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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】汚染放出コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20241219BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241219BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20241219BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20241219BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/02
C09D7/40
C09D5/14
C09D5/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536056
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2022086178
(87)【国際公開番号】W WO2023111191
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21214881.1
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510326647
【氏名又は名称】ヨツン エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】エスムールジーヴ、アスラン エム
(72)【発明者】
【氏名】シュツォトック‐ピーシャチェク、アンナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】エスマイリ、ナーセル
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL031
4J038HA156
4J038JC18
4J038JC38
4J038MA10
4J038NA05
4J038PA07
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】
【解決手段】本発明は、(a)水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンであって、前記エマルジョンは4~1000nmの平均液滴サイズを有するポリシロキサン系バインダー液滴を含む水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョン;および(b)少なくとも一つの顔料または充填材;を含む水性汚染放出コーティング組成物であって、前記コーティング組成物は、前記組成物全体の総重量に対して少なくとも10重量%の水を含む水性汚染放出コーティング組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンであって、前記エマルジョンは、4~1000nmの平均液滴サイズを有するポリシロキサン系バインダー液滴を含む、水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョン;および
(b)少なくとも一つの顔料または充填材;
を含む水性汚染放出コーティング組成物であって、
前記コーティング組成物は、前記組成物全体の総重量に対して、少なくとも10重量%の水を含む
水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項2】
前記組成物が、80g/L未満、好ましくは50g/L未満、より好ましくは25g/L未満、さらに好ましくは0g/L未満の揮発性有機化合物(VOC)含有量を有する、
請求項1に記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリシロキサン系バインダー液滴が、50~350nm、好ましくは100~300nmの平均サイズを有する、
請求項1または2に記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項4】
前記ポリシロキサン系バインダーが、直鎖状または分岐状のポリシロキサン系バインダーである、請求項1~3のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項5】
前記ポリシロキサン系バインダーが、一般式(I)を有する、
請求項1~4のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【化11】
[式中、
各R1は、ヒドロキシル基、C1-6-アルコキシ基、C1-6-ヒドロキシル基、C1-6-エポキシ含有基、C1-6アミン基、C1-10アルキル基、C6-10アリール、C7-10アルカリルまたはO-Si(R53-z(R6zから独立して選択され;
各R2は、C1-10アルキル、C6-10アリール、C7-10アルキルアリールまたは、ポリ(アルキレンオキシド)および/もしくはR1について記載した基で置換されたC1-6アルキルから独立して選択され;
各R3およびR4は、C1-10アルキル、C6-10アリール、C7-10アルキルアリールまたはポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1-6アルキルから独立して選択され;
各R5は、加水分解可能な基、例えばC1-6アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基またはケトキシ基から独立して選択され;
各R6は、C1-6アルキル基から独立して選択され;
zは、0または1~2の整数であり;
xは、少なくとも2の整数であり;
yは、少なくとも2の整数である。]
【請求項6】
前記ポリシロキサン系バインダーの重量平均分子量が、400~150000、好ましくは1000~140000、より好ましくは5000~130000、さらに好ましくは10000~120000g/molである、
請求項1~5のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項7】
前記組成物が、添加油、好ましくは親水性変性ポリシロキサン油および/または疎水性変性ポリシロキサン油を更に含む、
請求項1~6のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項8】
前記組成物が、さらに殺生物剤を含む、
請求項1~7のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項9】
前記組成物が、前記組成物全体の総重量に対して、50~90重量%の水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンを含む、
請求項1~8のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物を製造する方法であって、
前記方法は、以下の工程:
(i)少なくとも一つの顔料または充填材を水に分散させて、分散液を製造する工程;および、続いて
(ii)工程(i)で製造された前記分散液と水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンを混合して、前記コーティング組成物を製造する工程
を含む方法。
【請求項11】
少なくとも2つの層AおよびBを含むコーティングシステムであって、
前記層AおよびBは隣接し、
層Aは有機プライマー層であり、
層Bは、請求項1~9のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物を含む、
コーティングシステム。
【請求項12】
層Aが、エポキシプライマー層である、
請求項11に記載のコーティングシステム。
【請求項13】
層Aおよび/または層Bが、硬化されている、
請求項11または12に記載のコーティングシステム。
【請求項14】
水性汚染放出コーティング組成物を基材へ適用する方法であって、
前記方法は、請求項1~9のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物を基材へ適用、例えば噴霧することにより適用し、
前記コーティング組成物を硬化させることを含む方法。
【請求項15】
硬化した、請求項1~9のいずれかに記載の水性汚染放出コーティング組成物、または請求項11~13のいずれかに記載のコーティングシステムでコーティングされた基材。
【請求項16】
前記基材が、海洋構造物、好ましくは使用時に水没する海洋構造物の表面である、
請求項15に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染(ファウリング)放出(リリース)コーティング組成物に関する。特に、本発明は、水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンを含む水性汚染放出組成物を提供する。本発明は、更に、汚染放出組成物を製造する方法、前記組成物を含むコーティングシステム、および前記コーティング組成物でコーティングされた基材に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
汚染放出コーティングは、海洋生物による汚染を防ぐために、船舶に用いられる。これらは、汚染放出表面の摩擦係数が非常に低いため、海洋生物が表面に付着しにくい、特に、船舶が航行中であれば、海の作用によって海洋生物は船体から洗い流されるという原理に基づいて作用している。
【0003】
商業船(例えば、コンテナ船、ばら積み貨物船、タンカー、旅客船)は、しばしば、異なる海域、異なる貿易、異なる活動(休止期間を含む)で運航される。非常になめらかな表面と低い表面エネルギーを有する汚染放出コーティングは、表面に汚染が付着する可能性を最小化し、それによって、優れた防汚効果を発揮する。
【0004】
従って、汚染放出コーティングは、バイオ汚染が表面に付着しないように、またはバイオ汚染が表面に対する水の摩擦によって容易に洗い流されるように、低い表面張力と低い弾性率を特徴とする。
【0005】
そのようなコーティングは、例えばWO2021/105429A1およびWO2018/134124に開示されているような、反応性(硬化性)基(例えば、ヒドロキシルまたはシリル単位)を有するポリシロキサン系バインダーをしばしば含む。ポリシロキサン系バインダーは水分および触媒の存在下で加水分解および縮合されうる。
【0006】
コーティング業界は、防汚塗料において用いることが可能な有機溶媒の量を制限するVOC規制の強化に常に直面している。防汚コーティングの最も一般的な塗布方法は、エアレススプレー、刷毛、またはローラーである。塗料が標準的な技術で塗布できることが重要であり、そのためには、そのVOC含有量を最小に抑え、かつ満足いく塗布特性を達成しつつ、特定の粘度レベルを有するコーティング組成物および塗料が必要である。塗布時に粘度を下げるために溶剤を追加しなければならない場合、VOCの制限を超えるかもしれない。
【0007】
VOCに準拠し、より持続可能な防汚塗料を実現するための一つの解決策は、水性技術を使用することである。水性塗料市場は、VOC/HAP規制を満たすためにより持続可能な塗料を提供するために拡大すると思われる。水性塗料は、低臭気、清掃のしやすさ、乾燥の速さ、そしてスタッフにとってより健康的であることから、インテリア市場で人気を博している。新しい技術の進歩により、水性コーティングの性能と耐久性は、ほとんどの用途で溶剤型コーティングに近づいている。
【0008】
水性コーティングは、例えば、CN110358015、CN109575746、JP2006193731およびCN111393926に記載されている。更に、CN110643278は、船舶用水系低表面エネルギー防汚塗料を開示している。しかし、バインダーは、依然として有機溶媒(キシレン)中に溶解し、水中で乳化していない。
【0009】
商業船舶は、少なくとも一つの層の防錆塗料、続いてタイコートおよび防汚コーティングにより通常、保護される。前記タイコートは、従って、前記基材への防汚コーティングの良好な接着を確保するために、主に用いられる追加層である。防錆層へ直接的で良好な接着を示す防汚コーティングを開発することにより、コーティング層の数を減らすとVOCが低下するため、時間と資源を節約し、より持続可能なコーティングシステムを達成する「一層少ない」システムを構想することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2021/105429A1号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2018/134124号パンフレット
【特許文献3】中国公開特許第110358015号
【特許文献4】中国公開特許第109575746号
【特許文献5】特開2006-193731号公報
【特許文献6】中国公開特許第111393926号
【特許文献7】中国公開特許第110643278号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、前記で言及した問題の少なくとも幾つかに対処する、新規な汚染放出コーティング組成物を提供することである。コーティング組成物に対する上述のVOC要求に加えて、得られる防汚コーティングは、より低温でも良好な塗布特性、低い表面エネルギー、高い接触角、および良好な機械的特性を有し、良好な防汚性を示すべきである。溶媒型と比較した水性防汚塗料の場合の課題は、より低温で良好なフィルム形成挙動を示すことである。理想的には、新しいコーティングは、いくつかの防錆プライマーに直接塗布することも含め、いくつかの異なる基材に対して良好なフィルム形成を示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、本発明の水性汚染放出コーティング組成物が、魅力的な解決策を提供することを予期せぬことに見出した。特に、本発明の水性汚染放出コーティング組成物は、驚くべきことに、有機プライマーへの良好な接着性を有する。上述したように、従来のポリシロキサン系汚染放出コーティングは、有機プライマーに対する接着性が低く、従って、しばしば、ポリシロキサン系コーティングと有機コーティングのハイブリッドであるタイコートが必要である。汚染放出コーティングを有機プライマーに直接適用することが可能になることにより、全体のコーティングシステムが、一つの層が少ないものを用いるために、より低いVOCを提供できる可能性がある。さらに、コートの数を減らすことにより、時間と費用の両方を節約し、塗料適用プロセスを簡素化することにより、作業効率を向上させる可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明のまとめ]
第一の態様から見ると、本発明は、
(a) 水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンであって、前記エマルジョンは、4~1000nmの平均液滴サイズを有するポリシロキサン系バインダー液滴を含む、水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョン;および
(b) 少なくとも一つの顔料または充填材;
を含む水性汚染放出コーティング組成物であって、
前記コーティング組成物は、前記組成物全体の総重量に対して少なくとも10重量%の水を含む、水性汚染放出コーティング組成物を提供する。
【0014】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書中で定義されたような水性汚染放出コーティング組成物を製造する方法を提供し、前記方法は、以下の工程:
(i) 少なくとも一つの顔料または充填材を水に分散させて、分散液を製造する工程;および、続いて
(ii) 工程(i)で製造された前記分散液と水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンを混合して、前記コーティング組成物を製造する工程
を含む。
【0015】
さらなる態様から見ると、本発明は、少なくとも2つの層AおよびBを含むコーティングシステムを提供する。前記層AおよびBは隣接し、層Aは有機プライマー層であり、層Bは本明細書中で定義されたような水性汚染放出コーティング組成物を含む。
【0016】
別の態様から見ると、本発明は、水性汚染放出コーティング組成物を基材へ適用する方法を提供する。前記方法は、明細書中で定義されたような水性汚染放出コーティング組成物を基材へ適用、例えば噴霧することにより適用し、前記コーティング組成物を硬化させることを含む。
【0017】
さらに別の態様から見ると、本発明は、硬化した、明細書中で定義されたような水性汚染放出コーティング組成物、または明細書中で定義されたようなコーティングシステムでコーティングされた基材を提供する。
【0018】
[定義]
明細書中で用いられる用語「汚染放出組成物」または「汚染放出コーティング組成物」は、表面に適用されると、海の生物が恒久的に付着しにくい汚染放出表面を提供する組成物を指す。
【0019】
明細書中で用いられる用語「水性組成物」は、溶媒として水を含む組成物を指す。典型的には、水は、用いられる溶媒の少なくとも80%を形成し、好ましくは前記溶媒の100%が水である。
【0020】
明細書中で用いられる用語「バインダー」または「バインダーシステム」は、前記組成物のフィルム形成成分を指す。前記汚染放出組成物の前記ポリシロキサン系バインダーは、前記組成物中の主バインダーであり、すなわち、存在するバインダーの少なくとも50wt%、例えば少なくとも70wt%、少なくとも75wt%、少なくとも80wt%または少なくとも90wt%を形成する。好ましい一つの実施形態において、前記ポリシロキサン系バインダーは、存在するバインダーの100wt%を形成する。明細書中で用いられる用語「バインダーシステム」は、添加油を包含しない。添加油は、明細書中では、フィルム形成成分であるとはみなされない。
【0021】
明細書中で用いられる用語「塗料」は、明細書中で記載された汚染放出コーティング組成物と、任意に溶媒を含む組成物であって、使用、例えば噴霧する準備がととのっているものを指す。従って、前記汚染放出コーティング組成物自体は、塗料であってもよいし、または、前記汚染放出コーティング組成物は、塗料を製造するために溶媒が添加される濃縮物であってもよい。
【0022】
明細書中で用いられる用語「ポリシロキサン」は、シロキサン、すなわち、-Si-O-繰り返し単位を含むポリマーを指す。
【0023】
明細書中で用いられる用語「ポリシロキサン系バインダー」は、モチーフ-Si-O-を含む繰り返し単位をポリマーの総重量に基づいて少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも60wt%および、より好ましくは少なくとも70wt%含むバインダ―を指す。ポリシロキサン系バインダーは、モチーフーSi-O-を含む繰り返し単位をポリマーの総重量に基づいて99.99wt%まで含んでもよい。前記繰り返し単位、-Si-O-は、一続きに連結されていてもよく、または、非シロキサン部分、例えば有機系部分により中断されてもよい。
【0024】
明細書中で用いられる用語エマルジョンは、ある液体の液滴が溶解性または混和性のない別の液体中に微細に分散したものを指す。本発明の文脈において、
前記エマルジョンは、「水中油型」エマルジョン、すなわち、分散相が油であり、連続相が水であるものを称することができる。従って、本発明で用いられる前記エマルジョンはまた、「水性エマルジョン」とも呼ばれてもよく、前記連続相(すなわち、溶媒)が水であるエマルジョンを意味する。理想的には、前記溶媒は、水からなる。
【0025】
明細書中で用いられる用語「アルキル」は、飽和の、直鎖状、分岐状または環式基を指す。
【0026】
明細書中で用いられる用語「シクロアルキル」は、環式アルキル基を指す。
【0027】
明細書中で用いられる用語「アルキレン」は、二価のアルキル基を指す。
【0028】
明細書中で用いられる用語「アルケニル」は、不飽和の、直鎖状、分岐状または環式基を指す。
【0029】
明細書中で用いられる用語「アリール」は、少なくとも一つの芳香族環を含む基を指す。用語アリールは、1以上の芳香環がシクロアルキル環に縮合した縮合環システムを包含する。アリール基の一例は、フェニル、すなわちC65である。
【0030】
明細書中で用いられる用語「置換された」は、前記基中の1またはそれ以上、例えば6まで、より詳細には、1、2、3、4、5または6の水素原子が、互いに独立して、対応する数の記載された置換基により置き換えられている基を指す。
【0031】
明細書中で用いられる用語「アリールアルキル」基は、Siへの結合がアルキル部分を介している基を指す。
【0032】
明細書中で用いられる用語「ポリエーテル」は、アルキレン単位によって中断された2またはそれ以上の-O-結合を含む化合物を指す。
【0033】
明細書中で用いられる用語「ポリ(アルキレンオキシド)」、「ポリ(オキシアルキレン)」および「ポリ(アルキレングリコール)」は、-アルキレン-O-繰り返し単位を含む化合物を指す。典型的に、前記アルキレンは、エチレンまたはプロピレンである。
【0034】
明細書中で用いられる用語「揮発性有機化合物(VOC)」は、250℃またはそれ未満の沸点を有する化合物を指す。
【0035】
明細書中で用いられる「防汚剤」または「殺生物剤」は、表面への海洋生物の定着を防止し、および/または、表面上での海洋生物の成長を妨げ、および/または、表面から海洋生物の離脱を促す、生物学的に活性な化合物または生物学的に活性な化合物の混合物を指す。これらの用語は互換的に使用される。
【0036】
[発明の詳細な説明]
本発明は、水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンと、少なくとも一つの充填材または顔料とを含む水性汚染放出コーティング組成物に関する。
【0037】
<ポリシロキサン系バインダーエマルジョン>
前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンは、4~1000nmの平均サイズを有するポリシロキサン系バインダー液滴を含む。
【0038】
{ポリシロキサン系バインダー}
本発明のコーティング組成物中に存在する前記ポリシロキサン系バインダーは、少なくとも50wt%のポリシロキサン部、好ましくは60wt%より多いポリシロキサン部、さらに好ましくは70wt%より多いポリシロキサン部、例えば99.99wt%またはそれ以上のポリシロキサン部を含む。典型的な範囲は、50~100wt%のポリシロキサン部、60~99.99wt%のポリシロキサン部、または70~99.99wt%のポリシロキサン部を前記ポリシロキサン系バインダー中に含む。
【0039】
前記ポリシロキサン部は、前記ポリシロキサン系バインダーの総重量に基づいて、モチーフ-Si-O-を含む繰り返し単位として定義される。ポリシロキサン部のwt%は、ポリシロキサン合成における出発材料の化学量論的wt比に基づいて、決定することができる。または、前記ポリシロキサン含有量は、IRまたはNMRのような分析技術を用いて決定することができる。
【0040】
通常、ポリシロキサン部のwt%は、ポリシロキサン合成における反応性出発材料のモル比に基づいて計算される。過剰モルなモノマーが反応混合物中に存在する場合、そのような過剰はモルはカウントされない。反応の化学量論に基づいて反応しうるモノマーのみがカウントされる。
【0041】
市販のポリシロキサン系バインダー中のポリシロキサン部分のwt.%に関する情報は、供給業者から容易に入手できる。
【0042】
ポリシロキサン系バインダーは、シロキサン単位の単一の繰り返し配列からなるか、または、非シロキサン部分、例えば有機部分によって中断されることもあることを理解されたい。ポリシロキサン系バインダーがSi-O繰り返し単位のみを含むことが好ましい。
【0043】
前記有機部分は、例えば、アルキレン、アリーレン、ポリ(アルキレンオキシド)、アミド、チオエーテルまたはそれらの組合せを含んでもよく、好ましくは前記有機部分は、例えば、アルキレン、アリーレン、ポリ(アルキレンオキシド)、アミドまたはそれらの組合せを含んでもよい。
【0044】
硬化性とは、前記ポリシロキサン系バインダーが、ポリシロキサン系バインダー分子の間で、または架橋剤を介して、架橋反応が起こりうる官能基を含むことを意味する。
【0045】
前記ポリシロキサン系バインダーは、好ましくは末端および/またはペンダント型の硬化反応性官能基を有するオルガノポリシロキサンである。分子あたり少なくとも2つの硬化反応性官能基が好ましい。硬化反応性官能基の例は、シラノール、アルコキシ、アセトキシ、エノキシ、ケトオキシムアルコール、アミンオキシ、アミン、エポキシ、ビニルおよび/またはイソシアネートである。好ましいポリシロキサン系バインダーは、シラノール、アルコキシまたはアセトキシ基から選択される硬化反応性官能基を含む。硬化反応は、典型的には縮合硬化反応である。前記ポリシロキサン系バインダーは、任意に2種類以上の硬化反応性基を含み、例えば、縮合硬化とアミン/エポキシ硬化の両方を介して、硬化してもよい。
【0046】
ポリシロキサン系バインダーは、直鎖状または分岐状のポリシロキサン系バインダーであってもよい。分岐状とは、前記ポリシロキサン鎖が分岐状であることを意味する。前記分岐状ポリシロキサン系バインダーは、また、ポリシロキサン樹脂としても知られる、ケージ様ポリシロキサン構造を含んでもよい。
【0047】
好ましい一つの実施形態において、前記ポリシロキサン系バインダーは、直鎖状である。
【0048】
前記ポリシロキサン系バインダーは、バインダーを水中で乳化するプロセスを助けるために、親水性基によって変性されていてもよい。適切な親水性基の例は、エーテル類(例えば、ポリオキシアルキレン基、例えば、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール)、アルコール類(例えば、ポリ(グリセロール))、アミド類(例えば、ピロリドン、ポリビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド)、酸類(例えば、カルボン酸、ポリ(メタ)アクリル酸)、アミン類およびポリアミン類(例えば、ポリビニルアミン、アミン基を含む(メタ)アクリルポリマー)であってもよい。
【0049】
好ましい一つの実施形態において、前記ポリシロキサン系バインダーは、アミン、ポリアミンまたはポリエーテル基によって変性されている。
好ましくは、前記ポリシロキサン系バインダーは、変性されていない。
本発明の汚染放出コーティング組成物中に存在する好ましいポリシロキサン系バインダーは、以下の式(I)で表される。
【0050】
【化1】
【0051】
式中、
各R1は、ヒドロキシル基、C1-6-アルコキシ基、C1-6-ヒドロキシル基、C1-6-エポキシ含有基、C1-6アミン基、C1-10アルキル基、C6-10アリール、C7-10アルカリルまたはO-Si(R53-z(R6zから独立して選択され、
各R2は、C1-10アルキル、C6-10アリール、C7-10アルキルアリールまたはポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1-6アルキルおよび/またはR1について記載した基から独立して選択され;
各R3およびR4は、C1-10アルキル、C6-10アリール、C7-10アルキルアリールまたはポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1-6アルキルから独立して選択され;
各R5は、独立して、加水分解可能な基、例えばC1-6アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基またはケトキシ基であり;
各R6は、C1-6アルキル基から独立して選択され;
zは、0または1~2の整数であり;
xは、少なくとも2の整数であり;
yは、少なくとも2の整数である。
【0052】
好ましくはR1は、ヒドロキシル基およびO-Si(R53-z(R6z(式中、R5は、C1-C6アルコキシ基であり、R6は、C1-6アルキルであり、zは0または1~2の整数である)から選択される。より好ましくは、R1は、ヒドロキシル基およびO-Si(R53-z(R6z(式中、R5は、C1-C3アルコキシ基であり、R6は、C1-3アルキルであり、zは0または1~2の整数である)から選択される。
【0053】
好ましくは、R2は、C1-10アルキル基、C6-10アリール、C7-10アルキルアリールまたはO-Si(R53-z(R6zである。より好ましくは、R2は、C1-4アルキル基、さらに好ましくはC1-2アルキル基、さらにより好ましくはメチル基、である。好ましくは各R2は、同一である。
【0054】
好ましくはR3は、C1-10アルキル基である。より好ましくは、R3は、C1-4アルキル基、さらに好ましくはC1-2アルキル基、さらにより好ましくはメチル基である。好ましくは各R3は同一である。
【0055】
好ましくはR4はC1-10アルキル基である。より好ましくはR4はC1-4アルキル基、さらに好ましくはC1-2アルキル基、さらにより好ましくはメチル基である。好ましくは各R4は同一である。
【0056】
さらに好ましくはR1はヒドロキシル基であり、R2、R3およびR4は各々メチル基である。
【0057】
本発明の汚染放出コーティング組成物中に存在する別の好ましいポリシロキサン系バインダーは、以下の式(II)であらわされる。
【0058】
【化2】
【0059】
式中、
各R1は、ヒドロキシル基、C1-6-アルコキシ基またはO-Si(R53-z(R6zから独立して選択され、
各R2~R4はメチルであり;
各R5は、独立して、加水分解可能な基、例えばC1-6アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基またはケトキシ基であり;
各R6は、独立して、C1-6アルキル基から選択され;
zは、0または1~2の整数であり;
xは、少なくとも2の整数であり;
yは、少なくとも2の整数である。
【0060】
本発明の汚染放出コーティング組成物中に存在する別の好ましいポリシロキサン系バインダーは、以下の式(III)で表される。
【0061】
【化3】
【0062】
式中、
1、R2、R3、R4ならびにxおよびyは、(I)について定義したとおりであり、
xは、C2-3アルキルであり、
各L1は、0~50であり、
各L2は、0~50であり、
ただし、L1+L2は2~50、好ましくは4~40、より好ましくは4~20、最も好ましくは4~10であり、
L3は、1~200、好ましくは2~100、最も好ましくは5~50である。前記ポリシロキサン部分は、前記分子の少なくとも50wt%を形成しなければならない。
【0063】
好ましくは前記本発明のポリシロキサン系バインダーは、式(I)で表される。最も好ましくは、前記ポリシロキサン系バインダーは、ポリジメチルシロキサンである。
【0064】
当業者であれば、ポリシロキサン系バインダーは、ポリシロキサン合成の残留物である環状シロキサンなどの不純物を少量含みうることを認識するであろう。健康、安全、および環境の側面から、コーティング中に存在する環状ポリシロキサンの量を制限することが好ましい。好ましい一つの実施形態において、前記ポリシロキサン系バインダーは、5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満の環式ポリシロキサンを含む。特に好ましい実施形態の一つにおいて、前記ポリシロキサン系バインダーは、環式ポリシロキサンを含まない。
【0065】
前記ポリシロキサン系バインダーの重量平均分子量は、好ましくは400~150000、より好ましくは1000~140000、さらに好ましくは5000~130000、特に10000~120000g/molである。
【0066】
前記ポリシロキサン系バインダーの数平均Mwは、好ましくは400~100000g/mol、より好ましくは1000~80,000g/mol、さらに好ましくは2000~70000g/mol、特に5000~60000g/molである。
【0067】
あるいは、前記ポリシロキサン系バインダーの粘度は、好ましくは100~50000mPas、好ましくは200~40000mPas、特に400~30000mPasである。
【0068】
前記ポリシロキサン系バインダー液滴はエマルションの分散相を形成することが理解されよう。
【0069】
前記ポリシロキサン系バインダーは、室温で動的光散乱により測定した場合、4~1000nm、好ましくは25~400nm、より好ましくは50~350nm、例えば100~300nmの平均サイズの液滴の形態で、エマルジョン中に存在する。この文脈で言及された「平均サイズ」は、Z-平均サイズであり、強度加重平均サイズであると理解されるであろう。
【0070】
前記コーティング組成物中のポリシロキサン系バインダーの量は、前記コーティング組成物の総重量の好ましくは10~90wt.%、より好ましくは15~70wt.%、さらに好ましくは20~60wt.%である。
【0071】
前記コーティング組成物中のポリシロキサン系バインダーの量は、前記コーティング組成物の全乾燥重量の好ましくは15~95wt.%、より好ましくは20~90wt.%、さらに好ましくは30~80wt.%である。
【0072】
{エマルジョン}
前記ポリシロキサン系バインダー液滴に加えて、前記エマルションは水性溶媒(すなわち連続相)を含む。水性溶媒とは、水を含む(好ましくは水からなる)ものであることが理解されよう。
【0073】
従って、特に好ましい実施形態において、前記エマルジョンは、前記ポリシロキサン系バインダー液滴と水とからなる。
【0074】
前記ポリシロキサン系バインダー液滴は、理想的には、前記エマルジョン全体の総重量に対して、前記エマルションの30~90wt%を形成する。典型的なwt%範囲は、前記エマルジョン全体の総重量に対して35~80wt%、例えば40~70wt%であってもよい。
【0075】
溶媒(好ましくは水)は、前記エマルジョン全体の総重量に対して、前記エマルションの10~70wt%を形成する。典型的なwt%の範囲は、前記エマルジョン全体の総重量に対して20~65wt%、例えば30~60wt%である。
【0076】
前記エマルジョンは、当該技術分野で知られている任意の適切な方法によって調製することができる。
【0077】
前記エマルジョンは乳化剤を含んでいてもよい。前記乳化剤は、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性であってよい。
【0078】
非イオン性乳化剤の例は、アルキルフェノキシエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンソルビタンモノオレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリエーテルシロキサンおよびソルビタンステアレートである。好ましい非イオン性乳化剤は、ポリアルキレングリコール、例えばポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体である。
【0079】
アニオン性乳化剤の例は、アルキル-、アリール-、アルカリル-硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、スルホコハク酸塩、スルホスクシンアミド酸塩、スルホ酢酸塩およびアミノ酸誘導体である。
【0080】
特に好ましいアニオン性乳化剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルナフチルスルホン酸塩、不飽和脂肪族スルホン酸塩およびヒドロキシル化脂肪族スルホン酸塩である。ここでいう前記アルキル基としては、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、セチル、ステアリルなどの中級およびそれ以上のアルキル基を例示できる。前記不飽和脂肪族基としては、オレイル、ノネニルおよびオクチニルを例示できる。対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンおよびアンモニウムイオンを例示でき、前記ナトリウムイオンがこれらの中で典型的に用いられる。
【0081】
前記カチオン性乳化剤としては、第4級アンモニウム塩型界面活性剤、例えばアルキルトリメチルアンモニウム塩、例えば塩化オクタデシルトリメチルアンモニウムおよび塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、およびジアルキルジメチルアンモニウム塩、例えば塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化ジヘキサデシルジメチルアンモニウムおよび塩化ジデシルジメチルアンモニウムを例示できる。
【0082】
前記両性界面活性剤としては、アルキルベタイン類およびアルキルイミダゾリン類を例示できる。
【0083】
前記エマルジョンは、架橋剤、硬化触媒、消泡剤、防腐剤、pH調整剤および緩衝剤も含んでもよい。
【0084】
適切な市販で入手可能なエマルジョンの例には、Momentive社のCoatosil DRI、Dow社のDowsil 8005およびDowsil 8016、Wacker社のPowersil 577 Plusが挙げられる。
【0085】
前記エマルジョンは、前記組成物全体の総重量に対して、前記汚染放出コーティング組成物の好ましくは50~90wt%を形成する。典型的なwt%の範囲は、前記組成物全体の総重量に対して、55~85wt%、例えば60~80wt%であってもよい。
【0086】
<架橋および/または硬化剤>
前記本発明のポリシロキサン系バインダーは硬化性であり、硬化反応性官能基、例えばシラノール、アルコキシシラン、ケトオキシム、カルビノール、アミン、エポキシおよび/またはアルコキシ基を含む。
【0087】
好ましくは、前記ポリシロキサン系バインダーは、少なくとも2つの硬化反応性官能基を含む。任意に、前記ポリシロキサン系バインダーは、2種類以上の硬化反応性官能基を含む。好ましくは、前記ポリシロキサン系バインダーは、単一タイプの硬化反応性官能基を含む。前記適切な架橋剤および/または硬化剤は、前記ポリシロキサン系バインダー中に存在する前記硬化反応性官能基に応じて選択される。
【0088】
好ましいポリシロキサン系バインダーにおいて、前記硬化反応性官能基は、シラノールまたはアルコキシシランである。さらに好ましいポリシロキサン系バインダーにおいて、前記硬化反応性官能基はシラノールである。
【0089】
所望の架橋密度を得るために、架橋剤を添加することが必要な場合がある。前記架橋剤は、前記コーティング組成物に個別に添加してもよいし、または前記架橋剤は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンの一部であってもよい。好ましくは、前記架橋剤は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンの一部である。
【0090】
前記硬化反応性官能基がシラノールである場合、好ましい架橋剤は、以下に示す一般式で表される有機ケイ素化合物、その部分加水分解縮合物、または前記2つの混合物である。
【0091】
d-Si-K4-d
【0092】
式中、
各Rは、1~6の炭素原子の一価炭化水素基、ポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1-6アルキル、または構造(O-(CRD 2r'r1'-(O-(CRD 2s's1'-(Si(RPP2-O)t'-Si(RPP3のポリシロキサン(式中、r’、r1’、s’およびs1’は、0~10の整数であり、各RDは、HまたはC1-4アルキルから独立して選択され、各RPPは、C1-10アルキル、C6-10アリール、C7-10アルキルアリールから独立して選択され、t’は、1~50の整数である)から独立して選択され;
各Kは、加水分解可能な基、例えばアルコキシ基から独立して選択され;
dは、0、1または2、より好ましくは0または1である。
【0093】
このタイプの好ましい架橋剤には、テトラエトキシシラン、ビニルトリス(メチルエチルオキシム(oximo))シラン、メチルトリス(メチルエチルオキシム(oximo))シラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシランおよびビニルトリイソプロペノキシシランならびにこれらの加水分解縮合物を含む。
【0094】
前記硬化反応性官能基がジ-またはトリ-アルコキシである場合、一般に別の架橋剤は必要ではない。
【0095】
前記架橋剤は、好ましくは前記コーティング組成物の総乾燥重量に対して0~10wt%、好ましくは2.0~8.0wt%の量で存在する。適切な架橋剤は市販されており、例えばWacker社のSilicate TES-40 WNやEvonik社のDynasylan Aなどがある。
【0096】
前記硬化反応性官能基がカルビノールである場合、好ましい硬化剤は、モノマーイソシアネート、ポリマーイソシアネートおよびイソシアネートプレポリマーである。ポリイソシアネートは毒性が低いため、モノマーイソシアネートより好ましい。ポリイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)化学に基づくことができる。これらは、例えば、Covestro社のDesmodurやVencorex社のTolonateという商品名で供給されている。ポリイソシアネートの例としては、Covestro社からDesmodur N3300、Desmodur 3390 BA/SN、Desmodur N3400、Desmodur N3600、Desmodur N75、Desmodur XP2580、Desmodur Z4470、Desmodur XP2565、Desmodur VLが供給されている。
【0097】
ポリイソシアネートは、異なるNCO-官能性で製造することができる。前記NCO-官能性は、ポリイソシアネート分子またはイソシアネートプレポリマー分子あたりのNCO-基の量である。異なるNCO-官能性を有するポリイソシアネート硬化剤を用いることができる。
【0098】
前記硬化剤は、ヒドロキシル基の量に対して、好ましくは0.8~2.5当量(equiv)のNCO基、好ましくは0.9~2.0equiv、より好ましくは0.95~1.7equiv、さらにより好ましくは1~1.5equiv.の量で存在する。
【0099】
前記硬化反応性官能基がアミン、エポキシまたはイソシアネートである場合、前記硬化剤は、好ましくはアミン、硫黄またはエポキシ官能性である。
前記硬化剤は、例えば、アミン/硫黄/エポキシ/イソシアネートと、アルコキシシランの両方を含む、二重硬化剤であってもよい。好ましい二重硬化剤は、以下の一般式で表される。
【0100】
【化4】
【0101】
式中、
LLは、非置換または置換された1~6の炭素原子の一価炭化水素基から独立して選択され;
各Mは、加水分解可能な基、例えばアルコキシ基から独立して選択され;
aは、0、1または2であり、好ましくは0または1であり;
bは、1~6の整数であり;
Fnは、アミン、エポキシ、グリシジルエーテル、イソシアネートまたは硫黄基である。
【0102】
このような二重硬化剤の好ましい例には、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを含む。特に好ましい硬化剤の一つは、3-アミノプロピルトリエトキシ(ethyoxy)シラン、例えばEvonik社のDynasylan AMEOである。
【0103】
このタイプの二重硬化剤は、別々の硬化剤として用いることができるし、または、前記ポリシロキサン系バインダーの末端基が硬化反応の前に変性されるように、前記ポリシロキサン系バインダーのエンドキャップへ用いることもできる。
【0104】
<触媒成分>
硬化プロセスを補助するために、本発明のコーティング組成物は、触媒成分を含んでもよい。前記触媒は、有機触媒または無機触媒または有機金属触媒であってもよい。前記触媒成分は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンの一部であってもよく、または、前記コーティング組成物へ個別に添加してもよい。好ましくは、存在する場合、前記硬化触媒は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンの一部である。
【0105】
{金属触媒}
一の実施形態において、本発明のコーティング組成物は、金属触媒を含む。使用可能な触媒の代表例としては、Sn、Zn、Li、K、Bi、Fe、CeまたはZrを含有する触媒、例えば、それらの塩および有機金属錯体が含まれる。塩は、好ましくは、長鎖カルボン酸の塩および/またはキレートまたは有機金属塩である。
【0106】
前記金属触媒は、好ましくは、スズ(IV)、ビスマス(III)、鉄(II)、鉄(III)、亜鉛(II)、ジルコニウム(IV)、セリウム(III)、カリウムまたはリチウム化合物である。スズ(IV)、ビスマス(III)、亜鉛(II)およびリチウムが特に好ましい。
【0107】
アニオン性有機ラジカルの例としては、メトキシド、エトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシド、イソブトキシド、sec-ブトキシド、tert-ブトキシド、トリエタノールアミネートおよび2-エチルヘキシルオキシドラジカル;
酢酸エステル、ギ酸エステル、n-オクト酸エステル、2-エチルヘキサン酸エステル、2,4,4-トリメチルペンタン酸エステル、2,2,4-トリメチルペンタン酸エステル、6-メチルヘプタン酸エステル、オレイン酸エステル、リシノール酸エステル、パルミチン酸エステル、ヘキソ酸エステル、ヘキサデカン酸エステル、2-エチルヘキサノエート、安息香酸エステル、1,4-ジベンゾエート、ステアリン酸エステル、アクリル酸エステル、ラウリン酸エステル、メタクリル酸エステル、2-カルボキシエチルアクリレート、シュウ酸エステル、10-ウンデシレン酸エステル、ドデカン酸エステル、クエン酸エステル、3-オキソペンタン酸エステル、3-オキソブタン酸エステル、ネオデカン酸エステルラジカルなどのカルボン酸エステルラジカル;
ジメチルアミド、ジエチルアミド、エチルメチルアミドおよびジプロピルアミドラジカルなどのアミドラジカル;
乳酸ラジカル;
トリアルキルシロキシラジカル、より詳細にはトリメチルシロキシおよびトリエチルシロキシラジカル、ならびにカーボネートラジカル(O-CO-OR’)およびカルバメートラジカル(O-CO-NR’2)(式中、R’は、同一または異なっていてもよく、一価または二価であり、任意に置換された炭化水素ラジカルであり、さらに水素、トリメトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピル、ジメトキシメチルシリルプロピル、ジエトキシメチルシリルプロピル、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2-アミノエチル、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-2-アミノエチル、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-2-アミノエチルまたはN-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-2-アミノエチルラジカルであってもよい)が挙げられる。
【0108】
金属塩化合物の例は、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキシド、ビスマス(III)2-エチルヘキサノエート、ビスマス(III)ネオデカノエート、ビスマス(III)アセテート、ビスマス(III)オクタノエート、鉄(II)アセテート、鉄(III)tert-ブトキシド、鉄(III)クエン酸塩、鉄(II)乳酸塩、鉄(II)シュウ酸塩、鉄(III)シュウ酸塩、鉄(III)2-エチルヘキサノエート、亜鉛(II)アセテート、亜鉛(II)ギ酸塩、亜鉛(II)安息香酸塩、亜鉛(II)2-エチルヘキサノエート、セリウム(III)ネオデカノエート、亜鉛(II)n-オクタン酸塩、亜鉛(II)ステアリン酸塩、亜鉛(II)エトキシド、亜鉛(II)アクリレート、亜鉛(II)メタクリレート、亜鉛(II)ナフテン酸塩、亜鉛(II)シュウ酸塩、亜鉛(II)10-ウンデシレン酸塩、亜鉛(II)3-オキソペンタン酸塩、亜鉛(II)3-オキソブタン酸塩、ジルコニウム(IV)アセテート、ジルコニウム(IV)2-エチルヘキサノエート、ジルコニウム(IV)乳酸塩、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、ジルコニウム(IV)tert-ブトキシド、ジルコニウム(IV)イソプロポキシド、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)2-カルボキシエチルアクリレート、ジルコニウム(IV)テトラキス(ジエチルアミド)、ジルコニウム(IV)テトラキス(エチルメチルアミド)、ジルコニウム(IV)ビス(ジエチルシトレート)-ジ-n-プロポキシドである。
【0109】
金属キレート化合物の例としては、ビスマス(III)2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、ビスマス(III)アセチルアセトナート、鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、鉄(III)2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、鉄(II)2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、亜鉛(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート、亜鉛(II)1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオネート、亜鉛(II)1-フェニル-5-メチル-1,3-ヘキサンジオネート、亜鉛(II)1,3-シクロヘキサンジオネート、亜鉛(II)2-アセチルシクロヘキサノネート、亜鉛(II)2-アセチル-1,3-シクロヘキサンジオネート、亜鉛(II)エチルサリシレート、亜鉛(II)ジエチルマロネート、亜鉛(II)エチルアセトアセテート、亜鉛(II)ベンジルサリシレート、亜鉛(II)アセチルアセトナートならびに、亜鉛(II)2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、スズ(II)アセチルアセトナート、ジルコニウム(IV)アセチルアセトナート、ジルコニウム(IV)2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、ジルコニウム(IV)トリフルオロアセチルアセトナートおよびジルコニウム(IV)ヘキサフルオロアセチルアセトナートである。
【0110】
適切なスズ触媒の例は、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレートである。市販で入手可能なスズ触媒の例としては、BNT Chemicals社のBNT-CAT 400およびBNT-CAT 500、PMC Organometallix社のFASCAT 4202、DOW社のMetatin Katalysator 702を含む。
【0111】
適切なリチウム触媒の例は、リチウム2-エチルヘキサノエートおよびリチウムネオデカノエートである。市販で入手可能なリチウム触媒の例としては、Borchers社製のBorchers Deca Lithium 2を含む。
【0112】
適切なカリウム触媒の例は、カリウム2-エチルヘキサノエートおよびカリウムネオデカノエートである。市販で入手可能なカリウム触媒の例としては、Borchers社製の15%カリウムHex-Cem(登録商標)EUおよびTIB Chemicals社製のTIB KAT K30を含む。
【0113】
適切な亜鉛触媒の例は、亜鉛2-エチルヘキサノエート、亜鉛ナフテン酸塩および亜鉛ステアリン酸塩である。市販で入手可能な亜鉛触媒の例としては、King Industries社製のK-KAT XK-672およびK-KAT670、ならびにBorchers社製のBorchi Kat 22を含む。
【0114】
適切なビスマス触媒の例は、有機ビスマス化合物、例えばビスマス2-エチルヘキサノエート、ビスマスオクタノエートおよびビスマスネオデカノエートである。市販で入手可能な有機ビスマス触媒は、Borchers社のBorchi Kat 24およびBorchi Kat 315、King Industries社のK-KAT XK-651、Reaxis社のReaxis C739E50、TIB Chemicals社のTIB KAT 716である。
【0115】
適切なセリウム触媒の例は、セリウム(III)ネオデカノエートである。
【0116】
他の適切な触媒は、鉄触媒(例えば、ステアリン酸鉄および鉄2-エチルヘキサノエート)およびジルコニウム触媒(例えば、ナフテン酸ジルコニウム、テトラブチルジルコネート、テトラキス(2-エチルヘキシル)ジルコネート、トリエタノールアミンジルコネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)-ジルコネート、テトラブタノール酸ジルコニウム、テトラプロパノール酸ジルコニウムおよびテトライソプロパノール酸ジルコニウム)である。更に適切な触媒は、ジルコネートエステルである。
【0117】
好ましい一つの実施形態において、前記金属触媒は、スズ、亜鉛および/またはセリウム触媒である。
【0118】
好ましい一つの実施形態において、前記触媒は、スズを含まない。
【0119】
好ましくは前記金属触媒は、本発明のコーティング組成物中で、前記コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、0.05~5.0wt%、より好ましくは0.1~2.0wt%の量で存在する。
【0120】
{有機触媒}
前記触媒は、また、有機物、例えば、低分子量アミジンまたは低分子量アミン化合物(例えばアミノシラン)であってもよい。用語低分子量は、その分子量が1000g/mol未満、例えば50~500g/mol、好ましくは100~400g/molであることを意味する。
【0121】
適切なアミジンは、モチーフ:
【0122】
【化5】
【0123】
を含む化合物である。
好ましくはアミジンは以下の一般式で表される。
【0124】
【化6】
【0125】
式中、
1、R2、R4は、それぞれ独立して、水素、一価の有機基、一価の複素有機基、およびそれらの組合せから選択され;
3は、一価の有機基、一価の複素有機基、およびそれらの組合せであり;
ならびに/または
1、R2、R3、R4の任意の2つ以上が、一緒に結合して環構造を形成してもよい。
【0126】
1、R2およびR4は、好ましくは水素またはC1-6アルキルまたはフェニル基である。
【0127】
3は、C1-6アルキルまたはフェニル基である。
【0128】
さらに好ましくは、R2+R4が一緒になって環を形成し、および/またはR1+R3が一緒になって環を形成する。このような環は、好ましくは脂肪族5~7員環である。
【0129】
好ましい選択肢としては、環式アミジン、好ましくは二環式アミジン、例えば1,8-ジアザビシクロ-5.4.0-7-ウンデセン(DBU))を含む。DBUの化学構造を以下に示す。
【0130】
【化7】
【0131】
前記触媒は、低分子量有機アミン化合物、例えばトリエチルアミン、環式アミン、テトラメチルエチレンジアミン、1,4-エチレンピペラジンおよびペンタメチルジエチレントリアミンであってもよい。
【0132】
しかし、好ましいアミンは、アミノシラン、例えばアミノアルキルトリアルコキシシラン(例えば3-アミノプロピルトリエトキシシランまたは3-アミノプロピルトリメトキシシラン)またはビス(アルキルトリアルコキシシリル)アミン(好ましくはビス(3-プロピルトリメトキシシリル)アミンまたはビス(3-プロピルトリエトキシシリル)アミンを含む)である。別の選択肢は、N,N-ジブチルアミノメチル-トリエトキシシランである。
【0133】
適切なアミノシランは、一般式(IV)または(V)で表される。
【0134】
(IV) Y-R(4-z)SiXz
【0135】
式中、
zは、1~3の整数である。
【0136】
(V) Y-R(3-y)1SiXy
【0137】
式中、yは、1~2の整数であり、
各Rは、任意にエーテルまたはアミノリンカーを含む、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり、
1は、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり;
各Xは、独立して、アルコキシ基を表す。
Yは、Rに結合したアミノである。
前記Y基は、鎖Rのどの部分にも結合してもよい。
【0138】
前記アミノ基は、好ましくはN-ジ-C1-6-アルキルまたはNH2である。
【0139】
XがC1-6アルコキシ基、特にメトキシまたはエトキシ基である場合、特に好ましい。2または3のアルコキシ基が存在する場合も、特に好ましい。従って、zは、理想的には2または3、特に3である。
【0140】
下付きyは、好ましくは2である。
【0141】
1は、好ましくはC1-4アルキル、例えばメチルである。
Rは、12以下の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。ヒドロカルビルとは、C原子とH原子のみを含む基を意味する。アルキレン鎖、またはアルキレン鎖と環、例えばフェニルまたはシクロヘキシル環の組合せを含んでもよい。用語「任意にエーテルまたはアミノリンカーを含む」は、炭素鎖が、鎖中、-O-または-NH-基により中断されることを意味する。
【0142】
Rは、好ましくは2~8のC原子を有する非置換(明らかにYを除く)、非分岐状アルキル鎖である。
【0143】
従って好ましいシラン一般式は、構造(VI)である。
【0144】

(VI) Y’-R’(4-z')SiX’z
【0145】
式中、
z’は、2~3の整数であり、
R’は、任意にエーテルまたはアミノリンカーを含み、2~8のC原子を有する非置換の非分岐状アルキル鎖であり、
Y’は、前記R’基に結合したアミノ官能基であり、
X’は、アルコキシ基を表す。
【0146】
そのようなシランの例は、ラインフェルデンのDegussa社によって製造され、Dynasylan(R)Dの商品名で販売されている多くの代表的な製品、Momentive社によって製造されているSilquest(R)シラン、およびWacker社によって製造されているGENOSIL(R)シランである。
【0147】
好ましいアミノシランには、アミノプロピルトリメトキシシラン(Dynasylan AMMO;Silquest A-l 110)、アミノプロピルトリエトキシシラン(Dynasylan AMEO)またはN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Dynasylan DAMO,Silquest A-l 120)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアミノ-官能性トリメトキシシラン(Silquest A-1130)、ビス(ガンマ-トリメトキシシリルプロピル)アミン(Silquest A-l 170)、N-エチル-ガンマ-アミノイソビチル(bytyl)トリメトキシシラン(Silquest A-Link 15)、N-フェニル-ガンマ-アミノプロピルトリメトキシシラン(Silquest Y-9669)、4-アミノ-3,3-ジメチルブチルトリメトキシシラン(Silquest Y-l 1637)、(N-シクロヘキシルアミノメチル)トリエトキシシラン(Genosil XL 926)、(N-フェニルアミノメチル)トリメトキシシラン(Genosil XL 973)、およびこれらの混合物を含む。
【0148】
興味ある他の特定のシランには、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH33、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン(H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH32)を含む。
【0149】
前記バインダーがシリコーン反応性基、例えばSi-OH基、Si-OR(アルコキシ)基等を含む場合、シラン基は前記ポリシロキサン系バインダーと反応しうるため、前記アミノシランは、触媒および架橋剤の両方として作用しうることを理解すべきである。
【0150】
前記コーティング組成物中に存在する有機触媒の量は、前記コーティング組成物(乾燥重量)の0.05~5.0wt%、好ましくは0.1~4.0wt.%、例えば0.1~2.0wt.%、より好ましくは0.1~1.0wt.%であってもよい。
【0151】
<添加油>
本発明の前記コーティング組成物は、添加油を含んでもよい。これらの添加油は、硬化反応性基を含まず、ゆえに、前記添加油は、硬化反応において非反応性であることが意図される。前記バインダーシステムの硬化メカニズムに応じて、添加油上の官能基は選択されるべきである。その結果、これらは前記ポリシロキサン系バインダーの硬化反応において反応しない。前記添加油は、前記コーティングフィルム中で自由であることが意図される。その結果、これらは前記コーティングフィルムの表面へ移行し、前記コーティングフィルムの防汚性を向上させることができる。
【0152】
適切な添加油の例には、親水性変性ポリシロキサン油および疎水性変性ポリシロキサン油がある。石油オイル、ポリオレフィンオイル、ポリ芳香族オイル、ポリテトラ-フルオロエチレンまたは液状フッ素化アルキル-もしくはアルコキシ-含有ポリマーのようなフルオロ樹脂、またはWO2013024106A1中で開示されたラノリンおよびラノリン誘導体ならびに他のステロール類および/またはステロール誘導体類、またはWO2016004961A1中で開示されたポリ(オキシアルキレン)変性アルコール(例えば、ポリ(オキシアルキレン)変性ステロール)またはそれらの組合せのような他の添加油も用いてもよい。
【0153】
本発明の前記コーティング組成物中に任意に存在する更なる添加油は、WO2014131695に記載されているように、フッ素化両親媒性ポリマー/オリゴマーである。
【0154】
適切な添加油は、WO2019101912A1およびWO2019101920A1に記載されているように、ポリシロキサン側鎖およびポリエーテルまたは窒素含有親水性基を有するメタクリレート共重合体をベースとしてもよい。
【0155】
好ましくは、前記添加油は、親水性変性ポリシロキサン油および/または疎水性変性ポリシロキサン油である。前記親水性変性ポリシロキサン油および前記疎水性変性ポリシロキサン油は、組み合わせて用いることができる。適切な親水性変性ポリシロキサン油および前記疎水性変性ポリシロキサン油は、以下により詳細に説明する。
【0156】
<親水性変性ポリシロキサン油>
本発明のコーティング組成物は、親水性変性ポリシロキサンを更に含んでもよい。この成分は、上記した前記ポリシロキサン系バインダーとは異なると理解されよう。
【0157】
前記親水性変性ポリシロキサンは、適切な硬化温度(0~40℃)で前記バインダーと反応しうる硬化反応性基、例えばSi-OH基、Si-OR(アルコキシ)基等を含まず、ゆえに、前記親水性変性ポリシロキサンは、前記硬化反応において非反応性、特に前記バインダー成分と非反応性であることを意図していることが、理解されるべきである。一般に、この成分は、バインダーシステムの一部であるとみなされない。親水性変性ポリシロキサン上の官能基は、硬化反応において反応しないよう、硬化メカニズムに応じて選択されるべきである。
【0158】
好ましくは前記親水性変性ポリシロキサンは、適切な硬化温度(0~40℃)で前記バインダーと反応し得るシリコーン反応性基、例えばSi-OH基、Si-OR(アルコキシ)基等を含まない。
【0159】
親水性変性ポリシロキサンは、同じ分子内に親水性基および親油性基の両方を含有するため、界面活性剤および乳化剤として広く用いられている。本発明による親水性変性ポリシロキサンは、同じ数のポリシロキサン単位を有する対応する非置換ポリシロキサンと比較して、より親水性になる親水性基で変性されたポリシロキサンである。当業者であれば、「親水性」により、我々が水への親和性を有する物質または基を意図することを理解するであろう。親水性は、親水性基、例えばエーテル類(例えば、ポリオキシアルキレン基、例えばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール)、アルコール類(例えば、ポリ(グリセロール))、アミド類(例えば、ピロリドン、ポリビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド))、酸類(例えば、カルボン酸、ポリ(メタ)アクリル酸)、アミン(例えば、ポリビニルアミン、アミン基を含有する(メタ)アクリルポリマー)で変性することにより得ることができる。典型的には、前記親水性変性ポリシロキサンは、油である。
【0160】
好ましい一つの実施形態において、前記親水性基は、非イオン性である。
本明細書において「非イオン性」とは、前記親水性変性ポリシロキサンが塩部分を含まないこと;特に、典型的には金属カチオンを含まないことを意味する。
【0161】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンの親水性は、HLB(親水性-親油性バランス)パラメーターに従って決定することができる。本発明の前記親水性変性ポリシロキサンが非イオン性である場合、HLB(親水性-親油性バランス)は、1~12、好ましくは1.0~10、より好ましくは1.0~8.0、最も好ましくは2.0~7.0の範囲である。特定の実施形態において、前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンのHLBは、3.0~6.0の範囲である。
【0162】
本明細書においてHLBは、式「wt%親水性基」/5を用いるGriffinのモデルに従って、典型的には決定される(参考: Griffin, W. C. Calculation of HLB values of non-ionic surfactants, J. Soc. Cosmet. Chem.1954,5,249-256)。HLBパラメーターは、非イオン性界面活性剤についてよく確立されたパラメーターであり、市販で入手可能な親水性変性ポリシロキサンの供給業者から容易に入手可能である。界面活性剤のHLB値が高いほど、その親水性は高い。wt%親水性基とは、親水性変性ポリシロキサンにおける親水性基のwt%を意味する。
【0163】
前記親水性変性ポリシロキサンの一つの機能は、殺生物剤の溶解および前記コーティングフィルムの表面への輸送を促進することである。加えて、コーティング-水相間における水和層の形成が、汚染保護性能にとって重要であることもよく知られている。
【0164】
例えば、分子内の親水性基の量が高いため、前記親水性変性ポリシロキサンの親水性が高すぎる場合、このことにより、殺生物剤(類)および前記親水性変性ポリシロキサンが、あまりに速い浸出速度のため、早期に枯渇しうる。高い親水性により、また、前記ポリシロキサン系バインダーマトリックスとの親和性が乏しくなる。特に多い油量(10wt.%より多い)を用いた際、フィルム均一性が低下し、付着性が低下する。
【0165】
前記殺生物剤および前記親水性変性ポリシロキサンの浸出速度をコントロールする方法としては、前記親水性変性ポリシロキサンの分子量、親水性、およびバインダーとの混和性を含む。非常に低分子量の親水性変性ポリシロキサンは、浸出速度が速くなる傾向があり、一方、分子量があまりに高いと、前記殺生物剤および前記親水性変性ポリシロキサンの浸出が所望の速度にならないことがある。
【0166】
ゆえに、好ましい実施形態において、前記親水性変性ポリシロキサンの数平均分子量(Mn)は、500~18,000g/molの範囲、例えば1000~16,000g/molの範囲、特に2000~15,050g/molまたは4000~15,050g/molの範囲である。前記親水性変性ポリシロキサンのさらに適切なMnの範囲は、500~15,000g/mol、1,000~13,000g/molまたは3,000~10,000g/molを含む。本明細書中で言及する数平均分子量(Mn)値は、例えばポリスチレン標準に対して測定したGPCによって、実験的に得られた値に対応する。その方法は、以下の実験の部において記載する。
【0167】
好ましい実施形態において、前記親水性変性ポリシロキサンの重量平均分子量(Mw)は、1,000~50,000g/mol、好ましくは2,000~45,000g/mol、3,000~42,000g/mol、4,000~40,000g/mol、または5,000~40,000g/molの範囲である。更に適切な範囲には、5,000~30,000g/mol、例えば5,000~25,000g/molまたは10,000~20,000g/molを含む。本明細書中で言及する重量平均分子量(Mw)値は、例えばポリスチレン標準に対して測定したGPCによって、実験的に得られた値に対応する。
【0168】
前記親水性変性ポリシロキサンの粘度が、20~4,000mPa・sの範囲、例えば30~3,000mPa・sの範囲、特に50~2,500mPa・sの範囲であるのが、また好ましい。
【0169】
特に興味深いのが、前記親水性部分の相対重量が前記親水性変性ポリシロキサンの全重量の5%またはそれ以上(例えば、5~60%)、例えば6%またはそれ以上(例えば6~50%)、特に10%またはそれ以上(例えば10~40%)である、親水性変性ポリシロキサンである。
【0170】
前記親水性部分のwt.%は、前記親水性変性ポリシロキサン合成における出発材料の化学量論的比に基づいて計算することができる。または、IRもしくはNMRのような分析技術を用いて決定することができる。
【0171】
過剰モルの反応剤が存在する場合、そのような過剰モルは、親水性部分のwt.%を決定する際にカウントされない。反応の化学量論に基づいて反応しうるモノマーのみがカウントされる。
【0172】
前記親水性変性ポリシロキサンは、低量の不純物、例えばポリシロキサン合成からの残留物であるD4、D5およびD6シクロシロキサンなどの環状シロキサンを含有していてもよく、ここで名称(D4、D5およびD6)は、環式ポリシロキサン中の繰り返しSi-O単位の数(すなわち、それぞれ環式ポリシロキサン中の4、5または6繰り返しSi-O単位)を意味する。健康、安全、および環境の側面から、前記コーティング組成物中に存在する環式ポリシロキサンの量を制限することが好ましい。好ましい一つの実施形態において、前記親水性変性ポリシロキサンは、環式ポリシロキサンを5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満含有する。特に好ましい一実施形態では、前記親水性変性ポリシロキサンは環式ポリシロキサンを含まない。
【0173】
好ましい一つの実施形態において、前記親水性変性ポリシロキサンは、ポリエーテル変性ポリシロキサンである。
【0174】
好ましくは、前記ポリエーテル基には、少なくとも3つの繰り返し単位、例えば少なくとも5つの繰り返し単位を含む。多くの興味ある実施形態において、オリゴマーまたはポリマーは、5~100の繰り返し単位、例えば5~50、または8~50、または8~20の繰り返し単位を含む。
【0175】
幾つかの好ましい実施形態において、前記ポリエーテル基(すなわち、オリゴマーまたはポリマー基)の数平均分子量(n)は、100~2500g/molの範囲、例えば200~2000g/molの範囲、特に300~2000g/molの範囲または400~1000g/molの範囲である。
【0176】
特に興味深いのは、前記ポリエーテル部分の相対重量が、前記ポリエーテル-変性ポリシロキサンの全重量の5%またはそれ以上(例えば、5~60%)、例えば6%またはそれ以上(例えば、6~50%)、特に10%またはそれ以上(例えば、10~40%)である、ポリエーテル-変性ポリシロキサンである。
【0177】
1つの変形において、前記ポリエーテル-変性ポリシロキサンは、そこにグラフトしたポリ(オキシアルキレン)鎖を有するポリシロキサンである。このようなポリエーテル-変性ポリシロキサンの構造の例示は、式(VII)である。
【0178】
【化8】
【0179】
式中、
各R7は、C1-5-アルキル(直鎖状または分岐状の炭化水素基を含む)およびアリール(例えば、フェニル(-C65))、特にメチルから独立して選択され;
各R8は、-H、C1-4-アルキル(例えば、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH32、-CH2CH2CH2CH3)、フェニル(-C65)、およびC1-4-アルキルカルボニル(例えば、-C(=O)CH3、-C(=O)CH2CH3および-C(=O)CH2CH2CH3)、特に-H、メチルおよび-C(=O)CH3から独立して選択され;
各R9は、C2-5-アルキレン(例えば、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH2CH3)-)、アリーレン(例えば、1,4-フェニレン)およびアリールで置換されたC2-5-アルキレン(例えば、1-フェニルエチレン)から独立して選択され、特にC2-5-アルキレン、例えば-CH2CH2-および-CH2CH(CH3)-)から独立して選択され;
kは0~240であり、lは1~60であり、k+lは1~240であり;かつ
nは0~50であり、mは、0~50であり、m+nは、1~50である。
【0180】
特にR7はメチルであり;
各R8は、-HまたはC1-4-アルキルまたは-C(=O)CH3から独立して選択され;
各R9は、-CH2CH2-または-CH2CH2CH2-または-CH2CH(CH3)-)であり;
kは0~240であり、lは1~60であり、k+lは1~240であり;かつ
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0181】
全てのR7基が同一であることが好ましい。
【0182】
市販で入手可能なこの種類のポリエーテル-変性ポリシロキサンの例は、信越化学工業からのKF352A、KF353、KF945、KF6012、KF6017、DOWからのXIAMETER OFX-5220、DOWSIL OFX-5247、XIAMETER OFX-5329、XIAMETER OFX-5330である。
【0183】
別の態様では、前記ポリエーテル-変性ポリシロキサンは、その骨格にポリ(オキシアルキレン)鎖が組み込まれたポリシロキサンである。
【0184】
そのような親水性変性ポリシロキサンの構造の例示は、式(VIII)である。
【0185】
【化9】
【0186】
式中、
各R7は、C1-5-アルキル(直鎖状または分岐状の炭化水素基を含む)およびアリール(例えば、フェニル(-C65))から独立して選択され、特にメチルであり;
各R8は、-H、C1-4-アルキル(例えば、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH-CH(CH32、-CH2CH2CH2CH3)、フェニル(-C65)、およびC1-4-アルキルカルボニル(例えば、-C(=O)CH3、C(=O)CH2CH3および-C(=O)CH2CH2CH3)、特に-H、メチルおよび-C(=O)CH3から独立して選択され;
各R9は、C2-5-アルキレン(例えば、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH2CH3)-)、アリーレン(例えば、1,4-フェニレン)およびアリールで置換されたC2-5-アルキレン(例えば、1-フェニルエチレン)から独立して選択され、特にC2-5-アルキレン、例えば-CH2CH2-および-CH2CH(CH3)-)から独立して選択され;
kは、0~240であり;
かつnは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0187】
特に、R7はメチルであり;
各R8は、-HまたはC1-4-アルキルまたは-C(=O)CH3から独立して選択され;
各R9は、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-または-CH2CH2CH2-であり;
kは、0~240であり;
かつnは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0188】
全てのR7基が同一であるのが好ましい。
市販で入手可能なこの種類の親水性変性ポリシロキサンの例は、DOWのDOWSIL 2-8692およびXIAMETER OFX-3667である。
【0189】
さらに別の態様において、前記ポリエーテル-変性ポリシロキサンは、その骨格にポリオキシアルキレンが組み込まれ、そこにポリオキシアルキレン鎖がグラフトしたポリシロキサンである。そのような親水性変性ポリシロキサンの構造の例示は、式(IX)である。
【0190】
【化10】
【0191】
式中、
各R7は、C1-5-アルキル(直鎖状または分岐状の炭化水素基を含む)およびアリール(例えば、フェニル(-C65))から独立して選択され、特にメチルであり;
各R8は、-H、C1-4-アルキル(例えば、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH32、-CH2CH2CH2CH3)、フェニル(-C65)、およびC1-4-アルキルカルボニル(例えば、-C(=O)CH3、-C(=O)CH2CH3および-C(=O)CH2CH2CH3)から独立して選択され、特に-H、メチルおよび-C(=O)CH3から独立して選択され;
各R9は、C2-5-アルキレン(例えば、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH2CH3)-)、アリーレン(例えば、1,4-フェニレン)およびアリールで置換されたC2-5-アルキレン(例えば、1-フェニルエチレン)から独立して選択され、特にC2-5-アルキレン、例えば-CH2CH2-および-CH2CH(CH3)-)から独立して選択され、;
kは0~240であり、lは1~60であり、k+lは1~240であり;
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0192】
特に、R7はメチルであり;
各R8は、-HまたはC1-4-アルキルまたは-C(=O)CH3であり;
各R9は、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、または-CH2CH(CH3)-であり;
kは0~240であり、yは1~60であり、x+yは1~240であり;
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0193】
上記構造(VII)、(VIII)および(IX)において、基-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH2CH3)-等は、2つの可能な配向のいずれに存在してもよい。同様に、k回およびl回存在するセグメントは、典型的には、ポリシロキサン構造中にランダムに分布していると理解されるべきである。
【0194】
これらの実施形態および態様において、前記ポリエーテルまたはポリ(オキシアルキレン)は、好ましくはポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンおよびポリ(オキシエチレン-co-オキシプロピレン)から選択され、これらは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)と呼ばれることもある。故に、上記構造(VII)、(VIII)および(IX)において、2つの酸素原子と結合する各R9は、好ましくは-CH2CH2-および-CH2CH(CH3)-から選択され、一方、ケイ素原子および酸素原子と結合する各R9は、好ましくはC2-5-アルキルから選択される。
【0195】
上記構造(VII)、(VIII)および(IX)の幾つかの実施形態において、R8は好ましくは水素ではない。
【0196】
1またはそれ以上のポリエーテル変性ポリシロキサンは、異なるタイプ、例えば、2またはそれ以上の上記タイプであってもよいと理解されるべきである。
【0197】
別の好ましい実施形態において、前記親水性変性ポリシロキサンは、ポリグリセロール基またはピロリドン基を含む。
【0198】
存在する場合、前記親水性変性ポリシロキサンは、前記組成物の総乾燥重量に対して、好ましくは1.0~30wt%、より好ましくは2.0~20wt%、最も好ましくは4~15wt%の量で存在する。
【0199】
存在する場合、前記親水性変性ポリシロキサンは、前記コーティング組成物の総重量に対して、好ましくは0.5~25wt.%、より好ましくは1.0~20wt.%、最も好ましくは3~15wt.%の量で存在する。
【0200】
1種より多い親水性変性ポリシロキサンの混合物が存在することは、本発明の範囲内であるが、単一の親水性変性ポリシロキサンのみが存在することが好ましい。2またはそれ以上の異なる種類の親水性変性ポリシロキサンが存在する場合、上記で引用したこれらのwt%範囲は親水性変性ポリシロキサン成分の総和を意味する。
【0201】
<疎水性変性ポリシロキサン油>
本発明のコーティング組成物は、疎水性変性ポリシロキサン油を任意に、更に含む。前記疎水性変性ポリシロキサンは、適切な硬化温度(0~40℃)で前記バインダーと反応しうる硬化反応性基、例えばSi-OH基、Si-OR(アルコキシ)基等を含まない、ゆえに、前記疎水性変性ポリシロキサンは、硬化反応において非反応性、特に前記バインダー成分に関して非反応性であることを意図していると理解されるべきである。一般に、この成分は前記バインダーシステムの一部と考えられない。前記疎水性変性ポリシロキサン上の官能基は、前記硬化メカニズムに応じて、硬化反応中で反応しないように、選択されるべきである。
【0202】
好ましくは、前記疎水性変性ポリシロキサンは、適切な硬化温度(0~40℃)で前記バインダーと反応しうるシリコーン反応性基、例えばSi-OH基、Si-OR(アルコキシ)基等を含まない。
【0203】
本発明による疎水性変性ポリシロキサンは、同じ数のポリシロキサン単位を有する対応する非置換ポリシロキサンに比べて疎水性を高めるために疎水性基で変性されたポリシロキサンである。当業者は、「疎水性」とは、我々が、水をはじく、すなわち水に対して親和性を持たない物質または基を意図することを理解するであろう。疎水性は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などの疎水性基で修飾することにより得ることができる。通常、疎水性変性ポリシロキサンは油である。
【0204】
好ましい疎水性変性ポリシロキサンは、メチルフェニル官能性ポリシロキサンおよびメチルアリール官能性ポリシロキサンである。
【0205】
存在する場合、前記疎水性変性ポリシロキサンは、前記組成物の総乾燥重量に対して、好ましくは2.5~30wt%、より好ましくは5~25wt%の量で存在する。
【0206】
存在する場合、前記疎水性変性ポリシロキサンは、前記組成物全体の総重量に対して、好ましくは1.0~30wt.%、より好ましくは4~20wt.%の量で存在する。
【0207】
1種より多い疎水性変性ポリシロキサンの混合物が存在することは本発明の範囲内であるが、単一の疎水性変性ポリシロキサンのみが存在することが好ましい。2またはそれ以上の異なる種類の疎水性変性ポリシロキサンが存在する場合、上記で引用したこれらのwt%範囲は、疎水性変性ポリシロキサン成分の総和を意味する。
【0208】
一つの実施形態において、前記汚染放出コーティング組成物は、親水性変性ポリシロキサンおよび疎水性変性ポリシロキサンの混合物を含む。この実施形態において、前記親水性変性ポリシロキサンおよび疎水性変性ポリシロキサンの各々は、前記組成物の総乾燥重量に対して、2.5~20wt%、例えば5~15wt%の量でそれぞれ存在してもよい。
【0209】
<防汚剤/殺生物剤>
本発明の前記汚染放出コーティング組成物は、防汚剤/殺生物剤を含んでもよい。
【0210】
防汚剤、生物学的に活性な化合物、防汚剤、殺生物剤、毒性剤という用語は、表面上の海洋汚染を防止するように作用する既知の化合物を表すために当業界で使用されている。したがって、ここではこれらの用語を互換的に使用することができる。存在する場合、前記防汚剤は無機、有機金属または有機であってもよい。好ましくは、存在する場合、前記防汚剤は有機金属防汚剤である。適切な防汚剤は市販されている。
【0211】
無機防汚剤の例としては、銅および銅化合物、例えば銅酸化物、例えば、酸化第一銅および酸化第二銅;銅合金、例えば、銅-ニッケル合金;銅塩、例えば、チオシアン酸銅および硫化銅を含む。
【0212】
有機金属防汚剤の例には、亜鉛ピリチオン;有機銅化合物、例えば銅ピリチオン、銅アセテート、銅ジ(エチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート)、銅ナフテネート、オキシン銅、銅ノニルフェノールスルホネート、銅ビス(エチレンジアミン)ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)および銅ビス(ペンタクロロフェノレート);ジチオカルバメート化合物、例えば亜鉛ビス(ジメチルジチオカルバメート)[ziram]、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[zineb]、マンガンエチレンビス(ジチオカルバメート)[maneb]および亜鉛塩とで錯体になったマンガンエチレンビス(ジチオカルバメート)[mancozeb]を含む。
【0213】
有機防汚剤の例としては、複素環式化合物、例えば2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、カプセル化4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-(チオシアナトメチルチオ)-1,3-ベンゾチアゾール[ベンチアゾール]および2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン;尿素誘導体、例えば3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素[ジウロン];カルボン酸、スルホン酸およびスルフェン酸のアミドおよびイミド、例えばN-(ジクロロフルオロメチルチオ)フタルイミド、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]およびN-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド;他の有機化合物、例えばピリジントリフェニルボラン[TPBP]、アミントリフェニルボラン、3-ヨード-2-プロピニル N-ブチルカルバメート[ヨードカルブ]、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、p-((ジヨードメチル)スルホニル)トルエンおよび4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]および第4級アンモニウム塩を含む。
【0214】
防汚剤の他の例には、テトラアルキルホスホニウムハロゲン化物、グアニジン誘導体、イミダゾール含有化合物、例えば4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]およびその誘導体、アベルメクチンおよびその誘導体、例えばイベルメクチン、スピノシン類およびその誘導体、例えばスピノサドを含む大環式ラクトン類、カプサイシン類およびその誘導体、例えばフェニルカプサイシン、および、酵素、例えば、オキシダーゼ、タンパク質分解酵素、ヘミセルロース分解酵素、セルロース分解酵素、脂質分解酵素、アミロ分解酵素を含む。
【0215】
好ましい防汚剤は、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[zineb]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]およびカプセル化4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]である。特に好ましい防汚剤は、亜鉛ピリチオンおよび銅ピリチオン、特に銅ピリチオンである。
【0216】
存在する場合、前記殺生物剤は、前記コーティング組成物の総重量に対して0.5~20重量%、好ましくは0.75~10%、例えば1~5重量%を形成してもよい。
【0217】
存在する場合、前記殺生物剤は、前記コーティング組成物の総乾燥重量に対して、0.5~20重量%,、好ましくは1.0~15重量%、より好ましくは2.0~12重量%を形成してもよい。
【0218】
<顔料および充填材>
本発明のコーティング組成物は、少なくとも一つの充填材または顔料を含む。前記顔料(類)は、無機顔料、有機顔料またはそれらの混合物であってもよい。無機顔料が好ましい。前記顔料は、表面処理されてもよい。
【0219】
顔料の代表例には、黒酸化鉄、赤酸化鉄、黄酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、赤モリブデン酸塩、黄モリブデン酸塩、硫化亜鉛、酸化アンチモン、ナトリウムアルミニウムスルホケイ酸塩、キナクリドン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、インダンスロンブルー、酸化コバルトアルミニウム、カルバゾレジオキサジン、イソインドリンオレンジ、ビス-アセトアセト-トリジオール、ベンズイミダゾロン、キナフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、テトラクロロイソインドリノン、および、キノフタロンイエロー、金属フレーク材料(例えば、アルミニウムフレーク)を含む。好ましい顔料は黒酸化鉄、赤酸化鉄、黄酸化鉄、フタロシアニンブルーおよび二酸化チタンである。好ましい一つの実施形態において、二酸化チタンは、シリコーン化合物、ジルコニウム化合物または亜鉛化合物で表面トレッド加工されている。
【0220】
本発明の前記コーティング組成物において用いることが可能な充填材の例は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ドロマイト(Microdol)、雲母、ヒュームドシリカ、ベントナイトおよび他の粘土を含むシリカまたはケイ酸塩(例えば、タルク、長石、チャイナクレーおよびネフェリンシナイト)、ならびに一般に縮合分岐状ポリシロキサンである固体シリコーン樹脂である。ヒュームドシリカのような充填剤は、前記コーティング組成物に対して増粘効果を有する場合がある。
【0221】
好ましい充填材の一例はヒュームドシリカ充填材である。前記ヒュームドシリカ充填材は、未処理表面または疎水性に変性された表面を有していてもよい。好ましくは、前記ヒュームドシリカ充填材は、疎水性に変性された表面を有する。市販で入手可能なヒュームドシリカ充填材の例は、Cabot社のTS-610、TS-530、EH-5、H-5およびM-5ならびに、Evonik社のAerosil(登録商標)R972、Aerosil(登録商標)R974、Aerosil(登録商標)R976、Aerosil(登録商標)R104、Aerosil(登録商標)R202、Aerosil(登録商標)R208、Aerosil(登録商標)R805、Aerosil(登録商標)R812、Aerosil(登録商標)816、Aerosil(登録商標)R7200、Aerosil(登録商標)R8200、Aerosil(登録商標)R9200、Aerosil(登録商標)R711である。
【0222】
少なくとも一つの充填材または顔料の量は、前記コーティング組成物の総重量に対して、好ましくは0.05~25wt%、より好ましくは0.1~15wt%、およびさらに好ましくは0.5~10wt%の範囲である。
【0223】
少なくとも一つの充填材または顔料の量は、前記コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、好ましくは0.1~30wt.%、より好ましくは0.5~20wt.%、およびさらに好ましくは1.0~15wt.%の範囲である。
【0224】
<添加剤>
本発明のコーティング組成物は、任意に1以上の添加剤を含む。本発明のコーティング組成物に存在してもよい添加剤の例には、補強剤、レオロジー調整剤(例えばチキソトロピー剤、増粘剤および沈降防止剤)、分散剤、湿潤剤、合体剤、エクステンダー、界面活性剤、バインダー、可塑剤、および染料を含む。
【0225】
レオロジー調整剤としては、水系製剤に適したチキソトロピー剤、例えばセルロース系増粘剤、キサンタンガム、グアーガム、有機変性クレイ(例えばベントナイト、ヘクトライト、およびアタパルジャイトクレー)、ヒマシ油およびヒマシ油誘導体をベースとする有機ワックスチキソトロピー剤、ポリアミドワックス、ウレタン系レオロジー調整剤およびヒュームドシリカを用いることができる。
【0226】
好ましくはチキソトロピー剤、増粘剤および沈降防止剤は、本発明の前記組成物中にそれぞれ、前記組成物の総乾燥重量に対して、0~10wt%、より好ましくは0.1~6wt%、さらに好ましくは0.1~2.0wt%の量で存在する。
【0227】
凝集剤も任意に含んでもよい。水性塗料組成物中、塗布されたウェット製品は不均一であるが、溶剤系組成物は塗布時に均一である。フィルムを形成するためには、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンの液滴は合体しなければならない。凝集剤は水相におけるこのプロセスを助ける。適切な凝集剤の例は、エステルアルコール、ベンジルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、プロピレングリコールプロピルエーテル(PnP)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(DPnB)、プロピレングリコールフェニルエーテル(PPh)、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル(TPnB)、エチレングリコールプロピルエーテル(EP)、エチレングリコールブチルエーテル(EB)、ジアセトンアルコール(DAA)およびジプロピレングリコールメチルエーテル(DPM)である。
【0228】
顔料、充填材および殺生物剤の分散を改善または促進するために、水性コーティング組成物と適合する湿潤/分散添加剤を組み込むのが望ましい場合がある。
【0229】
適切な分散剤の例は、ポリアルキレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリエーテルカルボキシレートおよびポリカルボキシレートである。
【0230】
<溶媒>
本発明の前記汚染放出コーティング組成物は、水性組成物、すなわち、溶媒として水を含むものである。
【0231】
本発明の前記汚染放出コーティング組成物は、好ましくは唯一の溶媒として水を含み、すなわち、溶媒は水からなる。従って、前記コーティング組成物は、従って 好ましくは有機溶媒および/またはシンナーを含まないのが好ましい。
【0232】
ケトン、アルコール、グリコールエーテルまたは水と可溶または混和性の他の酸素含有溶媒の有機共溶媒が低量存在してもよい。
【0233】
前記コーティング組成物は、前記組成物全体の総重量に対して、少なくとも10重量%の水を含む。好ましくは、前記組成物は、前記組成物全体の総重量に対して10~60wt%、より好ましくは20~50wt%、例えば30~45wt%の水を含む。
【0234】
<組成物および塗料>
本発明はまた、本明細書に記載されるような汚染放出コーティング組成物の製造方法に関する。前記方法は、以下の工程を含む:
(i)少なくとも一つの顔料または充填材を水に分散させて、分散液を製造する工程;および、続いて
(ii)工程(i)で製造された前記分散液と水性ポリシロキサン系バインダーエマルジョンを混合して、前記コーティング組成物を製造する工程。
【0235】
本明細書に記載の前記組成物は、例えばスプレー塗装に使用するのに適した濃度で製造することができる。この場合、前記組成物はそれ自体が塗料である。あるいは、前記組成物は、塗料調製用の濃縮物であってもよい。この場合、さらなる溶媒および任意に他の成分が、本明細書に記載の組成物に添加され、塗料を形成する。好ましい溶剤は、前記組成物に関して本明細書で前述した通りである。
【0236】
混合後、任意に溶媒を添加した後、好ましくは、前記汚染放出コーティング組成物または塗料を容器に充填する。好適な容器としては、缶、ドラム缶、タンクなどが挙げられる。
【0237】
前記汚染放出コーティング組成物は、1パック、2パック、または3パックとして供給することができる。好ましくは前記組成物は、1パックとして供給される。
【0238】
本発明の前記汚染放出コーティング組成物および塗料は、好ましくは40~90wt%、より好ましくは50~80wt%およびさらに好ましくは55~70wt%の固形分含量を有する。
【0239】
好ましくは、本発明の前記汚染放出コーティング組成物および塗料は、80g/L未満、より好ましくは50g/L未満、例えば25g/L未満、例えば0g/Lの揮発性有機化合物(VOC)の含有量を有する。VOC含有量は、計算(ASTM D5201-05A)または測定(US EPA法24またはISO 11890-1)で求めることができる。
【0240】
本発明のコーティング組成物は、ポリシロキサン系汚染放出コーティング用に設計された、前処理されたコーティング層のいずれにも適用することができる。好ましくは、しかしながら、前記コーティング組成物は、防錆有機プライマー層の頂部上に直接適用される。前記有機プライマー層は、エポキシ、変性エポキシ(例えば、ポリビニルブチラールで変性したもの)、ポリウレタン、アクリル、ビニル、ポリシロキサン、ケイ酸塩、塩素化ゴムをベースとすることができる。好ましくは、前記プライマー層は、エポキシ系プライマーまたはビニル系プライマーまたはそれらの組合せである。
【0241】
本発明による前記コーティング組成物は、1または2またはそれ以上の層で適用することができる。好ましくは、本発明による前記コーティング組成物は1層で適用される。
【0242】
従って、更なる実施形態において、本発明は、少なくとも2つの層AおよびBを含むコーティングシステムに関する。前記層AおよびBは隣接しており、層Aは有機プライマー層であり、層Bは本発明の前記水性汚染放出コーティング組成物を含む。
【0243】
前記有機プライマー層は、好ましくはエポキシプライマー層である。そのようなエポキシプライマーは、当該技術分野において周知であり、市販品を購入することができる。
【0244】
本発明の前記汚染放出組成物は、有機プライマーに対して良好な接着性を有する。従って、通常、シリコーン-有機ハイブリッドタイコートを使用する必要はない。このことは、コーティングシステム全体として、コーティング層が1層少なくなり、VOCが低くなることを意味する。従って、好ましい実施形態において、本発明のコーティングシステムはタイコート層を含まない。
【0245】
一つの実施形態において、上記で定義したコーティングシステムは、層AおよびBを含み、層Aおよび/または層Bは硬化されている。
【0246】
本発明のコーティング組成物の前記コーティング層の各々の乾燥フィルム厚みは、好ましくは50~500μm、より好ましくは100~400μm、最も好ましくは150~300μmである。
【0247】
本発明の前記汚染放出コーティング組成物は、20~90%、好ましくは30~85%、より好ましくは40~80%の湿度で典型的に硬化される。
【0248】
本発明はまた、本明細書で定義された硬化された水性汚染放出コーティングでコートされた基材ならびに水性汚染放出コーティング組成物を基材へ適用する方法に関する。前記方法は、例えば、本明細書で定義された水性汚染放出コーティング組成物を基材へ適用、例えば噴霧により適用し、前記コーティング組成物を硬化させることを含む。
【0249】
前記基材は、典型的には、海洋構造物、好ましくは、使用時に水没する海洋構造物の表面である。このような表面には、任意に有機プライマー層がコーティングされていてもよい。
【0250】
本発明の前記汚染放出コーティング組成物および塗料は、海洋汚染の対象となる任意の物品表面の全体または一部に適用することができる。前記表面は、恒久的又は断続的に水中にある(例えば、潮の動き、異なる貨物の積載又はうねりによって)。物品の表面は、典型的には、船舶の船体又は石油プラットフォームやブイのような固定された海洋物体の表面である。前記コーティング組成物及び塗料の適用は、任意の便利な手段、例えば塗装(例えば、刷毛又はローラーで)又はより好ましくは前記コーティングを物品に噴霧することによって達成できる。通常、コーティングを可能にするために、表面を海水から分離する必要がある。コーティングの適用は、当該技術分野で従来知られているように行うことができる。コーティングが適用された後、好ましくは乾燥及び/又は硬化される。
【0251】
<適用>
本発明の前記汚染放出コーティングは、通常、海洋構造物の表面、好ましくは使用時に水没する海洋構造物の部分に適用される。典型的な海洋構造物としては、船舶(ボート、ヨット、モーターボート、モーターランチ、オーシャンライナー、タグボート、タンカー、コンテナ船、その他の貨物船、潜水艦、およびあらゆる種類の海軍艦船を含むが、これらに限定されない)、パイプ、陸上および沖合の機械、あらゆる種類の構造物および物体、例えば、桟橋、杭、橋梁下部構造、水力設備および構造、水中油井構造、網およびその他の養殖設備、ブイなどが挙げられる。基材の表面は、「本来の」表面(例えば鋼鉄の表面)であってもよいし、すでに有機プライマー層がコーティングされた表面であってもよい。
【0252】
[実施例]
<材料>
【0253】
【表1】
【0254】
【表2】
【0255】
【表3】
【0256】
【表4】
【0257】
<決定方法>
{粒子径測定}
エマルジョンの粒子径は、Malvern Zetasizer Nano S ZEN 1600 (Malvern Panalytical Ltd, UK)を用いて波長633nmで一定角度173°、室温で決定した。
【0258】
{ポリマー平均分子量分布の測定}
親水性および疎水性の変性ポリシロキサン油は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により特性評価を行った。分子量分布(MWD)は、2つのAgilent製PLgel 5μm混合-Dカラムを直列に接続して、Malvern Omnisec Resolve and Reveal システムを用いて測定した。カラムは狭いポリスチレン標準を用いて通常の較正によりキャリブレーションした。分析条件は以下の表4に示すとおりに設定した。
【0259】
【表5】
【0260】
25mgの乾燥ポリマーに相当する量の疎水性または親水性の変性ポリシロキサンを5mlのTHFに溶解してサンプルを調製した。サンプルは、GPC測定のためにサンプリングする前に、室温で最低3時間保持した。分析前にサンプルは0.45μmのナイロンフィルターでろ過した。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を報告する。
【0261】
{接触角および表面自由エネルギーの測定}
純度の高いバインダーを、クリアランス300μmのフィルムアプリケーターを用いてPVCパネルに直接塗布した。このパネルを用いて、静的接触角と表面自由エネルギーをドロップシェイプアナライザーで測定した。各コーティングで5つの異なるポイントを測定し、平均値を記録した。
【0262】
{VOC}
VOC含有量は、計算(ASTM D5201-05A)または測定(US EPA法24またはISO 11890-1)で求めることができる。本発明例のコーティング組成物はすべて、ASTM D5201-05Aによって計算された0g/L VOCである。
【0263】
{防汚性能試験}
Jotun A/S製のJotacote Universal N10プライマー(2液型ポリアミン硬化型エポキシ系プライマー)の第1コート、Safeguard Plus(2液型ポリアミド硬化型ビニルエポキシ系プライマー)の第2コートで、エアレススプレーを用いて所定の条件下でPVCパネルに塗装した。本発明例および比較例の前記コーティング組成物を、有機プライマーでプレコートしたPVCパネルに、300μmのクリアランスを有するフィルムアプリケーターを用いて塗布した。
【0264】
このパネルをシンガポールのイカダで静的防汚性能試験に使用し、パネルを海面下0.3~1.3mに沈めた。パネルの評価は、以下に示すスケールを用いた目視検査によって行った。
【0265】
【表6】
【0266】
{接着試験}
{実施例1~72の接着試験}
PVCパネルに、Jotun A/S社製Jotacote Universal N10プライマー(2液型ポリアミン硬化型エポキシ系プライマー)のコートまたはJotun A/S社製Safeguard Plus(2液型ポリアミド硬化型ビニルエポキシ系プライマー)プライマーのコートをエアレススプレーを用いて所定の条件内で塗装した。本発明例および比較例の前記コーティング組成物を、300μmのクリアランスを有するフィルムアプリケーターを用いてプレコートしたパネルに塗布した。パネルを室温で48時間放置した。次に、評価前にパネルを25℃の海水にさらし、パネルを海水から取り出して室温で24時間放置した。接着性の評価には、ISO2409の非認可抄録に基づくクロスハッチ法を用いた。切削工具を用いて、縦横に6本の平行な切削線を入れた。その後、柔らかいブラシを用いて表面を優しくクリーニングした。その後、以下の表に基づいて接着性を評価した。
【0267】
【表7】
【0268】
{実施例73~79の接着試験}
PVCパネルに、Jotun A/S社製のSafeguard Plus(2液型ポリアミド硬化型ビニルエポキシ系プライマー)プライマーのコートでエアレススプレーを用いて所定の条件内でコートした。
【0269】
本発明のコーティング組成物の第1層を、300μmのクリアランスを有するフィルムアプリケーターを用いてプレコートされたパネルに塗布した。第1層の塗布後、パネルは4日間室温に保たれ、その後、300μmのクリアランスを有するフィルムアプリケーターを用いて第2層のコーティングが施された。3日後、パネルは20℃の海水にさらされた。評価前にパネルを水から取り出し、24時間室温に保った。接着性は、実施例1~72について上述した方法に従って評価した。
【0270】
{実施例80と81の接着性試験}
PVCパネルにエアレススプレーでウェットフィルム厚さ300μmになるように2液性アミン硬化型水性エポキシ系プライマーのコートでコートした。パネルは室温で48時間乾燥させた。300μmのクリアランスを持つフィルムアプリケーターを用いて、実施例のコーティング組成物をプレコートされたパネルに塗布した。パネルを室温で48時間放置した。次に、評価前にパネルを20℃の海水にさらし、パネルを海水から取り出して室温で24時間放置した。接着性は、実施例1~72について上述した方法に従って評価した。
【0271】
{暴露時のコーティングフィルム特性の試験}
ISO4628-1およびISO4628-2を適用し、ひび割れや膨れの程度を評価することでコーティングフィルムの劣化を評価した(表7)。Safeguard PlusプライマーでプレコートしたPVCパネルに、コーティング組成物を300μmWFTで塗布した。パネルは室温で48時間放置した後、52℃で24時間放置した。その後、パネルを40℃の海水にさらした。各評価の前に、パネルを海水から取り出し、室温で24時間、その後52℃で24時間放置した。
【0272】
【表8】
【0273】
[塗料の調製]
成分Bの調製のために、銅ピリチオン(存在する場合)、水、分散剤を加え、溶解剤と15分間徐々に混合した。その後、Microdol、界面活性剤、さらに水を加え、15分間混合した。その後、酸化鉄赤と水を加え、60~90分間混合した。すべての原料はよく粉砕され、粉砕の細かさはグラインドメーターで確認された。目標粉砕度は40μm未満であった。
【0274】
その後、成分A(ポリシロキサン-バインダーエマルジョン)を成分Bに加え、2~3分間混合し、最終段階で成分C(添加油)を加え、さらに2~3分間混合した。
【0275】
すべての調製例において、成分C(添加油)はPVCの計算において考慮されていない。
すべての例は、均質で固体のフィルム形成を有していた。
【0276】
【表9】
【0277】
【表10】
【0278】
【表11】
【0279】
【表12】
【0280】
【表13】
【0281】
【表14】
【0282】
【表15】
【0283】
【表16】
【0284】
【表17】
【0285】
上記実施例に関して、以下の見解が示される。
【0286】
* 発明の実施例1~10(表8)は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンCoatosil DRIをベースとする殺生物性汚染放出製剤が、無塗装PVCパネル(比較例1)と比較して、防汚効果を有することを示している。実施例1~9は、防汚性能が、疎水性および親水性変性ポリシロキサン油の添加により向上したことを示している。
【0287】
* 発明の実施例11~19(表9)は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンCoatosil DRIをベースとする非殺生物性製剤が、無塗装PVCパネル(比較例2)と比較して、汚染放出特性を向上させていることを示している。疎水性および親水性変性ポリシロキサン油の添加により、防汚性能は、向上した。
【0288】
* 発明の実施例20~23(表10)は、前記ポリシロキサン系バインダーエマルジョンDowsil 8005およびDowsil 8016をベースとする殺生物性および非殺生物性製剤が、無塗装PVCパネル(比較例3)と比較して、汚染放出特性を向上させていることを示している。親水性および疎水性変性ポリシロキサン油の添加により、防汚性能は向上した。
【0289】
* 発明の実施例24~35(表11)は、PVCレベルの相違が、汚染放出特性に影響を与えていないことを示している。親水性油のみを用いると、疎水性変性ポリシロキサン油を用いることなく、優れた汚染放出特性が得られる。異なる親水性変性ポリシロキサン油を用いることができる。
【0290】
* 発明の実施例36~47(表12)は、PVCレベルの相違が、汚染放出特性に影響を与えていないことを示している。疎水性油のみを用いると、親水性変性ポリシロキサン油を用いることなく、優れた汚染放出特性が得られる。異なる疎水性変性ポリシロキサン油を使用することができる。
【0291】
* 発明の実施例48~59(表13)は、異なるポリシロキサン系バインダーエマルジョン(Coatosil DRIおよびDowsil 8005)と異なるPVCを含む水性コーティング組成物が、有機プライマーへの驚くべき良好な接着性を有することを示している。このことは、ポリシロキサン-有機ハイブリッドタイコートが、本発明の水性コーティング組成物を用いる際に、必要ではないことを示している。
【0292】
* 比較例6および7は、前記ポリシロキサン系バインダーが有機溶媒中に溶解している従来の溶媒系汚染放出製剤が、有機プライマーに対して非常に乏しい接着性を与えることを示している。いかなる理論にも束縛されることなく、接着力の違いの理由はフィルム形成に関係していると考えられる。溶媒型と水性コーティング製剤のフィルム形成メカニズムは、大きな相違がある。溶媒型製剤において、ポリマー鎖は、溶媒に溶解しているが、一方、水性製剤において、前記ポリマーバインダーは、水中で液滴乳化として存在している。溶剤型コーティングのフィルム形成は、溶剤の蒸発とポリマー鎖の架橋に基づいている。水系技術では、水は蒸発し、ポリマー液滴は合体し、ポリマー鎖は架橋してコーティングフィルムを形成する。フィルム形成のメカニズムにおけるこの違いが、本発明の水性汚染放出コーティングが有機プライマーに対して良好な接着性を有する一方で、従来の溶剤系汚染放出コーティングがそのようなプライマーに対して非常に低い接着性を有する理由であると考えられる。
【0293】
* 発明の実施例60~65(表14)は、異なるPVCを有し、添加油の有無による異なるポリシロキサンバインダーが、コーティングフィルムに機械的損傷やひび割れや膨れが発生することなく、高温の海水中に長時間暴露されても耐えられることを示している。
【0294】
* 発明の実施例66~72(表15)は、異なる殺生物剤の組み合わせを、本発明の水性汚染放出製剤において用いることができることを示している。すべての前記コーティング組成物は、プライマー総に対して良好な接着性を有する。
【0295】
* 実施例73~79は、良好な接着性を得ながら、水性製剤を数層に塗布可能であることを示している。
【0296】
* 実施例73および76は、2つの同一層を、アンダーコートへの良好な接着性と、本発明の汚染放出コーティング間の良好な接着性を維持しながら、塗布可能であることを示している。
【0297】
* 実施例74および77は、一方の汚染放出層が殺生物剤を含有してもよく、他方は殺生物剤を含有せず、かつ依然として所望の接着性を維持しうることを示している。
【0298】
* 実施例75および79は、一つの層がより高い殺生物剤含有量を有し(例えば、一つの層に有機殺生物剤を追加)ても、層間の所望の接着性は維持しうることを示している。
【0299】
* 実施例78は、わずかに異なる色の2つのコートを、良好な接着性を維持しながら、互いの頂部に塗布可能であることを示している。これは、例えば、ドッグにおいて、次のコートを塗布する場所を可視化するのに、適切かもしれない。
【0300】
* 実施例80および81は、本発明の水性汚染放出コーティングが、水性プライマーへも良好な接着性を有することを示している。
【国際調査報告】