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  • 特表-正浸透膜及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】正浸透膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/16 20060101AFI20241219BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241219BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241219BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20241219BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B01D71/16
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/02
C08J5/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534681
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 CN2022078220
(87)【国際公開番号】W WO2023035556
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202111056457.0
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524220296
【氏名又は名称】北京宝盛通国際電気工程技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING BAOSHENGTONG INTERNATIONAL ELECTRIC ENGINEERING TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1020, Building 12, Shifoying Xili, Chaoyang District Beijing 100025, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】唐 春
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006LA01
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB11
4D006MC18X
4D006MC48
4D006MC90
4D006NA05
4D006NA10
4D006NA12
4D006NA46
4D006NA54
4D006PB02
4D006PB08
4D006PC11
4D006PC42
4F071AA09
4F071AC05
4F071AC07
4F071AC09
4F071AC11
4F071AC19
4F071AE05
4F071AE19
4F071AF09
4F071AF53
4F071AG12
4F071AH02
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC02
4F071BC03
(57)【要約】
正浸透膜及びその製造方法。この正浸透膜は、親水性支持グリッド、酸化防止剤を混合した親水性ポリマーフィルム層を含む改質膜構造を有する。この支持グリッドは、不織布又はポリエステルスクリーンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正浸透膜であって、
前記正浸透膜は、改質された親水性ポリマーフィルム層を含み、前記親水性ポリマーフィルム層には、親水性ポリマー及び酸化防止剤が含まれ、
前記親水性ポリマーフィルム層は、親水性ポリマー材料を、酸化防止剤を含む溶媒系に加えて混合してキャスト液を取得し、キャスト液を製膜し、溶媒を除去するプロセスにより製造され、
前記キャスト液における親水性ポリマーは三酢酸セルロースであり、その質量分率が11-13wt.%であり、酸化防止剤は立体障害フェノール系酸化防止剤である2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールであり、その質量分率が0.2-0.7wt.%であり、
前記正浸透膜は、0.5mol/L塩化ナトリウム、過酸化水素を添加したORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とし、過酸化水素でシミュレーションしたORP値が+800mvの高い酸素ポテンシャルの水中に30日間浸漬した後に試験しても、膜の性能が低下しないことを特徴とする、正浸透膜。
【請求項2】
前記酸化防止剤は、キャスト液における質量分率が0.3-0.5wt.%であることを特徴とする、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項3】
親水性ポリエステルスクリーン又は不織布からなる支持グリッドをさらに含み、前記親水性ポリマーフィルム層は、支持グリッド上に積層され、前記支持グリッドがポリエステルスクリーンである場合、それは30μm-80μmの厚さ及び100-200メッシュの孔径を有し、前記正浸透膜は、30μm-150μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項4】
前記キャスト液において、その溶媒系は5-20wt.%アセトン、5-10wt.%メタノール及び6-8wt.%乳酸を含み、残部が1,4-ジオキサンであることを特徴とする、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項5】
正浸透膜の製造方法であって、
前記正浸透膜は、改質された親水性ポリマーフィルム層を含み、
前記方法は、
(a)製造キャスト液:親水性ポリマー材料、酸化防止剤、水溶性有機溶媒系を混合し、キャスト液を得るステップと、
(b)前記キャスト液を、親水性支持グリッドが敷かれたガラス板又は光ガラス板に塗布し、初期正浸透膜を得るステップと、
(c)初期正浸透膜の外層を処理し、溶媒を除去し、初期正浸透膜の外層に緻密皮層を形成し、第2初期正浸透膜を得るステップと、
(d)第2初期正浸透膜に対して相分離膜形成又は界面膜形成を行い、前記正浸透膜を得るステップと、
を含み、
前記キャスト液における親水性ポリマーは、三酢酸セルロースであり、その質量分率が11-13wt.%であり、酸化防止剤は、立体障害フェノール系酸化防止剤2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールであり、その質量分率が0.2-0.7wt.%であり、前記正浸透膜は、0.5mol/L塩化ナトリウム、添加過酸化水素のORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とし、過酸化水素でシミュレーションしたORP値が+800mvの高酸素ポテンシャルの水中に30日間浸漬した後に試験しても、膜性能は低下しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項6】
下記のステップをさらに含み、即ち、
(a-1)ステップ(a)で得られたキャスト液を脱泡し、
前記ステップ(b)において、さらにステップ(a-1)を脱泡した後のキャスト液を、親水性支持グリッドが敷かれたガラス板又は光ガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて特定の厚さを有する初期正浸透膜を製造し、
前記ステップ(c)の外層処理及び溶媒の除去は、得られた初期正浸透膜を空気中に静置し、溶媒を揮発し、外層に緻密皮層を形成し、
前記ステップ(d)において、第2初期正浸透膜を脱イオン水に浸漬することでゲル化し、相分離が発生して膜を形成し、
(e)ステップ(d)で得られた正浸透膜を脱イオン水に浸漬して残留有機溶媒を除去し、
(f)正浸透膜を取り出し、脱イオン水で洗い流した後、メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液に入れて使用まで保存しておくことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記親水性支持グリッドの材料は、ポリエステルスクリーン又は不織布であり、
ポリエステルスクリーンである場合、その厚さは30μm-80μm、孔径は100メッシュ-200メッシュであり、
前記水溶性有機溶媒系は、1,4-ジオキサン、アセトン、メタノール及び乳酸の混合液であることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
酸化防止剤の質量分率は、0.3-0.5wt.%であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記キャスト液における溶媒系の成分及び質量分率については、アセトンの質量百分率は5-20wt.%であり、メタノールの質量百分率は5-10wt.%であり、乳酸の質量百分率は6-8wt.%であり、残部は1,4-ジオキサンであることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
前記親水性支持グリッドは、ポリエステルスクリーンであり、その厚さは、30μm、50μm、60μm又は70μmであり、孔径は、100メッシュ又は150メッシュであり、前洗浄処理された後に使用され、
前洗浄処理ステップにおいて、ポリエステルスクリーンをそれぞれ10%の水酸化ナトリウム、2%の塩酸で1時間浸漬処理し、表面に吸着した不純物を除去し、その後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させ、使用まで保存しておき、
フィルムアプリケーターを用いて製造された初期正浸透膜の厚さは、30μm-150μmであることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記製造方法のステップ(a)において、混合条件は、30-50℃の温度下で12-48h撹拌し、均一に混合し、
前記脱泡の方式は、12-36h静置し、十分に脱泡し又は超音波で脱泡を補助することであり、
空気中に静置する条件は、温度25℃以下及び湿度90%以上の環境で30-90秒静置して緻密皮層を形成することであることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項12】
前記製造方法のステップ(e)において、膜を脱イオン水に浸漬する前に、まず、膜を50℃の水浴に入れて15分間熱処理し、脱イオン水に入れて残留有機溶媒を除去する浸漬時間は12-36時間であり、
前記製造方法のステップ(f)におけるメタ重亜硫酸ナトリウムの濃度は0.5-2%であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月9日に出願された中国特許出願第202111056457.0号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、高分子分離膜及びその製造の技術分野に関し、具体的には、耐酸化性正浸透膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
正浸透(FO)過程とは、以ドロー液とフィード液との間の浸透圧差を駆動力として、水を低浸透圧の原水側から選択透過膜を透過して自動的に高浸透圧のドロー液側に拡散させる過程を指し、この過程は、外力とエネルギーが必要ではない。
【0004】
限外濾過、ナノ濾過、逆浸透技術などの圧力で駆動する膜分離過程と異なり、正浸透は、低圧又は無圧で操作可能であるため、動作エネルギー消費量が低い。低圧動作の場合、圧力によるケーキ層の形成がなく、膜汚染が低いとの特徴を有する。十分な浸透圧差がある場合、従来の分離膜によって達成できない高水回収率が実現され得る。
【0005】
上記の正浸透の特徴に基づいて、正浸透技術は、新しい膜分離技術として近年急速に発展し、国内外の研究者の間でも注目され、食品、医薬、エネルギーなどの分野で使用されており、特に海水淡水化、飲料水処理、廃水処理などの多くの分野での応用が期待されている。
【0006】
理想的な正浸透膜は、良好な浸水性、高透過流束、高塩阻止率、良好な抗汚染性などの性能を同時に有する必要がある。これらは、この分野で近年注目されている研究の方向である。現在、当該技術分野では、一般に、酢酸セルロース正浸透膜は芳香族ポリアミド複合膜よりも酸性化に対する耐性が高いと考えられており、正浸透膜の膜材料として酢酸セルロースを使用することがこの分野の研究と製品化の主流となっている。例えば、中国特許出願第201410050442.7号には、内部濃度分極を減少させ、正透過流束及び耐塩素性を改善することを目的とする非対称正浸透酢酸セルロース膜が開示されている。これらの技術研究は、いずれも透過流束及び塩阻止率を向上させ、内部濃度差を減少させるなどを目的とするが、膜の耐酸化性について開示も改良もない。
【0007】
しかし、実際の使用では、特に触媒酸化プロセスセクション後の廃水の酸化性が高い場合、動作中に膜に損傷を与える可能性がある。一方、前端で還元剤を添加する従来の方法では、水質と水量の変動により後端の膜システムの絶対的な安全性を保証することができない。現状では、この問題に対処するための強い酸化耐性を備えた正浸透膜の調製が不足している。例えば、上記の中国特許出願第201410050442.7号で製造された膜は、高酸化性の排水処理やその他の原水にはそのままで効果的に使用することができず、その膜が原水環境の酸化性によって損傷を受けるため、耐用年数が短くなり、膜システム全体のコストが増加する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、強い酸化性条件でも安全で安定して使用可能な高耐酸化性正浸透膜を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の別の目的は、強い酸化性条件下で安全で安定して使用可能な耐酸化性正浸透膜の製造方法を提供することである。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の技術的手段を採用する。
本発明は、正浸透膜に関する。提供される正浸透膜は、改質された親水性ポリマーフィルム層を含む。前記親水性ポリマーフィルム層には、親水性ポリマー及び酸化防止剤が含まれる。前記親水性ポリマーフィルム層は、親水性ポリマー材料を、酸化防止剤を含む溶媒系に混合してキャスト液が得られ、キャスト液を成膜し、溶媒を除去するプロセスにより製造される。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、親水性ポリマーフィルム層を構成する親水性ポリマー材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリ酢酸ビニルから選択される少なくとも1種を含む。前記酸化防止剤は、立体障害フェノール系酸化防止剤である。前記酸化防止剤は、好ましくは、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、テトラ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシル)フェニルプロピオン酸ペンタエリスリトール、1,3,5-トリ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1h,3h,5h)-トリオンから選択される少なくとも1種を含む。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態において、前記キャスト液において、親水性ポリマーと酸化防止剤との質量比は、8-15:0.1-1、好ましくは9-14:0.2-0.9、さらに好ましくは10-13:0.2-0.7、より好ましくは8:0.2であり、又は13:0.5、13:0.2若しくは11:0.3である。
【0013】
本発明の別の好ましい実施形態において、親水性ポリエステルスクリーン又は不織布からなる支持グリッドをさらに含む。前記親水性ポリマーフィルム層は、支持グリッドに積層される。前記支持グリッドがポリエステルスクリーンである場合、それは30μm-80μmの厚さ、100-200メッシュの孔径、好ましくは30μm、50μm、60μm、70μm又は80μmの厚さ、100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュの孔径を有する。前記正浸透膜は、30μm-150μmの厚さ、好ましくは30μm-100μm、さらに好ましくは30μm-80μm、より好ましくは30μm、50μm、60μm又は70μmの厚さを有する。
【0014】
本発明の別の好ましい実施形態において、前記キャスト液における各成分の質量分率については、親水性ポリマーは8-15wt.%、酸化防止剤は0.1-1wt.%であり、その溶媒系は、5-20wt.%アセトン、5-10wt.%メタノール及び6-8wt.%乳酸を含み、残部1,4-ジオキサンであり、好ましくは、親水性ポリマーは9-14wt.%、酸化防止剤は0.2-0.9wt.%であり、その溶媒系は、7-20wt.%アセトン、5-8wt.%メタノール及び6-8wt.%乳酸を含み、残部1,4-ジオキサンである。より好ましくは、親水性ポリマーは10-13wt.%、酸化防止剤は0.3-0.7wt.%であり、その溶媒系は10-20wt.%アセトン、6-8wt.%メタノール及び6-8wt.%乳酸を含み、残部1,4-ジオキサンである。より好ましくは、親水性ポリマーは13wt.%の三酢酸セルロースであり、1,4-ジオキサンの質量百分率は53.5wt.%であり、アセトンの質量百分率は19wt.%であり、メタノールの質量百分率は8wt.%であり、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールの質量百分率は0.5wt.%であり、乳酸の質量百分率は6wt.%であり、さらにより好ましくは、親水性ポリマーは13wt.%の三酢酸セルロースであり、1,4-ジオキサンの質量百分率は53.8wt.%であり、アセトンの質量百分率は19wt.%であり、メタノールの質量百分率は8wt.%であり、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールの質量百分率は0.2wt.%であり、乳酸の質量百分率は6wt.%である。或いは、さらに好ましくは、親水性ポリマーは11wt.%の三酢酸セルロースであり、1,4-ジオキサンの質量百分率は55.7wt.%であり、アセトンの質量百分率は19wt.%であり、メタノールの質量百分率は8wt.%であり、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールの質量百分率は0.3wt.%であり、乳酸の質量百分率は6wt.%である。
【0015】
本発明の別の目的は、正浸透膜の製造方法を提供することである。前記膜は、改質された親水性ポリマーフィルム層を含み、前記方法は、
(a)キャスト液の調製:親水性ポリマー材料、酸化防止剤、水溶性有機溶媒系を混合し、キャスト液を得るステップと、
(b)前記キャスト液を親水性支持グリッドが敷かれるガラス板又は光ガラス板に塗布して初期正浸透膜を得るステップと、
(c)初期正浸透膜の外層を処理し、溶媒を除去し、初期正浸透膜の外層に緻密皮層を形成し、第2初期正浸透膜を得るステップと、
(d)第2初期正浸透膜に対して相分離膜形成又は界面膜形成を行い、前記正浸透膜を得るステップと、
を含む。
【0016】
下記のステップをさらに含む。
(a-1)ステップ(a)で得られたキャスト液を脱泡する。
前記ステップ(b)は、さらに、ステップ(a-1)で脱泡したキャスト液を親水性支持グリッドが敷かれたガラス板又は光ガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて特定の厚さを有する初期正浸透膜を製造する。
前記ステップ(c)の外層処理及び溶媒除去では、得られた初期正浸透膜を空気中に静置し、溶媒を揮発して外層に緻密皮層を形成する。
前記ステップ(d)において、第2初期正浸透膜を脱イオン水に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。
(e)ステップ(d)で得られた正浸透膜を脱イオン水に浸漬して残留有機溶媒を除去する。
(f)正浸透膜を取り出し、脱イオン水で洗い流した後、メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液に入れて使用まで保存しておく。
【0017】
ここで、前記親水性支持グリッドの材料は、ポリエステルスクリーン又は不織布である。ポリエステルスクリーンである場合、その厚さが30μm-80μm、孔径が100メッシュ-200メッシュであり、好ましくは30μm、50μm、60μm又は70μmの厚さ、100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュの孔径を有する。前記親水性ポリマーの材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリ酢酸ビニルから選択される少なくとも1種である。前記酸化防止剤は、立体障害フェノール系酸化防止剤である。前記溶媒系は、1,4-ジオキサン、アセトン、メタノール、乳酸の混合液である。前記立体障害フェノール系酸化防止剤は、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、テトラ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシル)フェニルプロピオン酸ペンタエリスリトール、1,3,5-トリ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1h,3h,5h)-トリオン)から選択される少なくとも1種である。
【0018】
ここで、前記キャスト液における親水性ポリマーの質量分率は8-15wt.%であり、酸化防止剤の質量分率は0.1-1wt.%である。好ましくは前記キャスト液における親水性ポリマーの質量分率は9-14wt.%であり、酸化防止剤の質量分率は0.2-0.9wt.%である。さらに好ましくは前記キャスト液における親水性ポリマーの質量分率は10-13wt.%であり、酸化防止剤の質量分率は0.2-0.7wt.%である。より好ましくは親水性ポリマーの質量分率は8wt.%であり、酸化防止剤の質量分率は0.2wt.%である。或いは、より好ましくは親水性ポリマーの質量分率は13wt.%であり、酸化防止剤の質量分率は0.5wt.%又は0.2wt.%である。或いは、より好ましくは親水性ポリマーの質量分率は11wt.%であり、酸化防止剤の質量分率は0.3wt.%である。
【0019】
ここで、前記溶媒系の成分及びキャスト液における質量分率については、アセトンの質量百分率が5-20wt.%、メタノール質の量百分率が5-10wt.%、乳酸の質量百分率が6-8wt.%であり、残部が1,4-ジオキサンであり、好ましくは、アセトンの質量百分率が7-20wt.%、メタノールの質量百分率が5-8wt.%、乳酸の質量百分率が6-8wt.%であり、残部が1,4-ジオキサンであり、より好ましくは、アセトンの質量百分率が10-20wt.%、メタノールの質量百分率が6-8wt.%、乳酸の質量百分率が6-8wt.%であり、残部が1,4-ジオキサンであり、さらに好ましくは、アセトンの質量百分率が19wt.%、メタノールの質量百分率が8wt.%、乳酸の質量百分率が6%であり、残部が1,4-ジオキサンである。
【0020】
前記親水性支持グリッドは、ポリエステルスクリーンであり、その厚さが30μm、50μm又は70μmであり、孔径が100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュであり、前洗浄処理された後に使用される。前洗浄処理ステップにおいて、ポリエステルスクリーンをそれぞれ10%の水酸化ナトリウム、2%の塩酸で1時間 浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去し、その後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させて保存しておく。フィルムアプリケーターで製造された前記初期正浸透膜は、厚さが30μm-150μm、好ましくは30μm-100μm、さらに好ましくは30μm-80μm、より好ましくは30μm、50μm、60unm又は70μmである。
【0021】
前記製造方法のステップ(a)において、混合条件として、30-50℃の温度下で12-48h撹拌し、均一に混合し、好ましくは40-50℃の温度下で12-32h;より好ましくは40℃の温度下で24時間撹拌する。前記脱泡方式として、12-36h静置して十分に脱泡し、又は超音波で脱気を補助し、好ましくは24h静置する。空気中に静置する条件として、温度25℃以下及び湿度90%以上の環境で30-90秒静置して緻密皮層を形成し、好ましくは温度25℃及び湿度90%の環境で30-60秒静置する。
【0022】
前記製造方法のステップ(e)において、膜を脱イオン水に浸漬する前に、膜を40-50℃の水浴に入れて5-20分間熱処理した後、脱イオン水に入れて残留有機溶媒を除去する浸漬時間は12-36時間である。好ましくは、50℃の水浴中で15分間熱処理した後脱イオン水に24時間浸漬する。前記製造方法のステップ(f)におけるメタ重亜硫酸ナトリウムの濃度は0.5-2%である。
【0023】
本発明で提供される正浸透膜は、強酸化性の廃水処理、水浄化、食品、医薬品の濾過、浄化に使用することができる。
【0024】
本発明で提供される正浸透膜及びその製造方法において、発明された正浸透膜は、改質膜であり、親水性ポリマー層に酸化防止剤を混合し、特に立体障害フェノール系酸化防止剤を加えて混合して高い耐酸化性効果を得ることにより、強い酸化性条件下でも安全で安定して使用可能な耐酸化性正浸透膜が製造され得る。
【0025】
また、本発明の別の実施形態において、不織布又はポリエステルスクリーン上に高親水性の親水性ポリマー層を形成することにより、透水性、水透過流束及び塩阻止率を向上させることができ、親水性ポリマーフィルム層における酸化防止剤、特に、立体障害フェノール系酸化防止剤(例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)により、正浸透膜の耐酸化性及び薬品耐性が保証され、原水の酸化性制限が効果的に低減され、前処理の還元剤の投入が減少され、操作コストが減少されるとともに、正浸透膜の動作安定定性が向上し、水の浄化分離の効率が向上し、正浸透膜の使用寿命が延長し、浸透膜システム全体の使用コストが削減される。
【0026】
本発明の正浸透膜の製造方法は、最適化条件下で耐酸化性を有する親水性ポリマーフィルム層を形成することを含む。これによって、高い膜透過流束、高い塩阻止率を有するとともに、高い耐酸化性を有し、膜に入る原水の酸化性制限が低減され、正浸透膜の動作安定性が向上し、水の浄化分離の効率が向上し、正浸透膜の使用寿命が延長し、浸透膜システム全体の使用コストが削減される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の正浸透膜の製造プロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の目的を達成するための技術的手段及び効果をさらに説明するために、以下、図面及び好ましい実施例により、本発明の正浸透膜及びその製造方法、その具体的な実施形態、構造、製造方法、特徴及び機能を説明する。本明細書では、以下の実施例により本発明をさらに説明するが、以下の実施例は本発明を説明擦るものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0029】
図1は、本発明の正浸透膜の製造プロセスのフローチャートを示し、具体的なプロセスは下記である。
(1)支持グリッドの前準備:ポリエステルスクリーンの不純物を除去し、洗い流した後に乾燥させて保存しておく。必要に応じてポリエステルスクリーンの前準備を行う。
(2)キャスト液の調製:親水性ポリマー材料、酸化防止剤及び有機溶媒系を均一に混合する。本発明では、さらに親水性ポリマー材料、立体障害フェノール系酸化防止剤を水溶性有機溶媒系の混合液に入れ、30℃-50℃の温度下で12-48h撹拌した後、均一なキャスト液を得る。
(3)脱泡:ステップ2で得られたキャスト液を12-36h静置し、十分に脱泡し又は超音波脱泡で補助する。
(4)初期正浸透膜の製造:完全に脱泡したキャスト液を前処理されたポリエステルスクリーンが敷かれたガラス板に注ぎ、又は光ガラス板に直接注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて特定の厚さを有する初期正浸透膜を製造する。
(5)製膜:ステップ4で得られた膜を所定の温度及び湿度の環境下で、空気中で数秒静置して緻密な皮層を形成し、その後、脱イオン水に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。本発明において、好ましくは、温度25℃以下、湿度90%以上の空気中に30-90秒静置する。
(6)最適化処理:ステップ5で得られた膜を40-50℃の水浴に入れ、5-20分間熱処理し、その後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去し、さらに最適化された正浸透膜を得る。
(7)使用まで保存:正浸透膜を取り出し、脱イオン水で洗い流した後、0.5-2%メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液に入れ、使用まで保存しておく。必要に応じて使用まで保存しておくかを決定する。
【0030】
実施例1
(1)厚さ30μm、200メッシュのポリエステルスクリーンをそれぞれ2%の塩酸、10%の水酸化ナトリウムで1時間浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去した後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させ、使用まで保存した。
(2)質量百分率13wt.%の三酢酸セルロースを質量百分率53.5wt.%の1,4-ジオキサン、質量百分率19wt.%のアセトン、質量百分率8wt.%のメタノール、質量百分率0.5wt.%の2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール及び質量百分率6%の乳酸の混合液に加え、40℃の温度で24h撹拌した後、均一なキャスト液を得た。
(3)ステップ2で得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し、又は超音波で脱泡を補助した。
(4)完全に脱泡したキャスト液をポリエステルスクリーン(厚さ30μm)が敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ50μmの初期正浸透膜を製造した。
(5)ステップ4で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境中において空気中に60秒静置して緻密な皮層を形成した後、脱イオン水中に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。
(6)ステップ5で得られた膜を40-50℃の水浴に入れ、5-15分間熱処理した後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0031】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが50μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、過酸化水素が添加したORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は11.5L/(m*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は98%よりも高く、過酸化水素でシミュレーションしたORP値が+800mvの条件下で30日浸漬した後でも膜性能の低下が観察されなかった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0032】
実施例2
(1)質量百分率13wt.%の三酢酸セルロースを質量百分率53.8wt.%の1,4-ジオキサン、質量百分率19wt.%のアセトン、質量百分率8wt.%のメタノール、質量百分率0.2wt.%の2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール及び質量百分率6%の乳酸の混合液に加え、40℃の温度で24h撹拌した後、均一なキャスト液を得た。
(2)ステップ1で得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し、又は超音波で脱泡を補助した。
(3)完全に脱泡したキャスト液をガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ50μmの初期正浸透膜を製造した。
(4)ステップ3で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境中において空気中に60秒静置して緻密な皮層を形成した後、脱イオン水中に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。
(5)ステップ4で得られた膜を40-50℃の水浴に入れ、5-15分間熱処理した後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0033】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが50μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、過酸化水素が添加したORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は11.2L/(m*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は98%よりも高く、過酸化水素でシミュレーションしたORP値が+800mvの条件下で30日浸漬した後でも膜性能の低下が観察されなかった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0034】
実施例3
(1)質量百分率13wt.%の三酢酸セルロースを質量百分率53.8wt.%の1,4-ジオキサン、質量百分率19wt.%のアセトン、質量百分率8wt.%のメタノール、質量百分率0.2wt.%のテトラ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシル)フェニルプロピオン酸ペンタエリスリトール及び質量百分率6%の乳酸の混合液に加え、40℃の温度で24h撹拌した後、均一なキャスト液を得た。
(2)ステップ1で得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し、又は超音波で脱泡を補助した。
(3)完全に脱泡したキャスト液をガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ50μmの初期正浸透膜を製造した。
(4)ステップ3で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境中において空気中に60秒静置して緻密な皮層を形成した後、脱イオン水中に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。
(5)ステップ4で得られた膜を40-50℃の水浴に入れ、5-15分間熱処理した後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0035】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが50μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、過酸化水素が添加したORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は11.3L/(m*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は98%よりも高く、過酸化水素でシミュレーションしたORP値が+800mvの条件下で30日浸漬した後でも膜性能の低下が観察されなかった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0036】
実施例4
(1)質量百分率11wt.%の三酢酸セルロースを質量百分率55.7wt.%の1,4-ジオキサン、質量百分率19wt.%のアセトン、質量百分率8wt.%のメタノール、質量百分率0.3wt.%の2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール及び質量百分率6%の乳酸の混合液に加え、40℃の温度で24h撹拌した後、均一なキャスト液を得た。
(2)ステップ1で得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し、又は超音波で脱泡を補助した。
(3)完全に脱泡したキャスト液をガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ70μmの初期正浸透膜を製造した。
(4)ステップ2で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境中において空気中に60秒静置して緻密な皮層を形成した後、脱イオン水中に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。
(5)ステップ4で得られた膜を50℃の水浴に入れ、15分間熱処理した後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0037】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが70μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、過酸化水素が添加したORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は12.5L/(m*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は98%よりも高く、過酸化水素でシミュレーションしたORP値が+800mvの条件下で30日浸漬した後でも膜性能の低下が観察されなかった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0038】
表1:0.5mol/L塩化ナトリウム抽取液、過酸化水素を添加したORP値が+800mvの0.01mol/L硫酸マグネシウムをフィード液とする膜の性能評価
【0039】
【表1】
【0040】
表1から分かるように、酸化防止剤を添加した本発明の正浸透膜は、高い耐酸化性を有し、強い酸素ポテンシャルを有する水に30日間浸漬したとしても、その膜の性能は影響を受けなかった。従来の三酢酸セルロースからなる正浸透膜及び従来製品の正浸透膜では、耐酸化性が低く、浸漬時間に伴って膜性能が顕著に低下する。
【0041】
本発明の実施例において、水酸化ナトリウム、塩酸及びメタ重亜硫酸ナトリウムの濃度は質量比で計算される。
【0042】
本発明で提供される正浸透膜及びその製造方法において、発明された正浸透膜は改質膜であり、親水性ポリマー層に酸化防止剤、特に立体障害フェノール系酸化防止剤を加えて混合して高い耐酸化性效果を得ることによって、強い酸化性条件でも安全で安定して使用可能な耐酸化性正浸透膜が得られる。
【0043】
本明細書において、特定の実施例により本発明を説明したが、明らかなように、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を加えることができる。したがって、本発明の明細書及び図面は、説明的なものであり、制限的なものではない。
図1
【国際調査報告】