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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】二次電池用負極材
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/48
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536054
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 KR2022018209
(87)【国際公開番号】W WO2023113265
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0178294
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522341997
【氏名又は名称】ポスコ シリコン ソリューション カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェウ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ムンキュ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スンホ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジョンフン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB11
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050FA20
5H050GA16
5H050HA00
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、二次電池用負極材に関するものであって、本発明に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記の充放電サイクル条件による充放電テスト時、下記式1を満たし、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たす。
充放電サイクル条件:定電流/定電圧(CC/CV)、カットオフ(Cut-off)電圧0.005V~1.0V、0.5充放電率(C-rate)
(式1)
95%≦C50/C1*100
(式1において、C1は1回目の充放電サイクルにおける放電容量(mAh/g)であり、C50は50回目の充放電サイクルにおける放電容量である)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び前記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、
カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記の充放電サイクル条件による充放電テスト時、下記式1を満たし、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6である、二次電池用負極材。
充放電サイクル条件:定電流/定電圧(CC/CV)、カットオフ(Cut-off)電圧0.005V~1.0V、0.5充放電率(C-rate)
(式1)
95%≦C50/C1*100
(式1において、C1は1回目の充放電サイクルにおける放電容量(mAh/g)であり、C50は50回目の充放電サイクルにおける放電容量である)
【請求項2】
前記X線回折パターンにおける前記第1ピークの半値幅(FWHM(L))と前記第2ピークの半値幅(FWHM(L))との比(L/L)が6~15である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項3】
前記第1ピークの最大強度(I)と前記第2ピークの最大強度(I)との間の強度比(I/I)が0.05~1.25である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項4】
前記第1ピークは非晶質シリコン酸化物に由来するものであり、前記第2ピークは結晶質シリコンに由来するものである、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項5】
前記C50は1150mAh/g以上である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項6】
前記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)が、バルク単結晶シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)より大きいものである、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項7】
前記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)は4~20cm-1である、請求項6に記載の二次電池用負極材。
【請求項8】
シリコンのラマン信号を基準として下記式2を満たす、請求項6に記載の二次電池用負極材。
(式2)
1<WN(Si)/WN(ref)
(式2において、WN(ref)はバルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である)
【請求項9】
シリコンのラマン信号を基準とした2次元マッピング分析時、下記マッピング条件において、下記式3で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下である、請求項8に記載の二次電池用負極材。
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器の露出時間(単位分析領域当たりの露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーティング(grating)=1800grooves/mm、
ピクセル解像度=1cm-1、マッピングサイズ=14μm×14μm
(式3)
偏移=WN(Si)-WN(ref)
(式3において、WN(ref)は式2の規定と同じであり、WN(Si)はマッピング分析時の単位分析領域である1ピクセルにおける負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である)
【請求項10】
20mm×20mmの試験片において、互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンのラマン信号を基準とした偏差分析時、下記式3で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下である、請求項9に記載の二次電池用負極材。
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器の露出時間(単位分析領域当たりの露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーティング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1
(式3)
偏移=WN(Si)-WN(ref)
(式3において、WN(ref)は式2の規定と同じであり、WN(Si)はマッピング分析時の単位分析領域である1ピクセルにおける負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である)
【請求項11】
20mm×20mmの試験片において、互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンナノ粒子の応力分析時、圧縮応力が80%以上である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項12】
複数個の負極材粒子を含み、且つ下記式3による粒子間の組成均一性を有する、請求項1に記載の二次電池用負極材。
(式4)
1.3≦UF(D)
(式4においてUF(D)は重量%組成を基準とし、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成をドーピング元素組成の標準偏差で除した値である)
【請求項13】
前記シリコンナノ粒子の平均直径は2~30nmである、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項14】
前記シリコンナノ粒子と前記マトリックス間の界面は整合界面である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項15】
前記ドーピング元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)及びビスマス(Bi)から1つ以上選択される、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項16】
前記負極材は、平均直径が10μmオーダー(order)~10μmオーダー(order)の粒子状である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項17】
前記負極材は、炭素を含有するコーティング層をさらに含む、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の二次電池用負極材を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極材に関し、詳細には、向上した容量と初期効率、及びサイクル特性を有する二次電池用負極材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品、電気/ハイブリッド車両、航空宇宙/ドローンなど多様な産業分野において、高エネルギー密度及び高電力密度の特性だけでなく、長期間使用可能な、つまり、寿命の長い二次電池に対する需要が増加し続けている。
【0003】
一般に、充放電が可能な二次電池は、正極、負極、電解物質及び分離膜で構成され、そのうち、負極に含まれて商業的に使用される代表的な負極材はグラファイトであるが、グラファイトの理論的な最大容量は372mAh/gに過ぎない。
【0004】
そこで、高エネルギー密度の二次電池を実現するために、硫黄(最大容量1,675mAh/g)などのようなカルコゲン系、シリコン(最大容量4,200mAh/g)やシリコン酸化物(最大容量1,500mAh/g)などのようなシリコン系、遷移金属酸化物などを二次電池の負極材として使用しようとする研究が継続的に行われており、様々な物質の中でシリコン系負極材が最も注目を浴びている。
【0005】
しかし、粒子状のシリコンを負極材として用いる場合、充放電サイクリングが繰り返されるにつれて、シリコンの大きな体積変化による絶縁、粒子脱離、接触抵抗の増加などにより電池特性が急激に劣化し、100サイクル未満で既に電池としての機能を失うという問題点があり、シリコン酸化物の場合、リチウムシリケートや酸化リチウムなどのような不可逆生成物によってリチウムが損失し、初期充放電効率が急激に減少するという問題点がある。
【0006】
このようなシリコン系負極材の問題点を解決するために、シリコンをワイヤなどの形態でナノ化し、これを炭素材と複合化する技術や、シリコン酸化物に異種金属をドープして複合酸化物相を形成するか、又はシリコン酸化物をプレリチウム化(pre-lithiation)させる技術などが提案されているが、依然として初期充放電効率やサイクル特性、高率特性などに劣り、商業化が困難であるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2020-0065514号
【特許文献2】韓国公開特許第10-2015-0045336号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い電池容量を有し、向上した初期可逆効率及び安定的なサイクル特性を有するシリコン系二次電池用負極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた
下記充放電サイクル条件による充放電テスト時に、下記式1を満たし、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たす。
【0010】
充放電サイクル条件:定電流/定電圧(CC/CV)、カットオフ(Cut-off)電圧0.005V~1.0V、0.5充放電率(C-rate)
【0011】
(式1)
95%≦C50/C1*100
【0012】
式1において、C1は1回目の充放電サイクルにおける放電容量(mAh/g)であり、C50は50回目の充放電サイクルにおける放電容量である。
【0013】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの半値幅(FWHM(L))と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの半値幅(FWHM(L))との比(L/L)は6~15であることができる。
【0014】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、第1ピークの最大強度(I)と第2ピークの最大強度(I)との間の強度比(I/I)は0.05~1.25であることができる。
【0015】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記第1ピークは非晶質シリコン酸化物に由来するものであり、上記第2ピークは結晶質シリコンに由来したものであることができる。
【0016】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、50回目の充放電サイクルにおける放電容量C50は1150mAh/g以上であることができる。
【0017】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)が、バルク単結晶シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)より大きいことができる。
【0018】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)は4~20cm-1であることができる。
【0019】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、シリコンのラマン信号を基準に下記式2を満たすことができる。
【0020】
(式2)
1<WN(Si)/WN(ref)
【0021】
式2において、WN(ref)はバルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0022】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、シリコンのラマン信号を基準とした2次元マッピング分析時、下記マッピング条件において下記式3で規定される偏移の最大値と最小値との差は5cm-1以下であることができる。
【0023】
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器の露出時間(単位分析領域当たりの露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーティング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピングサイズ=14μm×14μm
【0024】
(式3)
偏移=WN(Si)-WN(ref)
【0025】
式3において、WN(ref)は式2の規定と同じであり、WN(Si)は、マッピング分析時の単位分析領域である1ピクセルにおいて、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0026】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、20mm×20mmの試験片における互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析時、下記式3で規定される偏移の最大値と最小値との差は5cm-1以下であることができる。
【0027】
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器の露出時間(単位分析領域当たりの露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーティング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1
【0028】
(式3)
偏移=WN(Si)-WN(ref)
【0029】
式3において、WN(ref)は式2の規定と同じであり、WN(Si)は、マッピング分析時の単位分析領域である1ピクセルにおいて、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0030】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、20mm×20mmの試験片における互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンナノ粒子の応力分析時、圧縮応力は80%以上であることができる。
【0031】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、複数個の負極材粒子を含み、且つ下記式4による粒子間の組成均一性を有することができる。
【0032】
(式4)
1.3≦UF(D)
【0033】
式4において、UF(D)は重量%組成を基準に、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成をドーピング元素組成の標準偏差で除した値である。
【0034】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記シリコンナノ粒子の平均直径は2~30nmであることができる。
【0035】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記シリコンナノ粒子と上記マトリックス間の界面は整合界面であることができる。
【0036】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記ドーピング元素は、リチウム(
Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)及びビスマス(Bi)から1つ以上選択されることができる。
【0037】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記負極材は、平均直径が10μmオーダー(order)~10μmオーダー(order)の粒子状であることができる。
【0038】
本発明の一実施例に係る二次電池用負極材において、上記負極材は、炭素を含有するコーティング層をさらに含むことができる。
【0039】
本発明は、上述した二次電池用負極材を含む二次電池を含む。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス及びマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子を含み、カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた特定の充放電サイクル条件による充放電テスト時、95%≦C50/C1*100で規定される式を満たし、X線回折パターンに基づく結晶学的特性によって向上した機械的物性及び電気化学的特性だけでなく、優れた放電容量とともにシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能なレベルの容量維持率を有することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施例により製造された負極材の断面において、マグネシウム(Mg)のエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy,EDS)によって測定されたEDS線プロファイルを示す図である。
図2】本発明の一実施例により製造された負極材のX線回折(XRD)パターンを示す図である。
図3】本発明の一実施例により製造された負極材のラマンスペクトルを測定した図である。
図4】本発明の一実施例により製造された負極材のシリコンのラマン信号を基準とした2次元マッピング結果を示す図である。
図5】本発明の一実施例により製造された負極材の強度及び弾性係数を測定した結果を示す図である。
図6】(a)及び(b)は、それぞれ本発明の一実施例により製造された負極材を含む負極が備えられた半電池の充放電サイクルによる充放電容量及び容量維持率を示す図である。
図7】(a)及び(b)は、それぞれ実施例1~実施例3及び比較例1~比較例3により製造された負極材を含む負極が備えられた半電池のdQ/dVグラフである。
図8】一実施例により製造された負極材を観察した高倍率の透過電子顕微鏡写真である。
図9】本発明の一実施例により製造された負極材を含む負極において、リチウム化前の負極の断面及びその厚さと、リチウム化後の負極の断面及びその厚さとを観察した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付の図面を参照し、本発明の二次電池用負極材について詳細に説明する。以下に
紹介される図面は、当業者に本発明の思想が十分に伝達されるようにするために例として提供されるものである。したがって、本発明は、以下に提示される図面に限定されず、他の形態で具体化されてもよく、以下に提示される図面は、本発明の思想を明確にするために誇張して示されてもよい。このとき、使用される技術用語及び科学用語において、他の定義がない場合、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明及び添付の図面において本発明の要旨を不必要に不明瞭にする可能性のある公知の機能及び構成に関する説明は省略する。
【0043】
また、明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形は、文脈上において特に指示がない限り、複数の形態も含むことを意図することができる。
【0044】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において「第1、第2」などの用語は、限定的な意味ではなく、ある構成要素を他の構成要素と区別する目的で使用される。
【0045】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、又は構成要素が存在することを意味するものであり、特に限定しない限り、1つ以上の他の特徴又は構成要素が追加される可能性を予め排除するものではない。
【0046】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、膜(層)、領域、構成要素などの部分が他の部分の上、又は他の部分上にあると言うとき、他の部分と接して真上にある場合だけでなく、その中間に他の膜(層)、他の領域、他の構成要素などが介在している場合も含む。
【0047】
本出願人は、シリコンとシリコン系酸化物が複合化されたシリコン系負極材において、負極材に含有されたシリコンの残留応力によって負極材の機械的特性及び電気化学的特性が著しく影響を受けることを見出した。このような知見に基づいて研究を深めた結果、シリコン系酸化物に基づくマトリックスにシリコンがナノ粒子状に分散され、残留圧縮応力を有するときに、負極材の機械的物性及び電気化学的物性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0048】
したがって、上述の知見に基づく本発明に係る負極材は、ナノ粒子状に分散され、残留圧縮応力を有するシリコンとマトリックスとの結合により、従来のシリコン系負極材からは得られなかった機械的物性及び電気化学的物性を示すことで、本発明は、本発明に係るシリコン系負極材が有する物性に基づく様々な態様を含む。
【0049】
本発明におけるマトリックスとは、ナノ粒子状のシリコンが分散される固体相の媒質を意味することができ、負極材における分散相であるシリコンナノ粒子に比べて連続相(continuum)を形成する物質を意味することができる。本発明におけるマトリックスとは、負極材において金属シリコン(Si)を除く物質を意味することができる。
【0050】
本発明においてナノ粒子は、通常、ナノ粒子と規定されるサイズ(直径)である10ナノメートルオーダー(order)~10ナノメートルオーダーの粒子、実質的に500nm以下の直径、具体的に200nm以下の直径、より具体的に100nm以下の直径、さらに具体的に50nm以下の直径を有する粒子を意味することができる。
【0051】
本発明において二次電池用負極材は、リチウム二次電池用負極材を含むが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明の負極材は、ナトリウム電池、アルミニウム電池、マグネシウム電池、カルシウム電池、亜鉛電池等の二次電池の活物質として活用されることができ、スーパーキャパシタ、色素増感太陽電池、燃料電池など、従来のシリコン系物質
が使用される他のエネルギー貯蔵/生成装置にも活用できる。
【0052】
本発明の一態様(I)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記の充放電サイクル条件による充放電テスト時、式1を満たし、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6である。
【0053】
充放電サイクル条件:定電流/定電圧(CC/CV)、カットオフ(Cut-off)電圧0.005V~1.0V、0.5充放電率(C-rate)
【0054】
(式1)
95%≦C50/C1*100
【0055】
式1において、C1は1回目の充放電サイクルにおける負極材の放電容量(mAh/g)であり、C50は50回目の充放電サイクルにおける負極材の放電容量である。このとき、1回目の充放電サイクルにおけるC1は、化成工程が1回及び/又は2回行われた後に測定された負極材の放電容量であり得る。
【0056】
具体的に、式1は、50回の充放電過程中の容量維持率を示す指標であって、本発明に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子を含み、カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた特定の充放電サイクル条件による充放電テスト時、95%以上の容量維持率を有し、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことにより、向上した機械的物性及び電気化学的特性とともに、シリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能なレベルの容量維持率を有することができる。
【0057】
以下、別途限定して提示されない限り、充放電特性を含む負極材の電気化学的特性(放電容量、リチウム化時の体積変化、dQ/dVグラフ等)は、負極材を含有する負極とカウンタ電極が金属リチウム箔である半電池の電気化学的特性であることができ、化成工程(formation)が行われた半電池の電気化学的特性であることができる。したがって、充放電テストにおける充放電サイクル条件による1回目のサイクルも、化成工程が実行された後に行われる1回目のサイクルを意味することは言うまでもない。
【0058】
このとき、化成工程は、CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.5V、0.1C-rateの条件で充放電が行われる1次工程、及びCC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.1C-rateの条件で充放電が行われる2次工程を含むことができるが、本発明は、テスト電池(半電池)の化成工程条件によって限定され得ないことは勿論であり、従来、負極材の電気化学的物性をテストするために使用される電池において通常行われる化成工程であればよい。
【0059】
また、ここで、半電池とは、負極集電体及び集電体の少なくとも一面に位置し、本発明の一実施例に係る負極材を含む負極活物質層を含む負極;金属リチウム箔である対極;負極
と対極との間に介在された分離膜;及びエチレンカーボネートとジエチルカーボネートが1:1の体積比で混合された混合溶媒に1Mの濃度でLiPFが溶解した電解質;が備えられたセルを意味することができ、半電池の電気化学的特性は常温で測定されたものであることができる。
【0060】
一実施例において、式1のC50/C1*100は、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であることができる。
【0061】
このようなサイクル特性は、負極材におけるリチウムイオンの貯蔵と放出が実質的に完全に可逆的であることを意味するものであり、50回に及ぶ繰り返し充放電過程で容量低下(負極材の劣化、負極活物質層内の負極材の電気的接触低下、不可逆生成物の形成等)が実質的に発生しないことを意味するものであり、極めて優れた容量維持率を有することを意味するものである。
【0062】
一具体例において、C50は、1150mAh/g以上、1200mAh/g以上、1250mAh/g以上、1300mAh/g以上、1350mAh/g以上、又は1450mAh/g以上であることができ、実質的に2450mAh/g以下であることができる。
【0063】
本発明に係る一実施例として、CuKα線を用いた負極材のX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)は0.8~8であることができ、具体的に0.8~6であり、より具体的には0.8~5.5であることができる。
【0064】
このとき、X線回折パターンにおける各ピークの面積は、各ピークが占める積分面積を意味する。ここで、積分面積とは、ノイズレベルが除去されたピークをガウス関数及び/又はローレンツ関数を用いてピークフィッティング(fitting)を行った後の積分面積であり得るが、前述の第1ピーク及び第2ピークの面積が同じ方法で導出されるものであれば、当業界に知られているX線回折(XRD)ピークの面積導出方法を制限なく用いることができる。
【0065】
具体的な一例として、応用ソフトウェアの1つであるオリジン(Origine)プログラムのピーク分析器(peak analyzer)ツール機能を利用し、分離しようとするピーク周辺のノイズレベルを除去し、ガウス関数を適用してピークを二つに分離した後、前述のXRDピークの面積を計算することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
一具体例において、X線回折パターンにおける第1ピークの半値幅(FWHM(L))と第2ピークの半値幅(FWHM(L))との比(L/L)が1~20、具体的に3~18、より具体的に6~15であり、さらに具体的に6.5~13であることができる。
【0067】
他の一具体例として、第1ピークの最大強度(I)と第2ピークの最大強度(I)との間の強度比(I/I)は0.05~1.25であることができ、具体的に0.05~1.05であり、より具体的に0.08~0.75であることができる。このとき、第1ピークは非晶質シリコン酸化物に由来するものであり、第2ピークは結晶質シリコンに由来するものであることができる。このように非晶質のシリコン酸化物を含む二次電池の負極材は、二次電池の充電時に体積膨張に対する緩衝作用を行うことができるため、優れた容量維持率を有することができる。
【0068】
本発明の他の一態様(II)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及びマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6であり、下記式2を満たすことができる。
【0069】
(式2)
1<WN(Si)/WN(ref)
【0070】
式2において、WN(ref)はバルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0071】
このとき、式2において、バルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数に対する負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数との間の比は、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子に残留する応力(残留応力)の種類及び残留応力の大きさを指示するパラメータである。また、式2において、バルク単結晶シリコンの用語は、実質的にバルク単結晶シリコンの物性が現れる大きさのシリコンを意味するものとして解釈されるべきであり、明確な比較基準を提示し、購入の容易さを担保する観点から、バルク単結晶シリコンは、サブmmオーダー(sub mm order)レベルの厚さ、具体的な一例として、0.4~0.7mmの厚さを有する単結晶シリコンウェハを意味することができる。
【0072】
具体的に、式2においてWN(Si)/WN(ref)が1を超えるとは、バルク単結晶シリコンに対する、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数が、より長波数(ラマン散乱光の波長においてより短波長)に移動することを意味するものであり、これは、ナノ粒子状シリコンが残留圧縮応力(residual compressive stress)を有することを意味するものである。
【0073】
前述したように、本発明に係る二次電池用負極材は、マトリックスに分散含入されて残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を含み、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことにより、均一な残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子によって向上した機械的物性及び電気化学的特性を有し、特に高い放電容量と共にシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能なレベルの容量維持率を有するという利点を有することができる。
【0074】
詳細に、本発明に係る負極材に含まれてマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子の主な残留応力である圧縮応力は、前述のX線回折パターンにおける第1ピークの面積(A)と第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たす結晶学的特性によって均一になり得る。
【0075】
式2において、バルク単結晶シリコン及びナノ粒子状シリコンのそれぞれにおけるシリコンのラマンピークは、シリコンのラマンスペクトルにおける500~540cm-1領域、具体的に510~530cm-1領域、より具体的に515~528cm-1領域に位置するラマンピークを意味することができる。ピークの中心波数、すなわち、ピークの中
心に相当する波数は、ピークにおいて最大強度値を有する波数を意味することができる。このとき、上述したラマンシフト(Raman Shift)領域において2つ以上のラマンピークが存在する場合、強度の最も大きいピークが式2のシリコンのラマンピークに相当することができ、2つ以上のラマンピークが互いに重なって双峰形状を示す場合、双峰のうちより強度の大きい峰で最大強度値を有する波数がピークの中心波数に相当することができる。
【0076】
一実施例として、20mm×20mmの試験片(負極材)において、互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンナノ粒子の応力分析時、圧縮応力は80%以上、実質的に85%以上、より実質的に90%以上であることができ、上限値が制限されるものではないが、実質的に99%以下であることができる。
【0077】
マクロスケールの負極材が試験片全体にわたって残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を含むことにより、著しく向上した機械的物性及び電気化学的特性から起因する、シリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能となる。
【0078】
また、WN(Si)とWN(ref)との差(WN(Si)-WN(ref))は、シリコンナノ粒子が有する残留圧縮応力の大きさを直接に指示するパラメータである。
【0079】
具体的に、WN(Si)とWN(ref)との差は0.1cm-1以上、0.2cm-1以上、0.3cm-1以上、0.4cm-1以上、0.5cm-1以上、0.6cm-1以上、0.7cm-1以上、0.8cm-1以上、0.9cm-1以上、1.0cm-1以上、1.1cm-1以上、1.2cm-1以上、1.3cm-1以上、1.4cm-1以上、1.5cm-1以上、1.6cm-1以上、1.7cm-1以上、1.8cm-1以上、1.9cm-1以上、2.0cm-1以上、2.1cm-1以上、2.2cm-1以上、2.3cm-1以上、2.4cm-1以上、2.5cm-1以上、2.6cm-1以上、2.7cm-1以上、2.8cm-1以上、2.9cm-1以上、3.0cm-1以上、3.1cm-1以上、3.2cm-1以上、3.3cm-1以上、3.4cm-1以上、3.5cm-1以上、3.6cm-1以上、3.7cm-1以上、3.8cm-1以上、3.9cm-1以上又は4.0cm-1以上であることができ、実質的に6.0cm-1以下、より実質的に5.5cm-1以下であることができる。
【0080】
上述したバルク単結晶シリコンと負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波長間の差と共に、又はこれとは独立して、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)はバルク単結晶シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)より大きいことができる。バルク単結晶シリコンに比べてより大きい半値幅(FWHM)値は、負極材に含有されたシリコンが極微細な粒子状にマトリックスに分散含入された構造によるものであり得る。具体的に、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの半値幅(FWHM)は、4~20cm-1、6~20cm-1、6~18cm-1、6~16cm-1、8~20cm-1、8~18cm-1、8~16cm-1、10~20cm-1、10~18cm-1、又は10~16cm-1であることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0081】
これと共に、又はこれとは独立して、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンは、シリコンのラマンピークの中心波数を基準(0cm-1)として、ラマンスペクトル上で、+20cm-1位置(波数)での強度(K)と、-20cm-1位置(波数)での強度(K)とが互いに有意に異なることができ、-20cm-1位置(波数)での強度(K)が+20cm-1位置(波数)での強度(K)より大きいことができる。このとき、「有意に異なる」とは、K/Kの比が1.20以上であることを意味することができる。このようなシリコンのラマンピークの非対称性(短波数方向に長いテール)も、残留圧
縮応力を有するシリコンナノ粒子がマトリックスに分散含入された構造から起因するものであり得る。
【0082】
これと共に、負極材に対して、シリコンのラマン信号を基準とした2次元マッピング分析を行う際、下記式3で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下であることができる。
【0083】
(式3)
偏移=WN(Si)-WN(ref)
【0084】
式3において、WN(ref)は式2の規定と同じであり、WN(Si)は、マッピング分析時の単位分析領域である1ピクセルにおいて、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。このとき、式3における偏移は2次元マッピング分析により得られる2次元ラマンマップにおいて、シリコンのラマン信号が検出されたピクセルに限ってピクセルのそれぞれから式3による偏移が算出されることができ、最大値と最小値が、式3によって算出された偏移のうち最小値と最大値を意味することは言うまでもない。
【0085】
シリコンのラマン信号を基準とした負極材の2次元マッピング分析によって得られるシリコンの2次元ラマンマップを基準に、式3によるバルク単結晶シリコンに対するシリコンピークの中心波数の移動値(偏移)の最大値と最小値との差は、負極材に分散含入されたシリコンナノ粒子の残留圧縮応力の均一性を示す指標である。2次元ラマンマップを基準とした偏移の最大値と最小値との差は5.0cm-1以下、4.5cm-1以下、4.0cm-1以下、3.5cm-1以下、3.0cm-1以下、2.5cm-1以下、又は1.0cm-1以下を満たすことができ、実質的に最大値と最小値との差は0.1cm-1以上、より実質的に0.5cm-1以上を満たすことができる。このような最大値と最小値との差は、負極材に含有された殆どのシリコンナノ粒子、実質的に全てのシリコンナノ粒子が残留圧縮応力を有することを意味し、さらに、負極材に含有された殆どのシリコンナノ粒子、実質的に全てのシリコンナノ粒子に残留する圧縮応力の大きさが実質的にほぼ同じであることを意味する。
【0086】
実験的に、負極材に含有されたシリコンのラマンスペクトルは、常温(20~25℃)、大気圧下、励起レーザ波長532nm、レーザパワー0.5mW、分光計の解像度(resolution)1cm-1、負極材1g、検出器の露出時間15sの条件で測定されたものであり得る。
【0087】
実験的に、シリコンのラマン信号を用いた負極材の2次元ラマンマッピングは、励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器の露出時間(単位分析領域当たりの露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーティング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピングサイズ=14μm×14μmのマッピング条件で測定されたものであってもよく、常温及び大気圧下で測定されたものであってもよい。
【0088】
一具体例として、20mm×20mmの試験片において、互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析時、上記式3で規定される偏移の最大値と最小値との差は、5.0cm-1以下、4.5cm-1以下、4.0cm-1以下、3.5cm-1以下、3.0cm-1以下、2.5cm-1以下、又は1.0cm-1以下を満たすことができ、実質的に最大値と最小値との差は0.1cm-1以上、より実質的に0.5cm-1以上を満たすことができる。これは、マッピング領域だけでなく、試験片全体、すなわち、実質的に試験片全体に含まれる全てのシリコンナノ粒子に残留
する圧縮応力の大きさが実質的にほぼ同じであることを意味する。
【0089】
このとき、偏移分析に用いられたラマンスペクトル及び2次元ラマンマッピングは、上述の条件と同様に測定されたものであり得る。
【0090】
本発明の一態様(III)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及びマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含む粒子状であり、粒子の圧縮強度(St)が100MPa以上であり、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことができる。
【0091】
粒子の圧縮強度Stは、公知のように、式
【化1】
によって算出されたものであることができ、ここで、Pは加えられた力、dは粒子の粒径、Lは粒子の長さであり、微小圧縮試験機(一例として、MCT-W500-E、Shimadzu)を用いて測定されたものであることができる。
【0092】
具体的に、粒子状の二次電池用負極材の粒子圧縮強度は、100MPa以上、105MPa以上、110MPa以上、115MPa以上、120MPa以上、125MPa以上、130MPa以上、135MPa以上、140MPa以上、145MPa以上、150MPa以上、155MPa以上、又は160MPa以上であることができ、実質的に250MPa以下、より実質的に200MPa以下であることができる。
【0093】
本発明に係る二次電池用負極材は、前述のマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子を含む粒子状で100MPa以上の優れた圧縮強度を示し、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことにより、向上した機械的物性及び電気化学的特性を有し、特に高い放電容量と共に、シリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能なレベルの容量維持率を有するという利点を有することができる。
【0094】
また、優れた粒子圧縮強度を有する負極材とは、従来の二次電池分野において既に確立された負極材スラリーの製造-集電体上へのスラリー塗布及び乾燥-圧延(カレンダリング)に至る電極製造工程のうち、粒子状負極材が物理的に損傷しないことを意味するものであり、電極(負極)気孔構造の損傷も防止され、設計の通りに電解質との安定かつ均質な接触が担保できることを意味するものである。これにより、本発明の二次電池用負極材は、構造的健全性が確保され、電池性能を安定的に実現できるという利点を有することができる。
【0095】
詳細に、優れた粒子の圧縮強度を有する負極材の機械的特性は、ナノ粒子状のシリコンが有する残留圧縮応力を含み、負極材に存在する残留応力によって実現できる物性値である。このとき、負極材に含まれるマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子の残留応力は、引張応力、圧縮応力又は引張応力及び圧縮応力が混在した形態で存在することができるが、本発明に係る負極材に含まれてマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子
の主な残留応力である圧縮応力は、前述のX線回折パターンにおける第1ピークの面積(A)と第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たす結晶学的特性によって均一になり得る。
【0096】
さらに、前述の機械的強度は、シリコンナノ粒子とマトリックスの間の整合界面によって、残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を囲むマトリックスに応力場が形成され、さらに向上することができる。
【0097】
ここで、負極材の機械的物性値が実現されるナノ粒子状のシリコンが有する残留圧縮応力は、前述したように、バルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数を基準に、ナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数によって決定されることができる。
【0098】
本発明の他の一態様(IV)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及びマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、ナノ押し込み試験による強度(hardness)が4.0GPa以上であり、弾性係数(Young’s modulus)が40GPa以上であり、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことができる。
【0099】
以下、二次電池用負極材の機械的物性に関し、特に温度を限定して提示しない限り、全ての物性は常温(20~25℃)物性である。
【0100】
ここで、ナノ押し込み試験は、ASTM E2546、ISO 14577-1 E、ISO 14577-2 E、ISO 14577-3 Eに準じて測定されたものであり、弾性係数Eは、公知のように、式
【化2】
によって算出されたものであることができる。ここで、E*は圧子の弾性係数であり、νはバーコビッチ圧子(Berkovich indenter)のポアソン比で0.3と仮定した。バーコビッチ圧子を用いたナノ押し込み試験は、最大荷重50mN、荷重印加速度100mN/minの条件で行われたものであり得る。ナノ押し込み試験により測定される強度と弾性係数は、少なくとも圧子による押し込み痕を基準に、押し込み痕間の離隔距離が少なくとも10μm以上であり、且つ5×5乃至25×25のマトリックス形態でナノ押し込み試験を行って得られた物性値を平均した値であることができる。このとき、ナノ押し込み試験が行われる負極材サンプルは、板状のバルク負極材をマウンティングし、ポリシングして準備することができる。
【0101】
具体的に、二次電池用負極材は、ナノ押し込み試験による強度(押し込み強度)が4.0GPa以上、4.5GPa以上、5.0GPa以上、5.5GPa以上、6.0GPa以上、6.5GPa以上、7.0GPa以上、7.5GPa以上、8.0GPa以上、8.5GPa以上、9.0GPa以上、9.5GPa以上、10.0GPa以上、10.2GPa以上、10.4GPa以上、10.6GPa以上、10.8GPa以上、11.0GPa以上、11.2GPa以上、11.4GPa以上、11.6GPa以上、11.8GPa以上、12.0GPa以上、12.2GPa以上、12.4GPa以上、12.6GPa以上、12.8GPa以上、又は13.0GPa以上であることができ、実質的に25.0GPa以下、より実質的に20.0GPa以下であることができる。また、二次電
池用負極材は、ナノ押し込み試験による弾性係数が40GPa以上、41GPa以上、42GPa以上、43GPa以上、44GPa以上、45GPa以上、50GPa以上、又は55GPa以上であることができ、実質的に250GPa以下、より実質的に200GPa以下であることができる。
【0102】
前述したように、本発明に係る二次電池用負極材はマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子を含み、ナノ押し込み試験で測定された4.0GPa以上の高い強度及び40GPa以上の優れた弾性係数(Young’s modulus)を示し、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことにより、向上した機械的物性及び電気化学的特性を有し、優れた放電容量と共にシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能なレベルの容量維持率を有するという利点を有することができる。
【0103】
また、高い強度を有し、優れた弾性を有する負極材は、前述した優れた粒子の圧縮強度特性と共に、従来の電極製造工程中、特に圧延工程中の粒子状負極材の物理的損傷を防止するだけでなく、電極(負極)の気孔構造も安定的に維持することができるため、本発明の二次電池用負極材の構造的健全性はさらに向上することができる。
【0104】
本発明の他の一態様(V)に係る二次電池用負極材は、元素成分を基準に、シリコン(Si)、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素(D)及び酸素(O)を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、下記式4を満たす組成均一性を有し、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たす。
【0105】
(式4)
B/A≦0.65
【0106】
このとき、式4におけるA及びBは、負極材の中心を横切る断面を基準として、任意の100個の地点で測定されたドーピング元素の含量(wt%)を平均した平均値(A)及び標準偏差(B)である。
【0107】
具体的に、A及びBは、負極材の断面の中心を横切るドーピング元素の線形組成(line profile)において任意の100個の地点から算出されたドーピング元素の平均含量(wt%、A)と標準偏差(B)であることができ、より具体的に、式3のB/Aは、0.65以下、0.60以下、0.55以下、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下を満たすことができ、0.2以上であることができる。
【0108】
式4においてB/Aは、ドーピング元素(D)を基準に、負極材の組成均一性を示すパラメータであり、上述した範囲を満たすB/Aの優れた組成均一性によって負極材が均一な機械的、電気化学的物性を示すことができる。
【0109】
上述の組成均一性を満たす二次電池用負極材において、元素成分を基準にマトリックスは、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素(D)、シリコン(Si)及び酸素(O)を含有することができ、化合物成分を基準にマトリックスは、シリコン酸化物及びドーピング元素とシリコンの複合酸化物を含むことができる。したがって、式4で規定されたドーピング元素の組成均一性は、複合酸化物の組成均一性に相応することができるが、必ずしもこれに限定されて解釈されるも
のではない。
【0110】
ここで、ドーピング元素の含量や線形組成の分析は、実験的に電子プローブ微細分析器(Electron Probe Micro Analyzer,EPMA)や透過電子顕微鏡又は走査電子顕微鏡などに備えられたエネルギー分散型X線分光法(Energy
Dispersive X-ray Spectroscopy,EDS)などを用いて行われることができるが、これに限定されるものではない。
【0111】
また、一実施例において、複数個の負極材粒子を含む負極材は、下記式5による粒子間の組成均一性を有することができる。
【0112】
(式5)
1.3≦UF(D)
【0113】
式5において、UF(D)は重量%組成を基準に、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成をドーピング元素組成の標準偏差で除した値である。このとき、複数個の負極材粒子は、10~500個、実質的に50~300個、より実質的に100~200個であることができる。
【0114】
具体的に、式5のUF(D)は、1.3以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上又は5以上を満たすことができ、実質的に8以下であることができる。前述したUF(D)は、複数個の負極材粒子を含む負極材における負極材粒子間の組成均一性を示すパラメータであって、式5のUF(D)が上述の範囲を満たすことにより、複数個の負極材粒子を含む負極材は、優れた組成均一性を有し、複数個の負極材粒子が含まれても、負極材の機械的物性及び電気化学的物性がさらに均一に現れるという利点がある。
【0115】
本発明の他の一態様(VI)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、80重量%の負極材、10重量%の導電材、及び10重量%のバインダーでフォーミュレーションされた負極活物質層を基準に0.005Vまで充電時、上記負極活物質層の体積変化が60%以内であり、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことができる。
【0116】
理論容量が最大容量4,200mAh/gに達する従来のシリコン系負極材は、充電時に約300%以上の体積変化が生じ、集電体から負極材が脱離する現象により容量維持率が著しく低下するという欠点がある。
【0117】
これに対し、本発明に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス及び前述のマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子を含み、且つ80重量%の負極材、10重量%の導電材、及び10重量%のバインダーでフォーミュレーションされた負極活物質層を基準に0.005Vまで充填時、上記負極活物質層の体積変化が60%以内であり、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことにより、向上した機械的物性及び電気化学的特性を有するだけでなく、優れた放電容量と共にシリコン系負極材が備えられた二次電池の実
商用化が可能なレベルの容量維持率を有するという利点がある。
【0118】
具体的に、前述した体積変化(%)は、負極材を含有する負極活物質層の体積変化で、[リチウム化後の負極活物質層の厚さ-リチウム化前の負極活物質層の厚さ]/リチウム化前の負極活物質層の厚さ*100と規定されることができ、実験的に、リチウム化前/後のそれぞれにおける負極活物質層の厚さは、走査電子顕微鏡の観察写真等により測定されたものであることができる。
【0119】
負極活物質層を含む電池を0.005Vまで充電時、60%以内、具体的に50%以内、40%以内、30%以内、20%以内、又は15%以内に過ぎない体積変化は、従来のシリコン系負極材に比べて有意に小さい体積変化が発生することを意味するものであり、従来のシリコン系負極材の主な問題点であった体積膨張による電極の亀裂及び/又は脱離などのような欠点が大幅に解消されることを意味するものである。
【0120】
負極材の体積膨張の程度をテストする基準となる負極活物質層は、上述した負極材80重量%、導電材、具体的に、カーボンブラック10重量%、バインダー10重量%、具体的に、カルボキシメチルセルロース5重量%とスチレンブタジエンゴム5重量%を含有することができる。負極活物質層が備えられた負極における集電体は銅箔であってもよい。特に限定されないが、負極活物質層のリチウム化前の厚さは15~25μmのレベルであってもよい。
【0121】
このとき、前述した充電は、負極材を含有する負極とカウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記の充放電サイクル条件に従う充放電テストによるものであってもよく、充放電サイクル、具体的に、1回目の充放電サイクルにおいて0.005Vまでの充電が行われたものであってもよい。
【0122】
充放電サイクル条件:CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.5C-rate
【0123】
本発明の他の一態様(VII)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子;を含み、カウンタ電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記の充放電サイクル条件1による充放電テストによって得られるdQ/dVグラフにおいて、Li3.75Si反応に相当するリチウム挿入ピークが存在し、下記の充放電サイクル条件2による1回目の充放電サイクルにおける放電容量が1200mAh/g以上であり、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~ 27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たす。
【0124】
充放電サイクル条件1:CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.1C-rate
【0125】
充放電サイクル条件2:CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.5C-rate
【0126】
具体的に、本発明に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス及び前述のマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子を含み、且つ前述した充放電サイクル条件下で得られたdQ/
dVグラフにおいて、Li3.75Si反応に相当するリチウム挿入ピークが存在し、1回目の充放電サイクルにおける放電容量が1200mAh/gであり、CuKα線を用いたX線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)が0.8~6を満たすことにより、放電容量が1200mAh/g以上であるという、優れた放電容量だけでなく、向上した機械的物性及び電気化学的特性と共にシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能なレベルの容量維持率を有することができる。
【0127】
より詳細に、dQ/dVグラフは、1回目の充放電サイクルにおける電池容量(放電容量)Qを、半電池の金属リチウム箔を基準に、負極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと電位Vとの関係を示すグラフであり得る。
【0128】
このとき、dQ/dVグラフ上のLi3.75Si反応に相当するリチウム挿入ピークは、0.005V~0.100Vの電圧範囲、具体的に0.005V~0.050Vの電圧範囲、より具体的に0.005V~0.040Vの電圧範囲に位置するピークを意味することができる。
【0129】
すなわち、本発明に係る二次電池用負極材は、リチウム挿入がLi3.5Siを超えてLi3.75Siまで行われることを意味するものであり、Li3.75Siまでリチウム挿入が行われることにより、負極材の容量を向上することができる。
【0130】
実質的な一例として、化成工程後、半電池のサイクル条件による充放電時、すなわち、化成工程後の1回目の放電容量は、1200mAh/g以上、1250mAh/g以上、1300mAh/g以上、1350mAh/g以上、1400mAh/g以上、又は1500mAh/g以上であることができ、実質的に2500mAh/g以下であることができる。
【0131】
本発明の他の一態様(VIII)に係る二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有するマトリックス;及び上記マトリックスに分散含入され、残留圧縮応力(residual compressive stress)を有するシリコンナノ粒子;を含む。
【0132】
マトリックスに分散含入されたナノ粒子状シリコンが有する残留圧縮応力、さらに、シリコンの残留圧縮応力とシリコンナノ粒子とマトリックスとの間に形成された整合界面によって、シリコンナノ粒子周囲のマトリックスに形成される応力場は、前述のラマンスペクトルに基づく負極材の一態様、機械的特性に基づく負極材の他の一態様、及びリチウム化時の電気化学的特性に基づく負極材の他の一態様であって、負極材の物性や測定可能なパラメータとして現れることができる。
【0133】
本発明における負極材は、上述の態様(I~VIII)のうち1つ以上の態様、2つ以上の態様、3つ以上の態様、4つ以上の態様、5つ以上の態様、6つ以上の態様、7つ以上の態様、又はI~VIIIの全ての態様を満たすことができる。
【0134】
以下、特に「本発明に係る一態様」に限定して述べない限り、後述する内容は、本発明で提供する全ての態様のそれぞれに該当するものである。
【0135】
一具体例において、負極材は、元素成分を基準に、シリコン、酸素、アルカリ金属とアルカリ土類金属及びポスト遷移金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素を含有する
ことができる。シリコンは、元素シリコン状態のシリコン成分と酸化物状態のシリコン成分とを含むことができ、酸化物状態のシリコン成分は、シリコン単独の酸化物状態、シリコンとドーピング元素の複合酸化物状態、又はこれらの両方を含むことができる。ドーピング元素は、酸化物状態のドーピング元素成分を含むことができ、酸化物状態のドーピング元素は、ドーピング元素単独の酸化物状態、シリコンとドーピング元素の複合酸化物状態、又はこれらの両方を含むことができる。
【0136】
化合物成分を基準に、負極材は、シリコン酸化物、ドーピング元素とシリコンの複合酸化物、又はこれらの混合物を含有することができ、これと共に元素シリコン(Si)を含有することができる。シリコン酸化物はSiO、xは0.1~2の実数を含むことができ、複合酸化物はDSi、Dはドーピング元素であり、lは1~6の実数、mは0.5~2の実数、nはDとSiのそれぞれの酸化数とl及びmによって電荷中性を満たす実数であることができる。一例として、DがMgである場合、複合酸化物は、MgSiO及びMgSiOから1つ以上選択される酸化物等を含むことができるが、本発明において、Dと複合酸化物が必ずしもMgとMg-Si間の酸化物に限定されるものではない。
【0137】
微細構造を基準に、負極材は、シリコン酸化物;アルカリ金属とアルカリ土類金属の群から1つ以上選択されるドーピング元素とシリコンの複合酸化物;又はこれらの混合物;を含有するマトリックスとシリコンナノ粒子を含む分散相を含有することができる。分散相は、マトリックス内に均一に分散含入されて位置することができる。
【0138】
一具体例において、シリコンナノ粒子は、結晶質、非晶質、又は結晶質と非晶質が混在する複合相であってもよく、実質的に結晶質であってもよい。
【0139】
一具体例において、マトリックスは、結晶質、非晶質、又は結晶質と非晶質が混在する複合相であってもよい。詳細に、マトリックスは、結晶質又は結晶質と非晶質が混在する複合相であってもよい。具体的に、マトリックスは、非晶質、結晶質又は非晶質と結晶質が混在するシリコン酸化物と結晶質の複合酸化物を含むことができる。
【0140】
シリコンナノ粒子とマトリックス間の界面は、整合(coherent)界面、不整合(incoherent)界面、部分整合(semi-coherent)界面を含むことができ、実質的に整合界面又は部分整合界面を含むことができ、より実質的に整合界面を含むことができる。公知のように、整合界面は、界面をなす2つの物質の格子が、界面において格子連続性が維持される界面であり、部分整合界面は、部分的に格子ミスマッチ部分が存在するものの、このような格子ミスマッチ部分が転位などのような欠陥として見なされ得る界面である。よって、シリコンナノ粒子とマトリックス間の整合又は部分整合界面を有する負極材において、シリコンナノ粒子と接するマトリックス領域は結晶質であることができ、具体的には、結晶質のシリコン酸化物、結晶質の複合酸化物又はこれらの混合物であることができる。実験的に、整合(coherent)界面、不整合(incoherent)界面、部分整合(semi-coherent)界面の界面構造は、高倍率の走査電子顕微鏡による観察などによって判別することができ、これは当業者に周知の事実である。
【0141】
一具体例において、シリコンナノ粒子の平均直径は、10ナノメートルオーダー~10ナノメートルオーダー、具体的に1~50nm、2~40nm、2~35nm、2nm~30nm、2nm~20nm、又は2nm~15nmであり得るが、これに限定されるものではない。但し、30nm以下のレベルのシリコンナノ粒子は、全体的にマトリックスと整合界面を形成し、シリコンナノ粒子に残留する圧縮応力によってマトリックスのより広い領域において応力が形成されるため有利であり得る。実験的に、シリコンナノ粒子
の平均直径は、透過電子顕微鏡の観察イメージにより負極材内のシリコンナノ粒子のサイズを測定し、10個以上、20個以上、又は30個以上のシリコンナノ粒子について測定されたサイズを平均して算出されたものであってもよい。
【0142】
一具体例において、ドーピング元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)及びビスマス(Bi)から1つ以上選択されることができる。よって、複合酸化物は、シリコンとリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)及びビスマス(Bi)から1つ以上選択された元素間の酸化物であることができる。複合酸化物と残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子間の相乗効果により、負極材の機械的物性及び電気化学的物性がさらに向上することができる。シリコンナノ粒子との整合界面形成に有利であるように、ドーピング元素はアルカリ金属及びアルカリ土類金属の群、具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)から1つ以上選択される元素であってもよく、より有利には、アルカリ土類金属、具体的に、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)から1つ以上選択された元素であってもよい。最も有利には、容易な整合界面形成及び残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子との相乗効果の観点から、ドーピング元素はマグネシウムを含むことができる。上述したように、ドーピング元素は、シリコンとの複合酸化物形態及び/又はドーピング元素の酸化物形態で負極材に含有されてもよく、主に複合酸化物の形態で負極材に含有されてもよい。具体的には、マトリックスがシリコンとの複合酸化物形態でドーピング元素を含有する場合、複合酸化物は結晶質を含むことができ、より実質的に複合酸化物は結晶質であることができる。よって、マトリックスは結晶質の複合酸化物を含有することができる。
【0143】
一具体例において、マトリックスに含有されたシリコン酸化物はSiOx、ここで、xは0.1~2の実数、より具体的に0.5~2の実数を満たすことができ、互いに異なるxを有する第1シリコン酸化物及び第2シリコン酸化物を含むことができる。実質的な一例として、マトリックスに含有されるシリコン酸化物はSiOx1(x1は1.8~2の実数)の第1シリコン酸化物とSiOx2(x2は0.8~1.2の実数)の第2シリコン酸化物とを含むことができる。マトリックスに含有されるシリコン酸化物は、結晶質、非晶質、結晶質と非晶質の複合相であってもよく、実質的に非晶質であってもよい。
【0144】
一具体例において、負極材は、15~50重量%のナノ粒子状シリコン及び残部のマトリックスを含有することができる。
【0145】
一具体例において、負極材のマトリックスはシリコン酸化物及び複合酸化物の両方を含有することができ、マトリックスはシリコン酸化物100重量部を基準に複合酸化物の重量部をAとし、負極材において重量%を基準にドーピング元素の濃度をBとするとき、A/Bが2~50、2~40、2~30、又は2~20を満たすことができる。
【0146】
一具体例において、負極材は粒子状であってもよい。粒子状の負極材は、二次電池の用途において通常要求される粒子サイズ、一例として、10μmオーダー(order)~10μmオーダー(order)の平均直径、具体的に5μm~30μmレベルの平均直径を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0147】
一具体例において、負極材は、炭素を含有するコーティング層、具体的に、負極材の表面にコーティングされた表面コーティング層をさらに含むことができる。このような表面コーティング層により、負極材の電気的特性を向上させることができ、有利である。コーティング層の厚さは2~30nmのレベルであればよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0148】
一具体例において、負極材は、残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を含有し、電気化学的リチウムとの合金(リチウム化、lithiation)時に、シリコン1モル当たりリチウム3.5(超)~3.75モル、具体的に3.6~3.75モルの合金化率を有することができる。このような高い合金化率は、高容量に非常に有利である。また、一具体例において、負極材は高い初期充放電効率及び容量維持率の特性を有することができる。
【0149】
本発明は、上述した負極材を含有する負極を含む。負極は、二次電池、具体的に、リチウム二次電池の負極であり得る。負極は集電体;集電体の少なくとも一面に位置し、上述した負極材を含有する負極活物質層を含むことができ、負極活物質層は、必要に応じて、負極材及び二次電池の負極に通常用いられるバインダー及び導電材をさらに含むことができる。
【0150】
本発明は、上述した負極を含む二次電池を含む。具体的に、本発明は、上述した負極を含むリチウム二次電池を含む。リチウム二次電池は、正極集電体及び正極集電体の少なくとも一面に位置する正極活物質層を含む正極;上述の正極;正極と負極との間に介在された分離膜;及びリチウムイオンを伝導する電解質;を含むことができる。正極集電体、負極集電体、正極活物質層の正極活物質や組成、分離膜及び電解質の溶媒や電解質塩又は電解質塩の濃度などは、リチウム二次電池において通常採用される物質や組成であればよい。
【実施例
【0151】
(実施例1)
Si、SiO、MgO原料をそれぞれ6(Si):4.5(SiO):1.5(MgO)のモル比で粉末混合機に投入し、均質混合して混合原料を製造した後、モールドを用いて混合原料をペレット化した。
【0152】
上記ペレット化した混合原料を0.1torr以下の真空チャンバー内のるつぼに26kg入れた後、1400℃に加熱して気化させた後、400℃の捕集板で凝縮させてマグネシウムドーピングシリコン酸化物を得た。
【0153】
得られたマグネシウムドーピングシリコン酸化物を850℃で20時間Ar雰囲気中で熱処理してバルク型の二次電池用負極材を製造した。
【0154】
製造されたバルク型の二次電池用負極材を、平均粒径5μmに機械式粉砕して粒子状の負極材を製造し、炭化水素ガスを活用して850℃のCVD工程を通じて粒子状負極材に5重量%で炭素をコーティングし、炭素コーティング された負極材粉末を製造した。
【0155】
(実施例2)
実施例1と同様に実施するが、それぞれの原料を6.5(Si):4.5(SiO):0.5(MgO)のモル比で混合したことを除いては同様に実施した。
【0156】
(実施例3)
実施例1と同様に実施するが、それぞれの原料を6.5(Si):4.5(SiO)の
モル比で混合したことを除いては同様に実施した。
【0157】
(比較例1)
Si、SiO、MgO原料をそれぞれ6(Si):4.5(SiO):1.5(MgO)のモル比で粉末混合機に投入した後、均質混合して原料を製造した。
【0158】
上記原料を0.1torr以下の真空チャンバー内のるつぼに26kg入れた後、1400℃に加熱して気化させた後、400℃の捕集板で凝縮させてマグネシウムドーピングシリコン酸化物を得た。得られたマグネシウムドーピングシリコン酸化物(バルク型の二次電池用負極材)を平均粒径5μmに機械式粉砕して粒子状の負極材を製造し、炭化水素ガスを活用して850℃のCVD工程を通じて粒子状負極材に5重量%で炭素をコーティングして炭素コーティングされた負極材粉末を製造した。
【0159】
(比較例2)
SiとSiOの混合原料24kgをるつぼAに、金属Mg塊2kgをるつぼBに入れ、るつぼAは1,500℃、るつぼBは900℃にそれぞれ加熱して気化させた後、900℃の捕集板で凝縮させてマグネシウムドーピングシリコン酸化物を得た。
【0160】
得られたマグネシウムドーピングシリコン酸化物(バルク型の二次電池用負極材)を平均粒径5μmに機械式粉砕して粒子状の負極材を製造し、炭化水素ガスを活用して850℃のCVD工程を通じて粒子状負極材に5重量%で炭素をコーティングし、炭素コーティングされた負極材粉末を製造した。
【0161】
(比較例3)
実施例1と同様に実施するが、Si原料のみを用いたこと及び2200℃で加熱したことを除いては同様に実施した。
【0162】
(実験例1)ドーピング元素の含量偏差
粉砕前のマグネシウムドーピングシリコン酸化物(比較例2)や熱処理により得られたバルク型の二次電池負極材(実施例1)の中心を横切る断面を基準として、EDS(Electron Disperse Spectroscopy)を介して断面の中心を横切る線形組成において任意の100個の地点を測定して算出したドーピング元素の平均含量(wt%)をA、含量の標準偏差をBとして計算し、これを図1に示した。組成分析の結果、実施例1で製造された負極材サンプルのB/Aは0.25であり、比較例2の場合、B/Aは0.69であった。
【0163】
さらに、実施例1の負極材を粉砕した後、150個の負極材粒子をサンプリングし、負極材粒子間に含まれるドーピング元素の組成均一性を分析した。このとき、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成(wt%)をドーピング元素組成の標準偏差で除した値であるUF(D)は6.2と確認された。
【0164】
(実験例2)X線回折(XRD)分析
粉砕後の負極材をX線回折(XRD、Rigaku D/MAX-2500/PC、40kV、15mA、4°min-1、Cu-Kα放射線、λ=0.15406nm)分析により構造を確認した。
【0165】
図2は、実施例1~実施例3及び比較例3のXRDパターンを示す図であり、図から分かるように、実施例1~実施例3及び比較例3ともに約28°の位置で結晶質シリコン111のピークが観察され、実施例1~実施例3の回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置するピークはブロードなピークを示したのに対し、比較例3の場合は、回折角2θが
10°~27.4°の範囲に位置するピークが存在しないことを確認した。これにより、実施例1~実施例3は非晶質のシリコン酸化物を含むことが分かり、比較例3は非晶質のシリコン酸化物を含んでおらず、これにより非晶質のシリコン酸化物を含む実施例1~実施例3は、二次電池の充電時に体積膨張に対して緩衝作用を行うことができるため、二次電池の容量維持率の観点から有利であり得る。
【0166】
さらに、X線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの面積(A)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの面積(A)との間の比(A/A)を比較すると、実施例1~実施例3は0.8~6の範囲と確認された。
【0167】
追加的に、X線回折パターンにおける回折角2θが10°~27.4°の範囲に位置する第1ピークの最大強度(I)と28±0.5°の範囲に位置する第2ピークの最大強度(I)との間の強度比(I/I)を比較すると、実施例1~実施例3は0.1~1.25の範囲と確認され、第1ピークのFWHM(L)と第2ピークのFWHM(L)の比(L/L)を比較分析した結果、実施例1~実施例3は6~12の範囲と確認された。
【0168】
(実験例3)ラマン分析
粉砕後、負極材のμ-Raman(装備名:XperRam C、ナノベース、韓国)分析によりシリコンのラマン信号を基準として下記のような条件で行った。負極材粉末のラマン信号を図3に示した。図3に示すように、実施例1で製造された負極材のシリコンのラマン信号(ピーク中心)は523.6cm-1であり、残留圧縮応力を有することが分かり、比較例で製造された負極材は残留引張応力を有することが分かる。また、実施例1で製造されたシリコンのラマン信号の半値幅(FWHM)を測定した結果、半値幅(FWHM)が12cm-1であり、単結晶シリコンのラマン信号(図3のC-Si(Ref.)の半値幅(FWHM)より大きいことを確認した。
【0169】
分析条件:励起レーザ波長532nm、レーザパワー0.5mW、分光計の解像度(resolution)1cm-1、粉末状の負極材1g、検出器の露出時間15s
【0170】
ラマン測定結果及び下記式を用いてシリコンに残留する応力を計算し、粒子状負極材におけるシリコン残留応力とバルク状負極材におけるシリコン残留応力を表1にまとめた。表1に比較例の結果と併せてまとめたように、実施例1で製造された負極材の場合、シリコンがバルクの形態では0.74GPaの残留圧縮応力を、粒子状では0.29GPaの残留圧縮応力を有することが分かり、比較例1の場合には非晶質相のSiが、比較例2の場合にはSiが圧縮応力ではなく引張応力を有することが分かる。
【0171】
【化3】
【0172】
ここで、σは残留応力、△ωは単結晶シリコンのラマン信号(図3のSi(ref)、520.4cm-1)に対して測定されたサンプルのラマン信号の差(=測定されたシリコンのラマン信号の波数-単結晶シリコンのラマン信号の波数)であり、このとき、△ωが正の値である場合は圧縮応力、負の値である場合は引張応力を意味する。
【0173】
粉砕前のマグネシウムドーピングシリコン酸化物(比較例1)や熱処理により得られたバルク型の二次電池負極材(実施例1)のμ-Raman分析(装備名:XperRam C、ナノベース、韓国)によりシリコンのラマン信号を基準とした2次元マッピング分析
を、下記のような条件で行い、マッピング結果を図4に示した。実施例1で製造された負極材の場合、全てのピクセルにおいてシリコンのラマンピークが検出され、各ピクセル別の偏移=WNi(Si)-WN(ref)を測定した結果、偏移の範囲が2.86(最小値)~4.58(最大値)であることを確認した。
【0174】
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器の露出時間(単位分析領域当たりの露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーティング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピングサイズ=14μm×14μm
【0175】
さらに、20mm×20mmサイズの粉砕前の負極材において選択された互いに異なる20個のランダムな位置で、上記のような条件によりシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析を行った結果、互いに異なる位置で測定された偏移の範囲が2.42(最小値)~4.86(最大値)であることを確認した。また、互いに異なる20個のランダムな位置でのシリコンナノ粒子の応力分析時、シリコンナノ粒子は88~99%の範囲内で圧縮応力を有することを確認した。
【0176】
(実験例4)機械的物性
粒子強度の測定は島津製作所製造の微小圧縮試験機MCT-Wを用いて圧縮強度を測定した。直径が10μmである任意の粒子10個について粒子強度を測定し、その測定結果を表1にまとめた。
【0177】
上記微小圧縮試験機は、粒子に力を持続的に加え、このとき、粒子が割れる圧力が粒子強度として規定され、これを自動的に測定する。
【0178】
さらに、粉砕前のマグネシウムドーピングシリコン酸化物(比較例1)や熱処理により得られたバルク型の二次電池負極材(実施例1)の断面を対象にしてナノ押し込み試験装置(Anton Paar、オーストリア)を活用して試験を行った。
【0179】
ナノ押し込み試験(インデンタ)の場合、ISO 14577-1 Eの測定基準に従い、測定条件はバーコビッチ圧子(Berkovich indenter)を用いてポアソン比を0.3と仮定し、最大荷重50mN、荷重印加速度100mN/minで行った。このとき、圧子による押し込み痕を基準に、押し込み痕間の離隔距離が少なくとも10μm以上であり、且つ5×5乃至25×25のマトリックス形態で行い、これにより算出された強度及び弾性係数を図5に示した。
【0180】
図5に示すように、実施例1のナノ押し込み試験による強度の平均値は4.41GPa、弾性係数の平均値は43.1GPaと確認されたのに対し、比較例1のナノ押し込み試験による強度の平均値及び弾性係数の平均値は、それぞれ2.76GPa及び30.6GPaと確認され、ナノ押し込み試験の結果、比較例1に比べて実施例1の強度は約1.6倍、弾性係数は1.4倍のレベルであり、実施例1の機械的物性が著しく向上したことが分かる。
【0181】
(実験例5)電池の製造及び電池性能の評価
最終の負極材粉末を活物質として使用し、活物質:導電材(carbon black):CMC(Carboxymethyl cellulose):SBR(Styrene Butadiene Rubber)を重量比8:1:0.5:0.5で混合し、17μm厚の銅箔に塗布した後、90℃で40分間乾燥した。乾燥後、直径14mmに打ち抜き、直径16mmの金属リチウムを対極として使用し、直径18mmの分離膜を挟んで電解液を充填してCR2032コイン型半電池を作製した。電解液は、EC(Ethyl
ene carbonate)/DEC(Diethyl carbonate)を体積比1:1で混合した溶媒に1MのLiPFを溶解させ、3wt%のFEC(fluoroethylene carbonate)を添加剤として使用した。化成工程は、製造された電池を0.1Cの定電流で0.005Vまで充電(lithiation)し、0.01Cに達するまで0.005Vの定電圧充電した後、0.1Cの定電流で1.5Vまで放電(de-lithiation)した後(第1化成ステップ)、再び0.1Cの定電流で0.005Vまで充電(lithiation)し、0.01Cに達するまで0.005Vの定電圧充電した後、0.1Cの定電流で1.0Vまで放電(de-lithiation)(第2化成ステップ)して行った。
【0182】
充放電サイクルの条件:0.5Cの定電流で0.005Vまで充電(lithiation)し、0.05Cに達するまで0.005Vの定電圧充電した後、0.5Cの定電流で1.0Vまで放電(de-lithiation)
【0183】
充放電サイクルの回数:50回
化成工程後、最初サイクルの放電容量(C1)を容量としてまとめて表1に示し、第1化成ステップにおける充放電に基づく初期効率及び化成工程後のC50/C1*100による容量維持率も表1にまとめており、第1化成ステップ、第2化成ステップ及び充放電サイクルによる充放電容量及び容量維持率をそれぞれ図6(a)及び図6(b)に示した。
【0184】
【表1】
【0185】
さらに、実施例2及び実施例3の容量はそれぞれ1418及び1465mAh/gと確認され、実施例2及び実施例3の容量維持率はいずれも95%以上であることが確認され、具体的にはそれぞれ99.0%及び100.3%である。
【0186】
図7(a)及び図7(b)は、それぞれ実施例1~実施例3及び比較例1~比較例3について、CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.1C-rateの充放電サイクル条件で、1回目の充放電サイクルにおけるdQ/dVグラフを示す図であり、図7(a)を参照すると、実施例1~実施例3の場合はLi3.5Si反応に相当するリチウム挿入ピークだけでなく、Li3.75Si反応に相当するリチウム挿入ピークが存在することが分かる。これにより、実施例1~実施例3により製造された負極材のリ
チウム化時に、シリコン1モル当たりリチウム3.75モルの合金化率でリチウム化(Lithiation)が行われることが分かる。
【0187】
一方、図7(b)に示すように、比較例1及び比較例2では、Li3.5Si反応に対するリチウム挿入ピークのみが観察されただけで、Li3.75Si反応に相当するリチウム挿入ピークは観察されなかった。
【0188】
このように、本発明の一実現例に係る負極材は、シリコンのリチウム化時にLi3.5Si反応を超えてLi3.75Si反応までリチウム挿入が行われ、優れた容量を有することができる。
【0189】
図8は、実施例1の高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)イメージを示す図である。図8から結晶質シリコンナノ粒子の平均直径が約7.1nmであることを確認し、SADP(Selected Area Diffraction Pattern)分析結果、マトリックスが結晶質のマグネシウムシリケートを含有し、シリコンナノ粒子が結晶質のマグネシウムシリケートと整合界面をなすことを確認した。
【0190】
図には示していないが、粉砕及びカーボンコーティングされた負極材粉末の粒子サイズ分布を測定した結果、負極材粉末の粒子は平均(D50)7.9μmの粒子サイズを有することを確認した。
【0191】
図9は、リチウム化前の実施例1の負極材を含有する負極活物質層の断面及びその厚さを観察した走査電子顕微鏡写真及び3回目の充放電サイクル(寿命評価段階の1回目の充放電サイクル)において0.005Vリチウム化後、負極活物質層の断面及びその厚さを観察した走査電子顕微鏡写真である。リチウム化前後の厚さ変化により、体積膨張率が約15.5%に過ぎないことを確認した。図には示していないが、それぞれの負極材を含有する負極活物質層のリチウム化前後の厚さ変化による体積膨張率を確認した結果、実施例2は13.4%、実施例3の場合は12.5%と確認されたのに対し、比較例1、比較例2及び比較例3の場合は、それぞれ27.1%、30.3%及び271.2%と確認された。
【0192】
以上のように、本発明では、特定された事項と限定された実施例及び図面によって説明されたが、これは、本発明のより全体的な理解を助けるために提供されたものであり、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明が 属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から様々な修正及び変形が可能である。
【0193】
したがって、本発明の思想は説明された実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等又は等価的な変形のあるものは全て本発明の思想の範疇に属すると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】