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特表2024-546890リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法
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  • 特表-リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法 図1
  • 特表-リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法 図2A
  • 特表-リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法 図2B
  • 特表-リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法 図3A
  • 特表-リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】リチウムイオンバッテリアノードにおける使用のためのSi複合体材料及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M4/48
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/13
H01M4/1395
H01M4/139
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535649
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022053203
(87)【国際公開番号】W WO2023114491
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/290,273
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518343040
【氏名又は名称】サイオニック エナジー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モガンティ スルヤ エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイディア ルトヴィック
(72)【発明者】
【氏名】ズー シャオジン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン ケビン アール. ジュニア
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK06
5H029AL02
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ14
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA14
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA22
5H050EA23
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
複数の活性Si複合体材料粒子、複数の伝導性炭素粒子、及び加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤を含有するアノード配合物;このアノード配合物から形成されたアノード;アノードを作製する方法;並びにアノード、カソード、及びフッ素化カーボネートを含む電解質を備える電気化学エネルギー貯蔵デバイスが、開示される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを形成するためのアノード配合物であって、
複数の活性Si複合体材料粒子、
複数の伝導性炭素粒子、及び
加熱されたときに環化反応を受ける、少なくとも1種のポリマー結合剤
を含む、アノード配合物。
【請求項2】
前記Si複合体材料が、Si-炭素複合体材料である、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項3】
前記Si複合体材料が、酸化ケイ素材料である、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項4】
前記複数のSi複合体材料粒子が、約1nmから約100μmの範囲の粒子を含む、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のポリマー結合剤が、ポリアクリロニトリルを含む、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項6】
前記複数のSi複合体粒子が、前記アノード配合物の約10%から約90重量%を占める、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項7】
前記複数の伝導性炭素粒子が、前記アノード配合物の約0.1重量%から約5重量%を占める、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項8】
前記少なくとも1種のポリマー結合剤が、前記アノード配合物の約10%から約40重量%を占める、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項9】
前記伝導性炭素粒子が、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物のナノ粒子を含む、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項10】
前記アノード配合物の約0.01重量%から約2重量%を占める酸結合剤をさらに含む、請求項1に記載のアノード配合物。
【請求項11】
前記酸結合剤が、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、又はこれらの混合物を含む、請求項10に記載のアノード配合物。
【請求項12】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードであって、
活性Si複合体材料、伝導性炭素、及び少なくとも1種の環化ポリマー結合剤を含む、コーティングを有する集電子
を含む、アノード。
【請求項13】
前記少なくとも1種の環化ポリマー結合剤が、環化ポリアクリロニトリルである、請求項12に記載のアノード。
【請求項14】
前記Si複合体材料が、Si-炭素複合体材料である、請求項12に記載のアノード。
【請求項15】
前記Si複合体材料が、酸化ケイ素材料である、請求項12に記載のアノード。
【請求項16】
前記伝導性炭素が、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物を含む、請求項12に記載のアノード。
【請求項17】
酸結合剤をさらに含む、請求項12に記載のアノード。
【請求項18】
活性Si複合体材料、伝導性炭素、及び少なくとも1種の環化ポリマー結合剤を含むコーティングを有する集電子を含むアノード、
カソード、及び
フッ素化カーボネートを含む電解質
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項19】
前記Si複合体材料が、Si-炭素複合体材料である、請求項18に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項20】
前記Si複合体材料が、酸化ケイ素材料である、請求項18に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項21】
前記少なくとも1種の環化ポリマー結合剤が、環化ポリアクリロニトリルを含む、請求項18に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項22】
前記カソードが、リチウム金属酸化物、スピネル、オリビン、炭素被覆オリビン、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウム炭素一フッ化物、又はこれらの混合物をさらに含む、請求項18に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項23】
前記カソードが、遷移金属酸化物材料及び過剰リチウム化酸化物材料をさらに含む、請求項18に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項24】
前記アノード及び前記カソードを互いに分離する多孔質セパレータをさらに含む、請求項18に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項25】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを作製する方法であって、
a)混合物を形成するため、活性Si複合体粒子、伝導性炭素粒子、及び加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤を一緒に混合すること、
b)被覆された集電子を形成するため、前記混合物を集電子上に被覆すること、及び
c)前記被覆された集電子を、前記少なくとも1種のポリマー結合剤を環化する温度処理に供すること
を含む、方法。
【請求項26】
前記被覆された集電子を、前記温度処理に供することが、前記被覆された集電子を不活性雰囲気中で、約200℃から約600℃の範囲の温度に加熱することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記被覆された集電子が、約240℃から約400℃の範囲の温度まで加熱される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ステップa)の後、及びステップb)の前に、前記Si複合体粒子、伝導性炭素粒子、及び少なくとも1種のポリマー結合剤を分散させるように溶媒を前記混合物に添加すること
をさらに含み、前記溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、及びプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
ステップb)の後、及びステップc)の前に、前記集電子上に被覆された前記混合物から前記溶媒を除去すること
をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップc)が、前記集電子上に被覆された前記混合物から前記溶媒を除去する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記Si複合体粒子のサイズが、約1nmから約100μmに及ぶ、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
ステップa)で形成された前記混合物が、約10%から約90重量%のSi複合体粒子を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
ステップa)で形成された前記混合物が、前記少なくとも1種のポリマー結合剤を約10重量%から約40重量%含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
ステップa)で形成された前記混合物が、前記伝導性炭素粒子を約0.1重量%から約5重量%含む、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1種のポリマー結合剤が、ポリアクリロニトリルである、請求項25に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2021年12月16日に出願された米国仮特許出願第63/290,273号の出願日の利益を主張する。
【0002】
本開示は、伝導度、比容量、及びサイクル寿命の安定性を改善するためのケイ素(Si)系アノードと、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のために適した高容量Si系アノードを生成するための方法とに関する。より詳細には、本開示は、Liイオンバッテリアノードの活性材料粒子としての、Si複合体材料、例えばケイ素-炭素複合体材料、酸化ケイ素、及び同様のものなどのSi複合体材料の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリは、消費者用電子機器、電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵システム(ESS)、及びスマートグリッドで多量に使用される。Liイオンバッテリのエネルギー密度は、少なくとも部分的に、使用されるアノード及びカソード材料に依存する。Liイオンバッテリの処理及び製造の最適化は、毎年、Liイオンバッテリのエネルギー密度の4~5%の改善を可能にしたが、これらの漸増的な改善は、次世代技術のエネルギー密度の目標に到達するのに十分ではない。そのような目標に到達するには、電極内への高エネルギー密度活性材料の組込みなど、電極材料の進歩が必要になる。最近の研究は高エネルギーカソードの開発に主に焦点を当てており、アノード材料の開発に対しては専ら限られた研究しか行われていない。
【0004】
最近、ケイ素は、Liイオンバッテリ用の最も魅力ある高エネルギーアノード材料の1種として出現してきた。ケイ素の低い作用電圧及び高い理論的比容量3579mAh/gは、従来の黒鉛の場合のほぼ10倍であり、したがってより多くの関心がもたらされている。米国特許第10,573,884号及び第10,707,481号は、ケイ素活性材料粒子とポリアクリロニトリル(PAN)などのポリマー結合剤とを含むアノード組成物について記述する。第‘884号及び第‘481号特許に記載されるケイ素活性材料粒子は、ナノからミクロン範囲のサイズを有する純粋なケイ素粒子である。またイオン性液体系電解質が必要とされた。
【0005】
活性材料としての純粋なケイ素を含むアノード材料が直面する1つの課題は、純粋なケイ素の材料レベルの不安定性である。例えば、純粋なケイ素がアノードの活性材料として使用されたとき、純粋なケイ素は、それと共に使用される電解質に直接接触するようになり且つその電解質に曝露される。これはアノード及びバッテリの不安定性をもたらし得る。したがって、Liイオンバッテリ用に改善されたSi系アノード材料の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様によれば、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを形成するためのアノード配合物であって:複数の活性Si複合体材料粒子、複数の伝導性炭素粒子;及び加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤を含む、アノード配合物が提供される。
【0007】
本開示の別の態様によれば、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードであって、活性Si複合体材料、伝導性炭素、及び少なくとも1種の環化ポリマー結合剤を含むコーティングを有する集電子を含む、アノードが提供される。
【0008】
本開示の別の態様によれば、活性Si複合体材料、伝導性炭素、及び少なくとも1種の環化ポリマー結合剤を含むコーティングを有する集電子を含むアノード;カソード;及びフッ素化カーボネートを含む電解質を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスが提供される。
【0009】
本開示の別の態様によれば、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを作製する方法であって:
a)混合物を形成するため、活性Si複合体粒子、伝導性炭素粒子、及び加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤を、一緒に混合すること;
b)被覆された集電子を形成するため、混合物を集電子上に被覆すること;及び
c)被覆された集電子を、少なくとも1種のポリマー結合剤を環化する温度処理に供すること
を含む方法が提供される。
【0010】
本明細書に記述される技術のこれら及びその他の態様は、詳細な説明及びそこに添付される特許請求の範囲を考慮した後に明らかにされよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本明細書に記述される様々な実施形態による、Si複合体粒子を含むアノードを作製する方法を示す、流れ図である。
図2A】リチウム化の完了後、実質的な膨張が観察され且つコーティングが層剥離した、フルパウチセルからのポリフッ化ビニリデン(PVDF)結合剤で調製されたアノード電極を示す、写真である。
図2B】完全なリチウム化後の実質的な膨張を示す、写真である。
図3A】フルパウチセルからの環化PAN結合剤で調製されたアノード電極を示し、リチウム化の完了後であっても、アノードコーティングの層剥離が観察されない、写真である。
図3B】フルパウチセルから環化PAN結合剤で調製されたアノード電極を示し、リチウム化の完了後であっても、優れた構造安定性を提供するスーパーグルーのように動作する環化PAN結合剤に起因してアノードコーティングの層剥離が観察されなかった、写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態について、特定の例示的な実施形態の一部を形成し且つその実施形態を単なる例として示す添付図面を参照しつつ、以下にさらに十分に記述する。これらの実施形態は、当業者が本開示を実施できるよう、十分詳細に開示される。しかしながら実施形態は、多くの種々の形態で実現されてもよく、本明細書で述べる実施形態に限定されると解釈すべきでない。したがって以下の詳細な説明は、限定の意味で解釈するものではない。
【0013】
本明細書には、Si系アノード及びその作製方法の様々な実施形態が記述され、このSi系アノードはSi複合体材料を活性材料成分として含む。
【0014】
一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを形成するために構成されたアノード配合物について、記述する。アノード配合物は、複数の活性材料粒子、複数の伝導性炭素粒子、及び加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤を含む。活性材料粒子は、Si-炭素複合体又は酸化ケイ素複合体の粒子など、Si複合体粒子を含む。
【0015】
一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスについて記述され、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、アノード、カソード、及び電解質を含む。アノードは、複数の活性材料粒子、伝導性炭素粒子、及び加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤から作製される。活性材料粒子は、Si-炭素複合体又は酸化ケイ素複合体の粒子など、Si複合体粒子を含む。電解質は、フッ素化カーボネートを含んでもよい。
【0016】
本明細書には、Si複合体活性材料を含むSi系アノードの様々な実施形態が記述される。アノード材料中の活性材料としての、Si-炭素及びSi-酸化物複合体などのSi複合体材料の使用は、活性材料として純粋なSiを使用するアノード材料と比較して、所望の材料レベルの安定性を提供する。Si複合体材料がコア-シェル構造(例えば、Siコアが炭素又は酸化物シェルを持つ)を提供する実施形態では、外殻材料が、Si粒子を電解質との直接接触及び曝露から遮蔽する。コア-シェル構造を有するものなどのSi複合体材料の使用は、外殻の多孔度に基づいて、コアシェル構造におけるケイ素の膨張及び収縮も可能にする。これは純粋なSi活性材料と比較して、Si系複合体材料の改善された安定性をもたらす。
【0017】
本明細書に記述されるアノード材料配合物は、複数の活性材料粒子を含む。アノード材料に提供された活性材料粒子の少なくとも一部は、Si複合体粒子である。一部の実施形態では、活性材料粒子の全てがSi複合体粒子である。アノードに存在する全ての活性材料粒子がSi複合体粒子であるとき、Si複合体粒子は全てが同じタイプのものであってもよく(例えば、全てのSi複合体粒子がSi-炭素粒子である)、又はSi複合体粒子は、2つ又はそれよりも多くの異なるタイプのSi複合体粒子で構成されてもよい(例えば、一部のSi複合体粒子がSi-炭素粒子であり、一方、その他のSi複合体粒子が酸化ケイ素粒子である)。複数の活性材料粒子が、Si複合体粒子及び非Si複合体粒子の両方を含む実施形態では、Si複合体粒子は、全てが1つのタイプのものとすることができ、又は2つ若しくはそれよりも多くのタイプのSi複合体粒子とすることができる。非Si複合体粒子は、Si複合体材料ではない1つ又は複数の任意の適切なタイプの活性材料であってもよい。一部の実施形態では、アノード材料に含まれる非Si複合体粒子は、純粋なケイ素粒子である。
【0018】
任意の適切なSi複合体材料は、本明細書に記述されるアノード材料に含まれるSi複合体粒子に使用することができる。一部の実施形態では、Si複合体粒子は、炭素被覆Si粒子などのSi-炭素複合体材料である。一部の実施形態では、酸化ケイ素(SiO)が使用される。Si複合体は、Siと不活性金属又は非金属との合金であってもよい。本明細書に記述される実施形態における使用のために適したSi複合体材料のその他の例は、グラフェン-ケイ素複合体、酸化グラフェン-ケイ素-カーボンナノチューブ、ケイ素-ポリピロール、並びにナノ及びミクロンサイズのケイ素粒子の複合体である。前述のように、Si複合体材料の任意の組合せをアノード材料で使用することができ、又は単一のSi複合体材料のみを使用することができる。
【0019】
一部の実施形態では、Si複合体材料は一般にコア-シェル型構造を有し、このコアは、主として又は排他的にケイ素である。シェルは一般に、ケイ素材料のコアの周りの保護コーティングとして作用する非ケイ素材料であってもよい。例えばSi複合体材料は、炭素がケイ素材料のコアの周りにシェルを形成するように、コア-シェル構造を有するSi-炭素材料であってもよい。例えば、既に記述されたSi-炭素複合体の例では、コアは、主たるケイ素コアに加えていくらかの炭素を含んでいてもよく、シェルは、主たる炭素シェルに加えていくらかのケイ素を含んでもよい。
【0020】
一部の実施形態では、アノード材料のSi複合体粒子含量は、アノード材料の約10重量%から約90重量%、例えば約20重量%から約80重量%又は約50重量%から約80重量%である。一部の実施形態では、アノード複合体材料中に存在するSi複合体粒子は、約1nmから約100μmの範囲のサイズを有してもよい。
【0021】
本明細書に記述されるアノード材料配合物は、加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも1種のポリマー結合剤を含む。アノード材料のポリマー成分は、典型的には結合剤材料として作用し、伝導度をアノード材料に提供する。一部の実施形態では、少なくとも1種のポリマーがポリアクリロニトリル(PAN)である。PANに加えてその他のポリマー材料は、必要に応じてアノード材料に含まれてもいてもよい。一部の実施形態では、アノード材料に含まれる少なくとも1種のポリマー結合剤は、アノード材料の約10重量%から約40重量%を構成する。既に述べたように、PANは、結合剤母材中のケイ素複合体粒子の制御された断片化/粉砕を可能にする弾性且つ堅牢なフィルム形成する、ポリマー結合剤として使用される。しかしながら環化PAN結合剤の役割は、粒子レベルの破砕が問題ではないことを前提として、Si複合体材料に関しては異なる。環化PAN結合剤は、電子の経路を提供し且つ炭酸塩系電解質組成物などのSEI層を有機溶媒中で形成するのも助ける、伝導性母材として動作する。従来技術は、環化PAN結合剤及び純粋な金属ケイ素材料を可能にする、イオン性液体系電解質の使用を教示する。しかしながら、有機溶媒系電解質の使用は、バッテリ性能を劣化させることが示された。対照的に、本開示は、イオン性液体系電解質組成物なしで、Si複合体材料、伝導性炭素、及び環化PANポリマー結合剤の使用を報告する。
【0022】
PANがアノード材料のポリマー結合剤成分の一部又は全てとして使用される、一部の実施形態では、アノード材料は、PANが環化PANになるような手法で調製され及び/又は処理される。即ち、アノード材料の最終形態において、ポリマー結合剤は環化PANを含む。PANを環化するためにアノード材料を調製する及び/又は処理する任意の方法が、使用され得る。一部の実施形態では、アノード材料は、PANポリマー結合剤成分を環化するために、約200℃から約600℃の範囲内で加熱される。一部の実施形態では、アノード材料は、この環化を実施するため230℃よりも上の温度に加熱される。一部の実施形態では、240℃から400℃の間の温度範囲が使用される。
【0023】
本明細書に記述されるアノード材料配合物は、伝導性カーボンナノ粒子などの複数の伝導性炭素粒子を含む。伝導性炭素粒子がアノード材料に含まれるとき、それらは約0.1重量%から約5重量%の範囲で存在し得る。気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブを含むがこれらに限定されない任意の適切な伝導性ナノ粒子を、使用することができる。そのような伝導性ナノ粒子は、アノード材料の伝導度を高めることができる。
【0024】
既に記述されたSi複合体粒子、伝導性炭素粒子、及びポリマー結合剤に加え、本明細書に記述されるアノード材料は、アノード材料における使用のために典型的には適しているその他の材料を含んでもよい。例えば、既に記述されたように、非Si複合体粒子がアノード材料に含まれてもよい。アノード材料中に存在し得るその他の材料には、限定するものではないが、硫黄、硬質炭素、黒鉛、スズ、及びゲルマニウム粒子が含まれる。アノード材料中に存在するとき、これらの追加の材料は、アノード複合体材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲、例えば約10重量%から約60重量%の範囲で存在していてもよい。
【0025】
アノード材料に含まれ得るその他の追加の成分は、酸結合剤を含む。アノード材料を作製するのに使用されるアノードスラリに含まれ得る酸結合剤は、例えば、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、及び1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸を含んでもよい。酸結合剤は、分散及び接着特性を改善するのに使用することができる。アノード材料で使用されるとき、酸結合剤は、約0.01重量%から約2重量%の範囲でアノード配合物中に存在していてもよい。
【0026】
本明細書に記述されるSi複合体材料を含むアノードは、電気化学エネルギー貯蔵デバイス内に組み込むことができる。電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、本明細書に記述されるアノード、カソード、及び電解質を含む。一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、リチウム二次バッテリである。一部の実施形態では、二次バッテリは、リチウムバッテリ、リチウムイオンバッテリ、リチウム-硫黄バッテリ、リチウム-空気バッテリ、ナトリウムイオンバッテリ、又はマグネシウムバッテリである。一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、電気化学セル、例えばキャパシタである。一部の実施形態では、キャパシタは、非対称キャパシタ又はスーパーキャパシタである。一部の実施形態では、電気化学セルは一次セルである。一部の実施形態では、一次セルは、リチウム/MnOバッテリ又はLi/ポリ(一フッ化炭素)バッテリである。
【0027】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のために適したカソードは、限定するものではないが、リチウム金属酸化物、スピネル、オリビン、炭素被覆オリビン、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiMn0.3Co0.3Ni0.3、LiMn、LiFeO、LiNiCoMet、An’(XO、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウム炭素一フッ化物(LiCFとしても公知である)、又はこれらのいずれか2種又はそれよりも多くの混合物などを含み、式中、MetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、又はCoであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、又はZnであり;BはTi、V、Cr、Fe、又はZrであり;XはP、S、Si、W、又はMoであり;及び0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、及び0≦z≦0.5、及び0≦n≦0.3である。一部の実施形態によれば、スピネルは、式がLi1+xMn2-zMet’’’4-mX’である(式中、Met’’’はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、又はCoであり;X’は、S又はFであり;及び0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である)スピネルマンガン酸化物である。他の実施形態では、オリビンは、式LiFePO又はLi1+xFe1zMet”PO4-mX’を有し、式中、Met”はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、Mn、又はCoであり;X’はS又はFであり;及び0≦x≦0.3、0 0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である。
【0028】
一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスの電解質成分は、非プロトン性有機溶媒系、金属塩、及び少なくとも1種の電解質添加剤を含む。
【0029】
一部の実施形態では、電解質の非プロトン性有機溶媒成分は、20重量%から90重量%の範囲で、開鎖又は環状カーボネート、カルボン酸エステル、ニトリル、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、ホスファイト、モノ-若しくはポリホスファゼン、又はこれらの混合物から選択される。
【0030】
一部の実施形態では、電解質の金属塩成分は、10重量%から30重量%の範囲にあるリチウム塩である。様々なリチウム塩は、例えばLi(AsF);Li(PF);Li(CFCO);Li(CCO);Li(CFSO);Li[N(CPSO];Li[C(CFSO];Li[N(SO];Li(ClO);Li(BF);Li(PO);Li[PF(C];Li[PF];リチウムアルキルフルオロリン酸塩;Li[B(C];Li[BF];Li[B1212-j];Li[B1010-j’j’];又はこれらのいずれか2種若しくはそれよりも多くの混合物であって、式中、Zは独立して出現するごとにハロゲンであり、jは0から12の整数であり、及びj’は1から10の整数であるものを含めて使用され得る。
【0031】
一部の実施形態では、電解質添加剤は、少なくとも1種の不飽和炭素-炭素結合、カルボン酸無水物、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、又はこれらの混合物を、0.1重量%から10重量%の範囲で含有する化合物である。
【0032】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスが二次バッテリである、一部の実施形態では、二次バッテリが、正極と負極とを分離するセパレータをさらに含んでもよい。リチウムバッテリ用セパレータは、しばしば微孔質ポリマーフィルムである。フィルムを形成するためのポリマーの例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブテン、又はいずれか2種若しくはそれよりも多くのそのようなポリマーのコポリマー若しくはブレンドが含まれる。ある場合には、セパレータは、電子ビームで処理された微孔質ポリオレフィンセパレータである。電子処理は、セパレータの変形温度を上昇させることができ、したがって高温での熱安定性を高めることができる。さらに、又は代替として、セパレータは遮断セパレータとすることができる。遮断セパレータは、約130℃までの温度で電気化学セルを動作可能にするように、約130℃よりも高いトリガー温度を有してもよい。
【0033】
図1を参照すると、本明細書に記述されるアノード材料を調製するための方法100の実施形態を示す流れ図は、混合物を形成するため、ケイ素複合体粒子、伝導性炭素粒子、及びポリマー結合剤を一緒に混合するステップ110と、混合物に溶媒を添加し、混合物を銅集電子上に被覆するステップ120と、溶媒をコーティングから除去し、被覆された集電子を熱処理に供するステップ130とを含む。
【0034】
ステップ110で、ケイ素複合体粒子、伝導性炭素粒子、及び少なくとも1種のポリマー結合剤を一緒に混合して混合物を形成する。これらの材料を一緒に混合する任意の手法を使用することができるが、一部の実施形態では、機械的混合が使用される。例えば成分は、低いrpmで固形分をボールミリングすることにより、一緒に混合することができる。
【0035】
ステップ120で、溶媒を混合物に添加して、活性材料粒子を分散させる。任意の適切な溶媒を、任意の適切な量で使用することができる。一部の実施形態では、溶媒は無水NMPである。その他の適切な溶媒には、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、及びプロピレンカーボネート(PC)が含まれるがこれらに限定されない。溶媒は、ケイ素複合体粒子、伝導性炭素粒子、及びポリマー結合剤の混合物と、任意の適切な長さの時間にわたり、例えば約12時間、混合することができる。溶媒混合は、高剪断遠心混合を使用して又は撹拌棒をガラスバイアル内で使用して、行うことができる。
【0036】
ステップ120は、スラリ混合物を集電子上に被覆することをさらに含む。集電子の材料は、任意の適切な集電子材料、例えば銅とすることができる。被覆ステップは、任意の適切な技法及び装置、例えばベンチトップドクターブレードコータを使用して実施することができる。
【0037】
ステップ130では、溶媒を、集電子上に被覆された材料から除去し、次いで被覆された集電子を熱処理に供する。このステップは2つの別々の動作として記述されるが、一部の実施携帯では、熱処理ステップの部分としてコーティングから溶媒を除去することが可能であり得る。溶媒が最初に除去されるとき、溶媒は、後続の熱処理ステップで使用される温度よりも概して低い温度であるがコーティングから溶媒を除去するのに必要な温度よりも高い温度で、コーティングを加熱することによって除去することができる。例えば一部の実施形態では、溶媒は、溶媒を蒸発させるように、被覆された集電子を最初に約60℃の温度に供することによって(対流炉内など)、コーティングから除去される。
【0038】
溶媒除去の後、ステップ130は、被覆された集電子を熱処理に供した状態で継続する。熱処理は、被覆された集電子を不活性雰囲気中で、約200℃から約600℃の範囲の温度に、例えば不活性アルゴンガス雰囲気中で約330℃に加熱することを含んでもよい。温度は、約240℃から約400℃の範囲にすることができる。熱処理ステップは、一般に、コーティングのポリマー成分の環化を目標とする。前述のように、コーティングのポリマー成分はPANであってもよい。PANの環化は、PAN分子の架橋に起因してニトリル結合(C≡N)が二重結合(C=N)に変換されたときのプロセスである。このプロセスは、弾性であるが機械的に堅牢なPAN繊維のラダーポリマー鎖をもたらし、したがって、ケイ素粒子の制御された断片化が可能になる。
【0039】
本開示を、以下の特定の実施例を参照しつつ、さらに例示する。これらの実施例は、例示として与えられ且つ以下に続く開示又は特許請求の範囲に限定することを意味するものではないことが理解される。
【実施例
【0040】
酸化ケイ素複合体材料を、伝導性カーボンブラック及び150,000MW(150K)PANと実施例1及び2のアノード用に、並びに伝導性カーボンブラック及びPVDFと比較例のアノード用に、固形分を低rpmでボールミリングすることによって混合した。アノードの組成を以下の表1に示す。無水NMPを溶媒として使用して、C65伝導性カーボンブラック添加剤を、遠心混合を使用して分散させ、その後、ケイ素/PAN固体混合物を実施例1及び2の分散体に添加し、並びにケイ素/PVDF固体混合物を比較例用に添加した。それぞれのスラリを一晩混合し、ベンチトップドクターブレードコータを使用して、スラリを銅集電子上に被覆することにより、>3mg/cmの固体負荷を持つアノード電極を得た。アノード電極を60℃で乾燥して、NMP溶媒を除去した。
【0041】
次いでPVDF結合剤を含有する比較アノード電極を除いて、PAN結合剤を含有する実施例1及び2の2つのアノード電極を、不活性アルゴン雰囲気中、330℃で熱処理した。熱処理プロセス中、PAN結合剤は環化プロセスを受けて、懸濁したニトリル(三重結合)を共役ニトリル基に変換する。
【0042】
【表1】
【0043】
機械的一体性及び伝導性の両方を提供する際の環化PAN結合剤の有効性を理解するため、フルパウチセルを、NMC811カソード(4mAh/cm)に対して試験した。表2は、表1に示されるアノード組成に関してフルセルデータを比較する。有機溶媒系電解質を、表1に列挙された全てのアノード組成物に使用した。
【0044】
【表2】
【0045】
図2及び3は、リチウム化完了後のアノード電極の機械的一体性を示す。明らかに環化したPAN結合剤は、公知の結合剤系と比較して強力な機械的強度を提供する。
【0046】
表3は、NMC811カソードに対する、アノード電極の、測定された電気化学的特性を比較する。環化PAN結合剤は、より高いリチウム化能を提供する。それに対してPVDF結合剤は、伝導性及び不十分な機械的強度に起因して、不十分に機能した。
【0047】
【表3】
【0048】
したがって、ロールツーロールアノードコーティングプロセスを介して、本発明者らはケイ素材料の表面化学を設計製作することができる。環化PANポリマー結合剤で推進されるコーティングは、その機械的強度、導電率、及び化学安定性をケイ素に与え、主な難題に対処する。
【0049】
様々な実施形態が示され且つ本明細書に詳細に記述されてきたが、本開示の趣旨から逸脱することなく様々な修正、付加、置換などを行うことができ、したがってこれらは、以下に続く特許請求の範囲で定義される本開示の範囲内にあると見なされることが、関連ある当業者に明らかにされよう。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
【国際調査報告】