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特表2024-546878FGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のためのFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の使用
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  • 特表-FGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のためのFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の使用 図1A
  • 特表-FGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のためのFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の使用 図1B
  • 特表-FGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のためのFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の使用 図1C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】FGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のためのFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241219BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P19/08
A61P43/00 111
A61K31/506 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535560
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2022086615
(87)【国際公開番号】W WO2023117879
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21306859.6
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ルジェ-マル,ロランス
(72)【発明者】
【氏名】モリス,アン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZC201
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、FGFR関連骨修復ならびに骨形成および骨質障害の処置のための方法に関する。本発明者らは、FGFR3シグナル伝達の異常な活性化による、多くの仮骨中の偽関節の存在および骨粗しょう症の骨に似た骨構造を特徴とした、HCH下顎骨における骨形成および修復プロセスの障害を立証するデータを提供する。興味深いことに、(BGJ398)による処置は、不完全な骨形成および修復を部分的に回復させる。したがって、本発明は、それを必要とする対象におけるFGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のための方法であって、治療有効量の少なくとも1種のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象におけるFGFR関連骨修復および骨形成障害の処置のための方法であって、治療有効量の少なくとも1種のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
対象が、子供または成人である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤が、BGJ398である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象が、FGFRの機能獲得型変異を保有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
FGFRの機能獲得型変異が、FGFR3関連骨格疾患である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
FGFR3関連骨格疾患が、軟骨低形成症(HCH)、軟骨無形成症(ACH)、タナトフォリック骨異形成症(TD)、発達遅滞と黒色表皮腫を伴う重症軟骨無形成症(SADDAN)、ムエンケ症候群、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群、小人症または頭蓋骨縫合早期癒合症である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
FGFR3関連骨格疾患が、軟骨低形成症(HCH)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
FGFR3関連骨格疾患が、軟骨無形成症(ACH)である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
FGFR3関連骨格疾患が、頭蓋骨縫合早期癒合症である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
頭蓋骨縫合早期癒合症が、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
FGFR3関連骨格疾患が、ムエンケ症候群である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
対象に、活性成分として治療有効量のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤と少なくとも1種の薬学的に許容し得る賦形剤とを含む薬学的組成物が投与される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、FGFR関連骨修復ならびに骨形成および骨質障害の処置のための方法および薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)は、骨形成に関与する重要な遺伝子である。FGFRの機能獲得型変異に関係する頭蓋骨縫合早期癒合症および軟骨異形成症の患者は、頭蓋顔面および下顎の形成異常を示す(Kolar JC 2017)。FGFR2関連頭蓋狭窄症(craniostenosis)(例えば、クルーゾン、アペールおよびファイファー症候群)は、1つ以上の頭蓋縫合の融合を伴う単冠状または両冠状頭蓋骨縫合早期癒合症の存在を特徴とし、眼間開離、眼球突出、顔面中央部の低形成および下顎前突を伴う様々な頭蓋変形を生じる。FGFR3関連頭蓋骨縫合早期癒合症、例えば、ムエンケ症候群およびクルーゾン症候群ならびに黒色表皮腫)は、頭蓋顔面先天異常、すなわち、単冠状または両冠状頭蓋骨縫合早期癒合症、および顔面中央部低形成を呈する。軟骨無形成症、発達遅滞と黒色表皮腫を伴う重症軟骨無形成症(SADDAN)および軟骨低形成症(HCH)などのFGFR3関連軟骨異形成症は、短肢、頭蓋底先天異常、巨頭、難聴、顔面中央部の低形成および下顎前突を特徴とする。顎顔面および脳神経外科手術は、これらの頭蓋骨縫合早期癒合症および軟骨異形成症の患者に対して、頭蓋顔面および頭蓋骨の先天異常を矯正するために適応される。骨治癒のプロセスは、力学的安定性に応じて2つの異なる方法で起こる。安定した骨折治癒は、膜性骨化を介して起こる。これに対して、不安定な骨折の治癒は、軟骨内骨化の制御下にある。この場合、大きな軟骨鋳型が骨折間隙に形成され、これが骨に置き換えられて、折れた骨の両端を架橋する。
【0003】
骨折治癒は、初発の出血および炎症、間葉細胞の動員および増殖、その後の軟骨性仮骨の形成と骨性仮骨によるその段階的置換を含む一連の細胞イベントが関わる複雑なプロセスである。多様な増殖因子/サイトカインが、骨格の発達および恒常性を調節し、また骨折治癒も調節することができる。受容体チロシンキナーゼ(RTK)が、骨修復において役割を果たしていることがよく知られている。RTKの中でも、FGFR3は、軟骨性仮骨の形成および骨による置換を調節する。軟骨異形成症のマウスモデル(Fgfr3Y367C/+)では、FGFR3の機能獲得型変異が、非安定化脛骨骨折における骨再生を障害し、仮骨において偽関節表現型を誘導する(Julien et al 2020)。
【0004】
骨格修復および骨形成の理解は、外科的骨切り術または外傷性骨折後の骨治癒を改善するために使用される治療法の開発に不可欠である。下顎骨の形成および修復におけるFGFRの正確な機能は、依然として理解されないままである。顎顔面骨格では、下顎骨は、顔面の最大かつ最も頑丈な骨であり、その異常な発育発達は、上下顎の不均衡とその後の歯の咬合先天異常および顔面の発育変動の一因となる。骨化の2つのプロセスが、下顎の発達を制御する:1)軟骨内骨化は、関節突起およびメッケル軟骨の形成を調節し、2)膜性骨化は、下顎枝の形成および伸長を制御する。
【0005】
下顎骨の形成および修復の間の異常なFGFシグナル伝達を調査するために、本発明者らは、HCHマウスモデル(Fgfr3N534K/+)を研究した。HCHマウスモデルは、HCHの顎顔面像、すなわち、巨頭および下顎前突を呈する。成体HCHマウスの下顎骨に対して非安定化骨折を施行し、仮骨修復の形成を修復の様々な重要時点で分析した。本発明者のデータは、FGFR3シグナル伝達の異常な活性化による、多くの仮骨中の偽関節の存在を特徴とした、HCH下顎骨における骨形成および吸収、骨質ならびに骨修復プロセスの障害を立証する。興味深いことに、FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤(BGJ398)による処置は、仮骨の不完全な骨修復を部分的に回復させ、偽関節なしに骨体積/総体積を増加させる。
【0006】
発明の概要:
本発明は、FGFR関連骨修復ならびに骨形成および骨質障害の処置のための方法および薬学的組成物に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0007】
発明の詳細な説明:
本発明は、それを必要とする対象におけるFGFR関連骨修復および骨形成障害の処置の方法であって、治療有効量の少なくとも1種のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することを含む方法に関する。
【0008】
本発明はまた、それを必要とする対象における不完全な骨修復を回復させる方法であって、治療有効量の少なくとも1種のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することを含む方法に関する。
【0009】
本明細書において使用される場合、用語「対象」または「患者」は、齧歯類、ネコ、イヌおよび霊長類などの哺乳動物のことを表す。特に、本発明に係る対象は、ヒトである。特に、本発明に係る対象は、成人である。特に、本発明に係る対象は、子供、10代または高齢者である。いくつかの態様では、患者は、15歳未満である。いくつかの態様では、患者は、10歳未満である。いくつかの態様では、患者は、7歳未満である。いくつかの態様では、患者は、5歳未満である。いくつかの態様では、患者は、3歳未満である。いくつかの態様では、患者は、成人である。いくつかの態様では、対象は、15歳超である。いくつかの態様では、対象は、20歳超である。いくつかの態様では、対象は、25歳超である。いくつかの態様では、対象は、30歳超である。いくつかの態様では、対象は、35歳超である。
【0010】
本明細書において使用される場合、用語「骨」は、ほとんどの脊椎動物の骨格の一部を構成する硬質組織のことを指す。骨は、体の様々な器官を保護し、赤血球および白血球を産生し、ミネラル類を貯蔵し、身体を構成かつ支持し、可動性を与える。骨は、形状およびサイズが様々であり、複雑な内部および外部構造を有する。これらは、軽量であるが、強く堅固であり、複数の機能を果たす。骨組織(骨の組織)は、硬い組織であり、特殊な結合組織の一種である。これは、蜂巣様基質を内部に有し、これは骨剛性を与える助けをする。骨組織は、異なる種類の骨の細胞で構成される。骨芽細胞および骨細胞は、骨の形成および石灰化に関与する;破骨細胞は、骨組織の吸収に関与する。改変された(平板化された)骨芽細胞は、骨表面に保護層を形成する表層細胞になる。骨組織の石灰化基質は、主にオセインと呼ばれるコラーゲンからなる有機成分と様々な塩で構成される骨ミネラルの無機成分とを有する。骨組織は、皮質骨および海綿骨(柱骨とも呼ばれる)という2種類の石灰化組織である。骨中に見いだされる他の種類の組織としては、骨髄、骨内膜、骨膜、神経、血管成長板および関節軟骨が挙げられる。
【0011】
本明細書において使用される場合、用語「骨形成」、「骨発生」または「骨化」は、骨形成のプロセスに関する。前駆細胞が骨芽細胞層を形成した後、これらは、増殖、基質の成熟および石灰化と呼ばれる、細胞分化の3つの発生段階に進む。その発生学的起源に基づいて、先行の軟骨形成なしに直接的に骨化中心において骨芽細胞へと分化する間葉細胞で起こる膜内骨化と、最初に軟骨形成を通じて骨組織石灰化が形成される軟骨内骨化と呼ばれる2種類の骨化がある。膜内骨化では、骨の発達は、直接的に起こる。このプロセスでは、間葉細胞が、細胞凝集または一次骨化中心の形成において胎生結合組織の高い血管新生を有する領域に増殖する。この細胞は周辺で骨基質を合成し、間葉細胞が骨芽細胞へと分化し続ける。その後、骨が作り直され、成熟層板骨に置き換えられる。軟骨内骨化は、一次骨化の中心を形成し、軟骨細胞の増殖および軟骨基質の沈着によって軟骨が伸びる。この形成の後、軟骨の中心領域中の軟骨細胞が、肥大軟骨細胞への成熟へと進み始める。一次骨化中心が形成された後、髄腔が骨端方向に広がり始める。次いで、軟骨内骨化のその後の段階が、骨のいくつかの区域で起こる。
【0012】
ある態様では、本発明の処置は、外科的骨切り術または外傷性骨折後の骨治癒を改善する。
【0013】
本明細書において使用される場合、用語「外科的骨切り術」は、外科医が損傷した関節近傍で楔状に骨を切除するかまたは時に加える手技のことを指す。これは、損傷した軟骨がある領域から、より多くのまたはより健康な軟骨がある領域に、荷重を移動させる。
【0014】
本明細書において使用される場合、用語「骨治癒」または「骨折治癒」または「骨修復」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、体が骨折の修復を促進する増殖性の生理学的プロセスのことを指す。骨の治癒プロセスは、3つの重複する段階を有する。
1.骨折が起こった直後に炎症が始まり、数日間続く。骨折が起こったら、その領域へ血が流れ出し、骨折部位で炎症および血液の凝固が生じる。これは、新たな骨を生み出すための初期の構造的安定性および枠組みを提供する。
2.炎症により形成された血餅が線維組織および軟骨(軟仮骨として知られる)と置き換えられると、骨産生が始まる。治癒が進むにつれて、軟仮骨が硬骨(硬仮骨として知られる)と置き換えられ、これは、骨折の数週間後にx線で目視可能である。
3.骨治癒の最終段階である骨の再構築が数ヶ月間継続する。再構築において、骨が形成され続け、圧縮した状態となり、その元の形状に戻る。加えて、その領域の血液循環が改善される。いったん十分な骨治癒が起これば、体重負荷(立つまたは歩くなど)により骨の再構築が助長される。
【0015】
ある態様では、対象は、骨折を患っている。本明細書において使用される場合、用語「骨折」は、骨の連続性の部分的または完全な破壊がある医学的症状のことを指す。より重症例では、骨が数個の断片に破壊されている場合がある。
【0016】
ある態様では、本発明のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤は、骨密度または骨体積/総体積(BV/TV)を増加させる。本明細書において使用される場合、用語「骨密度」または「骨体積/総体積」(BV/TV)は、骨組織中の骨ミネラルの量である。その概念は、骨体積当たりのミネラルの質量である。
【0017】
ある態様では、本発明のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤は、骨粗しょう症を処置するために使用することができる。本明細書において使用される場合、用語「骨粗しょう症」は、骨組織/骨密度の低下を特徴とする骨疾患であり、時間が経つにつれ骨が非常に薄くかつ脆くなる。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「頭蓋顔面先天異常」は、頭部および顔面の骨の成長における多様な変形群のことを指す。先天異常は、「不整」または「正常と異なる」を意味する医学用語のことを指す。これらの異常は、生まれた時に存在し(先天性)、数多くの異形がある。一部は軽度であり、一部は重度で手術が必要である。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「頭蓋骨縫合早期癒合症」は、年少乳児の頭蓋骨の線維性縫合線の1つ以上が、骨に変わることによって通常より早く癒合し(骨化)、それにより頭蓋骨の成長パターンを変化させる状態のことを指す。これは、顔・頭蓋・狭窄症(facio-cranio-stenosis)として知られる顔面骨格の成長異常を伴い得るか、またはさらには多奇形症候群の範囲内にあり得る。
【0020】
本明細書において使用される場合、用語「下顎骨」は、下顎または下顎の骨としても知られ、ヒトの顔面骨格における最大かつ最も頑丈な最下部の骨である。これは、下顎を形成し、下歯を適切な位置で支える。下顎骨は、小顎骨の下に位置する。これは、頭蓋骨の中で唯一可動性の骨である(中耳の耳小骨を除外する)。これは、側頭下顎関節によって側頭骨につながっている。
【0021】
ある態様では、対象は、FGFR関連骨修復および骨形成障害を有するかまたは患うだろう。ある態様では、対象は、FGFRの機能獲得型変異を保有する。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「FGFR関連骨修復ならびに骨形成および骨質障害」または「FGFR関連骨修復および骨形成障害」は、骨修復および骨形成の進行の欠如のことを指す。FGFR関連骨修復障害は、不完全な骨修復のことを指す。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「線維芽細胞増殖因子」(FGF)は、細胞シグナル伝達タンパク質のファミリーに関する;これらは、とりわけ動物細胞での正常な発達に重要な要素として、種々の幅広いプロセスに関与する。それらの機能における任意の不整は、広範な発達欠陥を招く。これらの増殖因子は、典型的には、細胞表面受容体を活性化する細胞外起源の全身または局所の循環分子として作用する。FGFの決定的な性質は、これらが、共受容体ヘパリンおよびヘパラン硫酸に結合することである。したがって、一部は、ヘパラン硫酸プロテオグリカンを含有する組織の細胞外基質に隔離され、傷害または組織再構築時に局所的に放出される。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「線維芽細胞増殖因子受容体」(FGFR)は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーのタンパク質のメンバーに結合する受容体に関する。これらの受容体の一部は、病的状態に関与する。別個の膜FGFRは、脊椎動物において同定されており、それらのすべてがチロシンキナーゼスーパーファミリーに属する:FGFR1(また、線維芽細胞増殖因子受容体1を参照のこと)(=CD331)、FGFR2(また、線維芽細胞増殖因子受容体2を参照のこと)(=CD332)、FGFR3(また、線維芽細胞増殖因子受容体3を参照のこと)(=CD333)、FGFR4(また、線維芽細胞増殖因子受容体4を参照のこと)(=CD334)、FGFRL1(また、線維芽細胞増殖因子受容体様1を参照のこと)およびFGFR6。
【0025】
ある態様では、対象は、FGFR3の機能獲得型変異を保有する。
【0026】
本明細書において使用される場合、用語「FGFR3」、「FGFR3チロシンキナーゼ受容体」および「FGFR3受容体」は、本明細書全体を通して互換的に使用され、FGFR3の天然に存在するアイソフォームのすべてを指す。FGFR3の例示的なヒトアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1によって表される。
【化1】
【0027】
本明細書において使用される場合、表現「FGFR3の機能獲得型変異」、「構成的に活性なFGFR3受容体変種」、「FGFR3の構成的に活性な変異体」または「構成的活性を呈する変異型FGFR3」は、互換的に使用され、生物学的活性を示す(すなわち、下流シグナル伝達を誘発する)、および/またはFGFリガンドの存在下で対応する野生型受容体の生物学的活性よりも高い生物学的活性を示す、前記受容体の変異体のことを指す。本発明に係る構成的に活性なFGFR3変種は、特に、下記からなる群より選択される(残基は、線維芽細胞増殖因子受容体3アイソフォーム1の前駆体におけるその位置に従って番号付けされる-806アミノ酸長-):84位のセリン残基がリシンで置換されている変異体(以降、本明細書においてS84Lと命名);200位のアルギニン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてR200Cと命名);248位のアルギニン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてR248Cと命名);249位のセリン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてS249Cと命名);250位のプロリン残基がアルギニンで置換されている変異体(以降、本明細書においてP250Rと命名);262位のアスパラギン残基がヒスチジンで置換されている変異体(以降、本明細書においてN262Hと命名);268位のグリシン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてG268Cと命名);278位のチロシン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてY278Cと命名);279位のセリン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてS279Cと命名);370位のグリシン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてG370Cと命名);371位のセリン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてS371Cと命名);373位のチロシン残基がシステインで置換されている変異体(以降、本明細書においてY373Cと命名);380位のグリシン残基がアルギニンで置換されている変異体(以降、本明細書においてG380Rと命名);381位のバリン残基がグルタミン酸で置換されている変異体(以降、本明細書においてV381Eと命名);391位のアラニン残基がグルタミン酸で置換されている変異体(以降、本明細書においてA391Eと命名);540位のアスパラギン残基がリシンで置換されている変異体(以降、本明細書においてN540Kと命名);終止コドンが塩基置換により排除されている変異体、特に、アルギニン、システイン、グリシン、セリンまたはトリプトファンコドンにおいて終止コドンが変異している変異体(それぞれ、以降、本明細書においてX807R、X807C、X807G、X807SおよびX807Wと命名);650位のリシン残基が別の残基、特にメチオニン、グルタミン酸、アスパラギンまたはグルタミンで置換されている変異体(以降、本明細書においてK650M、K650E、K650NおよびK650Qと命名);528位のメチオニン残基がイソロイシンで置換されている変異体(以降、本明細書においてM528Iと命名);538位のイソロイシン残基がバリンで置換されている変異体(以降、本明細書においてI538Vと命名);540位のアスパラギン残基がセリンで置換されている変異体(以降、本明細書においてN540Sと命名);540位のアスパラギン残基がトレオニンで置換されている変異体(以降、本明細書においてN540Tと命名)。典型的には、本発明に係る構成的に活性なFGFR3変種は、N540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S、N540TまたはA391E変異体である。
【0028】
ある態様では、対象は、FGFR3関連骨格疾患を患っている。
【0029】
本明細書において使用される場合、用語「FGFR3関連骨格疾患」は、特に、FGFR3受容体の構成的に活性な変異体、特に上述した通りのFGFR3受容体の構成的に活性な変異体の発現による、FGFR3の異常に増加した活性化によって引き起こされる骨格疾患を意味することが意図される。
【0030】
ある態様では、FGFR3関連骨格疾患は、好ましくは、FGFR3関連軟骨異形成症およびFGFR3関連頭蓋骨縫合早期癒合症である。
【0031】
本明細書において使用される場合、「FGFR3関連軟骨異形成症」としては、小人症、例えば、軟骨低形成症(HCH)、タナトフォリック骨異形成症(TD)I型、タナトフォリック骨異形成症II型、軟骨無形成症(ACH)およびSADDAN(発達遅滞と黒色表皮腫を伴う重症軟骨無形成症)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0032】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、小人症である。
【0033】
本明細書において使用される場合、用語「小人症」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、遺伝的または医学的症状から生じる低身長のことを指す。小人症は、一般的に、成人で身長147センチメートル以下として定義される。
【0034】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、軟骨低形成症(HCH)である。
【0035】
本明細書において使用される場合、用語「軟骨低形成症」(HCH)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、不相応に低い身長、四肢短縮および身体の発育の遅れた部位と比較して大きく見える頭部に関する。
【0036】
ある態様では、FGFR3関連軟骨異形成症は、FGFR3受容体の構成的に活性なN540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540SまたはN540T変異体の発現によって引き起こされる軟骨低形成症である。
【0037】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、軟骨無形成症(ACH)である。
【0038】
本明細書において使用される場合、用語「軟骨無形成症」(ACH)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腕および脚が短い一方で、胴体は通常は正常の長さであり、肥大した頭部および前額突出を有する遺伝的欠損に関する。
【0039】
特に、FGFR3関連骨格疾患は、タナトフォリック骨異形成症(TD)である。
【0040】
本明細書において使用される場合、用語「タナトフォリック骨異形成症」(TD)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、不相応に小さい胸郭、極端に短い四肢ならびに腕および脚上の余分な皮膚のひだを特徴とする重度の骨格欠損に関する。
【0041】
ある態様では、FGFR3関連骨格疾患は、FGFR3関連頭蓋骨縫合早期癒合症である。いくつかの態様では、FGFR3関連頭蓋骨縫合早期癒合症は、遺伝性または散発性の疾患に相当する。
【0042】
特に、FGFR3関連頭蓋骨縫合早期癒合症は、FGFR3受容体の構成的に活性なP250R変異体の発現によって引き起こされるムエンケ症候群である。
【0043】
特に、FGFR3関連頭蓋骨縫合早期癒合症は、FGFR3受容体の構成的に活性なA391E変異体の発現によって引き起こされる、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)である。
【0044】
本明細書において使用される場合、用語「頭蓋骨縫合早期癒合症」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、対象の頭蓋骨の線維性縫合線の1つ以上が、骨に変わること(骨化)によって通常より早く癒合し、それにより頭蓋骨の成長パターンを変化させる状態に関する。「黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)」は、極めて稀な頭蓋骨縫合早期癒合症である。
【0045】
本明細書において使用される場合、用語「黒色表皮腫」は、茶色から黒色の、明確に定義されていない、皮膚のビロード状の色素沈着過剰に関する。
【0046】
本明細書において使用される場合、用語「処置」または「処置する」は、疾患に罹るリスクのあるまたは疾患に罹っていると疑われる患者ならびに病気であるまたは疾患もしくは医学的症状を患っていると診断された患者の処置を含めた、防止的または予防的処置、および治癒的、患者の状態を改善する、または疾患修飾する処置の両方のことを指し、臨床的再発の抑制を含む。処置は、医学的障害を有する対象または最終的に障害を得る恐れのある対象に対して、障害または再発性障害を予防、治癒、その発症を遅延、その重症度を低下、またはその1つもしくは複数の症状を改善するために、あるいは対象の生存をそのような処置のない場合に予想される生存より延長させるために施行され得る。「治療レジメン」とは、病気の処置のパターン、例えば、治療中に使用される投薬のパターンのことを意味する。治療レジメンは、導入レジメンと維持レジメンを含み得る。語句「導入レジメン」または「導入期間」は、疾患の初回処置に使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部)のことを指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間に患者に高レベルの薬物を提供することである。導入レジメンは、(部分的または全体的に)「負荷レジメン」を採用することができ、これは、維持レジメンの間に医師が採用するであろうよりも高用量の薬物を投与すること、維持レジメンの間に医師が投与するであろうよりもより頻繁に薬物を投与すること、またはその両方を含むことができる。語句「維持レジメン」または「維持期間」は、例えば、患者を長期間(数ヶ月間または数年間)寛解状態に保つために、病気の処置中に患者の維持に使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部)のことを指す。維持レジメンは、持続的療法(例えば、薬物を規則的な間隔で、例えば、毎日、毎週、毎月、毎年など、投与すること)または間欠療法(例えば、中断された処置、間欠処置、再発した際の処置、または特定の事前決定された基準[例えば、疾患の兆候など]に到達した際の処置)を採用することができる。
【0047】
本明細書において使用される場合、用語「予防すること」は、そのような用語が適用される障害または状態の発症を遅延させるまたは予防することを目指した防止的方法またはプロセスを特徴付けることを意図する。
【0048】
用語「発現」は、遺伝子または核酸の発現との関連で使用される場合、遺伝子中に含有される情報を遺伝子産物に変換することを指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接的な転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNAまたは任意の他の種類のRNA)またはmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質(すなわち、FGFR3)であることができる。
【0049】
本明細書において使用される場合、用語「阻害剤」は、標的分子の活性を阻害するための薬物だけでなく、標的分子の発現を阻害するための薬物も含む。
【0050】
ある態様では、本発明の阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤である。本明細書において使用される場合、用語「FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤」(TKI)は、FGFR3のチロシンキナーゼ活性を阻害するのに効果的な化合物(天然または合成)のことを指す。加えて、チロシンキナーゼに対して特異的な活性を有する阻害剤が選好され得る。
【0051】
FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の例としては、PD173074(CAS No. 219580-11-7)、AZD4547(CAS No. 1035270-39-3)、BGJ398(CAS No. 872511-34-7)、AP24534(CAS No. 943319-70-8)、BIBF1120(CAS No. 656247-17-5)、JNJ-42756493(CAS No. 1346242-81-6)、TKI-258(CAS No. 405169-16-6)、PHA-739358(CAS No. 827318-97-8)、BMS-540215(CAS No. 649735-46-6)、TKI-258二乳酸(CAS No. 852433-84-2)、MK-2461(CAS No. 917879-39-1)、BMS-582664(CAS No. 649735-63-7)、SSR128129E(CAS No. 848318-25-2)、PRN1371(CAS No. 1802929-43-6)、PD166866(CAS No. 192705-79-6)、BLU554(CAS No. 1707289-21-1)、S49076(CAS No. 1265965-22-7)、SU5402(CAS No. 215543-92-3)、BLU9931(CAS No. 1538604-68-0)、FIN-2(CAS No. 1633044-56-0)、TKI-258乳酸塩(CAS No. 915769-50-5)、CH5183284(CAS No. 1265229-25-1)、LY2874455(CAS No. 1254473-64-7)またはASP5878(CAS No. 1453208-66-6)が挙げられるが、それらに限定されない。よく認識されているように、各分子に割り当てられたCAS(chemical abstracts service)番号は、各化合物に固有の識別子である。ある態様では、FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤は、Tyra Biosciences IncからのTYRA-300である。
【0052】
ある特定の態様では、FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤は、FGFR3ファミリーの強力な阻害剤であるBGJ398である。本明細書において使用される場合、用語「BGJ398」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、3-(2,6-ジクロロ-3,5-ジメトキシフェニル)-1-[6-[4-(4-エチルピペラジン-1-イル)アニリノ]ピリミジン-4-イル]-1-メチル尿素のことを指す。この用語は、インフィグラチニブ、NVP-BGJ398、またはBGJ-398としても知られる。
【0053】
本明細書において使用される場合、用語「投与すること」または「投与」は、体外に存在する場合の物質(例えば、FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤)を、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達および/または本明細書に記載されるもしくは当技術分野において公知の任意の他の物理的送達法などによって、対象に注射するまたはそれ以外の物理的に送達する行為のことを指す。疾患またはその症状が処置される場合、物質の投与は、典型的には、疾患またはその症状の発症後に行われる。疾患またはその症状が予防される場合、物質の投与は、典型的には、疾患またはその症状の発症前に行われる。
【0054】
「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するために、必要な投与量および期間で有効な量のことを指す。薬物の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに薬物が個体において所望の応答を惹起する能力などの要因に応じて変動し得る。治療有効量はまた、治療上有益な効果が、抗体または抗体部分のあらゆる毒性または有害作用を上回る量でもある。薬物の効率的な投与量および投薬レジメンは、処置されるべき疾患または状態に左右され、当業者によって決定され得る。当技術分野における通常の技能を有する医師は、必要とされる薬学的組成物の有効量を容易に決定および処方することができる。例えば、医師は、薬学的組成物で用いられる薬物の用量を所望の治療効果を達成するために必要とされるよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることができる。一般に、本発明の組成物の好適な用量は、特定の投薬レジメンに従って治療効果が生じるのに有効な最低用量である化合物の量であろう。そのような有効用量は、一般に、上記の要因に左右されよう。例えば、治療用途での治療有効量は、疾患の進行を安定化させるその能力によって測定され得る。当業者は、そのような量を、対象のサイズ、対象の症状の重症度、および選択された特定の組成物または投与経路などの要因に基づいて決定することができるだろう。薬物の治療有効量の例示的で非限定的な範囲は、約0.1~100mg/kg、例えば約0.1~50mg/kg、例えば、約0.1~20mg/kg、例えば約0.1~10mg/kg、例として、約0.5、例えば約0.3、約1、約3mg/kg、約5mg/kgまたは約8mg/kgである。投与は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であり得るが、例として、標的部位の近位に投与され得る。上記の処置の方法および使用における投薬レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療応答)が生じるように調整される。例えば、単回ボーラスを投与してもよく、数回の分割用量を経時的に投与してもよく、または治療状況の緊急性によって指示される場合には用量を比例的に低減または増加させてもよい。いくつかの態様では、処置の有効性は、治療の間、例えば、所定の時点にモニタリングされる。非限定的な例として、本発明に係る処置は、1日当たり約0.1~100mg/kg、例えば、0.2、0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90または100mg/kgの量の本発明の薬剤の1日投与量として、処置の開始後、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39または40日目の少なくとも1つに、あるいは代替的に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20週目の少なくとも1つに、あるいはそれらの任意の組み合わせで、単回または分割用量を使用して24、12、8、6、4または2時間ごとに、あるいはそれらの任意の組み合わせを使用して提供され得る。
【0055】
いくつかの態様では、患者に、活性成分として治療有効量のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤と少なくとも1種の薬学的に許容し得る賦形剤とを含む薬学的組成物が投与される。
【0056】
本明細書において使用される場合、用語「活性成分(active principle)」または「有効成分(active ingredient)」は、互換的に使用される。本明細書において使用される場合、用語「薬学的組成物」は、担体および/または賦形剤などの他の作用物質との本明細書に記載される組成物またはその薬学的に許容し得る塩のことを指す。本明細書で提供される通りの薬学的組成物は、典型的には、薬学的に許容し得る担体を含む。
【0057】
本明細書において使用される場合、用語「薬学的に許容し得る担体」は、所望される特定の剤形に適するようなありとあらゆる溶媒、希釈剤、または他の液体媒体、分散もしくは懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘もしくは乳化剤、保存料、固体結合剤、滑沢剤などを含む。Remington's Pharmaceutical-Sciences, Sixteenth Edition, E. W. Martin(Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1980)は、薬学的組成物を製剤化する際に使用される様々な担体およびその調製のための公知の技術を開示している。
【0058】
薬学的に許容し得る担体または賦形剤は、あらゆる種類の無毒の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料または製剤化助剤のことを指す。典型的には、薬学的組成物は、注射可能な製剤にとって薬学的に許容し得る媒体を含有する。これらは、特に、等張の滅菌食塩水溶液(リン酸一ナトリウムもしくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムなど、またはそのような塩の混合物)、または、乾燥、とりわけ凍結乾燥組成物(場合により、滅菌水または生理食塩水を添加することによって、注射用液剤の構成が可能になる)であり得る。注射用途に適した薬学的剤形は、滅菌水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナツ油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用滅菌粉末を含む。いずれの場合も、この剤形は、滅菌されていなければならず、また容易に注射できる程度に流動性でなければならない。それは、製造および貯蔵条件下において安定でなければならず、また細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。滅菌注射用溶液は、必要な量の本発明の薬剤を、必要に応じて、上に挙げた種々の他の成分と共に、適切な溶媒に加え、続いて、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、様々な滅菌した有効成分を、基本の分散媒および上に挙げたものからの必要な他の成分を含有する滅菌媒体に加えることによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分と任意の追加の所望の成分の予め滅菌濾過した溶液から粉末を生成する、真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0059】
本発明は、以下の図面および実施例によってさらに説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例および図面は、いずれにしても、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1A】(A)骨折後14日目の下顎骨のMicroCTスキャン分析。仮骨の体積は、未処置のFgfr3N534K/+と比較して、処置したFgfr3N534K/+では変化していない。処置したFgfr3N534K/+の下顎骨のBV/TVは増加している。
図1B】(B)骨折後28日目の下顎骨のMicroCTスキャン分析。仮骨の体積は、未処置のFgfr3N534K/+変異体と比較して、処置したFgfr3N534K/+では減少している。処置したFgfr3N534K/+の下顎骨のBV/TVは増加している。
図1C】(C)28日目の修復グレード(grade repair)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
【実施例
【0061】
定義:
本明細書において使用される場合、用語「FGFR3N534K/+」は、HCHマウスモデルに関する。変異体マウスは、成長欠陥、成長板先天異常、軟骨結合の部分的喪失、脊柱前湾を伴うHCHの臨床像を呈する。成体HCH動物の骨の骨密度は減少し、その骨構造は、骨粗しょう症の骨のいくつかの特徴を有し、老齢期に骨折のリスクが高い。
【0062】
本明細書において使用される場合、用語「FGFR3Y367C/+」は、ヒトのACH表現型を再現するマウスモデルに関する。ACHの臨床所見(例えば、大後頭孔の縮小を伴う小人症、下顎骨の低形成、聴覚消失、椎間板の先天異常、軟骨細胞の増殖および分化欠陥、ならびに毛様体形成の障害(Pannier et al. 2009, 2010、Mugniery et al 2012、Di Rocco et al 2014、Biosse Duplan et al 2016、Komla Ebri et al 2016、Martin et al 2018)。
【0063】
本明細書において使用される場合、用語「FGFR3A385E/+」は、記憶の欠陥が観察されたCANマウスモデルに関する。
【0064】
結果
I-軟骨低形成症のマウスモデル(Fgfr3N534K/+)における下顎の骨修復の研究
HCHマウスモデル(Fgfr3N534K/+)において下顎の骨修復を研究した。この実験は、6週齢の成体動物において実施し、4つの重要時点でマウスを安楽死させた:骨修復中(骨折の10日後、14日後、21日後)と、通常の骨治癒プロセスの終点、すなわち骨折の28日後。
【0065】
Fgfr3N534K/+およびFgfr3+/+マウスの上行枝領域で垂直的な下顎骨折を施行した。これは、軟骨内骨修復プロセスの分析を可能にする非安定化下顎骨折プロトコルである。
【0066】
修復の種々の重要な段階に相当するFgfr3N534K/+およびFgfr3+/+の下顎骨折の4種のバッチ(n=100)(10日目、14日目、21日目、28日目)を研究した。コラーゲンII型(増殖性軟骨)、X型(肥大軟骨)およびI型(骨)免疫標識を使用して、軟骨内プロセスが妨害されていることを観察し、Fgfr3+/+と比較して、Fgfr3N534K/+において遅延した軟骨吸収、肥大軟骨細胞域のサイズの減少および修復仮骨内の骨形成の欠陥に気付いた。これらのデータを完成させるため、28日目(骨折後)に、アルシアンブルー/ピクロシリウス染色を使用して仮骨の組織形態計測学的分析を実施した。Fgfr3N534K/+マウスにおいて偽関節(仮骨中の線維化)の存在を観察したが、Fgfr3+/+仮骨において100%の骨を観察した。28日目に新たに形成された骨の品質を考慮して、4種の修復のグレードを定義し、マウスを修復グレード(1~4)に従って分類した。不完全な修復は、Fgfr3+/+と比較してFgfr3N534K/+において有意である(図1C)。
【0067】
骨の微細構造を分析するために、microCTスキャンを実施した。Fgfr3+/+と比較して、Fgfr3N534K/+で10日目~28日目に仮骨形成の微細構造の変化を観察した。骨体積/総体積(BV/TV)は、対照と比較して、変異体において10日目(-23%、p<0.05)、14日目(-14%、p<0.01)、21日目(-14,9%、p<0.005)および28日目(-5,8%、p<0.05)に有意に減少している(図1Aおよび1B)。
【0068】
ここで、HCHマウスの非安定化下顎骨折のモデルにおいて、Fgfr3の機能獲得が骨修復を障害したと結論付けた。1)骨形成が変化し、骨構造が骨粗しょう症の骨のいくつかの特徴を有すること、そして、2)仮骨における偽関節の形成が観察されたので、このことから、下顎骨において軟骨内骨化が重度に妨害されていることが立証される。
【0069】
II-治療的アプローチによる下顎骨の形成および修復の改善
異常なFGFシグナル伝達に対処するための現行の治療的アプローチは、数多く、様々あり、FGFR3の下流のシグナル伝達経路を標的とするFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤(BGJ398)が挙げられる。
【0070】
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、受容体チロシンキナーゼの活性を阻害する。インフィグラチニブの有効性は、ACHのマウスモデル(Fgfr3Y367C/+)において実証された。処置したマウスは、長骨、椎骨、椎間板、頭蓋顔面形状および大後頭孔など、ACHの罹患した骨格要素の多くで改善を示した(Komla Ebri et al 2016、Biosse Duplan et al 2016)。
【0071】
0日目(下顎の骨折)から14日目または28日目まで、HCHマウス(Fgfr3N534K/+)をインフィグラチニブ(4mg/kgを週3回皮下注射)で処置した。骨折後14日目および28日目に、microCTスキャンによって骨修復分析を評価した(図1Aおよび1B)。BV/TV(骨体積/総体積)および仮骨体積(仮骨のTV(総体積)/反対側の上行枝領域のTVの比)を定量した。
【0072】
仮骨体積は、骨折後14日目では変化していないが、骨折後28日目では、未処置のHCHマウス(n=14)と比較して、処置したHCHマウス(n=10)で仮骨体積の有意な減少が観察される(-38,6%、p<0.0001)。BV/TVの改善が、骨折後14日目に、未処置のHCHマウス(n=9)と比較して、処置したHCHマウス(n=7)で観察され(+20.8%、p<0.05)、28日目に、未処置のHCHマウス(n=14)と比較して、処置したHCHマウス(n=10)で観察される(+17,8%、p<0.01)(図1Aおよび1B)。
【0073】
FGFR3の機能獲得型変異は、下顎骨非安定化骨折モデルにおいて骨形成、品質および修復を妨害した。仮骨は、microCTスキャンによる骨の定量分析によって明らかなように、HCHマウスにおいて異常である。BV/TVは、野生型と比較して、HCHマウスで有意に減少している。
【0074】
マウスの4種のバッチ(Fgfr3+/+.Fgfr3N534K/+およびFgfr3N534K/++BGJ398)の下顎骨修復の比較分析は、HCHマウスにおける不完全な骨形成および修復と、下顎骨修復における両処置の有益な効果を浮き彫りにした。7/10(BGJ398)で完全な骨治癒(グレード1)が観察された。3/10(BGJ398)で骨の連続性の回復と軽度の骨欠陥の存在(グレード2)が観察された(図1C)。これらの結果は、BGJ398処置の有益な効果を実証している。
【0075】
結論
まとめると、これらのデータは、FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤(BGJ398)による処置が、FGFR3関連軟骨異形成症との関連で下顎の骨形成および修復を改善するという概念実証を提供する。
【0076】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する技術分野の最新技術を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
図1A
図1B
図1C
【配列表】
2024546878000001.xml
【国際調査報告】