(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ジモカルプス抽出物を含む、エンベロープウイルスによって引き起こされる感染症の治療または予防に使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/77 20060101AFI20241219BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241219BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241219BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/7024 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/37 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20241219BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20241219BHJP
C12N 15/33 20060101ALN20241219BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20241219BHJP
C12N 15/44 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
A61K36/77
A61P31/14
A61P31/16
A61P11/00
A61K31/375
A61K31/7024
A61K31/192
A61K31/37
A61K31/353
A61K31/352
A61K31/216
A61K31/197
A61K47/26
A61K47/36
A61K9/12
A61K47/04
A61P29/00
C12N15/33 ZNA
C12N15/50
C12N15/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534218
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 IB2022061868
(87)【国際公開番号】W WO2023105429
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524215292
【氏名又は名称】ピーエム グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PM GROUP COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】CTI Tower,191/34-35th 23Fl.Ratchadapisek Rd.,Klongtoey 10110 Bangkok Thailand
(74)【代理人】
【識別番号】110004233
【氏名又は名称】弁理士法人NSI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マハギツィリ,プラユード
(72)【発明者】
【氏名】マハギツィリ,チャレルムチャイ
(72)【発明者】
【氏名】マハギツィリ,アウサナ
(72)【発明者】
【氏名】ヤクシッツ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】センリ,ギョクハン
(72)【発明者】
【氏名】ボン,ギュンター
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076BB21
4C076BB24
4C076BB25
4C076CC04
4C076CC15
4C076CC35
4C076DD21
4C076DD67
4C076EE30
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BA18
4C086BA19
4C086EA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB11
4C086ZB33
4C088AB12
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA03
4C088CA12
4C088NA14
4C088ZA59
4C088ZB11
4C088ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA18
4C206DB20
4C206DB56
4C206FA45
4C206GA01
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA59
4C206ZB11
4C206ZB33
(57)【要約】
【課題】コロナウイルスまたはインフルエンザウイルス、および/またはそれらの少なくとも1つの症状によって引き起こされる疾患の治療および/または予防に有効な、忍容性の高い組成物を提供すること。
【解決手段】
本発明として、例えば、エンベロープウイルス、特にSARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2のようなコロナウイルス、またはインフルエンザウイルスA型およびインフルエンザウイルスB型のようなインフルエンザウイルス、および/またはそれらの少なくとも1つの症状によって引き起こされる疾患の治療および/または予防に使用するための、ジモカルプス・ロンガンから得られる抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンベロープウイルス、エンベロープ一本鎖ウイルス、エンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、インフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症の治療または予防に使用するための、ジモカルプス抽出物を含む組成物、または当該抽出物に相当する組成物。
【請求項2】
エンベロープウイルス、エンベロープ一本鎖ウイルス、エンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、インフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症の治療における、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
エンベロープウイルス、エンベロープ一本鎖ウイルス、エンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、インフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症の予防における、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
呼吸器感染症が上気道感染症および/または下気道感染症である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
ジモカルプス抽出物がジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)の抽出物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
ウイルスが、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)、ヒトメタニューモウイルス(HPMV)、ライノウイルスまたはコロナウイルスから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
ウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
感染症がSARS-CoV-2感染症(COVID-19)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
ウイルスが、インフルエンザウイルスA型およびインフルエンザウイルスB型の亜型から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
感染症がインフルエンザA(H3N2)型またはインフルエンザB型感染症である、請求項1~6および9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
ジモカルプス抽出物が、ビタミンC;コリラギン、没食子酸、エラグ酸、エラグ酸抱合体、(-)-エピカテキン、ケルセチン、ケンフェロール、タンニン酸(タンニン)およびクロロゲン酸から選択される1種以上のポリフェノール;プロトカテク酸;ブレビフォリン;γ-アミノ酪酸(GABA);炭水化物および水を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
ジモカルプス抽出物が、ビタミンC、コリラギン、没食子酸、エラグ酸、エラグ酸抱合体タンニン酸、GABA、サッカロース、グルコース、フルクトース、多糖類および水を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
ジモカルプス抽出物が以下を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【表1】
【請求項14】
ジモカルプス抽出物が以下を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【表2】
【請求項15】
ジモカルプス抽出物が以下を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【表3】
【請求項16】
ジモカルプス抽出物が以下を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【表4】
【請求項17】
当該抽出物が74~84°Brix、好ましくは76~82°Brix、最も好ましくは78~80°Brixの糖含量を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
当該抽出物が新鮮な果実全体から製造される、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
ジモカルプス抽出物が、以下の工程を含む方法によって得ることができる、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用のための組成物:
(a)新鮮な果実全体からジモカルプス果汁の抽出、次いで
(b)得られた原液から固形分の分離
(c)約74~84、好ましくは76~82、最も好ましくは78~80°Brixの糖濃度を得るために、工程(b)で得られた液体の濃縮、および
(d)無菌充填。
【請求項20】
ジモカルプス抽出物が、以下の工程を含む方法によって得ることができる、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用のための組成物:
(1)新鮮なジモカルプスの果実を丸ごと粉砕;
(2)工程(1)で得られた粉砕果実から生果汁を抽出;
(3)工程(2)で得られた生果汁を、約95~98℃に急速加熱し、約95~98℃に維持し、次いで約5~15℃に急速冷却することにより調整;
(4)工程(3)の生成物から上清を遠心分離および精密ろ過により分離;
(5)約74~84°Brixの糖濃度を得るために、工程(4)で得られた上清を、好ましくは減圧下での蒸発によって濃縮;
(6)工程(5)で得られた濃縮物の精密ろ過;および
(7)任意に無菌充填。
【請求項21】
当該組成物が、眼、鼻または咽頭経路を介して局所的に適用される、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
点眼薬、洗口液、うがい薬、点鼻薬、点鼻スプレー/エアゾール、咽頭点鼻薬、または咽頭スプレー/エアゾールの形態である、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
点鼻薬、点鼻スプレー/エアゾール、咽頭点鼻薬、または咽頭スプレー/エアゾールの形態である、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)、ヒトメタニューモウイルス(HPMV)、ライノウイルスまたはコロナウイルス(CoV)、特にSARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2のようなコロナウイルスによって引き起こされるコロナウイルスのようなエンベロープウイルス、またはインフルエンザウイルスA型もしくはインフルエンザウイルスB型のようなインフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患、および/またはそれらの少なくとも1つの症状の治療および/または予防に使用するための、ムクロジ科(Sapindaceae)の植物、特にジモカルプス属(Dimocarpus)またはレイシ属(Litchi)の果実から得られる抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物に関するものである。
【0002】
特に、本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染および/またはコロナウイルス疾患-19(COVID-19)の少なくとも1つの症状の治療または予防に使用するための、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocapus longan Lour.)抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物に関するものである。
【0003】
さらに、本発明は、特に、インフルエンザウイルスA型感染症(A(H1N1)亜型、A(H1N1)pdm09型およびA(H3N2)型)またはインフルエンザウイルスB型感染症および/またはその少なくとも1つの症状の治療または予防に使用するための、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0004】
ジモカルプスはムクロジ科に属する属で、ライチ、ランブータン、ガラナ、コルラン、ピトンバ、マモンチロ、アキーも属する被子植物(被子植物門)のソープベリー科としても知られている。この属の主な特徴は、高さ25~40メートルにもなる樹木または低木で、羽状葉を持つことである。花は大きな円錐花序になっている。食用にされる果実は長さ3~5センチで、果肉の層に囲まれた1粒の種子が入っている。ジモカルプスは主に熱帯の南アジアと東南アジアに分布し、スリランカおよびインドから東マレーシアおよびオーストラリアに分布している。「ロンガン」として知られるこの属に由来する食用の果実は、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)、特に市販のロンガンであるジモカルプスロンガンssp.ロンガンvar.ロンガン(Dimocarpus longan ssp longan var longan)から生産されている。
【0005】
本発明において、「ジモカルプス」という用語は、例えば、ジモカルプス・オストラリカス(Dimocarpus australicus)、ジモカルプス・デンタタス(Dimocarpus dentatus)、ジモカルプス・フォベオラタス(Dimocarpus foveolatus)、ジモカルプス・ガルドネリ(Dimocarpus gardneri)、ジモカルプス・フマタス(Dimocarpus fumatus)、ジモカルプス・コンフィニス(Dimocarpus confinis)、ジモカルプス・レイチャルドティイ(Dimocarpus leichhardtii)およびジモカルプス・ユンナネシス(Dimocarpus yunnanesis)のようなこの属の様々な種を指すが、特にジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)、およびその亜種であるジモカルプス・ロンガン・ロンガン(Dimocarpus longan ssp longan)、ジモカルプス・ロンガン・マレシアヌス(Dimocarpus longan ssp malesianus)とその変種を指す。
【0006】
本発明において、さらに使用することができるムクロジ科の属は、その唯一の種であるレイシ・チネンシス (Litchi chinensis;ライチ)が属するレイシ属、またはネフェリウム・ラッパセウム(Nephelium lappaceum;ランブータン)などのネフェリウム属である。
【0007】
ロンガンは歴史的に食用として植えられてきたが、薬用としても利用できる。ロンガンの果実には、タンパク質、炭水化物、ビタミンC、多糖類、コリラギンやエラグ酸およびその抱合体などのポリフェノール、4-O-メチル没食子酸、フラボン配糖体、ケルセチンおよびケンフェロールの配糖体、没食子酸エチル-1-β-O-ガロイル-d-グルコピラノース、グレヴィフォリン、4-O-α-l-ラムノピラノシル-エラグ酸、GABA、タンニン酸などの生理活性物質が多量に含まれている。果実は伝統的な漢方製剤に使用され、神経痛や腫れの緩和剤として役立ってきた(非特許文献1)。ロンガンの果実は、乾燥ロンガン果肉、ロンガンジュース、ロンガンゼリー、ロンガンワイン、ロンガンのシロップ缶詰など、様々な形で消費される。最近の報告では、ロンガンの果肉や果皮に含まれるポリフェノールや多糖類が、抗酸化作用、抗糖化作用、抗チロシナーゼ作用、強力な免疫調節作用、抗がん作用に寄与していることが示されている(非特許文献2)。ロンガンパルプの生物活性物質および生理活性に関する総説は、非特許文献3に掲載されている。ロンガンの果実は約83%が水分、15%が炭水化物、1%がタンパク質である。
【0008】
エンベロープウイルスの科には、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HBC)、インフルエンザウイルス(例えば、非特許文献4または非特許文献5)のほか、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス1(SARS-CoV-1)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)といったヒトや家畜にとって最も危険な病原性ウイルスの多くが含まれている。SARS-CoV-2は陽性一本鎖RNAウイルスで、ベータコロナウイルス科に属する(非特許文献6)。系統学的には、コウモリコロナウイルスに97%、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-1(SARS-CoV-1)に79%、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に50%関連している(非特許文献7、非特許文献8)。コロナウイルスは、エンベロープを持つ陽性一本鎖RNAウイルスで、ヒトの間に広く分布し、呼吸器疾患、腸疾患、肝疾患、神経疾患などを引き起こし、特にヒトでは軽度の呼吸器感染症を引き起こすことが多い。
ベータコロナウイルス(β-CoVまたはBeta-CoV)は、ニドウイルス目コロナウイルス科オルトコロナウイルス亜科に属する4属のコロナウイルスの1つである。エンベロープを持つ陽性一本鎖RNAウイルスで、ほとんどが人獣共通伝染病由来である。ベータコロナウイルスのゲノムは、S(スパイク)、E(エンベロープ)、M(メンブレン)、N(ヌクレオカプシド)タンパク質として知られる4つの構造タンパク質をコードしている。Nタンパク質はRNAゲノムを保持し、S、E、Mタンパク質が合わさってウイルスエンベロープを構成している。スパイクタンパク質はコロナウイルス表面の主要な糖タンパク質であり、ウイルスが宿主細胞の膜に付着し融合するための役割を担っている。スパイクタンパク質はコロナウイルスの表面に王冠のような構造を形成する。
【0009】
2019年後半にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)を引き起こす新型SARS-CoVが出現したことで、社会的・経済的に重大な影響を及ぼす前例のない世界的な公衆衛生上の緊急事態が生じた。
2020年1月31日、世界中で患者が急激に増加したことを受け、世界保健機関(WHO)は重症急性呼吸器症候群ウイルス-2(正式名称:SARS-CoV-2)とその感染症COVID-19をパンデミックと宣言した(非特許文献9)。SARS-CoV-2の感染力の強さと急速な拡大により、WHOは2020年3月に進行中のパンデミックCOVID-19を世界的な緊急事態として宣言した。2021年6月1日現在、世界中で1億7,100万人以上のSARS-CoV-2患者が確認され、355万人以上が死亡している。
【0010】
SARS-CoV-2はSARS-CoVやMERS-CoVと非常に高い類似性を持っており、実際にこれらのウイルスが細胞内に侵入する際には類似した受容体が使用されるため、類似した組織で複製することができる(非特許文献10)。これまでのところ、構造スパイク(S)糖タンパク質は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に非常に高い親和性を持つことが示されている。この受容体は鼻上皮、肺、心臓、腎臓、腸に遍在的に発現しているが、免疫細胞にはほとんど見られない(非特許文献11、非特許文献12)。
SARS-CoV-2が呼吸器組織に感染した直後に発生する初期事象は、疾患の重症度という観点から転帰に影響を及ぼす可能性がある。一部の患者では、COVID-19に感染すると、上皮/免疫バリアにおける免疫応答が過剰に活性化され、炎症性環境が生成される(非特許文献13、非特許文献14)。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こすサイトカインストームと急性肺損傷の発生は、この病気において起こりうる望ましくない結果である。全身性凝固障害を伴うARDSは、COVID-19における罹患率と死亡率の重要な側面である(非特許文献15、非特許文献16)。侵入ウイルスによって引き起こされるこれらの過剰な免疫応答は、重症例では広範にわたる組織破壊を引き起こし、組織損傷と多臓器不全をもたらす(非特許文献17、非特許文献18)。補体の沈着とアナフィラトキシンの血清高値が重症/重篤な患者で報告されていることから、補体は免疫の過剰活性化を引き起こす要因のひとつである可能性がある(非特許文献19)。
【0011】
最近、患者の気管支肺胞洗浄液のトランスクリプトーム解析で示されたように、補体系はSARS-CoV-2感染後に最も顕著に発現上昇した細胞内経路の一つであった(非特許文献20、非特許文献21)。さらに、SARS-CoV-2にin vitroで感染した一次正常ヒト気管支上皮(NHBE)細胞のトランスクリプトームから、補体シグネチャーが濃縮されていることが明らかになった(非特許文献20、非特許文献21)。ごく最近、Ramlallらは、IFNおよびIL-6に依存する炎症反応に加えて、SARS-CoV-2感染後の補体および凝固系の強固な関与を同定した(非特許文献22)。
【0012】
オルトミクソウイルス科のインフルエンザウイルスは、セグメント化されたゲノムを持ち、エンベロープを持つマイナス鎖RNAウイルスである。2つの属のうち、1つはインフルエンザウイルスA型およびインフルエンザウイルスB型を含み、もう1つはインフルエンザウイルスC型である。3種類のウイルスは宿主域と病原性が異なる。A型とB型ウイルスには8つの個別の遺伝子セグメントがあり、それぞれが少なくとも1つのタンパク質をコードしている。インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス2(M2)の3つのタンパク質の突起で覆われている。各インフルエンザRNAセグメントは核タンパク質によってカプセル化され、リボヌクレオチド核タンパク質複合体を形成する。B型およびC型インフルエンザウイルスは、ほとんどの場合、ヒトからのみ分離される。しかし、インフルエンザウイルスA型は、すべて鳥類の保有宿主内を循環しているか、それらに由来しているが、ヒトだけでなく、豚、馬、犬、猫、その他の哺乳類など、さまざまな温血動物に感染する可能性がある。水禽類はインフルエンザウイルスA型のすべての既知の亜型の自然保有宿主であり、おそらくヒトのパンデミックインフルエンザ株の最終的な供給源であろう。インフルエンザウイルスA型は、ビリオンから突出するHAとNAの表面糖タンパク質の血清学的または遺伝学的特徴によって細分化される。16種類のHA(または「H」)と9種類のNA(または「N」)が知られており、H1-H16およびN1-N9と略される(非特許文献23)。
季節性インフルエンザウイルスA型とインフルエンザウイルスB型は、特にヒトに関連している。インフルエンザAサブタイプのA(H1N1)pdm09型、A(H3N2)型およびインフルエンザウイルスB型は、2009年以来、ヒト集団の中で流行している。2009年の新型インフルエンザ流行前に流行していたインフルエンザウイルスA型(H1N1)は、その後A(H1N1)pdm09ウイルスに完全に置き換わった。インフルエンザウイルスA(H3N2)型は鳥類と哺乳類に感染する。インフルエンザ感染症の症状には、例えば、体の痛み、発熱、悪寒、疲労、下痢、嘔吐などが挙げられる。
65歳以上の成人、5歳未満の小児、妊娠中の人、喘息、糖尿病、心臓病などの基礎疾患を持つ人、薬物療法(ステロイド、化学療法)や持病(HIV、白血病)により免疫力が低下している人は、インフルエンザが重症化するリスクが高い。
【0013】
オーストリアのインスブルック医科大学衛生医学微生物学研究所の研究グループは最近、一次NHBE細胞において、SARS-CoV-2感染症は広範にわたり組織破壊をもたらし、これが上皮細胞における細胞内補体活性化および大量のアナフィラトキシン産生と関連していることを標準化されたヒト3D呼吸器モデル(非特許文献24、非特許文献25)を用いて説明した(非特許文献26)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Yang et al., Food Research International 44(7):1837-1842 (2011); Zhang et al., Food Science and Human Wellness 9: 95-102 (2020)
【非特許文献2】N. Nuengchamnong & K. Ingkaninan, Food Chem 118: 147-152 (2010); Khan et al., J. Food Sci. Technol.55: 4782-4791 (2018)
【非特許文献3】Zhang et al., Food Science and Human Wellness 9: 95-102 (2020)
【非特許文献4】Rey FA et al., Cell 172(6):1319-34(2018)
【非特許文献5】Vaney MC et al., Cell Microbiol 13(10):1451-9 (2011)
【非特許文献6】Cheng & Shan, Infection 48: 155-163 (2020)
【非特許文献7】Lu et al., Lancet 395 10224: 565-574 (2020); Zhoual., Respiratory Research 21: 224 (2020)
【非特許文献8】Perlman, N Engl J Med 382: 760-762 (2020)
【非特許文献9】Mahase, BMJ 12: 368(2020)
【非特許文献10】Wu et al., Cell Host Microbe 27:325-328 (2020)
【非特許文献11】Wrapp et al., Science 367: 1260-1263 (2020)
【非特許文献12】Ziegler et al., Cell 181: 1016(2020)
【非特許文献13】Magro, Virus Res 286: 198070 (2020)
【非特許文献14】Zhu et al., N Engl J Med 328: 727-733 (2020)
【非特許文献15】Tang et la., J Thromb Haemostst 18: 844-847 (2020)
【非特許文献16】Wang et al., JAMA 323:1061-1069 (2020)
【非特許文献17】Cheng et al., J Clin Invest; 130(5) :2620-2629 (2020)
【非特許文献18】Huang et al, Lancet 395: 497-506 (2020)
【非特許文献19】Jodele & Kohl, Br J Pharmacol; 178:2832-2848 (2020)
【非特許文献20】Yang et al., Res Sq preprint Jan (2020)
【非特許文献21】Yang et al., Sci Immunol. 2021 Apr 7; 6(58)
【非特許文献22】Ramlall et al., Nat Med 26: 1609-1615(2020)
【非特許文献23】Taubenbeger and Morens, Public Health Rep. 2010; 125(Suppl 3):16-26
【非特許文献24】Zaderer et al., Cells 8:1292 (2019)
【非特許文献25】Chandorkar et al, Sci Rep 7:11644(2017)
【非特許文献26】Posch et al, Journal of Allergy and Clinical Immunology; 147:2083-2097(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
SARS-CoV-2感染症の症状は非特異的である。感染初期によく見られるのは、発熱、脱力感、乾いた咳である。一般的でない症状としては、頭痛、筋肉痛、疲労、胸部圧迫感、呼吸困難、喀痰、下痢、錯乱、咽頭痛、鼻漏、胸痛、吐き気、嘔吐などがある。患者の最大50%が息切れを起こす。重症のCOVID-19は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と肺実質の肺胞への広範な損傷が特徴である。
ARDSの治療を必要とする患者の割合は、入院して症状がある患者の約10%である。一部の患者は臨床症状を示さない無症候性感染キャリアであることが知られている。通常、重症患者は高齢で慢性疾患を持っており、その中でも重症患者で最も多い関連疾患は高血圧と心血管疾患である。
【0016】
このようにCOVID-19およびこの疾患によって引き起こされる二次的症状の予防および/または治療に有効な、忍容性の高い治療薬が依然として必要とされ、これが本発明によって解決されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、従って、SARS-CoV-2感染症および/またはCOVID-19の少なくとも1つの症状の治療および/または予防に使用するための、レイシ抽出物またはジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物に関するものである。
【0018】
本発明は、特に、SARS-CoV-2感染症および/またはCOVID-19の少なくとも1つの症状の治療および/または予防に使用するための、ジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物に関するものである。
【0019】
本発明は、また、レイシ抽出物またはジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する治療上または予防上有効な量の組成物を被検体に投与することからなる、SARS-CoV-2感染症および/またはCOVID-19の少なくとも1つの症状の治療および/または予防のための方法に関するものである。この点に関して、被検体は一般的にヒトである。
【0020】
本発明は、特に、ジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する治療上または予防上有効な量の組成物を被検体に投与することからなる、SARS-CoV-2感染症および/またはCOVID-19の少なくとも1つの症状の治療および/または予防のための方法に関するものである。この点に関して、被検体は一般的にヒトである。
【0021】
特にこの抽出物は、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物である。
【0022】
さらなる実施形態において、本発明は、特に、ジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する治療上または予防上有効な量の組成物を被検体に投与することを含む、インフルエンザウイルス感染症および/またはインフルエンザウイルス感染症の少なくとも1つの症状の治療および/または予防のための方法に関するものである。この点に関して、被検体は一般的にヒトである。
特に、インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスA型およびインフルエンザウイルスB型から選択される。インフルエンザウイルスA型は、特にインフルエンザウイルスH3N2亜型である。
【0023】
特にこの抽出物は、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例のin vitro試験で使用した標準化ヒト3D呼吸器モデルの模式図である。 ヒトのin vitroモデルは、上気道上皮全体をほぼ再現している。 細胞は気液界面において透過性フィルター支持体上で培養され、細胞は培地のあるディッシュの底から栄養を得ることができる(in vivoで血液の流れに到達するように)。細胞は上部で空気にさらされ、細胞の分化を促し、乾燥から守るために粘液を産生する。 培養物には粘液を産生する杯細胞、繊毛上皮細胞、幹細胞の性質を持つ基底細胞が含まれている。従って、この培養システムは、試験において両側からの利用および操作が可能となる。例えば、上側(先端側)から感染させたり処理したりすることもでき、また下側(基底側)からマーカー分析のために培地を採取することもできる。
【
図2】
図2a-c:SARS-CoV-2 ジモカルプス抽出物を暴露したNHBE細胞の3次元培養物における経上皮電気抵抗(TEER)の研究。TEER測定は、透過性フィルター支持体上の細胞単層の両面に配置した電極間に交流電気信号を印加し、バリアの電気抵抗を計算するために電圧と電流を測定することによって行われる。
図2a:0.1%および1%抽出物の先端側および基底側への暴露よるTEERへの影響
図2b:TEERの測定 感染後1日目(d1PI);0.1%、1%および2%抽出物(w/w)先端側
図2c:TEERの測定 感染後2日目(d2PI);0.1%、1%および2%抽出物(w/w)先端側実施例2参照
【
図3】SARS-CoV-2 自然免疫応答C3aの補体発現低下 実施例3参照
【
図4】SARS-CoV-2 NHBE一次単層におけるジモカルプス抽出物による感染の減少 実施例4参照
【
図5】SARS-CoV-2 NHBE細胞の3次元培養におけるジモカルプス抽出物による感染の減少 実施例4参照
【
図6】本発明で使用するジモカルプス抽出物の調製工程を示す概略図である。
【
図7】
図7a~8d:インフルエンザウイルス ジモカルプス抽出物を暴露したNHBE細胞の3次元培養物における経上皮電気抵抗(TEER)の研究。TEER測定は、透過性フィルター支持体上の細胞単層の両面に配置した電極間に交流電気信号を印加し、バリアの電気抵抗を計算するために電圧と電流を測定することによって行われる。 実施例5参照
図7a:TEERの測定値 感染後1日目(d1PI);インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.05で添加;1%抽出物(w/w)先端側
図7b:TEERの測定値 感染後2日目(d2PI);インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.05で添加;1%抽出物(w/w)先端側
図7c:TEERの測定値 感染後1日目(d1PI);インフルエンザB型をMOI 0.05で添加;1%抽出物(w/w)先端側
図7d:TEERの測定値 感染後2日目(d2PI);インフルエンザB型をMOI 0.05で添加;1%抽出物(w/w)先端側
【
図8a】TEERの測定値 感染後1日目(d1PI);インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.005で添加;1%抽出物(w/w)先端側
【
図8b】TEERの測定値 感染後1日目(d1PI);インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.005で添加;1%抽出物(w/w)先端側
【
図8c】TEERの測定値 感染後1日目(d1PI);インフルエンザB型をMOI 0.005で添加;1%抽出物(w/w)先端側
【
図8d】TEERの測定値 感染後2日目(d2PI);インフルエンザB型をMOI 0.005で添加;1%抽出物(w/w)先端側
【
図9a】
図9aから10c:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による分析を用いた先端側および基底側から放出されたインフルエンザウイルス粒子に関する研究 実施例6参照 RT-PCR先端側、インフルエンザA型(H3N2)をMOI 0.005で添加;感染後1日目(d1PI)
【
図9b】RT-PCR先端側、インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.005で添加;感染後2日目(d2PI)
【
図9c】RT-PCR先端側、インフルエンザB型をMOI 0.005で添加;感染後1日目(d1PI)
【
図9d】RT-PCR先端側、インフルエンザB型をMOI 0.005で添加、感染後2日目(d2PI)
【
図10a】RT-PCR基底側、インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.005で添加、感染後1日目(d1PI)
【
図10b】RT-PCR基底側、インフルエンザA(H3N2)型をMOI 0.005で添加、感染後2日目(d2PI)
【
図10c】RT-PCR基底側、インフルエンザB型をMOI 0.005で添加;感染後2日目(d2PI)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に関連して、レイシ属およびジモカルプス属、特にジモカルプス属、さらに特にジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)のようなムクロジ科の植物由来の成分が、SARS-CoV-2ウイルスの組織損傷、炎症および感染、ならびにインフルエンザウイルスの組織損傷、炎症および感染を予防/阻害することが、驚くべきことに見出された。
【0026】
特に、ジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を局所投与することで、SARS-CoV-2感染NHBE細胞における粘膜繊毛クリアランス(MCC)が増強することが、驚くべきことに見出された。MCCは肺における主要な生来の防御機構である。機能的な構成要素は、保護粘液層、気道表面液層、繊毛細胞表面の繊毛である。繊毛は特殊な小器官で、屈曲を繰り返してメタクロナル波を生成し、病原体や粘液層に捕捉された吸入粒子を気道の外に押し出す。
【0027】
さらに、驚くべきことに、ジモカルプス抽出物からなる、またはそれに相当する組成物の局所投与により、SARS-CoV-2感染NHBE細胞における経上皮電気抵抗(TEER)が安定化することが判明した。TEER測定は、上皮細胞層の完全性と安定性(すなわちバリア機能)を評価するために用いられる。
【0028】
さらに、驚くべきことに、ジモカルプス抽出物からなる組成物、またはそれに相当する組成物の局所投与により、補体の活性化が阻害され、SARS-CoV-2感染NHBE細胞における免疫細胞の炎症マーカーおよび化学誘引物質が発現低下されることが判明した。
【0029】
さらに、驚くべきことに、SARS-CoV-2への感染も抑制されることが判明した。
【0030】
さらに、驚くべきことに、ジモカルプス抽出物からなる組成物、またはそれに相当する組成物の局所投与により、インフルエンザウイルスA(H3N2)型およびインフルエンザウイルスB型感染NHBE細胞において経上皮電気抵抗(TEER)が 安定化することが見出された。TEER測定は、上皮細胞層の完全性と安定性(すなわちバリア機能)を評価するために用いられる。
【0031】
さらに、驚くべきことに、新型インフルエンザウイルスA(H3N2)型およびインフルエンザウイルスB型のウイルス粒子の細胞内形成とその排泄が阻止されていることが判明した。
【0032】
脂質二重層のウイルス表面上にある糖タンパク質は、アクセスキーとして機能し、ウイルスが細胞内に侵入できるようにするが、本発明による使用のための組成物に含まれるジモカルプス抽出物の成分がウイルスの表面タンパク質を覆い、ウイルスが細胞内に侵入するのを妨げることが、驚くべきことに判明した。
【0033】
従って、本発明は特に以下を提供する:
(1)エンベロープウイルス、エンベロープ一本鎖ウイルス、エンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、インフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症の治療および/または予防に使用するための、ジモカルプス抽出物を含む組成物、または当該抽出物に相当する組成物。
(2)エンベロープウイルス、エンベロープ一本鎖ウイルス、エンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、インフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症の治療における、(1)に記載の使用のための組成物。
(3)エンベロープウイルス、エンベロープ一本鎖ウイルス、エンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、インフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症の予防における、(1)に記載の使用のための組成物。
(4)呼吸器感染症が上気道感染症および/または下気道感染症である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(5)ジモカルプス抽出物がジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)の抽出物である、(1)~(4)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(6)ウイルスが、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)、ヒトメタニューモウイルス(HPMV)、ライノウイルスまたはコロナウイルス(CoV)から選択される、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(7)ウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2から選択される、(1)~(6)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(8)感染症がSARS-CoV-2感染症(COVID-19)である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(9)ウイルスが、インフルエンザウイルスA型(特にA(H3N2)型)またはインフルエンザウイルスB型の亜型から選択される、(1)~(6)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(10)感染症がインフルエンザウイルスA(H3N2)型またはインフルエンザウイルスB型感染症である、(1)~(6)および(9)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(11)ジモカルプス抽出物が、1種以上のビタミンC;コリラギン、没食子酸、エラグ酸、エラグ酸抱合体、(-)-エピカテキン、ケルセチン、ケンフェロール、タンニン酸(タンニン)およびクロロゲン酸から選択される1種以上のポリフェノール;プロトカテク酸;ブレビフォリン;γ-アミノ酪酸(GABA);炭水化物および水を含む、(1)~(10)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(12)ジモカルプス抽出物が、ビタミンC;コリラギン、没食子酸、エラグ酸、エラグ酸抱合体、(-)-エピカテキン、ケルセチン、ケンフェロール、タンニン酸(タンニン)およびクロロゲン酸から選択される1種以上のポリフェノール;プロトカテク酸;ブレビフォリン;γ-アミノ酪酸(GABA);炭水化物および水を含む、(1)~(11)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(13)ジモカルプス抽出物が、ビタミンC、コリラギン、没食子酸、エラグ酸、エラグ酸抱合体タンニン酸、GABA、サッカロース、グルコース、フルクトース、多糖類および水を含む、(1)~(12)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0034】
本発明において、ジモカルプス抽出物は、100~1000mg/kg、好ましくは105~760mg/kg、または400~1000mg/kg、より好ましくは600~760mg/kg、最も好ましくは720mg/kgのビタミンCを含む。
【0035】
本発明において、ジモカルプス抽出物は、750~2000mg/kg、750~1800mg/kg、好ましくは1188~1880mg/kg、より好ましくは1200~1500mg/kg、最も好ましくは1250mg/kgのコリラギンを含む。
【0036】
本発明において、ジモカルプス抽出物は、200~600mg/kg、好ましくは340~428mg/kg、より好ましくは380~430mg/kg、最も好ましくは409mg/kgの没食子酸を含む。
【0037】
本発明において、ジモカルプス抽出物は、600~1250mg/kg、600~1200、好ましくは1010~1230mg/kg、より好ましくは1010~1100mg/kg、最も好ましくは1050mg/kgのエラグ酸(エラグ酸抱合体を含む)を含む。
【0038】
本発明において、ジモカルプス抽出物は200~700mg/kg、好ましくは420~510mg/kg、より好ましくは450~480mg/kg、最も好ましくは430mg/kgのタンニン酸を含む。
【0039】
本発明において、ジモカルプス抽出物は1200~2000mg/kg、好ましくは1133~1896mg/kg、より好ましくは1150~1700mg/kg、最も好ましくは1638.30mg/kgのGABAを含む。
【0040】
本発明において、ジモカルパス抽出物は、30~50%、好ましくは30~45%、より好ましくは30~40%、最も好ましくは42.4%(w/w)の総抽出サッカロース(スクロース)を含む。
【0041】
本発明において、ジモカルプス抽出物は、5~25%、好ましくは7.5~23%、より好ましくは10~20%、最も好ましくは11.7%(w/w)の総抽出グルコースを含む。
【0042】
本発明おいて、ジモカルパス抽出物は、10~20%、好ましくは10~18%、より好ましくは10~15%、最も好ましくは13.3%(w/w)の総抽出フルクトースを含む。
【0043】
本発明において、ジモカルプス抽出物は50~85g/kg、好ましくは50~80g/kg、より好ましくは50~70g/kg、最も好ましくは66g/kgの多糖類を含む。
【0044】
本発明において、ジモカルプス抽出物は15~25%、好ましくは18~24%、より好ましくは19~23%、最も好ましくは21%(w/w)の水を含む。
【0045】
本発明において、ジモカルプス抽出物の総フェノール含有量は、2950~7600mg/kg、好ましくは3500~7600mg/kg、より好ましくは4000~6500mg/kg、最も好ましくは7565mg/kgである。
【0046】
本発明において、総炭水化物含有量は700~800g/kg、好ましくは742g/kgである。
【0047】
修士論文“Mono,Oligo- and Polysaccharide analysis of a beverage obtained from the fruit of Dimocarpus longan”by Tobias Schlappack,September 16,2020,Institute of Analytical Chemistry and Radiochemistry,Leopold-Franzens University Innsbruckにおいて、ジモカルプス・ロンガン果実から得られた飲料の遊離糖、オリゴ糖、多糖、総炭水化物量、水分量に関する糖類プロファイルが開示されている。
【0048】
本発明によれば、使用する組成物は、約74~84°Brixの糖含量、より好ましくは約76~82°Brixの糖含量、最も好ましくは約78~80°Brixの糖含量を有する。
【0049】
一つの実施形態において、本発明は、ジモカルプス抽出物、特にジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物が以下を含む、(1)~(13)のいずれか1つに記載の使用のための組成物を提供する:
【0050】
【0051】
本発明は特に以下を提供する:
(14)ジモカルプス抽出物、特にモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物が以下を含む、(1)~(13)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0052】
【0053】
(15)ジモカルプス抽出物、特にモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物が以下を含む、(1)~(13)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0054】
【0055】
(16)ジモカルプス抽出物、特にモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物が以下を含む、(1)~(14)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0056】
【0057】
(17)ジモカルプス抽出物、特にモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物が以下を含む、(1)~(16)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0058】
【0059】
(18)当該抽出物が、乾燥もしくは生果実全体、乾燥もしくは生果実の果皮、種子、仮種被、果肉、または果皮、種子、仮種被、生果実の果肉の少なくとも二つの組み合わせから製造される、(1)~(17)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。出発原料として新鮮な果実を丸ごと使用するのが特に好ましい。
【0060】
(19)ジモカルプス抽出物、特にジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)抽出物が、以下の工程を含む方法によって得ることができる、(1)~(18)のいずれか一項に記載の使用のための組成物:
(a)新鮮な果実全体からジモカルプス果汁の抽出、次いで
(b)得られた原液から固形分の分離
(c)約74~84°Brix、好ましくは76~82°Brix、最も好ましくは78~80°Brixの糖濃度を得るために、工程(b)で得られた液体の濃縮、および
(d)無菌充填。
【0061】
(20)ジモカルプス抽出物が、以下の工程を含む方法によって得ることができる、(1)~(19)のいずれか一項に記載の使用のための組成物:
(a)新鮮なジモカルプス果実を丸ごと粉砕;
(b)(a)で得られた粉砕した全果実から果汁を抽出;
(c)(b)で得られた生果汁を、約95~98℃に急速加熱し、約95~98℃に維持し、次いで約5~15℃に急速冷却することにより調整;
(d)(c)の生成物から上清を遠心分離および精密ろ過により分離;
(e)約74~84°Brixの糖濃度を得るために、工程(d)で得られた上清を、好ましくは減圧下での蒸発によって濃縮;
(f)工程(e)で得られた濃縮物の精密ろ過;および
(g)無菌充填。
【0062】
(21)当該組成物が、眼、鼻、または(鼻)咽頭経路を介して局所的に投与される、すなわち、眼の結膜上皮および上気道の上皮への局所投与のためのものである、(1)~(20)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(22)洗口液、うがい薬、点鼻薬、点鼻スプレー/エアゾール、咽頭点鼻薬、または咽頭スプレー/エアゾールの形態である、(1)~(21)のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
(23)点鼻スプレー/エアゾールまたは咽頭スプレー/エアゾールの形態である、(1)~(21)のいずれか一項に記載の組成物。
【0063】
本発明において、「ジモカルプス」(本明細書において「ジモカルプス種」とも称される)は、例えば、ジモカルプス・ロンガン(Dimocarpus longan)、ジモカルプス・オストラリカス(Dimocarpus australicus)、ジモカルプス・デンタタス(Dimocarpus dentatus)、ジモカルプス・フォベオラタス(Dimocarpus foveolatus)、ジモカルプス・フマタス(Dimocarpus fumatus)、ジモカルプス・ガルドネリ(Dimocarpus gardneri)、ジモカルプス・コンフィニス(Dimocarpus confinis)、ジモカルプス・レイチャルドティイ(Dimocarpus leichhardtii)およびジモカルプス・ユンナネシス(Dimocarpus yunnanesis)の群から選択され得る。
【0064】
当該抽出物は、ジモカルプス種/亜種のいずれかから得られる抽出物、または上記の少なくとも二つの混合物から得られる抽出物であってもよい。
本発明の組成物の好ましい実施形態において、ジモカルプス抽出物は、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)の抽出物である。
【0065】
本発明のより好ましい実施形態において、当該抽出物は、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)から調製され、点鼻スプレー、咽頭スプレーまたは肺スプレーの形態でCOVID-19の予防のために使用される。点鼻スプレーの形で使用するのが最も好ましい。
【0066】
本発明のさらに好ましい実施形態において、抽出物は、ジモカルプス・ロンガン・ラウア(Dimocarpus longan Lour)から調製され、インフルエンザウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスA(H3N2)型またはインフルエンザウイルスB型感染症の予防のために、点鼻スプレー、咽頭スプレーまたは肺スプレーの形態で使用される。点鼻スプレーの形で使用するのが最も好ましい。
【0067】
本発明に係る組成物およびその調製
【0068】
「抽出物」という用語は、当業者に公知の適切な方法によってジモカルプス(ジモカルプス抽出物)から得ることができる物質、誘導体生成物または成分の混合物を意味する。
【0069】
当該抽出物は、葉、樹皮、花、種子、果皮、果実、果肉、仮種皮、茎、枝、柄、根、木、およびそれらの一部など、植物全体のすべての成分から得ることができる。使用するのは生でも乾燥果実でもよい。異なるジモカルプスの成分/部分は、個別に使用することも、一緒に使用することもできる。
新鮮な果物を丸ごと使うのが特に好ましい。
【0070】
果実の殻、種皮、果皮および果肉の固形成分のような固形部分/粒子は、搾取/圧搾、沈殿/遠心分離および(精密)ろ過の手段により、工程の過程で液体果汁から分離される。
特に、本発明に係るジモカルプス抽出物の製造方法は、上記(19)および(20)に開示したような工程からなる。
【0071】
本明細書で使用する「果汁抽出」という用語は、果実の固形部分から液体部分を分離する工程を指す。
【0072】
ロンガン果実全体は、抽出前に、当業者に公知の手段、例えばハンマーミルによって粉砕することが好ましい。
【0073】
従って、手法として、溶媒抽出が挙げられるが、溶媒抽出以外の手段、例えば、油圧プレス(例えば、垂直圧搾層を有する標準的な油圧低温圧搾技術)、ロールミルもしくはダブルスクリュージューサー、または果汁抽出機、特に工業規模の果汁抽出機を使用するような当業者に公知の方法によって新鮮な植物材料から得られる(低温)圧搾果汁(生果汁)も挙げられる。工業規模の果汁抽出機を使用するのが特に好ましい。濃縮方法には、直接加熱、蒸気加熱、真空蒸発があり、真空蒸発が特に好ましい。
【0074】
本発明の好ましい実施形態によれば、ジモカルプスから得られる成分は、以下の工程を含む方法によって得られる:
【0075】
(1)新鮮なジモカルプス・ロンガン(ロンガン果実)を丸ごと粉砕;好ましくはハンマーミルを使用し、任意で直径32mmのふるいに通して最初の固形物および塊を除去し、均質な粉体を得る;
(2)工程(1)で得られた粉砕状の果実から、果汁抽出機を用いて、好ましくは約0.8~4.5バールの圧力下で約5分間、生果汁を抽出;
(3)抽出後に得られたペーストを廃棄し、工程(2)で得られた生果汁を約95℃まで急速加熱し、95℃~98℃の温度で少なくとも45分間、より好ましくは98℃で45分間維持し、その後、約5.0~15.0℃、より好ましくは約12℃の温度まで急速冷却;
(4)工程(3)の冷却物を、4000rpm~7200rpm、好ましくは7200rpmで、少なくとも1回は沈殿分離工程に供し、残渣を廃棄;
(5)工程(4)で得られた上清を45℃以下の温度、好ましくは約15~40℃の温度、より好ましくは約12℃の温度で沈殿濾過(0.2ミクロンで除去)に供し、40NTU以下の濁度を得る;
(6)工程(5)で得られた濾液を減圧下で蒸発工程に供し、ここで濾液を約83.0~87℃の温度に加熱、好ましくは少なくとも1回は減圧下で約85℃まで加熱し、次いで約35~45℃、好ましくは40℃まで段階的に冷却し、約74~84°Brix、好ましくは約76~約82°Brix、最も好ましくは約78~80°Brixの糖濃度を得る;
(7)任意で、工程(6)で得られた濃縮液を約35.0~45.0℃の温度で攪拌し、約76~約78°Brixを得る;
(8)濃縮物の濾過(1.0mm以下で除去、好ましくは約0.15mm);および
(9)無菌充填し、40℃以下の温度まで冷却し、本発明に係る使用のためのジモカルプス抽出物を得る。
【0076】
特に好ましい実施形態では、ジモカルプス抽出物は、タイ小特許出願番号TH2103000091に開示された方法によって得られる/得ることができる。(この方法のフローチャートは、例示の目的で
図6に示されている)。
【0077】
当該抽出物は、葉、樹皮、花、種子、果皮、果実、茎、枝、柄、根、木、およびそれらの一部など、植物全体のすべての成分から得ることができる。使用するのは生でも乾燥果実でもよい。異なるジモカルプスの成分/部分は、個別に使用することも、一緒に使用することもできる。
出発原料として新鮮な果実を丸ごと使用するのが特に好ましい。
【0078】
例示的な方法
本発明に係る使用のためのジモカルプス・ロンガン抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物は、
図6に示され、TH2103000091に開示されているように、以下の方法によって調製することが特に好ましい。
【0079】
ジモカルプス抽出物の特性
超高性能液体クロマトグラフ四重極飛行時間型質量分析装置(UHPLC-UV-HR-QTOF-MS)を用いて、本発明のジモカルプス抽出物の成分による定性的な特徴分析を行った。
使用した方法は以下の通りである:分析には、Thermo Scientific Dionex UltiMate 3000とBruker Daltonics社製のmaxis Impact Ultra High Resolution TOF-MSを組み合わせたものを使用した。没食子酸、エラグ酸(および抱合体)、コリラギンのクロマトグラフィー分離には、Agilent RRHD Zorbax C18(2.1×100mm、1.8μm)カラムを使用した。移動相はアセトニトリル(B)と0.2%のギ酸(FA)を水に溶かしたもの(A)からなる。流速は0.4mL/min、注入量は2μLであった。カラムオーブンは45℃に設定した。サンプラーは20℃に設定した。LCグラジエントは以下の通りであった:
最小/B%:0/0、2/0、17/50、19/100、20.5/100、21/0、23/0。LCからの溶出液は直接質量分析計に導入され、質量スキャンは50-2000m/z、スペクトルレートは4Hz、ポジティブモードでエレクトロスプレー法を使用した。各運転前の質量精度は、ギ酸ナトリウム付加物との比較によって検証した。質量精度は1mDaに、対応する保持時間は0.05分に丸めた。UVスペクトルは270nmで記録した。質量シグナルの解釈にはBruker(登録商標)のCompass Data Analysis 4.2を使用した。各サンプルは三反復測定した。
上記装置のパラメータとLCカラムは、以下のようにLCメソッドに若干の調整を加え、タンニンの定量(没食子酸相当量として)にも使用した:Min/B%:0/3、15/50、18/80、19/100、21/100、21.5/0、23/0。オートサンプラーを4℃に保った。
【0080】
ビタミンCの分析には、Thermo Scientific AccucoreTM HILICシリカカラム(2.1x150 mm、2.6μm)を使用した。移動相はアセトニトリル(B)と0.01%のギ酸(FA)を水に溶かしたもの(A)からなる。流速は0.4mL/min、注入量は1μLであった。カラムオーブンは25℃に設定した。サンプラーは20℃に設定した。LCグラジエントは以下の通りであった:Min/B%:0/95、5/95、5.5/60、8/80、9/15、13/15、14/95、17/95。LCからの溶出液は直接質量分析計(ESIネガティブ)に導入し、質量スキャンは50-800m/z、スペクトルレートは4Hzであった。ビタミンCの定量にはXIC(m/z173)を用いた。
GABAの分析には、340nmで動作するEppendorf BioSpectrometer(登録商標)basic(Eppendorf社製,ハンブルク,ドイツ)を使用した。
【0081】
好ましい実施形態において、本発明に係るジモカルプス抽出物は、以下の表1に示す成分を含む。
【0082】
【0083】
本発明の医薬製剤
本発明によるジモカルプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物は、前記抽出物と哺乳動物の体内の作用部位、好ましくはヒトの体内の作用部位、およびそれらを含む医薬製剤の形態とを接触させる任意の手段によって投与することができる。
当該組成物/製剤は、好ましくは水性組成物である。
【0084】
本発明によれば、局所投与のための医薬製剤および本発明による製剤の局所投与が好ましい。
特に、上気道の上皮内層や目への局所投与が好ましい。従って、当該組成物は、点眼薬、洗口液、うがい薬、点鼻スプレー/エアゾール、点鼻薬、咽頭スプレー/エアゾールまたは咽頭点鼻薬の形態で、眼、鼻または咽頭経路を介して被検体に投与されることが好ましい。
鼻腔または咽頭からの投与が特に好ましい。従って、水性組成物が、洗口液、うがい薬、点鼻スプレー/エアゾール、点鼻薬、咽頭スプレー/エアゾールまたは咽頭点鼻薬の形態で提供されることが特に好ましい。
【0085】
上気道の上皮内層への投与が最も好ましいため、洗口液、うがい薬、点鼻スプレー/エアゾール、点鼻薬、咽頭スプレー/エアゾール、咽頭点鼻薬の形態での投与が最も好ましい。前述の剤形の中では、点鼻スプレーまたは咽頭スプレーが最も好ましい。
【0086】
従って、本発明はさらに、上記の本発明によるジモカルプス抽出物を含む局所投与に適した医薬製剤/組成物を提供する。
【0087】
当該組成物は、当業者に公知の技術、例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」,Pharmaceutical Press,22nd edition and Bauer et al.,Pharmazeutische Technologie、5.Edt.Govi-Verlag Frankfurt,1997;Rudolf Voigt,and Pharmazeutische Technologie,9.Edt.,Deutscher Apotheker Verlag Stuttgart,2000)に記載されている技術により調剤することができる。
【0088】
特に、当該組成物は、鼻腔、咽頭(例えば、口および/または鼻から)用の剤形として処方することができる。鼻腔投与用の剤形としては、例えば、点鼻スプレー(例えば、点鼻ポンプスプレー)や点鼻薬が挙げられる。咽頭投与用の剤形としては、例えば、咽頭スプレーや咽頭点鼻薬が挙げられる。
【0089】
本発明のジモカルプス抽出物は、所望の効果を得るために薬学的に有効な濃度で本発明の医薬製剤に使用される。
【0090】
原則として、本発明に係る製剤/組成物は0.1~10%(w/w)、好ましくは本発明に係る組成物は、製剤の総重量に対して0.5~7%(w/w)、より好ましくは1~5%(w/w)、最も好ましくは2~4%(w/w)の本発明に係るジモカルプス抽出物を、好ましくは液体の生理学的/薬学的に許容される賦形剤(vehicle)の溶液として含んでもよい。好ましくは、賦形剤は水性である。
【0091】
賦形剤/希釈剤は、水(注射用水(aqua ad injectabilia)、二回蒸留水(aqua bidist)および精製水(aqua purificata)など);生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS);ソレンセン緩衝液、クエン酸ナトリウム/クエン酸、グリセロール、ソルビトール、およびそれらの混合物のようなその他の生理学的/薬学的に許容される緩衝系;ゴマ油のような油性賦形剤からなる群から選択され得る。水性賦形剤の使用が好ましい。
【0092】
注射用水、二回蒸留水、精製水、生理食塩水およびPBSを賦形剤またはそれらの混合物として使用することが特に好ましく、注射用水または精製水を賦形剤/希釈剤として使用することが最も好ましい。
【0093】
上皮内膜に投与する水性製品を処方する場合、粘度、pH値、緩衝能、浸透圧などの特性をコントロールすることが重要である。
【0094】
本発明に係る医薬製剤/組成物は、当業者に周知の生理学的に許容される賦形剤に加えて、NaCl、ソルビトール、グルコースおよびデキストロースのような浸透圧/張性調整剤;クエン酸、水酸化ナトリウム、塩酸、硫酸などのpH調整剤;クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどの緩衝剤成分;ヒドロキシエチルセルロース、トラガント、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンなどの粘度を高める賦形剤などの追加成分を含むことができる。
【0095】
特に、鼻腔内投与/上気道投与では、pHは3.5~7.5、より好ましくは4~7.5、最も好ましくは4.5~6.5の範囲に調整すべきである。
点眼用剤形のpHは、好ましくは6~8の範囲に調整すべきである。
水性組成物のpHは、例えば、水酸化ナトリウムもしくは塩酸および/またはその他適当なpH調整剤を使用し(例えば、前述のpH範囲または値のいずれかに)調整することができる。
【0096】
当該水性組成物は、例えば、約200mOsm/kg~約800mOsm/kgの浸透圧、好ましくは約250mOsm/kg~約500mOsm/kgの浸透圧、より好ましくは約280~500mOsm/kgの浸透圧を有することができる。
当該水性組成物の浸透圧は、例えば、塩化ナトリウムおよび/またはその他適当な浸透圧調整剤を使用し(例えば、前述の浸透圧範囲または値のいずれかに)調整することができる。
【0097】
特に断りのない限り、本明細書で言及するすべての特性、パラメータは、pH値および量/濃度(例えば、mg/ml、%w/vまたは%v/vで示される)を含め、好ましくは、標準的な周囲温度および圧力条件、特に25℃(298.15K)の温度および101.325kPa(1atm)の絶対圧で測定される。従って、本明細書で示されるpHは、温度25℃、より好ましくは温度25℃、絶対圧1atmで測定されることが好ましい。
【0098】
本明細書で使用される場合、明示的に別段の指示がない限り、または文脈に矛盾しない限り、「a」、「an」および「the」という用語は、「1つ以上」および「少なくとも1つ」と互換的に使用される。従って、例えば、「ある」賦形剤を含む組成物は、「1つ以上の」賦形剤を含む組成物を指すと解釈することができる。
【0099】
本明細書において数値範囲が提供/開示されている場合、それぞれの数値範囲に含まれるすべての値および部分範囲は、本発明の範囲内に含まれることを意味することを理解されたい。従って、本発明は、具体的かつ個別に、本明細書に開示された数値範囲に入る各値、および本明細書に開示された数値範囲に含まれる各部分範囲に関する。
【0100】
本発明において、「総フェノール含有量」という用語は、フォーリン・チオカルト法によって測定したすべてのフェノール化合物に関するものであり、特に同定されたフェノール化合物を含むが、これらに限定されない。
【0101】
本発明において、「総炭水化物」という用語は、フェノール硫酸法によって測定された多糖類を含むすべての炭水化物化合物に関するものであり、具体的に同定された炭水化物化合物を含むが、これらに限定されない。
本発明に係る抗ウイルス医薬製剤のより適した剤形は、本発明のジモカルプス・ロンガン抽出物を病原体の侵入口である上気道/口腔の上皮内膜と直接接触させることができる、ハードおよびソフトキャンディー、糖衣錠、香錠、(のど用)トローチおよび(薬用)チューインガムのような経口投与剤形である。
【0102】
従って、さらなる実施形態において、本発明のジモカルプス・ロンガン抽出物は、当業者に周知の技術および担体、賦形剤および添加剤を用いて、ソフトまたはハードキャンディ、糖衣錠、香錠、(のど用)トローチまたは(薬用)チューインガムに配合することができる。
【0103】
以下の処方例は、例示のみを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0104】
処方例
本発明において、以下の組成物/調合薬を使用するが特に好ましい:
【0105】
(a)
特に表1に記載の、本発明に係るジモカルプス・ロンガン抽出物 0.1-10%(w/w)
グリセリン 32%(w/w)
ソルビトール水溶液(70%(w/w)) 39.1-50%(w/w)
精製水 15%(w/w)
【0106】
(b)
特に表1に記載の、本発明に係るジモカルプス・ロンガン抽出 0.1-10%(w/w)
プロポリス 0.1%(w/w)
甘草粉末 0.13%(w/w)
ペパーミントパウダー 0.13%(w/w)
グリセリン 1.97%(w/w)
クエン酸 0.99%(w/w)
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.013%(w/w)
ヒドロキシプロピルセルロース 0.99%(w/w)
塩化ナトリウム 0.66%(w/w)
精製水 85.017%-94.917%(w/w)(即ち100%(w/w)に定容する)
【0107】
本発明における100%(w/w)という用語は、製剤の想定される最終総重量に達するまで精製水を添加することを示す。
【0108】
(c)
特に表1に記載の、本発明に係るジモカルプス・ロンガン抽出物0.1-10%(w/w)
アクアビジストまたは生理食塩水中
【0109】
上記の製剤は特に、点鼻薬、点鼻スプレー/エアゾール、咽頭点鼻薬または咽頭スプレー/エアゾールの形態など、咽頭および鼻腔経路による投与に使用することができる。
【0110】
上記のように、本発明に係る抗ウイルス医薬製剤のより適した剤形は、本発明のジモカルプス・ロンガン抽出物を病原体の侵入口である上気道/口腔の上皮内膜と直接接触させることができる、ハードおよびソフトキャンディー、糖衣錠、香錠、(のど用)トローチおよび(薬用)チューインガムのような経口投与剤形である。
【0111】
従って、さらなる実施形態において、本発明のジモカルプス・ロンガン抽出物は、当業者に周知の技術および担体、賦形剤および添加剤を用いて、ソフトまたはハードキャンディ、糖衣錠、香錠、(のど用)トローチまたは(薬用)チューインガムに含有することができる。本発明によるそのような剤形は、約0.1~約20%(w/w)の量の本発明のジモカルプス・ロンガン抽出物(すなわち活性成分)、および製剤の全重量に対して約80~約99.9%(w/w)の量の基剤およびさらなる担体、賦形剤および添加剤(非活性成分)を含むことができる。
【0112】
キャンディ、糖衣錠、香錠またはトローチ用の例示的な処方として、以下のもの挙げることができる:
【0113】
ジモカルプス・ロンガン抽出物 0.1-20%(w/w)
砂糖または砂糖代用品 0-98%(w/w)
増量剤 0-98%(w/w)
アラビアゴム 0-15%(w/w)
水 0.1-15%(w/w)
脂肪 0-15%(w/w)
天然または人工香料 0.01-10%(w/w)
【0114】
(薬用)チューインガム用の例示的な処方として、以下のものを挙げることができる:
【0115】
ジモカルプス・ロンガン抽出物 0.1-20%(w/w)
ポリイソブチレン 0-50%(w/w)
ポリ酢酸ビニル 0-50%(w/w)
チクルなどの天然ゴム 0-50%(w/w)
砂糖または砂糖代用品 20-80%(w/w)
増量剤 0-98%(w/w)
水 0-15%(w/w)
脂肪 0-15%(w/w)
天然または人工香料 0.01-10%(w/w)
【0116】
好ましい実施形態において、本発明に係るジモカルプス・ロンガン抽出物は、上記表1のとおりのジモカルプス・ロンガン抽出物である。
【0117】
適応症
本発明において、本発明に係る医薬製剤は、エンベロープウイルス、好ましくはエンベロープ一本鎖ウイルス、より好ましくはエンベロープ陽性一本鎖RNAウイルス(+ssRNA)ウイルス、さらに好ましくはインフルエンザまたはコロナウイルスおよび/またはそれらの少なくとも1つの症状による呼吸器感染症を治療および/または予防する治療方法において使用することができる。
【0118】
本発明において、エンベロープウイルスは、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)、ヒトメタニューモウイルス(HPMV)、ライノウイルスまたはコロナウイルス(CoV)から特に選択される。
【0119】
コロナウイルスによる感染症に関しては、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2による感染症の治療および/または予防が特に好ましい。
【0120】
従って、本発明は、特に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染および/またはコロナウイルス疾患-19(COVID-19)の少なくとも1つの症状の治療および/または予防に使用するための、ジモカプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を提供する。
【0121】
さらなる特に好ましい実施形態において、本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染症および/または新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の少なくとも1つの症状の治療に使用するための、ジモカプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を提供する。
【0122】
別の特定の好ましい実施形態において、本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染および/またはコロナウイルス疾患-19(COVID-19)の少なくとも1つの症状の予防に使用するための、ジモカプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を提供する。
【0123】
上記の新型コロナウイルス感染症の症状は、発熱、悪寒、(乾いた)咳、鼻づまりや鼻水、疲労、筋肉痛や体の痛み、喉の痛み、下痢、吐き気や嘔吐、結膜炎、頭痛、味覚や嗅覚障害、手足の指の変色や皮膚の発疹、呼吸困難や息切れ、常に胸が痛んだり圧迫されるような痛み、腹痛、言語障害や運動障害、突然の錯乱、青みがかった唇や顔の一つ以上からなる。
【0124】
新型コロナウイルス感染症より重篤な症状や発現には、肺炎、重症肺炎、肺線維症、(急性)肺損傷、重症急性呼吸器症候群(SARS)や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの急性呼吸器症候群がある。
【0125】
COVID-19の血液学的および/または免疫系に関連した発現を含む肺外症状/発現には、リンパ球減少症(lymphopenia。別名、lymphocytopenia。)、白血球増加症、白血球減少症、好中球増加症、血液凝固異常、血液凝固異常症、血小板減少症、肺塞栓症、播種性血管内凝固、深部静脈血栓症、および血栓形成促進状態が含まれる;COVID-19の心血管系症状には、心筋傷害、急性心傷害、急性冠症候群(ACS)、心筋症、急性肺性心、心不全(新規発症心房細動、心臓発作、心ブロック、心室性不整脈を含む)、心原性ショック、心筋虚血、急性肺性心、および/または血栓性合併症が含まれる;COVID-19の腎症状には、急性腎障害(AKI)、蛋白尿および血尿が含まれ、電解質異常(高カリウム血症、低ナトリウム血症および/または高ナトリウム血症など)を特徴とすることがある;COVID-19の胃腸(GI)症状には、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲不振、無嗅覚、味覚異常のほか、COVID-19の肝胆道(肝臓)症状、COVID-19の内分泌学的症状、COVID-19の神経学的症状および眼科学的症状、COVID-19の皮膚学的症状が含まれる。
【0126】
インフルエンザウイルスによる感染症に関しては、インフルエンザウイルスA(A(H3N2)など)型およびインフルエンザウイルスB型による感染症の治療および/または予防が特に好ましい。
【0127】
従って、本発明は特に、インフルエンザウイルス感染症および/またはインフルエンザウイルス感染症の少なくとも一つの症状の治療および/または予防に使用するための、ジモカプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を提供する。
【0128】
さらなる特に好ましい実施形態において、本発明は、インフルエンザウイルス感染症および/またはその少なくとも1つの症状の治療に使用するための、ジモカプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を提供する。
【0129】
別の特に好ましい実施形態において、本発明は、インフルエンザウイルス感染および/またはその少なくとも1つの症状の予防に使用するための、ジモカプス抽出物を含むか、または当該抽出物に相当する組成物を提供する。
【0130】
上記でいうインフルエンザウイルス感染症の症状には、発熱、悪寒、咳、鼻づまり、鼻水、疲労感、全身脱力感、筋肉痛や体の痛み、咽頭痛、下痢、吐き気または嘔吐、頭痛、発汗のうち1つ以上が含まれる。
【0131】
インフルエンザウイルス感染症のより重篤な症状や発現には、一次性インフルエンザウイルス性肺炎、重積した細菌性肺炎(肺炎球菌、ブドウ球菌、ヘモフィルス・インフルエンザなど)、慢性肺疾患(COPDなど)の増悪が挙げられる。さらに多くの臓器が侵されると、筋炎や横紋筋融解症、脳炎、心筋炎を引き起こす可能性がある。
【0132】
本発明において処置される被検体または患者は、動物(例えば、非ヒト動物)であってもよい。好ましくは、被検体/患者は哺乳動物である。より好ましくは、被検体/患者は、ヒト(例えば、雄のヒトまたは雌のヒト)またはヒト以外の哺乳動物(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、類人猿、マーモセット、ヒヒ、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル、ヒツジ、ウシ、ブタ、またはミンク)である。最も好ましくは、本発明において治療する被検体/患者はヒトである。
【0133】
本明細書で使用される障害または疾患の「治療」(例えば、COVID-19の「治療」)という用語は、当技術分野で周知である。
【0134】
障害や疾患の「治療」は、患者/被検体に障害や疾患が疑われること、あるいは診断されたことを意味する。障害または疾患に罹患していると疑われる患者/被検体は、通常、特定の臨床症状および/または病理学的症状を示し、当業者であれば容易に特定の病理学的状態に帰することができる(すなわち、障害または疾患を診断することができる)。
【0135】
障害または疾患の「治療」は、例えば、障害または疾患の進行の停止(例えば、症状の悪化がない)、または障害または疾患の進行の遅延(進行の停止が一過性のものである場合)をもたらす。障害または疾患の「治療」は、障害または疾患に罹患している被検体/患者の部分寛解(例えば、症状の改善)または完全寛解(例えば、症状の消失)をもたらすこともある。従って、障害または疾患の「治療」は、障害または疾患の改善も意味する場合があり、例えば、障害または疾患の進行の停止、または障害または疾患の進行の遅延につながる場合がある。このような部分寛解や完全寛解の後に再発することもある。被検体/患者は、治療(本明細書で上述したような例示的な反応など)に対して広範な反応を経験する可能性があることを理解されたい。障害または疾患の治療には、特に、治癒的治療(好ましくは、障害または疾患の完全反応と最終的に治癒につながる)および緩和的治療(症状の緩和を含む)が含まれる。
【0136】
本明細書で使用される障害または疾患の「予防」(例えば、COVID-19の「予防」)という用語も、当技術分野で周知である。例えば、障害や疾病に罹りやすいと疑われる患者/被検体は、障害や疾病の予防から特に恩恵を受ける可能性がある。被検体/患者は、遺伝性素因を含むがこれに限定されない、障害または疾患に対する感受性または素因を有する可能性がある。このような素因は、例えば遺伝子マーカーや表現型指標を用いて、標準的な方法や検査によって測定することができる。本発明において予防されるべき障害または疾患は、患者/被検体において診断されていない、または診断できない(例えば、患者/被検体が臨床的または病理学的症状を示さない)ことを理解されたい。従って、「予防」という用語は、臨床的および/または病理学的症状が主治医によって診断もしくは判定される前、または診断もしくは判定され得る前に、本発明の化合物を使用することからなる。
【0137】
本発明に係るジモカルプス抽出物を含む組成物の試験
本発明は、本発明に係るジモカルプス抽出物/組成物の局所投与の効果を評価するためのスクリーニングプラットフォーム/in vitroモデルとして、Zaderer et alCells 2019;8:1292およびChandorkar et al.Sci Rep 2017;7:11644に記載されている標準化されたヒト3D呼吸器モデルを使用する。
【0138】
このモデルは、in vitroで再構成された上気道および下気道由来のヒト一次正常気管支上皮細胞または小気道上皮細胞(NHBE、SAE)から構成されている。細胞を、コラーゲンまたはセルロースを足場としたトランスウェルフィルター上に播種し、気液界面(ALI)で培養する。
【0139】
前述したZaderer et al.,Cells 2019;8:1292(特許文献24)およびChandorkar et al.,Sci Rep 2017;7:11644(特許文献25)に従って、正常ヒト気管支上皮(NHBE、Lonza社製、カタログ番号CC-2540S)細胞を、気液界面(ALI)で手順どおりに培養した。簡単に説明すると、細胞をT75フラスコで80%コンフルエントに達するまで2~4日間培養した。細胞をトリプシン処理し、GrowDexT(UPM)コートした0.33cm2の多孔性(0.4μm)ポリエステルメンブレンインサートに、トランスウェル(Costar、Corning社製、NY、USA)あたり1×105細胞の播種密度で播種した。製造者の指示に従って、特定の上皮細胞増殖培地を用い、2~3日間、液体培養で細胞をコンフルエンスに近い状態まで増殖させた。培養物は5%CO2、37℃の加湿雰囲気で維持され、その後ALI培養に移植した。上皮は、ステムセル社の気道培地を用いて増殖分化させた。発育日数は、ALI培養を開始した日を0日目とした。MucilAir鼻腔細胞はスイス、ジュネーブのエピセリクス社から入手し、製造元のプロトコルに従って培養した。
【0140】
説明のために
図1を参照されたい。
このin vitroモデルを用いて、特に以下のパラメータを分析した
- 粘膜繊毛クリアランス(MCC)
- 繊毛運動周波数
- 先端側サイトカイン放出
- 経上皮電気抵抗(TEER)
- 自然免疫応答(C3a)
- 画像による感染率の検出
【実施例】
【0141】
すべての実験データは、本発明に係るジモカルプス抽出物、特に滅菌二回蒸留水または生理食塩水で所望の濃度に希釈した上記表1に開示したものを用いて作成した。
[実施例1]粘液繊毛輸送/クリアランス(予防)
NHBE3次元培養物における繊毛運動および粘膜繊毛クリアランスに対するジモカルプス抽出物の効果に関する研究
【0142】
D-PBSスプレー(コントロール)または1%ジモカルプス抽出物のスプレー投与後の繊毛運動および粘膜繊毛クリアランスの評価。
【0143】
呼吸器系の粘液は繊毛運動によって粘膜内を移動するが、これは粘液繊毛クリアランス(MCC)と呼ばれる重要な非特異的防御機構である。
MCCは、鼻腔と副鼻腔の主な自浄システムであり、空気によって絶え間なく運ばれる有機・無機汚染に対する非特異的な防御手段として非常に重要である。粘液中の粒子や微生物を捕捉し、粘液膜を咽頭まで運び、そこで咳とともに排出されるか、飲み込まれることで機能する。
【0144】
方法
D-PBS(コントロール)またはD-PBS中1%(w/w)のジモプカルプス抽出物を、完全に分化した3次元NHBE培養物(継代2回、気液界面で92日目)に噴霧した(
図1参照)。
繊毛運動は、Operetta CLS(パーキンエルマー社製)のHCSを用いた明視野観察により評価した。蛍光標識ビーズ(インビトロジェン社製)を完全に分化した3次元NHBE培養物(継代2回、気液界面で92日目)(コントロールまたは1%ジモカルプス抽出物で前処理)に添加し、Harmony 4.8 software(パーキンエルマー社製)とReady Made Solution(RMS)Bead Tracking(RMS Cell Migrationより改変)を用いて蛍光標識ビーズを追跡した後、粘膜繊毛クリアランスをモニターした。短いビデオを録画した。
【0145】
結果
結果を以下の表2および表3にまとめた。
【0146】
【0147】
【0148】
結論
上記のデータから、上皮細胞へのジモカルプス抽出物の先端側投与は繊毛の速度と運動を高め、それによってウイルスを粘膜から除去し、粘膜上のウイルス負荷を減少させることが立証され、ジモカルプス抽出物が粘膜を介したウイルス感染の予防に特に有用/重要である可能性が示された。
【0149】
[実施例2]経上皮電気抵抗(TEER)
ジモカルプス抽出物を曝露したNHBE細胞の3次元培養物における経上皮電気抵抗(TEER)の研究
【0150】
経上皮/経内皮電気抵抗(TEER)は、上皮および内皮単層の細胞培養モデルにおいて、タイトジャンクション動態の完全性を測定する定量的手法として広く認められている。TEER値は、薬物や化学物質の輸送を評価する前に、細胞バリアの完全性を示す強力な指標となる。TEER測定は、細胞にダメージを与えることなくリアルタイムで行うことができ、一般に、抵抗の測定や、広い周波数スペクトルにわたるインピーダンスの測定に基づいている。様々なタイプの細胞に対するTEER測定が、市販の測定システムを用いて報告されているが、本発明者らはEVOM2 Volt-Ohmmeter(ワールド・プレシジョン・インスツルメンツ社製、WPI)を使用した。経上皮電気抵抗の測定は、フィルター支持体上のCaco-2細胞層の均一性と、極性細胞間に形成されたタイトジャンクションの完全性に関する情報を提供する、簡単で便利な技術である。従って、TEER測定は上皮バリア機能の研究に利用できる。
【0151】
[実施例2(a)]
感染していない細胞(コントロール)のTEERに及ぼすジモカルプス抽出物の濃度の違いによる影響
【0152】
実験手順:
ジモカルプス・ロンガンスプレー(滅菌二回蒸留水中0.1%または1%w/w、約50μl相当)を、完全に分化した上皮(3次元NHBE培養物)の先端側または基底側にそれぞれ一吹き投与した。経上皮電気抵抗(TEER)値は、STX-2箸電極付きEVOM電圧抵抗計(ワールド・プレシジョン・インスツルメンツ社製、スティーベネッジ、UK)を用いてALI培養で測定した。
当該測定のために、0.1mlおよび0.7mlの培地をそれぞれ先端側と基底側に加えた。TEERを測定する前に、細胞を平衡化した。報告されたTEER値は、トランスウェルフィルターの抵抗と表面積を補正したものである。表4の結果は、抽出物が感染していないNHBEのTEERにほとんど影響を与えないことを示している(
図2(a)も参照)。
【0153】
【0154】
[実施例2(b)および(c)]
感染していない細胞のTEERに及ぼすジモカルプス抽出物の濃度の違いによる影響(感染後1日目(b)と感染後2日目(c))
【0155】
実験手順:
SARS-CoV-2を用いた感染に先立ち、完全に分化した上皮(3次元NHBE培養物)の先端側にジモカルプススプレー(滅菌二回蒸留水中0.1%、1%または2%w/w、約50μl相当)を一吹きした。先端側投与は、上皮表面を機械的に破壊しないように注意深く行った。
【0156】
経上皮電気抵抗(TEER)値は、STX-2箸電極付きEVOM電圧抵抗計(ワールド・プレシジョン・インスツルメンツ社、スティーベネッジ、UK)を用いて測定した。SARS-CoV-2に感染したALI培養細胞と感染していないALI培養細胞の測定は、培地を交換する直前に行った。測定のために、0.1mlおよび0.7mlの培地をそれぞれ先端側と基底側に加えた。TEERを測定する前に、細胞を平衡化した。報告したTEER値は、トランスウェルフィルターの抵抗と表面積で補正した。TEERは、感染後1日目(d1pI)と感染後2日目(d2pI)に測定した。
【0157】
SARS-CoV-2感染上皮では、d1pIおよびd2pIにおいて、UIおよびジモカルプス抽出物/UIと比較して、有意に低いTEER値が測定された。
以下の表5および表6の結果(
図2(b)および(c)も参照)から、ジモカルプス抽出物は、試験したすべての濃度でd1pIにおいて(
図2b参照)、また0.1%スプレーとして投与した場合はd2pIにおいても(
図2c参照)、感染培養物のTEER値を保持できることが示された。しかし、ジモカルプス抽出物は、2%溶液として投与した場合、感染上皮のTEER値を著しく低下させ、上皮の感染と破壊を示した。
【0158】
【0159】
【0160】
[実施例3]
補体成分C3aとして知られるサイトカインとアナフィロトキシンの生成
【0161】
この分析により、各バイオマーカーをレーザーで同定し、サンプル中の量を定量することができる。IL-1a、IL-1ra、IL-6、IL-10、GM-CSF、IP-10、MCP-1、RANTES、TSLP、およびTNF-αサイトカインのレベルは、デュアルレーザー、流動選別および検出プラットフォームであるFLEXMAP-3D(Luminex社、オースティン、テキサス)を用いて測定した。C5aRおよび/またはSARS-CoV-2で処理したHAE細胞の上清を、R&D Systems社製(ミネソタ州ミネアポリス)のMagnetic Luminex Multiplex Assay(LXSAHM)を用いて、製造者の指示に従って分析した。最終的なデータの計算と分析はExcelで行った。HAE組織モデルのC3a分泌は、BD OptEIA Human C3a ELISA Kit(BD Biosciences社製)を用いて、製造者の指示に従って検出した。
【0162】
[実施例3a]自然免疫応答C3aの補体発現低下
SARS-CoV-2感染3次元NHBE培養物におけるアナフィラトキシン産生(C3adesArg,C5adesArg)に対するジモカルプス抽出物の効果に関する研究
【0163】
SARS-CoV-2が呼吸器組織に感染した直後に発生する初期事象は、疾患の重症度という観点から転帰に影響を及ぼす可能性がある。一部の患者では、COVID-19に感染すると、上皮/免疫バリアにおける免疫応答が過剰に活性化され、炎症性環境が生成される。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こすサイトカインストームと急性肺損傷の発生は、この病気において起こりうる望ましくない結果である。全身性凝固障害を伴うARDSは、COVID-19における罹患率と死亡率の重要な側面である。侵入してきたウイルスによって引き起こされるこのような過剰な免疫応答は、重症例では広範な組織破壊を引き起こし、組織傷害や多臓器不全を引き起こす。補体の沈着とアナフィラトキシンの血清高値が重症/重篤な患者で報告されていることから、補体は免疫の過剰活性化を引き起こす要因のひとつである可能性がある。
【0164】
古典補体経路、代替補体経路、レクチン補体経路が活性化されると、C3aアナフィラトキシンが産生される。C3aは多機能性炎症性メディエーターであることが示されている。このように、C3aは血管透過性を亢進させ、痙攣性、走化性を示し、多くの細胞型から薬理学的に活性なメディエーターの放出を誘導することが示されている。in vivoでのC3a産生もまた、炎症反応を引き起こしたり、助長したり、悪化させたりする可能性がある。
血漿または血清中では、一旦形成されると、新生C3aアナフィラトキシンは内因性血清カルボキシペプチダーゼN酵素によって速やかにC3a-desArg型に切断される。従って、血漿または実験サンプル中のC3a-desArgを定量することにより、調査中の試験サンプルで起こった補体活性化の程度に関して信頼できる測定値が得られるはずである。
【0165】
実験手順:
非感染およびSARS-CoV-2感染サンプルの上清を、ジモカルプス抽出物0.1%、1%および2%で先端側を前処理した後に回収し、またコントロール細胞の上清(非感染のNHBE UI、またはIBK分離株に感染したOV、NHBE-OV)を感染後2日目(d2pI)に回収し、ウイルス不活化のために洗浄剤処理(2%Ipegal)し、-20℃で保存した。
【0166】
そこで、以下のサンプルを分析した:1_UI(未感染)/EtOH、2_INF(COVID19陽性患者の細胞培養分離株(分離株OV)希釈液で感染)1/1000)/EtOH、3_UI/1%(コントロール)、4_INF/0.1%、5_INF/1%、6_INF/2%。Luminex分析では、採取した上清を室温に温め、各サンプル50μlを製造元のプロトコルに従って処理した。
【0167】
サンプル中のC3aは、ヒトEDTA血漿、血清およびその他の生物学的サンプル中のヒトC3a-desArgをin vitroで定量するBD OptEIA(商品名)Human C3a ELISA Kit(カタログ番号550499)を用いて、製造元のプロトコルに従って定量した。
【0168】
TEERと画像解析から予想されるように、SARS-CoV-2感染上皮では炎症反応が誘発されたが、これは感染前に1%のジモカルプス抽出物を含む組成物で上皮を前処理することで完全に阻止された。C3aの値は、0.1%および2%のジモカルプス抽出物を含むスプレーで前処理した上皮においても低かった(
図3参照)。
【0169】
[実施例3b]炎症マーカーと免疫細胞の化学的誘引物質の発現低下
初代正常ヒト気管支上皮(NHBE)細胞のサイトカイン放出(炎症反応)
【0170】
実験手順:
10種類の炎症性サイトカイン/バイオマーカー(MCP-1、IP-10、IL-α、IL-6、TNF-α、RANTES、GM-CSF、IL-1ra、IL-10、TSLP)の発現は、Human Magnetic Luminex Assay 10-plex human 2STD(R&D Systems社製)を用いてモニターした。この分析では、各バイオマーカーをレーザーで同定し、サンプル中の量を定量することができる。各サンプル中の全てのバイオマーカーのレベルは、デュアルレーザー、流動選別および検出プラットフォームであるLuminex FLEXMAP 3Dプラットフォーム(SN-:FM3DD12269001)を用いて分析した。
【0171】
非感染およびSARS-CoV-2感染サンプルの上清を、ジモカルプス抽出物0.1%で先端側を前処理または基底側を前処理した後に回収し、またコントロール細胞の上清(非感染のNHBE UI、またはIBK分離株に感染したOV、NHBE-OV)を感染後2日目(d2pI)に回収し、ウイルス不活化のために洗浄剤処理(2%Ipegal)し、-20℃で保存した。Luminex分析では、採取した上清を室温に温め、各サンプル50μlを製造元のプロトコルに従って処理した。
【0172】
結果を以下の表7にまとめた。抗炎症活性が観察されたことを示している。MCP-1、RANTESおよびIL-6の放出は、ジモカルプス抽出物を処理しなかったウイルス感染組織と比較して、ジモカルプス抽出物を処理したウイルス感染組織で減少した。
【0173】
【0174】
[実施例4]
SARS-CoV-2感染の可視化とジモカルプス抽出物による感染の抑制
【0175】
単層および3D組織モデルにおけるSARS-CoV-2感染を可視化するために、細胞をSARS-CoV-2の臨床検体に感染させ、2時間後の結合実験または感染後3日目(d3pI)の感染実験で特徴的なマーカーを分析した。SARS-CoV-2暴露後、3次元細胞培養物を4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞内染色は、1×細胞内染色透過洗浄バッファー(10×;BioLegend社、サンディエゴ、CA、USA)を用いて行った。細胞表面(小麦胚芽凝集素[WGA-680];サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、ウォルサム、MA、 USA)、核(Hoechst 33342;Cell Signaling Technologies社製、ダンヴァーズ、MA、USA)、アクチン(phalloidin-Alexa 647;Cell Signaling Technologies社製、ダンヴァーズ、MA、USA)、補体C3(C3-フルオレセインイソチオシアネート[FITC];アジレント・テクノロジー社製、サンタクララ、CA、USA)を染色する抗体を用いた。細胞内のSARS-CoV-2は、S1およびNに対するAlexa 594標識SARS-CoV-2抗体(いずれも中国北京のSino Biological社製)を用いて検出した。Alexa 594標識キットは英国ケンブリッジのAbcam社から購入した。染色後、3次元培養物をMowiolにのせた。3次元培養した初代細胞を用いてこれらの複雑なモデルを研究し、より深い生物学的洞察を得るための詳細な表現型フィンガープリントを高い処理能力で作成するために、Operetta CLSシステム(パーキンエルマー社製、ウォルサム、MA、USA)が適用された。SARS-CoV-2含有細胞(Harmony software)のスポット解析と絶対定量は、各条件につき1,200個以上の細胞について行った。
【0176】
D2pIで、細胞を固定(Cytofix、BD Biosciences、一晩)および細胞内染色(BD Biosciences、cat#554723)のためにPerm/Wash緩衝液で透過処理した後、核対比染色ヘキスト・Hoechst33342(Molecular Probes、H-3570、1/1000)、C3-FITC(Dako/Agilent、cat#F020102-2、1/50)、Alexa488またはAlexa594に結合したSARS-CoV-2スパイク抗体(Rabbit Mab、Sinobiological cat#40150-R007、1/50)、ファロイジン-iFluor Alexa647(abcam、ab176759、1/1000) を用いて3時間染色し、染色後、細胞をD-PBSで洗浄しスライド(Mowiol、4-88、Carl Roth、#0718)にのせ、一晩室温で乾燥させた。Operetta CLS NHS(パーキンエルマー社製)と40倍または63倍の水対物レンズを用いてイメージングを行った。TEER測定で示されたように、SARS-CoV-2感染は、UIおよびジモカルプス/UIと比較して、d2pIですでに呼吸器上皮を破壊していることが画像で確認された。
【0177】
イメージングにより、SARS-CoV-2に感染した呼吸器上皮から、高い感染率と高い自然免疫活性化(細胞内C3誘導)が示された。
ジモカルプス抽出物は、1%の使用で上皮の完全性を保持でき、細胞内のC3生成(自然免疫活性化)も阻止した。しかし、この抽出物を2%溶液として呼吸器上皮に塗布すると、上皮破壊およびC3誘導も起こり、SARS-CoV-2感染を悪化させた。
【0178】
[実施例4(a)]
NHBE一次単層膜におけるSARS-CoV-2感染に対するジモカルプス抽出物の濃度の違いによる効果に関する研究
【0179】
初代正常ヒト気管支上皮(NHBE)細胞(継代3回)p3(25.000細胞/100μl)をOperetta Cell Carrier Ultra 96ウェルプレートに播種した。
【0180】
3日後、80%コンフルエントなNHBE細胞を、COVID19陽性患者からの様々な細胞培養分離株で5日間感染させるか(5dpI)、感染させないまま放置した(コントロール);分離株希釈:1/1000;細胞はさらにジモカルプス抽出物(0.5%-0.25%-0.1%)または賦形剤で処理した。
【0181】
細胞はヘキスト(核、青)、細胞内補体形成を検出するC3(緑)、生産的に感染した細胞を検出するSARS-CoV-2-スパイク1(S1)およびヌクレオキャプシド(N)(赤)を用いて染色し、WGA(細胞表面/細胞内の糖を認識、オレンジ)および明視野(BF)画像も撮影した。
【0182】
Operetta CLS HCS(パーキンエルマー社製)と63倍水対物レンズを使用し画像化を行い、Harmony4.8ソフトウェア(パーキンエルマー社製)を用いて画像を解析した。
【0183】
SARS-CoV-2への感染は、0.5%のジモカルプス抽出物による処理で有意に減少した(
図4参照)。
【0184】
[実施例4(b)]
免疫蛍光法による完全分化ヒト3次元培養におけるNHBE細胞のSARS-CoV-2感染の減少の画像化
【0185】
ジモカルプス抽出物処理NHBE細胞の感染
【0186】
NHBE細胞の3次元培養物は、気液界面(ALI)で少なくとも40日間増殖・分化させた。
抽出物をDPBSで希釈し、最終濃度をそれぞれ0.5%、0.25%、0.1%とした。
コントロールとしてDPBSを用い、上記のように希釈した抽出物を細胞に散布した。サンプルは37℃、5%CO2条件下で30分間培養した。
細胞に感染させるため、50μlのウイルス希釈液を各トランスウェルの先端側に添加した。未処理のコントロールでは、同量のRPMIを細胞に添加した。その後、細胞を37℃、5%CO2の条件下で所望の期間(一晩/1~3日間)培養した。
感染率は、Operetta CLS(パーキンエルマー社製)と画像解析用のHarmony Software(同じくパーキンエルマー社製)を用いて、Posch W,et al.,J.Allergy Clin Immunol.2021 Jun;147(6):2083-2097およびPosch W,et al.2021 Apr 27;12(2): e00904-21に記載された方法による共焦点染色法により測定した。
【0187】
SARS-CoV-2への感染は、0.5%のジモカルプス抽出物による処理で有意に減少した(
図5参照)。
【0188】
[実施例5]
経上皮電気抵抗による組織の完全性の測定
【0189】
実施例2で上述したように、経上皮/経内皮電気抵抗(TEER)は、内皮単層および上皮単層の細胞培養モデルにおいて、タイトジャンクション動態の完全性を測定する定量的手法として広く認められている。
【0190】
[実施例5(a)および(b)]
インフルエンザウイルスA(H3N2)に感染させた細胞のTEERに対する1%ジモカルプス抽出物の効果;MOI0.05;感染後1日目(a)および感染後2日目(b)
【0191】
[実施例5(c)および(d)]
インフルエンザウイルスB型に感染させた細胞のTEERに対する1%ジモカルパス抽出物の効果;MOI0.05;感染後1日目(c)および感染後2日目(d)
【0192】
実験手順
インフルエンザウイルスA(H3N2)型およびインフルエンザウイルスB型をそれぞれ0.05の感染多重度(MOI)で感染させる前に、完全に分化した上皮培養細胞(3次元NHBE細胞、ALI培養80日)の先端側に、ジモカルプススプレー(1%を二回蒸留水で希釈したもの)を約50μlに相当する一吹き塗布した。先端側投与は、上皮表面を機械的に破壊しないように注意深く行った。インフルエンザウイルス(インフルエンザA型およびインフルエンザB型)に感染させる前に、細胞を1時間培養した。
【0193】
経上皮電気抵抗(TEER)値は、STX-2箸電極付きEVOM電圧抵抗計(ワールド・プレシジョン・インスツルメンツ社製、スティーベネッジ、UK)を用いて測定した。インフルエンザウイルスに感染したALI培養細胞と感染していないALI培養細胞(UI)の測定は、培地を交換する直前に行った。測定のために、0.1mlおよび0.7mlの培地をそれぞれ先端側と基底側に加えた。TEERを測定する前に細胞を平衡化した。報告したTEER値は、トランスウェルフィルターの抵抗と表面積で補正した。TEERは、感染後1日目(d1pI)および感染後2日目(d2pI)に測定した。
【0194】
インフルエンザA(H3N2)型およびインフルエンザB型に感染した上皮では、d1pIおよびd2pIにおいて、ジモカルプス抽出物/UIと比較して有意に低いTEER値が測定された。
図7a)~d)に示した結果から、ジモカルプス抽出物は、試験濃度1%でd1pI(
図7aおよびc参照)およびd2pI(
図7bおよびd参照)において、感染培養物のTEER値を保持できることが示された。
【0195】
[実施例5(e)および実施例5(f)]
例5(e)および5(f)
インフルエンザウイルスA(H3N2)型に感染させた細胞のTEERに対する1%ジモカルプス抽出物の効果;MOI0.005;感染後1日目(e)および感染後2日目(f)
【0196】
[実施例5(g)および実施例5(h)]
インフルエンザウイルスB型に感染した細胞のTEERに及ぼす1%ジモカルプス抽出物の効果;MOI0.005;感染後1日目(g)および感染後2日目(h)
【0197】
実験手順
インフルエンザウイルスA(H3N2)型およびインフルエンザウイルスB型をそれぞれ0.005の感染多重度(MOI)で感染させる前に、完全に分化した上皮培養細胞(3次元NHBE細胞、ALI培養80日)の先端側に、ジモカルプススプレー(1%を二回蒸留水で希釈したもの)を約50μlに相当する一吹き塗布した。先端側投与は、上皮表面を機械的に破壊しないように注意深く行った。インフルエンザウイルス(インフルエンザA型およびインフルエンザB型)に感染させる前に、細胞を1時間培養した。
【0198】
経上皮電気抵抗(TEER)値は、STX-2箸電極付きEVOM電圧抵抗計(ワールド・プレシジョン・インスツルメンツ社製、スティーベネッジ、UK)を用いて測定した。インフルエンザウイルスに感染したALI培養細胞と感染していないALI培養細胞(UI)の測定は、培地を交換する直前に行った。測定のために、0.1mlおよび0.7mlの培地をそれぞれ先端側と基底側に加えた。TEERを測定する前に細胞を平衡化した。報告したTEER値は、トランスウェルフィルターの抵抗と表面積で補正した。TEERは、感染後1日目(d1pI)と感染後2日目(d2pI)に測定した。
【0199】
インフルエンザA(H3N2)型およびインフルエンザB型に感染した上皮では、d1pIおよびd2pIにおいて、ジモカルプス抽出物/UIと比較して有意に低いTEER値が測定された。
図8a)~d)に示した結果から、ジモカルプス抽出物は、試験濃度1%でd1pI(
図8aおよびc参照)およびd2pI(
図8bおよびd参照)において、感染培養物のTEER値を保持できることが示された。
【0200】
[実施例6]
上皮細胞のウイルス負荷に対するジモカルプス抽出物の効果を解析するための、先端側および基底側で放出されたインフルエンザウイルス粒子のRT-PCR
RT-PCRを用いた先端側で放出されたインフルエンザウイルスA(H3N2)粒子に対する1%ジモカルプス抽出物の効果の測定;感染後1日目(a)および感染後2日目(b)
RT-PCRを用いた先端側で放出されたインフルエンザウイルスB型粒子に対する1%ジモカルプス抽出物の効果の測定;感染後1日目(c)および感染後2日目(d)
【0201】
RT-PCRを用いた基底側で放出されたインフルエンザウイルスA型(H3N2)型粒子に対する1%ジモカルプス抽出物の効果の測定;感染後1日目(e)および感染後2日目(f)
RT-PCRを用いた基底側で放出されたインフルエンザウイルスB型粒子に対する1%ジモカルプス抽出物の効果の測定;感染1日目(g)および感染2日目(h)
【0202】
実験手順
インフルエンザウイルスA(H3N2)型およびインフルエンザウイルスB型をそれぞれ0.005の感染多重度(MOI)で感染させる前に、完全に分化した上皮培養細胞(3次元NHBE、ALI培養80日)の先端側に、ジモカルプススプレー(1%を二回蒸留水で希釈したもの)を約50μlに相当する一吹き塗布した。先端側投与は、上皮表面を機械的に破壊しないように注意深く行った。インフルエンザウイルス(インフルエンザA型およびインフルエンザB型)に感染させる前に、細胞を1時間培養した。
感染後1日目(d1pI)と2日目(d2pI)のウイルス粒子の放出(それぞれ先端側と基底側)をRT-PCRで測定した。
【0203】
RNAの単離:
ウイルス粒子からのRNA単離には、FavorPrep Viral RNA/Viral Nucleic Acid Mini Kit(#FAVNK001-2),(Favorgen Biotech社)を使用した。製造元の説明書(ユーザーマニュアル)に従い、140μlのサンプルを560μlのVNE溶解バッファーと混合し、さらに同社の説明書に従ってプロトコルを実施した。
インフルエンザ感染の評価(R-PCRによるウイルスRNAの検出と定量)用のサンプルを作成するため、ALI状態のトランスウェルの基底側培地チャンバーから140μlのサンプルを採取した。
先端側由来のRT-PCRサンプルを作成するために、TEER測定から培地を採取した(実施例2、7、および8参照)。
【0204】
RT-PCRによるRNAの検出と定量化
PCRは、LUNA Universal Probe One-Step RT-qPCR Kit E3006G(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を用い、以下のプライマーとプローブ(Metabion社製、プラネッグ、ドイツ)を用いて、製造者の指示に従って行った:
【0205】
H1N1/H3N2メタビオン
○MP-39-37-F(N2)-F CCM AGG TCG AAA CGT AYG TTC TCT CTA TC
○MP 183 153 R(N2)-R TGA CAG RAT YGG TCT TGT CTT TAG CCA YTC CA
○Probe -P 6-Fam-ATYTCG GCT TTG AGG GGG CCT BHQ(プローブ)
【0206】
タイプB ビクトリア・メタビオン
タイプB-Vic-F F CCT GTT ACA TCT GGG TGC TTT CCT ATA ATG
タイプB-Vic-R R GTT GAT ARC CTG ATA TGT TCG TAT CCT CKG
タイプB Vic-P P 6-FAM TTA GAC AGC TGC CTA ACC BHQ 1(プローブ)
PCR STDコピー数108-104
【0207】
【0208】
PCRの結果は、Bio-Rad CFX ManagerまたはBio-Rad Maestro Softwareを用いて解析した。
【0209】
インフルエンザA(H3N2)型およびインフルエンザB型に感染した上皮のd1pIおよびd2pIにおいて、ジモカルプス抽出物で処理した培養物では、未処理の感染培養物と比較して、有意に低いコピー数が先端側で測定された。
【0210】
図9のa)~d)に示した結果から、ジモカルプス抽出物は、試験濃度1%でd1pI(
図9aおよび9c参照)およびd2pI(
図9bおよび9d参照)において、感染培養物からの先端側ウイルス負荷/先端側で排泄されたウイルス粒子数を低下させることができた。
【0211】
インフルエンザA(H3N2)型およびインフルエンザB型に感染した上皮のd1pIおよびd2pIにおいて、ジモカルプスで処理した培養物では、未処理の感染培養物と比較して、有意に低いコピー数が基底側でも測定された。
【0212】
図10a)~10c)に示した結果から、ジモカルプス抽出物は、試験濃度1%でd1pI(
図10a参照)およびd2pI(
図10bおよび10c参照)において、感染培養物からの基底側ウイルス負荷/基底側で排泄されたウイルス粒子数を低下させることができた。d1pPの基底側に排泄されたインフルエンザウイルスB型粒子のコピー数は、検出限界の50コピー/μl以下であった。
【0213】
以上のことから、本発明のジモカルプス抽出物の局所投与により、インフルエンザウイルスA型およびB型の感染から組織の完全性が保護され、新しいウイルス粒子の細胞内形成とその排泄が防止された。
【0214】
従って、本発明者らは、ジモカルプス抽出物を含む本発明による組成物の局所投与が、以下のことを実証することができた。
- 抗ウイルス活性を示し、感染を減少させる。
- エンベロープウイルスの粘膜上皮表面への結合を阻害することにより、SARS-CoV-2などのエンベロープウイルスが(上)気道上皮細胞の内壁に侵入するのを防ぐ。
- 炎症性サイトカインを発現低下させ、自然免疫系を調節する効果があり、サイトカインストーム、C3aによる肺組織の破壊を防ぎ、感染後の組織損傷を防ぐ。
- 繊毛運動とリズミカルな拍動による(ウイルス)粒子の輸送に好影響を与え、繊毛運動を刺激してMCCを促進する。
- 保湿効果がある。
【0215】
本明細書では、本発明を特定の実施形態を参照して説明するが、当業者にとって明らかな変更および改良は本発明の範囲に含まれる。
本出願において引用されたすべての文献(特許文献およびその他の文献)の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】