(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】カテキンを用いたFGFR3関連認知障害の処置のための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20241219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241219BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20241219BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20241219BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241219BHJP
C07K 14/71 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P43/00 111
A61P25/28
A61P19/00
A61P19/08
A23L33/10 ZNA
C07K14/71
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535437
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2022086107
(87)【国際公開番号】W WO2023111165
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ルジェ-マル,ロランス
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA96
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA60
(57)【要約】
本発明者らは、脳において発現されたFGFR3機能獲得型突然変異が、認知障害及び行動障害を誘発するという強いエビデンスを提供する。FGFR3の恒常的活性化及びその下流シグナル伝達経路が、これらの行動障害の原因であるというエビデンスを提供するために、本発明者らは、少なくとも7日間、カテキン異性体の皮下注射を使用して、Fgfr3A385E/+マウスを処置した。さらに、本発明者らは、Fgfr3N534K/+マウスを瓶による処置を用いて処置した。処置は、短期間の学習及び対処戦略における異常を回復させる。したがって、本発明は、治療有効量の少なくとも1つのカテキンを被検者に投与する工程を含む、それを必要とする被検者におけるFGFR3関連認知障害の処置法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の少なくとも1つのカテキンを被検者に投与する工程を含む、それを必要とする被検者におけるFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)関連認知障害を処置する方法。
【請求項2】
前記被検者が、小児又は成人である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記被検者が、FGFR3の機能獲得型突然変異を有する、請求項1の方法。
【請求項4】
FGFR3の機能獲得型突然変異が、N540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S又はN540T突然変異である、請求項3の方法。
【請求項5】
FGFR3機能獲得型突然変異が、A391E突然変異である、請求項3の方法。
【請求項6】
前記カテキンが(+)-カテキンである、請求項1の方法。
【請求項7】
前記カテキンが(-)-カテキンである、請求項1の方法。
【請求項8】
前記カテキンが(+)-エピカテキンである、請求項1の方法。
【請求項9】
前記カテキンが(-)-エピカテキンである、請求項1の方法。
【請求項10】
前記被検者が、FGFR3関連骨格疾患を患っている、請求項1の方法。
【請求項11】
FGFR3関連骨格疾患が、軟骨低形成症(HCH)、軟骨無形成症(ACH)、タナトフォリック骨異形成症(TD)、頭蓋縫合早期癒合症、及び低身長症からなる群より選択される、請求項10の方法。
【請求項12】
FGFR3関連骨格疾患が、軟骨低形成症(HCH)である、請求項11の方法。
【請求項13】
FGFR3関連骨格疾患が、軟骨無形成症(ACH)である、請求項11の方法。
【請求項14】
FGFR3関連骨格疾患が、頭蓋縫合早期癒合症である、請求項11の方法。
【請求項15】
頭蓋縫合早期癒合症が、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)である、請求項14の方法。
【請求項16】
前記被検者に、活性原薬としての治療有効量のカテキンと少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含んでいる、医薬組成物で投与される、請求項1の方法。
【請求項17】
前記被検者に、治療有効量のカテキンを含んでいる食品組成物で投与される、請求項1の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、医学、特に骨格疾患及び神経科の分野に存する。
【0002】
発明の背景:
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)ファミリーは、骨発生及び骨格疾患において重要な役割を果たしている。FGFR1、FGFR2及びFGFR3のミスセンス突然変異は、頭蓋骨縫合の早期癒合によって特徴付けられる、一連の症候性の頭蓋縫合早期癒合症の原因である(Robin et al., 1993; Twigg and Wilkie, 2015)。2つの特定のFGFR3優性突然変異が、希少な症候性の頭蓋縫合早期癒合症である、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN[MIM612247])、及び最も多い症候性の頭蓋縫合早期癒合症である、ムエンケ症候群(MS[MIM602849])の原因である(Wilkie et al., 2010)。黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)患者は、黒色表皮腫を呈するが、その他の点ではFGFR2関連クルーゾン症候群患者に似ている:彼らは、頭蓋骨の冠状縫合の早期癒合、短頭症、中顔面低形成、及び頭蓋椎骨接合部異常によって特徴付けられる(Arnaud-Lopez et al., 2007; Di Rocco et al., 2011; Meyers et al., 1995; Mir A et al., 2013)。黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)は、FGFR3の膜貫通ドメイン内に局在している単一点突然変異(p.Ala391Glu)によって定義される(Li et al., 2006; Meyers et al., 1995)。異常な頭蓋冠、頭蓋底、及び顔面成長の結果の候補としては、頭蓋内圧の上昇、聴覚障害及び視力障害、脳血流障害、後脳形成異常、脊髄空洞症、睡眠時無呼吸、及び他因子発達遅延が挙げられる。いくつかの研究が、記憶容量、注意力、不安、及び情動の制御の障害によって特徴付けられる、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症における認知障害を報告している(Kruszka et al., 1993; Maliepaard et al., 2014; Yarnell et al., 2015)。FGFR3は、軟骨内骨化の重要な調節因子として広く認識されている。しかしながら、縫合性成長の生物機能及び膜性骨化におけるその役割は、あまり知られていない。黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群のp.Ala391Glu突然変異の役割は未だ探究されていない。本発明者らは、優性p.Ala385Glu突然変異を発現している、最初のCANマウスモデル(FgfrA385E/+)を作製した。Fgfr3A385E/+マウスは、頭蓋縫合早期癒合症が存在せず、正常な頭蓋脳の比率を示した。中枢神経系では、FGFR3は、認知機序に必須な脳構造である海馬に高度に発現されている。
【0003】
FGFR3関連軟骨異形成、例えば軟骨無形成症、発達遅延と黒色表皮腫を伴う重度軟骨無形成症(SADDAN)、及び軟骨低形成症(HCH)は、短い手足、頭蓋底異常、巨頭症、聴覚消失、中顔面低形成、下顎前突症、及びあまり頻繁に起こらないが重大な臨床的特色である軽度から中等度の知的能力障害及び学習障害によって特徴付けられる。本発明者らは、優性なp.Asn540Lys突然変異を発現している、最初のHCHマウスモデル(Fgfr3N534Lys/+)を作製した。Fgfr3A385E/+マウスは、軽度の低身長症、頭蓋縫合早期癒合症の非存在、及び正常な頭蓋脳の比率、及び記憶障害を示した。
【0004】
しかしながら、認知行動におけるFGFR3の機能獲得型突然変異の影響は、今まで全く研究されたことがなかった。
【0005】
発明の要約:
本発明は、特許請求の範囲によって定義される。特に、本発明は、FGFR3関連認知障害の処置のための方法及び組成物に関する。
【0006】
発明の詳細な説明:
線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)の機能獲得型突然変異(p.Ala391Glu)は、稀な病型の頭蓋縫合早期癒合症:黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)の原因である。CAN患者は、頭蓋骨の冠状縫合の早期癒合、中顔面低形成、黒色表皮腫、及び神経障害によって特徴付けられる。FGFR3は、長骨成長の負の調節因子として定義されている。しかしながら、頭蓋骨の縫合性成長の生物機能におけるCAN突然変異p.Ala391Gluの役割は、依然として探究されていない。本発明者らは、CAN突然変異が、リガンドとは独立して受容体の過剰活性化を誘導し、タンパク質の成熟を攪乱したことを観察した。本発明者らは、優性なp.Ala385Glu突然変異を発現している最初のCANマウスモデル(Fgfr3A385E/+)、及び優性なp.Asn540Lys突然変異を発現しているHCHマウスモデル(Fgfr3N534Lys/+)を作製した。Fgfr3A385E/+マウスは、頭蓋縫合早期癒合症の不在及び正常な頭蓋脳の比率を示した。しかしながら、これらのCAN及び軟骨低形成症の成体マウスの海馬を分析することで、本発明者らは、FGFR3の過剰活性化が、歯状回の前駆細胞の増殖及び神経発生を減少させることに関連していたことを示した。結果的に、行動試験がFgfr3A385E/+ マウスにおいて実施され、海馬依存性記憶障害及び異常な対処戦略が観察された。最後に、カテキンを使用して、本発明者らは、Fgfr3A385E/+ マウス脳におけるFGFR3の過剰活性化を阻害し、これにより、Fgfr3A385E/+ マウスは行動障害及び認知障害を回復した。このことは、脳内のFgfr3の過剰活性化に関連した最初の行動異常を強調する。それは、頭蓋縫合早期癒合症及び軟骨異形成における学習プロセス及び情動応答において、FGFR3によって果たされる役割のより良い理解を可能とする。
【0007】
したがって、本発明の第一の目的は、治療有効量の少なくとも1つのカテキンを被検者に投与する工程を含む、それを必要とする被検者におけるFGFR3関連認知障害を処置する方法に関する。
【0008】
本明細書において使用する「被検者」又は「患者」という用語は、FGFR3に関連した認知障害を患っているか又は患うであろう。いくつかの実施態様では、患者は小児である。いくつかの実施態様では、患者は、未熟な乳児である。いくつかの実施態様では、患者は15歳未満である。いくつかの実施態様では、患者は10歳未満である。いくつかの実施態様では、患者は7歳未満である。いくつかの実施態様では、患者は5歳未満である。いくつかの実施態様では、患者は3歳未満である。いくつかの実施態様では、患者は成人である。いくつかの実施態様では、被検者は15歳を超えている。いくつかの実施態様では、被検者は20歳を超えている。いくつかの実施態様では、被検者は25歳を超えている。いくつかの実施態様では、被検者は30歳を超えている。いくつかの実施態様では、被検者は35歳を超えている。いくつかの実施態様では、患者は高齢者である。
【0009】
いくつかの実施態様では、被検者は、恒常的に活性であるFGFR3受容体変異体を有する。いくつかの実施態様では、被検者は、FGFR3機能獲得型突然変異を有する。
【0010】
本明細書において使用する「線維芽細胞増殖因子」(FGF)という用語は、マクロファージによって産生される細胞シグナル伝達タンパク質の一ファミリーに関する;それらは、多種多様なプロセスに、最も顕著には動物細胞における正常な発達のための必須成分として関与している。それらの機能における不規則性により、一連の発達異常が起こる。これらの増殖因子は典型的には、細胞表面受容体を活性化する、細胞外を起源とする、全身性又は局所性に循環している分子として作用する。FGFの明確な特性は、それらがヘパリン及び硫酸ヘパリンに結合するということである。したがって、いくつかは、硫酸ヘパリンプロテオグリカンを含有している組織の細胞外マトリックスに捕捉され、損傷又は組織リモデリング時に局所的に放出される。
【0011】
本明細書において使用する「線維芽細胞増殖因子受容体」(FGFR)という用語は、線維芽細胞増殖因子(FGF)タンパク質ファミリーのメンバーに結合する受容体に関する。これらの中のいくつかの受容体は、病的容態に関与している。明確に異なる膜性FGFRが、脊椎動物において同定され、それらの全てが、チロシンキナーゼスーパーファミリーに属する:FGFR1(線維芽細胞増殖因子受容体1も参照)(=CD331)、FGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体2も参照)(=CD332)、FGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3も参照)(=CD333)、FGFR4(線維芽細胞増殖因子受容体4も参照)(=CD334)、FGFRL1(線維芽細胞増殖因子受容体様1も参照)及びFGFR6。
【0012】
本明細書において使用する「FGFR3」、「FGFR3チロシンキナーゼ受容体」及び「FGFR3受容体」という用語は、本明細書全体を通して同義語として使用され、FGFR3の全ての天然アイソフォームを指す。FGFR3の例示的なヒトアミノ酸配列は配列番号1によって示される。
【化1】
【0013】
本明細書において使用する「FGFR3機能獲得型突然変異」、「恒常的に活性であるFGFR3受容体変異体」、「恒常的に活性なFGFR3の突然変異体」又は「恒常的活性を示しているFGFR3突然変異体」という表現は同義語として使用され、生物学的活性を示している(すなわち下流シグナル伝達をトリガーする)、及び/又はFGFリガンドの存在下で対応する野生型受容体の生物学的活性よりも高い生物学的活性を示している、該受容体の突然変異体を指す。本発明に記載の恒常的に活性であるFGFR3変異体は特に、(残基は、線維芽細胞増殖因子受容体3アイソフォーム1の前駆体(806アミノ酸長)におけるそれらの位置に応じて番号が付けられている):84位のセリン残基がリジンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてS84Lと命名される);200位のアルギニン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてR200Cと命名される);248位のアルギニン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてR248Cと命名される);249位のセリン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてS249Cと命名される);250位のプロリン残基がアルギニンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてP250Rと命名される);262位のアスパラギン残基がヒスチジンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてN262Hと命名される);268位のグリシン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてG268Cと命名される);278位のチロシン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてY278Cと命名される);279位のセリン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてS279Cと命名される);370位のグリシン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてG370Cと命名される);371位のセリン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてS371Cと命名される);373位のチロシン残基がシステインで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてY373Cと命名される);380位のグリシン残基がアルギニンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてG380Rと命名される);381位のバリン残基がグルタメートで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてV381Eと命名される);391位のアラニン残基がグルタメートで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてA391Eと命名される);540位のアスパラギン残基がリジンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてN540Kと命名される);終止コドンが、塩基置換に因り排除されている突然変異体、特に終止コドンが、アルギニン、システイン、グリシン、セリン、又はトリプトファンのコドンにおいて突然変異している突然変異体(本明細書では以下においてそれぞれX807R、X807C、X807G、X807S及びX807Wと命名される);650位のリジン残基が別の残基、特にメチオニン、グルタメート、アスパラギン又はグルタミンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてK650M、K650E、K650N及びK650Qと命名される);528位のメチオニン残基がイソロイシンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてM528Iと命名される);538位のイソロイシン残基がバリンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてI538Vと命名される);540位のアスパラギン残基がセリンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてN540Sと命名される);540位のアスパラギン残基がトレオニンで置換されている突然変異体(本明細書では以下においてN540Tと命名される)からなる群より選択される。典型的には、本発明に記載の恒常的に活性なFGFR3変異体は、N540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S、N540T又はA391E突然変異体である。
【0014】
本明細書において使用する「認知障害」という用語は、うつ病、記憶、知覚、緩慢さ、及び解決困難の問題を含む、一連の症状に関する。認知障害は、いくつかの精神障害(精神病、気分障害、不安症)における症状として存在し得るが、それらは主に、脳傷害と同義である。本明細書において使用する「FGFR3関連認知障害」という用語は、脳内のFGFR3の異常な過剰活性化によって、特にFGFR3受容体の恒常的に活性な突然変異体、特に上記のようなFGFR3受容体の恒常的に活性な突然変異体の発現によって引き起こされる、認知障害を意味することを意図する。
【0015】
いくつかの実施態様では、被検者は、エピソード記憶障害、抗鬱うつ効果、学習における異常、及びストレス応答からなる群より選択される、認知障害及び行動障害を有するか又は有するだろう。
【0016】
特に、恒常的に活性なFGFR3受容体変異体は、脳形態異常、学習障害及び記憶障害、並びに/あるいは神経発生の減少を誘発する。本明細書において使用する「神経発生」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、新規ニューロンが脳内で形成されるプロセスに関する。神経発生は、胚が発達中である場合には重要であるが、生誕後及び全生涯を通じて特定の脳領域内において継続される。成熟した脳は、多くの特殊化された機能の領域、並びに、構造及び接続において異なるニューロンを有する。例えば、海馬は、記憶及び空間のナビゲーションにおいて重要な役割を果たしている脳領域であるが、これは単独で少なくとも27個の異なる種類のニューロンを有する。脳内の信じられないほどのニューロンの多様性は、胚発生中の調節された神経発生から生じる。プロセス中に、神経幹細胞は分化し、すなわち、それらは脳内の特定の時期及び領域において、多くの特殊化された細胞型のいずれか1つとなる。
【0017】
いくつかの実施態様では、被検者は、FGFR3関連骨格疾患を患っている。
【0018】
本明細書において使用する「FGFR3関連骨格疾患」という用語は、FGFR3の異常に増加した活性化によって、特に恒常的に活性なFGFR3受容体の突然変異体、特に上記のような恒常的に活性なFGFR3受容体の突然変異体の発現によって引き起こされた、骨格疾患を意味することを意図する。
【0019】
いくつかの実施態様では、FGFR3関連骨格疾患は好ましくは、FGFR3関連軟骨異形成及びFGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症である。
【0020】
本明細書において使用する「FGFR3関連軟骨異形成」は、低身長症、例えば軟骨低形成症(HCH)、タナトフォリック骨異形成症(TD)I型、タナトフォリック骨異形成症II型、軟骨無形成症(ACH)、及びSADDAN(発達遅延と黒色表皮腫を伴う重度軟骨無形成症)を含むがこれらに限定されない。
【0021】
特に、FGFR3関連骨格疾患は低身長症である。
【0022】
本明細書において使用する「低身長症」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、遺伝子的容態又は医学的容態から起こる、短い縫合を指す。低身長症は一般的には、147cm以下の成人の身長として定義される。
【0023】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、軟骨低形成症(HCH)である。
【0024】
本明細書において使用する「軟骨低形成症」(HCH)という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、不釣り合いに短い縫合、四肢短縮、及び身体の未発達の部分と比較して大きく見える頭部、及び軽度から中等度の知的障害に関する。
【0025】
いくつかの実施態様では、FGFR3関連軟骨異形成は、N540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S又はN540Tの恒常的に活性なFGFR3受容体の突然変異体の発現によって引き起こされる軟骨低形成症である。
【0026】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、軟骨無形成症(ACH)である。
【0027】
本明細書において使用する「軟骨無形成症」(ACH)という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、手及び足は短いが、胴体は典型的には正常な長さであり、拡大した頭部及び突出した前頭部を有する、遺伝子欠損に関する。
【0028】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、タナトフォリック骨異形成症(TD)である。
【0029】
本明細書において使用する「タナトフォリック骨異形成症」(TD)という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、不釣合に小さな胸郭、極めて短い手足、及び手足上の余分な皮膚のひだによって特徴付けられる、重度の骨格の欠損に関する。
【0030】
いくつかの実施態様では、FGFR3関連骨格疾患は、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症である。いくつかの実施態様では、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症は、遺伝性疾患又は孤発性疾患に相当する。
【0031】
特に、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症は、FGFR3受容体のP250Rの恒常的に活性な突然変異体の発現によって引き起こされる、ムエンケ症候群である。
【0032】
特に、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症は、FGFR3受容体のA391Eの恒常的に活性な突然変異体の発現によって引き起こされる、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)である。
【0033】
本明細書において使用する「頭蓋縫合早期癒合症」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、患者の頭蓋骨の線維性縫合の1つ以上が、骨へと変わること(骨化)によって早期に癒合し、それにより、頭蓋骨の成長パターンは変化している、容態に関する。「黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群」(CAN)は非常に稀な頭蓋縫合早期癒合症である。
【0034】
本明細書において使用する「黒色表皮腫」という用語は、茶色から黒色で、境界の不明瞭な、ビロードのような質感の皮膚の色素沈着に関する。
【0035】
本明細書において使用する「処置」又は「処置する」という用語は、予防的処置又は防止的処置、並びに、治癒的で患者の容態を改善する処置又は疾患修飾的処置(疾患に罹るリスクがあるか又は疾患に罹っていることが疑われる患者、並びに、病気であるか又は疾患若しくは医学的容態を患っていると診断されている患者の処置を含む)の両方を指し、これは臨床的再発の抑制も含む。障害又は再発している障害の1つ以上の症状を予防、治癒、その発症を遅延、その重症度を低減、又は寛解するために、あるいは、このような処置を行なわなかった時に予想される生存期間を超えて患者の生存期間を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に障害に罹る可能性のある患者に処置が投与され得る。「治療処方計画」によって、病気の処置のパターン、例えば療法中に使用される投薬パターンを意味する。治療処方計画は、誘導処方計画及び維持処方計画を含み得る。「誘導処方計画」又は「誘導期間」という語句は、疾患の初期処置に使用される治療処方計画(又は治療処方計画の一部)を指す。誘導処方計画の一般的目標は、処置処方計画の初期期間中に患者に高いレベルの薬物を提供することである。誘導処方計画は、(部分的に又は全体に)「負荷処方計画」を使用し得、これは医師が維持処方計画中に使用するであろうよりも多くの用量の薬物を投与すること、医師が維持処方計画中に薬物を投与するであろうよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含み得る。「維持処方計画」又は「維持期間」という語句は、例えば、患者が長期間(数か月又は数年間)にわたり寛解を保つために、病気の処置中に患者の維持のために使用される、治療処方計画(又は治療処方計画の一部)を指す。維持処方計画は、連続的療法(例えば、定期的な間隔で、例えば1日1回、週1回、月1回、年1回などに薬物を投与)又は断続的療法(例えば、間断的処置、断続的処置、再発時における処置、又は特定の予め決定された基準[例えば、疾患の徴候など]の到達時の処置)を使用し得る。
【0036】
本明細書において使用する「予防すること」という用語は、このような用語が適用される障害又は容態の発症を遅延又は予防することを目的としている、予防法又は予防プロセスを特徴付けることを意図する。
【0037】
遺伝子又は核酸の表現の脈絡で使用される場合の「発現」という用語は、遺伝子に含まれる情報から、遺伝子産物への変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接的な転写産物(例えばmRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA、又は任意の他の種類のRNA)又はmRNAの翻訳によって産生されたタンパク質(すなわちFGFR3)であり得る。
【0038】
本明細書において使用する「カテキン」という用語は、一般式(I):
【化2】
を有する、一種の天然フェノール及び抗酸化剤である、フラバン-3-オールである。
【0039】
カテキンは植物の二次代謝物であり、そして、フラボノイド化学物質ファミリーの一部であるフラバン-3-オール(又は単にフラバノール)の群に属する。カテキンは、2つのベンゼン環(A環及びB環と呼ばれる)と、C3上にヒドロキシル基を有するジヒドロピランヘテロ環(C環)を有する。A環は、レゾルシノール部分に類似しているが、B環は、カテコール部分に類似している。分子のC2及び3上には2つの不斉中心が存在する。それ故、カテキンは、4つのジアステレオ異性体を有する:異性体の中の2つは、トランス立体配置であり、カテキンと呼ばれ、他の2つは、シス立体配置であり、エピカテキンと呼ばれる。最もよく見られるカテキン異性体は(+)-カテキンである。他の立体異性体は(-)カテキン又はent-カテキンである。最もよく見られるエピカテキン異性体は(-)エピカテキン(L-エピカテキン、エピカテコール、(-)-エピカテコール、1-アカカテキン(acacatechin)、1-エピカテコール、エピ-カテキン、2,3-シス-エピカテキン、又は(2R,3R)-(-)-エピカテキンの名称でも知られる)である。カテキンを産生するか、合成するか、又は抽出する方法は、当業者には周知である。
【0040】
いくつかの実施態様では、カテキン異性体は、(+)-カテキン(2R,3S)である。本明細書において使用する「(+)-カテキン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、以下の式:
【化3】
を有する。
【0041】
いくつかの実施態様では、カテキン異性体は、(-)-カテキン(2S,3R)である。本明細書において使用する「(-)-カテキン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、以下の式:
【化4】
を有する。
【0042】
いくつかの実施態様では、エピカテキン異性体は、(+)-エピカテキン(2R,3S)である。本明細書において使用する「(+)-エピカテキン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、以下の式:
【化5】
を有する。
【0043】
いくつかの実施態様では、エピカテキン異性体は(-)-エピカテキン(2R,3R)である。本明細書において使用する「(-)-エピカテキン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、(2R,3R)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,4-ジヒドロ―2H-クロメン-3,5,7-トリオールを指し、以下の式:
【化6】
を有している。
【0044】
いくつかの実施態様では、(-)-エピカテキンは実質的に純粋な(-)-エピカテキンである。本明細書において使用する「実質的に純粋な」という用語は、関連物質の不純物などの不純物が全く存在しないこと、又はほぼ完全に存在しないことを指す。例えば、(-)-エピカテキン組成物が、実質的に純粋であると言われる場合、検出可能な関連物質の不純物は全く存在しないか、又は単一の関連物質の不純物が検出される場合には、それは0.1重量%以下の量で存在するか、又は複数の関連物質の不純物が検出される場合には、それらは、0.6重量%以下の量で凝集物中に存在する。本発明に記載の実質的に純粋な(-)-エピカテキンは、インビボ及び/又はインビトロで、FGFR3の下流シグナル伝達経路の機能的活性化を阻害又は排除することができる。実質的に純粋な(-)-エピカテキンは、FGFR3の下流シグナル伝達経路の機能的活性化を少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70、75若しくは80%、さらに好ましくは85、90、95、若しくは100%、又は好ましくは少なくとも約300%又は好ましくは少なくとも約500%阻害し得る。
【0045】
いくつかの実施態様では、被検者は、治療有効量のカテキンを含んでいる医薬組成物で投与される。
【0046】
本明細書において使用する「投与すること」又は「投与」という用語は、物質(それは体外に存在しているので)(例えばカテキン)を患者に、例えば経口送達(例えば瓶を用いた処置)、脳室内、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達、及び/又は、本明細書に記載であるか若しくは当技術分野において公知である任意の他の物理的送達法によって、送達する作用を指す。疾患又はその症状が処置される場合、物質の投与は典型的には、疾患又はその症状の発症後に行なわれる。疾患又はその症状が予防される場合、物質の投与は典型的には、疾患又はその症状の発症前に行なわれる。
【0047】
本発明によると、カテキンは、カテキンが脳に達するのを可能とする、任意の適切な方法を使用して患者に投与される。いくつかの実施態様では、カテキンは、患者に経口的に(すなわち瓶を用いての処置)又は全身に(すなわち全身投与を介して)投与された。したがって、いくつかの実施態様では、カテキンは、循環系に入り、そして全身に分配されるように患者に投与される。いくつかの実施態様では、カテキンは、局所投与によって、例えば視床下部への局所投与によって患者に投与される。
【0048】
「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な用量及び期間において有効な量を指す。カテキンの治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに、個体においてカテキンが所望の応答を惹起する能力などの要因に応じて変更されてもよい。治療有効量はまた、カテキンのあらゆる毒性作用又は有害作用よりも、治療的に有益な効果がまさる量でもある。薬物についての効果的な用量及び用量処方計画は、処置される予定の疾患又は容態に依存し、当業者によって決定され得る。当技術分野における通常の技能を有する医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を決定及び処方し得る。例えば、医師は、所望の治療効果を達成するのに必要とされるよりも低いレベルで、医薬組成物に使用される薬物の用量を開始し得、そして所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加し得る。一般的には、本発明の組成物の適切な用量は、特定の用量処方計画に従って治療効果を発生するのに有効な最低の用量である化合物の量であろう。このような有効な用量は一般的には、上記の要因に依存する。例えば、治療用途のための治療有効量は、疾患の進行を安定化させるその能力によって測定され得る。当業者は、患者の体格、患者の症状の重症度、及び選択される具体的な組成物又は投与経路などのこのような要因に基づいて、このような量を決定することができるだろう。カテキンの治療有効量の例示的で非制限的な範囲は、約0.1~100mg/kg、例えば約0.1~50mg/kg、例えば約0.1~20mg/kg、例えば約0.1m~10mg/kg、例えば約0.5、例えば約0.3、約1、約3mg/kg、約5mg/kg、又は約8mg/kgである。上記の処置法及び使用法における用量の処方計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)がもたらされるように調整される。例えば、単一のボーラスが投与されても、数回の分割用量が経時的に投与されても、又は用量は、治療状況の緊急性によって指示される通りに比例的に減少又は増加させてもよい。いくつかの実施態様では、処置の有効性は、治療中に、例えば所定の時点でモニタリングされる。非制限的な例として、本発明に記載の処置は、本発明の薬剤の1日量として、1日あたり約0.1~100mg/kg、例えば0.2、0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90若しくは100mg/kgの量で、処置開始後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39若しくは40日目の少なくとも1日に、又は代替的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19若しくは20週目の少なくとも1週において、又はその任意の組合せで、1回量若しくは分割用量を24、12、8、6、4若しくは2時間毎に、又はその任意の組合せを使用して提供されてもよい。
【0049】
いくつかの実施態様では、患者には、活性原薬として治療有効量のカテキンと少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含んでいる、医薬組成物で投与される。
【0050】
本明細書において使用する「活性原薬」又は「活性成分」という用語は同義語として使用される。本明細書において使用する「医薬組成物」という用語は、担体及び/又は賦形剤などの他の物質を含む、本明細書に記載の組成物又はその薬学的に許容される塩を指す。ここに提供されるような医薬組成物は典型的には、薬学的に許容される担体を含む。
【0051】
本明細書において使用する「薬学的に許容される担体」という用語は、所望の特定の剤形に適しているような、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、又は他の液体ビヒクル、分散剤、又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤、又は乳化剤、保存剤、固体結合剤、潤滑剤などを含む。レミントン薬科学、第16版、E. W. Martin(Mack Publishing社、ペンシルバニア州イーストン、1980)は、医薬組成物の製剤化に使用される様々な担体及びその調製のための公知の技術を開示している。
【0052】
薬学的に許容される担体又は賦形剤は、任意の種類の無毒性の固体、半固体、又は液体の充填剤、希釈剤、封入剤材料、又は製剤化補助剤を指す。典型的には、医薬組成物は、注射することのできる製剤にとって薬学的に許容可能であるビヒクルを含有している。これらは、特に、等張性で無菌の食塩水溶液(リン酸一ナトリウム又は二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウムなど、又はこのような塩の混合物)、又は場合に応じて滅菌水若しくは生理食塩水が添加されると、注射溶液の復元を可能とする乾燥した、特に凍結乾燥させた組成物であり得る。注射用途に適した医薬剤形は、無菌水性液剤又は分散剤;ゴマ油、ピーナッツ油、又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び、無菌注射液剤若しくは分散剤の即時調製のための無菌粉末を含む。全ての場合において、剤形は無菌でなければならず、容易にシリンジが扱える程度まで流動性でなければならない。それは製造及び保存の条件下で安定でなければならず、そして細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から防御されていなければならない。無菌注射液剤は、本発明の薬剤を、必要な量で、必要とされるような上記に列挙されている他のいくつかの成分と共に適切な溶媒中に取り込み、続いて、滅菌ろ過することによって調製される。一般的には、分散剤は、基本分散媒体と、上記に列挙されたものの中から必要とされる他の成分とを含有している無菌ビヒクルに、様々な滅菌された活性成分を取り込むことによって調製される。無菌注射液剤の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥技術及び凍結乾燥技術であり、これにより、以前に滅菌ろ過されたその溶液から活性成分と任意の追加の所望の成分の粉末が生じる。
【0053】
いくつかの実施態様では、被検者には、治療有効量のカテキンを含んでいる食品組成物で投与される。
【0054】
典型的には、食品組成物は、有効量のカテキンを含んでいる、食品製品、食品添加物、食品成分、機能性食品、医療食、健康補助食品、栄養補助食品、栄養サプリメント、又は経口調製物を含むか又はからなる。いくつかの実施態様では、食品組成物は、完全な食品組成物、食品サプリメント、栄養補助組成物などから選択される。本発明の組成物は、食品成分及び/又はフィード成分として使用されてもよい。食品成分は、用途及び/又は適用形態及び/又は投与形態に応じて、液体の剤形であっても、又は固体の剤形であってもよい。本発明の食品組成物は、有効量のカテキンを食品の基剤に添加することなどの公知の方法を使用して作製され得る。本発明の食品製品、食品添加物、食品成分、機能性食品、医療食、健康補助食品、栄養補助食品、栄養サプリメント、又は経口調製物を含む組成物は、固体であっても、半固体であっても、又は液体であってもよい。それは、食品製品又は食品サプリメントの形態、例えば錠剤、ゲル剤、散剤、カプセル剤、ドリンク剤、棒状体、瓶を用いた処置などの形態であり得る。例えば、該組成物は、小袋に包装された粉末の剤形であってもよく、これは水、フルーツジュース、牛乳、又は別の飲料に溶かすことができる。
【0055】
本明細書において使用する「食品」という用語は、追加の栄養摂取又は食品サプリメント組成物を必要としない、液体(すなわち飲み物)、固体、又は半固体の食事組成物、特に全体が食品の組成物(食品代用物)を指す。食品サプリメント組成物は、他の手段によって栄養の摂取を完全に代用しない。本明細書において使用する「食品製品」、「食品添加物」、「食品成分」又は「フィード成分」という用語は、機能性食品若しくは食料品であるか又は機能性食品若しくは食料品に栄養サプリメントとして添加することのできる、調合物を含む。「栄養食品」又は「栄養補助食品」又は「機能性食品」によって、健康にとって有益な効果を有しているか、又は生理的機能を向上させることのできる、成分を含有している、食料品を意味する。「食品サプリメント」によって、通常の食品の食事を完遂する目的を有する食料品を意味する。食品サプリメントは、それらが単独で若しくは少量で組合せとして摂取される場合には、栄養分又は栄養効果若しくは生理学的効果を有している他の物質の濃縮された発生源である。本明細書において使用する「機能性食品」という用語は、食料品及び最近開発された対応する製品を要約し、その重要性は、それらが栄養及び味覚についてだけではなく、特定の成分の物質についても価値があることに帰する。本発明によると、健康の中期又は長期維持及び促進が重要である。これに関して、治療以外の用途が好ましい。しかしながら、健康の予防的な側面及び促進、並びに、製品の食品の特徴は、機能性食品という用語によって最もよく明らかとなる。多くの場合、これらは、各種取り合わせ及び選択(本発明においても該当するように)、精製、濃縮、添加によってもますます蓄積された製品に関する。特に錠剤又は丸剤の剤形の、単離された活性な物質は含まれない。機能性食品の法律上の定義は全くないが、この領域に関心を持つ患者の大半は、それらは、基本的な栄養効果を超えた特定の健康効果を有するとして販売されている食品であるということに同意する。したがって、機能性食品は、食品に特定の機能、例えば純粋な栄養効果以外の医学的利点又は生理学的利点を付与する構成成分又は成分(例えば本明細書に記載のもの)をそれらに取り込んでいる、通常の食品である。
【0056】
いくつかの実施態様では、食品組成物は、機能性飲み物又は治療用飲み物、喉の渇きを癒す飲み物、又は通常の飲み物である、飲み物である。例えば、本発明の組成物は、一成分として、清涼飲料、フルーツジュース、又は乳清タンパク質を含んでいる飲料、健康茶、ココア飲料、牛乳飲料、及び乳酸菌飲料、ヨーグルト及び飲むヨーグルト、チーズ、アイスクリーム、かき氷、及びデザート、菓子、ビスケット、ケーキ、及びケーキの素、スナック食品、バランスのとれた食品及び飲料、果物の詰め物、飾りの糖蜜(care glaze)、チョコレートパンの詰め物、チーズケーキの風味のある詰め物、フルーツ味のケーキの詰め物、ケーキ及びドーナツのアイシング、インスタントパンの詰め物のクリーム、クッキー用の詰め物、すぐ使用できるパンの詰め物、カロリーを低減させた詰め物、成人用栄養飲料、酸性化大豆/ジュース飲料、無菌/レトルトチョコレート飲料、バーミックス、粉末飲料、カルシウム強化大豆/プレーン及びチョコレートミルク、カルシウム強化コーヒー飲料に使用され得る。
【0057】
本発明の食品製品、食品添加物、食品成分、機能性食品、医療食、健康補助食品、栄養補助食品、栄養サプリメント、又は経口調製物を含む、食品組成物は典型的には、担体又はビヒクルを含む。「担体」又は「ビヒクル」は、投与に適した物質を意味し、これには、当技術分野において公知である任意のこのような物質、例えば無毒性であり、そして該組成物の任意の構成成分に有害に相互作用しない、任意の液体、ゲル、溶媒、液体希釈剤、可溶化剤などが挙げられる。栄養的に許容される担体の例としては、例えば、水、塩溶液、アルコール、シリコン、ワックス、黄色ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド及びジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチル-セルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。いくつかの実施態様では、本発明の食品製品、食品添加物、食品成分、機能性食品、医療食、健康補助食品、栄養補助食品、栄養サプリメント、又は経口調製物を含む組成物は、保護親水コロイド(例えばガム、タンパク質、加工デンプン)、結合剤、フィルム形成剤、封入剤/材料、壁/殻材料、マトリックス化合物、コーティング剤、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、等位複合体、分散剤、湿潤剤、加工補助剤(溶媒)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ジェル化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤、及び抗微生物剤を含有している。該組成物はまた、従来の薬学的な添加剤及び補助剤、賦形剤及び希釈剤を含有していてもよく、これには、水、任意の起源のゼラチン、植物性ゴム、リグニンスルホン酸塩、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、芳香剤、保存剤、安定化剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが挙げられるがこれらに限定されない。全ての場合において、このようなさらなる成分は、目的のレシピエントに対するその適切性に関して選択されるだろう。
【0058】
本発明は、以下の図面及び実施例によってさらに説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例及び図面は、いずれにしても、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1A】軟骨低形成症(HCH)マウスモデルにおける学習障害及び抗うつ的行動。2つの独立した群における4か月令の雄の動物において実施された強制水泳試験(FST)。FSTは、2日間連続して実施された。1日目及び2日目の両方について不動期間を評価した(Fgfr3
+/+、n=15;Fgfr3
N534K/+、n=9、Fgfr
N534K/++(-)-エピカテキン、n=10)。
【
図1B】軟骨低形成症(HCH)マウスモデルにおける学習障害及び抗うつ的行動。尾懸垂試験(TST)が、連続して2日間、4か月令の雄の動物において実施され、不動期間が、両方(Fgfr3
+/+、n=15;Fgfr
N534K/+、n=9、Fgfr
N534K/++(-)-エピカテキン、n=10)について評価された。
【
図2A】学習障害が、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の皮下注射によって逆戻りする。新規物体位置認識(NOL)が、4か月令の雄の動物において実施された。訓練期間から24時間後に、識別指数を測定し、Fgfr
N534K/+及びそれらの対照の同腹仔の記憶能力を評価した。
【
図2B】学習障害が、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の皮下注射によって逆戻りする。新規物体認識(NOR)が、4か月令の雄の動物において実施された。訓練期間から24時間後に、識別指数を測定し、Fgfr
N534K/++(-)-エピカテキン、Fgfr3
N534K/+及びそれらの対照の同腹仔の記憶能力を評価した。NOR及びNOLが、Fgfr
N534K/+(n=9)、Fgfr3
N534K/++(-)-エピカテキン(n=10)及びそれらの対照に対して実施された。
【
図3A】黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)マウスモデルにおける学習障害及び抗うつ的行動。2つの独立した群における4か月令の雄の動物において実施された強制水泳試験(FST)。FSTは、2日間連続して実施された。1日目及び2日目の両方について不動期間を評価した(Fgfr3
+/+、n=9;Fgfr3
A385E/+、n=4、Fgfr3
A385E/++(-)-エピカテキン、n=5)。
【
図3B】黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)マウスモデルにおける学習障害及び抗うつ的行動。尾懸垂試験(TST)が、連続して2日間、4か月令の雄の動物において実施され、不動期間が、両方(Fgfr3
+/+、n=9;Fgfr3
A385E/+n=4、Fgfr
A385E/++(-)-エピカテキン、n=5)について評価された。
【
図4A】学習障害は、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の皮下注射によって逆戻りする。新規物体位置認識(NOL)が、4か月令の雄の動物において実施された。訓練期間から24時間後に、識別指数を測定し、Fgfr3
A385E/+及びそれらの対照の同腹仔の記憶能力を評価した。
【
図4B】学習障害は、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の皮下注射によって逆戻りする。新規物体認識(NOR)が、4か月令の雄の動物において実施された。訓練期間から24時間後に、識別指数を測定し、Fgfr3
A385E/++(-)-エピカテキン、Fgfr3
A385E/+及びそれらの対照の同腹仔の記憶能力を評価した。NOR及びNOLが、Fgfr3
+/+、n=9;Fgfr3
A385E/+、n=4、Fgfr3
A385E/++(-)-エピカテキン、n=5に対して実施された。
【
図5A】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。尾懸垂試験(TST)が、Fgfr3
+/+、n=15;Fgfr
N534K/+、n=12、Fgfr
N534K/++(-)-エピカテキン、n=13について評価された。
【
図5B】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。強制水泳試験(FST)が、Fgfr3
+/+、n=15;Fgfr3
N534K/+、n=12、Fgfr3
N534K/++(-)-エピカテキン、n=13について評価された。
【
図5C】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。空間記憶(NOL)が、Fgfr3
+/+、n=15;Fgfr3
N534K/+、n=12、Fgfr3
N534K/++(-)-エピカテキン、n=13について評価された。
【
図5D】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。エピソード記憶(NOR)が、Fgfr3
+/+、n=15;Fgfr3
N534K/+、n=12、Fgfr3
N534K/++(-)-エピカテキン、n=13について評価された。
【
図5E】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。空間記憶(MWM)が、Fgfr3
+/+、n=9;Fgfr3
N534K/+、n=7、Fgfr3
N534K/++(-)-エピカテキン、n=8)について評価された。
【
図5F】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。バービーム:自発運動及び細かい協調が、Fgfr3
+/+、n=14;Fgfr
N534K/+、n=11、Fgfr
N534K/++(-)-エピカテキン、n=11について評価された。
【
図5G】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。バービーム:自発運動及び細かい協調が、Fgfr3
+/+、n=14;Fgfr
N534K/+、n=11、Fgfr
N534K/++(-)-エピカテキン、n=11について評価された。
【
図5H】学習障害は、軟骨低形成症(HCH)マウスモデルへの(-)エピカテキンの1日1回の瓶を用いた処置によって逆戻りする。連合記憶(CFC)が、Fgfr3
+/+、n=14;Fgfr3
N534K/+、n=10、Fgfr3
N534K/++(-)-エピカテキン、n=12について評価された
【0060】
定義:
本明細書において使用する「FGFR3A385E/+」という用語は、記憶障害が観察された、CANマウスモデルに関する。
【0061】
本明細書において使用する「FGFR3N534K/+」という用語は、軟骨低形成症マウスモデルに関する。突然変異マウスは、成長障害、成長軟骨板異常、軟骨結合の部分的消失、及び脊柱前弯を含む、軟骨低形成症の臨床的特色を示す。
【0062】
本明細書において使用する「FGFR3Y367C/+」という用語は、ヒト軟骨無形成症(ACH)表現型を再現するマウスモデルに関する。軟骨無形成症の臨床的特徴(例えば、大後頭孔のサイズの減少に関連した低身長症、下顎骨の形成不全、難聴、椎間板異常、及び繊毛形成障害)(Pannier et al. 2009, 2010, Mugniery et al 2012, Di Rocco et al 2014, Biosse Duplan et al 2016, Komla Ebri et al 2016, Martin et al 2018)。
【0063】
実施例1:方法
全ての手順は、フランスの動物実験委員会によって承認された。ゲノムDNAは、NucleoSpin Tissueキット(マッハライ・ナーゲル社)を使用して製造業者の説明書に従って尾から単離された。マウスは、野生型及び突然変異型マウスの単離株について、以下のプライマー:5’-GTGGGGGTTCTGCGGTTGG-3’(配列番号2)及び5’-TGACAGGCTTGGCAGTACGG-3’(配列番号3)を使用して遺伝子型の判定が行なわれた。全ての分析について、野生型の同腹仔が対照として使用された。
【0064】
脳の核磁気共鳴
マウス脳の核磁気共鳴が、100μmの解像度で、小動物用の4.7-Tの核磁気共鳴装置(バイオスペック47/40;ブルカー社、米国マサチューセッツ州ビレリカ)を使用して小動物用イメージングプラットフォーム(ソルボンヌ・パリ都市大学医学部、フランス、パリ)で撮影された。Fgfr3A385E/+マウス及び5匹のFgfr3N534K/+雄マウス及び5匹の4か月令の対照の同腹仔に、撮影中にイソフルランガスの吸入で麻酔した。3次元の再構築及び測定は、Imaris(Bitplane社)を使用して実施された。
【0065】
手術及び薬物による処置
4か月令のFgfr3N534K/+マウス及びFgfr3A385E/+マウスは、少なくとも7日間、1日1回、(-)-エピカテキン(0.15mg/kg)又はビヒクル(塩酸3.5mM、DMSO2%)の皮下投与を受けた。馴化並びにNOR及びNOLの試験のために、注射は、試験期間の1時間前に実施された。様々な試験についての注射時期:7日目にNOL、14日目にNOR、22日目にTST、及び24日目にFST。
【0066】
新規物体認識(NOR)の概念図式
本発明者らは、Glatigny et al., 2019に記載のような改訂版のNORタスクを使用した。マウスは、マウス収容施設から、それらのホームケージ内の試験部屋へと短い距離を運ばれ、試験開始前の少なくとも1時間は邪魔せず放置した。試験部屋は、2つの60Wの白熱電球を用いて照らされ、試験活動領域上のカメラを用いて行動の活動期間を記録した(灰色のプラスチックボックス(60×40×32cm))。マウスは、曝されている間には互いに接触又は見ることはできなかった。光の強度は、活動領域の全ての部分において同等であった(約20ルクス)。トリプリケートに使用可能な、2つの異なる物体が使用された。物体は、青色のセラミックのポット(直径6.5cm、高さ最大7.5cm)及び透明でプラスチック製の漏斗(直径8.5cm、高さ最大8.5cm)であった。新規物体として並びに物体の左/右の位置決定としての役目を果たす物体は、各群内でバランスがとれていた。物体は、パイロット実験及び訓練期間において決定されているのと同等なレベルの探索を惹起した。曝露の合間には、マウスは、標準的ケージ内に個々に収容され、物体及び活動領域はファゴスフォア(phagosphore)で清潔にし、寝床は交換された。
【0067】
NORの概念図式は、(3日間にわたる)3つの期間からなる:馴化期間、訓練期間、及び試験期間。マウスは、各々の曝露の開始時に活動領域の中心に常に配置された。1日目:馴化期間に、マウスには5分間与えられて、全く物体を有さない活動領域を探索し、その後、マウスのホームケージに戻された。2日目の訓練期間に、マウスは10分間、活動領域の中心から対称的な反対の位置に整列した2つの同一な物体を探索することを許可されて、その後、ホームケージに移された。3日目の試験期間に、マウスに15分間与えられて、同じ活動領域内の2つの物体(既存物体と新規物体)を、同じ物体の位置を維持しながら探索させた。
【0068】
以下の行動は、物体の探索と判断された:鼻又は前足で物体を嗅ぐ、舐める、若しくは触れるか、又は1cm以下の距離で鼻を物体に向ける。マウスが物体の上面にあったか又は完全に不動だった場合には、調査はスコア化されなかった。識別指数は、(新規物体の探索に費やされた時間-既存物体の探索に費やされた時間)/(両方の物体の探索に費やされた総時間)として計算された。対照として、新規物体認識(NOR)の訓練期間中の(右/左)物体の位置又は物体A対Bについての指向指数が、試験に曝されたマウスの全ての群において測定された。本発明者らはここで、任意の曝された物体(A又はB)又は任意の方向(右/左)に対する初期の嗜好性は、どの群においても観察されなかったことを確認する。各マウスについて自発運動が評価された。行動は、処置に盲検的な2人の観察者によってビデオでスコア化され、物体の全探索時間が、試験期間において定量された。
【0069】
新規物体位置認識(NOL)
新規物体位置認識タスクについて、試験期間中に、新規物体を提示するのではなく、マウスは、両方の既存の物体(1つの物体は、活動領域内の異なる場所に位置する)に遭遇したということを除いて、全ての手順が、新規物体認識タスクと同一であった。新規/再配置された物体の探索の時間及び頻度は、記憶の指数として測定される。行動は、処置に盲検的な2人の観察者によってビデオでスコア化され、試験期間における物体の全探索時間が定量された。
【0070】
明暗遷移試験(D/LT)
この試験は、明るく照射された領域に対するげっ歯類の生まれつきの嫌悪感、及び、そのライトが示すストレス要因に応答した自発的な探索行動に基づく。試験装置は、暗く安全な区画と、照射された嫌悪的な区画からなる。照らされた区画は、8Wの蛍光管(1000ルクス)を用いて明るく照射された。ナイーブマウスは、試験チャンバー内の暗い領域の中央部に、照らされた区画への入口から顔を背けて個々に配置された。マウスを10分間試験し、2つのパラメーターを記録した:照らされた区画で費やされた時間、並びに、不安関連行動及び探索活動の指標である区画間の移動の数。行動は、actiMot2ソフトウェア(PhenoMasterソフトウェア、TSE)を使用した赤外光ビーム活動モニターを使用してスコア化された。
【0071】
オープンフィールド試験(OFT)
この試験は、明るく照らされた領域に対するげっ歯類の嫌悪感を利用する。各マウスは、OFTチャンバー(43×43cmのチャンバー)の中央部に置かれ、30分間探索させた。マウスは、actiMot2ソフトウェア(PhenoMasterソフトウェア、TSE)を使用した赤外光ビーム活動モニターによって、各試験セッション全体を通してモニタリングされた。全体の運動活動は、移動した全距離として定量化された(歩行運動)。不安は、オープンフィールドチャンバーの中央部vs周辺部において費やされた時間及び距離を測定することによって定量化された。
【0072】
尾懸垂試験(TST)
この試験は、げっ歯類が、不可避なストレスの多い条件に入れられた場合に、初期の回避型動作の後に、不動の姿勢を生じるという観察に基づく。各マウスは、床から25cm上に制御不可能な様式で、その尾によって吊るされる。マウスを5分間試験し、不動で費やされた時間を定量した。
【0073】
強制水泳試験(FST)
この試験は、TSTと類似した観察に基づく。各マウスは、水(23~25℃)で満たされたシリンダー(高さ:25cm、直径:10cm)に配置される。マウスを5分間試験し、不動(行動的絶望)で費やされた時間を定量した。
【0074】
モリス水迷路
モリス水迷路(MWM)は、開始場所から進んで、水浸した回避プラットフォームの位置を決定するために、遠くの手がかりに依拠する、マウスの空間学習試験である。空間学習は、8日間の反復試験を通して評価され、参照記憶はプラットフォーム領域の場所によって決定される。
【0075】
バービーム
バービームは、マウスが、直立姿勢を維持し、高架ナロービームを横切り安全なプラットフォームへと歩くかどうかを評価することによって、マウスにおける巧緻運動に関する協調性及びバランスを測定するための試験である。この試験は、2日間連続して行なわれ、本発明者らは、マウスがビームを横切るのに要する時間及び横切った最大の距離を測定した。
【0076】
実施例2:軟骨低形成症モデル
軟骨低形成症の臨床的特色
既存の文献は、軟骨低形成症の人々が、学習障害及び精神遅滞についてリスクが上昇していることを示す。学習障害は、推定50%の人々に存在し得、小児が学齢期となるまで目立たない場合もある。認知障害は、小児の10~12%に存在する。肥大した側頭葉、海馬の形成異常、及び側頭葉の発育異常を含む、構造的な脳の異常の起こり得る複数の領域が存在する(Bober MB et al., 2013., Linnankivi T et al., 2012; Philpott CM et al., 2013)。軟骨低形成症患者は、脳葉の発育異常(Kannu et al. 2005)及び異常な海馬の配置(Linnankivi et al. 2012)を呈する。さらに、軟骨低形成症患者は、学習障害、軽度の知的障害、全体的な発達遅延、並びに時折の痙攣及び癲癇を呈する(Linnankivi et al. 2012)。
【0077】
Fgfr3N534K/+マウスは、脳の形態異常を示す
本発明者らは、最も一般的な低軟骨形成症の突然変異である、FGFR3チロシンキナーゼIドメインに局在するp.Asn540Lysを発現している、低軟骨形成症マウスモデルFgfr3Asn534Lys/+を研究した。中枢神経系では、FGFR3は、記憶統合機序に必須な脳構造である海馬において高度に発現されている。本発明者らは、Fgfr3N534K/+マウスが、大きな頭蓋骨を有する頭蓋骨の異常、及び頭蓋底軟骨結合の早期癒合を示すことを記載した。脳異常及び脳葉の発育異常が、Fgfr3機能獲得型突然変異マウスモデルの特徴であると報告された。それ故、本発明者らは、Fgfr3N534K/+マウス及びそれらの対照同腹仔の脳の核磁気共鳴及び3次元での復元を実施した。本発明者らは、低軟骨形成症マウスにおいて海馬(p=0.6905)及び全脳容積(p=0.3810)の有意な異常を全く観察しなかった(データは示されていない)。核磁気共鳴分析は、対照と比較した場合の脳の形状の改変を示した(データは示されていない)。
【0078】
Fgfr3N534K/+マウスにおける学習障害及び記憶障害
成人の神経発生は、海馬の記憶能の維持において重要な役割を果たすことが知られている。我々は、4か月令の雄のFgfr3Asn534Lys/+マウス及びそれらの対照同腹仔に、空間学習(新規物体位置認識、NOL)及びエピソード学習(新規物体認識、NOR)及び記憶を測定する、一連の行動試験に耐えさせた。NORでは、本発明者らは、低軟骨形成症突然変異マウスが、試験期間中、新規物体を、対照の同腹仔よりもあまり有意に(p<<0.0001)探索しなかったことを発見した(データは示されていない)。空間記憶がNOL試験を通して分析された場合に、同じ障害が観察された。実際に、本発明者らは、Fgfr3N534K/+マウスが、試験期間中、再配置された物体を、対照の同腹仔よりもあまり有意に探索しなかったことを発見した(p<0.0001)(データは示されていない)。
【0079】
ストレス及び記憶行動試験
本発明者らは、4か月令の雄のマウスに、海馬連想記憶(一試行文脈的恐怖条件付け、CFC)に関連した試験を実施した。この試験は、本発明者らに、記憶統合に関連した事象をマウスに思い出させる能力を理解させることを可能とする。この行動試験中に、本発明者らはマウスのフリージング時間を評価し、突然変異型マウスの基線は、訓練期間中に対照の同腹仔と類似していた(p=0.2303)。しかしながら、試験日の間、Fgfr3Asn534Lys/+マウスは、対照マウスと比較して、文脈的に誘発されたフリージング時間の増加を示し(p=0.0466)、このことは、条件付け恐怖記憶が、突然変異型マウスにおいて悪化していることを示す(データは示されていない)。
【0080】
FGFR3の抗うつ効果
FGF経路は、うつ病に関与している可能性がある。それ故、本発明者らは、尾懸垂試験(TST)及び強制水泳試験(FST)をFgfr3
N534K/+マウスにおいて実施した(
図1A及び1B)。本発明者らは、少なくとも(-)-エピカテキンを用いて、Fgfr3
N534K/+マウスを7日間かけて処置した。その尾により吊り下げられるか又は水泳を強制させるという短期間及び不可避なストレスに耐えた動物は、うつ病に関連した行動に特徴的な不動な姿勢を発生し、これがスコア化されるだろう。これらの試験を実施して、本発明者らは、TST又はFSTのいずれかにおいて、Fgfr3
Asn534Lys/+マウスが、不動の姿勢の減少を呈することを発見し、このことは、FGFR3の機能獲得型突然変異が、抗うつ効果を有し得ることを示唆する。
【0081】
(-)-エピカテキンによる処置は、Fgfr3
Y367C/+マウスにおいて観察された認知障害を逆戻りさせるのに十分である
(-)-エピカテキンの皮下注射は、Fgfr3マウスモデル(Fgfr3
Y367C/+)におけるインビボ及び/又はインビトロにおける、FGFR3下流シグナル伝達経路の機能的活性化を消失又は排除するのに、並びに、絨毛形成の障害を回復するのに十分である(De la Luz Cadiz-Gurrea M et al 2019, Martin L et al 2021)。学習障害におけるFGFR3機能獲得型の影響を確認するために、本発明者らは、少なくとも(-)-エピカテキンを用いて、Fgfr3
N534K/+マウスを7日間処置した。結果として、本発明者らは、(-)-エピカテキンの皮下注射が、Fgfr
N534K/+マウスにおいて観察される、空間(NOL)(
図2A)及びエピソード記憶障害(NOR)(
図2B)を回復するのに十分であることを発見した。実際には、注射された突然変異型マウスは、対照の同腹仔と同じレベルで、再配置された物体(NOL)(p=0.9538)及び新規物体(NOR)(p=0.8697)を探索することができた(
図2A及び2B)。要するにこれらの結果は、学習及び記憶の調節における、FGFR3の重要性を確認する。(-)-エピカテキンを用いたこれらの行動異常の回復は、本発明者らの仮説を確認し、そしてFGFR3の過剰活性化が、FGFR3関連軟骨異形成症患者の認知表現型に関与していたことを支持した。
【0082】
実施例3:CANモデル
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群の臨床的特色
FGFR3突然変異に関連したCAN症候群は、FGFR2突然変異(Coll et al., 2018, 2016; Di Rocco et al., 2011)に起因するクルーゾン症候群[MIM123500]に類似した骨格表現型を示す:眼球-眼窩の不均衡、下顎前突症、中顔面低形成(データは示されていない)、並びに、冠状縫合及び矢状縫合の早期癒合(様々な程度で)(データは示されていない)に続発する短頭症。頭蓋冠の異常は、脳に対する機械的圧力を起こし、頭蓋圧上昇のリスクを高める(Al-Namnam et al., 2019)(データは示されていない)。さらに、脳のMRIは、3人の関連性のないCAN患者における軽度の側頭部の異常を明らかとした。罹患症例は、構造の角度が変化した、肥厚した海馬傍回溝を呈した(データは示されていない)。クローバー型の頭蓋骨を呈している1つの症例は、解釈することができなかった。
【0083】
FGFR2関連クルーゾン症候群患者及びFGFR3関連クルーゾン症候群患者の両方における頭蓋底異常は、前側から中顔面の低形成、及び、後側から頭蓋脊椎接合部への異常の原因である。蝶後頭軟骨結合の早期癒合は、短縮された頭蓋底に関連し、一方、後頭内軟骨結合の早期癒合は、CAN患者において狭くなった大後頭孔に関連している(データは示されていない)。
【0084】
骨格表現型は、CANマウスモデルFgfr3A385E/+において軽度に影響を受けている
骨格に対するCAN突然変異の効果を評価するために、本発明者らは、p.Ala391Gluヒト突然変異に相当する偏在性p.Ala385Gluミスセンス突然変異を発現しているマウスモデルを作製した(データは示されていない)。FGFR3 p.Ala385Glu転写物は、線維芽細胞及び頭頂骨の骨芽細胞において検出された(データは示されていない)。ヒト疾患と同じように、明瞭な手足の短縮された表現型は、Fgfr3A385E/+マウスの出生前及び新生児の段階(データは示されていない)から成人段階(データは示されていない)までにおいて全く観察されなかった。体重、鼻-肛門、並びに大腿及び脛骨の長さは、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3+/+マウスにおいて類似していた(データは示されていない)。正常な大腿の成長が、コラーゲンX型の染色により判明した肥大帯の異常を伴うことなく、良好に組織化された成長板を示しているFgfr3A385E/+における軟骨の評価によって確認された(データは示されていない)。異常な表現型が存在しないことを確認するために、両方の構造パラメーターを評価した。3か月令の大腿のマイクロコンピューター断層撮影画像により、Fgfr3A385E/+マウスの海綿骨及び皮質骨の正常な構造が判明した(データは示されていない)。
【0085】
頭蓋顔面の表現型を、頭蓋骨のマイクロコンピューター断層撮影の撮影を使用して評価した。Fgfr3A385E/+マウスは正常な頭蓋顔面の特色を示し(データは示されていない);冠状縫合及び頭蓋底の軟骨結合は、対照マウスと同じように、生後21日目に開存性であった(データは示されていない)。Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3+/+マウスの目印に基づいた幾何学的形態測定(Heuze et al., 2010)は、頭蓋骨の形状に全く差異は示さなかった(d=0.0148;p=0.0940)。しかしながら、下顎骨の形状は、2つのマウス群の間に有意差があった(d=0.0159;P<0.01)(データは示されていない)。前頭骨-頭頂骨の縫合の早期閉鎖がないことを確認するために、本発明者らは、頭頂骨のFgfr3A385E/+の骨芽細胞のインビトロでの機能を評価した。ミネラル化能、増殖、及びマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)活性化の有意差は、対照と比較して、Fgfr3A385E/+マウスの骨芽細胞において全く観察されなかった(データは示されていない)。これらの全てのデータは、骨芽細胞で発現されたp.Ala385Glu突然変異が活動性ではなく、結果として頭蓋顔面の発生に影響を及ぼさなかったと本発明者らが結論付けることを可能とした(データは示されていない)。これらのデータは、Fgfr3A385E/+マウスにおける頭蓋縫合早期癒合症の表現型が存在しないことを説明する。皮膚に関して、過角化の兆候も、表皮の肥厚化及び色素沈着における改変の兆候も、Fgfr3A385E/+マウスにおいて検出されなかった(データは示されていない)。
【0086】
Fgfr3A385E/+マウスモデルは、歯状回が神経発生を減少させたことを示す
構造的な脳の異常が、CAN患者(Gurbuz et al., 2016)(データは示されていない)及びムエンケ患者(Abdel-Salam et al., 2011; Grosso et al., 2003; Okubo et al., 2017)において記載されている。これらの異常は、海馬及び側頭葉の異常な形態を含む。頭蓋縫合の早期癒合が、頭蓋骨の形状を改変し、そして正常な脳の成長を損ない、頭蓋内圧上昇、視力障害、難聴、及び認知障害などの機能的問題を引き起こすことがよく知られている(Di Rocco et al., 2011)。以前の研究は、ムエンケ症候群患者が、適応機能及び実行機能の障害を呈したことを示した。この行動表現型は、作業記憶の不足、注意欠陥多動障害、情動制御、及び不安を含んでいた(Yarnell et al., 2015)。これらの神経障害は、認知機能の制御についての、脳内のFGFR3の影響を示唆する。したがって、本発明者らは、4か月令の時にFgfr3A385E/+マウスにおける磁気共鳴画像撮影(MRI)を実施し、様々な脳領域の容積を測定した。
【0087】
Fgfr3A385E/+マウスの様々な脳領域において容積の改変及びあらゆる圧迫は全く観察されず、このことは、正常な胚脳発達を示唆する(データは示されていない)。しかしながら、FGF及びFGFRは、中枢神経系における神経幹細胞及び神経前駆細胞の増殖及び分化に関与していることが知られている(Huang et al., 2017; Kang and Hebert, 2015, Moldrich et al., 2011; Ohkubo et al., 2004; Stevens et al., 2012)。それ故、本発明者らは、Fgfr3A385E/+マウスの脳において発現されているFgfr3A385E突然変異が、成人の神経発生に影響を及ぼしている可能性があるという仮説を立てた。頭蓋顔面異常が存在しないことは、特に成人期間中に神経発生を評価する良い機会である。成人の神経発生におけるFgfr3の役割を探索したので、本発明者らは、免疫蛍光(データは示されていない)及びウェスタンブロット(データは示されていない)によって、Fgfr3A385E/+及びFgfr3+/+マウス海馬におけるFGFR3の類似した発現を観察した。しかしながら、FGFR3によって活性化された古典的MAPK経路は、Fgfrノックインマウスモデル(Komla-Ebri et al., 2016)及びFGFR3ノックアウトマウスモデル(Zhou et al., 2015)の両方において調節解除されていることが判明している。実際に、本発明者らは、成人の海馬の溶解液中におけるリン酸化Erk1/2の有意に増加した発現を観察し(データは示されていない)、したがって、脳内のFgfr3A385突然変異が、MAPK経路を活性化したことが確認された。FGFR3は、歯状回における前駆細胞の増殖及び神経細胞の分化において重要な役割を果たしている(Inglis-Broadgate et al., 2005; Kang and Hebert, 2015; Moldrich et al., 2011; Thomson et al., 2009)。4か月令のFgfr3A385Eの海馬において、NeuNマーカーを使用して、本発明者らは、歯状回の顆粒層の成熟神経領域が、対照と比較して有意に減少していることを示した(データは示されていない)。本発明者らは、この減少した神経集団が、減少した前駆細胞の増殖によって引き起こされたかどうかを評価した。細胞周期K167マーカーで陽性の細胞数は、Fgfr3A385E/+マウスの歯状回の顆粒細胞下帯において有意に減少していた(データは示されていない)。顆粒帯では、ダブルコルチン(DCX)免疫標識によって判明した神経の分化速度は僅かに減少している(データは示されていない)。要するに、これらのデータは、Fgfr3の機能獲得型突然変異が、主に増殖に影響を及ぼし、よって、歯状回における神経の成熟分化に影響を及ぼすことを強く示唆した。
【0088】
Fgfr3
A385E/+マウスモデルは、学習能力低下及び抗うつ効果を示す
減少したサイズの海馬構造及び減少した増殖が、ヒト及びマウスにおける記憶及び認知の変化に関連していることが示された(Kitamura and Inokuchi, 2014)。それ故、本発明者らは、4か月令のFgfr3
A385E/+マウス及びそれらの対照同腹仔に、海馬に関連した行動機能を反映すると考えられる一連の行動試験に耐えさせ、連合学習(一試行文脈的恐怖条件付け、CFC)及びエピソード学習(新規物体認識試験、NOR)及び空間学習(モリス水迷路、MWM)及び記憶を測定する(
図4A及び4B)。文脈的恐怖条件付けでは、突然変異マウスは、基線のフリージング時間には差異を全く示さなかった。しかしながら、Fgfr3機能獲得型突然変異により、それらの対照同腹仔と比較して、試験期間中に文脈的に誘発されたフリージング時間の減少がもたらされ、このことは、恐怖条件付け記憶は、突然変異マウスにおいて損なわれていることを示す(データは示されていない)。
【0089】
次に、本発明者らは、環境内の新規物体を認識するげっ歯類の能力を測定する、改変形のNOR概念図式((Denny et al., 2012; Ennaceur and Delacour, 1988)を使用した。野生型マウスは、既存物体から新規物体を区別することができ、より長い時間、新規物体を探索する傾向がある。(
図4A及び4B)に示されているように、4か月令のFgfr3
A385E/+マウスは、対照よりも有意に少ない新規物体を探索した。しかしながら、記憶が、モリス水迷路タスク(げっ歯類における空間学習及び記憶を評価する)を通して分析された場合には、障害は全く観察されなかった。特に、Fgfr3
A385E/+マウス及び対照は、オープンフィールド試験(OFT)及び明暗パラダイム(L/DT)において同等な成績を示し(データは示されていない)、このことは、それらの自発運動及び不安状態は未変化であったことを示す。
【0090】
次に、本発明者らは、強制水泳試験(FST)及び尾懸垂試験(TST)を使用して、不可避のストレスに対する対処戦略を評価した。(
図3A)に示されているように、4か月令のFgfr3
A385E/+マウスは、強制水泳試験中に対照マウスよりも、有意により少ない時間を不動で過ごした。同じ障害が、尾懸垂試験中に観察された。実際に、突然変異マウスは、対照の同腹仔よりも有意に少ない時間を不動で過ごした(
図3B)。
【0091】
要するに、これらのデータは、Fgfr3の機能獲得型突然変異が、海馬依存性のエピソード記憶及び恐怖連合記憶の獲得に有意に影響を及ぼし、不可避なストレスに対する対処戦略に影響を及ぼすことを実証する。
【0092】
重要なことには、これらのデータは、マウスにおけるFgfr3A385E突然変異が、作業記憶の不足、及び情動制御、及び注意欠陥多動障害を含む、ヒト患者において以前に記載された行動障害を再現したことを示す(Yarnell et al., 2015)。
【0093】
(-)-エピカテキンの皮下注射は、Fgfr3
A385E/+マウスの認知障害を回復させる
Fgfr3
A385E/+マウスにおける認知障害が、受容体のリン酸化の増加及びいくつかの下流シグナル伝達経路の活性化に起因したことを確認するために、本発明者らは、マウスを(-)-エピカテキンで処置することを決断した(De la Luz Cadiz-Gurrea M et al 2019, Martin L et al 2021)。4か月令のFgfr3
A385E/+マウス及びそれらの対照同腹仔は、少なくとも(-)-エピカテキン又はビヒクル溶液を用いた7日間かけての皮下注射を受け、そして2つの行動試験にかけられた(新規物体認識及び強制水泳試験;
図4B及び3A)。(-)-エピカテキンの注射は、Fgfr3
A385E/+マウスにおける新規物体認識パラダイムにおいて観察された記憶障害を逆戻りさせ(
図4B)、そして対照の同腹仔と比較して、強制水泳試験(
図3A)において観察された不可避なストレスに対する対処戦略を再確立した。Fgfr3
A385E/+マウスに、頭蓋脳の不均衡が存在しないこと、よって増加している可能性のある頭蓋内高血圧がないことにより、本発明者らは、観察された報告された行動異常が、脳に対するFgfr3
A385E突然変異の直接的な影響に起因していたと結論付けることが可能となる。(-)-エピカテキンを用いたこれらの行動異常の回復は、本発明者らの仮説を確認し、FGFR3の過剰活性化が、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症患者の認知表現型に関与していたという事実を支持した。
【0094】
実施例4:瓶(経口)による処置
(-)-エピカテキンの経口投与が、Fgfr3N534Kマウスの認知障害を回復させる
Fgfr3N534K/+マウスに観察された認知障害における脳FGFR3の直接的な関与を確認するために、本発明者らは、(-)-エピカテキンの瓶による処置を用いてマウスを処置することを決断した。動物を、瓶による(-)-エピカテキン(3mg/L)を用いて、行動試験前の4週間の間、処置した。(-)-エピカテキンは、FGFR3に対するその最も高い結合特異性のために選択された。
【0095】
ここで、成体Fgfr3
N534K/+マウス(軟骨低形成症マウスモデル)における瓶での(-)-エピカテキンによる処置は、空間記憶(新規物体位置認識;モリス水迷路、
図5C~5E)、エピソード記憶及び連想記憶(CFC、
図5H)の障害の回復、抗うつ効果(尾懸垂試験、強制水泳試験、
図5A及び5B)、並びに自発運動及び巧緻協調(バービーム、
図5F及び5G)を示した。これらのデータは、認知成績に対する、脳内のFgfr3機能獲得型突然変異の直接的な影響を実証した。本発明者らはまた、FGFR3が、海馬成人神経発生において主要な役割を果たしたことを実証し、そして本発明者らは、海馬の異常と、学習及びストレス応答の間の直接的な連関を確立した。
【0096】
これらの結果は、FGFR3機能獲得型突然変異(FGFR関連障害=軟骨無形成症、軟骨低形成症、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群、及びムエンケ症候群)及び記憶障害を伴う疾患を有している被検者における、認知障害の処置のための、カテキンに対する関心を強調した。
【0097】
考察
CAN症候群は、FGFR3における特定のp.Ala391Glu機能獲得型突然変異に関連した非常に希少な症候性の頭蓋縫合早期癒合症である(Meyers et al., 1995)。p.Ala391Glu突然変異は、FGFR3の過剰活性化を引き起こす効果があることが以前に開示されていた(Chen et al., 2013, 2011; Li et al., 2006)。
【0098】
Fgfr3A385E/+CANマウスモデルは、主な頭蓋顔面骨格表現型が存在しないことを示した。興味深いことには、Fgfr3A385E/+の表現型は、ムエンケ症候群のマウスモデルであるFgfr3P244R/P244Rマウスにおいて観察された表現型と同等であった。縫合及び軟骨結合は、ムエンケFgfr3P244R/P244R突然変異体において軽度に冒されていることが判明し、少数の個体において冠状縫合が癒合していた(Laurita et al., 2011; Twigg et al., 2008)。
【0099】
CAN及びムエンケにおいては、大後頭孔の狭窄に関連した頭蓋底の軟骨結合の早期癒合と組み合わせた、頭蓋冠の縫合の早期癒合により、患者の頭蓋内圧は上昇していた(Di Rocco et al., 2011)。頭蓋冠の早期癒合はまた、異常な海馬の発達を含む、脳構造の異常にも関連している(Grosso et al., 2003; Gurbuz et al., 2016; Okubo et al., 2017)。
【0100】
軟骨低形成症患者(14600MIM)は、四肢短縮低身長症、軽度の巨頭症、中顔面低形成、短い方形の腸骨、及び場合によっては黒色表皮腫によって特徴付けられる(Blomberg et al. 2010)。最も一般的な軟骨低形成症突然変異(p.Asn540Lys)は、FGFR3のチロシンキナーゼ1ドメインに局在している(Bonaventure et al. 1996; Rousseau et al. 1994)。
【0101】
軟骨低形成症患者は、脳葉の発育異常(Kannu et al. 2005)及び異常な海馬の配置(Linnankivi et al. 2012)を呈する。さらに、軟骨低形成症患者は、学習障害、軽度の知的障害、全体的な発達遅延、並びに時には痙攣及び癲癇を呈する(Linnankivi et al. 2012)。
【0102】
Fgfr3マウスモデルにおける、偏在性かつネスチンプロモーター下にある、タナトフォリック異形成に関連したマウスモデルFgfr3+/K644E突然変異に関する以前の研究は、大脳及び皮質の深刻な異常増殖を提示し、一方、Fgfr3-/-マウスは、未発達の新皮質を提示した(Inglis-Broadgate et al., 2005; Moldrich et al., 2011; Thomson et al., 2009, 2007)。頭蓋縫合早期癒合症に観察された頭蓋縫合の早期癒合は、脳の形態を改変し、そして慢性的な頭蓋内圧の上昇を介して認知障害に関連していると一般的に認識されている(Aldridge et al., 2010; Arnaud-Lopez et al., 2007; Gurbuz et al., 2016; Martinez-Abadias et al., 2011)。ここで、Fgfr3A385E/+マウスには異常な頭蓋骨表現型が存在しないことを利用して、本発明者らは、脳内のFgfr3機能獲得型突然変異を活性化する役割を分析した。Fgfr3A385E/+マウスの脳は、重度の形態学的な改変を呈さず、よって、Fgfr3A385E突然変異は、脳胚の神経発生に対して中等度の影響を及ぼしたことを示す。これとは対照的に、成人海馬神経発生の分析は、歯状回における前駆細胞の増殖減少を示し、これは歯状回の減少した顆粒帯によって支持された。
【0103】
興味深いことには、以前の研究は、FGFR1、2、3の機能欠失型突然変異において減少した前駆細胞の増殖を報告し、一方、FGFR3(Fgfr3TD11K650E)の過剰活性化は、歯状回における増加した前駆細胞の分化を促進する(Kang and Hebert, 2015)。本発明者らの結果は、これらの観察とは対照的である。本発明者らは、FGFR3の過剰活性化が、Fgfr3A385E/+マウスにおける減少した細胞増殖をもたらしたことを観察した。受容体のリン酸化レベルが神経発生に干渉したようであった:Fgfr3TD11K650E突然変異は、過剰な受容体活性化レベルをもたらし、一方、Fgfr3A385E突然変異は、より中程度の過剰活性化をもたらした。これらのデータは、FGFRによる海馬神経発生の調節が、FGFR3の活性化レベルに関連していることを示唆した。
【0104】
本発明者らは次に、脳認知機能に対する、Fgfr3A385E及びFgfr3N534K突然変異の影響を分析した。本発明者らは、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスが、自発運動、不安に関連した行動表現型又は空間記憶表現型を全く伴うことなく、作業記憶及びエピソード記憶の機能の重度の障害を示したことを観察した。記憶に対するFGFRシグナルの作用は不明であるが、現在まで、本発明者らの研究は、マウスにおいてFgfr3突然変異を認知異常に関連させた初めての研究である。機構的には、学習成績及び記憶成績の障害は、少なくとも部分的には、本発明者らの突然変異マウスにおいて観察される海馬の減少した神経発生に連関させ得る。興味深いことには、胚及び成体マウスにおけるFgfr2の欠失は、歯状回における前駆細胞の減少した増殖及び分化を示し、連想記憶能及び空間記憶能に対して特定の負の作用を及ぼす(Stevens et al., 2012)。要するに、本発明者らのデータは、Fgfr3機能獲得型突然変異が、重度の学習障害及び記憶障害をもたらし、海馬において成人の神経発生を減少させることを実証する。
【0105】
さらに、不可避なストレスに対する対処戦略の減少(以前の名称「うつ的行動」)が、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスにおいて観察された。このFGFRの役割は、受容体のダウンレギュレーションを伴うヒトにおける、大うつ病において以前に報告されていた(Evans et al., 2004)。さらに、FGFR3関連頭蓋縫合早期癒合症症候群を有する患者は、情動制御の障害及び不安行動を示した(de Jong et al., 2010; Maliepaard et al., 2014; Yarnell et al., 2015)。今日、頭蓋縫合早期癒合症の症例において、うつ病又は気分障害を報告した研究は全くなかった。動物モデル研究はまた、FGF2ノックアウトにおけるFGF2又は外来性FGF2注射の抗うつ効果及び抗不安効果も実証した(Elsayed et al., 2012; Salmaso et al., 2016)。FGF2とは対照的に、FGF9は、マウスにおいて抗うつ効果を果たす(Aurbach et al., 2015)。FGF2及びFGF9のどちらも、主要なFGFR3リガンドであり、そして他のFGFRにも結合することができる。これらの観察は本発明者らのデータに一致し、そして、様々なFGFとFGFR1、2、3の結合の複雑な組合せを含み得る。
【0106】
Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスに観察された認知障害における脳のFGFR3の直接的な関与を確認するために、本発明者らは、選択的な脳への注射により、(-)-エピカテキンを用いてマウスを処置することを決断した。(-)-エピカテキンは、FGFR3に対するその最も高い結合特異性のために選択され、そして以前の研究は、FGFR3関連軟骨無形成症マウスモデルの骨格異常における(-)-エピカテキンの有効性を示した(Martin et al 2021)。
【0107】
ここで、成体Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスへの(-)-エピカテキンの皮下注射は、作業記憶及びエピソード記憶の障害の回復並びに抗うつ効果を示した。これらのデータは、認知成績に対する、脳内のFgfr3機能獲得型突然変異の直接的な影響を実証した。本発明者らはまた、FGFR3が、成体の海馬の神経発生において主要な役割を果たしたことを実証し、そして本発明者らは、海馬の異常と、学習及びストレス応答の間の直接的な連関を確立した。
【0108】
これらの結果は、FGFR3機能獲得型突然変異を有している被検者における、認知障害の処置のためのカテキンの関心を強調した。
【0109】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献は、本発明が属する技術分野の最新技術を記載する。これらの参考文献の開示は、本開示への参照によりここに組み込まれる。
【0110】
【配列表】
【国際調査報告】