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特表2024-546807少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241219BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/00 360
H01J49/00 400
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534741
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2022085510
(87)【国際公開番号】W WO2023110809
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21214124.6
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【弁理士】
【氏名又は名称】末松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】クイント,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュバインベルガー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ティーマン,ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】バーグナー,マリウス
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041AA05
2G041CA01
2G041EA13
2G041GA03
2G041GA09
2G041LA10
2G041LA20
(57)【要約】
少なくとも1つの質量分析セル(102、104、106)を備える質量分析機器(100)の特性評価のための方法が提案される。本方法は、既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料(110)を質量分析機器(100)によって分析し、試料(110)の質量スペクトル(116、118、144、146)をもたらすステップと、質量スペクトル(116、118、144、146)の外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定するステップと、外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差を計算するステップと、物質の理論質量電荷比値からの計算された二乗差の偏差を決定するステップとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの質量分析セル(102、104、106)を備える質量分析機器(100)の特性評価のための方法であって、
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料(110)を前記質量分析機器(100)によって分析し、前記試料(110)の質量スペクトル(116、118、144、146)をもたらすことと、
-前記質量スペクトル(116、118、144、146)の外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定することと、
-前記外側エンベロープと前記内側エンベロープとの間の二乗差を計算することと、
-前記物質の理論質量電荷比値からの前記計算された二乗差の偏差を決定することと
を含む方法。
【請求項2】
前記外側エンベロープと前記内側エンベロープとの間の前記二乗差は、(f-fとして計算され、fは前記外側エンベロープであり、fは前記内側エンベロープである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)の質量電荷比軸に沿って前記計算された差の前記偏差を決定することをさらに含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項4】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)の前記質量電荷比軸に沿った前記物質の前記理論質量値の左側の位置および右側の位置に基づいて、前記計算された差の前記偏差を決定することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記偏差を決定することは、前記質量スペクトル(116、118、144、146)の前記質量電荷比軸に沿った前記物質の前記理論質量値の前記左側の位置におけるピークと前記右側の位置におけるピークの比を決定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記計算された差の前記決定された偏差が所定の差しきい値を超える場合に、前記質量分析機器(100)の状態が不適切であると決定することをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)のウェーブレット変換を行い、前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)の振幅について、所定の周期における前記物質の理論振幅値からの偏差を決定することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)の前記ウェーブレット変換を行い、前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)の振幅について、所定の周期における前記物質の理論振幅値からの前記偏差を決定することは、前記計算された差の前記決定された偏差が前記所定の差しきい値を超えない場合に実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記振幅の前記決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、前記質量分析機器(100)の状態が不適切であると決定することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの質量分析セル(102、104、106)を備える質量分析機器(100)の特性評価のための方法であって、
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料(110)を前記質量分析機器(100)によって分析し、前記試料(110)の質量スペクトル(116、118、144、146)をもたらすことと、
-前記質量スペクトル(116、118、144、146)のウェーブレット変換を行うことと、
-前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)の振幅について、所定の周期(160)における前記物質の理論振幅値からの偏差を決定することと
を含む方法。
【請求項11】
前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)のヒートマップ(162、164)を生成し、前記ヒートマップ(162、164)において前記所定の周期(160)における前記振幅の前記偏差を決定することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ウェーブレットパワーに依存して前記所定の周期(160)における前記振幅の前記偏差を決定することをさらに含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記振幅の前記決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、前記質量分析機器(100)の状態が不適切であると決定することをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記質量分析機器(100)は、2つ以上の質量分析セル(102、104、106)を備え、前記方法は、各質量分析セル(102、104、106)について実行される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、所定の時点において実行され、前記時点は、とくには、少なくとも前記質量分析機器(100)の始動を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
質量分析の実施について、関心が高まっている。質量分析(MS)は、イオンの質量電荷比を測定するために使用される分析技術である。結果は、質量スペクトル、すなわち質量電荷比の関数としての強度のプロットとして提示される。質量分析は、多数のさまざまな分野で使用され、純粋な試料および複雑な混合物に適用される。
【0003】
質量スペクトルは、質量電荷比の関数としてのイオン信号のプロットである。これらのスペクトルは、試料の元素または同位体に係る特徴、ならびに粒子および分子の質量を決定し、分子および他の化合物の化学的な正体または構造を明らかにするために使用される。
【0004】
典型的なMSの手順においては、固体、液体、または気体であってよい試料が、例えば電子ビームを衝突させることによってイオン化される。これにより、試料の分子の一部を、正に帯電したフラグメントに分解でき、あるいはフラグメントに分解することなく単に正に帯電させることができる。次いで、これらのイオン(フラグメント)は、例えばそれらを加速させ、それらに電場または磁場を作用させることによって、質量電荷比に従って分離される:同じ質量電荷比のイオンは、同じ量の偏向を被る。イオンは、電子増倍管などの荷電粒子を検出することができる機構によって検出される。結果は、検出されたイオンの信号強度の質量電荷比の関数としてのスペクトルとして表示される。試料中の原子または分子を、既知の質量、例えば分子全体を識別された質量と相関させることによって同定することができ、あるいは特徴的なフラグメント化のパターンによって同定することができる。
【0005】
少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器は、イオンを導き、フィルタリングし、少なくとも検出するための多数の異なる電子的電位を有する。システムのパラメータは、同一のイオンの挙動を異なるシステムにおいても調和させるべきである。質量較正パラメータが、イオンの重量およびそれらの分解能を印加電圧に相関させる。環境条件の変化および時間につれてのシステムの汚染のために、質量較正は、さまざまな変動、シフト、および傾向を被る可能性があり、これが、選択性および感度に悪影響を及ぼし、最悪の場合には患者の結果にも悪影響を及ぼす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決される課題
したがって、正常および異常などの質量分析機器の状態の自動分類を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
この課題は、独立請求項の特徴を有する少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法、コンピュータプログラム、およびコンピュータ可読記憶媒体によって対処される。単独で実現されても、任意の組み合わせにて実現されてもよい好都合な実施形態が、従属請求項ならびに明細書全体に挙げられる。
【0008】
以下で使用されるとき、用語「・・・を有する」、「・・・を備える」、または「・・・を含む」、あるいはこれらの任意の文法的変種は、非排他的なやり方で用いられる。したがって、これらの用語は、これらの用語によって紹介される特徴の他に、この文脈において説明されるエンティティにさらなる特徴が存在しない状況、および1つ以上のさらなる特徴が存在する状況の両方を指し得る。例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」、および「AはBを含む」という表現は、B以外に他の要素がAに存在しない状況(すなわち、AがBのみで排他的に構成される状況)、およびB以外に要素C、要素CおよびD、あるいはまたさらなる要素など、1つ以上のさらなる要素がエンティティAに存在する状況の両方を指し得る。
【0009】
さらに、特徴または要素が1回以上存在してよいことを示す「少なくとも1つ」または「1つ以上」という用語あるいは同様の表現は、典型的には、それぞれの特徴または要素を紹介するときに一度だけ使用されることに留意されたい。以下では、ほとんどの場合、それぞれの特徴または要素を指すとき、それぞれの特徴または要素が1回以上存在してもよいという事実にもかかわらず、「少なくとも1つ」または「1つ以上」という表現を繰り返さない。
【0010】
さらに、以下で使用されるとき、「好ましくは」、「より好ましくは」、「とくには」、「さらにとくには」、「具体的には」、「より具体的には」という用語、あるいは同様の用語は、代替の可能性を制限することなく、随意による特徴と共に使用される。したがって、これらの用語によって紹介される特徴は、随意による特徴であり、特許請求の範囲の技術的範囲をいかなるやり方でも限定することを意図していない。本発明は、当業者であれば理解できるとおり、代替の特徴を使用することによって実行されてもよい。同様に、「本発明の実施形態において」または同様の表現によって紹介される特徴は、本発明の代替の実施形態に関していかなる制限も伴わず、本発明の技術的範囲に関していかなる制限も伴わず、そのようなやり方で紹介される特徴を本発明の他の随意による特徴または随意ではない特徴と組み合わせる可能性に関していかなる制限も伴わない随意による特徴であることが意図される。
【0011】
さらに、本明細書において使用されるとき、「第1の」、「第2の」、「第3の」、「第4の」という用語または同様の表現は、単に特徴または構造部材を区別する役目を果たすにすぎないことに留意されたい。これらの用語が、重要性または関連性について特定の順序を定義することを意図していないことを、はっきりと述べておく。
【0012】
第1の態様において、少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法が提案される。
【0013】
本明細書において使用されるとき、「質量分析機器」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、質量分析に用いられる質量分析器を指してよい。質量分析(MS)は、イオンの質量電荷比を測定するために使用される分析技術である。結果は、質量スペクトル、すなわち質量電荷比の関数としての強度のプロットとして提示される。質量分析は、多数のさまざまな分野で使用され、純粋な試料および複雑な混合物に適用される。質量スペクトルは、質量電荷比の関数としてのイオン信号のプロットである。これらのスペクトルは、試料の元素または同位体に係る特徴、ならびに粒子および分子の質量を決定し、分子および他の化合物の化学的な正体または構造を明らかにするために使用される。典型的なMSの手順においては、固体、液体、または気体であってよい試料が、例えば電子ビームを衝突させることによってイオン化される。これにより、試料の分子の一部を、正に帯電したフラグメントに分解でき、あるいはフラグメントに分解することなく単に正に帯電させることができる。次いで、これらのイオン(フラグメント)は、例えばそれらを加速させ、それらに電場または磁場を作用させることによって、質量電荷比に従って分離される:同じ質量電荷比のイオンは、被る偏向の量が同じである。イオンは、電子増倍管などの荷電粒子を検出することができる機構によって検出される。結果は、検出されたイオンの信号強度の質量電荷比の関数としてのスペクトルとして表示される。試料中の原子または分子を、既知の質量(例えば、分子全体)を識別された質量と相関させることによって同定することができ、あるいは特徴的なフラグメント化のパターンによって同定することができる。
【0014】
本明細書において使用されるとき、「分析セル」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、質量分析計のうちの質量分解に関与する部分を指してよい。したがって、分析セルは、試料の質量を分解することができ、あるいは質量分解の準備または促進を行う。
【0015】
本明細書において使用されるとき、「特性評価」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、質量分析機器の状態の判定または検出を指すことができる。単純な用途において、判定または検出は、正常な状態または異常な状態を明らかにすることができる。
【0016】
本方法は、とくには所与の順序で実行されてよい以下の方法ステップを含む。しかしながら、別の順序も可能である。さらに、2つ以上の方法ステップを完全に、または部分的に同時に実行することが可能である。さらに、方法ステップのうちの1つ以上、またはすべてが、1回だけ実行されても、例えば1回または複数回繰り返されるなど、繰り返し実行されてもよい。さらに、本方法は、列挙されないさらなる方法ステップを含んでもよい。
【0017】
本方法は、以下のステップ、すなわち
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料を質量分析機器によって分析し、試料の質量スペクトルをもたらすステップと、
-質量スペクトルの外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定するステップと、
-外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差を計算するステップと、
-計算された二乗差について、物質の理論質量電荷比値からの偏差を決定するステップと
を含む。
【0018】
本明細書において使用されるとき、「分析」という用語およびその均等物は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、この用語は、具体的には、限定はされないが、イオンの質量電荷比を決定するための分析技術を指すことがある。
【0019】
本明細書において使用されるとき、用語「試料」は、関心の1つ以上の分析対象物を含むことが疑われ、その定性的および/または定量的な検出を臨床状態に関連付けることができる生物学的物質を指す。試料は、血液、唾液、眼のレンズ液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水、粘液、滑液、腹腔液、羊水、組織、細胞、などを含む生理液など、任意の生物学的ソースから由来することができる。試料を、血液からの血漿の準備、粘性流体の希釈、溶解など、使用に先立って前処理することができ、処理の方法は、ろ過、遠心分離、蒸留、濃縮、妨害成分の不活性化、および試薬の添加を含むことができる。試料を、いくつかの場合にはソースから得たままで直接使用することができ、あるいは、例えば1つ以上の体外診断検査の実施を可能にし、関心の分析対象物を豊富に(抽出/分離/濃縮)し、かつ/または関心の分析対象物の検出を妨げかねないマトリクス成分を除去するために、例えば内部標準を添加した後、別の溶液で希釈した後、または試薬との混合した後など、試料の性質を変えるための前処理および/または試料準備ワークフローの後に使用することができる。「試料」という用語が、試料の準備の前の試料を示すために使用されることが多い一方で、「準備後の試料」という用語が、試料の準備の後の試料を指すために使用される。非特定の場合に、「試料」という用語は、試料の準備の前の試料または試料の準備の後の試料のいずれか、または両方を広く示すことがある。関心の分析対象物の例は、一般に、ビタミンD、依存性薬物、治療薬、ホルモン、および代謝産物である。しかしながら、この列挙はすべてを尽くしたものではない。
【0020】
本明細書において使用されるとき、「エンベロープ」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、曲線群の各メンバーにどこかの点で接する曲線を指してよく、これらの接点が集まってエンベロープ全体を形成する。古典的に、エンベロープ上の点は、2つの「極小に隣接する」曲線の交点と考えることができ、近接する曲線の交差の限界を意味する。この考えを、空間内の表面のエンベロープに一般化することができ、より高い次元にも一般化することができる。エンベロープを有するためには、曲線群の個々のメンバーが微分可能な曲線であることが必要であり(さもないと、接触の概念が当てはまらない)、メンバーを通って進行する滑らかな移行が存在しなければならない。しかしながら、これらの条件は充分ではなく、所与の群がエンベロープを有することができない可能性もある。これの簡単な例は、半径が大きくなる同心円群によって与えられる。その曲線が曲線群の上方に位置するか、あるいは下方に位置するかに応じて、その曲線は上側エンベロープまたは下側エンベロープと呼ばれる。
【0021】
例えば始動プロセスの最中に状態を綿密に監視することによって、システム状態(正常/異常)の自動分類が「ノイズ限界」を用いて可能である。異常状態の識別は、誤った患者結果を防止することができる。さらに、電気回路の適切な絶縁または使用された電気部品の品質のチェックが可能である。状態(例えば、位置のシフト、分解能、およびエンベロープ)の正しいラベリングを使用して、正しいメンテナンス動作をトリガすることができ、したがってシステムの停止時間および保守コストを低減することができる。製造業者の観点から、この方法は、正しい四重極ロッドを選択するために有用であり、組み立てプロセスに役立ち得る。
【0022】
外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差を、(f-fとして計算することができ、fは外側エンベロープであり、fは内側エンベロープである。二乗差のこの特定の計算によれば、外側エンベロープと内側エンベロープとの間の差が、単純な差の形成よりも重み付けされる。したがって、ピークの両側の間に存在し得る不均衡を、よりよく説明または図示することができる。さらに、この計算は、イオンの質量スペクトルとイオンの周辺領域のノイズとの間のより良好な区別を容易にする。
【0023】
本方法は、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿って計算された差の偏差を決定することをさらに含んでよい。したがって、信号の単一の点が観察されるだけでなく、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った範囲が観察され、したがって、質量分析機器の状態のより正確な監視が可能になる。
【0024】
本方法は、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った物質の理論質量値の左側の位置および右側の位置に基づいて、計算された差の偏差を決定することをさらに含んでよい。これにより、質量スペクトルにおける物質の理論質量値のピークの左側および右側が観察される。これにより、生じ得る非対称信号(質量分析機器の不適切な状態のヒントを与える)を観察することができる。
【0025】
偏差の決定は、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った物質の理論質量値の左側の位置におけるピークと右側の位置におけるピークの比を決定することを含んでよい。これにより、質量スペクトルにおける物質の理論質量値のピークの左側および右側が観察される。ピークが対称である場合、左側および右側の位置における信号高さの比は、ほぼ1になるはずである。非対称な信号ピークの場合、左側および右側の位置における信号高さの比は、1から大きく異なり、2または3あるいはさらに大きくなり得る。
【0026】
本方法は、計算された差について決定された偏差が所定の差しきい値を超える場合に、質量分析機器の状態が不適切であると決定することをさらに含んでよい。したがって、質量分析機器の状態に関する明確な決定を行うことができる。
【0027】
本方法は、質量スペクトルのウェーブレット変換を行い、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定することをさらに含んでよい。これにより、質量スペクトルおよび質量分析機器の状態のかなり微視的な観察が可能になる。
【0028】
本明細書において使用されるとき、「ウェーブレット変換」という用語およびその均等物は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、ウェーブレットによって生成された特定の正規直交級数による二乗積分可能な(実値または複素値の)関数の表現を指してよい。この論文は、正規直交ウェーブレットおよび積分ウェーブレット変換の正式の数学的定義を提供する。ウェーブレットは、振幅が0で始まり、増加し、その後に減少して0に戻る波状振動である。これは、典型的には、地震計または心臓モニタによって記録される振動のような「短時間振動」として視覚化され得る。一般に、ウェーブレットは、それらを信号処理に関して有用にする特定の特性を有するように意図的に作成される。ウェーブレット変換の基本的な考え方は、変換が、形状ではなく時間伸長の変化のみを可能にすべきであるということである。これは、これを可能にする適切な基底関数を選択することによって影響を受ける。時間伸長の変化は、基底関数の対応する解析周波数に従うことが期待される。信号処理の不確定性原理に基づいて、質量スペクトルのウェーブレット変換を行い、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定することは、計算された差の決定された偏差が所定の差しきい値を超えない場合に実行されてよい。したがって、エンベロープのかなり巨視的な観察がどちらかと言えば目立たない場合、質量スペクトルのより綿密な観察またはより微視的な観察を行うことができ、質量分析機器の目標の状態からのさらに小さな偏差でさえを検出することが可能になる。
【0029】
本方法は、振幅について決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、質量分析機器の状態が不適切であると決定することをさらに含んでよい。したがって、質量分析機器の状態に関する明確な決定を行うことができる。
【0030】
第2の態様において、少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法が提案される。
【0031】
本方法は、とくには所与の順序で実行されてよい以下の方法ステップを含む。しかしながら、別の順序も可能である。さらに、2つ以上の方法ステップを完全に、または部分的に同時に実行することが可能である。さらに、方法ステップのうちの1つ以上、またはすべてが、1回だけ実行されても、例えば1回または複数回繰り返されるなど、繰り返し実行されてもよい。さらに、本方法は、列挙されないさらなる方法ステップを含んでもよい。
【0032】
本方法は、以下のステップ、すなわち
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料を質量分析機器によって分析し、試料の質量スペクトルをもたらすステップと、
-質量スペクトルのウェーブレット変換を行うステップと、
-ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定するステップと
を含む。
【0033】
この点において、第2の態様の方法を、第1の態様の方法と組み合わせてよいことを、はっきりと述べておく。とくには、第2の態様の方法は、例えば、第1の態様の方法において、計算された二乗差について、物質の理論質量電荷比値からの偏差が決定されなくてもよい場合に、第1の態様の方法の後に実行されてよい。したがって、第2の態様の方法は、質量分析計の状態をより綿密に観察することを可能にする。
【0034】
本方法は、ウェーブレット変換後の質量スペクトルのヒートマップを生成し、ヒートマップにおいて所定の周期における振幅の偏差を決定することをさらに含んでよい。そのようなヒートマップは、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの高度に影響を受けた領域を観察することを可能にする。
【0035】
本明細書において使用されるとき、「ヒートマップ」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、現象の大きさを二次元において色として示すデータ視覚化技術を指してよい。色の変化は、色相または強度によるものであってよく、現象がどのようにクラスタ化され、あるいは空間において変化するかについて、読者に明らかな視覚的合図を与える。ヒートマップには2つの根本的に異なるカテゴリ、すなわちクラスタヒートマップおよび空間ヒートマップが存在する。クラスタヒートマップでは、大きさは、固定されたセルサイズの行列にレイアウトされ、行列の行および列が、離散的な現象およびカテゴリであり、行および列のソートは、クラスタを提案すること、または統計分析によって発見されたようにクラスタを描写することを目的として、意図的かつ幾分か恣意的である。セルのサイズは任意であるが、明確に視認できるように充分に大きい。対照的に、空間ヒートマップにおける大きさの位置は、その空間における大きさの位置によって強制され、セルの概念は存在せず、現象は連続的に変化すると考えられる。
【0036】
ウェーブレットを使用すると、ヒートマップはスカログラムとしても知られる。スカログラムにおいて、ウェーブレット変換の結果は、3次元のグラフとして視覚化される。第1の空間次元は、信号の定義範囲であり、これは、本明細書で使用されるx軸上の質量電荷比m/zである。第2の空間次元は、y軸上の信号の周波数または周期である。第3の空間次元は、定義範囲内の特定の位置、すなわちm/zに関連する特定の周期の振幅、すなわちウェーブレットパワーを表す。後者は、空間的なやり方ではなく、着色されたやり方で表され、とくには、より低い振幅では灰色であり、より高い振幅では白色である。
【0037】
本明細書において使用されるとき、「周期」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、信号の周波数範囲および定義範囲に位置する周期的な信号部分を指すことができる。したがって、周波数範囲における周波数の潜在的な変動を示すことができ、顕著な周波数を定義範囲の特定の部分に明確に関連付けることができる。
【0038】
本方法は、ウェーブレットパワーに応じて所定の周期における振幅の偏差を決定することをさらに含んでよい。
【0039】
本明細書において使用されるとき、「ウェーブレットパワー」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの定義範囲内の特定の位置に関連する特定の周期の振幅を指してよい。したがって、特定の周期信号部分の量は、他のすべての周期信号部分と比較した場合に視覚化されてよい。したがって、信号内の特定の周波数の量を導出することを可能にする相対的な説明が可能である。
【0040】
本方法は、振幅について決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、質量分析機器の状態が不適切であると決定することをさらに含んでよい。したがって、質量分析機器の状態に関する明確な決定を行うことができる。
【0041】
質量分析セルは、四重極であってよい。したがって、質量分析機器は、いわゆる四重極質量分析器であってよい。したがって、試料を高分解能で分析することができる。
【0042】
本明細書において使用されるとき、「四重極質量分析器」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、質量分析に用いられる質量分析器の一種類を指してよい。四重極質量分析器(QMS)は、透過四重極質量分析計、四重極質量フィルタ、または四重極質量としても知られている。名称が示唆するとおり、これは、互いに平行に設定された4つの円柱形ロッドからなる。四重極質量分析計において、四重極は質量分析器であり、試料イオンを質量電荷比(m/z)に基づいて選択する役割を果たす機器の構成要素である。イオンは、ロッドに印加される振動電場における軌道の安定性に基づいて、四重極において分離される。四重極は、4つの平行な金属ロッドからなる。各々の対向ロッド対は互いに電気的に接続され、一方のロッド対と他方のロッド対との間にDCオフセット電圧を有する高周波(RF)電圧が印加される。イオンはロッド間で四重極を流れ下る。所与の電圧比において、特定の質量電荷比のイオンのみが検出器に到達し、他のイオンは軌道が不安定になり、ロッドと衝突する。これは、特定のm/zを有するイオンの選択を可能にし、あるいはオペレータが印加電圧を連続的に変化させることによって或る範囲のm/z値を走査することを可能にする。数学的には、これをMathieu微分方程式の助けを借りてモデル化することができる。理想的には、ロッドは双曲線であるが、ロッド直径対間隔の特定の比率を有する円柱形ロッドは、双曲線の製造が容易で充分な近似を提供する。比率の小さな変動が、分解能およびピーク形状に大きな影響を及ぼす。異なる製造業者は、予想される用途要件の文脈において動作特性を微調整するために、わずかに異なる比率を選択する。
【0043】
質量分析機器は、2つ以上の質量分析セルを備えてよく、本方法は、各々の質量分析セルについて実行されてよい。
【0044】
例えば、質量分析機器は、いわゆるトリプル四重極質量分析計(TQMS)であってよい。本明細書において使用されるとき、「トリプル四重極質量分析計」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、直列な2つの四重極質量分析器からなり、両者の間に衝突誘起解離のためのセルとして機能する(非質量分解の)高周波(RF)のみの四重極が存在するタンデム質量分析計を指してよい。この構成は、多くの場合にQqQと略され、ここではQと略される。本質的に、トリプル四重極質量分析計は、シングル四重極質量分析器と同じ原理で動作する。2つの質量フィルタ(Q1およびQ3)の各々は、4つの平行な円柱形の金属ロッドを含む。Q1およびQ3が、どちらも直流(dc)および高周波(rf)電位によって制御される一方で、衝突セルqは、RF電位のみを受ける。衝突セル(q)に関連するRF電位は、選択されたすべてのイオンの通過を可能にする。一部の機器において、通常の四重極衝突セルは、効率を改善する六重極または八重極衝突セルに置き換えられている。
【0045】
伝統的なMS技術とは異なり、MS/MS技術は、機器の異なる領域で連続的に質量分析を行うことを可能にする。TQMSは、イオン化、一次質量選択、衝突誘起解離(CID)、CIDにおいて生じたフラグメントの質量分析、および検出が機器の別々のセグメントにおいて生じるがゆえに、空間内タンデム配置に従う。セクタ機器は、質量分解能および質量範囲においてTQMSを上回る傾向がある。しかしながら、トリプル四重極は、より安価であり、操作が容易であり、きわめて効率的であるという利点を有する。また、選択された反応監視モードで動作する場合、TQMSは、優れた検出感度ならびに定量化を有する。トリプル四重極は、低エネルギ低分子反応の研究を可能にし、これは小分子が分析されているときに有用である。
【0046】
本方法は、所定の時点において実行されてよい。とくには、それらの時点は、少なくとも質量分析機器の起動時を含んでよい。したがって、状態を一定の間隔などでチェックすることができる。
【0047】
本方法は、予知保全策として本方法を実行することをさらに含んでよい。したがって、質量分析機器の全体が欠陥となる前に、質量分析機器の任意の欠陥構成部材を交換することができる。
【0048】
本方法は、コンピュータ実装されてよい。本明細書において使用されるとき、「コンピュータ実装」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、とくにはフォーカスエレクトロニクスおよび制御システムの少なくとも1つの処理ユニットを備えるデータ処理手段など、データ処理手段を使用することによって完全に、または部分的に実施されるプロセスを指してよい。したがって、「コンピュータ」という用語は、一般に、少なくとも1つの処理ユニットなどの少なくとも1つのデータ処理手段を有する装置、あるいは装置の組み合わせまたはネットワークを指すことができる。コンピュータは、データ記憶装置、電子インターフェース、またはヒューマンマシンインターフェースのうちの少なくとも1つなど、1つ以上のさらなる構成要素をさらに備えてもよい。
【0049】
さらなる態様において、命令を含むコンピュータプログラムが提案され、命令は、プログラムが少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器によって実行されるとき、方法に関する先行の請求項のいずれか一項に記載の方法を質量分析機器に実行させる。
【0050】
さらなる態様において、命令を含むコンピュータ可読記憶媒体が提案され、命令は、プログラムが少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器によって実行されるとき、方法に関する先行の請求項のいずれか一項に記載の方法を質量分析機器に実行させる。
【0051】
本明細書において使用されるとき、「移動平均」という用語は、広義の用語であり、当業者にとってのその一般的かつ普通の意味が与えられるべきであり、特殊な意味または特別な意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定はされないが、データセット全体の異なるサブセットの一連の平均を作成することによってデータ点を分析するための計算を指すことができる。移動する平均(MM)またはローリング平均とも呼ばれ、有限インパルス応答フィルタの一種である。変種として、単純な形態、累積的な形態、または重み付けされた形態が挙げられる。一連の数および固定サブセットサイズが与えられると、移動平均の第1の要素は、一連の数のうちの最初の固定サブセットの平均をとることによって得られる。次いで、サブセットは、「順方向シフト」によって変更され、すなわち一連の数のうちの最初の数を除外し、サブセットに次の数を含めることによって変更される。移動平均は、短期的な変動を平滑化し、長期的な傾向またはサイクルを強調するために、時系列データにおいて一般的に使用される。短期と長期との間のしきい値は、用途に依存し、移動平均のパラメータはそれに応じて設定される。例えば、株価、リターン、または取引額などの財務データのテクニカル分析に使用されることが多い。また、国内総生産、雇用、または他のマクロ経済時系列を調べるために経済学においても使用される。数学的には、移動平均は、畳み込みの一種であるため、信号処理に使用されるローパスフィルタの一例と考えることができる。非時系列データにおいて使用される場合、移動平均は、時間にとくに関係なく高周波成分を除去するが、典型的には、何らかの種類の順序付けが暗示される。単純に見ると、データの平滑化と考えることができる。
【0052】
プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに本明細書に含まれる実施形態のうちの1つ以上における本発明による方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムが、本明細書にさらに開示および提案される。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データキャリアおよび/またはコンピュータ可読記憶媒体に格納されてよい。
【0053】
本明細書において使用されるとき、「コンピュータ可読データキャリア」および「コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、具体的には、コンピュータ実行可能命令を格納したハードウェア記憶媒体などの非一時的データ記憶手段を指してよい。コンピュータ可読データキャリアまたは記憶媒体は、具体的には、ランダムアクセスメモリ(RAM)および/または読み出し専用メモリ(ROM)などの記憶媒体であってよく、あるいはそのような記憶媒体を備えてよい。
【0054】
したがって、具体的には、上述したような方法ステップa)~d)の1つ、2つ以上、またはすべてが、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用して、好ましくはコンピュータプログラムを使用して実行されてよい。
【0055】
本明細書において、コンピュータプログラム製品がさらに開示および提案され、コンピュータプログラム製品は、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに本明細書に含まれる実施形態のうちの1つ以上における本発明による方法を実行するために、プログラムコード手段を有している。具体的には、プログラムコード手段は、コンピュータ可読データキャリアおよび/またはコンピュータ可読記憶媒体に格納されてよい。
【0056】
例えばコンピュータまたはコンピュータネットワークの作業メモリまたはメインメモリなど、コンピュータまたはコンピュータネットワークへとロードされた後に、本明細書に開示の実施形態のうちの1つ以上による方法を実行することができるデータ構造を格納したデータキャリアが、本明細書においてさらに開示および提案される。
【0057】
プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されたときに、本明細書に開示の実施形態のうちの1つ以上による方法を実行するために、プログラムコード手段を機械可読キャリア上に格納したコンピュータプログラム製品が、本明細書においてさらに開示および提案される。本明細書において使用されるとき、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙フォーマットなどの任意のフォーマットで存在でき、あるいはコンピュータ可読データキャリア上および/またはコンピュータ可読記憶媒体上に存在できる。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0058】
最後に、本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上による方法を実行するためのコンピュータシステムまたはコンピュータネットワークにとって可読な命令を含む変調されたデータ信号が、本明細書において開示および提案される。
【0059】
本発明のコンピュータ実装態様に関して、本明細書に開示の実施形態のうちの1つ以上による方法の方法ステップのうちの1つ以上またはすべてが、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって実行されてよい。したがって、一般に、データの提供および/または操作を含む方法ステップのいずれも、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって実行されてよい。一般に、これらの方法ステップは、典型的には試料の提供および/または実際の測定を実行する特定の態様などの手作業を必要とする方法ステップを除いて、任意の方法ステップを含み得る。
【0060】
具体的には、本明細書において、
-少なくとも1つのプロセッサを備え、プロセッサは、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されているコンピュータまたはコンピュータネットワーク、
-コンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータロード可能データ構造、
-コンピュータ上で実行されているときに、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータプログラム、
-コンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えているコンピュータプログラム、
-先行の実施形態によるプログラム手段を備えているコンピュータプログラムであって、プログラム手段は、コンピュータ可読記憶媒体に格納されているコンピュータプログラム、
-データ構造を格納しており、データ構造は、コンピュータまたはコンピュータネットワークの主記憶部および/または作業記憶部にロードされた後に本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されている記憶媒体、および
-記憶媒体上に格納可能または格納されたプログラムコード手段を有しており、プログラムコード手段がコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行された場合に、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法が実行されるコンピュータプログラム製品
がさらに開示される。
【0061】
要約すると、さらなる実施形態の可能性を排除することなく、以下の実施形態が想定され得る。
【0062】
実施形態1:少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法であって、
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料を質量分析機器によって分析し、試料の質量スペクトルをもたらすことと、
-質量スペクトルの外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定することと、
-外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差を計算することと、
-計算された二乗差について、物質の理論質量電荷比値からの偏差を決定することと
を含む方法。
【0063】
実施形態2:外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差は、(f-fとして計算され、fは外側エンベロープであり、fは内側エンベロープである、先行の請求項による方法。
【0064】
実施形態3:質量スペクトルの質量電荷比軸に沿って、計算された差の偏差を決定すること、をさらに含む、先行の請求項のいずれか1つによる方法。
【0065】
実施形態4:質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った物質の理論質量値の左側の位置および右側の位置に基づいて、計算された差の偏差を決定すること、をさらに含む、先行の請求項による方法。
【0066】
実施形態5:偏差を決定することは、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った物質の理論質量値の左側の位置におけるピークと右側の位置におけるピークの比を決定することを含む、先行の請求項による方法。
【0067】
実施形態6:計算された差の決定された偏差が所定の差しきい値を超える場合に、質量分析機器の状態が不適切であると決定すること、をさらに含む、先行の請求項のいずれか1つによる方法。
【0068】
実施形態7:質量スペクトルのウェーブレット変換を行い、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定すること、をさらに含む、先行の請求項による方法。
【0069】
実施形態8:質量スペクトルのウェーブレット変換を行い、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定することは、計算された差の決定された偏差が所定の差しきい値を超えない場合に実行される、先行の請求項による方法。
【0070】
実施形態9:振幅の決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、質量分析機器の状態が不適切であると決定すること、をさらに含む、先行の請求項による方法。
【0071】
実施形態10:少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器の特性評価のための方法であって、
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料を質量分析機器によって分析し、試料の質量スペクトルをもたらすことと、
-質量スペクトルのウェーブレット変換を行うことと、
-ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定することと
を含む方法。
【0072】
実施形態11:ウェーブレット変換後の質量スペクトルのヒートマップを生成し、ヒートマップにおいて所定の周期における振幅の偏差を決定すること、をさらに含む、先行の請求項による方法。
【0073】
実施形態12:ウェーブレットパワーに依存して所定の周期における振幅の偏差を決定すること、をさらに含む、先行の2つの請求項のいずれか1つによる方法。
【0074】
実施形態13:振幅の決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、質量分析機器の状態が不適切であると決定すること、をさらに含む、先行の請求項のいずれか1つによる方法。
【0075】
実施形態14:質量分析機器は、2つ以上の質量分析セルを備え、本方法は、各々の質量分析セルについて実行される、先行の請求項のいずれか1つによる方法。
【0076】
実施形態15:質量分析セルは、四重極である、先行の請求項による方法。
【0077】
実施形態16:予め定められた時点において実行される、先行の請求項のいずれか1つによる方法。
【0078】
実施形態17:時点は、少なくとも質量分析機器の始動時を含む、先行の請求項による方法。
【0079】
実施形態18:本方法を予知保全策として実行すること、をさらに含む、先行の請求項のいずれか1つによる方法。
【0080】
実施形態19:コンピュータ実装される、先行の方法の請求項のいずれか1つによる方法。
【0081】
実施形態20:命令を含むコンピュータプログラムであって、命令は、プログラムが少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器によって実行されるとき、方法に関する先行の請求項のいずれか1つによる方法を質量分析機器に実行させる、コンピュータプログラム。
【0082】
実施形態21:命令を含むコンピュータ可読記憶媒体であって、命令は、プログラムが少なくとも1つの質量分析セルを備える質量分析機器によって実行されるとき、方法に関する先行の請求項のいずれか1つによる方法を質量分析機器に実行させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【図面の簡単な説明】
【0083】
さらなる随意による特徴および実施形態が、好ましくは従属請求項と併せて、実施形態の後続の説明においてさらに詳細に開示される。その中で、それぞれの随意による特徴は、当業者であれば理解できるとおり、独立した様相ならびに任意の実行可能な組み合わせにて実現されてよい。本発明の範囲は、好ましい実施形態によって限定されるわけではない。実施形態は、図において概略的に示されている。ここで、これらの図における同一の参照番号は、同一または機能的に同等の要素を指す。
図において、
【0084】
図1】質量分析機器の概略図を示している。
図2】第1の実施形態による質量分析機器の特性評価のための方法のフローチャートを示している。
図3A】第1の分析セルの例示的な第1の質量スペクトルを示している。
図3B】第3の分析セルの例示的な第2の質量スペクトルを示している。
図4A】第1の分析セルの例示的な第1の質量スペクトルを示している。
図4B】第3の分析セルの例示的な第2の質量スペクトルを示している。
図5A】第1の分析セルの質量電荷比に応じて計算された二乗差の例示的な図を示している。
図5B】第3の分析セルの質量電荷比に応じて計算された二乗差の例示的な図を示している。
図6】第2の実施形態による質量分析機器の特性評価のための方法のフローチャートを示している。
図7A】第1の分析セルの例示的な第3の質量スペクトルを示している。
図7B】第3の分析セルの例示的な第4の質量スペクトルを示している。
図8A】第1の分析セルの例示的な第1のヒートマップを示している。
図8B】第3の分析セルの例示的な第2のヒートマップを示している。
図9A】第1の分析セルの例示的な第1のウェーブレット変換図を示している。
図9B】第3の分析セルの例示的な第2のウェーブレット変換図を示している。
図10A】第1の分析セルの例示的な第1のウェーブレット振幅図を示している。
図10B】第3の分析セルの例示的な第2のウェーブレット振幅図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0085】
実施形態の詳細な説明
図1が、質量分析機器100の概略図を示している。質量分析機器100は、少なくとも1つの質量分析セル102を備える。この例示的な実施形態において、質量分析機器100は、三つの分析セル102、104、106を備えたトリプル四重極質量分析計である。したがって、分析セル102、104、106の各々が四重極である。とくには、質量分析機器100は、第1の分析セル102、第2の分析セル104、および第3の分析セル106を備え、これらは、直列な2つの四重極質量フィルタ102、106からなるタンデム質量分析計を構築するように配置され、両者の間に衝突誘起解離のためのセル104として機能する(非質量分解の)高周波(RF)のみの四重極が位置する。質量分析機器100は、第1の分析セル102に隣接して配置されたエレクトロスプレーイオン化(ESI)源または大気圧化学イオン化(APCI)源などのイオン化源108をさらに備え、イオン化源108に試料110が入力されてよい。質量分析機器100は、第3の分析セル106に隣接して配置され、出力信号114をもたらすように構成された粒子増倍部112をさらに備える。この構成において、試料110はイオン化源においてイオン化される。第1の分析セル102が、試料イオンの質量電荷選択(m/z選択)を行う。第2の分析セル104が、試料イオンを開裂させる。第3の分析セル106が、開裂後の試料イオンの質量電荷選択(m/z選択)を行う。このような質量分析機器の基本的な動作原理は、例えば上述のような先行技術から当業者にとって既知であるため、その動作原理のさらなる説明は省略する。いくつかの従来から質量分析機器は、20ポイント/Daというかなり低い分解能を有する。最大信号強度(質量較正の精度)および最大信号強度の半値全幅(隣接イオンへの分離効率)の決定を、きわめて容易に行うことができる。しかしながら、信号のシフトまたは他の変化は、監視するのに充分に正確ではない。本実施形態において、質量分析機器100は、0.0076Daに抑えられたより高い分解能を有することにより、1000ポイント/Daというより高い精度のデータ評価を可能にする。
【0086】
図2が、本開示の第1の実施形態による少なくとも1つの質量分析セル102を備える質量分析機器100の特性評価のための方法のフローチャートを示している。本開示の方法は、既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料110を質量分析機器100によって分析し、試料110の質量スペクトルをもたらすステップS10で始まる。続いて、本方法は、質量スペクトルの外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定するステップS12にさらに進む。続いて、本方法は、外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差を計算するステップS14にさらに進む。続いて、本方法は、計算された二乗差について、物質の理論質量電荷比値からの偏差を決定するステップS16にさらに進む。続いて、本方法は、計算された差について決定された物質の理論質量電荷比値からの偏差が、所定の差しきい値を超えるかどうかを判定するステップS18にさらに進む。計算された差について決定された偏差が、所定の差しきい値を超える場合に、本方法は、質量分析機器の状態が不適切であると決定するステップS20にさらに進む。反対に、計算された差について決定された偏差が、所定の差しきい値を超えない場合、本方法は、質量分析機器の状態が適切であると決定するステップS22にさらに進む。本方法は、各々の質量分析セル102、104、106について実施されてよい。
【0087】
本方法およびその随意による変更を、以下でさらに詳細に説明する。
【0088】
図3Aが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンおよびその内部標準についての第1の分析セル102の例示的な第1の質量スペクトル116を示している。図3Bが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンおよびその内部標準についての第3の分析セル106の例示的な第2の質量スペクトル118を示している。図3Aおよび図3Bにおいて、質量電荷比(m/z比)は、x軸120として与えられる。信号強度(単位は、%)は、y軸122として与えられる。グラフ124は、質量電荷比に応じた信号強度を示している。図3Aから分かるように、あまり顕著ではない前部ショルダ126を見て取ることができ、より高い領域には複数の極大値128が存在する。したがって、より高い分解能およびデータ点によるデータ評価が、より良好な較正効率をもたらすことができる。図3Bから分かるように、四重極の違いを見て取ることができ、例えば、左側の上りのフランク130は、右側の下りのフランク132よりもノイズが多い。したがって、本開示による方法は、システム固有または長期影響の監視など、質量スペクトルの挙動に基づいて四重極のフィンガープリント特性評価が可能であるという発見に基づく。
【0089】
図4Aが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンおよびその内部標準についての第1の分析セル102の例示的な第1の質量スペクトル116を示している。図4Bが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンおよびその内部標準についての第3の分析セル106の例示的な第2の質量スペクトル118を示している。以下では、図3Aおよび図3Bからの相違のみを説明し、同様の特徴は、同様の参照符号によって示される。図4Aおよび図4Bに示されるように、本開示による方法は、質量スペクトル116、118の外側エンベロープfおよび内側エンベロープfを決定するステップをさらに含む。y軸122は、質量スペクトル116、118の信号強度、外側エンベロープf、および内側エンベロープfを示す。外側エンベロープfと内側エンベロープfとの差は、四重極の状態をさらに特徴付けることができる左側相対スペクトルをもたらす。湿度、温度、および圧力などの環境条件の変動、あるいは試料110によって提供されるマトリクスの汚染を、この「巨視的な」フィンガープリントの特性評価によって視覚化することができる。図4A図4Bとの比較から分かるように、第1の分析セル102の第1の質量スペクトル116のエンベロープfおよびfは、外側エンベロープfが左側に膨出部134を示す第3の分析セル106の第2の質量スペクトル118よりも対称性が高い。
【0090】
本開示による方法は、外側エンベロープfと内側エンベロープfとの間の二乗差を計算するステップをさらに含む。外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差は、(f-fとして計算され、fは外側エンベロープであり、fは内側エンベロープである。
【0091】
図5Aが、第1の分析セル102の質量電荷比(m/z比)に応じてこのように計算された二乗差の例示的な図を示している。図5Bが、第3の分析セル106の質量電荷比(m/z比)に応じてこのように計算された二乗差の例示的な図を示している。以下では、図3Aおよび図3Bからの相違のみを説明し、同様の特徴は、同様の参照符号によって示される。図5Aおよび図5Bにおいて、質量電荷比(m/z比)は、x軸120として与えられる。計算された外側エンベロープfと内側エンベロープfとの間の二乗差は、y軸122として与えられる。グラフ136は、理論値から左側に、質量電荷比(m/z比)に応じて計算された二乗差を示している。グラフ138は、理論値から右側に、質量電荷比(m/z比)に応じて計算された二乗差を示している。図5A図5Bとの比較から分かるように、エンベロープf、fの間の二乗差は、第3の分析セル106に関してはるかに大きい。
【0092】
本開示による方法は、計算された二乗差について、物質の理論質量電荷比値からの偏差を決定するステップをさらに含む。計算された差の偏差は、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿って決定される。とくには、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った物質の理論質量値の左側の位置および右側の位置に基づいて、計算された差の偏差が決定される。偏差の決定は、質量スペクトルの質量電荷比軸に沿った物質の理論質量値の左側の位置におけるピークと右側の位置におけるピークの比を決定することを含む。計算された二乗差のピーク高さの比は、図5Aに線140によって示されるように、対称の場合には左側および右側についてほぼ1に等しい。非対称の場合、これは当てはまらず、図5Bに線142によって示されるように高さの差を決定することができる。したがって、例えば図5Aにほぼ同じピーク高さによって示されるように、計算された差について決定された偏差が、所定の差しきい値を超えない場合、質量分析機器100の状態は適切であると決定される。反対に、したがって、例えば図5Bに異なるピーク高さによって示されるように、計算された差について決定された偏差が、所定の差しきい値を超える場合、質量分析機器100の状態が不適切であると決定される。
【0093】
図6が、本開示の第2の実施形態による少なくとも1つの質量分析セル102を備える質量分析機器100の特性評価のための方法のフローチャートを示している。第2の実施形態の方法を、例えば、計算された差が所定の差しきい値を超えない場合に、第1の実施形態の方法と組み合わせてもよいことを、はっきりと述べておく。言うまでもないが、第2の実施形態の方法は、第1の実施形態の方法とは独立して実施されてもよい。本開示の方法は、既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料110を質量分析機器100によって分析し、試料110の質量スペクトルをもたらすステップS30で始まる。続いて、本方法は、質量スペクトルのウェーブレット変換を行うステップS32にさらに進む。続いて、本方法は、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定するステップS34にさらに進む。続いて、本方法は、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について決定された所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差が、所定の振幅しきい値を超えるか否かを決定するステップS36にさらに進む。ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について決定された所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差が、所定の振幅しきい値を超える場合、本方法は、質量分析機器が不適切な状態であると決定するステップS38にさらに進む。反対に、ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について決定された所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差が、所定の振幅しきい値を超えない場合、本方法は、質量分析機器が適切な状態であると決定するステップS40にさらに進む。本方法は、各々の質量分析セル102、104、106について実施されてよい。
【0094】
本方法およびその随意による変更を、以下でさらに詳細に説明する。
【0095】
図7Aが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第1の分析セル102の例示的な第3の質量スペクトル144を示している。図7Bが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第3の分析セル106の例示的な第4の質量スペクトル146を示している。図7Aおよび図7Bにおいて、質量電荷比(m/z比)は、x軸120として与えられる。信号強度および信号強度の移動平均は、y軸122として与えられる。図7Aおよび図7Bの上部に示されるグラフ148は、質量電荷比に応じた信号強度を示している。図7Aおよび図7Bの下部に示されるグラフ150は、質量電荷比に応じた信号強度の移動平均を示している。
【0096】
第2の実施形態の方法は、とりわけ、質量スペクトルを特徴付ける代替の方法が、信号のウェーブレット変換を「微視的」に調べることであるという発見に基づく。ノイズの周波数において、第1の分析セル102の第3の質量スペクトル144と比較して、第3の分析セル106の第4の質量スペクトル146の振幅が大きくなると予想できる。
【0097】
本方法は、ウェーブレット変換後の質量スペクトルのヒートマップを生成し、ヒートマップにおいて所定の周期における振幅の偏差を決定することをさらに含む。とくに、所定の周期における振幅の偏差は、ウェーブレットパワーに応じて決定される。
【0098】
図8Aが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第1の分析セル102の例示的な第1のヒートマップ152を示している。図8Bが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第3の分析セル106の例示的な第2のヒートマップ154を示している。図8Aおよび図8Bにおいて、質量電荷比(m/z比)は、x軸120として与えられる。周期(mz)は、左側のy軸156として与えられる。ウェーブレットパワーレベルは、右側のy軸158として示されており、高いウェーブレットパワーレベルは白色として示され、低いウェーブレットパワーレベルまたはさらに低いウェーブレットパワーレベルは、簡略化のために灰色または黒色として示されている。第3の分析セル106の第2のヒートマップ154に円160によって示されるように、所定の周期において振幅が最も大きい領域が、第3の分析セル106の第2のヒートマップ154内で観測され得る。
【0099】
図9Aが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第1の分析セル102の例示的な第1のウェーブレット変換図162を示している。図9Bが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第3の分析セル106の例示的な第2のウェーブレット変換図164を示している。図9Aおよび図9Bにおいて、平均ウェーブレットパワーは、x軸120として与えられる。周期(mz)は、y軸122として与えられる。図9Aに示されるグラフ166は、第1の分析セル102のウェーブレット変換後の第3の質量スペクトル144を示す。図9Bに示されるグラフ168は、第3の分析セル106のウェーブレット変換後の第4の質量スペクトル146を示す。グラフ166によって示されるように、第1の分析セル102の第1のウェーブレット変換図162には、1周期未満の顕著な信号は存在しない。円170によって示されるとおり、このようにマーキングされた所定の周期において、より大きな振幅を、0.02周期/5kHzの顕著な信号によって、第3の分析セル106についてのみ観測することができる。
【0100】
図10Aが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第1の分析セル102の例示的な第1のウェーブレット振幅図172を示している。図10Bが、本実施形態の質量分析機器100で分析されたテストステロンについての第3の分析セル106の例示的な第2のウェーブレット振幅図174を示している。図10Aおよび図10Bにおいて、質量電荷比m/zは、x軸120として与えられる。ウェーブレット振幅は、y軸122として与えられる。図10Aに示されるグラフ176は、質量電荷比m/zに応じた第1の分析セル102の第3の質量スペクトル144のウェーブレット振幅を示している。図10Bに示されるグラフ178は、質量電荷比m/zに応じた第3の分析セル106の第4の質量スペクトル146のウェーブレット振幅を示している。グラフ176によって示されるように、ウェーブレット振幅は、0.02周期/5kHzに顕著な信号を示さない。円180によって示されるように、信号が質量スペクトルピークの位置において最高であるため、約0.02周期/5kHzに大きいウェーブレット振幅が存在する。
【0101】
したがって、例えば図9Aにピークまたは振幅が存在しないことによって示されるように、振幅について決定された偏差が、所定の振幅しきい値を超えない場合、質量分析機器100の状態は適切であると決定される。反対に、例えば図9Bにおけるピークまたは振幅によって示されるように、振幅について決定された偏差が、所定の振幅しきい値を超える場合、質量分析機器100の状態は不適切であると決定される。
【0102】
本明細書に記載の各々の実施形態による方法は、質量分析機器100の状態を適切/正常または不適切/異常と分類するために、以下の例示的なパラメータを使用することができる。
【0103】
Daにおける分解能に関して、適切な状態を0.8±0.1と定義することができ、不適切な状態を<0.7および>0.9と定義することができる。精度、すなわち質量軸の位置(単位は、Da)に関して、適切な状態を、±0.1というシフトに関する許容範囲として定義することができ、不適切な状態を、シフト>0.1として定義することができる。高精度な特性評価、すなわち機械学習を備える複数のシステムに関して、適切な状態を、他のシステムに匹敵、かつ経時的なシフトまたは環境変化がないと定義することができ、不適切な状態を、四重極は他のシステムに匹敵せず、かつ経時的なシフトまたは環境変化が存在すると定義することができる。エンベロープ特性評価に関して、適切な状態を、外側エンベロープおよび内側エンベロープの対称配置として定義することができ、不適切な状態を、外側エンベロープおよび内側エンベロープの非対称配置として定義することができる。ウェーブレットまたはフーリエ変換に関して、適切な状態を、特徴的な周波数が存在しないと定義することができ、不適切な状態を、信号とノイズ周波数との干渉として定義することができる。
【0104】
本明細書に記載の各々の実施形態による方法は、所定の時点で実行される。とくには、それらの時点は、少なくとも質量分析機器100の起動時を含む。例えば、本方法は、予知保全策として実行される。本明細書に記載の各々の実施形態による方法は、コンピュータ実装されてよい。例えば、本方法は、コンピュータまたはコンピュータシステムの制御下で自動的に実行されてよい。ウェーブレット変換の代わりに、フーリエ変換が実行可能であってよい。
【符号の説明】
【0105】
参照番号のリスト
100 質量分析機器
102 第1の分析セル
104 第2の分析セル
106 第3の分析セル
108 イオン化源
110 試料
112 粒子増倍部
114 信号
116 第1の分析セルの第1の質量スペクトル
118 第3の分析セルの第2の質量スペクトル
120 x軸
122 y軸
124 質量電荷比に応じた信号強度
126 前部ショルダ
128 極大値
130 左側の上りフランク
132 右側の下りフランク
134 膨出部
136 理論値からの左側における質量電荷比に応じて計算された二乗差
138 理論値からの右側における質量電荷比に応じて計算された二乗差
140 対称ピーク高さの比
142 非対称ピーク高さの比
144 第1の分析セルの第3の質量スペクトル
146 第3の分析セルの第4の質量スペクトル
148 質量電荷比に応じた信号強度
150 質量電荷比に応じた信号強度の移動平均
152 第1の分析セルの例示的な第1のヒートマップ
154 第3の分析セルの例示的な第2のヒートマップ
156 左側のy軸
158 右側のy軸
160 所定の周期における最大振幅の領域
162 第1の分析セルの第1のウェーブレット変換図
164 第3の分析セルの第2のウェーブレット変換図
166 第1の分析セルのウェーブレット変換後の第3の質量スペクトル
168 第3の分析セルのウェーブレット変換後の第4の質量スペクトル
170 所定の周期
172 第1の分析セルの第1のウェーブレット振幅図
174 第3の分析セルの第2のウェーブレット振幅図
176 質量電荷比m/zに応じた第1の分析セルの第3の質量スペクトルのウェーブレット振幅
178 第3の分析セルの第4の質量スペクトルのウェーブレット振幅
180 大きいウェーブレット振幅
S10 試料を分析する
S12 質量スペクトルの外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定する
S14 外側エンベロープと内側エンベロープとの間の二乗差を計算する
S16 計算された二乗差について、物質の理論質量電荷比値からの偏差を決定する
S18 計算された差について決定された物質の理論質量電荷比値からの偏差が、所定の差しきい値を超えるかどうかを判定する
S20 質量分析機器が不適切な状態であると決定する
S22 質量分析機器が適切な状態であると決定する
S30 既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料を分析する
S32 質量スペクトルのウェーブレット変換を行う
S34 ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について、所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差を決定する
S36 ウェーブレット変換後の質量スペクトルの振幅について決定された所定の周期における物質の理論振幅値からの偏差が、所定の振幅しきい値を超えるか否かを決定する
S38 質量分析機器が不適切な状態であると決定する
S40 質量分析機器が適切な状態であると決定する
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
【手続補正書】
【提出日】2024-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの質量分析セル(102、104、106)を備える質量分析機器(100)の特性評価のための方法であって、
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料(110)の質量スペクトル(116、118、144、146)をもたらすために、前記前記試料(110)を前記質量分析機器(100)によって分析するステップと、
-前記質量スペクトル(116、118、144、146)の外側エンベロープおよび内側エンベロープを決定するステップと、
-前記外側エンベロープと前記内側エンベロープとの間の二乗差を計算するステップと、
-前記物質の理論質量電荷比値からの前記計算された二乗差の偏差を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記外側エンベロープと前記内側エンベロープとの間の前記二乗差は、(f-fとして計算され、fは前記外側エンベロープであり、fは前記内側エンベロープである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)の質量電荷比軸に沿って前記計算された二乗差の前記偏差を決定するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)の前記質量電荷比軸に沿った前記物質の前記理論質量値の左側の位置および右側の位置に基づいて、前記計算された二乗差の前記偏差を決定するステップを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記偏差を決定するステップが、前記質量スペクトル(116、118、144、146)の前記質量電荷比軸に沿った前記物質の前記理論質量値の前記左側の位置におけるピークと前記右側の位置におけるピークとの比を決定するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記計算された二乗差について前記決定された偏差が所定の差しきい値を超える場合に、前記質量分析機器(100)の状態が不適切であると決定するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)のウェーブレット変換を行い、前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)の振幅について、所定の周期における前記物質の理論振幅値からの偏差を決定するステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記質量スペクトル(116、118、144、146)の前記ウェーブレット変換を行い、前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)の振幅について、所定の周期における前記物質の理論振幅値からの前記偏差を決定するステップが、前記計算された二乗差について前記決定された偏差が前記所定の差しきい値を超えない場合に実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記振幅について前記決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、前記質量分析機器(100)の状態が不適切であると決定するステップを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの質量分析セル(102、104、106)を備える質量分析機器(100)の特性評価のための方法であって、
-既知の分子量を有する少なくとも1つの物質を含む試料(110)の質量スペクトル(116、118、144、146)をもたらすために、前記試料(110)を前記質量分析機器(100)によって分析するステップと、
-前記質量スペクトル(116、118、144、146)のウェーブレット変換を行うステップと、
-前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)の振幅について、所定の周期(160)における前記物質の理論振幅値からの偏差を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記ウェーブレット変換後の質量スペクトル(116、118、144、146)のヒートマップ(162、164)を生成し、前記ヒートマップ(162、164)において前記所定の周期(160)における前記振幅の前記偏差を決定するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ウェーブレットパワーにしたがい前記所定の周期(160)における前記振幅の前記偏差を決定するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記振幅について前記決定された偏差が所定の振幅しきい値を超える場合に、前記質量分析機器(100)の状態が不適切であると決定するステップを更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記質量分析機器(100)は、2つ以上の質量分析セル(102、104、106)を備え、当該方法が、各質量分析セル(102、104、106)について実行される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
当該方法が、所定の時点において実行され、前記時点は、少なくとも前記質量分析機器(100)の始動を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】