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特表2024-546826骨髄異形成症候群のためのミトコンドリア増強療法
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  • 特表-骨髄異形成症候群のためのミトコンドリア増強療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】骨髄異形成症候群のためのミトコンドリア増強療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20241219BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20241219BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20241219BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20241219BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20241219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P35/02
A61P7/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/706
A61K35/545
A61K35/28
A61K35/51
A61K35/15
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535238
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-08-01
(86)【国際出願番号】 IL2022051280
(87)【国際公開番号】W WO2023112018
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/289,069
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522384293
【氏名又は名称】ミノヴィア セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】イブギ-オハナ ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】シャー ノア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA16
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA512
4C084ZB222
4C084ZB272
4C084ZC412
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC64
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA55
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZB22
4C086ZB27
4C086ZC41
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB35
4C087BB44
4C087BB57
4C087BB59
4C087BB63
4C087BB64
4C087CA03
4C087MA16
4C087MA55
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB22
4C087ZB27
4C087ZC41
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、骨髄異形成症候群(MDS)、疾患及び障害を治療するための、ミトコンドリアが富化された細胞を提供する。本開示は、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の医薬組成物、骨髄異形成症候群の治療方法、並びにミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を使用してMDSの症状を緩和し及び/又はMDSの進行を予防する方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって、
前記幹細胞及び/又は前駆細胞が骨髄異形成症候群(MDS)の疾患、障害又はその症状を有する対象から得られ、
前記外因性ミトコンドリアがMDSの疾患、障害又はその症状、あるいはミトコンドリア病を有さないドナーから得られる、
前記医薬組成物。
【請求項2】
前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、前記外因性ミトコンドリアが前記幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする条件下で、前記幹細胞及び/又は前駆細胞を前記外因性ミトコンドリアと接触させることで産生される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記外因性ミトコンドリアが前記幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記幹細胞及び/又は前駆細胞を前記外因性ミトコンドリアと共に約0.5~30時間の範囲の時間、約4~37℃の範囲の温度でインキュベートすることを含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、10細胞当たり約0.044~176mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性の比率の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記外因性ミトコンドリアが前記標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、10細胞当たり約1~50mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性の濃度の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記外因性ミトコンドリアの濃度は、10細胞当たり約4.4、17.6、又は35mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、細胞100万個当たり約100万個から最大1億個のミトコンドリア粒子の比率の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記外因性ミトコンドリアが前記標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、細胞100万個当たり約1000万個から最大5000万個のミトコンドリア粒子の比率の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、ミトコンドリア富化前の前記幹細胞及び/又は前駆細胞と比較して、
(a)少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の、増加した含有量;
(b)増加した酸素(O)消費率;
(c)クエン酸シンターゼ、コハク酸塩、又はトリプタミンの、増加した活性レベル;
(d)増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率;
(e)増加したミトコンドリアDNA含有量;
(f)液体培地又は固体培地中の、増加したコロニー形成単位活性;
(g)増加した増殖率;
(h)増加した分化率;及び
(i)それらの任意の組み合わせ
を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記外因性ミトコンドリアは、前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリアの少なくとも0.5%を構成する、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記外因性ミトコンドリアは、単離されたか、由来するか、又は部分的に精製されたヒトミトコンドリアである、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
凍結/融解される、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、富化前に凍結/融解される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記外因性ミトコンドリアは、前記幹細胞及び/又は前駆細胞の富化前に凍結/融解される、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、前記外因性ミトコンドリアが富化された後に少なくとも1回の凍結-融解サイクルを受けている、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄球系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞、CD34細胞、CD34細胞のサブセット及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、CD34細胞又はCD34細胞のサブセットである、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、全血、血液画分、末梢血、臍帯血、骨髄、又は血液に動員された骨髄細胞に由来する、請求項1~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記外因性ミトコンドリアは、胎盤、培養物で成長した胎盤細胞、又は血液細胞から、単離されるか、由来するか、又は精製される、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記MDSの疾患又は障害は、単一系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-SLD)、多系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-MLD)、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS)、単独del(5q)を伴う骨髄異形成症候群、芽球増加を伴う骨髄異形成症候群(MDS-EB)、分類不能型骨髄異形成症候群(MDS-U)、及び急性骨髄性白血病(AML)からなる群から選択される、請求項1~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記MDSの症状は、息切れ、衰弱、疲労、蒼白、貧血、血小板減少症、白血球減少症、皮下出血、出血、点状出血、無効造血、血液血球減少症、クローン不安定性、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記対象は、MDS治療で治療されるか又は治療されている、請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記MDS治療は、低メチル化剤、赤血球造血刺激剤(ESA)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、アザシチジン、デシタビン、免疫抑制療法(IST)、ルスパテルセプト、又はそれらの組み合わせである、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程であって、それによって前記対象のMDSの疾患又は障害関連症状を軽減する、工程
を含む、前記対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害関連症状を軽減する方法。
【請求項25】
前記対象は、MDSの疾患又は障害関連症状の1つ又は複数を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記MDSの疾患又は障害関連症状の1つ又は複数は、息切れ、衰弱、疲労、蒼白、貧血、血小板減少症、白血球減少症、皮下出血、出血、点状出血、無効造血、血液血球減少症、骨髄異形成、リンパ球減少症、クローン不安定性、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程であって、それによって前記対象のMDSの疾患又は障害の進行を予防する、工程
を含む、前記対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害の進行を予防する方法。
【請求項28】
対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程であって、それによって前記対象のMDSの疾患又は障害を治療する、工程
を含む、前記対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害を治療する方法。
【請求項29】
外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程により、MDSの疾患の進行が予防され、及び/又は生存率が向上する、請求項24、27又は28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
以下の工程を含む、その必要がある対象において造血系統機能又は細胞数を回復させる方法:
前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程であって、それによって前記対象において造血系統機能を回復させる、工程。
【請求項31】
造血機能又は細胞数の回復は、改善された細胞分化、貧血の改善、芽球の数の低減、環状鉄芽球の数の低減及び/又は輸血の必要性の低減によって特徴付けられる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記改善された細胞分化は、改善されたCD34細胞赤血球分化を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は自己由来である、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記幹細胞及び/又は前駆細胞は同種異系である、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記同種異系幹細胞及び/又は前駆細胞は、健康なドナーからのものである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、骨髄に定着して新しい造血コロニーを確立する、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
低メチル化剤、赤血球造血刺激剤(ESA)、赤血球成熟剤、免疫抑制療法(IST)、成長因子、免疫調節薬、ヌクレオシド類似体、輸血、骨髄移植、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されるMDS治療を前記対象に施す工程を更に含む、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記MDS治療は、アザシチジン、デシタビン、セダズリジン、ルスパテルセプト、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、レナリドミド、エポエチン及びダルベポエチン、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記外因性ミトコンドリアは、前記ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリア含有量の少なくとも1%を構成する、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の投与は、静脈内、腹腔内、動脈内又は筋肉内投与、あるいは骨髄への直接注射による、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも5×10~5×10個のミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞は前記対象に投与される、請求項24、27、28又は30のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2021年12月13日に出願した米国仮出願第63/289,069号の優先権を主張する。前記先行出願の開示は本出願の開示の一部と見なされ、その全ての内容が参照によって本出願に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般にミトコンドリアが富化された細胞に関し、より具体的には、骨髄異形成症候群を治療するための、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景情報
ミトコンドリアは、殆どの真核細胞に見られる直径0.5~1.0μmの膜結合細胞小器官である。ミトコンドリアは、ほぼ全ての真核細胞に見られ、細胞の種類によって数と位置が異なる。ミトコンドリアは、独自のDNA(mtDNA)、及びRNAとタンパク質を合成する独自の機構を含有する。mtDNAは37個のみの遺伝子を含有するため、哺乳類体内の遺伝子産物の殆どは核DNAによってコードされる。
【0004】
ミトコンドリアは、ピルビン酸酸化、クレブス回路、及びアミノ酸、脂肪酸及びステロイドの代謝等、真核細胞において多数の重要な役割を果たす。しかし、ミトコンドリアの主な機能は、電子伝達鎖及び酸化的リン酸化系(「呼吸鎖」)によってアデノシン三リン酸(ATP)としてエネルギーを生成することである。ミトコンドリアが関与する他のプロセスとしては、熱産生、カルシウムイオンの蓄積、カルシウムシグナル伝達、プログラム細胞死(アポトーシス)及び細胞増殖を含む。
【0005】
細胞内のATPは、濃度が典型的に1~10mM ATPであり、単糖及び複合糖(炭水化物)又は脂質をエネルギー源として使用する酸化還元反応によって産生できる。ATPに合成される複合エネルギー源は、まず、より小さな、より単純な分子に分解する必要がある。複合炭水化物は、グルコース及びフルクトース等の単糖に加水分解される。脂肪(トリグリセリド)は脂肪酸及びグリセロールに代謝される。
【0006】
グルコースを二酸化炭素に酸化するプロセス全体は、細胞呼吸として知られ、単一分子のグルコースから約30分子のATPを産生することができる。ATPは、いくつかの異なる細胞プロセスによって産生され得る。真核生物においてエネルギーを生成するための3つの主な経路は、解糖及びクエン酸回路/酸化的リン酸化(両方とも細胞呼吸の構成要素)、並びにβ酸化である。
【0007】
非光合成真核生物によるこのATP産生の大部分は、ミトコンドリアで発生し、典型的な細胞の総体積のほぼ25%を占める場合がある。
【0008】
骨髄異形成症候群(MDS)は、血液血球減少症、及び急性骨髄性白血病(AML)へのクローン進化のリスクを伴うクローン不安定性をもたらす無効造血によって定義される。MDS患者は全体として症状負担が高く、血球減少症及びAMLの合併症による死亡のリスクもある。MDS患者の療法の目標は、疾患関連症状及び疾患進行と死亡のリスクを軽減することで、生活の質と長さの両方を改善することである。残念ながら、治療選択肢はまだ、輸血、成長因子、及び現在利用可能な限られた数の承認薬物による支持療法に限定されている。
【0009】
現在利用可能な治療は主に、応答率が限られ、効果の持続時間が短く、好中球減少症及び血小板減少症の治療選択肢が限られ、事実上、造血細胞移植(HCT)以外に治療が治癒的ではないといった欠点がある。患者の大部分は、最終的に再発し、現在の治療では進行が予防されない。したがって、特に新しい作用機序を有する単独治療又は併用治療としての新しい治療が強く求められている。
【0010】
ミトコンドリア増強療法(MAT)は、健康なミトコンドリアが富化された自己由来幹細胞及び/又は前駆細胞(HSPC)を含む細胞療法である。MATは、ミトコンドリア富化細胞を骨髄に定着させて健康なミトコンドリアで幹細胞及び/又は前駆細胞の新しい造血コロニーを確立することで、造血系統の機能を回復させるための治療方式を提供する。MATは、単独療法として又は現在の標準治療と組み合わせて使用して、全体的な疾患負担及び医療サービスの利用を軽減し、生活の質を向上させることができる。したがって、MATは、骨髄異形成症候群を有する患者の非常に満たされていない医療ニーズに対処する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、ミトコンドリアが富化された細胞が骨髄異形成症候群(MDS)、疾患及び障害の治療に有用であるという独創的な発見に基づく。本発明は、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の医薬組成物、骨髄異形成症候群の治療方法、並びにミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を使用してMDSの症状を緩和し及び/又はMDSの進行を予防する方法を提供する。
【0012】
1つの実施形態において、本発明は、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって、前記幹細胞及び/又は前駆細胞が骨髄異形成症候群(MDS)の疾患、障害又はその症状を有する対象から得られ、前記外因性ミトコンドリアがMDSの疾患、障害又はその症状、あるいはミトコンドリア病を有さないドナーから得られる、医薬組成物を提供する。
【0013】
1つの態様において、前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、前記幹細胞及び/又は前駆細胞を、前記外因性ミトコンドリアが前記幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする条件下で、前記外因性ミトコンドリアと接触させる工程を含む方法によって産生される。いくつかの態様において、前記外因性ミトコンドリアが前記幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記幹細胞及び/又は前駆細胞を前記外因性ミトコンドリアと共に約0.5~30時間の範囲の時間、約4~37℃の範囲の温度でインキュベートすることを含む。1つの態様において、前記外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、10細胞当たり約0.044~176mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性の比率の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。いくつかの態様において、前記外因性ミトコンドリアが前記標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、10細胞当たり約1~50mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性の濃度の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。様々な態様において、前記外因性ミトコンドリアの濃度は10細胞当たり約4.4、17.6、又は35mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性である。1つの実施形態において、前記外因性ミトコンドリアが前記標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、1細胞当たり約1個から最大200個のミトコンドリア粒子の比率の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。特定の実施形態において、前記外因性ミトコンドリアが前記標的細胞に進入するのを可能にする前記条件は、前記標的細胞を、1細胞当たり約10個から最大50個のミトコンドリア粒子の比率の前記外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。
【0014】
別の態様において、前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、ミトコンドリア富化前の前記幹細胞及び/又は前駆細胞と比較して、少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の、増加した含有量;増加した酸素(O)消費率;クエン酸シンターゼ、コハク酸塩、又はトリプタミンの、増加した活性レベル;増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率;増加したミトコンドリアDNA含有量;液体培地又は固体培地中の、増加したコロニー形成単位活性;増加した増殖率;増加した分化率;あるいはそれらの任意の組み合わせを有する。1つの態様において、前記外因性ミトコンドリアは、前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリアの少なくとも0.5%を構成する。別の態様において、前記外因性ミトコンドリアは、ヒト胎盤から単離されるか、由来するか、又は部分的に精製される。別の態様において、前記組成物は凍結/融解される。いくつかの態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、富化前に凍結/融解される。他の態様において、前記外因性ミトコンドリアは、前記幹細胞及び/又は前駆細胞の富化前に凍結/融解される。1つの態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、前記外因性ミトコンドリアが富化された後に少なくとも1回の凍結-融解サイクルを受けている。別の態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄球系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞、CD34細胞、CD34細胞のサブセット、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。様々な態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、CD34細胞又はCD34細胞のサブセットである。1つの態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は、全血、血液画分、末梢血、臍帯血、骨髄又は血液に動員された骨髄細胞に由来する。1つの態様において、前記外因性ミトコンドリアは、胎盤、培養物で成長した胎盤細胞、又は血液細胞から単離されるか、由来するか、又は精製される。
【0015】
別の態様において、前記MDSの疾患又は障害は、単一系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-SLD)、多系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-MLD)、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS)、単独del(5q)を伴う骨髄異形成症候群、芽球増加を伴う骨髄異形成症候群(MDS-EB)、分類不能型骨髄異形成症候群(MDS-U)、及び急性骨髄性白血病(AML)の群から選択される。1つの態様において、前記MDSの症状は、息切れ、衰弱、疲労、蒼白、貧血、血小板減少症、白血球減少症、皮下出血、出血、点状出血、無効造血、血液血球減少症、クローン不安定性、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。別の態様において、前記対象は、MDS治療で治療されるか又は治療されている。いくつかの態様において、前記MDS治療は、低メチル化剤、赤血球造血刺激剤(ESA)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、アザシチジン、デシタビン、免疫抑制療法(IST)、ルスパテルセプト、又はそれらの組み合わせである。
【0016】
別の実施形態において、ミトコンドリア病は、機能不全のミトコンドリアによって引き起こされる1群の障害である。ミトコンドリア病は、ミトコンドリア機能に影響するミトコンドリアDNAにおける変異によって引き起こされ得る。ミトコンドリア病の他の原因は、その遺伝子産物がミトコンドリア(ミトコンドリアタンパク質)に取り込まれる核DNAの遺伝子の変異、及び後天性ミトコンドリア症状である。ミトコンドリア病は、該疾患がよく遺伝する方式、及び細胞機能に対するミトコンドリアの非常に高い重要性の両方により、ユニークな特徴を持っている。神経筋疾患症状を伴うこれらの疾患のサブクラスは、よくミトコンドリアミオパチーと呼ばれる。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害関連症状を軽減する方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。1つの態様において、前記対象は、MDSの疾患又は障害関連症状の1つ又は複数を有する。様々な態様において、前記MDSの疾患又は障害関連症状の1つ又は複数は、息切れ、衰弱、疲労、蒼白、貧血、血小板減少症、白血球減少症、皮下出血、出血、点状出血、無効造血、血液血球減少症、骨髄異形成、リンパ球減少症、クローン不安定性、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
追加の実施形態において、本発明は、対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害の進行を予防する方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0019】
更なる実施形態において、本発明は、対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害を治療する方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0020】
1つの態様において、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞の投与することにより、疾患の進行が予防され、及び/又は生存率が向上する。
【0021】
1つの実施形態において、本発明は、その必要がある対象において造血系統機能又は細胞数を回復させる方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。特定の実施形態において、造血機能又は細胞数の回復は、改善された細胞分化、貧血の改善、芽球の数の低減、環状鉄芽球の数の低減及び/又は輸血の必要性の低減によって特徴付けられる。
【0022】
1つの態様において、前記改善された細胞分化は、改善されたCD34細胞赤血球分化を含む。
【0023】
1つの態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は自己由来である。1つの態様において、前記幹細胞及び/又は前駆細胞は同種異系である。別の態様において、前記外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、骨髄に定着して新しい造血コロニーを確立する。別の態様において、前記方法は、低メチル化剤、赤血球造血刺激剤(ESA)、赤血球成熟剤、免疫抑制療法(IST)、成長因子、免疫調節薬、ヌクレオシド類似体、輸血、骨髄移植、又はそれらの組み合わせから選択されるMDS治療を前記対象に施す工程を更に含む。いくつかの態様において、前記MDS治療は、アザシチジン、デシタビン、セダズリジン、ルスパテルセプト、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、レナリドミド、エポエチン及びダルベポエチン、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。1つの態様において、前記外因性ミトコンドリアは、前記ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリア含有量の少なくとも1%を構成する。別の態様において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の投与は、静脈内、腹腔内、動脈内又は筋肉内投与、あるいは骨髄への直接注射による。1つの態様において、少なくとも5×10~5×10個のミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞は前記対象に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本明細書に記載の、骨髄全体を増強するプロトコルの概略図である。
図2】MDS細胞分化及び増殖に対するMAT増強の効果を示す。
図3A図3A~3BはMAT増強前及び後の低リスクMDS細胞及び中リスクMDS細胞における赤血球細胞数を示す。図3AはCD34精製細胞における赤血球細胞数を示すグラフである。図3Bは骨髄細胞全体における赤血球細胞数を示すグラフである。
図3B図3Aの説明を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、ミトコンドリアが富化された細胞が骨髄異形成症候群(MDS)、疾患及び障害の治療に有用であるという独創的な発見に基づく。本発明は、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の医薬組成物、骨髄異形成症候群の治療方法、並びにミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を使用してMDSの症状を緩和し及び/又はMDSの進行を予防する方法を提供する。
【0026】
本発明の組成物及び方法を説明する前に、本発明が、説明される特定の組成物、方法、及び実験条件が変更し得るため、かかる組成物、方法、及び条件に限定されないことは、理解されるであろう。また、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲のみに限定されることから、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することが意図されないことも理解されるであろう。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「一(a)」、「一つ(an)」及び「該(the)」は、文脈上別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「該方法」への言及は、1つ又は複数の方法、及び/又は本明細書に記載のタイプの工程を含み、これは、本開示の通読等によって、当業者に自明となるであろう。
【0028】
本明細書で使用されるように、数値に関連する「約」という用語は、示された数値に合理的に近い任意の追加の数値を含むことを意味する。例えば、文脈に基づき、値は、5~10%上下に変動し得る。例えば、約100の値は、90~110(又は90~110の間の任意の値)を意味する。
【0029】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許、及び特許出願は、これらの個々の刊行物、特許、及び特許出願が、具体的且つ個別に参照により組み込まれると示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語と科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味である。本明細書に記載の場合と類似又は相当する任意の方法及び材料が本発明の実施又は試験において使用できるが、修飾及び変形が本開示の精神及び範囲内に包含されることは理解されるであろう。以下において、好ましい方法及び材料を説明する。
【0031】
1つの実施形態において、本発明は、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって、前記幹細胞及び/又は前駆細胞が骨髄異形成症候群(MDS)の疾患、障害又はその症状を有する対象から得られ、前記外因性ミトコンドリアがMDSの疾患、障害又はその症状を有さないドナーから得られる、医薬組成物を提供する。
【0032】
本明細書で使用されるように、用語「医薬組成物」とは、活性成分、及び任意に薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む製剤を指す。用語「活性成分」は、「有効成分(effective ingredient)」を互換的に指すことができ、投与により所望の効果を誘発可能な任意の薬剤を指すことを意図する。活性成分の例としては、細胞又は生体組織、化合物、薬物、治療薬、小分子等を含むが、それらに限定されない。
【0033】
本明細書に記載の医薬組成物は、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を含む。本明細書で使用されるように、用語「外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞」は、用語「ミトコンドリア富化幹細胞」、又は「ミトコンドリア富化前駆細胞」と互換的に使用でき、外因性ミトコンドリアと接触することにより幹細胞の一部又は全部が外因性ミトコンドリアを含むようになる幹細胞の集団を指す。
【0034】
本明細書で使用されるように、用語「幹細胞」とは、一般に、任意の哺乳類幹細胞を指す。幹細胞は、他の種類の細胞に分化でき且つ同じ種類の幹細胞をより多く産生するように分裂できる未分化細胞である。幹細胞は全能性又は多能性であり得る。「幹細胞」とは、一般に、対象において自然に見出される全ての幹細胞、及び体外で産生されるか又は体外に由来する全ての幹細胞を指す。幹細胞等のような「前駆細胞」は、特定の種類の細胞に分化する傾向があるが、既に幹細胞よりも特異的であり、その「標的」細胞に分化するように促される。幹細胞と前駆細胞の最も重要な違いは、幹細胞は無制限に複製できるが、前駆細胞は限られた回数しか分裂できないことである。本明細書に使用される用語「ヒト幹細胞」は、「前駆細胞」及び「完全に分化していない幹細胞」を更に含む。
【0035】
「薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合性があり、そのレシピエントに有害でなく、製剤の活性成分の活性にも有害でないことが必要であることを意味する。薬学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤は、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)のように、当分野で周知である。薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、使用される用量及び濃度でレシピエントに無毒であり、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸等の緩衝液、アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤、保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリドと、塩化ヘキサメトニウムと、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムと、フェノール、ブチル又はベンジルアルコールと、メチル若しくはプロピルパラベン等のアルキルパラベンと、カテコールと、レゾルシノールと、シクロヘキサノールと、3-ペンタノールと、m-クレゾール等)、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジン等のアミノ酸、単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、又はデキストリンを含む他の炭水化物、EDTA等のキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖、ナトリウム等の塩形成対イオン、金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体)、及び/又はTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含み得る。担体の例としては、リポソーム、ナノ粒子、軟膏、ミセル、ミクロスフェア、微粒子、クリーム、エマルジョン、及びゲルを含むが、それらに限定されない。賦形剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム等の付着防止剤、糖類及びその誘導体(スクロース、ラクトース、デンプン、セルロース、糖アルコール等)等の結合剤、ゼラチン及び合成ポリマー等のタンパク質、タルク及びシリカ等の滑沢剤、及び抗酸化剤、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、パルミチン酸レチニル、セレン、システイン、メチオニン、クエン酸、硫酸ナトリウム及びパラベン等の保存剤を含むが、それらに限定されない。希釈剤の例としては、水、アルコール、生理食塩水、グリコール、鉱油及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含むが、それらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用されるように、用語「ドナー」とは、外因性細胞又はミトコンドリアを提供する提供者を指す。いくつかの実施形態において、ドナーは、疾患又は障害を患っていないか、又は対象が患っているのと同じ疾患又は障害を患っていない。特定の実施形態において、ドナーは対象であり、細胞及び/又はミトコンドリアは自己由来である。他の実施形態において、ドナーは対象ではなく、細胞及びミトコンドリアは同種異系である。
【0037】
ミトコンドリアに関する用語「外因性」又は「単離された外因性」とは、レシピエント細胞の外部にある供給源からのミトコンドリアのことをいう。例えば、いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアは、レシピエント細胞のドナーとは異なるドナー細胞から由来するか、又は単離される。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアは、レシピエント細胞と同じ対象からのドナー細胞から由来するか、又は単離される。例えば、外因性ミトコンドリアは、ドナー細胞から精製、単離又は得、その後ドナー細胞と同じ対象又は異なるドナーからのレシピエント細胞に導入して、それぞれ、外因性ミトコンドリアを自己由来及び同種異系にすることができる。特定の実施形態において、外因性ミトコンドリアはミトコンドリア全体である。
【0038】
いくつかの実施形態において、外因性ドナー細胞は、幹細胞及び/又は前駆細胞、造血芽球、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明は、エクスビボで単離された健康ミトコンドリアが富化されたMDS患者に由来する幹細胞を含む組成物を提供する。用語「骨髄異形成症候群」又は「MDS」とは、高齢者によく見られる、密接に関連するクローン性造血障害の異質な群を指す。老化の過程でミトコンドリアはミトコンドリアDNAに変異及び欠失を蓄積し、骨髄を含む複数の臓器系で機能不全になることが知られている。それらいずれも、1つ又は複数の末梢血液血球減少症を特徴とする。骨髄は通常、富細胞性であるが、再生不良性貧血に似た低細胞性骨髄が稀に見られることがある。骨髄細胞が異常な形態及び成熟(骨髄造血異常)を示すことにより、無効な血液細胞産生がもたらされる。MDSは、染色体異常、分子変異、並びに造血細胞系の1つ又は複数の成熟及び分化における形態学的及び生理学的異常によって示されるように、幹細胞レベルで造血に影響を及ぼす。
【0040】
骨髄異形成症候群(MDS)は、骨髄中の未熟な血液細胞が成熟しないため、健康な血液細胞にならない疾患群の1つである。用語「MDS」は、複数の疾患及び障害を包含し、いくつかのタイプが急性骨髄性白血病に発展する可能性がある。
【0041】
用語「疾患」及び「障害」とは、正常とは見なされない、又は生理学的状態とは異なる任意の苦痛を指す。疾患及び障害は、体内の実質的に任意の臓器、組織、又は機能に影響可能である。疾患及び症状の非限定的な例としては、例えばがん及び血液疾患と障害を含む。本明細書で使用されるように、用語「疾患又は障害を患っている対象」又は「疾患又は障害を有する対象」とは、特定の症状によって引き起こされる衰弱効果を経験しているヒト対象を指す。障害とは、がん、加齢関連障害、又は血液疾患、及び他の疾患又は障害を指し得る。
【0042】
用語「MDSの疾患」又は「MDSの障害」は、不十分に形成されるか又は適切に機能しない血液細胞によって引き起こされる疾患及び障害のいずれかを指すと理解される。MDSの疾患の非限定的な例は以下:
- 単一系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-SLD)は、1種類の血液細胞、例えば、白血球、赤血球又は血小板の数が少なく顕微鏡下で異常を呈する場合に、発生する。このタイプのMDSは一般的ではなく、殆どAMLに進行しない;
- 多系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-MLD)は、2又は3種類の血液細胞の数が少なく異常を呈する場合に、発生する。これはMDSの最も一般的な形態である;
- 環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS)は、1つ又は複数種類の血液細胞の数が少なく骨髄中の赤血球が過剰な鉄の輪を含有する場合に、発生する。MDS-RSは、早期赤血球の少なくとも15%が環状鉄芽球であるか又は細胞の少なくとも5%がSF3B1遺伝子の変異も有する場合に診断される;
- 単独del(5q)染色体異常を伴う骨髄異形成症候群は、赤血球の数が少なく、細胞の5番染色体の一部が欠損している場合に、発生する。このタイプのMDSは、一般的ではなく、殆どAMLに進行しない;
- 芽球増加を伴う骨髄異形成症候群(MDS-EB)は、3種類の血液細胞のいずれかの数が少ない可能性があり、顕微鏡下で異常を呈し、非常に未熟な血液細胞(芽球)が血液及び骨髄に見出される場合に、発生する。MDS-EB1は、芽球が骨髄中の細胞の5%~9%又は血液中の細胞の2%~4%を占める場合に発生する。MDS-EB2は、芽球が骨髄中の細胞の10%~19%又は血液中の細胞の5%~19%を占める場合に発生する。このタイプのMDSはかなり一般的であり、AMLに進行する可能性がより高い;
- 分類不能型骨髄異形成症候群(MDS-U)は、1つ又は複数種類の成熟血液細胞の数が低減し、細胞が顕微鏡下で異常に見える可能性がある場合に、発生する。しばしば、血液細胞は正常に見えるが、分析により細胞が骨髄異形成症候群に関連するDNA変化を有すると見出される可能性がある;
- 急性骨髄性白血病(AML);及び
- 慢性骨髄単球性白血病(CMML)
を含む。
【0043】
本明細書で使用されるように、「白血病」とは、異常な白血球の急速な産生によって引き起こされる血液がんを指す。白血病の例としては、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、及び有毛細胞白血病を含む。
【0044】
1つの態様において、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、外因性ミトコンドリアが幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする条件下で幹細胞及び/又は前駆細胞を外因性ミトコンドリアと接触させる工程を含む方法によって、産生される。
【0045】
本明細書で使用されるように、用語「接触」とは、ミトコンドリアと細胞(例えば、幹細胞及び/又は前駆細胞)を、外因性ミトコンドリアの細胞への進入を促進するか又は外因性ミトコンドリアの細胞への進入を刺激するのに十分な距離に近付けることを指す。ミトコンドリアを細胞(例えば、幹細胞及び/又は前駆細胞)に導入又は挿入するという用語は、接触という用語と互換的に使用される。
【0046】
本明細書で使用される「外因性ミトコンドリアが幹細胞に進入するのを可能にする条件」及び「外因性ミトコンドリアが前駆細胞に進入するのを可能にする条件」という句は、一般に、時間、温度、遠心分離、培養培地及びミトコンドリアとレシピエント細胞の間の近接性等のパラメータを指す。例えば、ヒト細胞及びヒト細胞系は、通常、液体培地中でインキュベートされ、組織培養インキュベーター等の滅菌環境において、37℃及び5%CO雰囲気で保管される。本明細書に開示及び例示される代替実施形態によれば、細胞は、ヒト血清アルブミンで補足した生理食塩水中で室温にてインキュベートされてもよい。
【0047】
いくつかの態様において、外因性ミトコンドリアが幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする条件は、幹細胞及び/又は前駆細胞を外因性ミトコンドリアと共に約0.5~30時間の範囲の時間、約4~37℃の範囲の温度でインキュベートすることを含む。
【0048】
特定の実施形態において、細胞は、外因性ミトコンドリアと共に、0.5~30時間の範囲の時間、約4~37℃の範囲の温度でインキュベートされる。特定の実施形態において、細胞は、外因性ミトコンドリアと共に、約0.5~30時間又は約5~25時間の範囲の時間でインキュベートされる。特定の実施形態において、インキュベーションは約0.5~20時間行う。特定の実施形態において、インキュベーションは約20~30時間行う。いくつかの実施形態において、インキュベーションは少なくとも約0.5、1、5、10、15、20、21、22、23又は24時間行う。他の実施形態において、インキュベーションは最大5、10、15、20又は30時間行う。特定の実施形態において、インキュベーションは24時間行う。特定の実施形態において、インキュベーションは、細胞中のミトコンドリア含有量がそれらの初期のミトコンドリア含有量と比較して平均で1%~45%増加するまで行う。
【0049】
いくつかの実施形態において、インキュベーションは室温(16℃~30℃)で行う。他の実施形態において、インキュベーションは37℃で行う。特定の実施形態において、インキュベーションは4℃で行う。いくつかの実施形態において、インキュベーションは5%CO雰囲気で行う。他の実施形態において、インキュベーションは、空気中に存在するレベルを上回るCOの添加を含まない。
【0050】
尚更なる実施形態において、インキュベーションは培養培地中で行う。いくつかの実施形態において、培養培地はヒト血清アルブミン(HSA)で補足される。特定の実施形態において、インキュベーションは、ミトコンドリアの完全性を維持する培地中で行う。追加の実施形態において、インキュベーションはHSAで補足した生理食塩水中で行う。特定の例示的実施形態によれば、外因性ミトコンドリアがヒト幹細胞に進入するのを可能にしてそれにより前記ヒト幹細胞に前記ヒト外因性ミトコンドリアが富化される条件は、4.5%ヒト血清アルブミンで補足した生理食塩水中の室温でのインキュベーションを含む。
【0051】
特定の実施形態において、インキュベーションは37℃で行う。特定の実施形態において、インキュベーションは少なくとも1時間行う。特定の実施形態において、インキュベーションは少なくとも6時間行う。特定の実施形態において、インキュベーションは少なくとも12時間行う。特定の実施形態において、インキュベーションは12~24時間行う。
【0052】
本明細書で使用されるように、用語「富化する」とは、細胞又は細胞集団のミトコンドリア含有量、例えば、無傷のミトコンドリアの数、又は哺乳類細胞又は細胞集団のミトコンドリアの機能性を増加させるように設計される任意の行動を指す。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、富化前の同幹細胞及び/又は前駆細胞と比較して強化された機能を示す。
【0053】
本明細書で使用される用語「富化する」及び「富化」とは、ヒト細胞又は細胞集団のミトコンドリア含有量、例えば、無傷、機能的、又は健康なミトコンドリアの数を増加させる、エクスビボで行われる任意の行動を指す。本発明の原理によれば、外因性ミトコンドリアがヒト幹細胞及び/又は前駆細胞に導入されるため、これらの細胞に外因性ミトコンドリアが富化される。いくつかの実施形態によれば、外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリアの0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%又は20%超を構成する。
【0054】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア含有量」とは、細胞内のミトコンドリアの量、又は複数の細胞内のミトコンドリアの平均量を指す。本明細書で使用される用語「増加したミトコンドリア含有量」とは、ミトコンドリア富化前の細胞のミトコンドリア含有量よりも検出可能に高いミトコンドリア含有量を指す。
【0055】
特定の実施形態において、外因性ミトコンドリアが富化された細胞のミトコンドリア含有量は、ナイーブ細胞のミトコンドリア含有量よりも検出可能に高い。様々な実施形態によれば、ミトコンドリア富化幹細胞のミトコンドリア含有量は少なくとも0.5%、1%、5%、10%、25%、50%、100%、200%又はそれ以上であり、ミトコンドリア富化前の細胞のミトコンドリア含有量よりも高い。特定の実施形態において、幹細胞は新鮮なものを使用する。特定の実施形態において、幹細胞及び/又は前駆細胞は凍結及び融解される。特定の実施形態において、本明細書で使用される用語「検出可能に高い」とは、正常値と増加した値の間の統計的に有意な増加を指す。特定の実施形態において、本明細書で使用される用語「よりも検出可能に高い」とは、非病理学的増加、即ち、実質的により高い値に関連する病理学的症状が明らかになることのないレベルを指す。特定の実施形態において、本明細書で使用される用語「増加した」とは、富化前の対応する細胞又はミトコンドリア富化前の健康対象又は複数の健康対象(例えば、幹細胞及び前駆細胞)の対応するミトコンドリアで見出される対応する値より1.05倍、1.1倍、1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍又はそれ以上高い値を指す。
【0056】
特定の実施形態において、細胞又はミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの含有量を決定することで決定される。特定の実施形態において、ナイーブ細胞又は富化された細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの活性レベルを決定することで決定される。特定の実施形態において、ナイーブ細胞又は富化された細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの含有量に相関する。特定の実施形態において、ナイーブ細胞又は富化された細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの活性レベルに相関する。CS活性は市販のキットによって測定できる。
【0057】
1つの態様において、外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする条件は、標的細胞を、10細胞当たり約0.044~176mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性の比率の外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。
【0058】
クエン酸シンターゼ(CS)は、ミトコンドリアマトリックスに局在するが、核DNAによってコードされる。クエン酸シンターゼは、クレブス回路の最初の工程に関与し、一般に無傷のミトコンドリアの存在を示す定量的酵素マーカーとして使用される(Larsen S. et al., J. Physiol., 2012, Vol. 590(14), pages 3349-3360、Cook G.A. et al., Biochim. Biophys. Acta., 1983, Vol. 763(4), pages 356-367)。
【0059】
ミトコンドリア用量は、本明細書で解釈されるように、ミトコンドリアの量の他の定量化可能な尺度のCS活性単位又はmtDNAコピー数で表すことができる。「CS活性単位」は、1mLの反応体積において1分間で1マイクロモルの基質の変換を可能にする量として定義される。
【0060】
いくつかの実施形態において、細胞(例えば、幹細胞及び/又は前駆細胞)の外因性ミトコンドリア富化は、細胞100万個当たり少なくとも0.044から最大176ミリ単位(mU)のクエン酸シンターゼ(CS)活性、細胞100万個当たり少なくとも0.088から最大176mUのCS活性、細胞100万個当たり少なくとも0.2から最大150mUのCS活性、細胞100万個当たり少なくとも0.4から最大100mUのCS活性、細胞100万個当たり少なくとも0.6から最大80mUのCS活性、細胞100万個当たり少なくとも0.7から最大50mUのCS活性、細胞100万個当たり少なくとも0.8から最大20mUのCS活性、細胞100万個当たり少なくとも0.88から最大17.6mUのCS活性、又は細胞100万個当たり少なくとも0.44から最大17.6mUのCS活性の用量のミトコンドリアを細胞に導入することを含む。
【0061】
いくつかの態様において、外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする条件は、標的細胞を、10細胞当たり約1~50mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性の濃度の外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。様々な態様において、外因性ミトコンドリアの濃度は、10細胞当たり約0.88、4.4、17.6、又は35mUのクエン酸シンターゼ(CS)活性である。
【0062】
いくつかの態様において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも100万個から最大4億個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも100万個から最大2億個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも500万個から最大1.5億個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも500万個から最大1.5億個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも500万個から最大1億個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも500万個から最大7500万個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも1000万個から最大1億個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも1000万個から最大7500万個のミトコンドリア粒子である。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアの濃度は、細胞100万個当たり少なくとも1000万個から最大5000万個のミトコンドリア粒子である。いくつかの態様において、外因性ミトコンドリアの濃度は、MTG方法によって測定されるように、細胞100万個当たり100万個のミトコンドリア粒子である。
【0063】
別の態様において、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、ミトコンドリア富化前の幹細胞及び/又は前駆細胞と比較して、少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の、増加した含有量原文;増加した酸素(O)消費率;クエン酸シンターゼ、コハク酸塩、又はトリプタミンの、増加した活性レベル;増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率;増加したミトコンドリアDNA含有量;液体培地又は固体培地中の、増加したコロニー形成単位活性;増加した増殖率;増加した分化率;あるいはそれらの任意の組み合わせを有する。
【0064】
ミトコンドリアDNA含有量は、ミトコンドリア富化の前及び後にミトコンドリア遺伝子の定量的又はデジタルPCRを行い、核遺伝子に対して正規化して測定することができる。
【0065】
特定の状況において、ミトコンドリア富化前に、同じ細胞は富化レベルを決定するための対照として働く。
【0066】
本明細書で使用される用語「増加したミトコンドリアDNA含有量」とは、ミトコンドリア富化前の細胞中のミトコンドリアDNA含有量よりも検出可能に高いミトコンドリアDNAの含有量を指す。明細書及び特許請求の範囲における「正常なミトコンドリアDNA」とは、ミトコンドリア病に関連すると知られる変異又は欠失を持たない/有さないミトコンドリアDNAを指す。本明細書で使用される用語「正常な酸素(O)消費率」とは、健康個体からの細胞の平均O消費を指す。本明細書で使用される用語「正常なクエン酸シンターゼ活性レベル」とは、健康個体からの細胞におけるクエン酸シンターゼの平均活性レベルを指す。本明細書で使用される用語「正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生率」とは、健康個体からの細胞における平均ATP産生率を指す。
【0067】
いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリア含有量は、ミトコンドリアタンパク質の含有量を測定することで決定される。いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリアタンパク質は、ミトコンドリアDNAによってコードされるタンパク質である。いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリアタンパク質は、核DNAによってコードされミトコンドリアに局在するタンパク質である。非限定的な例は、クエン酸シンターゼ(CS)、シトクロムCオキシダーゼ(COX1)、コハク酸脱水素酵素複合体フラビンタンパク質サブユニットA(SDHA)、トリプタミン、コハク酸塩である。
【0068】
いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする条件は、標的細胞を、細胞100万個当たり約100万個から1億個までのミトコンドリア粒子の比率の外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。特定の実施形態において、外因性ミトコンドリアが標的細胞に進入するのを可能にする条件は、標的細胞を、細胞100万個当たり約1000万個から5000万個までのミトコンドリア粒子の比率の外因性ミトコンドリアと共にインキュベートすることを含む。
【0069】
いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアからの内因性ミトコンドリアの同定/区別は、外因性ミトコンドリアを標的細胞に導入した後は、例えば内因性ミトコンドリアと外因性ミトコンドリアとの間のmtDNA配列の差、例えば異なるハプロタイプの同定を含むがそれらに限定されない、様々な手段によって、実行できる。
【0070】
特定の実施形態において、内因性及び外因性ミトコンドリアは同一のハプログループからのものである。
【0071】
他の実施形態において、内因性及び外因性ミトコンドリアは異なるハプログループからのものである。
【0072】
細胞の外因性ミトコンドリア富化の程度は、酸素(O)消費率、クエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル、アデノシン三リン酸(ATP)産生率を含むがそれらに限定されない機能アッセイ及び/又は酵素アッセイによって測定され得る。いくつかの実施形態において、細胞の外因性ミトコンドリア富化は、ミトコンドリアDNAの検出によって確認され得る。いくつかの実施形態によれば、細胞の外因性ミトコンドリア富化の程度は、ヘテロプラスミーの変化のレベル及び/又は細胞当たりのmtDNAのコピー数によって決定され得る。
【0073】
ヘテロプラスミーは細胞又は個体内に1種超のミトコンドリアDNAが存在することである。ヘテロプラスミーレベルは、野生型/機能性mtDNA分子に対する変異型mtDNA分子の割合であり、ミトコンドリア病の重篤度を考慮する際の重要な要因である。より低いヘテロプラスミーレベル(機能しているミトコンドリアの量が十分である)は健康な表現型に関連するが、より高いヘテロプラスミーレベル(機能しているミトコンドリアの量が不十分である)は病態に関連する。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも1%低い。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも3%低い。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも5%低い。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも10%低い。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも20%低い。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも30%低い。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、富化前の幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも50%低い。
【0074】
TMRM(テトラメチルローダミンメチルエステル)又は関連するTMRE(テトラメチルローダミンエチルエステル)は、ミトコンドリア膜電位の変化を同定することで、生細胞のミトコンドリア機能を評価するために一般的に使用される細胞透過性蛍光発生色素である。いくつかの実施形態によれば、富化のレベルは、TMRE又はTMRMで染色することによって決定することができる。当分野で周知の他の蛍光発生色素も使用できる。
【0075】
いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリアは、無傷のミトコンドリア、壊れたミトコンドリア、及び/又は、ミトコンドリアタンパク質とミトコンドリア核酸とミトコンドリア脂質とミトコンドリア糖からなる群から選択されるミトコンドリア構成成分を含む。
【0076】
いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリア膜の健全性は、当分野で既知の任意の方法によって特定され得る。非限定的な例において、ミトコンドリア膜の健全性は、シトクロムc放出試験、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)、又はテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)蛍光プローブを使用して測定される。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。顕微鏡下で観察された、TMRM又はTMRE染色を示すミトコンドリアは、無傷のミトコンドリア外膜を有する。本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア膜」とは、ミトコンドリア内膜、ミトコンドリア外膜、及びその両方からなる群から選択されるミトコンドリア膜を指す。
【0077】
特定の実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞におけるミトコンドリア富化のレベルは、細胞における全ミトコンドリアDNAの少なくとも統計的に代表的な部分を配列決定し、宿主/内因性ミトコンドリアDNA及び外因性ミトコンドリアDNAの相対レベルを決定することによって、決定される。特定の実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞におけるミトコンドリア富化のレベルは、一塩基多型(SNP)分析によって決定される。特定の実施形態において、最大のミトコンドリア集団及び/若しくは最大のミトコンドリアDNA集団は、宿主/内因性ミトコンドリア集団及び/若しくは宿主/内因性ミトコンドリアDNA集団であり、且つ/又は2番目に大きいミトコンドリア集団及び/若しくは2番目に大きいミトコンドリアDNA集団は、外因性ミトコンドリア集団及び/又は外因性ミトコンドリアDNA集団である。
【0078】
特定の実施形態によれば、幹細胞及び/又は前駆細胞の外因性ミトコンドリア富化は、当分野で認められた従来のアッセイによって決定され得る。特定の実施形態において、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞及び/又は前駆細胞におけるミトコンドリア富化のレベルは、(i)宿主/内因性ミトコンドリアDNA及び外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)ミトコンドリアタンパク質のレベル、(iii)CS活性のレベル、又は(iv) (i)、(ii)及び(iii)の任意の組み合わせによって決定される。これら様々なパラメータを決定する方法は当分野で周知である。
【0079】
特定の実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞におけるミトコンドリア富化のレベルは、(i)宿主ミトコンドリアDNA及び外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)クエン酸シンターゼ活性のレベル、(iii)コハク酸脱水素酵素複合体フラビンタンパク質サブユニットA(SDHA)又はシトクロムCオキシダーゼ(COX1)のレベル、(iv)酸素(O)消費率、(v)アデノシン三リン酸(ATP)産生率又は(vi)それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つによって決定される。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。これら様々なパラメータを測定する方法は当分野で周知である。
【0080】
いくつかの実施形態において、細胞の外因性ヒトミトコンドリア富化は、細胞と外因性ヒトミトコンドリアとのインキュベーション後に、ミトコンドリア富化細胞(例えばミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞)を洗浄することを含む。この工程は、細胞残屑又はミトコンドリア膜残渣並びに幹細胞及び/又は前駆細胞に進入しなかったミトコンドリアが実質的にないミトコンドリア富化細胞を提供する。いくつかの実施形態において、洗浄は、ヒト細胞と前記外因性ヒトミトコンドリアとのインキュベーション後の、ミトコンドリア富化細胞の遠心分離を含む。いくつかの実施形態によれば、本方法は、遊離ミトコンドリア即ち細胞に進入しなかったミトコンドリア又は他の細胞残屑から分離されたミトコンドリア富化細胞を産生し、本医薬組成物は、遊離ミトコンドリアから分離されたミトコンドリア富化細胞を含有する。いくつかの実施形態によれば、本方法は遊離ミトコンドリアを検出可能な量で含まないミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を産生し、本医薬組成物はそれを含有する。
【0081】
本明細書で使用される用語「増加した酸素(O)消費率」とは、ミトコンドリア富化前の酸素(O)消費率よりも検出可能に高い酸素(O)消費率を指す。
【0082】
本明細書で使用される用語「少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の、増加した含有量」とは、核コード又はミトコンドリアコードミトコンドリアタンパク質、例えば、CS、COX1及びSDHAの含有量を指し、ミトコンドリア富化前の細胞中の前記ミトコンドリアタンパク質の含有量よりも検出可能に高い。
【0083】
本明細書で使用される用語「クエン酸シンターゼの、増加した含有量又は活性レベル」とは、ミトコンドリア富化前の細胞中のクエン酸シンターゼの含有量値又は活性レベルよりも検出可能に高いクエン酸シンターゼの含有量又は活性レベルを指す。
【0084】
本明細書で使用される用語「増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率」とは、ミトコンドリア富化前のアデノシン三リン酸(ATP)産生率よりも検出可能に高いアデノシン三リン酸(ATP)産生率を指す。
【0085】
1つの態様において、外因性ミトコンドリアは、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリアの少なくとも0.5%を構成する。
【0086】
特定の実施形態において、外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化細胞における全ミトコンドリア含有量の少なくとも0.5%を構成する。特定の実施形態において、外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化標的細胞における全ミトコンドリア含有量の少なくとも10%を構成する。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化標的細胞における全ミトコンドリア含有量の少なくとも約0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%又は50%を構成する。特定の実施形態において、単離されたミトコンドリアにおけるミトコンドリアタンパク質の総量は、細胞タンパク質の総量の10~90%、20~80%、20~70%、40~70%、20~40%、又は20~30%である。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。特定の実施形態において、単離されたミトコンドリアにおけるミトコンドリアタンパク質の総量は、サンプル内の細胞タンパク質の総量の20%~80%である。特定の実施形態において、単離されたミトコンドリアにおけるミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアと他の細胞下画分の組み合わせ重量の10%~80%である。他の実施形態において、単離されたミトコンドリアにおけるミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアと他の細胞下画分の組み合わせ重量の80%超である。
【0087】
別の態様において、外因性ミトコンドリアは、単離されたか、由来するか又は部分的に精製された、ヒトミトコンドリアである。
【0088】
本明細書で使用されるように、ミトコンドリアの文脈における用語「単離」、「由来」及び「部分的に精製」は、他の細胞成分から少なくとも部分的に精製された外因性ミトコンドリアを含む。外因性の単離された又は部分的に精製されたミトコンドリアにおけるミトコンドリアタンパク質の総量は、サンプル内の細胞タンパク質の総量の約10%~90%である。
【0089】
本明細書で使用されるように、用語「機能的ミトコンドリア」とは、正常なミトコンドリアDNA(mtDNA)及び/又は正常な非病理学的レベルの活性を指示するパラメータを示すミトコンドリアを指す。ミトコンドリアの活性、例えば膜電位、O消費、ATP産生、及びクエン酸シンターゼ(CS)活性レベル等は、当分野で周知の様々な方法によって測定できる。
【0090】
1つの態様において、組成物は凍結/融解される。いくつかの態様において、幹細胞及び/又は前駆細胞は富化前に凍結/融解される。他の態様において、外因性ミトコンドリアは幹細胞及び/又は前駆細胞の富化前に凍結/融解される。別の態様において、幹細胞及び/又は前駆細胞は、外因性ミトコンドリアが富化された後に少なくとも1回の凍結-融解サイクルを受けている。
【0091】
いくつかの実施形態において、幹細胞及び/又は前駆細胞は、インビトロで培養及び増殖される。特定の実施形態において、幹細胞及び/又は前駆細胞はミトコンドリア富化の前又は後に少なくとも1回の凍結融解サイクルを受ける。
【0092】
特定の実施形態において、幹細胞及び/又は前駆細胞は凍結されてから貯蔵され、融解後に使用される。更なる実施形態において、外因性ミトコンドリアは凍結されてから貯蔵され、使用前に融解される。更なる実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞は、凍結及び貯蔵することなく使用される。尚更なる実施形態において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞は、凍結、貯蔵及び融解後に使用される。生存能力を保持するための細胞調製物の凍結融解に適する方法は、当分野で周知である。
【0093】
本明細書で使用されるように、用語「凍結-融解サイクル」とは、外因性ミトコンドリアを0℃未満の温度に凍結し、ミトコンドリアを0℃未満の温度で所定期間維持し、外因性ミトコンドリアを室温又は体温又は外因性ミトコンドリアによる細胞の治療を可能にする任意の0℃超の温度に融解することを指す。用語「室温」とは、本明細書で使用されるように、典型的には18℃~25℃の温度を指す。用語「体温」とは、本明細書で使用されるように、35.5℃~37.5℃の温度を指し、好ましくは37℃である。
【0094】
別の実施形態において、凍結-融解サイクルを受けたミトコンドリアは、-20℃以下、-4℃以下、又は-70℃以下の温度で凍結された。別の実施形態によれば、ミトコンドリアは徐々に凍結される。ある実施形態によれば、ミトコンドリアは瞬間冷凍によって凍結される。本明細書で使用されるように、用語「瞬間冷凍」とは、ミトコンドリアを極低温にさらすことで急速に凍結させることを指す。
【0095】
別の実施形態において、凍結-融解サイクルを受けたミトコンドリアは、融解前に少なくとも30分間凍結された。別の実施形態によれば、凍結-融解サイクルは、融解前に、外因性ミトコンドリアを少なくとも30、60、90、120、180、210分間凍結させることを含む。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。別の実施形態において、凍結-融解サイクルを受けたミトコンドリアは、融解前に、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、24、48、72、96、又は120時間凍結された。別の実施形態において、凍結-融解サイクルを受けたミトコンドリアは、融解前に、少なくとも4、5、6、7、30、60、120、365日間凍結された。別の実施形態によれば、凍結-融解サイクルは、融解前に、外因性ミトコンドリアを少なくとも1、2、3週間凍結させることを含む。別の実施形態によれば、凍結-融解サイクルは、融解前に、外因性ミトコンドリアを少なくとも1、2、3、4、5、6、12ヶ月間凍結させることを含む。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。
【0096】
特定の実施形態によれば、融解は室温で行う。別の実施形態において、融解は体温で行う。別の実施形態によれば、融解は、本発明の方法に係るミトコンドリアの投与を可能にする温度で行う。別の実施形態によれば、融解は徐々に行う。
【0097】
別の態様において、幹細胞及び/又は前駆細胞は、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄球系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞、CD34細胞、CD34細胞のサブセット、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0098】
特定の実施形態において、幹細胞は多能性幹細胞(PSC)である。他の実施形態において、PSCは非胚性幹細胞である。いくつかの実施形態において、幹細胞は、人工PSC(iPSC)である。特定の実施形態において、幹細胞は胚性幹細胞である。特定の実施形態において、幹細胞は、骨髄細胞に由来する。特定の実施形態において、幹細胞はCD34細胞である。更に他の実施形態において、幹細胞は血液に由来する。更なる実施形態において、幹細胞は臍帯血に由来する。特定の実施形態において、疾患又は障害を患っている対象又は健康対象から得られた幹細胞は、骨髄細胞又は骨髄由来幹細胞である。
【0099】
本明細書で使用されるように、用語「多能性幹細胞(PSC)」とは、無限に増殖でき且つ体内で複数の細胞型を生じることができる細胞を指す。全能性幹細胞は、体内で他のあらゆる細胞型を生じることができる細胞を指す。胚性幹細胞(ESC)は、全能性幹細胞であり、人工多能性幹細胞(iPSC)は多能性幹細胞である。
【0100】
本明細書で使用されるように、用語「人工多能性幹細胞(iPSC)」とは、ヒト成人体細胞から生成され得る多能性幹細胞の1種を指す。本明細書においてiPSCを生成可能な体細胞のいくつかの非限定的な例としては、造血幹細胞又はその前駆細胞を含む。
【0101】
本明細書で使用されるように、用語「胚性幹細胞(ESC)」とは、胚盤胞の内部細胞塊に由来する全能性幹細胞の1種を指す。
【0102】
本明細書で使用されるように、用語「骨髄細胞」とは、ヒトの骨髄に自然に見出される全てのヒト細胞、及びヒトの骨髄に自然に見出される全ての細胞集団を指す。用語「骨髄幹細胞」及び「骨髄由来幹細胞」とは、骨髄に由来する幹細胞及び/又は前駆幹細胞集団を指す。
【0103】
いくつかの実施形態において、自己由来又は同種異系ヒト幹細胞は多能性幹細胞(PSC)又は人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0104】
いくつかの実施形態によれば、ヒト幹細胞は、血液、臍帯血、骨髄又は血液に動員された骨髄細胞に由来する。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。特定の実施形態において、ヒト幹細胞は骨髄に由来する。
【0105】
特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は、骨髄造血細胞を含む。本明細書で使用される用語「骨髄造血細胞」とは、骨髄造血に関与する細胞、例えば、骨髄及び骨髄から生じる全ての細胞即ち全ての血液細胞の産生に関与する細胞を指す。
【0106】
特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は、赤血球造血細胞を含む。本明細書で使用される用語「赤血球造血細胞」とは、赤血球生成に関与する細胞、例えば、赤血球(赤血球(erythrocyte))の産生に関与する細胞を指す。
【0107】
特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は、多能性造血幹細胞(HSC)を含む。本明細書で使用される用語「多能性造血幹細胞」又は「血球芽細胞」とは、造血のプロセスによって他の全ての血液細胞を生じる幹細胞を指す。
【0108】
特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は、骨髄球系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞、又はそれらの任意の組み合わせを含む。特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は、間葉系幹細胞を含む。本明細書で使用される用語「骨髄球系共通前駆細胞」とは、骨髄細胞を生成する細胞を指す。本明細書で使用される用語「リンパ球系共通前駆細胞」とは、リンパ球を生成する細胞を指す。
【0109】
特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小型リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、網様細胞、又はそれらの任意の組合せを更に含む。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。
【0110】
特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は骨髄造血細胞を含む。特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は赤血球造血細胞からなる。特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は多能性造血幹細胞(HSC)を含む。特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は骨髄球系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞、又はそれらの任意の組合せを含む。特定の実施形態において、骨髄由来幹細胞は巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小型リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、網様細胞、又はそれらの任意の組合せを含む。特定の実施形態において、幹細胞は末梢血から得られた複数のヒト骨髄幹細胞を含む。
【0111】
造血幹細胞(HSC)は、他の血液細胞を生じる幹細胞である。このプロセスは造血と呼ばれる。造血幹細胞は、骨髄系及びリンパ系と呼ばれる系統において異なる種類の血液細胞を生じる。骨髄系及びリンパ系の両方は樹状細胞形成に関与する。骨髄系細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球から血小板までを含む。リンパ系細胞は、T細胞、B細胞、及びナチュラルキラー細胞を含む。
【0112】
1つの態様において、幹細胞及び/又は前駆細胞は、全血、血液画分、末梢血、臍帯血、骨髄、又は血液に動員された骨髄細胞に由来する。
【0113】
様々な態様において、幹細胞及び/又は前駆細胞はCD34細胞である。
【0114】
CD34抗原として知られる造血前駆細胞抗原CD34は、ヒトにおいてCD34遺伝子によってコードされるタンパク質である。CD34は、細胞表面糖タンパク質内の分化抗原群であり、細胞間接着因子として機能する。特定の実施形態において、幹細胞は骨髄前駆細胞抗原CD34を発現する(CD34である)。特定の実施形態において、幹細胞は、CD34を発現しない(CD34である)。特定の実施形態において、幹細胞はその外膜上に骨髄前駆細胞抗原CD34を提示させる。特定の実施形態において、CD34細胞は臍帯血からのものである。本明細書で使用されるように、用語「CD34細胞」とは、起源に関わらず、CD34陽性として特徴付けられる造血幹細胞を指す。特定の実施形態において、CD34細胞は、骨髄、血液に動員された骨髄細胞、又は臍帯血から得られる。
【0115】
CD34は、例えば骨髄移植における使用のために、ヒト造血幹細胞及び前駆細胞を同定及び単離するために使用される。本明細書に記載の組成物は、外因性ミトコンドリアが富化されたCD34幹細胞及び前駆細胞を含む。生着すると、ミトコンドリア富化CD34幹細胞及び前駆細胞は、増殖して新しいコロニーを形成し、幹細胞及び前駆細胞から分化する健康な造血細胞で対象の骨髄を再増殖させることができる。
【0116】
特定の実施形態において、造血幹細胞を含む幹細胞は、疾患又は障害を患っている対象の末梢血から得られる。特定の実施形態において、幹細胞は、健康ドナーの末梢血から得られる。本明細書で使用される用語「末梢血」とは、血液系を循環する血液を指す。
【0117】
本明細書で使用されるように、用語「自己由来細胞」又は「自己由来である細胞」とは、対象自身の細胞であることを指す。用語「自己由来ミトコンドリア」とは、対象自身の細胞又は母系関連細胞から得られたミトコンドリアを指す。用語「同種異系細胞」又は「同種異系ミトコンドリア」とは、異なるドナー個体からの細胞又はミトコンドリアを指す。
【0118】
本組成物で使用される幹細胞は、健康ドナー又は任意の病期のMDSの疾患を有する患者から得られたCD34細胞又はCD34細胞のサブセットである。
【0119】
いくつかの態様において、MDSの疾患又は障害は、単一系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-SLD)、多系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDS-MLD)、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS)、単独del(5q)を伴う骨髄異形成症候群、芽球増加を伴う骨髄異形成症候群(MDS-EB)、分類不能型骨髄異形成症候群(MDS-U)、及び急性骨髄性白血病(AML)からなる群から選択される。
【0120】
骨髄異形成症候群を有する対象は、最初に兆候及び症状が現れない可能性がある。時間が経つと、骨髄異形成症候群は、様々な非特異的症状を引き起こし得る。1つの態様において、MDSの症状は、息切れ、衰弱、疲労、蒼白、貧血、血小板減少症、白血球減少症、皮下出血、出血、点状出血、無効造血、血液血球減少症、クローン不安定性、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0121】
本明細書に記載の組成物は、対象の診療履歴に関わらず、MDSを有する対象から得られた幹細胞を含む。幹細胞は、以前にMDSの治療を受けたがこれ以上治療を受けていない患者、MDSの症状の治療を現在受けている患者、又はまだ治療を受けたことのない患者からのものであり得る。
【0122】
1つの態様において、対象は、MDS治療で治療されるか又は治療されている。
【0123】
現在治療を受けている対象について、本組成物は、1つ又は複数のMDS治療と組み合わせて投与できる。「併用療法」、「と組み合わせて」等の表現は、応答を増加するために1つより多くの医薬品又は治療を同時に使用することを指す。本発明の組成物は、例えば、がんの治療に使用される他の薬物又は治療と組み合わせて使用されてもよい。具体的には、本発明の組成物は、任意の抗MDS療法と組み合わせて投与できる。かかる療法は、本発明の組成物の投与前、それと同時に、又は投与後に施してもよい。
【0124】
低リスクMDS(LR-MDS)における治療は、主に血球減少症及び生活の質(QoL)の改善に注目する。現在のアプローチによる早期介入は、LR-MDSにおいて死亡率の改善もクローン進化の減少への影響も示していない。高リスクMDS(HR-MDS)における治療の目標は、疾患進行を予防し生存率を高めることである。適格な患者について、同種異系造血細胞移植(HCT)は、唯一の治癒の可能性のある治療である。HCTの候補ではないHR-MDS患者に対する標準治療は、疾患が進行するか又は不忍容になるまでDNA低メチル化剤(HMA)を使用することである。利用可能なMDS治療は、当分野で周知であり(例えば、www.nature.com/articles/s41408-018-0085-4.pdfでのmyelodysplastic syndrome current treatment algorithm 2018を参照)、経口投与免疫調節薬レナリドミド、DNA低メチル化剤ヌクレオシド類似体(アザシチジン、デシタビン及びセダズリジン/デシタビン)、赤血球成熟剤ルスパテルセプト、及び経口低メチル化剤セダズリジン/デシタビンを含む。これらの薬剤に加えて、MDSでは赤血球造血刺激剤(ESA)エポエチン及びダルベポエチンが広く適応外使用されている。造血細胞移植(HCT)は唯一の治癒選択肢であるが、患者の大多数は、年齢及び併存症により適格ではない。他の代替的又は補助的治療としては、コエンザイムQ10とカルニチンの併用、ミトコンドリア機能の強化及びESAのIV/SC注射(レナリドミド及びルスパテルセプト等)を含む。
【0125】
いくつかの態様において、MDS治療は、低メチル化剤、赤血球造血刺激剤(ESA)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、アザシチジン、デシタビン、免疫抑制療法(IST)、ルスパテルセプト、又はそれらの組み合わせである。
【0126】
別の態様において、外因性ミトコンドリアは、ヒト細胞から単離されるか、由来するか、又は精製される。いくつかの実施形態において、外因性ミトコンドリアは、胎盤、培養物で成長した胎盤細胞、又は血液細胞から、単離されるか、由来するか、又は精製される。
【0127】
特定の実施形態において、外因性ミトコンドリアは、ヒト細胞又はヒト組織から得られる。特定の実施形態において、細胞は、胎盤、培養物で成長した胎盤細胞、又は血液細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、ミトコンドリアは、ヒト幹細胞から得られる。いくつかの実施形態において、ヒト細胞はヒト体細胞である。いくつかの実施形態において、ヒト細胞は、培養物で成長した細胞である。
【0128】
いくつかの態様において、本発明は、エクスビボで単離された健康ミトコンドリアが富化されたMDS患者に由来する幹細胞、並びにMDSの疾患、障害及びその症状の治療に該富化された細胞を使用する方法を提供する。
【0129】
1つの実施形態において、本発明は、対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害関連症状を軽減する方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0130】
1つの態様において、対象はMDSの疾患又は障害関連症状の1つ又は複数を有する。
【0131】
様々な態様において、MDSの疾患又は障害関連症状の1つ又は複数は、息切れ、衰弱、疲労、蒼白、貧血、血小板減少症、白血球減少症、皮下出血、出血、点状出血、無効造血、血液血球減少症、骨髄異形成、リンパ球減少症、クローン不安定性、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0132】
追加の実施形態において、本発明は、対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害の進行を予防する方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0133】
更なる実施形態において、本発明は、対象の骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害を治療する方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0134】
用語「治療」は本明細書で用語「治療方法」と互換的に使用され、(1)診断された病態又は障害を治癒、遅延、軽減、及び/又はその進行を停止させる治療処置又は措置、及び(2)予防/防止措置の両方を指す。治療を必要とする者は、特定の医的障害を既に有している個体及び最終的に該障害を患う可能性のある者(即ち、予防措置を必要とする者)を含み得る。
【0135】
用語「治療有効量」、「有効用量」、「治療有効用量」、又は「有効量」等は、研究者、医師又は他の臨床医が求めている組織、系統、又は人間の生物学的又は医学的応答を誘発する対象化合物の量を指す。一般に、応答は、患者の症状の改善又は所望の生物学的転帰(例えば、骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害関連症状の軽減)のいずれかである。かかる量は、骨髄異形成症候群(MDS)の疾患又は障害関連症状を軽減するのに十分でなければならない。有効量は本明細書に記載のように決定できる。
【0136】
用語「の投与」及び/又は「投与」は、治療を必要とする対象に治療有効量の医薬組成物を提供することを意味すると理解されるべきである。投与経路は、経腸、局所又は非経口であり得る。このため、投与経路としては、静脈内、腹腔内、動脈内、筋肉内、注入及び骨髄への直接注射を含むが、それらに限定されない。本明細書で使用される「非経口投与」及び「非経口的に投与される」という句は、経腸及び局所投与以外の投与の方式を意味する。医薬組成物は、投与の方法に応じて様々な単位剤形で投与され得る。好適な単位剤形としては、カプセル、注射剤、埋め込み型徐放性製剤、及び脂質複合体を含むが、それらに限定されない。別の態様において、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の投与は、静脈内、腹腔内、動脈内又は筋肉内投与による。
【0137】
1つの態様において、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞の投与することにより、疾患の進行が予防され、及び/又は生存率が向上する。
【0138】
「疾患の進行を予防する」こと及び「生存率を高める」ことは、ミトコンドリア富化幹細胞が疾患又はその症状の安定化又は改善を可能にし、それによって該疾患により生存率が低下し又は制限された対象のかかる生存率を増加させることを意味する。例えば、ミトコンドリア富化幹細胞は、赤血球(RBC)、血小板(PLT)、及び白血球(WBC)のレベルの回復、正常な又は正規化された血球数及び単核細胞分化の回復を可能にする。かかる回復は、機能的造血系統の回復の一環である。特定の実施形態において、造血機能又は細胞数の回復は、改善された細胞分化、貧血の改善、芽球の数の低減、環状鉄芽球の数の低減及び/又は輸血の必要性の低減によって特徴付けられる。
【0139】
1つの態様において、改善された細胞分化は、改善されたCD34細胞赤血球分化を含む。
【0140】
1つの実施形態において、本発明は、その必要がある対象において造血系統機能を回復させる方法であって、前記対象に外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0141】
1つの態様において、幹細胞及び/又は前駆細胞は自己由来である。
【0142】
本明細書で使用される用語「幹細胞は対象に対して自己由来である」とは、対象自身の細胞であることを指す。細胞は対象から単離され、エクスビボ修飾(例えば、健康ミトコンドリアの富化)を受ける。次に、これらのミトコンドリア富化幹細胞は、増殖され、必要に応じて選択され、対象に注入される。移植後、ミトコンドリア富化幹細胞は、末梢血中で増幅される。
【0143】
別の態様において、外因性ミトコンドリアが富化された幹細胞及び/又は前駆細胞は、骨髄に定着して新しい造血コロニーを確立する。
【0144】
別の態様において、本方法は、低メチル化剤、赤血球造血刺激剤(ESA)、赤血球成熟剤、免疫抑制療法(IST)、成長因子、免疫調節薬、ヌクレオシド類似体、輸血、骨髄移植、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されるMDS治療を対象に施す工程を更に含む。いくつかの態様において、MDS治療は、アザシチジン、デシタビン、セダズリジン、ルスパテルセプト、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、レナリドミド、エポエチン及びダルベポエチン、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0145】
1つの態様において、外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞における全ミトコンドリア含有量の少なくとも1%を構成する。
【0146】
1つの態様において、少なくとも5×10~5×10個のミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞は対象に投与される。
【0147】
以下に提示されるのは考察される用途のために意図された幹細胞及び前駆細胞におけるミトコンドリア富化を考察する例である。以下の例は、本発明の実施形態を更に例示するために提供されるが、本発明の範囲を限定する意図がない。それらは使用され得る典型的なものであるが、当業者に知られている他の手順、方法論、又は技術は代替的に使用され得る。
【実施例
【0148】
実施例1
MDS造血幹細胞/前駆細胞におけるミトコンドリア富化のインビトロ効果
MDSは、HSPC分化が最終分化前に阻害される障害である。MDSにおける無効造血は、アポトーシスに対するクローン骨髄前駆細胞の感受性の増加によって生じる。これは環状鉄芽球における鉄の保持によるミトコンドリア分極等の内因子によってトリガされ得る。患者細胞は、mtDNA変異を有し、O消費率がより低い。前臨床マウスpolgモデル(ミトコンドリア変異/欠失を蓄積する)は、HSCのミトコンドリア機能不全がMDS表現型の原因であり、細胞固有のものであることを示す。
【0149】
インビトロでミトコンドリア富化の効果を評価するために、MDS造血幹細胞/前駆細胞の増殖、分化能及び生存率をインビトロで測定するとともに、富化された細胞のミトコンドリア機能を評価した。前臨床証拠は、MATがHSPCのB細胞系統への分化及び増殖を促進することを示唆した。よって、図1に示す試験設計に従って、MATによってMDS患者からのHSPCが赤血球系及び/又は血小板系に分化して血球減少症を緩和することが可能であるか否かを評価した。CD34+細胞を血液から採取しミトコンドリアで増強した。
【0150】
CD34細胞を早期又は後期のMDSを有するMDS患者の骨髄単核細胞(BM MNC)から単離した。
【0151】
富化プロセス
CD34細胞(1M細胞/mL)を、胎盤又は他の供給源から単離されたミトコンドリアあり又はなしで処理した。ミトコンドリアは、1M細胞当たり0.88、4.4、17.6、35mUのCS活性の濃度であった。
【0152】
(表1)サンプル評価の例
【0153】
CD34細胞を、赤血球系を誘導する赤血球増殖サプリメント(StemSpan(商標)Erythroid Expansion Supplement)又は巨核球+血小板系を誘導する巨核球サプリメント(StemSpan Megakaryocyte Expansion Supplement)を含む液体培養培地(StemSpan SFEM II培地)でインビトロインキュベートした。培地を3日ごとに交換した。
【0154】
フローサイトメトリー分析を、約14日間の培養中、液体培養物で3日ごとに行った。フローサイトメトリー分析は、CD34マーカーを使用して造血幹細胞及び前駆細胞を数えるために行われた。骨髄前駆細胞を数えるために巨核球マーカーのCD41a血小板及びCD42bを使用した。赤血球前駆細胞を数えるためにグリコフォリンA(APC)及びCD71(赤血球前駆細胞)マーカーを使用した。
【0155】
加えて、CFU形成を評価するためにCD34細胞は、CFU-GM、CFU-GEMM、BFU-E、CFU-Eコロニーへの分化を誘導する半固形寒天培養培地(CFUアッセイ用のMethoCult培地)でインビトロインキュベートされる。コロニーを14+/-2日間後に同定及び定量化した。
【0156】
MDSからの骨髄細胞を4.4mU CS Hela-GFPミトコンドリアで増強したか(図2、右パネル)又は処理しなかった(図2、左パネル)(未処理細胞はミトコンドリア添加なしの増強プロセスを受けた細胞である)。フロー分析を使用して増強百分率を評価した。低リスク及び中リスクMDS由来細胞(上の2段)は、増強後にCD34精製を受け、続いて赤血球系分化サプリメントにさらされた。NT群及び増強群を、それぞれ、合計20,000個の細胞で14日間培養した。高リスクMDS患者の細胞は、細胞数が低いためCD34精製を受けておらず、赤血球分化サプリメントに直接14日間さらされた(それぞれ100,000細胞)。培地を3日ごとに補充し、ヌクレオカウンターを使用して培養終了時に細胞を計数し、CD71/CD235表面マーカー発現を検証した。
【0157】
図2に示すように、MATはMDS-HSC由来骨髄サンプルの赤血球分化能力に好影響を与えた。
【0158】
図3Aと3B及び表2と3に示すように、MATは、MDS-CD34赤血球分化を改善し、GFP-mitoによるMDS患者由来細胞の増強後に観察されたより高い赤血球系への分化レベルを示した(n=3)。
【0159】
(表2)
【0160】
(表3)
【0161】
実施例2
MDS造血幹細胞/前駆細胞におけるミトコンドリア富化のインビボ効果
ミトコンドリア富化の影響をインビボで評価するために、MDSの遺伝子操作されたモデルが使用される。
【0162】
MDSの遺伝子操作されたマウスモデルは、Tet2及び/又はAsxl1の条件付き欠失、及びSf3b1(SF3B1K700E及びK666N変異)、Srsf2(SRSF2P95H)、又はZrsr2(Zrsr2 floxedマウス)におけるMDS関連変異の条件付き発現を有するマウスを含む。特に、Sf3b1及びSrsf2変異マウスは、ヒトMDSの重要な側面を模倣する、高浸透性のリンパ球減少症、大赤血球症、及び造血幹細胞(HSC)再構成能力の低下を有する。Sf3b1モデルでは、BM環状鉄芽球を伴うヒトMDSの殆どと関連する遺伝子であるスプライソソーム遺伝子に変異がある。しかし、該マウスモデルは、環状鉄芽球を再現しない。それは進行性貧血と関連する。
【0163】
使用される追加のマウスモデルは、NUP98-HOXD13(NHD13としても知られる)を含む。NHD13は、末梢血血球減少症、骨髄異形成、及びアポトーシスと、急性白血病への転換とを含むMDSの全ての重要な特徴を忠実に備え、巨核球の分化を阻害し、骨髄のアポトーシスを増加させる。NUP98-HOXD13トランスジェニックマウスで発症するMDSは、14ヶ月以内に一律に致命的になる。
【0164】
別のマウスモデルは、増強された患者由来MDS細胞を有するNSGヒト化マウスを含む。
【0165】
ミトコンドリアは、Mx1-cre、C57、WSP、W8、CAST又はNZBから選択される系統の野生型(WT)対照マウスの胎盤又は肝臓から単離される。ミトコンドリアは、液体窒素又は-80℃で凍結される。HSPCは、8週齢のCD45.2+ Mx1-cre Sf3b1変異体又はSrsf2P95/WT変異体マウス又はNHD13マウスから単離される。ミトコンドリアは融解され、次に細胞は、1M細胞当たり0.88、4.4、17.6、又は35mUのCS活性あり又はなしで最大24時間インキュベートされる。続いて、培地は除去され、細胞は洗浄され、生理的細胞懸濁培地中の4.5%アルブミンに再懸濁される。配列分析を使用することで、増強は、配列決定方法を使用して細胞での外因性ミトコンドリアの存在を同定することによって検証される。
【0166】
競合的骨髄移植アッセイは、CD45.1レシピエントマウスにおいて、ミトコンドリア富化あり又はなしで、CD45.2 Mx1-cre Sf3b1変異体、Srsf2P95/WT変異体又はNDH13変異体マウスからの同数の細胞と混合されたCD45.1/CD45.2二重陽性競合細胞を使用して行われる。レシピエントマウスは、末梢血中のCD45.2キメリズム及びCD45.2細胞の分化に対するミトコンドリア富化の影響を評価するために、移植後の16週間にわたって毎月採血される。具体的には、回復までの時間、及び赤血球(RBC)、血小板(PLT)、及び白血球(WBC)の最終レベルが監視される。
【0167】
加えて、移植16週間後の骨髄中の造血幹細胞及び前駆細胞のサブセットに対するミトコンドリア富化の影響は、lin細胞及びLinSCA1c-KIT(LSK)細胞のレベルを評価することによって評価される。外因性ミトコンドリアの持続性も監視される。
【0168】
長期的な自己複製に対するMATの影響を測定するために、連続競合移植は、富化又は非富化lin細胞で処理された動物からLSK又はlin細胞を単離し、上記に記載のようにナイーブ動物に移植することによって、実行される。
【0169】
上記競合的移植アッセイに加えて、BM MNCの非競合的移植も、8週齢のCD45.2 Mx1-cre Sf3b1変異体又はSrsf2P95/WT変異体又はNHD13変異体マウスから、致死的に照射したCD45.1野生型レシピエントマウスへのミトコンドリア富化あり及びなしで、行われる。次に、レシピエントマウスは、血球数及びMNC分化に対するミトコンドリア富化の影響を評価するために、毎月採血される。これらのアッセイでは、Mx1-cre Sf3b1変異体又はSrsf2P95/WT変異体又はNHD13変異体細胞は、リンパ球減少症及び大球性貧血を有する。したがって、特にこれらのパラメータに対するミトコンドリア富化の影響が評価される。
【0170】
実施例3
MDSの治療のための造血幹細胞/前駆細胞におけるミトコンドリア富化の効果
MDS患者におけるミトコンドリア富化の影響を評価するために、幹細胞及び/又は前駆細胞は、動員された末梢血から、又は直接、骨髄異形成症候群(MDS)の疾患、障害又は症状を有する対象の骨髄から、得られる。外因性ミトコンドリアは、MDSの疾患、障害又はその症状を有さないドナーから得られる。幹細胞及び/又は前駆細胞は、外因性ミトコンドリアが幹細胞及び/又は前駆細胞に進入するのを可能にする条件下で外因性ミトコンドリアと接触させられ、それによってミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を含む組成物が産生される。
【0171】
対象にはミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞が投与される。疾患進行の予防、生存率の向上、及び症状の軽減は、MDSの疾患又は障害関連症状の変化を測定することで、対照対象(例えば、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を投与されなかった対象)と比較して、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞を投与された対象において評価される。例えば、造血、血液血球減少症、クローン不安定性、リンパ球減少症、赤血球症、造血幹細胞(HSC)再構成、末梢血血球減少症、骨髄異形成、大球性貧血、アポトーシス、輸血必要性の頻度、及び急性白血病への転換、並びに血球数及びMNC分化(例えば、赤血球(RBC)、血小板(PLT)、及び白血球(WBC)の回復及び最終レベル)が監視される。対象には、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞の後続用量が投与され得る。対象は、ミトコンドリア富化幹細胞及び/又は前駆細胞投与前に化学療法を受けてもよい。
【0172】
本発明を上記実施例により説明したが、様々な修正及び変形は本発明の精神及び範囲内に包含されることが理解される。したがって、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3A
図3B
【国際調査報告】