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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】骨接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/00 20060101AFI20241219BHJP
   A61L 24/02 20060101ALI20241219BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61L24/00 200
A61L24/00 260
A61L24/02
A61L24/00 300
A61L24/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535986
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 FR2022052402
(87)【国際公開番号】W WO2023111485
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】2113780
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】519187920
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・エ・ユニヴェルシテール・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】522052233
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシェ・プール・ラグリクルテュール・ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】516123435
【氏名又は名称】サントラル・リール・アンスティチュ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・シュルンド
(72)【発明者】
【氏名】フェン・チャイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル・リスカワ
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル・フェリ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA04
4C081BA12
4C081BA15
4C081BA16
4C081CA242
4C081CE11
4C081CF011
4C081CF021
4C081DA13
(57)【要約】
本発明は、リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウム、リン酸化セリン、ポリドーパミンから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、及び水性溶媒を含む接着剤組成物に関する。別の態様によると、本発明は、前記接着剤組成物を調製するためのキット、方法、並びにその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、好ましくはリン酸四カルシウム、
リン酸化セリン、
ポリドーパミン、並びに
水性溶媒
を含む、接着剤組成物。
【請求項2】
前記リン酸カルシウムセラミックスの量が、乾燥質量で50%と80%との間、好ましくは60%と70%との間、より好ましくは65と68%との間を占める、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リン酸化セリンの量が、乾燥質量で20%と50%との間、好ましくは30%と40%との間、より好ましくは32%と35%との間を占める、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リン酸カルシウムセラミックス/リン酸化セリンの乾燥質量比が、1.5と2.5との間、好ましくは1.7と2.3との間、より好ましくは1.9と2との間に含まれる、請求項1から3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリドーパミンの量が、乾燥質量で1%と5%との間、好ましくは2%を占める、請求項1から4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の密度が、2g/cm3と2.2g/cm3との間に含まれる、請求項1から5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリドーパミンが、抗生物質、骨誘導分子及びX線造影剤から選択される少なくとも1つの活性成分と官能基化される、請求項1から6に記載の組成物。
【請求項8】
リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、好ましくはリン酸四カルシウム、
リン酸化セリン、並びに
ポリドーパミン
を含む、請求項1から7に記載の接着剤組成物を調製するためのキット。
【請求項9】
前記リン酸カルシウムセラミックス、前記リン酸化セリン及び前記ポリドーパミンが粉末形態であり、好ましくは前記ポリドーパミンがナノ粒子粉末の形態である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
接着剤組成物を調製するための請求項1から7に記載の方法であって、
a)リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウム、好ましくはリン酸四カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、リン酸化セリン並びにポリドーパミンを容器中で混合する工程、
b)前記調製物に溶媒を添加する工程、
c)そのようにして形成された前記混合物を回収する工程
を含む、方法。
【請求項11】
前記リン酸カルシウムセラミックス、前記リン酸化セリン及び前記ポリドーパミンが粉末形態であり、好ましくは前記ポリドーパミンがナノ粒子粉末の形態である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
インビボでの骨接着剤としての治療的使用のための、請求項1から7に記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウム、リン酸化セリン及びポリドーパミンから選択されるリン酸カルシウムセラミックスを含む接着剤組成物、その調製方法並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折は非常に一般的な病理である。骨折の処置は、骨折部位の整復、次に骨緻密化までのその拘束をベースとする。拘束は、顔面レベルでは顎間ブロック(maxillo-mandibular blockage)、若しくは四肢レベルでは石膏により整形外科的に、又は骨接合により外科的に得られる。外科的処置はより早い機能回復を可能とし、今日では、特定の特異的骨折及び小児の場合を例外として、整形外科的処置について広く好ましいものである。
【0003】
外科的拘束は、現在、主に骨折線の両側にスクリュー固定される金属プレートからなる金属骨接合材料に依存している。更に、骨折は骨固定が必要である唯一の介入ではない。骨物質の喪失を充填するための、又は頭蓋顔面レベルでの前補綴学的(preprosthetic)目的のための骨自家移植技術は、移植片のいかなる可動性も防止するための骨断片の固定を必要とする。金属材料はまた、外科的骨切断(正顎手術、脛骨骨切り術)及び脊椎固定術における骨固定に使用される。最終的に、金属インプラントの骨へのインテグレーション(歯科用インプラント、関節インプラント)はオッセオインテグレーションの時間を必要とし、これは接着剤の添加により減少させることができる。金属インプラントが必要である場合、接着剤はその固定を確実にすることができる。
【0004】
粉砕(複雑)骨折の場合は、骨折のサイズがスクリューのサイズに対して小さいために、金属材料で処置することが特に煩雑である。顔の中央及び上部3分の1は、一般に薄く脆い骨における非常に粉砕された骨折のために従来のスクリュー固定プレートモデルで処置することが難しい、これらの骨折のよい例を提供する。四肢も、ある特定の高速外傷(high-velocity trauma)においてこの種の骨折を受ける。更に、関節内骨折は、材料が関節の機能を妨害する可能性があるために問題となる。最終的に、金属材料は骨の成長についていかないため、骨格が成長中の小児の骨折の場合には適合しにくい。
【0005】
骨接着剤又は「骨糊(bone glue)」は、骨折、特に現在の金属インプラント系を適用しにくい骨折の管理のための、単純かつ急速な解決策を提供するであろう。これは生体吸収性であるので、金属インプラントに関連する感染及び機械的合併症(材料の復元(undoing))、並びにこの材料を除去するために行われる、術後の罹患のリスク及びある特定の経済的負担(入院及び更なる外科手技、作業停止)に関連する多数の介入を回避することが可能となるであろう。
【0006】
現在、金属骨接合材料、例えば骨接着剤の市販の代替は存在しない。主な問題は、湿潤な生理学的環境における接着である。試験及び特許により、リン酸カルシウムセラミックス(CPC)及びリン酸化セリン(O-ホスホ-セリン/OPS)を合わせることが既に公開されている。リン酸カルシウムセラミックスは、優秀な生体適合性及び骨伝達特性を有する。これらは慣習的な臨床現場において何年も骨補填材として使用されている。しかし、骨固定についてのリン酸カルシウムセラミックスの主な問題は、これらが骨組織に接着しないことである。
【0007】
自然において、特に海洋動物において観察される接着機構に着想を得て、リン酸化セリンは接着剤特性を得るためにリン酸カルシウムセラミックスに添加されてもよい。リン酸化セリンは、海産の虫であるサンドキャッスルワーム(Phragmatopoma californica又はSandcastle worm)により使用される、複雑なコアセルベーション機構を使用した無機物を接着することにより水中保護殻(underwater protective shells)を構築する能力を有する分子である。加えて、リン酸化セリンの構造は、骨誘導特性を付与するオステオポンチンに近い。
【0008】
リン酸化セリン及びリン酸カルシウムセラミックスからなる骨接着剤は既に試験され、エクスビボの接着剤の有効性及びインビボの生体適合性が確認されたが、この組成物のインビボの接着能力を確認した試験は存在しない(Bioinspired Mineral- Organic Bioresorbable Bone Adhesive、Kirillova等、Advanced Healthcare Materials、2018年、doi: 10.1002/adhm.201800467)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bioinspired Mineral- Organic Bioresorbable Bone Adhesive、Kirillova等、Advanced Healthcare Materials、2018年、doi: 10.1002/adhm.201800467
【非特許文献2】Ju等、Bioinspired Polymerization of Dopamine to Generate Melanin-Like Nanoparticles Having an Excellent Free-Radical-Scavenging Property、Biomacromolecules、2011年3月14日;12巻(3号):625~32頁
【非特許文献3】Yu Fu等、Mater. Horiz.、2021年、8巻、1618~1633頁
【非特許文献4】Ko等、Biomacromolecules、2013年、14巻、3202~3213頁
【非特許文献5】Rui Ge等、「Cu2+-Loaded Polydopamine Nanoparticles for Magnetic Resonance Imaging-Guided pH- and Near-Infrared-Light-Stimulated Thermochemotherapy」ACS Applied Materials & Interfaces、2017年9巻(23号)、19706~19716頁
【非特許文献6】Qu J等、「Synthesis of Biomimetic Melanin-Like Multifunctional Nanoparticles for pH Responsive Magnetic Resonance Imaging and Photothermal Therapy」、Nanomaterials (Basel)、2021年8月19日、11巻(8号):2107頁
【非特許文献7】Wang Z等、「High Relaxivity Gadolinium-Polydopamine Nanoparticles」Small、2017年11月、13巻(43号)
【非特許文献8】Dong Z等、「Polydopamine Nanoparticles as a Versatile Molecular Loading Platform to Enable Imaging-guided Cancer Combination Therapy」、Theranostics、2016年、6巻(7号):1031~1042頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、リン酸カルシウムセラミックス及びリン酸化セリンから調製され、生体適合性かつ安全でありながらインビボで接着能力を有する接着剤組成物を得るのを可能にすることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
多くの作業を伴いながらこの研究を継続して、本出願者はリン酸四カルシウム、リン酸化セリン及びポリドーパミンを含む接着剤組成物がそのような特徴を有することを見出した。
【0012】
本発明の他の特性及び利点は、以下の詳細な説明を読むことで明らかとなるであろう。
【0013】
本発明の第1の目的は、
- リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、
- リン酸化セリン、
- ポリドーパミン、並びに
- 水性溶媒
を含む、接着剤組成物に関する。
【0014】
本発明の第2の目的は、
- リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、好ましくはリン酸四カルシウム、
- リン酸化セリン、並びに
- ポリドーパミン
を含む、本発明による接着剤組成物を調製するためのキットに関する。
【0015】
本発明の第3の目的は、本発明による接着剤組成物を調製するための方法であって、
a)リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、リン酸化セリン並びにポリドーパミンを容器中で混合する工程、
b)前の調製物に溶媒を添加する工程、
c)そのようにして形成された混合物を回収する工程
を含む、方法に関する。
【0016】
本発明の最後の目的は、インビボでの骨接着剤としての治療的使用のための、本発明による組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
接着剤組成物
本発明による接着剤組成物は、
- リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、好ましくはリン酸四カルシウム、
- リン酸化セリン、
- ポリドーパミン、並びに
- 水性溶媒
を含む。
【0018】
リン酸カルシウムセラミックスは、有機リン酸化合物であるリン酸化セリンと水性環境中で反応して強力な接着特性を有する組成物を形成する、生体適合性の多価金属塩から構成される。
【0019】
本発明によるリン酸カルシウムセラミックスは、例えばMatexcel社又はHangzhou ICH Biofarm社からのリン酸四カルシウム、及び例えばMatexcel社、Innotere社又はMerck社からのアルファ-リン酸三カルシウムから選択される。好ましくは、リン酸カルシウムセラミックスはリン酸四カルシウムである。
【0020】
組成物中のリン酸カルシウムセラミックスの量は変動させることができ、好ましくは組成物の全質量に対して乾燥質量で50%と80%との間、好ましくは60%と70%との間、より好ましくは65と68%との間を占める。
【0021】
本発明によるリン酸化セリン、例えばMerck社からのO-ホスホ-DL-セリン又はO-ホスホ-L-セリンは、海産の虫であるサンドキャッスルワーム(Phragmatopoma californica又はSandcastle worm)により使用される、複雑なコアセルベーション機構を使用した無機物を接着することにより水中保護殻を構築する能力を有する生体適合性分子である。加えて、リン酸化セリンの構造は、骨誘導特性を付与するオステオポンチンに近い。
【0022】
組成物中のリン酸化セリンの量は変動させることができ、好ましくは組成物の全質量に対して乾燥質量で20%と50%との間、好ましくは30%と40%との間、より好ましくは32%と35%との間を占める。
【0023】
好ましくは、リン酸カルシウムセラミックス/リン酸化セリンの乾燥質量比は、1.5と2.5との間、好ましくは1.7と2.3との間、より好ましくは1.9と2との間に含まれる。
【0024】
特にナノ粒子形態(nPDA)のポリドーパミンは生体適合性であり、細胞接着、細胞増殖及び骨分化(osteogenic differentiation)についての優秀な刺激特性を有する。その多孔性かつ疎水性の構造は、骨組織の主成分であるヒドロキシアパタイトとの共有結合及び水素結合の形成を可能にする。加えて、ポリドーパミンは、疑似体液(又はSBF)中でリン酸カルシウム石灰化のための核部位を提供することにより、アパタイト石灰化を誘導する。
【0025】
用語「ナノ粒子」は、100nmと400nmとの間、好ましくは125と275nmとの間に含まれる粒径を意味する。
【0026】
ナノ微粒子ポリドーパミンは、Ju等、Bioinspired Polymerization of Dopamine to Generate Melanin-Like Nanoparticles Having an Excellent Free-Radical-Scavenging Property、Biomacromolecules、2011年3月14日;12巻(3号):625~32頁のプロトコールに従って合成することができる。
【0027】
組成物中のポリドーパミンの量は変動することができ、好ましくは組成物の全質量に対して乾燥質量で1%と5%との間、好ましくは2%を占める。
【0028】
一態様によると、リン酸カルシウムセラミックス、リン酸化セリン及びポリドーパミンは粉末形態である。
【0029】
特定の実施形態によると、ポリドーパミンは、抗生物質、骨誘導分子、又は骨誘導ペプチド、及びX線造影剤から選択される少なくとも1つの活性成分と官能基化される。実際、その微粒子、及び好ましくはナノ微粒子は、その疎水性の特質を形成し、求核剤に対するその反応性は、抗生物質及び骨誘導分子又は骨誘導ペプチド、及びX線造影剤から選択される活性成分を含有することを可能にする。抗生物質は、骨折において非常に高い罹患率を引き起こす主要な合併症である細菌感染を予防及び/又は処置することを可能にするであろう。抗生物質の例は、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トブラマイシン及びリファンピシン、好ましくはシプロフロキサシンである。骨誘導分子は、骨化を加速し、したがってベアリングを加速させることを可能にするであろう。骨誘導分子の例は、シンバスタチン、抗BMP2(骨形成タンパク質2)抗体である。骨誘導ペプチドの例は、骨形成ペプチド(Osteogenic Growth Peptide)、PepGenP-15細胞結合ペプチド、トリペプチドモチーフArg-Gly-Asp(RGD)を含有するペプチド「RGD含有ペプチド」、GFOGER配列若しくはDGEA配列の合成コラーゲン様ペプチド、又は更にはBMP-2タンパク質である。X線造影剤の例は、Cu2+、Mn2+、Fe3+、又は更にはGd2+等の金属である。前記金属はポリドーパミンによりキレートされ、特にMRIに適する。
【0030】
このようにして、本発明による組成物はインビボでの接着能力、生体適合性の両方を有するだけでなく、骨化を増強する能力、又は骨折の望ましくない影響を予防及び/若しくは処置する能力も有する。
【0031】
ポリドーパミン、及び特にポリドーパミンナノ粒子の官能基化は、単純な疎水性/疎水性相互作用若しくはイオン相互作用(非共有結合)により、又はマイケル反応、若しくはペプチド若しくはタンパク質のアミン若しくはチオール官能基を介したシッフ塩基形成(共有結合)と呼ばれる反応により、行うことができる。ポリドーパミンナノ粒子の抗生物質との官能基化の例は、Yu Fu等、Mater. Horiz.、2021年、8巻、1618~1633頁に記載されている。ポリドーパミンナノ粒子の骨誘導分子との官能基化の例は、Ko等、Biomacromolecules、2013年、14巻、3202~3213頁に記載されている。ポリドーパミンナノ粒子のCu2+との官能基化の例は、Rui Ge等、「Cu2+-Loaded Polydopamine Nanoparticles for Magnetic Resonance Imaging-Guided pH- and Near-Infrared-Light-Stimulated Thermochemotherapy」ACS Applied Materials & Interfaces、2017年9巻(23号)、19706~19716頁に記載されている。ポリドーパミンナノ粒子のFe3+との官能基化の例は、Qu J等、「Synthesis of Biomimetic Melanin-Like Multifunctional Nanoparticles for pH Responsive Magnetic Resonance Imaging and Photothermal Therapy」、Nanomaterials (Basel)、2021年8月19日、11巻(8号):2107頁に記載されている。ポリドーパミンナノ粒子のGd2+との官能基化の例は、Wang Z等、「High Relaxivity Gadolinium-Polydopamine Nanoparticles」Small、2017年11月、13巻(43号)に記載されている。ポリドーパミンナノ粒子のMn2+の官能基化の例は、Dong Z等、「Polydopamine Nanoparticles as a Versatile Molecular Loading Platform to Enable Imaging-guided Cancer Combination Therapy」、Theranostics、2016年、6巻(7号):1031~1042頁に記載されている。
【0032】
一実施形態では、カルシウムリンセラミックス(calcium phosphorus ceramic)、リン酸化セリン及びポリドーパミンは、水性溶媒と合わされたとき、一緒に反応して接着剤組成物を形成する。したがって、組成物は水性溶媒を更に含むことができる。水性溶媒は、水、特に脱塩水、又は生理食塩水溶液、特にリン酸緩衝生理食塩水、又は0.9%のNaCl溶液であることができる。好ましくは、水性溶媒はリン酸緩衝生理食塩水である。
【0033】
水性溶媒の量は変動させることができ、好ましくは0.19mL/gと0.22mL/gとの間に含まれる溶媒/乾燥組成比に従って、好ましくはおよそ0.21mL/gの比に従って含まれる。この溶媒/乾燥組成比は、2g/cm3と2.2g/cm3との間に含まれる密度を得ることを可能にする。別の実施形態では、本発明による接着剤組成物は、添加剤を更に含んでもよい。この添加剤は、本発明による組成物に更なる機能性を付与する、例えば材料の取り扱い、テクスチャ、耐久性、強度若しくは再吸収速度を改善するか若しくはこれらに影響を与えるために、又は更なる機械、化粧用若しくは医療用特性を提供するために、使用することができる。例えば、ポリマー又は繊維、例えばポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA))は、接着剤組成物の機械的特性を改善するために添加することができる。
【0034】
一実施形態では、接着剤組成物は、例えば骨再吸収、沈着又はリモデリング速度を増加又は刺激することにより、塗布部位での新たな骨の成長を促進することを可能にする。
【0035】
接着剤組成物を調製するための方法
本発明の第2の目的は、本発明による接着剤組成物を調製するための方法であって、
a)リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウム、好ましくはリン酸四カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、リン酸化セリン並びにポリドーパミンを容器中で混合する工程、
b)前の調製物に溶媒を添加する工程、
c)そのようにして形成された混合物を回収する工程
を含む、方法に関する。
【0036】
好ましくは、リン酸カルシウムセラミックス、リン酸化セリン及びポリドーパミンは粉末形態である。別の態様によると、ポリドーパミンはナノ粒子粉末の形態である。
【0037】
一態様によると、得られた組成物の密度は2g/cm3と2.2g/cm3との間に含まれ、この密度は、特に0.19mL/gと0.22mL/gとの間に含まれる液体/粉末比、及び好ましくは約0.21mL/gの比を考慮することにより得られる。
【0038】
そのようにして形成された混合物は、流体又は半固形、例えばペーストの形態、好ましくはペーストの形態であることができる。次にこのペーストは、資格を有する施術者により、ヒト又は動物対象に直接使用され得る。
【0039】
典型的に、得られた接着剤組成物は、2分と3分との間に含まれる初期セッティング又は硬化時間を有し、4分と8分との間に含まれる最終セッティング又は硬化時間を有する。このセッティング時間は、有利には、資格を有する施術者がこれを手術中に使用することを可能にし、対象を閉じる前に最終セッティングを待つことを可能にする。
【0040】
全ての実施形態では、資格を有する施術者、例えば内科医、歯科医、外科医、看護師又は別の適切な人物は、意図される使用又は所望の結果に応じて、前記組成物の特定の成分を改変して所望の接着剤特性を得ることができる。
【0041】
接着剤組成物の使用
接着剤組成物は、広範な用途において使用することができる。本発明の目的は、ヒト又は動物における治療的使用のための、好ましくは特に骨組織手術中の医学的手技における使用のための、及びより好ましくは骨接着剤としてのインビボの使用のための、本発明による組成物に関する。骨組織手術は、歯、洞、顔又は他の骨格領域の手術であることができる。
【0042】
例えば、接着剤組成物は、表面に構造を付着させるために使用することができる。
【0043】
用語「構造」は、固体の物体を意味する。構造は、骨若しくは他の骨若しくは骨断片、インプラント、移植片、デバイス又は生体組織であり得る。生体組織の例は、腱又は靱帯、典型的には前十字靱帯又は後十字靱帯であり得る。
【0044】
用語「表面」は、生体表面を意味する。この生体表面は、骨、特に軟骨で覆われていない骨の表面のみを包む薄い結合性包膜である骨膜、若しくは骨の周辺部の緻密な部分である緻密骨、若しくは更には骨の中心部である海綿骨の表面、又は腱若しくは靭帯の表面であり得る。
【0045】
一実施形態では、表面は、例えば骨の表面を削ることにより、接着剤組成物を受容するために調製される。
【0046】
一実施形態では、接着剤組成物の塗布を通した構造の表面への接着は、永続的であるか、又は永続的であることを意図されるか、若しくは接着剤組成物が再吸収されるか若しくは骨により置き換えられるまでと意図される。
【0047】
一実施形態では、接着剤組成物は、前記表面において、前記構造の配置の前後のいずれかで空間、穴又は空孔を充填するために使用される。
【0048】
一部の実施形態では、接着剤組成物は、疾患又は状態、例えばがん(例えば骨肉腫)、骨粗鬆症、くる病、悪性骨腫瘍、骨感染又は別の遺伝的疾患若しくは発育異常疾患により引き起こされる骨の欠損を修復するために使用される。
【0049】
一部の実施形態では、接着剤組成物は、疾患又は状態、例えばがん(例えば骨肉腫)、骨粗鬆症、くる病、悪性骨腫瘍、骨感染又は別の遺伝的疾患若しくは発育異常疾患により衰弱した対象における骨を強化するために使用される。
【0050】
一部の実施形態では、対象は、外傷、例えば骨の破壊、骨折、靭帯断裂、腱断裂又は歯の損傷を負っている。典型的に、接着剤組成物は、例えば十字靱帯の断裂中に、靭帯断裂又は腱断裂を修復して、再び膝関節の可動性を確実にすることを可能にする。
【0051】
一部の実施形態では、対象は、形成手術手技又は再建手術手技を受ける。
【0052】
組成物及び方法は、体幹骨又は線維性結合組織の構造の完全性に対する影響を有する任意の疾患又は状態に罹患しているか、又はそれらを患っている対象を処置するために、使用することができる。
【0053】
別の態様によると、本発明による接着剤組成物はエクスビボで使用することができる。
【0054】
キット
本発明の目的は、
- リン酸四カルシウム及びアルファ-リン酸三カルシウムから選択されるリン酸カルシウムセラミックス、好ましくはリン酸四カルシウム、
- リン酸化セリン、並びに
- ポリドーパミン
を含む、本発明による接着剤組成物を調製するためのキットに関する。
【0055】
典型的に、各成分は粉末形態であり、好ましくは、ポリドーパミンはナノ粒子粉末の形態である。
【0056】
各成分は別の形態で包装され得、又は1つの成分はその容器中で分離され得、他の2つの成分は同じ容器内で混合され得、又は全ての成分は同じ容器中に一緒に包装される。
【0057】
一実施形態では、キットは水性溶媒を更に含む。この場合、水性溶媒は別の容器中にあることができ、特に粉末形態の他の成分は、同じ容器中で混合され得るか、又は各々が異なる容器中で分離され得るか、又は1つの成分が1つの容器中で分離され、他の2つの成分が異なる容器中で混合され得る。好ましくは、使用される容器は、混合された又は分離された成分の貯蔵寿命を保つために、良好な包装の慣行を用いて密封される。一部の実施形態では、キット中の成分の貯蔵寿命を保つことは、無菌を維持することを含む。添加剤が前記キット中に含まれる場合、これらは1つ又は全ての成分と混合され得るか、又は別の容器中に存在し得る。
【0058】
前記キットは、本発明による接着剤組成物の調製又は塗布のための更なる成分、例えばボウル若しくは混合面(mixing surface)、撹拌棒、シリンジ、シリンジに適合するカテーテル、例えば典型的に10Gの大きなゲージサイズを有するカテーテル、スパチュラ、シリンジ、UV若しくは赤外線ヒートガン、又は他の調製若しくは分布デバイスを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】チタンに対する機械的引張試験の結果の図である。接着する試料(n=8)の平均最大応力(MPa)。*は有意差(p=0.0029)を意味する。
図2】ウシ骨に対する機械的引張試験の結果の図である。接着する試料(n=8)の平均最大応力(MPa)。*は有意差(p=0.00093)を意味する。
図3】実施例1による接着剤組成物のエクスビボの引張試験の結果の図である。接着する試料(n=7)の平均最大応力(MPa)。*は有意差(p=0.029)を意味する。
【実施例
【0060】
(実施例1:本発明による接着剤組成物の調製)
ナノ微粒子ポリドーパミン(nPDA)の合成
900mgのドーパミン塩酸塩を、450mLの純水に溶解した。溶液を50℃に加熱し、3.8mLの水酸化ナトリウムを添加した。溶液を50℃で5時間維持した。次に、懸濁液中のnPDAを得るために、溶液をSpectra/Por 6膜(Spectrum Labs, Repligen社、Waltham、MA、United States)を使用して透析により分離した。この溶液の凍結乾燥の後、粉末のnPDAを得た。
【0061】
組成物の調製
Matexcel社からの183mgのリン酸四カルシウム(TTCP)粉末を、Merck社からの92.5mgのO-ホスホ-DL-セリン粉末(OPS)及び上記で得られた5.5mgのナノ微粒子ポリドーパミン(nPDA)粉末と共に乳鉢に注ぎ入れ、均一な混合物を得るために、これらをスパチュラで混合し、次に乳棒で混合した。59μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4、Merck社)を、マイクロピペットに0.21mL/gの液体/粉末比で添加した。スパチュラを使用して粉末とリン酸緩衝生理食塩水とを10秒混合し、ペーストを得た。得られた接着剤組成物は、本発明による組成物である。
【0062】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、リン酸四カルシウムはリン酸化セリンとイオン相互作用を形成し、これはある特定の比でポリドーパミンと合わせる場合、反応して、リン酸四カルシウム及びリン酸化セリンのみを含有する組成物に対して有利な接着能力を有する材料を提供する。実際、リン酸四カルシウムは、自発的にヒドロキシアパタイトとの溶解沈殿反応を受ける。この反応はリン酸化セリンの添加により防止され、カルシウムホスホセリン一水和物の形成をもたらし、これは骨組織への接着及び骨石灰化の開始を可能にする配位ネットワークを形成する。ポリドーパミンは、その接着及び骨形成誘導特性を通して、骨の骨再建を促進することにより接着効果を増強する。
【0063】
今回は、同じ調製をポリドーパミンナノ粒子粉末の添加なしで行った。この調製は、先行技術において見出すことのできるような比較組成物である。
【0064】
(実施例2:チタン及びウシ骨に対する本発明による組成物の機械的引張試験)
金属(チタン)及び骨(ウシ骨)試料を使用した。金属試料は200mm2の接着表面を有するチタン円筒からなった。骨試料は、100~180mm2の接着表面を有する対の直方体からなった。
【0065】
実施例1において調製した接着剤組成物又は実施例1において得られたポリドーパミンナノ粒子の懸濁液を、試料(N=8)の表面に薄く塗布した。試料間の手動の圧縮を行い、4分維持した。次に、接着した試料をPBS浴中37℃で1時間又は24時間浸漬して、生理学的な水性環境をシミュレートした。
【0066】
次に、接着力の機械的評価を、Instron 4466機器(Norwood社、MA、United States)上で引張(エンドツーエンド形成(end-to-end formation))で断裂まで行った。ロードセルは、骨試料で試験する場合は1000N、チタン試料で試験する場合は10,000Nであった。動作速度は0.1mm/sであった。
【0067】
結果を、引張応力の形態で、すなわち接着された試料に与えられた単位面積あたりの破断荷重で記載した。結果を、Mann-Whitney検定を使用してノンパラメトリックに統計分析した。
【0068】
チタン試料の結果(図1を参照されたい)は、接着が、本発明による組成物(TTCP/OPS-nPDA)を用いると、比較組成物(TTCP/OPS)及びポリドーパミンナノ粒子の懸濁液よりも24時間で有意に高かったことを実証する(p=0.0029)。
【0069】
ウシ骨試料の結果(図2を参照されたい)は、接着が、本発明による組成物(TTCP/OPS-nPDA)を用いると、比較組成物(TTCP/OPS)及びポリドーパミンナノ粒子の懸濁液よりも24時間で有意に高かったことを実証する(p=0.00093)。
【0070】
(実施例3:本発明による組成物のエクスビボ引張試験)
以下の試験を、骨自家移植片の性能を模倣することにより、臨床的状況に近くなるように設計した。新たに屠殺したラットからの脛骨及び腓骨断片の試料(長さ6mm×幅1mm)を使用した。脛骨の外面を、骨自家移植片の配置前に行われるのと同様に、わずかに削った。
【0071】
実施例1において調製した、nPDAを有するか又はnPDAを有しない接着剤組成物を、脛骨(N=7)に薄く塗布した。バイクリル糸を適用し、次に腓骨断片を配置した。試料間の圧縮を行い、4分維持した。次に、接着した試料をPBS浴中37℃で1時間又は24時間浸漬して、生理学的な水性環境をシミュレートした。
【0072】
次に、接着力の機械的評価を、バイクリル糸に対して質量の増加する標準化された重りを断裂まで配置することにより、引張で行った(図2)。
【0073】
結果を、引張応力の形態で、すなわち接着された試料に与えられた単位面積あたりの破断荷重で記載した。結果を、Mann-Whitney検定を使用してノンパラメトリックに統計分析した。
【0074】
脛骨及び腓骨断片の試料の結果(図3を参照されたい)は、接着が、本発明による組成物(TTCP/OPS-nPDA)を用いると、比較組成物(TTCP/OPS)よりも24時間で有意に高かったことを実証する(p=0.029)。
図1
図2
図3
【国際調査報告】