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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】リナクロチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/02 20060101AFI20241219BHJP
   C07K 1/08 20060101ALI20241219BHJP
   C07K 1/10 20060101ALI20241219BHJP
   C07K 7/54 20060101ALI20241219BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C07K1/02 ZNA
C07K1/08
C07K1/10
C07K7/54
C07K1/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535355
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2022085451
(87)【国際公開番号】W WO2023110781
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21214095.8
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503375175
【氏名又は名称】ケミー ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パオラ アンノーニ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァーナ カッペレッティ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドラ チェローナ
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ シモネリ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ トゥルチェッタ
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ カッペリーニ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045AA50
4H045BA16
4H045BA32
4H045EA25
4H045FA30
4H045FA31
4H045FA50
4H045FA61
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、リナクロチドおよびその酢酸塩の製造法に関し、より詳細には、99.9%以上のクロマトグラフィー純度を有し、かつIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド不純物の含有量がそれぞれ100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下である、非晶質高純度リナクロチドまたはその酢酸塩を得る製造法に関する。さらに、本発明は、イオンペアクロマトグラフィー(IPC)により、40ppmレベル(LOD)においてさえIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトンリナクロチドを検出し、かつ、50ppmレベル(LOQ)においてさえIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトンリナクロチドを定量できる分析方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リナクロチド、好ましくは酢酸塩の形態のリナクロチドを製造するための液相方法であって、前記方法は:
a1) 式(II)のFmoc-Asn(Trt)-Pro-OHのジペプチドフラグメントB[7-8]を、式(III)のFmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuのヘキサペプチドフラグメントC[9-14]とカップリングさせて、ペプチド[7-14]を得る工程と;
a2) ペプチド[7-14]を、式(IV)のFmoc-Cys(Trt)-OHを有する6位のアミノ酸誘導体とカップリングさせて、ペプチド[6-14]を得る工程と;
a3) ペプチド[6-14]を、式(V)のFmoc-Cys(SO3Na)-ONaを有する5位のアミノ酸誘導体とカップリングさせて、ペプチド[5-14]を得る工程と;
a4) ペプチド[5-14]を式(VI)のFmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OHのテトラペプチドフラグメントA[1-4]とカップリングさせて、式(VII)のFmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp.H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの鎖状保護ペプチドを得る工程と;
b) 第二級塩基およびトリフルオロ酢酸との反応により、化合物(VII)を脱保護し、式(VIII)のH-Cys(SO3H)-Cys(SO3H)-Glu-Tyr-Cys(SO3H)-Cys-Asn-Pro-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys-Tyr-OHのTFA塩の中間体を得る工程と;
c) 中間体(VIII)の非酸化的環化を実施して、粗製リナクロチドを得る工程と;
d) 任意選択的に、粗製リナクロチドを精製して精製リナクロチドを得る工程と;
e) 任意選択的に、精製リナクロチドを酢酸で塩変換して、対応する酢酸塩を形成する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程b)における第二級塩基は、第二級アミン、好ましくはDEA、ピペリジン、ピペラジンまたはモルホリンであり、トリフルオロ酢酸は少なくとも80体積%の水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)を分子内求核置換によって実施することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)をpH7~8の水アルコール緩衝液中で実施することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程c)において、粗製リナクロチドは水溶液として得られることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
式(II)と式(III)とのカップリング、および/またはペプチド[7-14]と式(IV)とのカップリング、および/またはペプチド[6-14]と式(V)との間のカップリング、および/またはペプチド[5-14]と式(VI)との間のカップリングを、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチルまたは1,3-ジメチルバルビツール酸誘導体の存在下で実施することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
式(II)と式(III)とのカップリング、および/またはペプチド[7-14]と式(IV)とのカップリング、および/またはペプチド[6-14]と式(V)とのカップリング、および/またはペプチド[5-14]と式(VI)とのカップリングを、極性有機溶媒、好ましくはDMF、NMP、ACNから選択される溶媒中で実施されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
式(II)と式(III)とのカップリング、および/またはペプチド[7-14]と式(IV)とのカップリング、および/またはペプチド[6-14]と式(V)とのカップリング、および/またはペプチド[5-14]と式(VI)とのカップリングを、-10℃~35℃、好ましくは0℃~25℃の温度範囲で実施することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
精製工程d)を、逆相高速サンプル置換(RP-HPSD)、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)またはそれらの組み合わせによって実施することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
溶離相は水溶液、極性有機溶媒またはそれらの混合物からなり、好ましくは、極性有機溶媒はトリフルオロ酢酸、酢酸、アセトニトリルおよびそれらの混合物から選択され、任意選択的に緩衝液、より好ましくはリン酸緩衝液が添加されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
精製リナクロチドは溶液中にあり、好ましくは、前記溶液は、水、酢酸およびアセトニトリルを含むことを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
リナクロチドは、99.9%以上のHPLC純度を有し、IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド不純物の含有量は、それぞれ100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは40ppm未満であることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
水アルコール溶液または水性懸濁液から出発する凍結乾燥による単離工程f)をさらに含むことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
水アルコール溶液は、tert-ブタノール、水、酢酸またはそれらの混合物を含有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
水性懸濁液は、精製リナクロチド溶液の蒸発によって得られ、より好ましくは、水性懸濁液は酢酸を含有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
99.9%以上のHPLC純度を有し、IMD-リナクロチド(不純物1)およびCys-1-α-ケトン(不純物2)の含有量は、いずれも100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは40ppm未満であることを特徴とする非晶質リナクロチドまたはその酢酸塩。
【請求項17】
0.1%面積%以下の多量体含有率を有することを特徴とする請求項16に記載の非晶質リナクロチドまたはその酢酸塩。
【請求項18】
非晶質高純度リナクロチドまたはその酢酸塩中のIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトンの不純物含有量を検出および定量する方法であって、前記方法は、アルキル鎖を含むシリカ固定相と、水溶液、極性有機溶媒、またはそれらの混合物からなる溶離相を有するイオンペアクロマトグラフィー(IPC)カラムを通して生成物を溶離させる工程を含み、任意選択的に、溶離相に対して、緩衝液、好ましくはリン酸緩衝液を添加することを特徴とする方法。
【請求項19】
前記アルキル鎖は、オクタデシル型(C18)、オクチル型(C8)またはブチル型(C4)であり、好ましくはC18であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記極性有機溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタン、ヘキサン、トルエン、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、またはそれらの混合物から選択され;より好ましくは、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、またはそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
以下の操作条件:
固定相:C18アルキル鎖を含む担体シリカ粒子;
溶離液A:リン酸緩衝液 pH6.2
溶離液B:ACN
にしたがって実施し、以下のグラジエント溶離:
%B: 7-7(2分);7-15(19分);15-60(25分)
が適用することを特徴とする請求項18から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記溶離相は、イオンペア試薬、好ましくはヘプタンスルホン化塩を含むことを特徴とする請求項18から21のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リナクロチドおよびその酢酸塩を製造する製造法に関し、より詳細には、99.9%以上のクロマトグラフィー純度を有し、かつ、IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド不純物の含有量がそれぞれ100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下である非晶質高純度リナクロチドまたはその酢酸塩を得る製造法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、40ppmレベル(LOD)でもIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチドを検出し、50ppmレベル(LOQ)でもIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチドを定量できる、イオンペアクロマトグラフィー(IPC)による分析方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リナクロチド酢酸塩は、72、145、290mcgカプセルの剤形である、米国市場向け「リンゼス」(登録商標)およびEU市場向け「コンステラ」(登録商標)の市販品に含まれる原薬である。
【0004】
医薬品有効成分は、式(I)で示される、14個のアミノ酸から構成され、Cys[1-6]、[2-10]、[5-13]間に3つの位置特異的ジスルフィド結合を含む、複雑なCys豊富な環状ペプチドである。
【0005】
【化1】
【0006】
この薬剤は、グアニル酸シクラーゼのアゴニストに属し、腸管上皮の内表面に存在するグアニル酸シクラーゼサブタイプC受容体に局所的に作用する。リナクロチドによるグアニル酸シクラーゼの活性化は、cGMPレベルを上昇させ、その結果、腸管内腔への塩化物および炭酸水素の分泌を活性化し、腸液分泌が増加し、便通を促進する。
【0007】
リナクロチドの構造は、米国特許第7304036号明細書で初めて報告された。当該文献は、適切に改変された細菌ベクターの発酵または固相ペプチド合成(SPPS)によって、ペプチドの生産を達成できると一般的に記述しているが、化学的手順の完全な記述を与えていない。一方、リナクロチドについて発表された最初の詳細な合成法は、SPPS製造プロセスを報告し、およびジスルフィド架橋部形成のための酸化的方法を提案しているPeptide Science 96 (1), 69-80 (2010)に見出される。
【0008】
リナクロチドの化学的調製手順は、たとえば、国際公開第2014/188011号(Lonza)に記載されている。当該文献においては、逐次的アミノ酸連結(one-by-one aminoacid assembly)戦略を用いるSPPSによって、樹脂上の鎖状ペプチド主鎖を調製し、次いで鎖状ペプチドの樹脂からの切断および同時の脱保護を行い;3つのジスルフィド架橋部を、ジメチルスルホキシド中の空気酸化によりランダム戦略によって形成し、次いで粗製リナクロチドを逆相クロマトグラフィーで精製し、最終的に50%tert-ブタノール水溶液からの凍結乾燥により、純度未公表の品質で単離している。
【0009】
また、国際公開第2015/022575号(Auro Peptides)も化学合成手順を記載しており、当該手順においては、2つのフラグメントを調製し、SPPS段階的戦略でカップリングさせて樹脂上の鎖状ペプチド主鎖を得て、樹脂からの切断および同時の脱保護を行い、空気および酸化剤(たとえば過酸化水素)を用いたランダム戦略で環化させて3つのジスルフィド架橋部を形成し、最後に精製して凍結乾燥し、最大でも98.9%のHPLC純度を有するリナクロチドを得ている。
【0010】
さらに、国際公開第2016/038497号(Auro Peptides)は、リナクロチドを調製する方法を報告しており、当該方法は、逐次的アミノ酸連結戦略を用いるSPPSを適用し、樹脂上に鎖状ペプチド主鎖を生成させ、次いで樹脂からの遊離および脱保護(同時または順次的)を行い、空気および酸化剤(たとえば過酸化水素)を用いたランダム戦略で環化し、最終的に逆相クロマトグラフィーで精製し、凍結乾燥を行って、98.9%のHPLC純度または99%超の汎用HPLC純度を有する最終生成物を得る。当該方法において、生成物中の不純物の詳細は報告されていない。
【0011】
国際公開第2017/101810号(Hybio Pharmaceuticals)は、リナクロチドの位置選択的合成を記載している。当該合成において、逐次的アミノ酸連結を経由するSPPSによる樹脂上の鎖状ペプチド主鎖の予備調製、樹脂に結合したままのペプチド上での第1のジスルフィド架橋部[1-6]の酸化的形成、溶液中での第2のジスルフィド架橋部[2-10]の酸化的形成、および最後に2つのメチル化システインの脱保護後の第3のジスルフィド架橋部[5-13]の酸化的形成で構成される。粗製リナクロチドは、逆相クロマトグラフィーで精製され、凍結乾燥される。合成は位置選択的に進行すると記載されているが、必要なジスルフィド結合を形成するために使用される反応の酸化的性質は、ペプチドの二量体および多量体(multimers)の不純物の形成の回避を可能にしない。さらに、ジエチルエーテルのような工業的に適切とは言い難い溶媒の使用に加えて、最終的なリナクロチドのHPLC純度が99.5%であることを記載しているものの、たとえばIMD-リナクロチドやCys-1-α-ケトン-リナクロチドの不純物の含有量については言及されていない。しかしながら、中間体のビスジスルフィドペプチドの逆相クロマトグラフィーによる追加精製を記載している。
【0012】
また、国際公開第2017/134687号(Cipla)は、リナクロチドの調製法を記載している。当該調製法は、逐次的アミノ酸連結を経由するSPPSによる樹脂上の鎖状ペプチド主鎖の初期製造、次いで、樹脂からの切断およびS-フェニルアセトアミドメチル保護基の除去を同時に実施し、最終的にランダム戦略にて水性溶媒中で生成物を酸化し、逆相クロマトグラフィーで精製し、凍結乾燥して、二量体および多量体の不純物を含まない99%超の汎用HPLC純度を有する最終生成物を得る。
【0013】
同様に、また、国際公開第2019/113872号(Shenzhen)は、リナクロチドの製造法を詳述している。当該方法は、逐次的アミノ酸連結を経由するSPPSまたは段階的戦略による樹脂上の鎖状ペプチド主鎖の調製を経由し、得られた鎖状ペプチド主鎖を樹脂から切断せずにN-アロゲニルコハク酸イミドを用いる酸化により環化し;次いで、樹脂上の粗製リナクロチドを脱離させ、逆相クロマトグラフィーで精製し、凍結乾燥する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
当技術分野で使用されているリナクロチドの調製方法を参照して、本発明者らは、これらの方法は、少なくとも99.9%の高純度を有し、およびIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド不純物の含有量がそれぞれ100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは40ppm未満である、非晶質リナクロチドが提供しないことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、簡略化された、工業的に適用可能で、かつ堅牢な、リナクロチドおよびその酢酸塩の調製方法を見出した。当該方法では、中間精製を行わずに、全体を通して液相ペプチド合成(LPPS)により調製される。より詳細には、この方法は、99.9%以上のクロマトグラフィー純度を有し、および、特にIMD-リナクロチドとCys-1-α-ケトン-リナクロチドの不純物の含有量がそれぞれ100ppm以下、好ましくは50ppm以下(イオンペア分析法のLOQ)、より好ましくは40ppm以下(イオンペア分析法のLOD)であることを特徴として、非晶質リナクロチドまたはその酢酸塩を製造することができる。
【0016】
第1の態様において、本発明は、以下の一般的な工程:
1. 鎖状保護ペプチドの構築の初期段階;
2. 脱保護の段階;
3. ジスルフィド架橋部の形成段階を経て、粗製リナクロチドを生成する段階;
4. 任意選択的に、精製の段階;および
5. 任意選択的に、非晶質高純度リナクロチドの単離段階、
を含む、リナクロチドまたはその酢酸塩を調製するための液相方法に関する。
【0017】
本方法は、先行技術に対して顕著な改善を提供し、その利点を以下に要約する:
1. 同一の標準化された一連の工程を周期的に繰り返して、保護された鎖状ペプチドを得る;
2. 保護された鎖状ペプチドは、全体を通して、液相ペプチド合成(LPPS)によって調製される;
3. 鎖状保護ペプチド主鎖の化学合成および鎖状先進中間体の化学合成において、中間体のクロマトグラフィー精製を行わない;
4. ジスルフィド架橋部の形成は非酸化的方法で行われ、環化モル収率は約70%である;
5. 任意選択的精製は、好ましくは、分取逆相高速サンプル置換法(RP-HPSD)および分取逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)からなる2つの技術の組み合わせで実施され、クロマトグラフィー精製の全収率は約55%である;
6. 高純度リナクロチドの単離の任意選択的最終段階を、リナクロチドのt-BuOH-水溶液またはリナクロチドの水懸濁液の凍結乾燥により行う;および
7. 最終的な高純度リナクロチドは、非晶質の凍結乾燥粉末である。
【0018】
第2の態様によれば、本発明は、99.9%以上のクロマトグラフィー純度を有し、以下に示す不純物:
- IMD-リナクロチド(不純物1);
- Cys-1-α-ケトン(不純物2)
の量が、いずれも100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは40ppm未満である非晶質リナクロチドまたはその酢酸塩に関する。
【0019】
好ましくは、リナクロチドまたはその酢酸塩は、0.1%面積%以下の多量体含有量を有する。
【0020】
第3の態様によれば、本発明は、リナクロチドまたはその酢酸塩を分析するイオンペアクロマトグラフィー(IPC)法に関し、この分析法は、非晶質高純度リナクロチド中の微量の不純物IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチドを検出(40ppmのLOD)および定量(50ppmのLOQ)することができる。不純物であるIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチドの構造を以下に記載する。
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】製造オプション1で得られた非晶質高純度リナクロチド(クロマトグラフィー純度:99.94%)のイオンペアクロマトグラム(クロマトグラフィー純度評価用)を示す図である。
図2】製造オプション2で得られた非晶質高純度リナクロチド(クロマトグラフィー純度:99.91%)のイオンペアクロマトグラム(クロマトグラフィー純度評価用)を示す図である。
図3】IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド不純物を添加したリナクロチド(IMD-リナクロチド:RRT 0.84-0.85:1.0質量%、Cys-1-α-ケトン-リナクロチド:RRT 0.91-0.92:1.0質量%)のイオンペアクロマトグラムを示す図である。
図4】製造オプション1により得られた非晶質高純度リナクロチドのイオンペアクロマトグラム(IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド含有量の評価用)を示す図である。IMD-リナクロチド:RRT 0.84-0.85:LT 40ppm(LT LOD)。Cys-1-α-ケトン-リナクロチド:RRT 0.91-0.92:LT 40ppm(LT LOD)。
図5】製造オプション2で得られた非晶質高純度リナクロチドのイオンペアクロマトグラム(IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチド含有量の評価用)を示す図である。IMD-リナクロチド:RRT 0.84-0.85:LT 40ppm(LT LOD)。Cys-1-α-ケトン-リナクロチド:RRT 0.91-0.92:LT 40ppm (LT LOD)。
図6】製造オプション1で得られた非晶質高純度リナクロチドのGPCクロマトグラム(多量体含有量評価用)を示す図である。多量体(ピークの和):RRT≦0.81-0.82:0.07%。
図7】製造オプション2で得られた非晶質高純度リナクロチドのGPCクロマトグラム(多量体含有量評価用)を示す図である。多量体(ピークの和):RRT≦0.81-0.82:0.06%。
図8】製造オプション1で得られた非晶質高純度リナクロチドの粉末X線回折(PXRD)を示す図である。
図9】製造オプション1によって得られた非晶質高純度リナクロチドの示差走査熱分析(DSC)曲線を示す図である。30~100℃の範囲で水-溶媒が失われ、250℃まで結晶形態に関連する吸熱/発熱現象は見られない。
図10】製造オプション2で得られた非晶質高純度リナクロチドの粉末X線回折(PXRD)を示す図である。
図11図11:製造オプション2で得られた非晶質高純度リナクロチドの示差走査熱分析(DSC)曲線を示す図である。250℃まで結晶形態に関連する吸熱/発熱現象は見られない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(略語)
ACN : アセトニトリル
AcOH : 酢酸
DCHA : ジシクロヘキシルアミン
DCM : ジクロロメタン
DEA : ジエチルアミン
DIPE : ジイソプロピルエーテル
DMF : N,N-ジメチルホルムアミド
DSC : 示差走査熱分析
EDC・HCl : N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩
Fmoc : フルオレニルメトキシカルボニル
GPC : ゲル浸透クロマトグラフィー
IPA : イソプロパノール
iPrOAc : 酢酸イソプロピル
IPC : イオンペアクロマトグラフィー
LOD : 検出限界
LOQ : 定量限界
LPPS : 液相ペプチド合成
MTBE : メチル-tert-ブチルエーテル
NMM : N-メチルモルホリン
NMP : N-メチルピロリドン
OAll : アリルエステル
OtBu : tert-ブチルエステル
Oxyma : シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル
Oxyma-B : 5-(ヒドロキシイミノ)-1,3-ジメチルピリミジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン
Pd/C : 炭素上パラジウム
Pd(PPh : テトラキス(トリフェニルホスフィン)-パラジウム(0)
PhSiH : フェニルシラン
PSD : 粒度分布
PyOxim : [エチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O]トリ-1-ピロリジニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート
RP-HPLC : 逆相高速液体クロマトグラフィー
RP-HPSD : 逆相高速サンプル置換
tBu : tert-ブチル
tBuOH : tert-ブタノール
TFA : トリフルオロ酢酸
TIS : トリイソプロピルシラン
TOTU : O-(エトキシカルボニル)シアノメチレンアミノ-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート
Trt : トリチル、トリフェニルメチル
PXRD : 粉末X線回折
[Ψ(Dmp,H)pro] : ジメトキシフェニル-シュードプロリン類
【0025】
(定義)
特段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語、表記および他の科学用語は、本開示が関連する当業者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。いくつかの場合に、明確化および/または即時参照の目的で、一般的に理解される意味を有する用語を本明細書において定義する。したがって、本明細書がそのような定義を含むことは、当該技術分野において一般的に理解されることとの実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。
【0026】
本明細書における「約(approximately)」および「約(about)」という用語は、測定において発生する実験誤差の範囲を意味する。
【0027】
本明細書における「高純度」とは、99.9%以上のクロマトグラフィー純度を有し、IMD-リナクロチド不純物およびCys-1-α-ケトン-リナクロチド不純物の含有量がそれぞれ100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下であることを意味する。
【0028】
本明細書における「HPLC純度」または「クロマトグラフィー純度」という用語は、クロマトグラム曲線の下の面積を意味する。
【0029】
本明細書における純度(%)は、クロマトグラフィー純度(クロマトグラフィー面積%)に基づく。
【0030】
用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含有する(containing)」は、オープンエンドの用語(すなわち、「を含むが、それに限定されない」を意味する)として解釈される。これらの用語は、「から実質的になる(consist essentially of)」、「から実質的になる(consisting essentially of)」、「からなる(consist of)」、または「からなる(consisting of)」のような用語に対する支持を提供するものとみなされる。
【0031】
用語「から実質的になる(consist essentially of)」および「から実質的になる(consisting essentially of)」は、半クロースエンドの用語と解釈され、本発明の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与える他の成分を含まないことを意味する(任意選択的な賦形剤が含まれる場合もある)。
【0032】
用語「からなる(consist of)」および「からなる(consisting of)」は、クロースエンドの用語と解釈される。
【0033】
(詳細な説明)
本発明の目的は、リナクロチド、好ましくは酢酸塩の形態のリナクロチドを製造するための液相方法であり、当該方法は、以下の工程:
a1) 式(II)のFmoc-Asn(Trt)-Pro-OHのジペプチドフラグメントB[7-8]を、式(III)のFmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuのヘキサペプチドフラグメントC[9-14]とカップリングさせて、ペプチド[7-14]を得る工程と;
a2) ペプチド[7-14]を、式(IV)のFmoc-Cys(Trt)-OHを有する6位のアミノ酸誘導体とカップリングさせて、ペプチド[6-14]を得る工程と;
a3) ペプチド[6-14]を、式(V)のFmoc-Cys(SO3Na)-ONaを有する5位のアミノ酸誘導体とカップリングさせて、ペプチド[5-14]を得る工程と;
a4) ペプチド[5-14]を式(VI)のFmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OHのテトラペプチドフラグメントA[1-4]とカップリングさせて、式(VII)のFmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp.H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの鎖状保護ペプチドを得る工程と;
b) 第二級塩基およびトリフルオロ酢酸との反応により、化合物(VII)を脱保護し、式(VIII)のH-Cys(SO3H)-Cys(SO3H)-Glu-Tyr-Cys(SO3H)-Cys-Asn-Pro-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys-Tyr-OHのTFA塩の中間体を得る工程と;
c) 中間体(VIII)の非酸化的環化を実施して、粗製リナクロチドを得る工程と;
d) 任意選択的に、粗製リナクロチドを精製して精製リナクロチドを得る工程と;
e) 任意選択的に、精製リナクロチドを酢酸で塩変換して、対応する酢酸塩を形成する工程と
を含む。
【0034】
本発明の方法の好ましい実施形態において、工程b)における第二級塩基は、第二級アミン、好ましくはDEA、ピペリジン、ピペラジンまたはモルホリンであり、トリフルオロ酢酸は少なくとも80体積%の水溶液である。
【0035】
本発明の方法の好ましい実施形態において、工程c)は分子内求核置換によって実施される。
【0036】
好ましくは、工程c)はpH7~8の水アルコール緩衝液中で行う。
【0037】
さらに好ましい実施形態において、工程c)において、粗製リナクロチドは水溶液として得られる。
【0038】
本発明の方法の好ましい実施形態において、式(II)と式(III)とのカップリング、および/またはペプチド[7-14]と式(IV)とのカップリング、および/またはペプチド[6-14]と式(V)との間のカップリング、および/またはペプチド[5-14]と式(VI)との間のカップリングは、Oxymaとも呼称されるシアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル、または、PyOximまたはTOTUのようなその誘導体、あるいはOxyma-Bのような1,3-ジメチルバルビツール酸誘導体の存在下で実施される。
【0039】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態において、式(II)と式(III)とのカップリング、および/またはペプチド[7-14]と式(IV)とのカップリング、および/またはペプチド[6-14]と式(V)とのカップリング、および/またはペプチド[5-14]と式(VI)とのカップリングは、有機極性溶媒中、好ましくはDMF、NMP、ACNから選択される有機極性溶媒中で実施される。
【0040】
本発明の方法のさらに好ましい実施態様において、式(II)と式(III)とのカップリング、および/またはペプチド[7-14]と式(IV)とのカップリング、および/またはペプチド[6-14]と式(V)とのカップリング、および/またはペプチド[5-14]と式(VI)とのカップリングは、-10℃~35℃、好ましくは0℃~25℃の温度範囲で実施される。
【0041】
好ましい実施形態では、精製工程d)は、逆相高速サンプル置換(RP-HPSD)、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)またはそれらの組み合わせによって実施される。
【0042】
精製工程d)の好ましい実施形態において、溶離相は水溶液、極性有機溶媒またはそれらの混合物からなり、好ましくは、極性有機溶媒はトリフルオロ酢酸、酢酸、アセトニトリルおよびそれらの混合物から選択される。任意選択的に、溶離相に対して、緩衝液、より好ましくはリン酸緩衝液が添加される。
【0043】
好ましい実施形態において、精製リナクロチドは溶液中にあり、好ましくは、前記溶液は、水、酢酸およびアセトニトリルを含む。
【0044】
好ましくは、本発明の方法は、99.9%以上のクロマトグラフィー純度を有する非晶質リナクロチドを得ることを可能にする。
【0045】
本発明の方法は、水アルコール溶液または水性懸濁液から出発する凍結乾燥による単離工程f)をさらに含むことができる。
【0046】
好ましくは、水アルコール溶液は、tert-ブタノール、水、酢酸またはそれらの混合物を含有する。
【0047】
好ましくは、水性懸濁液は、精製リナクロチド溶液の蒸発によって得られ、より好ましくは、水性懸濁液は酢酸を含有する。
【0048】
本発明のさらなる目的は、99.9%以上のクロマトグラフィー純度と、以下の不純物:
- IMD-リナクロチド(不純物1);
- Cys-1-α-ケトン(不純物2)。
の量がいずれも100ppm未満、好ましくは50ppm(LOQ)未満、より好ましくは40ppm(LOD)未満である、非晶質リナクロチドまたはその酢酸塩である。
【0049】
好ましくは、非晶質高純度リナクロチドまたはその酢酸塩は、0.1%面積%以下の多量体含有率を有する。
【0050】
本発明のさらなる目的は、生成物である非晶質高純度リナクロチドまたはその酢酸塩中のIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトンの不純物含有量を検出(40ppmのLOD)および定量(50ppmのLOD)する方法である。当該方法は、アルキル鎖を含むシリカ固定相と、水溶液、極性有機溶媒、またはそれらの混合物からなる溶離相を有するイオンペアクロマトグラフィー(IPC)カラムを通して生成物を溶離させる工程を含む。任意選択的に、溶離相に対して、緩衝液、好ましくはリン酸緩衝液を添加する。
【0051】
本発明による方法の好ましい実施形態では、前記アルキル鎖は、オクタデシル型(C18)、オクチル型(C8)またはブチル型(C4)であり、好ましくはC18である。
【0052】
好ましくは、前記極性有機溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタン、ヘキサン、トルエン、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、またはそれらの混合物から選択され;より好ましくは、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、またはそれらの混合物から選択される。
【0053】
さらに好ましい実施形態において、本発明の方法は、以下の操作条件:
固定相:C18アルキル鎖を含む担体シリカ粒子;
溶離液A:リン酸緩衝液 pH6.2
溶離液B:ACN
にしたがって実施され、以下のグラジエント溶離:
%B: 7-7(2分);7-15(19分);15-60(25分)
が適用されることを特徴とする
【0054】
本発明による方法の溶離相は、イオンペア試薬、好ましくはヘプタンスルホン化塩を含む。
【0055】
[1. 粗製リナクロチドの化学合成]
本発明の目的である製造方法において、粗製リナクロチドは第1の主要中間体であり、液相ペプチド合成(LPPS)手順により合成される。当該手順は、
1. 鎖状保護ペプチドを調製する第1段階と、
2. 脱保護を行って鎖状先進中間体を得る第2段階と、
3. ジスルフィド架橋部の形成を伴う環化によって、粗製リナクロチドを得る最終段階と
を含み、以下に報告するスキーム1にしたがう。
【0056】
【化4】
【0057】
リナクロチドのようなマルチジスルフィド架橋部を有する複雑なペプチドの合成の重要なポイントの1つは、環化工程を適切な方法で進行させ、所望のジスルフィド配置にしたがって正しい位置異性体を得る条件を設定し、ミスフォールドされた不純物の形成および多量体の形成を避けることである。
【0058】
この目標を達成するために、非酸化的環化法が開発された。当該方法において、3つの求核部位(遊離Cysのチオール基)と3つの脱離基(残余のCys上のスルホン化基)が関与する、pH7~8の水アルコール緩衝液中で分子内求核置換を実施する。
【0059】
骨格に沿った3つのスルホン化Cys基の最適な位置を選択する目的で、一連の試行を予備的に実施した。鎖状先進ペプチドの全ての可能な組み合わせを化学的に調製し、環化に供した。
【0060】
所望されるリナクロチド最終生成物のクロマトグラフィー純度および分析における最良の結果は、スルホン化基を1、2、5位のCys上に配置した試験で得られた。しかしながら、それ以外の組み合わせでは最悪の結果をもたらし、いくつかの場合には主要ピークのない位置異性体の複雑なクロマトグラフィーパターンを与えることさえあった。
【0061】
したがって、驚くべきことに、分子内求核置換は、1つのジスルフィド架橋部の形成に有利な合成法であるだけでなく、2つ以上のジスルフィド架橋部の形成(たとえば、リナクロチドのような複雑なマルチジスルフィド架橋ペプチドの製造)に特に効率的である。
【0062】
リナクロチドのような複雑なマルチジスルフィド架橋ペプチドの合成におけるもう1つの重要なポイントは、上記のスルホン化Cys(具体的な発明では6位、10位、13位)と環化する必要のある残余のCys上の保護基の選択である。
【0063】
一連の試験を予備的に実施し、最終的なクロマトグラフィー純度、直交性、副反応、扱いやすさの点に関する最良の結果は、6位のCysをTrtで官能基化し、10位および13位のCysをCys-シュードプロリンで官能基化した場合に得られた。
【0064】
Cys-シュードプロリンは、カップリング活性化の際にラセミ化しにくい5員環のチオケタリック(tiochetalic)なヒンダード環を有する、システインのマスク形態を表す。骨格に沿ってこの部分を導入することは、成長中のペプチドに対してより高い溶解性を保証するだけでなく、凝集効果も減少し、ワークアップの改善につながるという利点もある。
【0065】
Cysのチオール基をシュードプロリンとして保護することは最近の発見である。現在入手可能な文献はSPPS用途に関するもののみであり、ペプチド合成における相対的な用途は、依然として先駆的なものである。
【0066】
この理由により、合成の対象がリナクロチドのようなマルチジスルフィド架橋部を持つ複雑なCys豊富なペプチドであることも考慮すると、ここに記載したようなLPPS製造方法におけるCys-シュードプロリンの使用は、革新的な応用といえる。
【0067】
鎖状保護ペプチドに沿ったスルホン化基の位置と、ならびに残余のCysの保護基の種類および位置(環化工程の前に脱保護する必要がある)を画定した後に、液相ペプチド合成(LPPS)の全体を設計した。
【0068】
鎖状保護ペプチドを調製するための予備合成段階として、以下の3つのフラグメントを合成しなければならない:
・ フラグメントA(VI):1位および2位のCysをスルホン化ナトリウム塩として誘導体化している、1位→4位のアミノ酸を含有するテトラペプチド。
Fmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OH (VI)
・ フラグメントB(II):7→8位のアミノ酸を含有するジペプチド。
Fmoc-Asn(Trt)-Pro-OH (II)
・ フラグメントC(III):10位および13位のCysをCys-シュードプロリン(符号Cys[Ψ(Dmp,H)pro])として保護している、9→14位のアミノ酸を含むヘキサペプチド。
Fmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBu (III)
3種のフラグメントのそれぞれは、90%以下のHPLC純度を特徴とする。
【0069】
鎖状保護ペプチドの調製の引き続く工程のために、フラグメントA(VI)、フラグメントB(II)、フラグメントC(III)、および6位の2つのアミノ酸誘導体Fmoc-Cys(Trt)-OH(IV)および5位の2つのアミノ酸誘導体Fmoc-Cys(SO3Na)-ONa(V)の収束的連結を行い、以下の14アミノ酸含有(14-mer)鎖状保護ペプチド(VII)を得る。
Fmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBu (VII)
【0070】
フラグメントA(VI)、フラグメントB(II)、フラグメントC(III)、および6位のFmoc-Cys(Trt)-OH(IV)と5位のFmoc-Cys(SO3Na)-ONa(V)の2つのアミノ酸誘導体を連結して鎖状保護ペプチドを得るために、以下のスキーム2に報告されている簡単で工業的に適用可能であり、かつ堅牢な合成プロトコルを反復する。
【0071】
【化5】
【0072】
鎖状保護ペプチドは、HPLC純度が65%以上であることを特徴とする。
【0073】
鎖状先進中間体の調製の引き続く工程において、保護基の除去を2つの別個の工程
・ 第二級塩基によって媒介されるFmoc除去、および
・ 少なくとも80体積%のTFA水溶液によって媒介される、酸に不安定な保護基(tBuエステル、Trt、シュードプロリンなど)の除去
で実施し、その結果、最終的に鎖状先進中間体(VIII):
H-Cys(SO3H)-Cys(SO3H)-Glu-Tyr-Cys(SO3H)-Cys-Asn-Pro-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys-Tyr-OHのTFA塩 (VIII)
を得る。鎖状先進中間体のHPLC純度は少なくとも55%である。
【0074】
溶液中の粗製リナクロチドを製造する最終工程において、鎖状先進中間体の環化を、以下の特徴を有する製造方法により実施する。
a. 6位、10位および13位のCysの遊離チオール基が求核部位の役割を果たし、1位、2位および5位のCysのスルホン化基が脱離基となる、分子内求核置換に基づく方法によってフォールディングを実施する、非酸化的方法。
b. 得られる位置異性体の数が統計的に可能な組みあわせより小さい、半位置選択的方法であって、その目標は、既存の半位置選択的方法に記載されている逐次的な環化反応と相違し、より有利である独特のステップ反応によって達成され、粗製リナクロチドの溶液を得ることを可能にする、半位置選択的方法。
【0075】
【化6】
【0076】
溶液中の粗製リナクロチドは、通常45~55%のHPLC純度で得られるが、これは特に驚くべきこと、かつ有利なことである。なぜなら、中間精製を行うことなくこの純度に達し、既存の方法と比較して時間の節約、コストの削減、および生産性の向上が可能になるからである。
【0077】
[2. 高純度リナクロチドの精製と単離]
粗製リナクロチドはさらに2つの精製技術を組み合わせて処理される。それら技術は、逆相高速サンプル置換法(RP-HPSD)および逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)である。最終的に、スキーム3で報告されているフローチャートにしたがって、精製リナクロチド溶液(AcOHを含むACN-水溶液)から開始される2つの別個の製造オプションのいずれかを適用して単離する:
(製造オプション1)
溶媒をACNからt-BuOHに置換して、t-BuOH-水(AcOH含有)溶液から凍結乾燥を行う。
(製造オプション2)
水性(AcOH含有)懸濁液から濃縮および凍結乾燥を行う。
【0078】
【化7】
【0079】
詳細に関して、クロマトグラフィー精製の工程は、2種の別個の技術の組み合わせ(RP-HPSD+RP-HPLC)の粗製リナクロチド溶液への適用により実施される。
【0080】
RP-HPSD法は、サンプル分子がカラムに結合し、固定相との親和性に応じて互いに分離するというコンセプトに基づいている。この技術は、カラムへのサンプル電荷の過負荷を予見し、低パーセンテージの有機溶媒を有する穏やかな勾配のグラジエントにより、リナクロチドとその不純物の分離を保証する。
【0081】
全体的なクロマトグラフィー精製プロセスは、以下に報告するスキーム4で表すことができる。
【0082】
【化8】
【0083】
精製工程終了後、粗製リナクロチド溶液(約45~55%のHPLC純度)から、最低99.9%のクロマトグラフィー純度を有する精製リナクロチド溶液が得られる。IMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチドの不純物の残存量は100ppmを越えず、それぞれの値は典型的には50ppm(LOQ)未満、より典型的には40ppm(LOD)未満である。
【0084】
精製リナクロチド溶液が得られたならば、以下の択一的な製造オプションの一方を適用して、最終的な非晶質高純度リナクロチドを単離することができる。
【0085】
(製造オプション1)
精製リナクロチド溶液をRPカラムに充填し、第1相(水-AcOH 100mM)および第2相(t-BuOH)の1:1混合物の相を用いてカラムから溶離させ、ACNからtBuOHへの交換を行う。次いで、t-BuOH-水(AcOH含有)溶液を凍結乾燥し、非晶質の高純度リナクロチド粉末を得る。
【0086】
(製造オプション2)
精製リナクロチド溶液を真空下で濃縮し、ACNを除去する。次いで、得られた水性(AcOH)懸濁液をトレイに移し、凍結乾燥して非晶質の高純度リナクロチド粉末を得る。
【0087】
[3. API特性評価]
非晶質高純度リナクロチドの特徴は以下の通りである:
【0088】
(A. イオンペアクロマトグラフィー(IPC)による、純度、分析およびIMD-リナクロチドおよびCys-1-α-ケトン-リナクロチドの不純物の評価)
この分析法は、イオンペアクロマトグラフィー(IPC)の原理に基づく。この技術は、分析対象物に対して反対の電荷を持つ親油性イオンからなる特定の修飾剤を含む移動相を用いて、イオン性分析対象物の分離を可能にする。移動相の親油性イオンは分析物と相互作用し、イオン電荷をバランスさせる。
【0089】
分析変数の最適化は、イオン性種/イオン化可能種と中性分析物の両方を含む複雑なサンプル混合物の分離も可能にする。
【0090】
(分析法の説明)
カラム:Gemini-NX、5μm、4.6×250mm
溶離液A:20mM (NHPO緩衝液(pH6.2)+
5mM 1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム一水和物(イオンペア試薬)
溶離液B:ACN
グラジエント%B:7-7(2分);7-15(19分);15-60(25分)
流速:1.0 ml/分、T:30℃、UV:220nm
IMD-リナクロチド: RRT 0.84-0.85
Cys-1-α-ケトン-リナクロチド RRT 0.91-0.92
検出限界(LOD):40 ppm
定量限界(LOQ):50 ppm
【0091】
(B. 多量体の含有量)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による。
【0092】
(分析法の説明)
カラム:TSK Gel G2000SWXL、5μm、7.8×300mm
溶離液:70% ACN + 0.02% TFA
グラジエント:イソクラティック(40分)
流速:0.6ml/分、T:30℃、UV:215nm
多量体(ピークの和) RRT ≦0.81-0.82
【0093】
(C. 物理的形状)
非晶質高純度リナクロチドの物理的形状を、以下の分析:
・ 結晶構造の評価のためのPXRD(粉末X線回折)、
・ 可能性がある結晶性汚染物質の存在に関連する吸熱/発熱現象を評価するためのDSC(示差走査熱分析)、
によって評価する。
【0094】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0095】
(実施例1)
フラグメントA [1-5]の合成
Fmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OH
[分子量1055.14、二ナトリウム塩]。
【0096】
(工程I) H-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OAllのTFA塩の合成
1240グラムのTrt-Glu(tBu)-OHのDCHA塩を8.7LのiPrOAcに溶解させ、有機溶液をKHSOの水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、残渣をNMP(5.6L)に溶解させた。H-Tyr(tBu)-OAllの塩酸塩(590グラム)を加え、PyOxim/NMM系でカップリング反応を行った。
【0097】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をNaHCO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、残渣をDCM(6.1L)に溶解させた。TFA-TIS混合物を用いて、酸性脱保護を行った。反応液を濃縮し、n-ヘプタン-DIPE混合溶液で沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥させた。
【0098】
99.8%のHPLC純度および89%の収率で、H-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OAllのTFA塩を得た。
【0099】
(工程II) Fmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OHの合成
952グラムのH-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OAllのTFA塩および810グラムのFmoc-Cys(SO3Na)-ONaを4.8LのDMFに溶解させ、PyOxim/2,4,6-コリジン系でカップリング反応を行った。
【0100】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液、NaHCO水溶液、およびNaCl水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、残渣をiPrOAcに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。
【0101】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をNaHCO水溶液、KHSO水溶液、およびNaCl水溶液で洗浄した後、濃縮し、残渣をDMF(7.9L)に溶解させた。
【0102】
Fmoc-Cys(SO3Na)-ONa(695グラム)を加え、PyOxim/2,4,6-コリジン系でカップリング反応を行った。反応混合物をDCMで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液、NaHCO水溶液、およびNaCl水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、残渣をDCM(19.7L)に溶解した。
【0103】
PhSiHおよびPd(PPhを用いて、アリルエステル除去を行った。NaCl水溶液の添加により反応混合物の反応を停止し、2相を分離し、有機相にNaHCO水溶液を添加した。DCMのさらなる添加により、水相からペプチドを抽出した。有機相を濃縮し、MTBEを加えて沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥させた。
【0104】
94.3%のHPLC純度および65%の収率で、Fmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-OHを得た。
【0105】
(実施例2)
フラグメントB [7-8]の合成
Fmoc-Asn(Trt)-Pro-OH
[分子量693.80]。
【0106】
177グラムのH-Pro-OBzl塩酸塩を1.8LのDMFに懸濁させた。Fmoc-Asn(Trt)-OH(350グラム)を加え、PyOxim/2,4,6-コリジン系でカップリング反応を行った。反応混合物にNaHCO水溶液を加えて沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0107】
反応溶媒としてIPA(17.0L)および水(1.0L)を用い、5%Pd/C(50%湿潤)(120g)を触媒として、乾燥した生成物を水素化して、ベンジルエステル保護を除去した。反応を3時間50分以上にわたってH下に維持した。懸濁液を濾過し、触媒ケーキをIPA-水の混合液で洗浄し、回収した溶液をKHSO水溶液に投入して沈殿させた。懸濁液を濾取、洗浄、乾燥した。
【0108】
97.0%のHPLC純度および79%の収率で、Fmoc-Asn(Trt)-OHを得た。
【0109】
(実施例3)
フラグメントC [9-14]の合成
Fmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)- Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBu
[分子量1303.60]。
【0110】
(工程I) Fmoc-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
950グラムのFmoc-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-OHおよび582グラムのH-Tyr(tBu)-OtBu塩酸塩を4.8LのNMPに溶解させ、TOTU/NMM系でカップリング反応を行った。反応混合物をKHSOの水溶液で沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0111】
98.8%の純度HPLCおよび90%の工程収率で、Fmoc-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0112】
(工程II) H-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1277グラムのFmoc-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを5.7LのACNに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。
【0113】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄した後、濃縮し、残渣をiPrOAcに溶解させた。n-ヘプタンを加えて溶液を沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0114】
95.1%のHPLC純度および93%の収率で、H-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0115】
(工程III) Fmoc-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
865gのH-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-OHおよび572gのFmoc-Thr(tBu)-OHを4.3LのNMPに溶解させ、PyOxim/NMM系でカップリング反応を行った。反応混合物をIPAで希釈し、NaHCO水溶液を加えて沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0116】
93.9%のHPLC純度および87%の収率で、Fmoc-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0117】
(工程IV) Fmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1224グラムのFmoc-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを6.1LのiPrOAcに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。
【0118】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄した後、濃縮し、残渣をNMP(6.1L)に溶解させた。
【0119】
Fmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-OH(688グラム)を加え、TOTU/NMMシステムによりカップリング反応を行った。反応混合物をIPAで希釈し、NaHCO水溶液で沈殿させ、濾取および洗浄した。その後、生成物を乾燥させた。
【0120】
91.9%の純度HPLCおよび93%の収率で、Fmoc-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0121】
(実施例4)
鎖状保護リナクロチドの合成
Fmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBu
[分子量3122.68]。
【0122】
(工程I) H-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1476gのフラグメントCを6.6LのACNに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄した後、濃縮し、残渣をiPrOAcに溶解した。DIPEを加えて溶液を沈殿させ、ろ過、洗浄、乾燥した。
【0123】
90.3%のHPLC純度および91%の収率で、H-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0124】
(工程II) Fmoc-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1087グラムのH-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuおよび698グラムのフラグメントBを5.4LのACNに溶解させ、Oxyma-EDC・HCl/NMMシステムでカップリング反応を行った。反応混合物にNaHCO水溶液を加えて沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0125】
87.3%のHPLC純度および98%の収率で、Fmoc-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0126】
(工程III) H-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1727グラムのFmoc-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを8.6LのiPrOAcに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。
【0127】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄した後、濃縮し、残渣をiPrOAcに溶解した。DIPEを加えて溶液を沈殿させ、濾取および洗浄した。その後、生成物を乾燥させた。
【0128】
89.0%のHPLC純度および89%の収率で、H-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0129】
(工程IV) Fmoc-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1339gのH-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuおよび512gのFmoc-Cys(Trt)-OHを6.7LのDMFに溶解させ、TOTU/NMM系を用いてカップリング反応を行った。反応混合物をNaHCO水溶液で沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥させた。
【0130】
84.3%のHPLC純度および95%の収率で、Fmoc-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0131】
(工程V) H-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
1733グラムのFmoc-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを8.7LのiPrOAcに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。反応混合物をiPrOAcで希釈し、最初にペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液、NaHCO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、得られた残渣をDMF(8.7L)に溶解させた。
【0132】
Fmoc-Cys(SO3Na)-ONa(404グラム)を加え、PyOxim/2,4,6-コリジン系でカップリング反応を行った。反応混合物をNaHCO水溶液で沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。乾燥した生成物を8.7LのiPrOAcに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。
【0133】
反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、得られた残渣をiPrOAcに溶解させた。得られた溶液にDIPEを加えて沈殿させ、濾取および洗浄した。その後、生成物を乾燥させた。
【0134】
82.9%のHPLC純度および83%の収率で、H-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0135】
(工程VI) 鎖状保護ペプチドFmoc-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
【0136】
1400グラムのH-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuおよび850グラムのフラグメントAを7.0LのACNに溶解させ、Oxyma/B-EDC・HCl/2,4,6-コリジン系でカップリング反応を行った。反応混合物をNaHCO水溶液で沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0137】
66.7%のHPLC純度および定量的収率で、鎖状保護ペプチドを得た。
【0138】
(実施例5)
鎖状先進中間体の合成
H-Cys(SO3H)-Cys(SO3H)-Glu-Tyr-Cys(SO3H)-Cys-Asn-Pro-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys-Tyr-OHのTFA塩
[分子量1772.98、遊離塩基]。
【0139】
(工程I) H-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuの合成
2126グラムの鎖状保護ペプチドを10.6LのACNに溶解させた。DEAを用いて塩基性脱保護を行った。反応混合物をiPrOAcで希釈し、ペプチド豊富な有機溶液をKHSO水溶液およびNaCl水溶液で洗浄し、次いで濃縮し、得られた残渣をiPrOAcに溶解させた。n-ヘプタンを加えて溶液を沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥した。
【0140】
61.7%のHPLC純度および89%の収率で、H-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuを得た。
【0141】
(工程II) 鎖状先進中間体H-Cys(SO3H)-Cys(SO3H)-Glu-Tyr-Cys(SO3H)-Cys-Asn-Pro-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys-Tyr-OHのTFA塩の合成
450グラムのH-Cys(SO3Na)-Cys(SO3Na)-Glu(tBu)-Tyr(tBu)-Cys(SO3Na)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Pro-Ala-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Thr(tBu)-Gly-Cys[Ψ(Dmp,H)pro]-Tyr(tBu)-OtBuをTFA-水-TIS溶液(20.3L-2.3L-0.5L)で処理した。MTBEの添加により反応混合物を沈殿させ、濾取、洗浄、乾燥させた。
【0142】
57.9%のHPLC純度および92%の収率で、鎖状先進中間体を得た。
【0143】
(実施例6)
粗製リナクロチド溶液の合成
【0144】
【化9】
【0145】
90グラムの鎖状先進中間体(推定49グラムのペプチド100%)をリン酸緩衝液(pH=7.4)およびIPAの混合液に投入し、16~32時間にわたって反応混合物を撹拌した。混合物を濃縮してIPAを除去し、ろ過した。
【0146】
53.8%のHPLC純度および72%の環化収率で、粗製リナクロチド溶液(ペプチド含量30グラム)を得た。
【0147】
(実施例7)
粗製リナクロチド溶液の精製
【0148】
粗製リナクロチド溶液(リナクロチド含有量75.4g)をC18カラム(直径100mm×最大高さ350mm)に充填し、3種の別個かつ連続したクロマトグラフィー工程を適用して精製した。
- 第1工程
グラジエント:180分間において、溶離液Bの0%から100%まで
溶離液A:0.15% TFA
溶離液B:溶離液A-ACN 1-1
- 第2工程
グラジエント:180分間において、溶離液Bの0%から100%まで
溶離液A:20mM NHPO緩衝液(pH 6)
溶離液B:溶離液A-ACN 1-1
- 第3工程
グラジエント:180分間において、溶離液Bの0%から100%まで
溶離液A:20~100mM AcOH
溶離液B:溶離液A-ACN 1-1
【0149】
最終的に、75.4グラムから、99.97%のクロマトグラフィー純度および55%の収率(3段階)で、41.7グラムの精製リナクロチドの溶液を得た。
【0150】
(実施例8)
tBuOH-水溶液からの高純度リナクロチド単離(オプション1)
精製リナクロチド溶液(41.7グラム、リナクロチド濃度4.2g/L)を以下のように処理した:
・ 以下の手法によりACNからtBuOHへの交換を行った:上記の溶液を先の例のC18カラムに充填し、AcOH(100mM)-tBuOH 1-1溶液で溶離させ、最終的にリナクロチドの水(AcOH)およびtBuOH溶液を得た;
・ 上記の溶液を以下のサイクル:
常圧下、-50℃におけるマトリックスの凍結;
-20℃、真空下における一次凍結乾燥段階;および
真空下、+20℃において凍結乾燥品を乾燥させる二次凍結乾燥段階、
に従って凍結乾燥した。
【0151】
40.9グラムのリナクロチド100%に相当する、46.4グラムの非晶質高純度リナクロチド粉末を得た(分析88.1%)。
【0152】
得られた製品は次のような分析属性を有する:
・ クロマトグラフィー純度(IPC) 99.94% (図1)、
・ IMD-リナクロチド LT 40ppm(LT LOD) (図4)、
・ Cys-1-α-ケトン-リナクロチド LT 40ppm(LT LOD) (図4)、
・ 多量体含有率 0.07%(図6)、
・ 単離収率 98%。
【0153】
得られた生成物のPXRDおよびDSC分析により、粉末が完全に非晶質であることを確認した(図8図9)。
【0154】
(実施例9)
水懸濁液からの高純度リナクロチド単離(オプション2)
精製リナクロチド溶液(リナクロチド含有量42.9g、濃度4.3g/L)を以下のように処理した:
・ 真空下での濃縮を実施してACNを除去し、水性懸濁液を得た;
・ 上記の溶液を以下のサイクル:
常圧下、-50℃におけるマトリックスの凍結;
-20℃、真空下における一次凍結乾燥段階;および
真空下、+20℃において凍結乾燥品を乾燥させる二次凍結乾燥段階、
に従って凍結乾燥した。
【0155】
39.1gのリナクロチド100%に相当する、40.9gの非晶質高純度リナクロチド粉末を得た(分析95.7%)。
【0156】
得られた製品は次のような分析属性を有する:
・ クロマトグラフィー純度(IPC) 99.91% (図2)、
・ IMD-リナクロチド LT 40ppm(LT LOD) (図5)、
・ Cys-1-α-ケトン-リナクロチド LT 40ppm(LT LOD) (図5)、
・ 多量体含有率 0.06%(図7)、
・ 単離収率 91%。
【0157】
得られた生成物のPXRDおよびDSC分析により、粉末が完全に非晶質固体であることを確認した(図10図11)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】