(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ナノ孔の製造方法
(51)【国際特許分類】
B81C 1/00 20060101AFI20241219BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B81C1/00
B81B1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534467
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-08-06
(86)【国際出願番号】 AU2022051467
(87)【国際公開番号】W WO2023102607
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524217300
【氏名又は名称】オーストラリアン ナショナル ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】AUSTRALIAN NATIONAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ダット,シャンカール
(72)【発明者】
【氏名】ノットホフ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クルス,パトリック
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA18
3C081BA24
3C081CA15
3C081CA17
3C081DA29
3C081EA37
(57)【要約】
材料中にナノ孔を製造する方法であって、材料に放射線を照射して、材料中に損傷トラックを作成し、その損傷トラックが1つ又は複数のナノメートルスケールのサイズを有する放射線照射ステップと、エッチング剤を用いて損傷トラックをエッチングし、ナノ孔を生成するトラックエッチングステップとを含む方法。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料中にナノ孔を製造する方法であって、
前記材料に放射線を照射して前記材料中に1つ又は複数のナノメートルスケールのサイズを有する損傷トラックを作成する、放射線照射ステップと、
エッチング剤を用いて前記損傷トラックをエッチングしてナノ孔を生成する、エッチングステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記放射線照射ステップがイオン照射を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射線照射ステップが高速重イオン照射であるイオン照射を含み、前記損傷トラックがイオントラックを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記材料が膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記膜の厚さが10マイクロメートルに達する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記膜の厚さが少なくとも10ナノメートルである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記膜の面積が25平方ミリメートルに達する、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記膜の面積が少なくとも0.0001平方ミリメートルである、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記材料の成分が1種又は複数種の非晶質無機材料を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記材料の成分がシリコン系である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記材料の成分が非晶質シリコンを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記材料の成分が1種又は複数種の無機酸化物材料を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記材料の成分が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化ハフニウム、ハフニウムケイ素酸化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化スズのうち1種類又は複数種を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記エッチング剤が水溶性アルカリ水酸化物を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記エッチング剤が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、及び水酸化セシウムから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エッチング剤がヒドラジン及び二フルオロキセノンから選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エッチング剤がさらにフッ化水素を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の方法で形成されたナノ孔の幾何学的形状を調整するプロセスであって、
(1)前記材料の成分、及び前記材料の屈折率、及び/又は(2)エッチングステップにおける、エッチング温度、エッチング剤成分、及びエッチング剤濃度のうち1つ又は複数のパラメータを制御すること、
を含む、前記ナノ孔の幾何学的形状を調整するプロセス。
【請求項19】
前記ナノ孔の幾何学的形状が1つ又は複数の円錐角、半径及び対称性を含む、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記エッチング温度を上げることで前記ナノ孔の円錐角を選択的に減少させる、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記エッチング剤濃度を上げることで前記ナノ孔の円錐角を選択的に増加させる、請求項19に記載のプロセス。
【請求項22】
前記エッチング温度を上げることで前記ナノ孔の半径を選択的に増加させる、請求項19に記載のプロセス。
【請求項23】
前記エッチング剤濃度を上げることで前記ナノ孔の半径を選択的に増加させる、請求項19に記載のプロセス。
【請求項24】
請求項1~17のいずれか1項に記載の方法を用いて製造された1つ又は複数のナノ孔を含む膜。
【請求項25】
請求項18~23のいずれか1項に記載のプロセスを用いて調整された1つ又は複数のナノ孔を含む膜。
【請求項26】
1つ又は複数のナノ孔を有する膜であって、
前記膜の成分が、非晶質シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化ハフニウム、ハフニウムケイ素酸化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化スズのうち1種又は複数種の材料を含み、
前記1つ又は複数のナノ孔の幾何学的形状が円錐形状である膜。
【請求項27】
前記ナノ孔の密度が1平方センチメートルあたり1個以上1010個以下である、請求項24~26のいずれか1項に記載の膜。
【請求項28】
前記1つ又は複数のナノ孔の幾何学的形状が単円錐形、漏斗形、対称両円錐形又は非対称両円錐形である、請求項24~27のいずれか1項に記載の膜。
【請求項29】
前記膜の厚さが20ナノメートル以上10000ナノメートル以下である、請求項24~28のいずれか1項に記載の膜。
【請求項30】
前記膜の面積が0.0001平方ミリメートル以上25平方ミリメートル以下である、請求項24~29のいずれか1項に記載の膜。
【請求項31】
前記膜が多層である、請求項4に記載の方法。
【請求項32】
前記膜が酸化ケイ素層及び/又は酸窒化ケイ素層の間にドープされたシリコン層を含む半導体を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ナノ孔がゲートナノ孔である、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料中にナノ孔を製造する方法に関し、特にその方法により製造されたナノ孔を有する膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ孔は、ナノスケールのサイズを有する孔や空洞である。ナノ孔は、膜などの材料中の狭いチャネルに含まれ、その一つ以上の次元がナノスケールの範囲にある。ナノ孔は、生体システム中にも見られ、例えば細胞膜の脂質二重層などに存在する。また、ナノ孔は人工的に製造され、多くの用途に利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
膜は、ある物質(分子やイオンなど)を選択的に通過させ、他の物質を通過させないバリアであり、膜材料の特性やナノ孔などの機能要素によって決まる。ナノ孔膜は、ナノ孔を一つ以上有する膜であり、現在、ろ過、生体及び化学センサリング、サイズ選択的イオン輸送、淡水化、イオンポンプ、分子ふるい、タンパク質検出、ガスセンサリング、ナノフルイディクス、DNAシークエンシング、生体電子工学など多くの用途に使用されている。ナノ孔膜はまた、イオン電流整流(ICR)にも使用されており、ナノ孔が電解質中に浸漬されると、電子ダイオードのように振る舞い、膜を横切るバイアス極性の異なる方向により効果的にイオンを輸送する。ナノ孔膜の産業利用も増加している。なお、本明細書では主にシリコン系のナノ孔膜の製造に焦点を当てるが、本発明はこのような成分の膜に限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、材料中においてトラックエッチングプロセスを使用してナノ孔を製造するための研究及び開発を行った。ある実施形態では、材料は無機材料、特にシリコン系の材料を含むことができる。また別の実施形態では、材料は有機材料を含むことができる。トラックエッチングプロセスにおいて、膜は放射線照射され、材料中に長くて狭い損傷トラックを作成する。これらの損傷領域は、未損傷の材料に比べて適切な化学エッチング剤に対して敏感であることが多い。この損傷トラックと未損傷材料の間の化学エッチング速度の差異により、ナノ孔が形成される。
【0005】
第1の側面において、材料中にナノ孔を製造する方法が開示されている。この方法は、材料に放射線を照射し、材料中にナノメートルスケールのサイズを有する損傷トラックを作成する放射線照射ステップと、エッチング剤を用いて損傷トラックをエッチングし、ナノ孔を生成するトラックエッチングステップとを含む。
【0006】
放射線照射ステップは、高エネルギー放射線照射を含むことができる。ある実施形態では、放射線照射ステップはイオン放射線照射を含むことができる。イオン放射線照射は、高速重イオン放射線照射を含むことができる。イオン放射線照射は、材料中に沿ってイオントラックを形成する。これらのイオントラックは、未損傷の材料に対して優先的にエッチングされる損傷領域である。イオントラックは、直径が約3~15ナノメートルで、長さが10~100マイクロメートルの範囲である。
【0007】
放射線照射ステップは、膜中のナノ孔の数を決定する。膜に衝突するイオンの数は、ナノ孔の数に変換される。重イオンはケイ素(Si)よりも重いイオンである。重イオンのエネルギーは10MeVを超えることができる。重イオンにはキセノン(Xe)イオンや金(Au)イオンが含まれる。ある実施形態では、材料は200MeVのキセノンイオンで照射される。別の実施形態では、材料は89MeVの金イオンで照射される。さらに別の実施形態では、材料は185MeVの金イオンで照射される。また、1.6GeVの金イオンで照射される実施形態もある。
【0008】
他の実施形態では、放射線照射ステップにはレーザー放射線照射が含まれることができる。レーザー放射線照射は、材料中にレーザートラックを形成する。
【0009】
放射線照射ステップは、材料中に形成されるナノ孔の数を決定する。イオン放射線照射の場合、材料に衝突するイオンの数は、エッチングにより形成されるナノ孔の数に変換される。ナノ孔の密度は、単一ナノ孔から1平方センチメートルあたり約1010個のナノ孔まで変化することができる。
【0010】
材料は膜を含むことができる。膜の厚さは、ナノ孔膜の予想される機能及び用途に依存する。例えば、比較的薄いナノ孔膜(<100nm)は、DNA及びタンパク質センサリング用途に適しており、比較的厚い膜は、流体圧力に耐える必要があるため、ろ過目的に適している。ある実施形態では、膜の厚さは50ナノメートル未満であり、例えば30ナノメートル未満である。膜の厚さは1ナノメートルまで低くなることができる。例えば、1.5ナノメートル又はそれ以上である。比較的薄い膜は、比較的厚い膜に比べて、信号対雑音比(SNR)が高く、捕獲半径が大きいため、通常、高い分解能の測定結果を得るための前提条件と見なされる。ナノ孔技術がシークエンシングにますます向かう中で、薄膜の製造が理想的である。
【0011】
膜の厚さは10マイクロメートルに達することができる。膜の厚さは少なくとも10ナノメートルである。ある実施形態では、膜の表面積は25平方ミリメートルに達する。最小表面積は0.0001平方ミリメートルである。
【0012】
材料の成分は、非晶質無機材料を1種類又は複数含むことができる。非晶質固体/材料は、非晶質固体であり、すなわち、原子/分子が特定のパターンに従って配置されていない固体である。材料の成分は、シリコン系であることができる。材料の成分は、非晶質シリコンを含むことができる。材料の成分は、無機酸化物材料を1種類又は複数含むことができる。材料の成分は、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化ハフニウム、ハフニウムケイ素酸化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化スズのうち1種類又は複数を含むことができる。
【0013】
ある実施形態では、膜材料層はダイヤモンドを含むことができる。
【0014】
本発明の焦点は、シリコン系の材料中にナノ孔を形成することである。特に、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素に関心がある。二酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素は、その卓越した機械的性能により、シリコンマイクロエレクトロニクスにおいて使用される重要な無機材料として知られている。二酸化ケイ素及び酸窒化ケイ素膜は、その優れた機械的及び化学的耐性、高温耐性、高密度、無視できる漏れ電流などの特性により、化学及び/又は生体センサとして優れた候補材料である。酸窒化ケイ素はまた、光学センサに広く使用されている。
【0015】
膜が窒化ケイ素を含む場合、それはほぼ化学量論的なSiXNY(X~3かつY~4)を含むことができる。
【0016】
酸窒化ケイ素は、二酸化ケイ素と窒化ケイ素の間の成分を持つ非晶質材料である。多くの光学センサ用途において、この材料は興味深いものであり、その多くの特性は酸素及び/又は窒素の含有量を変えることによって変化させることができる。酸素と窒素の含有比を変えることにより、膜の屈折率を1.45から2.1まで簡単に調整することができる。この特性は生体光学センサに非常に有用である。
【0017】
材料の成分が二酸化ケイ素である場合、その材料は熱酸化物(すなわち、熱酸化によって生成される二酸化ケイ素)を含むことができる。又は、材料はプラズマ増強化学気相成長(PECVD)によって形成することができる。
【0018】
ある実施形態では、材料は単一材料である。別の実施形態では、材料は複合材料である。複合材料は、異なる物理的及び/又は化学的特性を持つ2種類以上の材料を組み合わせることによって形成される材料である。得られた複合材料は、単独の材料成分とは異なる物理的及び/又は化学的特性を示す。
【0019】
ある実施形態では、材料は異なる材料の組み合わせである。異なる材料を組み合わせることにより、より良いろ過性能を持つ双極ナノ孔を製造することができる。さらに、このような双極ナノ孔は、ナノフルイディックダイオードとして使用することができ、溶液相中でロジックゲートを作成し、生体プロセスを模倣することができる。
【0020】
ある実施形態では、膜材料層は単一材料成分から形成された単層である。他の実施形態では、膜材料層は多層である。膜材料層は、異なる成分を持つ2層又はそれ以上の子層を含むことができる。層は、シリコン、二酸化ケイ素及び/又は酸窒化ケイ素を含むことができる。ある実施形態では、膜材料層は、1種類又は複数の非晶質無機材料とナノ粒子の組み合わせから形成されている。得られた膜は、光学及び光電子デバイスにおいて多くの用途を持ち、光と物質の相互作用を操作するために使用することができる。
【0021】
ある実施形態では、膜材料層は、1種類又は複数のシリコン系の無機材料とナノ粒子の組み合わせから形成されている。ある実施形態では、膜材料層は、1種類又は複数の無機酸化物材料とナノ粒子の組み合わせから形成されている。ナノ粒子は無機ナノ粒子であることができる。ナノ粒子は金属ナノ粒子であることができる。ある実施形態では、ナノ粒子は金ナノ粒子である。別の実施形態では、ナノ粒子は銀ナノ粒子である。さらに別の実施形態では、ナノ粒子は銅ナノ粒子である。
【0022】
ナノ粒子は球形及び/又は延長形状であることができる。ある実施形態では、膜材料層は1種類の金属ナノ粒子を含む。別の実施形態では、膜材料層は2種類以上の金属ナノ粒子を含む。ある実施形態では、ナノ粒子は膜材料層に分散されている。別の実施形態では、ナノ粒子は上記のいずれかの材料の2層間に提供されている(例えば、埋め込まれている)。
【0023】
ある実施形態では、膜材料層は無機酸化物と金ナノ粒子を含む。別の実施形態では、膜材料層は二酸化ケイ素と金ナノ粒子を含む。さらに別の実施形態では、膜材料層は窒化ケイ素と金ナノ粒子を含む。また、膜材料層は酸窒化ケイ素と金ナノ粒子を含む実施形態もある。
【0024】
エッチングステップ中の温度、エッチング剤の成分、エッチング剤濃度、材料の成分、密度及び形態などのパラメータを制御して、上述の方法により形成されるナノ孔の幾何学的形状を調整するプロセスが開示されている。本明細書において、「ナノ孔の幾何学的形状」とは、ナノ孔の全体的な形状及びサイズを指す。幾何学的形状には、円錐角、半径及び対称性などのパラメータが含まれる。対称性には、ナノ孔が円錐体及び円柱体の組み合わせであるか、又は異なる円錐角を有する2つの円錐体の組み合わせであるかが含まれる。
【0025】
本明細書において、「円錐角」又は「円錐開口角」は、ナノ孔の頂点及び基底中心に沿った断面で形成される側壁の角度を指す。「半円錐角」は円錐角の半分であり、すなわち円錐体軸とナノ孔側壁の間の角度である。類似の円柱孔膜と比較して、円錐形ナノ孔は膜の輸送速度を高め、生体及び化学センサリング用途においてより高い感度を提供する。さらに、適切なサイズにより、円錐形及び砂時計形(両円錐形)ナノ孔は、ナノフィルタリング及びイオン電流整流特性を示すことができる。これらのナノ孔は、孔を通過する選択的な電荷イオン輸送を可能にする。また、溶液が孔の先端又は基部から流入するかどうかに基づいて、異なるイオンを排除することができる。
【0026】
本明細書において、「半径」とはナノ孔の最大半径を指す。ナノ孔が円錐形(又は切頭円錐形)形状を有する場合、半径は円錐体の基底半径を指す。ナノ孔が円錐形又は切頭円錐形形状を有する場合、2つの半径があり、すなわち最大(又は基底)半径と最小(又は先端)半径である。ただし、特に明記されていない限り、本明細書における「半径」は円錐形又は切頭円錐形ナノ孔の最大(又は基底)半径を指す。
【0027】
ナノ孔のサイズ及び円錐角は、ナノ孔のセンサリング性能に影響を与える。円錐角が増大するにつれて、有効孔長が減少し(より高いフラックスを提供)、捕獲半径が増大するため、これらのナノ孔は分子センサリング、タンパク質検出及びDNAシークエンシングに非常に適している。数値シミュレーションによれば、円錐角及びナノ孔の高さを変えることにより、イオン電流整流特性、インピーダンスパルスセンサリングなどの性能を変更することができることが示されている。したがって、円錐角を調整することにより、特定の用途要求に適したナノ孔を製造することができる。
【0028】
本明細書において、「調整可能」とは、ナノ孔の1つ以上のパラメータを変更できることを意味する。換言すれば、調整可能とは、特定の用途に応じてナノ孔の形状及び/又は構造及び/又はサイズを調整できることを意味する。
【0029】
ある実施形態では、ナノ孔の幾何学的形状の調整ステップは、ナノ孔の1つ又は複数の円錐角、半径及び対称性を調整することを含む。
【0030】
材料の成分、エッチング剤の成分、エッチング剤濃度及びエッチング時間が特定の場合、エッチング温度の上昇に伴い、ナノ孔の円錐角が減少し、及び/又はナノ孔の半径が増加する。
【0031】
材料の成分、エッチング剤の成分、温度及びエッチング時間が特定の場合、エッチング剤濃度の増加に伴い、ナノ孔の円錐角が増加し、及び/又はナノ孔の半径が増加する。
【0032】
材料の成分も変化させることができる。例えば、PECVD成長の酸化ケイ素膜の化学量論及び密度を変更することにより、ナノ孔のサイズを調整することができる。さらに、膜が酸窒化ケイ素を含む場合、酸素と窒素の含有比を変えることにより、膜の屈折率を1.45から2.1まで調整でき、これも形成されたナノ孔の幾何学的形状に影響を与える。
【0033】
上記の関係は、ナノ孔の幾何学的形状の調整に使用することができる。例えば、より低いナノ孔の円錐角が必要な場合、比較的高いエッチング温度及び/又は比較的低いエッチング剤濃度でエッチングステップを実施することができる。別の例では、より大きいナノ孔の半径が必要な場合、比較的高いエッチング温度及び/又は比較的高いエッチング剤濃度でエッチングステップを実施することができる。
【0034】
ナノ孔の円錐角は約3度から110度まで調整することができる。ある実施形態では、ナノ孔の円錐角は約10度から110度まで調整することができる。したがって、半円錐角は約1.5度から55度まで調整することができ、例えば5度から55度まで調整することができる。ある実施形態では、半円錐角は約25度から約55度まで調整することができる。
【0035】
ナノ孔の半径及び深さも用途の要求に応じて調整することができる。ナノ孔の半径及び深さは約20ナノメートルから数マイクロメートルまで変化することができる。ある実施形態では、ナノ孔の深さは最大10マイクロメートルである。
【0036】
エッチング剤の組み合わせを使用することにより、ナノ孔の全体的な幾何学的形状を調整することができる。例えば、湿式フッ化水素(HF)及び蒸気フッ化水素の組み合わせを使用して、全体的に漏斗形のナノ孔を製造することができる。湿式フッ化水素エッチングを使用して漏斗形ナノ孔の円錐形部分を製造し、蒸気フッ化水素エッチングを使用してナノ孔の円柱形部分を製造する。注目すべき点は、漏斗形ナノ孔の円錐形部分もアルカリ水酸化物エッチング剤を使用して製造することができ、円柱形部分は蒸気フッ化水素を使用して製造することができる。
【0037】
異なる幾何学的形状を有するナノ孔の用途の例をいくつか示す。
【0038】
単円錐形ナノ孔は、例えば電動塩通量整流(electrically driven salt flux rectification)に使用され、ナノフィルタリング、エネルギー生成、イオンポンプなどの分野に応用される。固有の整流特性により、円錐形ナノ孔は円柱形ナノ孔に比べて多くの利点を有する。例えば、円柱形ナノ孔では制限拡散がナノ孔の全長にわたって発生するが、円錐形ナノ孔では制限拡散が孔の先端でのみ発生する。したがって、円錐形ナノ孔膜は円柱形ナノ孔膜に比べてより高い通量/流量を示し、タンパク質、生体分子などをより高速かつ効果的に分離することができる。これらの円錐形ナノ孔の利点は、その円錐角のサイズに依存し、円錐角が大きくなるにつれて効果が増大する。したがって、円錐角を調整し、大きな円錐角を有するナノ孔を製造することにより、前述のすべての用途において大きな潜在的利点を有するナノ孔を製造することができる。
【0039】
対称両円錐形ナノ孔は、特にろ過用途に適している。同じ長さの単円錐形ナノ孔と比較して、操作分離に必要な駆動力が低い。さらに、ナノ孔の一部を機能化することや、2種類の異なる酸化物で構成されるナノ孔を製造することにより、両円錐形ナノ孔はロジックゲートやナノフルイディックダイオードとして使用することができる。
【0040】
漏斗形ナノ孔はバイオミメティックであり(例えば、人体内の塩化物輸送に使用される類似のナノ孔形状)、高い整流比を持ち、より高い非対称イオン輸送を実現することができる。これらのナノ孔はまた、光伝達効率を向上させる。漏斗形ナノ孔は、材料、電子及び生命科学の分野での用途に特に適している。
【0041】
非対称両円錐形ナノ孔は、非対称イオン輸送に特に適している。異なる円錐角及び/又は形状を有するため、外部駆動力がなくても、これらのナノ孔は非対称イオン輸送に使用することができる。たとえ電力などの駆動力があっても、これらのナノ孔は一方のイオンが溶液の一方から流出し、他方のイオンが溶液の他方から流出することを許容する。
【0042】
上記の用途例に加えて、すべてのナノ孔は、異なる形状のナノワイヤを合成するためのテンプレートとして使用することができる。
【発明の効果】
【0043】
したがって、本発明により、ナノ孔膜の製造が可能となり、以下の利点が提供される。
有毒で危険なエッチング剤(例えばフッ化水素)の使用を回避又は少なくとも減少させる。フッ化水素を唯一のエッチング剤として使用すると、ナノ孔の幾何学的形状が大幅に制限される。例えば、フッ化水素だけをエッチング剤として使用すると、円錐形(又は切頭円錐形)又は漏斗形の孔を製造し、円錐形/漏斗形ナノ孔の開口角(円錐角とも呼ばれる)を変更することはできない。
低毒性のエッチング剤を使用し、その成分及び/又は濃度を変更してナノ孔の幾何学的形状を調整することができる。
材料の成分、エッチング温度、エッチング剤の成分及び濃度を変更することにより、ナノ孔を高度に調整することができる。
高い拡張性。イオン照射プロセスは高い拡張性を有し、照射領域を数マイクロメートルから数メートルまで簡単に変更することができる。また、ナノ孔の数は単一ナノ孔から1平方センチメートルあたり1010個のナノ孔まで変化させることができる。エッチングプロセスも高い拡張性を有し、数千枚の膜を一度にエッチングすることができる。
本プロセスはCMOS(相補型金属酸化膜半導体)製造プロセスと互換性があり、産業的に実現可能なプロセスであり、さまざまなデバイスに統合することができる。
本プロセスは高い信頼性を有し、高い再現性を持つ。
化学及び生物センサリング、サイズ及び電荷選択的イオン輸送、水の淡水化、イオンポンプ、DNAシークエンシング、分子ふるい、水のろ過、タンパク質の分離及び検出、ヘルスモニタリングなど、多くの潜在的用途が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1a】本発明の製造プロセスの実施例を示す概略図であり、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)及びその組み合わせをエッチング剤として使用した場合の調整可能なナノ孔の製造プロセスを示す図である。
【
図1b】本発明の製造プロセスの実施例を示す概略図であり、湿式及び蒸気フッ化水素エッチングの組み合わせを使用して実際の漏斗形ナノ孔を製造するプロセスを示す図である。
【
図2】本発明の膜の実施例の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。(a)は、薄い酸化ケイ素膜中の大量のナノ孔のSEM画像を示す図である。(b)は、酸窒化ケイ素膜中の片側エッチングされた円錐形ナノ孔の上面視SEM画像を示す図である。(c)は、酸化ケイ素膜中の片側エッチングされた円錐形ナノ孔の断面SEM画像を示す図である。(d)は、酸化ケイ素膜中の両側エッチングされた円錐形ナノ孔の断面SEM画像を示す図である。
【
図3】(a)は70℃(四角)、80℃(丸)及び90℃(三角)の温度下でエッチング時間がナノ孔半径の関数として変化するグラフである。また、(b)はエッチング温度がナノ孔の半円錐角に対する影響を示すグラフである。
【
図4】実施例1の径方向エッチング速度のアレニウスプロットを示すグラフである。点線はデータの線形フィットを示し、エッチングの活性化エネルギーを示す。
【
図5】(a)は、エッチング時間がナノ孔半径の関数として変化するグラフである。エッチング温度は一定の80℃で、エッチング剤濃度は1M(四角)、3M(丸)、6M(三角)及び9M(逆三角)である。(b)は、エッチング速度をエッチング剤濃度の関数としてプロットしたグラフである。
【
図6】実施例2のエッチング剤濃度がナノ孔の半円錐角に与える影響を示すグラフである。
【
図7】実施例4の異なる酸窒化ケイ素膜の屈折率がナノ孔半径に与える影響を示すグラフである。
【
図8】漏斗形ナノ孔の上面視(a)及び断面視(b)のSEM画像を示す図である。
【
図9】対称及び非対称の両円錐形ゲートナノ孔の製造プロセスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に示す詳細な説明は、図面を参照しつつ、例示的な実施形態について説明するものである。例示的実施形態及び図面の説明、並びに請求項に記載された定義は制限を意図するものではない。本発明は他の実施形態で利用可能であり、本発明の主題の本質及び範囲から逸脱しない限り、他の変更が可能である。本発明の各側面は、本文に記載された一般的な方法及び図面に示された具体的な方法で配置、置換、組み合わせ、分離及び設計することができる。多くの異なる構成が考えられる。
【0046】
まず、
図1a及び
図1bを参照する。示されているのは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及びその組み合わせをエッチング剤として使用して調整可能なナノ孔を製造するプロセスの概略図である。
図1aはそのプロセスを説明し、この方法で製造可能なさまざまなナノ孔形状を示している。膜は酸化ケイ素又は酸窒化ケイ素で構成され、各膜はシリコンフレーム上に支持されている。膜は高速重イオン照射により各膜中にイオントラックを形成する。その後、各膜は異なるエッチング剤及び/又は異なるエッチング条件下でエッチングされる。特定のエッチング剤又はエッチング条件に応じて、単円錐形、漏斗形、対称両円錐形及び非対称両円錐形を含むさまざまなナノ孔の幾何学的形状が製造される。
【0047】
図1bは、湿式及び蒸気フッ化水素エッチングの組み合わせを使用して、これらの膜中に漏斗形ナノ孔を製造するプロセスを説明している。湿式フッ化水素エッチングを使用して漏斗形ナノ孔の円錐形部分を製造し、蒸気フッ化水素エッチングを使用してナノ孔の円柱形部分を製造する。注目すべき点は、ナノ孔の円錐形部分もアルカリ性水酸化物エッチング剤を使用して製造することができ、円柱形部分は蒸気フッ化水素を使用して製造することができる。
【0048】
図1a及び
図1bは、単円錐形、両円錐形、漏斗形、対称及び非対称ナノ孔を含むさまざまなナノ孔の幾何学的形状の製造を説明している。各異なるナノ孔形状は、異なる用途を持つ可能性がある。例えば、単円錐形ナノ孔は電動塩通量整流(electrically driven salt flux rectification)に使用され、ナノフィルタリング、エネルギー生成、イオンポンプなどの分野に応用される。固有の整流特性により、円錐形ナノ孔は円柱形ナノ孔に比べて多くの利点を有する。例えば、円柱形ナノ孔では制限拡散がナノ孔の全長にわたって発生するが、円錐形ナノ孔では制限拡散が孔の先端でのみ発生する。したがって、円錐形ナノ孔膜は円柱形ナノ孔膜に比べてより高い通量/流量を示し、タンパク質、生体分子などをより高速かつ効果的に分離することができる。これらの円錐形ナノ孔の利点は、その円錐角のサイズに依存し、円錐角が大きくなるにつれて効果が増大する。したがって、円錐角を調整し、大きな円錐角を有するナノ孔を製造することにより、前述のすべての用途において大きな潜在的利点を有するナノ孔を製造することができる。
【0049】
対称両円錐形ナノ孔は、特にろ過用途に適している。同じ長さの単円錐形ナノ孔と比較して、操作分離に必要な駆動力が低い。さらに、ナノ孔の一部を機能化することや、2種類の異なる酸化物で構成されるナノ孔を製造することにより、両円錐形ナノ孔はロジックゲートやナノフルイディックダイオードとして使用することができる。
【0050】
漏斗形ナノ孔はバイオミメティックであり(例えば、人体内の塩化物輸送に使用される類似のナノ孔形状)、高い整流比を持ち、より高い非対称イオン輸送を実現することができる。これらのナノ孔はまた、光伝達効率を向上させる。漏斗形ナノ孔は、材料、電子及び生命科学の分野での用途に特に適している。
【0051】
非対称両円錐形ナノ孔は、非対称イオン輸送に特に適している。異なる円錐角及び/又は形状を有するため、外部駆動力がなくても、これらのナノ孔は非対称イオン輸送に使用することができる。たとえ電力などの駆動力があっても、これらのナノ孔は一方のイオンが溶液の一方から流出し、他方のイオンが溶液の他方から流出することを許容する。
【0052】
上記の用途例に加えて、すべてのナノ孔は、異なる形状のナノワイヤを合成するためのテンプレートとして使用することができる。
【0053】
図2は、本発明の方法に従って製造されたさまざまな膜サンプルの走査電子顕微鏡(SEM)画像を示している。
図2の(a)は、薄い酸化ケイ素膜中の多数の孔の側面図を示し、スケールバーの長さは1ミクロンである。
図2の(b)は、酸窒化ケイ素膜中の片側エッチングされた円錐形ナノ孔の上面SEM画像を示し、スケールバーの長さは4ミクロンである。
図2の(c)及び(d)は、それぞれ酸化ケイ素膜中の片側及び両側エッチングされた円錐形ナノ孔の断面SEM画像を示しており、スケールバーの長さは200ナノメートルである。
【実施例】
【0054】
ここでは、材料中にナノ孔を製造する方法の非制限的な実施例を説明する。
【0055】
実施例1~3
酸化ケイ素膜サンプルを用いてナノ孔を製造する。膜の表面積は300μm×300μm、厚さは1μmである。膜は熱酸化物(すなわち熱酸化によって生成された酸化ケイ素)及びプラズマ強化化学気相成長(PECVD)によって生成された膜を含む。
【0056】
一部のサンプルは、カザフスタン核物理研究所のシンクロサイクロトロンU-150Mで200MeVのキセノンイオンを用いて照射され、一部はドイツのGSIヘルムホルツ重イオン研究センターのUNILAC線形加速器で1.6GeVの金イオンを用いて照射され、一部はオーストラリア国立大学の14UD加速器で185MeV及び89MeVの金イオンを用いて照射された。高速重イオン照射により、膜中に沿ってイオン軌跡を形成する長くて狭い損傷軌跡が生成される。これらの損傷領域は「イオントラック」と呼ばれ、直径は約3~15ナノメートルで、長さは10~100マイクロメートルの範囲であり、適切な化学エッチング剤に対して未損傷の材料よりも敏感である。イオントラックの化学エッチングにより、ナノ孔が形成される。
【0057】
次に、異なるエッチング剤を使用して、異なる濃度及び温度でサンプルをエッチングする。以下の実施例は、これらのパラメータの影響を説明する。
【0058】
実施例1:温度の影響
熱酸化ケイ素膜は、1.6GeVの金イオンを1平方センチメートルあたり108個のイオンの線量で照射される。6M水酸化カリウムをエッチング剤として使用し、膜中の損傷領域(イオントラック)をナノ孔にエッチングする。エッチング剤濃度は一定に保たれ、異なる温度でサンプルをエッチングして、ナノ孔膜のエッチング動力学に対する温度の影響を調査する。その後、エッチング後のサンプルをSEMで観察し、断面SEMイメージングを通じてナノ孔の半径と半円錐角を測定する。
【0059】
図3(a)は、SEMで観察されたナノ孔の半径をエッチング時間の関数として示している。サンプルは70℃、80℃、及び90℃の3つの異なる温度でエッチングされ、その間エッチング剤濃度は一定に保たれた。データの線形フィットにより、ナノ孔膜の半径方向エッチング速度が得られる。温度が上昇するにつれて、半径方向のエッチング速度が増加することが判明した。
【0060】
図3(b)は、エッチング温度が半円錐角に与える影響を示している。図に示されるように、温度が上昇するにつれて半円錐角が減少する。これは、温度が上昇するにつれて軸方向のエッチング速度が半径方向のエッチング速度よりも速く増加することを直接示している。
【0061】
測定結果は、温度の増加に伴う半径方向のエッチング速度がアレニウスの法則によって説明できることを示している(
図4参照)。このグラフから得られた活性化エネルギーは、6M水酸化カリウムを用いたエッチングの場合、Ea=(1.25±0.14)eVである。
【0062】
これらの結果は、トラックエッチング速度と半径方向エッチング速度の活性化エネルギーが異なることを示しており、これにより、異なる温度で異なる円錐角が得られることが分かる。したがって、処理温度を変更することで製造されたナノ孔の円錐角を調整できることが示唆される。したがって、処理温度の変更により、ナノ孔形状の高い調整可能性が実現される。
【0063】
実施例2:エッチング剤濃度の影響
4つの異なるエッチング剤濃度を使用してナノ孔を製造する。使用されるエッチング剤は、1M、3M、6M、及び9Mの水酸化カリウム溶液である。エッチング温度を80±1℃に一定に保ちながら、酸化ケイ素膜をエッチングする。
【0064】
図5(a)は、ナノ孔の半径を時間の関数として示している。データの線形フィットによりエッチング速度が得られ、
図5(b)にエッチング剤濃度の関数としてプロットされている。エッチング速度は、1M水酸化カリウムでの(0.99±0.03)nm/minから3M水酸化カリウムでの(1.97±0.06)nm/minに増加する。6M水酸化カリウムの場合、エッチング速度は(1.57±0.03)nm/minに減少し、その後9M水酸化カリウムの場合に(3.77±0.11)nm/minに増加する。
図6は、エッチング剤濃度が半円錐角に与える影響を示している。図に示されるように、エッチング剤濃度の増加に伴い、半円錐角が増加する。したがって、エッチング剤濃度の変更により、ナノ孔の形状とサイズを調整するための別の方法が提供される。これは重要であり、温度とエッチング剤濃度の影響を組み合わせることで、円錐角を微調整し、エッチング速度を増減し、円錐体のサイズを調整することができる。
【0065】
実施例3:膜成分と製造方法の影響
熱酸化物とPECVDによって成長させた酸化物の両方がナノ孔膜の製造に使用される。熱酸化物は高品質であり(欠陥が少なく、含水量が少なく、高密度で、優れた誘電特性を有するなど)、PECVD酸化物は膜の特性(化学量論、密度、屈折率、生成される応力など)を制御できる。PECVD酸化物は、多層構造にも統合できる。
【0066】
PECVD膜は650℃で堆積される。
【0067】
熱酸化物膜とPECVD酸化ケイ素膜で製造されたナノ孔には差異が見られる。80℃で3M水酸化カリウムを使用したエッチングでは、PECVD酸化ケイ素膜中の半円錐角は熱酸化物膜中の半円錐角の2倍以上である。さらに、PECVD膜のエッチング速度は高い。これらの結果は、これらの観察結果を操作して、ナノ孔の形状とサイズをさらに調整するための可能性を提供する。したがって、材料の成分、純度、及び/又は微視的構造特性を操作及び制御することにより、ナノ孔の幾何学的形状をさらに調整することができる。
【0068】
実施例4:酸窒化ケイ素中におけるナノ孔の形成
酸窒化ケイ素は、その成分が二酸化ケイ素と窒化ケイ素の間で変化する非晶質材料である。多くの光学センサ用途において、この材料は興味深いものであり、酸素及び/又は窒素の含有量を変えることにより、その多くの特性を変化させることができる。酸素と窒素の含有比を変えることにより、膜の屈折率を1.45から2.1まで簡単に調整することができる。この特性は生体光学センサに非常に有用である。PECVDを使用して、異なる屈折率及び成分を持つ酸窒化ケイ素膜を製造した(表1参照)。膜の屈折率は、エリプソメトリー反射データをTauc-Lorentzモデルに適合させることによって得られた。
【0069】
【0070】
サンプルは、カザフスタン核物理研究所のシンクロサイクロトロンU-150Mで200MeVのキセノンイオンを用いて照射された。その後、3M水酸化カリウムをエッチング剤として使用し、異なる酸窒化ケイ素膜を90℃で90分間エッチングした。
図7は、ナノ孔の半径を屈折率の関数として示している。エッチング速度は、最初に窒素含量の増加とともに増加し、その後減少する。また、膜成分の変化に伴い、円錐角が変化する。膜中の窒素含量が増加するにつれて円錐角は減少する。これにより、孔構造をさらに調整することが可能となる。これらの結果及び膜の特性を使用して、多層システムにおける光導波路の統合や、生体分子の光学的捕捉が可能となる。
【0071】
実施例5:組み合わせエッチング剤を使用したナノ孔の製造
水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムは、イオントラックのエッチングに使用されるエッチング剤として用いられる。前述のように、水酸化カリウムのエッチング濃度と温度の影響が議論された。水酸化ナトリウムのエッチングについても、類似の結果が観察された。例えば、90℃で3M水酸化ナトリウムを使用してエッチングされた熱シリコンサンプルのエッチング速度は(4.87±0.14)nm/min、半円錐角は(32.84±1.93)度である。提示された結果は、異なるエッチング剤の組み合わせ、異なる濃度のエッチング剤、及び異なる温度のエッチングを使用することにより、異なる形状及びサイズのナノ孔を製造できることを示している。これらの形状には、近似漏斗形孔及び非対称両円錐形ナノ孔が含まれる。
図8は、このような状況の一例を示している。(a)は漏斗形ナノ孔の上面視SEM画像を示し、(b)は断面視SEM画像を示している。これらのナノ孔は、最初に90℃で3M水酸化カリウムを使用して45分間エッチングされ、その後、室温で2.5%のフッ化水素を使用して10分間エッチングされて製造された。
【0072】
同様に、異なるエッチング剤の組み合わせを使用して、ナノ孔の形状及びサイズを製造及び微調整することができ、アプリケーションの要求に応じることができる。前述のように、湿式及び蒸気フッ化水素エッチング剤の組み合わせや、湿式及び蒸気フッ化水素エッチング剤の組み合わせを使用して、実際の漏斗形ナノ孔を製造することができる。水酸化カリウムとフッ化水素の組み合わせで製造された近似漏斗形ナノ孔及び湿式及び蒸気フッ化水素エッチング剤の組み合わせで製造された実際の漏斗形ナノ孔は、円錐形ナノ孔に比べてより優れた電流整流特性及び離子選択性を示す。漏斗形ナノ孔の円柱部分を変更することにより、電流整流因子を100%以上向上させることができる。
【0073】
実施例6:ゲートナノ孔の製造
酸化ケイ素層及び/又は酸窒化ケイ素層の間に高度にドープされたシリコンを含む多層膜を形成する。酸化ケイ素層及び/又は酸窒化ケイ素層の両側にあるドープシリコン層の厚さを調整することができる。
図9に示すように、イオン照射により多層膜中にイオントラックを形成し、その後、イオントラックをエッチングしてナノ孔を形成する。水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムはゲートナノ孔のエッチングに使用される。これらのエッチング剤は、酸化ケイ素層/酸窒化ケイ素層及び中間シリコン層中の損傷領域をエッチングするため、これらのナノ孔構造をエッチングすることができる。
図9は、対称及び非対称両円錐形ナノ孔の形成を示している。ナノ孔を形成した後、急速熱アニールを使用して孔内の露出したシリコン上に熱酸化層を成長させる。熱酸化層は絶縁層として機能し、実験(例えば、センサリング、イオン排除、分子ふるいなど)中にドープシリコンから溶液/電解質に電流が漏れるのを防ぐ。又は、原子層堆積などの堆積技術を使用して孔表面に薄い酸化ケイ素層を堆積し、ゲートを通る電流を防ぐことができる。
【0074】
多くの具体的な方法及び装置の実施例が説明されているが、これらの方法及び装置は他の多くの形態で実現可能であることを理解すべきである。
【0075】
以下の請求項及び前述の説明では、文脈が別途要求する場合を除き、「含む」及びその変形(「包含」又は「含む」など)の用語は包括的に使用され、記載された特徴の存在を指定するが、本明細書に開示されたさまざまな実施例において追加の特徴の存在又は追加を排除しない。
【0076】
オーストラリア又は海外で、本出願に基づいて又は優先権を主張して、さらに特許出願を行うことができる。本発明の範囲を制限することを意図せず、以下の請求項が例示的に提供されている。今後の出願において、特徴を追加又は省略して、発明又は発明内容をさらに定義又は再定義することができる。
【国際調査報告】