(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】医療用の骨インプラント及びインプラントの状態を監視する方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/44 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
A61F2/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536101
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022084161
(87)【国際公開番号】W WO2023110445
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524226461
【氏名又は名称】アイコテック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォーダーマイヤー,アルベルト マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヒュッピ,ラモン ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ハイム,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】スタドラー,ロジャー ハインリヒ
(72)【発明者】
【氏名】デュンキ,アンドレアス クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA10
4C097BB01
4C097CC18
4C097DD02
(57)【要約】
骨領域を安定させるための医療用の骨インプラント(1;11,14)であって、骨領域を安定させる目的でヒト又は動物の骨内に又は骨に接して固定するために熱可塑性複合材料から製造されたインプラント本体と、さらに、治癒過程及び/又はインプラント(1;11,14)の状態の1つ又は複数のパラメータを測定するための少なくとも1つのセンサ(2)とを備える、医療用の骨インプラント(1;11,14)を提供する。少なくとも1つのセンサ(2)は、受動型の磁気弾性的なセンサ(2)である。さらに、インプラント(1;11,14)の状態を監視する方法を提供する。ここで、受動型の磁気弾性的なセンサ(2)は、インプラント(1;11,14)の状態をインプラント(1;11,14)の製造プロセス中及び/又はインプラント(1;11,14)の保管中に監視するために使用される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨領域を安定させるための医療用の骨インプラント(1;11,14)であって、
前記骨領域を安定させる目的でヒト又は動物の骨(W)内に又は骨(W)に接して固定するために熱可塑性複合材料から製造されたインプラント本体と、
治癒過程及び/又は前記インプラント(1;11,14)の状態の1つ又は複数のパラメータを測定するための少なくとも1つのセンサ(2)と
を備える、前記骨インプラント(1;11,14)において、
前記少なくとも1つのセンサが、受動型の磁気弾性的なセンサ(2)であることを特徴とする、骨インプラント(1;11,14)。
【請求項2】
前記少なくとも1つのセンサ(2)が、前記1つ又は複数のパラメータを測定するためにバルクハウゼン効果を利用する、請求項1記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項3】
前記少なくとも1つのセンサが、好ましくは10μm~250μmの直径を有するマイクロワイヤ(2)である、請求項1又は2記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項4】
前記少なくとも1つのセンサ(2)が、少なくとも部分的に又は完全に前記インプラント本体の内部に配置される、請求項1~3のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項5】
前記インプラント(1;11,14)が主長手方向中心線を有し、前記少なくとも1つのセンサ(2)が、実質的に前記主長手方向中心線の長手延在方向全体に沿って延びる、請求項1~4のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項6】
前記インプラント(1;11,14)が、前記主長手方向中心線に沿って規則的な間隔をおいて配置された幾つかのかかるセンサ(2)を備える、請求項5記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項7】
前記インプラント(11,13)が、互いに平行に延びる幾つかのかかるセンサ(2)を備える、請求項1~6のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項8】
前記インプラントが、特に椎体補綴物、椎間板補綴物、ダウエル、スクリューアンカー、固定用プレート、椎弓根スクリュー(11)、又は椎弓根システムのコネクティングロッド(14)等の脊椎インプラントである、請求項1~7のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項9】
前記インプラントが外傷用インプラント、例えばスクリューアンカー、ダウエル、骨プレート又は骨スクリュー等である、請求項1~7のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項10】
前記1つ又は複数のパラメータが、特に圧縮力及び/もしくは曲げ力等の機械的負荷、並びに/又は温度に関する、請求項1~9のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項11】
前記少なくとも1つのセンサ(2)が、少なくとも450℃までの温度安定性を有する、請求項1~10のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)。
【請求項12】
インプラント(1;11,14)の状態を監視する方法であって、前記インプラントが、特に請求項1~11のいずれか1項記載の骨インプラント(1;11,14)であり、前記インプラント(1;11,14)が、前記インプラント(1;11,14)の状態の1つ又は複数のパラメータを測定するための少なくとも1つの受動型の磁気弾性的なセンサ(2)を備える、前記方法において、
前記インプラント(1;11,14)の状態を監視するための前記センサ(2)を、前記インプラント(1;11,14)の製造プロセス中及び/又は前記インプラント(1;11,14)の保管中に使用することを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記インプラント(1;11,14)の状態を、ヒト又は動物の身体への植え込みの直後に前記少なくとも1つのセンサ(2)によってさらに検査する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヒト又は動物の身体への前記インプラント(1;11,14)の植え込み後の治癒過程を、前記少なくとも1つのセンサ(2)によってさらに監視する、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
前記インプラント(1;11,14)の製造のために、複数のプリプレグ(3)、特に一方向プリプレグを圧力及び熱の下で互いに加圧グラウティングし、加圧グラウティングプロセス中に、前記少なくとも1つのセンサ(2)を前記プリプレグ(3)の間に配置するか、又は前記プリプレグ(3)の1つに埋め込む、請求項12~14のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に脊椎の補強又は外傷の治療によく使用されるような、熱可塑性複合材料から製造されたインプラント本体を有する、骨領域を安定させるための医療用の骨インプラントに関する。さらに、本発明は、インプラントの状態を監視する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、インプラントはますます頻繁に、また、様々な理由で使用されている。インプラントは、一定期間、大抵は長期間にわたってヒト又は動物の体内に挿入される人工デバイスである。インプラントは、例えば、例えば心臓ペースメーカー、蝸牛インプラント又は人工装具の場合のように、身体の機能をサポート又は代替する役割を果たすことができる。また、インプラントは、破壊された身体の一部を代替するか、又は身体の一部を拡大するか(形成外科手術)、又はペット用のRFIDチップの場合によくあるように、使用者を監視する役割を果たすこともできる。
【0003】
インプラントの重要なグループは、脊椎の補強又は外傷の治療によく使用される骨インプラントである。骨インプラントは、少なくとも部分的、大抵は完全に体内に配置され、それにより骨内に又は骨に接して固定され、すなわち、骨に取り付けられる。
【0004】
インプラントでは、一般に、特に骨インプラントの場合、インプラントの状態だけでなく、患者の治癒過程が、体内にインプラントを適用する全期間を通して注目される。インプラントの状態は、例えばインプラントの変形、ひいてはインプラントにかかる力に関連する可能性があり、それに基づいて治癒過程に関する結論を導き出すことができる。逆に、治癒過程は、インプラントの状態、例えばその寿命に影響を与える可能性がある。
【0005】
したがって、医療関係者が治癒過程に関する情報を受け取ることができるように、試験用インプラントだけでなく、長期間体内に挿入されるインプラントにもセンサを設けることが知られている。
【0006】
特許文献1には、脊椎インプラント内に又は脊椎インプラントに接してセンサを設けることが記載されている。センサは、特に加速度計及び/又は張力計とすることができ、治癒過程を監視するために、椎弓根システムの様々な箇所に配置することができる。特に、受動型のMEMS(微小電気機械)センサの使用が提案されている。
【0007】
それぞれ特許文献1と同じ出願人又は権利者によるものであり、インプラントに受動型のMEMSセンサを設けることも開示している更なる文献は、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10及び特許文献11である。
【0008】
しかしながら、MEMSセンサは、製造が比較的複雑であり、無線読み取りのために更なる電子部品を必要とする。
【0009】
特許文献12には、骨にねじ込み可能なスクリューが開示されており、その内部には、センサ、並びに処理手段、記憶装置及びエネルギー貯蔵装置が配置される。
【0010】
特許文献13には、コネクティングロッドの圧縮、たわみ及び/又はねじれを測定するためにコネクティングロッドに取り付けられたセンサを有する椎弓根システムが開示されている。同様に、センサを有する椎間プレースホルダが開示されている。センサは、張力計ストリップ又は圧電センサである。どちらのタイプのセンサも製造が比較的複雑であり、したがって高価である。さらに、センサデータの無線読み取りを可能にするために更なる電子部品が必要とされる。
【0011】
特許文献14は、脊椎インプラントに関する。脊椎インプラントは、2つの隣接する椎体の間に挿入され、荷重を測定するためのセンサを備える。例示的なセンサとして張力計ストリップが挙げられている。
【0012】
特許文献15には、いずれの場合にも2つの椎体の間に、そこで発生する荷重を測定するために植え込み可能なセンサが開示されている。センサの読み取りは、例えばRFIDを介して無線で行うことができる。
【0013】
特許文献16には、インプラントのたわみ、ねじれ及び圧縮を測定するために、特に髄内釘等の整形外科用骨インプラントにセンサを取り付けることが開示されている。センサは、インプラントの外側に設けられた陥凹に挿入される。測定データは、無線で外部に送信することができる。
【0014】
特許文献17の特許出願には、力、変形及び変位のデータを測定及び転送するためにコネクティングロッド上に配置されたセンサを備える椎弓根システムが開示されている。
【0015】
さらに、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21及び特許文献22には、測定を行い、同様にインプラント内に配置されたメモリチップに測定データを保存するために能動型のセンサ、すなわち、例えばインプラント内に取り付けられたバッテリを介して電力が供給されるセンサを有するインプラントがそれぞれ開示されている。この場合、読み取りは、通常、バッテリにより電力が供給される送信ユニットを介して行われる。
【0016】
特許文献23及び特許文献24の文献には、受動型のセンサをインプラント内に配置することがそれぞれ提案されているが、これらのセンサがどの測定原理に基づくものであるかについてはさらに記載されていない。
【0017】
どちらも異なる技術分野のものである、特許文献25及び特許文献26の2つの文献には、マイクロワイヤを用い、バルクハウゼン効果を利用することにより、構成要素の機械的特性を測定することがそれぞれ記載されている。
【0018】
特許文献27には、薬剤を投与するために開発された医療機器、例えばインスリンポンプ等におけるマイクロワイヤの使用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0196508号明細書
【特許文献2】国際公開第2015/20070号
【特許文献3】国際公開第2015/200723号
【特許文献4】国際公開第2015/200707号
【特許文献5】国際公開第2015/200722号
【特許文献6】国際公開第2015/200720号
【特許文献7】国際公開第2014/209916号
【特許文献8】国際公開第2014/144107号
【特許文献9】国際公開第2014/144070号
【特許文献10】国際公開第2014/100795号
【特許文献11】国際公開第2015/200718号
【特許文献12】米国特許第9,629,583号明細書
【特許文献13】国際公開第2017/004483号
【特許文献14】国際公開第2007/090005号
【特許文献15】国際公開第2007/098385号
【特許文献16】国際公開第2007/025191号
【特許文献17】国際公開第2017/116343号
【特許文献18】国際公開第2021/15485号
【特許文献19】欧州特許出願公開第3772350号明細書
【特許文献20】国際公開第2020/247890号
【特許文献21】国際公開第2017/165717号
【特許文献22】米国特許第11,042,916号明細書
【特許文献23】国際公開第2020/206373号
【特許文献24】国際公開第2016/044651号
【特許文献25】国際公開第2007/116218号
【特許文献26】欧州特許第3150998号明細書
【特許文献27】国際公開第2020/035217号
【発明の概要】
【0020】
本発明の課題は、製造が容易であり、骨領域を安定させる役割を果たし、熱可塑性複合材料から製造され、センサ測定データの無線読み取りを可能にする少なくとも1つのセンサを有するインプラント本体を備える、医療用の骨インプラントを提供することである。この課題を解決するために、請求項1に開示されるような骨インプラントが提案される。本発明の更なる課題は、インプラントの状態を監視するための簡単な方法を提供することである。この更なる課題を解決する方法は、請求項12に規定される。更なる実施形態は、従属請求項に規定される。
【0021】
このため、本発明は、骨領域を安定させるための医療用の骨インプラントであって、
骨領域を安定させる目的でヒト又は動物の骨内に又は骨に接して固定するために熱可塑性複合材料から製造されたインプラント本体と、
治癒過程及び/又はインプラントの状態の1つ又は複数のパラメータを測定するための少なくとも1つのセンサと
を備える、骨インプラントを提供する。
【0022】
少なくとも1つのセンサは、受動型の磁気弾性的なセンサである。
【0023】
受動型の磁気弾性的なセンサを使用することにより、インプラントを特に単純に、ひいては廉価に製造することができる。更なる利点は、受動型の磁気弾性的なセンサは、通常、インプラント内で比較的小さな空間しか必要としないため、インプラントの特性に最小限の影響しか与えないことである。それにもかかわらず、受動型の磁気弾性的なセンサは、任意に患者の体外からセンサデータを無線で読み取ることができる。追加の電子部品、例えば電気回路又は別個の伝送ユニット等は不要となる。特に、インプラントは、バッテリ等のエネルギー貯蔵装置も全く必要としない。
【0024】
すでに述べたように、骨インプラントは、少なくとも部分的、大抵は完全に体内に配置され、したがって骨内に又は骨に接して固定され、すなわち骨に取り付けられる。ここで、骨内への又は骨に接してのインプラントの固定は、間接的に、すなわち、例えば人工的に製造された更なる構成要素を介して、特に、好ましくは同様に熱可塑性複合材料から製造されたインプラント本体を有する更なるインプラントを介して行うこともできる。これは、通常、例えば椎弓根システムの場合に当てはまり、コネクティングロッドの形態の第1の骨インプラントが、椎弓根スクリューの形態の複数の第2の骨インプラントを介して椎体に固定される。
【0025】
その結果、骨インプラントは、骨領域を支持及び/又は強化する場合、骨領域を安定させる役割を果たす。骨領域は、好ましくは、少なくともインプラント本体が内部に又は接して固定される骨の領域に関する。このため、安定させるべき骨領域は1つのみ、又は代替的には幾つかの骨又は骨部分に関係し得る。特に、骨領域は、脊椎の複数の椎体に関係し得る。また、安定させるべき骨領域は、例えば、骨部分が、所望のように、再び一緒に成長し得るように、骨折後、例えば骨インプラントを用いて安定させなければならない単一の骨に関するものであってもよい。骨インプラントは、例えば椎体補綴物又は椎間板補綴物とすることもできる。なぜならば、通常、これらも少なくとも1つの骨に接して又は骨内に固定され、すなわち骨に取り付けられるためである。人工椎体補綴物及び人工椎間板補綴物は、それぞれ胸椎又は椎間板を置換する役割を果たすため、通常、少なくとも1つの隣接する椎体に接して又椎体内に、大抵は2つの隣接する椎体に接して又は椎体内に固定される。このため、それぞれの場合の椎体補綴物及び椎間板補綴物は、脊椎、特に2つの隣接する椎体を有する骨領域を安定させる役割を果たす。
【0026】
インプラント本体は、通常、インプラントの主要構成要素を形成し、好ましくはインプラントに構造的安定性を与える。インプラントは、特に、インプラント本体及び少なくとも1つのセンサのみからなるものであってもよい。
【0027】
少なくとも1つのセンサは、その周囲の特定の特性、特に物理的特性を定性的に又は定量的に測定変数として記録することができる構成要素を形成する。ここでの周囲は、通常、インプラント本体、及び/又はインプラント本体の周りのヒトもしくは動物の身体のすぐ近くの領域によってそれぞれ形成される。また、インプラントをヒト又は動物の身体にそれぞれ植え込む前に、その周囲は、例えば、圧縮成形ツール(製造プロセス中)、又は装着配置及び輸送配置、又は他のかかるインプラント(保管中又は輸送中)によっても形成され得る。そこで測定された変数は、磁気弾性効果に基づいて記録され、通常、読み取り中に電気信号に変換される。インプラントは、単一の磁気弾性的なセンサ又は複数の磁気弾性的なセンサを備えることができる。
【0028】
治癒過程及び/又はインプラントの状態の1つ又は複数のパラメータは、特に、インプラントの機械的負荷、例えば圧縮、伸張、たわみもしくはねじれ等、及び/又は温度とすることができる。1つ又は複数の測定パラメータは、代替的又は付加的に、例えばインプラントのごく近傍のヒト又は動物の体温のそれぞれであってもよい。一般に、センサは、センサ材料の磁気特性の変化をもたらし得る任意のパラメータを測定するように設計することができる。こうして、1つ又は複数のパラメータにより、インプラントの状態に関する結論を導き出すことができ、すなわち、例えばインプラントに影響を与える圧力、引張応力及び/又はねじり力に関する情報を得ることができる。特に、インプラント領域、すなわちインプラントを直接取り巻く領域の安定性に関する結論を導き出すことができる。このため、インプラント領域は、インプラントに接続する他のインプラント及び/又は身体構造、例えば骨等に特に関係し得る。異なる時点で行われる複数の測定の場合、これらのパラメータの時間的順序、ひいてはインプラントの状態の任意の可能な変化を評価することができる。この場合、次に、それぞれ測定パラメータ又はインプラントの状態から、特にそれらの経過から治癒過程に関する結論を導き出すことができる。例えば温度の測定により、インプラントの周りのごく近傍における感染に関する結論を導き出すことが可能であり得る。
【0029】
測定は、特に、センサの材料の磁気特性の変化に基づく。特に、インプラントにかかる力の負荷は、センサ材料の透磁率を変化させる。センサ材料の透磁率の変化は、温度の変化の結果でもあり得る。ここでのセンサ材料は、好ましくは前磁化を有する。「ビラリ効果」の名でも知られる磁気弾性効果により、センサ材料に加えられる荷重及び/又は温度は、センサ材料の磁場の変化をもたらし、これが測定可能となる。測定は、特に無線で行うことができ、体外からノータッチで測定が可能であるため、特に有利である。
【0030】
磁気弾性効果に基づく測定を可能にするために、少なくとも1つのセンサは、通常、逆磁歪を有する強磁性体、好ましくは強磁性合金の形態のセンサ材料を含む。強磁性体は、それぞれ機械的応力又は熱応力下でその磁気特性、特にその透磁率を変化させ、これをそれぞれ好適な測定器又は読み取り装置によって検出及び測定することができる。
【0031】
1つ又は複数のパラメータを測定するための少なくとも1つのセンサが、バルクハウゼン効果を利用する場合、特に正確な測定が可能であることが見出されている。バルクハウゼン効果により、連続的に変化する磁場は、強磁性体の磁化を不連続に変化させる。この理由は、磁化の方向が均一な領域、いわゆる磁区(ドイツ語:「Weiss-Bezirke」)の存在にあり、これは、ブロッホ壁によって分離される。例えば、磁場力をゆっくりと増加させると、領域全体、すなわち磁区(ドイツ語:「Weiss-Bezirke」)の磁気モーメントが突然反転するため、それぞれの材料の磁場が急激に変化する。好ましくは少なくとも1つのセンサがバルクハウゼン効果を利用することで、これらの急激な磁場の変化を測定可能である。
【0032】
少なくとも1つのセンサがマイクロワイヤである場合、特に高感度で正確な測定が可能である。マイクロワイヤの通常の幾何学的寸法は、磁気弾性効果により測定中に特に強い信号をもたらし得る。マイクロワイヤの場合、バルクハウゼン効果を測定に利用すると、同様に信号が特に強くなる。マイクロワイヤは、さらに、インプラントの内部に、例えばその主長手方向中心線に沿って延びるように、特に有利に配置することができる。
【0033】
マイクロワイヤは、好ましくは10μm~250μmの直径を有する。マイクロワイヤの長さは、好ましくは直径の25倍超、特に好ましくは50倍超、最も好ましくは100倍超である。
【0034】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのセンサは、少なくとも部分的に、より好ましくは完全にインプラント本体の内部に配置される。それにより、センサは、外部の影響から最適に保護され、インプラントの内部から指示された測定変数を送信することができる。また、逆に、周囲の体組織がセンサから分離され、センサ材料に対する任意の不耐性を防ぐことができる。最適な測定結果を達成するために、少なくとも1つのセンサを、特にインプラント本体の材料に埋め込むことができる。
【0035】
特に好ましい実施形態では、インプラント本体は、繊維強化プラスチック材料から製造される。繊維強化プラスチック材料は、好ましくは、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の炭素繊維強化プラスチック材料である。熱可塑性プラスチック材料、特に繊維強化プラスチック材料からのインプラント本体の製造は、一方では、構造的に非常に安定したインプラントの製造が可能であるという利点を有し、これは、さらに生体適合性であり、例えばMRI等の可視化処理に有利である。また、他方では、熱可塑性プラスチック材料、特に繊維強化プラスチック材料は、例えば金属と比較して、電磁放射に対しても透過性である。したがって、センサが完全にインプラント本体の内部に配置される場合に、センサ測定を容易に行うことができる。
【0036】
インプラント本体が繊維強化プラスチック材料から製造される場合、繊維の長さは、好ましくは少なくとも1mm、好ましくは少なくとも5mmである。しかしながら、特に好ましくは、繊維の長さは、インプラント本体の主伸長方向の全長に相当するほど大きい。これにより、インプラント本体に特に高い剛性及び構造的安定性が付与される。
【0037】
良好なインプラントの安定性は、繊維の体積含有率が20~80%の範囲、好ましくは35~70%の範囲、特に好ましくは45~60%の範囲にある場合に達成される。
【0038】
プラスチック材料として、好ましくは熱可塑性プラスチック、特に好ましくはポリアリールエーテルケトン、ポリイミド及び/又はポリスルホンのファミリーの、いわゆる高温熱可塑性プラスチックが使用される。
【0039】
インプラントが主長手方向中心線を有し、少なくとも1つのセンサが、実質的にこの主長手方向中心線の長手延在方向全体に沿って延びる実施形態が特に好ましい。主長手方向中心線は、インプラントの内部、特にインプラント本体の内部の中心の長手延在方向全体に沿って延びる線を構成する。したがって、少なくとも1つのセンサは、好ましくはインプラントと実質的に同じ長さを有する。インプラントが、例えば全体的に屈曲した又は螺旋状の形態を示す場合、少なくとも1つのセンサが同様に全体的に屈曲した又は螺旋状に形成された設計を有するように、主長手方向中心線も相応して屈曲した又は螺旋状に形成された設計をそれぞれ有する。これには、インプラントの長手延在方向全体に沿った測定が可能であり、測定がインプラント全体を網羅することができ、インプラントの個々の点に限定されないという利点がある。こうして、インプラントをその全長にわたって完全に制御及び監視することができる。
【0040】
少なくとも1つのセンサがマイクロワイヤである場合、これは、実質的にこの主長手方向中心線の長手延在方向全体に沿って、完全に連続的に又は隣接する整列した区画として断片的に延びることができる。言い換えると、インプラントは、主長手方向中心線に沿って一定の間隔をおいて配置された複数のセンサ、すなわちマイクロワイヤを備えることができる。幾つかの整列した区画が設けられる場合、これらは、好ましくは互いに規則的な間隔をおいて配置される。幾つかの整列した区画の利点の1つは、例えばインプラント本体の主長手方向中心線に沿った荷重分布の違いが測定可能となるように、異なる区画に対する個別の測定が可能であることであり得る。
【0041】
インプラントは、互いに平行に延びる幾つかのかかるセンサを含むこともできる。好ましくは、センサは、互いに平行に延びるだけでなく、インプラントの設計に応じて屈曲した構成を有し得る主長手方向中心線にも平行に延びる。互いに平行に配置された幾つかのセンサを設けることにより、インプラントに影響を与えるねじり力を検出することが可能となる。
【0042】
インプラントは、特に、脊椎インプラント、例えば椎体の人工補綴物、椎間板の人工補綴物、ダウエル、スクリューアンカー、固定用プレート、椎弓根スクリュー、又は椎弓根システムのコネクティングロッドとすることができる。固定用プレートの場合、固定用プレートは、脊椎を前方、外側又は後方領域で固定するためのプレートであり得る。代替案として、インプラントは外傷用インプラント、例えば特に一般的なアンカーシステム、言い換えると、例えばスクリューアンカーもしくはダウエル、又は骨プレートもしくは骨スクリューとすることもできる。
【0043】
少なくとも1つのセンサは、好ましくは少なくとも450℃までの温度安定性を有する。すなわち、少なくとも1つのセンサは、450℃を超えない温度に曝される限り、損傷を受けない。有利には、少なくとも1つのセンサによる450℃の温度までの測定も可能である。少なくとも1つのセンサのかかる構成は、インプラント製造プロセスの点で利点を有する。それにより、少なくとも1つのセンサは、温度値の上昇により損傷を受けることなく、製造プロセス中に早い時点でインプラントに組み込むことができる。それにより、有利には、製造プロセスを監視するために、製造プロセス中にすでに少なくとも1つのセンサによる測定を行うことも可能である。例えば、インプラントの品質に関する結論を導き出すために、製造プロセス中のインプラント本体に作用する影響、例えば特に圧力及び温度を測定することができる。
【0044】
本発明は、さらに、インプラントの状態及び/又はインプラントが挿入されたヒトもしくは動物の身体の治癒過程の状態を監視する方法であって、インプラントは、特に上記のような骨インプラントとすることができ、インプラントは、治癒過程及び/又はインプラントの状態の1つ又は複数のパラメータを測定するための少なくとも1つの受動型の磁気弾性的なセンサを備える、方法に関する。ここで、センサは、製造プロセス中及び/又は保管中のインプラントの状態を監視するために使用される。
【0045】
好ましくは、特に圧力及び温度の推移は、インプラントの製造プロセス中及び/又は保管中に測定され、有利にはさらに記録される。こうして、インプラントの完全性及び無損傷を保証することができる。圧力及び/又は温度が、例えば製造プロセス及び/又は保管中に特定の許容範囲内で進行しないインプラントは廃棄することができる。こうして、製造欠陥を含むインプラント及び/又は保管中に損傷を受けたインプラントが、ヒト又は動物の身体に植え込まれるのを防ぐことができる。少なくとも1つのセンサによるインプラントのかかる監視は、予め製造プロセス及び/又は保管中に、骨インプラントだけでなく、任意の他のインプラントでも可能である。
【0046】
好ましくは、インプラントの状態は、製造プロセス中及び/又は保管中だけでなく、ヒト又は動物の身体への植え込み直後にも制御される。「植え込み直後」とは、例えば体内への挿入直後、ひいては治癒過程のまさに開始時にインプラントに影響を与える力が測定されることを意味する。こうして、特に体内におけるインプラントの正確な位置を確認することができる。
【0047】
代替的又は付加的であるが、好ましくは、少なくとも1つのセンサにより、ヒト又は動物の身体へのインプラントの植え込み後の治癒過程が監視される。少なくともセンサによる監視、ひいては、例えばインプラントに影響を与える力の測定及び/又は温度の測定は、特に規則的なタイムラグで行うことができる。例えばインプラントに影響を与える力の経過により、治癒過程に関する結論を導き出すことができ、それに応じて、治療を例えば終了又は調整することができる。
【0048】
インプラントの製造には、好ましくは複数のプリプレグ、特に一方向プリプレグが使用され、これらは、圧力及び熱の下で互いに加圧グラウティングされる。プリプレグは、繊維-マトリックス-半製品、ひいては、好ましくはプラスチックマトリックス中に配置された強化繊維を含む半製品であると理解される。強化繊維は、好ましくは炭素繊維である。プリプレグは、例えばストランド、バンド又はプレートの形態で存在することができる。圧力及び温度の下でプリプレグを加圧グラウティングすることにより、プリプレグは、好ましくは連続的に溶着され、インプラントの最終形態になる。加圧グラウティング後、プリプレグは、好ましくはインプラント本体を形成する。
【0049】
加圧グラウティング前に、少なくとも1つのセンサをプリプレグの間に配置することができ、その後、互いに加圧グラウティングすることで、加圧グラウティングプロセス中にセンサが同様にプリプレグの間に配置され、それにより少なくとも部分的に、好ましくは完全に最終インプラントのインプラント本体の内部に位置するようになる。代替的には、少なくとも1つのセンサを加圧グラウティングプロセス中にすでにプリプレグの1つに埋め込むことができる。その場合、プリプレグの1つへのセンサの埋め込みは、加圧グラウティング前に予め行われる。こうして、センサをインプラント内に最適に配置することができる。
【0050】
本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して以下に説明するが、これらは単に説明を目的とし、限定的なものとは解釈されない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の第1の実施形態による、椎弓根固定システムの形態であり、脊椎の椎体に固定された骨インプラントの概略図である。
【
図2a】
図1の椎弓根固定システムのコネクティングロッドの側面図である。
【
図2b】面II-IIにおける
図2aのコネクティングロッドの横断面図である。
【
図3a】本発明の第2の実施形態による椎弓根固定システムのコネクティングロッドの形態の骨インプラントの側面図である。
【
図3b】面III-IIIにおける
図3aのコネクティングロッドの横断面図である。
【
図4a】本発明の第3の実施形態による椎弓根固定システムのコネクティングロッドの形態の骨インプラントの側面図である。
【
図4b】面IV-IVにおける
図4aのコネクティングロッドの横断面図である。
【
図5】本発明の第1の変形形態による骨インプラントの製造プロセスのフロー図である。
【
図6】本発明の第2の変形形態による骨インプラントの製造プロセスのフロー図である。
【
図7a】本発明による異なる骨インプラントを製造する目的で加圧グラウティングの直前に加圧グラウティングツールに挿入された幾つかのプリプレグの概略横断面図である。
【
図7b】プリプレグの加圧グラウティング中の
図7aの加圧グラウティングツールの概略横断面図である。
【
図8】加圧グラウティングプロセスを監視する目的でのセンサの読み取り中の
図7bの製造工程の概略図である。
【
図9】治癒過程を監視する目的でのセンサの読み取り中の
図1の骨インプラントの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1~
図9には、本発明による医療用の骨インプラントの様々な実施形態、並びにかかるインプラントの様々な好ましい製造様式が示される。同等又は類似の効果を有する異なる実施形態の要素は、以下において同じ参照番号で指定する。
【0053】
図1は、患者の脊椎の幾つかの椎体Wに固定される動的な椎弓根固定システム1を示す。椎体Wは、椎間板Bによって互いに分離される。図示の骨領域の安定に役立つ椎弓根固定システム1は、全体として骨インプラントを形成し、各々が椎体Wの椎弓根のスクリュー軸部12にねじ込まれる幾つかの椎弓根スクリュー11を備える。各スクリューは、有利には多軸的に調整可能なチューリップヘッド13により、連続したコネクティングロッド14に取り付けられる。椎弓根スクリュー11、チューリップヘッド13及びコネクティングロッド14はそれぞれ、体内への配置及び脊椎への(直接的又は間接的な)取り付けにより、それ自体が骨インプラントを形成する。
【0054】
図1に示す固定システムの他の実施形態も考えられる。それにより、例えば、図示の5つの椎弓根スクリューの代わりに、2つの椎弓根スクリューのみを適用するという意味で椎弓根スクリュー11の数を変えることができる。同様に、椎弓根スクリューの数は、5つを超えてもよい。さらに、椎弓根システムは、通常の場合のように、各々が1つのコネクティングロッドに連結された2つの平行な列の椎弓根スクリューを備えることができる。
【0055】
僅かに屈曲したコネクティングロッド14の内部には、1つ又は複数のセンサが配置される。この場合、センサは、コネクティングロッド14の主長手方向中心線に沿って長手方向に連続的に延びるマイクロワイヤ2によって形成される。例えば同様にマイクロワイヤの形態の受動型のセンサを、それぞれの椎弓根スクリュー11に埋め込むこともできる。
【0056】
マイクロワイヤ2は、逆磁歪を有する強磁性体で形成される。コネクティングロッド14、ひいてはマイクロワイヤ2に作用する力及び/又は温度が変化すると、マイクロワイヤ2は、例えば僅かに変形、圧縮、ねじれ及び/又は延伸を起こす。その結果、磁気弾性効果により、マイクロワイヤ2の材料の透磁率が変化し、これは、読み取り装置5によって検出可能及び測定可能である(
図11参照)。
【0057】
図2aは、
図1の椎弓根固定システムのコネクティングロッド14単独を側面図により示す。コネクティングロッド14の僅かな湾曲が認められる。破線は、インプラントの主長手方向中心線の真上を、その全長にわたって延びるマイクロワイヤ2の位置を示す。
【0058】
図2bの横断面図には、同じコネクティングロッド14の内部構造が概略的に示される。インプラント本体は、複数の炭素繊維32が埋め込まれたプラスチックマトリックス31によって形成される。炭素繊維32は、コネクティングロッド14の主長手方向中心線に沿って互いに平行に延びる。これにより、コネクティングロッド14に特に良好な構造的安定性が与えられる。マイクロワイヤ2は、コネクティングロッド14の中央で中心的に延びる。
【0059】
プラスチックマトリックス31として、熱可塑性プラスチック、好ましくはポリアリールエーテルケトン、ポリイミド又はポリスルホンのファミリーの、いわゆる高温熱可塑性プラスチックが使用される。炭素繊維の繊維長は少なくとも1mmであるが、好ましくはコネクティングロッド14の主伸長方向の全長に相当する長さである。
【0060】
繊維の体積含有率は、20~80%の範囲、好ましくは35~70%の範囲、特に好ましくは45~60%の範囲である。
図4bに示すコネクティングロッド14は、円形の断面を有する。長方形又は六角形等の他の断面形態も考えられる。
【0061】
図2a及び
図2bに示すコネクティングロッド14の直径は、好ましくは2~10mmの範囲、好ましくは4~6mmの範囲である。コネクティングロッド14の長手方向における幾何学的な実施態様は、直線状もしくは湾曲、又は長手方向の区画が直線状であり、隣接する区画が湾曲している、その両方の組み合わせとすることができる。長手方向の1つの区画が凸状に湾曲し、隣接する区画が凹状に湾曲する、長手方向における幾何学的な実施態様も考えられる。湾曲した実施形態の曲率半径は、好ましくは50~600mmの範囲である。他の曲率半径も考えられる。コネクティングロッド14の長さは、好ましくは50~500mmの範囲である。他の長さも考えられる。
【0062】
図2a及び
図2bのコネクティングロッド14に使用されるセンサ2は、受動型のセンサであり、特に熱負荷の影響下でその特定の材料特性が変化し、これが続いて無線で記録され、体内から体外へ伝送される。好ましくは、この目的で、強磁性合金及び逆磁歪を有する磁気弾性マイクロワイヤが使用され、マイクロワイヤ2は、熱負荷下で磁気特性が変化する。磁気特性の変化は、特に透磁率によって記録及び測定することができる。ここで知られている物理現象は、主にビラリ効果、好ましくはバルクハウゼンジャンプである。当業者には、少なくとも1つのセンサ、すなわち、この場合にはマイクロワイヤ2をどのように設計すべきか、また測定がバルクハウゼン効果に基づくために、どのように読み取りを行うべきかが知られている。当業者は、かかる示唆を、例えば国際公開第2007/116218号及び欧州特許第3150998号明細書から得る。
【0063】
ここで、10μm~250μmの範囲の直径を有し、好ましくはインプラントの全長にわたって、完全に連続的に又は隣接する区画で断片的に延びるマイクロワイヤ2の実施形態が好ましくは使用され、それにより、コネクティングロッド14の構成要素の全長を完全に制御及び監視することができる。かかる受動型のセンサの特に好ましい実施形態は、少なくとも450℃までの温度安定性を有し、少なくとも±0.1Kの温度記録精度を有するものである。コネクティングロッド14内のマイクロワイヤ2の好ましい配置は中央であるが、中央でない配置も考えられる。コネクティングロッド14内のこのマイクロワイヤ2の実施形態を用いると、植え込み前にコネクティングロッド14の製造プロセス及び/又は保管中の温度を記録し、無線で伝送することも可能である。
【0064】
図2bの実施形態におけるセンサの数は1つである。しかしながら、同じタイプの幾つかのセンサをコネクティングロッド14に組み込むことが可能である。
【0065】
図3a及び
図3bに示す実施形態は、コネクティングロッド14の主長手方向中心線に沿って互いに平行に延びる幾つか、具体的には4つのマイクロワイヤ2がコネクティングロッド14に設けられている点で
図2a及び
図2bの実施形態とは異なる。また、4つのマイクロワイヤ2が全て主長手方向中心線から少し離れて配置され、すなわち、コネクティングロッド14内で中心からずれて延びる。ここで、マイクロワイヤ2は、機械的負荷、例えば張力、圧力、たわみ及び/又はねじれを測定する役割を果たす。当然ながら、他の実施形態では、4つより多いか又は4つより少ないマイクロワイヤ2をコネクティングロッド14に組み込むことも可能である。マイクロワイヤ2は、特に引張力及び圧縮力を記録及び測定する役割を果たす場合に中央に配置することも考えられる。
【0066】
このため、例えば
図2a及び
図2bの実施形態の場合のように、マイクロワイヤ2を中央に配置する場合、引張力及び圧縮力が測定可能である。また、例えば
図3a及び
図3bの実施形態のように、マイクロワイヤ2を中心からずらして配置する場合、付加的又は代替的に曲げ力及びねじり力を記録することができる。
【0067】
図4a及び
図4bに示す実施形態は、
図2a、
図2b及び
図3a、
図3bの実施形態とは異なり、ここでは、コネクティングロッド14内で互いに平行に延びる5つのマイクロワイヤ2が設けられ、そのうち1つがコネクティングロッド14のほぼ中央に配置され、それ以外は少し離れて配置される。中心からずらされて配置された4つのマイクロワイヤ2は、例えば張力、圧力、たわみ及び/又はねじれ等の機械的負荷を測定する役割を果たす。また、ほぼ中心に配置されたマイクロワイヤ2は、熱負荷を測定する役割を果たす。当然ながら、他の配置及び異なる数のマイクロワイヤ2も可能である。
【0068】
図2a~
図4bの実施形態で設けられる受動型のセンサは、必ずしもマイクロワイヤの形態である必要はなく、他の形態を有することもできる。
【0069】
図5及び
図6は、いずれの場合にも、原料から最終部品までの本発明によるインプラントの製造を可視化したフロー図を表す。
図2a及び
図2bに示すコネクティングロッド14の製造が一例とされる。ここで、コネクティングロッド14の製造の2つの変形形態が存在し、同様に好ましい場合がある。
【0070】
図5に示す第1の変形形態では、一方向繊維強化プリプレグ3が本例に使用され、これは、いずれの場合にもプラスチックマトリックス31に埋め込まれた炭素繊維32を含む。同様に、組織プリプレグを使用することもできる。この第1の変形形態に使用される一方向繊維強化プリプレグ3は、いずれの場合にも幾何学的に層状であり、好ましい幅は1~50mm、好ましい厚さは0.1~0.5mmである。幅及び厚さに関して他の寸法も可能である。例えば円形のような他の幾何学的な実施形態も可能である。プリプレグ3は、通常、長手方向で適合させられ、その長さは、好ましくは少なくともコネクティングロッド14の長さに相当する。繊維については、好ましくは炭素繊維32が使用され、少なくとも1mmの繊維長を有するが、好ましくはコネクティングロッド14の主伸長方向の全長に相当する長さを有する。
【0071】
繊維の体積含有率は、20~80%の範囲、好ましくは35~70%の範囲、特に好ましくは45~60%の範囲である。プラスチックマトリックス31の材料として、熱可塑性プラスチック、特に好ましくはポリアリールエーテルケトン、ポリイミド及びポリスルホンのファミリーの、いわゆる高温熱可塑性プラスチックが使用される。
【0072】
プリプレグ3は、第2の工程で、それぞれ幾何学的に正確にプリフォームして配置されるか、又は積層され、その間にマイクロワイヤ2が中心で配置される。プリプレグ3の配置は、例えばテープレイイングプロセス又は3Dプリンタによって手動又は自動で行うことができる。センサ、この場合にはマイクロワイヤ2の配置は、例えば3Dプリンタを用いて手動又は自動で行うことができる。プリプレグ3及びセンサの配置の精度は、プリプレグ3が互いに及びマイクロワイヤ2に予め溶着され、続いて冷却されるという意味で、圧力及び温度によって改善することができる。
【0073】
第3の工程では、例えばプリフォームを、加圧グラウティングツール内でプラスチックマトリックス31の融点を超える加工温度まで加熱し、コネクティングロッド14の端部輪郭に加圧グラウティングし、冷却する。ここで、組み込まれたマイクロワイヤ2は、コネクティングロッド14の圧力及び温度に関連する製造データを、記録する目的で、予め無線で伝送することができる。
【0074】
図6に示す第2の変形形態では、2つの異なるタイプの一方向繊維強化プリプレグ3が出発物質として本例に使用される。一方のタイプのプリプレグ3の組成は、第1の変形形態に使用したプリプレグ3の組成と類似している。また、この第2の変形形態では、初めに、他のプリプレグ3と同じ組成を有するが、中心に埋め込まれたマイクロワイヤ2の形態のセンサをさらに備えるプリプレグ3が使用される。このプリプレグの長さ、厚さ及び形状は、第1の変形形態のものに相当する。マイクロワイヤ2の長さは、少なくともコネクティングロッド14の全長に相当する。
【0075】
プリプレグ3は、この第2の変形形態でも、それぞれ幾何学的に正確にプリフォームに配置されるか、又は積層されるが、ここでは、マイクロワイヤ2を有するプリプレグ3が間に挟まれて中心に配置される。プリプレグ3の配置は、例えばテープレイイングプロセス又は3Dプリンタによって手動又は自動で行うことができる。
【0076】
第3の工程では、例えばプリフォームを、ここでも加圧グラウティングツール内で、それぞれプラスチックマトリックス31又はプリプレグ3の融点を超える加工温度まで加熱し、コネクティングロッド14の端部輪郭に加圧グラウティングし、冷却する。ここでも、組み込まれたマイクロワイヤ2は、コネクティングロッド14の圧力及び温度に関連する製造データを記録する目的で、予め無線で伝送することができる。
【0077】
図5及び
図6に示し、説明する、センサが組み込まれたコネクティングロッド14の製造のための変形形態は、好ましくは端部輪郭近くでの製造プロセスであり、すなわち、そのように製造されるインプラントは、通常、形状及び寸法に関して僅かな後加工しか必要とせず、その間にセンサの配置は変更されないままである。
【0078】
図7a及び
図7bは、マイクロワイヤ2が組み込まれた本発明によるコネクティングロッド14の好ましい製造プロセスを概略的に示す。
【0079】
ここで、例えば鋼又は別の材料で製造され、2つの成形部品を備える成形ツール4が使用される。2つの成形部品の一方がスタンプ41を形成し、成形部品が一緒になって二次断面を有するキャビティ42を形成する。
図6に示す第2の変形形態によると、プリプレグ3は、室温又はプラスチックマトリックス31の融点よりはるかに低い温度で、それぞれキャビティ42内で幾何学的に正確にプリフォームに配置されるか、又は積層される。マイクロワイヤ2を有するプリプレグ3は、他のプリプレグ3に対して中心となるようにキャビティ42に配置される。
【0080】
続いて、プリフォームを、それぞれプラスチックマトリックス31又はプリプレグ3の融点を超える加工温度まで加圧グラウティングツール4で加熱し、2つの成形部品を閉じることによってコネクティングロッド14の端部輪郭に加圧グラウティングし、続いて冷却する。組み込まれたマイクロワイヤ2は、加圧グラウティングプロセス中の製造データを予め測定し、記録を目的として無線で伝送することができる。
【0081】
図8は、本発明による好ましいインプラントの製造プロセス中のデータ記録及び伝送の概略図を示す。これは、
図7bに示される製造工程によって例示的に説明される。監視システムは、この場合にはマイクロワイヤ2として存在する受動型のセンサの他に、送信機51及び受信機52を有する読み取り装置5、並びに演算ユニット6を備える。読み取り装置5は、加圧グラウティングツール4から間隔をおいて配置され、それに関連するケーブル接続を全く有しない。
【0082】
ここで、加圧グラウティングツール4による加圧グラウティングプロセス中にすでに、送信機51は、電磁的な励起53を無線で生じさせ、これは、コネクティングロッド14の内部に配置されたマイクロワイヤ2もカバーする。この励起53により、信号54がマイクロワイヤ2から送り返され、受信機52を介して読み取り装置5により、例えばオシログラフィー方式で記録される。マイクロワイヤ2の磁気弾性のため、ここでの信号54は、コネクティングロッド14、ひいてはマイクロワイヤ2が加圧グラウティングプロセス中に受ける圧力及び温度に依存する。したがって、読み取り装置5から受信した信号54に基づき、コネクティングロッド14の圧力及び温度に関するデータが収集される。
【0083】
次いで、これらの収集されたデータは、その後の分析及び記録のためにケーブル伝送61又は無線伝送62によって演算ユニット6に伝送される。
【0084】
図9には、植え込まれた状態での本発明によるインプラントのデータ収集及び伝送の概略図を示す。ここで、データ収集及び伝送は、治癒過程を監視するのに役立つ。ここで、監視システムは、マイクロワイヤ2の形態の受動型の磁気弾性的なセンサがコネクティングロッド14に組み込まれた、
図1に示す椎弓根固定システム1と組み合わせて示される。ここでの監視システムは、マイクロワイヤ2の他に、送信機51及び受信機52を有する読み取り装置5、並びに演算デバイス6も備える。読み取り装置5及び演算デバイス6は、体外に配置され、皮膚Hによって椎弓根固定システム1から分離される。
【0085】
送信機51は、電磁的な励起53を無線で生じさせ、これは、特に椎弓根固定システム1に存在するマイクロワイヤ2にも影響を与える。励起53により、マイクロワイヤ2は、皮膚Hを介して信号54を送り返し、これが受信機52を介して読み取り装置5により検出される。信号54は、マイクロワイヤ2の磁気弾性のため、コネクティングロッド14、ひいてはマイクロワイヤ2が受ける機械的負荷及び温度に依存する。したがって、読み取り装置5は、受信した信号54に基づき、コネクティングロッド14の機械的負荷及び温度に関するデータを測定することができる。
【0086】
次いで、こうして決定されたデータは、その後の分析のためにケーブル伝送61又は無線伝送62によって演算ユニット6に伝送される。測定データに基づき、医師又は医療関係者は、例えば治療を調整又は終了することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 椎弓根固定システム
11 椎弓根スクリュー
12 スクリュー軸部
13 チューリップヘッド
14 コネクティングロッド
2 マイクロワイヤ
3 プリプレグ
31 プラスチックマトリックス
32 炭素繊維
4 加圧グラウティングツール
41 スタンプ
42 キャビティ
5 読み取り装置
51 送信機
52 受信機
53 励起
54 信号
6 演算ユニット
61 ケーブル伝送
62 無線伝送
W 椎骨
B 椎間板
H 皮膚
【国際調査報告】