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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】低放射率及び日射防止グレージング
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/36 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C03C17/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535333
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2022084348
(87)【国際公開番号】W WO2023110480
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215033.8
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】マヒュー, スタイン
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト, ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ボードゥアン, アンネ-クリスティーヌ
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC04
4G059AC06
4G059DA01
4G059DB02
4G059EA01
4G059EA02
4G059EA12
4G059EB04
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA14
(57)【要約】
本発明は、それぞれの機能層が誘電体被覆によって取り囲まれるように、3つのIR反射Agを含む機能層Ag1(4)、Ag2(9)、Ag3(14)と、4つの誘電体被覆D1、D2、D3、及びD4との交互に変化する構成を含む薄層の積層体が与えられた透明基材(1)を含むグレージングユニットに関し、これは、D1は、窒化ケイ素を有しておらず、且つ、薄層の積層体は、基材から始まる順序において、基材(1)と直接接触状態にある金属酸化物を含む下部層(2)と、Ag1(4)と接触状態にあるZnOを含む接触層(3)と、Ag1(4)と接触状態にあるZnOを含む接触層(5)と、C2(5)と接触状態にある亜鉛及びずすの混合酸化物ZSO1を含む第1層(6)であって、ZSO1内に挿入された窒化ケイ素SiN1(7)を含む第1層と、ZSO1(6)の上方であり且つAg2(9)と接触状態にあるZnOを含む接触層C3(8)と、Ag2(9)と接触状態にあるZnOを含む接触層C4(10)と、C4(9)と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層(11)であって、ZSO2内に挿入された窒化ケイ素SiN2(12)を含む第2層(11)と、Ag3と接触状態にあるZnOを含む接触層C5(12)と、Ag3と接触状態にあるZnOを含む接触層C6と、C6と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO3を含む第3層であって、ZSO3と接触状態にある窒化ケイ素を含む第3層と、金属酸化物又は金属窒化物を含む上部層とを含み、窒化ケイ素の層の厚さに対する亜鉛及びすずの混合酸化物を含む層の厚さの合計の比率は、D2→D3→D4へと減少している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材(1)を含むグレージングユニットであって、前記透明基材には、前記基材表面から始まって、第1機能層Ag1(4)、第2機能層Ag2(9)、及び第3機能層Ag3(14)と呼称される3つの赤外線放射反射機能層と、前記基材表面から始まって、D1、D2、D3、及びD4と呼称される4つの誘電体被覆との交互に変化する構成を含む薄層の積層体を与えられており、その結果、それぞれの機能層が誘電体被覆によって取り囲まれるようになっており、前記3つの機能層は、銀を含む、グレージングユニットにおいて、
a.D1は、窒化ケイ素を含む層を有しておらず、且つ、前記基材と直接接触状態にある金属酸化物を含む下部層BL(2)と、上部に位置する第1機能層Ag1(4)の真下であり、且つ第1機能層Ag1(4)と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C1(3)とを含み、
b.D2は、
i.下部に位置する第1機能層Ag1(4)の真上であり、且つ第1機能層Ag1(4)と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C2(5)と、
ii.C2(5)と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層(6)であって、
iii.前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層(6)内に挿入された窒化ケイ素SiN1(7)を含む第1層と、
iv.前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層(6)の上方であり、且つ前記第2機能層Ag2(9)の下方であり、且つ前記第2機能層Ag2(9)と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C3(8)と、
を含み、
c.D3は、
i.下部に位置する第2機能層Ag2(9)の真上であり、且つ前記第2機能層Ag2(9)と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C4(10)と、
ii.C4(9)と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層(11)であって、
iii.前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層(11)内に挿入された窒化ケイ素SiN2(12)を含む第2層と、
iv.上部に位置する第3機能層Ag3の真下であり、且つ第3機能層Ag3と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C5(12)と、
を含み、
d.D4は、
i.下部に位置する第3機能層Ag3の真上であり、且つ第3機能層Ag3と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C6と、
ii.C6と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第3層であって、
iii.前記亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第3層と接触状態にある窒化ケイ素を含む第3層と、
iv.金属酸化物又は金属窒化物を含む上部層と、
を含むことを特徴とし、
前記窒化ケイ素の層の厚さに対する前記亜鉛及びすずの混合酸化物を含む層の厚さの合計の比率は、D2→D3→D4へと減少しており、且つ、D1、D2、D3、及びD4の厚さの合計は、225nm以下であることを更に特徴とするグレージングユニット。
【請求項2】
前記薄層の積層体は、前記窒化ケイ素SiN1を含む第1層内に挿入された吸収材料の層ABS1及び/又は前記窒化ケイ素SiN2を含む第2層内に挿入された吸収材料の層ABS2を更に含む、請求項1に記載のグレージングユニット。
【請求項3】
前記吸収材料の層は、Ni及びCrの合金又はNi、Cr、及びWの合金を含む、請求項2に記載のグレージングユニット。
【請求項4】
前記層の積層体は、D2内の第1中間層IL1及び/又はD3内の第2中間層IL2を更に含み、
a.IL1の位置は、
i.接触層C3と前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層の間に挿入され、且つこれらの層と接触状態にある、並びに、
ii.前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層内に挿入されている、
のうちから選択されており、且つ、
b.IL2の位置は、
i.接触層C5と前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層の間に挿入され、且つこれらの層と接触状態にある、並びに、
ii.前記亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層内に挿入されている、
のうちから選択されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項5】
IL1及びIL2の材料は、酸化チタン、チタン及びジルコニウムの混合酸化物、ニッケル及びクロムの混合酸化物、及びニッケル、クロム、及びタングステンの混合酸化物のうちから選択されている、請求項4に記載のグレージングユニット。
【請求項6】
前記接触層C1~C6の材料は、アルミニウムをドーピングされた酸化亜鉛、及び純粋ZnOのうちから選択されている、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項7】
D1の厚さは、30~50nmであり、D2の厚さは、65~85nmであり、D3の厚さは、50~70nmであり、且つ、D4の厚さは、25~45nmである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項8】
D2の厚さは、D1、D3、及びD4の厚さより大きく、D3の厚さは、D1及びD4の厚さより大きい、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項9】
D4の厚さに対するD1の厚さの比率は、0.8~1.4である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項10】
Ag1、Ag2、及びAg3の厚さは、それぞれ、10~16nmである、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項11】
Ag1の厚さは、12~18nmであり、Ag2の厚さは、10~15nmであり、Ag3の厚さは、12~17nmである、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項12】
Ag3の厚さに対するAg1の厚さの比率は、0.8~1.2である、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項13】
Ag2の厚さは、Ag1及びAg3の厚さより小さい、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項14】
D1内の金属酸化物を含む下部層BLは、Zn、Sn、Ti、及びZrから選択された少なくとも1つの元素の酸化物の層である、請求項1乃至13のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項15】
前記金属酸化物を含む下部層BLは、少なくとも30nm、且つ、最大で50nmの厚さを有する、請求項1乃至14のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項16】
前記第1、第2、及び第3の窒化ケイ素を含む層は、Si、原子比Si/Nが0.6~0.9の範囲を有するSi、重量比Si/Zrが70/30~50/50の範囲を有するケイ素及びジルコニウムの混合窒化物のうちから選択されている、請求項1乃至15のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項17】
前記第1、第2、及び第3の窒化ケイ素を含む層の厚さは、少なくとも15nm、且つ、最大で40nmである、請求項1乃至16のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項18】
亜鉛及びすずの混合酸化物を含む前記第1、第2、及び第3層は、亜鉛及びすずの混合酸化物を含み、すずに対する亜鉛の重量比Zn/Snは、1/9~9/1の範囲を有する、請求項1乃至17のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項19】
前記亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1、第2、及び第3層は、少なくとも10nm、且つ、最大で50nmの厚さを有する、請求項1乃至18のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【請求項20】
前記金属酸化物又は金属窒化物を含む上部層TLは、チタン及び/又はジルコニウム、或いはシリコン及びジルコニウムの混合窒化物を含む層である、請求項1乃至19のいずれか1項に記載のグレージングユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同時に低放射率及び日射防止特性を有し且つ低可視反射率(特に低日射熱取得率)を有するグレージングシステムに関する。これらのグレージングは、建物の窓に内蔵することが可能であるか、又は自動車グレージングの分野において使用することができる。
【背景技術】
【0002】
このようなグレージングシステムは、1つの赤外線放射反射材料及び少なくとも3つの誘電体被覆に基づいた少なくとも2つの機能層を含む薄層のシステムによってカバーされたガラスシートなどの透明基材から一般に形成されており、この場合に、それぞれの機能層は、誘電体被覆によって取り囲まれている。機能層は、一般に、数ナノメートルの厚さを有する銀の層である。誘電体層との関係においては、これらは、透明であり、従来、金属又は酸化ケイ素及び/又は窒化ケイ素から製造されている。これらの異なる層は、例えば、磁界支援型のカソードスパッタリング、更に一般的には、「マグネトロンスパッタリング」と呼称されるものなどの真空蒸着技法を利用して堆積されている。
【0003】
これらのグレージングシステムは、例えば、大きなグレージング表面を有する封入された空間内における過度な過熱のリスクを低減することができ、従って夏季に空調について考慮される電力負荷を低減し得る日射防止特性を有する。この場合においては、グレージングは、合計太陽光エネルギー放射の最小限の可能量の通過を許容しなければならない。即ち、それは、可能な最小日射熱取得率(SF又はg)を有していなければならない。しかしながら、それは、建物の内側において十分なレベルの照明を提供するために特定レベルの光透過率(LT)を保証することが非常に望ましい。これらの少し相対立する要件は、日射熱取得率に対する光透過率の比率によって定義される高い選択性(S)を有するグレージングユニットを得るという願望を表している。また、これらのグレージングシステムは、低放射率をも有しており、それは、高波長赤外線放射を通じた熱損失の低減を可能にしている。従って、それらは、大きなグレージング表面の断熱を改善すると共に、寒冷期におけるエネルギー損失及び暖房費用を低減している。
【0004】
これらのグレージングシステムは、一般には、二重又は三重グレージングユニット或いは場合によってはラミネートグレージングユニットなどの複数グレージングユニットとして組み立てられており、この場合に、ラミネートされたユニットを支持するガラスシートは、被覆を有する又は有していない1つ又は複数のその他のガラスシートと組み合わせられており、低放射率多層積層体は、複数グレージングユニットの場合においては、ガラスシートの間の内部空間との接触状態にあり、ラミネートグレージングユニットの場合においては、ラミネートされたユニットの中間層接着剤との接触状態にある。
【0005】
いくつかの場合においては、機械的応力に対する抵抗力を改善するために、1つ又は複数のガラスシートの熱強化などのグレージングを機械的に補強するための操作が必要となる。また、特定の用途の場合には、高温における折り曲げ操作を利用して相対的に多くの又は相対的に少ない数の複雑な曲がりをガラスシートに付与することが必要となり得る。グレージングシステムの製造及び成形のプロセスにおいては、既に処理済みの基材を被覆する代わりに、既に被覆された基材上においてこれらの熱処理操作を実施することに特定の利点が存在している。これらの操作は、相対的に高い温度において実施されており、この温度は、例えば、銀に基づいたものなどの赤外線反射材料に基づいた機能層が劣化するか又はその光学特性及び赤外線放射に関係する特性を喪失する傾向を有する温度である。これらの熱処理は、特に、例えば、処理のタイプ及びシートの厚さに応じて、約3、4、6、8、10、12、又は場合によっては15分の期間にわたって、560℃~700℃、特に約640℃~670℃などのように、空気中において560℃超の温度にガラスシートを加熱するステップを有する。折り曲げ処理の場合には、ガラスシートは、次いで、望ましい形状に折り曲げることができる。次いで、強化処理は、シートの機械的補強を得るために、空気ジェット又は冷却流体によってフラットな又は折り曲げられたガラスシートの表面を急激に冷却するステップを有する。
【0006】
従って、被覆されたガラスシートが熱処理を経験しなければならない場合においては、生成された光及び/又はエネルギー特性を喪失することなしに、しばしば、「焼き戻し可能(temperable)」という用語によって以下において呼称される熱強化及び/又は折り曲げ処理に耐えることができる被覆構造を形成するための非常に具体的な予防策を実施しなければならない。特に、誘電体被覆を形成するために使用される誘電体材料は、不都合な構造的変化を呈することなしに熱処理の高温に耐えなければならない。これらの使用に特に適する材料の例は、亜鉛-すずの混合酸化物、窒化ケイ素、及び窒化アルミニウムである。また、例えば、処理の瞬間に、遊離酸素を捕獲することによって銀の代わりに酸化の能力を有するバリア層が存在することを保証することにより、或いは、熱処理の際に銀に向かって移動する遊離酸素を阻止することにより、例えば、銀に基づいた層などの機能層が処理の最中に酸化されないことを保証することも必要である。
【0007】
また、これに加えて、これらの層組立体の形成は、可能な最も完全な中性に向かう傾向を有する需要に伴って、反射及び透過の両方において満足できる色を結果的にもたらさなければならない。問題は、比色要件を高光透過率、非常に低い放射率、熱処理に耐える能力という「基本」的条件に関連するもののすべてと同時に組み合わせることにある。
【0008】
益々考慮されることを要する別の要件は、熱処理されていない製品と熱処理済みのその他の製品が、しばしば、例えば、同一の建物ファサード内などのような同一の用途のために互いに組み合わされなければならないという事実の結果としてもたらされている。
【0009】
更には、層を形成する材料の光学特性を支配する特性については、周知である一方で、これらのグレージングユニットの製造方法には、更なる困難が存在している。堆積条件、特に堆積レートは、検討対象の材料の特性に依存している。堆積レートは、経済的に受け入れ可能な産業的生産のために十分なものでなければならない。それは、シートの全表面にわたる機能の経時的安定性、及び層内の欠陥の不存在を保証する複数の要因に依存している。
【0010】
これらの多様な要件を充足するために、いくつかの解決策が提案されている。特に、3つの銀に基づいた機能層の被覆積層体は、非常に良好な日射防止特性に到達することが示されている。しかしながら、我々がこれらの新しい需要の要件に従うことを可能にする実際に満足できるグレージングユニットを提供している解決策はない。
【0011】
国際特許出願公開第2011020974号パンフレットは、ガラス/誘電体/Ag/誘電体/Ag/誘電体/Ag/誘電体IIIというタイプの3つの銀に基づいた機能層の被覆積層体について記述しており、そこでは、それぞれの誘電体は、窒化ケイ素層を含んでおり、これによれば、我々は、これが記述している被覆積層体が熱処理されることが可能であり、それらが熱処理の後にそれらの光学特性のわずかな変動のみを示すことを理解することができる。窒化ケイ素層は、有益である一方で、第1窒化物層をスキップすることは、被覆領域の数を低減するための機会である。その理由は、窒化物は、被覆の耐久性を損なうことなしに、酸化物とは別個に堆積されなければならないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、光学及びエネルギー特性の観点において有効であり、特に低レベルの反射率を有し、且つ後から強化又は折り曲げタイプの熱処理に晒されるかどうかとは無関係にこれらの性能レベルを保持する薄い低放射率及び日射防止層の新しいタイプの積層体を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、以下の情報が使用されている:
a.光透過率(LT)は、光源D65/2°において、グレージングによって透過される入射光束の百分率である。
b.光反射率(LR)は、光源D65/2°において、グレージングによって反射される入射光束の百分率である。これは、層側(LRc)又は基材側(LRg)から単一グレージング上において計測することができる。それは、建物又は車両の外部側(LRext)において或いは建物又は車両の内部側(LRint)において、特に複数グレージングユニット又は1つのラミネートグレージング上において、計測することができる。
c.エネルギー透過率(ET)は、EN410規格に従って算出されるグレージングによって透過される入射エネルギー放射の百分率である。
d.エネルギー反射率(ER)は、規格EN410に従って算出されるグレージングによって反射される入射エネルギー放射の百分率である。それは、建物又は車両の外側(ERext)或いは建物又は車両の内側(ERint)において計測することができる。
e.日射熱取得率(SF又はg)は、一方においては、グレージングによって直接的に透過され、且つ、これによって吸収され、次いで、グレージングとの関係においてエネルギー源に向かって反対方向において放射される入射エネルギー放射の百分率である。これは、ここでは、規格EN410に従って算出されている。
f.U値(係数k)及び放射率(ε)は、規格EN673及びISO10292に従って算出されている。
g.CIELAB1976値(L)は、色合いを定義するために使用されている。これらは、光源D65/10°によって計測されている。
h.ΔE=[(L+(a+(b*2)]1/2は、熱処理の際の色合いの変動、即ち、熱処理の前と後の間の色の差を表している。
i.Ω/平方(Ω/□)において表現される抵抗/平方(R2)(「シート抵抗」)は、薄膜の電気抵抗を計測している。
【0014】
値が「a~bの範囲において」と呼称されている際には、それらは、a又はbに等しいものであってよい。
【0015】
複数グレージング構造内の層の積層体の位置決めは、グレージングユニットの面の従来通りの連続的な付番法に従って付与されており、面1は、建物又は車両の外部上にあり、面4(二重グレージングユニットの場合)又は面6(三重グレージングユニットの場合)は、内部上にある。
【0016】
本明細書において窒化ケイ素又は酸化ケイ素層に言及した際には、層は、マグネトロンスパッタリングによる被覆の技術分野において周知のように、わずかな量のアルミニウムをも含み得ることを理解されたい。このようなアルミニウムは、一般には最大で10重量%の量においてドーピング剤として含まれている。
【0017】
わかりやすさを目的として、本明細書において「下方(下)」、「上方(上)」、「下部」、「上部」、「最初」、又は「最後」のような用語を使用した際には、これは、常に、下方のガラスから始まり、このガラスから遠く離れるように、上向きに進行する層の順序の文脈におけるものである。このような順序は、直接的な接触が規定されている際を除いて、定義されている層の間に更なる中間層を含むことができる。
【0018】
本発明は、請求項1によるグレージングに関し、従属請求項は、好適な実施形態を表している。
【0019】
本発明は、それぞれの機能層が誘電体被覆によって取り囲まれるように、3つの赤外線放射反射機能層と4つの誘電体被覆の交互に変化する構成を含む薄層の積層体を与えられた透明基材を含むグレージングユニットに関する。実際に、本発明は、基材表面から始まって、第1機能層Ag1、第2機能層Ag2、及び第3機能層Ag3と呼称される3つの機能性の銀に基づいた金属層と、基材表面から始まってD1、D2、D3、及びD4と呼称される4つの誘電体被覆とを含む被覆積層体にのみ関し、これは、
a.D1は、窒化ケイ素を含む層を有しておらず、且つ、基材と直接接触状態にある金属酸化物を含む下部層と、上部に位置する第1機能層Ag1の真下であり、且つ第1機能層Ag1と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C1(3)とを含み、
b.D2は、
1.下部に位置する第1機能層Ag1の真上であり、且つ第1機能層Ag1と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C2と、
2.C2と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1層であって、
3.亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1層内に挿入された窒化ケイ素を含む第1層と、
4.亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1層の上方であり、且つ第2機能層Ag2の下方であり、且つ前記第2機能層Ag2と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C3と、
を含み、
c.D3は、
1.下部に位置する第2機能層Ag2の真上であり、且つ前記第2機能層Ag2と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C4と、
2.C4と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第2層であって、
3.亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第2層内に挿入された窒化ケイ素を含む第2層と、
4.上部に位置する第3機能層Ag3の真下であり、且つ第3機能層Ag3と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C5と、
を含み、
d.D4は、
1.下部に位置する第3機能層Ag3の真上であり、且つ第3機能層Ag3と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C6と、
2.C6と接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第3層であって、
3.前記亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第3層と接触状態にある窒化ケイ素を含む第3層と、
4.金属酸化物又は金属窒化物を含む上部層と、
を含むことを特徴とし、
窒化ケイ素の層の厚さに対する亜鉛及びすずの混合酸化物を含む層の厚さの合計の比率は、D2→D3→D4と減少しており、且つ、D1、D2、D3、及びD4の厚さの合計は、225nm以下であることを更なる特徴とする。
【0020】
第1の窒化ケイ素を含む層SiN1は、亜鉛及びすずの混合酸化物層を含む第1層ZSO1内に挿入されており、これは、ZSO1が2つ部分において分離されていることを意味している。ZSO1の一部分は、SiN1の下方であり、且つこれとの接触状態にあり、ZSO1の別の部分は、SiN1の上方であり、且つこれとの接触状態にある。換言すれば、第1の窒化ケイ素を含む層は、亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1層の2つのサブ層、即ち、下部サブ層ZSO1a及び上部サブ層ZSO1b、の間に位置している。
【0021】
第2の窒化ケイ素を含む層SiN2は、亜鉛及びすずの混合酸化物層を含む第2層ZSO2内に挿入されており、これは、ZSO2が2つの部分において分離されていることを意味している。ZSO2の一部分は、SiN2の下方であり、且つこれとの接触状態にあり、ZSO2の別の部分は、SiN2の上方であり、且つこれとの接触状態にある。換言すれば、第2の窒化ケイ素を含む層は、亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第2層の2つのサブ層、即ち、下部サブ層ZSO2a及び上部サブ層ZSO2b、の間に位置している
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態による薄層の積層体が与えられた透明基材の概略図を示す。
【0023】
図2】本発明の一実施形態による薄層の積層体が与えられた透明基材の別の概略図を示す。
【0024】
図3】本発明の一実施形態による薄層の積層体が与えられた透明基材の概略図を示す。
【0025】
図4】選択された薄膜材料の屈折率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
被覆積層体の層の特定の選択のため、特に、D2→D3→D4へと減少する窒化ケイ素の層の厚さに対する亜鉛及びすずの混合酸化物を含む層の厚さの合計の比率のため、6mmの通常のソーダライムガラスの基材上において以下のいずれかを示す層積層体が得られる:
a.単一ガラスペイン上において計測される、独立して5%~15%、好ましくは7%~10%である、LRc及びLRgに伴うLRc及びLRgの両方における低い可視光反射率、
b.焼き戻しの前のLT/SF≧1.99又は焼き戻しの後のLT/SF≧1.92という高い選択性(日射熱取得率SFに対する可視光透過率LTの比率)、
c.単一ガラスペイン上において計測される、62%≧LT≧70%、好ましくは65%≧LT≧68%である可視光の透過率。代替実施形態においては、単一ガラスペイン上において計測される、52%≧LT≧60%、好ましくは55%≧LT≧58%、
d.80≦L≦90、-12≦a≦-2、-2≦b≦8、好ましくは84≦L≦86、-8≦a≦-6、2≦b≦4、という透過における色値L、a、b
e.30≦L≦42、-7≦a≦3、-18≦b≦-8、好ましくは36≦L≦38、-3≦a≦-1、-14≦b≦-12、というガラス側(被覆側の反対側)における反射における色値L、a、b
f.熱損失を制限するための低放射率(ε≦0.038、好ましくはε≦0.025)、
g.日照の結果として過度な過熱のリスクの低減を可能にするためのSF<35%、好ましくはSF≦33%を有する低い日射熱取得率SF、
h.被覆が高温に対する抵抗力を有する熱処理される可能性、或いは、熱処理を伴うことなしに使用される可能性、
i.欠陥を有していない美的外観、この場合に、熱処理を伴うことなしに又はその後に、ヘイズが極めて制限されているか又は場合によってはまったく存在しておらず、且つ、熱処理の後に受け入れ不能なスポットが存在していない、
j.熱処理済みの又は並んだ状態ではない製品の使用を許容(「自己マッチング可能性」)する実質的に不変の状態における光学及びエネルギー特性の保持。単一グレージング構成において計測される透過及び反射において色がまったく又はほとんど変化しない(ΔE≦8であり、好ましくは≦5であり、更に好ましくは≦2である)且つ/又は光透過及び反射及びエネルギー値がまったく又はほとんど変化しない(Δ=|(熱処理の前の値)-(熱処理の後の値)|≦7、好ましくは≦6)、
k.熱処理を伴わない使用のための又は熱処理の前の時間インターバルのための十分な化学的安定性、並びに、特に、1日後、好ましくは3日後の裸眼において可視状態の任意の欠陥又は任意の脱色を付与しない規格EN1036-2012による気候チャンバ試験及び塩水噴霧試験の結果。
【0027】
従って、グレージングユニットは、以下の利点のいずれかを提供することができる(別の標準的な4mmの厚さのクリアソーダライムフロートガラスシートを有する二重グレージングユニット内に内蔵された標準的な6mmの厚さのクリアソーダライムフロートガラスシート上の被覆であって、15mmのガラスシートの間の空間は、アルゴンによって90%に充填され、層の積層体は、位置2にある):
a.日照の結果としての過度の過熱のリスクの低減を可能にするためのSF<30%、好ましくはSF≦28%である低い日射熱取得率SF、
b.二重レージングユニットにおいて、値U≦1.1W/(mK)、好ましくはU≦1.0W/(mK)に到達することを可能にする絶縁特性、
c.単一グレージングにおける好適な値を伴って、単一グレージングにおけるか又は複数グレージングにおけるかとは無関係の透過及び反射における色合いの中性、
1.透過において、76≦L≦86、12≦a≦-2、-2≦b≦8であり、好ましくは80≦L≦82、-8≦a≦-6、2≦b≦4であり、
2.被覆された基材の基材側の反射において、38≦L≦48、-8≦a≦2、-15≦b≦-5であり、好ましくは、42≦L≦44、-4≦a≦-2、-11≦b≦-9である。
【0028】
本発明者らは、その他のものに加えて、特に熱処理された又はいまだ熱処理されてはいない製品の化学的安定性を保証するために、基材と直接接触状態にある金属酸化物を含む下部層を含む(且つ、多くの既知の被覆積層体におけるように、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素などの窒化物を含まない)ことのみが有益であるわけではないことを見出した。
【0029】
実施形態の説明
図1は、透明基材(1)と、基材(1)との直接接触状態にある金属酸化物を含む下部層(2)と、上部に位置する第1機能層Ag1(4)の真下であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C1(3)と、下部に位置する第1機能層Ag1(4)の真上であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C2(5)と、亜鉛の混合酸化物ZSO1を含み且つC2(5)の上方であり且つこれと接触状態にある第1層(6)であって、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層(6)内に挿入された窒化ケイ素SiN1(7)を含む第1層と、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層(6)の真下であり且つこれと且つ上部に位置する第2機能層Ag2(9)と接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C3(8)と、下部に位置する第2機能層Ag2(9)の真上であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C4(10)と、C4(10)の上方であり且つこれと接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層(11)であって、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層(11)内に挿入された窒化ケイ素SiN2(12)を含む第2層と、上部に位置する第3機能層Ag3(14)の真下であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C5(13)と、下部に位置する第3機能層Ag3(14)の真上であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C6(15)と、C6(15)の上方であり且つこれと接触状態にある亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO3を含む第3層(16)であって、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO3を含む第3層(16)の上方であり且つこれと接触状態にある窒化ケイ素SiN3(17)を含む第3層と、窒化ケイ素SiN3(17)を含む第3層の上方であり且つこれと接触状態にある金属酸化物又は金属窒化物を含む上部層TL(18)とを示している。
【0030】
図2は、図1に描かれている層に加えて、それぞれ、層SiN1(7)及び層SiN2(12)に挿入された吸収材料の任意選択の層ABS1(18)及びABS2(19)を示している。
【0031】
図3は、図1に描かれている層に加えて、任意選択の中間層IL1(20)及びIL2(21)を示しており、IL1(20)は、SiN(7)の上方においてこれと接触状態にはない状態において、ZSO1(6)内に挿入された状態において示されている。IL2(21)は、ZSO2(11)の上方においてこれと接触状態において示されている。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、機能層Ag1、Ag2、Ag3の1つ、2つ、又は3つは、銀を含むか又はこれから本質的に構成されている。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、機能層Ag1、Ag2、Ag3の1つ、2つ、又は3つは、パラジウムによってドーピングされた銀を含むか又はこれから本質的に構成されている。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、透明基材は、ガラスから製造されている。ガラスマトリックス組成は、特に制限されてはおらず、従って、異なるガラスカテゴリに属し得る。ガラスは、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルカリフリーガラス、ボロシリケートガラス、などであってよい。好ましくは、本発明のガラスシートは、ソーダライムガラス又はボロシリケートガラスから製造されている。
【0035】
以前の実施形態と組合せ可能である本発明の有利な一実施形態によれば、ガラスシートは、0.002~0.06重量%の範囲の(Feに関して表現された)合計鉄含有量を含む組成を有する。0.06重量%以下の(Feの形で表現された)合計鉄含有量は、可視着色をほとんど有していないガラスシートを得ることを可能にしている。好ましくは、組成は、0.002~0.04重量%の範囲の(Feの形で表現された)合計鉄含有量を有する。更に好ましくは、組成は、0.002~0.02重量%の範囲の(Feの形で表現された)合計鉄含有量を有する。最も好ましい実施形態において、組成は、0.002~0.015重量%の範囲の(Feの形で表現された)合計鉄含有量を有する。
【0036】
好適な一実施形態によれば、本発明の透明基材は、フロートガラスシートである。本発明による、例えば、ガラスシートなどの透明基材は、0.1~25mmの厚さを有することができる。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、本発明の薄層の積層体は、窒化ケイ素を含む第1及び/又は第2層内に挿入され得る日射を吸収する吸収材料の層を含む。特に、吸収材料の層ABS1は、窒化ケイ素SiN1を含む第1層内に挿入されていてもよく、且つ/又は、吸収材料の層ABS2は、窒化ケイ素SiN2を含む第2層内に挿入されていてもよく、これは、個々の窒化ケイ素を含む層の下部部分が吸収材料の個々の層の下方であり且つこれと接触状態にあり、且つ、個々の窒化ケイ素を含む層の上部部分が吸収材料の個々の層の上方であり且つこれと接触状態にあることを意味している。換言すれば、吸収材料の層ABS1は、第1の窒化ケイ素を含む層SiN1の2つのサブ層、即ち、下部サブ層SiN1a及び上部サブ層SiN1bの間にあり、且つこれらと接触状態にある。同様に、吸収材料の層ABS2も、第2の窒化ケイ素を含む層の2つのサブ層、即ち、下部サブ層SiN2a及び上部サブ層SiN2bの間にあり、且つこれと接触状態にある。
【0038】
吸収材料の層は、層積層体の可視光透過率の引き下げを支援している。窒化ケイ素層の間に吸収層を挿入することは、これらが後続の層の堆積の際に且つ焼き戻しの際に酸化されることを防止している。有利には、窒化ケイ素SiN1を含む第1層内に挿入された吸収材料の層ABS1は、窒化ケイ素SiN2を含む第2層内に挿入された吸収材料ABS2の類似の層よりも建物の内側における相対的に低い反射率値をもたらしている。これは、15mmのガラスシートの間の空間がアルゴンによって90%まで充填され、層の積層体が位置2にある、別の標準的な4mmの厚さのクリアソーダライムフロートガラスシートを有する二重グレージングユニット上において評価されている。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、吸収材料の層は、特に、Ni及びCrの合金又はNi、Cr、及びWの合金を含んでいてもよく又はこれから構成されていてもよい。
【0040】
吸収材料は、Ni、Cr、及びWの合金から構成されていてもよく、吸収材料は、30重量%~90重量%、好ましくは40重量%~70重量%、有利には、45重量%~65重量%のタングステン、100/0~50/50、好ましくは80/20のニッケル/クロム重量比におけるニッケル及びクロムを含むことができる。
【0041】
吸収材料は、99/1~50/50、好ましくは80/20のNi/Cr重量比におけるNi及びCrの合金から構成することができる。
【0042】
吸収材料を含む層ABS1及びABS2は、少なくとも0.3nmの組み合わせられた幾何学的厚さを有することができる。特に、ABS1及びABS2の組み合わせられた幾何学的厚さは、最大で3nmであってよい。
【0043】
好ましくは、吸収材料の層は、窒化ケイ素を含む第1層内にのみ挿入されている。これは、層が窒化ケイ素を含む第2層内に挿入されている場合よりも低い可視光反射率値をもたらしている。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、D2及び/又はD3は、薄層の積層体の化学的且つ/又は機械的抵抗を増大させるために、D2及びD3の個々の窒化ケイ素を含む層SiN1及びSiN2の上方であり且つこれと接触状態にはない中間層を含むことができる。中間層材料は、亜鉛及びすずを含まない金属酸化物又は混合金属酸化物を含む。
a.D2において、第1中間層IL1は、以下のいずれであってよい:
1.接触層C3と亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層の間に挿入され且つこれらと接触状態にある、或いは、
2.亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層内に挿入されている。これは、サブ層ZSO1bが2つの部分において分離されていることを意味している。ZSO1bの一部分は、IL1の下方であり且つこれと接触状態にあり、且つ、ZSO1bの別の部分は、IL1の上方であり且つこれと接触状態にある。換言すれば、IL1は、ZSO1bの2つのサブ層、即ち、下部サブ層ZSO1ba及び上部サブ層ZSO1bb、の間にある。
b.D3において、第2中間層IL2は、以下のいずれであってよい:
1.接触層C5と亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層の間に挿入されており且つこれらと接触状態にある、或いは、
2.亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層内に挿入されている。これは、サブ層ZSO2bが2つの部分において分離されていることを意味している。ZSO2bの一部分は、IL2の下方であり且つこれとの接触状態にあり、且つ、ZSO2bの別の部分は、IL2の上方であり且つこれとの接触状態にある。換言すれば、IL2は、ZSO2bの2つのサブ層、即ち、下部サブ層ZSO2ba及び上部サブ層ZSO2bb、の間にある。
【0045】
本発明者らは、これらの中間層が層積層体の化学的且つ/又は機械的耐久性を更に増大させ得ることを見出した。
【0046】
任意の中間層の材料は、特に、酸化チタン、チタン及びジルコニウムの混合酸化物、ニッケル及びクロムの混合酸化物、又はニッケル、クロム、及びタングステンの混合酸化物を含むことができる。
【0047】
任意の中間層の材料は、特に、55/45~75/25、好ましくは60/40~70/30の重量比のTiO2/ZrO2を有するチタン及びジルコニウムの混合酸化物を含むことができる。
【0048】
中間層IL1及びIL2は、それぞれ、1~5nm、好ましくは1~3nmの幾何学的厚さを有することができる。
【0049】
本発明は、請求項において記述されている特徴のすべての可能な組合せに関することに留意されたい。
【0050】
本発明の層の積層体の個々の層は、好ましくは、マグネトロンスパッタリングによって堆積されている。金属又は金属合金層は、通常、金属又は金属合金スパッタリングターゲットから不活性ガス雰囲気中において堆積されている。酸化物層は、一般に、通常は、例えば、アルゴン又はクリプトンなどの不活性ガスと混合された酸素を含む雰囲気中の金属、金属合金、又はケイ素ターゲットから堆積されている。或いは、この代わりに、酸化物層は、恐らくは酸素を含む不活性ガス雰囲気中のセラミック酸化物ターゲットから堆積させることもできる。窒化物層は、一般に、通常は、例えば、アルゴン又はクリプトンなどの不活性ガスと混合された雰囲気を含む窒素中の金属、金属合金、又はケイ素スパッタリングターゲットから堆積されている。
【0051】
本発明の層の積層体内の機能層の下部に位置する又は上部に位置する酸化亜鉛を含む接触層C1~C6の材料は、以下のいずれかのうちから独立して選択することができる:
a.少なくとも95/5、好ましくは少なくとも98/2のZn/Alの重量比でアルミニウムをドーピングされた酸化亜鉛、
b.純粋ZnO(iZnOと表記される)、
c.最大で10重量%、或いは、この代わりに最大で5重量%、好ましくは約2重量%の割合でアルミニウムをドーピングされた酸化亜鉛(AZOと表記される)。
【0052】
これらのタイプの接触層は、熱処理の際に、光エネルギー的特性、特に色及び透過率、の変化を低減するという利点を有する。特に、金属に基づいた接触層は、熱処理の際に相対的に高い程度の光エネルギー的特性の変化を示し、また、上部に位置する酸化物及び窒化物層の堆積の慎重な制御を必要としている。その理由は、これらが任意の下部に位置する金属層の酸化/窒化の異なる程度をもたらすからである。これらの酸化亜鉛に基づいた接触層は、更には、上部に位置する機能層の相対的に制御された成長をもたらし、これにより、望ましい程度の放射率に到達するのに必要とされる機能層の厚さを引き下げている。
【0053】
接触層は、酸素を含む雰囲気中において任意選択によってアルミニウムをドーピングされたケイ素の金属ターゲットからのスパッタリングにより、得ることができる。或いは、この代わりに、接触層は、非酸化雰囲気中においてアルミニウムをドーピングされた酸化亜鉛のセラミックターゲットをスパッタリングすることにより、得ることもできる。これは、銀層上において接触層を堆積させる際に好ましい。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、酸化亜鉛を含む接触層の厚さは、好ましくは、最大で10nm、更に好ましくは最大で8nm、場合によっては更に好ましくは最大で6nmである。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、酸化亜鉛を含む接触層の厚さは、好ましくは、少なくとも2nm、更に好ましくは少なくとも3nmである。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、D1、D2、D3、及びD4の厚さの合計は、220nm以下、好ましくは215nm以下、更に好ましくは212nm以下である。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、D1、D2、D3、及びD4の厚さの合計は、少なくとも150nm、好ましくは少なくとも170nm、更に好ましくは少なくとも180nmである。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、D1の厚さは、30~50nmである。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、D2の厚さは、65~85nm、好ましくは70~80nmである。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、D3の厚さは、50~70nm、好ましくは55~65nmである。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、D4の厚さは、25~45nm、好ましくは30~40nm、更に好ましくは32~40nmである。
【0062】
好ましくは、D2の厚さは、D1、D3、及びD4の厚さより大きい。
【0063】
好ましくは、D3の厚さは、D1及びD4の厚さより大きい。
【0064】
好ましくは、D4の厚さに対するD1の厚さの比率は、0.8~1.4である。
【0065】
本発明の一実施形態によれば
【0066】
本発明の一実施形態によれば、Ag1、Ag2、及びAg3の厚さは、それぞれ、10~16nmである。
【0067】
本発明の有利な一実施形態によれば、Ag1の厚さは、12~18nm、更に有利には13~14nmである。
【0068】
本発明の有利な一実施形態によれば、Ag2の厚さは、10~17nmである。Ag2の厚さは、12~17nm、12~16nm、又は14~16nm、或いは、この代わりに、10~15nm、更に有利には11~13nmである。
【0069】
本発明の有利な一実施形態によれば、Ag3の厚さは、11~18nm、有利には12~17nm、更に有利には13~15.5nmである。
【0070】
有利には、Ag3の厚さに対するAg1の厚さの比率は、0.8~1.2である。
【0071】
有利には、Ag2の厚さは、Ag1及びAg3の厚さより小さい。
【0072】
D1は、基材との直接接触状態にある金属酸化物を含む下部層BLと、上部に位置する機能層の真下であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C1とを含む。有利には、下部層BLは、酸化亜鉛を含む接触層C1と直接接触状態にある。
【0073】
本発明の有利な一実施形態においては、D1内の金属酸化物を含む下部層BLは、Zn、Sn、Ti、及びZrから選択された少なくとも1つの元素の酸化物の層である。
【0074】
本発明の好適な一実施形態において、BLは、好ましくは、亜鉛-すず混合酸化物の層、更に好ましくは亜鉛-すず混合酸化物の層であり、この場合に、亜鉛-すずの比率は、例えば、52~48重量%などのように、50~50重量%に近接している(ZnSnO)。亜鉛-すず混合酸化物は、例えば、SiO又はAlに匹敵する良好な堆積レートを有し、且つ/又は、例えば、純粋ZnO又は酸化ビスマスに匹敵する良好な安定性を有するという点において有利であり得る。更には、例えば、Ti又はZrの酸化物に匹敵する積層体の熱処理の後にヘイズを生成する相対的に乏しい傾向を有するという点も有利であり得る。
【0075】
本発明の有利な一実施形態において、BLは、少なくとも15nm、好ましくは少なくとも20nmの厚さを有する。これらの最小限の厚さ値は、特に、熱処理されていない製品の化学的安定性の保証のみならず、熱処理に対する抵抗力の保証をも許容している。
【0076】
本発明の好適な一実施形態によれば、BLは、少なくとも30nm、更に好ましくは少なくとも35nmの厚さを有する。更には、その厚さは、好ましくは、最大で50nm、更に好ましくは最大で40nmであってよい。
【0077】
D1の最も上部の層として、機能層Ag1の真下であり且つこれと接触状態にある酸化亜鉛を含む接触層C1は、しばしば、「核生成」又は「湿潤」層と呼称されており、これは、その上部の銀の成長を支援し且つ製品の抵抗/平方の増大を支援している。
【0078】
本発明の一実施形態において、この酸化亜鉛に基づいた層C1は、酸化亜鉛から構成されているか、或いは、その代わりに、一般的には最大で10重量%、好ましくは約2重量%の比率で、例えば、アルミニウムなどのその他の金属をドーピングされている。
【0079】
本発明の一実施形態において、C1は、最大で15nm、好ましくは1.5~10nm、更に好ましくは3~10nmの範囲内の厚さを有する。
【0080】
D1は、窒化ケイ素を有していない。
【0081】
D2、D3、及びD4において、第1、第2、及び第3の窒化ケイ素を含む層の任意のものは、必ずしも化学量論的ではなく、且つ、その他の元素を含むことができる。本発明の層積層体内の窒化ケイ素を含む層は、特に熱処理の際に、特に酸素が層積層体を通じて機能層に向かって移動することを防止することができる。
【0082】
本発明の一実施形態において、これらの窒化ケイ素を含む層は、Si、原子比Si/Nが0.6~0.9、好ましくは0.7~0.8の範囲であるSi、Si/Zrの重量比が70/30~50/50、好ましくは65/35~55/45の範囲であるケイ素及びジルコニウムの混合窒化物のうちから選択されている。
【0083】
本発明の好適な一実施形態においては、D2、D3、D4において、第1、第2、及び第3の窒化ケイ素を含む層の任意のものは、好ましくは、化学量論的Siに近接しており、即ち、これは、少なくとも0.72、且つ、最大では0.78の原子比Si/Nにおいてケイ素及び窒素を含み、好ましくは、原子比Si/Nは、少なくとも0.74であり、且つ、最大で0.76である。これは、低可視吸収率を提供し、且つ、これに加えて、化学量論から更に離れるSixNyに匹敵する熱処理の際の色変化の量を低減している。
【0084】
本発明の一実施形態によれば、窒化ケイ素を含む層の厚さは、少なくとも15nm、有利には少なくとも20nmである。このような最小限の厚さは、これらの層の有益な効果を提供するために必要であり得る。
【0085】
本発明の一実施形態によれば、窒化ケイ素を含む層の任意のものの厚さは、最大で40nm、有利には最大で35nmである。このような厚さは、特に層積層体内に存在する3つの窒化ケイ素を含む層が存在していることから、機械的且つ/又は化学的耐久性の劣化をもたらし得るこれらの層の内部応力を制限するために必要であり得る。
【0086】
本発明の一実施形態においては、D2、D3、及びD4において、亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1、第2、及び第3層の任意のものは、亜鉛及びすずの混合酸化物を含んでおり、この場合に、すずに対する亜鉛の重量比率Zn/Snは、1/9~9/1の範囲である。有利には、亜鉛-すずの比率は、例えば、52~48重量%などの50~50重量%に近接しており、且つ、例えば、ZnSnOから構成されている。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、D2、D3、及びD4において、亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第1、第2、及び第3層の任意の1つ又は複数は、少なくとも10nm、更に好ましくは少なくとも20nmの厚さを有する。その厚さは、好ましくは、最大で50nm、更に好ましくは最大で45nmである。
【0088】
本発明の好適な一実施形態によれば、D2において、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層は、少なくとも20nm、更に好ましくは少なくとも25nmの厚さを有する。更には、その厚さは、最大で55nm、好ましくは最大で50nm、或いは、この代わりに最大で45nmであってよい。
【0089】
本発明の好適な一実施形態によれば、D3において、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層は、少なくとも10nm、更に好ましくは少なくとも15nmの厚さを有する。更には、その厚さは、好ましくは最大で45nm、好ましくは最大で40nmであってよい。
【0090】
本発明の好適な一実施形態によれば、D4において、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO3を含む第3層は、少なくとも1nm、更に好ましくは少なくとも3nmの厚さを有する。更には、その厚さは、好ましくは、最大で12nm、更に好ましくは最大で10nm、場合によっては、更に好ましくは最大で8nmであってよい。
【0091】
本発明の好適な一実施形態によれば、D2において、第1窒化ケイ素層SiN1は、個々の混合酸化物層の少なくとも10nmが窒化物層の下方になるように且つ混合酸化物層の少なくとも10nmが窒化物層の上方になるように、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO1を含む第1層内に挿入されている。
【0092】
本発明の好ましい一実施形態によれば、D3において、第2窒化ケイ素層SiN2は、個々の混合酸化物層の少なくとも10nmが窒化物層の下方となるように且つ混合酸化物層の少なくとも10nmが窒化物層の上方となるように、亜鉛及びすずの混合酸化物ZSO2を含む第2層内に挿入されている。
【0093】
すず酸化亜鉛は、その高い堆積レートにおいて興味深い一方で、亜鉛すず酸化物を含む層内の窒化ケイ素を含む層の挿入は、それぞれの層又はサブ層の厚さを制限する層の交互変化を生成している。本発明者らは、これが、一方においては層の成長の際に発生する欠陥を防止するのに寄与し得ると共に/又は層が相対的に厚くなるのに伴う厚さ依存性の内部応力の蓄積を制限し得ると考えている。更には、これは、層積層体内の酸素の全体量を低減し、これにより、特に焼き戻しなどの熱処理の際の銀層の酸化のリスクを低減している。D1、D2、D3、及びD4の厚さの合計を制限することは、層積層体内の酸素の全体量を更に低減している。この層の交互変化及び誘電体厚さの制限は、全体的に相対的に丈夫な層積層体を付与している。
【0094】
更には、驚いたことに、誘電体の厚さの合計を制限することは、可視光透過率が高く維持される状態において、日射熱取得率が更に低減されることを許容し、これにより、選択性が増大することが見出された。
【0095】
可視波長範囲内の屈折率が本発明の層積層体の窒化ケイ素を含む層及び亜鉛すず酸化物層について非常に類似していることが更なる利点である。これは、薄膜材料Si(a)及びZnSnO(b)における屈折率n対波長λ[nm]を示す図4において観察することができる。従って、1つの層内の層積層体厚さの逸脱は、層積層体全体の光学的特性に悪影響を及ぼすことなしに異なる組成の隣接する層の厚さを調節することによって補償することができる。
【0096】
中間層IL1又はIL2が、亜鉛及びすずの混合酸化物を含む第2又は第3層の少なくとも1つ内に挿入された際に、亜鉛及びすずの個々の混合酸化物層の少なくとも5nmは、中間層の下方であり、混合酸化物層の少なくとも5nmは、中間層の上方である。
【0097】
本発明の一実施形態によれば、D4において、金属酸化物又は金属窒化物を含む上部層TLは、チタン及び/又はジルコニウム又はシリコン及びジルコニウムの混合窒化物を含む層である。このような層は、特に、層の積層体に対して機械的保護を与えている。
【0098】
本発明の一実施形態によれば、D4の金属酸化物又は金属窒化物上部層は、最も外側の層である層積層体の最後の層である。但し、着脱自在のプラスチックフィルム又は炭素フィルムなどの一時的な保護手段をこの最後の永久的層上において与えることができる。
【0099】
本発明の有利な一実施形態において、上部被覆は、少なくともTiO及びZrOと、任意選択によってSiOとを含んでおり、この場合に、x、y、zは、1.8~2.2の範囲であり、この場合に、上部被覆は、
a.8~49%のチタンと、
b.51~92%のジルコニウムと
c.0~9%のケイ素と、
d.合計で100%となる金属とを含んでおり、この場合に、上部被覆は、少なくとも20%、或いは、この代わりに少なくとも30%、或いは、この代わりに少なくとも40%だけ耐摩耗性を増大させることによって耐久性を改善するために、0.1~10nmの厚さを有する。
【0100】
本発明のその他の実施形態と適合する本使用のいくつかの実施形態において、上部被覆中のTi、Zr、及びSiの上述の範囲は、互いに独立的に変化し得る。Tiの量は、この代わりに10~47%、或いはこの代わりに12~46%の範囲を有し得る。Zrの量は、この代わりに、53~90%の範囲を有し得る。Siの量は、この代わりに、1~8%、或いは、この代わりに2~7%の範囲を有し得る。従って、これらの量は、合計が、上述のように、不純物を含む金属の100%である場合に、それぞれの金属ごとに独立的に変化し得る。
【0101】
本発明の有利な一実施形態において、D4の金属酸化物又は金属窒化物上部層は、例えば、65/35に近接したTiO/ZrOの重量比において、Ti及びZrから選択された少なくとも1つの元素の酸化物又は準化学量論的酸化物から、更に好ましくはチタンジルコニウム混合酸化物から、構成されている。このような層は、グレージングの特に良好な化学的且つ/又は機械的安定性を提供することができる。
【0102】
本層積層体の任意のZrを含む層内には、微量のイットリウムが存在し得る。
【0103】
本発明の別の有利な実施形態において、D4の金属酸化物又は金属窒化物上部層は、ケイ素及びジルコニウムの混合窒化物から構成されている。有利には、ケイ素及びジルコニウムの混合窒化物は、少なくとも1又は少なくとも4のSi/Zr原子比を有する。有利には、ケイ素及びジルコニウムの混合窒化物は、最大で12又は最大で6のSi/Zr原子比を有する。
【0104】
D4内の上部層は、好ましくは、少なくとも1nm、好ましくは少なくとも1.5nmの幾何学的厚さを有する。その幾何学的厚さは、最大で5nm、有利には最大で3nmである。そうではない旨が記述されていない限り、本明細書におけるすべての厚さは、幾何学的厚さである。
【実施例
【0105】
本発明の特定の実施形態を以下の例によって説明する。
【0106】
例のすべての厚さは、nmを単位として付与されている。すべての層は、真空下において磁界支援型のカソードスパッタリングを使用して堆積されたものである。表1は、単純化された例示用の層積層体を示しており、この場合に、挿入される窒化ケイ素層SiN1及びSiN2及び中間層IL1及びIL2は、表されていない。これは、熱処理が発生した際に9分30秒にわたる670℃における静的オーブン内における硬化という条件において実施した。
【0107】
【0108】
例1において、窒化ケイ素SiN1の層及びTZOの中間層IL1は、亜鉛及びすずの第1混合酸化物層ZSO1内に挿入されており、これにより、Ag1から始まり、D2内において、ZnO:Al 3-5nm/ZSO5 12-17nm/SiN 25-35nm/ZSO5 6-8nm/TZO 1-2nm/ZSO5 6-8nm/ZnO:Al 3-5nmという層順序をもたらしている。本明細書において、「/」という文字は、隣接する層又はサブ層の間の境界を表記している。
【0109】
例2において、窒化ケイ素SiN1の層及びTZOの中間層IL1は、亜鉛及びすずの第1混合酸化物層ZSO1内に挿入されている。更には、NiCrWの吸収層ABS1も、窒化ケイ素SiN1を含む第1層内に挿入されており、これにより、Ag1から始まり、D2内において、ZnO:Al 3-5nm/ZSO5 12-17nm/SiN 12-18nm/NiCrW 0.8nm/SiN 12-18nm/ZSO5 6-8nm/TZO 1-2nm/ZSO5 6-8nm/ZnO:Al 3-5nmという層順序をもたらしている。
【0110】
更には、例1及び例2において、窒化ケイ素SiN2の層は、亜鉛及びすずの第2混合酸化物層ZSO2内に挿入され、且つ、TZOの中間層IL2は、ZSO2とC5の間に挿入されており、これにより、Ag2から始まり、D3内において、ZnO:Al 3-5nm/ZSO5 12-17nm/SiN 25-35nm/ZSO5 12-17nm/TZO 1-2nm/ZnO:Al 3-5nmという層順序をもたらしている。
【0111】
以下の表2において、SGUは、6mmの厚さのクリアガラスの単一グレージングユニットを表記しており、DGUは、二重グレージングユニットを表記している。観察され得るように、望ましい範囲内の光エネルギー的特性が得られている。特に、低い反射率値が得られている。ここで、二重グレージングユニットは、アルゴンによって90%まで充填された空洞によって内側の4mmのクリアガラスから離れるように15mmだけ離隔した位置2における被覆を有する6mmのクリアガラスの外側ガラスシートを含む。すべてのガラスシートは、通常のクリアソーダライムガラスシートである。
【0112】
本発明によるグレージングは、同時に低放射率及び日射防止特性を有し、且つ、低可視反射率を有する。また、例1及び熱処理された例2は、規格EN1096-2012による気候チャンバ試験及び中性塩水噴霧試験における良好な結果を示しており、この場合に、1日、2日、場合によっては最大で3日間の持続時間にわたって劣化はまったく又はほとんど存在していない。例2は、有利には、明らかにABS1層の存在に起因した相対的に低い内側光反射率を示している。
【0113】
【0114】
【0115】
比較例3において、窒化ケイ素SiN1の層は、亜鉛及びすずの第1混合酸化物層ZSO1内にあり、これにより、Ag1から始まり、D2内において、ZnO:Al 3nm/ZSO5 21.7nm/SiN 35nm/ZSO5 16.7nm/ZnO:Al 5nmという層順序をもたらしている。
【0116】
更には、比較例3において、窒化ケイ素SiN2の層は、亜鉛及びすずの第2混合酸化物層ZSO2内に挿入されており、これにより、Ag2から始まり、D3内において、ZnO:Al 3nm/ZSO5 13.6nm/SiN 35nm/ZSO5 8.6nm/ZnO:Al 5nmという層順序をもたらしている。
【0117】
【0118】
表5a及び表5bは、例示用の層積層体を詳細に示している。層のすべての厚さは、nmを単位として付与されており、且つ、括弧内において示されている。
【0119】
【0120】
【0121】
被覆例1及び2を有するグレージングは、その他のものに加えて、誘電体の厚さの合計を制限することにより、被覆例3を有するグレージングにおけるものよりも日射熱取得率が小さくなることを許容していることが見出された。同時に、透過率は、例1及び2のグレージングにおいては高く維持されており、従って、選択性もまた、相対的に高い。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】