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特表2024-546892リチウムイオンバッテリアノード材料及びその作製方法
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  • 特表-リチウムイオンバッテリアノード材料及びその作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】リチウムイオンバッテリアノード材料及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20241219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/36 A
H01M4/48
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/1395
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535651
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022053221
(87)【国際公開番号】W WO2023114500
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/290,371
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518343040
【氏名又は名称】サイオニック エナジー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モガンティ スルヤ エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイディア ルトヴィック
(72)【発明者】
【氏名】ズー シャオジン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン ケビン アール. ジュニア
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK06
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ16
5H029EJ04
5H029EJ11
5H029EJ12
5H029HJ05
5H029HJ14
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA14
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA22
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
複数の活性材料粒子、加熱されたときに環化反応を受ける第1のポリマー結合剤、及び第1のポリマー結合剤が第1のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である、第2のポリマー結合剤を含む、アノード;アノードを含有する電気化学エネルギー貯蔵デバイス;並びにアノードを作製する方法が、開示される。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のために構成されたアノードであって、
複数の活性材料粒子、
第1の環化ポリマー結合剤、及び
前記第1のポリマー結合剤が前記第1のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である、第2のポリマー結合剤
を含む、アノード。
【請求項2】
前記第1の環化ポリマー結合剤が、環化ポリアクリロニトリル(PAN)である、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
前記第2のポリマー結合剤が、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)である、請求項1に記載のアノード。
【請求項4】
前記アノード中の前記第1の環化ポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との比が、約1:1から約4:1である、請求項1に記載のアノード。
【請求項5】
前記アノードが、前記第1の環化ポリマー結合剤を約5重量%から約30重量%、及び前記第2のポリマー結合剤を約1重量%から約20重量%含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項6】
第3のポリマー結合剤をさらに含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項7】
前記活性材料粒子が、ケイ素粒子及び黒鉛粒子を含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項8】
前記活性ケイ素粒子が、剥き出しのケイ素粒子を含む、請求項7に記載のアノード。
【請求項9】
前記ケイ素粒子が、Si複合体粒子を含む、請求項7に記載のアノード。
【請求項10】
前記Si複合体粒子が、ケイ素-炭素複合体材料、酸化ケイ素粒子、又はケイ素金属合金を含む、請求項9に記載のアノード。
【請求項11】
前記複数の活性材料粒子のそれぞれが、約1nmから約100μmの範囲の粒度を有する、請求項1に記載のアノード。
【請求項12】
約0.1重量%から約5重量%の範囲でアノード中に存在する伝導性カーボンナノ粒子をさらに含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項13】
前記伝導性カーボンナノ粒子が、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物を含む、請求項12に記載のアノード。
【請求項14】
前記アノード中に、酸結合剤を約0.01重量%から約2重量%の範囲でさらに含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項15】
前記酸結合剤が、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、又はこれらの混合物を含む、請求項14に記載のアノード。
【請求項16】
複数の活性材料粒子、
第1の環化ポリマー結合剤、及び
前記第1のポリマー結合剤が前記第2のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である、第2のポリマー結合剤
を含む、アノードと、
カソードと、
少なくとも1種のリチウム塩を含む電解質と
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項17】
前記第1のポリマー結合剤が、環化ポリアクリロニトリル(PAN)である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第2のポリマー結合剤が、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
前記アノード中の第1の環化ポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との比が、約1:1から約4:1である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項20】
前記アノードが、前記第1の環化ポリマー結合剤を約5から約30重量%、及び前記第2のポリマー結合剤を約1から約20重量%含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項21】
第3のポリマー結合剤をさらに含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項22】
前記活性材料粒子が、ケイ素粒子及び黒鉛粒子を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項23】
前記ケイ素粒子が、剥き出しのケイ素粒子を含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
前記ケイ素粒子が、Si複合体粒子を含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項25】
前記Si複合体粒子が、ケイ素-炭素複合体材料、酸化ケイ素粒子、又はケイ素金属合金を含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
前記複数の活性材料粒子のそれぞれが、約1nmから約100μmの範囲の粒度を有する、請求項16に記載のデバイス。
【請求項27】
前記カソードが、リチウム金属酸化物、スピネル、オリビン、炭素被覆オリビン、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウム炭素一フッ化物、又はこれらの混合物を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項28】
前記カソードが、遷移金属酸化物材料及び過剰リチウム化酸化物材料を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項29】
前記アノード及び前記カソードを互いに分離する多孔質セパレータをさらに含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項30】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを作製する方法であって、
b)混合物を形成するため、複数の活性材料粒子、加熱されたときに環化反応を受ける第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤を、一緒に混合すること、
c)被覆された集電子を形成するため、前記混合物を集電子上に被覆すること、及び
d)前記被覆された集電子を、温度処理に供すること
を含む、方法。
【請求項31】
前記被覆された集電子を前記温度処理に供することが、前記被覆された集電子を不活性雰囲気中で、約200℃から約600℃の範囲の温度に加熱することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記被覆された集電子が、約240℃から約400℃の範囲の温度に加熱される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
ステップa)の後、及びステップb)の前に、前記活性材料粒子、前記第1のポリマー結合剤、及び前記第2のポリマー結合剤を分散させるように溶媒を前記混合物に添加することをさらに含み、前記溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、及びプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
ステップb)の後、及びステップc)の前に、前記集電子上に被覆された前記混合物から前記溶媒を除去すること
をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ステップc)が、前記集電子上に被覆された前記混合物から溶媒を除去する、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記活性材料粒子のサイズが、約1nmから約100μmに及ぶ、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
ステップa)で形成された前記混合物が、30%から90重量%の活性材料粒子を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項38】
ステップa)で形成された前記混合物が、前記第1のポリマー結合剤及び第2のポリマー結合剤を5%から40重量%含む、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
前記第1のポリマー結合剤が、ポリアクリロニトリル(PAN)である、請求項30に記載の方法。
【請求項40】
前記第2のポリマー結合剤が、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)である、請求項30に記載の方法。
【請求項41】
前記混合物中の第1のポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との比が、約1:1から約4:1である、請求項30に記載の方法。
【請求項42】
前記混合物が、前記第1のポリマー結合剤を約5重量%から約30重量%、及び前記第2のポリマー結合剤を約1重量%から約20重量%含む、請求項30に記載の方法。
【請求項43】
前記混合物を形成するため、第3のポリマー結合剤を添加することをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項44】
前記活性材料粒子が、ケイ素粒子及び黒鉛粒子を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項45】
前記ケイ素粒子が、剥き出しのケイ素粒子を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ケイ素粒子が、Si複合体粒子を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記Si複合体粒子が、ケイ素-炭素複合体材料、酸化ケイ素粒子、又はケイ素金属合金を含む、請求項46に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2021年12月16日に出願された米国仮特許出願第63/290,371号の、出願日の利益を主張する。
【0002】
本開示は、伝導度、比容量、及びサイクル寿命の安定性を改善するためのアノード材料と、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のために適した高容量アノード材料を生成するための方法とに関する。より詳細には、本開示は、Liイオンバッテリアノード材料における2種又はそれよりも多くのポリマー結合剤、例えばポリアクリルニトリル(PAN)及びポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF);PAN、PVDF、及びポリイミド(PI)の組合せ;及びポリマー結合剤のその他の組合せの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリは、消費者用電子機器、電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵システム(ESS)、及びスマートグリッドで多量に使用される。Liイオンバッテリのエネルギー密度は、少なくとも部分的に、使用されるアノード及びカソード材料に依存する。Liイオンバッテリの処理及び製造の最適化は、毎年、Liイオンバッテリのエネルギー密度の4~5%の改善を可能にしてきたが、これらの漸増的な改善は、次世代技術のエネルギー密度の目標に到達するのに十分ではない。そのような目標に到達するには、電極内への高エネルギー密度活性材料の組込みなど、電極材料の進歩が必要になる。最近の研究は高エネルギーカソードの開発に主に焦点を当てており、アノード材料の開発に対しては専ら限られた研究しか行われていない。
【0004】
最近、ケイ素は、Liイオンバッテリ用の最も魅力ある高エネルギーアノード材料の1種として出現してきた。ケイ素の低い作用電圧及び高い理論的比容量3579mAh/gは、従来の黒鉛の場合のほぼ10倍であり、したがってより多くの関心がもたらされている。米国特許第10,573,884号及び同第10,707,481号は、ケイ素活性材料粒子とポリアクリロニトリル(PAN)などの単一ポリマー結合剤とを含むアノード組成物について記述する。第‘884号及び第‘481号特許は、アノード材料に存在する単独ポリマー結合剤としてのPANについて記述し、さらに、PANポリマー結合剤をどのように環化できるかについて記述する。
【0005】
純粋なケイ素系アノードに黒鉛を添加する技術は、ケイ素粒子の周りに構造母材を添加し、より高い伝導度をアノード内で可能にするために、一般に用いられる。25重量%未満の黒鉛を持つケイ素主体のアノード設計では、PAN結合剤はケイ素粒子を包んで、制御された断片化を可能にし、アノード伝導度を改善し、黒鉛粒子は構造母材として作用する。より高い黒鉛含量(即ち、25重量%よりも多い)を持つアノード設計では、PAN結合剤は、ケイ素及び黒鉛粒子の両方を効率的に結合せず、非結合黒鉛粒子は、セルで容量劣化を引き起こす。したがって、Liイオンバッテリに関して改善されたアノード材料の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本開示の態様によれば、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のために構成されたアノードであって、複数の活性材料粒子;第1の環化ポリマー結合剤;及び、第1のポリマー結合剤が、第1のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である、第2のポリマー結合剤を含むアノードが、提供される。
【0007】
本開示の別の態様によれば、複数の活性材料粒子、第1の環化ポリマー結合剤、及び第1のポリマー結合剤が第2のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である、第2のポリマー結合剤を含む、アノードと;カソードと;少なくとも1種のリチウム塩を含む電解質とを含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスが提供される。
【0008】
本開示の別の態様によれば、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のためのアノードを作製する方法であって:
a)混合物を形成するため、複数の活性材料粒子、加熱されたときに環化反応を受ける第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤(第1のポリマー結合剤とは異なるタイプのもの)を一緒に混合すること;
b)被覆された集電子を形成するため、混合物を集電子上に被覆すること;及び
c)被覆された集電子を、温度処理に供すること
を含む方法が、提供される。
【0009】
本開示のこれら及びその他の態様は、以下の詳細な説明及びそこに添付される特許請求の範囲を検討することにより明らかにされよう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本明細書に記述される様々な実施形態によるアノード材料を作製する方法を示す、流れ図である。
図2A】リチウム化完了後、実質的な膨張が観察され、及びコーティングが層剥離した、フルパウチセルからの単一ポリマー結合剤としてPVDFで調製されたアノード電極の画像を示す写真である。
図2B】リチウム化完了後の、実質的な膨張を示すアノード電極の写真である。
図3A】2つの異なるタイプのポリマー結合剤(即ち、環化PAN結合剤及びPVDF結合剤)で調製されたアノードコーティング材料の画像を示す写真である。
図3B】アノードコーティングの長さ寸法を示す写真である。
図3C】アノードコーティングの厚さ寸法を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書には、Liバッテリアノード材料及びその作製方法の様々な実施形態を記述し、アノード材料は、加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも第1のポリマー結合剤と、第2のポリマー結合剤とを含む。
【0012】
一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のために構成されたアノードについて、記述される。アノードは、複数の活性材料粒子、第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤を含む。第1のポリマー結合剤は、第2のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である。2つの異なるタイプのポリマー結合剤の一方は、加熱されたときに環化反応を受けなければならない。一部の実施形態では、第1のポリマー結合剤はポリアクリルニトリル(PAN)(例えば、環化PANを含む)であり、第2のポリマー結合剤はポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)である。
【0013】
一部の実施形態では、アノード、カソード、及び電解質を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスについて記述する。アノードは、複数の活性材料粒子、第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤を含む。第1のポリマー結合剤は、第2のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である。2つの異なるタイプのポリマー結合剤の一方は、加熱されたときに環化反応を受けなければならない。一部の実施形態では、第1のポリマー結合剤はPAN(例えば、環化PANを含む)であり、第2のポリマー結合剤はPVDFである。
【0014】
一部の実施形態では、アノード活性材料を作製する方法であって、混合物を形成するため、複数の活性材料粒子、加熱されたときに環化反応を受ける第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤を一緒に混合するステップ;被覆された集電子を形成するため、混合物を、集電子上に、例えば銅に被覆するステップ;及び被覆された集電子を温度処理に供するステップを含む方法について記述する。一部の実施形態では、第1のポリマー結合剤はPAN(例えば、環化PANを含む)であり、第2のポリマー結合剤はPVDFである。
【0015】
本明細書には、活性材料粒子(例えば、ケイ素及び黒鉛粒子)、加熱されたときに環化反応を受ける第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤を含むアノード材料の様々な実施形態が記述される。2つのタイプの結合剤の使用は、活性ケイ素粒子の膨張を制御するのを助けることができ、アノードでの十分な伝導度を可能にし、活性黒鉛粒子と一緒に結合する。その結果、アノード材料での二元結合剤系の使用は、アノード材料が用いられるバッテリのサイクル寿命を改善することができる。
【0016】
アノード材料は、加熱されたときに環化反応を受ける少なくとも第1のポリマー結合剤と、第2のポリマー結合剤とを含み、第1のポリマー結合剤は、第2のポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤である。-COOR、-OH、-NH、-C≡N、及び-C-Fなどの種々の官能基を持つポリマー結合剤は、種々のタイプの結合剤と定義される。結合剤は、Si活性材料と結合するそれらの能力に基づいて、差別化することもできる。例えばC-F結合は反応性ではなく、したがってSi粒子と結合しなくなるが、反応性官能基は、水素結合、イオン-双極子結合、及び同様のものを形成することによって、Si粒子と相互作用することになる。第1及び第2のポリマー結合剤で使用される、特定のタイプのポリマー結合剤は一般に限定されず、ポリマー結合剤の特定の組合せも第1及び第2のポリマー結合剤に使用されない。第1又は第2のポリマー結合剤のいずれかに使用することができる例示的なポリマー結合剤には、限定するものではないがポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。
【0017】
一部の実施形態では、第1のポリマー結合剤は、ポリアクリルニトリル(PAN)である。PANが、アノード材料の第1のポリマー結合剤成分として使用される一部の実施形態では、アノード材料は、PANが環化PANになるような手法で調製され及び/又は処理されてもよい。即ち、アノード材料の最終形態では、第1のポリマー結合剤は、環化PANである。PANを環化するようにアノード材料を調製する及び/又は処理する任意の方法が、使用されてもよい。一部の実施形態では、アノード材料は、PANポリマー結合剤成分を環化するように、約200℃から約600℃の範囲内で加熱される。一部の実施形態では、アノード材料は、この環化を実施するために230℃よりも上の温度に加熱される。一部の実施形態では、240℃から400℃の間の温度範囲が使用される。
【0018】
第1のポリマー結合剤がPANである一部の実施形態では、第2のポリマー結合剤がPVDFである。ポリマー結合剤としてのPAN及びPVDFの組合せは、ケイ素粒子の膨張を制御するのに特に有効なメカニズムであり、アノードでの十分な伝導度を可能にし、黒鉛粒子と一緒に結合することが見出された。
【0019】
アノード材料で使用されるポリマー結合剤の総量は、一般に限定されない。一部の実施形態では、ポリマー結合剤の総量(例えば、第1のポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との組合せ)は、アノード材料の約5から約40重量%の範囲にある。特定のポリマー結合剤のそれぞれの量も、一般に限定されない。一部の実施形態では、アノード材料は、第1のポリマー結合剤の約5重量%から約30重量%であり、第2のポリマー結合剤の約1重量%から約20重量%である。アノード材料中の第1のポリマー結合剤及び第2のポリマー結合剤の量は、第1のポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との比に基づいて選択することもできる。第1のポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との比も、一般に限定されない。一部の実施形態では、アノード材料中の第1のポリマー結合剤と第2のポリマー結合剤との比は、約1:1から約4:1である。
【0020】
一部の実施形態では、アノード材料は、第1及び第2のポリマー結合剤を超える任意の数の追加のポリマー結合剤を含んでもよい。例えば一部の実施形態では、アノード材料は、第3のポリマー結合剤を含む。追加のポリマー結合剤は、追加のポリマー結合剤が、第1のポリマー結合剤及び第2のポリマー結合剤で使用されるポリマー結合剤とは異なるタイプのポリマー結合剤であることを前提として、既に提供されたポリマー結合剤の同じリストから選択することができる。
【0021】
本明細書に記述されるアノード材料はさらに、複数の活性材料粒子を含む。任意の適切な活性材料粒子を使用できるが、一部の実施形態では、活性材料粒子はケイ素粒子及び黒鉛粒子を含む。ケイ素を含む任意のタイプの活性材料粒子は、剥き出しのケイ素粒子、Si複合体粒子、又はこれらの任意の組合せなどのケイ素粒子成分に使用することができる。一部の実施形態では、アノード材料に提供されるケイ素粒子の全てではなくとも少なくとも一部は、Si複合体粒子である。アノード中に存在する全てのケイ素粒子がSi複合体粒子であるとき、Si複合体粒子は、全てが同じタイプのものであってもよく(例えば、全てのSi複合体粒子がSi-炭素粒子である)、又はSi複合体粒子が2つ又はそれよりも多くの異なるタイプのSi複合体粒子で構成されていてもよい(例えば、一部のSi複合体粒子がSi-炭素粒子であり、一方、その他のSi複合体粒子が酸化ケイ素粒子である)。ケイ素粒子が、Si複合体粒子及び非Si複合体粒子の両方を含む実施形態では、Si複合体粒子は、全ての1つのタイプとすることができ、又は1つ若しくはそれよりも多くのタイプのSi複合体粒子とすることができる。非Si複合体粒子は、Si複合体材料ではない、1つ又は複数の任意の適切なタイプの活性材料であってもよい。一部の実施形態では、アノード材料に含まれる非Si複合体粒子は、剥き出しのケイ素粒子である。
【0022】
任意の適切なSi複合体材料は、本明細書に記述されるアノード材料に含まれるSi複合体粒子に使用することができる。一部の実施形態では、Si複合体粒子は、炭素被覆Si粒子などのSi-炭素複合体材料である。一部の実施形態では、酸化ケイ素(SiO)が使用される。Si複合体は、ケイ素金属合金など、不活性金属又は非金属とのSiの合金であってもよい。本明細書に記述される実施形態で使用され得るSi複合体材料のその他の例には、グラフェン-ケイ素複合体、酸化グラフェン-ケイ素-カーボンナノチューブ、ケイ素-ポリピロール、並びにナノ及びミクロンサイズのケイ素粒子の複合体が含まれる。既に記述されたように、Si複合体材料の任意の組合せを、アノード材料で使用することができ、又は単一Si複合体材料のみを使用することができる。
【0023】
一部の実施形態では、アノード材料の全活性材料粒子含量(即ち、ケイ素粒子と黒鉛粒子との組合せ)は、一般に、アノード材料の約30重量%から約90重量%であり、例えば約50重量%から約80重量%である。ケイ素粒子は、アノード材料の約30重量%から約80重量%であってもよく、黒鉛粒子は、アノード材料の約10重量%から約60重量%であってもよい。一部の実施形態では、アノード材料中に存在する全ての活性材料粒子は、約1nmから約100μmの範囲のサイズを有してもよい。
【0024】
第1の結合剤がPANであり第2の結合剤がPVDFである実施形態では、PVDFと黒鉛粒子との間の弱いファンデルワールス力は、解離することができ、高度な可逆性を有することができ、それに対して、PAN中に存在する反応性官能基との水素結合及びイオン双極性型相互作用は、ケイ素系アノードの性能を改善する必要がある。したがって、アノードで使用される第1のポリマー及び第2のポリマーの量は一般に、アノード材料のケイ素及び黒鉛含量に依存する。
【0025】
アノード材料に含まれ得る追加の成分は、伝導性カーボンナノ粒子及び酸結合剤を含む。伝導性カーボンナノ粒子がアノード材料に含まれるとき、それらは約0.1重量%から約5重量%の範囲で存在し得る。任意の適切な伝導性ナノ粒子は、限定するものではないがVGCF、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブを含めて使用することができる。そのような伝導性カーボンナノ粒子の添加は、アノード材料の伝導度を高めることができる。アノード材料を作製するのに使用されるアノードスラリに含まれてもよい酸結合剤は、例えばシュウ酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、及び1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸を含んでもよい。酸結合剤は、分散及び接着特性を改善するのに使用することができる。アノード材料で使用されるとき、酸結合剤は、約0.01重量%から約2重量%の範囲で存在していてもよい。
【0026】
既に記述された活性材料粒子、第1及び第2のポリマー結合剤、伝導性カーボンナノ粒子、及び酸結合剤を超えて、本明細書に記述されたアノード材料は、アノード材料での使用に適した任意のその他の材料を含んでもよい。アノード材料に存在し得るその他の材料は、限定するものではないが硫黄、硬質炭素、黒鉛、スズ、及びゲルマニウム粒子を含む。アノード材料に存在するとき、これらの材料は、アノード複合体材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲で存在していてもよい。
【0027】
本明細書に記述されるアノード材料は、電気化学エネルギー貯蔵デバイス内に組み込むことができる。電気化学エネルギー貯蔵デバイスは一般に、本明細書に記述されるアノード材料、カソード、及び電解質を含む。一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、リチウム二次バッテリである。一部の実施形態では、二次バッテリは、リチウムバッテリ、リチウムイオンバッテリ、リチウム-硫黄バッテリ、リチウム-空気バッテリ、ナトリウムイオンバッテリ、又はマグネシウムバッテリである。一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、キャパシタなどの電気化学セルである。一部の実施形態では、キャパシタは非対称キャパシタ又はスーパーキャパシタである。一部の実施形態では、電気化学セルが一次セルである。一部の実施形態では、一次セルが、リチウム/MnOバッテリ又はLi/ポリ(一フッ化炭素)バッテリである。
【0028】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用のための適切なカソードは、リチウム金属酸化物、スピネル、オリビン、炭素被覆オリビン、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiMn0.3Co0.3Ni0.3、LiMn、LiFeO、LiNiCoMet、An’(XO、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウム炭素一フッ化物(LiCFとしても公知)、又はこれらのいずれか2種若しくはそれよりも多くの混合物などであるがこれらに限定されないものを含み、式中、Metは、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、又はCoであり;Aは、Li、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、又はZnであり;Bは、Ti、V、Cr、Fe、又はZrであり;Xは、P、S、Si、W、又はMoであり;式中、0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、及び0≦z≦0.5、及び0≦n≦0.3である。一部の実施形態によれば、スピネルは、式がLi1+xMn2-zMet’’’4-mX’であり、式中、Met’’’がAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、又はCoであり;X’がS又はFであり;且つ式中、0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である、スピネルマンガン酸化物である。他の実施形態では、オリビンは、式LiFePO又はLi1+xFe1zMet”PO4-mX’を有し、式中、Met”は、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、Mn、又はCoであり;X’は、S又はFであり;式中、0≦x≦0.3、0 0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である。
【0029】
一部の実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスの電解質成分は、非プロトン性有機溶媒系、金属塩、及び少なくとも1種の添加剤を含む。
【0030】
一部の実施形態では、電解質の非プロトン性有機溶媒系成分は、開鎖又は環化カーボネート、カルボン酸エステル、ニトリル、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、ホスフィン、モノ-若しくはポリホスファゼン、又はこれらの混合物であって、20重量%から90重量%の範囲にあるものから選択される。
【0031】
一部の実施形態では、電解質の金属塩成分は、10重量%から30重量%の範囲のリチウム塩である。例えばLi(AsF);Li(PF);Li(CFCO);Li(CCO);Li(CFSO);Li[N(CPSO];Li[C(CFSO];Li[N(SO];Li(ClO);Li(BF);Li(PO);Li[PF(C];Li[PF];リチウムアルキルフルオロホスフェート;Li[B(C];Li[BF];Li[B1212-j];Li[B1010-j’j’];又はこれらのいずれか2種若しくはそれよりも多くの混合物を含む様々なリチウム塩が使用されてもよく、式中、Zは、独立して出現するごとにハロゲンであり、jは0から12の整数であり、J’は1から10の整数である。
【0032】
一部の実施形態では、少なくとも1種の添加剤は、少なくとも1種の不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、又はこれらの混合物であって、0.1重量%から10重量%の範囲にあるものである。
【0033】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスが二次バッテリである一部の実施形態では、二次バッテリは、正極及び負極を分離するセパレータをさらに含んでもよい。リチウムバッテリ用のセパレータはしばしば、微孔質ポリマーフィルムである。フィルムを形成するためのポリマーの例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブテン、又は2種若しくはそれよりも多くのそのようなポリマーのコポリマー若しくはブレンドが含まれる。ある場合には、セパレータは、電子ビームで処理された微孔質ポリオレフィンセパレータである。電子処理は、セパレータの変形温度を上昇させることができ、したがって高温での熱安定性を高めることができる。さらに、又は代替として、セパレータは遮断セパレータとすることができる。遮断セパレータは、約130℃までの温度で電気化学セルを動作可能にするように、約130℃よりも高いトリガー温度を有してもよい。
【0034】
図1を参照すると、本明細書に記述されるアノード材料を調製するための方法100の実施形態を示す流れ図は、混合物を形成するため、活性材料粒子、加熱されたときに環化反応を受ける第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤を一緒に混合するステップ110と、溶媒を混合物に添加し、混合物を銅集電子上に被覆するステップ120と、溶媒をコーティングから除去し、被覆された集電子を熱処理に供するステップ130とを含む。
【0035】
ステップ110によれば、活性材料粒子、第1のポリマー結合剤、及び第2のポリマー結合剤は一緒に混合されて、混合物を形成する。これらの材料を一緒に混合する任意の手法を使用することができるが、一部の実施形態では、機械的混合が使用される。例えば成分は、低いrpmで固形分をボールミリングすることにより、一緒に混合することができる。典型的には、ポリマー結合剤は溶媒と混合され、その後、固形分をスラリに添加し、高剪断混合を使用して分散させる。
【0036】
ステップ120では、溶媒は、活性材料粒子を分散させるために混合物に添加される。任意の適切な溶媒を、任意の適切な量で使用することができる。一部の実施形態では、溶媒は無水NMPである。その他の適切な溶媒には、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、及びプロピレンカーボネート(PC)が含まれるがこれらに限定されない。溶媒は、ケイ素複合体粒子及びポリマー結合剤の混合物と、任意の適切な長さの時間にわたり、例えば約12時間、混合することができる。溶媒混合は、高剪断遠心混合を使用して又は撹拌棒をガラスバイアル内で使用して、行うことができる。
【0037】
ステップ120は、スラリ混合物を集電子上に被覆することをさらに含む。集電子の材料は、銅などの任意の適切な集電子材料とすることができる。被覆ステップは、任意の適切な技法及び装置、例えばベンチトップドクターブレードコータを使用して実施することができる。
【0038】
ステップ130では、溶媒を、集電子上に被覆された材料から除去し、次いで被覆された集電子を熱処理に供する。このステップは、2つの別々の動作として記述されるが、一部の実施形態では、熱処理ステップの部分として溶媒をコーティングから除去することが可能であり得る。溶媒が最初に除去されるとき、溶媒は、後続の熱処理ステップで使用される温度よりも概して低い温度であるがコーティングから溶媒を除去するのに必要な温度よりも高い温度で、コーティングを加熱することによって除去することができる。例えば一部の実施形態では、溶媒は、溶媒を蒸発させるように、被覆された集電子を最初に約60℃の温度に供することによって(対流炉内など)、コーティングから除去される。
【0039】
溶媒除去の後、ステップ130は、被覆された集電子を熱処理に供した状態で継続する。熱処理は、被覆された集電子を不活性雰囲気中で、約200℃から約600℃の範囲の温度に、例えば約330℃の不活性アルゴンガス雰囲気中で加熱することを含んでもよい。温度は、約240℃から約400℃の範囲にあってもよい。第1の又は第2のポリマー結合剤がPANである実施形態では、熱処理ステップは、PAN成分を環化することを目標とし得る。PANの環化は、PAN分子の架橋に起因してニトリル結合(C≡N)が二重結合(C=N)に変換されたときのプロセスである。このプロセスは、弾性であるが機械的に堅牢なPAN繊維のラダーポリマー鎖をもたらし、したがってケイ素粒子の制御された断片化が可能にする。
【0040】
前述から、本発明の特定の実施形態は例示を目的として本明細書に記述されてきているが、本開示の範囲から逸脱することなく様々な修正を行ってもよいことが理解されよう。本開示を、以下の特定の実施例を参照しながらさらに例示する。これらの実施例は、例示として与えられ、本開示又は以下に続く特許請求の範囲を限定することを意味するものではないことが理解される。
【実施例
【0041】
実施例1
ケイ素複合体材料を、150,000MW(150K)PAN及びPVDFポリマー結合剤と、低rpmで固形分をボールミリングすることによって混合した。無水NMPを溶媒として使用して、伝導性炭素添加剤C65を、遠心混合を使用して分散させ、その後、ケイ素/PAN固体混合物を分散体に添加した。スラリを一晩混合し、ベンチトップドクターブレードコータを使用して、スラリを銅集電子上でスラリ化して、>3mg/cm固体負荷を持つ電極を得た。電極を60℃で乾燥して、NMP溶媒を除去した。次いで図2に示される単一PVDF結合剤を含有する比較例の電極を除いて、PAN結合剤を含有する全てのその他の電極を、不活性アルゴン雰囲気中、330℃で熱処理した。熱処理プロセス中、PAN結合剤は、環化プロセスを受けて、懸濁したニトリル(三重結合)を共役ニトリル基に変換する。機械的一体性及び伝導度の両方を提供する際の環化PAN結合剤の有効性を示すため、フルパウチセルを、NMC811カソード(4mAh/cm)に対して試験した。表1は、表1に示されるアノード組成物に関するフルセルデータを比較する。2種のポリマー結合剤(PAN及びPVDF)の組合せは、唯一の単独結合剤としてPAN又はPVDFのいずれかを含有するアノードと比較して、より良好な性能を提供する。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例2
ケイ素複合体材料を、150,000MW(150K)PANポリマー結合剤と、低rpmで固形分をボールミリングすることによって混合した。無水NMPを溶媒として使用して、PVDFを、遠心混合を使用して分散させ、その後、ケイ素/PAN固体混合物を分散体に添加した。スラリを一晩混合し、ベンチトップドクターブレードコータを使用して、スラリを銅集電子上でスラリ化して、>3.5mg/cm固体負荷を持つ電極を得た。電極を60℃で乾燥して、NMP溶媒を除去した。次いで電極を、330℃の不活性アルゴン雰囲気中で熱処理した。
【0044】
したがって、ロールツーロールアノード被覆プロセスを介して、本発明者らはケイ素材料の表面化学を設計製作することができる。環化PANポリマー結合剤で推進されるコーティングは、その機械的強度、導電率、及び化学的安定性をケイ素に与え、主な難題に対処する。
【0045】
様々な実施形態が示され且つ本明細書に詳細に記述されてきたが、本開示の趣旨から逸脱することなく様々な修正、付加、置換などを行うことができ、したがってこれらは、以下に続く特許請求の範囲で定義される本開示の範囲内にあると見なされることが、関連ある当業者に明らかにされよう。

図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
【国際調査報告】