(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子に用いるフッ化カチオン性脂質
(51)【国際特許分類】
C07C 229/12 20060101AFI20241219BHJP
C07C 237/06 20060101ALI20241219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241219BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241219BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241219BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C07C229/12 CSP
C07C237/06
A61K45/00
A61K9/51
A61K9/14
A61K47/18
A61K47/44
A61K47/28
A61K47/24
A61K31/7088
A61K48/00
A61K31/7105
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535951
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022081704
(87)【国際公開番号】W WO2023114937
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516386834
【氏名又は名称】アクイタス セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Acuitas Therapeutics Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ガテニョ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジェイソン サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】アーンズ,スティーブ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA01
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA16
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA61
4C076AA65
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB02
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB29
4C076BB30
4C076BB31
4C076CC26
4C076DD50
4C076DD52
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076EE51
4C076FF63
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA31
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA38
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA57
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA03
4C084NA13
4C084ZB21
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA38
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA57
4C086MA59
4C086MA60
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA03
4C086NA13
4C086ZB21
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006BM10
4H006BM71
4H006BT12
4H006BU32
4H006BV22
(57)【要約】
下記構造:
(I)
を有する化合物またはその薬学的に許容可能な塩、互変異性体若しくは立体異性体が提供される[式中、R
3、L
1、L
2、G
1、G
2及びG
3は本明細書で定義される通りである]。治療剤送達のために、前記化合物を脂質ナノ粒子製剤の成分として使用すること、前記化合物を含む組成物、並びにそれらの使用方法及び調製方法もまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造(I):
【化1】
(I)
を有する化合物またはその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体
[式中、
L
1は-O(C=O)R
1a、-(C=O)OR
1a、-C(=O)R
1a、-OR
1a、-S(O)
xR
1a、-S-SR
1a、-C(=O)SR
1a、-SC(=O)R
1a、-NR
aC(=O)R
1a、-C(=O)NR
aR
1a、-NR
aC(=O)NR
aR
1a、-OC(=O)NR
aR
1a、-NR
aC(=O)OR
1aまたはR
1bであり;
L
2は-O(C=O)R
2a、-(C=O)OR
2a、-C(=O)R
2a、-OR
2a、-S(O)
xR
2a、-S-SR
2a、-C(=O)SR
2a、-SC(=O)R
2a、-NR
aC(=O)R
2a、-C(=O)NR
aR
2a、-NR
aC(=O)NR
aR
2a、-OC(=O)NR
aR
2a、-NR
aC(=O)OR
2a、またはR
2bであり;
G
1及びG
2はそれぞれ独立して、直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12アルキレンまたは直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;
G
3は直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12アルキレンまたは直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;
R
aはそれぞれ独立して、HまたはC
1~C
12アルキルであり;
R
1a及びR
2aはそれぞれ独立して、分岐鎖C
6~C
24アルキル、分岐鎖C
6~C
24アルケニル、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルキル、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルケニル、C
6~C
24アルキルアセタール、またはC
6~C
24フルオロアルキルアセタールであり;
R
1b及びR
2bはそれぞれ独立して、-CH(OR)(OR)であってここで、Rはそれぞれ独立して、直鎖または分岐鎖C
6~C
18アルキル、直鎖または分岐鎖C
6~C
18アルケニル、直鎖または分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキル、または直鎖若しくは分岐鎖C
6~C
18フルオロアルケニルであり;
R
3はH、-OR
5、-CN、-C(=O)OR
4、-OC(=O)R
4、-N(R
5)N
4、-C(=O)N(R
4)R
5、または-NR
5C(=O)R
4であり;及び
R
4はH、C
1~C
12アルキル、またはアリールであり、R
5はHまたはC
1~C
6アルキルであり;あるいは、R
4及びR
5は、それらが結合している窒素原子と一緒になって5、6または7員複素環を形成し、及び
ここで、G
1及びG
2のうち少なくとも1つは直鎖または分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;G
3は直鎖または分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;R
1a及びR
2aのうち少なくとも1つは存在し、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルキル、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルケニル、及びC
6~C
24フルオロアルキルアセタールから選択され;及び/またはR
1b及びR
2bのうち少なくとも1つは存在し、直鎖または分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキル及び直鎖または分岐鎖C
6~C
18フルオロアルケニルから選択される]。
【請求項2】
下記構造(IA):
【化2】
(IA)
を有する請求項1に記載の化合物
[式中、
R
6は、出現ごとに、独立してH、F、OH、またはC
1~C
24アルキルであり;及び
nは1~15の整数である]。
【請求項3】
下記構造(IB):
【化3】
(IB)
を有する請求項2に記載の化合物
[式中、
y及びzはそれぞれ独立して、1~12の整数であり;及び
R
7は、出現ごとに、独立してHまたはFである]。
【請求項4】
L
1が-O(C=O)R
1aまたは-(C=O)OR
1aであり、L
2が-O(C=O)R
2aまたは-(C=O)OR
2aである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
下記構造(IC)または(ID):
【化4】
の1つを有する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
下記構造(IE)または(IF):
【化5】
の1つを有する、請求項2~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
nが2~12の整数である、請求項2~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
nが2、3、4、または5である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
y及びzがそれぞれ独立して、2~10の整数である、請求項3~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
y及びzがそれぞれ独立して、4~9の整数である、請求項3~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
R
6がHである、請求項2~10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
L
1が-NR
aC(=O)R
1aまたは-C(=O)NR
aR
1aであり、L
2が-NR
aC(=O)R
2aまたは-C(=O)NR
aR
2aである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
R
aがそれぞれC
1~C
12アルキルである、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
R
1a及びR
2aがそれぞれ独立して、下記構造:
【化6】
を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物
[式中、
R
8a及びR
8bは、出現ごとに、独立してH、F、C
2~C
16アルキル、またはC
2~C
16フルオロアルキルであり;
aは1~16の整数であり;及び
R
8a、R
8b及びaはそれぞれ、R
1及びR
2がそれぞれ独立して、分岐鎖C
6~C
18アルキルまたは分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキルを含むように選択される]。
【請求項15】
R
8aの出現のうち少なくとも1つがHである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
R
8aが出現ごとにHである、請求項14~15のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
R
8aまたはR
8bの出現のうち、少なくとも1つがFである、請求項14~16のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項18】
R
8aが出現ごとにFである、請求項14~17のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項19】
R
1a、R
2a、またはその両方が分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキルである、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物
【請求項20】
R
1a、R
2a、またはその両方が分岐鎖C
10~C
18フルオロアルキルである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
R
1a若しくはR
2a、またはその両方が下記構造:
【化7】
の1つを有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項22】
R
1a及びR
2aのうち少なくとも1つが、C
6~C
24アルキルアセタールまたはC
6~C
24フルオロアルキルアセタールである、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項23】
R
1a及びR
2aのうち少なくとも1つが、下記構造:
【化8】
を有する、請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
L
1及びL
2のうち少なくとも1つが、それぞれR
1bまたはR
2bである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項25】
R
1b若しくはR
2b、またはその両方が、下記構造:
【化9】
を有する、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
R
3がOHである、請求項1~25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項27】
R
3がCNである、請求項1~25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項28】
R
3が-C(=O)OR
4、-OC(=O)R
4、または-NHC(=O)R
4である、請求項1~25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項29】
R
4がメチルまたはエチルである、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
R
3が-C(=O)OR
4、-C(=O)N(R
4)R
5、または-NR
5C(=O)R
4である、請求項1~29のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項31】
R
3が下記構造:
【化10】
の1つを有する、請求項30に記載の化合物。
【請求項32】
下記構造(IG)または(IH):
【化11】
の1つを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の化合物
[式中、
R
11及びR
12はそれぞれ独立して、C
1~C
12アルキルである;あるいはR
11及びR
12は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、窒素原子を1つ含む、5、6または7員複素環を形成する]。
【請求項33】
a)R
11及びR
12のうち少なくとも1つがメチルである;
b)R
11及びR
12のうち少なくとも1つがエチルである;
c)R
11及びR
12が前記窒素原子と一緒になり、ピロリジンを形成する;
d)R
11及びR
12が前記窒素原子と一緒になり、ピペリジンを形成する;あるいは
e)R
11及びR
12が前記窒素原子と一緒になり、アゼパンを形成する
請求項32に記載の化合物。
【請求項34】
G
1が直鎖C
1~C
12フルオロアルキレンである、請求項1~33のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項35】
G
2が直鎖C
1~C
12フルオロアルキレンである、請求項1~33のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項36】
R
1aが分岐鎖C
6~C
24フルオロアルキルである、請求項1~33のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項37】
R
2aが分岐鎖C
6~C
24フルオロアルキルである、請求項1~33のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項38】
少なくとも2つのフッ素原子を有する、請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項39】
少なくとも3つのフッ素原子を有する、請求項1~38のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項40】
少なくとも1つのペルフルオロ置換基を有する、請求項1~39のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項41】
ペルフルオロ化合物である、請求項1~40のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項42】
表1に記載の化合物から選択される化合物。
【請求項43】
請求項1~42のいずれか一項に記載の化合物と治療剤とを含む脂質ナノ粒子。
【請求項44】
請求項1~42のいずれか一項に記載の化合物と治療剤とを含む組成物。
【請求項45】
中性脂質、ステロイド及びポリマーコンジュゲート脂質から選択される1つ以上の賦形剤を更に含む、請求項43または44のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項46】
前記組成物がDSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPE、及びSMから選択される1つ以上の中性脂質を含む、請求項45に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項47】
前記中性脂質がDSPCである、請求項46に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項48】
前記化合物と前記中性脂質とのモル比が約2:1~約8:1の範囲である、請求項44~47のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項49】
ステロイドがコレステロールである、請求項44~48のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項50】
前記化合物とコレステロールとのモル比が5:1~1:1または2:1~1:1の範囲である、請求項49に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項51】
ポリマーコンジュゲート脂質がペグ化脂質である、請求項44~50のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項52】
前記化合物とペグ化脂質とのモル比が約100:1~約20:1または100:1~10:1の範囲である、請求項51に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項53】
前記ペグ化脂質がPEG-DAG、PEG-PE、PEG-S-DAG、PEG-cer、またはPEGジアルキオキシプロピルカルバメート(dialkyoxypropylcarbamate)である、請求項51または52のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項54】
前記ペグ化脂質が下記構造(II):
【化12】
(II)
を有する、またはその薬学的に許容可能な塩、互変異性体、若しくは立体異性体である、請求項51または52のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物
[式中、
R
9及びR
10はそれぞれ独立して、10~30個の炭素原子を含む、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和アルキル鎖であって、ここで前記アルキル鎖は、1つ以上のエステル結合によって任意選択で分断され;及び
wは30~60の平均値を有する]。
【請求項55】
R
9及びR
10がそれぞれ独立して、12~16個の炭素原子を含む、直鎖の飽和アルキル鎖である、請求項54に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項56】
wの平均が約49である請求項54または55のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項57】
前記治療剤が核酸を含む、請求項44~56のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項58】
前記核酸がアンチセンスRNA及びメッセンジャーRNAから選択される、請求項57に記載の脂質ナノ粒子または組成物。
【請求項59】
投薬を必要とする患者に治療剤を投与する方法であって、請求項43~57のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子または組成物を調製または提供すること、及び前記組成物を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項60】
請求項43に記載の脂質ナノ粒子及び薬学的に許容可能な希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、in vitroとin vivoの両方において、核酸医薬(例えばオリゴヌクレオチド、メッセンジャーRNA)の細胞内送達を促す、オリゴヌクレオチドを伴う脂質ナノ粒子を形成するために、中性脂質、コレステロール、及びポリマーコンジュゲート脂質などの他の脂質成分と組み合わせて使用され得る新規のフッ化カチオン性脂質に関する。
【背景技術】
【0002】
生体系において所望の応答を生じさせる核酸送達に関連した多くの課題が存在する。核酸を基とする治療薬は大きな可能性を有するが、この可能性を実現するためには、細胞または生物内の適切な場所に、より効率よく核酸を送達する必要性が依然としてある。治療用核酸として例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、デオキシリボザイム、プラスミド、免疫刺激性核酸、アンタゴミル(antagomir)、アンチミル(antimir)、模倣体、スーパーミル(supermir)、及びアプタマーが挙げられる。mRNAまたはプラスミドのような幾つかの核酸は、例えば、タンパク質または酵素の欠乏に関連する疾患の治療に有用となるような、特定の細胞産物の発現を生じさせるのに使用され得る。その系に常在であるかどうかに関わらず、任意の選択されたタンパク質配列を生成するためにコンストラクトは合成され得るので、翻訳可能なヌクレオチド送達の治療上の用途は極めて幅広い。核酸の発現産物は、細胞または生物内において、タンパク質の既存レベルを増大させ得、欠損した若しくは非機能的バージョンのタンパク質を置き換え得、あるいは新たなタンパク質及び関連する機能性を導入し得る。
【0003】
miRNA阻害剤などの幾つかの核酸は、例えば、タンパク質または酵素の欠乏に関連する疾患の治療に有用となるような、miRNAによって制御される特定の細胞産物の発現を生じさせるために使用され得る。1つ以上のmiRNAを阻害するためにコンストラクトが合成され得、これがひいてはmRNA産物の発現を制御することになるので、miRNA阻害の治療上の用途は極めて幅広い。内因性miRNAの阻害は、特定のmiRNAまたはmiRNAの一群に関連する疾患を治療するための手段として、細胞または生物内において、その下流の標的内因性タンパク質の発現を増大させ得、適切な機能を回復させ得る。
【0004】
他の核酸は、特定のmRNAの細胞内レベルをダウンレギュレーションし得、その結果、RNA干渉(RNAi)またはアンチセンスRNAの相補結合などのプロセスを介して、対応するタンパク質の合成をダウンレギュレーションし得る。オリゴヌクレオチドコンストラクトが標的mRNAに向けられた任意のヌクレオチド配列を用いて合成され得るので、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びRNAiの治療上の用途もまた極めて幅広い。標的には、正常細胞由来のmRNA、がんなどの疾患状態に関連するmRNA、及びウイルスなどの感染物質のmRNAを含み得る。今日までに、アンチセンスオリゴヌクレオチドコンストラクトは、in vitro及びin vivoの両モデルにおいて、同族mRNAの分解を介して標的タンパク質を特異的にダウンレギュレーションする能力を示している。加えて、アンチセンスオリゴヌクレオチドコンストラクトは、臨床研究において現在評価されている。
【0005】
しかし、治療状況におけるオリゴヌクレオチドの使用は、現在2つの課題に直面している。第一に、遊離RNAは血漿中のヌクレアーゼ消化の影響を受けやすい。第二に、遊離RNAは関連する翻訳機構が存在する細胞内区画にアクセスする能力が限られている。中性脂質、コレステロール、PEG、ペグ化脂質などの他の脂質成分を有するカチオン性脂質及びオリゴヌクレオチドから形成された脂質ナノ粒子は、血漿中におけるRNAの分解を遮断し、オリゴヌクレオチドの細胞取り込みを促進するために使用されてきた。
【0006】
オリゴヌクレオチド送達のための改善されたカチオン性脂質及び脂質ナノ粒子の必要性が依然として存在する。好ましくは、これらの脂質ナノ粒子は、薬物:脂質の最適比を提供し、血清中の分解及び排除から核酸を保護し、全身または局所送達に適切であり、核酸の細胞内送達を提供する。加えて、これらの脂質-核酸粒子は、有効量の核酸における患者の治療が、前記患者にとって許容不可能な毒性及び/または危険性を伴わないように、忍容性が良好であり、十分な治療指数を提供するべきである。本発明はこれらの、及び関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要するに、本発明は、単独で、あるいは他の脂質成分、例えば、中性脂肪、荷電脂質、ステロイド(例えば、全てのステロールを含む)及び/若しくはこれらのアナログ、並びに/またはポリマーコンジュゲート脂質と組み合わせて使用することによって、治療剤の送達のための脂質ナノ粒子を形成することができる、フッ化脂質化合物(その立体異性体、薬学的に許容可能な塩または互変異性体を含む)を提供する。ある場合には、脂質ナノ粒子を使用して、アンチセンス及び/またはメッセンジャーRNAなどの核酸を送達する。様々な疾患または状態、例えば感染実体及び/またはタンパク質の不全により引き起こされるものなどの治療のために、このような脂質ナノ粒子を使用する方法もまた提供される。
【0008】
一実施態様では、次の構造(I):
【化1】
(I)
を有する化合物またはその薬学的に許容可能な塩、互変異性体若しくは立体異性体が提供される
[式中、R
3、L
1、L
2、G
1、G
2及びG
3は本明細書で定義される通りである]。
【0009】
前述の構造(I)の化合物の1つ以上と、治療剤とを含む医薬組成物もまた提供される。幾つかの実施態様では、前記医薬組成物は、中性脂質、荷電脂質、ステロイド及びポリマーコンジュゲート脂質から選択される1つ以上の成分を更に含む。このような組成物は、治療剤送達のための脂質ナノ粒子の形成に有用である。
【0010】
他の実施態様では、本発明は、投薬が必要な患者に治療剤を投与する方法であって、構造(I)の化合物及び治療剤を含む脂質ナノ粒子の組成物を調製することと、前記組成物を患者に送達することと、を含む方法を提供する。
【0011】
本発明のこれら及び他の側面は、以下の詳細な説明を参照することで明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明では、本発明の様々な実施態様の十分な理解が得られるよう、ある特定の詳細が記載されている。しかし、当業者であれば、これらの詳細なしに本発明を実施できることを理解するであろう。
【0013】
本発明は、核酸などの活性薬剤または治療剤を、哺乳動物の細胞へin vivo送達するための脂質ナノ粒子に使用される場合に利点をもたらす新規カチオン性(アミノ)脂質の発見に部分的に基づく。特に、本発明の実施態様は、in vivoにおいて、核酸の活性の増加及び前記組成物の忍容性の改善を提供し、その結果、以前記載された核酸-脂質ナノ粒子組成物と比較して治療指数を顕著に増加させる、本明細書に記載の新規カチオン性脂質の1つ以上を含む核酸-脂質ナノ粒子組成物を提供する。
【0014】
特定の実施態様では、本発明は、mRNA及び/または他のオリゴヌクレオチドのin vitro及びin vivo送達のための改善された組成物の製剤化を可能にする新規カチオン性脂質を提供する。幾つかの実施態様では、これらの改善された脂質ナノ粒子組成物は、mRNAによってコードされるタンパク質の発現に有用である。他の実施態様では、これらの改善された脂質ナノ粒子組成物は、1つの標的mRNAまたは幾つかのmRNAを制御する、1つの特定のmiRNAまたはmiRNAの一群を標的にするmiRNA阻害剤を送達することで、内因性タンパク質の発現をアップレギュレーションするのに有用である。他の実施態様では、これらの改善された脂質ナノ粒子組成物は、標的遺伝子のタンパク質レベル及び/またはmRNAレベルをダウンレギュレーション(例えばサイレンシング)するのに有用である。幾つかの他の実施態様では、前記脂質ナノ粒子は、導入遺伝子発現のためのmRNA及びプラスミドの送達にも有用である。更なる他の実施態様では、前記脂質ナノ粒子組成物は、タンパク質発現に起因する薬理効果、例えば、適切なエリスロポエチンmRNAの送達を介した赤血球産生の増加、または適切な抗原または抗体をコードするmRNAの送達を介した感染からの保護を誘導するのに有用である。
【0015】
本発明の脂質ナノ粒子及び組成物は、in vitroとin vivoの両方で、例えば核酸のような、封入された、あるいは結合した(例えば複合体形成された)治療剤を細胞に送達することを含めた様々な目的のために使用され得る。従って、本発明の実施態様は、適切な治療剤を封入または結合する脂質ナノ粒子と対象とを接触させることで、治療が必要な対象における疾患または障害を、治療または予防する方法であって、前記脂質ナノ粒子が、本明細書に記載の新規カチオン性脂質の1つ以上を含む方法を提供する。
【0016】
本明細書に記載されるように、本発明の脂質ナノ粒子の実施態様は、例えば、mRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、プラスミドDNA、マイクロRNA(miRNA)、miRNA阻害剤(アンタゴミル/アンチミル)、メッセンジャーRNA干渉性相補性RNA(micRNA)、DNA、多価RNA、ダイサー基質RNA、相補DNA(cDNA)などを含めた核酸の送達に特に有用である。従って、本発明の脂質ナノ粒子及び組成物は、細胞と、本明細書に記載の1つ以上の新規カチオン性脂質を含む脂質ナノ粒子とを接触させることで、in vitro及びin vivoの両方において所望のタンパク質の発現を誘導するために使用でき、ここで脂質ナノ粒子は、所望のタンパク質を生成するために発現される核酸(例えば所望のタンパク質をコードするメッセンジャーRNAまたはプラスミド)を封入若しくは結合し、またはmRNA発現を終了させるプロセスを阻害する(例えばmiRNA阻害剤)。あるいは、本発明の脂質ナノ粒子及び組成物は、細胞と、本明細書に記載の1つ以上の新規カチオン性脂質を含む脂質ナノ粒子とを接触させることによって、in vitroとin vivoの両方で標的遺伝子及びタンパク質の発現を低減するために使用されてよく、脂質ナノ粒子は、標的遺伝子の発現を減少させる核酸(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは小分子干渉RNA(siRNA))を封入または結合している。本発明の脂質ナノ粒子及び組成物はまた、異なる複数の核酸(例えば適切な遺伝子修飾酵素をコードするmRNA及び宿主ゲノムへの組み込みのためのDNAセグメント(複数可))の共局在化を必要とする作用を提供するために有用であり得るなど、異なる複数の核酸(例えばmRNA及びプラスミドDNA)を別々にまたは組み合わせて共同送達するために使用できる。
【0017】
本発明と共に使用するための核酸は、任意の利用可能な技術に従って調製され得る。mRNAについて、主要な調製方法は、限定はされないが、長い配列に特異的なmRNAを生成する最も効率的な方法を現在代表する酵素合成(in vitro転写とも称される)である。In vitro転写は、目的の遺伝子をコードしている下流の配列に連結している上流バクテリオファージプロモーター配列(例えばT7、T3及びSP6コリファ-ジからのものを含むが、これらに限定されない)で構成される操作されたDNA鋳型からの鋳型指向型のRNA分子合成プロセスを表す。鋳型DNAは、限定はされないが、プラスミドDNA及びポリメラーゼ連鎖反応増幅を含めた当技術分野で公知である適当な技術を用いて、幾つかの供給源からin vitro転写のために調製することができる(Linpinsel, J.L 及び Conn, G.L., General protocols for preparation of plasmid DNA template 並びに Bowman, J.C., Azizi, B., Lenz, T.K., Ray, P., 及び Williams, L.D. in RNA in vitro transcription and RNA purification by denaturing PAGE in Recombinant and in vitro RNA syntheses Methods 941巻 Conn G.L. (編), New York, N.Y. Humana Press,2012年を参照されたい)。
【0018】
RNAの転写は、精製したmRNA転写物の起こり得る分解を最小限に抑えながら、ポリメラーゼ活性を支持する条件下で、対応するRNAポリメラーゼ並びにアデノシン、グアノシン、ウリジン及びシチジンのリボヌクレオシド三リン酸(rNTP)の存在下において線状化DNA鋳型を使用して、in vitroで起こる。in vitro転写は、限定はされないが、RiboMax Large Scale RNA Production System(Promega)、MegaScript Transcriptionキット(Life Technologies)を含めた様々な市販のキットを使用して、並びにRNAポリメラーゼ及びrNTPを含めた市販の試薬を用いて実施することができる。mRNAのin vitro転写のための方法は当技術分野において公知である(例えば、Losick, R., 1972年, In vitro transcription, Ann Rev Biochem v.41巻 409~46頁;Kamakaka, R. T. and Kraus, W. L. 2001年. In Vitro Transcription. Current Protocols in Cell Biology. 2:11.6:11.6.1~11.6.17;Beckert, B. And Masquida, B.,(2010年) Synthesis of RNA by In Vitro Transcription in RNA in Methods in Molecular Biology 703巻(Neilson, H. Ed), New York, N.Y. Humana Press, 2010年;Brunelle, J.L. and Green, R., 2013, Chapter Five - In vitro transcription from plasmid or PCR-amplified DNA, Methods in Enzymology v. 530巻, 101~114頁を参照されたい;これらの全てが本明細書にて参照により援用される)。
【0019】
次いで、所望の、in vitro転写されたmRNAは、転写または関連する反応の所望しない構成成分(取り込まれなかったrNTP、タンパク質酵素、塩、短いRNAオリゴ等を含む)から精製される。mRNA転写物の単離のための技術は当技術分野において公知である。公知の手順として、フェノール/クロロホルム抽出、または一価カチオン若しくは塩化リチウム存在下でのいずれかのアルコール(エタノール、イソプロパノール)による沈殿が挙げられる。使用可能な精製手順の追加の、非限定的な例として、サイズ除去クロマトグラフィー(Lukavsky,P.J.及びPuglisi,J.D.,2004年,Large-scale preparation and purification of polyacrylamide-free RNA oligonucleotides,RNA 10巻,889~893頁)、シリカベースのアフィニティクロマトグラフィー及びポリアクリルアミドゲル電気泳動(Bowman,J.C.,Azizi,B.,Lenz,T.K.,Ray,P.及びWilliams,L.D. in RNA in vitro transcription and RNA purification by denaturing PAGE in Recombinant and in vitro RNA syntheses Methods 941巻 Conn G.L. (編), New York, N.Y. Humana Press, 2012年)が挙げられる。精製は、限定はされないが、SV Total Isolation System (Promega)及びIn Vitro Transcription Cleanup and Concentration Kit (Norgen Biotek)を含めた、様々な市販のキットを使用して実施することができる。
【0020】
更に、逆転写は多量のmRNAを産生することができるが、その産物は、全長mRNAの調製物から除去する必要があり得る、所望しないポリメラーゼ活性に伴う幾つかの異常なRNA不純物を含有する可能性がある。これらは、不完全な転写開始並びに、RNA依存性RNAポリメラーゼ活性、RNA鋳型からの、RNAをプライマーとした転写、及び自己相補性3’伸長により生成される二本鎖RNA(dsRNA)から生じる短いRNAを含む。dsRNA構造を有するこれらの混入物は、特定の核酸構造を認識し、強力な免疫応答を誘導するために機能する、真核細胞内の様々な先天的免疫センサーとの相互作用を介して所望しない免疫刺激活性をもたらし得ることが実証されている。ひいてはこれによって、細胞の先天的免疫応答の間、タンパク質合成が減少するため、mRNA翻訳が劇的に減少し得る。したがって、限定はされないが、拡張可能なHPLC精製を含めた、これらのdsRNA混入物を除去するための追加の技術が開発され、当技術分野において公知である(例えば、Kariko, K., Muramatsu, H., Ludwig, J. 及び Weissman, D., 2011, Generating the optimal mRNA for therapy: HPLC purification eliminates immune activation and improves translation of nucleoside-modified, protein-encoding mRNA, Nucl Acid Res, 39巻 e142; Weissman, D., Pardi, N., Muramatsu, H., 及び Kariko, K., HPLC Purification of in vitro transcribed long RNA in Synthetic Messenger RNA and Cell Metabolism Modulation in Methods in Molecular Biology 969巻 (Rabinovich, P.H. 編), 2013年を参照されたい)。HPLC精製されたmRNAは、特に初代細胞及びin vivoにおいて遥かに大きなレベルで翻訳されることが報告されている。
【0021】
in vitroで転写されたmRNAの特定の性質を変化させ、その有用性を改善するために使用される相当に多様な修飾が当技術分野において記載されている。これらには、限定はされないが、mRNAの5’及び3’末端の修飾が含まれる。真核生物の内因性mRNAは、通常、mRNAキャップ結合タンパク質(CBP)の結合の媒介において重要な役割を果たす成熟分子の5’末端上にキャップ構造(これが、ひいては、細胞内のRNA安定性及びmRNA翻訳の効率の増強に関与する)を含有する。したがって、最高レベルのタンパク質発現は、キャッピングされたmRNA転写物を用いて達成される。前記5’キャップは、最も5’側のヌクレオチドとグアニンヌクレオチドとの間の5’-5’トリホスフェート結合を含有する。前記コンジュゲートグアニンヌクレオチドはN7位でメチル化されている。追加の修飾は、2’ヒドロキシ基上の最も5’側のヌクレオチド及び最も5’側から2番目のヌクレオチドのメチル化を含む。
【0022】
in vitro で転写された合成mRNAの5’キャップを生成するために、複数の異なるキャップ構造を使用し得る。合成mRNAの5’キャッピングは、ケミカルキャップアナログとの共転写により実施することができる(すなわち、in vitro転写中のキャッピング)。例えば、アンチリバースキャップアナログ(ARCA)キャップは、1つのグアニンが3’-O-メチル基だけでなくN7メチル基を含有する5’-5’トリホスフェートグアニン-グアニン結合を含有する。しかし、転写物の20%までが、この共転写プロセス中にキャッピングされないまま残り、合成キャップアナログは本物の細胞mRNAの5’キャップ構造と同一ではなくなり、翻訳可能性及び細胞安定性を潜在的に減少させる。あるいは、合成mRNA分子はまた、転写後に酵素によってキャッピングされてもよい。これらは、キャップ結合タンパク質の結合が増強し、半減期が延長し、5’エンドヌクレアーゼに対する感受性が減少し、及び/または5’デキャッピングが減少した内因性5’キャップを構造的または機能的に更に厳密に模倣する、より真正の5’キャップ構造を生成してよい。mRNA安定性及び翻訳可能性を増強するために、多くの合成5’キャップアナログが開発され、当技術分野において公知である(例えば、Grudzien-Nogalska, E., Kowalska, J., Su, W., Kuhn, A.N., Slepenkov, S.V., Darynkiewicz, E., Sahin, U., Jemielity, J., 及び Rhoads, R.E., Synthetic mRNAs with superior translation and stability properties in Synthetic Messenger RNA and Cell Metabolism Modulation in Methods in Molecular Biology 969巻 (Rabinovich, P.H. 編),2013年を参照されたい)。
【0023】
3’末端において、アデニンヌクレオチドの長鎖(ポリAテール)は通常、RNAプロセシング中にmRNA分子に付加される。転写直後に、転写物の3’末端は切断され、3’ヒドロキシ基が遊離されて、それに、ポリアデニル化と呼ばれるプロセスにおいて、ポリAポリメラーゼがアデニンヌクレオチド鎖をRNAに付加する。ポリAテールは、mRNAの翻訳効率と安定性の両方を増強することが広く示されている(Bernstein, P. 及び Ross, J., 1989年, Poly (A), poly (A) binding protein and the regulation of mRNA stability, Trends Bio Sci 14巻 373~377頁; Guhaniyogi, J. And Brewer, G., 2001年, Regulation of mRNA stability in mammalian cells, Gene, 265巻, 11~23頁; Dreyfus, M. 及び Regnier, P., 2002年, The poly (A) tail of mRNAs: Bodyguard in eukaryotes, scavenger in bacteria, Cell, 111巻,611~613頁を参照されたい)。
【0024】
in vitroで転写されたmRNAのポリ(A)テーリングは、限定はされないが、ポリ(T)領域のDNA鋳型へのクローニングまたはポリ(A)ポリメラーゼを使用した転写後の付加を含めた様々な手法を使用して達成され得る。最初のケースは、ポリ(T)領域の大きさに応じて、定義された長さのポリ(A)テールを有するmRNAのin vitro転写を可能にするが、鋳型の追加操作を必要とする。後者のケースは、アデニン残基の、RNAの3’末端への組み込みを触媒するポリ(A)ポリメラーゼを使用して、ポリ(A)テールをin vitro転写されたmRNAに酵素的に付加することを含み、DNA鋳型の追加操作は必要ないが、不均一な長さのポリ(A)テールを有するmRNAが結果として生じる。5’キャッピング及び3’ポリ(A)テーリングは、限定はされないが、ポリ(A)ポリメラーゼテーリングキット(EpiCenter)、mMESSAGE、mMACHINE T7 Ultraキット及びポリ(A)テリングキット(Life Technologies)を含めた様々な市販のキットを使用して、並びに市販の試薬、様々なARCAキャップ、ポリ(A)ポリメラーゼなどを用いて実施することができる。
【0025】
5’キャップ及び3’ポリアデニル化に加えて、in vitro転写物の他の修飾が、翻訳の効率及び安定性に関係するような利益を提供することが報告されている。病原性DNA及びRNAは、真核細胞内の様々なセンサーにより認識され、強力な先天的免疫応答を惹起し得ることが当技術分野で知られている。天然の供給源由来の大部分の核酸は修飾ヌクレオシドを含有するため、病原性DNA及びRNAと、自己DNA及びRNAとを判断する能力は、少なくとも部分的には、構造及びヌクレオシド修飾に基づくことが示されている。対照的に、in vitroで合成されたRNAはこれらの修飾を欠き、従って免疫刺激性になり、これがひいては上に概説したように、効率的なmRNA翻訳を阻害する可能性がある。in vitroで転写されたmRNAへの修飾ヌクレオシドの導入を使用して、RNAセンサーの認識及び活性化を防止し、従ってこの所望しない免疫刺激活性を軽減し、翻訳能力を増強することができる(例えば、Kariko, K. And Weissman, D. 2007年, Naturally occurring nucleoside modifications suppress the immunostimulatory activity of RNA: implication for therapeutic RNA development, Curr Opin Drug Discov Devel, 10巻 523~532頁; Pardi, N., Muramatsu, H., Weissman, D., Kariko, K., In vitro transcription of long RNA containing modified nucleosides in Synthetic Messenger RNA and Cell Metabolism Modulation in Methods in Molecular Biology 969巻 (Rabinovich, P.H. Ed), 2013年); Kariko, K., Muramatsu, H., Welsh, F.A., Ludwig, J., Kato, H., Akira, S., Weissman, D., 2008年, Incorporation of Pseudouridine Into mRNA Yields Superior Nonimmunogenic Vector With Increased Translational Capacity and Biological Stability, Mol Ther 16巻,1833~1840頁を参照されたい。修飾RNAの合成に使用される修飾ヌクレオシド及びヌクレオチドは、当技術分野において公知の一般的方法及び手順を使用して、調製、モニター及び利用することができる。単独または他の修飾ヌクレオシドと組み合わせて、in vitroで転写されたmRNAにある程度取り込まれてよい多種多様なヌクレオチド修飾が利用可能である(例えば、US2012/0251618を参照されたい)。ヌクレオシド修飾されたmRNAのin vitro合成は、同時に翻訳能力を増強しながら、免疫センサーを活性化する能力を減少させることが報告されている。
【0026】
翻訳可能性及び安定性に関する利益を提供するために修飾され得るmRNAの他の構成成分として5’及び3’非翻訳領域(UTR)が挙げられる。両方ともまたは独立して、UTR(好ましい5’及び3’UTRは細胞またはウイルスRNAから得ることができる)を最適化することは、in vitroで翻訳されたmRNAのmRNA安定性及び翻訳効率を増加させることが示されている(例えば、Pardi, N., Muramatsu, H., Weissman, D., Kariko, K., In vitro transcription of long RNA containing modified nucleosides in Synthetic Messenger RNA and Cell Metabolism Modulation in Methods in Molecular Biology 969巻 (Rabinovich, P.H. 編), 2013年を参照されたい)。
【0027】
mRNAに加えて、他の核酸ペイロードを本発明のために使用してよい。オリゴヌクレオチドについて、調製の方法として、限定はされないが、長い前駆体の化学合成及び酵素的、化学的切断、上記のようなin vitro転写等が挙げられる。DNA及びRNAヌクレオチドを合成する方法は、当技術分野において広く使用され、公知である(例えば、Gait, M. J. (編) Oligonucleotide synthesis: a practical approach, Oxford [Oxfordshire], Washington, D.C.: IRL Press, 1984年;及び Herdewijn, P. (編) Oligonucleotide synthesis: methods and applications, Methods in Molecular Biology, 288巻 (Clifton, N.J.) Totowa, N.J.: Humana Press, 2005年を参照されたい;この両方が本明細書で参照により援用される)。
【0028】
プラスミドDNAについて、本発明と共に使用するための調製は、限定はされないが、目的のプラスミドを含有する液体培養物中のin vitroでのプラスミドDNAの増大及び単離を一般的に利用する。特定の抗生物質(ペニシリン、カナマイシン等)に対する耐性をコードする遺伝子が目的のプラスミド中に存在することで、目的のプラスミドを含有する細菌を、抗生物質を含有する培養物中で選択的に増殖させることが可能になる。プラスミドDNAを単離する方法は、当技術分野において広く使用され、公知である(例えば、Heilig, J., Elbing, K. L. 及び Brent, R., (2001年) Large-Scale Preparation of Plasmid DNA, Current Protocols in Molecular Biology. 41巻:II号:1.7:1.7.1~1.7.16頁; Rozkov, A., Larsson, B., Gillstrom, S., Bjornestedt,R. 及び Schmidt, S. R.(2008年), Large-scale production of endotoxin-free plasmids for transient expression in mammalian cell culture, Biotechnol. Bioeng., 99巻: 557~566頁;及び US 6197553B1を参照されたい)。プラスミドの単離は、限定されないが、Plasmid Plus(Qiagen)、GenJET plasmid MaxiPrep(Thermo)、及びPureYield MaxiPrep (Promega)キットを含めた様々な市販のキットを使用して、並びに市販の試薬を用いて実施することができる。
【0029】
本発明のカチオン性脂質、それを含む脂質ナノ粒子及び組成物、並びに遺伝子及びタンパク質発現を調節する核酸などの活性物(例えば、治療剤)を送達するためのこれらの使用の様々な例示的な実施態様が、以下に更に詳細に記載されている。
【0030】
本明細書で使用される場合、特に指定がない場合、以下の用語はこれらに属する意味を有する。
【0031】
特に文脈上異なって理解されることを要しない限り、本明細書及び特許請求の範囲を通して、単語「含む」及びその変形例、例えば「含む(comprises)」及び「含むこと」などは、開かれた、包括的な意味、すなわち「~を含むが、これらに限定されない」と解釈されるものとする。
【0032】
本明細書を通して、「一実施態様」または「ある実施態様」への言及は、この実施態様に関連して記載される特定の特色、構造、または特徴が、本発明の少なくとも一実施態様に含まれていることを意味する。したがって、本明細書全体にわたり様々な箇所における「一実施態様では」または「ある実施態様では」という句の出現は、必ずしも全てが同じ実施態様について言及しているわけではない。更に、特定の特色、構造、または特徴は、1つ以上の実施態様において適切な方式で組み合わせてよい。
【0033】
特に定義しない場合、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるものと同じ意味を有する。本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、特に文脈上そうでは無いことが明確に指示されていない限り、複数の言及を含む。
【0034】
「所望のタンパク質の発現を誘導する」という句は、核酸が所望のタンパク質の発現を増加させる能力を指す。タンパク質発現の程度を試験するため、試験試料(例えば、所望のタンパク質を発現する培養中の細胞試料)または試験哺乳動物(例えば、ヒトまたは動物等の哺乳類)モデル、例えば、げっ歯類(例えば、マウス)またはヒト以外の霊長類(例えば、サル)モデル)を核酸(例えば、本発明の脂質と組み合わせた核酸)と接触させる。試験試料または試験動物における所望のタンパク質の発現を、前記核酸に接触させていない、あるいは前記核酸を投与していない対照試料(例えば、所望のタンパク質を発現する培養中の細胞試料)または対照哺乳動物(例えば、ヒトまたは動物等の哺乳類)モデル、例えば、げっ歯類(例えば、マウス)またはヒト以外の霊長類(例えば、サル)モデル中の所望のタンパク質の発現と比較する。所望のタンパク質が対照試料または対照哺乳動物中に存在する場合、対照試料または対照哺乳動物中の所望のタンパク質の発現に1.0の値を割り当ててよい。ある実施態様では、所望のタンパク質の発現誘導は、試験試料または試験哺乳動物中の所望のタンパク質の発現の、対照試料または対照哺乳動物中の所望のタンパク質の発現に対する比が1を超えた場合、例えば約1.1、1.5、2.0、5.0、または10.0である場合に達成される。所望のタンパク質が対照試料または対照哺乳動物中に存在しない場合、所望のタンパク質の発現誘導は、試験試料または試験哺乳動物中において任意の測定可能なレベルの所望のタンパク質が検出された場合に達成される。当業者であれば、試料中のタンパク質の発現レベルを判定するのに適当なアッセイ、例えば、ドットブロット、ノーザンブロット、インサイチュハイブリダイゼーション、ELISA、免疫沈降、酵素機能、及び表現型アッセイ、または適当な条件下で蛍光または発光を生成できるリポータータンパク質に基づくアッセイを理解している。
【0035】
「標的遺伝子の発現を阻害する」という句は、標的遺伝子の発現をサイレンシングする、減少させる、または阻害する核酸の能力を指す。遺伝子サイレンシングの程度を試験するために、試験試料(例えば、標的遺伝子を発現する培養中の細胞試料)または試験哺乳動物(例えば、ヒトまたは動物等の哺乳類)モデル、例えば、げっ歯類(例えば、マウス)またはヒト以外の霊長類(例えば、サル)モデル)を、標的遺伝子の発現をサイレンシングする、減少させる、あるいは阻害する核酸と接触させる。試験試料または試験哺乳動物中の標的遺伝子の発現を、前記核酸と接触していない、あるいは前記核酸を投与されていない対照試料(例えば、標的遺伝子を発現する培養中の細胞試料)または対照哺乳動物(例えば、ヒトまたは動物等の哺乳類)モデル、例えば、げっ歯類(例えば、マウス)またはヒト以外の霊長類(例えば、サル)モデル)中の標的遺伝子の発現と比較する。対照試料または対照哺乳動物中の標的遺伝子の発現は、100%の値を割り当ててよい。ある実施態様では、標的遺伝子のサイレンシング、阻害、または減少は、対照試料または対照哺乳動物中の標的遺伝子の発現レベルに対する、試験試料または試験哺乳動物中の標的遺伝子の発現レベルが、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、または0%である場合に達成される。言い換えれば、前記核酸は、前記核酸に接触させていない、あるいは前記核酸を投与されていない対照試料または対照哺乳動物中の標的遺伝子の発現レベルに対して、試験試料または試験哺乳動物中の標的遺伝子の発現を、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%サイレンシング、減少させる、あるいは阻害することが可能である。標的遺伝子の発現レベルを判定するための適切なアッセイは、限定されないが、当業者に公知の技術、例えば、ドットブロット、ノーザンブロット、インサイチュハイブリダイゼーション、ELISA、免疫沈降、酵素機能、並びに当業者に公知の表現型アッセイ等を用いたタンパク質またはmRNAレベルの試験が挙げられる。
【0036】
活性薬剤または治療剤、例えば、治療用核酸などの「有効量」または「治療有効量」とは、所望の効果、例えば、核酸の不在下で検出される通常の発現レベルと比較して、標的配列の発現の増加または阻害を生じるのに十分な量である。標的配列の発現の増加は、核酸の不在下では存在しない発現産物のケースでは、任意の測定可能なレベルが検出された場合に達成される。前記発現産物が、核酸との接触以前に、あるレベルで存在する場合、発現の増加は、mRNAなどの核酸を用いて得た値の増加倍率が、対照に対して、約1.05、1.1、1.2、1,3、1.4、1.5、1.75、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100、250、500、750、1000、5000、10000倍またはそれ以上である場合に達成される。標的遺伝子または標的配列の発現の阻害は、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸を用いて得た値が、対照に対して、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、または0%である場合に達成される。標的遺伝子または標的配列の発現を測定するのに適切なアッセイは、例えば、当業者に公知の技術、例えば、ドットブロット、ノーザンブロット、インサイチュハイブリダイゼーション、ELISA、免疫沈降、酵素機能、適切なレポータータンパク質の蛍光または発光、並びに当業者に公知の表現型アッセイなどを使用したタンパク質またはRNAレベルの試験が挙げられる。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「核酸」は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態で、少なくとも2つのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含むポリマーを指し、DNA、RNA、及びそれらのハイブリットを含む。DNAは、アンチセンス分子、プラスミドDNA、cDNA、PCR産物、またはベクタ-の形態であってよい。RNAは、小ヘアピンRNA(shRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、アンチセンスRNA、miRNA、micRNA、多価RNA、ダイサー基質RNAまたはウイルスRNA(vRNA)、及びこれらの組み合わせの形態であってよい。核酸は、合成、天然、及び非天然のものであり、基準核酸と同様の結合特性を有する、公知のヌクレオチドアナログまたは修飾された骨格残渣または結合を含有する核酸を含む。このようなアナログの例として、限定はされないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2’-O-メチルリボヌクレオチド、及びペプチド核酸(PNA)が挙げられる。特に限定されない限り、「核酸」という用語は、基準核酸と同様の結合特性を有する天然のヌクレオチドの公知のアナログを含有する核酸を包含する。特に指定されない限り、特定の核酸配列はまた、明示的に指定された配列だけでなく、伝統的方式で修飾されたその変形例(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、単一ヌクレオチド多型、及び相補的配列も非明示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つのまたは複数の選択された(または全ての)コドンの3位が混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することで達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res., 19巻:5081頁(1991年); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem., 260巻:2605~2608頁(1985年);Rossolini et al., Mol. Cell. Probes, 8巻:91~98頁(1994年))。「ヌクレオチド」は、糖デオキシリボース(DNA)またはリボース(RNA)、塩基、及びリン酸基を含有する。ヌクレオチドはリン酸基を通して一緒に連結している。「塩基」は、プリン及びピリミジンを含み、このプリン及びピリミジンは、天然化合物のアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシン、及び天然のアナログ、並びにプリン及びピリミジンの合成誘導体を更に含み、このプリン及びピリミジンの合成誘導体は、限定はされないが、アミン、アルコール、チオール、カルボキシレート、及びアルキルハロゲン化物などの新規反応性基を配置する修飾を含むが、これらに限定されない。
【0038】
用語「遺伝子」は、ポリペプチドまたはポリペプチド前駆体の産生に必要なコード配列の部分長または全長を含む核酸(例えば、DNAまたはRNA)配列を指す。
【0039】
「遺伝子産物」とは、本明細書で使用される場合、RNA転写物またはポリペプチドなどの遺伝子の産物を指す。
【0040】
用語「脂質」は、限定されないが、脂肪酸のエステルを含み、水に難溶性であるが、多くの有機溶媒に溶解性であることを一般的に特徴とする有機化合物群を指す。脂質は通常、少なくとも3つの種類に分割される:(1)「単純脂質」、蝋だけでなく脂肪及び油を含む;(2)「複合脂質」、リン脂質及び糖脂質を含む;及び(3)「誘導脂質」、例えばステロイド。
【0041】
ステロイドは、以下の炭素骨格:
【化2】
を含む化合物である。
ステロイドの非限定的な例として、コレステロールなどが挙げられる。
【0042】
「カチオン性脂質」は、正に帯電できる脂質を指す。例示的なカチオン性脂質は、1つ以上の正の電荷を帯びたアミノ基を含む。好ましいカチオン性脂質は、pHに応じて、正に帯電して、あるいは中性の形態で存在できるようにイオン化可能である。カチオン性脂質のイオン化は、異なるpH条件下での脂質ナノ粒子の表面電荷に影響を及ぼす。この電荷状態は、血漿タンパク質吸収、血液クリアランス、及び組織分布(Semple, S.C., et al., Adv. Drug Deliv Rev 32巻:3~17(1998年))並びに核酸の細胞内送達に重要な意味を持つエンドソーム溶解性の非二重層構造を形成する能力(Hafez, I.M., et al., Gene Ther 8巻:1188~1196(2001年))に影響を及ぼし得る。
【0043】
用語「ポリマーコンジュゲート脂質」は、脂質部分とポリマー部分の両方を含む分子を指す。ポリマーコンジュゲート脂質の一例は、ペグ化脂質である。用語「ペグ化脂質」は、脂質部分とポリエチレングリコール部分の両方を含む分子を指す。ペグ化脂質は当技術分野において公知であり、1-(モノメトキシポリエチレングリコール)-2,3-ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG)などを含む。
【0044】
用語「中性脂質」は、選択されたpHにおいて、帯電していないか、あるいは中性の双性イオン形態で存在する幾つかの脂質種のいずれかを指す。生理学的pHでは、このような脂質として、限定はされないが、ホスホチジルコリン、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)など、ホスファチジルエタノールアミン、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、スフィンゴミエリン(SM)、セラミドなど、ステロイド、例えば、ステロール及びその誘導体などが挙げられる。中性脂質は合成であっても、天然由来であってもよい。
【0045】
用語「荷電脂質」は、有用な生理学的範囲、例えばpH約3からpH約9で、pHとは関係なく、正に帯電した、あるいは負に帯電した形態で存在する幾つかの脂質種のいずれかを指す。荷電脂質は、合成であっても、天然由来であってもよい。荷電脂質の例として、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ステロールヘミスクシネート、ジアルキルトリメチルアンモニウムプロパン(例えば、DOTAP、DOTMA)、ジアルキルジメチルアミノプロパン、エチルホスホコリン、ジメチルアミノエタンカルバモイルステロール(例えば、DC-Chol)が挙げられる。
【0046】
用語「脂質ナノ粒子」は、構造(I)の化合物または他の特定のカチオン性脂質の1つ以上を含み、ナノメートルオーダー(例えば、1~1,000nm)の寸法を少なくとも1つ有する粒子を指す。幾つかの実施態様では、脂質ナノ粒子は、活性薬剤または治療剤、例えば核酸(例えば、mRNA)などを目的の標的部位(例えば、細胞、組織、器官、腫瘍など)に送達するために使用され得る製剤に含まれている。幾つかの実施態様では、本発明の脂質ナノ粒子は核酸を含む。このような脂質ナノ粒子は通常、構造(I)の化合物と、中性脂質、荷電脂質、ステロイド、及びポリマーコンジュゲート脂質から選択される1つ以上の賦形剤とを含む。幾つかの実施態様では、核酸等の活性薬剤または治療剤は、脂質ナノ粒子の脂質部分または脂質ナノ粒子の脂質部分の一部若しくは全体によって包まれた水性空間に封入されてよく、これにより、宿主生物または細胞の機構、例えば有害な免疫応答により誘導される酵素的分解または他の有害作用からこれを保護する。
【0047】
様々な実施態様では、脂質ナノ粒子は、約30nm~約150nm、約40nm~約150nm、約50nm~約150nm、約60nm~約130nm、約70nm~約110nm、約70nm~約100nm、約80nm~約100nm、約90nm~約100nm、約70nm~約90nm、約80nm~約90nm、約70nm~約80nm、または約30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、55nm、60nm、65nm、70nm、75nm、80nm、85nm、90nm、95nm、100nm、105nm、110nm、115nm、120nm、125nm、130nm、135nm、140nm、145nm、または150nmの平均径を有し、実質的に無毒性である。ある特定の実施態様では、核酸は、脂質ナノ粒子内に存在する場合、水溶液中でヌクレアーゼによる分解に対して耐性がある。核酸を含む脂質ナノ粒子及びこれらの調製方法は、例えば、米国特許公開第2004/0142025号、第2007/0042031号及びPCT公開WO2013/016058及びWO2013/086373において開示されており、あらゆる目的のためにこれらの全体において、その完全な開示が本明細書にて参照により援用される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「~が封入された脂質」とは、核酸(例えば、mRNA)などの活性薬剤または治療剤を完全に封入して、部分的に封入して、あるいはその両方によって提供する脂質ナノ粒子を指す。ある実施態様では、核酸(例えば、mRNA)は、脂質ナノ粒子内に完全に封入されている。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「水溶液」は水を含む組成物を指す。
【0050】
核酸脂質ナノ粒子に関連して、「血清安定性である」とは、遊離DNAまたはRNAを有意に分解する、血清またはヌクレアーゼアッセイへの曝露後に、ヌクレオチドが有意に分解されないことを意味する。適切なアッセイとして、例えば、標準血清アッセイ、DNAseアッセイ、またはRNAseアッセイが挙げられる。
【0051】
「全身送達」は、本明細書で使用される場合、生物内で活性薬剤の広範囲な曝露をもたらすことができる治療用製品の送達を指す。幾つかの投与技術は、ある特定の薬剤の全身送達をもたらすことができるが、他の薬剤はできない。全身送達とは、薬剤の有用な、好ましくは治療用の量が体の大部分に曝露されることを意味する。脂質ナノ粒子の全身送達は、例えば、静脈内、動脈内、皮下、及び腹腔内送達を含めた、当技術分野において公知の任意の手段によることができる。幾つかの実施態様では、脂質ナノ粒子の全身送達は、静脈内送達による。
【0052】
「局所送達」とは、本明細書で使用される場合、生物内の標的部位に直接活性薬剤を送達することを指す。例えば、薬剤は、疾患部位、例えば、腫瘍など、他の標的部位、例えば炎症部位など、または標的器官、例えば、肝臓、心臓、膵臓、腎臓などに直接注射することにより、局所的に送達できる。局所送達はまた、局所的適用または局所的注射の技術、例えば、筋肉内、皮下または皮内注射などを含み得る。局所送達は、全身性薬理作用を排除しない。
【0053】
「アルキル」は、飽和であって、例えば、1~24個の炭素原子(C1~C24アルキル)、6~24個の炭素原子(C6~C24アルキル)、4~20個の炭素原子(C4~C20アルキル)、6~16個の炭素原子(C6~C16アルキル)、6~9個の炭素原子(C6~C9アルキル)、1~15個の炭素原子(C1~C15アルキル)、1~12個の炭素原子(C1~C12アルキル)、1~8個の炭素原子(C1~C8アルキル)、または1~6個の炭素原子(C1~C6アルキル)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し、その分子の残りに単結合で結合している、炭素及び水素原子のみから成る直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、1-メチルエチル(イソプロピル)、n-ブチル、n-ペンチル、1,1-ジメチルエチル(t-ブチル)、3-メチルヘキシル、2-メチルヘキシルなどを指す。本明細書で特に明記しない限り、アルキル基は置換されているか、または無置換である。
【0054】
「アルケニル」は、不飽和(すなわち、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ含む)であって、例えば、2~24個の炭素原子(C2~C24アルケニル)、6~24個の炭素原子(C6~C24アルケニル)、4~20個の炭素原子(C4~C20アルケニル)、6~16個の炭素原子(C6~C16アルケニル)、6~9個の炭素原子(C6~C9アルケニル)、2~15個の炭素原子(C2~C15アルケニル)、2~12個の炭素原子(C2~C12アルケニル)、2~8個の炭素原子(C2~C8アルケニル)、または2~6個の炭素原子(C2~C6アルケニル)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し、その分子の残りに単結合で結合している、炭素及び水素原子のみから成る直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖基、例えば、エテニル、n-プロペニル、1-メチルエテニル、n-ブテニル、n-ペンテニル、1,1-ジメチルエテニル、3-メチルヘキセニル、2-メチルヘキセニルなどを指す。本明細書で特に明記しない限り、アルケニル基は置換されているか、または無置換である。
【0055】
「フルオロアルキル」は、1つ以上の水素原子(H)がフッ素原子(F)に置換されているアルキル基を指す。フルオロアルキルは、1)炭素、水素、及びフッ素原子、または2)炭素及びフッ素原子から成る直鎖または分岐鎖の基を含む。フルオロアルキルは、例えば、1~24個の炭素元素(C1~C24フルオロアルキル)、6~24個の炭素原子(C6~C24フルオロアルキル)、4~20個の炭素原子(C4~C20フルオロアルキル)、6~16個の炭素原子(C6~C16フルオロアルキル)、6~9個の炭素原子(C6~C9フルオロアルキル)、1~15個の炭素原子(C1~C15フルオロアルキル)、1~12個の炭素原子(C1~C12フルオロアルキル)、1~8個の炭素原子(C1~C8フルオロアルキル)、または1~6個の炭素原子(C1~C6フルオロアルキル)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し得、その分子の残りに単結合で結合し、例えば、トリフルオロメチル(-CF3)、ペルフルオロエチル(-CF2CF3)、ペルフルオロn-プロピル(-(CF2)2CF3)、ペルフルオロイソプロピル(-CF(CF3)2)、ペルフルオロn-ブチル(-(CF2)3CF3)、ペルフルオロイソブチル(-CF2CF(CF3)2)、ペルフルオロtert-ブチル(-C(CF3)3)、ペルフルオロn-ヘキシル(-(CF2)5CF3)、ペルフルオロn-オクチル(-(CF2)7CF3)、2,2,2-トリフルオロエチル(-CH2CF3)、4,4,4-トリフルオロn-ブチル(-(CH2)3CF3)、7,7,7-トリフルオロn-へプチル(-(CH2)6CF3)、またはペルフルオロn-へプチル(-(CF2)6CF3)などが挙げられる。例えば、C12フルオロアルキルとして、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3-ドデカン(-CH(CF2CF3)(CH2)8CH3)が挙げられる。他の例では、C17フルオロアルキルとして、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ヘキサコサフルオロ-9-ヘプタデカン(-CH((CH2)2(CF2)5CF3)2)が挙げられる。本明細書で特に明記しない限り、フルオロアルキル基は置換されているか、または無置換である。
【0056】
「フルオロアルケニル」は、1つ以上の水素原子(H)がフッ素原子(F)に置換されているアルケニル基を指す。フルオロアルケニルは、1)炭素、水素、及びフッ素原子、または2)炭素及びフッ素原子から成る直鎖または分岐鎖の基を含む。フルオロアルケニルは、例えば、2~24個の炭素原子(C2~C24フルオロアルケニル)、6~24個の炭素原子(C6~C24フルオロアルケニル)、4~20個の炭素原子(C4~C20フルオロアルケニル)、6~16個の炭素原子(C6~C16フルオロアルケニル)、6~9個の炭素原子(C6~C9フルオロアルケニル)、2~15個の炭素原子(C2~C15フルオロアルケニル)、2~12個の炭素原子(C2~C12フルオロアルケニル)、2~8個の炭素原子(C2~C8フルオロアルケニル)、または2~6個の炭素原子(C2~C6フルオロアルキル)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し得、その分子の残りに単結合で結合し、例えば、ペルフルオロエチル(-CF2CF3)、ペルフルオロn-プロピル(-(CF2)2CF3)、ペルフルオロイソプロピル(-CF(CF3)2)、ペルフルオロn-ブチル(-(CF2)3CF3)、ペルフルオロイソブチル(-CF2CF(CF3)2)、ペルフルオロtert-ブチル(-C(CF3)3)、ペルフルオロn-ヘキシル(-(CF2)5CF3)、ペルフルオロn-オクチル(-(CF2)7CF3)、2,2,2-トリフルオロエチル(-CH2CF3)、4,4,4-トリフルオロn-ブチル(-(CH2)3CF3)、7,7,7-トリフルオロn-へプチル(-(CH2)6CF3)、またはペルフルオロn-へプチル(-(CF2)6CF3)などが挙げられる。例えば、C12フルオロアルキルとして、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3-ドデカン(-CH(CF2CF3)(CH2)8CH3)が挙げられる。他の例では、C17フルオロアルキルとして、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ヘキサコサフルオロ-9-ヘプタデカン(-CH((CH2)2(CF2)5CF3)2)が挙げられる。本明細書で特に明記しない限り、フルオロアルキル基は置換されているか、または無置換である。
【0057】
「ペルフルオロ置換基」または「ペルフルオロ化合物」は、C-H結合がそれぞれC-F結合に置き換えられた、直鎖若しくは分岐鎖の置換基または化合物を指す。ペルフルオロ置換基または化合物は通常、炭素-フッ素(C-F)及び炭素-炭素(C-C)結合のみを含むが、幾つかの実施態様では、ペルフルオロ置換基または化合物は、ヘテロ原子及び/または官能基、例えばOH、CO2H、ハロゲン、O、及びSO3Hを含み、但し、ペルフルオロ置換基または化合物はC-H結合を含まず、かつ少なくとも1つのC-F結合を含む。ペルフルオロ置換基または化合物は、飽和であり得、例えば、1~24個の炭素元素(C1~C24ペルフルオロアルキル)、4~20個の炭素原子(C4~C20ペルフルオロアルキル)、6~16個の炭素原子(C6~C16ペルフルオロアルキル)、6~9個の炭素原子(C6~C9ペルフルオロアルキル)、1~15個の炭素原子(C1~C15ペルフルオロアルキル)、1~12個の炭素原子(C1~C12ペルフルオロアルキル)、1~8個の炭素原子(C1~C8ペルフルオロアルキル)、または1~6個の炭素原子(C1~C6ペルフルオロアルキル)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し、その分子の残りに単結合で結合し、例えば、トリフルオロメチル(-CF3)、ペルフルオロエチル(-CF2CF3)、ペルフルオロn-プロピル(-(CF2)2CF3)、ペルフルオロイソプロピル(-CF(CF3)2)、ペルフルオロn-ブチル(-(CF2)3CF3)、ペルフルオロイソブチル(-CF2CF(CF3)2)、ペルフルオロtert-ブチル(-C(CF3)3)、ペルフルオロn-ヘキシル(-(CF2)5CF3)、ペルフルオロn-オクチル(-(CF2)7CF3)、ペルフルオロn-へプチル(-(CF2)6CF3)などが挙げられる。
【0058】
「アルキレン」は、例えば、1~24個の炭素原子(C1~C24アルキレン)、1~15個の炭素原子(C1~C15アルキレン)、1~12個の炭素原子(C1~C12アルキレン)、1~8個の炭素原子(C1~C8アルキレン)、1~6個の炭素原子(C1~C6アルキレン)、2~4個の炭素原子(C2~C4アルキレン)、1~2個の炭素原子(C1~C2アルキレン)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し、飽和であって、炭素及び水素原子のみから成り、その分子の残りをラジカル基に連結している、直鎖または分岐鎖の二価の炭化水素鎖、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、n-ブチレンなどを指す。前記アルキレン鎖は、その分子の残りに単結合を介して結合し、ラジカル基に単結合を介して結合する。アルキレン鎖とその分子の残りとの結合点及びアルキレン鎖とラジカル基との結合点は、鎖内の1つまたはいずれか2つの炭素を介することができる。本明細書で特に明記しない限り、アルキレン鎖は置換されているか、または無置換である。
【0059】
「フルオロアルキレン」は、上記で定義したアルキレンであって、少なくとも1つのC-H結合がC-F結合に置き換わったものを指す。フルオロアルキレンは、例えば、1~24個の炭素原子(C1~C24フルオロアルキレン)、1~15個の炭素原子(C1~C15フルオロアルキレン)、1~12個の炭素原子(C1~C12フルオロアルキレン)、1~8個の炭素原子(C1~C8フルオロアルキレン)、1~6個の炭素原子(C1~C6フルオロアルキレン)、2~4個の炭素原子(C2~C4フルオロアルキレン)、1~2個の炭素原子(C1~C2フルオロアルキレン)、または前記範囲内の任意の範囲または特定の値の炭素原子を有し、例えば、フルオロメチレン、フルオロエチレン、フルオロプロピレン、n-フルオロブチレンなどが挙げられる。フルオロアルキレン鎖は、その分子の残りに単結合を介して結合し、ラジカル基に単結合を介して結合している。フルオロアルキレン鎖とその分子の残りとの結合点及びフルオロアルキレン鎖とラジカル基との結合点は、鎖内の1つの炭素またはいずれかの2つの炭素を介することができる。本明細書で特に明記しない限り、フルオロアルキレン鎖は置換されているか、または無置換である。
【0060】
「アリール」とは、水素、6~18個の炭素原子、及び少なくとも1つの芳香族環を含む、炭素環系基を指す。本発明の目的のために、アリール基は単環、二環、三環または四環系であり、縮合または架橋の環系を含んでよい。アリール基として、限定はされないが、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、フルオランテン、フルオレン、as-インダセン、s-インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、フェナレン、フェナントレン、プレイアデン、ピレン、及びトリフェニレンに由来するアリール基が挙げられる。特に本明細書で明記しない限り、用語「アリール」または接頭辞「アル(ar)」(例えば「アラルキル(aralkyl)において」)は、任意選択で置換されているアリール基を含むことを意図する。
【0061】
「アルキルアセタール」とは、式-RaCH(ORb)(ORc)で表される基を指し、ここで、Raは上記で定義したアルキレンであり、Rb及びRcはそれぞれ独立して、上記で定義したアルキルまたはアルケニルである。アルキルアセタール基は、例えば、1~24個の炭素原子(C1~C24アルキルアセタール)、6~24個の炭素原子(C6~C24アルキルアセタール)、4~20個の炭素原子(C4~C20アルキルアセタール)、6~16個の炭素原子(C6~C16アルキルアセタール)、6~24個の炭素原子(C6~C24アルキルアセタール)、6~9個の炭素原子(C6~C9アルキルアセタール)、1~15個の炭素原子(C1~C15アルキルアセタール)、1~12個の炭素原子(C1~C12アルキルアセタール)、1~8個の炭素原子(C1~C8アルキルアセタール)、または1~6個の炭素原子(C1~C6アルキルアセタール)を含む。本明細書で特に明記しない限り、アルキルアセタール基は適宜置換されていてよい。
【0062】
「フルオロアルキルアセタール」とは、上記で定義したアルキルアセタールであって、Ra、Rb、及び/またはRc内の少なくとも1つのC-H結合がC-F結合に置き換えられたものを指す。例示的なフルオロアルキルアセタールは、例えば、1~24個の炭素原子(C1~C24フルオロアルキルアセタール)、6~24個の炭素原子(C6~C24アルキルアセタール)、4~20個の炭素原子(C4~C20フルオロアルキルアセタール)、6~16個の炭素原子(C6~C16フルオロアルキルアセタール)、6~24個の炭素原子(C6~C24フルオロアルキルアセタール)、6~9個の炭素原子(C6~C9フルオロアルキルアセタール)、1~15個の炭素原子(C1~C15フルオロアルキルアセタール)、1~12個の炭素原子(C1~C12フルオロアルキルアセタール)、1~8個の炭素原子(C1~C8アルキルアセタール)、または1~6個の炭素原子(C1~C6フルオロアルキルアセタール)を有する。本明細書で特に明記しない限り、フルオロアルキルアセタール基は適宜置換されていてよい。
【0063】
「複素環」は、2~12個の炭素原子、並びに窒素、酸素、及び硫黄から成る群から選択される1~6個のヘテロ原子で構成される安定した3~18員の非芳香族環の基を指す。本明細書で特に明記しない限り、ヘテロシクリル基は、縮合または架橋した環系を含んでもよい単環式、二環式、三環式、または四環式の環系であってもよく;かつ、ヘテロシクリル基の窒素、炭素、または硫黄原子は適宜酸化されていてもよく;窒素原子は適宜四級化されていてもよく;ヘテロシクリル基は適宜、部分的にまたは完全に飽和していてもよい。このようなヘテロシクリル基の例として、限定はされないが、ジオキソラニル、チエニル[1,3]ジチアニル、デカヒドロイソキノリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、2-オキソピペラジニル、2-オキソピペリジニル、2-オキソピロリジニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、4-ピペリドニル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、キヌクリジニル、チアゾリジニル、テトラヒドロフリル、トリチアニル、テトラヒドロピラニル、チオモルホリニル、チアモルホリニル、1-オキソ-チオモルホリニル、及び1,1-ジオキソ-チオモルホリニルが挙げられる。本明細書で特に明記しない限り、ヘテロシクリル基は適宜置換されていてもよい。
【0064】
本明細書で使用される用語「置換されている」は、上記の基(例えば、アルキル、アルケニル、フルオロアルキル、フルオロアルケニル、ペルフルオロ置換基、ペルフルオロ化合物、アルキレン、フルオロアルキレン、アリール、アルキルアセタール、フルオロアルキルアセタール、及び/または複素環)のいずれかであって、少なくとも1つの水素原子が非水素原子、例えば、限定はされないが:ハロゲン原子、例えば、F、Cl、Br、またはIなど;オキソ基(=O);ヒドロキシ基(-OH);カルボキシル基(-CO2H);C1~C12アルキル基;-(C=O)OR’;-O(C=O)R’;-C(=O)R’;-OR’;-S(O)xR’;-S-SR’;-C(=O)SR’;-SC(=O)R’;-NR’R’;-NR’C(=O)R’;-C(=O)NR’R’;-NR’C(=O)NR’R’;-OC(=O)NR’R’;-NR’C(=O)OR’;-NR’S(O)xNR’R’;-NR’S(O)xR’;及び-S(O)xNR’R’(式中、R’は出現ごとに、独立して、HまたはC1~C15アルキルであり、xは0、1、または2である)との結合により置き換えられているものを意味する。幾つかの実施態様では、置換基はC1~C12アルキル基である。他の実施態様では、置換基はフルオロなどのハロ基である。他の実施態様では、置換基はオキソ基である。他の実施態様では、置換基はヒドロキシ基である。他の実施態様では、置換基はアルコキシ基(-OR’)である。他の実施態様では、置換基はカルボキシル基である。他の実施態様では、置換基はアミン基(-NR’R’)である。
【0065】
「任意選択の」または「任意選択で」(例えば、任意選択で置換されている)は、その後に記載されている事象または起こっても、起こらなくてもよいことを意味し、その記載が、前記事象または状況が起こった場合とそれが起こらない場合とを含むことを意味する。例えば、「任意選択で置換されているアルキル」とは、アルキル基が置換されていてもよく、あるいは置換されていなくてもよいことを意味し、その記載が置換アルキルと置換を有さないアルキル基の両方を含むことを意味する。
【0066】
「プロドラッグ」とは、生理的条件下で、または加溶媒分解により、本発明の生物活性のある化合物に変換され得る化合物を示すことを意図する。したがって、「プロドラッグ」という用語は、薬学的に許容可能な、本発明の化合物の代謝前駆体を指す。プロドラッグは、それを必要とする対象に投与された時点で不活性であってよいが、in vivoで本発明の活性化合物に変換される。プロドラッグは通常、例えば、血中の加水分解により、in vivoで急速に変換されて、本発明の親化合物を産生する。プロドラッグ化合物は、哺乳類生物体において、溶解性、組織適合性または徐放性という利点をしばしばもたらす(Bundgard, H.、 Design of Prodrugs (1985年)、7~9頁、21~24頁(Elsevier, Amsterdam)を参照されたい)。プロドラッグの議論は、Higuchi, T., et al.、 A.C.S. Symposium Series、14巻及びBioreversible Carriers in Drug Design、 Ed. Edward B. Roche、 American Pharmaceutical Association and Pergamon Press、 1987年において提供されている。
【0067】
「プロドラッグ」という用語はまた、このようなプロドラッグが哺乳動物の対象に投与された場合に本発明の活性化合物をin vivoで放出する、任意の共有結合した担体を含むことを意図する。本発明の化合物のプロドラッグは、修飾が、日常的な操作またはin vivoのいずれかで切断されて本発明の親化合物になるように、本発明の化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製できる。プロドラッグは、ヒドロキシ、アミノまたはメルカプト基が、本発明の化合物のプロドラッグが哺乳動物の対象に投与されたとき、切断されて、遊離ヒドロキシ、遊離アミノまたは遊離メルカプト基をそれぞれ形成する任意の基に結合している、本発明の化合物を含む。プロドラッグの例として、限定はされないが、本発明の化合物中のアルコールのアセテート、ホルメート及びベンゾエート誘導体またはアミン官能基のアミド誘導体などが挙げられる。
【0068】
本明細書で開示されている発明はまた、1つまたは複数の原子が、異なる原子量または質量数を有する原子で置き換えられることにより同位体標識されている、構造(I)の化合物の全ての薬学的に許容可能な化合物を包含することを意図している。開示される化合物に取り込むことができる同位体の例として、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素、塩素、及びヨウ素の同位体、例えば、それぞれ2H、3H、11C、13C、14C、13N、15N、15O、17O、18O、31P、32P、35S、18F、36Cl、123I、及び125Iなどが挙げられる。これらの放射標識した化合物は、例えば、作用部位若しくは作用機序、または薬理学的に重要な作用部位への結合親和性を特徴づけることにより、化合物の有効性を判定または測定するのに有用であり得る。ある特定の同位体で標識された、構造(I)または(II)の化合物、例えば放射性同位体を取り込んでいるものは、薬物及び/または基質組織分布研究において有用である。放射性同位元素トリチウム、すなわち3H、及び炭素14、すなわち14Cは、これらの組み込みの容易さ及び利用可能な検出手段を考慮すると、この目的に特に有用である。
【0069】
より重い同位体、例えば、重水素、すなわち、2Hなどによる置換は、より大きな代謝安定性、例えば、in vivo半減期の延長または必要用量の減少に起因する、ある特定の治療上の利点をもたらす可能性があるため、一部の状況では好ましいこともある。
【0070】
ポジトロン放出同位体、例えば、11C、18F、15O、及び13Nなどによる置換は、基質受容体占有率を試験するためのポジトロン放出トポグラフィー(PET)研究において有用であり得る。同位体標識された構造(I)の化合物は、当業者に公知の従来の技術によって、または以前に利用した非標識試薬の代わりに、適当な同位体標識した試薬を使用して、以下に提示されているように、調製及び実施例に記載されているものと類似のプロセスにより一般的に調製し得る。
【0071】
本明細書で開示されている発明はまた、開示される化合物のin vivo代謝産物を包含することを意図する。このような産物は、主に酵素的プロセスによる、例えば、投与された化合物の酸化、還元、加水分解、アミド化、エステル化などから生じ得る。したがって、本発明は、その代謝産物を産生するのに十分な期間にわたって、本発明の化合物を哺乳動物に投与することを含むプロセスにより生成される化合物を含む。このような産物は、本発明の放射標識した化合物を検出可能な用量で、動物、例えばラット、マウス、モルモット、サルまたはヒトに投与し、代謝が起きるだけの十分な時間放置し、尿、血液または他の生物試料からその変換産物を単離することによって通常同定される。
【0072】
「安定した化合物」及び「安定した構造」とは、反応混合物から有用な程度の純度への単離及び効果的治療剤への製剤化に耐え抜くのに十分に強固な化合物を示すことを意図する。
【0073】
「哺乳動物」は、ヒト並びに飼育動物、例えば、実験動物及びペット(例えば、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ)と、非飼育動物、例えば野生生物などの両方を含む。
【0074】
「薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤」として、限定はされないが、任意のアジュバント、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、防腐剤、色素/着色剤、香味向上剤、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、安定剤、等張剤、溶媒、または乳化剤が挙げられ、これらは、ヒトまたは家畜における使用が許容可能であるとして米国食品医薬品局により認可されたものである。
【0075】
「薬学的に許容可能な塩」は、酸付加塩及び塩基付加塩の両方を含む。
【0076】
「薬学的に許容可能な酸付加塩」とは、遊離塩基の生物学的有効性及び特性を保持し、生物学的に他の点において有害ではなく、無機酸、例えば、限定されないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、及び有機酸、例えば、限定されないが、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、カンファー酸、カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソ-グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、イソ酪酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸、ピルビン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ウンデシレン酸などと形成される塩を指す。
【0077】
「薬学的に許容可能な塩基添加塩」とは、遊離酸の生物学的有効性及び特性を保持し、生物学的にまたは他の点において有害ではない塩を指す。これらの塩は、無機塩基または有機塩基の遊離酸への付加から調製される。無機塩基に由来する塩として、限定はされないが、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩などが挙げられる。好ましい無機塩は、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウム塩である。有機塩基に由来する塩として、限定はされないが、第一級、第二級、及び第三級アミン、天然置換アミンを含めた置換アミン、環状アミン及び塩基性イオン交換樹脂の塩、例えば、アンモニア、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、デアノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、ベネタミン、ベンザチン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などが挙げられる。特に好ましい有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、及びカフェインである。
【0078】
結晶化は多くの場合、本発明の化合物の溶媒和物を生成する。本明細書で使用される場合、用語「溶媒和物」は、本発明の化合物の1つ以上の分子と、溶媒の1つ以上の分子とを含む凝集体を指す。溶媒は水であってよく、その場合、溶媒和物は水和物であってよい。あるいは、溶媒は有機溶媒であってもよい。したがって、本発明の化合物は、一水和物、二水和物、半水和物、セスキ水和物、三水和物、四水和物などを含めた水和物、並びに対応する溶媒和の形態として存在し得る。本発明の化合物は真の溶媒和物であってもよいが、一方で、他の場合では、本発明の化合物は、単に外来性の水を保持してもよく、あるいは水と外来性溶媒の混合物であってもよい。
【0079】
「医薬組成物」とは、本発明の化合物と、哺乳動物、例えば、ヒトに生物活性化合物を送達するために、当技術分野において一般的に認められた媒体との製剤を指す。このような媒体として、そのための全ての薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤が挙げられる。
【0080】
「有効量」または「治療有効量」とは、哺乳動物、好ましくはヒトに投与された場合、哺乳動物、好ましくはヒトにおける治療を実行するのに十分である、本発明の化合物の量を指す。「治療有効量」を構成する本発明の脂質ナノ粒子の量は、化合物、状態、及びその重症度、投与方式、並びに治療すべき哺乳動物の年齢に応じて変動するものであるが、当業者であれば、自身の知識及び本開示を考慮して定型的に決定することができる。
【0081】
「治療する」または「治療」は、本明細書で使用される場合、目的の疾患または状態を有する哺乳動物、好ましくはヒトにおける目的の疾患または状態の治療を網羅し、
(i)哺乳動物において、特に、このような哺乳動物がその状態に罹りやすくなっているが、それを有するとまだ診断されていない場合、その疾患若しくは状態が生じるのを防止すること、
(ii)疾患若しくは状態を阻害する、すなわち、その発症を抑止すること
(iii)疾患若しくは状態を緩和する、すなわち、その疾患若しくは状態の退行を引き起こすこと、または
(iv)疾患若しくは状態に起因する症状を緩和する、すなわち、根底にある疾患若しくは状態に対処することなく疼痛を緩和すること
を含む。本明細書で使用される場合、用語「疾患」及び「状態」は、互換的に使用してもよく、あるいは特定の疾病若しくは状態が公知の原因因子を有さないこともあり(そのため原因がまだ解明されておらず)、したがって疾病としてまだ認識されていないが、程度の差はあるが特定の一連の症状が臨床医により確認されている望ましくない状態若しくは症候群としてのみ認識されているという点で異なっていてもよい。
【0082】
本発明の化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、1つ以上の不斉中心を含有してもよく、したがって、アミノ酸について、絶対立体化学の観点から、(R)-若しくは(S)-、または(D)-若しくは(L)-と定義することができるエナンチオマー、ジアステレオマー、及び他の立体異性形態が生じてもよい。本発明は、全てのこのような可能な異性体、並びにこれらのラセミ体及び光学的に純粋な形態を含むことを意図する。光学活性(+)及び(-)、(R)-及び(S)-、または(D)-及び(L)異性体は、キラルシントン若しくはキラル試薬を使用して調製してもよく、または従来技術、例えば、クロマトグラフィー及び分別晶析法を使用して分画してもよい。個々のエナンチオマーの調製/単離の従来技術は、適切な光学的に純粋な前駆体からのキラル合成、または、例えば、キラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用したラセミ体(または塩若しくは誘導体のラセミ体)の分割を含む。本明細書に記載の化合物がオレフィン二重結合または他の幾何的不斉中心を含有する場合、特に指定がない限り、化合物は、E及びZの両方の幾何異性体を含むことが意図される。同様に、全ての互変異性形態もまた含まれることが意図される。
【0083】
「立体異性体」とは、同じ結合により結合した同じ原子で構成されるが、互換可能ではない、異なる三次元構造を有する化合物を指す。本発明は、様々な立体異性体及びその混合物を想定し、「エナンチオマー」を含み、「エナンチオマー」とは、その分子が互いに重ね合わせ不可能な鏡像である2つの立体異性体を指す。
【0084】
「互変異性体」とは、ある分子の1つの原子から、同じ分子の別の原子へのプロトン移動を指す。本発明は任意の前記化合物の互変異性体を含む。
【0085】
化合物
ある側面では、本発明は、オリゴヌクレオチドを伴う脂質ナノ粒子を形成するために、他の脂質成分、例えば、中性脂質、荷電脂質、ステロイド、及び/またはポリマーコンジュゲート脂質などと組み合わせることが可能である新規脂質化合物を提供する。理論に制約されることを望むものではないが、これらの脂質ナノ粒子は、血清中において治療剤を分解から遮蔽し、in vitro及びin vivoにおいて、治療剤の細胞への有効な送達を提供すると考えられている。
【0086】
一実施態様では、前記化合物は下記構造(I):
【化3】
(I)
を有するか、またはその薬学的に許容可能な塩、互変異性体、若しくは立体異性体である
[式中、
L
1は-O(C=O)R
1a、-(C=O)OR
1a、-C(=O)R
1a、-OR
1a、-S(O)
xR
1a、-S-SR
1a、-C(=O)SR
1a、-SC(=O)R
1a、-NR
aC(=O)R
1a、-C(=O)NR
aR
1a、-NR
aC(=O)NR
aR
1a、-OC(=O)NR
aR
1a、-NR
aC(=O)OR
1aまたはR
1bであり;
L
2は-O(C=O)R
2a、-(C=O)OR
2a、-C(=O)R
2a、-OR
2a、-S(O)
xR
2a、-S-SR
2a、-C(=O)SR
2a、-SC(=O)R
2a、-NR
aC(=O)R
2a、-C(=O)NR
aR
2a、-NR
aC(=O)NR
aR
2a、-OC(=O)NR
aR
2a、-NR
aC(=O)OR
2a、またはR
2bであり;
G
1及びG
2はそれぞれ独立して、直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12アルキレンまたは直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;
G
3は直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12アルキレンまたは直鎖若しくは分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;
R
aはそれぞれ独立して、HまたはC
1~C
12アルキルであり;
R
1a及びR
2aはそれぞれ独立して、分岐鎖C
6~C
24アルキル、分岐鎖C
6~C
24アルケニル、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルキル、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルケニル、C
6~C
24アルキルアセタール、またはC
6~C
24フルオロアルキルアセタールであり;
R
1b及びR
2bはそれぞれ独立して、-CH(OR)(OR)であってここで、Rはそれぞれ独立して、直鎖または分岐鎖C
6~C
18アルキル、直鎖または分岐鎖C
6~C
18アルケニル、直鎖または分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキル、または直鎖若しくは分岐鎖C
6~C
18フルオロアルケニルであり;
R
3はH、-OR
5、-CN、-C(=O)OR
4、-OC(=O)R
4、-N(R
5)N
4、-C(=O)N(R
4)R
5、または-NR
5C(=O)R
4であり;及び
R
4はH、C
1~C
12アルキル、またはアリールであり、R
5はHまたはC
1~C
6アルキルであり;あるいは、R
4及びR
5は、それらが結合している窒素原子と一緒になって5、6または7員複素環を形成し、及び
ここで、G
1及びG
2のうち少なくとも1つは直鎖または分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;G
3は直鎖または分岐鎖C
1~C
12フルオロアルキレンであり;R
1a及びR
2aのうち少なくとも1つは存在し、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルキル、分岐鎖C
6~C
24フルオロアルケニル、及びC
6~C
24フルオロアルキルアセタールから選択され;及び/またはR
1b及びR
2bのうち少なくとも1つは存在し、直鎖または分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキル及び直鎖または分岐鎖C
6~C
18フルオロアルケニルから選択される]。
【0087】
化合物(I)の様々な実施態様では、RaはそれぞれC1~C12アルキルである。
【0088】
幾つかの実施態様では、前記化合物は下記構造(IA):
【化4】
(IA)
を有する
[式中、
R
6は、出現ごとに、独立してH、F、OH、またはC
1~C
24アルキルであり;
nは1~15の整数である]。
【0089】
幾つかの実施態様では、前記化合物は下記構造(IB):
【化5】
(IB)
を有する
[式中、
y及びzはそれぞれ独立して、1~12の整数であり;及び
R
7は、出現ごとに、独立してHまたはFである]。
【0090】
前述の任意の実施態様において、L1は-O(C=O)R1aまたは-(C=O)OR1aであり、L2は-O(C=O)R2aまたは-(C=O)OR2aである。例えば、幾つかの実施態様では、L1は-O(C=O)R1aであり、L2は-O(C=O)R2aである。他の例では、L1は-O(C=O)R1aであり、L2は-(C=O)OR2aである。更に他の例では、L1は-(C=O)OR1aであり、L2は-O(C=O)R2aである。更に他の例では、L1は-(C=O)OR1aであり、L2は-(C=O)OR2aである。
【0091】
幾つかの実施態様では、前記化合物は下記構造(IC)または(ID):
【化6】
を有する。
【0092】
幾つかの実施態様では、前記化合物は構造(IC)を有する。他の実施態様では、前記化合物は構造(ID)を有する。
【0093】
更なる実施態様では、前記化合物は下記構造(IE)または(IF):
【化7】
を有する。
【0094】
幾つかの実施態様では、前記化合物は構造(IE)を有する。他の実施態様では、前記化合物は構造(IF)を有する。
【0095】
幾つかの実施態様では、nは2~12の整数である。例えば、幾つかの実施態様では、nは2、3、4、または5である。幾つかの実施態様では、nは2である。幾つかの実施態様では、nは3である。幾つかの実施態様では、nは4である。幾つかの実施態様では、nは5である。
【0096】
幾つかの実施態様では、y及びzはそれぞれ独立して、2~10の整数である。例えば、幾つかの実施態様では、y及びzはそれぞれ独立して、4~9の整数である。幾つかの実施態様では、y及びzはそれぞれ独立して5である。幾つかの実施態様では、y及びzはそれぞれ独立して6である。幾つかの実施態様では、y及びzはそれぞれ独立して7である。幾つかの実施態様では、y及びzはそれぞれ独立して8である。
【0097】
幾つかの実施態様では、R6はHである。
【0098】
幾つかの実施態様では、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、下記構造:
【化8】
を有する
[式中、
R
8a及びR
8bは、出現ごとに、独立してH、F、C
2~C
16アルキル、またはC
2~C
16フルオロアルキルであり;
aは1~16の整数であり;及び
R
8a、R
8b及びaはそれぞれ、R
1及びR
2がそれぞれ独立して、分岐鎖C
6~C
18アルキルまたは分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキルを含むように選択される]。
【0099】
幾つかの実施態様では、R8aの出現のうち、少なくとも1つはHである。例えば、幾つかの実施態様では、R8aは出現ごとにHである。幾つかの実施態様では、R8aまたはR8bの出現のうち、少なくとも1つはFである。例えば、幾つかの実施態様では、R8aは出現ごとにFである。他の例として、幾つかの実施態様では、R8bは出現ごとにFである。
【0100】
幾つかの実施態様では、R8aはC2フルオロアルキルであり、R8bはC9アルキルであり、aは1である。幾つかの実施態様では、R8aは1回の出現でC2フルオロアルキルであり、R8bは出現ごとにHであり、aは10である。幾つかの実施態様では、R8aは1回の出現でC9アルキルであり、R8bは2回の出現でFであり、aは3である。
【0101】
幾つかの実施態様では、R8aはC8フルオロアルキルであり、R8bはC8フルオロアルキルであり、aは1である。幾つかの実施態様では、R8aは1回の出現でC8フルオロアルキルであり、R8bは5回の出現でFであり、aは9である。
【0102】
幾つかの実施態様では、R
1、R
2、またはその両方は、分岐鎖C
6~C
18フルオロアルキルである。例えば、幾つかの実施態様では、R
1、R
2、またはその両方は、分岐鎖C
10~C
18フルオロアルキルである。幾つかの実施態様では、R
1若しくはR
2、またはその両方は、下記構造:
【化9】
の1つを有する。
【0103】
幾つかの実施態様では、R
1a及びR
2aのうち少なくとも1つは、C
6~C
24アルキルアセタールまたはC
6~C
24フルオロアルキルアセタールである。例えば、幾つかの実施態様では、R
1a及びR
2aのうち少なくとも1つは、下記構造:
【化10】
を有する。
【0104】
幾つかの実施態様では、L
1及びL
2のうち少なくとも1つは、それぞれR
1bまたはR
2bである。例えば、幾つかの実施態様では、R
1b若しくはR
2b、またはその両方は、下記構造:
【化11】
を有する。
【0105】
幾つかの実施態様では、R3はOHである。幾つかの実施態様では、R3はCNである。幾つかの実施態様では、R3はC(=O)OR4、OC(=O)R4または-NHC(=O)R4である。例えば、幾つかの実施態様では、R4はメチルまたはエチルである。
【0106】
幾つかの実施態様では、R
3は-C(=O)OR
4、-C(=O)N(R
4)R
5、または-NR
5C(=O)R
4である
[式中、R
4及び/またはR
5はヒドロキシ、アリール、OR
4a、O(C=O)R
4a、NH(C=O)R
4aによって任意選択で置換されており、ここでR
4aは、ヒドロキシによって任意選択で置換されているC
1~C
6アルキルである]。例えば、幾つかの実施態様では、R
3は下記構造:
【化12】
の1つを有する
【0107】
幾つかの実施態様では、前記化合物は下記構造(IG)または(IH):
【化13】
の1つを有する
[式中、
R
11及びR
12はそれぞれ独立して、C
1~C
12アルキルである;あるいはR
11及びR
12は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、窒素原子を1つ含む、5、6または7員複素環を形成する]。
【0108】
幾つかの実施態様では、前記化合物は構造(IG)を有する。他の実施例では、前記化合物は構造(IH)を有する。
【0109】
幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)が有するR11及びR12のうち少なくとも1つはメチルである。幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)におけるR11及びR12はそれぞれメチルである。幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)が有するR11及びR12のうち少なくとも1つはエチルである。幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)におけるR11及びR12はそれぞれエチルである。幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)が有するR11及びR12は、窒素原子と一緒になってピロリジンを形成する。幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)が有するR11及びR12は、窒素原子と一緒になってピペリジンを形成する。幾つかの実施態様では、構造(IG)または(IH)が有するR11及びR12は、窒素原子と一緒になってアゼパンを形成する。
【0110】
幾つかの実施態様では、G1は直鎖C1~C12フルオロアルキレンである。幾つかの実施態様では、G2は直鎖C1~C12フルオロアルキレンである。幾つかの実施態様では、R1aは分岐鎖C6~C24フルオロアルキルである。幾つかの実施態様では、R2aは分岐鎖C6~C24フルオロアルキルである。
【0111】
幾つかの実施態様では、前記化合物は少なくとも2つのフッ素原子を有する。幾つかの実施態様では、前記化合物は少なくとも3つのフッ素原子を有する。幾つかの実施態様では、前記化合物は少なくとも1つのペルフルオロ置換基を有する。幾つかの実施態様では、前記化合物はペルフルオロ化合物である。
【0112】
他の様々な実施態様では、前記化合物は下の表1に提示した構造の1つを有する。
表1.代表的な化合物
【表1】
【表2】
【0113】
上に記載されているような構造(I)の化合物の任意の実施態様、及び上に記載されているような構造(I)の化合物における任意の具体的な置換基及び/または変数は、構造(I)の化合物の他の実施態様並びに/または置換基及び/若しくは変数と独立して組み合わせることによって、上に具体的に記載されていない本発明の実施態様を形成できることが理解される。加えて、特定の実施態様及び/または請求項において、置換基及び/または変数の一覧が、任意の特定のR基、G基、L基、または変数a、y、z、若しくはnに対して列挙されている場合、それぞれ個々の置換基及び/または変数は、特定の実施態様及び/または請求項から削除されてよく、置換基及び/または変数の残りの一覧は、本開示の範囲内にあると考えられることが理解される。
【0114】
本記載では、示されている式の置換基及び/または変数の組み合わせは、そのような寄与が安定した化合物をもたらす場合のみ許容できることが理解されている。
【0115】
幾つかの実施態様では、構造(I)の化合物を含む組成物が提供される。幾つかの実施態様では、構造(I)の化合物を含む脂質ナノ粒子を含む組成物が提供される。脂質ナノ粒子は、中性脂質、ステロイド、及びポリマーコンジュゲート脂質から選択される賦形剤を任意選択で含む。
【0116】
幾つかの実施態様では、構造(I)の化合物のいずれか1つ以上と、治療剤とを含む脂質ナノ粒子が提供される。例えば、幾つかの実施態様では、脂質ナノ粒子は、構造(I)の化合物のいずれかと、治療剤と、中性脂質、ステロイド及びポリマーコンジュゲート脂質から選択される1つ以上の賦形剤とを含む。他の薬学的に許容可能な賦形剤及び/または担体もまた、脂質ナノ粒子の様々な実施態様に含まれている。
【0117】
幾つかの実施態様では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPE、及びSMから選択される。幾つかの実施態様では、中性脂質はDSPCである。様々な実施態様では、化合物と中性脂質とのモル比は、約2:1~約8:1の範囲である。
【0118】
様々な実施態様では、脂質ナノ粒子は、ステロイドまたはステロイドアナログを更に含む。ある特定の実施態様では、ステロイドまたはステロイドアナログはコレステロールである。これらの実施態様の幾つかでは、化合物とコレステロールとのモル比は、約5:1~1:1または2:1~5:1の範囲である。
【0119】
様々な実施態様では、ポリマーコンジュゲート脂質はペグ化脂質である。例えば、幾つかの実施態様は、ペグ化ジアシルグリセロール(PEG-DAG)、例えば、1-(モノメトキシ-ポリエチレングリコール)-2,3-ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG)、ペグ化ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanoloamine)(PEG-PE)、PEGスクシネートジアシルグリセロール(PEG-S-DAG)、例えば、4-O-(2’,3’-ジ(テトラデカノイルオキシ)プロピル-1-O-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)ブタンジオエート(PEG-S-DMG)、ペグ化セラミド(PEG-cer)、またはPEGジアルコキシプロピルカルバメート、例えば、ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル-N-(2,3-ジ(テトラデカンオキシ)プロピル)カルバメート、または2,3-ジ(テトラデカンオキシ)プロピル-N-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)カルバメートを含む。様々な実施態様では、化合物とペグ化脂質とのモル比は、約100:1~約20:1である。幾つかの実施態様では、化合物とペグ化脂質とのモル比は、約100:1~約20:1、または約100:1~約10:1である。
【0120】
幾つかの実施態様では、脂質ナノ粒子は下記構造(II):
【化14】
を有するペグ化脂質またはその薬学的に許容可能な塩、互変異性体若しくは立体異性体を含む
[式中、
R
9及びR
10は、それぞれ独立して、10~30個の炭素原子を含有する、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和のアルキル鎖であり、ここで、アルキル鎖は1つ以上のエステル結合により、任意選択で分断されており、wは30~60の平均値を有する]。
【0121】
幾つかの実施態様では、R9及びR10はそれぞれ独立して、12~16個の炭素原子を含有する、直鎖の飽和アルキル鎖である。他の実施態様では、wの平均は約42~55であり、例えば約49である。
【0122】
前述の脂質ナノ粒子の幾つかの実施態様では、治療剤は核酸を含む。例えば、幾つかの実施態様では、核酸は、アンチセンスRNA及びメッセンジャーRNAから選択される。
【0123】
他の異なる実施態様では、本開示は、投薬が必要な患者に治療剤を投与するための方法であって、前述の組成物のいずれかを調製または提供すること、及び組成物を患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0124】
投与の目的のために、本開示の実施態様の化合物(通常、治療剤と組み合わせた脂質ナノ粒子の形態で)は、原末(raw chemical)として投与してもよく、あるいは医薬組成物として製剤化してもよい。本開示の実施態様における医薬組成物は、構造(I)の化合物と、1つ以上の薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤とを含む。幾つかの実施態様では、構造(I)の化合物は、例えば、目的の特定の疾患または状態を治療するために、脂質ナノ粒子を形成し、治療剤を送達するのに有効である量で、組成物中に存在する。適当な濃度及び投薬量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0125】
本開示の実施態様における組成物の投与は、同様の有用性を果たすための薬剤の容認された投与モードのいずれかを介して行い得る。本開示の実施態様における医薬組成物は、固体、半固体、液体または気体の形態の調製物、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、懸濁剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、及びエアゾール剤に製剤化してよい。このような医薬組成物を投与する典型的な経路として、限定はされないが、経口、局所、経皮、吸入、非経口、舌下、口腔内頬側、直腸、経腟、及び鼻腔内が挙げられる。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、皮内、胸骨内注射または注入技術を含む。本開示の実施態様における医薬組成物は、組成物を患者に投与すると、その中に含まれている活性成分が生物学的に利用可能となるように製剤化される。幾つかの実施態様において、対象または患者に投与される組成物は、1つ以上の用量単位の形態をとり、この場合、例えば、錠剤は単一用量単位であってよく、エアゾール剤形態の本開示の実施態様における化合物の容器は、複数の用量単位を有してもよい。このような剤形を調製する実際の方法は公知であるか、または当業者にとって明らかであろう;例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20版(Philadelphia College of Pharmacy and Science,2000年)を参照されたい。幾つかの実施態様では、投与される組成物は、いずれにしても、本開示の教示に従って、目的の疾患または状態の治療のために、本開示の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を含有する。
【0126】
本開示の実施態様における医薬組成物は、固体または液体の形態であってよい。一側面では、担体(複数可)は微粒子であり、これによって、組成物は、例えば、錠剤または散剤の形態である。担体(複数可)は液体であってよく、組成物は、例えば、経口シロップ剤、注射液、または、例えば、吸入投与に有用であるエアゾール剤である。
【0127】
経口投与が意図される場合、ある特定の実施態様における医薬組成物は、好ましくは、固体または液体のいずれかの形態であり、半固体、半液体、懸濁剤、及びゲル剤の形態は、本明細書で固体または液体のいずれかと考えられる形態に含まれる。
【0128】
経口投与のための固体組成物として、幾つかの実施態様における医薬組成物は、散剤、顆粒剤、圧縮錠剤、丸剤、カプセル剤、チューイングガム、ウエハーなどの形態に製剤化されてよい。このような固体組成物は、通常1つ以上の不活性希釈剤または食用担体を含有するものである。加えて、以下の1つ以上が存在してよい:結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなど;賦形剤、例えば、デンプン、ラクトースまたはデキストリンなど;崩壊剤、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、Primogel、コーンスターチなど;滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotexなど;流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素など;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンなど;香味剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香味料など;及び着色剤。
【0129】
幾つかの実施態様における医薬組成物が、カプセル剤、例えば、ゼラチンカプセル剤の形態である場合、医薬組成物は、上記の材料に加えて、液体担体、例えば、ポリエチレングリコールまたは油を含有してよい。
【0130】
幾つかの実施態様における医薬組成物は液体の形態、例えば、エリキシル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、または懸濁剤などであってよい。液体は、2つの例として、経口投与用または注射による送達のためのものであってよい。経口投与が意図される場合、好ましい組成物は、構造(I)の化合物に加えて、甘味剤、防腐剤、染料/着色剤及び香味向上剤の1つ以上を含有する。注射による投与が意図される組成物では、界面活性薬剤、防腐剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤、及び等張剤の1つ以上が含まれていてよい。
【0131】
本開示の実施態様における液体医薬組成物は、これらが、液剤、懸濁剤または他の同様の形態であろうと、以下のアジュバントの1つ以上を含んでよい:無菌希釈剤、例えば、注射用の水、食塩水、好ましくは生理的食塩水、リンゲル溶液、等張性塩化ナトリウム、不揮発性油、例えば、溶媒または懸濁媒としての役割を果たすことができる合成モノまたはジグリセリド、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩、及び張性調整剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース;凍結保護剤として作用する薬剤、例えば、スクロースまたはトレハロース。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨てのシリンジまたは複数回投与バイアルに封入することができる。生理的食塩水は好ましいアジュバントである。注射用医薬組成物は好ましくは無菌である。
【0132】
本開示の実施態様における医薬組成物は、局所投与を意図してよく、この場合、担体は、液剤、乳剤、軟膏剤またはゲル基剤を適切に含んでよい。基剤は、例えば、以下の1つ以上を含んでよい:ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱油、希釈剤、例えば水及びアルコールなど、並びに乳化剤及び安定剤。増粘剤は、局所投与用医薬組成物中に存在してよい。経皮投与が意図される場合、組成物は、経皮パッチまたはイオントフォレシスデバイスを含んでよい。
【0133】
本開示の実施態様における医薬組成物は、固体または液体用量単位の物理的形態を改変する様々な材料を含んでよい。例えば、組成物は、活性成分の周囲にコーティングシェルを形成する材料を含んでよい。コーティングシェルを形成する材料は通常不活性であり、例えば、糖、セラック、及び他の腸溶コーティング剤から選択され得る。あるいは、活性成分をゼラチンカプセル剤に収容してもよい。
【0134】
固体または液体形態の、本開示の実施態様における医薬組成物は、本開示の化合物に結合し、そうすることによってLNPの送達を補助する薬剤を含んでよい。この能力で作用することができる適切な薬剤として、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体、またはタンパク質が挙げられる。
【0135】
本開示の実施態様における医薬組成物は、エアゾール剤として投与することができる用量単位から成り得る。エアゾール剤という用語は、コロイド状の性質のものから加圧パッケージから成る系までにわたって様々な系を表すのに使用される。送達は、液化性または圧縮された気体によるものであっても、活性成分を分配する適切なポンプシステムによるものであってもよい。本開示の実施態様におけるLNPのエアゾール剤は、活性成分(複数可)を送達するために単相、二相、または三相系で送達されてよい。エアゾール剤の送達は、一緒になってキットを形成してよい、必要な容器、活性因子、弁、副容器などを含む。当業者は、過度の実験を行わずに、好ましいエアゾール剤を決定することができる。
【0136】
本開示の実施態様における医薬組成物は、薬学分野において公知の方法により調製することができる。例えば、注射による投与を意図された医薬組成物は、溶液を形成するために、本開示の脂質ナノ粒子と、無菌の、蒸留水または他の担体とを組み合わせることによって調製することができる。界面活性剤は、均一溶液または懸濁液の形成を促進するために加えることができる。界面活性剤は、水系送達系において、化合物の溶解または均一な懸濁を促進するために、本開示の化合物と非共有結合的に相互作用する化合物である。
【0137】
本開示の実施態様における組成物、またはその薬学的に許容可能な塩は、治療有効量で投与されるが、この治療有効量は、利用する特定の治療剤の活性、治療剤の代謝安定性及び作用期間、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、及び食習慣、投与モード及び時間、排出速度、薬物の組み合わせ、特定の障害または状態の重症度、並びに治療を受ける対象を含めた、様々な因子に応じて変動することになる。
【0138】
本開示の実施態様における組成物はまた、1つ以上の他の治療剤の投与と同時に、投与前に、または投与後に投与してよい。このような併用療法は、本開示の実施態様における組成物及び1つ以上の追加の活性薬剤の、単一の医薬投与製剤での投与、並びに、別個の医薬投与製剤の本開示の実施態様における組成物及び活性薬剤の投与を含む。例えば、本開示の実施態様における組成物及び他の活性薬剤は、錠剤若しくはカプセル剤などの単一の経口投与製剤として一緒に患者に投与することができ、または各薬剤を別個の経口投与製剤として投与することができる。別個の投与製剤を使用する場合、本開示の実施態様における化合物及び、1つ以上の追加の活性薬剤は、本質的に同じ時間、すなわち、同時に、または時間をずらして別々に、すなわち、逐次的に投与することができ、併用治療は、これらの全てのレジメンを含むと理解されている。
【0139】
上記化合物及び組成物のための調製方法は、本明細書で以下に記載されており、及び/または当技術分野において公知である。
【0140】
本明細書に記載のプロセスにおいて、中間体化合物の官能基を適切な保護基で保護することが必要であり得ることは、当業者であれば理解している。このような官能基として、ヒドロキシ、アミノ、メルカプト、及びカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシの適切な保護基として、トリアルキルシリル、またはジアリールアルキルシリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジフェニルシリルまたはトリメチルシリル)、テトラヒドロピラニル、ベンジルなどが挙げられる。アミノ、アミジノ、及びグアニジノの適切な保護基として、t-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。メルカプトの適切な保護基として、-C(O)-R’’(式中、R’’は、アルキル、アリール、またはアリールアルキルである)、p-メトキシベンジル、トリチルなどが挙げられる。カルボン酸の適切な保護基として、アルキル、アリール、またはアリールアルキルエステルが挙げられる。保護基は、当業者に公知であり、本明細書に記載されているような標準技術に従って付加または除去することができる。保護基の使用は、Green, T.W. 及び P.G.M. Wutz, Protective Groups in Organic Synthesis(1999),3版.,Wileyにおいて詳細に記載されている。当業者であれば理解しているように、保護基はまた、ポリマー樹脂、例えば、Wang樹脂、Rink樹脂、または2-クロロトリチル-クロリド樹脂などであってよい。
【0141】
本開示の化合物のこれらの保護された誘導体は、そのままでは薬理学的活性を保有していなくてよいが、これらが哺乳動物に投与され、その後体内で代謝されて、薬理学的活性のある本開示の化合物を形成することができることもまた当業者により理解されている。したがって、このような誘導体は、「プロドラッグ」として記載してよい。本開示の全てのプロドラッグは、本開示の範囲内に含まれる。
【0142】
更に、遊離塩基または酸の形態で存在する、本開示の実施態様における化合物は、当業者に公知の方法によって、適当な無機塩基若しくは有機塩基または無機酸若しくは有機酸で処理することによって、これらの薬学的に許容可能な塩に変換することができる。本開示の実施態様における化合物の塩は、標準技術によりこれらの遊離塩基または遊離酸の形態に変換することができる。
【0143】
下記の一般反応スキーム1及び2は、本発明の化合物、すなわち構造(I)、構造(IC)、または構造(ID):
【化15】
を有する化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、互変異性体若しくは立体異性体を合成する例示的な方法を図示している[式中、R
1a、R
2a、R
3、L
1、L
2、G
1、G
2、及びG
3は本明細書で定義された通りである]。当業者であれば、同様の方法で、または当業者に公知の他の方法を組み合わせることにより、これらの化合物を合成でき得ることが理解されている。当業者であれば、適当な出発成分を使用し、必要に応じて合成パラメーターを修正することによって、以下に具体的に図示されていない他の構造(I)、(IC)、または(ID)を、以下に記載されているものと同様の方式で合成できるであろうこともまた理解されている。一般的に、出発成分は、Sigma Aldrich、Lancaster Synthesis,Inc.、Maybridge、Matrix Scientific、TCI、及びFluorochem USAなどの供給元から得てもよく、当業者に公知の情報源に従い合成してもよく(例えば、Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms,and Structure、5版(Wiley、2000年12月)を参照されたい)、あるいは本開示に記載の通り調製してもよい。
【0144】
【化16】
一般反応スキーム1は、構造(I)のL
1及びL
2がそれぞれ、-O(C=O)R
1a及び-O(C=O)R
2aである構造(IC)の化合物を調製するための例示的な方法を提供する。一般反応スキーム1におけるG
1、G
3、R
1a、R
2a、及びR
3は、本明細書で定義された通りであり、G
1’は、G
1より炭素が1つ少ないアナログを指す。構造A-1の化合物は、購入するか、あるいは当技術分野において公知の方法で調製される。適切な縮合条件下(例えばDCC)における、A-1とジオールA-2との反応によって、エステル/アルコールA-3を得て、その後A-3は、アルデヒドA-4へと酸化(例えばPCC)され得る。還元的アミノ化条件下における、A-4とアミンA-5との反応によって、構造(IC)の化合物を得る。
【0145】
【化17】
一般反応スキーム2は、構造(I)のL
1及びL
2がそれぞれ、-(C=O)OR
1a及び-(C=O)OR
2aである構造(ID)の化合物を調製するための例示的な方法を提供する。一般反応スキーム2におけるG
1、G
3、R
1a、R
2a、及びR
3は、本明細書で定義された通りである。構造A-6の化合物は購入するか、あるいは当技術分野において公知の方法で調製される。A-6は他の脱離基、例えばヨウ化物、塩化物、トシレート、トリフレートなどであり得る。酸性条件下の適切なエステル化条件下における、A-6とアルコールA-7との反応によって、エステルA-8を得る。還元的アミノ化条件下における、A-8とアミンA-5との反応によって、構造(ID)の化合物を得る。
【0146】
当業者にとって、構造(IC)または(ID)の化合物を調製するための様々な別の戦略が利用可能であることは留意されたい。例えば、L1とL2がエステルではない、構造(IC)または(ID)の他の化合物は、適切な出発原料を用いる類似の方法に従って調製し得る。更に、一般反応スキーム1及び2は、G1とG2が同じである、構造(IC)及び(ID)の化合物の調製を描写しているが、これは本発明において必要な側面ではなく、上記の反応スキームを修正することによって、G1とG2が異なる化合物を得ることは可能である。加えて、一般反応スキーム1及び2は、R1aとR2aが同じである、構造(IC)及び(ID)の化合物の調製を描写しているが、これは本発明において必要な側面ではなく、上記の反応スキームを修正することによって、R1aとR2aが異なる化合物を得ることは可能である。必要な保護基の使用及び上記の一般反応スキームに対する他の修正は、当業者にとって容易に明らかであろう。下記の実施例は、例示の目的のために提供されるのであって、限定はされない。
【実施例1】
【0147】
脂質ナノ粒子組成物を使用したルシフェラーゼmRNAのin vivo評価
PCT公開番号WO2015/199952及びWO2017/004143(これらの全開示が、本明細書で参照により援用される)に記載の一般的な手順に従って、脂質ナノ粒子を調製及び試験した。簡潔に言えば、カチオン性脂質、DSPC、コレステロール、及びPEG脂質を、約50:10:38.5:1.5のモル比で、または約47.5:10:40.7:1.8のモル比で、エタノール中に可溶化した。脂質ナノ粒子(LNP)を、全脂質のmRNAに対する重量比約10:1~40:1で調製した。mRNAを、pH4の、10~50mMのクエン酸緩衝液または酢酸緩衝液で、0.2mg/mLに希釈した。シリンジポンプを使用して、エタノール性脂質溶液と前記mRNA水溶液を、15mL/分より速い全流速で、約1:5~1:3(vol/vol)の比で混合した。その後エタノールを除去し、外部の緩衝液を透析によりPBSに置き換えた。最後に、脂質ナノ粒子を、0.2μm細孔の無菌フィルターを介して濾過した。脂質ナノ粒子の粒径は、直径約55~95nmであって、幾つかの例では、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern、英国)を使用した準弾性光散乱により判定した場合、直径約70~90nmであった。
【0148】
動物実験委員会(institutional animal care committee)(ACC)及びカナダ動物管理協会(Canadian Council on Animal Care(CCAC))により確立されたガイドラインに従い、6~8週齢の雌のC57BL/6マウス(Charles River)または8~10週齢のCD-1(Harlan)マウス(Charles River)において研究を実施した。種々の用量のmRNA-脂質ナノ粒子を尾静脈注射により全身投与し、投与後特定の時点(例えば4時間)で動物を安楽死させた。肝臓及び脾臓をあらかじめ計量した管内に採取し、重量を測定し、液体窒素中で直ちに瞬間凍結し、分析用の処理が行われるまで-80℃で保存した。
【0149】
肝臓について、約50mgを分析用に切開し、2mLのFastPrep管(MP Biomedicals、Solon、OH)に供した。1/4インチのセラミック球(MP Biomedicals)を各管に加え、室温に平衡化した500μLのGlo Lysis Buffer-GLB(Promega,Madison WI)を肝臓組織に加えた。FastPrep24装置(MP Biomedicals)を、2×6.0m/秒で15秒間用いて、肝組織をホモジェナイズした。ホモジェネートを室温で5分間インキュベートした後、GLB中で1:4希釈し、SteadyGlo Luciferase assay system(Promega)を用いて評価した。具体的には、50μLの希釈済み組織ホモジェネートを50μLのSteadyGlo基質と反応させ、10秒間振盪し、続いて5分間インキュベートし、その後、CentroXS3 LB 960 luminometer(Berthold Technologies、ドイツ)を用いて定量した。アッセイしたタンパク質の量をBCAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford IL)を使用して決定した。その後、相対発光単位(RLU)をアッセイした全タンパク質(μg)に正規化した。RLUをルシフェラーゼ(ng)に変換するために、QuantiLum Recombinant Luciferase(Promega)を用いて検量線を作成した。
【0150】
Trilink Biotechnologies製FLuc mRNA(L-6107またはL-7202)は、もともと蛍、photinus pyralisから単離されたルシフェラーゼタンパク質を発現する。FLucは、遺伝子発現と細胞生存度の両方を測定するために、哺乳動物細胞培養において一般的に使用されている。これは、基質であるルシフェリンの存在下で生物発光を発する。このキャッピング及びポリアデニル化されたmRNAを、ウリジン及び/またはシチジンヌクレオシドに関して、完全に置換した。
【実施例2】
【0151】
脂質ナノ粒子組成物を用いた、免疫グロブリンG(IgG)mRNAのin vivo 評価
構造(I)の脂質、DSPC、コレステロール及びペグ脂質を、50:10:38.5:1.5または47.5:10:40.7:1.8のモル比でエタノール中に可溶化する。脂質ナノ粒子(LNP)を、全脂質のmRNAに対する重量比約10:1~40:1で調製する。簡潔に言えば、mRNAを、10~50mMのクエン酸緩衝液(pH4)または10~25mMの酢酸緩衝液(pH4)で、0.2mg/mLに希釈する。シリンジポンプを用いて、前記エタノール性脂質溶液と前記mRNA水溶液を、15mL/分より速い全流速で、約1:5~1:3(vol/vol)の比で混合する。その後エタノールを除去し、外部の緩衝液を透析によりPBSに置き換える。最後に、脂質ナノ粒子を、0.2μm細孔の無菌フィルターを介して濾過する。
【0152】
動物実験委員会(institutional animal care committee)(ACC)及びカナダ動物管理協会(Canadian Council on Animal Care(CCAC))により確立されたガイドラインに従い、6~8週齢のCD-1/ICRマウス(Envigo)において研究を実施する。種々の用量のmRNA-脂質ナノ粒子を尾静脈注射により全身投与し、投与後特定の時点(例えば24時間)で動物を安楽死させる。全血液を採取し、続けて、全血液入りの管を、4℃で10分間、2000×gで遠心分離することで血清を分離し、分析用の処理が行われるまで-80℃で保存する。
【0153】
免疫グロブリンG(IgG)ELISA(Life Diagnostics Human IgG ELISAキット)について、前記血清サンプルを、1×希釈溶液で100~15000倍に希釈する。希釈した血清100μLを、抗ヒトIgGコーティングされた96穴プレート中に分注し、並行して、ヒトIgGスタンダードにおいても同様にして、25℃で45分間、150rpmでプレートシェイカーにインキュベートする。プレート洗浄器を用いて、1×洗浄液でウェルを5回洗浄する(400μL/ウェル)。100μLのHRPコンジュゲートを各ウェルに加え、上記と同じ条件で、プレートシェイカーにインキュベートする。プレート洗浄器を用いて、1×洗浄液で再度ウェルを5回洗浄する(400μL/ウェル)。100μLのTMB試薬を各ウェルに加え、上記と同じ条件で、プレートシェイカーにインキュベートする。100μLの停止液を各ウェルに加えることで、反応を終了させる。マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの吸光(A450)を読み取る。標準アッセイのA450値を、ヒトIgG濃度に対してプロットすることで、マウス血清内のヒトIgG量を判定する。
【実施例3】
【0154】
製剤化した脂質のpKa判定
他の箇所で記載されているように、製剤化したカチオン性脂質のpKaは、核酸送達のためのLNPの有効性と相関する(Jayaramanら、Angewandte Chemie、International Edition(2012年)、51巻(34号)、8529~8533頁;Sempleら、Nature Biotechnology 28巻、172~176頁(2010年)を参照されたい)。pKaの好ましい範囲は約5~約7である。2-(p-トルイジノ)-6-ナフタレンスルホン酸(TNS)の蛍光に基づくアッセイを用いて、各カチオン性脂質のpKaを脂質ナノ粒子において判定した。PBS中に、カチオン性脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質(47.5/10/40.7/1.8mol%)を総脂質濃度0.4mMで含む脂質ナノ粒子を、実施例1に記載のインラインプロセスを用いて調製した。TNSは、蒸留水中100μMのストック溶液として調製した。ベシクルを24μM脂質/2mL緩衝溶液(10mM HEPES、10mM MES、10mM 酢酸アンモニウム、130mM NaClを含有する(pHは2.5~11の範囲である))で希釈した。小分けしたTNS溶液を加えて、最終濃度を1μMにして、ボルテックス混合した後、SLM Aminco Series 2 Luminescence Spectrophotometerで、321nm及び445nmの励起波長及び発光波長を使用して、室温にて蛍光強度を測定した。シグモイドのベストフィット分析を蛍光データに適用し、最大蛍光強度の半分の強度を示すpHとしてpKaを測定した。
【実施例4】
【0155】
in vivoにおいてルシフェラーゼ/IgG mRNAを発現したげっ歯類モデルを用いた、様々なカチオン性脂質を含有する脂質ナノ粒子製剤の効力の判定
表2に示す本開示の代表的な化合物を、次のモル比を用いて製剤化した:50%カチオン性脂質/10%ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)/38.5%コレステロール/1.5%PEG脂質2-[2-(ω-メトキシ(ポリエチレングリコール
2000)エトキシ]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド)または47.5%カチオン性脂質/10%DSPC/40.7%コレステロール/1.8%PEG脂質。実施例1に記載したように、尾静脈注射を介した投与の4時間後に肝臓内のルシフェラーゼ発現を測定することによって、あるいは実施例2に記載したように、マウス血清内のヒトIgG量を測定することによって相対活性を決定した。mRNAが1.0mg/kg、0.5mg/kgまたは0.3mg/kgの用量である場合において活性を比較し、実施例1に記載したように、投与後4時間後に測定したルシフェラーゼ(ng)/肝臓(g)として、あるいは実施例2に記載したように、投与後24時間後に測定したIgG(μg)/血清(mL)として活性を表した。表2に記載の化合物番号は表1に記載の化合物番号を参照している。
表2.カチオン性脂質及びそれに関連する活性
【表3】
I-3アナログは化合物I-3の非フッ化アナログであり、下記構造:
【化18】
を有する。
【実施例5】
【0156】
ビス(1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル)8,8’-((2-ヒドロキシエチル)アザンジイル)ジオクタノエート(化合物I-1)
【化19】
1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル 8-ブロモオクタノエート(中間体A)の合成
1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-オール(0.70g、2.53mmol)、8-ブロモオクタン酸(1.13g、5.06mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(60mg)の無水DCM溶液が満たされた丸底フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(1.1g、5.33mmol)を加えた。沈殿を濾過によって除去した。濾液を濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン混合液(濃度勾配:0~3%)で溶出)で精製した。これによって、無色油状物質(1.00g、2.08mmol、82%)の1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル 8-ブロモオクタノエートを得た。
【0157】
I-1の合成
2-アミノエタノール(33mg、0.55mmol)/無水THF(15mL)の溶液に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル 8-ブロモオクタノエート(0.50g、1.04mmol)、カルボン酸カリウム(0.14g、1.04mmol)、カルボン酸セシウム(53mg、0.16mmol)及びヨウ化ナトリウム(10mg)を加えた。混合液を、窒素条件下で7日間加熱還流した。溶媒を減圧下で蒸発気化させ、残渣をヘキサン/EtOAc(9:1)中に溶解し、水及び飽和食塩水で洗浄した。有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発気化させ、無色油状物質を得た。粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0~5% MeOH/DCM グラジエント)で数回精製し、I-1を無色油状物質として得た(50mg、0.06mmol、11%)。1HNMR (400 MHz, CDCl3) δ: 5.51-5.37 (m, 2H), 3.53 (t, 5.4 Hz, 2H), 2.58 (t, 5.4 Hz, 2H), 2.45 (t, 7.4 Hz, 4H), 2.37 (t, 7.4 Hz, 4H), 1.81-1.54 (m, 8H), 1.48-1.38 (m, 4H) 1.37-1.19 (m, 40H), 0.88 (t, 7.0 Hz, 6H). ESI-MS: C42H73F10NO5 [M+H]+ の MW 計算値 862.5; 実測値 862.7.
【実施例6】
【0158】
ビス(1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル)6,6’-((3-ヒドロキシプロピル)アザンジイル)ジヘキサノエート(化合物I-2)
化合物I-2を、実施例5に記載の一般的な手順に従って調製し、0.16gの無色油状物質(0.19mmol、18%)を得た。1HNMR (400 MHz, CDCl3)δ: 5.53-5.38 (m, 2H), 3.80 (t, 5.2 Hz, 2H), 2.64 (t, 5.2 Hz, 2H), 2.45-2.35 (m, 8H), 1.83-1.72 (m, 4H), 1.72-1.62 (m, 6H), 1.55-1.45 (m, 4H), 1.39-1.20 (m, 32H), 0.89 (t, 7.2 Hz, 6H). ESI-MS: C39H67F10NO5 [M+H]+ の MW 計算値 820.5; 実測値 820.6.
【実施例7】
【0159】
ビス(1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル)6,6’-((4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ジヘキサノエート(化合物I-3)
化合物I-3を、実施例5に記載の一般的な手順に従って調製し、0.18gの無色油状物質(0.21mmol、16%)を得た。1HNMR (400 MHz, CDCl3) δ: 5.50-5.37 (m, 2H), 3.57-3.50 (m, 2H), 2.48-2.33 (m, 10H), 1.84-1.56 (m, 12H), 1.55-1.44 (m, 4H), 1.39-1.18 (m, 32H), 0.88 (t, 7.0 Hz, 6H). ESI-MS: C40H69F10NO5 [M+H]+ の MW 計算値 834.5; 実測値 834.7.
【実施例8】
【0160】
ビス(1,1,1,2,2-ペンタフルオロドデカン-3-イル) 6,6’-((5-ヒドロキシペンチル)アザンジイル)ジヘキサノエート(化合物I-4)
化合物I-4を、実施例5に記載の一般的な手順に従って調製し、85mgの油状物質(0.10mmol、12%)を得た。1HNMR (400 MHz, CDCl3) δ: 5.50-5.37 (m, 2H), 3.65 (t, 6.4 Hz, 2H), 2.61-2.42 (m, 6H), 2.38 (t, 7.1 Hz, 4H), 1.84-1.45 (m, 14H), 1.43-1.19 (m, 36H), 0.88 (t, 7.0 Hz, 6H). ESI-MS: C41H71F10NO5 [M+H]+ の MW 計算値 848.5; 実測値 848.7.
【実施例9】
【0161】
ビス(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ヘキサコサフルオロヘプタデカン-9-イル)6,6’-((4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ジヘキサノエート(化合物I-5)
【化20】
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ヘキサコサフルオロヘプタデカン-9-オール(中間体B)の合成
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルヨード(5g、10.55mmol)を、塩化イソプロピルマグネシウム(2.0M/THF、4.5ml)と無水THF(10mL)の氷冷溶液にゆっくりと加え、内部温度を15℃未満に維持した。20分後、ギ酸エチル(0.35mL、4.36mmol)を5分間かけて加えた。氷水バスを取り除き、反応混合液を30分間攪拌した。反応フラスコを氷水バス上で再度冷却し、冷却したHCl溶液(1N、20mL)をゆっくりと加えた。Et
2Oで抽出し、有機層をNa
2SO
4水溶液で洗浄し、MgSO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発気化し、白色固体を得た。塩化メチレンからの再結晶化により、純粋な1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ヘキサコサフルオロヘプタデカン-9-オール(3.5g、4.83mmol、91%)を得た。
【0162】
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ヘキサコサフルオロヘプタデカン-9-イル 6-ブロモヘキサノエート(中間体C)
中間体B(1.09g、1.50mmol)、6-ブロモオクタン酸(0.59g、3.00mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.28g)の無水THF溶液で満たされた丸底フラスコに、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(0.65g、3.15mmol)を加えた。混合液を室温で一晩攪拌した。その後、固体を濾過し、Et2Oで洗浄した。濾液を濃縮した。シリカパッドを介して残渣を濾過し、Et2Oで洗浄し、濃縮し、白色固体(1.20g、1.33mmol)を得て、更に精製することなく次の工程で用いた。
【0163】
I-5の合成
4-アミノブタン-1-オール(74mg、0.83mmol)の無水THF溶液に、中間体C(1.20g、1.33mmol)、カルボン酸カリウム(0.22g、1.57mmol)、カルボン酸セシウム(81mg、0.25mmol)及びヨウ化ナトリウム(10mg)を加えた。混合液を、窒素条件下で7日間加熱還流した。減圧下で溶媒を蒸発気化させ、残渣をDCMに溶解し、飽和NaHCO3溶液、水及び飽和食塩水で洗浄した。有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発気化させた。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(0~5% MeOH/DCM グラジエント)で数回精製し、I-5を無色油状物質(40mg、0.02mmol、3.0%)として得た。1HNMR (400 MHz, CDCl3) δ: 5.00 (quint, 6.1 Hz, 2H), 3.56-3.50 (m, 2H), 2.44-2.37 (m, 6H), 2.34 (t, 7.4 Hz, 4H), 2.20-2.02 (m, 8H), 1.97-1.81 (m, 8H), 1.70-1.43 (m, 12H), 1.35-1.23 (m, 4H).
【実施例10】
【0164】
8,8’-((2,2-ジフルオロ-3-ヒドロキシプロピル)アザンジイル)ビス(N,N-ジデシルオクタンアミド)(化合物I-6)
【化21】
8-ブロモ-N,N-ジデシルオクタンアミド(中間体D)
8-ブロモオクタン酸(1当量 10.78mmol、2.41g)の、DCM(20mL)及びDMF(d 0.944;0.1mL)の溶液に、塩化オキサリル(2.5当量 27mmol、3.42g、2.35mL)をアルゴン条件下で室温にて加えた。得られた混合液を室温で一晩攪拌した。次に、混合液を減圧下で濃縮した。残渣を15mLのDCMに溶解し、ジデシルアミン(1.1当量 3.53g、11.86mmol)及びトリエチルアミン(53.9mmol、7.5mL)及びDMAP(10mg)の、DCM(20mL)溶液に、室温でゆっくりと加えた。添加完了時点において、混合液を室温で一晩攪拌しており、その後濃縮した。残渣をヘキサン(100mL)に溶解し、減圧下でシリカゲルカラムにロードした。その後、減圧下において、カラムをヘキサン及び酢酸エチル(100:0~90:10)の混合液で洗浄した。所望の生成物を黄色油状物質(4.81g、9.6mmol、89%)として得た。
【0165】
I-6の合成
中間体D(1.0mmol、500mg)、3-アミノ-2,2-ジフルオロプロパン-1-オール(0.62mmol、69mg)、及びDIEA(3.0mmol、0.43mL)の、ACN(6mL)混合液を72℃で48時間加熱した。反応混合液を濃縮し、粗生成物を自動フラッシュクロマトグラフィー(5%~60% EtOAc/ヘキサン(1% Et3Nを含む))で精製し、化合物I-6(55mg、12%)を得た。1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 4.87 (s, 1H), 3.88 (t, J = 12.1 Hz, 2H), 3.33 - 3.27 (m, 4H), 3.24 - 3.18 (m, 4H), 2.96 (t, J = 12.7 Hz, 2H), 2.56 - 2.51 (m, 4H), 2.32 - 2.26 (m, 4H), 1.68 - 1.61 (m, 6H), 1.59 - 1.42 (m, 12H), 1.39 - 1.23 (m, 70H), 0.93 - 0.87 (m, 12H). ESI-MS: C59H117F2N3O3 [M+H]+ の MW 計算値 954.9; 実測値 955.1.
【実施例11】
【0166】
8,8’-((2-フルオロ-3-ヒドロキシプロピル)アザンジイル)ビス(N,N-ジデシルオクタンアミド)(化合物I-7)
【化22】
I-7の合成
中間体D(1.0mmol、500mg)、3-アミノ-2-フルオロプロパン-1-オール塩酸塩(0.62mmol、80mg)、及びDIEA(3.1mmol、0.54mL)のACN(6mL)混合液を72℃で24時間加熱し、その後55℃で72時間加熱した。反応混合液を濃縮し、粗生成物を自動フラッシュクロマトグラフィー(5%から60% EtOAc/ヘキサン(1% Et
3Nを含む))で精製し、化合物I-7(45mg、10%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 4.60 (dt, J = 46.8, 4.8 Hz, 1H), 3.92 - 3.80 (m, 2H), 3.35 - 3.24 (m, 4H), 3.24 - 3.12 (m, 4H), 2.85 - 2.72 (m, 2H), 2.53 - 2.37 (m, 4H), 2.31 - 2.23 (m, 4H), 1.67 - 1.40 (m, 20H), 1.38 - 1.19 (m, 66H), 0.94 - 0.82 (m, 12H). ESI-MS: C
59H
118FN
3O
3 [M+H]
+ の MW 計算値 936.9; 実測値 937.0.
【実施例12】
【0167】
8,8’-((3,3,3-トリフルオロ-2-(ヒドロキシメチル)プロピル)アザンジイル)ビス(N,N-ジデシルオクタンアミド)(化合物I-8)
【化23】
I-8の合成
中間体D(1.0mmol、500mg)、2-(アミノメチル)-3,3,3-トリフルオロプロパン-1-オール(0.62mmol、111mg)、及びDIEA(2.4mmol、0.43mL)のACN(6mL)混合液を、72℃で24時間加熱し、その後55℃で72時間加熱した。反応混合液を濃縮し、粗生成物を自動フラッシュクロマトグラフィー(5%から60% EtOAc/ヘキサン(1% Et
3Nを含む))で精製し、化合物I-8(100mg、20%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 5.88 (s, 1H), 4.01 - 3.92 (m, 1H), 3.89 - 3.78 (m, 1H), 3.33 - 3.24 (m, 4H), 3.23 - 3.15 (m, 4H), 2.91 - 2.73 (m, 2H), 2.69 - 2.50 (m, 3H), 2.34 - 2.21 (m, 6H), 1.69 - 1.39 (m, 20H), 1.38 - 1.21 (m, 68H), 0.95 - 0.84 (m, 12H). ESI-MS: C
60H
118F
3N
3O
3 [M+H]
+ の MW 計算値 986.9; 実測値 987.0.
【実施例13】
【0168】
8,8’-((5-ヒドロキシペンチル)アザンジイル)ビス(N,N-ジデシル-2-フルオロオクタンアミド)(化合物I-9)
【化24】
2-(6-ブロモヘキシル)-2-フルオロマロン酸ジエチルの合成
2-フルオロマロン酸ジエチル(56.1mmol、10.0g)、1,6-ジブロモヘキサン(168mmol、26mL)、及びナトリウムメトキシド(61.7mmol、3.3g)のEtOH(110mL)混合液を、室温で24時間攪拌した。反応混合液を濃縮し、粗生成物をDCMと水で分液した。有機層を分離し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過及び濃縮した。自動フラッシュクロマトグラフィー(0%から25% EtOAc/ヘキサン)による精製によって、2-(6-ブロモヘキシル)-2-フルオロマロン酸ジエチル(11.7g、61%)を得た。
【0169】
2-(6-ブロモヘキシル)-2-フルオロマロン酸の合成
2-(6-ブロモヘキシル)-2-フルオロマロン酸ジエチル(5.9mmol、2.0g)及びKOH(11.8mmol、660mg)のMeOH(20mL)、THF(2mL)、及び水(4mL)の混合液を室温で3時間攪拌した。反応混合液を濃縮し、粗生成物を0.1M NaOH(20mL)で希釈した。水層をDCM(3×10mL)で洗浄し、1M HClで酸性化し、その後EtOAc(2×20mL)で抽出した。合一したEtOAc層をNa2SO4で乾燥させ、濾過及び濃縮して、2-(6-ブロモヘキシル)-2-フルオロマロン酸(1.57g、94%)を得て、更に精製することなく次の工程で用いた。
【0170】
8-ブロモ-2-フルオロオクタン酸の合成
2-(6-ブロモヘキシル)-2-フルオロマロン酸(4.1mmol、1.2g)及びDMAP(触媒量)のDMF(3mL)混合液を、180℃で12分間加熱した。反応混合液を、EtOAcと1M HClで分液した。有機層を分離し、Na2SO4で乾燥させ、濾過及び濃縮し、8-ブロモ-2-フルオロオクタン酸(960mg、98%)を得て、更に精製することなく次の工程で用いた。
【0171】
8-ブロモ-2-フルオロオクタノイルクロリドの合成
8-ブロモ-2-フルオロオクタン酸(4.0mmol、960mg)、塩化オキサリル(12mmol、1.0mL)、及びDMF(触媒量)のDCM(10mL)混合液を室温で20分間攪拌した。反応混合液を濃縮し、8-ブロモ-2-フルオロオクタノイルクロリドを得て、更に精製することなく次の工程で用いた。
【0172】
8-ブロモ-N,N-ジデシル-2-フルオロオクタンアミド
ジデシルアミン(4.0mmol、1.2g)、トリエチルアミン(24mmol、3.4mL)、及びDMAP(触媒量)のDCM(10mL)混合液に、粗生成物 8-ブロモ-2-フルオロオクタノイルクロリド(4.0mmol)のDCM(5mL)溶液を加えた。反応混合液を室温で1時間攪拌した。反応液を濃縮し、自動フラッシュクロマトグラフィー(5%から25% EtOAc/ヘキサン)で精製し、8-ブロモ-N,N-ジデシル-2-フルオロオクタンアミド(1.2g、58%(2工程を通して))を得た。
【0173】
I-9の合成
8-ブロモ-N,N-ジデシル-2-フルオロオクタンアミド(0.56mmol、290mg)、5-アミノペンタノール(0.34mmol、35mg)、及びDIEA(1.0mmol、0.18mL)、ヨウ化カリウム(0.56mmol、93mg)のACN(4mL)混合液を75℃で19時間加熱した。反応混合液を濃縮し、粗生成物を、自動フラッシュクロマトグラフィー(5%から100% EtOAc/ヘキサン)で精製し、化合物I-9(158mg、57%)を得た。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.03 (ddd, J = 49.4, 8.5, 4.3 Hz, 2H), 3.64 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.37 - 3.25 (m, 6H), 3.25 - 3.12 (m, 2H), 2.43 - 2.33 (m, 6H), 1.97 - 1.68 (m, 6H), 1.64 - 1.34 (m, 26H), 1.33 - 1.22 (m, 62H), 0.93 - 0.83 (m, 12H). ESI-MS: C61H121F2N3O3 [M+H]+ の MW 計算値 982.9; 実測値 983.0.
【実施例14】
【0174】
8,8’-(メチルアザンジイル)ビス(N,N-ジデシル-2-フルオロオクタンアミド)(化合物I-10)
【化25】
I-10の合成
8-ブロモ-N,N-ジデシル-2-フルオロオクタンアミド(実施例13に記載の一般的な手順に従って調製した、0.58mmol、300mg)、8M メチルアミン/EtOH(0.36mmol、0.045mL)、及びDIEA(1.1mmol、0.19mL)のACN(4mL)混合液を、75℃で48時間加熱した。反応混合液を濃縮し、粗生成物を自動フラッシュクロマトグラフィー(5%から65% EtOAc/ヘキサン)で精製し、化合物I-10(160mg、61%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 5.14 - 4.93 (m, 2H), 3.40 - 3.24 (m, 6H), 3.24 - 3.10 (m, 2H), 2.33 - 2.25 (m, 4H), 2.19 (s, 3H), 1.99 - 1.71 (m, 4H), 1.62 - 1.17 (m, 80H), 0.92 - 0.84 (m, 12H). ESI-MS: C
57H
113F
2N
3O
2 [M+H]
+ の MW 計算値 910.9; 実測値 911.0.
【0175】
上に記載の様々な実施態様を組み合わせて、更なる実施態様を提供することができる。2021年12月16日に出願した米国仮特許出願第63/290,396を含めて、本明細書及び出願データシートで参照された米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許文献の全ては、これらの全体が参照により本明細書で援用される。実施態様の側面を必要に応じて修正し、様々な特許、出願及び文献の概念を利用することで、更なる実施態様を提供し得る。これらの及び他の変更は、上で詳述した記載を考慮した実施態様に向けて成され得る。概して、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を、本明細書及び特許請求の範囲で開示された特定の実施態様に限定するものと解釈されるべきではなく、このような特許請求の範囲の権利が与えられている同等物の全範囲と共に、全ての可能な実施態様を含むものと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は、本開示により限定されない。
【国際調査報告】