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  • 特表-電気分解による鉄金属製造装置 図1A
  • 特表-電気分解による鉄金属製造装置 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電気分解による鉄金属製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/00 20060101AFI20241219BHJP
   C25C 1/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C25C1/00 302A
C25C1/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535827
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 IB2021061736
(87)【国際公開番号】W WO2023111639
(87)【国際公開日】2023-06-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラブレーヌ・ドュ・モブージュ,エルベ
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA14
4K058BA18
4K058BB04
4K058CA07
4K058CA25
4K058EB02
4K058FA02
4K058FA03
4K058FA24
4K058FC02
(57)【要約】
電気分解反応による鉄鉱石の還元を通して鉄金属の製造のための装置(1)であって、装置は、ケーシング(4)の一端に位置されたポンプ装置(22)ならびに電解液チャンバ(6)に位置された少なくとも第1(31A)の逆止バルブおよびガス回収部(8)に位置された第2(31B)の逆止バルブを含む電解液循環装置(30)を備え、前記電解液循環装置(30)は、アクチュエータ(28)によって作動されると、電解液チャンバ(6)から電解液(5)を吸引するか、または電解液(5)をガス回収部(8)に引き戻すように設計されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気分解反応による鉄鉱石の還元を通して鉄金属の製造のための装置(1)であって、前記電気分解反応がガスを生成し、装置はケーシング(4)を備え、ケーシング(4)は、ガス透過性アノードプレート(2)と、カソードプレート(3)とを含み、これら双方が互いに対向し、かつ電解液チャンバ(6)によって分離されており、
前記ケーシング(4)には、チャンバ(6)内へ電解液(5)を供給するための手段と、前記チャンバ(6)へ鉄鉱石を供給するための手段とが設けられており、
ケーシング(4)は脱気ユニットをさらに含み、脱気ユニットは、チャンバ(6)とはアノードプレート(2)の反対側(23)に沿って延在するガス回収部(8)と、ガス回収部(8)からガス出口(10)まで連続的に延在し、チャンバ(6)と流体接続している電解液再循環部(9)とを備えており、
装置は、ケーシング(4)の一端に位置されたポンプ装置(22)と、少なくとも電解液チャンバ(6)に位置された第1(31A)の逆止バルブと、ガス回収部(8)に位置された第2(31B)の逆止バルブと、を含む電解液循環装置(30)をさらに備え、前記電解液循環装置(30)は、アクチュエータ(28)によって作動されると、電解液チャンバ(6)から電解液(5)を吸引するか、または電解液(5)をガス回収部(8)に引き戻すように設計されている、
装置。
【請求項2】
ポンプ装置(22)は、電解液(5)供給手段とは反対側のケーシング(4)の端部に位置される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ポンプ装置(22)は、ケーシング(4)の外側に位置されるが、ケーシング(4)と流体接続している、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
ポンプ装置(22)は、ケーシング(4)の内側に部分的に位置される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
逆止バルブ(31A、31B)は、電気絶縁材料からなる弾性膜である、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記弾性膜はエチレンプロピレンジエンモノマーからなる、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
逆止バルブ(31A、31B)は、電気絶縁材料からなる機械バルブである、請求項1~4に記載の装置。
【請求項8】
アクチュエータ(28)は油圧アクチュエータである、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
再生可能エネルギによって電力供給される、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解プロセスによって酸化鉄から鉄金属を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、鋼は、2つの主要な製造経路を通じて工業規模で製造されることができる。今日、最も一般的に使用されている製造経路は、酸化鉄を還元するために、還元剤、主にコークスを使用することによって、高炉で銑鉄を製造することにある。この方法では、銑鉄1メートルトン当たり約450から600kgのコークスが消費され、この方法は、コークス化プラントにおける石炭からのコークスの製造および銑鉄の製造の両方において、かなりの量のCOを放出する。
【0003】
第2の主要経路は、いわゆる「直接還元法」を含む。それらの中には、ブランドMIDREX、FINMET、ENERGIRON/HYL、COREX、FINEXなどによる方法があり、酸化鉄担体の直接還元により、スポンジ鉄がHDRI(高温直接還元鉄)、CDRI(低温直接還元鉄)、またはHBI(高温ブリケット化鉄)の形態で製造される。HDRI、CDRI、およびHBIの形態のスポンジ鉄は、通常、電気アーク炉でさらに処理される。この第2の経路が前のものよりも少ないCO2を放出するとしても、依然としていくらかを放出し、さらに炭素化石燃料に依存する。
【0004】
したがって、現在の開発は、COをより少なくまたは全く放出せず、カーボンニュートラルである鉄を製造することを可能にする方法に焦点を当てている。
【0005】
酸化鉄からなる鉄鉱石から鋼を製造する既知の代替方法は、電気化学技術に基づいている。そのような技術では、電流源に接続された2つの電極(アノードおよびカソード)、電解液回路、および電気分解ユニットに入る酸化鉄を備える電気分解ユニットを使用して、酸化鉄から鉄が生成される。アノードおよびカソードは、前記電極間の良好な電気伝導を確実にするために循環電解液に常に浸漬される。電解反応は、カソード上に純鉄プレートおよびアノードに気体酸素を生成する。このようにして取得された鉄プレートは、次いで、電気炉内で炭素源およびスクラップなどの他の元素と溶融され鋼を製造し得る。
【0006】
プロセスの環境フットプリントを制限するために、電解液をセル内で再循環させて新鮮な電解液の必要性を制限する。そのために、電解セルの電解液入口と出口との間に外部ポンプが現在使用されている。これらのポンプはエネルギを消費し、熱損失を誘発し、これによりプロセスは非常にエネルギを消費し、高い生産速度でのアップスケーリングを困難にする高い運転コストを伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、改善されたエネルギ効率を伴う電気化学的鉄製造システムを提供することによって、従来技術の欠点を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、電気分解反応による鉄鉱石の還元を通して鉄金属の製造のための装置に関し、この装置は、ガス透過性アノードプレートと、カソードプレートとを含み、これら双方が互いに対向し、電解液(電解質)チャンバによって分離されているケーシングを備え、ケーシングには、チャンバ内へ電解液を供給するための手段と、前記チャンバへ鉄鉱石を供給するための手段とが設けられており、ケーシングは脱気ユニットをさらに含み、脱気ユニットは、チャンバとはアノードプレートの反対側に沿って延在するガス回収部と、ガス回収部からガス出口まで連続的に延在し、チャンバと流体接続している電解液再循環部とを備えており、装置は、ケーシングの一端に位置されたポンプ装置と、少なくとも電解液チャンバに位置された第1の逆止装置と、ガス回収部に位置された第2の逆止装置と、を含む電解液循環装置をさらに備え、前記電解液循環装置は、アクチュエータによって作動されると、電解液チャンバから電解液を吸引するか、または電解液をガス回収部に引き戻すように設計されている。
【0009】
装置はまた、技術の個々にまたはすべての可能な組み合わせにより考慮される以下の任意選択の特性を含んでもよい、すなわち、
-ポンプ装置は、電解液供給手段とは反対側のケーシングの端部に位置され、
-ポンプ装置は、ケーシングの外側に位置されるが、ケーシングと流体接続しており、
-ポンプ装置は、ケーシングの内側に部分的に位置され、
-逆止装置は、電気絶縁材料からなる弾性膜であり、
-弾性膜はエチレンプロピレンジエンモノマーからなり、
-逆止装置は、電気絶縁材料からなる機械バルブであり、
-アクチュエータは、油圧アクチュエータであり、
-装置は、再生可能エネルギによって電力供給される。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明において、示唆として、決して限定するものではなく、添付の図面を参照することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】電解液循環装置が吸引モードにある、本発明による装置の長手方向断面図である。
図1B】電解液循環装置が引き戻しモードにある、本発明による装置の長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、図において、同じ参照符号は、それらが特徴とする図に関係なく、またこれらの要素の形状に関係なく、同じ要素を示すことに留意されたい。同様に、要素が図の1つで具体的に参照されない場合、それらの参照は、別の図を参照することによって容易に見出され得る。
【0013】
図は、本発明の目的の主に1つの実施形態を表すが、本発明の定義に対応する他の実施形態が存在してもよいことにも留意されたい。図中の要素は例示であり、縮尺通りに描かれていない場合がある。
【0014】
本発明は、電気分解反応による、特にヘマタイト(Fe)および他の酸化鉄または水酸化物を含有する、鉄鉱石の還元を通して鉄金属(Fe)の製造のために提供される装置1に言及する。前記化学反応は周知であり、以下の式(1)によって記述され得る。
【数1】
【0015】
したがって、電気分解反応によってガス-主に酸素-が放出され、それが装置1から抽出されなければならないと考えられる。
【0016】
図1Aおよび図1Bを参照すると、装置1または電解セルは、電気分解反応が起こる長手方向軸線Xに沿って延在するケーシング4を備える。前記ケーシング4は、ベースプレート16、カバープレート17、および2枚の側面プレート24によって画定される。加えて、ケーシングは、電解液(電解質)5に完全に浸漬されるように意図されたガス透過性アノードプレート2と、カソードプレート3とを含み、両方のプレートは互いに対向し、締結手段(図示せず)を用いて必要な距離に保たれる。ケーシング4はまた、アノードプレート2とカソードプレート3との間で排気チャンバ27まで長手方向に延在する電解液チャンバ6を含む。装置1は、最終的に、アノードプレート2およびカソードプレート3に接続された電源(図示せず)を備える。
【0017】
電気分解反応を通して鉄金属を生成するために、電解液5、好ましくは、水酸化ナトリウム水溶液のような水性溶液は、装置1が動作している間に電解液チャンバ6内のケーシング4を通って流れる。したがって、装置1は、電解液チャンバ6に流体接続されたケーシング4で管理された入口18を備える。鉄鉱石は、入口18を通して電解液5内の粉末懸濁物として装置1中に優先的に供給される。
【0018】
電気分解反応中、酸化鉄は反応(1)により鉄金属に還元され、還元鉄はカソードプレート3上に堆積され、一方。ガス状酸素が生成される。上述のように、ガスはケーシング4の内部で生成される。これらのガスは電気絶縁体であるため、電気分解反応の良好な作用を妨げ、したがってケーシング4の外側へ連続的に排気される。
【0019】
この目的のために、ケーシング4は脱気ユニット7を含み、脱気ユニット7は、電解液チャンバ6とはアノードプレート2の反対側23に沿って長手方向に延在するガス回収部8を備えている。このガス回収部8は、電解液5が充填されるように設けられ、アノードプレート2とカバープレート17との間に配置される区画である。したがって、前記ガス回収部8は、アノードプレート2を通って漏出するガス(二酸素および二水素)を回収するために設けられている。
【0020】
図1Aおよび図1Bに図示されるように、脱気ユニット7はまた、電解液再循環部9を備え、電解液再循環部9は、ケーシング4で管理されるガス出口10までガス回収部8と連続して延在する電解液再循環部9を備える。電解液再循環部9は、少なくとも一部が電解液5で満たされるように設けられている。加えて、前記再循環部9は、電解液チャンバ6と流体接続している。装置1が動作しているとき、再循環部9は、ガス回収部8から流れる電解液5が、アノードプレート2に隣接し、電解液チャンバ6に流体接続された電解液再循環部9のエルボダクト25を介して優先的に電解液チャンバ6に向かって方向転換させることを可能にする。この電解液再循環部9は気液仕切手段(図示せず)を備え、気液仕切手段は、優先的には、ガス出口10を通って排気されるガスと電解液チャンバ6内で再循環される電解液との間の分離を改善することを可能にする。この気液仕切手段は、例えば、気液分離のための穿孔を備える、再循環部9に沿って延在する固体プレートであってもよい。
【0021】
本発明による装置1では、ケーシング4は電解液再循環装置30をさらに備え、電解液再循環装置30は、その端部の一方に位置されたポンプ装置22および少なくとも2つの逆止バルブ31A、31Bを含む。端部の位置は、圧送のための装置の全幅を利用することができ、したがって再循環の効率を高める。これは、図1Aおよび図1Bに図示されるように、ケーシング4の外側(図示せず)に、または少なくとも部分的に内側に位置されることができる。これは、好ましくは、電解液入口21とは反対側の、セルの底部27に位置される。このポンプ装置22は、空気圧式膜ポンプであってもよい。これはアクチュエータ24によって作動され、前記アクチュエータは空気圧シリンダまたは油圧アクチュエータであってもよい。
【0022】
当業者は、電解液の良好な再循環を保証するために、電気分解セルのサイズにより、ポンプ装置をどのようにサイズ設定し、どの流量および周波数の圧送が必要とされるかを知っている。
【0023】
ポンプ装置22は、少なくとも2つの逆止弁31A、31Bと関連付けられ、第1の逆止弁31Aは電解液チャンバ6に位置され、第2の逆止弁31Bはガス回収部8に位置されている。これらの逆止流装置31A、31Bは、弾性膜または機械的バルブであってもよい。それらは電気絶縁材料で作られている。それらが膜の場合には、それらはエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)から作られてもよい。それらはまた、それらの異なるタイプの装置の組み合わせであってもよい。
【0024】
次に、電気分解反応中の装置1の動作について説明する。
【0025】
電解液5は、ポンプ装置22および逆止弁31A、31Bのおかげで、入口18から電解液チャンバ6を通って排気チャンバ27に向かって、回路内を連続的に循環している。アノードプレート2およびカソードプレート3の両方に接続された電源がオンにされ、電解液チャンバ6には、装置1に鉄鉱石を供給する手段21から来る鉄鉱石が定期的に供給される。ケーシング4は、図1Aおよび図1Bに図示されるように、電解液5でほぼ満たされており、ガス出口10のみには電解液が存在しない。これらの条件では、電気分解反応が起こり得る。
【0026】
鉄鉱石が還元され、純鉄がカソード表面3に堆積される一方、発生された酸素は電解液と共に、アノードプレート2を通って脱気ユニット7のガス回収部8に向かって流れる。
【0027】
ガス回収部8から電解液再循環部9に向かって、そして最後にガス出口10に向かってガスが循環することを可能にするために、長手方向軸線Xは、好適には40°~60°の間の範囲にある角度、好適には50°で水平方向に対して傾斜されている。したがって、ガス出口10は、ガス排気を可能にするためにケーシング4の最も高い位置にある。
【0028】
移動するガスは、ガス回収部8を通って循環しながら、電解液5を前記回収部8から再循環部9へと送り出す。ガスはガス出口10に向かって連続的に流れ、電解液5は重力によって電解液チャンバ6へ送られ、回路20内で再循環する。しかしながら、ガスを用いたこの循環は、電解液5の良好な再循環を保証するのに十分ではない。したがって、ポンプ装置は、装置内の電解液を連続的に吸引し、かつ引き戻す。
【0029】
図1Aに示される吸引モードでは、電解液チャンバ6に位置された第1の逆止弁31Aは開かれ、ガス回収部8に位置された第2の逆止弁31Bは閉じられる。ポンプ装置22は、アクチュエータ28によって作動され、電解液チャンバ6から電解液5を吸引する。
【0030】
図1Bに示される引き戻しモードでは、電解液チャンバ6に配置された第1の逆止弁31Aは閉じられ、ガス回収部8に配置された第2の逆止弁31Bは開いている。ポンプ装置22は、アクチュエータ28によって作動され、電解液5をガス回収部8に引き戻す。一好ましい実施形態では、ポンプ装置22がセルの底部に配置されているとき、引き戻された流れは、アノード2を通って逃げるガスの浮力によって生成された流れと付加的に重なる。
【0031】
次いで、カソードレベルでガス蓄積を引き起こすことなく、電解液チャンバ6内で電解液5を再循環させることが可能である。これにより、装置1内に新しい電解液流を定期的に注入する必要がなくなる。
【0032】
前述のすべての実施形態において、装置は、太陽光、風、雨、潮汐、波、および地熱などの供給源を含む、人間のタイムスケールで自然に補充される、再生可能資源から収集されるエネルギとして定義される再生可能エネルギによって優先的に電力供給される。いくつかの実施形態では、製造されるCO2を放出しないため、原子力発電の使用が利用されることができる。これは、鉄製造プロセスのCO2フットプリントをさらに制限する。
図1A
図1B
【国際調査報告】