(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ドア用のロック装置
(51)【国際特許分類】
E05B 65/08 20060101AFI20241219BHJP
E05C 5/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E05B65/08 C
E05C5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535608
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2022084903
(87)【国際公開番号】W WO2023110602
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524219164
【氏名又は名称】ギルゲン ドア システムズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファウティ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】バプスト,ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】デゥチュ,ビート
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの戸(11)を備えたドア、特に引き戸(10)用のロック装置(1)に関する。ロック装置は、ハウジングパーツ(2)と、ハウジングパーツ(2)により保持されたロック要素(5)とを有しており、ロック要素(5)は、少なくとも1枚の戸(11)を閉鎖位置又は開放位置においてロックし且つロック解除するために用いられる。ロック要素(5)は、ハウジングパーツ(2)に対して相対的にスライド方向(V)に沿ってスライド可能であり、且つ回転軸(R1)周りに傾倒可能であり、前記ロック要素(5)のスライドと傾倒の両方によって、少なくとも1枚の前記戸(11)のロックし及びロック解除が択一的に可能である。本発明は追加的に、このようなロック装置(1)を備えたドア、特に引き戸(10)にも関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の戸(11)を備えたドア、特に引き戸(10)用のロック装置(1)であって、
ハウジングパーツ(2)と、
少なくとも1枚の前記戸(11)を閉鎖位置又は開放位置においてロック及びロック解除するために用いられる、前記ハウジングパーツ(2)により保持されたロック要素(5)と
を備え、
前記ロック要素(5)は、スライド方向(V)に沿って前記ハウジングパーツ(2)に対して相対的にスライドすることと、回転軸(R1)周りに傾倒することとの両方が可能であり、前記ロック要素(5)のスライドと傾倒との両方によって、少なくとも1枚の前記戸(11)のロック及びロック解除が択一的に可能であることを特徴とする、ロック装置(1)。
【請求項2】
圧縮ばね(6)とスライド装置とをさらに含み、前記スライド装置は、特に、前記ロック要素(5)を前記圧縮ばね(6)の圧縮力に抗して前記スライド方向(V)に沿ってスライドさせるために、ソレノイド(7)を備えた、請求項1に記載のロック装置(1)。
【請求項3】
前記スライド装置(7)は、前記スライド装置(7)が前記ロック要素(5)をロック解除状態又はロック状態に保持する作動状態を有している、請求項2に記載のロック装置(1)。
【請求項4】
ねじりばね(6)と傾倒装置(3)とをさらに備え、前記ロック要素(5)を前記ねじりばね(6)のねじり力に抗して前記回転軸(R1)周りに傾倒させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のロック装置(1)。
【請求項5】
前記傾倒装置(3)は、前記第1の回転軸(R1)に対して垂直に延びる第2の回転軸(R2)周りに枢動可能である作動要素(34)を備え、前記第1の回転軸(R1)周りに前記ロック要素(5)が傾倒可能である請求項4に記載のロック装置(1)。
【請求項6】
好ましくは前記ロック要素(5)を、少なくとも1枚の前記戸(11)をロック又はロック解除している状態に保つために、前記スライド方向(V)に沿った圧縮力と、前記回転軸(R1)周りのねじり力との両方を前記ロック要素(5)に加える、圧縮・ねじり複合ばね(6)をさらに備えた、請求項1~5のいずれか1項に記載のロック装置(1)。
【請求項7】
前記ロック要素(5)をロック解除状態及び/又はロック状態に保つために、1つ以上の保持要素、特に1つ以上の終端位置磁石をさらに備えた、請求項1~6のいずれか1項に記載のロック装置(1)。
【請求項8】
前記ロック要素(5)は、スライド装置(7)により自動的にスライド可能であるとともにユーザにより手動で傾倒可能である、又は、傾倒装置(3)により自動的に傾倒可能であるとともにユーザにより手動でスライド可能である、請求項1~7のいずれか1項に記載のロック装置(1)。
【請求項9】
前記ロック要素(5)を手動で傾倒又はスライドさせるために、少なくとも1つのボーデンケーブル(8)が設けられている、請求項8に記載のロック装置(1)。
【請求項10】
前記ロック要素(5)は、1つ以上の係合要素、特に係合ピン(52)を有しており、前記係合要素は、それぞれ前記スライド方向(V)に対して平行に延びており、ロック時に、前記戸に取り付けられた1つ以上のロックフック(9)に係合する機能を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のロック装置(1)。
【請求項11】
前記係合要素(52)は、前記係合要素(52)が前記スライド方向(V)に関して前記ロック要素(5)の正面から又は後ろから外向きに延びるように、前記ロック要素に任意に配置され得る、請求項10に記載のロック装置(1)。
【請求項12】
前記ロック装置(1)は、全体としてコンパクトな設計を有している、請求項1~11のいずれか1項に記載のロック装置(1)。
【請求項13】
少なくとも1枚の戸(11)と、少なくとも1枚の前記戸(11)を閉鎖位置又は開放位置においてロックするための、請求項1~12のいずれか1項に記載のロック装置(1)とを備えたドア、特に引き戸(10)。
【請求項14】
1枚以上の前記戸(11)のそれぞれにロックフック(9)が取り付けられており、前記ロックフックは、前記スライド方向(V)に対して垂直な方向で前記ロック要素(5)に係合するように設計されている、請求項13に記載のドア。
【請求項15】
前記ロックフック(9)は、前記ロック要素(5)が傾倒するように、それぞれの前記戸(11)の閉鎖中又は開放中に前記ロック要素(5)に当接するように機能する、傾斜面(91)をそれぞれ有している、請求項14に記載のドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック又はロック解除される少なくとも1枚の戸を有するドア、特に引き戸用のロック装置に関する。本発明は、この種のロック装置を有するドアにも関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野では、少なくとも1枚、しばしば2枚の可動の戸を備えた引き戸が長らく知られている。1枚又は複数の戸は、通常、例えば建物の壁面開口を通る通路を開放又は閉鎖することができるように、通路方向に対して垂直に移動させることができる。当該技術分野では特に、1枚又は複数の戸を、開閉のために手動で動かす必要はなく、駆動モータによりこれが達成される自動引き戸も知られている。人が接近すると即座に引き戸の自動的な開放が開始されるように、引き戸の両側にはプレゼンスセンサを設けることができる。
【0003】
今日使用される多くの引き戸では、例えば特定の時間における不正なアクセスが防止されるように、ドアを閉鎖位置でロックできることが望ましい。このために、従来技術において最も多様な実施形態を有する、対応するロック装置が提供されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ロック解除のために傾倒させられ得るフック状の端部が設けられたロックレバーを含むロック装置が開示されている。傾倒は、一方では電磁石を介して自動的に行うことができ、他方ではケーブルを介して手動で行うことができる。
【0005】
特許文献2に開示されたロック装置は電磁石を有しており、この電磁石により、ロック要素を戸に向かって下げてロックするか、又は上げてロック解除することができる。ロック解除ボルトを用いて、ロック要素を持ち上げる手動ロック解除が可能である。
【0006】
特許文献3には、電磁石を含むロック装置が開示されており、電磁石により、ロック要素をばね力に抗して戸に向かって動かし、ロックを生ぜしめることができる。この動作により、金属ディスクを吸着カップに接触させることができ、その結果、電磁石のスイッチが切られた後でもロックが維持される。停電の場合には、ロック要素に取り付けられたケーブルを介して手動でロック解除することができる。
【0007】
特許文献4に開示された、引き戸用の電気的なロック装置では、ロック要素を開放位置と閉鎖位置との間で傾倒させることができるようになっている。このことは、軸を介してロック要素に取り付けられた作動ノブを回転させることにより、手動でロック解除を達成され得る。あるいは、ロック解除及びロックは、ロックボルトの回転も生ぜしめる電磁石を介して行われてもよい。
【0008】
上述の文献に記載のロック装置の欠点は、停電の場合に、ロック要素がちょうど選定された位置に留まることである。このことは、例えば火災により停電が引き起こされた場合に、甚大な被害をもたらす虞がある。それというのも、この場合はドアがロックされ、例えば火災の拡大を防ぐ必要があるか、又は状況に応じて自動的に開放され、逃げる人が通れるようにする必要があるからである。しかしながら、電動式のドア駆動装置、又は純粋に機械式の、例えばばね作動式の緊急駆動装置によるドアの自動的な開放又は閉鎖は、ロック装置により可能にされた場合にしか行うことができない。
【0009】
さらに上述のロック装置は、電気部品又は手動部品の不具合、特に故障が生じた場合に、これによりいずれの場合も、他の部品も妨害される、という欠点を有している。その結果、緊急時でも、ドアが最早開放され得ない状況が生じる場合がある。
【0010】
さらに、従来技術における多くのロック装置は、設計が比較的複雑であると共に多数のコンポーネントから成っており、このことは、製造だけでなく、後付け又はその後の交換をも複雑にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】中国特許出願公開第102127994号明細書
【特許文献2】中国実用新案第211691917号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2919885号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第19835678号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、容易に製造され、フレキシブルに用いられるドア用のロック装置を規定することにある。ロック装置は、好ましくは自動及び手動の両方のロック及びロック解除を可能にすることが望ましく、さらに有利には、停電の場合には予め規定された状態になることができることが望ましい。
【0013】
この目的を達成するために、請求項1記載のロック装置を提案する。さらに請求項13には、この種のロック装置を有するドアが記載されている。その他の実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0014】
したがって本発明は、少なくとも1枚の戸を備えたドア、特に引き戸用のロック装置であって、
ハウジングパーツと、
少なくとも1枚の戸を閉鎖位置又は開放位置においてロック及びロック解除するために用いられる、ハウジングパーツにより保持されたロック要素と
を含む、ロック装置を提供する。
【0015】
ロック要素は、スライド方向に沿ってハウジングパーツに対して相対的にスライドすることと、回転軸周りに傾倒することとの両方が可能であり、ロック要素のスライドと傾倒の両方によって、少なくとも1枚の戸のロック及びロック解除を択一的に可能にする。
【0016】
したがって提案したロック装置では、1枚又は複数の戸をロック及びロック解除する、少なくとも2つの択一的な方法が存在する。ロック要素は、一方ではスライド方向に沿ってスライド可能であり、他方では回転軸周りに傾倒可能である。これは、ロック装置が特に簡単に、しかも極めてフレキシブルに製造され得ることを意味する。特に、ロック要素のスライド及び傾倒は、ロック及びロック解除という異なる目的のために提供されてよい。例えば、自動的な、すなわち電気技術、空圧、又は液圧に基づくロック及びロック解除は、ロック要素をスライドさせることができ、手動でのロック及びロック解除用の手動機構は、ロック要素を傾倒させることができ、あるいはその逆もまた然りである。これにより、予期しない停電時に、ロック装置が所定の状態、特にロック状態又はロック解除状態をとるようにロック装置を設計することが、特に容易になる。例えば停電時にロック要素を所望の所定の位置に動かすか、又は既に想定された位置に保持するために、例えばばね要素及び/又は終端位置磁石等の保持要素が設けられてよい。
【0017】
ロック要素の2つの自由度、すなわちスライド及び傾倒により、例えば、自動的な、すなわち電気技術に基づくロック及びロック解除を、手動でのロック及びロック解除から切り離すことも可能である。例えば1つの部品(駆動装置又は手動機構)の故障等の不具合が、必ずしも別の部品の妨害を招くわけではない。
【0018】
ロック及びロック解除は、好ましくは、一方ではロック要素を純粋にスライドさせることによって、他方ではロック要素を純粋に傾倒させることによっての両方により可能である。
【0019】
ロック要素は、好ましくは、スライド方向に対して平行に、有利にはハウジングパーツを貫通して延びる回転軸を中心として傾倒させられてよい。ロック要素は、特に好ましくは、ロッド形要素により規定された回転軸周りに傾倒、すなわち回動させられてよい。ロッド形要素は、好ましくは、プッシュロッドがロック要素をスライド方向に沿ってスライドさせるように、その長手方向に沿って変位可能なプッシュロッドである。このことは、ロック装置の製造を特に簡単にする。
【0020】
ドアは、引き戸であることが好ましく、ロック要素は、引き戸の2枚の戸を互いに不動に結合してロックするために機能するのがさらに好ましい。このためにロック要素は、好ましくはクリップ形の、特にC字形の要素を有しており、この要素はロック状態において、それぞれの戸に取り付けられたストッパ要素に対するストッパを形成している。これは、2枚の戸のストッパ要素がそれぞれ、ロック状態において引き戸の開放方向に沿ってクリップ形の要素の内側に配置され、これにより、互いに離反する方向に動かされることが防止されていることが好ましいことを意味する。つまりこの場合、2枚の戸が互いに離反する方向に動かされる虞はない、すなわち、引き戸はロックされている。
【0021】
2つの戸のストッパ要素は、例えば、上向き又は通路方向に突出した要素、例えばフック、ボルト、ピン又はブロック等であってよく、これらはそれぞれ、好ましくは開放方向を向いたストッパ面を有しており、このストッパ面は、ロック状態においてロック要素に当接するように機能する。
【0022】
もちろんこのロック装置は、ただ1枚の戸を備えた引き戸をロックするために使用されてもよい。この場合、別の実施形態でも好ましくは、定置のロック装置は、ロック状態においてただ1枚の戸に対するストッパを形成し、これにより、戸が動かされることを防止する。
【0023】
2枚の戸を備えた引き戸の場合、ロック要素は、ロック状態において戸の動きを防止するように機能する好ましくは2つ以上のストッパ、特に正確に2つのストッパを形成する。1枚だけの戸を備えた引き戸の場合、ロック要素は、好ましくはこの種の1つ以上のストッパ、特に正確には1つのこの種のストッパを形成する。
【0024】
ただし、ドアは必ずしも引き戸である必要はないが、引き戸が好ましい。したがって上述のロック装置は、例えばヒンジドアやスイングドアと共に使用されてもよい。ドアが引き戸である場合、ドア開口を閉鎖又は開放するためには、少なくとも1枚の戸を、好ましくはドア通過方向に対して垂直に、すなわちドア開口を形成している壁に沿ってスライドさせることができる。
【0025】
ロック要素は、好ましくは少なくとも1枚の戸を閉鎖位置においてロック及びロック解除するように機能する。つまりロック要素は、ドア開口を解放するために少なくとも1枚の戸がロック状態において開放されることを防ぐように機能することが好ましい。ただし、いくつかの実施形態では、ロック要素は、少なくとも1枚の戸を開放位置においてロック及びロック解除するために機能することも、実際に考えられる。この場合、ロック要素は、ロック状態において少なくとも1枚の戸が閉じることを防ぐことになる。
【0026】
ロック要素が、好ましくは定置のハウジングパーツに対して、相対的に前後に移動することができるスライド方向は、ドアの通過方向に対して平行に延びていることが好ましい。さらにスライド方向は、有利には、少なくとも1枚の戸がドア開口を閉鎖又は開放するためにスライド可能な方向に対して垂直に延びている。
【0027】
1つの好ましい実施形態では、ロック装置は、ロック要素を、少なくとも1枚の戸をロック又はロック解除している状態に保つために、回転軸周りにロック要素にねじり力を加えるねじりばねをさらに有している。ねじりばねにより加えられたねじり力は、特に好ましくは、ロック要素をロック状態に保つ及び/又はもたらすために使用される。したがってこの場合、ロック要素はねじり力を克服することにより傾倒させられ、ロック解除状態にもたらされることができる。
【0028】
1つの好ましい実施形態では、ロック装置は、ロック要素に圧縮力を加えて、ロック要素を少なくとも1枚の戸をロック又はロック解除している状態に保つ、及び/又は、ロック要素をこれらの状態のうちの1つにもたらす、圧縮ばねをさらに有する。したがってロック要素は、好ましくは圧縮ばねにより相応する圧縮力を加えられる。圧縮ばねは、ロック要素をスライド方向に沿ってスライドさせる、及び/又は、ロック要素をスライド方向に沿った位置に保持するように機能するのが好ましい。この場合、圧縮ばねは、ロック装置の所定の状態、特に、予期しない停電時のロック要素の所定の状態を保護するために使用され得る。
【0029】
1つの特に好ましい実施形態では、ロック装置は、ロック要素を、少なくとも1枚の戸をロック又はロック解除している状態に保つために、圧縮力とねじり力の両方をロック要素に加える、圧縮・ねじり複合ばねを有している。したがって、特にコイルばねとして設計され得る、圧縮・ねじり複合ばねは、有利には上述の圧縮ばねと上述のねじりばねの両方の機能を果たす。
【0030】
ロック要素は、少なくとも1枚の戸をロック解除するために、圧縮・ねじり複合ばねによりロック要素に加えられたねじり力に抗して、回転軸周りに傾倒可能であることが好ましい。圧縮・ねじり複合ばねにより加えられたねじり力は、好ましくはロック要素をロック状態に保つ。
【0031】
さらに、ロック要素は、圧縮・ねじり複合ばねにより加えられた圧縮力に抗して少なくとも1つの戸をロック解除するために、スライド方向に沿ってスライド可能であることが好ましい。
【0032】
実施形態に応じて、ロック装置は、停電時のロック解除又はロックに関して、事前にとった状態を保つように設計されることが好ましいが、ただし所定の状態をとるように設計されることが好ましい場合もある。事前にとった状態を保とうとする場合には、停電時であってもロック要素がいずれの場合も直前にとっていたスライド位置に保たれるように、好ましくは1つ以上の保持要素、例えば1つ以上の終端位置磁石を設けられるのが好ましい。1つ又は複数の終端位置磁石は、特にそれぞれが永久磁石であってよい。
【0033】
圧縮ばね、特に圧縮・ねじり複合ばねにより加えられる圧縮力は、ロック要素をロック状態に保つため、及び/又は、停電時にロック要素をロック状態にもたらすために、使用され得る。その結果、停電時にロック要素はばね力に基づき自動的にロック状態をとることができる。
【0034】
ただし別の実施形態では、ロック要素は、圧縮・ねじり複合ばねにより加えられた圧縮力に抗して少なくとも1枚の戸をロックするために、スライド方向に沿ってスライド可能であることが好ましい場合がある。圧縮ばね、特に圧縮・ねじり複合ばねにより加えられる圧縮力は、ロック要素をロック解除状態に保つため、及び/又は停電時にロック要素をロック状態にもたらすために使用され得る。その結果、停電時にロック要素はばね力に基づき自動的にロック解除状態をとることができる。
【0035】
ロック要素を、圧縮ばね、特に圧縮ねじりばねの圧縮力に抗してスライドさせるために、ロック装置は、好ましくはスライド装置も有している。スライド装置は、好ましくは電磁式のスライド装置である。スライド装置は、特にソレノイドを含んでいてよい。ソレノイドを用いると、ロック要素のスライドを特に簡単に達成することができる。ソレノイドよりむしろ別の電磁要素の使用も考えられる。
【0036】
スライド装置は、好ましくはロック装置をロック解除状態及び/又はロック状態にもたらすように作動させることができる。電磁式のスライド装置の場合、これは好ましくは磁石の、特にソレノイドの例えば活線、特にワイヤコイルが通電されるように作動させられる。したがって、スライド装置の状態を「ロック解除」から「ロック」に、又はその逆に変化させるためには、電磁式のスライド装置、特にソレノイドに電流が瞬間的に流されてよい。スライド装置を反対方向に動かすためには、実施形態に応じて、例えばばねの復元力を利用することができる、及び/又は、電流を逆電圧でスライド装置に流すことができる。電磁式のスライド装置は、スライド装置が作動していないときでもスライド装置を所定の位置に保つために、1つ以上の保持要素、好ましくは1つ以上の終端位置磁石を有していてよい。あるいは、保持要素は例えば1つ以上の吸着カップであってもよい。
【0037】
別の実施形態では、スライド装置は、スライド装置がロック要素をロック解除状態に保持する作動状態を有していてよい。電磁式のスライド装置の場合、この作動状態は、好ましくは磁石の、特にソレノイドの例えば活線、特にワイヤコイルに通電することにより達成される。この場合、停電時にロック要素は、好ましくは圧縮ばねにより加えられる圧縮力により、ロック要素が少なくとも1枚の戸をロックする位置に動かされる。
【0038】
ただしさらに別の実施形態では、スライド装置は、スライド装置がロック要素をロック状態に保持する作動状態を有していてよい。電磁式のスライド装置の場合、この作動状態も、好ましくは磁石の、特にソレノイドの例えば活線、特にワイヤコイルに通電することにより採択される。この場合、停電時にロック要素は、好ましくは圧縮ばねにより加えられる圧縮力により、ロック要素が少なくとも1枚の戸をロック解除する位置に動かされる。
【0039】
ロック要素を、ねじりばね、特に圧縮ねじりばねのねじり力に抗して傾倒させるために、ロック装置は、傾倒装置を有しているとさらに好ましい。傾倒装置は、好ましくは純粋に機械的な傾倒装置、すなわち純粋に機械的な動作によりロック要素を傾倒させるように設計された装置である。傾倒装置は、好ましくはユーザにより手動で操作される装置であり、したがって、ユーザが手動でドアをロック又はロック解除することができるようになっている。
【0040】
傾倒装置は、有利には、ロック要素を傾倒させて少なくとも1枚の戸をロック解除又はロックするように、ユーザにより動かされ得る作動要素を含む。作動要素は、有利には少なくとも1つのばね要素により、ばね力で基準位置の方向に作動させられる。
【0041】
作動要素は、好ましくは第1の回転軸に対して垂直に延びる第2の回転軸周りに枢動可能であり、第1の回転軸周りにロック要素が傾倒可能である。特に好ましくは、第2の回転軸は、ロッド形状要素により規定されており、ロッド形状要素周りに作動要素が枢動可能、すなわち回動可能である。
【0042】
原則として、ロック要素はスライド装置により自動的にスライドさせられるとともに、ユーザにより手動で傾倒させられるようになっている、又は、ロック要素は傾倒装置により自動的に傾倒可能であるとともに、ユーザにより手動でスライドさせられるようになっている、ということが可能である。この場合、自動的な動作又は傾倒とは、ロック要素が技術的手段、例えばソレノイド又は液圧式の駆動装置等によって、動かされるか又は傾倒させられることを意味する。このことは、ロック要素が筋力により動かされるか又は傾倒させられる、手動での動作又は傾倒とは相違しており、手動での動作又は傾倒は、例えばばね力により支援され得る。
【0043】
ロック要素を手動で傾倒又はスライドさせるために、好ましくは少なくとも1つのボーデンケーブルが設けられている。
【0044】
ロック要素は、好ましくは1つ以上の係合要素、特に1つ以上の係合ピンを有しており、これらはそれぞれスライド方向に対して平行に延びており、ロック時に、戸に取り付けられた1つ以上のロックフックに係合する機能を有する。ロックフックは、好ましくはスライド方向に対して垂直な方向でロック要素に係合するように設計されている。実施形態に応じて、係合ピンは、ロック要素の残りの部分に取外し可能に取り付けられていてよいか、又はロック要素と一体に形成されていてもよい。
【0045】
ロックフックはそれぞれ、ロック要素を傾倒させるように、それぞれの戸の閉鎖中又は開放中にロック要素に当接するように機能する、傾斜面を有しているのが好ましい。好ましくは1つ以上の傾斜面は、ドアの閉鎖(又は開放)中にロック要素に当接し、これにより、ロック要素を傾倒させる。ただし、ドアが完全に閉鎖(又は開放)されると即座に、ロック要素は有利には例えばばね力により再び枢動して戻り、これにより、ロックフックがロック要素に係合させられる。
【0046】
係合要素は、好ましくは、スライド方向に関してロック要素の正面又は後ろから外向きに延びるように、ロック要素に任意に配置することができる。ロック要素における係合要素のこの種の任意に可能な配置は、停電時にその機能に関して、ロック装置を極めて容易に適合させることができる、という利点を提供する。係合要素が一方の方向へ延びているのか、又は他方の方向へ延びているのかに応じて、ロック装置を、停電時にロック状態又はロック解除状態にデフォルト設定することができる。このためには1つ以上の穿孔が、好ましくはロック要素に設けられており、穿孔内には係合要素を両側から螺入することができる。ロック要素は、好ましくは全体的に板状に構成されている。
【0047】
ロック装置は、好ましくは、全体としてコンパクトな設計を有している。少なくともロック要素、及び存在する場合にはスライド装置及び/又は傾倒装置は、有利にはハウジングパーツ内又はハウジングパーツ上に取り付けられており、これにより、ロック装置は、専らハウジングパーツに取り付けるだけで、ドアに取り付けることができるので好ましい。特に、ロック装置は、全体として、実質的に直方体状又は立方体状の構成を有していてよく、つまり、ハウジングパーツ、ロック要素、及び存在する場合にはスライド装置及び/又は傾倒装置は共に、それらの各外面又は縁部でもって、直方体又は立方体のおおよその形状を規定している。
【0048】
本発明は、少なくとも1枚の戸と、少なくとも1枚の戸を閉鎖位置又は開放位置においてロックするための上述のようなロック装置とを備えたドア、特に引き戸にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
以下に本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。図面は、本発明の好ましい実施形態を例示するためのものであるだけに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。
【
図1】本発明によるロック装置を後方斜め上から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示したロック装置をロック状態で、すなわち、各戸に取り付けられたロックフックがそこに係合させられた状態で示す、正面から見た平面図である。
【
図3】
図1に示したロック装置をロック状態で示す、上方から見た平面図である。
【
図4】
図1に示したロック装置を後方斜め上から見た部分分解斜視図である。
【
図5】
図1に示したロック装置の一部を前方斜め上から見た斜視図である。
【
図6】
図5に示したロック装置の一部を前方斜め上から見た分解斜視図である。
【
図7】改変されたロック要素を備えた、
図5に示したロック装置の一部を前方斜め上から見た斜視図である。
【
図8】
図7に示したロック装置の一部を前方斜め上から見た分解斜視図である。
【
図9a】
図1に示したロック装置を正面から見て、ドアが少なくとも部分的に開かれたロック解除状態で示す、正面から見た平面図(上)及び上方から見た平面図(下)である。
【
図9b】
図9aに示したロック装置を正面から見て、ドアが閉じるときのロック解除状態で示す、正面から見た平面図(上)及び上方から見た平面図(下)である。
【
図9c】
図9aに示したロック装置を正面から見て、ドアが閉じられたロック状態で示す、正面から見た平面図(上)及び上方から見た平面図(下)である。
【
図10a】
図1に示したロック装置を正面から見て、ドアが少なくとも部分的に開かれたロック状態で示す、正面から見た平面図(上)及び上方から見た平面図(下)である。
【
図10b】
図10aに示したロック装置を正面から見て、ドアが閉じるときに正面から見た平面図(上)及び上方から見た平面図(下)である。
【
図10c】
図10aに示したロック装置を正面から見て、ドアが閉じられたロック状態で示す、正面から見た平面図(上)及び上方から見た平面図(下)である。
【
図11a】
図1に示したロック装置を側方から見て、手動操作によるロック解除状態で示す平面図である。
【
図12】
図1に示したロック装置を備えた引き戸を正面から見たところを示す概略図である。
【
図13】別の実施形態に基づく本発明によるロック装置を後方斜め上から見た斜視図である。
【
図14】
図13に示したロック装置を前方斜め上から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1~
図11cには、ロック装置1の1つの実施形態が様々な視点及び状態で示されている。
図12には、この種のロック装置を備えた引き戸が示されている。
図13及び
図14には、同様に本発明によるロック装置1の別の異なる実施形態が示されている。同一であることが明らかな、又は類似の作用を有していて2回又は複数回現れる要素には、以下でそれぞれ同一の参照符号が付されている。
【0051】
以下では、上、下、鉛直方向、水平方向、上向き、下向き等の位置及び方向指示はそれぞれ、意図した形式でドア、特に引き戸に取り付けられたロック装置に関連するものである。この場合、懸吊装置は、典型的には、重力の方向に関して1枚又は複数の戸の上方に配置され、通常、壁又はドアの定置部分に取り付けられる。この場合、正面、前方、後ろ、及び後方等の位置及び方向の表示はそれぞれ、意図した形式で取り付けられたロック装置に関連しており、この場合、壁に最も近く配置されたロック装置の要素が正面に位置しており、壁から最も遠くに離間されたロック装置の要素が後方に位置している。
【0052】
図1~
図3にはロック装置1が、ドアが閉じられたロック状態で示されている。ロック装置1は、
図12に示すように、特に2枚の戸を備えた引き戸10と共に使用され得る。この場合、ロック装置1はドア通路開口の上縁部において中央に固定されて配置され、2枚の戸11を共に閉鎖位置においてロックするために使用されており、これらの戸11は、それぞれ閉鎖方向に(
図12に示す矢印の方向に沿って、すなわち通路開口に対して垂直に)スライドすることができる。
【0053】
図1、
図2及び
図3から特に明らかなように、ロック装置1はハウジングパーツ2を含み、ハウジングパーツ2は、例えば金属板から一体に製造されるのが好ましい。ハウジングパーツ2は、下方、2つの対向する側面、保持タブ23を備えた前方によって、ロック装置1の内部を画定しており、その内部には、ロック要素5、特に圧縮・ねじり複合ばね6、スライド装置、及び傾倒装置が収容されている。
【0054】
ハウジングパーツ2は、全体的に平らなデザインを有するとともにロック装置1の内部を画定する基底部を形成する底板21を有している。2つ対向する側面に向かって、底板21はそれぞれ、側板25に移行している。2つの側板25はそれぞれ、底板21の側方外縁から鉛直方向上向きに延びている。各側板25の上端部において、取付けタブ26が垂直方向外側に向かって延びている。2つの側板25のそれぞれに、連続取付け孔27が設けられており、連続取付け孔27は、ロック装置1を、ドアの定置要素又は壁に固定された要素に取り付けるために用いられる。
【0055】
側板25にはそれぞれ、同じ高さに、すなわち互いに対向する位置に貫通孔28が形成されており、貫通孔28は、枢動ロッド4を保持するために用いられる。底板21は、スライド装置を取り付けるために用いられる様々な孔を有している。
【0056】
正面に向かって、底板21は突出板部分22に移行しており、突出板部分22は、底板21の、横方向において画定された側板25の領域を越えた延長部である。突出板部分22の前縁からは、保持タブ23が側板25の約半分の高さまで延びている。保持タブ23には、プッシュロッド71をガイドするために用いられる中心貫通孔24が形成されている。
図5及び
図6において看取され得るように、保持タブ23は一方の側に、この場合は正面図(
図2)において右側に、保持タブ23から横方向に突出する支持要素29へと延びている。
【0057】
ハウジングパーツ2の底板21には、スライド装置が取り付けられており、スライド装置は
図4~
図6において特に明確に認識可能である。スライド装置は、ソレノイド7と、プッシュロッド71と、ストッパ要素72と、ベアリングリング73とを含む。底板21に取り付けられたソレノイド7は、ソレノイド7に取り付けられたプッシュロッド71をその長手方向に沿って、すなわちスライド方向Vに沿って前後にスライドさせるために用いられる。スライド方向Vは、
図3及び
図5に双方向矢印で示されている。ソレノイド7は、それ自体周知の電気的なコンポーネントであり、作動させられると、すなわち電源が入れられると、ソレノイド7に取り付けられたプッシュロッド71に線形力を加え、プッシュロッド71をその長手方向に沿って、すなわちスライド方向Vに沿ってソレノイド7の方に、圧縮・ねじり複合ばね6によりロック要素5ひいてはプッシュロッド71にも加えられる圧縮力に抗して引き寄せる。ソレノイド7は、動作実施後にソレノイド7が非作動状態になるとソレノイド7(ひいてはプッシュロッド71及びロック要素5)を所定の位置に保持するために、終端位置磁石(図示せず)を有している。
【0058】
プッシュロッド71及びロック要素5をスライド方向Vに沿って前方に、すなわちソレノイド7から離れる方向に動かすために、ソレノイド7には逆極性電圧が印加され、これにより、プッシュロッド71とロック要素5とに対し、スライド方向Vに沿って前方に力が加えられる。ロック要素5の前進変位は、端位置磁石により及ぼされる引張力が、全体的に克服されるように、圧縮・ねじり複合ばね6の復元力によっても支持されている。
【0059】
プッシュロッド71は、その前端の領域において、保持タブ23に設けられた貫通孔24を貫通して延びている。プッシュロッド71は、その前後への動きにおいて、貫通孔24により横方向においてガイドされている。ガイドを改良するために、この場合のように、ベアリングリング73が貫通孔24内に配置されていてよい。
【0060】
正面、ただし貫通孔24の後方の領域に、プッシュロッド71は、ストッパ要素72がスナップ係合させられる周方向溝を有している。
【0061】
ロック要素5は、プッシュロッド71周りに傾倒することができるように、プッシュロッド71に保持されている。換言すると、ロック要素5は、プッシュロッド71の長手方向に沿って、ひいてはスライド方向Vに沿って延びる第1の回転軸R1周りに回転可能となるように、プッシュロッド71に取り付けられている。ロック要素5は、全体が一体に形成されており、広幅の下側部分と、細幅の接続部分と、広幅の上側部分とを備えた概ね平らな板状の構成を有している。広幅の上側部分は、互いに横方向外側に向かって突出する2つの作動片54により形成されている。広幅の下側部分には、中心貫通孔51が形成されており、中心貫通孔51を貫通してプッシュロッド71が延びている。貫通孔51の横には、両側に連続孔53が設けられている。各孔53には、ロック要素5から前方に向かって突出するように、係合ピン52が、例えばねじ締結又はプレス嵌めにより、それぞれ挿入又は固定されている。
【0062】
あるいは、係合ピン52がそれぞれ、ロック要素5から前方にではなく後方に向かって突出するように、ロック要素5を180°回転させてプッシュロッド71に取り付けることも可能である。ロック要素5のこの変形例は、
図7及び
図8に示されている。あるいは、ロック要素5全体を回転させる代わりに、係合ピン52をロック要素5の反対側に取り付けることも可能である。
【0063】
図5及び
図6に示す、係合ピン52をロック要素5に取り付ける態様は、停電時に標準的にロックされる引き戸10と共に使用することを意図したものである。この場合、停電によりソレノイド7は非作動状態になり、したがってロック要素5は、圧縮・ねじり複合ばね6により自動的に前方に向かって変位させられる。その結果、係合ピン52はロックフック9の高さに位置することになり、係合ピン52は引き戸10が閉じられると、
図2及び
図3に示すようにロックフック9に係合する。これにより、引き戸10がロックされる。
【0064】
一方、
図7及び
図8に示す態様は、停電時に自動的にロック解除される引き戸10用を意図したものである。この場合も、停電時にソレノイド7は非作動状態になり、これによりロック要素5は、圧縮・ねじり複合ばね6により前方に向かってスライドさせられる。ただしこれにより、係合ピン52は、ロックフック9と整合しないように前方に向かってスライドさせられる。その結果、ロックフック9は最早係合ピン52と係合することができず、これにより、引き戸10はロック解除、すなわち解放されることになる。
【0065】
したがって、停電時に引き戸10をロック装置1により自動的にロックすべき機能又はロック解除すべき機能を、ロック要素5を回転させることにより、フレキシブル且つ極めて簡単に切り替えることができるようになっている。
【0066】
プッシュロッド71は、圧縮・ねじり複合ばね6の内部に部分的に延在しており、圧縮・ねじり複合ばね6は、その第1の端部でソレノイド7のハウジングに対する後方ストッパを形成しており、その第2の端部でロック要素5に対する前方ストッパを形成している。これにより、圧縮・ねじり複合ばね6は、前向きの押圧力をスライド方向Vに沿ってロック要素5に加えることになる。これにより、ロック要素5は、圧縮・ねじり複合ばね6により、プッシュロッド71に取り付けられたストッパ要素72に押し付けられることになる。
【0067】
ただし、圧縮・ねじり複合ばね6は、ロック要素5に圧力を加えるだけではなく、ロック要素5にねじり力をも加えている。正面図(
図2)において、このねじり力は、時計回りに方向付けられている。圧縮力とねじり力とを及ぼすことができるようにするために、圧縮・ねじり複合ばね6は、相応して予荷重を加えられて、ソレノイド7とロック要素5とに取り付けられている。圧縮・ねじり複合ばね6により加えられたねじり力により、ロック要素5は、係合ピン52のうちの1つが支持要素29上に位置するまで、保持タブ23に対して時計回りに回転させられる(
図2参照)。この位置では、ロック要素5の作動片54はそれぞれ、水平方向外側に延びている。
【0068】
ロック要素5は主に、その係合ピン52で引き戸10の2つの戸11(
図12)を閉鎖状態においてロックするために使用される。このために、係合ピン52のうちの1つと係合するように設計されたロックフック9が、各戸11に取り付けられている。この場合、
図2に示すように、一方のロックフック9は、好ましくは下方に突出した端部フックを有しており、他方のロックフック9は、上方に突出した端部フックを有している。例えば
図3において看取され得るように、水平横断面図では、ロック要素5は、その2つの係合ピン52と共にブラケット又はC字形部材を形成し、各戸11に取り付けられたロックフック9が互いに反対の側からロック要素5に係合することにより、2枚の閉じられた戸11を共に保持するために使用される。その結果、2枚の戸11は、最早互いに離反する方向には移動することができなくなり、ひいてはロック要素5によりロックされることになる。
【0069】
図2において明確に看取され得るように、ロックフック9はそれぞれ、それらの端部フックの領域に傾斜面91を有している。傾斜面91はいずれの場合も、戸11が閉じられると係合ピン52のうちの1つに当接し、これによりロック要素5を傾倒させるために用いられる。このことは
図10a及び
図10bにおいて、いずれの場合も上の図において特に明確に看取され得る。圧縮・ねじり複合ばね6により加えられたねじり力に抗してロック要素5を傾倒させることにより、ロックフック9を、それらの端部フックでもって互いに向かって水平方向に、係合ピン52を越えて移動させることができる。端部フックが係合ピン52を通過し、戸11が閉鎖位置でそれらの主閉鎖縁部でもって互いに当接するとすぐに、ロック要素5は、
図10cの上の図に示すように、その基本位置に戻るように傾倒する。この場合、係合ピン52はロックフック9により背面から係合されており、これにより、引き戸10は閉じられるだけではなく、ロックされてもいる。
【0070】
側板25に設けられた2つの貫通孔28を貫通して、ひいてはスライド方向Vに対して垂直な方向に、枢動ロッド4が延びている。枢動ロッド4は各端部領域に、それぞれ周方向溝を有しており、この周方向溝には、取付けリング41がスナップ係合しており、これにより、枢動ロッド4をハウジングパーツ2に保持している。
【0071】
枢動ロッド4は、ロック解除板3が枢動ロッド4周りに枢動することができるようにロック解除板3を保持する。これにより、枢動ロッド4は第2の回転軸R2を形成し、第2の回転軸R2周りに、ロック解除板3が枢動可能である。ロック解除板3は、ロック要素5を傾倒させるために用いられる傾倒装置を形成している。
【0072】
ロック解除板3は、全体が一体に形成されていて、例えば金属板で製造されている。ロック解除板3は平らな主要部31を有しており、主要部31から締結タブ32が曲げ部を介して各側面に向かって下方に延びている。締結タブにはそれぞれ、互いに対向して貫通孔33が形成されており、これらの貫通孔33を貫通して枢動ロッド4が延びている。これにより、ロック解除板3はハウジングパーツ2に、枢動ロッド4を介して枢動可能に保持されている。
図4において看取され得るように、平らな主要部31はその前方領域の、正面から見て右側において、曲げ部を介して主要部31から垂直方向下向きに延びる作動要素34に移行している。作動要素34は、ロック解除板3の一方の側だけに設けられ、主要部31に比べてやや前方に突出している。
【0073】
主要部31は、締結タブ32の後ろの領域においてやや広幅になっており、そこで両側に直角スロット35を有している。直角スロット35はそれぞれ、いずれの場合も主要部31の側縁部から鉛直方向と水平方向とに沿ってやや内側に向かって、次いで垂直方向に後ろ側に向かって、ロック解除板3を貫通して連続して延びている。
【0074】
ロック要素5を手動で傾倒させるために、特に
図4において明確に看取され得るボーデンケーブル8が設けられている。ここでは、ボーデンケーブル8は2つの部分に、すなわち、2つの同一に設計された部分に分かれている。ボーデンケーブル8は、ロック装置1を手動でロック解除するために使用される。例えば、ボーデンケーブル8の一方の部分はドアの一方の側からの手動ロック解除用に使用され得、ボーデンケーブル8の他方の部分は他方の側からの手動ロック解除用に使用され得る。別の実施形態では、ボーデンケーブル8を一体でのみ製造することが完全に可能である。簡略化のために、以下にボーデンケーブル8の設計を、これら2つの部分のうちの一方のみを用いて説明する。
【0075】
ボーデンケーブル8は、原則としてスリーブ82の内側に延びていて、引張力を伝達するために用いられる内側ワイヤ81を有している。別の実施形態では、スリーブ82は、ボーデンケーブル8が圧縮力を伝達する役割も果たせるように、耐圧設計を有していてよい。スリーブ82は、ハウジングパーツ2のやや下方に離間されて終端されている。内側ワイヤ81は、ハウジングパーツ2の底板21に設けられた孔を通り、そこから鉛直方向に沿ってロック解除板3まで延びている。したがって内側ワイヤ81は、第2の回転軸R2に対して特に垂直に延びている。内側ワイヤ81は、その上端の領域において、ロック解除板3に設けられた直角スロット35の1つを通って延びている。直角スロット35の直上で、内側ワイヤ81にはエンドクランプ88が取り付けられている。
【0076】
底板21に設けられた孔の領域では、内側ワイヤ81はねじ山付きスリーブ82を通って延びている。ねじ山付きスリーブ82は雄ねじ山を有しており、この雄ねじ山には第1の固定ナット85及び第2の固定ナット86がねじ締結されている。2つの固定ナット85,86は、互いに反対の側から底板21に当接し、これにより、ねじ山付きスリーブ82をハウジングパーツ2に固定する。ねじ山83は下側の領域に、径方向に突出したストッパ要素84を有しており、ストッパ要素84には、スリーブ82が下方に当接している。内側ワイヤ81は、ハウジングパーツ2とロック解除板3との間の領域において、長手方向にコイルばね87を貫通して延びている。ここでは、コイルばね87はその下端で第2の固定ナット86に当接しており、その上端でロック解除板3の下面に当接している。
【0077】
コイルばね87は、ロック解除板3に上向きの力を及ぼす圧縮ばねである。ロック解除板3が枢動ロッド4に回動可能に取り付けられていることにより、作動要素34が下方に押し下げられる。
【0078】
【0079】
図9aには、引き戸10が開いており、ロック装置1がロック解除されている状況が示されている。この状態を達成するためには、ソレノイド7が事前に作動させられており、これにより、ロック要素5は、圧縮・ねじり複合ばね6により加えられる押圧力に抗して、プッシュロッド71を介してソレノイド7の方に引き寄せられる。
図9aに示すロック解除状態では、ソレノイド7は非作動状態であり、ロック要素5は、終端位置磁石(図示せず)により所定の位置に保持されている。したがって、端部位置磁石によりロック要素5に作用する引付け力が、圧縮・ねじり複合ばね6によりロック要素5に加えられる押圧力を上回っている。
図9a及び
図9bそれぞれの、下の図において看取され得るように、ロック要素5のこの位置において、係合ピン52はロックフック9を含む平面の外側にあり、したがって戸11は解放されている。引き戸10を閉じているときでさえ、ロックフック9は係合ピン52に係合しない(
図9b)。ただし、戸11が閉じられて引き戸10がロックされるべき場合には、ソレノイド7に逆電圧が供給され、これにより、ソレノイド7はプッシュロッド71に前向きの力を及ぼす。このようにして、そして圧縮・ねじり複合ばね6から追加的に支持されることにより、ロック要素5は前方にスライドさせられ、これにより、
図9cに示すように、係合ピン52がロックフック9の平面内に位置することになる。ロックフック9が係合ピン52に係合しているため、戸11は、最早互いに離反する方向には移動することができなくなり、ひいてはロックされることになる。ロック要素5が
図9cに示すロック位置に到達すると、ソレノイド7は非作動状態にされ得る。次いでロック要素5は、圧縮・ねじり複合ばね6により加えられた押圧力により、また場合によっては別の終端位置磁石を用いて所定の位置に保持される。
【0080】
図10aには、引き戸10が開いており、ロック装置1がロックされている状況が示されている。ここでは、ソレノイド7は非作動状態であり、この非作動状態は、ここでは停電により引き起こされたものであってよいが、例えば夕刻の業務終了後に引き戸10を自動的にロックするために、制御システムにより引き起こされたものであってもよい。したがって、ソレノイド7はロック要素5に力を加えていないため、ロック要素5は、圧縮・ねじり複合ばね6により前方にスライドさせられ、これにより、係合ピン52がロックフック9の平面内に配置されることになる(
図10a、下の図)。戸11が、例えば、手動で又は(例えば制御システムにより起動された)駆動装置により自動で、すなわちドア開口を閉鎖する位置に向かって、互いに向かって移動させられると、ロックフック9がそれらの傾斜面91で外側から係合ピン52にぶつかる。傾斜面91により、
図10bの上の図に示すように、係合ピン52は下向き又は上向きに押圧され、その結果、圧縮・ねじり複合ばね6により加えられるねじり力に抗して、ロック要素5が傾倒させられる。したがって、戸11がそれらの主閉鎖縁部でもって互いに当接し、ロックフック9がそれらの端部フックでもって係合ピンを通過するとすぐに、ロック要素5は、
図10cに示すように、圧縮・ねじり複合ばね6により回動させられ、その元の位置に戻る。次いで、ロックフック9が係合ピン52に係合させられ、これにより、引き戸10がロック装置1により開放されることが防がれている。この場合、戸11は最早、互いに離反する方向には移動することができなくなり、ひいてはロックされることになる。
【0081】
図11a~
図11cに示す手動でのロック解除及びロックは、例えば、緊急時又は不具合が生じた場合に、ロックされた引き戸10を手でロック解除するために使用され得る。これを行うためには、ユーザが手動でボーデンケーブル8の内側ワイヤ81を引き下げる。その結果、ロック解除板3の後部がエンドクランプ88に基づき、コイルばね88により加えられるばね力に抗して引っ張られ、これにより、ロック解除板3は、
図11aに示すように、枢動ロッド4を中心として枢動させられる。ロック解除板3を枢動させることにより、その作動要素34が上向きに動く。この間に作動要素34は、ロック要素5の2つの作動片54のうちの一方の下面にぶつかってこれを持ち上げ、これによりロック要素5を、圧縮・ねじり複合ばね6により加えられたねじり力に抗してプッシュロッド71を中心として傾倒させる(
図11a及び
図11b)。この傾倒により、係合ピン52がロックフック9から係合解除され、これにより、戸11が解放され、引き戸10が開放可能になる。ユーザがボーデンケーブル8を放すと、コイルばね87により加えられる押圧力に基づき、ロック解除板3はその元の位置に戻るように枢動する。これによりロック要素5も、圧縮・ねじり複合ばね6により加えられたねじり力に基づき、その元の位置に戻るように回動する。引き戸10を開いた後に再び閉じてロックしようとする場合、このことは、戸11を手で簡単に押し合わせることにより行うことができる。この場合、
図10a~
図10cに示したように、ロックフック9がロック要素5にぶつかり、これによりロック要素5を傾倒させ、最終的には係合ピン52と再び係合する。したがって、停電時でも引き戸10を手動でロック解除すると共にロックすることが可能である。
【0082】
図13及び
図14には、ロック装置1の本発明による別の実施形態が示されている。
図1~
図11cに示した実施形態とは異なり、
図13及び
図14に示すロック装置1が有するロック要素5では、係合ピン52がロック要素5の残りの部分に一体的に結合されている、すなわちロック要素5は全体として一体に形成されている。その他の点で、
図13及び
図14に示す実施形態は、その動作に関して、
図1~
図11cに示した実施形態に相応しているが、いくつかの部材、特にそれらの一部は、それらの寸法に関して、
図1~
図11cに示した実施形態のものと異なっていてよい。
図13及び
図14に示すロック装置1は、
図12に示すような引き戸10と共に使用するためにも適している。
【0083】
上記発明はもちろん、本実施形態に限定されるものではなく、複数の変更が可能である。例えばプッシュロッド71を動かすために、ソレノイドの代わりに、例えば液圧式又は空圧式の駆動装置又は電気式の回転駆動装置等の別の駆動装置が設けられてもよい、ということが考えられる。別の実施形態では、スライド装置は、技術的に駆動される装置である必要さえないが、手動で操作可能であってもよい。同様に、例えばボーデンケーブル8の代わりに電気的に制御される駆動装置が設けられることも考えられる。したがって、ロック及びロック解除用の手動操作の役割と、技術的に駆動される操作の役割とが逆になっていてもよい。ロック要素のスライド及び傾倒が両方とも、電気的に、又は筋力により純粋に手動で駆動される、本発明によるロック装置を提供することも可能である。ロック要素をハウジングパーツ内に形成し、保持する形式は、別の実施形態では完全に異なっていてもよい。その他に複数の変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 ロック装置
2 ハウジングパーツ
21 底板
22 突出板部分
23 保持タブ
24 貫通孔
25 側板
26 取付けタブ
27 取付け孔
28 貫通孔
29 支持要素
3 ロック解除板
31 主要部
32 締結タブ
33 貫通孔
34 作動要素
35 直角スロット
4 枢動ロッド
41 取付けリング
5 ロック要素
51 貫通孔
52 係合ピン
53 孔
54 作動片
6 圧縮・ねじり複合ばね
7 ソレノイド
71 プッシュロッド
72 ストッパ要素
73 ベアリングリング
8 ボーデンケーブル
81 内側ワイヤ
82 スリーブ
83 ねじ山付きスリーブ
84 ストッパ要素
85 第1の固定ナット
86 第2の固定ナット
87 コイルばね
88 貫通孔
9 ロックフック
91 傾斜面
10 引き戸
11 戸
R1 第1の回転軸
R2 第2の回転軸
V スライド方向
【国際調査報告】