(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】超微細デニールUHMW PE繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
D01F6/04 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534206
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 US2022081680
(87)【国際公開番号】W WO2023114922
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ブーン、マーク ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ハーミーズ、ジョン
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB04
4L035BB05
4L035BB11
4L035BB16
4L035BB57
4L035BB85
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC03
4L035EE09
4L035HH02
(57)【要約】
ポリエチレン組成物並びに仕上げ剤を含まない超微細デニールの超高分子量ポリエチレン(UHMW PE)繊維及びテープが提供される。繊維及びテープは、医療用の体内用途において使用可能である当該組成物、及びそれらの作製プロセスから作製される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンとトリメチルベンゼンとの混合物を含む組成物。
【請求項2】
前記トリメチルベンゼンが、液体溶媒であり、前記ポリエチレンが、前記トリメチルベンゼン中に少なくとも部分的に溶解している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、溶液であり、前記ポリエチレンが、トリメチルベンゼン溶媒中に完全に溶解している、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、少なくとも1つの追加の液体溶媒を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記トリメチルベンゼンが、1,2,4-トリメチルベンゼンを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレンが、超高分子量ポリエチレンを含み、前記トリメチルベンゼンが、1,2,4-トリメチルベンゼンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物から形成される繊維。
【請求項8】
前記繊維が、いかなる紡糸仕上げ剤も含まない、請求項11に記載の繊維。
【請求項9】
ポリエチレン繊維製品を調製するためのプロセスであって、
a)トリメチルベンゼン溶媒中で、少なくとも500,000g/molの重量平均分子量を有するポリエチレンの溶液を形成することと、
b)1本以上の溶液フィラメントを形成するように、紡糸口金を通して前記溶液を紡糸することと、
c)前記溶液フィラメントを冷却することであって、前記1本以上の溶液フィラメントが、ゲルフィラメントに変換され、前記ゲルフィラメントが、前記溶媒を加えた前記ポリエチレンの1重量%超の溶媒を含む、冷却することと、
d)乾燥したフィラメントを形成するように、前記ゲルフィラメントから前記溶媒を蒸発させることと、を含み、前記蒸発は、前記乾燥したフィラメント中の溶媒濃度が、前記溶媒を加えた前記ポリエチレンの1重量%未満になるまで継続する、プロセス。
【請求項10】
前記溶液が、工程b)において複数の溶液フィラメントに紡糸され、前記ポリエチレン繊維製品が、マルチフィラメント繊維である、請求項9に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年12月17日出願の同時係属中の米国特許仮出願第63/291,308号の利益を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野
本開示は、改善されたポリエチレン組成物、並びに医療用の体内用途において使用可能な、当該組成物から作製された仕上げ剤を含まない超微細デニールの超高分子量ポリエチレン(ultra-high molecular weight polyethylene、UHMW PE)繊維及びテープ、並びにそれらの作製プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
靭性及び引張弾性率などの高い引張特性を有するマルチフィラメントポリオレフィン繊維が製造されている。そのような繊維は、衝撃吸収性及び防弾性を必要とする用途、例えば防弾チョッキ及びスポーツ用具、例えばカヤック、ボート、釣り糸、及びロープに有用であることが従来から知られている。そのような高強度ポリオレフィン繊維はまた、心臓血管及び整形外科手術における縫合糸などの医療用体内用途に使用することができる。心血管用途では、繊維が実用的な程度に細いことが望ましく、ゲル紡糸超高分子量ポリエチレン繊維は、非常に微細な直径(低デニール)と組み合わせて所望の高強度を提供することができる。高強度UHMW PE繊維は、数十年にわたって市販されてきたが、超微細デニール繊維は、ごく最近になって利用可能になったに過ぎず、より重いデニールのUHMW PE繊維を作製するために使用される商業的プロセスは、超微細デニール繊維を作製するためには実用的ではない。
【0004】
超高分子量ポリオレフィンとしては、少なくとも約500,000g/molの分子量を有するポリエチレンが挙げられる。しかしながら、本開示のポリオレフィン又はポリエチレンの分子量に関して用語「超高」に対する本明細書における全ての言及はまた、ポリマー粘度及び/又はポリマー分子量の最大端において限定することを意図するものではないことを理解すべきである。用語「超高」は、本開示の範囲内の有用なポリマーを、繊維に加工することができる程度に、ポリマー粘度及び/又はポリマー分子量の最小端において限定することのみを意図するものである。本明細書に記載されたプロセスは、最も好ましくはUHMWポリエチレンの加工に適用されるが、それらは、ポリプロピレン及び他のタイプのポリエチレン、例えば低密度、中密度、及び高密度ポリエチレンを含む他の全てのポリ(アルファ-オレフィン)、すなわちUHMW POポリマーに等しく適用可能であることも理解されるべきである。
【0005】
そのような超高分子量ポリエチレンポリマーから形成される高靭性フィラメント及び繊維を製作するための多くの異なる技術が知られている。例えば、高靭性ポリエチレン繊維は、超高分子量ポリエチレンを含有する溶液を紡糸することによって作製され得る。超高分子量ポリエチレン粒子は、好適な溶媒と混合され、それによって粒子は、溶媒によって膨潤及び溶解されて溶液を形成する。次いで、溶液を、紡糸口金を通して押し出して溶液フィラメントを形成し、続いて溶液フィラメントをゲル状態に冷却してゲルフィラメントを形成し、次いで、紡糸溶媒を除去して無溶媒(又は実質的に無溶媒)フィラメントを形成する。溶液フィラメント、ゲルフィラメント、及び無溶媒フィラメントのうちの1つ以上は、それらの引張特性を向上させるために、1つ以上の段階において高度に配向された状態に伸長又は延伸される。一般に、そのようなフィラメントは、「ゲル紡糸」ポリエチレンフィラメントとして知られている。マルチフィラメントゲル紡糸超高分子量ポリエチレン繊維は、例えば、ノースカロライナ州シャーロットのHoneywell International Inc.によって製造されている。
【0006】
ゲル紡糸ポリエチレンフィラメントを形成するための様々な方法が、例えば、米国特許第4,413,110号、同第4,536,536号、同第4,551,296号、同第4,663,101号、同第5,006,390号、同第5,032,338号、同第5,578,374号、同第5,736,244号、同第5,741,451号、同第5,958,582号、同第5,972,498号、同第6,448,359号、同第6,746,975号、同第6,969,553号、同第7,078,099号、同第7,344,668号、同第7,846,363号、同第8,361,366号、同第8,444,898号、同第8,506,864号、同第8,747,715号、同第8,889,049号、同第9,169,581号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号に記載されており、これらは全て、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。例えば、米国特許第4,413,110号、同第4,663,101号及び同第5,736,244号は、形成されたポリエチレンゲル前駆体と、ポリエチレンゲル前駆体から得られた低多孔性キセロゲルを伸長して高靭性の高弾性率繊維を形成することが記載されている。米国特許第5,578,374号及び同第5,741,451号は、特定の温度及び延伸速度で延伸することによって既に配向されているポリエチレン繊維の後伸長を記載している。米国特許第6,746,975号は、流体製品を形成するために、マルチオリフィス紡糸口金を通した押出を介して、ポリエチレン溶液から形成された高靭性の高弾性率マルチフィラメント糸を記載している。流体製品はゲル化され、伸長され、キセロゲルに形成される。次いで、キセロゲルを二段階伸長に供して、所望のマルチフィラメント糸を形成する。米国特許第7,078,099号は、分子構造の広がりを増加させた、延伸したゲル紡糸マルチフィラメント糸を記載している。糸は、改善された製造プロセスによって製造され、高分子量及び結晶的秩序を有するマルチフィラメント糸を得るために、特殊な条件下で延伸されている。米国特許第7,344,668号は、強制対流空気オーブ内で本質的に希釈剤を含まないゲル紡糸ポリエチレンマルチフィラメント糸を延伸するプロセス及びそのプロセスによって製造された延伸糸を記載している。延伸比、伸長率、滞留時間、オーブン長及び供給速度のプロセス条件は、効率及び生産性の向上を達成するように、互いに特定の関係で選択されている。最後に、米国特許第8,444,898号は、高い生産能力で強い材料を製造する、改善された均質性を有する超高分子量ポリエチレンの溶液の連続調製プロセスを記載している。
【0007】
上記の繊維製造プロセスの各々は、マルチフィラメントUHMW PE繊維の製作に好適であるが、各プロセスは、ヒト医療用途での使用を意図した繊維を製造するためには理想的でない製造プロセスを利用する。そのような医療用の体内用途では、生体適合性は、繊維の使用にとって重要な要素である。しかしながら、上記のような典型的な繊維ゲル紡糸プロセスにおいて使用されるゲル紡糸溶媒は、ヒトに対して毒性であることが多く、インビボでの使用には好適ではない。上記のようなプロセスでは、完全な紡糸プロセスの一部として繊維から紡糸溶媒を除去することが知られている。しかしながら、溶媒は、典型的にはオゾンを枯渇させ、したがって環境に有害であるので、繊維から溶媒を抽出又は蒸発させるとき、及びその後溶媒をリサイクル又は処分するときにも、多大な注意を払わなければならない。したがって、当該技術分野では、より環境的に許容され、ヒト及び動物に対して非毒性である溶媒を利用する改善されたゲル紡糸プロセスが必要とされている。
【0008】
加えて、上で参照した特許に記載されているように、製造中に繊維に典型的に適用される表面仕上げ剤である紡糸仕上げ剤は、一般に生体適合性ではないか、又は哺乳動物に有毒であることが従来から知られている。結果として、紡糸仕上げ剤は、それらが医療用途において使用され得る前に、洗浄又は抽出などによって繊維から除去されなければならない。これは、繊維製造プロセスに追加の複雑さ及びコストを加える。したがって、紡糸仕上げ剤の使用を必要としない繊維製造プロセスが当該技術分野において望まれている。本開示は、当該技術分野におけるこれらの必要性の両方に対する解決策を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、ポリエチレンとトリメチルベンゼン(「trimethylbenzene、TMB」)との混合物を含む組成物及び物品を提供し、トリメチルベンゼンは、特に高い混合物温度において、ポリエチレンに対して非常に有効な溶媒である。トリメチルベンゼンは、他の溶媒と比較して、哺乳動物及び環境の両方に対する健康有害性がより低く、ポリエチレンのための溶媒としての有効性及び揮発性により、高純度繊維、すなわち、超低残留溶媒含有量を有し、効果的に加工されるために紡糸仕上げ剤の使用を必要としない繊維を達成する繊維製造プロセスにおける改善が可能になる。トリメチルベンゼン溶媒を用いて形成されたポリエチレンゲルは非常に高品質のものであることが見出されているので、紡糸仕上げ剤を回避することができ、それによって、当該技術分野で従来行われているように、非常に高い引張強度を達成するために製作プロセス中にフィラメントの実質的なインライン延伸を必要とすることなく、極めて小さいフィラメントデニールで、そのような高い引張強度を有するフィラメントのゲル紡糸が可能になる。その代わりに、フィラメント延伸のほとんど又は全てが、オフラインの後延伸操作で行われる。インライン延伸のほとんど又は全てを排除することにより、より低いライン速度での繊維の製造が可能になり、かつ繊維ラインの全長に沿って維持された均一な高い繊維張力の適用が可能になる。これにより、製造中の静電気の蓄積が効果的に回避されるため、静電気の蓄積に対抗するために紡糸仕上げ剤が必要とされない。これは、紡糸仕上げ剤が哺乳動物に対して毒性であり得、仕上げ剤を有する繊維がインビボで使用できないため、重要である。静電気の蓄積及びもつれの可能性は、オフラインの後延伸操作において最小である。トリメチルベンゼンの揮発性はまた、第2の溶媒による抽出を必要とせずにフィラメントからトリメチルベンゼンを蒸発させることを可能にし、このプロセスで達成可能な超微細フィラメントデニールは、フィラメントのより高い表面積対体積比に起因して、より迅速かつ効率的な溶媒蒸発を可能にする。結果として、この繊維は、インビボでの哺乳動物における使用に好適であり、より高い商業的効率及び環境安全性で製造される。
【0010】
特に、本開示は、ポリエチレンとトリメチルベンゼンとの混合物を含む組成物を提供する。
【0011】
本開示はまた、ポリエチレン繊維製品を調製するためのプロセスであって、
a)トリメチルベンゼン溶媒中で、少なくとも500,000g/molの重量平均分子量を有するポリエチレンの溶液を形成することと、
b)1本以上の溶液フィラメントを形成するように、紡糸口金を通して溶液を紡糸することと、
c)溶液フィラメントを冷却することであって、当該1本以上の溶液フィラメントが、ゲルフィラメントに変換され、当該ゲルフィラメントが、溶媒を加えたポリエチレンの1重量%超の溶媒を含む、冷却することと、
d)乾燥したフィラメントを形成するように、ゲルフィラメントから溶媒を蒸発させることと、を含み、蒸発は、乾燥したフィラメント中の溶媒濃度が、溶媒を加えたポリエチレンの1重量%未満になるまで継続する、プロセスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】紡糸仕上げ剤を適用せずに繊維を形成し、延伸するプロセスの側面斜視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で提供されるポリエチレン-トリメチルベンゼン組成物は、ヒト及び動物の体内で、インビボで使用することができる高強度の医療グレード繊維の製作を特に意図しているが、その意図される最終用途は、厳密に限定することを意図しておらず、組成物は、複合材及び複合装甲を含む任意の他の最終用途、並びに所望され得る任意の他の非繊維、非装甲用途のための繊維の製作において使用されてもよい。
【0014】
本明細書で使用される場合、「繊維」は、長さ寸法が、幅及び厚さの横断寸法よりもはるかに大きい、ポリマー材料のストランドなどの、材料の長いストランドである。繊維は、「ステープル」又は「ステープル繊維」と当該技術分野において称されるストランドの短い区分とは区別されるように、長い、連続した(しかし明確に限定された長さの)ストランドが好ましい。通常の定義による「ストランド」は、糸又は繊維などの細長い本体である。本明細書で使用するための繊維の断面は、大きく異なってもよく、断面が円形、平坦、又は長円であってもよい。ストランドはまた、フィラメントの直線軸又は長手方向軸から突出している、1つ以上の規則的な又は不規則な突出部を有する、不規則な又は規則的な複数の突出部のある断面のものであってもよい。したがって、「繊維」という用語は、規則的な又は不規則な断面を有する、フィラメント、リボン、ストリップ等を含む。実質的に円形断面を有する繊維が好ましい。
【0015】
単繊維は、1本だけのフィラメントからか、又は多数本のフィラメントから形成されてもよい。1本だけのフィラメントから形成された繊維は、本明細書では、「単一フィラメント」繊維、又は「モノフィラメント」繊維のいずれかと称され、複数のフィラメントから形成された繊維は、本明細書では、「マルチフィラメント」繊維と称される。マルチフィラメント繊維は、本明細書で定義するとき、好ましくは2~約3000本のフィラメント、より好ましくは2~500本のフィラメント、更により好ましくは4~500本のフィラメント、更により好ましくは6~500本のフィラメント、更により好ましくは約6本のフィラメント~約250本のフィラメント、最も好ましくは約6~約125本のフィラメントを含む。マルチフィラメント繊維はまた、多くの場合、当該技術分野において、繊維束又はフィラメントの束と称される。本明細書で使用される場合、「糸(yarn)」という用語は、多数のフィラメントからなる単一ストランドとして定義され、「マルチフィラメント繊維」と交換可能に使用される。糸を形成するフィラメントは、典型的には一緒に撚糸される。
【0016】
超高分子量ポリオレフィン(ultra-high molecular weight polyolefins、UHMW PO)、特に超高分子量ポリエチレン(UHMW PE)のゲル/溶液紡糸を含む、「ゲル紡糸」として知られる、「溶液紡糸」とも称されるプロセスによって、優れた引張特性を有する非常に高強度のフィラメント及び繊維が作製されることが概ね知られている。この方法は、高分子量及び対応する高いポリマー固有粘度が、伝統的なポリマー押出技術を非常に細いフィラメント/繊維の製作にとって困難にするので、高強度ポリオレフィンを製作するために使用される。従来のゲル紡糸プロセスでは、ポリエチレン及び紡糸溶媒の溶液が形成され、続いて溶液を、マルチオリフィス紡糸口金を通して押し出して溶液フィラメントを形成し、溶液フィラメントを冷却してゲルフィラメントにし、次いで溶媒を蒸発又は抽出して固体の乾燥(又は実質的に乾燥)フィラメントを形成する。これらの乾燥フィラメントは、当該技術分野において繊維又は糸のいずれかとして称される、束に寄せ集められる。次いで、繊維/糸は、典型的には、それらの靭性を増加させるために最大延伸能力まで伸長(延伸)され、溶液フィラメント、ゲルフィラメント、及び乾燥フィラメントのうちの少なくとも1つが伸長される。ポリエチレン繊維を形成する本プロセスでは、ポリエチレン-溶媒溶液は、概して、以下の一連の工程:
1)スラリー、すなわち、ポリマーを溶解することができる溶媒中での固体ポリエチレンポリマー粒子(UHMW PE粒子など)の分散液(又は懸濁液)の形成工程と、
2)スラリーを加熱してポリマーを溶融させ、激しい分配及び分散混合の条件下で液体混合物を形成し、それによって混合物中の溶融ポリマー及び溶媒のドメインサイズを顕微鏡的寸法に減少させる工程と、
3)溶媒のポリマー中への拡散及びポリマーの溶媒中への拡散が起こるのに十分な時間を与え、それによって溶液を形成する工程と、に従って形成される。
【0017】
粒子状ポリエチレンポリマーの粒径及び粒径分布は、ゲル紡糸される溶液の形成中にポリエチレンポリマーが紡糸溶媒に溶解する程度に影響を及ぼし得る。ポリエチレンポリマーが溶液中に完全に溶解され、溶液が最も好ましくは均質であるように十分に混合されることも望ましい。したがって、1つの好ましい例では、約100ミクロン(micron、μm)~約200μmの平均粒径を有するポリエチレン粒子が提供される。そのような例では、ポリエチレン粒子の最大約90%、又は少なくとも約90%が、平均ポリエチレン粒径の40μm以内である粒径を有することが好ましい。換言すれば、ポリエチレン粒子の最大約90%、又は少なくとも約90%が、平均粒径のプラス又はマイナス40μmに等しい粒径を有する。別の例では、利用されるポリエチレン粒子の約75重量%~約100重量%は、約100μm~約400μmの粒径を有することができ、好ましくはポリエチレン粒子の約85重量%~約100重量%は、約120μm~350μmの粒径を有する。加えて、粒径は、約125~200μmを中心とする粒径の実質的なガウス曲線で分布することができる。利用されるポリエチレン粒子の約75重量%~約100重量%が、約500,000~約7,000,000、より好ましくは約700,000~約5,000,000の重量平均分子量を有するUHMW PE粒子であることも好ましい。好ましくは、UHMW PE出発材料は、重量平均分子量の数平均分子量に対する比(Mw/Mn)が6以下であり、より好ましくは5以下、更により好ましくは4以下であり、更により好ましくは3以下であり、更により好ましくは2以下であり、更により好ましくはMw/Mn比が約1である。
【0018】
好ましくは、ポリエチレンは、1000個の炭素原子当たり約5個未満の側基、より好ましくは1000個の炭素原子当たり約2個未満の側基、更に好ましくは1000個の炭素原子当たり約1個未満の側基、最も好ましくは1000個の炭素原子当たり約0.5個未満の側基を有するUHMW PEポリマー出発材料である。側基としては、C1~C10アルキル基、ビニル末端アルキル基、ノルボルネン、ハロゲン原子、カルボニル、ヒドロキシル、エポキシド、及びカルボキシルが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0019】
ポリエチレンポリマー、又はポリエチレンと溶媒との混合物(スラリー又は液体混合物又は溶液)は、少量、概して約5重量%未満、好ましくは約1重量%以下の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤、溶媒などを含有してもよい。少量の他の添加剤はまた、任意選択で、ポリマーと溶媒との混合物に添加されてもよい。例えば、鉱油などの加工助剤は、望ましい場合、少量(約1,000PPM~約9,000PPM)で添加されてもよい。
【0020】
概して、より高い繊維引張特性は、より高い固有粘度を有するポリマーから得られる。ポリマーの固有粘度は、ポリマーの分子量の尺度である。この点で、本発明のゲル紡糸プロセスで使用するために選択されるUHMW PEポリマーは、好ましくは、135℃のデカリン中で少なくとも約15dl/g、好ましくは約21dl/g超の固有粘度を有する。UHME PEポリマーは、好ましくは約21dl/g~約100dl/g、より好ましくは約21dl/g~約45dl/gの固有粘度を有する。本明細書で使用される場合、全ての参照固有粘度(intrinsic viscosities、IV)は、ASTM D1601の技術に従って、135℃のデカリン中で測定される。一般に、より高い分子量のポリマーは、より高い固有粘度を有し、より低い分子量のポリマーよりも高い繊維靭性を形成することができる。上記特性の全てを満足させる、本明細書で使用するのに好適なUHMW PEポリマーが市販されている。
【0021】
本本明のゲル紡糸プロセスにおける使用のために選択される紡糸溶媒は、本開示の組成物がポリエチレン及びトリメチルベンゼンを含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になるように、トリメチルベンゼンを含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になり、当該組成物は、ポリエチレンとトリメチルベンゼンとの混合物又は溶液などの組み合わせであり、この組み合わせは、均質又は不均質であってもよい。トリメチルベンゼンは、3つの異性体:1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、及び1,3,5-トリメチルベンゼンで入手可能である。これら3つの形態の各々は、ポリエチレンのための許容可能な溶媒である。これらのうち、1,2,4-トリメチルベンゼンが、その最適な生体適合性のために最も望ましく、本開示の好ましい実施形態では、紡糸溶媒は、1,2,4-トリメチルベンゼンと他の異性体の一方又は両方との混合物のいずれかを含むが、最も好ましくは、紡糸溶媒は、1,2,4-トリメチルベンゼンからなるか、又はそれから本質的になる。トリメチルベンゼンのこれらの形態の各々は、市販されている。最も好ましくは、紡糸溶媒の100%が当該異性体形態のうちの1つ以上のトリメチルベンゼンからなるが、他の非トリメチルベンゼン溶媒タイプは、微量で存在してもよい。微量の非トリメチルベンゼン溶媒が存在する場合、それは全溶媒重量の1重量%未満である。
【0022】
本開示の繊維を形成する例示的なプロセスが
図1に示されている。スラリーの成分は、任意の好適な方法で提供することができる。例えば、スラリーは、ポリエチレンポリマー(例えば、UHME PE)と紡糸溶媒とを撹拌混合タンク10内で組み合わせ、続いて、組み合わされたポリマー及び紡糸溶媒を供給ホッパー12に提供し、供給ホッパー12が、次いで、混合物を押出機14に供給することによって形成することができる。押出機14は、加熱されても、加熱されなくてもよい。ポリエチレン粒子及び溶媒は、タンク10内でスラリーが形成された(又はスラリー形成が開始された)状態で混合タンク10に連続的に供給されてもよく、次いで、それはホッパー12に排出される。混合タンク10は、任意選択で加熱されてもよく、スラリーは、ポリエチレンポリマーが溶融する温度より低い温度で、したがってポリエチレンが紡糸溶媒に完全に溶解する温度より低い温度で形成することができる。例えば、スラリーは、室温で形成され得るか、又はタンク10内で約110℃までの温度に加熱され得る。混合タンク中のスラリーの温度及び滞留時間は、任意選択で、当業者によって決定されるように、ポリエチレンポリマーが溶解するであろう温度より低い温度でポリエチレン粒子が少なくとも5重量%の溶媒を吸収するようなものである。好ましくは、スラリーは、混合タンクを出る際に室温(20℃~22℃)である。あるいは、約40℃~約140℃の温度に加熱されてもよい。
【0023】
押出機14に供給するいくつかの代替モードが企図される。例えば、混合タンク10中で形成されたポリエチレン-TMBスラリーは、無加圧下で供給ホッパー12に供給されてもよく、あるいは、スラリーが少なくとも約20kPaの正圧下で押出機14の密封ホッパー12に入るように、供給ホッパー12が密封され加圧されてもよい。供給圧力は、押出機14の搬送能力を高める。しかしながら、最も好ましくは、スラリーが供給ホッパー12に供給されるときに圧力が加えられない。代替実施形態では、スラリーは、押出機14で形成されてもよい。この場合、ポリエチレン粒子は、開放供給ホッパー12に供給されてもよく、溶媒は、ホッパー12で添加されるのではなく、押出機14に、例えば、押出機14の下流の1つ又は2つのバレル部分で直接ポンプ注入される。更に別の代替供給モードでは、濃縮されたスラリーが混合タンク10中で形成され、次いで濃縮されたスラリーがホッパー12に移送され、次いでポリマー溶融温度より高い温度に予熱された純粋な溶媒流が押出機14に、例えば押出機14の下流の1つ以上のゾーンで投入される。
【0024】
スラリーが提供される押出機14は、例えば、一軸押出機、又は非噛合型二軸押出機若しくは噛合型共回転二軸押出機などの二軸押出機を含む、任意の好適な押出機であり得る。バンバリーミキサーが挙げられるが、これに限定されない従来の装置もまた、従来の押出機の好適な代替物である。好ましくは、押出機は、噛合型共回転二軸押出機であり、噛合型共回転二軸押出機のスクリュー要素は、好ましくは前進搬送要素であり、好ましくは逆混合又は混練セグメントを含まない。
【0025】
好ましくは、押出機14に入る際のスラリーは、特定のポリエチレンポリマーの融点より低い温度であり、次いで、好ましくは押出機14中でポリエチレンポリマーの融点以上の温度に加熱される。したがって、本開示の好ましいゲル紡糸プロセスは、押出機14でスラリーを押し出して、押出機14の内側で溶融ポリエチレンポリマー(例えば、UHMW PE)と紡糸溶媒との混合物を形成することを含み、溶融ポリエチレンは、押出機14内で溶媒と少なくとも部分的に混合する。したがって、押出機中で形成されるポリエチレンポリマーと紡糸溶媒との混合物は、溶融ポリエチレンポリマーと紡糸溶媒との液体混合物と称することができる。溶融ポリエチレンポリマーと紡糸溶媒との液体混合物が押出機中で形成される温度は、約120℃~約165℃、好ましくは約125℃~約155℃、より好ましくは約130℃~約145℃であり得る。より低い温度は、ポリマー分解を最小限にする。
【0026】
押出機を通してポリエチレンスラリーを加工するための方法の一例は、共有に係る米国特許第8,444,898号に記載されており、これは、押出機を通してスラリーを加工して、押出機中で溶融UHMW PEポリマーと紡糸溶媒との液体混合物を形成することを記載しているが、液体混合物は、溶液が完全に形成される前に押出機から迅速に放出される。この特許は特に、最初にUHMW PE粉末及び溶媒を押出機中でスラリーに形成し、続いてそのスラリーを少なくとも毎分2.0D2グラム(g/分、Dは押出機のスクリュー径をcmで表す)の量のスループット速度で押出機を通して加工して、それによって液体混合物を形成することによって、ポリマーの分解を最小限に抑え得ることを教示している。次いで、押出機内ではなく、加熱された容器内でこの液体混合物を溶液に変換し、それによって、加熱された容器は、混合物に対して、たとえあったとしても非常にわずかなせん断応力しか及ぼさない。
【0027】
これも、本開示の好ましいプロセスである。溶液の形成は、ポリエチレンが押出機中にある間にトリメチルベンゼン溶媒/溶媒混合物中に少なくとも部分的に溶解されるように押出機中で開始されてもよいが、液体混合物を、ポリエチレンがトリメチルベンゼン溶媒/溶媒混合物中に完全に溶解されている溶液に完全に形成する、好ましくは均質溶液を形成する工程は、押出機よりも混合物に及ぼす応力が小さい、押出機から下流に位置する加熱された容器中で行われる。これは、ポリマーの熱分解及びせん断分解を減少させ、ポリマーの分子量を保存し、より強い繊維(又は他の物品)の製作を可能にする。この点で、「部分的に」溶解されるとは、ポリエチレンの少なくともいくらかが溶媒/溶媒混合物中に溶解されるが、全てではなく、ポリエチレンの0重量%超~100重量%未満までを含むことを意味し、「完全に」溶解されるとは、ポリエチレンの100%が溶媒/溶媒混合物中に溶解されることを意味する。好ましくは、ポリエチレンと溶媒との混合物が押出機中にある間に、0.1重量%~約50重量%までのポリエチレンが溶解され、より好ましくは0.1重量%~約33重量%までのポリエチレンが押出機中に溶解され、更により好ましくは約0.1重量%~約25重量%までのポリエチレンが押出機中に溶解され、更により好ましくは0.1重量%~約10重量%までのポリエチレンが押出機中に溶解される。したがって、ポリエチレンがトリメチルベンゼン(例えば、1,2,4-トリメチルベンゼン液体溶媒)などの液体溶媒に部分的に溶解しているが完全には溶解していない本開示の例示的な組成物では、組成物は、いくらかの溶解したポリエチレン及びいくらかの溶解していない固体ポリエチレンを含む。この点で、部分的にのみ溶解したポリエチレンを有するそのような例示的な組成物は、50重量%~約99.9重量%までの固体ポリエチレン、より好ましくは67重量%~約99.9重量%までの固体ポリエチレン、更により好ましくは約75重量%~約99.9重量%までのポリエチレン、更により好ましくは90重量%~約99.9重量%までのポリエチレンを含み、組成物の残りは、溶解したポリエチレン及び任意選択でポリエチレンとまだ混合されていないいくらかの溶媒を含む。
【0028】
再び
図1を参照すると、液体混合物が押出機14中で形成されると、液体混合物(及び/又は部分的に形成された溶液)は、次いで、加熱された容器16に迅速に移送され、そこで、溶媒及びポリマーが互いに完全に拡散して均一で均質な溶液を形成するのに必要な残りの時間が提供される。好ましくは、押出機中の混合物の平均滞留時間は、加熱された容器中の滞留時間未満であり、最も好ましくは、押出機中の混合物の平均滞留時間は、加熱された容器中の混合物の滞留時間の半分未満である。例えば、押出機中の液体混合物の滞留時間は、約1分間~約60分間、好ましくは約3分間~約30分間であり得る。
【0029】
押出機を出るポリエチレンと紡糸溶媒との液体混合物は、容積式ポンプなどのポンプを介して、加熱された容器に通すことができる。容器は加熱されたパイプであることが好ましく、それは直線の長さのパイプであってもよく、又はそれは屈曲部を有してもよく、又はそれはらせんコイルであってもよい。それは、パイプを通る圧力降下が過剰でないように選定された異なる長さ及び直径の部分を含んでもよい。パイプに入るポリマー/溶媒混合物は、典型的には高度に擬塑性及び粘性であり、したがって、加熱されたパイプは、パイプ断面にわたる流れを、間隔を置いて再分配するために、及び/又は追加の分散を提供するために、1つ以上のスタティックミキサーを含有することが好ましい。加熱された容器は、好ましくは少なくとも約130℃、好ましくは約130℃~約165℃、最も好ましくは約135℃~約155℃の温度に維持される。加熱された容器は、ポリエチレンポリマーの溶媒との溶液を形成するための加熱された容器中の液体混合物の平均滞留時間を提供するのに十分な容積を有することができる。例えば、加熱された容器中の液体混合物の滞留時間は、約2分間~約120分間、好ましくは約6分間~約60分間であり得る。代替例では、ポリエチレン及び紡糸溶媒の溶液を形成する際に、加熱された容器及び押出機の配置及び利用を逆にすることができる。そのような例では、ポリエチレンと紡糸溶媒との液体混合物を加熱された容器中で形成することができ、次いで押出機を通過させてポリエチレン及び紡糸溶媒を含む溶液を形成することができるか、又はポリエチレン-溶媒混合物を押出機から第2の加熱された容器に移送して均質溶液の形成を完了することができる。
【0030】
スラリー、液体混合物、及び溶液の各々は、溶液の約1重量%~約50重量%、好ましくは溶液の約1重量%~約30重量%、より好ましくは溶液の約2重量%~約20重量%、更により好ましくは溶液の約3重量%~約10重量%の量(濃度)のポリエチレンを含むことができる。溶液がフィラメントに紡糸される最も好ましい実施形態では、溶液は、溶液の6.5重量%以下(すなわち、溶解したポリマーの重量を加えた溶媒の重量)、より具体的には溶液の5.0重量%以下、又は更により好ましくは溶液の4.0重量%以下の量でポリエチレン(好ましくはUHMW PE)を含む。最も好ましくは、溶液は、溶媒の重量を加えたポリエチレンポリマーの重量に基づいて、溶液の3重量%超~6.5重量%未満、より具体的には3重量%超~5重量%未満の量でポリエチレンを含む。
【0031】
溶液が形成された後、溶液をフィラメントに加工することは、従来、以下の工程:
4)このようにして形成された溶液を紡糸口金に通過させて、溶液フィラメントを形成する工程と、
5)当該溶液フィラメントを短い気体空間を通過させて液体急冷浴に通す工程であって、当該溶液フィラメントが、急速に冷却されてゲルフィラメントを形成する、工程と、
6)ゲルフィラメントから溶媒を除去して、固体フィラメントを形成する工程と、
7)溶液フィラメント、ゲルフィラメント、及び固体フィラメントのうちの少なくとも1つを1つ以上の段階で伸長する工程と、を含む。
【0032】
図1に示すように、取り外し可能な紡糸口金21は、紡糸ブロック20に取り付けられている。紡糸ブロック20は、ポリエチレン-TMB溶液を紡糸口金21に均一に分配する。ポリエチレンポリマー及び紡糸溶媒の溶液を加熱された容器16から紡糸口金21に提供するプロセスは、溶液をギアポンプであり得る定量ポンプ18に通過させることを含むことができる。溶液が紡糸口金を通過するとき、それは、当該技術分野において従来から知られているように、複数の溶液フィラメント100に押し出され、これはマルチフィラメント溶液繊維とも称され得る。紡糸口金は、紡糸口金が含む紡糸孔の数に応じて、任意の好適な数のフィラメントを有する溶液繊維を形成することができる。一例では、紡糸口金は、約2個の紡糸孔~約3000個の紡糸孔を有することができ、したがって、溶液繊維は、約2本のフィラメント~約3000本のフィラメントを含む。好ましくは、紡糸口金は、約6個の紡糸孔~約500個の紡糸孔を有することができ、溶液繊維は、約6本のフィラメント~約500本のフィラメントを含むことができる。スピンホールは、円錐形の入口を有することができ、円錐は約15度~約75度の夾角を有する。好ましくは、夾角は、約30度~約60度である。加えて、円錐形入口に続いて、スピンホールは、スピンホールの出口まで延在する直線状ボア毛細管を有することができる。毛細管は、約10~約100、より好ましくは約15~約40の長さ対直径比を有することができる。
【0033】
溶液フィラメント100が紡糸口金21から流れ出ると、急冷タンク22中に保持された液体急冷浴に通され、浴中で急速に冷却されてゲルフィラメント102が形成される。急冷浴中の液体は、好ましくは、水、エチレングリコール、エタノール、イソプロパノール、水溶性不凍剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、液体急冷浴温度は、約-35℃~約35℃である。紡糸口金の端部と急冷浴との間には小さな気体空間(すなわち、間隙)が存在し、溶液フィラメントがこの気体空間を通過するとき、空間が空気で満たされている場合など、空間が酸素を含有する場合、溶液フィラメントは酸化を受けやすい。溶液フィラメントの酸化は、ポリマーの分子量を低下させ、それによって繊維引張特性を低下させる可能性があるので、ポリマーの劣化を最小限に抑えるために、気体空間を窒素又はアルゴンのような別の不活性ガスで充填することが知られている。また、特に不活性ガスを間隙に充填することが実用的ではない場合、気体空間の長さを制限することも、酸化の可能性を最小限に抑える。紡糸口金と液体急冷浴の表面との間の気体空間の長さは、好ましくは約1.0mm~約100mm、より好ましくは約3.0mm~約30mmである。気体空間における溶液糸の滞留時間が約1秒未満である場合、気体空間は、空気で満たされてもよく、そうでなければ、不活性ガスで空間を満たすことが最も好ましい。
【0034】
溶液フィラメント100が冷却されて、ゲルフィラメント102に変換されると、トリメチルベンゼン紡糸溶媒(又は溶媒混合物)は、ゲルフィラメント102から除去されなければならない。この段階で、ゲルフィラメントは、繊維の少なくとも1重量%の溶媒及び繊維の約96重量%までの溶媒を含有する。したがって、ゲル組成物は、ポリマーの重量を加えた溶媒の重量に基づいて、少なくとも1重量%の溶媒を依然として含むポリマー組成物である。トリメチルベンゼンの除去は、当該技術分野において周知の技術に従って、乾燥、すなわち蒸発によって実現される。それは揮発性溶媒であるので、不揮発性溶媒で必要とされるような第2の溶媒でそれを抽出する必要はない。3つのトリメチルベンゼン異性体の各々は、約165℃~176℃(1,2,3-TMB:176℃、1,2,4-TMB:169℃、1,3,5-TMB:165℃)の大気圧沸点を有し、これは、およそ130℃~136℃である超高分子量ポリエチレンの融点よりも高いので、130℃より低い温度、好ましくは100℃より低い温度、又は更に周囲室温(すなわち、約20℃~22℃)で溶媒を蒸発させることが好ましい。ゲルフィラメント102の乾燥は、(当業者によって決定されるような)妥当な時間で溶媒を蒸発させるのに十分に高いが、乾燥中にフィラメントを互いに融合させるほどには高くない温度である所望の温度に加熱されたチャンバ26(例えば、オーブン)にそれらを通すことによって実現されてもよく、最適乾燥温度は、乾燥中にフィラメントの融合を引き起こさない最高温度である。この温度は、乾燥中の繊維速度及び張力とともにゲル繊維中の溶媒濃度に依存する。あるいは、チャンバ26は、ホットプレート28及び30を含有していてもよく、その上をゲルフィラメントが通り、溶媒の蒸発を誘導する。ホットプレート28及び30は、任意の所望の温度に加熱されてもよく、繊維を乾燥させるこの方法は、当該技術分野において従来から知られている。乾燥がオーブン中で実行されるか、又はホットプレートを用いて実行されるかにかかわらず、乾燥温度は、典型的には約50℃~約100℃である。最も好ましくは、乾燥温度は、乾燥経路の長さに沿って約60℃~約90℃まで上昇する。
【0035】
溶媒の全て又はほとんど全てを除去することにより、乾燥繊維104が形成される。部分的に乾燥した繊維は、任意の残留溶媒を加えた繊維の重量に基づいて、約5重量パーセント未満、好ましくは任意の残留溶媒を加えた繊維の重量に基づいて、約2重量パーセント未満の量の残留溶媒を含んでもよいが、溶媒蒸発プロセスが終了した後の乾燥繊維は、任意の残留溶媒の重量を加えた繊維の重量に基づいて、約1重量パーセント未満の溶媒を含む。
【0036】
図1に示されるように、ゲル紡糸プロセスは、紡糸口金21から流れ出る溶液フィラメント100(溶液繊維)、急冷浴中で形成されるゲルフィラメント102(ゲル繊維)、及び紡糸溶媒の蒸発から生じる固体の乾燥繊維104を延伸する(伸長する)ことを含むことができる。繊維の延伸は、当該技術分野において従来から知られており、例えば、繊維をその様々な段階でロール上を通すことによって実現される。
図1に示す実施形態では、プロセスは、加熱されていない非駆動ガイドロール32、34、36、38、及び40、加熱されていない従動延伸ロール42及び44、並びに最終従動巻取ロール46を含むが、この設定は、単に例示的なものであり、より多くの又はより少ないロールを含むように当業者によって調整又はカスタマイズされてもよい。例えば、繊維は、ロールではなく、ビーム又は1つ以上のコアチューブ上に巻き取ることができる。繊維の巻取はまた、繊維に対して撚糸することなく、又は撚糸を与えずに実現することができる。
図1に示されたロールも、必ずしも一定の縮尺で描かれていないことに留意されたい。
【0037】
図1を参照すると、紡糸口金21から流れ出て、ゲルフィラメント102に急冷される溶液フィラメント100は、任意選択でゲルフィラメント102として延伸される。これらのゲルフィラメント102は、急冷タンク22内に位置する第1のガイドロール32上を通り、次いで、ガイドロール32から、ゲルフィラメント102は、急冷タンク22の外側に位置する第2のガイドロール34上を通る。そこから、ゲルフィラメント102は、追加のガイドロール36及び40並びに第1の延伸ロール42及び第2の延伸ロール44を収容する延伸ベンチ24に移送される。
図1の実施形態では、ゲルフィラメント102は、一度第1の延伸ロール42の周りを通り、次いでガイドロール36の周りを通り、次いで再度第1の延伸ロール42の周りに戻り、上昇してガイドロール38の周りを通り、次いで一度第2の延伸ロール44の周りを通り、次いでガイドロール40の周りを通り、次いで再度第2の延伸ロール44の周りを通り、最後に駆動巻取ロール46に巻き取られる。このプロセスでは、
図1に示すように、延伸ロール42と延伸ロール44との間で、繊維を接触乾燥ゾーン26に通すが、このゾーンは、加熱オーブンであってもよく、又はホットプレート28及び30を含有していてもよく、その上をゲルフィラメントが通り、上述のように溶媒の蒸発を誘導する。乾燥ゾーン26がホットプレート28及び30を含むか、又は他の手段によって加熱されるオーブンであるかにかかわらず、ゲル繊維102は、ポリエチレンポリマーの溶融温度より低い任意の所望の温度に加熱される。繊維を乾燥させるこれらの方法(オーブン又はホットプレート乾燥技術)は、当該技術分野において従来から知られている。乾燥プロセスはまた、蒸発した溶媒(
図1には図示せず)を廃棄(例えば、熱酸化装置中で)又はリサイクル(例えば、蒸発した溶媒を凝縮して再利用のための液体に戻すことによる)のために大気から排気するための手段を含んでもよい。蒸発した溶媒を大気から排気する手段は、繊維乾燥エンクロージャとファンとの間の配管、及び廃棄又はリサイクル装置への溶媒蒸気送達のためのファンの後の追加の配管を有する排気ファンを含むことができる。乾燥プロセスの完了時に、溶媒は、好ましくは完全に除去されて、乾燥した完全に溶媒を含まないフィラメント、すなわち乾燥した完全に溶媒を含まない繊維が得られる。他の実施形態では、いくらかの残留溶媒が繊維中に残っていてもよいが、そのような残留溶媒は、依然として非常に低く、すなわち、繊維の1重量%未満、より好ましくは繊維の0.5重量%未満、又は繊維の0.25重量%未満、又は繊維の0.1重量%未満であり、一方、完全に乾燥していないゲル繊維は、溶媒の重量を加えたポリエチレンの1重量%超の溶媒を含む。
【0038】
典型的なゲル紡糸プロセスでは、ポリエチレン繊維は、溶液繊維状態、ゲル繊維状態、及び乾燥繊維状態の各々で延伸される。溶液繊維100は、紡糸フィラメントが連続的に製造され、駆動巻取ロール46に向かって延伸ロール42上に連続ストランドとして巻き取られるときに紡糸フィラメントに及ぼされる張力のために延伸される。本開示の好ましい実施形態では、紡糸口金から流れ出す溶液繊維100は、約1.1:1~約30:1の延伸比で延伸され、延伸した溶液繊維を形成する。紡糸口金と液体急冷槽との間の気体空間内での溶液繊維の伸長は、気体空間の長さによって影響される。より長い空間は、空間の内側の溶液フィラメントのより大きな伸長をもたらし得るので、この変数は、溶液フィラメントのより多い又はより少ない伸長が所望される場合、所望されるように制御されてもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、ゲル繊維102は、約1.1:1~約30:1の第1の延伸比DR1で、1つ以上の段階で延伸される。第1の延伸比DR1で1つ以上の段階でゲル繊維102を延伸することは、
図1に示されるように、ガイドロール36及び延伸ロール42などの1組のロール(ローラー)にゲル繊維を通過させることによって実現することができる。好ましくは、第1の延伸比DR1でゲル繊維102を延伸することは、繊維に熱を加えることなく行うことができ、約25℃以下の温度で行うことができる。ゲル繊維102を延伸することはまた、第2の延伸比DR2でゲル繊維102を延伸することを含むことができる。第2の延伸比DR2でゲル繊維102を延伸することはまた、チャンバ26中などで、又は繊維をホットプレート28及び/若しくは30に沿って通すことによって、ゲル繊維102から紡糸溶媒の少なくとも一部を同時に除去して乾燥繊維104を形成することを含むことができる。したがって、第2の延伸工程DR2は、チャンバ26、延伸ベンチ24、又はチャンバ26及び延伸ベンチ24の両方において行われてもよい。好ましくは、ゲル繊維102は、約1.5:1~約10:1、より好ましくは約2:1~約8:1、最も好ましくは約3:1~約6:1の延伸比の第2の延伸比DR2で延伸される。
【0040】
ゲル紡糸プロセスはまた、少なくとも1つの段階において第3の延伸比DR3で乾燥繊維104を延伸することを含むことができる。乾燥繊維104を第3の延伸比で延伸することは、例えば、乾燥繊維104を延伸ベンチ24に通過させることによって実現することができる。第3の延伸比は、約1.1:1~約3.0:1であり得、より好ましくは約1.5:1未満であり、更により好ましくは約1.1:1~約1.5:1である。
【0041】
図1に示すように、ゲル繊維102及び乾燥繊維104を延伸比DR1、DR2、及びDR3で延伸することは、インラインで行うことができる。一例では、DR1、DR2、及びDR3を乗算すること(DR1×DR2×DR3:1又は(DR1)(DR2)(DR3):1)によって決定され得る、ゲル繊維102と乾燥繊維104との複合延伸、DR1xDR2xDR3:1の複合延伸比は、少なくとも約5:1、好ましくは少なくとも約10:1、より好ましくは少なくとも約15:1であり得、最も好ましくは少なくとも約20:1である。好ましくは、乾燥繊維104は、延伸の最終段階が約1.2:1未満の延伸比になるまで、インラインで最大限に延伸される。任意選択で、乾燥繊維104のインライン延伸の最後の段階に続いて、繊維をその長さの約0.5パーセント~その長さの約5パーセントで弛緩させることができる。
【0042】
好ましくは、伸長は、溶液繊維100(溶液フィラメント)、ゲル繊維102(ゲルフィラメント)、及び固体の乾燥繊維104(固体の乾燥フィラメント)の3つ全てに対して実行される。繊維の加工中、溶液繊維100、ゲル繊維102、及び固体繊維104のうちの少なくとも1つに対して、1つ以上の段階で、少なくとも約10:1の複合伸長比(延伸比)まで伸長することが実行され、好ましくは、1.5:1未満のインライン伸長が固体繊維104に適用されて、高強度マルチフィラメントポリエチレン繊維が形成される。乾燥繊維104の更なる延伸を含む追加の後延伸操作は、共有に係る米国特許第6,969,553号、同第7,370,395号、同第7,344,668号、同第8,361,366号、同第8,444,898号、又は同第8,747,715号に記載されるように行われてもよく、それらの各々は、本明細書と適合できる範囲で、参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「延伸された」フィラメント/繊維又は「延伸」フィラメント/繊維は、当該技術分野において知られており、「配向された」若しくは「配向」フィラメント/繊維又は「伸長された」若しくは「伸長」フィラメント/繊維としても当該技術分野において知られている。これらの用語は、本明細書において互換的に使用される。また、本明細書で使用される場合、用語「延伸比」は、配向プロセス中に使用される延伸ロールの速度の比を指す。固体フィラメント/繊維を伸長することは、最も一般的には、最終的な糸靭性を増加させるための後延伸操作を含む。例えば、より高い靭性の高度に配向された糸/繊維を形成するために部分的に配向された糸/繊維に対して行われる後延伸操作を記載している、前の段落で参照された共有に係る米国特許を参照されたい。そのような後延伸は、別個の延伸装置を使用して分離プロセスとしてオフラインで実行される。
【0044】
例示的な後延伸プロセスでは、駆動巻取ロール46上に巻き取られた乾燥繊維は、駆動巻取ロール46から巻き戻され、米国特許9,365,953号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されたプロセスに従って、約1.1:1~約15:1の第4の延伸比DR4(オフラインであり、
図1には示されていない)まで再び延伸、すなわち後延伸されてもよい。好ましい実施形態では、後延伸の延伸比DR4は、約1.1:1~約9:1、又は約1.5:1~約6.0:1、又は約2.5:1~約5.5:1である。あるいは、第2の後延伸は、約1.1:1~1.7:1、又は約1.1:1~1.6:1、又は1.1:1~1.5:1、又は約1.1:1~約1.4:1、又は1.1:1~1.3:1、又は1.1:1~1.2:1の延伸比で行われてもよく、好ましくはそれによって、少なくとも約30g/デニール、又は約35g/デニール以上、又は約40g/デニール以上、又は約45g/デニール以上の靭性を有する高配向された繊維製品が形成される。
【0045】
上述の後延伸プロセスを含む繊維の延伸の主な目的は、それらの引張強度を増加させ、それによって高引張強度繊維を形成することである。本明細書で使用される場合、「高引張強度」繊維は、各々ASTM D2256によって測定された、少なくとも10g/デニールの靭性、少なくとも約150g/デニール以上の初期引張弾性率、少なくとも約8J/g以上の破断エネルギーを有するものである。この点で、用語「靭性」は、応力を受けていない試料の、線密度(デニール)単位当たりの力(グラム)として表現される、引張応力を指す。用語「初期引張弾性率」は、引張の変化に対するデニール当たりの重力グラム(g/d)で表され、元の繊維/テープの長さ(インチ/インチ)の分数として表される、靭性の変化の比を指す。
【0046】
本開示の高引張強度乾燥繊維は、好ましくは、10g/デニールよりも大きく、より好ましくは少なくとも約15g/デニール、更により好ましくは少なくとも約20g/デニール、更により好ましくは少なくとも約27g/デニールの靭性、より好ましくは約28g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは約33g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは39g/デニール以上、更により好ましくは少なくとも39g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは40g/デニール以上、更により好ましくは43g/デニール以上、又は少なくとも43.5g/デニール、更により好ましくは約45g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは少なくとも45g/デニール、少なくとも約48g/デニール、少なくとも約50g/デニール、少なくとも約55g/デニール、又は少なくとも約60g/デニールの靭性を有する。
【0047】
従来から知られているように、繊維の延伸/伸長は、得られる延伸した繊維のデニールにも影響を及ぼす。本明細書で使用される場合、用語「デニール」は、フィラメント/繊維の9000メートル当たりのグラムにおける質量と等しい、線密度の単位を指す。繊維デニールは、繊維を形成する各フィラメントの線密度、すなわちフィラメント当たりのデニール(denier per filament、dpf)及び繊維を形成するフィラメントの数の両方によって決定される。概して、全ての伸長工程が完了すると、本開示の繊維は、約0.1~約10.0dpf、より好ましくは約0.5~約2.5dpf、更により好ましくは約0.75~約1.5dpfのフィラメント当たりのデニールを有する。これらの低いdpf範囲は、医療用途に好ましいが、より広い範囲が他の用途に有用であり得る。例えば、フィラメント当たりの繊維デニールは、1.4dpf~約15dpf、又は約2.2dpf~約15dpf、又は約2.5dpf~約15dpfの範囲であってもよい。しかしながら、約3dpf~約15dpf、約4dpf~約15dpf、又は約5dpf~約15dpfを含む他のフィラメントデニールも有用である。
【0048】
本開示のマルチフィラメント繊維の総デニールは、繊維を形成するフィラメントの総数に依存する。好ましい実施形態では、本開示のマルチフィラメント繊維は、好ましくは2~約1000本のフィラメント、より好ましくは2~500本のフィラメント、更により好ましくは4~500本のフィラメント、より好ましくは約6~500本のフィラメント、最も好ましくは約6本のフィラメント~約250本のフィラメントを含む。成分フィラメントについて上記のdpf範囲を有する得られるマルチフィラメント繊維は、好ましくは、約2~約1000デニール、より好ましくは約2~約500デニール、更により好ましくは約3~約500デニール、更により好ましくは約4~約500デニール、最も好ましくは約5~約250デニールの範囲の総繊維デニールを有することになる。
【0049】
本明細書に記載の繊維は、ヒト及び動物の体内、すなわちインビボで使用される縫合糸の製作に特に有用である。例示的な用途は、心臓血管及び整形外科用縫合糸、並びにステント及びカテーテル、又は更にデンタルフロスである。医療用途では、手術中に繊維を視覚的に識別可能にするために、着色剤がポリエチレン繊維に加えられることがあることが知られている。蒸発によってのみ除去され、第2の溶媒による溶媒抽出を必要としない溶媒又は溶媒混合物から作製される本開示の組成物は、着色された繊維を形成するための着色剤の使用にも最適である。
【0050】
更に、インビボでの使用に対するそれらの適合性を確実にするために、繊維が、製造プロセスの間に潤滑剤又は紡糸仕上げ剤でいかなるコーティングもされないことが重要である。ゲル紡糸中の紡糸仕上げ剤の適用は、それらの製造中の繊維の静電気蓄積及びもつれを回避するために典型的であり、したがって、これらは、仕上げ剤が適用されない場合に通常予想される問題であり、したがって加工工程に対する調整が必要である。本開示の好ましい実施形態では、繊維は、紡糸プロセス中の乾燥繊維のインライン延伸を最小限に抑え、紡糸プロセス中の乾燥繊維に対して少なくとも約1g/デニール~10g/デニールまでの比較的高い張力を維持することにより繊維速度を制限することによって、及び溶媒が除去された後に乾燥繊維の周りに水ミスト又は蒸気を適用するなどにより延伸が実行されている室内又は装置内の湿度を制御することにより紡糸中の低湿度条件を回避することによって、いかなる潤滑剤又は紡糸仕上げ剤も適用することなく製造することができる。冷水ミスト又は水蒸気の繊維への適用は、水圧のみを使用する噴霧ノズルで噴霧することによって、又は加圧された空気(又は別のガス、例えばヘリウム若しくはアルゴンなどの不活性ガス)を使用して水ミストを製造する噴霧ノズルによって、又は加工中に繊維が通過するエンクロージャに水蒸気を注入することによってなど、当該技術分野における従来の方法に従って行われる。当該蒸気を発生させる方法は、周知である。後延伸前に繊維を撚糸することはまた、繊維が後延伸されるときに、上述したような静電気に関連する問題を制限する。繊維を撚糸する様々な方法が当該技術分野において既知であり、任意の方法を利用してよい。有用な撚糸方法は、例えば、米国特許第2,961,010号、同第3,434,275号、同第4,123,893号、同第4,819,458号、及び同第7,127,879号に記載されており、これらの開示は、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。好ましい実施形態では、繊維は、撚糸された束軸に対して5°~約40°まで、より好ましくは約5°~約30°、最も好ましくは約15°~約30°までの角度を有するように撚糸される。撚糸された繊維における撚りを決定するための標準的な方法は、ASTM D1423である。
【0051】
本開示の代替実施形態では、ゲル紡糸マルチフィラメント繊維を、例えば、共有に係る米国特許第8,263,119号、同第8,697,220号、同第8,685,519号、同第8,852,714号、同第8,906,485号、同第9,138,961号、及び同第9,291,440号に記載されているような繊維テープの形態に変換することが望ましい場合があり、これらはそれぞれ、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれ、マルチフィラメント繊維が圧縮及び平坦化されるプロセスを教示している。この点で、用語「テープ」は、その幅よりも大きい長さ、及び少なくとも約3:1の平均断面アスペクト比、すなわち、テープの長さ全体の平均断面の最大寸法対最小寸法の比を有する材料の、平坦で、細い、モノリシックストリップを指す。かかるテープは、好ましくは、約0.5mm以下、より好ましくは約0.25mm以下、更により好ましくは約0.1mm以下、及び更により好ましくは約0.05mm以下の厚さを有する実質的に長方形の断面を有する。最も好ましい実施形態では、テープは、最大約3ミル(76.2μm)、より好ましくは約0.35ミル(8.89μm)~約3ミル(76.2μm)、最も好ましくは約0.35ミル~約1.5ミル(38.1μm)の厚さを有する。厚さは、断面の最も厚い領域で測定する。本開示に従って形成されたテープは、約2.5mm~約50mm、より好ましくは約5mm~約25.4mm、更により好ましくは約5mm~約20mm、最も好ましくは約5mm~約10mmの好ましい幅を有する。これらの寸法は、変動してもよいが、テープは、最も好ましくは、約3:1超の平均断面アスペクト比、より好ましくは少なくとも約5:1、更により好ましくは少なくとも約10:1、更により好ましくは少なくとも約20:1、更により好ましくは少なくとも約50:1、更により好ましくは少なくとも約100:1、更により好ましくは少なくとも約250:1、最も好ましくは少なくとも約400:1の平均断面アスペクト比、又は約3:1~約400:1のアスペクト比を達成する寸法を有するように製作される。
【0052】
繊維テープは、1本以上のフィラメントを含む。繊維のように、繊維テープは、好ましくは約5~約5000デニール、より好ましくは約10~2000デニール、更により好ましくは約15~約500デニール、最も好ましくは約20~約200デニールのデニールを有する、任意の好適なデニールのものであってもよい。加えて、本開示の組成物から形成されたテープは、好ましくは、10インチ(25.4cm)ゲージ長及び100%/分の伸び率でASTM D882-09によって各々測定された、少なくとも10g/デニールの靭性、少なくとも150g/デニール以上の初期引張弾性率、及び少なくとも約8J/g以上の破断エネルギーを有する、「高引張強度」テープである。この高引張強度テープは、10インチ(25.4cm)ゲージ長及び100%/分の伸び率で、ASTM D882-09によって各々測定された、好ましくは、10g/デニールよりも大きい、より好ましくは少なくとも約15g/デニール、更により好ましくは少なくとも約20g/デニール、更に好ましくは少なくとも約27g/デニールの靭性、より好ましくは約28g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは約33g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは39g/デニール以上、更により好ましくは少なくとも39g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは40g/デニール以上、更により好ましくは43g/デニール以上、又は少なくとも43.5g/デニール、更により好ましくは約45g/デニール~約60g/デニール、更により好ましくは少なくとも45g/デニール、少なくとも約48g/デニール、少なくとも約50g/デニール、少なくとも約55g/デニール、又は少なくとも約60g/デニールの靭性を有する。
【0053】
また、本開示に従って製造されたポリエチレン-トリメチルベンゼン組成物は、他の非医療用最終用途、例えば、中空ブレイド、織物、ロボットケーブル、複合材、及び他の用途、例えば、参照により本明細書に組み込まれる共有に係る参考文献の用途において利用され得ることが予想外に見出された。1つの代替用途では、ポリエチレンとトリメチルベンゼンとの混合物を含む組成物を従来の方法を使用して表面又は基材上に適用して、高い強度及び粘り強さを有するフィルム又はコーティングを形成してもよく、あるいは組成物を、押出又は成形などの従来の方法によって他の(非繊維)形状又は物品に押出又は他の方法で形成してもよい。そのような実施形態では、組成物は、ポリエチレン-トリメチルベンゼンスラリーから形成され、ゲル紡糸プロセスについて上述したように液体混合物及び溶液に変換され、続いて溶液を他の形状又は物品に形成してもよく、そのようなポリエチレン-トリメチルベンゼン溶液は、同様に、溶液の約1重量%~約50重量%、好ましくは溶液の約1重量%~約30重量%、より好ましくは溶液の約2重量%~約20重量%、更により好ましくは溶液の約3重量%~約10重量%の量でポリエチレンを含むことができる。ポリエチレン-トリメチルベンゼン組成物を更に加熱して、トリメチルベンゼン溶媒のほとんど又は全てを蒸発させて乾燥固体を形成してもよく、又は溶媒/溶媒混合物を単に周囲条件下で乾燥させてもよい。これらの非繊維実施形態では、ポリエチレン-TMB組成物は、最終製品中により多量の残留溶媒、例えば、組成物の総重量に基づいて、約1.0%~約5.0%を保持してもよく、所望され得る他の添加剤、例えば、顔料又は染料などの1つ以上の着色剤を含有してもよい。
【0054】
更に別の代替実施形態では、ポリエチレン-トリメチルベンゼン組成物は、例えば、ポリマーフィルムをスライスすることによって形成されるポリマーのストリップから、又は米国特許第9,138,961号及び同第9,291,440号に記載されるものなどの任意の他の方法から形成され得る非繊維テープに押し出されてもよい。そのようなテープは、前述の繊維テープと同じ寸法及びデニールを有するが、紡糸繊維/フィラメントを圧縮することによって形成されず、ゲル紡糸フィラメントを含まず、残留溶媒を含有してもしなくてもよい。
【実施例】
【0055】
以下の非限定的な実施例は、本開示の好ましい実施形態を例示するのに役立つ。
【0056】
実施例1
6重量%のUHMW PE及び94重量%のTMBからなるスラリーを、撹拌混合タンク中、室温(22℃)で調製した。UHMW PEは、135℃のデカリン中で20dl/gの固有粘度を有する線状ポリエチレンであった。線状ポリエチレンは、1000個の炭素原子当たり約0.5個未満の置換基及び138℃の融点を有していた。TMBは、1,2,4-トリメチルベンゼン、98%グレードであった。
【0057】
入口における25.6mmから排出端における9.2mmまで変動するスクリュー直径を有する円錐噛合型二軸押出機の供給ホッパーにスラリーを供給した。スクリューフライトは、全て順送り搬送であった。この押出機中の自由体積(バレル体積からスクリュー体積を引いたもの)は、15cm3であった。押出機バレルを、130℃、150℃、及び160℃の温度で3つの等しい長さの連続ゾーンで加熱した。スクリュー回転速度は、毎分150回転(revolutions per minute、RPM)であった。UHMW PE/TMBスラリーを0.67g/分の平均スループット速度で押出機を通過する際に150℃で液体混合物に変換した。
【0058】
次いで、押出機を出る液体混合物を、150℃の温度で加熱された外部加熱パイプからなり、25.8cm3の内部容積を有する別の容器に通過させた。液体混合物は、27.9分の平均滞留時間でこの容器を通過する際に溶液に変換された。
【0059】
パイプ容器を出たUHMW PE溶液は、ギアポンプを通過し、そこからスピンブロックを通過するが、スピンブロックには多穴紡糸口金が装着され、紡糸口金は、直径1mmの6つの穴を有し、それによって6本のフィラメント溶液繊維を形成した。次いで、溶液繊維を、0.5インチのエアギャップを通過させて水浴に入れる際に5.86:1の延伸比(DR0)で伸長し、そこで急冷してゲル繊維を形成した。次いで、ゲル繊維を、加熱することなく室温(22℃)で3.25:1の延伸比(DR1)で伸長した。
【0060】
次いで、加熱プレート上を通すことによって、TMBをゲル繊維から蒸発させた。乾燥中に繊維のいくらかの伸長が起こり、繊維は、75℃の平均温度での乾燥中に4.57:1の延伸比(DR2)で伸長されたが、乾燥した繊維の測定可能なインライン延伸はなかった(すなわち、測定可能なDR3はなかった)。次いで、乾燥した繊維を加熱していない巻取ロールに巻き取った。乾燥したUHMW PE繊維は、25.9デニールを有していた。
【0061】
次いで、乾燥した繊維を、オフライン後延伸操作において、2.88:1の延伸比(DR4)で、131℃の平均温度の加熱プレート上で伸長した。最終的な後延伸した6本のフィラメントUHMW PE繊維は、9デニール(1.50デニール/フィラメント(dpf))及び33.5g/dの靭性を有していた。この実施例のデータを以下の表I及びIIに要約する。
【0062】
実施例2
UHMW PE及び1,2,4-TMBの溶液を実施例1のように形成し、この溶液をまた実施例1のように6本のフィラメント溶液繊維に形成した。次いで、溶液繊維を、0.38インチのエアギャップを通過させて水浴に通す際に8.88:1の延伸比(DR0)で伸長し、そこで急冷してゲル繊維を形成した。次いで、ゲル繊維を、加熱することなく室温(22℃)で4.29:1の延伸比(DR1)で伸長した。
【0063】
次いで、加熱プレート上を通すことによって、TMBをゲル繊維から蒸発させた。乾燥中に繊維のいくらかの伸長が起こり、繊維は、75℃の平均温度での乾燥中に4.14:1の延伸比(DR2)で伸長されたが、乾燥した繊維の測定可能なインライン延伸はなかった(すなわち、測定可能なDR3はなかった)。次いで、乾燥した繊維を加熱していない巻取ロールに巻き取った。乾燥したUHMW PE繊維は、14.5デニールを有していた。
【0064】
次いで、乾燥した繊維を、オフライン後延伸操作において、3.09:1の延伸比(DR4)で、131℃の平均温度の加熱プレート上で伸長した。最終的な後延伸した6本のフィラメントUHMW PE繊維は、4.7デニール(0.78dpf)及び40.2g/dの靭性を有していた。この実施例のデータを以下の表I及びIIに要約する。
【0065】
実施例3
UHMW PE及び1,2,4-TMBの溶液を実施例1のように形成し、この溶液をまた実施例1のように6本のフィラメント溶液繊維に形成した。次いで、実施例2と同様に、溶液繊維を、0.38インチのエアギャップを通過させて水浴に通す際に8.88:1の延伸比(DR0)で伸長し、そこで急冷してゲル繊維を形成した。次いで、やはり実施例2と同様に、ゲル繊維を、加熱することなく室温(22℃)で4.29:1の延伸比(DR1)で伸長した。次いで、加熱したプレート上を通すことによってゲル繊維からTMBを蒸発させ、乾燥中に繊維をいくらか伸長した。やはり実施例2と同様に、繊維は、75℃の平均温度での乾燥中に4.14:1の延伸比(DR2)で伸長されたが、乾燥した繊維の測定可能なインライン延伸はなかった(すなわち、測定可能なDR3はなかった)。次いで、乾燥した繊維を加熱していない巻取ロールに巻き取ったが、乾燥したUHMW PE繊維は、実施例2と同様に14.5デニールを有していた。次いで、乾燥した繊維を、オフライン後延伸操作において、4.14:1の延伸比(DR4)で、131℃の平均温度の加熱プレート上で伸長した。最終的な後延伸した6本のフィラメントUHMW PE繊維は、3.5デニール(0.58dpf)を有し、42.6g/dの靭性を有していた。この実施例のデータを以下の表I及びIIに要約する。
【0066】
【0067】
【0068】
本開示は、特に、好ましい実施形態を参照しながら示され説明されてきたが、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変更及び修正が為され得ることは、当業者によって容易に理解されるであろう。特許請求の範囲は、開示の実施形態、上述されているそれらの代替物、及びそれらの全ての等価物を網羅するように解釈されることを意図する。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンとトリメチルベンゼンとの混合物を含む組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレンが、超高分子量ポリエチレンを含み、前記トリメチルベンゼンが、1,2,4-トリメチルベンゼンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物から形成される繊維。
【請求項4】
ポリエチレン繊維製品を調製するためのプロセスであって、
a)トリメチルベンゼン溶媒中で、少なくとも500,000g/molの重量平均分子量を有するポリエチレンの溶液を形成することと、
b)1本以上の溶液フィラメントを形成するように、紡糸口金を通して前記溶液を紡糸することと、
c)前記溶液フィラメントを冷却することであって、前記1本以上の溶液フィラメントが、ゲルフィラメントに変換され、前記ゲルフィラメントが、前記溶媒を加えた前記ポリエチレンの1重量%超の溶媒を含む、冷却することと、
d)乾燥したフィラメントを形成するように、前記ゲルフィラメントから前記溶媒を蒸発させることと、を含み、前記蒸発は、前記乾燥したフィラメント中の溶媒濃度が、前記溶媒を加えた前記ポリエチレンの1重量%未満になるまで継続する、プロセス。
【国際調査報告】