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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】充電式電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20241219BHJP
   H01M 10/0563 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M10/0563
H01M50/449
H01M50/414
H01M50/44
H01M4/80 C
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/426
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/054
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536050
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022085939
(87)【国際公開番号】W WO2023111070
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215537.8
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ボルク,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルファルト,クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】トュンメル,ユリア
【テーマコード(参考)】
5H017
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC01
5H017CC28
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE05
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE07
5H021EE08
5H021EE09
5H021EE10
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
5H029HJ19
(57)【要約】
本発明は、活性金属、導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(23、44)、導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(22、45)、少なくとも一つのセパレータ要素(21)、ハウジング(28、102)および電解質を含む充電式電池セル(20、40、101)に関し、電解質は、SO系であり、式(I)を有する、少なくとも第一の導電塩を含んでなり、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、xは、1から3の整数であり、置換基R、R、RおよびRは、互いに独立してC~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよく、Zは、アルミニウムまたはホウ素であり、置換基R、R、RおよびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能である。負極(22、45、101)は、少なくとも充電式電池セルが充電された状態において活性金属を金属の形において含み、さらに ハウジング(28)の内部に充電時に析出された活性金属を受容するための空間が設けられており、空間は、析出された活性金属によって圧縮される圧縮可能な構造(50、52)によって形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属、導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(23、44)、導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(22、45)、少なくとも一つのセパレータ要素(21)、ハウジング(28、102)および電解質を含む充電式電池セル(20、40、101)であって、
前記電解質は、SO系であり、
【化1】
式(I)を有する、少なくとも第一の導電塩を含んでなり、
- Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、
- xは、1から3の整数であり、
- 置換基R、R、RおよびRは、互いに独立してC~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリール、およびC~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよく、
- Zは、アルミニウムまたはホウ素であり、
- 置換基R、R、RおよびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能であり、
前記負極(22、45、101)は、少なくとも前記充電式電池セルが充電された状態において活性金属を金属の形において含み、および
前記ハウジング(28)の内部に充電時に析出された前記活性金属を受容するための空間が設けられており、空間は、前記析出された活性金属によって圧縮される圧縮可能な構造(50、52)によって形成されていることを特徴とする充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項2】
前記活性金属の前記析出された層の厚さと圧縮状態における前記圧縮構造(50、52)の厚さとの合計は、非圧縮状態における前記圧縮可能な構造(50、52)の厚さより小さいか等しいことを特徴とする、請求項1に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項3】
前記圧縮可能な構造(50、52)は、以前に析出された前記活性金属の溶解後に再び圧縮可能な構造の非圧縮状態に戻ることを特徴とする、請求項1または2に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項4】
前記圧縮可能な構造(50、52)は、少なくとも一つの導体要素(26、27)および/または少なくとも一つのセパレータ要素(21)によって形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項5】
前記圧縮可能な構造(50、52)は、少なくとも一つのセパレータ要素(21)によって形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項6】
前記圧縮可能なセパレータ要素(21)は、有機ポリマー膜と少なくとも一つの不織布層とを有することを特徴とする、請求項4または5に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項7】
前記負極(22、45)および前記正極(23、44)の前記導体要素(26,27)は、
- 薄い金属シートもしくは薄い金属箔の形において平面状、
- 特に金属発泡体(18)の形における多孔性金属構造の形において三次元的に、または
- 圧縮可能な導体要素
によって形成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項8】
前記圧縮可能な導体要素(26,27)は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)から形成される群から選択される圧縮可能ポリマーから形成されることを特徴とする、請求項7に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項9】
前記導体要素(26、27)の前記圧縮可能ポリマーは、片面または両面において金属を用いてコーティングされていることを特徴とする、請求項8に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項10】
前記コーティング(51)は、アルミニウムまたは銅を有することを特徴とする、請求項8に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項11】
少なくとも最初の充電時に前記金属製の活性金属の一部は、前記負極の片側表面に対して少なくとも3.0mAh/cm、好ましくは少なくとも3.5mAh/cm、好ましくは少なくとも4.0mAh/cm、好ましくは少なくとも4.5mAh/cm、好ましくは少なくとも5.0mAh/cm、好ましくは少なくとも5.5mAh/cm、および特に好ましくは少なくとも6.0mAh/cmの電流強度において析出されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項12】
最初の充電時に前記負極の片側表面に対して少なくとも3mAh/cmにおいて析出される前記金属製の活性金属の部分は、析出されたリチウムの総量に対して少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%、および特に好ましくは少なくとも100重量%であることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項13】
前記金属製の形における活性金属は、前記充電式電池セルの最初の充電の前に既に前記負極(22、45)の前記導体要素(26、27)の上に存在することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項14】
前記活性金属は、
- アルカリ金属、特にリチウムもしくはナトリウム、
- アルカリ土類金属、特にカルシウム、
- 元素周期表第12族の金属、特に亜鉛、または
- アルミニウム
から形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項15】
前記第一の導電塩の前記置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも一つは、CF基またはОSОCF基であることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項16】
前記第一の導電塩は、以下から形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101):
【化2】
【請求項17】
前記第一の導電塩は、以下の式を有することを特徴とする、請求項1から16のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101):
【化3】
【請求項18】
前記電解質は、前記電解質組成の総重量に対して
(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95重量%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25重量%の前記第二の導電塩、および
(iv)0から10重量%の前記添加剤
の組成を有することを特徴とする、請求項1から17のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項19】
前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に対して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに好ましくは0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にあることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項20】
前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSOおよび特に好ましくは少なくとも20モルのSOを含むことを特徴とする、請求項1から19のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮可能な構造を有する充電式電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池セルは、多くの技術分野において非常に重要である。多くの場合、充電式電気セルは、例えば携帯電話の作動のように比較的小さい電流を有する小さい充電式電池セルのみが必要であるような用途に使用されている。しかしながら、高エネルギー用途のためにより大きい充電式電池セルの需要も多く、車両の電気駆動用には電池セルの形におけるエネルギーを大量に蓄積することが特に重要である。
【0003】
この種の充電式電池セルに求められる重要な要件は、高いエネルギー密度である。このことは充電式電池セルが重量および容積単位当たりの電気エネルギーを可能な限り多く含む必要があることを意味する。この目的のために活性金属としてリチウムが特に有利であることが証明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4306858
【特許文献2】特開2001143750
【特許文献3】米国特許第7901811号明細書
【特許文献4】国際公開第2021019047号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「効率的なリチウム金属電池のためのリチウムイオンの均一分散による無樹状突起リチウム析出」、チェン等、アドバンスド・マテリアルズ、2016年、28、2888から2895
【非特許文献2】「高エネルギー電池におけるナトリウム金属アノードの効率的使用を可能にする設計戦略」、サン等、アドバンスド・マテリアルズ、2020年、32、1903891
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・パワーソーシズ、68号、No.2、1997年10月1日(1997-10-01)、338から343ページ
【非特許文献4】I.クロッシング、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、490
【非特許文献5】S.M.イヴァノヴァ等、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、503
【非特許文献6】ウー シェイ等、エレクトロケミカル・アンド・ソリッドステート・レターズ、2000年、3、366から368
【非特許文献7】ツジオカ等、J.エレクトロケミカル・ソサイティ、2004年、151、A1418
【0006】
充填式電池セルの活性金属とは、セルの充放電時に、電解質中の活性金属のイオンが負極または正極に移動し、そこで電気化学過程に参加する金属を指す。活性金属を金属の形において含む充電式電池セルは、金属セルと称される。電池セルにおいて金属の形において含まれ得る金属は、例えばアルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム、アルカリ土類金属、特にカルシウム、元素周期表第12族の金属、特に亜鉛またはアルミニウムである。金属リチウムまたは金属ナトリウムを負極の活物質として含む充電式電池セルは、リチウムセルまたはナトリウムセルと称される。
【0007】
先行技術から公知である金属セルの正極は、挿入電極として形成されている。本発明の意味合いにおける「挿入電極」という用語は、結晶構造を有する電極であって、金属セルの作動時に活性金属のイオンを結晶構造に蓄積または放出することが可能であると理解される。このことは、電極プロセスが電極の表面だけではなく、結晶構造内でも生じ得ることを意味する。正極は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)からなる。リチウムセルの充電時には、活性金属のイオンが正極から放出され、負極に金属リチウムとして析出される。リチウムセルの放電時には、逆のプロセスが行う。
【0008】
全ての充電式電池セルにとって、電解質もまた重要な機能要素である。電解質は、通常、溶媒または溶媒混合物と、少なくとも一つの導電塩とを含むことが多い。例えば、固体電解質またはイオン溶液は、溶媒を含まず、導電塩のみを含む。電解質は、電池セルの正極および負極と接触している。導電塩の少なくとも一つのイオン(アニオンまたはカチオン)は、イオン伝導によって、充電式電池セルの機能にとって必要である電極間の電荷輸送が実施され得るように、電解質中において移動可能である。電解質は、充電式電池セルの所定の上限セル電圧を越えると、酸化的に電気化学分解される。この過程は多くの場合、電解質の構成要素の不可逆的な破壊、ひいては充電式電池セルの故障につながる。還元プロセスも、所定の下限セル電圧を下回ると、電解質を破壊し得る。このようなプロセスを回避するには、正極および負極は、セル電圧が電解質の分解電圧より小さくまたまたは大きくなるように選択される。よって、電解質が電圧ウィンドウ(英語:voltage window)を決定し、範囲内において充電式電池セルを可逆的に作動する、すなわち繰り返し充放電することが可能である。
【0009】
先行技術より公知であるリチウムセルまたはナトリウムセルは、有機溶媒または溶媒混合物と、その中に溶解した導電塩とからなる電解質を含む。導電塩は、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)のようなリチウム塩、または、例えばヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)のようなナトリウム塩である。溶媒混合物は、例えばエチレンカーボネートを含み得る。EC(エチレンカーボネート):EMC(エチルメタルカーボネート) 3:7において組成1M LiPFを有する電解質LP57は、電解質の一例である。有機溶媒または溶媒混合物を用いることによって、この種の電池セルは、有機電池セルとも称される。
【0010】
先行技術において導電塩として頻繁に使用されるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の他に有機リチウムイオンセルのためのその他の導電塩が記載されている。例えば特許第4306858(以下、[V1]と称する)において、フッ化または部分的にフッ化されているものであり得るテトラアルコキシ塩、またはテトラアリールオキシボレート塩の形における導電塩が記載されている。
【0011】
特開2001143750(以下、[V2]と称する)において、導電性塩としてフッ化または部分的にフッ化されたテトラアルコキシホウ酸塩およびテトラアルコキシアルミン酸塩について述べられている。両文献[V1]および[V2]において記載される導電塩は、有機溶媒または溶媒混合物に溶解されて有機リチウムイオンセルに使用されている。
【0012】
しかしながら、有機溶媒系電解質を有する電池セルは、過充電に対して非常に敏感である。有機電池セルの意図しない過充電、すなわち最大セル電圧を超える電圧の上昇は、電解質の構成要素の不可逆的な酸化的および還元的分解につながり、よって、電池セルの寿命に対して悪影響を及ぼす。有機溶媒および/または導電塩の酸化分解は、正極の表面で生じる。分解の間に形成される反応熱とこの際に発生する気体状生成物とは、その後に続く、いわゆる「熱暴走(Thermal Runaway)」と、これによって生じる有機電池セルの破壊との原因となる。例えば有機リチウムイオンセルのための充電プロトコルの大半は、充電終了の指数としてセル電圧を用いる。この際、熱暴走による事故は、容量が異なる複数の有機リチウムセルが直列に接続される、マルチセル電池パックを使用した場合に特に生じやすい。
【0013】
有機電気セルの有機電解質の還元分解は、負極において行われ、同様に不可逆的である。
【0014】
どの有機溶媒も、炭素に貯蔵されたリチウムまたはナトリウムに対して、熱力学的に安定ではない。しかしながら、多くの溶媒は、負極の電極表面上においてパッシベーション膜を形成する。膜は、溶媒を空間的に電極から分離するものの、イオン伝導率を有することによりリチウムイオンまたはナトリウムイオンの通過を可能にする。いわゆる「個体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase:SEI)」であるパッシベーション膜は、システムに安定性を与えることにより、例えばリチウムセルまたはナトリウムセルの製造を可能にする。SEIが形成される過程で、リチウムまたはナトリウムがパッシベーション膜と一体化される。このプロセスは不可逆的であるため、容量損失とみなされる。したがって、有機金属セルには、安定性および長期使用時の動作安全性に関して問題がある。安全上のリスクは、特に有機溶媒または溶媒混合物の可燃性によっても生じる。有機金属セルが発火、またまたは爆発すらした場合、金属製の活性金属が高活性物質を、電解質の有機溶媒が可燃物を形成する。このような安全上のリスクを回避するためには、さらなる対策を実施することが必要となる。しかしながら、このような追加的な対策は、商業化の可能性がある場合には欠点と考えられている。
【0015】
先行技術より公知である発展様態では、充電式電池セルにおいて、有機電解質に代えて二酸化硫黄(SO)系電解質を使用している。SO系電解質を含む充電式電池セルは、とりわけ高いイオン伝導率を有する。「SO系電解質」という用語は、添加剤としてSOを低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており、電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、または完全にSOによって保証される電解質であると理解される。よってSOは、導電塩のための溶媒として機能する。導電塩は、気体状のSOと液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、この場合SOが結合して蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下する。より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。この種のSO系電解質は、前述の有機電解質に対して不燃性という利点を有する。よって、電解質の可燃性に起因して生じる安全上のリスクを排除することが可能である。
【0016】
前述の有機電池セルの欠点に加え、充電式金属セルにおける負極に金属製の活性金属を使用することも同様にさらなる問題を引き起こす。一方では、充電時において活性金属が均一ではなく樹状突起の形で析出する。制御不能な樹状突起の成長は、大きな表面積を有する反応性の高いである金属の蓄積につながり、安全が危ぶまれる状態になりかねない。他方では、例えば金属リチウムまたは金属ナトリウムの熱力学的な不安定性は、金属リチウムまたは金属ナトリウムと電解質との間の不可逆的で連続的な反応を引き起こす。ゆえに、例えばリチウムセルにおいては、リチウム金属表面上に所望されない、リチウムと電解質構成要素とを消費する厚いパッシベーション層(SEI)が形成される。充放電を繰り返すと、リチウム金属アノードに大きな体積変化および形態変化が生じる可能性がある。前述のSEI膜は、このような重大な変化を完全に抑制するには不安定すぎる。これにより、内部抵抗が増大し、充電式リチウム電池セルの寿命が短くなる。
【0017】
また、充電時における以前に溶解したイオンから固形の活性金属が析出することによる金属セル内の容積の増加によっても、ハウジング内の張力および圧力が上昇することがある。これにより電極、セパレータ、またまたはハウジングそのものすら破損する可能性がある。
【0018】
前述の欠点および問題は深刻であり、以下の文献から明らかになるように、現在、有機金属セルについてもSO系電解質を有する金属セルについても金属アノードとの関連における諸問題の解決策が研究および探索されている。
【0019】
文献[V3](「効率的なリチウム金属電池のためのリチウムイオンの均一分散による無樹状突起リチウム析出」、チェン等、アドバンスド・マテリアルズ、2016年、28、2888から2895)の著者は、有機電解質を用いたリチウム金属電池について述べている。無樹状突起リチウム金属アノードを得るために、著者は、多数の極性基を有する三次元ガラス繊維織物を用いてリチウムを析出している。
【0020】
文献[V4](「高エネルギー電池におけるナトリウム金属アノードの効率的使用を可能にする設計戦略」、サン等、アドバンスド・マテリアルズ、2020年、32、1903891)の著者は、例えば液状電解質、固形電解質またはNa金属アノード/電解質界面などの適切な適合など、有機ナトリウムセルにおけるナトリウムの樹枝状析出を防止するための様々な方法について述べている。著者は、ナノ構造のナトリウム金属アノードについても述べている。
【0021】
ジャーナル・オブ・パワーソーシズ、68号、No.2、1997年10月1日(1997-10-01)、338から343ページ([V5]と称する)の記事の著者オー等は、Li/LiCoOとLiAlCl・3SO電解質との組み合わせを用いた充電式リチウム金属セルについて述べている。リチウム金属電極の劣化を防止するために、著者は、電解質に対して少量のLiPFを添加することを提案している。
【0022】
米国特許第7901811号明細書7,901,811 B2(以下、[V6]と称する)においてテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl)である導電塩を含むSO系電解質を用いたリチウム金属セルが記載されている。樹枝状析出の欠点を回避するために、固体粒子から形成された多孔質構造が提案されており、多孔質構造は、リチウム金属セルの充電中に析出されたリチウムが導体要素の表面から多孔質構造の孔に浸入してさらに箇所において析出されるように形成および配置されている。
【0023】
SO系電解質に一般的に使用されるテトラクロロアルミン酸アルカリ導電塩(例えばLiAlCl xSOまたはNaAlCl xSO)に加えて国際公開第2021019047号(以下、[V6]と称される)は、SO系電解質のための新しい導電塩群を開示している。導電塩は、中心原子ホウ素またはアルミニウムの周りにグループ化された四つの置換ヒドロキシル基を持つアニオンと、セルの活性金属からなるカチオンで構成されている。加えて[V7]は、導電塩を有するSO系電解質における均質なリチウム析出について述べている。
【0024】
しかしながら、先行技術から公知である解決策は、前述の全ての問題を克服するには不十分である。よって本発明は、改善された電気性能データ、特に高いエネルギー密度を有し、さらに以下のようなSO系電解質を有する充電式電池セルを提案するという課題に基づいている:
- 金属製の活性金属の可能な限り均一な析出を可能にし、
- 電池ハウジング内における活性金属の析出時に圧力上昇が生じない、
- 負極上に安定したカバー層を有し、カバー層容量が低く、さらなる作動において負極にさらなる還元的な電解質分解が生じないこと、
- 例えば電気的、機械的、または熱的な誤用に対して堅牢である、
- 正極において酸化的電解質分解が生じないように広い電位窓を有し、
- 改善された過充電性および深放電性ならびにより低い自己放電性を有し、および
- より長い寿命、特に使用可能である充放電サイクルの高い数を示す。
【0025】
この種の充電式電池セルは、特に極めて良好な電気的エネルギーデータおよび性能データ、高い動作安定性および寿命、特に使用可能な充放電サイクルの高い数を有し、その際に充電式電池セルの作動時に電解質が分解されることがないことが意図されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明が基づく課題は、意外にも請求項1の特徴を有する充電式電池セルによって解決された。請求項2から20は、本発明による充電式電池セルの有利である実施形態を説明するものである。本発明による充電式電池セルの有利であるさらなる発展態様は、明細書、実施例および図面から見受けられる。
【0027】
本発明による充電式電池セルは、活性金属、導体要素を有する少なくとも一つの正極、導体要素を有する少なくとも一つの負極、少なくとも一つのセパレータ要素、ハウジング、および電解質を含んでなり、電解質は、SO系であり、
【化1】
式(I)を有する少なくとも一つの第一の導電塩を有する。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属、およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、xは、1から3の整数である。置換基R、R、R、およびRは、互いに独立してC~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリール、およびC~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。Zは、アルミニウムまたはホウ素である。置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能である。さらに負極は、少なくとも充電式電池セルが充電された状態において、活性金属を金属の形で含む。さらにハウジングの内部に、充電時に析出された活性金属を受容するための空間が設けられており、空間は、析出された活性金属によって圧縮される圧縮可能な構造によって形成されている。
【0028】
本発明による充電式電池セルにおいて使用するSO系電解質は、SOを添加剤として低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる第一の導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、または完全にSOによって保証される濃度において含んでいる。第一の導電塩は、電解質内に溶解しており、電解内において極めて良好な溶解性を示す。導電塩は、気体状のSOとともに液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、溶媒和化合物複合体内にSOが結合される。この場合、液状の溶媒和化合物複合体の蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下し、より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。しかしながら本発明による電解質の製造時に式(I)による第一の導電塩の化学構造に応じて蒸気圧低下が生じない可能性があることも本発明の範囲内にある。後者の場合、本発明による電解質の製造時に低温または加圧下において作業することが好ましい。電解質は、自身の化学構造が互いに異なる、複数の式(I)による導電塩をも含み得る。
【0029】
本発明の意味合いにおける「C~C10アルキル」という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシルなどが該当する。
【0030】
本発明の意味合いにおける「C~C10アルケニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、炭化水素基は少なくとも一つのC-C二重結合を有する。これには特にエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが該当する。
【0031】
本発明の意味合いにおける「C~C10アルキニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、炭化水素基は少なくとも一つのC-C三重結合を有する。これには特にエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニルなどが該当する。
【0032】
本発明の意味合いにおける「C~C10シクロアルキル」という用語は、3から10の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロへキシル、シクロノニルおよびシクロデカニルが該当する。
【0033】
本発明の意味合いにおける「C~C14アリール」という用語は、6から14の環状炭素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなる。これには特にフェニル(C基)、ナフチル(C10基)およびアントラシル(C14基)が該当する。
【0034】
本発明の意味合いにおける「C~C14ヘテロアリール」という用語は、5から14の環状炭化水素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなり、炭化水素原子のうち少なくとも一つが窒素原子、酸素原子または硫黄原子によって置換または交換されている。これには特にピロリル、フーラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニルなどが該当する。前述の炭化水素基の全ては、それぞれ酸素原子を介して式(I)による中心原子に結合している。
【0035】
本発明の意味合いにおける前述の全ての用語の定義において脂肪族、環式、芳香族、およびヘテロ芳香族の残基/群は、非置換であっても置換されていてもよい。置換の際、脂肪族、環式、芳香族、およびヘテロ芳香族の残基/群の一つ以上の水素原子がそれぞれ、例えばフッ素または塩素などの原子、または例えばCFのような化学基によって置換される。
【0036】
本発明の意味合いにおける「置換基R、R、RおよびRのうち少なくとも二つからともに形成されてZに配位されるキレート配位子」という用語は、置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つが互いに架橋され得ることと理解され、二つの置換基による架橋は、二座キレート配位子の形成につながる。キレート配位子は、例えば以下の構造式を有することが可能である:
【化2】
【0037】
キレート配位子は、中心原子Zに配位してキレート錯体を形成する。二座のキレート配位子の場合、両方の酸素原子が中心原子Zに配位する。このようなキレート錯体を後述の実施例1のように合成的に製造することが可能である。「キレート錯体」と言う用語は、多座配位子(一つ以上の自由電子対を有する)が中心原子の少なくとも二つの配位部位(結合部位)を占める錯体化合物を表す。キレート配位子は、置換基R、R、R、およびRのうち三つまたは四つが互いに架橋している場合には多座配位子ともなり得る。
【0038】
「金属製の活性金属を受容するための空間」という用語は、電池セルの充電時に析出された金属製の活性金属の量を受容する容量であると理解される。充電時に、金属製の活性金属は、容量増加に伴い負極の導体要素の上に析出される。
【0039】
本発明による充電式電池セルにおいて析出された金属製の活性金属を受容するための空間は、電池セルの充電時に析出された活性金属によって圧縮される、一つ以上の圧縮可能な構造から形成される。これによって、本発明による実施形態は、負極の導体要素も負極も、またまたはさらにハウジング自体もが電気セル内の容量増加によって破損しないことを保証されるという顕著な利点を有する。同時に圧縮可能な構造によって、析出する活性金属に圧力が付与され、圧力は活性金属がコンパクトな形で析出されることに寄与する。
【0040】
本発明による充電式電池セルが一つ以上の圧縮可能な構造を有することは、本発明の精神に沿うものである。以下の考察において便宜上、一つの圧縮構造を有する電池セルについて述べる。同様のことが複数の圧縮構造を含む構造についても相応して該当する。
【0041】
活性金属が完全に析出すると厚さoを有する金属層が形成される。圧縮可能な構造は、非圧縮状態では層厚p、最大圧縮状態では層厚qを有する。よって、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において、以下の等式から見受けられるように析出された金属層の厚さoと、圧縮された状態における圧縮構造の厚さqとの合計は、非圧縮状態における圧縮可能な構造の厚さq以下となる:
o+q<=p
【0042】
一般論として、析出された金属層の厚さと圧縮状態における圧縮構造の厚さとの和は、非圧縮状態での圧縮構造の厚さ以下であるため、本発明による電池セルにおいて、容積の増加が生じないことが保証される。
【0043】
したがって、複数の圧縮可能な構造を有する電池セルにおいて、圧縮可能な構造1からnは、非圧縮状態において、総層厚p=p1+p2+…+pn、また、最大圧縮状態において、総層厚q=q1+q2+…+qnを有する。電気セル内部において金属析出が例えば一つ以上の導体要素の両側など、1からn箇所において生じる場合、析出された金属層の総厚さoはo=o1+o2+…+onで計算される。
【0044】
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において圧縮可能な構造は、その元の厚さの少なくとも90%、好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは30%、および特に好ましくは10%、に低減され得る。
【0045】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、以前に析出された活性金属の溶解後に、再び圧縮可能な構造の非圧縮状態に戻るように選択される。本発明による充電式電池セルのこのような有利な発展態様により、電池セルの構造に悪影響を及ぼし得る自由空間が形成されないことが保証される。
【0046】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、ポリマーを有する。可逆的に圧縮して再び伸長する構造とは、本発明の精神に沿うと例えば
- 織(英語:woven)ポリマー、
- ポリマーフィルム、
- 不織(英語:non woven)ポリマー、
- ポリマー膜、または
- 無機不織布、例えばガラス繊維不織布
からなる構造であると理解される。しかしながら本発明は、前述の例に限定されるものではない。
【0047】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、少なくとも一つの導体要素および/または少なくとも一つのセパレータ要素によって形成される。
【0048】
セパレータ要素
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、少なくとも一つのセパレータ要素、いわゆる圧縮可能なセパレータ要素によって形成される。
【0049】
セパレータ要素は、全ての電池セルにとって重要な機能要素である。セパレータ要素の役割は、電池セルの正極および負極の電気的絶縁である。同時にセパレータ要素は、イオン伝導によって、セルの機能に必要である電極間の電荷輸送が実施されることをもたらす。この目的のため、セパレータ要素を電解質溶液で濡らして、電解質溶液が浸透している必要がある。
【0050】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様においてセパレータ要素は、圧縮可能である。圧縮可能なセパレータ要素は、不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料、またまたはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。圧縮可能なセパレータ要素は、例えば有機ポリマー膜と不織布層とからなるものであり得る。
【0051】
原則として、活性金属の析出された層の厚さとセパレータ要素の圧縮特性とに応じて、あらゆる厚さの圧縮可能なセパレータ要素が適している。
【0052】
しかし、圧縮可能セパレータ要素の厚さは、多くとも0.2mmであるべき。しかしながら、特に好ましいのはより小さい厚さであり、例えば多くとも0.15mm、さらに好ましくは多くとも0.1mm、さらに好ましくは多くとも0.09mm、さらに好ましくは多くとも0.08mm、さらに好ましくは多くとも0.07mm、さらに好ましくは多くとも0.06mm、さらに好ましくは多くとも0.05mm、さらに好ましくは多くとも0.04mm、さらに好ましくは多くとも0.03mm、および極めて好ましくは多くとも0.02mmである。好ましい実施形態において圧縮可能なセパレータ要素は、有機ポリマー膜と少なくとも一つの不織布層とを含んでなり、有機ポリマー膜は、第一および第二の表面を有し、不織布層は、第一および第二の不織布層表面を有する。有機ポリマー膜の表面のうち一方は、不織布層表面のうち一方に接触する。セパレータ要素は、有機ポリマー膜と不織布層とからなる複合体であり得、有機ポリマー膜と不織布層とは、これらの接触している表面が剥離不能に接続されるように強固に相互接続されている。
【0053】
本発明の意味合いにおいて「不織布層」という用語は、不織(英語:non woven)有機または無機材料からなる少なくとも一つの層である。好ましい実施形態において不織布層は、有機材料、すなわちポリマー、さらに好ましくはポリオレフィン、極めて好ましくはポリプロピレンまたはポリエチレンを有する。別の好ましい実施形態において不織布層は、無機材料、好ましくはガラス繊維不織布を有する。
【0054】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において第一および第二の不織布層表面の間における不織布層の厚さは、第一および第二の表面の間における有機ポリマー膜の厚さよりも大きく、好ましくは少なくとも二倍、特に好ましくは特に三倍、特に好ましくは四倍、および極めて好ましくは少なくとも五倍である。
【0055】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様においてポリマー含有不織布層は、さらにセラミック材料、好ましくは酸化アルミニウム、酸化ケイ素または二酸化チタンを有する。ポリマー含有不織布層は、無機材料に加えて有機結合剤、例えばPDVF、PTFEまたはTHVを有することが可能である。セラミック材料および結合剤のいずれも表面における層として形成され、および/またはポリマー不織布の多孔質層構造内に組み込まれることが可能である。
【0056】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能セパレータ要素は、セラミック材料をさらに含むポリマー含有不織布層から形成される。
【0057】
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において圧縮可能なセパレータ要素は、非置換ポリオレフィン(例えばポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的または完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば部分的または完全にフッ素置換されたもの、特にPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミドまたはポリスルホンを有する。有機材料と無機材料との組み合わせを含む圧縮可能なセパレータ要素は、例えばガラス繊維に適切なポリマーコーティングが設けられているガラス繊維織物材料である。コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、フッ化ビニリデンからなるターポリマー)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、アミノシラン、ポリプロピレン、またはポリエチレン(PE)などのフッ素含有ポリマーを含む。
【0058】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、一つ以上のセパレータ要素は、非圧縮可能な材料を有する。
【0059】
電池セルが電池セルの充電時に析出された金属製の活性金属の量を受容する金属製の活性金属を受容する別の空間、または、その他の圧縮可能である構造を有する場合、本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、全てのセパレータ要素は、非圧縮材料から形成される。
【0060】
導体要素
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、少なくとも一つの導体要素によって形成される。
【0061】
導体要素は、負極または正極の活物質の外部回路への必要な電子伝導接続を可能とするために使用される。この目的のため導体要素は、負極または正極の電極反応に関与する活物質と接触している。導体要素は、少なくとも部分的に電子伝導材料からなる必要がある。通常、導体要素は、銅、アルミニウム、またはニッケルなどの金属からなる。本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、複数の構成要素を含む複合体として形成される導体要素によって形成される。例えば導体要素は、両面において銅、アルミニウム、またはニッケルなどの金属がコーティングされた圧縮可能な構造からなることが可能である。加えて、圧縮可能な構造の縁またはへりを金属でコーティングすることも可能である。これにより圧縮可能な導体要素が得られる。圧縮可能な導体要素は、例えば片面または両面に金属がコーティングされた圧縮可能なポリマーであり得、ポリマーは、金属製の活性金属の析出時に圧縮されることによって、析出された金属のための空間を提供する。
【0062】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な構造は、圧縮可能な金属からなる導体要素から形成される。例えば、金属不織布を使用することが可能である。金属不織布を別の金属でコーティングすることも任意に可能である。
【0063】
好ましい実施形態においてポリマーは、より高い温度においても、SO系電解質および金属コーティングに対して安定性を有する。適切なポリマーは、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるが、これらに限定されるものではない。電子伝導性をもたらす金属コーティングは、負極の導体要素の場合例えば銅、および正極の導体要素の場合例えばアルミニウムからなる。
【0064】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において圧縮可能な導体要素は、負極、正極、または両電極の導体要素として使用され得る。電池セルが複数の正極および負極からなる場合、個々のまたは全ての電極が圧縮可能な導体要素を含むことが可能である。
【0065】
圧縮可能な導体要素の厚さは、多くとも0.1mmであることが好ましい。しかしながら、特に好ましいのは例えば多くとも0.08mmなどのより小さい厚さであり、さらに好ましくは多くとも0.06mm、さらに好ましくは多くとも0.04mm、さらに好ましくは多くとも0.02mmおよび、極めて好ましくは多くとも0.01mmである。
【0066】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において非圧縮状態における圧縮可能なポリマーの厚さは、金属コーティングの厚さよりも大きく、好ましくは少なくとも二倍、特に好ましくは特に三倍、特に好ましくは四倍、および極めて好ましくは少なくとも五倍である。
【0067】
圧縮可能な導体要素は、例えば両面においてそれぞれ1μmの金属コーティングと、その間に8μmの圧縮可能なポリマー層とを有することが可能である。これにより導体要素は、10μmの総厚さを有する。
【0068】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、負極の導体要素および/または正極の導体要素は、非圧縮可能で、薄い金属シートまたは薄い金属箔の形における平面状の導体要素によって形成される。薄い金属箔は、有孔状または網目状構造を有することが好ましい。平面状の導体要素は、金属コーティングされたプラスチック箔からなることも可能である。金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲における厚さを有する。負極または正極の活物質は、薄い金属シート、薄い金属箔または金属コーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されていることが好ましい。活物質は、平面状の導体要素の前面および/または背面に塗布され得る。この種の平面状の導体要素は、5μmから50μmの範囲における厚さを有する。平面状の導体要素の10μmから30μmの範囲における厚さが好ましい。平面状の導体要素を使用する場合、正極の総厚さは、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μmおよび特に好ましくは少なくとも60μmであり得る。最大厚さは、多くとも200μm、好ましくは多くとも150μm、および特に好ましくは多くとも100μmである。
【0069】
一面におけるコーティングに対する負極の面積比容量は、電池セルの充電状態において平面状の導体要素を使用した場合に、好ましくは少なくとも0.5mAh/cmであり、さらにはこの順における以下の値が好ましい:1mAh/cm、3mAh/cm、5mAh/cm、10mAh/cm、15mAh/cm、20mAh/cm、25mAh/cm
【0070】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において負極および/または正極の導体要素は、多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形における三次元的な導体要素によって形成される。「三次元的な多孔金属構造」という用語は、薄い金属シートまたは金属箔のように、平面状の電極の長さと幅だけではなく、その厚さ寸法に亘っても延伸する、全ての金属製の構造を指す。三次元的な多孔金属構造体は、多孔質であるため、負極の活物質を金属構造体の孔内に取り入れることができる。析出された、取り入れられた、または塗布された活物質の量とは、電極の充填量のことである。
【0071】
導体要素が三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形において形成されている場合、電極は、好ましくは少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.3mm、さらに好ましくは少なくとも0.4mm、さらに好ましくは少なくとも0.5mm、および特に好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有する。この場合、電極の厚さは、有機金属セルにおいて使用される負極と比較すると顕著に大きい。
【0072】
別の有利である実施形態において、特に金属発泡体の形における三次元的な導体要素を使用する場合、電池セルの充電状態における負極の面積比容量は、好ましくは少なくとも2.5mAh/cmであり、以下の値がこの順においてさらに好ましい:5mAh/cm、15mAh/cm、25mAh/cm、35mAh/cm、45mAh/cm。別の有利である実施形態において、特に金属発泡体の形における三次元的な導体要素を使用する場合、正極の面積比容量は、好ましくは少なくとも2.5mAh/cmであり、以下の値がこの順においてさらに好ましい:5mAh/cm、15mAh/cm、25mAh/cm、35mAh/cm、45mAh/cm、55mAh/cm、65mAh/cm、75mAh/cm。導体要素が、三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形において形成されている場合、正極の活物質の量、すなわちその面に関する電極の充填量は、少なくとも10mg/cm、好ましくは少なくとも20mg/cm、さらに好ましくは少なくとも40mg/cm、さらに好ましくは少なくとも60mg/cm、さらに好ましくは少なくとも80mg/cm、および特に好ましくは少なくとも100mg/cmである。正極の充填量は、充電式電池セルの充電過程ならびに放電過程に対してプラスの影響を及ぼす。
【0073】
活性金属
以下において活性金属に関する、本発明による充電式電池セルの有利である発展様態を説明する:
充電式電池セルの有利である発展様態において活性金属は、以下のものである:
- アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム、
- アルカリ土類金属、特にカルシウム、
- 元素周期表第12族の金属、特に亜鉛、または
- アルミニウム。
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において活性金属は、リチウムまたはナトリウムである。
【0074】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において活性金属は、リチウムである。
【0075】
負極
負極の活物質は、金属の形における活性金属である。活性金属は、充電式電池セルの充電時に負極の導体要素上に析出される。このことは、負極が活物質としての金属製の活性金属に加えて、導体要素をも含んでなることを意味する。充電式電池セルの有利である発展態様において負極の導体要素は、アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウムである。
【0076】
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において、最初の充電時に金属製の活性金属の第一の部分は、金属製の活性金属の残りの部分が析出される電流強度よりも高い電流強度にて析出される。この手段は、金属製の活性金属が充電時に樹状突起の形ではなく、均一に析出されるという大きな利点を有する。これにより、本発明による電池セルにおいて大きな表面を有する高反応金属の蓄積につながる制御不能な樹状突起の成長が顕著に最初化される。
【0077】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において最初の充電時により高い電流強度において析出される金属製の活性金属の第一の部分は、析出された金属製の活性金属の総量に対して少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%、および特に好ましくは少なくとも100重量%である。
【0078】
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において電池セルの活性物質は、金属リチウムであり、最初の充電時に金属リチウムの一部は、負極の片側表面に対して少なくとも3mAh/cm、好ましくは少なくとも3.5mAh/cm、好ましくは少なくとも4.0mAh/cm、好ましくは少なくとも4.5mAh/cm、好ましくは少なくとも5.0mAh/cm、好ましくは少なくとも5.5mAh/cm、および特に好ましくは少なくとも6.0mAh/cmの電流強度において析出される。前述のとおり前記手段は、金属リチウムが充電時に樹状突起の形ではなく均一に析出されるという大きな利点を有する。これにより、本発明による電池セルにおいて大きな表面を有する高反応金属の蓄積につながる制御不能なリチウム樹状突起の成長が顕著に最小化される。
【0079】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、最初の充電時に負極の片側表面に対して少なくとも3mAh/cmの電流強度において析出される金属リチウムの部分は、析出されたリチウムの総量に対して少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%および特に好ましくは少なくとも100重量%である。
【0080】
以下に負極に関する、本発明による充電式電池セルの有利である発展様態を説明する:
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において、充電式電池セルの放電状態における負極の電子伝導導体要素が、金属製の活性金属を含まない。電池セルの充電時に金属製の活性金属は、負極の電子伝導導体要素上に析出される。放電時に金属製の活性金属は、基本的に完全に溶解してイオンの形において負極の活物質のホストマトリックス内に到達する。
【0081】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において負極の電子導体要素は、充電式電池セルの最初の充電の前に既に金属製の活性金属を含んでなる。電池セルの充電時にさらなる金属製の活性金属が電子伝導導体要素の上に析出される。放電時に金属製の活性金属が完全または部分的に溶解して、イオンの形において正極の活物質のホストマトリックス内に到達する。既に導体要素上にある金属製の活性金属を、一方では電池セルの組立て前に導体要素上に塗布して導体要素とともに電池セル内に組み込むことが可能である。他方では、金属製の活性金属を電池セルの作動前、すなわち最初の充放電前に先行する初期化充電過程によって、負極の導体要素上に析出することが可能である。
【0082】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において負極の導体要素は、少なくとも部分的に、活性金属を貯蔵することが可能である物質から形成される。このような発展態様においては電池セルの充電時にまずは電極反応の結果として得られる活性金属の一部が、活性金属を貯蔵可能である物質から電子伝導導体要素に貯蔵される。その後、電池セルのさらなる充電時に電子伝導導体要素に金属製の活性金属が析出される。放電時に金属製の活性金属が完全または部分的にのみ溶解してイオンの形において正極の活物質のホストマトリックス内に到達する。
【0083】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において負極の導体要素は、少なくとも部分的に、リチウム貯蔵材料から形成される。リチウム貯蔵材料は、例えば挿入材料である炭素、特に修飾であるグラファイトの形であり得る。しかしながらリチウムと合金を形成する材料、例えばリチウム貯蔵金属および金属合金(例えばSi、Ge、Sn、SnCo、SnSiなど、うち好ましくはシリコン)またはリチウム貯蔵金属および金属合金の酸化物(例えばSnO、SiOまたはSn、Siの酸化物ガラスなど)または例えばチタン酸リチウム、特にLiTi12などの炭素を含まないリチウム層間物質であり得る。さらにリチウム貯蔵材料として例えば遷移金属酸化物のような変換材料を使用することも可能である。
【0084】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において負極の導体要素は、少なくとも部分的にナトリウム貯蔵材料から形成される。ナトリウム貯蔵材料は、例えば挿入素材である炭素、特に硬質炭素(英語:hard carbon)、軟質炭素(英語:soft carbon)、グラフェン、またはヘテロ原子ドープ炭素であり得る。また、ナトリウム貯蔵材料は、ナトリウムとともに合金を形成する材料、例えばナトリウム貯蔵金属および金属合金(例えばSn、Sb)、ナトリウム貯蔵金属および金属合金の硫化物または酸化物(例えばSnS、SbS、またはSn、Sbの酸化物ガラスなど)であり得る。また、ナトリウム貯蔵材料は、例えばチタン酸ナトリウム、特にNaTiまたはNaTi(POなどの、炭素を含まないリチウム層間物質であり得る。例えば遷移金属酸化物のような変換材料を使用することも可能である。
【0085】
電解質
以下において、SO系電解質に関して、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【0086】
本発明による充電式電池セルにおいて使用されるSO系電解質は、前述のとおりSOを添加剤として低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる第一の導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、または完全にSOによって保証される濃度で含んでいる。
【0087】
このような電解質を有する充電式電池セルは、先行技術より公知である電解質を有する充電式電池セルと比べて、含有される第一の導電塩がより高い酸化安定性を有することによって、実質的にはより高いセル電圧において分解が生じないという利点を有する。電解質は、好ましくは少なくとも4.0ボルトの上位電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの上位電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルトの上位電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.6ボルトの上位電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルトの上位電位まで、および特に好ましくは少なくとも5.0ボルトの上位電位まで酸化安定性を有する。よって、充電式電池セルにおいてこのような電解質を用いた場合、作用電位内、すなわち充電式電池セルの両電極の充電終了電圧と放電終了電圧との間における範囲において、生じる電解質分解が全くないまたは極めて少ない。これにより本発明による充電式電池セルは、少なくとも4.0ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトの充電終了電圧を有することが可能である。
【0088】
電解質を含む充電式電池セルの寿命は、先行技術より公知である電解質を含む充電式電池セルに比べて顕著に長くなる。
【0089】
また、このような電解質を含む充電式電池セルは、低温安定性を有する。例えばマイナス40℃の気温においてまだ充電容量の61%を放電することが可能である。低温における電解質の伝導率は、電池セルを作動するのに十分である。
【0090】
さらに、このような電解質を有する充電式電池セルは、残留水量に対して向上した安定性を有する。電解質において(ppmの範囲における)微量の水が残留している場合、電解質または第一の導電塩は、水とともに先行技術より公知であるSO系電解質に比べて、セル構成要素に対する侵食性が著しく低い加水分解生成物を形成する。したがって、先行技術より公知であるSO系電解質に比べて、電解質が水を含まないということはさほど重要な役割を果たすものではない。本発明による電解質の利点は、先行技術より公知である導電塩に比べて、式(I)による第一の導電塩が著しく大きいアニオン寸法を有することによって生じる欠点を凌駕する。より大きいアニオン寸法は、例えばLiAlClまたはNaAlClの伝導率に比べて、式(I)による第一の導電塩の伝導率が低くなることにつながる。
【0091】
充電式電池セルの別の有利である実施形態において第一の導電塩の置換基R、R、R、およびRは、互いに独立して以下から形成される群から選択される:
- C~Cアルキル、好ましくはC~Cアルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチル、
- C~Cアルケニル、好ましくはC~Cアルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニル、
- C~Cアルキニル、好ましくはC~Cアルキニル、
- C~Cシクロアルキル、
- フェニル、および
- C~Cヘテロアリール、
- 脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。
【0092】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つが二座キレート配位子を形成するために、互いに架橋されている。このような二座キレート配位子は、例えば以下の構造を有し得る:
【化3】
【0093】
好ましくは三つまたは四つもの置換基R、R、R、およびRを三座または四座キレート配位子を形成するために、互いに架橋することも可能である。キレート配位子は、中心原子Zに配位してキレート錯体を形成する。「キレート錯体」(省略してキレートも称される)という用語は、多座配位子(一つ以上の自由電子対を有する)が、中心原子の少なくとも二つの配位部位(結合部位)を占める錯体化合物を表す。中心原子とは、正電荷を有する金属イオンAl3+またはB3+である。配位体と中心原子とは、配位結合で結合されており、このことは結合電子対が配位体のみによって構成されていることを意味する。
【0094】
SO系電解質における第一の導電塩の溶解度を向上させるために、充電式電池セルの別の有利である実施形態において置換基R、R、R、およびRは、少なくとも一つのフッ素原子および/または少なくとも一つの化学基によって置換されており、化学基は、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルによって形成される群から選択される。化学基C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有する。この文脈において、置換とは、置換基R、R、R、およびRの個々の原子または原子団がフッ素原子および/または化学基によって置換されていることを意味する。
【0095】
置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも一つがCF基またはОSОCF基であることにより、特に高いSO系電解質における第一の導電塩の溶解度を得ることが可能である。
【0096】
充電式電池セルの別の有利である発展態様において第一の導電塩は、以下から形成される群から選択される:
【化4】
【0097】
電解質の伝導率および/またはさらなる特性を所望する値に適合させるために、本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施形態において電解質は、式(I)による第一の導電塩とは異なる、少なくとも一つの第二の導電塩を有する。このことは、電解質が第一の導電塩に加えて、その化学組成のみならず、化学構造においても第一の導電塩とは異なる、一つまたはそれ以上の第二の導電塩を含み得ることを意味する。
【0098】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施形態において第二の導電塩は、アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物またはナトリウム化合物である。アルカリ金属化合物またはリチウム化合物またはナトリウム化合物は、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、およびガレートから形成される群から選択される。第二の導電塩は、テトラハロゲンアルミン酸リチウムまたはテトラハロゲンアルミン酸ナトリウム、特にLiAlClまたはNaAlClであることが好ましい。
【0099】
さらに本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施形態において電解質は、少なくとも一つの添加剤を含む。添加剤は、ビニレンカーボネートおよびこれらの誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよびこれらの誘導体、メチルエチレンカーボネートおよびこれらの誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ホウ酸、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルトン、環状および非環状スルホン酸塩、非環状亜硫酸塩、環状および非環状スルフィン酸エステル、無機酸の有機エステル、非環状および環状アルカン(非環状および環状アルカンは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する)、芳香族化合物、ハロゲン化環状および非環状スルホニルイミド、ハロゲン化環状および非環状リン酸エステル、ハロゲン化環状および非環状ホスフィン、ハロゲン化環状および非環状ホスファイト、ハロゲン化環状および非環状ホスファゼン、ハロゲン化環状および非環状シリルアミン、ハロゲン化環状および非環状ハロゲン化エステル、ハロゲン化環状および非環状アミド、ハロゲン化環状および非環状無水物およびハロゲン化有機複素環によって形成される群から選択されることが好ましい。
【0100】
充電式電池セルの別の好ましい発展態様において、電解質組成の総重量に対して電解質は以下の組成を有する:
(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95重量%の第一の導電塩、
(iii)0から25重量%の第二の導電塩、および
(iv)0から10重量%の添加剤。
【0101】
前述のとおり電解質は、式(I)による一つの第一の導電塩と一つの第二の導電塩とだけではなくそれぞれ式(I)による複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むことが可能である。後者の場合、前述の割合は、複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むものである。第一の導電塩の物質量濃度は、電解質の総容積に対して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに好ましくは0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にある。
【0102】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSOおよび特に好ましくは少なくとも20モルのSOを含む。電解質は、極めて高いモル比のSOを含むことも可能であり、好ましい上限値は、1モルの導電塩当たり2600モルのSOであり、さらに1モルの導電塩当たり1500、1000、500および100モルのSOの上限がこの順において好ましい。「1モルの導電塩当たり」という用語は、電解質に含まれる全ての導電塩を指す。SOと導電塩との間におけるこの種の濃度比を有するSO系電解質は、電解質が先行技術より公知である、例えば有機溶媒混合物系の電解質と比べてより多量の導電塩を溶解することが可能であるという利点を有する。本発明の範囲内において、驚くべきことに、比較的小さな導電塩濃度を有する電解質は、それに伴って蒸気圧が上昇するにも関わらず、特に充電式電池セルの多数の充放電サイクルに対する安定性に関して有利であることが判明した。電解質におけるSO濃度は、電解質の伝導率に影響を及ぼす。よって、SO濃度を選択することによって電解質の伝導率を電解質によって作動される充電式電池セルの使用目的に適用させることが可能である。SOと第一の導電塩との総重量は、電解質の重量の50重量パーセント(重量%)よりも多いことが可能であり、好ましくは60重量%より多く、さらに好ましくは70重量%より多く、さらに好ましくは80重量%より多く、さらに好ましくは85重量%より多く、さらに好ましくは90重量%より多く、さらに好ましくは95重量%より多く、またはさらに好ましくは99重量%より多い。
【0103】
電解質は、充電式電池セルに含まれる電解質の総量に対して、少なくとも5重量%のSOを含み得、さらに好ましいのは20重量%のSO、40重量%のSOおよび60重量%のSOの値である。電解質は、95重量%までのSOを含み得て、80重量%のSOおよび90重量%のSOの最大値がこの順で好ましい。
【0104】
電解質における少なくとも一つの有機溶媒の割合は、わずかまたは全くないことも本発明の範囲内にある。好ましくは、電解質の有機溶媒の割合は、例えば一種または複数の溶媒の混合物の形で存在し、電解質の有機溶媒の割合は、電解質の重量の多くとも50重量%であり得る。特に好ましいのは、電解質の重量に対して多くとも40重量%、多くとも30重量%、多くとも20重量%、多くとも15重量%、多くとも10重量%、多くとも5重量%または多くとも1重量%である、より少ない割合である。電解質は、有機溶媒を含まないことがさらに好ましい。有機溶媒の割合がわずかである、または全く存在しないことで電解質は、ほとんど、または全く可燃性を有しない。このことは、この種のSO系電解質によって作動する充電式電池セルの動作安全性を向上させる。SO系電解質は、基本的に有機溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0105】
充電式電池セルの別の有利である発展態様において電解質は、電解質組成の総重量に対して以下の組成を有する:
(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95重量%の第一の導電塩、
(iii)0から25重量%の第二の導電塩、
(iv)0から10重量%の添加剤、および
(v)0から50重量%の有機溶媒。
【0106】
正極
以下において正極に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様において正極は、少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、好ましくは4.4ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトの上限電位まで、および特に好ましくは少なくとも6.0ボルトの上限電位まで充電可能である。
【0107】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの活物質を含む。活物質は、活性金属のイオンを貯蔵して電池セルの作動時に活性金属のイオンを放出して再受容することが可能である。
【0108】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの層間化合物を含む。本発明の意味合いにおける「層間化合物」という用語は、前述の挿入材料の下位カテゴリーであると理解されたい。層間化合物は、相互接続されている空所を有するホストマトリックスとして機能する。充電式電池セルの放電過程の間に活性金属のイオンが、空所内に拡散してそこに蓄積され得る。活性金属のイオンの蓄積の過程におけるホストマトリックスの構造変化は、わずかであるか全く生じない。
【0109】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、活物質として少なくとも一つの変態化合物を含む。本発明の意味合いにおける「変態化合物」という用語は、電気化学活性の間に他の材料を形成する材料であると理解されたい、すなわち電池セルの充放電の間に化学結合が分解されて再形成される。活性金属のイオンの受容および放出の際には、変態化合物のマトリックスにおいて構造変化が生じる。
【0110】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において活物質は、AM’M”の組成を有する。組成AM’M”において
- Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属、またはアルミニウムによって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立しいぇ0より大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、および
- aは、0よりも大きい数である。
【0111】
Aは、金属リチウムまたはナトリウムであることが好ましい、すなわち化合物は、LiM’M”、またはNaM’M”の組成を有し得る。
【0112】
組成AM’M”における指数yおよびzは、それぞれM’またはM”で表される金属および元素の総計を表す。例えばM‘が二つの金属M‘およびM‘を含んでなる場合、指数yはy=y1+y2であり、y1およびy2は、金属M‘およびM‘の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、組成内の電荷が中性になるように選択されねばならない。M‘が二つの金属を含む化合物の例は、M‘=Ni、M‘=MnおよびM“=Coである組成LiNiy1Mny2Coのリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物である。z=0である、すなわち別の金属または要素M“を有しない化合物の例は、コバルト酸リチウムLiCoである。例えばM“が二つの要素、一方では金属であるM“、他方ではM“としてリンを含んでなる場合、指数zについてはz=z1+z2であり、z1およびz2は、金属M“とリン(M“)の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。Aがリチウム、M“が金属M“、M“としてリンを含んでなる化合物の例としてはA=Li、M‘=Fe、M“=Mn、M“=Pおよびz2=1であるリン酸マンガン鉄リチウムLiFeMnz1z2がある。別の組成では、M“は二つの非金属、例えばM“としてフッ素、M“として硫黄を含んでなることが可能である。このような化合物の例としてはA=Li、M‘=Fe、M“=F、M“ =Pであるフルオロ硫酸鉄リチウムLiFez1z2がある。
【0113】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様においてM’は、ニッケルおよびマンガンの金属からなり、M”はコバルトである。この場合、式LiNiy1Mny2Coまたは式NaNiy1Mny2Co(NMC)である組成、すなわち層状酸化物の構成を有するリチウムッケルンガンバルト酸化物またはナトリウムッケルンガンバルト酸化物であり得る。このようなリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなる活物質の例としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC111)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)およびLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)である。ナトリウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなる活物資の例としてはNa[Ni1/3Mn1/3Co1/3]OおよびNa0.6[Ni0.25Mn0.5Co0.25]Oである。化合物を用いることで4.6ボルトより大きいセル電圧を有する充電式電池セルのための正極を製造することが可能である。
【0114】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において活物質は、リチウムとマンガンに富む金属酸化物(英語:Lithium- and Manganese-Rich Oxide Material)である。金属酸化物は、組成LiMnM”を有し得る。よって、M’は、上述の式LiM’M”において金属マンガン(Mn)を表す。ここでの指数xは、1以上であり、指数yは、指数zまたは指数z1+z2+z3などの和よりも大きい。例えばM“が指数z1およびz2の二つの金属M“および M“を含んでなる場合(例えば、M“=Ni、z1=0.175およびM“=Co、z2=0.1であるLi1.2Mn0.525Ni0.175Co0.1)、指数yについては、y>z1+z2が当てはまる。指数zは、0以上であり、指数aは0より大きい。指数x、y、z、およびaは、組成内の電荷が中性になるように選択されねばならない。リチウムとマンガンに富む金属酸化物は、0<m<1である式mLiMnO・(1-m)LiM‘Oによって表すことも可能である。この種の化合物の例は、Li1.2Mn0.525Ni0.175Co0.1、Li1.2Mn0.6Ni0.2、またはLi1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54である。
【0115】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において組成は、式AM’M”を有する。化合物は、スピネル構造である。例えばAがリチウムまたはナトリウム、M’がコバルト、およびM”がマンガンであり得る。この場合、活物質は、リチウムコバルトマンガン酸化物(LiCoMnO)またはナトリウムコバルトマンガン酸化物(NaCoMnO)である。LiCoMnOまたはNaCoMnOを用いて、4.6ボルトより大きいセル電圧を有する充電式電池セルのための正極を製造することが可能である。別の例においてM’がニッケル、M”がマンガンであり得る。この場合の活物質は、リチウムニッケルマンガン酸化物またはナトリウムニッケルマンガン酸化物、例えばLiNiMnOである。両金属M’およびM“のモル比は、異なっていてもよい。リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えばLiNi0.5Mn1.5の組成を有し得る。
【0116】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、変態化合物である、少なくとも一つの活物質を含む。変態化合物は、例えばリチウムまたはナトリウムの、活性金属を受容する際に、固体酸化還元反応が生じてその際に材料の結晶構造が変化する。このことは化学結合の分解および再形成下において生じる。変態化合物の完全可逆反応は、例えば以下のとおりであり得る:
タイプA: MX+yLi ⇔ M+zLi(y/z)
タイプB: X+yLi ⇔ Li
【0117】
変態化合物の例は、FeF、FeF、CoF、CuF、NiF、BiF、FeCl、FeCl、CoCl、NiCl、CuCl、AgCl、LiCl、S、LiS、Se、LiSe、Te、I、およびLilである。
【0118】
別の有利である発展態様において化合物は、AM’M” z1M” z2の組成を有し、M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、および16族の元素によって形成される群から選択され、M”は、元素リンであり、xおよびyは、それぞれ独立して0より大きい数であり、z1は、0より大きい数であり、さらにz2の値は1である。組成AM’M” z1M” z2を有する化合物は、いわゆるリン酸金属リチウムまたはリン酸金属ナトリウムである。化合物は、特に組成LiFeMnz1z2、LiFePO、NaFeMnz1z2、またはNaFePOを有する。他の組成を有するリン酸金属リチウムまたはリン酸金属ナトリウムを本発明による電池セルにおいて使用することも可能である。
【0119】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において活物質は、組成NaM’[Fe(CN)・nHOを有し、M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属である。M‘は、二つ以上の金属M‘、M‘、M‘などであり得る。この場合、指数yはy=y1+y2であり、y1およびy2は、金属M‘およびM‘の指数を表す。nは、0以上の数であり、x、全ての指数y(y、y1、y2など)およびaは、互いに独立して0よりも大きい数である。この種の化合物は、英語では「プルシアンブルー(Prussian blue)」や「プルシアンホワイト(Prussian white)」として公知であるヘキサシアノ鉄酸塩である。このような化合物の例は、NaNiFe(CN)、FeFe(CN)*4HO、Na0.61FeFe(CN)、Na1.89Mn[Fe(CN)0.97およびNaNi0.3Mn0.7Fe(CN)である。
【0120】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの金属化合物を含む。金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩によって形成される群から選択される。金属化合物の金属は、元素周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガン、または鉄であることが好ましい。
【0121】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、スピネル、層状酸化物、変態化合物、またはポリアニオン化合物の化学構造を有する、少なくとも一つの金属化合物を含む。
【0122】
正極は、活物質として前述の化合物または化合物の組み合わせのうち少なくとも一つを含むことは、本発明の範囲内にある。化合物の組み合わせとは、前述の材料のうち少なくとも二つを含む正極を意味する。
【0123】
結合剤
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において負極および/または正極の導体要素は、少なくとも一つの結合剤を有する。
【0124】
結合剤は、フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーであることが好ましい。しかしながら、共役カルボン酸のモノマー構造単位または共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーからなる結合剤であってもよい。さらに結合剤は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなることも可能である。さらに結合剤は、カルボキシメチルセルロース群からなる結合剤であってもよい。結合剤は、負極において負極の総重量に対して好ましくは多くとも20重量%、さらに好ましくは多くとも15重量%、さらに好ましくは多くとも10重量%、さらに好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも5重量%、および特に好ましくは多くとも2重量%の濃度において負極内に存在する。
【0125】
充電式電池セルの構造
以下において、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を、その構造に関して説明する:
【0126】
充電式電池セルの機能をさらに向上させるために、本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において充電式電池セルは、交互に積層されてハウジング内に配置されている、複数の負極と複数の正極とを有する。この場合、例えば角柱ハウジングであり得る。ここで正極および負極とは、それぞれセパレータ要素によって互いに電気的に分離されていることが好ましい。セパレータ要素は、充電式電池セルのハウジング内において例えばいわゆる「Z折り」の形状において折りたたまれて設けられることも可能である。Z折りの場合、帯状のセパレータ要素が電極を通るようにまたは電極を中心としてZ状に折りたたまれる。さらにセパレータ要素は、セパレータ紙として形成されていてもよい。
【0127】
しかしながら、充電式電池セルは、コイルセルとして形成されていてもよく、コイルセルでは電極がセパレータ材とともに巻回された薄層として形成されている。ここでは円形ハウジングを使用することが可能である。
【0128】
セパレータ要素が被覆として形成され得、正極または負極がそれぞれ被覆によって覆われることも本発明の範囲内にある。
【0129】
前述の全ての充電式電池セルは、本明細書において詳細に見受けられるように一つ以上の圧縮可能セパレータ要素および/または非圧縮可能材料からなる一つ以上のセパレータ要素を含むことが可能である。
【0130】
以下において本発明のさらなる有利である特性について図面、実施例および実験を用いて詳細に記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0131】
図1】本発明による充電式電池セルの第一の実施形態例の断面図である。
図2図2aおよび図2bは、図1による第一の実施形態例による圧縮可能な導体要素27および圧縮可能な導体要素の21の詳細概略図である。
図3】本発明による充電式電池セルの第二の実施形態例の分解立体図である。
図4】本発明による充電式電池セルの第三の実施形態例を示す分解立体図である。
図5】負極の活物質として金属リチウムを含み、非圧縮可能セパレータ要素によって自身の電極が分離された完全セルの第一の充電サイクルにおける充電電流、電圧および温度の経時変化を示す図である。
図6】完全セルの充電時にハウジングが破損した、図5において使用された完全セルの写真である。
図7図7aは、導体要素、ポリマー膜と「不織」ポリマーからなる圧縮可能セパレータ要素およびカソードを有する充電されていない電池セルの概略図である。導体要素上にはリチウムが存在せず、セパレータ要素は非圧縮状態にある。図7bは、導体要素、ポリマー膜と「不織」ポリマーからなる圧縮可能セパレータ要素およびカソードを有する充電された電池セルの概略図である。導体要素上にはリチウムが存在し、セパレータ要素は圧縮状態にある。
図8】負極の活物質として金属リチウムを含み、圧縮可能セパレータ要素によって自身の電極が分離された完全セルのサイクル数の関数としての充電容量(単位Ah)、およびサイクル効率(単位%)を示す図である。
図9】化合物1、4および6の濃度に対する実施例1の電解液1、4および6の伝導率(単位[mS/cm])を示す図である。
図10】化合物3および5の濃度に対する実施例1の電解液3および5の伝導率(単位[mS/cm])を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0132】
図1は、本発明による充電式電池セル20の第一の実施形態例の断面図を図示している。充電式電池セル20は、角柱セルとして形成されており、とりわけハウジング28を有する。ハウジング28は、一つの正極23および二つの負極22を含んでなる電極ユニットを囲んでいる。正極23および負極22は、電極ユニットにおいて交互に積層されて配置されている。しかしながら、ハウジング28は、より多くの正極23および/または負極22を収容することも可能である。一般的には負極22の数が正極23の数を1上回ることが好ましい。これにより電極スタックの外側の端面が負極22の電極表面によって形成される。電極22、23は、電極接続29、30を介して充電式電池セル20の対応する接続接点31、32に接続されている。充電式電池セル20にはSO系電解質が充填され、その際に電解質が全ての孔または空所にできる限り完全に浸入するようにする。図1において電解質は、図示されていない。充電式電池セル20のハウジング28は、基本的に立方体形状において形成され、電極22、23と断面図において示されるハウジング28の壁とは、図平面に対して垂直に延伸し、実質的に直線的で平坦に形成されている。本実施形態例において正極23は、活物質として層間化合物を含む。層間化合物は、NMC811である。
【0133】
本実施形態において電極22、23、平面状、すなわち自身の表面積に対して厚さが小さい層として形成されている。電極は、圧縮可能であるセパレータ要素21によってそれぞれ互いに分離されている。正極23は、平面状の金属箔の形における導体要素26を有し、導体要素の上に正極23の活物質24が両面に亘って塗布されている。本実施形態において負極22は、それぞれ圧縮可能な導体要素27を有し、充電時に導体要素の上に負極22の活物質25が両面に亘って析出される。別法として析出を縁電極、すなわち電極スタックを閉止する電極の圧縮可能な導体要素の一面のみに実施することも可能である。コーティングされない面は、ハウジング28の壁に対向する。
【0134】
図2aは、図1による負極の圧縮可能な導体要素27の断面図を図示している。圧縮可能な導体要素27は、圧縮可能な構造50と圧縮可能な構造50の両面における金属コーティング51とからなる。本実施形態において圧縮可能な構造は、銅製の金属コーティングを有するポリプロピレン箔を含んでなる。
【0135】
図2bは、図1による圧縮可能セパレータ要素21の断面図を図示している。圧縮可能セパレータ要素は、圧縮可能な構造52と圧縮可能な構造52の片面におけるポリマー膜53からなる。圧縮可能な構造52とポリマー膜53とは互いに強固に固着されていてもそれぞれ独自のユニットを形成していてもよい。本実施形態において圧縮可能な構造は、ポリプロピレンからなるポリマー膜と接続された不織(不織)ポリマー不織布を含んでなる。
【0136】
図3は、本発明による充電式電池セル40の第二の実施形態例の分解立体図を図示している。第二の実施形態例は、前述の実施形態例とは正極44が被覆13によって覆われている点において異なる。この際、被覆13の表面積は、正極44の表面積よりも大きく、正極の境界14が図3において一点鎖線で記入されている。正極44の両面を覆う、被覆13の二つの層15、16は、正極44の周縁において縁接続17によって互いに接続されている。両負極45は、被覆されていない。電極44および45は、電極接続46および47を介して接触され得る。
【0137】
図4は、本発明による充電式電池セル101の第三の実施形態例の分解立体図を図示している。巻回電極ユニットを有する、電池セル101の重要な構造要素が図示されている。カバー部103を有する円筒形状ハウジング102内にシート状の出発材料を巻いて形成した電極ユニット105がある。シートは、一つの正極と、一つの負極と、電極間の間を延伸するセパレータ要素とを含む複数の層からなり、セパレータ要素は、電極を互いから電気的および機械的に隔離するものの必要なイオン交換を可能にするのに十分な多孔性またはイオン伝導率を有する。こうすることにより電気化学的に有効な大きな表面が形成され、表面によって相該当する高い電流収量が可能となる。正極は、平面状の金属箔の形における導体要素を有し、金属箔の上に正極の活物質からなる均質な混合物が両面に塗布されている。本実施形態において負極は、圧縮可能な導体要素を含んでなり、導体要素の上に電池セルの充電時に負極の活物質が両面に析出される。
【0138】
ハウジング102の空所は、電極ユニット105によって占められない限り図示されない電解質によって充填されている。電極ユニット105の正極および負極は、正極のための対応する端子ラグ106と負極のための対応する端子ラグ107を介して正極のための端子接続108および負極のための端子接続109と接続されており、これにより充電式電池セル101の電気接続が可能になる。図4に図示される、端子フラグ107と端子接続109とを介した負極の電気接続の別法として負極の電気接続をハウジング102を介して実施することも可能である。
【0139】
実施例1 電池セルのためのSO系電解質の六つの実施形態例1、2、3、4、5および6の製造
以下に説明する実験のためにSO系電解質の六つの実施形態例1、2、3、4、5および6を製造した(以下、電解質1、2、3、4、5および6と称する)。このためにまず以下の文献[V8]、[V9]、[V10]および[V11]に記載されている製造方法にしたがって式(I)による五つの異なる第一の導電塩を製造した:
【0140】
[V8]I.クロッシング、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、490
[V9]S.M.イヴァノヴァ等、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、503
[V10]ツジオカ等、J.エレクトロケミカル・ソサイティ、2004年、151、A1418
[V11]ウー シェイ等、エレクトロケミカル・アンド・ソリッドステート・レターズ、2000年、3、366から368
【0141】
六つの異なる、式(I)による第一の導電塩を以下において化合物1、2、3、4、5および6と称する。化合物は、ポリフルオロアルコキシアルミン酸の仲間である。
【0142】
ヘキサン中においてLiAlHと対応するアルコールR-ОH(R=R=R=R)とから出発して以下の反応式にしたがって製造した(文献[V8]、[V9]および[V10]を参照のこと)。
【化5】
【0143】
キレート錯体を以下の文献[V11]に記載されている製造方法にしたがって対応するジオールHО-R-ОHから出発して製造した。
【0144】
これにより以下に示される分子式または構造式を有する、化合物1、2、3、4、5および6を形成した:
【化6】
【0145】
精製のために、まず化合物1、2、3、4、5および6を再結晶化した。これにより存在する場合には遊離体LiAlHの残留物を第一の導電塩から除去したのは、遊離体がSO中に存在する可能性がある微量の水とスパークする可能性があるからである。
【0146】
その後、化合物1、2、3、4、5および6をSO中に溶解した。この際、化合物1、2、3、4、5および6がSOにおいて良好に溶解することが判明した。
【0147】
電解質1、2、3、4、5および6の製造を以下に記載した方法
ステップ1から4にしたがって低温または加圧下において実施した:
1)それぞれの化合物1、2、3、4、5および6をそれぞれ一つのライザーパイプ付き圧力フラスコ内に入れる、
2)圧力フラスコを排気する、
3)液状のSOを流入する、および
4)目標量のSOが添加されるまでステップ2および3を繰り返す。
【0148】
電解質1、2、3、4、5および6における化合物1、2、3、4、5および6のそれぞれの濃度は、以下の実験説明において特に記述しない限り0.6モル/l(電解質1リットルに対する物質量濃度)であった。電解質1、2、3、4、5および6および基準電解質を用いて以下に説明する実験を実施した。
【0149】
実施例2 完全セルの製造
以下に説明する実験において使用した完全セルは、セパレータ要素によって分離された、一つの負極と一つの正極とを有する充電式電池セルである。セパレータ要素を有する電極は、巻かれた状態で円形セル内に設けられている。ハウジングは、円筒形状である。正極は、活物質、伝導率向上剤および結合剤を有した。正極の活物質については、それぞれの実験において述べられている。負極は、活物質として金属リチウムを含んでおり、金属リチウムは、負極の導体要素の上に塗布されたまたは既に存在していた。全体セルにおいて、どのセパレータ要素および導体要素が使用されたかはそれぞれの実験において述べられている。全体セルにはそれぞれ実験にとって必要である電解質を充填した。
【0150】
実験のために複数、すなわち二つから四つの同一の完全セルを製造した。実験において示した結果は、それぞれ同一の完全セルについて得られた測定値の平均値である。
【0151】
実施例3 完全セルにおける測定
放電容量:
完全セルにおける測定では、例えば放電容量をサイクル数によって決定する。このため完全セルを所定の上限電位まで所定の充電電流において充電する。相当する上限電位を充電電流がある値に下がるまで保持する。その後、所定の放電電位になるまで所定の放電電流において放電を実施する。充電方法をI/U充電と称する。過程を所望するサイクル数に応じて繰り返す。
【0152】
上限電位または放電容量およびそれぞれの充放電電流強度は、実験において記載されている。充電電流が下がって到達すべき値も実験において記載されている。
【0153】
「上限電位」という用語は、「充電電位」「充電電圧」「充電終了電圧」および「上部電位限界」という用語と同義に使用される。用語は、セルまたは電池が電池充電装置によって充電される際に到達すべき電圧/電位を示す。
【0154】
電池の充電は、C/2の電流率と22℃の温度において実施することが好ましい。定義によると1Cの充放電率ではセルの公称容量が一時間で充放電される。よってC/2の電流率とは、2時間の充電時間を意味する。
【0155】
「放電電位」という用語は、「下部セル電圧」という用語と同義に使用される。用語は、セルまたは電池を電池充電装置によって放電する際に到達すベき電圧/電位を示す。
【0156】
電池の放電は、C/2の電流率と22℃の温度において実施することが好ましい。
【0157】
放電容量は、放電電流と放電を終了するための基準が満たされるまでの時間とによって得られる。これらに関連する図において、放電容量の平均値をサイクル数の関数として図示している。放電容量の平均値をそれぞれ公称容量に対する割合で表す。
【0158】
放電容量Qentおよび充電容量Qladの比からサイクル効率Z=Qent/Qladが得られる。充電容量は、充電パラメータによって特定される。放電容量は、前述のとおりサイクル毎に求められる。
【0159】
比較実験 先行技術([V7]を参照のこと)による非圧縮可能であるセパレータ要素を有する実験用完全セルとの比較における、非圧縮可能であるセパレータ要素を有する完全セルのサイクル
[V7]において使用された実験用完全セルは、角状ハウジング内の二つの負極と一つの正極を有する充電式電池セルであった。材料またはサイクルパラメータの詳細については[V7]において見受けられる。実験用完全セルの充電容量は、0.08Ahであった。これは4mAh/cmの表面容積に相該当する。実験用完全セルを複数回充放電することに成功した([V7]図12を参照のこと)。
【0160】
[V7]の実験用完全セルの良好な結果に基づいて四つの巻回完全セルを調査した。
【0161】
実施例2において記載されるように完全セルは、円筒形状ハウジングにおける、活物質としてリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物を有する正極と金属リチウムからなる負極とを有するコイルセルであって、金属リチウムは、充電時に負極の導体要素の両面に活物質として析出される。完全セルに実施例1に記載される電解質1を充填した。完全セルの充電容量は7.5Ahである。完全セルの電極および[V7]の実験用完全セルの電極の両方ともが非圧縮可能セパレータ要素によって分離された(セラミックコーティングを有するポリマー)。
【0162】
完全セルをそれぞれ0.1mA/cmの充電電流において4.7ボルトの電位まで充電した。意外にもどの完全セルも7.5Ahの充電容量に到達しなかった。二つの完全セルは、充電終了前に短絡した。別の二つの完全セルでは充電時にハウジングが破損した。短絡またはセルの開放の時点において約2.0から2.5mAh/cmの表面容量にしか到達しなかった。
【0163】
図5は、自身のハウジングが充電時に破損した完全セルの充電電流、電圧および温度の経時変化を図示している。ハウジングの破損は、温度経過における温度低下によって見受けられる。
【0164】
図6において亀裂によって破損した完全セルのハウジングが見受けられ、完全セルはこれにより継続使用が不可能となった。
【0165】
意外にも円筒形状ハウジングは形状寸法条件によって角状ハウジングよりも耐圧性が高いにもかかわらず、角状の実験用完全セルの良好な結果を円筒状の完全セルにおいて再現することは不可能であった。
【0166】
実験1 構成要素の算出
実験のためにいずれもポリプロピレン製であるポリマー膜とポリマー不織布とからなる複合体からなる圧縮可能セパレータ要素を選択した。圧縮可能セパレータ要素は、非圧縮状態において51μmの厚さpを有する。
【0167】
図7aは、導体要素、圧縮可能セパレータ要素およびカソードを有する電池セルの概略図である。電池セルにおいて個々の構成要素の厚さ比は、電池セルにおける実際の比を反映しておらず単に簡略化されて図示されている。電池セルは充電されていないため、導体要素上にリチウムが存在しない。カソードと導体要素との間において厚さpを有する圧縮可能セパレータ要素が見受けられる。図7aにおいてセパレータ要素は、圧縮されていない。
【0168】
測定によりセパレータ要素の最大圧縮は、25μmである厚さqまで可能であることが判明した。最大圧縮後、26μmの高さを有するギャップが残る。
【0169】
計画されているのは4mAh/cmのリチウム析出であり、これは19μmの析出厚さoに相該当する。
【0170】
これにより以下のことが算出される:
o+q<=p
19μm+25μm=44μm<=51μm
【0171】
したがって、導体要素上に4mAh/cmのリチウムが析出される十分なスペースがあると思われる。
【0172】
図7bは、リチウム金属が導体要素上に析出された、充電されたセルを図示している。圧縮可能セパレータ要素は、厚さqに圧縮されており、厚さoを有するリチウム金属のためのスペースを提供する。
【0173】
圧縮可能セパレータ要素によってリチウムの析出にも関わらず電池セルの総厚さdは変化していない。これによりハウジング内の圧力上昇は予期されず安定した充放電挙動が達成されると思われる。
【0174】
実験2 圧縮可能セパレータ要素を有する完全セルのサイクル
実施例2において説明したとおり、完全セルは、一つの正極と一つの負極とを有するコイルセルである。完全セルの充電容量は、4.00Ahである。電極は、実験1に記載した圧縮可能セパレータ要素によって分離された。正極の活物質は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物であった。充電時に金属リチウムが活物質として負極の導体要素の両面に析出された。完全セルに実施例1に記載した電解質1を充填した。
【0175】
完全セルの充電は、0.1mA/cmの電流において4.4ボルトの電位と4.00Ahの充電容量(4mAh/cmの表面容量に相該当する)とに到達するまで実施された。その後、2.9ボルトの電位に到達するまで0.5mA/cmの電流において放電した。
【0176】
完全に充電することができなかった、圧縮可能セパレータ要素を使用しない完全セル(比較実験を参照のこと)と比べて圧縮可能セパレータ要素を有する完全セルを複数回充放電することが可能である。図8において9サイクル分の充電容量とサイクル効率が図示されている。
【0177】
充電容量は、最初の7サイクルでは約4.0Ahで一定であり、その後わずかに低下する。サイクル効率は、約95%で移行する。これらは充電式電池セルとしては優秀な結果である。実験1において理論上計算された値は、完全セルにおける比を良好に表している。図8に図示されるようにハウジング内で圧力上昇は生じず、安定した充放電挙動が得られる。
【0178】
実験3 電解質1、3、4、5および6の伝導率の測定
伝導率の測定のために異なる濃度の化合物1、3、4、5および6を有する電解質1、3、4、5および6を製造した。異なる化合物のそれぞれの濃度について、伝導測定法を用いて電解質の伝導率を測定した。その際、テンパリング後、四電極センサを溶液に接触するように保持して0.02から500mS/cmの測定範囲で測定した。
【0179】
図9は、化合物1、4および6の濃度に対する電解液1、4および6の伝導率を図示している。電解質1の場合、化合物1の濃度が0.6モル/Lから0.7モル/Lの場合、約37.9mS/cmの値である最大伝導率が見受けられる。これと比べて例えばLP30(1M LiPF/EC-DMC(1:1重量))などの先行技術より公知である有機電解質は、約10mS/cmの伝導率しか有しない。電解質4の場合、1.0モル/Lの導電塩濃度の場合に最大18mS/cmが得られる。電解質6は、0.6モル/Lの導電塩濃度の場合に最大11mS/cmを示す。
【0180】
図10は、化合物3および5の濃度に対する電解液3および5の伝導率を図示している。電解質5の場合、0.8モル/Lの導電塩濃度の場合に最大1.3mS/cmが得られる。電解質3は、0.6モル/Lの導電塩濃度の場合に最も高い伝導率0.5mS/cmを示す。電解質3および5はより低い伝導率を示すものの、実験用ハーフセルの充放電は、十分可能である。
【0181】
電解質1が最も優れた伝導率を示すため、完全セル実験を電解質を用いて実施した。その他の電解質の伝導率も十分な値を示すため、例えば実験2に比類する実験における、その他の電解質を有する完全セルの挙動においても変化はないと予想される。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属、導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(23、44)、導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(22、45)、少なくとも一つのセパレータ要素(21)、ハウジング(28、102)および電解質を含む充電式電池セル(20、40、101)であって、
前記電解質は、SO ベースであり、
【化1】
式(I)を有する、少なくとも第一の導電塩を含んでなり、
- Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、
- xは、1から3の整数であり、
- 置換基R、R、RおよびRは、互いに独立してC~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリール、およびC~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよく、
- Zは、アルミニウムまたはホウ素であり、
- 置換基R、R、RおよびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能であり、
前記負極(22、45、101)は、少なくとも前記充電式電池セルが充電された状態において活性金属を金属の形において含み、および
前記ハウジング(28)の内部に充電時に析出された前記活性金属を受容するための空間が設けられており、空間は、前記析出された活性金属によって圧縮される圧縮可能な構造(50、52)によって形成されていることを特徴とする充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項2】
前記活性金属の前記析出された層の厚さと圧縮状態における前記圧可能な縮構造(50、52)の厚さとの合計は、非圧縮状態における前記圧縮可能な構造(50、52)の厚さより小さいか等しいことを特徴とする、請求項1に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項3】
前記圧縮可能な構造(50、52)は、以前に析出された前記活性金属の溶解後に再び圧縮可能な構造の非圧縮状態に戻ることを特徴とする、請求項1または2に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項4】
前記圧縮可能な構造(50、52)は、少なくとも一つの導体要素(26、27)および/または少なくとも一つのセパレータ要素(21)によって形成されていることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項5】
前記圧縮可能な構造(50、52)は、少なくとも一つのセパレータ要素(21)によって形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項6】
前記圧縮可能なセパレータ要素(21)は、有機ポリマー膜と少なくとも一つの不織布層とを有することを特徴とする、請求項4に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項7】
前記負極(22、45)および前記正極(23、44)の前記導体要素(26、27)は、
- 薄い金属シートもしくは薄い金属箔の形において平面状、
- 特に金属発泡体(18)の形における多孔性金属構造の形において三次元的に、または
- 圧縮可能な導体要素によって形成されることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項8】
前記圧縮可能な導体要素(26、27)は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)から形成される群から選択される圧縮可能ポリマーから形成されることを特徴とする、請求項7に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項9】
前記導体要素(2627)の前記圧縮可能ポリマーは、片面または両面において金属を用いてコーティングされていることを特徴とする、請求項8に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項10】
コーティング(51)は、アルミニウムまたは銅を有することを特徴とする、請求項8に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項11】
少なくとも最初の充電時に金属製の前記活性金属の一部は、前記負極の片側表面に対して少なくとも3.0mAh/cmの電流強度において析出されることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項12】
最初の充電時に前記負極の片側表面に対して少なくとも3mAh/cmにおいて析出される金属製の前記活性金属の一部は、析出されたリチウムの総量に対して少なくとも3重量%であることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項13】
金属製の形における前記活性金属は、前記充電式電池セルの最初の充電の前に既に前記負極(22、45)の前記導体要素(26、27)の上に存在することを特徴とする、請求項4に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項14】
前記活性金属は、
- アルカリ金属
- アルカリ土類金属
- 元素周期表第12族の金属、または
- アルミニウムから形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項15】
前記第一の導電塩の前記置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも一つは、CF基またはОSОCF基であることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項16】
前記第一の導電塩は、以下から形成される群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101):
【化2】
【請求項17】
前記第一の導電塩は、以下の式を有することを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(20、40、101):
【化3】
【請求項18】
前記電解質は、前記電解質組成の総重量に対して(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、(ii)0.6から95重量%の前記第一の導電塩、(iii)0から25重量%の第二の導電塩、および(iv)0から10重量%の添加剤の組成を有することを特徴とする、請求項4に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項19】
前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に対して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに好ましくは0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にあることを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項20】
前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSOおよび特に好ましくは少なくとも20モルのSOを含むことを特徴とする、請求項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
先行技術より公知である発展様態では、充電式電池セルにおいて、有機電解質に代えて二酸化硫黄(SOベース電解質を使用している。SO ベース電解質を含む充電式電池セルは、とりわけ高いイオン伝導率を有する。「SO ベース電解質」という用語は、添加剤としてSOを低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており、電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、または完全にSOによって保証される電解質であると理解される。よってSOは、導電塩のための溶媒として機能する。導電塩は、気体状のSOと液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、この場合SOが結合して蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下する。より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。この種のSO ベース電解質は、前述の有機電解質に対して不燃性という利点を有する。よって、電解質の可燃性に起因して生じる安全上のリスクを排除することが可能である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
前述の欠点および問題は深刻であり、以下の文献から明らかになるように、現在、有機金属セルについてもSO ベース電解質を有する金属セルについても金属アノードとの関連における諸問題の解決策が研究および探索されている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
米国特許第7901811号明細書(以下、[V6]と称する)においてテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl)である導電塩を含むSO ベース電解質を用いたリチウム金属セルが記載されている。樹枝状析出の欠点を回避するために、固体粒子から形成された多孔質構造が提案されており、多孔質構造は、リチウム金属セルの充電中に析出されたリチウムが導体要素の表面から多孔質構造の孔に浸入してさらに箇所において析出されるように形成および配置されている。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
SO ベース電解質に一般的に使用されるテトラクロロアルミン酸アルカリ導電塩(例えばLiAlCl xSOまたはNaAlCl xSO)に加えて国際公開第2021019047号(以下、[V6]と称される)は、SO ベース電解質のための新しい導電塩群を開示している。導電塩は、中心原子ホウ素またはアルミニウムの周りにグループ化された四つの置換ヒドロキシル基を持つアニオンと、セルの活性金属からなるカチオンで構成されている。加えて[V7]は、導電塩を有するSO ベース電解質における均質なリチウム析出について述べている。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
しかしながら、先行技術から公知である解決策は、前述の全ての問題を克服するには不十分である。よって本発明は、改善された電気性能データ、特に高いエネルギー密度を有し、さらに以下のようなSO ベース電解質を有する充電式電池セルを提案するという課題に基づいている:
- 金属製の活性金属の可能な限り均一な析出を可能にし、
- 電池ハウジング内における活性金属の析出時に圧力上昇が生じない、
- 負極上に安定したカバー層を有し、カバー層容量が低く、さらなる作動において負極にさらなる還元的な電解質分解が生じないこと、
- 例えば電気的、機械的、または熱的な誤用に対して堅牢である、
- 正極において酸化的電解質分解が生じないように広い電位窓を有し、
- 改善された過充電性および深放電性ならびにより低い自己放電性を有し、および
- より長い寿命、特に使用可能である充放電サイクルの高い数を示す。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
本発明による充電式電池セルは、活性金属、導体要素を有する少なくとも一つの正極、導体要素を有する少なくとも一つの負極、少なくとも一つのセパレータ要素、ハウジング、および電解質を含んでなり、電解質は、SO ベースであり、
【化1】
式(I)を有する少なくとも一つの第一の導電塩を有する。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属、およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、xは、1から3の整数である。置換基R、R、R、およびRは、互いに独立してC~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリール、およびC~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。Zは、アルミニウムまたはホウ素である。置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能である。さらに負極は、少なくとも充電式電池セルが充電された状態において、活性金属を金属の形で含む。さらにハウジングの内部に、充電時に析出された活性金属を受容するための空間が設けられており、空間は、析出された活性金属によって圧縮される圧縮可能な構造によって形成されている。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
本発明による充電式電池セルにおいて使用するSO ベース電解質は、SOを添加剤として低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる第一の導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、または完全にSOによって保証される濃度において含んでいる。第一の導電塩は、電解質内に溶解しており、電解内において極めて良好な溶解性を示す。導電塩は、気体状のSOとともに液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、溶媒和化合物複合体内にSOが結合される。この場合、液状の溶媒和化合物複合体の蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下し、より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。しかしながら本発明による電解質の製造時に式(I)による第一の導電塩の化学構造に応じて蒸気圧低下が生じない可能性があることも本発明の範囲内にある。後者の場合、本発明による電解質の製造時に低温または加圧下において作業することが好ましい。電解質は、自身の化学構造が互いに異なる、複数の式(I)による導電塩をも含み得る。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
好ましい実施形態においてポリマーは、より高い温度においても、SO ベース電解質および金属コーティングに対して安定性を有する。適切なポリマーは、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるが、これらに限定されるものではない。電子伝導性をもたらす金属コーティングは、負極の導体要素の場合例えば銅、および正極の導体要素の場合例えばアルミニウムからなる。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0085
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0085】
電解質
以下において、SO ベース電解質に関して、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
本発明による充電式電池セルにおいて使用されるSO ベース電解質は、前述のとおりSOを添加剤として低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる第一の導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、または完全にSOによって保証される濃度で含んでいる。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0090
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0090】
さらに、このような電解質を有する充電式電池セルは、残留水量に対して向上した安定性を有する。電解質において(ppmの範囲における)微量の水が残留している場合、電解質または第一の導電塩は、水とともに先行技術より公知であるSO ベース電解質に比べて、セル構成要素に対する侵食性が著しく低い加水分解生成物を形成する。したがって、先行技術より公知であるSO ベース電解質に比べて、電解質が水を含まないということはさほど重要な役割を果たすものではない。本発明による電解質の利点は、先行技術より公知である導電塩に比べて、式(I)による第一の導電塩が著しく大きいアニオン寸法を有することによって生じる欠点を凌駕する。より大きいアニオン寸法は、例えばLiAlClまたはNaAlClの伝導率に比べて、式(I)による第一の導電塩の伝導率が低くなることにつながる。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0094
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0094】
SO ベース電解質における第一の導電塩の溶解度を向上させるために、充電式電池セルの別の有利である実施形態において置換基R、R、R、およびRは、少なくとも一つのフッ素原子および/または少なくとも一つの化学基によって置換されており、化学基は、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルによって形成される群から選択される。化学基C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有する。この文脈において、置換とは、置換基R、R、R、およびRの個々の原子または原子団がフッ素原子および/または化学基によって置換されていることを意味する。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも一つがCF基またはОSОCF基であることにより、特に高いSO ベース電解質における第一の導電塩の溶解度を得ることが可能である。
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0102
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0102】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSOおよび特に好ましくは少なくとも20モルのSOを含む。電解質は、極めて高いモル比のSOを含むことも可能であり、好ましい上限値は、1モルの導電塩当たり2600モルのSOであり、さらに1モルの導電塩当たり1500、1000、500および100モルのSOの上限がこの順において好ましい。「1モルの導電塩当たり」という用語は、電解質に含まれる全ての導電塩を指す。SOと導電塩との間におけるこの種の濃度比を有するSO ベース電解質は、電解質が先行技術より公知である、例えば有機溶媒混合物系の電解質と比べてより多量の導電塩を溶解することが可能であるという利点を有する。本発明の範囲内において、驚くべきことに、比較的小さな導電塩濃度を有する電解質は、それに伴って蒸気圧が上昇するにも関わらず、特に充電式電池セルの多数の充放電サイクルに対する安定性に関して有利であることが判明した。電解質におけるSO濃度は、電解質の伝導率に影響を及ぼす。よって、SO濃度を選択することによって電解質の伝導率を電解質によって作動される充電式電池セルの使用目的に適用させることが可能である。SOと第一の導電塩との総重量は、電解質の重量の50重量パーセント(重量%)よりも多いことが可能であり、好ましくは60重量%より多く、さらに好ましくは70重量%より多く、さらに好ましくは80重量%より多く、さらに好ましくは85重量%より多く、さらに好ましくは90重量%より多く、さらに好ましくは95重量%より多く、またはさらに好ましくは99重量%より多い。
【手続補正16】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0104
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0104】
電解質における少なくとも一つの有機溶媒の割合は、わずかまたは全くないことも本発明の範囲内にある。好ましくは、電解質の有機溶媒の割合は、例えば一種または複数の溶媒の混合物の形で存在し、電解質の有機溶媒の割合は、電解質の重量の多くとも50重量%であり得る。特に好ましいのは、電解質の重量に対して多くとも40重量%、多くとも30重量%、多くとも20重量%、多くとも15重量%、多くとも10重量%、多くとも5重量%または多くとも1重量%である、より少ない割合である。電解質は、有機溶媒を含まないことがさらに好ましい。有機溶媒の割合がわずかである、または全く存在しないことで電解質は、ほとんど、または全く可燃性を有しない。このことは、この種のSO ベース電解質によって作動する充電式電池セルの動作安全性を向上させる。SO ベース電解質は、基本的に有機溶媒を含まないことが特に好ましい。
【手続補正17】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0132
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0132】
図1は、本発明による充電式電池セル20の第一の実施形態例の断面図を図示している。充電式電池セル20は、角柱セルとして形成されており、とりわけハウジング28を有する。ハウジング28は、一つの正極23および二つの負極22を含んでなる電極ユニットを囲んでいる。正極23および負極22は、電極ユニットにおいて交互に積層されて配置されている。しかしながら、ハウジング28は、より多くの正極23および/または負極22を収容することも可能である。一般的には負極22の数が正極23の数を1上回ることが好ましい。これにより電極スタックの外側の端面が負極22の電極表面によって形成される。電極22、23は、電極接続29、30を介して充電式電池セル20の対応する接続接点31、32に接続されている。充電式電池セル20にはSO ベース電解質が充填され、その際に電解質が全ての孔または空所にできる限り完全に浸入するようにする。図1において電解質は、図示されていない。充電式電池セル20のハウジング28は、基本的に立方体形状において形成され、電極22、23と断面図において示されるハウジング28の壁とは、図平面に対して垂直に延伸し、実質的に直線的で平坦に形成されている。本実施形態例において正極23は、活物質として層間化合物を含む。層間化合物は、NMC811である。
【手続補正18】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0139
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0139】
実施例1 電池セルのためのSO ベース電解質の六つの実施形態例1、2、3、4、5および6の製造
以下に説明する実験のためにSO ベース電解質の六つの実施形態例1、2、3、4、5および6を製造した(以下、電解質1、2、3、4、5および6と称する)。このためにまず以下の文献[V8]、[V9]、[V10]および[V11]に記載されている製造方法にしたがって式(I)による五つの異なる第一の導電塩を製造した:
【国際調査報告】