(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】金属箔から作成されたセルケーシングを有する電解セルおよび電解槽
(51)【国際特許分類】
C25B 9/60 20210101AFI20241219BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241219BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241219BHJP
C25B 1/26 20060101ALI20241219BHJP
C25B 9/73 20210101ALI20241219BHJP
【FI】
C25B9/60
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B1/26 A
C25B9/00 C
C25B9/73
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534094
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2022084554
(87)【国際公開番号】W WO2023104776
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522219939
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ヌセラ・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コンパニー・コマンディトゲゼルシャフトアウフアクチェン
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】トロス,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】アウステンフェルト,セバスティアン
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AA03
4K021BA02
4K021CA01
4K021CA04
4K021DB04
4K021DB34
4K021DB47
4K021DC03
4K021DC15
4K021EA04
(57)【要約】
発明は、セルケーシング(2)およびシート状セパレータ(3)を備える電解セル(1)において、シート状セパレータ(3)によって隔てられたアノードチャンバ(4)およびカソードチャンバ(5)が、セルケーシング(2)によって画定され、アノードチャンバ(4)およびカソードチャンバ(5)は、それぞれアノード(6)およびカソード(7)を備える電解セルであって、セルケーシング(2)は、各々が周辺のリム領域(10、11)を有する少なくとも2枚の金属箔のシート(8、9)を備え、金属箔のシート(8、9)は、金属箔のシート(8、9)の間の電気絶縁接着結合部(12)によってリム領域(10、11)内で互いに固定され、シート状セパレータ(3)は、リム領域(10、11)の間の接着結合部(12)に含まれることによってセル内に取り付けられ、電解槽は、複数のそのような電解セル(1)を備えることを特徴とする、電解セル(1)に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルケーシング(2)およびシート状セパレータ(3)を備える電解セルにおいて、前記シート状セパレータ(3)によって隔てられたアノードチャンバ(4)およびカソードチャンバ(5)が、前記セルケーシング(2)によって画定され、前記アノードチャンバ(4)および前記カソードチャンバ(5)は、アノード(6)およびカソード(7)をそれぞれ備える電解セルであって、前記セルケーシング(2)は、各々が周辺のリム領域(10、11)を有する少なくとも2枚の金属箔のシート(8、9)を備え、前記金属箔のシート(8、9)は、前記金属箔のシート(8、9)の間の電気絶縁接着結合部(12)によって前記リム領域(10、11)内で互いに固定され、前記シート状セパレータ(3)は、前記リム領域(10、11)の間の前記接着結合部(12)に含まれることによって前記セル内に取り付けられることを特徴とする、電解セル。
【請求項2】
前記接着結合部(12)は、化学硬化性接着剤または乾式溶媒系接着剤によって提供されることを特徴とする、請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記接着結合部(12)は、熱可塑性材料によって提供されることを特徴とする、請求項1に記載の電解セル。
【請求項4】
前記金属箔のシート(8、9)は、0.2mm以下の厚さを有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項5】
前記電解セル(1)は、長方形、正方形、六角形または円形の形状であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項6】
前記セルケーシング(2)は、前記リム領域(10、11)の外側で電気絶縁層(13)でコーティングされていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項7】
セルラック(110)およびセルスタック(120)を備える電解槽において、前記セルスタック(120)は、軸方向(A)に積み重ねられた複数の電解セル(1)を備え、前記セルラック(110)は、前記セル(1)の電気的接続を直列に維持するために、前記セルスタック(120)の前記電解セル(1)を前記軸方向(A)に圧縮するための圧縮装置(111)を備え、前記セルスタック(120)は、前記軸方向(A)が水平に延びるように前記セルラック(110)に取り付けられる電解槽であって、前記電解セル(1)は、請求項1から5のいずれか一項に従って構成されることを特徴とする、電解槽。
【請求項8】
前記セルラック(110)は、前記セルスタック(120)のための少なくとも1つの内側境界面(112)を提供し、前記境界面(112)は、前記電解セル(1)を少なくとも横方向および下方から支持することによって前記セルスタック(120)に寸法安定性を提供することを特徴とする、請求項7に記載の電解槽。
【請求項9】
前記セルラック(110)は、タンク壁(114)を有するタンク(113)を備え、前記セルスタック(120)は前記タンク(113)内に位置決めされ、前記タンク壁(114)は前記セルスタック(120)のための前記少なくとも1つの内側境界面(112)を形成し、前記タンク(113)は、非導電性バリア液(130)で満たされ、前記バリア液(130)は、前記セルラック(110)の寸法安定性を前記バリア液(130)に浸漬された前記セルスタック(120)に伝えることを特徴とする、請求項8に記載の電解槽。
【請求項10】
前記タンク(113)は、円形断面を有する圧力容器であることを特徴とする、請求項9に記載の電解槽。
【請求項11】
前記電解槽(100)は、前記バリア液(130)の導電率を監視するための導電率センサ(140)をさらに備えることを特徴とする、請求項9または10に記載の電解槽。
【請求項12】
前記バリア液(130)は、色の変化によって前記セルスタック(120)からの電解質の漏れを示すためのインジケータ液を含むことを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項13】
前記タンク(113)は、前記バリア液(130)の循環ループ(150)に接続され、前記循環ループ(150)は、前記バリア液(130)を加熱および/または冷却するための熱交換器(151)を備えることを特徴とする、請求項9から12のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項14】
前記タンク(113)内の圧力を監視するために圧力センサ(160)が設けられ、前記圧力センサ(160)は、外部圧力源(162)から前記タンクに加えられる圧力を調整することによって前記バリア液(130)の圧力を制御するように構成された制御ユニット(161)に接続されることを特徴とする、請求項9から13のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項15】
前記タンク(113)は前記バリア液(130)で完全に満たされ、前記バリア液(130)の自生圧力制御のために封止されることを特徴とする、請求項9から12のいずれか一項に記載の電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載の電解セルおよび請求項7の前文に記載の電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解による水素および/または塩素-アルカリ電解による塩素の大規模製造(すなわち、メガワット範囲)のためのバイポーラ電解槽の1つのタイプは、いわゆる単一要素設計である。
【0003】
単一要素設計の電解槽では、各電解セルは別々に封止されたユニットである。各電解セルのケーシングは、2つのハーフシェルを備え、これらのハーフシェルは、セパレータおよびガスケットを間に介在させて、それらのリム領域において一緒にボルト締めされている。したがって、各ハーフシェルは、電解セルの1つの半電池を形成し、半電池はセパレータによって隔てられている。電解セルを封止するための封止力は、セル要素のリム領域に沿って周辺に分配された複数のボルトによって提供される。セパレータは、電解槽の意図される目的に応じてイオン交換膜または多孔質隔膜であってもよい。各電解セルのケーシングを形成する2つのハーフシェル間の短絡は確実に防止されるべきであり、そのために、ガスケットに加えて、電気絶縁材料の少なくとも1つの層が封止の前にリム領域に挿入される。電解セルは、典型的には、セルラック内に上方から吊り下げられ、圧縮装置を使用することによって互いに対して押し付けられてバイポーラスタックを形成する。
【0004】
独国特許出願公開第19641125号明細書は、単一要素タイプのバイポーラ電解槽の電解セルの一例を示している。
【0005】
単一要素設計の既知の電解セルは、単一要素電解セルに寸法安定性を提供するために、セルケーシングのために相当な量の高品位の金属材料を必要とする、典型的にはニッケルおよび/またはチタンを必要とするという欠点を有する。セルケーシングの材料強度は、作動条件において、すなわちそれが電解質で満たされているときにセルの重量を支持することができるように選択される。この設計は、セルケーシングのかなりの重量をもたらし、かつ高い材料コストをもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第19641125号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、材料コストが低減された軽量の電解セルおよびそのようなセルを収容することができる電解槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1の特徴による電解セルおよび請求項7の特徴を有する電解槽によって達成される。
【0009】
これにより、セルケーシングおよびシート状セパレータを備える電解セルが提供され、シート状セパレータによって隔てられたアノードチャンバおよびカソードチャンバがセルケーシングによって画定される。アノードチャンバおよびカソードチャンバは、それぞれアノードおよびカソードを備える。本発明によれば、セルケーシングは、各々が周辺のリム領域を有する少なくとも2枚の金属箔シートを備える。金属箔のシートは、金属箔のシート間の電気絶縁接着結合部によってリム領域内で互いに固定される。シート状セパレータは、リム領域間の接着結合部に含まれることによってセル内に取り付けられる。本開示による接着結合部は、接合された部品と結合材料との間の接着力によって維持される任意の結合部であり、接合された部品の間に接続要素を提供する。
【0010】
有利には、本発明の電解セルは、接着結合部によるセルケーシングの新しい封止概念を、セルケーシングの主材料としての金属箔シートの使用と組み合わせている。これにより、セルケーシングの機能は、電解セルのチャンバを導電的なやり方で境界を定める目的へと低下する。セルの寸法安定性は、もはやセルケーシングによって提供されるのではなく、セルが電解槽内に位置決めされるセルラックによってのみ提供される。金属箔を使用すると、ケーシングに必要な金属材料の分量および重量が従来技術と比較して15%未満の割合まで減少する。さらに、接着結合部による封止は、ボルトもフレームバーも必要としないため、セルの重量を低減する。新しいセル設計はまた、セル組み立ての自動化を容易にする。
【0011】
本発明の特定の実施形態では、接着結合部は、化学硬化性接着剤または乾式の溶媒系接着剤によって提供されてもよい。化学硬化性接着剤および溶媒系接着剤は、高温および/または強烈な化学薬品に耐えることができる、とりわけ強力な接着結合の利点を有する。
【0012】
他の実施形態では、接着結合部は熱可塑性材料によって提供される。熱可塑性材料は、容易で、非破壊的な方法で電解セルを開放および再封止する可能性を可能にするという利点を有する。メンテナンスの目的で、例えばセパレータの交換の目的で、リム領域は、熱可塑性材料が再び熱可塑性状態になりセル要素を隔てることができるまで、再び加熱することができる。電解セルを封止するために特に好ましいのは、ポリプロピレン(PP)、特にアタクチックポリプロピレン(PP-R)、および/またはポリ塩化ビニル(PVC)を含む熱可塑性材料である。
【0013】
好ましくは、金属箔のシートは、0.2mm以下の厚さを有する。特に薄い金属箔は、必要とされる材料の総量を減らすだけでなく、複数のセルがセルスタック内で圧縮されるときに、隣接するセルの広範な平面電気接続を確立するのに有利なセルケーシングの可撓性を改善するため、セルケーシングとして好ましい。
【0014】
電解セルは、好ましくは、長方形、正方形、六角形または円形の形状であってもよい。
【0015】
特に、本発明は、アルカリ水電解またはクロルアルカリ電解に使用される工業規模の電解セルに関する。したがって、本発明による電解セルのセパレータは、好ましくは0.5m2~4m2の面積を有する。さらに、電解セルは、好ましくは少なくとも3kA/m2の電流密度に構成される。
【0016】
本発明の実施形態では、セルケーシングは、リム領域の外側が電気絶縁層でコーティングされている。セルケーシングのリム領域内の電気絶縁層は、バリア液で満たされたタンク内で作動されるセル内の漂遊電流を低減するのに特に好ましい。たとえバリア液が高い電気抵抗を有するように選択されたとしても、特にセル内から電解質によるバリア液の何らかの汚染が生じる場合、リム領域の接合部における漂遊電流を排除することはできない。そのような構成では、リム領域の外側の電気絶縁コーティングが、漂遊電流を低減するのに有利である。
【0017】
この目的は、セルラックおよびセルスタックを備える電解槽によってさらに達成される。セルスタックは、軸方向に積み重ねられた複数の電解セルを備える。セルラックは、セルの電気的接続を直列に維持するために、セルスタックの電解セルを軸方向に圧縮するための圧縮装置を備える。セルスタックは、軸方向が水平に延びるようにセルラックに取り付けられる。本発明によれば、セルスタック内の電解セルは上述のように構成される。
【0018】
好ましくは、セルラックは、セルスタックのための少なくとも1つの内側境界面を提供し、この境界面は、電解セルを少なくとも横方向および下方から支持することによってセルスタックに寸法安定性を提供する。セルケーシングに使用される金属箔は、典型的には、セルが空の状態にあるときに取り扱うのに十分な堅牢性を有するが、液体電解質で満たされているとき、すなわち作動しているときに、それ自体では十分な寸法安定性を提供しない。そのため、この機能をセルラックに移動させることが好ましい。電解セルを少なくとも横方向および下方から支持するセルラックの内側境界面は、境界面が電解質の重力および/または電解質に加えられる任意の追加の圧力を散逸させるように、金属箔の外側と内側との間の圧力バランスを達成する。内側境界面は、セルケーシングの外面と直接接触することによって力を散逸させてもよいし、セルケーシングの外面とセルラックの内側境界面との間の空間を満たす中間媒体によって間接的に力を散逸させてもよい。
【0019】
好ましい実施形態では、セルラックは、タンク壁を有するタンクを備え、セルスタックはタンク内に位置決めされ、タンク壁はセルスタックのための少なくとも1つの内側境界面を形成し、タンクは、セルラックの寸法安定性をバリア液に浸漬されたセルスタックに伝える非導電性バリア液で満たされる。タンク内のバリア液は、セル内の液体電解質とその外側との間の圧力バランスを提供することができ、それによって金属箔シートの材料内で生じる応力を緩和する。特に、重力による圧力の同様の高さ分布を達成するために、バリア液が液体電解質の密度の+/-40%の範囲内の密度を有することが好ましい。
【0020】
好ましくは、タンクは、円形断面を有する圧力容器である。次いで、この構成は、上昇した圧力、またはさらには高圧での電気分解を可能にする。圧力容器は、単純な幾何学形状の外側保護カバーを形成し、そのために圧力容器の規制に準拠することは比較的容易であるが、容器内に含まれる個々のセルは、それらの規制自体に従って設計される必要はない。
【0021】
さらに、電解槽は、バリア液の導電率を監視するための導電率センサを備えることが好ましい。通常の作動では、バリア液の導電率は、指定された閾値未満でなければならない。この閾値を超えて導電率が上昇することは、セルから漏れる電解質がバリア液の導電率を増加させるので、故障を示し、特にセルの1つからの漏れを示す。
【0022】
好ましい実施形態では、バリア液は、色の変化によってセルスタックからの電解質の漏れを示すためのインジケータ液を含む。代替として、または追加で、バリア液のpH値は、pHセンサによって監視されてもよい。
【0023】
さらに好ましい実施形態では、タンクはバリア液の循環ループに接続され、循環ループはバリア液を加熱および/または冷却するための熱交換器を備える。一般に、電気分解のプロセスは廃熱を生成する。この廃熱は、熱交換器を介してバリア液を冷却することによって少なくとも一部が引き出されてもよい。始動中、バリア液を加熱することは、好ましい作動温度に迅速に達するために好ましい場合がある。
【0024】
有利には、タンク内の圧力を監視するために圧力センサが設けられ、圧力センサは、外部圧力源からタンクに加えられる圧力を調整することによってバリア液の圧力を制御するように構成された制御ユニットに接続される。特に、圧力制御を使用して、タンク内のバリアの圧力をセル内の電解質の圧力に調整することができ、すなわちセルの内側と外側との間の差圧を指定された閾値より下に保つことができる。外部供給源からの圧力は、ガス状の補助媒体によって加えられてもよい。特に、電解生成物に対して不活性な補助媒体が好ましい。クロルアルカリまたはアルカリ水電解の場合、例えば窒素が好ましい補助媒体である。
【0025】
他の好ましい実施形態では、タンクはバリア液で完全に満たされ、バリア液の自生圧力制御のために封止される。したがって、電解セルの外側のタンク内には本質的に気相は存在しない。セルケーシングの可撓性により、バリア液の圧力は、セル内の電解質の圧力に自動的に追従し、セルケーシングは、圧力バランスを維持するために変形することになる。
【0026】
本発明のさらなる利点は、添付の図面に示される実施形態に関して以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】発明による3つの電解セルを概略的に示す図である。
【
図2】本発明による電解槽の第1の実施形態を概略的に示す図であり、電解セルはセルラックの境界面によって側面および下方から支持されて積み重ねられている図である。
【
図3】本発明による電解槽の第2の実施形態を概略的に示す図であり、電解セルのスタックは、外部圧力制御を用いて、バリア液で満たされたタンクに取り付けられている図である。
【
図4】本発明による電解槽の第3の実施形態を概略的に示す図であり、電解セルのスタックは、自生圧力制御を用いて、バリア液で満たされた密閉されたタンクに取り付けられている図である。
【
図5A】円形断面のタンクに取り付けられた電解セルの異なるセル構成を概略的に示す図である。
【
図5B】円形断面のタンクに取り付けられた電解セルの異なるセル構成を概略的に示す図である。
【
図5C】円形断面のタンクに取り付けられた電解セルの異なるセル構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面において、同じ部分は、一貫して同じ参照符号によって識別され、したがって、全体的に記載され、一度だけ参照される。
【0029】
図1は、互いに積み重ねられた本発明による3つの電解セル1を示す。各電解セル1は、セルケーシング2と、シート状セパレータ3とを備える。アノードチャンバ4およびカソードチャンバ5は、セルケーシング2によって画定され、シート状セパレータ3によって互いから隔てられている。アノードチャンバ4およびカソードチャンバ5は、それぞれアノード6およびカソード7を備える。
【0030】
セルケーシング2は、各々が周辺のリム領域10、11を有する少なくとも2枚の金属箔のシート8、9を備える。金属箔のシート8、9は、金属箔のシート8、9の間の電気絶縁接着結合部12によってリム領域10、11内で互いに固定される。シート状セパレータ3は、リム領域10、11の間の接着結合部12に含まれることによってセル内に取り付けられる。
【0031】
好ましくは、金属箔のシート8、9は、0.1mm以下の厚さを有する。
【0032】
アノード6およびカソード7は、好ましくはワイヤのメッシュ、特に織りメッシュによって提供される。エキスパンドメタルから作成されたメッシュと比較して、ワイヤは、金属箔8、9を損傷する可能性がある鋭い縁部を持たないという利点を有する。
【0033】
接着結合部12は、化学硬化性接着剤または乾式の溶媒系接着剤によって提供することができる。あるいは、接着結合部12は、熱可塑性材料によって提供することができる。
【0034】
互いに積み重ねられ、軸方向に圧縮されると、電解セル1は、金属箔8、9の可撓性のセルケーシング2に起因して、隣接するセル1のアノードチャンバ4とカソードチャンバ5との間に伸張した接触面を形成する。接触面において、アノードチャンバ4内の圧力p1とカソードチャンバ5内の圧力p2との間に圧力バランスがあることが好ましい。また、セル1の内部圧力p1、p2と外部圧力p0との間にも圧力バランスが存在する。好ましくは、圧力p1、p2およびp0は、金属箔のシート8、9内の材料応力を低減するために、10%の相対差まで等しくなるように調整される。好ましくは、圧力p1、p2およびp0の間の圧力差は、0.5バール(g)を超えない。
【0035】
図1に示すように、セルケーシング2は、好ましい実施形態では、リム領域10、11の外側で電気絶縁層13でコーティングされている。リム領域、特に隣接するセル1の非接触領域における金属箔8、9の外側の絶縁層13は、不完全な絶縁液であるか、または(例えば、作動中のわずかな漏れによって)不完全な絶縁液になるバリア液の場合に備えて漂遊電流を防止するのに役立つ。当然ながら、隣接するセル1間に接触面が存在するという要件のために、絶縁層13の端部には常に不完全性が存在し、漂遊電流が損傷を引き起こす可能性がある。しかし、絶縁層13は、漂遊電流が流れる断面積を縮小し、これにより一般に漂遊電流を減少させる。
【0036】
図2には、セルラック110およびセルスタック120を備える電解槽100が示されている。セルスタック120は、軸方向Aに積み重ねられた、本発明による複数の電解セル1を備える。セルラック110は、セル1の電気的接続を直列に維持するために、セルスタック120の電解セル1を軸方向Aに圧縮するための圧縮装置111を備える。セルスタック120は、軸方向が水平に延びるようにセルラック110に取り付けられる。
【0037】
セルスタック120内にセル1を設置するために異なる可能性が存在しており、例えば、セルラック110の上部フレーム(図示せず)からセル1を個別に吊り下げることができる。あるいは、セルラックが、軸方向Aが垂直に延びる直立位置にある間に、セル1を互いの上に積み上げることもできる。スタック120のすべてのセル1が予め積み上げられ、圧縮力がスタック120に加えられると、スタック120全体が作動状態に位置決めされる、すなわち軸方向Aが水平に延びるように位置決めされる。
【0038】
図2に示すセルラック110は、セルスタック120の内側境界面112を提供し、この境界面112は、電解セル1を少なくとも横方向および下から支持することによってセルスタック120に寸法安定性を提供する。
【0039】
電解槽100の作動のために、電源170、171がスタック120の最も外側のセルケーシング2に接続される。さらに、セルのアノードチャンバ4およびカソードチャンバ5は、電解質の供給および排出ならびに電解生成物の排出のために入口ヘッダ172および出口ヘッダ173に接続される。入口ヘッダ172および出口ヘッダ173は、タンク113内の開口部の数を最小限に抑えるために、タンク113内に延びることが好ましい。しかしながら、原則として、タンクの外部のヘッダも使用することができる。入口ヘッダ172および出口ヘッダ173との接続のために、より堅固な材料の取付具が金属箔シート8、9内の開口部に熱溶接される。これらの取付具は、例えばねじ接続、ホース-ノズル接続またはガスケット接続によってヘッダに接続される。
【0040】
図3には、本発明による電解槽100の第2の実施形態が示されており、セルラック110は、タンク壁114を有するタンク113を備え、セルスタック120はタンク113内に位置決めされている。タンク壁114は、セルスタック120の内側境界面112を形成する。タンク113は、セルラック110の寸法安定性をバリア液130に浸漬されたセルスタック120に伝える非導電性バリア液130で満たされる。特に、タンク113は、円形断面を有する圧力容器とすることができる。例えば、バリア液130として、脱塩水を用いることができる。
【0041】
タンク113は元々、セルラック120がタンク113内に設置された後に接合される少なくとも2つの部分から成る。
図3に示す例では、タンク113は、3つの部分、すなわち中央部分と2つの蓋とに、軸方向Aに対して横方向に分割され、これらはボルト締めによって2つのフランジ115のところで互いに接合される。設置のために、電解セル1は、セルラック120のフレーム(図示せず)に軸方向に移動可能なやり方で垂れ下がっていることが好ましい。そして、フレームが開放したタンク113に一方の側から挿入される。最後に、フランジ115のボルト締めによってタンクを閉じる。
【0042】
圧縮装置111は、
図3に示すようにタンク113内に完全に位置決めされてもよい。この場合、タンク113の気密性がより容易に達成され、これは、タンク113が圧力容器として設計されている場合に特に有利である。あるいは、圧縮装置111は、例えば外部に延びる作動ロッドを有するなど、タンク113の外部に部分的に延びていてもよい。
【0043】
タンク113は、バリア液130の循環ループ150に接続され、循環ループ150は、バリア液130を加熱および/または冷却するための熱交換器151を備える。循環ループ150は、バリア液130を循環させるためのポンプ152をさらに備える。
【0044】
バリア液130の圧力制御のために、タンク113内の圧力を監視するための圧力センサ160が設けられている。圧力センサ160は、外部圧力源162からタンクに加えられる圧力を調整することによってバリア液130の圧力を制御するように構成された制御ユニット161に接続されている。外部圧力源162は、例えば窒素などの不活性ガスをタンク113に提供してもよい。好ましくは、バリア液130の圧力p0は、最大10%の相対圧力差まで、アノードチャンバおよびカソードチャンバ4、5内の圧力p1、p2に等しくなるように制御される。
【0045】
圧力センサ160はまた、突然の圧力事象(例えば、小さな発火によって)などの事象を検出するために、バリア液130の圧力を監視するために使用されてもよい。バリア液130は、出口ヘッダ173内のガス部分と比較して実質的に非圧縮性であるため、バリア液130の圧力センサ160による監視は、例えば出口ヘッダ173内の圧力の監視よりも高感度である。
【0046】
電解槽100は、バリア液130の導電率を監視するための導電率センサ140をさらに備えてもよい。
【0047】
さらに、バリア液130は、色の変化によってセルスタック120からの電解質の漏れを示すためのインジケータ液を含む。そのような色の変化は、例えば検査窓116を通して、または循環ループ150内の少なくとも部分的に透明なダクトを使用することによって認識されてよい。
【0048】
したがって、他のすべての点において、
図2に示す第1の実施形態の説明は、
図3に示す第2の実施形態に適用可能である。
【0049】
図4は、本発明による電解槽100の第3の実施形態を示す。第3の実施形態は、タンク113がバリア液130で完全に満たされ、バリア液130の自生圧力制御のために封止される点において、第2実施形態とは異なる。したがって、タンク113は、セルスタック120の外側に気相を含まず、バリア液循環ループに接続されてはいない。この場合、気体と比較したときの液体の非圧縮性に起因して、バリア液130の圧力は電解セル1内の媒体の圧力に追従し、セルケーシング2での圧力バランスが維持される。
【0050】
例示的に、
図4のタンクは、縦方向に分割され、水平フランジ115のところで一緒にボルト締めされる。溶接によってタンクの部品を接合することも可能であるが、セルスタック120の維持が損なわれることになる。
【0051】
他のすべての点において、したがって、
図2および
図3に示す第1および第2の実施形態の説明は、
図4に示す第3実施形態にも適用可能である。特に、
図4の電解槽は、
図3と同様の入口ヘッダおよび出口ヘッダを有するが、
図4では簡略化のために示していない。
【0052】
図5A~
図5Cは、
図3および
図4に示す第2の実施形態および第3の実施形態のタンク113内の電解セル1の異なる可能な幾何学的形状を例示する。一般に、セルケーシング2にタンク壁114の寸法安定化効果を媒介するためのバリア液130の使用に起因して、セル1の断面は、タンクの断面とは無関係に選択することができる。円形断面のタンク113内では、特に長方形または正方形(
図5A)、六角形(
図5B)または円形(
図5C)の電解セル1が好ましい。
【符号の説明】
【0053】
1 電解セル
2 セルケーシング
3 シート状セパレータ
4 アノードチャンバ
5 カソードチャンバ
6 アノード
7 カソード
8、9 金属箔のシート
10、11 リム領域
12 接着結合部
13 電気絶縁層
100 電解槽
110 セルラック
111 圧縮装置
112 境界面
113 タンク
114 タンク壁
115 フランジ
116 検査窓
120 セルスタック
130 バリア液
140 導電率センサ
150 循環ループ
151 熱交換器
152 ポンプ
160 圧力センサ
161 制御ユニット
162 外部圧力源
170、171 電源
172 入口ヘッダ
173 出口ヘッダ
A 軸方向
【手続補正書】
【提出日】2024-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルケーシング(2)およびシート状セパレータ(3)を備える電解セルにおいて、前記シート状セパレータ(3)によって隔てられたアノードチャンバ(4)およびカソードチャンバ(5)が、前記セルケーシング(2)によって画定され、前記アノードチャンバ(4)および前記カソードチャンバ(5)は、アノード(6)およびカソード(7)をそれぞれ備える電解セルであって、前記セルケーシング(2)は、各々が周辺のリム領域(10、11)を有する少なくとも2枚の金属箔のシート(8、9)を備え、前記金属箔のシート(8、9)は、前記金属箔のシート(8、9)の間の電気絶縁接着結合部(12)によって前記リム領域(10、11)内で互いに固定され、前記シート状セパレータ(3)は、前記リム領域(10、11)の間の前記接着結合部(12)に含まれることによって前記セル内に取り付けられることを特徴とする、電解セル。
【請求項2】
前記接着結合部(12)は、化学硬化性接着剤または乾式溶媒系接着剤によって提供されることを特徴とする、請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記接着結合部(12)は、熱可塑性材料によって提供されることを特徴とする、請求項1に記載の電解セル。
【請求項4】
前記金属箔のシート(8、9)は、0.2mm以下の厚さを有することを特徴とする、請求項
1に記載の電解セル。
【請求項5】
前記電解セル(1)は、長方形、正方形、六角形または円形の形状であることを特徴とする、請求項
1に記載の電解セル。
【請求項6】
前記セルケーシング(2)は、前記リム領域(10、11)の外側で電気絶縁層(13)でコーティングされていることを特徴とする、請求項
1に記載の電解セル。
【請求項7】
セルラック(110)およびセルスタック(120)を備える電解槽において、前記セルスタック(120)は、軸方向(A)に積み重ねられた複数の電解セル(1)を備え、前記セルラック(110)は、前記セル(1)の電気的接続を直列に維持するために、前記セルスタック(120)の前記電解セル(1)を前記軸方向(A)に圧縮するための圧縮装置(111)を備え、前記セルスタック(120)は、前記軸方向(A)が水平に延びるように前記セルラック(110)に取り付けられる電解槽であって、前記電解セル(1)は、請求項1から5のいずれか一項に従って構成されることを特徴とする、電解槽。
【請求項8】
前記セルラック(110)は、前記セルスタック(120)のための少なくとも1つの内側境界面(112)を提供し、前記境界面(112)は、前記電解セル(1)を少なくとも横方向および下方から支持することによって前記セルスタック(120)に寸法安定性を提供することを特徴とする、請求項7に記載の電解槽。
【請求項9】
前記セルラック(110)は、タンク壁(114)を有するタンク(113)を備え、前記セルスタック(120)は前記タンク(113)内に位置決めされ、前記タンク壁(114)は前記セルスタック(120)のための前記少なくとも1つの内側境界面(112)を形成し、前記タンク(113)は、非導電性バリア液(130)で満たされ、前記バリア液(130)は、前記セルラック(110)の寸法安定性を前記バリア液(130)に浸漬された前記セルスタック(120)に伝えることを特徴とする、請求項8に記載の電解槽。
【請求項10】
前記タンク(113)は、円形断面を有する圧力容器であることを特徴とする、請求項9に記載の電解槽。
【請求項11】
前記電解槽(100)は、前記バリア液(130)の導電率を監視するための導電率センサ(140)をさらに備えることを特徴とする、請求項
9に記載の電解槽。
【請求項12】
前記バリア液(130)は、色の変化によって前記セルスタック(120)からの電解質の漏れを示すためのインジケータ液を含むことを特徴とする、請求項
9に記載の電解槽。
【請求項13】
前記タンク(113)は、前記バリア液(130)の循環ループ(150)に接続され、前記循環ループ(150)は、前記バリア液(130)を加熱および/または冷却するための熱交換器(151)を備えることを特徴とする、請求項
9に記載の電解槽。
【請求項14】
前記タンク(113)内の圧力を監視するために圧力センサ(160)が設けられ、前記圧力センサ(160)は、外部圧力源(162)から前記タンクに加えられる圧力を調整することによって前記バリア液(130)の圧力を制御するように構成された制御ユニット(161)に接続されることを特徴とする、請求項
9に記載の電解槽。
【請求項15】
前記タンク(113)は前記バリア液(130)で完全に満たされ、前記バリア液(130)の自生圧力制御のために封止されることを特徴とする、請求項
9に記載の電解槽。
【国際調査報告】