(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】花粉稔性を高める方法
(51)【国際特許分類】
A01H 3/04 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
A01H3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534145
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2022085101
(87)【国際公開番号】W WO2023105017
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】カレーノ―キンテーロ,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】ラドエヴァ,タチアナ ミトコヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ホフステード,レネ ヨハネス マリア
(57)【要約】
本発明は、MRN-ATM経路阻害剤を使用して植物花粉の生存能力を向上させるための方法に関する。向上した花粉生存能力は、好ましくは向上した植物生存能力をもたらす。本発明はさらに、植物花粉の生存能力を向上するためのMRN-ATM経路阻害剤に関する。本発明で使用するための好ましいMRN-ATM経路阻害剤は2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンである。本発明はまた、未熟な花芽を含む単離された植物の一部を(危険または有毒な)化合物と接触させるステップを含む、成熟した稔性のある植物の接ぎ木を発育させるための方法にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)植物花粉を生じさせる組織を含む第1の種子植物またはその植物の一部を用意するステップと;
b)用意した植物または植物の一部の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路を阻害するステップと;
c)前記植物または植物の一部に改良された生存能力を示す花粉を生成させるステップと
を含む、植物花粉の生存能力を改良するための方法。
【請求項2】
ステップb)において、前記植物または植物の一部を2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンに接触させることにより、前記MRN-ATM経路を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物花粉の前記改良された生存能力が、植物稔性を高める、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)の前記植物またはその植物の一部が種間雑種またはその一部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)で用意する植物の一部が挿し木であり、前記挿し木の切断端をステップb)でMRN-ATM経路を阻害する化合物と接触させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記挿し木が被子植物の種子植物の挿し木であり、花序を含み、前記花序が少なくとも1つの未熟花芽を含み、かつ、好ましくは成熟花芽を含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)~c)が、穂木である植物の一部を用いて行われ、前記方法が:
d)前記穂木を台木に接ぎ木するステップ
をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記花粉を成熟させるステップをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
成熟花粉を単離するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第1の植物を自家受粉させるステップまたは第2の植物に受粉させるステップをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
MRN-ATM経路を阻害する化合物を含む植物生育培地。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法により得られる、植物または植物の一部の生存可能な花粉。
【請求項13】
a)植物花粉を生じさせる組織を含む第1の種子植物またはその植物の一部を用意するステップと;
b)用意した植物または植物の一部の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路を阻害するステップと;
c)前記植物または植物の一部に改良された生存能力を示す花粉を生成させるステップと
を含む、改良された花粉生存能力を有する第1の種子植物を生産するための方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により得られ得る、改良された生存能力を有する花粉を含む種子植物、好ましくは種間雑種。
【請求項15】
花粉生存能力を改良するための、場合により植物生育培地に含まれる、MRN-ATM経路を阻害する化合物の使用。
【請求項16】
第2の植物の受粉のため、好ましくは後代植物の生産のための、請求項12に記載の生存可能な花粉または請求項14に記載の種子植物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物育種の分野、より具体的には種間交配植物育種の分野に関する。花粉生存能力の向上をもたらす花粉処理および花粉稔性を高める化合物の使用を介して植物の稔性を改良する新しい方法が開示される。上記花粉は、種間雑種などの低稔性または不稔性植物に由来し得る。
【背景技術】
【0002】
植物育種の過程は、遺伝的バリエーションの利用可能性に大きく依存する。このバリエーションは、逆育種技術およびCRISPR/Cas9ならびに対象作物の近縁野生種に見られる自然変異を利用することで生み出される。栽培品種の害虫抵抗性を高めるため、および/または新しい品種を作出するためなどの様々な理由から、野生の近縁種から新しい形質を遺伝子移入することが望まれている。さらに、交配種はヘテロシスまたは雑種強勢を示すことが多く、これにより一般に生物学的品質が高まる。したがって、交配種は非常に興味深いものであり、種間交配は今後数十年間、育種のための強力なツールであり続けると予想される。
【0003】
交配させる種に応じて、種間雑種の作出および繁殖にはいくつかの生殖障壁が存在する。これら、異なる植物種の交配を防いでいる接合後および接合前障壁は、花粉と柱頭の相互作用、F1雑種における減数分裂中の相同染色体間の対合および組換えならびに胚への花粉管誘導または内乳の発生の問題にまで及ぶ。これらの問題を回避する現在の方法には、つぼみ受粉、胚珠培養および胚救出が含まれるが、まだ最適からは程遠い。これまでのところ、種間雑種の作出は試行錯誤に大きく依存しており、これには多大な時間、労力および費用がかかる大規模な育種作業が伴う。さらに困難なのは、これらの得られた種間雑種のその後の繁殖である可能性がある。実際、種間雑種の大多数は生存可能な花粉を持たない。
【0004】
したがって、当技術分野では、特に種間雑種などの低稔性の植物のために、植物の稔性を改良する方法が強く求められている。より具体的には、例えば種間雑種育種および/または生産において、花粉生存能力を高めることが強く求められている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、以下の実施形態に要約することができる:
実施形態1.a)植物花粉を生じさせる組織を含む第1の種子植物またはその植物の一部を用意するステップと;
b)用意した植物または植物の一部の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路を阻害するステップと;
c)上記植物または植物の一部に改良された生存能力を示す花粉を生成させるステップと
を含む、植物花粉の生存能力を改良するための方法。
実施形態2.ステップb)において、上記植物または植物の一部を2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンに接触させることにより、上記MRN-ATM経路を阻害する、実施形態1に記載の方法。
実施形態3.植物花粉の上記改良された生存能力が、植物稔性を高める、実施形態1または2に記載の方法。
実施形態4.ステップa)に記載の第1の植物またはその植物の一部が種間雑種またはその一部である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態5.ステップa)で用意する植物の一部が挿し木であり、上記挿し木の切断端をステップb)でMRN-ATM経路を阻害する化合物と接触させる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態6.上記挿し木が被子植物の種子植物の挿し木であり、花序を含み、上記花序が少なくとも1つの未熟花芽を含み、かつ、好ましくは成熟花芽を含まない、実施形態5に記載の方法。
実施形態7.ステップa)~c)が、穂木である植物の一部を用いて行われ、上記方法が:
d)上記穂木を台木に接ぎ木するステップ
をさらに含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態8.上記花粉を成熟させるステップをさらに含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態9.成熟花粉を単離するステップをさらに含む、実施形態8に記載の方法。
実施形態10.上記第1の植物を自家受粉させるステップまたは第2の植物に受粉させるステップをさらに含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態11.MRN-ATM経路を阻害する化合物を含む植物生育培地。
実施形態12.実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法により得られる、植物または植物の一部の生存可能な花粉。
実施形態13.a)植物花粉を生じさせる組織を含む第1の種子植物またはその植物の一部を用意するステップと;
b)用意した植物または植物の一部の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路を阻害するステップと;
c)上記植物または植物の一部に改良された生存能力を示す花粉を生成させるステップと
を含む、改良された花粉生存能力を有する第1の種子植物を生産するための方法。
実施形態14.実施形態13に記載の方法により得られる改良された生存能力を有する花粉を含む種子植物、好ましくは種間雑種。
実施形態15.花粉生存能力を改良するための、場合により植物生育培地に含まれるMRN-ATM経路を阻害する化合物の使用。
実施形態16.第2の植物の受粉のため、好ましくは後代植物の生産のための、実施形態12に記載の生存可能な花粉または実施形態14に記載の種子植物の使用。
【発明を実施するための形態】
【0006】
定義
本発明の方法、組成物、使用およびその他の態様に関する様々な用語が本明細書および特許請求の範囲全体にわたって使用される。このような用語には、別段の指示がない限り、本発明が関連する技術分野における通常の意味が与えられる。他の特別に定義された用語は、本明細書で提供する定義と一致する様態で解釈されるべきである。本明細書で説明されるものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、好ましい材料および方法を本明細書で説明する。
【0007】
本発明の方法で使用される従来の技術を実行する方法は、当業者には明らかであろう。分子生物学、生化学、計算化学、細胞培養、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、配列決定および関連分野における従来技術の実践は当業者には周知であり、例えば以下の参考文献で論じられている:Sambrook et al.. Molecular Cloning. A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 1989; Ausubel et al.. Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, 1987およびperiodic updates; and the series Methods in Enzymology, Academic Press, San Diego.
【0008】
「a」、「an」および「the」:これら単数形の用語には、内容が別途明確に示さない限り、複数の指示対象物が含まれる。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及には、2つ以上の細胞の組み合わせなどが含まれる。
【0009】
本明細書で使用される時、「約」という用語は、小さな変動を記載しそれを説明するために使用される。例えば、この用語は、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下などの±10%以下を指すことができる。加えて、量、比率およびその他の数値は、本明細書では範囲形式で表示される場合がある。このような範囲形式は利便性および簡潔さのために使用されており、範囲の限界として明示的に指定された数値を含むように柔軟に理解されるべきであるが、その範囲内に含まれる全ての個々の数値または部分的な範囲も、あたかも各数値および部分的な範囲が明示的に特定されているがごとく含まれるものと理解されたい。例えば、約1から約200の範囲の比率は、明示的に記載された約1および約200の限界値を含むが、約2、約3および約4などの個々の比率ならびに約10~約50、約20~約100などの部分的な範囲も含むものと理解されるべきである。
【0010】
「および/または」:「および/または」という用語は、記載された事例のうちの1つ以上が、単独で、または記載された事例のうちの少なくとも1つと組み合わされて、最大で記載された事例の全てが発生する可能性がある状況を指す。
【0011】
「植物」:本明細書では、少なくとも根系の一部およびシュート系の一部を含む植物として理解されるべきである。植物は、好ましくは、本明細書において以下に定義される植物の一部を含む。好ましくは、少なくとも、植物は植物花粉を生じさせる組織を含む。好ましくは、植物は、(成熟または未熟)花芽および花序のうち、少なくとも1つを含む。植物の非限定的な例には、大麦、キャッサバ、綿、落花生またはピーナッツ、トウモロコシ、キビ、アブラヤシ果実、ジャガイモ、豆類、菜種またはキャノーラ、米、ライ麦、ソルガム、大豆、サトウキビ、テンサイ、ヒマワリ、小麦、オクラ、アリウム、セロリ、アスパラガス、トウガン、ビート、アブラナ科野菜を含むアブラナ属、ピーマン、唐辛子、アンディーブ、チコリ、スイカを含むメロン、キュウリ、ガーキン、ズッキーニ、カボチャ、アーティチョーク、ニンジン、ロケット、フェンネル、レタス、ユウガオ、トカドヘチマ、ヘチマ、ゴーヤ、パースニップ、パセリ、インゲン、ホオズキ、トマティーロ、大根、ナス、トマト台木を含むトマト、ペピーノ、ほうれん草、ヘビウリ、ノヂシャ、ひよこ豆を含むエンドウ豆、大豆、そら豆、スイートコーン、麻、ホップ、ベリー、タンポポおよび観賞植物などの作物および栽培植物が含まれる。
【0012】
「植物の一部」:これには、植物細胞、植物プロトプラスト、植物を再生できる植物細胞組織培養物、植物カルス、植物塊、(成熟または未熟)花芽、花序および胚、花粉、胚珠、種子、葉、花、枝、果実、穀粒、穂、穂軸、殻、茎、根、根端、葯、穀物などの植物または植物の一部における無傷の植物細胞のうちの少なくとも1つが含まれる。好ましくは、植物の一部は、少なくとも、植物花粉を生じさせる組織を含む。好ましくは、植物の一部は、(成熟または未熟)花芽および花序のうちの少なくとも1つである。
【0013】
本明細書で説明される「種子植物(seed plant)」は、胞子形成植物とは対照的に、有性生殖の主な形態として種子を実らせる植物または植物群のことである。この群は別名種子植物(spermatophyte)としても知られ、裸子植物および被子植物で構成され、これには農業に関連する全ての作物が包含される。非限定的な例を、本明細書で「植物」の定義の下で提供する。
【0014】
「花序」とは植物の生殖単位のことである。これは、好ましくは、主枝または枝の配列から構成される茎上に配置された花の群または集団である。これは花が形成される、種子植物のシュートの一部分であり得る。有限花序および無限花序という、2つの特定のタイプの花序が決定できる。有限(集散)花序は頂芽から頂生(中央)花を成長させ、中心軸の伸長を停止する。無限(総状)花序では、頂芽が成長を続け、側芽から側花を形成する。頂花が形成されることはない。花序は上記植物の有性生殖の手段となる。したがって、これには、心皮、葯、柱頭、花柱、雄しべ、花弁およびがく片の、1つ以上、好ましくは全ての発育段階が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
「種間雑種」は、2つの種、好ましくは同じ属内の2つの個体の交配からの直接の子孫(「F1」子孫)である。子孫は、好ましくは両親の形質および特性を示すが、多くの場合は不稔であり、種間の遺伝子流動を妨げている(Keeton, William T. 1980. Biological science. New York: Norton. ISBN 0-393-95021-2, p. 800)。不稔性は、多くの場合、2種間の染色体の数の違いに起因する。不稔性は、少なくとも部分的には、生存可能な花粉が存在しないことが原因である可能性がある。
【0016】
「MRN-ATM経路」は、DNA損傷の制御、より具体的には二本鎖(DSB)切断修復に関与する経路である。MRN-ATM経路は植物種間で高度に保存されている(Yoshiyama et al., Biology (Basel). 2013 2(4): 1338-1356; Amiard et al. The Plant Cell, 2010, 22 (9): 3020-3033)。植物のMRN複合体は、減数分裂組換え11(Mre11:Meiotic recombination 11)、DNA修復タンパク質Rad50(DNA repair protein Rad 50)およびナイミーヘン染色体不安定症候群1(Nijmegen breakage syndrome 1(Nbs1))の3つのタンパク質を含むヘテロ三量体である。これは、DSBの調整および感知ならびにDNA損傷応答経路の開始における主要な触媒性タンパク質複合体として知られている。MRN複合体はDSBを感知し、不活性二量体ATM(ataxia telangiectasia mutated(毛細血管拡張性運動失調症変異))を動員し、そこで細胞周期制御およびDNA修復に関与する他の様々なタンパク質に加えて、不活性二量体ATMはMRN複合体のメンバーをリン酸化するために活性化される(Kanaar and Wyman Cell 2008, 135, 14-16.)。MRN-ATM経路の活性化により、DNA損傷修復が活性化され、細胞周期が継続する。植物における減数分裂中、MRN-ATM経路のサブユニットは減数分裂の制御および花粉形成に関与する(Culligan et al., Plant J. 2008 Aug; 55(4): 629-38.; Kurzbauer et al., The Plant Cell 2021; 33(5): 1-24)。
【0017】
「MRN-ATM経路阻害剤」とは、MRN-ATM経路の活性化を下方制御または妨げる化合物である。上記化合物は、好ましくは化学化合物である。
【0018】
本明細書で使用する「受粉」または「受粉する」という用語は、花粉が植物の葯(雄性部分)から柱頭(雌性部分)に移され、それによって受精および生殖が可能となる過程を指す。それぞれの花粉粒は雄性半数体配偶体であり、雌性配偶体に輸送されるのに適合されており、そこで、重複受精の過程で1つの雄性配偶子(または複数の配偶子)を生成することで受精を引き起こすことができる。
【0019】
雄性配偶子を含む被子植物の成功する花粉粒(配偶体)は柱頭に輸送され、そこで発芽し、花粉管が花柱に沿って子房まで成長する。花粉粒の2つの配偶子は管を通って下がっていき、雌性配偶子を含む配偶体が心皮内に保持されている場所まで移動する。1個の核は極体と融合して胚乳組織を生成し、もう一方の核は胚珠と融合して胚を生成する。裸子植物には果実および花がない。しかし、被子植物と同様に、裸子植物は受精を促進するために花粉を用いている。
【0020】
詳細な説明
本発明者らは、植物内のMRN-ATM経路を阻害すると、不稔性種間雑種が完全に成熟した葯および生存可能な花粉を発達させることができることを発見した。
【0021】
したがって、本発明の第1の側面では、
a)植物花粉を生じさせる組織を含む第1の種子植物またはその植物の一部を用意するステップと;
b)用意した植物または植物の一部の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路を阻害するステップと;
c)上記植物または植物の一部に改良された生存能力を示す花粉を生成させるステップと
を含む、植物花粉の生存能力を改良するための方法を提供する。
【0022】
本発明の方法は、改良された生存能力を有する植物花粉を生産するための方法とも考えられ得る。
【0023】
ステップa)第1の種子植物または植物の一部を用意する
本発明の方法のステップa)において、第1の種子植物または植物の一部を用意する。好ましくは、用意する種子植物は植物花粉を生じさせる組織を含む。同じく、好ましくは、用意する植物の一部は植物花粉を生じさせる組織を含む。用意する種子植物は、好ましくは農業関連作物植物である。本明細書では、植物の一部とは第1の種子植物の一部であると理解される。
【0024】
「植物花粉を生じさせる組織」という用語は、当業者にはよく知られている。このような組織は、好ましくは胞子形成組織であり、好ましくは胞子形成細胞、小胞子母細胞(「花粉母細胞」または「減数母細胞」としても知られる)および小胞子のうちの少なくとも1つを含む。この組織は、未熟な芽の一部であり得るか、未熟な芽内に含まれ得る。
【0025】
好ましくは、ステップa)で用意する第1の種子植物またはその植物の一部は、未熟な芽を含む。好ましくは、植物の一部は挿し木である。したがって、好ましくは、上記挿し木は未熟な芽を含む。
【0026】
好ましくは、植物花粉を生じさせる組織は、花序の一部であり得るか、花序内に含まれ得る。好ましくは、ステップa)で用意する植物の一部は、花序であるか、花序を含む。好ましくは、挿し木は花序であるか、花序を含む。花序は、好ましくは、少なくとも1つの未熟な花芽を含む。花序は、少なくとも1、2、3、4、5、5、6、7、8、9、10個以上の未熟な花芽を含み得る。好ましくは、花序は、10、9、8、7、6、5、4、3、2未満または1個未満の成熟した花芽を含む。好ましくは、本発明の方法で使用するための植物の一部は、少なくとも1つの未熟な花芽を含み、いかなる成熟した花芽も含まない花序である。場合により、本発明の方法のステップa)の前に、あらゆる成熟した花芽は植物または植物の一部から除去されている。
【0027】
好ましくは、用意する第1の種子植物またはその一部は被子植物の種子植物である。好ましくは、挿し木は、被子植物の種子植物の挿し木である。
【0028】
好ましくは、第1の種子植物は、生存可能な花粉を生成する能力が低下している。好ましくは、第1の種子植物が生成する花粉の少なくとも約2%、4%、6%、8%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が生存不能である。好ましくは、第1の種子植物が生成する花粉の約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、8%、6%、4%、2%未満または約1%未満が生存可能である。好ましくは、第1の種子植物は生存可能な花粉を生成できず、第1の種子植物はいかなる生存可能な花粉をも生成できない可能性がある。第1の種子植物の生存可能な花粉を生成する能力の低下により、好ましくは、上記植物は能力が制限された植物となるか、受粉によって子孫を生み出すことができない植物となる。
【0029】
植物花粉の生存能力は、当業者に知られている任意の従来の方法を用いて簡単に決定することができる。非限定的な例として、生存能力は、従来のMTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウムまたはMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイを使用して、例えば、本明細書の以下の実施例1に記載される方法ステップを使用して決定することができる。
【0030】
あるいは、またはそれに加えて、好ましくは、用意する第1の種子植物において、葯の少なくとも約2%、4%、6%、8%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は花粉の成熟の際に閉じたままである。好ましくは、葯の約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、8%、6%、4%、2%未満または約1%未満は花粉の成熟の際に開く。葯の開きは目視検査によって、場合により画像を拡大するために顕微鏡を使用して評価できる。
【0031】
本発明の方法で使用される第1の種子植物は、花粉生存能力が低い、または生存不能な花粉を有する植物および/または閉じた葯を有する植物および/または稔性が低い植物であり得る。場合により、植物は不稔であるか、部分的に不稔である。第1の種子植物は種間雑種であり得る。第1の種子植物は、本明細書では、有性生殖の主な形態として種子を生成する植物であり、種子植物の分類の一員であり、全ての主要作物を含むが、これらに限定されないと理解される。ステップa)で用意する第1の種子植物は、被子植物または裸子植物であり得、好ましくは被子植物である。好ましくは、ステップa)において、被子植物の植物の一部、好ましくは被子植物からの花序を用意する。植物はナス科(Solanaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、アブラナ科(Brassicaceae)、キク科(Asteraceae)、アオイ科(Malvaceae)、マメ科(Fabaceae)、イネ科(Poaceae)、ヒユ科(Amaranthaceae)、マメ科(Leguminosae)、バショウ科(Musaceae)、イネ科(Gramineae)、バラ科(Rosaceae)、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)、セリ科(Apiaceae)およびアカネ科(Rubiaceae)の植物に属し得るが、これらに限定されない。植物は、ナス属(Solanum)(トマト(Lycopersicum)を含む)、ネギ属(Allium)、フダンソウ属(Beta)、アブラナ属(Brassica)、ニコチアナ属(Nicotiana)、トウガラシ属(Capsicum)、ペチュニア属(Petunia)コムギ属(Triticum)、イネ属(Oryza)、ダイズ属(Glycine)、キュウリ属(Cucumis)、キクニガナ属(Cichorium)、キク属(Chrysanthemum)、チカラシバ属(Pennisetum)、ライムギ属(Secale)、アキノノゲシ属(Lactuca)、オオムギ属(Hordeum)、ヒマワリ属(Helianthus)、アサ属(Cannabis)、カラスムギ属(Avena)、モロコシ属(Sorghum)、ワタ属(Gossypium)、ウマゴヤシ属(Medicago)、インゲンマメ属(Phaseolus)、モロコシ属(Sorghum)、サトウキビ属(Saccharum)、オオムギ属(Hordeum)、タンポポ属(Taraxacum)、エンドウ属(Pisum)、トウモロコシ属(Zea)、ウマゴヤシ属(Medicago)、インゲンマメ属(Phaseolus)、バラ属(Rosa)、ユリ属(Lilium)、コーヒーノキ属(Coffea)、アマ属(Linum)、イモノキ属(Mannihot)、ニンジン属(Daucus)、カボチャ属(Cucurbita)、スイカ属(Citrullus)およびバショウ属(Musa)の植物に属し得るが、これらに限定されない。好ましくは、植物はアブラナ科の植物、好ましくはアブラナ属の植物である。
【0032】
用意する第1の種子植物は雌雄同株植物または雌雄異株植物であり得る。好ましくは、用意する第1の種子植物は、稔性が低下した、もしくは低い植物または不稔性の植物である。好ましくは、第1の種子植物は、花粉生存能力が低下した、もしくは低い植物または生存不能な花粉を有する植物である。好ましくは、第1の種子植物は、受粉を通じて子孫を生み出すことについて限られた能力を有するか、それができない。
【0033】
第1の種子植物は種間雑種であり得る。種間雑種は、生存可能な子孫をもたらすことができる、種の任意の組み合わせ間の交配から生じ得る。言い換えれば、種間雑種は、生存可能な植物をもたらす異なる種の任意の2つの親植物の雑種であり得る。好ましくは、種間雑種は、同じ属の2つの種間の雑種である。この種間雑種は、親植物に対する雑種強勢および/または各親からの染色体の混合を有することを特徴とする可能性がある。
【0034】
好ましくは、種間雑種は、染色体の数および/または倍数性が異なる2つの親植物間の雑種である。本発明は、いかなる特定の種間雑種にも限定されず、一般に適用可能であることが理解される。本発明の方法は、任意の種間雑種、すなわち、好ましくは同じ属の2つの種間の任意の交配から得られ、結果として部分的または完全に不稔の種間雑種であり、かつ/または花粉生存能力を高める方法、葯を開く方法および/もしくは稔性を高める方法から利益を得ることができる植物に適用することができる。
【0035】
場合により、種間雑種は、アブラナ属(Brassica)の2つの種間の種間雑種であり、好ましくは、親同士の染色体数が異なる。種間雑種は、アブラナ(B.rapa)(AA 2n=20)、クロガラシ(B.nigra)(BB 2n=16)およびヤセイカンラン(B.oleracea)(CC 2n=18)からなる群から選択される種の1つの親植物と上記群の別の種の別の親植物の雑種であり得る。種間雑種はヤセイカンラン(Brassica oleraceae)とアブラナ(Brassica rapa)との交配の種間雑種であり得る。場合により、種間雑種は、アキノノゲシ属(Lactuca)の2つの種間の雑種である。種間雑種は、レタス(Lactuca sativa)とワイルドレタス(Lactuca virosa)との交配の種間雑種であり得る。
【0036】
場合により、第1の種子植物は種間雑種の子孫、好ましくは低下した花粉生存能力を有する子孫である。上記子孫は、種間雑種の戻し交配、自家受粉またはそれらの組み合わせから生じる子孫であり得る。場合により、種間雑種が「第1世代植物」と考えられる場合、上記子孫は第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代、第9世代または第10世代のものである。
【0037】
ステップb)用意した植物または植物の一部においてMRN-ATM経路を阻害する
本発明の方法のステップb)において、植物の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路が阻害され得る。好ましくは、MRN-ATM経路は、少なくとも、植物花粉を生じさせる組織内で阻害される。MRN-ATM経路の阻害は、上記経路の一員であるタンパク質の活性を阻害することを包含し得、ここで、好ましくは、タンパク質は、Mre11、Rad50、Nbs1(一緒になってMRN複合体)およびATMタンパク質からなる群から選択される。好ましくは、MRN-ATM経路の阻害は、MRN複合体の阻害、好ましくは、上記複合体の一員であるタンパク質の活性の阻害、例えば、Mre11、Rad50およびNbs1のうちの少なくとも1つの活性の阻害を包含し得る。
【0038】
Mre11の活性の低下は、好ましくは、活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の低下または100%の低下である。Rad50の活性の低下は、好ましくは、活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の低下または100%の低下である。Nbs1の活性の低下は、好ましくは、活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の低下または100%の低下である。ATMの活性の低下は、好ましくは、活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の低下または100%の低下である。活性の100%の低下とは、本明細書では活性の完全な欠如と理解される。
【0039】
MRN-ATM経路の阻害は、部分的または完全な阻害であり得る。MRN-ATM経路の阻害は、好ましくは化合物に曝露させることによって行う。ステップb)の第1の種子植物またはその一部の植物花粉を生じさせる組織内のMRN-ATM経路を阻害することは、ひいては第1の種子植物、またはその一部の、植物花粉を生じさせる組織をMRN-ATM阻害剤で処理することであるとも考えられる。植物花粉を生じさせる組織は、好ましくは花序の一部であるか、花序内に含まれている。ステップb)の第1の種子植物またはその一部の花序内のMRN-ATM経路を阻害することは、ひいては上記第1の種子植物またはその一部の花序をMRN-ATM阻害剤で処理することであるとも考えられる。
【0040】
加えて、またはあるいは、MRN-ATM経路は、上記経路の1つ以上のタンパク質の発現を下方制御する、または消失させることによって、例えば上記1つ以上のタンパク質の発現を、例えばRNAiを用いて抑制する、かつ/または上記1つ以上のタンパク質をコードする遺伝子の変異によって妨害することによって阻害または遮断され得る。上記1つ以上のタンパク質をコードする遺伝子の変異は、機能的タンパク質の発現の減少または消失をもたらす可能性がある。上記変異はプロモーター配列内にあり得、これは発現の減少および/または消失をもたらす可能性があり、ならびに/あるいは上記変異は、コード配列内にあり得、機能不全および/もしくは切断されたタンパク質および/または機能の低下したタンパク質をもたらす可能性がある。場合により、MRN-ATM経路の阻害はRNAiによって行われ、ここで、発現したsiRNA/miRNAはプロモーター、好ましくは組織特異的プロモーターの制御下にある。組織特異的プロモーターは、好ましくは植物花粉を生じさせる組織内で、場合により植物花粉を生じさせる組織内でのみ、活性である。
【0041】
好ましくは、MRN-ATM経路は化合物への曝露によって阻害される。したがって、本発明の方法のステップb)は、用意した植物または植物の一部の少なくとも一部分をMRN-ATM経路を阻害する化合物に接触させるステップでもあり得る。好ましくは、少なくとも、植物花粉を生じさせる組織を上記化合物と接触させる。好ましくは、上記化合物は化学化合物であり、上記化合物は、好ましくはMre11に関連する3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する。上記化合物は、分子式C10H8N2O2Sを有し、ミリンの名でも知られる2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンであり得る(PubChem ID 1206243、CAS番号 299953-00-7)。場合により、本発明の方法で使用するための化合物は、ミリンの誘導体または類似体である。ミリンの好ましい誘導体は、参照により本明細書に組み込まれるShibata et al., Mol Cell (2014) 53:7-18に記載の誘導体である。
【0042】
他の潜在的に有用な阻害性化合物は、例えば以下のいずれか1つのATMキナーゼ活性阻害剤であり得るが、これらに限定されない:
- 分子式C30H33N3O5Sを有し、KU-60019という名でも知られている2-((2S,6R)-2,6-ジメチルモルホリノ)-N-(5-(6-モルホリノ-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル)-9H-チオキサンテン-2-イル)アセトアミド(PubChem ID 15953870、CAS番号925701-49-1);
- 分子式C21H17NO3S2を有し、KU-55933という名でも知られている2-(4-モルホリニル)-6-(1-チアントレニル)-4H-ピラン-4-オン(PubChem ID 5278396、CAS番号、587871-26-9);および
- 分子式C17H15N7O2を有し、CP-466722という名でも知られている1-(6,7-ジメトキシキナゾリン-4-イル)-3-(ピリジン-2-イル)-1H-1,2,4-トリアゾール-5-アミン(PubChem ID 44551660、CAS番号1080622-86-1)。
【0043】
MRN-ATM経路を阻害することは、好ましくはMre11を阻害することによって実行される。好ましくは、Mre11に関連する3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が阻害される。好ましくは上記Mre11阻害剤はミリンである。
【0044】
用意した植物全体を、本明細書で「阻害性化合物」とも示す、MRN-ATM経路を阻害する化合物と接触させることができる。場合により、植物の一部のみを阻害性化合物と接触させる。非限定的な例として、根系またはシュート系(の一部)のみを阻害性化合物と接触させる。場合により、植物の一部のみを阻害性化合物と接触させるが、化合物はその後植物組織を通って移動し、花粉を生じさせる組織および/または未熟な花芽の細胞に到達し得る。
【0045】
用意した植物または植物の一部の全ての細胞のMRN-ATM経路が阻害され得る。あるいは、一部の細胞のみでMRN-ATM経路が阻害される。例えば、MRN-ATM経路は、用意した植物または植物の一部の少なくとも約0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%の植物細胞で阻害され得る。MRN-ATM経路は、根系の細胞またはシュート系の細胞、好ましくはシュート系の細胞で阻害され得る。MRN-ATM経路は、好ましくは、少なくとも、植物花粉を生じさせる組織で阻害される。MRN-ATM経路は、少なくとも1つ以上の未熟な花芽で阻害され得る。MRN-ATM経路は、用意した植物または植物の一部の少なくとも開花(florescense)において阻害され得る。
【0046】
好ましくは、少なくとも植物の一部を阻害性化合物と接触させる。MRN-ATM経路は、ステップb)において、少なくとも、植物花粉を生じさせる組織を阻害性化合物に接触させることによって阻害され得る。好ましくは、化合物を、植物花粉を生じさせる上記組織のみに接触させるか、未熟な花芽のみに接触させるか、花序のみに接触させるか、ステップa)で用意する植物の一部のみに接触させる。好ましくは、少なくとも、植物花粉を生じさせる組織をMRN-ATM経路を阻害する化合物と接触させる。好ましくは、用意した植物または植物の一部の少なくとも1つ以上の未熟な花芽を阻害性化合物と接触させる。好ましくは、用意した植物または植物の一部の少なくとも花序を阻害性化合物と接触させる。
【0047】
化学化合物は、花芽および/または葉に化学化合物を含む組成物を噴霧すること、花芽を化学化合物を含む培地に浸漬すること、化合物が根を介して花芽に到達するように植物が生育している土壌に化合物を混合することなどの当技術分野で知られている任意の適切な手段によって添加することができるが、これらに限定されない。
【0048】
MRN-ATM阻害剤は、本発明の方法に必要な濃度においてはヒトに対して有毒である化合物であり得る。したがって、好ましくは、化合物はエアロゾルの形態では使用されず、好ましくは、使用される化学化合物の量は最小限に抑えられる。
【0049】
好ましい実施形態においては、植物花粉を生じさせる組織を含む植物の一部が植物の残りの部分から切り取られてもよい。植物の一部は挿し木であり得る。好ましくは、植物の一部は、その切断端を、上記化学化合物を含む生育培地、好ましくは最小量の生育培地中に置き得る。化合物が環境中に蒸発するのを防ぐために、化合物を含む生育培地を覆うか、例えばパラフィルムを用いて密閉することができる。場合により、
図1に示すように化合物を適用することもできる。
【0050】
好ましくは、MRN-ATM経路阻害剤は植物の特定の一部にのみ使用される。好ましくは、MRN-ATM経路は、上記植物の一部の植物花粉を生じさせる組織内で阻害される。上記組織は、好ましくは花芽の一部または花芽内に含まれる。したがって、植物の一部は、好ましくは少なくとも1つの花芽を含む。好ましくは、上記花芽は未熟であり、MRN-ATM経路は、開花するまでの芽の成熟期間を通じて阻害される。好ましくは、上記花芽は未熟であり、植物または植物の一部は、開花するまでの芽の成熟期間を通じてMRN-ATM経路を阻害する化合物に曝露される。好ましくは、上記MRN-ATM経路は、未熟な花芽の発達の瞬間から、その芽が成熟して開花する瞬間までの間に一時的に阻害される。好ましくは、植物または植物の一部は、MRN-ATM経路を阻害する化合物に、未熟な花芽の発達の瞬間からその芽が成熟して開花する瞬間までの間に一時的に曝露される。好ましくは、本発明の方法のステップa)において、少なくとも1つの未熟な花芽を含む花序を用意する。好ましくは、上記花序は成熟した花芽を含まない。好ましくは、上記未熟な花芽はまだ花粉を形成していない。上記花序は、成熟した花芽を除去し、1つ以上の未熟な花芽のみを維持することによって得られる。
【0051】
好ましくは、第1の種子植物またはその植物の一部をMRN-ATM経路阻害剤に接触させる前に、少なくとも1つの未熟な花芽を含む植物の一部を第1の種子植物から切り取る。好ましくは、ステップb)において、少なくとも1つの未熟な花芽を含む花序は、植物から切り取られたものである。好ましくは、その後、未熟な花芽を含む植物の一部は、その切断端が、MRN-ATM経路阻害剤を、MRN-ATM経路、好ましくは上記経路中のMRN複合体を阻害するのに有効な濃度で含む培地中に置かれるが、さらに好ましくは、上記濃度は、好ましくは植物花粉を生じさせる組織内および/または細胞内のMre11を阻害するのに有効である。好ましくは、上記培地は、未熟な芽を成熟させる培地である。このような培地は、Murashige T. and Skoog F., Physiol. Plant, 15, 473 (1962)に記載のビタミン含有ムラシゲ・スクーグであり得る。
【0052】
ステップb)のMRN-ATM経路阻害剤の濃度は、有効濃度で存在する。有効濃度とは、本明細書においては、所望の効果を引き出すのに十分な、すなわち、花粉生存能力の向上および/または葯の開口をもたらす阻害剤の濃度として理解されるべきである。MRN-ATM経路阻害剤がミリンである場合、上記濃度は約5μM、4μM、3μM、2μM、1μM、900nM、800nM、700nM、600nM、500nM、400nM、300nM、200nM、100nM、90nM、80mM、70nM、60nM、50nM、40nMまたは30nMまでの濃度であり得、そして、上記濃度は少なくとも約1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、6nM、7nM、8nM、9nM、10nM、11nM、12nM、13nM、14nM、15nM、16nM、17nM、18nM、19nMまたは20nMの濃度であり得る。好ましくは、上記濃度は、約1nM~5μMの間、約1nM~1μMの間、約5nM~500nMの間、約5nM~100nMの間、約10nM~100nMの間、約5nM~50nMの間、約10nM~50nMの間または好ましくは約20nM~30nMの間の範囲である。
【0053】
好ましくは、本発明の方法のステップa)で用意する第1の種子植物またはその植物の一部の未熟花芽を、ステップb)で、上記花芽の成熟期間中、MRN-ATM経路阻害剤で、好ましくは本明細書に示された濃度で上記阻害剤を含む培地中で処理する。この処理は花粉形成前の未熟な花芽に効果を発揮し、花粉が形成された時にこの処理を終了してもよい。好ましくは、花芽が開いた場合、その花芽は成熟したと考えられる。好ましくは、花芽を、上記花芽を含む花序をMRN-ATM経路阻害剤を本明細書に示された有効濃度で含む培地中に、上記花芽の成熟中、すなわち、花芽が未熟な時から花芽が開く時まで置くことによって、MRN-ATM経路阻害剤で処理する。
【0054】
植物花粉を生じさせる組織、好ましくは未熟な花芽を、MRN-ATM経路阻害剤で、好ましくは、少なくとも約1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、16時間、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間または10日間処理する。好ましくは、花芽を最長約20日間、19日間、18日間、17日間、16日間、15日間、14日間、13日間、12日間、11日間、10日間、9日間、8日間、7日間、6日間、5日間、4日間、3日間、2日間または1日間処理する。植物花粉を生じさせる組織、好ましくは未熟な花芽を、好ましくは約1時間~20日間、約1日~20日間、約1日~10日間、約5日~15日間または約8日~12日間の期間処理する。
【0055】
処理期間は花芽の成熟期間の持続時間に依存し得る。成熟期間は当業者によって既知であり得るか、決定され得る。場合により、未熟な花芽は成熟期間の一部の間のみ処理される。花芽の成熟期間は、好ましくは、少なくとも、前減数分裂期、第一減数分裂および場合により第二減数分裂を含む小胞子形成を含む。したがって、本発明の方法の化合物で未熟花芽を処理する期間は、好ましくは、少なくとも前減数分裂期および第一減数分裂を含む小胞子形成中であることが好ましく、場合により第二減数分裂中もである。
【0056】
処理は、花芽の完全な成熟期間中、例えばその期間の100%の時間、またはその期間の一部、例えば未熟な花芽の成熟に必要な期間の約20%、40%、60%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%であり得る。
【0057】
ステップc)改良された生存能力を有する花粉の生成
本明細書では、改良された花粉生存能力とは、対照植物またはその植物の一部の花粉との比較において、本発明の方法によって処理された第1の種子植物またはその一部の向上した花粉生存能力として理解されるべきである。
【0058】
好ましくは、改良された花粉生存能力は、本発明の方法によって処理された植物花粉を生じさせる組織の花粉生存能力を、本明細書で対照組織としても表される、本発明の方法によって処理されていない植物花粉を生じさせる組織と比較することによって決定され得る。好ましくは、処理組織および対照組織は同じ種のものであり、好ましくは同じ植物のものである。好ましくは、処理組織および対照組織は類似のまたは同じ遺伝的背景を有する。
【0059】
好ましくは、改良された花粉生存能力は、本発明の方法によって処理された花芽の花粉生存能力を、本明細書で対照花芽としても表される、対照植物またはその植物の一部の花芽と比較することによって決定され得る。
【0060】
対照花芽は、本発明の方法の花芽と同等または同一の花芽であり、本発明の方法を受けていない点においてのみ異なる。本発明の方法が未熟な花芽を含む植物の一部を処理することを含む場合、類似の植物の一部が対照として機能し得る。上記類似の植物の一部は、同じまたは類似の植物のものであり得、好ましくは、上記類似の植物の一部は、本明細書に説明するようにはMRN-ATM経路阻害剤と接触していない点を除いて、本発明の方法で処理された植物の一部と同じ処理を受けている。好ましくは、同じ発育段階の(対照)花芽を含む上記対照植物または植物の一部は、MRN-ATM経路阻害剤なしで、すなわち、MRN-ATM経路阻害剤の濃度がゼロではあるが、本発明の方法の植物または植物の一部と同じ培地に、同じ期間置かれる。類似の植物または植物の一部は、同じ種の植物もしくは植物の一部または同じ親植物の子孫であり得る。好ましくは、植物の一部は花序である。ステップa)の植物の一部が植物の花序である場合、類似の植物または同じ植物の同等の花序を対照として使用することができる。向上した花粉生存能力は、好ましくは、本明細書に例示されるようなMTTアッセイを使用して確立され得る、生存可能な花粉の増加として決定される。
【0061】
好ましくは、生存可能な花粉の増加は、生存可能な花粉の割合の増加であり、すなわち、花芽によって生成される花粉の総量に対する生存可能な花粉の量が増加する。好ましくは、生存可能な花粉の割合の増加とは、本明細書で定義される対照花芽によって生成される生存可能な花粉の割合との比較における増加である。好ましくは、向上した生存能力は、少なくとも約1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の増加である。
【0062】
加えて、またはあるいは、本発明の方法によって処理された花芽は、好ましくは本明細書に定義される対照花芽と比較して、開いた葯の数が増加している。開いた葯の数の増加とは、開いた葯の割合の増加であり得、すなわち、花芽によって生成された葯の総数に対する開いた葯の数が増加するということである。好ましくは、開いた葯の割合の増加とは、本明細書で定義される対照花芽によって生成される開いた葯の割合との比較における増加である。好ましくは、開いた葯の数の増加は、少なくとも約1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の増加である。
【0063】
あるいは、または加えて、本明細書で定義するようにMRN-ATM経路阻害剤へ曝露した後、好ましくは、植物花粉を生じさせる組織によって生成された花粉の少なくとも約2%、4%、6%、8%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が生存可能である。好ましくは、植物花粉を生じさせる組織によって生成された花粉の約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、8%、6%、4%、2%未満または約1%未満が生存不能である。
【0064】
この向上した花粉生存能力はMTTアッセイによって決定でき、花粉の代謝活性が示される。好ましくは、本発明の方法によって処理されていない、植物花粉を生じさせる組織からの花粉の総量のわずか5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.01%、0.01%、0.001%または0.0001%とは対照的に、本発明の方法によって処理された、植物花粉を生じさせる組織からの花粉の総量の少なくとも0.001%、0.01%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%または40%は生存可能である。
【0065】
あるいは、または加えて、本明細書で定義されるように植物花粉を生じさせる組織をMRN-ATM経路阻害剤へ曝露した後、好ましくは、形成された葯の少なくとも約2%、4%、6%、8%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は開いた葯である。好ましくは、形成された葯の約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、8%、6%、4%、2%未満または約1%未満が閉じたままである。
【0066】
好ましくは、増加した生存可能な花粉の量および/または増加した開いた葯の数は、上記植物の稔性を向上させる。したがって、本発明の方法は、植物の稔性を高める方法であるとも考えられる。
【0067】
本発明の方法のステップa)の植物または植物の一部、好ましくは植物花粉を生じさせる組織、好ましくは未熟な花芽、好ましくは花序を本発明の方法のMRN-ATM経路阻害剤で処理した後または処理すると同時に、本方法は上記植物または植物の一部に成熟花粉を発育させるステップをさらに含むことができる。このような成熟花粉または熟した花粉は、その後、受粉に効果的に使用することができる。
【0068】
本発明の方法においてMRN-ATM経路阻害剤で処理した植物の一部が植物の残りの部分から切り離されている場合、この処理した植物の一部は、その後、さらに成熟し植物全体に成長するために、別の植物の一部に接ぎ木され得る。好ましくは、本発明の方法によって処理する植物の一部は、その後台木に穂木として接ぎ木される花序である。好ましくは、上記植物の一部は穂木である。
【0069】
好ましい実施形態では、台木およびMRN-ATM阻害剤処理した穂木は、同じまたは類似の植物、好ましくは同じ属、場合により同じ種の植物に由来する。好ましくは、台木および穂木は両方とも同じ親交配の子孫植物に由来する。別の実施形態では、MRN-ATM阻害剤処理した穂木は、台木を提供する植物とは異なる種に由来するが、穂木および台木は、生存可能な接ぎ木を形成できるようなものである。接ぎ木はその後さらに発育し得、花粉は、収集され得、かつ/またはその後の受粉、好ましくは他家受粉もしくは自家受粉のために使用でき得る段階にまで成熟し得る。
【0070】
本明細書でミリンを用いて例示したように、未熟な花芽を含む植物の一部を化合物で処理し、続いてその処理部分を台木、好ましくは同じ属の台木に穂木として接ぎ木し、その後花芽を接ぎ木された植物の一部として首尾よく完全に成熟させることは、花粉生存能力を向上させる本発明の方法を超える方法であると考えることができる。当業者は、このような方法が、花芽の初期発達の間、好ましくは花粉の初期発生の間の過程に影響を与える任意の化合物でそのような植物の一部を処理することへの使用に適しており、例えば危険および/もしくは有害であるから、または高価もしくは希少であるから、好ましくは少量で使用されることを理解する。特に、
(i)未熟な花芽、好ましくは花序を含む植物の一部を単離するステップと;
(ii)上記植物の一部を、花芽の初期発達中、好ましくは花粉の初期発生中の過程に影響を与える化合物と接触させるステップと;
(iii)上記植物の一部を穂木に接ぎ木して生存可能な接ぎ木を形成するステップと;
(iv)上記接ぎ木を、好ましくは稔性のある花粉を含む、稔性のある植物に生育させるステップと
を含む、稔性のある植物の接ぎ木を発育させる方法を提供する。
【0071】
化合物は、好ましくは、植物の配偶子の発生、好ましくは花粉の発生における減数分裂の過程に影響を与える化合物である。好ましくは、植物を、花芽の成熟初期中、好ましくは少なくとも前減数分裂期および第一減数分裂を含む小胞子形成中に、そして場合により第二減数分裂中にも上記化合物と接触させる。
【0072】
本発明の方法は、成熟花粉を単離するステップをさらに含み得る。好ましくは、成熟した生存可能な花粉を含んでいる葯は開いている。あるいは、閉じている葯を開いて花粉を露出させることもあり得る。生存可能な花粉を、例えば:ふるい分け、遠心分離または蛍光活性化セルソーティング(FACS)といった様々な方法を通じて選択することができるが、これらに限定されない。好ましくは、生存可能な花粉を収集する方法は、生存不能な花粉の画分を捨てるステップを含む。好ましくは、生存可能な花粉を収集する方法は、生存不能である可能性がある、生存可能な花粉より小さな、およびまたは大きな花粉を捨てつつ、生存可能な花粉と同等または等しいサイズの花粉の画分を選択するステップを含む。
【0073】
さらなる実施形態では、生存可能な成熟花粉は、第1の種子植物および(自家受粉)/または第2の植物(他家受粉)を受粉させるために使用され、場合により、単離された生存可能な成熟花粉が使用される。受粉は好ましくは種子の発生をもたらす。第2の植物は、好ましくは第2の種子植物である。第2の植物は、第1の植物の親の一方と同じ種の植物であり得る。場合により、第2の植物は、第1の種子植物の親植物、すなわち、母植物または父植物である。第2の植物は、第1の植物と同じ種であり得る。受粉は戻し交配である場合がある。場合により、第2の植物は第1の植物と同じ植物である。受粉は自家受粉であり得る。第1の植物が種間雑種である場合、第2の植物は同様の種間雑種であり得る、すなわち、第1の植物の親植物と同じ種の親植物を有し、場合によっては同じ親植物を有し得る。本発明の方法により得られる生存可能な花粉を使用する受粉ステップは、交配、戻し交配および自家受粉であり得るが、これらに限定されない。
【0074】
第2の植物は、好ましくは、本発明の方法によって得られる第1の植物の生存可能な花粉を使用した第1の植物と第2の植物間の交配の発芽のための胚珠を提供する。好ましくは、第2の植物は、本発明の方法の第1の植物と同じ植物またはそのシブリング(sibling)である。
【0075】
この方法は、種子発生のステップおよび場合により後代植物生産のステップをさらに含み得る。
【0076】
場合により、本発明の方法は、植物の生産のための本質的に生物学的なステップを含まない。
【0077】
さらなる側面において、本発明は、花粉生存能力を向上させるための本明細書に定義されるMRN-ATM経路阻害剤の使用を提供する。好ましくは、上記花粉は、本明細書で定義される種間雑種に由来する。好ましくは、上記MRN-ATM経路阻害剤はMRN複合体阻害剤、より好ましくはMre11阻害剤、さらに好ましくは2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンまたはその誘導体である。
【0078】
さらなる側面では、本発明は、本明細書で提供する本発明の方法によって得られる生存可能な花粉を提供する。好ましくは、花粉は改良された生存能力を有する。好ましくは、花粉は成熟花粉である。場合により、花粉は単離された花粉、好ましくは単離された成熟花粉である。好ましくは、花粉は種間雑種の花粉である。好ましくは、花粉は種間雑種のものであり、(本発明の方法を実施する前に)その植物の花粉の少なくとも10%は生存不能である。好ましくは、花粉は、さもなければ不稔である種間雑種のものである。言い換えれば、好ましくは、本発明の花粉は、本発明の方法に従って処理されていない植物、好ましくは種間雑種またはその一部の花粉とは対照的に、生存能力がある、または向上した生存能力を有することを特徴とする。
【0079】
場合により、本発明の花粉は、MRN-ATM経路阻害剤に起因または関連する、好ましくは、MRN複合体阻害剤による処理に起因または関連する、より好ましくは、Mre11阻害剤による処理に起因または関連する、1つ以上のゲノム変化を有する。好ましくは、生存可能な花粉は、2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンまたはその誘導体による処理に起因または関連する1つ以上のゲノム変化を有する。場合により、生存可能な花粉は、MRN-ATM経路が阻害されており、MRN複合体が阻害されており、かつ/またはMre11活性が阻害されていることを特徴とし得る。場合により、本発明の生存可能な花粉は、2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンまたは微量の2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンを含むことを特徴とする。
【0080】
一側面では、本発明は、本明細書で定義する改良された生存能力を有する花粉を含む植物、植物の一部、花芽および花序のうちの少なくとも1つに関する。
【0081】
一側面では、本発明は、本明細書で定義する方法ステップを使用して改良された花粉生存能力を有する第1の種子植物を生産するための方法に関する。好ましくは、この方法は:
a)植物花粉を生じさせる組織を含む第1の種子植物または植物の一部を用意するステップと;
b)ステップa)の植物またはその一部の少なくとも一部分においてMRN-ATM経路を阻害するステップと;
c)接触させた組織に改良された生存能力を示す花粉を生成させるステップと
を含む。
【0082】
ステップa)で植物の一部を用意する場合、本方法は、本明細書に定義されるように、上記植物の一部を台木に接ぎ木するステップをさらに含み得る。好ましくは、用意する植物の一部は穂木である。好ましくは、植物花粉を生じさせる組織は未熟な花芽の一部である。好ましくは、未熟な花芽は花序の一部である。したがって、好ましくは、ステップa)の植物の一部は花序である。
【0083】
一側面では、本発明は、改良された生存能力を有する花粉を含む種子植物に関し、ここで、種子植物は本明細書に定義される本発明の方法によって入手可能である。種子植物は種間雑種および/または接ぎ木であり得る。場合により、本発明の種子植物は、花粉が改良された生存能力を有することを除いて、本明細書で定義される第1の種子植物と同一である。
【0084】
好ましくは、改良された生存能力を有する花粉を含む種子植物は、本質的に生物学的な過程によって得られないか、それのみによって得られるわけではない。好ましくは、本発明の種子植物は、技術的なステップを含む方法によって得られる。好ましくは、改良された生存能力を有する花粉を含む種子植物は人工のものである。
【0085】
一側面では、本発明は、改良された生存能力を有する花粉を使用して生産された種子および/または子孫に関し、ここで、花粉は、本明細書に定義される本発明の方法によって入手可能である。上記花粉は父親として使用される。種子生産に使用される母親は、好ましくは、本明細書で定義する第1および第2の植物のうちの少なくとも1つである。
【0086】
さらなる側面では、受粉による子孫の生成における本発明の改良された生存能力を有する花粉の使用を提供する。受粉は、好ましくは、自家受粉および他家受粉の少なくとも一方である。
【0087】
さらなる側面では、本発明は、MRN-ATM経路を阻害する化合物を含む農業用担体に関し、好ましくは、化合物は2-アミノ-5-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-4(5H)-チアゾロンまたはその誘導体である。好ましくは、農業用担体中の上記化合物の濃度は約5μM、4μM、3μM、2μM、1μM、900nM、800nM、700nM、600nM、500nM、400nM、300nM、200nM、100nM、90nM、80mM、70nM、60nM、50nM、40nMまたは30nMであり、そして、少なくとも約1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、6nM、7nM、8nM、9nM、10nM、11nM、12nM、13nM、14nM、15nM、16nM、17nM、18nM、19nMまたは20nMの濃度であり得る。好ましくは、上記濃度は約1nM~5μMの間、約1nM~1μMの間、約5nM~500nMの間、約5nM~100nMの間、約10nM~100nMの間、約5nM~50nMの間、約10nM~50nMの間の範囲、または好ましくは約20nM~30nMの間である。好ましい農業用担体は、植物生育培地、土壌、肥料、植物ベースの油および保湿剤からなる群から選択される。好ましくは、農業用担体は植物生育培地である。
【0088】
植物生育培地または植物組織培養生育培地は、好ましくは植物の生存能力をサポートし、かつ/または植物の生育を促進する。植物生育培地は、好ましくは植物の生育を促進し、好ましくは植物の根および植物のシュートのうちの少なくとも1つの発育を促進する。植物生育培地は、好ましくは、少なくとも(マクロ)栄養素を含む。植物生育培地は、硝酸塩、寒天、糖、ビタミンおよび成長調節剤のうちの少なくとも1つを含み得る。好ましい成長調節剤は、限定されないがIAAなどのオーキシンおよび限定されないがカイネチンなどのサイトカイニンである。好ましい生育培地はMurashige T. and Skoog F., supraに記載のムラシゲ・スクーグである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【
図1】0.5MS培地および適切な濃度のミリンを含むガラス管内に調製したAC雑種の葯が入れられた実験セットアップの概要を示す図である。
【
図2】生存不能な花粉(茶色)と混合されている生存可能な花粉(紫色)の例を示す図である。
【
図3】アブラナ(B.rapa)×ヤセイカンラン(B.oleracea)の雑種の未熟な花芽に適用した様々な濃度のミリンの範囲を示す図である。生存可能な花粉粒は、生存可能な花粉を紫色に染色する2,5-ジフェニルモノテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを用いて視覚化されている。20nMという低量のミリンにより、より多くの数の生存可能な花粉粒がもたらされた。濃度が高くなると、より大きいが、生存不能な花粉がもたらされた。
【
図4】20nMミリンを適用した後のアブラナ(B.rapa)×ヤセイカンラン(B.oleracea)交配の開いた葯を示す図である。通常、この交配のF
1は開いた葯を形成しない。
【実施例】
【0090】
[実施例1]
ミリンの適用は種間雑種において稔性を向上させる
本発明者らは、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)とアブラナ(Brassica rapa)の交配からのAC種間雑種の花序をミリンで処理することにより、生存可能な花粉粒がより高頻度で得られ、そしてより大きな生存可能な花粉粒がもたらされることを発見した。ヤセイカンラン(B.oleracea)とアブラナ(B.rapa)の種間AC雑種は不稔であることが知られているため、これは驚くべきことである。
【0091】
父としてカイラン(Brassica oleracea var. albograbra)(Cゲノム)、母としてアブラナ バー アルボグラブラ(Brassica rapa var. albograbra)(Aゲノム)の間の種間雑種(AC)を、つぼみ受粉および胚救出によって調製した。ヤセイカンラン(B.oleracea)およびアブラナ(B.rapa)親系統を20~22℃の温室内で12時間の日長で温室内で生育させた。植物が開花した後、アブラナ(B.rapa)を除雄し、ヤセイカンラン(B.oleracea)から人工受粉で受粉させた。
【0092】
他家受粉の5~9日後、球形またはハート形の胚段階まで発育した長角果を裂開し、胚救出のためのインビトロ条件に置いた。得られた胚を、1mg・mL-1の6-ベンジルアミノプリンおよび0.01mg・mL-1のオーキシン(インドール-3-酢酸)を含むガンボーグB-5培地中に配置した。次いで、胚を、12時間の光周期および昼15℃/夜10℃の温度サイクルの制御された条件に移した。最もよく発育した植物を温室に移し、花序が発達するまでさらなる実験のために生育させた。
【0093】
ミリンの濃度範囲を、30mlの0.5ムラシゲ・スクーグ(MS)培地中で最終濃度20nMから1μMまで調製した。これを平底ガラス管に加え、パラフィルムで密封した。パラフィルムに小さな穴を開け、そこを通してAC種間雑種の花序を1つ置いた。花序は、長角果、開いた花および成熟した花芽を全て除去し、非常に未熟な芽だけを残すことによって調製した。セットアップの概要は
図1で見られる。得られたセットアップを、23℃/21℃(昼/夜)、16H/8H(明所/暗所)の制御された条件下に10日間置いた。開花した花の花粉を収集し、花粉の生存能力に対するミリンの影響を決定するために分析した。
【0094】
花粉生存能力を、標準化された2,5-ジフェニルモノテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを用いて測定した。このアッセイはミトコンドリア活性に基づいており、生細胞は濃い紫色に変わるが、非生細胞は染色されないままとなる。手短に言えば、このアッセイでは、沈殿物を除去するためにろ過される、1%MTTの5%スクロースのミネラル除去H
2O(demi H
2O)溶液を使用する。この溶液は暗所にて4℃で保存する必要がある。MTT溶液50μLをマイクロスライド上に滴下し、葯を針で開いて採取した少量の花粉をMTT液滴中に均一に分散させる。ガラス製カバースライドを適用し、室温で5~10分間インキュベートすると、染色が見えるはずである(
図2)。顕微鏡を使用すると、生存可能な花粉をスコア化できる。
【0095】
異なるミリン濃度で花粉を観察すると、低濃度のミリン(約20nMが最適)により生存可能な花粉の増加がもたらされることが示された(
図3)。加えて、この濃度のミリンにより、葯が開くことが分かった(
図4)。0.5μMを超える濃度では、より大きいが、生存不能な花粉がもたらされることが分かった。
【0096】
[実施例2]
化学処理した花序を接ぎ木することにより温室内で完全な植物にまで成熟させる
アブラナ(Brassica rapa)台木の挿し木を、台木の葉および腋芽を全て取り除き、優勢なシュートのみを残すことにより調製した。実施例1で得られた化学処理した若い未熟花序をこれらの台木挿し木に接ぎ木した。接ぎ木のために、穂木先端と同様の厚さの台木を選択した。接ぎ木の前に、メスの刃(スワンモートン#10)を使用して台木のシュート先端または花序を切り落とした。接ぎ木前に、メスを切断端まで上方に移動させることによって、台木に垂直の切開を作成した。接ぎ木には台木を保持するのに十分な大きさのシリコンクリップを使用した。端をメスの刃で除去し、穂木の中央領域が無傷に保たれるように、穂木に楔またはTを作成した。楔形/T形の穂木を台木の垂直切開部に配置し、シリコンクリップを、接ぎ木接合部を覆うように、優しく、しかししっかりと移動させた。少なくとも最初の数日間は湿度が約100%になるように、接ぎ木した挿し木/植物をプラスチックのカバーで覆った。1週間後(7~9日後)、接ぎ木は治癒した。シリコンクリップを接ぎ木接合部から取り外した。プラスチックカバーを取り外し、化学処理した花序を通常通りに生育させた。この方法により、花芽を完全に成熟させることができた。
【国際調査報告】