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特表2024-546883組換えタンパク質の発現を増加させる遺伝因子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の発現を増加させる遺伝因子
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20241219BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241219BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241219BHJP
   C12N 15/81 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12N15/31
C12P21/02 C
C12N15/81 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535614
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 US2022053003
(87)【国際公開番号】W WO2023114395
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/290,166
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514009867
【氏名又は名称】インポッシブル フーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ロイ チョウドリー,ビスワジョイ
(72)【発明者】
【氏名】バラツカヤ,スヴェトラーナ
(72)【発明者】
【氏名】ホイット,マーティン,アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG02
4B064AG27
4B064AG35
4B064CA06
4B064CD06
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA72X
4B065AA77X
4B065AA77Y
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
1つまたは複数のポリペプチドの発現を増加させるための、逆行性制御タンパク質1(Rtg1)などの転写活性化因子の過剰発現に関与する材料および方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、逆行性制御タンパク質(Rtg)をコードする第1の外因性核酸と、
前記第1のプロモーターエレメントまたは第2のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、ポリペプチドをコードする第2の外因性核酸と
を含む酵母細胞。
【請求項2】
前記Rtgがピキア・パストリス(Pichia pastoris)またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のRtg1またはRtg2である、請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、抗体またはその断片、酵素、制御タンパク質、ペプチドホルモン、血液凝固タンパク質、サイトカイン、サイトカインインヒビター、およびヘム結合タンパク質からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の酵母細胞。
【請求項4】
前記ヘム結合タンパク質が、グロビン、シトクロム、シトクロムcオキシダーゼ、リグニナーゼ、カタラーゼ、およびペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項3に記載の酵母細胞。
【請求項5】
前記第1の外因性核酸、前記第2の外因性核酸、または前記第1の外因性核酸と前記第2の外因性核酸の両方が、前記酵母細胞の前記ゲノムに安定的に組み込まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項6】
前記第1の外因性核酸、前記第2の外因性核酸、または前記第1の外因性核酸と前記第2の外因性核酸の両方が、複製可能なプラスミドから染色体外に発現される、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項7】
前記第1のプロモーターエレメントが構成的プロモーターエレメントである、請求項1~6のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項8】
前記第1のプロモーターエレメント、前記第2のプロモーターエレメント、または前記第1のプロモーターエレメントと前記第2のプロモーターエレメントの両方が誘導性プロモーターエレメントである、請求項1~6のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項9】
前記誘導性プロモーターエレメントがメタノール誘導性プロモーターエレメントである、請求項8に記載の酵母細胞。
【請求項10】
前記メタノール誘導性プロモーターエレメントが、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のアルコールオキシダーゼ1(AOX1)プロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のアルコールオキシダーゼ2(AOX2)プロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のカタラーゼ1(CAT1)プロモーター、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)由来のギ酸脱水素酵素(FMD)プロモーター、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)由来のAOD1プロモーターエレメント、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)由来のFGHプロモーターエレメント、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)由来のMOXプロモーターエレメント、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)由来のMODIプロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のDHASプロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のFLD1プロモーターエレメント、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のPEX8プロモーターエレメントからなる群から選択される、請求項9に記載の酵母細胞。
【請求項11】
前記第1のプロモーターエレメント、前記第2のプロモーターエレメント、または第3のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、メタノール発現制御因子1(Mxr1)、メタノール誘導性転写因子1(Mit1)、およびTrm1から選択される転写活性化因子をコードする第3の外因性核酸をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項12】
前記Mxr1、Mit1、またはTrm1転写活性化因子がピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のMxr1、Mit1、またはTrm1エレメントを含む、請求項11に記載の酵母細胞。
【請求項13】
前記第3のプロモーターエレメントが構成的プロモーターエレメントまたはメタノール誘導性プロモーターエレメントである、請求項11または請求項12に記載の酵母細胞。
【請求項14】
第1のプロモーターエレメントに作動可能に連結されたRtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、およびTrm1から選択される第1の転写活性化因子をコードする第1の外因性核酸と、
前記第1のプロモーターエレメントまたは第2のプロモーターエレメントに作動可能に連結されたRtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、およびTrm1から選択される第2の転写活性化因子をコードする第2の外因性核酸であって、前記第1の転写活性化因子と前記第2の転写活性化因子が異なる、第2の外因性核酸と、
前記第1のプロモーターエレメント、前記第2のプロモーターエレメント、または第3のプロモーターエレメントに作動可能に連結されたポリペプチドをコードする第3の外因性核酸と
を含む酵母細胞。
【請求項15】
前記第1のプロモーターエレメント、前記第2のプロモーターエレメント、前記第3のプロモーターエレメント、または第4のプロモーターエレメントに作動可能に連結された1つまたは複数のヘム生合成酵素をコードする第4の外因性核酸をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項16】
前記1つまたは複数のヘム生合成酵素が、グルタミン酸-1-セミアルデヒド(GSA)アミノトランスフェラーゼ、5-アミノレブリン酸(ALA)シンターゼ、ALAデヒドラターゼ、ポルフォビリノーゲン(PBG)デアミナーゼ、ウロポルフィリノーゲン(UPG)IIIシンターゼ、UPGIIIデカルボキシラーゼ、コプロポルフィリノーゲン(CPG)IIIオキシダーゼ、プロトポルフィリノーゲン(PPG)オキシダーゼ、およびフェロケラターゼからなる群から選択される、請求項15に記載の酵母細胞。
【請求項17】
前記第4のプロモーターエレメントが、構成的プロモーターエレメントまたはメタノール誘導性プロモーターエレメントである、請求項15または請求項16に記載の酵母細胞。
【請求項18】
メチロトローフ酵母細胞または非メチロトローフ酵母細胞である、請求項1~17のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項19】
前記メチロトローフ酵母細胞がピキア(Pichia)細胞である、請求項18に記載の酵母細胞。
【請求項20】
前記ピキア(Pichia)細胞がピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞である、請求項19に記載の酵母細胞。
【請求項21】
ポリペプチドを発現する方法であって、
請求項1~20のいずれか一項に記載の前記酵母細胞を用意するステップと、
前記第1および前記第2の外因性核酸、または前記第1、前記第2および前記第3の外因性核酸の発現に適した条件下で前記酵母細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項22】
前記培養するステップが、添加した鉄またはその薬学的もしくは代謝的に許容される塩の存在下で前記酵母細胞を培養するステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記培養するステップが、添加メタノールの非存在下または存在下で前記酵母細胞を培養するステップを含む、請求項21または請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2021年12月16日に出願された米国仮特許出願第63/290,166号の優先権を主張するものであり、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般的には、核酸構築物、およびそれを使用して酵母細胞(例えばメチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作する方法に関する。
【0003】
配列表
本出願は、「38767-0263WOl_SL_ST26.XML」という名称のXMLファイルとして電子的に提出された配列表リストを含む。2022年12月8日に作成されたXMLファイルは、64,642バイトのサイズである。XMLファイル内の資料は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
酵母細胞、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)は、組換えタンパク質の発現に通常使用されている。本明細書では、酵母細胞(例えばメチロトローフ酵母細胞)において1つまたは複数のタンパク質を効率的に発現するために使用することが可能な構築物が提供される。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、1つまたは複数の転写活性化因子(例えばRtg1)を過剰発現して、メタノール利用(mut)遺伝子プロモーターから発現される導入遺伝子の発現を増加させる酵母株の使用を記載しており、これは、1つまたは複数のタンパク質の組換え生産を有意に改善する。さらに、mut遺伝子プロモーター依存性遺伝子発現に対する転写活性化因子の組合せ(例えば、Rtg1およびMxr1)の発現の効果は加法的であり、それにより1つまたは複数のタンパク質の組換え生産がさらに増加した。
【0006】
したがって、本開示の態様は、第1のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、逆行性制御タンパク質(retrograde regulation protein)(Rtg)をコードする第1の外因性核酸と、第1のプロモーターエレメントまたは第2のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、ポリペプチドをコードする第2の外因性核酸とを含む酵母細胞を提供する。一部の実施形態では、Rtgは、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のRtg1またはRtg2である。
【0007】
一部の実施形態では、ポリペプチドは、抗体またはその断片、酵素、制御タンパク質、ペプチドホルモン、血液凝固タンパク質、サイトカイン、サイトカインインヒビター、およびヘム結合タンパク質からなる群から選択される。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、グロビン、シトクロム、シトクロムcオキシダーゼ、リグニナーゼ、カタラーゼ、およびペルオキシダーゼからなる群から選択される。
【0008】
一部の実施形態では、第1の外因性核酸、第2の外因性核酸、または第1の外因性核酸と第2の外因性核酸の両方は、酵母細胞のゲノムに安定的に組み込まれる。一部の実施形態では、第1の外因性核酸、第2の外因性核酸、または第1の外因性核酸と第2の外因性核酸の両方は、複製可能なプラスミドから染色体外に発現される。
【0009】
一部の実施形態では、第1のプロモーターエレメントは、構成的プロモーターエレメントである。一部の実施形態では、第1のプロモーターエレメント、第2のプロモーターエレメント、または第1のプロモーターエレメントと第2のプロモーターエレメントの両方は、誘導性プロモーターエレメントである。
【0010】
一部の実施形態では、誘導性プロモーターエレメントは、メタノール誘導性プロモーターエレメントである。一部の実施形態では、メタノール誘導性プロモーターエレメントは、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のアルコールオキシダーゼ1(AOX1)プロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のアルコールオキシダーゼ2(AOX2)プロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のカタラーゼ1(CAT1)プロモーター、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)由来のギ酸脱水素酵素(FMD)プロモーター、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)由来のAOD1プロモーターエレメント、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)由来のFGHプロモーターエレメント、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)由来のMOXプロモーターエレメント、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)由来のMODIプロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のDHASプロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のFLD1プロモーターエレメント、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のPEX8プロモーターエレメントからなる群から選択される。
【0011】
一部の実施形態では、酵母細胞は、第1のプロモーターエレメント、第2のプロモーターエレメント、または第3のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、メタノール発現制御因子1(Mxr1)、メタノール誘導性転写因子1(Mit1)、およびTrm1から選択される転写活性化因子をコードする第3の外因性核酸をさらに含む。一部の実施形態では、Mxr1、Mit1、またはTrm1転写活性化因子は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のMxr1、Mit1、またはTrm1エレメントを含む。一部の実施形態では、第3のプロモーターエレメントは、構成的プロモーターエレメントまたはメタノール誘導性プロモーターエレメントである。
【0012】
本開示の態様は、第1のプロモーターエレメントに作動可能に連結されたRtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、およびTrm1から選択される第1の転写活性化因子をコードする第1の外因性核酸と、第1のプロモーターエレメントまたは第2のプロモーターエレメントに作動可能に連結されたRtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、およびTrm1から選択される第2の転写活性化因子をコードする第2の外因性核酸であって、第1の転写活性化因子および第2の転写活性化因子が異なる、第2の外因性核酸と、第1のプロモーターエレメント、第2のプロモーターエレメント、または第3のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、ポリペプチドをコードする第3の外因性核酸を含む酵母細胞を提供する。
【0013】
一部の実施形態では、酵母細胞は、第1のプロモーターエレメント、第2のプロモーターエレメント、第3のプロモーターエレメント、または第4のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、1つまたは複数のヘム生合成酵素をコードする第4の外因性核酸をさらに含む。一部の実施形態では、ヘム生合成酵素は、グルタミン酸-1-セミアルデヒド(GSA)アミノトランスフェラーゼ、5-アミノレブリン酸(ALA)シンターゼ、ALAデヒドラターゼ、ポルフォビリノーゲン(PBG)デアミナーゼ、ウロポルフィリノーゲン(UPG)IIIシンターゼ、UPGIIIデカルボキシラーゼ、コプロポルフィリノーゲン(CPG)IIIオキシダーゼ、プロトポルフィリノーゲン(PPG)オキシダーゼ、およびフェロケラターゼからなる群から選択される。一部の実施形態では、第4のプロモーターエレメントは、構成的プロモーターエレメントまたはメタノール誘導性プロモーターエレメントである。
【0014】
一部の実施形態では、酵母細胞は、メチロトローフ酵母細胞または非メチロトローフ酵母細胞である。一部の実施形態では、メチロトローフ酵母細胞は、ピキア(Pichia)細胞である。一部の実施形態では、ピキア(Pichia)細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞である。
【0015】
本開示の態様は、ポリペプチドを発現する方法であって、前記請求項のいずれか一項に記載の酵母細胞を用意するステップと、第1および第2の外因性核酸、または第1、第2および第3の外因性核酸の発現に適した条件下で酵母細胞を培養するステップとを含む、方法を提供する。
【0016】
一部の実施形態では、培養するステップは、添加した鉄またはその薬学的もしくは代謝的に許容される塩の存在下で酵母細胞を培養するステップを含む。一部の実施形態では、培養ステップは、添加メタノールの非存在下または存在下で酵母細胞を培養するステップを含む。
【0017】
別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、方法および物質の組成物が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似のまたは同等の方法および材料を方法および物質の組成物の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料は以下に記載されている。さらに、材料、方法、および例は単なる例示であり、限定を意図するものではない。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
酵母細胞を遺伝子操作してポリペプチドの組換え発現を増加させることができる転写活性化因子(例えば、Rtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、Trm1)をコードする核酸構築物が本明細書で提供される。一部の実施形態では、本明細書で提供される核酸構築物は、誘導分子(例えばメタノール)の非存在下で、誘導性プロモーターからのポリペプチドの組換え発現を増加させることができる。いかなる特定のメカニズムにも縛られるものではないが、本明細書に記載の方法は、1つまたは複数の転写活性化因子の低レベルのネイティブ発現が、1つまたは複数の転写活性化因子に作動可能に連結されたmutプロモーターをオンにする正のフィードバックループを作製する。これにより、1つまたは複数の転写活性化因子の発現が増加され、また1つまたは複数の転写活性化因子によってオンにされる同一のまたは異なる誘導性プロモーターに作動可能に連結された1つまたは複数の標的ポリペプチドの発現が増加する。あるいは、1つまたは複数の転写活性化因子を構成的プロモーターから発現させ、1つまたは複数の標的ポリペプチドに作動可能に連結されたmutプロモーターをオンにすることができる。
【0019】
したがって、本開示は、一部の態様では、1つまたは複数の転写活性化因子(例えば、Rtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、Trm1)をコードする核酸構築物、およびポリペプチドを生産するためのその使用方法を提供する。
【0020】
転写活性化因子
本明細書に記載の方法および組成物には、mut遺伝子プロモーターからの導入遺伝子の発現を増加させる転写活性化因子(例えば、Rtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、Trm1)が含まれ、それにより、1つまたは複数のタンパク質の組換え生産が有意に改善される。転写活性化因子および転写活性化因子をコードする核酸(例えば、転写活性化因子をコードする外因性核酸)は当技術分野において公知であり、本明細書に記載されている。一部の例では、転写活性化因子は、mut遺伝子プロモーターに作用することができる。一部の例では、転写活性化因子は、炭素抑制解除中に機能することができる。一部の例では、転写活性化因子は、メタノール誘導中に機能することができる。一部の例では、mut遺伝子プロモーターは、転写活性化因子に対する1つまたは複数の結合部位を有する。一部の例では、転写活性化因子は、メチロトローフ酵母由来でもよい。一部の例では、転写活性化因子は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来でもよい。一部の例では、転写活性化因子は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来でもよい。
【0021】
代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg1核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XM_002489984.1(例えば、配列番号1を参照)で確認することができ、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg1ポリペプチド配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XP_002490029.1(例えば、配列番号2を参照)で確認することができる。
【0022】
代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg1配列は、1つまたは複数の変異を含み得る。例えば、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg1核酸配列は、GenBankアクセッション番号XM_002489984.1内に変異を含む(例えば、配列番号3を参照)。別の例では、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg1ポリペプチド配列は、GenBankアクセッション番号XP_002490029.1内に変異を含む(例えば、配列番号4を参照)。
【0023】
代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg2核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XM_002492633.1(例えば、配列番号5を参照)で確認することができ、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のRtg2ポリペプチド配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XP_002492678.1(例えば、配列番号6を参照)で確認することができる。
【0024】
代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のメタノール発現制御因子1(Mxr1)核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号DQ395124(例えば、配列番号7を参照)で確認することができ、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)Mxr1ポリペプチド配列は、例えば、GenBankアクセッション番号ABD57365(例えば、配列番号8を参照)で確認することができる。
【0025】
代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のメタノール誘導転写因子1(Mit1)核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XM_002493021.1(例えば、配列番号9を参照)で確認することができ、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のMit1ポリペプチド配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XP_002493066.1(例えば、配列番号10を参照)で確認することができる。一部の実施形態では、転写活性化因子は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のMit1配列である(例えば、GenBankアクセッション番号CAY70887を参照)。
【0026】
代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のTrm1核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XM_002493563.1(例えば、配列番号11を参照)で確認することができ、代表的なピキア・パストリス(Pichia pastoris)のTrm1ポリペプチド配列は、例えばGenBankアクセッション番号XP_002493608.1(例えば、配列番号12を参照)で確認することができる。
【0027】
代表的なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のRtg1核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XM_001183322.1(例えば、配列番号13を参照)で確認することができ、代表的なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のRtg1ポリペプチド配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XP_014574.1(例えば、配列番号14を参照)で確認することができる。
【0028】
代表的なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のRtg2核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XM_001181118.1(例えば、配列番号15を参照)で確認することができ、代表的なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のRtg2ポリペプチド配列は、例えば、GenBankアクセッション番号XP_011262.1(例えば、配列番号16を参照)で確認することができる。
【0029】
【表1-1】
【0030】
【表1-2】
【0031】
【表1-3】
【0032】
【表1-4】
【0033】
【表1-5】
【0034】
【表1-6】
【0035】
適切な転写活性化因子はまた、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)(Adr1配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AEOI02000005、塩基858873~862352、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号ESX01253を参照;Mpp1配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AY190521.1、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号AAO72735.1を参照)、およびカンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)(Trm1配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AB365355、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号BAF99700を参照;Trm2配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AB548760、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号BAJ07608を参照;HAP2配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AB909501.1、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号BAQ21465.1を参照;HAP3配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AB909502.1、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号BAQ21466.1を参照;HAP5配列;例えば、核酸配列については、GenBankアクセッション番号AB909503.1、アミノ酸配列については、GenBankアクセッション番号BAQ21467.1を参照)で確認することができる。
【0036】
2つ以上の転写活性化因子の組合せを使用することができる。一部の例では、組合せにおいて、Rtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、Trm1、Trm2、Adr1、Mpp1、HAP2、HAP3、HAP5のうちの2つ、3つ、4つ、または5つ以上、およびそれらの任意の組合せが使用される。一部の例では、Rtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、およびTrm1のうちの2つ、3つ、4つ、または5つが組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1およびRtg2が組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1およびMxr1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1およびMit1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1およびTrm1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Mit1およびMxr1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Mit1およびTrm1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Mxr1およびTrm1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1、Rtg2、およびMxr1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1、Mxr1、およびMit1が組合せにおいて使用される。一部の例では、Rtg1、Rtg2、Mxr1、およびMit1が組合せにおいて使用される。
【0037】
外因性核酸(例えば、ポリペプチドまたは転写活性化因子をコードする核酸)は、誘導性または構成的であるプロモーター(例えば、当技術分野において公知であり、本明細書に記載されているもの)の制御下に置き得る。本明細書において使用される場合、「作動可能に連結された」とは、プロモーターまたは他の発現エレメント(複数可)が、核酸の発現を指示または制御するような方法(例えばインフレーム)で核酸コード配列に対して配置されていることを意味する。
【0038】
産物
本明細書で提供される方法および組成物は、目的の生産物(例えば、目的のタンパク質、DNA、RNA、または小分子)を生産するための核酸構築物を包含する。
【0039】
例えば、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、タンパク質をコードする核酸構築物でもよい。例えば、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、RNA(例えば、mRNA、tRNA、リボザイム、siRNA、miRNA、またはshRNA)をコードする核酸構築物でもよい。例えば、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、DNAをコードする核酸構築物でもよい。例えば、一部の実施形態では、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、その転写が小分子(例えば、ヘム、エタノール、補因子、代謝物、二次代謝産物、または薬学的に活性な薬剤)の生産をもたらすか、または生産に寄与する核酸構築物でもよい。
【0040】
したがって、本明細書に記載の方法および組成物を使用して生産される産物は、食品、研究、および医薬などの多くの用途に幅広く使用することができる。
【0041】
産物がポリペプチドである場合、ポリペプチドは、デヒドリン、フィターゼ、プロテアーゼ、カタラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、アミラーゼ、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、またはリガーゼでもよい。一部の実施形態では、ポリペプチドは、抗体またはその断片(例えば、アダリムマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、インフリキシマブ、もしくはラニビズマブ)、酵素(例えば、治療用酵素、例えば、α-ガラクトシダーゼA、α-L-イズロニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、ドルナーゼアルファ、グルコセレブロシダーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、ラスブリカーゼ、工業用酵素(例えば、カタラーゼ、セルラーゼ、ラッカーゼ、グルタミナーゼ、もしくはグリコシダーゼ)、生体触媒(例えば、生合成または代謝に関与する酵素、トランスアミナーゼ、シトクロムP450、キナーゼ、ホスホリラーゼ、もしくはイソメラーゼ))、制御タンパク質(例えば、転写因子(例えば、Mxr1)、ペプチドホルモン(例えば、インスリン、インスリン様増殖因子1、顆粒球コロニー刺激因子、卵胞刺激ホルモン、もしくはヒト成長ホルモンなどの成長ホルモン)、血液凝固タンパク質(例えば、第VII因子)、サイトカイン(例えば、インターフェロンもしくはエリスロポエチン)、またはサイトカインインヒビター(例えば、エタネルセプト)でもよい。
【0042】
一部の実施形態では、ポリペプチドは、ヘム結合タンパク質(例えば、外因性ヘム結合タンパク質または異種ヘム結合タンパク質)でもよい。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、グロビン(PfamデータベースのPF00042)、シトクロム(例えば、シトクロムP450、シトクロムa、シトクロムb、シトクロムc)、シトクロムcオキシダーゼ、リグニナーゼ、カタラーゼ、およびペルオキシダーゼからなる群から選択することができる。一部の実施形態では、グロビンは、アンドログロビン、クロロクルオリン、サイトグロビン、エリスロクルオリン、フラボヘモグロビン、グロビンE、グロビンX、グロビンY、ヘモグロビン(例えば、βヘモグロビン、αヘモグロビン)、ヒストグロビン、レグヘモグロビン、ミオグロビン、ニューログロビン、非共生型ヘモグロビン、プロトグロビン、および切断型ヘモグロビン(例えば、HbN、HbO、Glb3、シアノグロビン)からなる群から選択することができる。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、ミオグロビンでもよい。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、ヘモグロビンでもよい。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、非共生型ヘモグロビンでもよい。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、レグヘモグロビンでもよい。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、ダイズレグヘモグロビン(LegH)でもよい。LegHの参照アミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号NP_001235248.2(例えば、配列番号20を参照)で提供されている。LegHはヘムに結合するタンパク質であり、約415nmでの特徴的な吸収ピーク(Soretピーク)としてはっきりと認識される赤色を生じる。LegHタンパク質(LGB2としても公知である)は、ダイズの根粒に天然に存在することが確認されている。また、国際公開第2014/110539号パンフレットおよび国際公開第2014/110532号パンフレットも参照されたい。それぞれの文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、配列番号17~43のいずれかに記載のアミノ酸配列と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一であるアミノ酸配列を有し得る。一部の実施形態では、ヘム結合タンパク質は、配列番号17~43のいずれかに記載のアミノ酸配列である。
【0043】
【表2-1】
【0044】
【表2-2】
【0045】
【表2-3】
【0046】
一部の実施形態では、ポリペプチドは、ヘム生合成酵素(例えば、外因性ヘム生合成酵素または異種ヘム生合成酵素)でもよい。一部の実施形態では、ヘム生合成酵素は、グルタミン酸-1-セミアルデヒド(GSA)アミノトランスフェラーゼ、5-アミノレブリン酸(ALA)シンターゼ、ALAデヒドラターゼ、ポルフォビリノーゲン(PBG)デアミナーゼ、ウロポルフィリノーゲン(UPG)IIIシンターゼ、UPGIIIデカルボキシラーゼ、コプロポルフィリノーゲン(CPG)IIIオキシダーゼ、プロトポルフィリノーゲン(PPG)オキシダーゼ、およびフェロキラターゼからなる群から選択することができる。また、2020年4月24日に出願された米国特許出願公開第2020/0340000号明細書も参照されたい。なお、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0047】
また、所定の配列とは異なるポリペプチド(例えば、当技術分野において公知であり、本明細書に記載されているもの)も提供される。ポリペプチドは、所定のポリペプチド配列と少なくとも50%の配列同一性(例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有し得る。一部の実施形態では、ポリペプチドは、所定のポリペプチド配列と100%の配列同一性を有し得る。
【0048】
配列同一性のパーセントの計算においては、2つの配列をアラインメントさせ、2つの配列間のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の同一マッチ数が決定される。同一マッチ数は、アラインメントされた領域の長さ(すなわち、アラインメントされたヌクレオチドまたはアミノ酸残基の数)で割り、100を掛けることによって算出され、配列同一性パーセント値が得られる。アラインメントされた領域の長さは、一方の配列または両方の配列の一部から最も短い配列の完全長サイズまでとすることができることは理解されよう。また、単一の配列が複数の他の配列とアラインメントする可能性があり、したがって、アラインメントされたそれぞれの領域ごとに異なる配列同一性パーセント値を有し得ることも理解されよう。
【0049】
配列同一性のパーセントを決定する2つ以上の配列のアラインメントは、コンピュータプログラムClustalWとデフォルトのパラメータを使用して実行することができ、これにより核酸またはポリペプチド配列のアラインメントをその全長(グローバルアライメント)にわたって行うことができる。Chenna et al., 2003, Nucleic Acids Res., 31(13):3497-500。ClustalWは、クエリーと1つまたは複数の対象配列の間の最適なマッチングを計算し、同一性、類似性、差異が決定され得るようにそれらをアラインメントする。配列アラインメントを最大化するために、1つまたは複数の残基のギャップをクエリー配列、対象配列、またはその両方に挿入することができる。核酸配列の高速ペアワイズアラインメントの場合、デフォルトのパラメータを使用することができる(すなわち、ワードサイズ:2、ウィンドウサイズ:4、スコアリング方法:パーセンテージ、トップ対角線の数:4;ギャップペナルティ:5);複数の核酸配列のアラインメントの場合、以下のパラメータを使用することができる:ギャップオープニングペナルティ:10.0、ギャップエクステンションペナルティ:5.0、ウェイトトランジション:あり。ポリペプチド配列の高速ペアワイズアラインメントの場合、以下のパラメータを使用することができる:ワードサイズ:1、ウィンドウサイズ:5、スコアリング方法:パーセンテージ、トップ対角の数:5、ギャップペナルティ:3。ポリペプチド配列の多重アラインメントの場合、以下のパラメータを使用することができる:ウェイトマトリックス:ブロッサム;ギャップ開始ペナルティ:10.0;ギャップエクステンションペナルティ:0.05、親水性ギャップ:オン;親水性残基:Gly、Pro、Ser、Asn、Asp、Gln、Glu、Arg、およびLys;残基特異的ギャップペナルティ:オン。ClustalWは、例えば、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のSearch Launcher Webサイト、またはWorld Wide Web上のEuropean Bioinformatics Institute Webサイトで実行することができる。
【0050】
プロモーター
転写活性化因子(例えば、Rtg1、Rtg2、Mxr1、Mit1、Trm1)および/またはポリペプチドをコードする外因性核酸は、酵母細胞における転写活性化因子および/またはポリペプチドの発現に適した任意のプロモーターに作動可能に連結され得る。本明細書において使用される場合、「作動可能に連結される」とは、プロモーターまたは他の発現エレメントが、核酸の発現を指示または制御するような方法(例えば、インフレーム)で核酸コード配列に対して配置されていることを意味する。プロモーターは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーター(例えば、メタノール誘導性プロモーター)でもよい。
【0051】
構成的プロモーターおよび構成的プロモーターエレメントは、当技術分野において公知である。例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来の一般的に使用される構成的プロモーターは、構成的に強力に転写される転写伸長因子EF-1α遺伝子(TEF1)由来のプロモーターまたはその一部である。しかし、他の構成的プロモーター、またはそれら由来のプロモーターエレメントも使用することができ、これには、限定するものではないが、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDHもしくはGAP)プロモーター(GenBankアクセッション番号U62648.1を参照)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来の潜在的グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)-アンカータンパク質、GCW14p(PAS_chrl-4_0586)からのプロモーター(GenBankアクセッション番号XM_002490678を参照)、またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来の3-ホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(PGK1)からのプロモーター(例えば、GenBankアクセッション番号AY288296を参照)が含まれる。宿主生物(例えば、メチロトローフ酵母細胞または非メチロトローフ酵母細胞などの酵母細胞)由来の構成的プロモーターおよび構成的プロモーターエレメントを使用することができる。
【0052】
酵母を遺伝子操作する場合に使用することができる誘導性プロモーターは多数ある。例えば、メタノール誘導性プロモーター、またはそれからのプロモーターエレメントを使用することができる。メタノール誘導性プロモーターは、当技術分野において公知である。例えば、一般的に使用されているピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のメタノール誘導性プロモーターは、メタノールに応答して強く転写されるアルコールオキシダーゼ1(AOX1)遺伝子のプロモーターまたはその一部である。しかし、他のメタノール誘導性プロモーターまたはそれらのプロモーターエレメントを使用することもでき、これには、限定するものではないが、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のアルコールオキシダーゼ2(AOX2)プロモーター(GenBankアクセッション番号X79871.1を参照)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のカタラーゼ1(CAT1)プロモーター(Vogl et al., 2016, ACS Synth Biol 5:172-186を参照)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)由来のギ酸脱水素酵素(FMD)プロモーター、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)由来のアルコールオキシダーゼ(MOX)プロモーター(GenBankアクセッション番号X02425を参照)、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)由来のアルコールオキシダーゼ(AOD1)プロモーター(GenBankアクセッション番号YSAAOD1Aを参照)、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)由来のS-ホルミルグルタチオンヒドラーゼ(FGH)プロモーター、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)由来のMOD1またはM0D2プロモーター(例えば、Raymond et al., 1998, Yeast, 14:11-23;およびNakagawa et al., 1999, Yeast, 15:1223-30を参照)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のジヒドロキシアセトンシンターゼ1または2(DHASまたはDAS)プロモーター(例えば、GenBankアクセッション番号FJ752551を参照)またはそのプロモーターエレメント、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ(FLD1)プロモーター(例えば、GenBankアクセッション番号AF066054を参照)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のジヒドロキシアセトンキナーゼ(DAK1)プロモーター、またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のペルオキシソームマトリックスタンパク質(PEX8)プロモーター(例えば、Kranthi et al., 2010, Yeast, 27:705-11を参照)が含まれる。一部の実施形態では、メタノール誘導性プロモーターは、メチロトローフ酵母由来である。一部の実施形態では、メタノール誘導性プロモーターは、メタノール利用経路における遺伝子のプロモーターである。一部の実施形態では、メタノール誘導性プロモーターは、アルコールオキシダーゼプロモーターである。これらのプロモーターのすべては、メタノールによって誘導されることが知られている。
【0053】
本開示の範囲内にはまた、参照プロモーター配列と比較した場合に1つまたは複数の変異を含む配列を有するプロモーターを含む核酸構築物が含まれる。例えば、AOX1遺伝子(pAOX1とも呼ばれる)に関するピキア・パストリス(Pichia pastoris)プロモーターからの発現は、非誘導性炭素源(例えば、グルコースまたはグリセロール)の存在下では、典型的には存在しないか、または非常に乏しく、メタノールの非存在下または添加メタノールの非存在下では、pAOX1からの有意な発現を可能にする1つまたは複数の変異がpAOX1に含まれ得る。一部の例では、メタノールが存在する場合にpAOX1からの発現をさらに増加させることを可能にする1つまたは複数の変異がpAOX1に含まれ得る。
【0054】
参照pAOX1配列は、配列番号44で提供されている。また、2020年4月17日に出願された米国特許出願公開第2020/0332267号明細書も参照されたい。これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0055】
【表3】
【0056】
また本明細書では、参照プロモーター配列と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%)の配列同一性を有するプロモーター配列を含む核酸構築物も提供される。例えば、プロモーター配列は、アルコールオキシダーゼプロモーター配列(例えば、配列番号44)と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%)の配列同一性を有し得る。一部の実施形態では、プロモーター配列は配列番号44の配列を有し得る。
【0057】
また本明細書では、参照プロモーター配列と比較した場合に1つまたは複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、またはそれ以上)の変異を含む配列を有するプロモーター配列を含む核酸構築物が提供される。
【0058】
核酸
本明細書に記載の方法において使用される核酸分子は、典型的にはDNA分子であるが、RNA分子も適切な状況下では使用され得る。本明細書において使用される場合、「外因性」とは、例えば、同一の生物もしくは異なる生物から細胞に導入される任意の核酸配列、または合成によって生成される核酸(例えば、コドン最適化された核酸配列)を指す。例えば、外因性核酸は、異なる酵母の属または種に導入される、ある微生物(例えば、ある酵母の属または種)由来の核酸でもよいが、しかし外因性核酸はまた、対応する天然の核酸配列が存在するにもかかわらず、酵母に追加コピーとして組換え的に導入される酵母由来の核酸、または酵母に天然の配列と比較して1つもしくは複数の変異、挿入もしくは欠失を含む酵母に組換え的に導入される酵母由来の核酸でもよい。例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)は、ALAシンターゼをコードする内因性核酸を含有しており、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ALAシンターゼ核酸の追加コピー(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)に組換え的に導入されるもの)は外因性であると考えられる。同様に、「外因性」タンパク質は、外因性核酸によってコードされているタンパク質である。
【0059】
場合によっては、外因性核酸は異種核酸でもよい。本明細書において使用される場合、「異種」核酸とは、ある生物に天然には存在しない核酸配列を指す(例えば、異種核酸は、異なる酵母の属または種に導入される、ある微生物(例えば、コドン最適化されているか否かにかかわらず、ある酵母の属または種)由来の核酸でもよい)。同様に、「異種」タンパク質は、異種核酸によってコードされているタンパク質である。
【0060】
核酸分子は、その任意の一部(例えば、プロモーター配列またはコード化されたタンパク質の配列)が宿主生物に対して外因性である場合、宿主生物に対して外因性であると考えられる。核酸分子は、その任意の一部(例えば、プロモーター配列またはコード化されたタンパク質の配列)が宿主生物に対して異種である場合、宿主生物に対して異種であると考えられる。
【0061】
本明細書では、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作することを可能にする核酸構築物が提供される。一部の実施形態では、本明細書では、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作してRNAを産生することを可能にする核酸構築物が提供される。組換えによって産生されたRNAは、例えばRNA干渉によって、またはDNA編集のガイドとして、細胞の機能を改変するために使用され得る。一部の実施形態では、本明細書では、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作して、産物(例えば、タンパク質もしくは小分子)、外因性産物(例えば、外因性タンパク質)、異種産物(例えば、異種タンパク質)、またはそれらの組合せを産生することを可能にする核酸構築物が提供される。一部の実施形態では、本明細書では、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作して、メタノールの非存在下で産物(例えば、タンパク質または小分子)を産生することを可能にする核酸構築物が提供される。一部の実施形態では、本明細書では、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作して、メタノールの存在下で産物(例えば、タンパク質または小分子)を産生することを可能にする核酸構築物が提供される。さらに、本明細書では、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)を遺伝子操作して、ヘム結合タンパク質および/または1つもしくは複数のヘム生合成酵素の発現を増加させることを可能にする核酸構築物が提供される。
【0062】
組換え核酸は、発現エレメントを含み得る。発現エレメントは、核酸コード配列の発現を指示および制御する核酸配列を含む。発現エレメントの一例は、プロモーター配列である。発現エレメントはまた、イントロン、エンハンサー配列、インスレーター、サイレンサー、オペレーター、認識部位、結合部位、切断部位、応答エレメント、誘導エレメント、シス制御エレメント、または核酸の発現をモジュレートするトランス制御エレメントを含むことができる。発現エレメントは、細菌起源、酵母起源、昆虫起源、哺乳動物起源またはウイルス起源のものであってもよく、ベクターは異なる起源のエレメントの組合せを含むことができる。
【0063】
本明細書に記載のいずれかのプロモーターエレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸構築物が目的のヌクレオチド配列を含み得ることは理解されよう。一部の実施形態では、ヌクレオチド配列の転写および/または翻訳は、目的の産物(例えば、タンパク質、DNA、RNA、または小分子)の生産をもたらし得る。例えば、一部の実施形態では、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、タンパク質をコードする核酸構築物でもよい。例えば、一部の実施形態では、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、RNA(例えば、mRNA、tRNA、リボザイム、siRNA、miRNA、またはshRNA)をコードする核酸構築物でもよい。例えば、一部の実施形態では、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、DNAをコードする核酸構築物でもよい。例えば、一部の実施形態では、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、その転写により小分子(例えば、ヘム、エタノール、補因子、代謝物、二次代謝物、または薬学的に活性な薬剤)の産生をもたらすか、またはその生産に寄与する核酸構築物でもよい。
【0064】
一部の実施形態では、ヌクレオチド配列を含む核酸構築物(例えば、第1の核酸構築物、第2の核酸構築物など)は、タンパク質(例えば、第1のタンパク質、第2のタンパク質など)をコードする核酸構築物でもよい。
【0065】
本明細書に記載の核酸構築物は、酵母細胞(例えば、メチロトローフ酵母細胞)のゲノムに安定的に組み込み得るか、または複製可能なプラスミドから染色体外に発現し得る。両方を達成する方法は周知であり、当技術分野において日常的に使用されている。
【0066】
さらに、プロモーターエレメント(例えば、本明細書に記載のプロモーターエレメント)に作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、第1のタンパク質(例えば、ヘム結合タンパク質)をコードするもの)を含む第1の核酸構築物は、プロモーターエレメント(例えば、本明細書に記載のプロモーターエレメント)に作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、第2のタンパク質(例えば、転写因子)をコードするもの)を含む第2の核酸構築物とは物理的に離れていてもよい(すなわち、第1の核酸構築物と第2の核酸構築物は完全に別々の分子でもよい)ことに留意されたい。あるいは、プロモーターエレメント(例えば、本明細書に記載のプロモーターエレメント)に作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、第1のタンパク質をコードするもの)を含む第1の核酸構築物と、プロモーターエレメント(例えば、本明細書に記載のプロモーターエレメント)に作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、第2のタンパク質をコードするもの)を含む第2の核酸構築物は、同じ核酸構築物に含まれ得る。一部の実施形態では、プロモーターエレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、第1のタンパク質をコードするもの)を含む第1の核酸構築物は、プロモーターエレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、第2のタンパク質をコードするもの)を含む第2の核酸構築物と隣接し得る。ヌクレオチド配列(例えば、第2のタンパク質をコードするもの)を含む第2の核酸構築物が、ヌクレオチド配列(例えば、目的のタンパク質をコードするもの)を含む第1の核酸構築物と隣接している場合、単一のプロモーター、またはそれからのプロモーターエレメントを使用して両方のヌクレオチド配列またはすべてのヌクレオチド配列(例えば、第1のタンパク質ならびに第2のタンパク質をコードする核酸)の転写を駆動できることは、当業者には理解されよう。一部の実施形態では、第1の核酸構築物は、1つまたは複数のプロモーターエレメント(例えば、本明細書に記載のプロモーターエレメント)に作動可能に連結された2つ以上のヌクレオチド配列(例えば、第1のタンパク質および第2のタンパク質(例えば、ヘム結合タンパク質および転写因子、ヘム結合タンパク質およびヘム生合成酵素、2つの異なる転写因子、または2つの異なるヘム生合成酵素)をコードするもの)を含むことが可能であり、2つ以上のヌクレオチド配列は、隣接していてもよく、または物理的に離れていてもよい。
【0067】
本明細書において使用される場合、核酸はDNAおよびRNAを含んでいてもよく、また1つまたは複数のヌクレオチド類似体または骨格改変を含む核酸を含む。核酸は一本鎖または二本鎖であってもよく、通常はその目的の用途に応じて決まる。所定の配列とは異なる核酸もまた提供される。核酸は、所定の核酸配列と少なくとも50%の配列同一性(例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有し得る。一部の実施形態では、核酸は、所定の核酸配列と100%の配列同一性を有し得る。
【0068】
また、本明細書に記載の核酸構築物(例えば、本明細書に記載のプロモーターエレメントに作動可能に連結された、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列)を含む構築物またはベクターも本開示の範囲内である。発現構築物またはベクターを含む構築物またはベクターは、市販されているか、または当技術分野において日常的な組換えDNA技術によって生成され得る。核酸を含む構築物またはベクターは、そのような核酸に作動可能に連結された発現エレメントを有し得るが、さらに選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子)をコードする配列などの配列を含むことができる。核酸を含む構築物またはベクターは、キメラポリペプチドまたは融合ポリペプチド(すなわち、ポリペプチドのN末端またはC末端のいずれかにあり得る異種ポリペプチドに作動可能に連結されたポリペプチド)をコードし得る。代表的な異種ポリペプチドは、コード化ポリペプチドの精製において使用され得るものである(例えば、6xHisタグ、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST))。
【0069】
変異
核酸分子に変化が導入されることにより、コード化ポリペプチドのアミノ酸配列に変化がもたらされ得る。例えば、変異誘発(例えば、部位特異的変異誘発、PCR介在変異誘発、トランスポゾン変異誘発、化学的変異誘発、UV変異誘発、または放射線誘導型変異誘発)を使用して、またはそのような変化を有する核酸分子を化学的に合成することによって、変化を核酸コード配列に導入することができる。このような核酸の変化は、1つまたは複数のアミノ酸残基における保存的アミノ酸置換および/または非保存的アミノ酸置換をもたらし得る。「保存的アミノ酸置換」とは、1つのアミノ酸残基が、類似の側鎖を有する異なるアミノ酸残基と置き換えられたものであり(例えば、アミノ酸置換の頻度表を提供している、Dayhoff et al., 1978, Atlas of Protein Sequence and Structure, 5(Suppl. 3):345-352を参照されたい)、非保存的置換とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を持たないアミノ酸残基と置き換えられたものである。核酸配列および/またはポリペプチド配列は、限定するものではないが、発現の増加(例えば、転写および/または翻訳)、制御の厳密化、制御の解除、カタボライト抑制の消失、特異性の改変、分泌、熱安定性、溶媒安定性、酸化安定性、プロテアーゼ耐性、触媒活性、および/または色などの1つまたは複数の特性を改善するように本明細書に記載のようにして改変され得る。
【0070】
一部の実施形態では、核酸における変異は、挿入、欠失、または置換でもよい。一部の実施形態では、核酸における変異は、置換(例えば、グアノシンからシトシンへの変異)でもよい。一部の実施形態では、核酸における変異は、非コード配列中に存在し得る。一部の実施形態では、コード配列(例えば、タンパク質をコードする配列)における置換は、サイレント変異(例えば、同じアミノ酸がコードされている)でもよい。一部の実施形態では、コード配列における置換は、非同義変異(例えば、ミスセンス変異またはナンセンス変異)でもよい。一部の実施形態では、コード配列における置換は、ミスセンス変異(例えば、異なるアミノ酸がコードされている)でもよい。一部の実施形態では、コード配列における置換は、ナンセンス変異(例えば、中途終止コドンがコードされている)でもよい。例えば、CRISPR、TALEN、および/またはジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して内因性核酸を変更するために変異を使用し得ることは理解されよう。
【0071】
一部の実施形態では、タンパク質配列における変異は、挿入、欠失、または置換でもよい。タンパク質をコードする核酸における変異がタンパク質配列における変異を引き起こし得ることは理解されよう。一部の実施形態では、タンパク質配列における変異は、置換(例えば、システインからセリンへの変異、またはシステインからアラニンへの変異)である。
【0072】
本明細書において使用される場合、参照核酸配列とは異なる核酸配列内の(例えば、切断された、伸長された、または変異した核酸配列内の)「対応する」核酸位置(または置換)は、目的の核酸配列間の配列アラインメントを実施することによって同定され得る。場合によっては、核酸アラインメントにギャップが存在する可能性があることは理解されよう。同様に、参照タンパク質配列とは異なるタンパク質配列内の(例えば、参照ミオグロビンタンパク質配列と比較した異なる生物のミオグロビンタンパク質配列、例えば配列番号34内の)「対応する」アミノ酸位置(または置換)は、目的のタンパク質配列間の配列アラインメントを実施することによって同定され得る。場合によっては、タンパク質アラインメントにギャップが存在する可能性があることは理解されよう。本明細書において使用される場合、参照配列「に対する」ヌクレオチドまたはアミノ酸の位置は、参照配列内の対応するヌクレオチドまたはアミノ酸の位置でもよい。
【0073】
一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ分類学的ランク由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じドメイン由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列および比較配列の両配列は、真核生物ドメイン(domain Eukarya)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ界由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列および比較配列の両配列は、真菌界(kingdom Fungi)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ門由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列および比較配列の両配列は、子嚢菌門(phylum Ascomycota)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ綱由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列および比較配列の両配列は、サッカロミセス綱(class Saccharomycetes)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ目由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列および比較配列の両配列は、サッカロミセス目(order Saccharomycetales)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ科由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列と比較配列の両方がサッカロミセス科(family Saccharomycetaceae)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ属由来でもよい。例えば、一部の実施形態では、参照配列および比較配列の両配列は、ピキア属(genus Pichia)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列は、比較配列と同じ種由来でもよい。
【0074】
一部の実施形態では、参照配列および比較配列は、両方とも酵母(例えば、メチロトローフ酵母)由来でもよい。一部の実施形態では、参照配列および比較配列は、少なくとも50%(例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または99%)の配列同一性を有し得る。
【0075】
酵母細胞
本明細書ではまた、本明細書に記載の核酸構築物のいずれかを含む酵母細胞が提供される。酵母細胞は、1つまたは複数のポリペプチドを生産するのに適した任意の酵母細胞でもよい。酵母細胞の非限定的な例としては、ピキア(Pichia)(例えば、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))細胞、カンジダ(Candida)(例えば、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii))細胞、ハンセヌラ(Hansenula)(例えば、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))細胞、トルロプシス(Torulopsis)細胞、およびサッカロミセス(Saccharomyces)(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))細胞が挙げられる。一部の実施形態では、酵母細胞はメチロトローフ酵母細胞でもよい。メチロトローフ酵母細胞の非限定的な例としては、ピキア(Pichia)細胞、カンジダ(Candida)細胞、ハンセヌラ(Hansenula)細胞、およびトルロプシス(Torulopsis)細胞が挙げられる。一部の実施形態では、酵母細胞は、ピキア(Pichia)細胞またはサッカロミセス(Saccharomyces)細胞でもよい。メチロトローフ酵母細胞は、ピキア(Pichia)細胞、カンジダ(Candida)細胞、ハンセヌラ(Hansenula)細胞、またはトルロプシス(Torulopsis)細胞でもよい。メチロトローフ酵母細胞は、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)細胞、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)細胞、またはハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)細胞でもよい。メチロトローフ酵母細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞であってもよい。一部の実施形態では、酵母細胞は非メチロトローフ酵母細胞でもよい。非メチロトローフ酵母細胞は、サッカロミセス(Saccharomyces)(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))細胞、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)細胞、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)細胞、クルイベロミセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)細胞、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)細胞、サッカロミセス・オクシデンタリス(Saccharomyces occidentalis)細胞、スチゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)細胞、ピキア・スティピテス(Pichia stipites)細胞、ジゴサッカロミセス・ベイリイ(Zygosaccharomyces bailii)細胞、またはジゴサッカロミセス・ルーキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)細胞でもよい。
【0076】
酵母細胞の遺伝子操作は、典型的には、酵母細胞に組換え核酸構造を導入することを含む。したがって、一部の実施形態では、本明細書に記載の酵母細胞は、本明細書に記載のプロモーターエレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸構築物(例えば、第1の核酸構築物、第2の核酸構築物など)を含む。本明細書において、「作動可能に連結されている」とは、プロモーターまたは他の発現エレメントが、コード配列の発現を指示または制御するような方法(例えば、インフレーム)でコード配列に対して配置されていることを意味する。ヌクレオチド配列を含む核酸構築物は、目的のポリペプチドを生産するのに適した任意のヌクレオチド配列を含み得る。
【0077】
産物を生産する方法
本明細書ではまた、本明細書に記載の任意の核酸構築物および/または細胞を使用して、産物(例えば、タンパク質または小分子)を生産する方法が提供される。このような方法は、本明細書に記載の任意の1つまたは複数の核酸を含む酵母細胞を培養することを含む。酵母細胞に核酸を導入する方法は当技術分野において公知であり、限定するものではないが、形質導入、エレクトロポレーション、微粒子銃送達、および化学変換を含む。
【0078】
酵母細胞を培養する方法は、当技術分野において公知である。例えば、Pichia Protocols, Methods In Molecular Biology, 389, Cregg. Ed., 2007, 2nd Ed., Humana Press, Inc.を参照されたい。一部の状況下では、目的の1つまたは複数のポリペプチドの高レベルでの効率的な発現を得るためにメタノールは必要ないが、培養培地にメタノールを導入または添加することが望まれる場合がある。一部の状況下では(例えば、鉄補因子の生合成に関与する酵素(複数可)をコードする1つまたは複数の核酸が発現される場合)、鉄またはその薬学的もしくは代謝的に許容される(またはGRAS)塩を培養培地に補充することが望まれる場合がある。
【0079】
本明細書で提供される方法はまた、発現タンパク質を精製することを含み得る。本明細書において使用される場合、「濃縮」タンパク質は、産生細胞の質量の乾燥重量で少なくとも5%(例えば、少なくとも6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、もしくはそれ以上)を占めるタンパク質であるか、または産生細胞溶解物(例えば、細胞壁もしくは膜物質を除く)の質量の乾燥重量で少なくとも10%(例えば、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、90%、95%、または99%)を占めるタンパク質である。本明細書において使用される場合、「精製」タンパク質とは、天然にそれに伴う細胞成分から分離されたタンパク質のことである。典型的には、タンパク質は、他のタンパク質および自然では関連している天然分子を含まずに、乾燥重量で少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または99%)の場合、「精製された」と考えられる。
【0080】
本明細書では、選択のための配列を欠く(すなわち、選択マーカーを欠く)株を生成するために使用され得る方法が記載されている。これらの方法は、環状プラスミドDNAベクターおよび線状DNA配列を使用することを含むが、環状プラスミドDNAベクターは、選択マーカーおよびDNA複製起点(自律複製配列(ARS)とも呼ばれる)を含み、線状DNA配列は、相同組換えによって酵母細胞ゲノムに組み込むための配列を含む。線状DNA分子は、さらに、限定するものではないが、ヘム結合タンパク質、デヒドリン、フィターゼ、プロテアーゼ、カタラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、アミラーゼ、トランスグルタミナーゼ、酸化還元酵素、トランスフェラーゼ、加水分解酵素、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、小分子、例えばヘム、エタノール、乳酸、ブタノール、アジピン酸もしくはコハク酸の生産経路に関与する1つもしくは複数の酵素、またはそのようなタンパク質に対する抗体などの1つまたは複数の目的のタンパク質をコードする核酸配列を含み得る。
【0081】
酵母細胞(例えばメチロトローフ酵母細胞(例えばピキア(Pichia))は、環状プラスミドDNAベクターおよび線状DNA配列の両方で形質転換させることができ、形質転換体は、環状プラスミド上の選択マーカーの存在によって選択さる。次いで、形質転換体は、例えばPCRを使用してスクリーニングされ、線状DNA分子のゲノムへの組み込みについてスクリーニングされ得る。マーカーを含まない線状DNA分子が正しく組み込まれた形質転換体が同定された場合、環状プラスミドの選択なしに細胞を増殖させることができる。マーカーを保持するプラスミドは、選択なしの場合には安定的に維持されないため、選択が緩和されると、プラスミドは非常に急速に失われることが多い。得られた株は、選択のための異種配列がない状態で組み込まれた線状DNAを保持する。したがって、このアプローチは、組換え産物(例えば、タンパク質)の収量にほとんどまたは全く影響を与えることなく選択マーカー(例えば、異種選択マーカー)を欠く株(例えば、ピキア(Pichia)株)を構築するために使用され得る。Cre-Lox組換え、FLT-FRT組換え、またはCRISPR-Cas9などの他の方法もまた、マーカーを含まない株の構築に使用され得る。
【0082】
本明細書で提供される方法は、産物(例えば、タンパク質または小分子)の力価を増加させる。一部の実施形態では、産物(例えば、タンパク質または小分子)の力価は、本明細書に記載の核酸構築物を欠いている対応する方法と比較して、少なくとも5%(例えば、少なくとも6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれ以上)増加し得る。
【0083】
一般的に、「力価」とは、溶液中の物質の量を測定値である。本明細書において使用される場合、産物(例えば、タンパク質または小分子)の「力価」は、その産物の総量を指す。産物がヘム結合タンパク質である場合、力価は、特段の指定のない限り、ヘムに結合しているか否かにかかわらず、ポリペプチドの総量を指す。産物(例えば、タンパク質または小分子)の力価は、任意の適切な方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフィー質量分析(HPLC MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、あるいは紫外線分光法および/または可視光(UV-Vis)分光法によって測定することができる。
【0084】
本明細書において使用される場合、「対応する方法」とは、特定された相違を除き、すべての点で参照方法と本質的に同一である方法である。例えば、転写活性化因子(例えば、Rtg1)をコードする核酸を発現する対応する方法は、対応する方法が転写活性化因子(例えば、Rtg1)の発現を欠くことを除き、すべての局面(例えば、細胞の遺伝子構成、培養の温度および時間など)において同じでもよい。
【0085】
本開示に従って、当技術分野の範囲内の従来の分子生物学技術、微生物学技術、生化学技術、および組換えDNA技術を用いることができる。このような技術は、文献において十分に説明されている。本開示の材料および方法は、以下の実施例においてさらに説明されるが、これらは、特許請求の範囲に記載されている方法および物質の組成物の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0086】
[実施例1]
Rtg1過剰発現による外因性タンパク質の発現の増加
この実施例では、空のプラスミド(対照)またはRtg1過剰発現プラスミド(pGAP-Rtg1またはpAOX1-Rtg1)を、AOX1プロモーター下で赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するピキア・パストリス(Pichia pastoris)株に形質転換した。Rtg1は、構成的GAPプロモーター(pGAP-Rtg1)または誘導性AOX1プロモーター(pAOX1-Rtg1)の下で発現された。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。蛍光は、蛍光プレートリーダーを使用して測定した。測定は、励起520nmおよび発光585nmで実施した。測定前にサンプルを水で50倍希釈した。下の表4に示すように、Rtg1発現は、RFP発現を18~38%増加させた。pAOX1またはpGAPのいずれかからのRtg1過剰発現は、RFP発現の増加をもたらす可能性があり、このことは、非mutプロモーター下でのRtg1過剰発現もまたmutプロモーター下でのRFP遺伝子発現の増加につながる可能性があるので、正のフィードバックループの有無にかかわらず、有益性が達成され得ることを示唆している。
【0087】
【表4】
【0088】
[実施例2]
Rtg1の過剰発現による外因性ヘム結合タンパク質の発現の増加
この実施例では、空のプラスミド(対照)またはRtg1過剰発現プラスミド(pGAP-Rtg1またはpAOX1-Rtg1)を、AOX1プロモーター下でヘム結合タンパク質レグヘモグロビン(LegH)およびヘム生合成酵素を発現するピキア・パストリス(Pichia pastoris)株に形質転換した。Rtg1は、構成的GAPプロモーター(pGAP-Rtg1)または誘導性AOX1プロモーター(pAOX1-Rtg1)下で発現された。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。LegH力価は、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製した溶解物の分光光度法によって測定した。検量線は、精製したLegHで280nm(タンパク質)および415nm(ヘム)の吸光度を使用して作成した。試験サンプルのLegH力価は、検量サンプルと比較して測定した。下の表5に示すように、Rtg1発現は、LegH力価を16~19%増加させた。LegHの定量化に関する詳細は以下に記載されている。pAOX1またはpGAPのいずれかからのRtg1過剰発現は、LegH発現の増加をもたらす可能性があり、このことは、非mutプロモーター下でのRtg1過剰発現もまたmutプロモーター下でのLegH遺伝子発現の増加につながる可能性があるので、正のフィードバックループの有無にかかわらず、有益性が達成され得ることを示唆している。
【0089】
【表5】
【0090】
LegHは、2020年4月24日に出願された米国特許出願公開第2020/0340000号明細書に記載されているように定量したが、この公報は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。LegHの定量を開始するために細胞ブロスのサンプルをペレット化し(4000xg、4℃、30分)、デカントした。次いで、ペレットサンプルを溶解バッファー(150mM NaCl、50mM リン酸カリウム、pH7.4)で4倍希釈した。各再懸濁液300μLを、細胞溶解用に1ウェルあたり120μLのビーズ(ジルコニウム/シリカビーズ(0.5mm))を入れた96ウェル深型プレートに分注した。溶解はミニビーズビーター(mini bead beater)で3分間行い、次いでプレートを氷上で5分間冷却した後、さらに2分間ビーズビートした。次いで、プレートを遠心分離した(4000xg、4℃、30分)。上清を0.2μmのフィルタープレートを通して濾過した(4000xg、4℃、60分)。
【0091】
濾過した溶解物を、サイズ排除カラム(Acquity BEH SECカラム、200Å、1.7um、4.6x150mm)を備えたUHPLCにロードした。方法パラメータ:1)移動相:5mM NaCl、50mM リン酸カリウム(pH7.4)、2)流速:0.3mL/分、3)注入量:10μL、4)実施時間:15分、5)サンプルトレイ温度:4℃。検量線は、精製したLegH標準で280nmおよび415nmの吸光度を使用して作成した。定量は、谷間ピーク積分法によるピーク面積を使用して行った。280nmでの吸光度は存在するポリペプチドの量に比例し、415nmでの吸光度は存在するヘムの量に比例する。両波長で同じ溶出時間にピークが見られる場合、ヘム含有タンパク質が検出される。
【0092】
[実施例3]
Rtg1の過剰発現による外因性タンパク質の発現の増加
この実施例では、空のプラスミド(対照)またはRtg1過剰発現プラスミド(pAOX1-Rtg1)を、AOX1プロモーター下でウシミオグロビン(Mb)を発現するピキア・パストリス(Pichia pastoris)株に形質転換した。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。検量線は、精製ミオグロビンを使用して作成した。下の表6に示すように、Rtg1発現は、AOX1プロモーター下で発現した場合、Mb力価を28%増加させた。
【0093】
【表6】
【0094】
[実施例4]
Rtg1の過剰発現によるメタノール利用(mut)遺伝子プロモーター下での外因性タンパク質発現の増加
この実施例では、Rtg1 ORFをAOX1プロモーターおよびターミネータープラスミドとともに含むカセットを親株に組み込んで「親株+Rtg1」を得た。mut遺伝子プロモーター(AOX1、DAS1、FLD1)下に緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むプラスミドを親株および「親株+Rtg1」に形質転換した。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。蛍光は、蛍光プレートリーダーを使用して測定した。測定は、励起485nmおよび発光525nmで実施した。測定前にサンプルを水で50倍希釈した。正規化は、GFP発現を駆動する同じプロモーターについて、「親株+Rtg1」のGFP蛍光/OD600を親株と比較して計算することにより行った。下の表7に示すように、Rtg1発現は、GFPが発現されるプロモーターに応じて、GFP発現を11%~98%増加させた。
【0095】
【表7】
【0096】
[実施例5]
Rtg1の過剰発現によるメタノール利用(mut)遺伝子プロモーター下での天然タンパク質の発現の増加
この実施例では、Rtg1 ORFをAOX1プロモーターおよびターミネータープラスミドとともに含むカセットを親株に組み込んで「親株+Rtg1」を得た。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。AOX2プロモーター下で発現されるメタノール利用(mut)経路のタンパク質であるAOX2のタンパク質レベルをショットガンプロテオミクスによりモニターした。下の表8に示すように、Rtg1発現は、AOX2発現を189%増加させた。
【0097】
【表8】
【0098】
[実施例6]
Rtg1およびMxr1の過剰発現による外因性タンパク質発現の相加的な増加
この実施例では、「親株+Rtg1」株、「親株+Mxr1」株、および「親株+Rtg1+Mxr1」株における緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現レベルを測定した。「親株+Rtg1」株と「親株+Mxr1」株は、それぞれゲノム内のAOX1プロモーター下にRtg1またはMxr1の外来コピーを含んでいた。「親株+Rtg1+Mxr1」株は、そのゲノム内のAOX1プロモーター下にRtg1およびMxr1の両方のコピーを含んでいた。AOX1プロモーターまたはDAS1プロモーター下のGFPを含むプラスミドを上記の親株および娘株に形質転換した。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。正規化は、GFP発現を駆動する同じプロモーターについて、各娘株のGFP蛍光/OD600を親株と比較して計算することにより行った。
【0099】
下の表9に示すように、Rtg1とMxr1の過剰発現は、親株と比較して、AOX1プロモーター駆動によるGFP発現をそれぞれ70%と252%増加させ、組み合わせた場合にはGFP発現を472%増加させた。同様に、Rtg1とMxr1の過剰発現は、親株と比較して、DAS1プロモーター駆動によるGFP発現をそれぞれ15%と108%増加させ、組み合わせた場合にはGFP発現を251%増加させた。
【0100】
【表9】
【0101】
[実施例7]
Rtg2の過剰発現による外因性タンパク質の発現の増加
この実施例では、Rtg2 ORFをAOX1プロモーターおよびターミネータープラスミドとともに含むカセットを親株に組み込んで「親株+Rtg2」を得た。AOX1プロモーター下の緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むプラスミドを親株および「親株+Rtg2」に形質転換した。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。正規化は、「親株+Rtg2」のGFP蛍光/OD600を親株と比較して計算することにより行った。下の表10に示すように、Rtg2の発現はGFPの発現を40%増加させた。
【0102】
【表10】
【0103】
[実施例8]
Mxr1、Rtg1、およびRtg2の過剰発現による外因性タンパク質の発現の増加
この実施例では、Rtg1、Rtg2、および/またはMxr1をAOX1プロモーターおよびターミネータープラスミドとともに含むカセットを親株に組み込んだ。AOX1プロモーター下の緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むプラスミドを各株に形質転換した。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。正規化は、各株のGFP蛍光/OD600を親株と比較して計算することにより行った。下の表11に示すように、Mxr1、Rtg1、およびRtg2の発現はGFP発現を500%超増加させた。
【0104】
【表11】
【0105】
[実施例9]
Rtg1およびMit1またはTrm1の過剰発現による外因性タンパク質の発現の増加
この実施例では、Rtg1とMit1またはTrm1をAOX1プロモーターおよびターミネータープラスミドとともに含むカセットを親株に組み込んだ。AOX1プロモーター下の緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むプラスミドを各株に形質転換した。増殖は、デキストロースおよび300μg/mlのジェネテシン(G418)を含む30℃のYP培地で48時間実施した。正規化は、各株のGFP蛍光/OD600を親株と比較して計算することにより行った。下の表12に示すように、Mit1単独、またはRtg1との組合せはGFP発現を900%超増加させた。また表12に示すように、Mxr1とRtg1の組合せはTrm1の有無にかかわらず、GFP発現を少なくとも600%増加させた。
【0106】
【表12】
【0107】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて説明したが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を説明することを意図しており、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲内である。
【配列表】
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【国際調査報告】