農場内の高密度も、家畜の疾病予防および農場の福祉に重要な役割を果たす可能性があり、一般的な管理方法が疾病リスクを高める媒介となる可能性があるという証拠がある。社会的接触が奪われる(「社会的孤立」)、スペースが狭くなる(「混雑」)、社会秩序が乱れる(「社会的不安定」)などの社会的要因は、家畜のストレスの生理学的および行動学的指標を引き起こす。
【0093】
他の態様において、本発明は、本発明の組成物を被験体に投与する工程を含む、被験体における不安障害の治療または予防方法(「本発明の治療または予防方法」)を包含する。
【0094】
本発明の他の態様は、被験体における不安障害の治療または予防のための医薬の製造における本発明の組成物の使用に関する(「本発明の使用」)。
【0095】
本発明の治療または予防方法および本発明の使用において使用される全ての好ましい実施形態および用語の説明は、上記で説明した通りである。本発明の前述の態様の全ての特定の用語、定義および実施形態は、本発明の治療方法および使用に適用可能である。
【0096】
不安障害の治療および/または予防における関連用途に加えて、本発明の組成物は、非病理学的不安の改善にも使用することができる。本明細書で上述したように、不安はストレスに対する正常な反応であり、状況によっては有益であり得る。したがって、緊張感または不安感の正常な感情と不安障害とは区別することができる。
【0097】
したがって、本発明の他の態様は、不安の改善における本発明の組成物の非治療的使用に関する。
【0098】
不安は、個人のストレスおよび新しい状況に対する典型的な反応であり、限定されないが、被験体における心配、落ち着きのなさ、または緊張感などの感情を包含する。
【0099】
本発明の別の態様は、被験体における緊張感および/または心配の改善における、本発明の組成物の非治療的使用に関する。
【0100】
さらに、本発明の組成物は食品サプリメントとして使用することができる。したがって、本発明の他の態様は、食品サプリメントとしての本発明の組成物の使用に関する。
【0101】
用語「食品サプリメント」は上記で定義されており、その定義と関連する特定の実施形態は、本明細書でも同様に適用される。
【0102】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、「含む」という語及びその変形は、他の技術的特性、追加の物、成分又は工程を除外することを意図するものではない。
【0103】
〔図面の説明〕
図1. 実験開始時(t=0)の各実験群における動物の体重(平均値±SEM)。
【0104】
図2. 上下2つのアリーナを持つ、標本の泳ぎの分析に使用したNoldus Ethovision(登録商標)によって生成されたテンプレートの画像。
【0105】
図3. 各実験群におけるt=2mpiおよびt=4mpi時の動物の体長および体重(平均値±SEM)。アスタリスクは統計的に有意な差を示す
*(p>0.050)。
【0106】
図4. t=2mpiおよびt=4mpiにおける各実験群の総泳動距離および魚速(平均値±SEM)。
【0107】
図5. t=2mpiおよびt=4mpiにおける各実験群の、水槽の上部ゾーンで過ごした時間の秒数(平均値±SEM)およびNTT記録中の正規化パーセンテージ(平均値±SEM)で表したゾーン選好性。
【0108】
図6. 実験開始から(A)2か月後(2mpi)および(B)4か月後(4mpi)のNTT中に上部ゾーンで30秒未満しか過ごさなかった魚(濃い点)の%。
【0109】
図7. 上部ゾーンへの最初の進入までの待ち時間(秒)。アスタリスクは魚がNTTの全てを水槽上部エリアで過ごしたことを示す。ハッシュは、水槽の下部エリアで全てのNTTを過ごした魚を示す。
【0110】
図8. 2mpiサンプリングにおける各実験群の全軌跡のマージヒートマップ。
【0111】
図9. 4mpiサンプリングにおける各実験群の全軌跡のマージヒートマップ。
【0112】
図10. オクタノールに対するC. elegansの反応時間を、対照条件(OP50添加)、対照不安条件(餌欠乏)、ならびに熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)を混合して処理した不安線虫で表したもの。
【0113】
図11. 寒天プレートにおける線虫の分布を定量することによる分散性の解析。線虫にストレス(コリン作動性刺激薬)を与え、熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)を混合して処理した。異なるグレースケールは、プレートの中心からの線虫の位置の違い(cm)を示す。
【0114】
図12. C. elegansの回避行動(不安)に及ぼす、ブレンドHT-ES1+HT-BPL15(10
8細胞)および代替株(BPL33、BPLA3、BPL31、BPL8)を製剤化した他のブレンドの効果。一元配置分散分析を適用した。データは2回の独立実験の平均である。
**p<0.01。
【0115】
〔実施例〕
実施例1. ゼブラフィッシュ成魚の行動に対する6種類の異なるプロバイオティクス/ポストバイオティクスサプリメントの経口投与の効果
材料および方法
新規水槽テスト(NTT)を用いた、6種類の異なるプロバイオティクスサプリメント*の経口投与によるDanio rerio(ゼブラフィッシュ)成魚の行動への効果の評価。魚の遊泳パターンを個体レベルで分析し、結果および結論を報告書にまとめる。
【0116】
* ブレンド製剤004009
HT(熱処理)ブレンド製剤004009
Bifidobacterium longum ES1(CECT 7347)
HT Bifidobacterium longum ES1
Lactobacillus rhamnosus BPL15(CECT 8361)
HT Lactobacillus rhamnosus BPL15
本報告に記載された全ての手順は、レオン大学(スペイン)の制度化された動物飼育使用委員会の承認を得た。全ての動物は、実験動物の使用に関するスペインの規則(RD/2013)に従い、欧州連合理事会ガイドライン(2010/63/EU)に従って標準的に操作された。
【0117】
受精後4か月(mpf)のゼブラフィッシュ(AB株)兄弟魚70匹のバッチを、魚の体重を考慮して均質に7群(n=10)に分けた(
図1、表1)。
【0118】
【0119】
各魚は110mg/L緩衝化トリカインメタンスルホネート(MS222)で麻酔し、個体識別および動物追跡のため、可視インプラントエラストマー(Northwest Marine Technology, WA, USA)で個別にタグを付けた。ゼブラフィッシュは、機械的、化学的および生物学的フィルターを装備した再循環システムから一定の水を交換した3L水槽で飼育した。水は平均温度26℃に保たれ、室内の光周期は14/10の明暗サイクルであった。
【0120】
プロバイオティクスおよび/またはポストバイオティクスのサプリメントとプラセボとは、109cfuまたは細胞を含むカプセルで提供された。カプセルの内容物を2つに分け、摂取を保証するために、各投与量(内容物の半分)を、毎回の定期給餌(1日2回)の30分前に飼育水に入れて実験雄に与えた。この給餌条件は全ての実験の間で(4か月間)維持された。維持管理、給餌、動物福祉を担当する技術職員はカプセルの内容物を知らなかった。実験群は盲検化して1~7までの番号を付けた。
【0121】
動物の探索行動を調べるために、我々は新規水槽テスト(NTT)を用いた。このテストでは、「安全な」潜水行動と「探索的な」遊泳行動とが対立するため、特定の実験条件下で魚の重力走性逃避潜水本能の強さを調べることができる。通常の管理された実験室条件下では、魚は一般に、モニタリング開始後数分間は水槽の底にいる時間が長くなる傾向があり、不規則な動きおよび不動現象の割合が高くなる。馴化期間が過ぎると、魚は徐々に水柱の上部を探索するようになる。
【0122】
プロトコルは、摂取開始後2か月および4か月(mpi)の2回、以下のように実施した:各動物を個々に四角形のガラス水槽(20×8×18cm、長さ×幅×深さ、遊泳容積:3.5L)の底に置いた。魚は6分間撮影された(1920×1080px)。最初の1分間を新しい環境への馴化時間とし、残りの5分間を行動分析とした。個々の遊泳行動は、Noldus Ethovision(登録商標)トラッキング・ソフトウェアを用いて、水槽を2つのアリーナ(上部および下部;
図2)に分割した仮想グリッドを生成し、分析した。
【0123】
それぞれの動物について、探索行動に関する次の推定値を定量化した:
・ 移動距離。
・ 速度。
・ ゾーンの選好性。
・ 上部ゾーンの最初の進入までの待ち時間。
【0124】
結果は平均値±標準誤差で表した。パーセンテージのデータはアークサイン二乗根変換を用いて正規化した。2mpiおよび4mpiにおける各変数の平均値間の統計的な差は、片側検定で対応のないt-Student検定(正規分布変数)または片側検定のMann-Whitney検定(ノンパラメトリック変数)を用いて決定した。全ての統計解析はPrism 9(GraphPad Software, San Diego, CA, USA)を用いて行った。P値<0.0500を統計的に有意とみなした。ポストバイオティクス実験は、不安のDanio rerio(ゼブラフィッシュ)モデルを用いて行った。このモデルは、初めて新規水槽に入れられた時に底の近くを泳ぐというゼブラフィッシュの選好性に基づいている。魚が水槽の底から離れ、他の場所を探索し始めるまでにかかる時間の違いは、魚が経験する不安を反映していると考えられる。遊泳パターン、平均遊泳速度、水槽内の分布に関するパラメータを分析した。
【0125】
生物測定
プロバイオティクスおよびポストバイオティクスの摂取が生物測定パラメータに及ぼす効果を
図3に示す。魚の体長は2mpiで均一であった。4mpiでは、プラセボと同程度であったHT L. rhamnosus BPL15を除く全てのポストバイオティクス摂取動物で平均値が高かったものの、統計的に有意な差は報告されなかった(表2)。
【0126】
【0127】
統計解析により、HT B. longum ES1群ではプラセボ群と比較して、2mpi(p=0.0402)および4mpi(p=0.0140)で体重増加が促進されたことが示された。体長と同様に、残りの実験群も、HT L. rhamnosus BPL15を除いて、4mpiにおいて、対照群と比較して有意ではない高い平均値を示した(表3)。
【0128】
【0129】
動態
調査対象魚の動態は、群間で同様の結果を示した(
図4)。興味深いことに、魚が泳いだ総距離は4か月のサンプリングと比べて2か月のサンプリングで大きく、約1800~2100cmであった(表4)。最大距離を示したのは、両サンプリングともブレンド製剤004009およびHTブレンド製剤004009を補給した群の魚であった。
【0130】
【0131】
距離のデータと同様、魚の速度を分析したところ、群間で統計的に有意な差は見られなかった。相関的に、このパラメータの数値が最も高かったのは、ブレンド製剤を補給した群の魚であった(表5)。
【0132】
【0133】
ゾーン選好性
速度および移動距離における群間の類似性についての前述の結果を考慮すると、以下のデータはさらに興味深い。
【0134】
魚のゾーン選好性は、調査したいくつかの実験群で統計的に有意な選好性を示した(
図5、6、7)。
【0135】
グラフに見られるように(上部ゾーンで過ごした合計秒数および正規化したパーセンテージの両方において)、2か月サンプリングのデータは実に有望である。プロバイオティクスまたはポストバイオティクスを給餌した群のうち4つで、対照群と比較して有意差が認められた:
・ ブレンド製剤004009|p=0.0112
・ HTブレンド製剤004009|p=0.0024
・ B. longum ES1|p=0.0165
・ L. rhamnosus BPL15|p=0.0112
2mpiでは、プラセボ群で報告された34.64±12.48秒に比べて、HTブレンド製剤004009群では上部ゾーンの平均値が106.2±14.98秒となり、最良の結果が得られた(
図8、表6)。
【0136】
【0137】
摂取後4か月の結果では、HTブレンド製剤004009群(p=0.0423)およびB. longum ES1群(p=0.0429)でのみ統計的に有意な差が認められた。これら2つの実験群には、サンプリングにおいて水槽の上部ゾーンで最も高いパーセンテージを示した魚が含まれている(
図8、表7)。
【0138】
【0139】
【0140】
ゾーン選好性データは、水槽の上部でほとんど時間を過ごさない動物の数に着目して分析し、NTT合計の30秒(10%)を閾値とした(表8)。
【0141】
【0142】
プロバイオティクスまたはポストバイオティクス摂取2か月後、この種の行動を示す動物の割合は、ブレンド製剤004009群およびHTブレンド製剤004009群で最も低いパーセンテージであった。反対に、これらの個体の割合が最も高かったのはプラセボ群であった。
【0143】
実験開始から4か月後も、これら2つの群はこの傾向を維持しているが、B. longum ES1およびL. rhamnosus BPL15では、前回のサンプリングと比較してその割合が減少している(
図9)。
【0144】
上部ゾーンの最初の進入までの待ち時間
通常、新規水槽に導入された魚は、新しい環境に慣れるまでの間、最初は水槽の底を好む。
【0145】
1分間の馴化の後、各実験群の動物が示した待ち時間を定量化した。
図9からわかるように、2か月のサンプリングにおいて、プラセボ群では4匹の魚が上部ゾーンに入らず、うち2匹では上昇までの待ち時間が2分超遅れた。他の群、特にブレンド製剤004009、HTブレンド製剤004009およびB. longum ES1では、魚の最初の進入時の待ち時間は全体的に低かった。
【0146】
プロバイオティクスまたはポストバイオティクスの補給後4か月経過すると、プラセボ群ではその傾向が和らいだが、前述の群では引き続き低い値を示し、特にHTブレンド製剤004009では、1分後の記録開始時点ですでに4匹までの魚が上部ゾーンに進入していた。
【0147】
実施例2. C. elegansの実験
C. elegansは寿命、肥満、メタボリックシンドロームの研究に適したモデルとなっている。さらに、認知機能障害(学習および記憶、AD、PD)を明らかにする多くの行動を解析したり、様々な精神疾患の側面をモデル化したりする簡単なモデルとしても用いられている(Dwyer DS. Crossing the Worm-Brain Barrier by Using Caenorhabditis elegans to Explore Fundamentals of Human Psychiatric Illness. Mol Neuropsychiatry. 2018, 3:170-179)。C. elegansでは、神経伝達物質および神経ペプチドが哺乳動物の神経系と類似しており(ドーパミン、GABA、アセチルコリン、セロトニンなど)、線虫は哺乳動物の学習および記憶と同様の顕著な行動可塑性を示す。
【0148】
発育、摂食、運動といった基本的な機能は、神経系によってコントロールされている。
【0149】
ここでは、B. longum CECT7347(ES1)およびL. rhamnosus CECT8361(BPL15)から構成される熱処理ポストバイオティクス混合物をC. elegansの不安およびストレスモデルで評価した。混合物は最終濃度1×108細胞/プレートで評価した(0.5×108細胞/プレートHT-BPL15+0.5×108細胞/プレートHT-ES1)。
【0150】
不安モデル
ストレスおよび忌避刺激の知覚は、ヒトにおける不安行動の最初の構成要素であり、順に扁桃体、HPA(視床下部-下垂体-副腎)軸、および神経調節物質(例えば、セロトニン)によって制御される。
【0151】
セロトニン経路はC. elegansの嫌忌行動の基礎となっており、忌避臭物質であるオクタノールに対する回避を媒介する。そこで、回避行動をC. elegansの不安関連行動として用いた。
【0152】
不安アッセイは回避行動アッセイによって行った。実験は、先に記載された「smell-on-a-stick」アッセイを用いて行った(Chao, M. Y., et al. 2004, Proc Natl Acad Sci U S A. 26;101(43):15512-7. doi: 10.1073/pnas.0403369101. Epub 2004 Oct 18. PMID: 15492222; PMCID: PMC524441)."Feeding status and serotonin rapidly and reversibly modulate a Caenorhabditis elegans chemosensory circuit." Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101: 15512-15517)。オクタノール回避アッセイでは、Loew-Cornell(Teaneck, NJ) 9000 Kolinsky 7ペイントブラシの毛の鈍端をパスツールピペットにテープで固定し、新しく調製した30%オクタノールに浸し、前進する線虫の前に配置した。線虫が後方へ動き出す(オクタノール回避)までの時間を、実験用タイマーを用いて測定した。
【0153】
不安条件では、線虫をOP50無添加のNGMプレートで培養した。この餌の欠乏は、セロトニンレベルの低下による不安の増加を引き起こした(Chao, M. Y., et al. 2004, Proc Natl Acad Sci U S A. 26;101(43):15512-7. doi: 10.1073/pnas.0403369101. Epub 2004 Oct 18. PMID: 15492222; PMCID: PMC524441)。この不安状態は、線虫がオクタノール刺激に対して後方に移動するのに必要な時間の増加を誘導した。
【0154】
図10は、線虫がオクタノールの匂いを嗅いだときに後方移動を開始するまでに要した時間を示している。先に述べたように、餌のない不安な対照の線虫は、OP50を添加した対照条件の線虫よりもオクタノールを避けるのに時間がかかる。熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)を混合して培養した線虫は、餌欠乏下で回避時間を有意に短縮した(p値<0.05)。したがって、混合した熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)は、餌不足による不安関連行動を抑制した。
【0155】
ストレスモデル
C. elegansの運動は筋収縮の正弦波として特徴づけられ、アセチルコリン(興奮性神経伝達物質)によって媒介される。
【0156】
この実験では、ストレス条件下での線虫の探索行動を解析するために、薬物Denubilを用いてコリン作動性刺激を与え、熱処理混合物の熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)がこの行動パターンにどのように影響するかを評価した。
【0157】
プレートは0.9cm未満、0.9~1.8cm、1.8~2.8cmの3つの同心円状の領域に分けた。線虫をプレートの中央に置き、2分後にそれぞれの場所で位置を採点した。
【0158】
図11は給餌条件における線虫の分布を示しており、対照(ストレスなし)およびストレスのかかった個体群の両方を含む。対照条件下では、線虫はプレートの中心に集まる傾向があるが、精神刺激薬物でストレスを与えると、線虫はプレートの端に分散する傾向がある。さらに、混合した熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)を与えた線虫は、対照-非ストレスで観察された行動パターンを回復し(p値<0.001)、再びプレートの中心に集まった(分散しなかった)。
【0159】
実施例3. 熱処理したL. rhamnosus株およびB. longum株の異なるブレンド間の比較アッセイ
Lactobacillus rhamnosus株およびBifidobacterium longum株
Bifidobacterium longumに属する2つの菌株(BPL33およびBPL31)およびLactobacillus rhamnosus種に属する2種(BPLA3およびBPL8)を本出願人のコレクションであるBiopolis, S.L.コレクションから入手し、不安C. elegansモデルで評価した。いずれの菌株も熱処理した形態で評価した。
【0160】
4種類の異なる組み合わせがテストされた:
・ B. longum HT-BPL33 + L. rhamnosus HT-BPLA3
・ B. longum HT-BPL33+ L. rhamnosus HT-BPL8
・ B. longum HT-BPL31 + L. rhamnosus HT-BPLA3
・ B. longum HT-BPL31+ L. rhamnosus HT-BPL8
比較分析のために、本発明の不安ブレンドB. longum HT-ES1 + L. rhamnosus HT-BPL15を添加した条件を追加した。
【0161】
C. elegansにおける不安モデル
C. elegansの不安関連行動アッセイとしてオクタノール回避を用いた。実験は「smell-on-a-stick」アッセイを用いて行った。オクタノール回避アッセイでは、パスツールピペットにテープで固定した毛(Loew-Cornell(Teaneck, NJ) 9000 Kolinsky 7ペイントブラシ)の鈍端を、新しく調製したEtOH中30%オクタノール(vol/vol)に浸し、前進する線虫の前に置いた。線虫が後方に移動するのに要した時間を測定した。対照条件の線虫はE. coli OP50を添加したNGMで飼育した。100μLの新しく一晩置いたE. coli OP50を播種したNGMプレートに線虫を移した。線虫は試験前にこのプレートで20分間培養した。不安条件では、線虫をOP50無添加のNGMプレートで20分間培養した。この餌欠乏はセロトニンレベルの低下により不安関連行動を誘発した。処理を評価するため、野生型線虫を、対応する2種の熱処理株のブレンドを108細胞(最終投与量)添加したNGMプレートで年齢同期させた。若成虫期に、線虫を、各処理を施したNGMプレートに移したが、30分間は餌を与えなかった。その後、線虫を、OP50無添加および各処理を施したNGMプレートに移し、20分後に試験を行った。対照と比較して、オクタノールに反応する時間を短縮したパーセンテージを示した。
【0162】
結果
不安関連行動として、C. elegansのオクタノールに対する回避行動を用いて、代替のB. longum株およびL. rhamnosus株の異なるブレンドを評価した。
【0163】
このアッセイでは、不安な対照線虫は対照条件線虫(NGM、不安のない対照)よりもオクタノールを避けるのに時間がかかる。結果は、不安な対照集団に対する各処置の相対的なパーセンテージを表す(
図12)。
【0164】
その結果、ES1およびBPL15を用いた熱処理株のブレンド(本発明の組成物)は、オクタノールを線虫に提示したときの反応時間を34%短縮し、不安行動を低減する高い効果を示したが、他の4つのブレンドは8~14%しか低減しなかった(
図12および表9)。
【0165】
【0166】
したがって、これらの結果は、本発明の菌株のブレンドが、これらの種の菌株の他のブレンドよりも驚くほど優れた効果を有することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【
図1】実験開始時(t=0)の各実験群における動物の体重(平均値±SEM)。
【
図2】上下2つのアリーナを持つ、標本の泳ぎの分析に使用したNoldus Ethovision(登録商標)によって生成されたテンプレートの画像。
【
図3】各実験群におけるt=2mpiおよびt=4mpi時の動物の体長および体重(平均値±SEM)。アスタリスクは統計的に有意な差を示す
*(p>0.050)。
【
図4】t=2mpiおよびt=4mpiにおける各実験群の総泳動距離および魚速(平均値±SEM)。
【
図5】t=2mpiおよびt=4mpiにおける各実験群の、水槽の上部ゾーンで過ごした時間の秒数(平均値±SEM)およびNTT記録中の正規化パーセンテージ(平均値±SEM)で表したゾーン選好性。
【
図6】実験開始から(A)2か月後(2mpi)および(B)4か月後(4mpi)のNTT中に上部ゾーンで30秒未満しか過ごさなかった魚(濃い点)の%。
【
図7】上部ゾーンへの最初の進入までの待ち時間(秒)。アスタリスクは魚がNTTの全てを水槽上部エリアで過ごしたことを示す。ハッシュは、水槽の下部エリアで全てのNTTを過ごした魚を示す。
【
図8】2mpiサンプリングにおける各実験群の全軌跡のマージヒートマップ。
【
図9】4mpiサンプリングにおける各実験群の全軌跡のマージヒートマップ。
【
図10】オクタノールに対するC. elegansの反応時間を、対照条件(OP50添加)、対照不安条件(餌欠乏)、ならびに熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)を混合して処理した不安線虫で表したもの。
【
図11】寒天プレートにおける線虫の分布を定量することによる分散性の解析。線虫にストレス(コリン作動性刺激薬)を与え、熱処理L. rhamnosus CECT8361および熱処理B. longum CECT7347(HT-BPL15+HT-ES1)を混合して処理した。異なるグレースケールは、プレートの中心からの線虫の位置の違い(cm)を示す。
【
図12】C. elegansの回避行動(不安)に及ぼす、ブレンドHT-ES1+HT-BPL15(10
8細胞)および代替株(BPL33、BPLA3、BPL31、BPL8)を製剤化した他のブレンドの効果。一元配置分散分析を適用した。データは2回の独立実験の平均である。
**p<0.01。
【国際調査報告】