(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ルミネッセンスダイヤモンド及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/26 20170101AFI20241219BHJP
C04B 35/528 20060101ALI20241219BHJP
B01J 23/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C01B32/26
C04B35/528
B01J23/04 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534613
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 US2022052223
(87)【国際公開番号】W WO2023107602
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502210208
【氏名又は名称】シュルンベルジェ テクノロジー ビー ブイ
【氏名又は名称原語表記】Schlumberger Technology B.V.
【住所又は居所原語表記】Parkstraat 83-89,2514 JG The Hague,The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】バオ ヤーホワ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナップ ジェイ ダニエル
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC27A
4G146AC30A
4G146BA01
4G146BC11
4G146BC34A
4G146BC42
4G146BC43
4G146CB11
4G169AA02
4G169BB16A
4G169BC02A
4G169CB81
4G169DA04
4G169EA01X
(57)【要約】
ルミネッセンスダイヤモンドは、ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積に高圧/高温(HPHT)条件を受けさせて作製される。圧力装置及び/または圧力セルは、HPHT条件中にダイヤモンド体積に差圧または非対称圧力を加えるように特別に構成される。これにより、ダイヤモンド砥粒は、差ひずみを受け、差ひずみがダイヤモンド砥粒の塑性変形度を高め、窒素空孔中心の形成を増加させる。このようなプロセスによって形成され、差圧を受けたダイヤモンドペレットは、1より大きいアスペクト比またはアスペクト比の変化を有することができる。HPHTプロセスの温度が1,800℃以下であることにより、所望の窒素の移動が促進され、ダイヤモンドペレット内でNVN及びN3中心よりもNV中心の形成が優先的に促進され、何らかの他のHPHTプロセスによって形成されたダイヤモンドペレットよりも大きい、赤色波長スペクトル内の発光度が得られる。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルミネッセンスダイヤモンドを作製する方法であって、
前駆体ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積を圧力セル内に配置する工程と、
前記圧力セルが高圧/高温条件を受けて、差ひずみを受ける1つ以上のダイヤモンドペレットを形成する工程と、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記圧力セルが高圧/高温条件を受ける工程は、前記前駆体ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積に軸方向圧力及び半径方向圧力を加える工程を含み、
前記軸方向圧力は、前記半径方向圧力とは異なり、前記1つ以上のダイヤモンドペレット上に前記差ひずみを与える
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記軸方向圧力は、前記半径方向圧力より大きく、
結果として得られる前記1つ以上のダイヤモンドペレットは、軸方向に負のひずみ、及び半径方向に正のひずみを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記半径方向圧力は、前記軸方向圧力より大きく、
前記1つ以上のダイヤモンドペレットは、半径方向に負のひずみ、及び軸方向に正のひずみを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記圧力セルが高圧/高温条件を受けることに起因する前記1つ以上のダイヤモンドペレットは、半径方向寸法と軸方向寸法との間で測定された、1より大きいアスペクト比を有する、またはアスペクト比の変化を受ける
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記圧力セルが高圧/高温条件を受ける工程は、前記圧力セルを使用して、前記前駆体ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積上に前記半径方向圧力とは異なる軸方向圧力を加える工程を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記圧力セルが高圧/高温条件を受ける工程は、圧力装置を使用して前記圧力セルに圧力による力を加える工程を含み、
前記圧力装置は、前記圧力セル上に半径方向圧力とは異なる軸方向圧力を加えるように構成される
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記圧力セルが高圧/高温条件を受ける工程は、1,800℃以下の温度で実行される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記圧力セルが高圧/高温条件を受ける工程は、前記ダイヤモンド砥粒に塑性変形を受けさせて、窒素空孔中心の形成を促進する空孔を生成させる工程を含み、
結果として得られる前記ダイヤモンドペレットは、高圧/高温条件中に非差ひずみを受けたダイヤモンドペレットよりも大きい赤色波長スペクトル内のルミネッセンスを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ダイヤモンドペレットであって、
前駆体ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積が高圧/高温条件を受けることで当該ダイヤモンドペレットが差ひずみを受けるように形成され、
NVN中心、N3中心、またはNVN中心及びN3中心の組み合わせ、と比較した場合、より大きい数または濃度のNV中心を有する窒素空孔中心を備える
ことを特徴とするダイヤモンドペレット。
【請求項11】
前記ダイヤモンドペレットは、軸方向または半径方向寸法のうちの1つに沿って取られる正のひずみを有し、前記軸方向または半径方向寸法のうちのもう1つに沿って取られる負のひずみを有する
ことを特徴とする請求項10に記載のダイヤモンドペレット。
【請求項12】
前記ダイヤモンドペレットは、半径方向寸法と軸方向寸法との間で測定された、1より大きいアスペクト比を有する
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載のダイヤモンドペレット。
【請求項13】
前記ダイヤモンドペレットは、緑色波長スペクトルよりも赤色波長スペクトルの内でより大きい発光度で発光する
ことを特徴とする請求項10または請求項11もしくは12に記載のダイヤモンドペレット。
【請求項14】
ダイヤモンドペレットを作製するための方法であって、
ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積が高圧/高温プロセスを受けて、前記ダイヤモンドペレットを製造する工程を含み、
前記高圧/高温プロセス中に、前記ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積は、半径方向圧力とは異なる軸方向圧力を含む差圧を受け、
前記差圧は、前記軸方向及び半径方向圧力がほぼ等しくなる、高圧/高温プロセスよりも大きい塑性変形度を前記ダイヤモンドペレット内に引き起こす
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記差圧は、前記ダイヤモンドペレットに、1つの寸法では正、及び別の寸法では負である差ひずみを受けさせる
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ダイヤモンドペレットは、NVN中心、N3中心、またはNVN中心及びN3中心の両方、よりも大きい数または濃度のNV中心を有する
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ダイヤモンドペレットは、緑色波長スペクトルよりも赤色波長スペクトル内でより大きい発光量を発光する
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積は、前記差圧を与えるように構成された圧力セル内にある
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記ダイヤモンド砥粒の体積は、圧力装置に入れられた圧力セル内にあり、
前記圧力装置は、前記差圧の少なくとも一部を与えるように構成される
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記ダイヤモンドペレットは、前記ダイヤモンドペレットの垂直方向寸法の間で測定された1より大きい、アスペクト比を有する、またはアスペクト比の変化を受ける
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項21】
高圧/高温プレスに使用するための圧力セルであって、
少なくとも1つの軸方向構成要素と、
少なくとも1つの半径方向構成要素と、
前記少なくとも1つの軸方向構成要素及び前記少なくとも1つの半径方向構成要素によって画定された内部チャンバと、
を備え、
前記少なくとも1つの軸方向構成要素及び前記少なくとも1つの半径方向構成要素は、前記少なくとも1つの軸方向構成要素及び前記少なくとも1つの半径方向構成要素の外面上への対称圧力から、前記内部チャンバ上に非対称的な軸方向及び半径方向圧力を生じるように構成される
ことを特徴とする圧力セル。
【請求項22】
前記少なくとも1つの軸方向構成要素は、非圧縮性材料を含む
ことを特徴とする請求項21に記載の圧力セル。
【請求項23】
前記少なくとも1つの半径方向構成要素は、ルースパウダーまたは造粒材料を含む
ことを特徴とする請求項21または請求項22に記載の圧力セル。
【請求項24】
高圧/高温プレスであって、
前記プレス内の圧力セル上で、軸方向圧力が半径方向圧力とは異なるように非対称圧力を加えるように構成された加圧構成要素を含む
ことを特徴とする高圧/高温プレス。
【請求項25】
前記加圧構成要素は、
アンビル、
加熱ユニット、または
電源、
のうちの少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項24に記載の高圧/高温プレス。
【請求項26】
温度センサ、
圧力センサ、または
前記圧力セル内の圧力もしくは温度のうちの少なくとも1つを制御するように配置されて設計されたコントローラ、
のうちの少なくとも1つを更に含む
ことを特徴とする請求項24または請求項25に記載の高圧/高温プレス。
【請求項27】
ルミネッセンスダイヤモンドペレットを作製する方法であって、
前駆体ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積を圧力セル内に配置する工程と、
前記圧力セルが高圧/高温条件を受けて、1つ以上のルミネッセンスダイヤモンドペレットを形成する工程であって、前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、約80wt%を超えるダイヤモンド含有量を有する工程と、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項28】
前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、約80~95wt%のダイヤモンド含有量を有する
ことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、約85wt%のダイヤモンド含有量を有する
ことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットを、約100ナノメートル以下の平均粒子径を有するナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子に縮小させる工程
を更に備えたことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記ナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子を溶液中で洗浄する工程
を更に備え、
前記溶液は、前記触媒材料を可溶化して、そこから除去する
ことを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記水性懸濁液は、緑色波長スペクトル内の約520~550ナノメートルの間の最大光発光強度を有する
ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記洗浄されたナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子を、約400~550℃の温度で熱処理する工程
を更に備えたことを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記ナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子の水性懸濁液を形成する工程
を更に備え、
前記水性懸濁液は、前記懸濁液の総重量に基づいて約0.1wt%のルミネッセンスダイヤモンドを含み、
前記懸濁液は、約510ナノメートルより大きい、473ナノメートルのレーザーの励起下の緑色波長スペクトル内の最大光発光強度を有する
ことを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項35】
ナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子の水性懸濁液を作製する方法であって、
高圧/高温プロセスによって形成されたルミネッセンスダイヤモンドペレットのサイズを、ナノメートルサイズの平均粒子径を有するルミネッセンスダイヤモンド粒子まで縮小させる工程であって、前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットを作製するために使用されたダイヤモンド及び触媒材料の総重量に基づいて、80~95wt%のダイヤモンド含有量を有する工程と、
除去のために前記触媒材料を可溶化する材料によって前記ナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子を洗浄する工程と、
前記洗浄されたナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子を熱処理する工程と、
前記熱処理されたナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子の量を水と組み合わせて、ナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子の水性懸濁液を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項36】
前記縮小させる工程中に、前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、約100ナノメートル以下の平均粒子径を有するルミネッセンスダイヤモンドまで縮小される
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、約85wt%のダイヤモンド含有量を有する
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記熱処理する工程中に、前記ナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子は400~550℃の温度を受ける
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記触媒材料は、炭酸ナトリウムであり、
前記洗浄する工程は、前記ルミネッセンスダイヤモンド粒子を水に曝露する工程を含む
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記ナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子の水性懸濁液は、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、約0.1wt%のナノメートルサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子を含む
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記水性懸濁液は、約510ナノメートルを超える、473ナノメートルのレーザーの励起下で緑色波長スペクトル内の最大光発光強度を有する
ことを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記水性懸濁液は、緑色波長スペクトル内の約520~550ナノメートルの最大光発光強度を有する
ことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年12月8日に出願された米国特許出願第63/287,341号、及び2022年8月31日に出願された米国特許出願第63/374,035号の利益及び優先権を主張するものであり、これらの出願は、それらの全体がこの参照によって本明細書に援用されている。
【背景技術】
【0002】
レーザー注入蛍光法は、観察のために組織、細胞、及び生体分子を個別に探索することを通じて、生物システムが細胞、細胞内、または分子のレベルでどのように機能するかをより良く理解するために採用される既知の技術である。一例では、レーザー注入蛍光法は、例えば、内臓マッピング、細胞撮像などのためのインビボ生物センサなど、生体細胞などの中の単一分子または粒子を撮像して追跡するために適用され得る。レーザー注入蛍光法に使用される物質の一種は、ルミネッセンスナノダイヤモンドであり、最終用途で必要とされる所望の波長内の光源によって励起される場合に発光するように開発されたナノサイズのダイヤモンド粒子または砥粒である。
【発明の概要】
【0003】
本要約は、下段の発明を実施するための形態に更に記述されている一連の概念を紹介するために提供されている。この概要は、特許請求の範囲に記載される対象の主要または本質的な特徴を特定するためのものではなく、特許請求の範囲に記載される対象の範囲を限定する手助けとして用いるためのものでもない。
【0004】
本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドは、前駆体ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の体積を圧力セル内に配置し、圧力セルが高圧/高温(HPHT)条件を受けることによって作製されてもよい。一例では、圧力装置は、HPHT条件中にダイヤモンド体積上に差圧または非対称圧力を加えることにより、ダイヤモンド砥粒が差ひずみを受けると、差ひずみがダイヤモンド砥粒の塑性変形を増加させて、窒素空孔中心の形成を増加させるように作用するように特別に構成される。一例では、圧力セルは、HHT条件中にダイヤモンド体積上に差圧または非対称圧力を加えることにより、ダイヤモンド砥粒が差ひずみを受けると、差ひずみがダイヤモンド砥粒の塑性変形を増加させて、窒素空孔中心の形成を増加させるように作用するように特別に構成される。
【0005】
一例では、そのようなプロセスによって形成され、差圧を受けるダイヤモンドペレットは、1より大きいアスペクト比を有する、または1より大きいアスペクト比の変化を受けることが示されている。一例では、セルまたは圧力装置が半径方向より大きい軸方向の圧力による力を加えるように構成される場合、ダイヤモンド砥粒は、軸方向に負のひずみ、及び半径方向に正のひずみを受け、結果として得られるダイヤモンドペレット及び/またはプレス加工ダイヤモンド材料は、軸方向と半径方向との間で測定された場合に1よりも大きいアスペクト比の変化を受けることが示されている。
【0006】
一例では、受けるステップ中、HPHTプロセスの温度は、所望の窒素移動を促進し、ダイヤモンドペレット内の窒素空孔(NV)中心の形成を優先的に促進するように約1,800℃以下である。一例では、ダイヤモンド体積は、ダイヤモンド砥粒及び触媒材料の総重量に基づいて、約75~80wt%の最適化ダイヤモンド含有量を有し得る。一例では、ダイヤモンド体積は、約70~100wt%、80~95wt%、80wt%超、及び特定の例では約85wt%の最適化ダイヤモンド含有量を有し得る。一例では、触媒材料は、炭酸ナトリウムなどの非金属溶媒触媒である。一例では、得られるダイヤモンドペレットは、結合された二窒素空孔(NVN)中心と比較した場合、及び3つの窒素原子(N3)が包囲する空孔中心と比較した場合、NV中心の大部分を有する。大部分のNV集団により、得られるダイヤモンドペレットは、従来のHPHTプロセスによって形成された、すなわち、ダイヤモンド砥粒が均等または対称圧力を受けるため、この圧力が差ひずみを課さず、塑性変形度を高めることを促進せず、窒素空孔中心の形成を促さないダイヤモンドペレットよりも大きい、赤色波長スペクトル内の発光度を有する。
【0007】
一例では、HPHT処理によって形成された本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドでは、ナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子の水性懸濁液を形成するのに有用なナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子までサイズが縮小し得る。一例では、このような懸濁液を形成するために使用されるルミネッセンスダイヤモンドは、上記に開示される増加したダイヤモンド含有量、例えば、約70~100wt%、80~95wt%、80wt%超、及び特定の例では約85wt%を有し得る。一例では、ナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子は、約100ナノメートルの平均粒子径を有し得る。一例では、水性懸濁液の形成前に、ナノサイズの粒子を洗浄し、熱処理し得る。一例では、ナノサイズのダイヤモンド粒子は、約400~550℃の温度で熱処理されてもよい。一例では、水性懸濁液は、懸濁液の総重量に基づいて、約0.1wt%のナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子含有量を有し得る。一例では、懸濁液は、473ナノメートルのレーザーの励起下の緑色波長スペクトル内で、ダイヤモンドのwt%含有量に応じて、約10,000任意単位(a.u.)超、及び約12,000a.u.超の光発光強度を有し得る。
【0008】
本明細書に開示されたルミネッセンスナノダイヤモンド及びその作製方法のこれら及び他の特徴及び態様は、添付図面と関連して考慮されると、以下の詳細な説明を参照することによって、同じことがよりよく理解されるにつれて理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1-1】本開示の幾つかの実施形態による、ダイヤモンド砥粒が高圧/高温処理条件を受けるために使用される標準的なセル構造体の概略側断面図である。
【0010】
【
図1-2】本開示の幾つかの実施形態による、
図1-1の標準的なセル構造体を用いたダイヤモンド砥粒の変形と、その結果として得られるダイヤモンドペレットの形成とを示す概略側断面図であり、結果として得られたダイヤモンドペレットは、差ひずみを受けておらず、約1のアスペクト比を有することが示されている。
【0011】
【
図2-1】本開示の幾つかの実施形態による、高圧/高温処理前のダイヤモンド砥粒と触媒材料との従来の混合物の概略断面拡大図であり、その中に窒素原子の存在が示されている。
【0012】
【
図2-2】本開示の幾つかの実施形態による、同等、均等、または対称な圧力による力を受けた場合に変形及び関連する窒素空孔中心を引き起こす従来の高圧/高温プロセスの第一ステージ中の
図2-1の混合物の概略断面拡大図である。
【0013】
【
図2-3】本開示の幾つかの実施形態による、NV中心を形成するための窒素拡散を示す1800℃未満の温度での従来の高圧/高温プロセスの第二ステージ中の
図2-1の混合物の概略断面拡大図である。
【0014】
【
図2-4】本開示の幾つかの実施形態による、NVN中心を形成するための窒素拡散を示す1800~2300℃の間の温度での従来の高圧/高温プロセスの第二ステージ中の
図2-1の混合物の概略断面拡大図である。
【0015】
【
図2-5】本開示の幾つかの実施形態による、N3中心を形成するための窒素拡散を示す2300℃超の温度での従来の高圧/高温プロセスの第二ステージ中の
図2-1の混合物の概略断面拡大図である。
【0016】
【
図3-1】本開示の幾つかの実施形態による、高圧/高温処理前の本明細書に開示されたダイヤモンド砥粒及び触媒材料の混合物の概略断面拡大図であり、その中に窒素原子の存在が示されている。
【0017】
【
図3-2】本開示の幾つかの実施形態による、本明細書に開示された差圧または非対称圧力による力を受けた場合に変形、差ひずみ、及び関連する窒素空孔中心の形成を引き起こす、本明細書に開示された高圧/高温プロセスの第一ステージ中の
図3-1の混合物の概略断面拡大図である。
【0018】
【
図3-3】本開示の幾つかの実施形態による、主にNV中心を形成するための窒素拡散を制限するために1800℃未満の温度で、本明細書に開示された高圧/高温の第二ステージ中の
図3-1の混合物の概略断面拡大図である。
【0019】
【
図4-1】本開示の幾つかの実施形態による、高圧/高温処理条件中に半径方向でのダイヤモンド砥粒変形度がより大きくなることで、形成されたダイヤモンドペレットが差ひずみを受けることを促進するように構成された本明細書に開示される例示的なセル構造体の概略側断面図である。
【0020】
【
図4-2】本開示の幾つかの実施形態による、
図4-1の例示的なセル構造体を用いたダイヤモンド砥粒の変形と、その結果として得られるダイヤモンドペレットの形成とを示す概略側断面図であり、結果として得られたダイヤモンドペレットは、差ひずみを受け、1より大きいアスペクト比を有することが示されている。
【0021】
【
図5-1】本開示の幾つかの実施形態による、高圧/高温処理条件中に半径方向でのダイヤモンド砥粒変形度がより大きくなることで、ダイヤモンドペレットの形成が差ひずみを受けることを促進するように構成された本明細書に開示される例示的なセル構造体の概略側断面図である。
【0022】
【
図5-2】本開示の幾つかの実施形態による、
図5-1の例示的なセル構造体を用いたダイヤモンド砥粒の変形と、その結果として得られるダイヤモンドペレットの形成とを示す概略側断面図であり、結果として得られたダイヤモンドペレットは、差ひずみを受け、1より大きいアスペクト比を有することが示されている。
【0023】
【
図6-1】本開示の幾つかの実施形態による、セル構造体内のダイヤモンド砥粒が高圧/高温処理条件を受けるために、セル構築体に同等、均等、または対称な軸方向及び半径方向の圧力を加える標準的な圧力装置によって使用される標準的なセル構造体の概略側断面図である。
【0024】
【
図6-2】本開示の幾つかの実施形態による、
図6-1の標準的な圧力装置及び標準的なセル構造体を用いたダイヤモンド砥粒の変形と、その結果として得られるダイヤモンドペレットの形成とを示す概略側断面図であり、結果として得られたダイヤモンドペレットは、差ひずみを受けておらず、約1のアスペクト比を有することが示されている。
【0025】
【
図7-1】本開示の幾つかの実施形態による、高圧/高温処理条件中に半径方向でのダイヤモンド砥粒変形度がより大きくなることで、ダイヤモンドペレットの形成が差ひずみを受けることを促進するように、軸方向及び半径方向でセルに差圧を加えるように構成された本明細書に開示される例示的な圧力装置によって使用された標準的なセル構造体の概略側断面図である。
【0026】
【
図7-2】本開示の幾つかの実施形態による、
図7-1の例示的な圧力装置を用いたダイヤモンド砥粒の変形と、その結果として得られるダイヤモンドペレットの形成とを示す概略側断面図であり、結果として得られたダイヤモンドペレットは、差ひずみを受け、1より大きいアスペクト比を有することが示されている。
【0027】
【
図8】本開示の幾つかの実施形態による、ダイヤモンド含有量に応じたフォトルミネッセンスダイヤモンドの光発光強度を示すグラフである。
【0028】
【
図9】本開示の幾つかの実施形態による、同じ温度で焼結され、異なるダイヤモンド含有量を有するルミネッセンスダイヤモンドペレットの写真である。
【0029】
【
図10-1】その後、515℃で熱処理したダイヤモンド含有量85%の材料の波長に対する光発光強度を示すグラフである。
【0030】
【
図10-2】本開示の幾つかの実施形態による、ダイヤモンド含有量に応じたルミネッセンスダイヤモンドの発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示の幾つかの実施形態は、フォトルミネッセンスダイヤモンドとも呼ばれ得るルミネッセンスダイヤモンドに関する。幾つかの追加の実施形態では、塑性変形度が強化され、窒素空孔中心(NV、NVN、またはN3)の量が増加したダイヤモンドペレットを製造することを含む、ルミネッセンスダイヤモンドを製造するのに有用な方法及び装置が記載される。窒素空孔中心の増加により、1つ以上のスペクトル内の発光度が増加することができる。例えば、ルミネッセンスの増加は、赤色波長スペクトル内で起こり得る。
【0032】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンド(例えば、フォトルミネッセンスダイヤモンド)及びその作製方法は、製造効率及び製造量を増大させることにより、生物学的利用を含むがこれらに限定されない最終用途における物質の入手容易性及び利用可能性を向上させる方法で設計される。ルミネッセンスダイヤモンドは、それらのような実施形態では、より少ない費用、エネルギー、時間、またはそれらの任意の組み合わせで製造され得、潜在的に、そのようなルミネッセンスダイヤモンドの利用可能性を高め得る。
【0033】
更に、幾つかの実施形態では、本明細書に開示される原理に従って調製されるルミネッセンスダイヤモンドは、従来のルミネッセンスダイヤモンドと同様またはそれより高いレベルの発光強度を示し、それにより、それらのような材料の潜在的な最終用途の範囲を拡大する機会を提示する。わかりやすくするために、幾つかの実施形態では、本明細書の幾つかの実施形態のルミネッセンスダイヤモンドは、最初に、発光活性焼結体もしくはスラッグ(結晶間ダイヤモンド結合の度合いが高いことを特徴とする)を形成する、または機械的に結合された半焼結体もしくはスラッグ(結晶間ダイヤモンド結合の度合いが低い、もしくは実質的にないことを特徴とする)を形成する、既存のダイヤモンド砥粒の圧密変形及び圧密によって形成される。このような条件では、圧密変形材料は、本明細書ではルミネッセンスダイヤモンドと呼ばれる。後続の処理中に、ルミネッセンスダイヤモンドは、特定の最終用途によって必要とされるサイズに熱処理され得、及び/または縮小し得、幾つかの実施形態では、得られたダイヤモンド粒子または砥粒は、サイズがナノスケールであり得る。幾つかの例では、縮小したサイズのルミネッセンスダイヤモンドは、ナノサイズの粒子のみであってもよく、またはナノサイズの粒子とより粗いダイヤモンド粒子との組み合わせを含んでもよい。本明細書で使用される「ナノダイヤモンド」という用語は、例えば最大1000nm(例えば、1nm~1000nmの間)の平均サイズを有する、ナノサイズのダイヤモンド粒子を含むルミネッセンスダイヤモンドを指すと理解される。
【0034】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドは、天然及び/または合成ダイヤモンド砥粒の形態であり得る前駆体ダイヤモンド砥粒の体積を組み合わせ、ダイヤモンド砥粒の体積を、ダイヤモンド砥粒の圧密変形のために従来から使用されているセル、缶、または容器内に配置することによって形成され得る。一例では、ダイヤモンド砥粒は、1μm~1000μm、1μm~100μm、または10μm~50μmの平均粒子径を有し得る。他の実施形態では、初期ダイヤモンド砥粒または粉体のサイズは、本明細書に記載されるように、サブミクロンまたはナノダイヤモンドの範囲内に拡大し得る。幾つかの実施形態では、従来のダイヤモンド粉体の機械的破砕か、爆轟プロセスかいずれかによって形成されたナノサイズの粉体を同様の方法で使用することができる。従来のダイヤモンド粉体は、合成のものか天然のものかいずれかであることができるが、場合によっては、合成ダイヤモンド粉体は、隣接する空孔中心と共にダイヤモンドのルミネッセンスを活性にする、より高い固有窒素含有量を有する。一例では、出発ダイヤモンド材料は、タイプ1bとして指定されるダイヤモンドに見られるもの(例えば、50ppm以上の窒素)と一致する固有量の窒素不純物を有する。衝撃合成によって合成されたナノパウダーは、固有窒素含有量も高くなることができる。
【0035】
例示的な実施形態では、セル、缶、または容器(それぞれセルまたは圧力セル)は、多結晶ダイヤモンドを作製するための従来のプレス機器を使用した高圧/高温(HPHT)圧密変形プロセスを受ける場合、差圧または非対称圧力、例えば、半径方向とは異なる軸方向圧力をその内容物に加えるように特別に構成される。本明細書でより詳細に説明されるように、本明細書に開示されるセルによって加えられる差圧により、塑性変形度が大きくなることで、結果として得られるルミネッセンスダイヤモンドペレット内に形成されるNV中心の量を増加させるのに有用な窒素空孔中心の数が多くなり、それに対応して赤色波長スペクトル内の発光量が増加することができる。例示的な実施形態では、セル、缶、または容器に圧力を加えるために使用されるプレス機器または装置は、多結晶ダイヤモンドを作製するためにそのような特別に構成されたプレス機器を使用してHPHT圧密変形プロセスを受ける場合、セル及びセル内の内容物に差圧または非対称圧力(例えば、半径方向圧力とは異なる軸方向圧力)を加えるように特別に構成されてもよい。本明細書でより詳細に説明されるように、本明細書に開示されるプレス機器によって加えられる差圧により、塑性変形度が大きくなるため、結果として得られるルミネッセンスダイヤモンドペレット内に形成されるNV中心の量を増加させるのに有用な窒素空孔中心の数が多くなり、発光量が(赤色波長スペクトル内で)増加することができる。
【0036】
別の例示的な実施形態では、圧力差は少なくとも5%である。例えば、プレス機器によってまたは圧力セルによって加えられる軸方向圧力は、プレス機器によってまたは圧力セルによって加えられる半径方向圧力よりも少なくとも5%、10%、15%、25%、50%、100%、または200%(またはこれらの間の任意の値)大きくてもよい。他の実施形態では、プレス機器によってまたは圧力セルによって加えられる半径方向圧力は、プレス機器によってまたは圧力セルによって加えられる軸方向圧力よりも少なくとも5%、10%、15%、25%、50%、100%、または200%(またはこれらの間の任意の値)大きくてもよい。
【0037】
例示的な実施形態では、ダイヤモンド砥粒の体積はセル、缶、または容器内に配置され、セル、缶、または容器は、密閉されても、またはされなくてもよく、HPHTプレス内に配置され、所望の焼結圧力及び温度条件を受ける。一部の実施形態では、HPHTプロセス温度は1300~2500℃の範囲内であってもよく、プロセス圧力は約3.0GPa~約10GPaであってもよい。HPHTプロセス中にルミネッセンスダイヤモンド内に形成されるNV中心の量を増加させることが望ましい例では、HPHTプロセス温度を約1800℃以下(例えば、1500℃~1800℃の範囲内、1350℃~1600℃の範囲内)、場合によっては1500℃未満(例えば、1300℃~1500℃)に制御することによって、窒素拡散速度を制限し、空孔サイトへの窒素移動を制御することが望ましい場合がある。窒素移動が少ないと、NV中心は、より多くの窒素原子を使用し得る他の窒素空孔中心(例えば、NVNまたはN3中心)よりも優先的に生成されることができる。
【0038】
NV中心は、赤色波長スペクトル内でルミネッセンスを起こす。特に、赤色波長スペクトル内では、ルミネッセンスは、620nm~700nmの間、630nm~700nmの間の波長を有し、及び/または中心が650nm~680nmの間(例えば、660nmまたは675nm)になったピークを有し得る。幾つかの実施形態では、NV中心は、他の窒素空孔中心よりも優先的に生成されることができる。例えば、NV中心は、緑色波長スペクトル内(例えば、ピークが525nmを中心としているような、495nm~570nmの間の波長を有する)でルミネッセンスを起こすNVN中心より優先的に生成されることができる。NV中心を優先的に作成するために、または主にNV中心もしくはNV中心のみを作成するためにも、前述の窒素濃度(例えば、>50ppm)がNV濃度(例えば、何らかの市販材料中で1ppm~3ppmの間)よりも常に高くなり得るため、窒素拡散を若干抑制することができる。幾つかの実施形態及び方法では、NV中心を優先的に、または主に生成するために、窒素拡散の抑制が必要とされる場合がある。
【0039】
一例では、ダイヤモンド砥粒の体積は、触媒材料を実質的に含まなくてもよく、その結果、HPHTプロセスから得られるダイヤモンド材料は、完全には焼結されていないが、むしろ、摩擦接触、冷間圧接、ダイヤモンド自己拡散などによって合わせて機械的に結合されるダイヤモンド砥粒を含む半焼結スラッグまたは半焼結体の形態にある。一例では、ダイヤモンド砥粒の体積は、ある程度の量の触媒物質を含み得、触媒材料のタイプは異なることができる(例えば、触媒材料は、本明細書に記載される金属溶媒触媒であってもよく、または非金属溶媒触媒であってもよい)。一例では、ダイヤモンド砥粒は、非金属溶媒材料と組み合わされる。幾つかの実施形態では、完全に焼結されていない(すなわち、半焼結され、従来の金属溶媒触媒を使用して合わせて結合されたダイヤモンド砥粒のネットワークを特徴としない)ダイヤモンド材料を製造する特徴は、多結晶ダイヤモンド完全焼結体と比較して、相対的にその透明度が向上することができ、その透明度は、そこから発光する発光強度を向上させ得る。また半焼結体の多孔質領域内に形成されるグラファイトが存在する場合があり、発光強度を低下させる場合がある。そのような場合、製造プロセスの一部として、グラファイト材料が部分的または完全に除去されることが望ましい場合がある。
【0040】
HPHTプロセス中、前駆体ダイヤモンド砥粒の体積の少なくとも一部が塑性変形を受けることができることが分かった。一部の実施形態では、HPHT圧密変形プロセスの程度は、ダイヤモンド砥粒内の十分な塑性変形及び窒素拡散を引き起こして、窒素空孔中心(例えば、窒素空孔(NV)または二窒素空孔(NVN)中心の一方または両方を含む)を作成するような程度、及び/またはダイヤモンド砥粒の発光を活性化するように作用する、3つの窒素原子がダイヤモンド砥粒内の空孔(N3)中心を囲んでいる光学中心を作成するような程度である。本発明者らによる試験の結果、HPHT中のダイヤモンド粒子の塑性変形は、結晶転位運動などの変形メカニズムが活性になると、空孔中心を作成し、それら空孔は次に、窒素不純物と結合して、NV中心、NVN中心、またはN3光学中心のうちの1つ以上を含む空孔中心を形成し、所望の発光活性を起こすことが知られている。幾つかの実施形態では、これは、金属触媒(例えば、HPHTプロセス中に結晶間ダイヤモンド結合を促進するように作用するコバルト)または非金属触媒/圧力伝達媒体(例えば、HPHTプロセス中の結晶間ダイヤモンド結合を促進しない炭酸塩及び塩化物)との多結晶ダイヤモンドの従来の焼結中に起こる。他の実施形態では、HPHTプロセスから得られるダイヤモンド砥粒は、溶媒触媒が結合した多結晶ダイヤモンドと比較して、弱いダイヤモンド-ダイヤモンド結合を誘起しながら、より広範囲のNV及び/またはNVN中心及び/またはN3中心を意図的に作成するように大量に塑性変形され得る。例えば、幾つかの実施形態では、完全焼結体をもたらさずに、HPHTプロセス中に発光活性を起こすような塑性変形をダイヤモンド砥粒が受けることで、破砕プロセスなどによってダイヤモンド砥粒の粒子径分級という下流プロセスがより容易で、エネルギー消費量を少なくすることが望ましい。例えば、他の作用及び追加の作用の代わりに、機械的に結合されたダイヤモンド砥粒を破壊して分離させることだけが必要とされる場合がある。
【0041】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドは、ダイヤモンド前駆体砥粒の体積が触媒材料の存在下でHPHTプロセスを受けることによって、同様の方法で形成され得る。かかる実施形態では、使用される触媒材料のタイプは、多結晶ダイヤモンド(PCD)生成物の生成のために、Co、Fe、Ni、炭酸塩、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない群から選択されてもよい。幾つかの実施形態では、Siを加えて使用し、反応結合シリコンカーバイドPCD製品を作製し得る。幾つかの実施形態では、コバルトPCDのHPHT処理条件は、1300℃~1500℃の温度、及び5.0GPa~7.5GPaの圧力の内であり得る。更に、コバルトPCDは、真空中、600℃~700℃の温度で熱処理されることができる。使用される触媒材料の量は、使用される触媒のタイプ、望ましい発光量、及び特定の最終用途などの要因に応じて異なることができ、異なるであろう。生物学的な最終用途では、生体適合性の理由で、ルミネッセンスダイヤモンド内に金属材料が存在することが望ましくない、及び/または許可されない場合があり、その場合、非金属触媒を使用することが望ましい場合がある。幾つかの実施形態では、非金属触媒を使用することにより、PCD体は、金属溶媒触媒を使用して形成されたPCDと比較して、相対的に高い透明度を有する、または不透明さが低下する。幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドを作製するのに有用な非金属触媒は、炭酸塩PCD(CPCD)の形成をもたらす、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩触媒を含む。
【0042】
図1-1は、HPHTプロセスによって多結晶ダイヤモンドを形成するために使用される従来または標準のセルまたは容器10を示す。このような例では、セル10は、1つまたは複数の内部チャンバ12を含み、これら1つまたは複数の内部チャンバは、その中に、ダイヤモンド砥粒と触媒材料との混合物であり得る、ダイヤモンド砥粒の体積を収容するように構成される。このような例では、セルは、塩化ナトリウム、塩化セシウムなどのプレスディスクから形成される軸方向要素14、16、及び18と、プレスした塩化ナトリウム、塩化セシウムなどから形成されたリング形態の半径方向要素20及び22とを含む。例示的なセル10は、プレス装置によってセルに加えられる、同等、均等、または対称圧力(軸方向及び半径方向に等しい圧力)を受け、チャンバ12内のダイヤモンド砥粒の体積に、均等または対称圧力を伝達して加えるように構成される。
図1-1に示されるようなセルは1800℃~2300℃のプレス温度下でHPHT処理中にルミネッセンスダイヤモンドを形成するのに有用であり、生成されるルミネッセンスダイヤモンドは、幾つかのNVN中心(緑色波長スペクトル内で発光する)、及びより少ない数のNV中心(赤色波長スペクトル内で発光する)を有し得ることで、赤色波長スペクトル内のルミネッセンスによる全体的な発光が比較的低くなる。このNV中心の数が比較的少ないのは、HPHTプロセス中に窒素中心に移動して窒素中心を充填するために存在する窒素の量が比較的多いことに加えて、行われる塑性変形の量が比較的少ないためであると考えられる。利用可能な窒素の量が多く、窒素空孔の量が少ないことは、そのような方法で製造されたルミネッセンスダイヤモンド内のNVN中心形成に有利に働く。1800℃未満では、主にNV中心が形成されることが観察されているが、NV中心は、市販のNVナノダイヤモンド材料に匹敵する発光強度を与えるのに十分に高い濃度で形成されない可能性がある。これは、1800℃未満の温度でのダイヤモンドの塑性変形及び空孔中心の形成が不十分であるためであると考えられる。
図1-2は、セル10を使用してHPHTプロセス中に均等な力を加えるように形成され得るダイヤモンド砥粒24を示す。図示のように、得られるダイヤモンド砥粒は、均等なひずみを受け、幅寸法と高さ寸法との間で測定された約1であるアスペクト比を有する。
【0043】
図2-1~
図2-5は、
図1-1及び
図1-2に関して記載されたようにダイヤモンドペレットを形成するためのHPHTプロセスを受けた場合のダイヤモンド粉体触媒材料の従来の混合物の体積を示す。
図2-1は、HPHT処理を受ける前のダイヤモンド粉体と触媒材料との従来の混合物の体積200を示し、その混合物中に存在する窒素原子202を示す。
図2-2は、プレス装置によって、セルを使用し、同等、等しい、または対称の圧力がその体積に加えられるHPHT処理の第一ステージを受けた後のダイヤモンド体積204を示し、そのような第一ステージでは、ダイヤモンド体積は、温度を著しく上昇させることなく圧力を受ける。この初期加圧の後、体積内の温度をセル内部で上昇させるように熱を増加させることができる。HPHTセルが加えられた圧力での均一性をもたらすように設計されるため、いずれのダイヤモンド塑性変形も、加えられた熱及び圧力に応じてランダムに配向されたダイヤモンド結晶のゆがみが原因である。ランダムに配向されたダイヤモンド結晶との熱及び圧力の組み合わせは、ダイヤモンド結晶中の塑性変形を誘起することにより、ダイヤモンド格子内に空孔206が作成される。
【0044】
図2-3は、軸方向及び半径方向圧力が等しい状態で説明されるHPHTプロセスの第二ステージを受けた後のダイヤモンド体積208を示し、同等、等しい、または対称の圧力が維持され、温度が1800℃未満の温度まで上昇することにより、窒素原子202は、拡散し、空孔206に移動し、NV中心210を含む窒素空孔中心を形成する。
図2-4は、記載されたHPHTプロセスの第二ステージを受けた後のダイヤモンド体積212を示し、同等、等しい、または対称の圧力が維持され、温度が1800℃~2300℃の間まで上昇することにより、より大量(
図2-3のものと比べて)の窒素原子202は、拡散して空孔206に移動することにより、NVN中心214を含む窒素空孔中心を形成する。
図2-5は、記載されたHPHTプロセスの第二ステージを受けた後のダイヤモンド体積216を示し、同等、等しい、または対称の圧力が維持され、温度が2300℃超まで上昇することにより、より大量(
図2-4のものと比べて)の窒素原子202は、拡散して空孔206に移動することにより、N3中心218を含む窒素空孔中心を形成する。
【0045】
したがって、
図2-1~
図2-5に示されるように、従来のダイヤモンド粉体によるダイヤモンド体積は、特定のHPHT温度条件に応じてNV、NVN、及びN3中心を形成するためのHPHT処理の第二ステージ中に拡散して移動するために利用可能な比較的多数の窒素原子を含有することができる。一般に、比較的多数の窒素原子の存在と、同等、等しい、または対称の圧力条件によるHPHTプロセスとが組み合わされた結果、NV中心に勝るNVNまたはN3中心を含む窒素空孔中心の形成を促すように空孔と結合するために、比較的少ない量の窒素空孔が(HPHT処理の第一ステージ中に)形成され、比較的多い量の窒素が拡散及び移動のために利用可能になる。NV中心は、幾つかの用途では、赤色波長スペクトル内でルミネッセンスをもたらすことが望ましい場合がある。
【0046】
図3-1及び
図3-2は、主に赤色波長スペクトル内で発光するダイヤモンドペレットを形成するために、本明細書に開示されるHPHTプロセスを受けた場合の本明細書に開示されたダイヤモンド粉体触媒材料の混合物の体積220を示す。
図3-1は、本明細書に開示されるHPHT処理を受ける前の本明細書に開示されるダイヤモンド粉体と触媒材料との混合物の体積220を示し、その体積220は混合物中に存在する窒素原子222を含み、
図2-1に示されるより従来のダイヤモンド粉体及び触媒材料の体積よりも存在する窒素原子222が少ない。HPHT処理中の拡散及び移動のために存在する窒素の量を低減させることにより、NVN及びN3中心を形成するために存在する窒素の量を制限することで、NV中心の形成を促す目的で、体積220内に存在する窒素原子が少なくなることが望ましい場合がある。幾つかの実施形態では、窒素含有量の低いダイヤモンドは、50ppm未満であり、任意選択で25ppm未満である。この低濃度を達成するために、アルミニウム粉体またはチタン粉体などの窒素「ゲッター」をダイヤモンド粉体合成プロセスに使用することができる。
【0047】
図3-2は、本明細書に開示されるHPHTプロセスの第一ステージを受けた後のダイヤモンド体積224を示し、その体積に差圧または非対称圧力が特別に構成されたプレス装置及び/または特別に構成されたセルによって加えられ、そのような第一ステージでは、ダイヤモンド体積は差圧を受ける。本明細書に開示されるHPHTプロセスの加圧及び初期加熱中に、ダイヤモンド体積224は、その体積が差応力を受け、空孔226の数または濃度が(
図2-2に示される例と比較して)増加したダイヤモンドペレットを作成する(
図2-2に示される例と比較して)増大した塑性変形度を受けることができる。
図3-3は、本明細書に開示されるHPHTプロセスの第二ステージを受けた後のダイヤモンド体積228を示し、差圧または非対称圧力が加えられ/維持され、温度が任意選択で変化する。例えば、温度が1800℃未満(または1500℃未満)の温度まで変化する、または上昇することができることで、窒素原子222は、拡散し、空孔226に移動し、NV中心230を含む窒素空孔中心を形成することができる。したがって、幾つかの実施形態では、空孔226が差圧によって作成されると、圧力及び/または温度の条件が維持されない場合がある。
【0048】
したがって、
図3-1~
図3-3に示されるように、ダイヤモンド粉体の体積中の窒素原子の数を制御することによって、HPHTプロセス中の拡散及び移動のために存在する窒素の量を制御することができる。HPHTプロセス中、体積に加えられる圧力もまた、体積にかかる塑性変形及び/または差応力の程度を増加させる目的で、差圧または非対称圧力であることができる。そのような差は、ダイヤモンドペレット中の空孔の数または濃度の増加を生じることがある。また、HPHTプロセス中に温度を制御して、拡散及び移動に利用可能な窒素原子の数を制御することができるため、NVN及び/またはN3中心よりもNV中心を優先的に形成することを促し得ることにより、赤色波長スペクトル内で大部分が発光するダイヤモンドペレットが形成され得る。
【0049】
図4-1は、本明細書に開示される実施形態による例示的なセル30を示し、このセルは、HPHTプレス装置から均等な力を受け、その中に含まれるダイヤモンド砥粒の体積に差圧または非対称圧力を加えて、ダイヤモンド砥粒の塑性変形の量を増加させることにより、その中に形成される窒素空孔中心の量を増加させるように特別に構成される。一例では、セル30は、その中にダイヤモンド砥粒の体積、またはダイヤモンド砥粒と触媒材料との混合物を収容するように構成された1つまたは複数の内部チャンバ32を有するように構成される。セル30は、プレス装置から内部チャンバ32内のダイヤモンド体積に軸方向圧力による力を伝達するための(例えば、塩化セシウム粉体のプレスディスクから形成された)軸方向要素34、36、及び38を含むことができる。またセル30は、半径方向要素40及び42(例えば、プレス装置の全半径方向圧力をダイヤモンド砥粒の体積に伝達しないように構成される材料から形成される)を含むこともできる。一例では、半径方向要素は、緩い塩化セシウム粉体、低い密度で圧密される塩化セシウムプレス構成要素などから形成され得る。
【0050】
このように構成され、HPHTプロセス中にプレス装置の均等な圧力を受けた場合、セル30は、ダイヤモンド砥粒の体積に差圧または非対称圧力を加えるように動作する。この例では、セル30は、半径方向(
図4-1のx方向)よりも軸方向(
図4-1のy方向)でより大きい圧力を加える。例示的なセル30は、半径方向よりも軸方向に大きい圧力を加えるように構成されるが、本明細書に開示されるセルは、軸方向よりも半径方向に大きい圧力を加えるように構成されてもよく、または他の方向での差圧もしくは非対称圧力を加えるように構成されてもよく、ダイヤモンド砥粒の体積に異なる方向で差圧または非対称圧力を加えるように構成されたそれらのようなセルの全ては本開示の範囲内にあると理解される。
【0051】
図4-2は、セル30を使用して、HPHTプロセス中に差力を加えることによって変形されたダイヤモンド砥粒44を示す。図示のように、得られたダイヤモンド砥粒は差ひずみを受けており、1つの方向ではひずみは正であり、別の方向ではひずみは負である。そのような差ひずみを受けた結果として得られたダイヤモンドペレットは、幅寸法と高さ寸法との間で測定される場合、1よりも大きいアスペクト比を有することが示される。
図4-2を参照すると、概略的に例示されるアスペクト比は、元の(プリプレスされた)形状(例えば、
図101のダイヤモンド砥粒24を参照)と、結果として得られた(プレスされた)形状(ダイヤモンド砥粒44を参照)との間の差を示す。元のダイヤモンド砥粒が概して対称であってもよく、または約1のアスペクト比を有してもよいが、これは必須ではないことを理解されたい。代わりに、プリプレスされたダイヤモンド砥粒は、1未満または1超のアスペクト比を有してもよい。結果として、HPHTプロセスを受けた場合、記載されたアスペクト比は、物理構造体で観察可能なアスペクト比であり得るが、代わりに、元のプリプレス形状からのアスペクト比の変化として反映されてもよい。
【0052】
したがって、幾つかの実施形態では、アスペクト比またはアスペクト比の変化は、1超~2の間(例えば、1.1超~2、または1.25超~1.75の間)である。
図2-2に示されるように、ダイヤモンド砥粒に加えられる差圧は、ダイヤモンド砥粒間の塑性変形度を増加させるように作用することにより、
図1-1に関して論じられたようにHPHT処理中に対称セル10を使用した場合と比較して、その中により多数の窒素空孔中心を作成するように作用する。
【0053】
幾つかの実施形態では、ダイヤモンド砥粒を参照して形状に関するアスペクト比またはアスペクト比の変化を説明するのではなく、アスペクト比及びアスペクト比の変化は、プレスされるダイヤモンド砥粒の組み合わせに反映されることができる。例えば、ビレットをダイヤモンド砥粒から形成してもよく、そのビレットを本明細書に記載のHPHT条件下でプレスしてもよい。その後、ビレットは形状変化を受けてもよく、幾つかの実施形態では、アスペクト比の変化は1より大きくなる。例えば、矩形断面形状を有するビレット(
図9を参照)は、HPHT処理を受けてもよく、幾つかの実施形態では、ビレットのアスペクト比の変化は1より大きくてもよい。
【0054】
本明細書に開示されるセル30は、結果として得られるルミネッセンスダイヤモンド内のより多くの量の窒素空孔中心の形成を促す(例えば、NV中心の作成が増加して赤色発光を促す)ために、塑性変形度及び結果として生じる窒素空孔中心を増加させるように動作することができるが、HPHTプロセスは制御された温度(例えば、約1800℃以下)を使用して行われることができるため、空孔に隣接する位置への移動のための窒素の拡散速度は若干制御される。これにより、NVN中心及び/またはN3中心よりもNV中心が優先的に生成されることができる。したがって、幾つかの実施形態では、HPHTプロセス温度が約1800℃以下(例えば、500℃~1800℃の間、もしくは1200℃~1800℃の間)、約1500℃~1800℃、または約1500℃未満(例えば、500℃~1500℃の間、もしくは1200℃~1500℃の間)であることが望ましい。場合によっては、HPHTプロセスに続いて、発光強度を向上させ、潜在的に最大にするための温度で材料を熱処理することが有益なこともある。例えば、材料は、標準真空炉内で1300℃までの温度で熱処理されてもよいが、他の熱処理方法または温度で熱処理されてもよい(例えば、1300℃超または未満が使用されてもよい)。
【0055】
図5-1は、幾つかの実施形態による例示的なセル50を示し、このセルは、HPHTプレス装置から均等な力を受け、その中に含まれるダイヤモンド砥粒の体積に差圧を加えて、ダイヤモンド砥粒の塑性変形の量を増加させることにより、その中に形成される窒素空孔中心の数または濃度を増加させるように特別に構成される。一例では、セル50は、その中にダイヤモンド砥粒の体積、またはダイヤモンド砥粒と触媒材料との混合物を収容するように構成された1つまたは複数の内部チャンバ52を有するように構成される。セル50は、セルのそれぞれの頂部及び底部上で互いから軸方向にオフセットにある軸方向要素54及び56を含む。幾つかの実施形態では、軸方向要素54、56は、気孔率が最小になる高密度材料から形成される。また
図5-1のセル50は、気孔率が高い低密度材料から任意選択で形成される半径方向要素55及び57を含む。一例では、低密度材料は、真密度まで焼結されておらず、有意な気孔率、及びそれらの組み合わせを含むなど、MgO及び/またはZrO
2などの低密度固体であることができる。別個の半径方向要素55、57が幾つかの実施形態で示されるが、半径方向要素55、57は、例えばチャンバ52の周りに完全または部分的に延在するシリンダとして、形成される一体片である。
【0056】
またセル50は、1つまたは複数の中間軸方向要素58、60、及び62を含むことができる。図示の実施形態では、軸方向要素58は軸方向要素54と第一内部チャンバ52の頂部との間に配置され、軸方向要素60は第一及び第二内部チャンバ52の間に配置され、軸方向要素62は軸方向要素56と第二内部チャンバ52の底部との間に配置される。例示的な実施形態では、中間軸方向要素58、60、及び62は、非圧縮性材料から少なくとも部分的に形成される。一例では、非圧縮性材料は、鉄、ニッケル、コバルトなどの液体金属、またはそれらの組み合わせなどの流体であってよい。これらの金属は、溶融が起こると、セル内の材料の位置を制御するために、耐火金属容器内に閉じ込められることができる。セルは同様に、これらの金属、例えば、WC-Co、WC-Ni、WC-Feなど、またはそれらの組み合わせなどを含有するサーメットを使用して構築されることができる。
【0057】
このように構成され、HPHTプロセス中にプレス装置の均等な圧力を受けた場合、セル50は、ダイヤモンド砥粒の体積に差圧を加えるように動作することができる。この例では、セル50は(非圧縮性中間軸方向要素58、60、及び62の存在が原因で)半径方向よりも軸方向でより大きい圧力を加える。圧力差によって、ダイヤモンド砥粒は、異なるひずみ、例えば、軸方向に負及び半径方向に正のひずみを受け、ダイヤモンド砥粒の塑性変形度が増加することができる。例示的なセル50は、半径方向よりも軸方向に大きい圧力を加えるように構成されるが、本明細書に開示されるセルは、軸方向よりも半径方向に大きい圧力を加えるように構成されてもよく、または他の方向での差圧もしくは非対称圧力を加えるように構成されてもよく、ダイヤモンド砥粒の塑性変形を増加させるという目的でダイヤモンド砥粒の体積に異なる方向で差圧または非対称圧力を加えるように構成されたそれらのようなセルの全ては本開示の範囲内にあると理解される。
【0058】
図5-2は、セル50を使用し、HPHTプロセス中に差力を加えることで、ダイヤモンド砥粒が差ひずみを受けることによって、変形したダイヤモンド砥粒64を示す。図示のように、得られるダイヤモンド砥粒は、幅寸法と高さ寸法との間で測定される、1より大きいアスペクト比を有することが示される。ダイヤモンド砥粒に加えられる差圧は、ダイヤモンド砥粒間の塑性変形度を増加させる差ひずみをダイヤモンド砥粒に受けさせるように作用することができることにより、本明細書で論じられたHPHT処理中に
図1-1のセル10の対称圧力を使用した場合と比較して、その中でより高い数または濃度の窒素空孔中心を生じるように作用することができる。またセル50は、
図4-1に示されたセル30を参照して説明された同一または同様の温度条件下でのHPHTプロセス中に、ルミネッセンスダイヤモンド内のNV中心の作成を促すように動作することもできる。
【0059】
図6-1は、ルミネッセンスダイヤモンドを形成するために使用されるHPHTプロセス中に、セル70上で均等な力(すなわち、軸方向71及び半径方向73に等しい力)を加えるように構成された従来のプレス装置によって使用され得るセル70を示す。したがって、セル70は、
図1-1のセル10と同様であってもよい。
【0060】
図示のように、プレス装置によってセル70に加えられる圧力は半径方向及び軸方向で同じであることにより、ダイヤモンド砥粒は塑性変形を制限する均等なひずみを受ける。
図6-2は、標準セル70を使用して、HPHTプロセス中に均等な力を加えることによって変形されたダイヤモンド砥粒72を示す。図示のように、得られるダイヤモンド砥粒は、均等なひずみを受け、幅寸法と高さ寸法との間で測定された約1であるアスペクト比を有することが示される。本明細書に記載されるように、対称的なHPHTプロセスの圧力及び温度で、そのようなセル70及びプレス装置を使用してHPHTプロセスによって作成されたルミネッセンスダイヤモンドは、所望のものよりも大量のNVN中心、及びNV中心よりも潜在的に多いNVN中心を作成することができることにより、赤色波長スペクトル内の発光量を発することができるが、この発光量は、特定の最終用途、すなわち、赤色波長スペクトル内で多くの発光量を必要とするものには十分でない、または望ましくない場合がある。
【0061】
図7-1は、セル82に差圧または非対称圧力を加えるように構成され、HPHT処理中に1つ以上の内部チャンバ84内にダイヤモンド砥粒の体積またはダイヤモンド砥粒の混合物を含む例示的なプレス装置80を示す。一例では、プレス装置80は、セル82に対し、半径方向よりも軸方向に差圧または非対称圧力を加えることができる任意のタイプのものであり得る。一例では、プレス装置80は、従来または独自の立方体プレス、中実フレームプレス、ベルトプレスなどであってもよい。図示の例では、プレス装置80は、セル82に、半径方向85よりも軸方向83に大きい差圧を加えることにより、ダイヤモンド砥粒が上記に説明されるように差ひずみを受けるように構成される。代替に、本明細書に開示される圧力装置が軸方向よりも半径方向に大きい圧力をセル82に加えるように構成されてもよいことを理解されたい。したがって、本明細書に開示されるプレス装置が軸方向よりも半径方向に大きい圧力を加えるように構成されてもよいこと、または他の方向に差圧もしくは非対称圧力を加えるように構成されてもよいことを理解されたく、塑性変形を増大させる目的で異なる方向でセルに差圧または非対称圧力を加えるように構成されるそれらのようなプレス装置が全て本開示の範囲内にあると理解される。
【0062】
一例では、セル82は、それ自体がプレス装置と内部チャンバ84内のダイヤモンド砥粒の体積との間に差圧を生じさせないように構成される標準セルであってもよい。あるいは、セルは、プレス装置によって加えられる差圧に寄与するように構成される上記に開示された例示的なセルであってもよく、例えば、ある程度の差圧をプレス装置が加えている間、セル自体は、ダイヤモンド体積に加える、そのある程度の差圧を高めるように動作し得る。一例では、プレス装置80は、本明細書に記載されるものと同じまたは同様の温度条件下でHPHTプロセス中に動作し、結果として得られるルミネッセンスダイヤモンド内のNV中心の形成の増加を促進する。
【0063】
図7-2は、プレス装置80及びセル80を使用することによって変形されるダイヤモンド砥粒86を示し、プレス装置は、HPHTプロセス中にセル上に差力を加える。図示のように、ダイヤモンド砥粒は、幅寸法と高さ寸法との間で測定される、1より大きいアスペクト比を有することが示されるダイヤモンド砥粒を生成する差ひずみを受ける。
図5-2に示されるように、差圧は、セルによって伝達され、ダイヤモンド砥粒上に加えられると、上記のようにHPHT処理中にセルに均等または対称な圧力を加えるように構成された標準プレス装置を使用した場合と比較して、ダイヤモンド砥粒間の塑性変形度を増大させることにより、その中でより高い数または濃度の窒素空孔中心を生じる。
【0064】
本明細書に開示されるセル及びプレスの一部の特徴は、HPHT処理中にダイヤモンド砥粒に動的または非対称的な圧力を加える能力である。またダイヤモンドが塑性変形する能力は、より高い温度を加えることによって向上することができる。したがって、本明細書に記載されている様々な構造体及び構成要素は、HPHT処理中にダイヤモンド砥粒または内部チャンバに非対称圧力を加えるための手段として使用され得る。例示的な手段は、セルの外部上に対称圧力を使用して、セルの内部チャンバに非対称圧力を加える構造体を含むセル(例えば、
図4-1及び
図5-1)、異なる方向に異なる圧力を加える構造体を含むプレス(例えば、
図7-1)、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。幾つかの実施形態では、本明細書に記載の温度条件でのHTHP処理は、ダイヤモンド砥粒内の塑性変形度または量を増大させるように機能し、それにより(HPHTプロセスの制御された温度によって)制御された量の利用可能な窒素に対する空孔の数または濃度を増加させるように機能することで、NVN中心とは対照的な、またはNVN中心の濃度を超える濃度でNV中心を形成する。したがって、この方法で形成されたルミネッセンスダイヤモンドは、より従来のダイヤモンド焼結HPHT温度、またはより有意な数もしくは濃度のNVN中心を生成する他のプロセス下で、HPHT処理セル及び/またはプレス装置を使用して形成されたルミネッセンスダイヤモンドよりも赤色波長スペクトル内でより大量に発光することができる。
【0065】
例示的な実施形態では、ダイヤモンド砥粒は、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩である非金属溶媒触媒と組み合わされる。一例では、使用される炭酸ナトリウムの量は、炭酸塩PCD(CPCD)完全焼結体を形成するのに十分な量、例えば、炭酸塩触媒及びダイヤモンド砥粒の総重量に基づいて最大5重量%であり得る。炭酸ナトリウムで作製されたビレットが本質的にコバルトPCDよりも暗くないのは、暗い色の材料が可視光の吸収を示すため、ルミネッセンス発光及び発光強度のレベルが高くなることに寄与していると考えられる。幾つかの実施形態では、使用される触媒材料の量がPCD完全焼結体を形成するのに有用な量より少ない、例えば(ダイヤモンド層またはPCD体の総重量と比較して)5重量%未満の触媒が望ましい場合がある。これらのような実施形態では、PCDの部分焼結体または半焼結体を生成することが望ましい場合があり、このPCD体は、以下でより良好に説明されるように、そのPCD体をナノサイズのダイヤモンド片または砥粒に粒子径分級する下流プロセスを容易にする目的で、結晶間結合ダイヤモンドとダイヤモンド遊離砥粒との両方を含む。
【0066】
ダイヤモンド砥粒がHPHT条件下で圧密されると、ダイヤモンド砥粒または粒子間の点接触によって生じるせん断応力に起因する塑性変形が起こることができる。多数または高濃度の空孔を作成するために、ダイヤモンド砥粒を加熱することが有用な場合があるが、HPHTの温度が高いと、ダイヤモンド粒子表面(圧密体内の空隙)のほとんどに圧力がかからないため、ダイヤモンドのグラフェン化も起こることができる。ダイヤモンドのグラフェン化を回避するために、圧密体内のダイヤモンド表面上のこれらの空隙は、圧力を加えることを必要とする、または圧力を加えることから利益を得る場合がある。窒素中心または空孔を作成するために所望の量の塑性変形を維持しながら、不要なダイヤモンドのグラフェン化を最小にする試みでは、炭酸ナトリウムなど、最適な範囲の触媒材料を使用することが有用である。触媒材料の範囲は、塑性変形及び空孔を作成するために粒子間の点接触によって加えられるせん断応力と、ダイヤモンドのグラフェン化を制限する、または更には防止するためにダイヤモンド粒子間に位置する触媒材料溶融物による水圧とのバランスを取るように開発される。
【0067】
図8は、12μm~22μmのダイヤモンド砥粒及び炭酸ナトリウムが約2200℃で焼結されることで形成されたダイヤモンドペレットに対して、473nmレーザーで励起した緑色波長スペクトル内の光発光強度を有するルミネッセンスダイヤモンドの効果を、ダイヤモンド含有量の関数として示すグラフ90である。グラフに示されるように、ルミネッセンスダイヤモンドの光発光強度は、ダイヤモンド砥粒または粒子が約30wt%を超える炭酸ナトリウムと混合されると低下する。炭酸ナトリウムは、約5GPa~7GPaの間の焼結圧力で1400℃超の温度で溶融する。使用される炭酸ナトリウム含有量が約30wt%を上回る場合、ダイヤモンド粒子は炭酸ナトリウム溶融物で完全に取り囲まれるため、HPHT焼結中の直接的なダイヤモンド/ダイヤモンドの点接触は少なくなる。これにより、塑性変形のためにダイヤモンド粒子に加えられるせん断応力が少なくなるため、ダイヤモンド格子内部に生成される窒素空孔中心が少なくなる。また窒素空孔中心が少ないと、ダイヤモンド粒子内部のNVN光学中心も少なくなり、これは、増加した炭酸ナトリウム含有量内の緑色光発光強度が低下することを説明する。炭酸ナトリウム含有量が約20wt%未満である場合、緑色光発光強度の著しい低下も起こる。炭酸ナトリウム含有量が低い場合、より直接的なダイヤモンド/ダイヤモンド粒子の点接触が起こるが、HPHT焼結中にダイヤモンド圧力自由表面を覆うのに十分な炭酸ナトリウムが存在しない。したがって、覆われていないダイヤモンド表面が焼結後にグラフェン化される可能性がより高い。
【0068】
図9は、異なるダイヤモンド(ダイヤモンド砥粒及び炭酸ナトリウム)含有量を有する、
図8を参照して上述された方法で形成されたダイヤモンドペレット100、102、104、106、及び108の焼結後の破面を示す。ダイヤモンドペレット100は70wt%または30wt%の炭酸ナトリウムのダイヤモンド含有量を有し、ダイヤモンドペレット102は75wt%または25wt%の炭酸ナトリウムのダイヤモンド含有量を有し、ダイヤモンドペレット104は80wt%または20wt%の炭酸ナトリウムのダイヤモンド含有量を有し、ダイヤモンドペレット106は85wt%または15wt%の炭酸ナトリウムのダイヤモンド含有量を有し、ダイヤモンドペレット108は90wt%または10wt%の炭酸ナトリウムのダイヤモンド含有量を有する。示されるように、ダイヤモンド含有量が増加するにつれて、ダイヤモンドペレットの色が暗くなる。これは、上記で説明されたダイヤモンドのグラフェン化に関連している。ダイヤモンド含有量が85wt%である場合、焼結ダイヤモンドペレット106は灰色であり、これは、
図8に示される、85wt%のダイヤモンド含有量のダイヤモンドの特定された発光強度の低下に対応する。したがって、この情報に基づいて、最適な組成範囲はダイヤモンド含有量の約75wt%~80wt%の間であるが、そのような組成は、所望のルミネッセンス、触媒材料などを含む、幾つかの要因に基づいて異なり得る。
【0069】
発光強度がダイヤモンドのグラフェン化を防ぐ方法、及びHPHT焼結中にダイヤモンド粒子が受ける所望の度合いのせん断応力量を与える方法も制限することに依存することができるため、ダイヤモンド粒子及び炭酸ナトリウムが結合する方法もまたその役割を果たすことができる。一例では、ダイヤモンド砥粒及び炭酸ナトリウムの総重量に基づいて、ダイヤモンド砥粒または粒子と炭化ナトリウム材料との間で均一な混合を有することが望ましい場合がある(例えば、不均一な混合物が所望のダイヤモンド含有量(例えば、75wt%~80wt%)から最適な組成窓をシフトさせるように機能し得る)。ほとんどの場合、ダイヤモンド砥粒と炭酸ナトリウムとの組み合わせまたは混合があまり均一でない状況でのダイヤモンドのグラフェン化を防ぐために、より多くの炭酸ナトリウムが必要となり得る。特定の最適なダイヤモンド含有量の窓が提供されているが、異なるタイプの非触媒溶媒(例えば、炭酸ナトリウム以外のもの)の使用もまた、異なる最適な焼結組成を有することを理解されたい。
【0070】
一例では、本明細書に開示されるHPHTプロセスによって作製されるルミネッセンスダイヤモンドは、所望の量の緑色光発光強度を与えるためにダイヤモンド含有量を最適化する、ダイヤモンド及び触媒材料(例えば、炭酸ナトリウム)の総重量に基づいて、70~100wt%、80~95wt%、80wt%超、及び特定の例では約85wt%のダイヤモンド含有量を有し得る。一例では、光発光強度は、水中のルミネッセンスダイヤモンドの懸濁液の形態で与えられたルミネッセンスダイヤモンドから決定され、そのような形態は、医療診断用途などの特定の使用用途に関連していてもよい。そのような例では、上述のようにより高い(例えば、約80wt%を超の)ダイヤモンド含有量を有するルミネッセンスダイヤモンドが懸濁液の形態で与えられる場合、所望のより高い量の光発光強度を与えることが分かった。
【0071】
一例では、例えば約80wt%を超えて、増加したダイヤモンド含有量を含むルミネッセンスダイヤモンドは、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩触媒と組み合わされた、平均粒子径12μm~22μmを有するダイヤモンド砥粒の混合物を使用して形成される。混合物は、セルまたはプレスを通して非対称圧力または差圧を導入して、または導入せずに、上記のHPHT処理条件を受ける。一例では、使用されるHPHTプロセスは、約2200℃の温度で行われるプロセスであり、非対称圧力または差圧を加えない。得られたルミネッセンスダイヤモンドを含むペレットの形態で提供される。所望のルミネッセンスダイヤモンド懸濁液を調製する目的で、ルミネッセンスダイヤモンドペレットを洗浄して炭酸ナトリウムを除去する。一例では、ペレットを洗浄するために使用される材料は、ルミネッセンスダイヤモンドペレット中に存在する触媒のタイプ、及びルミネッセンスダイヤモンドペレットから除去するために触媒材料を可溶化する触媒のタイプに依存する。触媒が炭酸ナトリウムである一例では、水を使用してルミネッセンスダイヤモンドペレットを洗浄し、炭酸ナトリウムを除去する。一例では、ルミネッセンスダイヤモンドペレットは、洗浄プロセス中に加熱または沸騰水中に置かれる。次いで、洗浄されたルミネッセンスダイヤモンドペレットをミリングして、またはその他の方法でサイズを縮小させて、ナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子を生成する。一例では、ルミネッセンスダイヤモンド粒子は、約100ナノメートルの平均粒子径を有する粒子に粒子径分級される。特定の粒子径が開示されているが、ルミネッセンスダイヤモンド粒子がフォトルミネッセンス内の同様の特徴を有する、100ナノメートルより大きいまたは小さい粒子径に分級され得、所望の輝度を維持することを理解されたい。一例では、ナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子は、空気環境中で約400~550℃の温度で熱処理される。熱処理温度は、ルミネッセンスダイヤモンド粒子の特定の粒子径に応じて異なり、例えば、より大きい粒子径のルミネッセンスダイヤモンド粒子は、より小さい粒子径のルミネッセンスダイヤモンド粒子よりも高い温度で熱処理され得る。ルミネッセンスダイヤモンド粒子が約100ナノメートルの平均粒子径を有する一例では、熱処理温度は、約500~525℃であり得る。
【0072】
図10-1は、脱イオン水中の0.1wt%懸濁液中に、473nmレーザーで照射された100ナノメートルのルミネッセンスダイヤモンドの発光応答112のグラフ110である。ナノダイヤモンド材料は、約85%の12~22μmダイヤモンドと約15%の炭酸ナトリウムとの混合物をHPHT処理した後、リンス処理して炭酸ナトリウムを除去し、約100nmまでダイヤモンドをミリングし、約515℃で熱処理することによって作成された。最大光発光強度114は、約520~550nmの間の波長で観察された。
【0073】
図10-2は、水性懸濁液の形態で与えられる、上記に開示された100nmのルミネッセンスダイヤモンド粒子に対して、473nmレーザーで励起された緑色波長スペクトル内の最大光発光強度を有するルミネッセンスダイヤモンドの効果を示すグラフ120である。ルミネッセンスダイヤモンド材料は、12~22μmのダイヤモンドと炭酸ナトリウムとの様々な組成のHPHT処理によって作製され、これらは約70%~100%がダイヤモンド、残りが炭酸ナトリウムであった。一例では、ルミネッセンスダイヤモンド懸濁液は、脱イオン水中に100nmのルミネッセンスダイヤモンド粒子を分散させ、0.1wt%の懸濁液(すなわち、粒子及び水の総重量に基づいて、0.1wt%の100nmルミネッセンスダイヤモンド粒子を含む)を形成することによって調製された。グラフ120に示されるように、ルミネッセンスダイヤモンド溶液の光発光強度は、HPHT処理中のダイヤモンド含有量が約70wt%から増加するにつれて向上し、約85wt%で最大光発光強度に達するように見える。すべてのサンプルは、上述の
図10-1に示されたものと同様に、約520~550ナノメートルの間の最大発光強度を有した。
【0074】
2つの異なるルミネッセンスダイヤモンド懸濁液の光発光強度を
図10-2に示し、1つの懸濁液122は約500℃で熱処理されたダイヤモンド粒子を含み、別の懸濁液124は約515℃で熱処理されたダイヤモンド粒子を含む。図示のように、約515℃で熱処理された約85wt%のダイヤモンドを有するルミネッセンスダイヤモンド懸濁液は、約500℃のより低い温度で熱処理された約85wt%のダイヤモンドを有するルミネッセンスダイヤモンド懸濁液よりも高い光発光強度を示した。この結果は、より高い温度での熱処理が光発光強度の増加に与える有益な影響を示す。しかしながら、熱処理温度によって、ルミネッセンスダイヤモンドがグラフェン化する場合があることに意味があり、その場合、光発光強度が下がるまたは低くなるように機能する。したがって、懸濁液中に与えられるナノサイズのルミネッセンスダイヤモンド粒子は、光発光強度を最適化する目的で、開示された温度範囲内で熱処理され、不要なダイヤモンドのグラフェン化を引き起こさないことが望ましい。実際、幾つかの実施形態では、熱処理の温度は、所望の光発光強度を得るのに重要であることができる。また、熱処理前のダイヤモンド粒子の色が(すなわち、グラファイトによって)暗くなる場合、上記に開示された温度範囲での熱処理は、グラファイト層を燃焼終了して(例えば、完全燃焼終了して)、光発光強度を上げるように機能する。しかしながら、少なくとも幾つかの実施形態では、ダイヤモンド粒子が燃焼終了するのを防ぐために熱処理温度が高すぎないことが望ましい。したがって、上記に提供される熱処理温度範囲は、ダイヤモンドが燃焼終了することによるダイヤモンドの重量損失を有するという潜在的な欠点なしに、増加した光発光強度を得るという潜在的な利点とのバランスを取るように機能する。一例では、約500℃の熱処理温度は、このバランスを提供するが、熱処理プロセスまたはサイクルの間、ダイヤモンド粒子が暗くならない(すなわち、グラファイト化しない)ことを確保する。
【0075】
図10-2のグラフ120に示されるように、ルミネッセンスダイヤモンド懸濁液の光発光強度は、ダイヤモンド含有量が約85wt%を超えると低下し始める。しかしながら、90wt%、更には100wt%を有するルミネッセンスダイヤモンド懸濁液の光発光強度は、70wt%のダイヤモンドのみを有するルミネッセンスダイヤモンド懸濁液の光発光強度よりも大きいことが示される。したがって、このグラフ120は、例えば約80wt%を上回る、ダイヤモンド含有量の増加によって、懸濁液の形態で与えられた本明細書に開示されるナノサイズのルミネッセンスダイヤモンドの光発光強度の増大がもたらされるという正の影響を説明するのに役立つ。
【0076】
光発光強度を測定する際に、任意の適切な方法が使用され得る。例えば、時間分解フォトルミネッセンスを使用して、光パルスでサンプルを励起させ、時間に対する減衰を測定し得る。測定期間にわたってピーク強度が使用されてよい。当然のことながら、他の方法も使用され得る。幾つかの実施形態では、強度は、単位のない測定値である、または単位がないように正規化されてもよい。
【0077】
ルミネッセンスダイヤモンドの幾つかの例示的な実施形態が上記で詳細に説明されてきたが、当業者には、特許請求の範囲及び本開示の範囲から実質的に逸脱することなく、例示的な実施形態において多くの変更が可能であることが容易に理解されよう。例えば、本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドは、生物学的最終用途との関連で提示されている。本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドは所望の改善されたレベルの発光強度が有用または有益である生物学的以外の最終用途で使用されてもよいことを理解されたい。ルミネッセンスダイヤモンド(例えば、窒素空孔中心を含むもの)の他の潜在的な用途は、磁気センサ、高解像度サーモグラフィ、顕微鏡センサアレイ、偽造防止対策、イオン濃度監視、膜電位測定、光トラップ、及びひずみ/圧力センサを含むが、これらに限定されない。したがって、本明細書に開示されるルミネッセンスダイヤモンドが1つの特定の最終使用用途に限定されることを意図したものではないことが理解される。
【0078】
他の実施形態では、HPHT条件は、記載されているが、異なるHPHT条件が使用され得るため、例示にすぎない。例えば、本明細書に記載の材料は、異なるプレス技術を使用して、異なる触媒材料の存在下で、または無数にある他の様々なものを用いて形成され得る。したがって、圧力または温度条件は、異なる実施形態によって異なり得る。例えば、あるHPHTプレス設計は、異なるHPHTプレス設計とは異なる条件を使用し得る。したがって、ルミネッセンスダイヤモンドのプロセスの変更形態及び最終使用用途は、以下の特許請求の範囲で定義される本開示の範囲内に含まれることを意図したものである。
【0079】
本明細書の説明では、本開示の幾つかの実施形態の様々な態様の理解を容易にするために、様々な関係用語が使用され得る。「頂部」、「底部」、「上方」、「下方」、「左」、「右」などの関係用語を使用して、1つ以上の他の構成要素に対するそれらの動作位置または図示位置を含む、様々な構成要素を説明し得る。関係用語は、本明細書の範囲または特許請求の範囲内の実施形態ごとに特定の向きを指示するものではないが、様々な構成要素への参照を容易にする際の便宜を意図したものである。したがって、それらのような関係の態様は、逆転されても、反転されても、回転しても、空間内で移動しても、対角線上の向きもしくは位置に置かれても、水平もしくは垂直に置かれても、または同様に変更されてもよい。
【0080】
「第一」、「第二」、「第三」などとしての構成要素の特定の説明または呼称は、本明細書または特許請求の範囲で、同一の構成要素の間、または用途、構造、もしくは動作が類似する構成要素の間で区別するために使用され得る。このような文言は、構成要素を単数形の呼称に限定すること、または複数の構成要素を要求することを意図したものではない。このように、本明細書では「第一」構成要素として参照される構成要素は、特許請求の範囲内で「第一」構成要素として参照される構成要素と同じであっても、または異なってもよく、請求項は、「第二」構成要素の存在を必要とすることなく「第一」構成要素を含んでよい。
【0081】
更に、本明細書または特許請求の範囲は、「追加の」または「他の」要素、特徴、態様、構成要素などを指す場合があるが、追加の要素の単一または複数の要素が存在することを排除するものではない。特許請求の範囲または本明細書が「a」または「an」要素を言及する場合、そのような言及は、その要素が1つだけであると解釈されるのではなく、代わりに他の構成要素を包含し、その要素のうちの「少なくとも1つ」と理解される。本明細書では、構成要素、特徴、構造、機能、または特性が「含まれ得る」、「含まれてもよい」、「含まれることができる」、または「含まれる可能性がある」と述べられる場合、その特定の構成要素、特徴、構造、または特性は、ある特定の実施形態では提供されるが、本開示の他の実施形態では任意選択である。「結合する」、「結合された」、「接続する」、「接続」、「接続された」、「と接続して」、及び「接続すること」という用語は、「と直接接続して」、または「と1つ以上の中間要素もしくは部材を介して接続して」を指す。「一体の」または「一体に」形成される構成要素は、同じ成形もしくは鋳造プロセスで、同じ材料から一般に成形もしくは鋳造されること、または同じ材料在庫から一般に機械加工されることなどによって、同じ材料片、または材料セットから作られる構成要素を含む。また「一体」である構成要素を合わせて「結合する」ことも理解されたい。
【0082】
更に、本開示の「1つの実施形態」、「一実施形態」、または「一例」に対する言及は、列挙される機構も組み込む追加の実施形態または例の存在を除外すると解釈されることを意図したものではないことを理解されたい。例えば、本明細書のある実施形態に関連して説明された任意の要素は、本明細書に記載された任意の他の実施形態の任意の要素と組み合わせ可能であってよい。
【0083】
本明細書に記載される数、パーセンテージ、比率、または他の値は、その値だけでなく、本開示の実施形態によって包含される、当業者によって理解されるような、記載される値の「約」または「おおよそ」である他の値も含むことを意図したものである。したがって、記載される値は、少なくとも所望の機能を果たす、または所望の結果を達成するために、記載される値に十分に近い値を包含するのに十分に広く解釈されたい。記載される値は、適切な製造または生産プロセス中に予想されるばらつきを少なくとも含み、記載される値の5%以内、1%以内、0.1%以内、または0.01%以内の値を含み得る。
【0084】
本明細書で使用される「おおよそ」、「約」、及び「実質的に」という用語は、標準的な製造またはプロセスの公差以内である、記載される量に近い量、またはそれでも所望の機能を果たす、または所望の結果を達成する量を表す。例えば、「おおよそ」、「約」、及び「実質的に」という用語は、記載された量の5%未満の範囲内、1%未満の範囲内、0.1%未満の範囲内、及び0.01%未満の範囲内である量を指してよい。更に、前述の本明細書におけるいずれの方向または参照フレームも、相対的な方向または運動に過ぎないことを理解されたい。例えば、「上」及び「下」、または「より上」または「より下」へのいずれかの言及は、関連する要素の相対的な位置または運動を説明するに過ぎない。
【0085】
様々な例示的な実施形態が本明細書で詳細に説明されているが、当業者には、本開示から実質的に逸脱することなく、例示的な実施形態において多くの変更が可能であることが本開示の観点から容易に理解されよう。したがって、そのような任意の変更は、本開示の範囲内に含まれることを意図したものである。同様に、本明細書の本開示は多くの詳細を含むが、これらの詳細は、本開示の範囲または添付の特許請求の範囲のいずれかを限定するものとして解釈されるべきではなく、単に、本開示の範囲及び添付の特許請求の範囲の内に含み得る1つ以上の特定の実施形態に関する情報を提供するものとして解釈されるべきである。開示された様々な実施形態からの任意の説明された特徴は、組み合わせて使用されてよい。
【0086】
特許請求の範囲では、ミーンズプラスファンクション条項は、説明した機能を行うものとして本明細書に説明される構造体、及び構造的均等物だけでなく、均等な構造体も網羅することを意図したものである。したがって、釘及びねじは、釘が円筒面を使用して木製部品を合わせて固定するのに対し、ねじが螺旋面を用いるという点で構造的均等物ではあり得ないが、木製部品を締結する環境では、釘及びねじは均等な構造体であり得る。請求項が関連する機能と共に「その手段(means for)」という言葉を明示的に使用しているものを除き、本明細書の請求項のいずれかの任意の限定について特許請求するミーンズプラスファンクションタイプを援用しないことは、本出願人の明示的な意図である。
【0087】
本開示の末尾にある要約は、読者が本開示の幾つかの実施形態の一般的な性質を迅速に把握することを可能にするために提供される。これは、特許請求の範囲または意味を解釈するために、または限定するために使用されないことを理解した上で提出される。
【国際調査報告】