(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】N末端及び/又はC末端が切断された可溶性PH20ポリペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20241219BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20241219BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241219BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241219BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241219BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241219BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241219BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N9/26 Z ZNA
C12P21/02 A
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535481
(86)(22)【出願日】2023-06-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2023008621
(87)【国際公開番号】W WO2023249408
(87)【国際公開日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】10-2022-0076030
(32)【優先日】2022-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517432732
【氏名又は名称】アルテオジェン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】パク スンジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム ギュワン
(72)【発明者】
【氏名】ユン サンフン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヒュンナム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
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(57)【要約】
成熟した動物野生型PH20のN末端において1個~7個のアミノ酸残基が欠失した組換えPH20ポリペプチド及びその用途を提供する。本発明で提示する酵素活性及び生産性が増加したN末端及び/又はC末端が欠失したPH20ポリペプチドは、既存の組換えPH20ポリペプチドに比べて優れた発現量と酵素活性を示し、産業上の利用時に生産コストの低減による治療費用の減少をもたらし得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成熟した動物野生型PH20のN末端において1個~7個のアミノ酸残基が欠失した組換えPH20ポリペプチド。
【請求項2】
(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するヒト野生型PH20のうち、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
(b)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸配列を有する霊長類野生型PH20のうち、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
(c)配列番号9のアミノ酸配列を有するウシ野生型PH20のうち、D37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;及び
(d)配列番号10のアミノ酸配列を有するヒツジ野生型PH20のうち、D37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組換えPH20ポリペプチド。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列のうち、N37、F38、R39、A40、P41、P42で始まる配列を含む、請求項1に記載の組換えPH20ポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1のアミノ酸配列のうち、N37又はF38で始まる配列を含む、請求項1に記載の組換えPH20ポリペプチド。
【請求項5】
C末端における一部のアミノ酸残基がさらに欠失した、請求項1に記載の組換えPH20ポリペプチド。
【請求項6】
配列番号1のアミノ酸配列においてF468~Y482からなる群から選ばれるアミノ酸残基の次で切断されてC末端のアミノ酸残基が欠失したことを特徴とする、請求項5に記載の組換えPH20ポリペプチド。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列のうち、F468又はY482で終わる配列を含む、請求項6に記載の組換えPH20ポリペプチド。
【請求項8】
次に構成された群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組換えPH20ポリペプチド:
(1)配列番号1のアミノ酸配列のうちN37で始まり、Y482で終わる配列(N37-Y482)を含むPH20ポリペプチド;
(2)配列番号1のアミノ酸配列のうちN37で始まり、F468で終わる配列(N37-F468)を含むPH20ポリペプチド;
(3)配列番号1のアミノ酸配列のうちF38で始まり、Y482で終わる配列(F38-Y482)を含むPH20ポリペプチド;
(4) 配列番号1のアミノ酸配列のうちF38で始まり、F468で終わる配列(F38-Y468)を含むPH20ポリペプチド;
(5)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸配列のうちN37で始まり、L490で終わる配列(N37-L490)を含むPH20ポリペプチド;
(6)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸配列のうちF38で始まり、L490で終わる配列(F38-L490)を含むPH20ポリペプチド;
(7)配列番号9のアミノ酸配列のうちD37で始まり、H478で終わる配列(D37-H478)を含むPH20ポリペプチド;
(8)配列番号9のアミノ酸配列のうちF38で始まり、H478で終わる配列(F38-H478)を含むPH20ポリペプチド;
(9)配列番号10のアミノ酸配列のうちD37で始まり、H477で終わる配列(D37-H477)を含むPH20ポリペプチド;
(10)配列番号10のアミノ酸配列のうちF38で始まり、H477で終わる配列(F38-H477)を含むPH20ポリペプチド;
(11)配列番号10のアミノ酸配列のうちR39で始まり、H477で終わる配列(R39-H477)を含むPH20ポリペプチド;及び
(12)配列番号10のアミノ酸配列のうちA40で始まり、H477で終わる配列(A40-H477)を含むPH20ポリペプチド。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組換えPH20ポリペプチドをコードする核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項12】
動物細胞、植物細胞、酵母、大腸菌及び昆虫細胞からなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の宿主細胞を培養する段階を含む、組換えPH20ポリペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N末端及び/又はC末端が切断された可溶性PH20ポリペプチド及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝工学的な方法を用いて産業的に有用なタンパク質を生産する際に、組換え細胞内で或いは組換え細胞から分泌されるタンパク質の発現量を増やそうとする試みは続いてきた。既存に通常の様々な方法が試みられたし、それぞれの方法はそれなりの長短所がある。例えば、クローニング段階でプロモーター(Promoter)を適切に選択する方案が普遍的に用いられている。しかし、この場合には、タンパク質折り畳み(folding)が細胞内で律速段階(rate limiting step)であれば、使用するプロモーターによって組換えタンパク質の発現量が予測した通りに増加しない場合が多い(Su Xiao等、Curr Opin Struct Biol.2014,June32-38.)。
【0003】
細胞外に分泌されるタンパク質の発現量を高めるために、発現しようとするタンパク質のN末端に位置する固有のシグナルペプチドを他のタンパク質のシグナルペプチドで置換し、タンパク質の発現を増やす方法も用いられた(Kober,L.,Zehe,C.& Bode,J.,2013.Optimized Signal Peptides for the Development of High Expressing CHO Cell Lines.Biotechnology and bioengineering,110(4)、pp.1164-1173.)。この場合、タンパク質発現がそれ自体のシグナルペプチドを使用した時に比べてより増加する場合もあるが、たまにはタンパク質が発現して細胞内の小胞体(Endoplasmic Reticulum)の細胞膜を通過しながらシグナルペプチダーゼによって切断される時にシグナルペプチドと成熟したタンパク質のN末端アミノ酸との間を正確に切断できない場合が発生することもある。
【0004】
タンパク質の発現量を高めるための他の試みとしては、発現させようとするタンパク質とシャペロン(Chaperone)を共に発現させることにより、組換えタンパク質の折り畳み(folding)を助けるとともに、発現するタンパク質が凝集(aggregation)することを防ぎ、発現量を増やす方法などがある。しかしながら、この方法は、膜結合シャペロン(membrane bound Chaperone)を同時に組換え細胞内で発現させなければならない技術的な問題、及びシャペロン発現による細胞内での生理学的な問題などから、産業的にはよく使用されない。
【0005】
タンパク質の発現量を高めるためのさらに他の試みとしては、組換えタンパク質の特定部位に部位特異的突然変異(Site Directed Mutagenesis)を起こしてアミノ酸を置換することによって発現量を増加させる方法がある。ポリペプチドで構成されたタンパク質は、細胞内で生産される時に折り畳みによって3次構造を有するが、タンパク質の特定部位のアミノ酸を他のアミノ酸で置換することによって折り畳みに有利な状況を作り、続いて、これはタンパク質の発現量の増加につながり得る。この場合、多くの成功事例もあるが、アミノ酸修飾による免疫原性(immunogenicity)増加の虞などの現実的な問題を抱えている。
【0006】
ヒアルロナン(ヒアルロン酸:HA)は、多くの細胞の細胞外基質、特に、軟結合組織内で発見されるポリペプチドである。ヒアルロナンは、また、哺乳動物の皮膚、軟骨及び潤滑液(synovial fluid)から主に発見される。また、ヒアルロナンは目の硝子体液の主要な構成要素である。ヒアルロナンは水と血漿タンパク質の恒常性におけるような各種の生理過程で働く(Laurent TC等(1992) FASEB J6:2397-2404)。特定の疾患は、ヒアルロナンの発現及び/又は生産と関連がある。ヒアルロニダーゼは、ヒアルロナンを分解する酵素である。ヒアルロナンの加水分解を触媒することにより、ヒアルロニダーゼは、ヒアルロナン又は他のグリコサミノグリカンの蓄積に関連した疾患又は障害を治療することに使われてよい。また、ヒアルロナンは、皮下又は障壁の主な成分であるため、ヒアルロニダーゼは組織透過性を増加させ、したがって、皮下注射時に治療薬剤の分散及び伝達を増加させるために使用されてよい。
【0007】
天然型PH20ポリペプチドに基づく様々なヒアルロニダーゼ(例えば、ハイダーゼ(Hydase)TM、ビトラーゼ(Vitrase)TM、ワイダーゼ(Wydase)TM)が他の治療剤との併用によって、一般的に分散剤又は散布剤として使用されている。それらの多数は、ヒツジの睾丸又はウシの睾丸から抽出したPH20を含む形態である。
【0008】
ヒトPH20タンパク質は総509個のアミノ酸で構成されており、精子の血漿膜(plasma membrane)に存在する糖リン脂質結合(glycophosphoinositol lipid anchored)タンパク質として知られている。PH20は、血液内に存在するヒアルロニダーゼであるHyal1、Hyal2、Hyla3、或いはHyal4が酸性pHにおいてのみ活性があるのとは違い、中性pHにおいても活性を有しているため、薬物と共に混合して皮下注射用に開発され、産業的に有用に使用されている。
【0009】
最近では、PH20のC末端で糖リン脂質アンカー(glycophosphoinositol anchor)位置を構成する一部のアミノ酸が切断されて可溶性に転換した447個アミノ酸で構成された組換えヒトPH20ポリペプチドであるハイレネックス(Hylenex)TMが使用されており、これとは別にヒトPH20ポリペプチド変異体を用いた物質も開発されている。
【0010】
一方、ヒトPH20は、6箇所にN結合型グリコシル化(N-linked glycosylation)された糖タンパク質であって、非常に複雑な3次構造を有しており、産業的に有用な酵素を生産するためには、CHO細胞などの動物細胞で発現後に複雑な精製過程を経て使用される。したがって、ヒトPH20の産業的利用には、ヒトPH20遺伝子を含有する動物細胞の発酵培地内における発現量による生産性の向上が非常に重要である。
【0011】
このような技術的背景の下に、本発明者らは、N末端の切断、又はN末端及びC末端の切断が可溶性組換えPH20ポリペプチドの生産性を向上させ得ることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、生産性が向上した、N末端及び/又はC末端が切断された可溶性組換えPH20ポリペプチドを提供することである。
【0013】
本発明の目的は、前記N末端及び/又はC末端が切断された可溶性組換えPH20ポリペプチドをコードする核酸を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、前記核酸を含む組換え発現ベクターを提供することである。
【0015】
本発明の目的は、前記組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供することである。
【0016】
本発明の目的は、前記宿主細胞を培養する段階を含むN末端及び/又はC末端が切断された可溶性組換えPH20ポリペプチドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、成熟した動物野生型PH20のN末端において1個~7個のアミノ酸残基が欠失した組換えPH20ポリペプチドを提供する。
【0018】
具体的には、本発明に係る成熟した動物野生型PH20のN末端においてアミノ酸残基が欠失した組換えPH20ポリペプチドは、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するヒト野生型PH20のうち、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
(b)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸配列を有する霊長類野生型PH20のうち、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
(c)配列番号9のアミノ酸配列を有するウシ野生型PH20のうち、D37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;及び
(d)配列番号10のアミノ酸配列を有するヒツジ野生型PH20のうち、D37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
からなる群から選ばれることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明は、前記組換えPH20ポリペプチドをコードする核酸と、該核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0020】
また、本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞と、該宿主細胞を培養する段階を含むN末端及び/又はC末端が切断された可溶性組換えPH20ポリペプチドの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の具体的実施例によって、配列番号1のC末端がY482又はF468である場合にそれぞれN末端がL36、N37、F38、R39、A40で始まるPH20ポリペプチドの培養液における酵素活性を示す図である。各活性は、最も長いアミノ酸長を有するL36-Y482を基準にして相対活性百分率で表示している。
【
図2】本発明の具体的実施例によって、配列番号1のC末端がY482又はF468である場合にそれぞれN末端がL36、N37、F38、R39、A40で始まる精製されたPH20ポリペプチドのpH 5.3における酵素活性を比活性(Specific Activity)で示す図である。各活性は、最も長いアミノ酸長を有するL36-Y482を基準にして相対活性百分率で表示している。
【
図3】本発明の具体的実施例によって、配列番号1のC末端がY482又はF468である場合にそれぞれN末端がL36、N37、F38、R39、A40で始まる精製されたPH20ポリペプチドのpH 7.0における酵素活性を比活性で示す図である。各活性は、最も長いアミノ酸長を有するL36-Y482を基準にして相対活性百分率で表示している。
【
図4】配列番号1、配列番号2、配列番号9、配列番号10のアミノ酸配列をClustal Omega(https://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)を用いて多重配列整列(Multiple Sequence Alignment)を行った結果である。
【
図5】本発明の具体的実施例によって、配列番号2(C末端がY483)、配列番号9(C末端がH478)、配列番号10(C末端がH477)の場合にそれぞれN末端がL36、N37、又はD37、F38、R39、A40、P41で始まるPH20ポリペプチドの培養液の酵素活性を示す図である。各活性は測定値で表示している。
【
図6】本発明の具体的実施例によって、配列番号2(C末端がY483)、配列番号9(C末端がH478)、配列番号10(C末端がH477)の場合にそれぞれN末端がL36、N37、F38、R39、A40、P41で始まる精製されたPH20ポリペプチドのpH 5.3における酵素活性を比活性で示す図である。各活性は測定値で表示している。
【
図7】本発明の具体的実施例によって、配列番号1のL36-Y482、N37-482、F38-Y482に対して、シグナルペプチド(signal peptide)を異ならせ、培養液と精製された状態でのPH20ポリペプチドのpH 5.3における酵素活性を測定した結果である。ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin)のシグナルペプチド(signal peptide)を使用する場合の培養液及び精製タンパク質の酵素活性、ヒトPH20のシグナルペプチド(signal peptide)を使用する場合の培養液及び精製タンパク質の酵素活性、ヒト免疫グロブリンカッパ(Human Immunoglobulin kappa)のシグナルペプチド(signal peptide)を使用する場合の培養液及び精製タンパク質の酵素活性を表示している。培養液の酵素活性の尺度は、棒グラフで主Y軸に示されており、精製タンパク質の活性の尺度は、折れ線グラフで従Y軸に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に定義しない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われる命名法は、本技術分野によく知られており、通常使われるものである。
【0023】
PH20のC末端で切断されて可溶性に転換された組換えPH20ポリペプチドの産業上の利用可能性を拡張するために、本発明では、PH20のN末端をさらに切断し、生産性が格段に増加したN末端及び/又はC末端切断PH20ポリペプチドを提示する。本発明において「可溶性(soluble)」とは、水溶液中で凝集などが起きず、活性を有する3次元構造の形態を意味する。
【0024】
これにより、本発明は、成熟した動物野生型PH20のN末端において1個~7個のアミノ酸残基、好ましくは1~6個のアミノ酸残基、より好ましくは1~5個のアミノ酸残基、さらに好ましくは1~4個のアミノ酸残基、なかんずく好ましくは1~3個のアミノ酸残基、とりわけ好ましくは1~2個のアミノ酸残基、特に好ましくは1個のアミノ酸残基が欠失した組換えPH20ポリペプチドに関する。
【0025】
本発明において「成熟した動物野生型PH20」は、目的とする機能を示す形態の組換えPH20ポリペプチドを意味できる。本発明に係る成熟した動物野生型PH20は、例えば、細胞の外部に成熟した動物野生型PH20の分泌を促進させるシグナルペプチドなどが分泌過程で切断された状態を意味できる。
【0026】
前記動物は、例えば、哺乳類、齧歯類などであってよく、例えば、ヒト、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、シカ、ヒツジ、サルなどであってよいが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明に係る動物野生型PH20は、例えば、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するヒト野生型PH20のうち、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
(b)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸の配列を有する霊長類野生型PH20のうち、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;
(c)配列番号9のアミノ酸配列を有するウシ野生型PH20のうち、D37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチド;又は
(d)配列番号10のアミノ酸配列を有するヒツジ野生型PH20のうち、D37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失した、組換えPH20ポリペプチドを含んでよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
【0029】
【0030】
人体に存在するヒアルロニダーゼは、血漿(Plasma)又はその他器官に存在し、酸性pHにおいて活性を持つHyal1、Hyal2、Hyal3、Hyal4があり、精子の先体で発現し、受精過程で働きをするPH20がある。
【0031】
このうち、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトPH20ポリペプチドは、M1~T35のシグナル配列(Signal sequence)と、L36~S490のヒアルロニダーゼ活性部位、A491~L509のC末端GPI結合配列(Glycosyl-phosphatidyl inositol-anchored sequence)で構成されており、C末端GPI結合配列の全部を欠如した形態であって、可溶性に転換した形態の組換えPH20ポリペプチドは、生体内で治療剤、分散剤又は散布剤として使用されている。特に、C末端のアミノ酸配列のうちの一部、すなわち、I465~L509のうちのいかなる部分を切断しても可溶性は維持しながら酵素活性も維持されるという報告がある。商業用製品として開発される場合には、C末端を482番としている。しかし、この場合には、シグナル配列を除くN末端のL36で始まる配列は維持していた(WO2010/077297Aなど)。
【0032】
近年、ヒトPH20ポリペプチドの変異体においてN末端を切断し、L36の他、N37、F38、R39、A40、P41、P42で始まるヒトPH20ポリペプチド変異体も酵素活性を有することを提示し、これに基づき、熱安定性及び酵素活性に優れたヒアルロニダーゼ変異体が開発されたことがある(WO2020/022791Aなど)。
【0033】
サル(Nasalis larvatus)のPH20ポリペプチドは、ヒトPH20ポリペプチドと93.1%の配列相同性を有している。したがって、
図4の多重配列分析結果に基づき、サル(Nasalis larvatus)のPH20ポリペプチドではC末端がY483で終わることが予測可能である。
【0034】
ウシ(Bos taurus)のPH20ポリペプチドとヒツジ(Ovis aries)のPH20ポリペプチドは、互いに90.6%の配列相同性を有し、ヒトPH20ポリペプチドとはそれぞれ63.6%、63.5%の配列相同性を有している。Meyer等(1997)によれば、ウシ(Bos taurus)のPH20ポリペプチドにおいて、可溶性ポリペプチドはC末端がH478で終わると報告されている。このような結果から、
図4の多重配列分析結果に基づけば、ヒツジ(Ovis aries)のPH20ポリペプチドではC末端がH477で終わることが予測可能である。
【0035】
本発明では、成熟した天然型PH20ポリペプチドにおいてもN末端をさらに切断、すなわちアミノ酸残基をさらに欠失させることにより、生産性が増加したN末端及びC末端切断組換えPH20ポリペプチドを提示する。本発明において、N末端及びC末端切断組換えPH20ポリペプチドは、「PH20変異体」と実質的に同じ概念で使われる。
【0036】
本発明に係る組換えPH20ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有する野生型PH20においてN37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されてN末端のアミノ酸残基が欠失する。
【0037】
具体的には、本発明に係る組換えPH20ポリペプチドは、N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されて配列番号1のアミノ酸配列のうちN37、F38、R39、A40、P41、P42で始まる配列を含んでよい。より具体的には、本発明に係る組換えPH20ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のうちN37又はF38で始まる配列を含んでよい。
【0038】
N37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前で切断されたということは、N末端のN37~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の直前のアミノ酸残基まで切断されて欠失したという意味である。
【0039】
例えば、N37、F38、R39、A40、P41、P42のアミノ酸残基の前で切断が起きたという表現は、それぞれ、配列番号1のアミノ酸配列においてN37の直前の残基である36番残基まで、F38の直前の残基である37残基まで、R39の直前の残基である38残基まで、A40の直前の残基である39残基まで、P41の直前の残基である40残基まで、P42の直前の残基である41残基まで切断されて除去されたということを意味する。
【0040】
本発明に係る組換えPH20ポリペプチドはさらに、C末端における一部のアミノ酸残基が欠失してよい。具体的には、本発明に係る組換えPH20ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のうちF468~Y482からなる群から選ばれるアミノ酸残基の次で切断され、C末端のアミノ酸残基が欠失してよい。より具体的には、本発明に係る組換えPH20ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のうちF468又はY482で終わる配列を含んでよい。
【0041】
配列番号1のアミノ酸配列のうちF468~Y482からなる群から選ばれるアミノ酸残基の次で切断され、C末端のアミノ酸残基が欠失したということは、F468~Y482からなる群から選ばれるアミノ酸残基の直後のアミノ酸残基から始まって切断されて欠失したという意味である。例えば、F468又はY482残基の次で切断されたとは、配列番号1のアミノ酸配列のうちF468又はY482の次の残基から始まって切断されて除去されたことを意味する。
【0042】
具体的な実施例において、本発明に係る組換えPH20ポリペプチドは、次のように構成された群から選ばれてよい:
(1)配列番号1のアミノ酸配列のうちN37で始まり、Y482で終わる配列(N37-Y482)を含むPH20ポリペプチド;
(2)配列番号1のアミノ酸配列のうちN37で始まり、F468で終わる配列(N37-F468)を含むPH20ポリペプチド;
(3)配列番号1のアミノ酸配列のうちF38で始まり、Y482で終わる配列(F38-Y482)を含むPH20ポリペプチド;
(4)配列番号1のアミノ酸配列のうちF38で始まり、F468で終わる配列(F38-Y468)を含むPH20ポリペプチド;
(5)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸配列のうちN37で始まり、L490で終わる配列(N37-L490)を含むPH20ポリペプチド;
(6)配列番号2~配列番号8のいずれか一つのアミノ酸配列のうちF38で始まり、L490で終わる配列(F38-L490)を含むPH20ポリペプチド;
(7)配列番号9のアミノ酸配列のうちD37で始まり、H478で終わる配列(D37-H478)を含むPH20ポリペプチド;
(8)配列番号9のアミノ酸配列のうちF38で始まり、H478で終わる配列(F38-H478)を含むPH20ポリペプチド;
(9)配列番号10のアミノ酸配列のうちD37で始まり、H477で終わる配列(D37-H477)を含むPH20ポリペプチド;
(10)配列番号10のアミノ酸配列のうちF38で始まり、H477で終わる配列(F38-H477)を含むPH20ポリペプチド;
(11)配列番号10のアミノ酸配列のうちR39で始まり、H477で終わる配列(R39-H477)を含むPH20ポリペプチド;及び
(12)配列番号10のアミノ酸配列のうちA40で始まり、H477で終わる配列(A40-H477)を含むPH20ポリペプチド。
【0043】
本発明は、他の側面において、前記組換えPH20ポリペプチドを含む癌治療用組成物及びこれを用いた癌治療方法を提供する。
【0044】
前記癌は、特に限定されず、固形癌及び血液癌のいずれをも含む。このような癌の例には、黒色腫などの皮膚癌、肝癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膵癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、子宮頸癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、腎臓癌、食道癌、胆道癌、精巣癌、直腸癌、頭頸部癌、頸椎癌、尿管癌、骨肉腫、神経芽細胞腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫、及び神経膠腫からなる群から選ばれてよいが、これに限定されるものではない。好ましくは、本発明の組成物で治療可能な癌は、大腸癌、乳癌、肺癌及び腎臓癌からなる群から選ばれてよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
前記組成物は薬学組成物であってよい。前記薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでよく、前記担体は、薬物の製剤化に通常利用されるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどからなる群から選ばれる1種以上であってよいが、これに限定されるものではない。前記薬学組成物は、また、薬学組成物の製造に通常使用される希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤からなる群から選ばれる1種以上をさらに含んでよい。
【0046】
前記薬学組成物は、経口又は非経口で投与できる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できる。経口投与時に、タンパク質又はペプチドが消化されるため、経口用組成物は活性薬剤をコートしてもよく、胃における分解から保護されるように剤形化されてもよい。また、前記組成物は、活性物質を標的細胞に移動可能にする任意の装置によって投与されてよい。
【0047】
前記薬学的組成物は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤又は乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤などの形態で剤形化でき、剤形化のために分散剤又は安定化剤をさらに含んでよい。
【0048】
特に、本発明に係る癌治療用組成物は、他の抗癌剤との併用治療用途に使用されることを特徴とする。
【0049】
前記併用治療用途に使用可能な抗癌剤は、化学抗癌剤、抗体形態の抗癌剤、RNAi、細胞治療剤などが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0050】
前記併用治療用途に使用可能な抗癌剤は、免疫抗癌剤、特に好ましくは免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor)であるが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明は、他の観点において、本発明に係る成熟した動物野生型PH20のN末端及び/又はC末端におけるアミノ酸残基が欠失した組換えPH20ポリペプチドをコードする核酸に関する。
【0052】
本明細書において使用される核酸は、細胞、細胞溶解物(lysate)中に存在してもよく、又は部分的に精製された形態又は実質的に純粋な形態で存在してもよい。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンド化(banding)、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動及び当該技術の分野によく知られたその他のものを含む標準技術により、他の細胞成分又はその他汚染物質、例えば、他の細胞の核酸又はタンパク質から精製されて出る場合に「単離」されるか又は「実質的に純粋になった」ものである。本発明の核酸は、例えば、DNA又はRNAであってよい。
【0053】
本発明は、さらに他の観点において、前記核酸を含むベクター、特に組換え発現ベクターに関する。本発明に係る組換えPH20組換えポリペプチドの発現のために、PH20組換えポリペプチドをコードするDNAを標準分子生物学技術(例えば、PCR増幅又はPH20組換えポリペプチドを発現させるハイブリドーマを使用したcDNAクローニング)によって得ることができ、DNAが転写及び翻訳制御配列に「作動するように結合」して発現ベクター内に挿入されてよい。
【0054】
本明細書で使われる用語「作動するように結合」は、ベクター内の転写及び翻訳制御配列が、PH20組換えポリペプチドをコードする遺伝子の転写及び翻訳を調節する意図された機能を担うように、PH20組換えポリペプチドをコードする遺伝子がベクター内にライゲイションされることを意味できる。発現ベクター及び発現制御配列は、使用される発現用宿主細胞に適するように選択される。PH20組換えポリペプチドをコードする遺伝子は、標準方法(例えば、PH20組換えポリペプチドをコードする遺伝子断片及びベクター上の相補性制限酵素部位のライゲイション、又は制限酵素部位が全く存在しない場合にブラント(blunt)末端ライゲイション)によって発現ベクター内に挿入される。
【0055】
また、前記組換え発現ベクターは、宿主細胞においてPH20組換えポリペプチドをコードする遺伝子の発現を制御する調節配列を有する。「調節配列」は、PH20組換えポリペプチドをコードする遺伝子の転写又は翻訳を制御するプロモーター、エンハンサー、及びその他発現制御要素(例えば、ポリアデニル化信号)を含んでよい。通常の技術者は、形質転換させる宿主細胞の選択、タンパク質の発現レベルなどのような因子にしたがって調節配列を別々に選択し、発現ベクターのデザインが変わり得ることが認識できる。
【0056】
本発明は、さらに他の観点において、前記核酸又は前記ベクターを含む宿主細胞に関する。本発明に係る宿主細胞は、動物細胞、植物細胞、酵母、大腸菌及び昆虫細胞からなる群から選ばれることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0057】
具体的には、本発明に係る宿主細胞は、大腸菌、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)又はスタフィロコカス属(Staphylococcus sp.)のような原核細胞であってよい。また、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)のような真菌、ピチアパストリス(Pichia pastoris)、サッカロミケスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミケス属(Schizosaccharomyces sp.)及びノイロスポラクラサ(Neurospora crassa)のような酵母、その他の下等真核細胞、及び昆虫からの細胞のような高等真核生物の細胞のような真核細胞であってよい。
【0058】
また、本発明に係る宿主細胞は、植物又は哺乳動物に由来するものであってよい。好ましくは、サル腎臓細胞7(COS7:monkey kidney cells)細胞、NSO細胞、SP2/0、チャイニーズハムスター卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)細胞、W138、幼いハムスター腎臓(BHK:baby hamster kidney)細胞、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞、及びHEK293細胞などが利用可能であるが、これに限定されない。特に好ましくは、CHO細胞が利用されてよい。
【0059】
上記の核酸又はベクターは、宿主細胞に形質注入又はトランスフェクション(transfection)される。「形質注入」又は「トランスフェクション」させるために、原核又は真核宿主細胞内に外因性核酸(DNA又はRNA)を導入するが、一般的に用いられる様々な技術、例えば、電気泳動法、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラントランスフェクション又はリポフェクション(lipofection)などを用いることができる。本発明に係るPH20組換えポリペプチドを発現させるために、様々な発現宿主/ベクター組合せが用いられてよい。真核宿主に適する発現ベクターには、これらに限定されるものではないが、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(adeno-associated virus)、サイトメガロウイルス及びレトロウイルスに由来する発現調節配列が含まれる。細菌宿主に使用可能な発現ベクターには、pET、pRSET、pBluescript、pGEX2T、pUCベクター、col E1、pCR1、pBR322、pMB9及びそれらの誘導体のように大腸菌(Escherichia coli)から得られる細菌性プラスミド、RP4のように、より広い宿主範囲を有するプラスミド、λgt10、λgt11、NM989のような非常に様々なファージラムダ(phage lambda)誘導体として例示可能なファージDNA、及びM13とフィラメント性単一鎖のDNAファージのようなその他のDNAファージが含まれる。酵母細胞に有用な発現ベクターは、2μmプラスミド及びその誘導体である。昆虫細胞に有用なベクターは、pVL941である。
【0060】
本発明は、さらに他の観点において、宿主細胞を培養し、本発明に係る組換えPH20組換えポリペプチドを発現させる段階を含む、本発明に係る組換えPH20組換えポリペプチドの製造方法に関する。
【0061】
前記組換えPH20組換えポリペプチドを発現させ得る組換え発現ベクターが哺乳類宿主細胞内に導入される場合に、PH20組換えポリペプチドは宿主細胞で発現するのに十分な期間、又はより好ましくは宿主細胞が培養される培養培地内にPH20組換えポリペプチドが分泌されるのに十分な期間にわたって宿主細胞を培養することによって製造されてよい。
【0062】
場合によって、発現したPH20組換えポリペプチドは、宿主細胞から分離し、均一となるように精製してよい。前記PH20組換えポリペプチドの分離又は精製は、通常のタンパク質において用いられている分離、精製方法、例えば、クロマトグラフィーによって行われてよい。前記クロマトグラフィーは、例えば、親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性クロマトグラフィーから選ばれる1つ以上の組合せであり得るが、これに限定されない。前記クロマトグラフィーに加え、濾過、超濾過、塩析、透析などを組み合わせて用いることができる。
【0063】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものと解釈されないことは、当該技術の分野における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0064】
実施例1. N末端及びC末端が切断された組換えPH20ヒアルロニダーゼのクローニング
PH20ポリペプチドの発現のために、天然型ヒトPH20ポリペプチドのL36からS509までのアミノ酸を暗号化している配列、サル(Nasalis larvatus)のPH20ポリペプチド(Uniprot ID:H2DJA7)はアミノ酸M1~L510を暗号化するDNA配列、ウシ(Bos taurus)のPH20ポリペプチド(Uniprot ID:F1MTV1)はアミノ酸L36~H478を暗号化するDNA配列、ヒツジ(Ovis aries)のPH20ポリペプチド(Uniprot ID:W5NSU1)はアミノ酸L36~H477を暗号化するDNA配列をそれぞれGenscript社(韓国)で合成した。
【0065】
合成されたそれぞれのPH20ポリペプチド遺伝子を重合酵素連鎖反応(以下、PCRという。)によって増幅させ、pcDNA3.4-TOPOベクターのXhoI及びNotI制限酵素部位に挿入した。ExpiCHO細胞における発現のために、ヒト血清アルブミンシグナルペプチドを使用した。HisTrapカラムを用いたタンパク質精製のために、His-TagのDNA配列をPH20c DNAの3’末端に位置させた。N末端及びC末端切断PH20ポリペプチドは、PCRを用いて行ったし、DNA塩基配列分析によってアミノ酸置換を確認した。
【0066】
ヒトPH20ポリペプチドのN末端が切断された変異体の作製のために、L36-Y482を含むプラスミドを作製し、これを鋳型として使用し、順次にN末端のアミノ酸がさらに1個ずつ除去された4種の変異体を作製したし、各変異体に対してC末端がF468で終わる4種の変異体も作製した。
【0067】
サル(Nasalis larvatus)PH20ポリペプチドのN末端が切断された変異体の作製のために、L36~Y483を含むプラスミドを作製し、これを鋳型として使用し、順次にN末端のアミノ酸がさらに1個ずつ除去された5種の変異体を作製した。
【0068】
ウシ(Bos Taurus)PH20のN末端が切断された変異体の作製のために、L36~H478を含むプラスミドを作製し、これを鋳型として使用し、順次にN末端のアミノ酸がさらに1個ずつ除去された5種の変異体を作製した。
【0069】
ヒツジ(Ovis aries)PH20のN末端が切断された変異体の作製のために、L36~H477を含むプラスミドを作製し、これを鋳型として使用し、順次にN末端のアミノ酸がさらに1個ずつ除去された5種の変異体を作製した。
【0070】
実施例2. N末端及びC末端が切断された組換えPH20ヒアルロニダーゼの発現及び精製
N末端及びC末端が切断されたPH20ポリペプチドの発現は、ExpiCHO発現システムを用いて行った。ExpiCHO細胞の細胞密度が6×106cells/mLに到達した時に、pcDNA3.4-TOPOベクターに挿入されたN末端及びC末端切断PH20ポリペプチドのcDNAを含むプラスミドを、ExpiFectamine CHO試薬を使ってExpiCHO細胞内に形質感染させた。細胞培養培地として、ExpiCHO発現培地(100~500mL)を使用した。形質感染後にExpiCHO細胞を総6日間130rpmで振盪培養したが、このとき、細胞を37℃で1日間培養し、 32℃のより低い温度で5日間さらに培養した。培養完了後に、細胞上澄液を10,000rpmで30分間遠心分離して収集した。
【0071】
ExpiCHO細胞で生産したC末端にHis-tagが付いたPH20ポリペプチドは、AKTA prime装備又はこれと類似の装備(GE Healthcare社)を用いて2段階のカラムクロマトグラフィーで精製したが、このヒトPH20、Nasalis larvatus PH20においては、pIが6に近いため、アニオン交換クロマトグラフィー(Anion Exchange Chromatography)であるQ Sepharoseを使用し、ウシとヒツジのPH20ポリペプチドにおいては、pIが8以上であるため、カチオン交換クロマトグラフィー(Cation Exchange Chromatography)であるCapto Sカラムを使用して1段階精製を行ったし、各タンパク質は、His-Tag親和クロマトグラフィーであるHisTrap HPカラムで2段階精製を行った。
【0072】
Q Sepharoseカラムを用いたタンパク質の精製のために、バッファーA(20mMリン酸ナトリウム、pH 7.5)とバッファーB(20mMリン酸ナトリウム、pH 7.5、0.5M NaCl)を製造した。タンパク質をQ Sepharoseカラムに結合させ、バッファーAを5CV流して非特異的に結合したタンパク質を除去した後、0~100%の濃度勾配でバッファーBを5CV流し、タンパク質を溶出した。
【0073】
Capto Sカラムを用いたタンパク質の精製のために、バッファーA(20mMリン酸ナトリウム、15mM NaCl、pH 6.0)とバッファーB(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH 6.0)をそれぞれ製造した。培養液のpH及び伝導度(conductivity)をバッファーAと同一に合わせ、0.22μm孔径の膜(membrane)に培養液を濾過させた。次に、Capto Sカラムにタンパク質を結合させた後、バッファーAを3CV(column volume)流し、非特異的(non-specific)に結合したタンパク質を除去した。バッファーBを順次に4CV流し、ターゲットタンパク質を溶出した。
【0074】
HisTrap HPカラムを用いたタンパク質の精製のために、バッファーA(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH 7.5)とバッファーB(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、500mMイミダゾール、pH 7.5)をそれぞれ製造した。タンパク質試料をHisTrap HPカラムに結合させた後、非特異的に結合したタンパク質を除去するために7%バッファーBを7CV流したし、ターゲットタンパク質の溶出のために40%バッファーBを3CV流した。カラム溶出液は、透析バッファー(Dialysis buffer)(20mMリン酸ナトリウム、100mM NaCl、pH 7.0)を用いて透析した。
【0075】
実施例3. N末端及びC末端が切断された組換えPH20ヒアルロニダーゼのN末端配列分析
精製されたN末端及びC末端が切断されたPH20ポリペプチドを、7.5% SDS-PAGEゲルのレーン当たりに10μgずつロード(Loading)し、電気泳動(150V、1時間)を行った。その後、電気泳動で展開されたタンパク質が含まれたゲルを、PVDF膜と共にブロッティングキット(Blotting Kit)に入れ、100V電圧で90分間トランスファー(Transfer)し、よくトランスファーされたかをPonceau S染色で確認した。最終的に、各タンパク質帯を切開して得た試料をPPSQ-53Aプロテインシーケンサ(Protein sequencer)(Shimadzu社,日本)を用いてN末端5個のアミノ酸に対して配列分析を行った。
【0076】
N末端配列分析の結果、他のPH20ポリペプチドにおいては予想される配列が確認されたが、ヒトPH20ポリペプチドにおいてN37-Y482、N37-F468の場合には、N末端のアミノ酸がアスパラギン(Asparagine)ではなくアスパルテート(Aspartate)として一部発見され、アミド分解(De-amidation)が発生したことが見られた。この結果及び
図4の多重配列分析結果によれば、当該アミノ酸がウシ又はヒツジではアスパルテートとして発見されることから、この位置のアミノ酸は、アスパルテートがタンパク質の構造を安定化させる役割を担うと推定可能である。
【0077】
実施例4. N末端及びC末端が切断された組換えPH20ヒアルロニダーゼ活性測定
ヒアルロニダーゼの活性は、濁度分析法で測定したが、これは、ヒアルロン酸がアルブミン(BSA)と混合される時に生成される沈殿物によって発生する濁度の程度を吸光度として測定する方法である。ヒアルロン酸がPH20ポリペプチドによって加水分解されると、アルブミンとの混合時に生成される沈殿物の濁度/吸光度が減少する。この分析は、pH 5.3で一般に次のように行われる。活性(units)を知っているヒアルロニダーゼ標準物質を6、8、10、12、15及び20units/mLに希釈し、各試験管に製造した。精製されたタンパク質試料を、緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、pH 5.3、77mM塩化ナトリウム、及び0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン)で、希釈因子を標準曲線範囲内に属するように調整することによって希釈した。50μlの希釈された試料を96ウェルプレートの各ウェルに分注し、37℃で10分間加温反応させた。0.06%ヒアルロン酸50μlを各ウェルにさらに分注した。0.06%ヒアルロン酸は、300mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 5.3に溶解されている状態である。試料と0.06%ヒアルロン酸を37℃で45分間反応させた。反応終了後に、酵素-基質反応溶液40μlを酸性アルブミン溶液200μlに分注し、室温で19分間放置した。その後、分光光度計を用いて600nmで吸光度を測定した。酸性アルブミン溶液は、0.1%アルブミン(BSA)が24mM酢酸ナトリウム、79mM酢酸、pH 3.75緩衝液に溶解されている溶液である。測定された試料の吸光度値を、活性標準品による標準曲線によって活性に転換させた。
【0078】
上の過程をpH 7.0で行う場合には、タンパク質試料緩衝液を、20mMリン酸ナトリウム、pH 7.0、77mM塩化ナトリウム、及び0.01%(w/v)ウシ血清アルブミンを使用したし、0.06%ヒアルロン酸水溶液は、20mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.0、70mM塩化ナトリウムに溶かしたものを使用し、同一過程を行った。
【0079】
このような活性測定は培養液においても測定可能であるが、この場合には、300units/mL以下の値は信頼性がないため、定量限界(Limit of Quantification,LOQ)は300units/mLに設定し、それ以下の値は活性無し、0と表示した。また、精製したタンパク質試料を用いた活性測定においては、定量限界(LOQ)を15units/μgに設定される。
【0080】
配列番号1の天然型PH20ポリペプチドのM1-T35のシグナル配列を除く部分においてN末端をL36、N37、F38、R39、A40に調整し、C末端としてはF468、Y482を選定し、総10個のN末端及びC末端が切断されたPH20ポリペプチドを、実施例1の方法で作製した。このように製造された各クローンを、動物細胞の一過性トランスフェクション(Transient Transfection)培養によって得た培養液で精製し、酵素活性を、pH 5.3とpH 7.0において実施例2の方法で比較した。
【0081】
図1に示すように、各培養液のヒトPH20の活性を比較した結果、天然型N末端を有している成熟したL36-Y482の培養液における活性に対比し、驚くべきことにN37-Y482の培養液における活性が3倍以上高かったし、N末端のアミノ酸残基が2個さらに欠失したF38-Y482においても培養液のヒトPH20活性が2倍以上高かった。
【0082】
しかし、N末端のアミノ酸残基が3個欠如したR39-Y482においては酵素の発現が殆どなかったし、N末端アミノ酸残基が4個欠如した場合にも、培養液における酵素の発現は殆どなかった。
【0083】
結論的に、ヒトヒアルロニダーゼPH20は、成熟したヒトヒアルロニダーゼPH20においてN末端アミノ酸残基が1個或いは2個欠如した変異体が、培養液における発現量が格段に増加することを確認した。特に、ヒトヒアルロニダーゼPH20が注射剤として産業上の利用可能性があることを考慮するとき、N末端アミノ酸を1個或いは2個切断した形態の変異体酵素を生産する場合に産業的に優れた経済性を有する変異体を得ることができるということを示す。
【0084】
なお、
図2及び
図3に示すように、L36-Y482、N37-Y482、F38-Y482の比活性(Specific Activity)を測定したとき、比活性には差異が殆どないため、
図1でのヒトヒアルロニダーゼPH20の活性の差異は、生産性の差異に起因するものと確認された。しかも、酵素のC末端がY482で終わるタンパク質に比べてC末端アミノ酸が14個短いPH20変異体においては、N末端アミノ酸が1個欠如したN37-F468のみが唯一に培養液で活性を示した。
【0085】
特に、
図2では、精製された各ポリペプチドの活性を、pH 5.3における比活性で示したが、C末端をY482とする場合には、L36-Y482、N37-Y482、F38-Y482の差異が殆どなかったが、C末端をF468とする場合には、N37-F468、F38-F468においてL36-F468に比べて比活性が1.5~2倍程度高いことが確認された。このような様相は、pH 7.0における比活性からも確認できた。
【0086】
すなわち、
図2及び
図3などの結果に見られるように、PH20のC末端アミノ酸を現在商用されているPH20の482番よりもさらに短縮し、さらに切断されて468位置で終わる酵素の場合、L36-F468は動物細胞で殆ど発現しなかった。この場合、発現した極微量のL36-F468変異体を精製して比活性を測定した結果、酵素の比活性はL36-Y482に比べて約60%レベルであることが分かり、このような事実から、PH20ポリペプチドのヒアルロニダーゼ活性又は生産性は、成熟したヒトヒアルロニダーゼPH20においてN末端のアミノ酸残基が1個又は2個さらに欠失する場合に各段に増加するということが分かる。
【0087】
結論的に、L36-F468で構成されたヒトヒアルロニダーゼPH20変異体酵素は、L36-Y482 PH20変異体酵素に比べて比活性は大きく低下しなかったが、組換え細胞内における発現が極微量であるため、産業的に有用に使用するには適切でない形態のPH20変異体であることが分かる。
【0088】
一方、N37-F468変異体は、細胞における発現が非常に増加したし、これは、L36-Y482変異体の発現量の結果と類似な傾向であるが、N末端アミノ酸が1個さらに切断されたN37-F468の細胞内における発現量は、L36-F468に比べて少なくとも100倍も画期的に増加することが見られる。
【0089】
PH20の分子モデリングと本発明の実験結果を総合すると、PH20のN末端のアミノ酸とC末端に位置したアミノ酸との相互作用は、組換えPH20タンパク質が細胞内で発現する時にタンパク質の転写及び転移過程において安定性、折り畳み速度などに影響を及ぼし、さらには細胞から分泌される組換えタンパク質の発現量に大きな影響を及ぼすことが分かる。これは、PH20及び変異体の生産性に非常に重大な影響を及ぼす。このような結果は、ヒトPH20の他、ウシ又はヒツジなどから抽出した哺乳類由来のPH20にも適用されてよく、ひいてはヒトPH20と構造的或いは物理化学的に類似の性質を有する他のPH20にも適用可能であることが予測できる。
【0090】
また、サル(Nasalis larvatus)、ウシ(Bos taurus)及びヒツジ(Ovis aries)においても、
図5及び
図6に示すように、ヒトPH20ポリペプチドの特性及び配列構造が類似しており、生体の機能が同一である哺乳類PH20、特に、表1に記載のサル(Nasalis larvatus)、ウシ(Bos taurus)、ヒツジ(Ovis aries)においてもこのような特性が維持されることが見られた。特に、ヒツジPH20ポリペプチドは、N末端がA40で始まる場合に発現量が高いことが見られた。
【0091】
要するに、このような本発明の結果によれば、成熟したPH20タンパク質、特にヒトPH20などの動物PH20において、N末端のアミノ酸残基をさらに1個~4個、好ましくは1個又は2個除去することによって組換え細胞から発現率を画期的に増加させ、タンパク質生産性を増大させることができた。
【0092】
ヒトPH20は、C末端がY482で終結する場合に、成熟したPH20においてN末端の一部のアミノ酸残基がさらに除去されたPH20は、ヒアルロニダーゼの固有活性に大きな変動無しで発現量が大きく増加する様相を示したし、C末端がF468で終結する場合は、成熟したPH20において1個又は2個のN末端アミノ酸残基がさらに除去された変異体が、N末端が成熟した状態のタンパク質に比べて酵素の比活性がむしろ増加する様相を示した。ヒトPH20のアミノ酸の特定部位において他のアミノ酸で置換してタンパク質の比活性を増加させる試みはあったが、N末端のアミノ酸を除去してタンパク質の活性を維持或いは増加させながら細胞における発現率を大きく増加させた事例は今までなかった。N末端が欠失した(deletion)変異体は、PH20の特定部位にアミノ酸を置換(replacement)したPH20に比べて、人体に長期間投与しても免疫原性(immunogenicity)の側面で有利であるということが予測できる。
【0093】
成熟したタンパク質においてN末端を切断した場合に発現量が増加するという報告は、Human alpha1-antitrypsin(H.Johansen等、Mol.Biol.Med.1987,4:291-305)、Human papillomavirus L1 protein(M.Wei等、Emerging Microbes & Infections,2018,7:160)に見られるが、各事例においてN末端部位のアミノ酸の位置及び切断数字などにおいて互いに共通する類似点は発見し難い。例えば、Human alpha 1-antitrypsinにおいては、N末端アミノ酸を5個~10個切断(deletion)した場合に細胞内で発現量は増加したが、酵素の活性は変わらなかったし、Human papillomavirus L1 proteinにおいてN末端アミノ酸を10個或いは15個切断する場合に、タンパク質の全発現量には変わりがないが、タンパク質の溶解性(solubility)を増加させる場合があった。特に、PH20のようなヒアルロニダーゼにおいてはこのような試みがなかったし、本発明のようにN末端アミノ酸の1個或いは2個の切断によって発現量が画期的に増加し、活性も増加する事例は発見されなかった。
【0094】
ヒトPH20の3次結晶構造は未だ明らかになっていない。しかし、タンパク質の3次構造を予測するプログラムを用いてPH20の3次構造を予測してみた結果、PH20のN末端にある37番位置のアスパラギン側鎖(Asparagine side chain)と近づいてF38、R39、Y434などのアミノ酸が位置しており、適切な電荷相互作用(Charge interaction)をなしているのに対し、成熟したタンパク質のアミノ酸であるLeu36が周囲のアミノ酸と特定結合をなさず、疎水性(hydrophobic)のアミノ酸が水溶液に露出されることにより、タンパク質の発現時に接合の速度又は安定性ひいては発現に悪影響を及ぼすということが予測できる。
【0095】
成熟した野生型動物PH20タンパク質では、タンパク質3次構造を大きく修飾しない範囲内でアミノ酸を置換した変異体においても本発明と同じ結果が予測できる。ヒトPH20との相同性が63.6%、63.5%であるウシ、ヒツジPH20からも、93.1%以上である霊長類PH20からもその効果を確認したので、各PH20との相同性が60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%であるPH20も、タンパク質3次構造が大きく修飾されない範囲で本発明と同じ結果が予測できる。
【0096】
実施例5. シグナルペプチドを異ならせたN末端及びC末端が切断された組換えPH20ヒアルロニダーゼの製造及び活性測定
シグナルペプチド(Signal peptide)による変化を確認するために、ヒトPH20、ヒト血清ホルモン又はIg kappaのシグナルペプチドに替えた9種の変異体を作製した。シグナルペプチドの配列は、下の表2に記載した通りである。
【0097】
先の実施例ではシグナルペプチドをヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin,HSA)のシグナルペプチドを使用したが、このシグナルペプチドに表2に記載の他のシグナルペプチドを適用しても上のような結果が見られるかを確認した。
【0098】
表2のシグナルペプチドを適用した以外は、実施例1及び実施例2と同一に組換えヒトPH20のL36-Y482、N37-Y482、F38-Y482を製造し、実施例4のような活性分析を行ってその結果を
図7に示した。
【0099】
図7に示すように、ヒトPH20又はIg kappaのシグナルペプチドを使用した場合にも、ヒト血清ホルモンを使用した場合と類似に、成熟したPH20のN末端における更なるアミノ酸欠失が起きた場合の生産性増加と類似の傾向を示し、成熟したPH20のN末端における更なるアミノ酸欠失が起きた場合の発現量と生産性が増加する現象はシグナルペプチドの種類とは関連が少ないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明で提示する酵素活性及び生産性が増加したN末端及び/又はC末端が切断されたPH20ポリペプチドは、既存の組換えPH20ポリペプチドに比べて優れた発現量と高い酵素活性を示し、産業上の利用時に生産コストの低減による治療費用の減少をもたらし得る。
【0101】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施の態様であるだけで、これによって本発明の範囲が限定されるものでない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【0102】
参考文献
1. H. Johansen, J. Sultiphong, G. Sathe, P. Jacobs, A. Cravador, A. Bollen, M. Rosenberg, and A. Shatzman, “High-level production of fully active human alpha 1-antitrypsin in Escherichia coli.” Mol. Biol. Med. (1987) 4:291-305,
2. J.H. Dunham, R.C. Meyer, E.L. Garcia, and R.A. Hall, “GPR37 Surface Expression Enhancement via N-Terminal Truncation or Protein-Protein Interactions”, Biochemistry (2009) 48:10286-10297
3. M. Wei, D. Wang, Z. Li, S. Song, X. Kong, X. Mo, Y. Yang, M. He, Z. Li, B. Huang, Z. Lin, H. Pan, Q. Zheng, H. Yu, Y. Gu, J. Zhang, S. Li and N. Xia, “N-terminal truncations on L1 proteins of human papillomaviruses promote their soluble expression in Escherichia coli and self-assembly in vitro”, Emerging Microbes & Infections (2018) 7:160
4. M. F. Meyer, G. Kreil, and H. Aschauer, “The soluble hyaluronidase from bull testes is a fragment of the membrane-bound PH-20 enzyme”, FEBS letter (1997) 413:385-388
【配列表】
【国際調査報告】