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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】凍結乾燥組成物およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241219BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20241219BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20241219BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
C12N1/20 C
C12N1/04
C12N1/02
C12N1/20 Z
C12R1:01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536142
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2022085648
(87)【国際公開番号】W WO2023110886
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215744.0
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21215746.5
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524226818
【氏名又は名称】エス-バイオメディック
【氏名又は名称原語表記】S-Biomedic
【住所又は居所原語表記】Turnhoutseweg 30, 2340 Beerse, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シベ ハートマンス
(72)【発明者】
【氏名】リヒャート ヘッセ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA46
4B065CA50
(57)【要約】
本発明は、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法、得られた凍結乾燥組成物、前記凍結乾燥組成物を含む局所投与用組成物、およびヒト被験者においてにきびを処置または防止するためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法であって、
a)クロスフロー精密濾過により発酵ブロスから少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の細菌細胞を濃縮して、前記細胞を含むバイオマス濃縮物を得る工程と、
b)任意に、前記バイオマス濃縮物を洗浄して、洗浄済みバイオマス濃縮物を得る工程と、
c)前記濃縮または洗浄済みバイオマス濃縮物に少なくとも1つの凍結保護剤を含む水溶液を調合して、バイオマス調合物を得る工程と、
d)前記バイオマス調合物を凍結乾燥させて、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を得る工程と
を含む方法。
【請求項2】
1ヵ月後、好ましくは3ヵ月後の保存時の前記凍結乾燥組成物における前記非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率が、遠心分離による濃縮と比較して少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%増加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記バイオマス濃縮物を、前記工程b)において、クエン酸、レチノイン酸、フェルラ酸、グリコール酸、乳酸、フルーツ酸、サリチル酸およびヒアルロン酸ならびにそれらの混合物からなる群から選択される有機酸、好ましくはクエン酸の水溶(緩衝)液で洗浄する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマス濃縮物を、10~100mM、好ましくは20~80mM、より好ましくは30~70mM、例えば40、50および60mMのクエン酸水溶(緩衝)液で洗浄する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記濃縮バイオマスを、クロスフロー精密濾過中に洗浄する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記有機酸の水溶液を工程a)で得られた前記バイオマス濃縮物に添加し、再びクロスフロー精密濾過に供し、好ましくはこれを、得られた前記洗浄済みバイオマス濃縮物における前記非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の含有量が少なくとも1×1010CFU/g、より好ましくは少なくとも1×1011CFU/gとなり、最も好ましくは90%超の生存細胞が回収されるまで行う、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程c)において、前記バイオマス濃縮物と、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのアルコール類;グルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、フルクトース、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビビルピロジドン(PVP)、スキムミルク、ゼラチン、タンパク質およびタンパク質加水分解物、ペプチド、酵母、ブロス、デキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、ポビドン、血清、ペプトンなどのポリマー;硫酸ナトリウム、乳酸カルシウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩類;クエン酸、リン酸、グルタミン酸、酒石酸、アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの酸;水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩基;およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの凍結保護剤との混合によって、前記バイオマス濃縮物または前記洗浄済みバイオマス濃縮物を調合する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの凍結保護剤が、スクロース、マルトデキストリン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記工程c)における調合物が、前記バイオマス調合物の総重量に対して1~20重量%、好ましくは5~15重量%、より好ましくは6~12重量%、例えば6、7、8、9、10、11および12重量%の凍結保護剤を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株が、C.アクネス(C.acnes)菌株のI型、例えばIA(すなわち、IAおよびIA)型およびIB型ならびにII型、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、C.アクネス(C.acnes)菌株D1、A5、C3、H1、H2、H3、K1、K2、K4、K6、K8、K9、L1およびF4、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株が、C.アクネス(C.acnes)菌株C3またはC.アクネス(C.acnes)菌株K8、およびそれらの混合物である、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法により得られた凍結乾燥組成物を1種以上含む、凍結乾燥組成物。
【請求項13】
前記凍結乾燥組成物の生存率における前記非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の初期生存率が、前記組成物の総重量に対して少なくとも1×1010CFU/gである、請求項12記載の凍結乾燥組成物。
【請求項14】
前記組成物の残留含水率が、前記組成物の総重量に対して3重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1.5重量%未満、最も好ましくは1.2重量%未満である、請求項12または13記載の凍結乾燥組成物。
【請求項15】
前記凍結乾燥組成物が、RT、好ましくは40℃で4週間保存した後に、前記菌株の生存率を少なくとも80%、好ましくは85%、より好ましくは90%維持する、請求項12から14までのいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法、得られた凍結乾燥組成物、前記凍結乾燥組成物を含む局所投与用組成物、およびヒト被験者においてにきびを処置または防止するためのその使用に関する。
【0002】
発明の背景
にきび(尋常性ざ瘡の俗称)は、一般的な炎症性慢性皮膚疾患であり、毛包の毛包脂腺単位に影響を及ぼす。青少年および若年成人の約85%がこの疾患に罹患していると推定されている。にきびは一般に、炎症性の丘疹、膿疱または結節を呈する。炎症はさらに、発赤、腫脹、圧迫痛を伴うことがある。
【0003】
にきびは、ある種の(以下では病原性と称される)キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)(C.acnes)菌株の存在と高い相関関係があるが、一方で、以下では非病原性と称されるその他のC.アクネス(C.acnes)菌株は、皮膚に悪影響を及ぼさないことが判明している。したがって、にきびの程度および/または重症度を軽減するために、にきび皮膚に存在する病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株に置き換えることが近年提案された(A. Karoglan et al., Acta Derm Venereol 2019, 99:1253-1257参照)。この文脈において、国際公開第2016172196号では、にきびを有する被験者の皮膚に殺菌剤または抗生物質を局所投与して病原性C.アクネス(C.acnes)の集団を有意に減少させ、続いてこの皮膚に1つ以上の生きた非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を局所投与するという連続した工程を含む、にきびを処置するアプローチが提案されている。この処置により、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株が自然な皮膚マイクロバイオームの一部となるため、これを、にきびの処置または防止、ならびににきびのない状態の皮膚の維持に使用することができる。
【0004】
国際公開第2018073651号には、2つ以上の異なる生きた非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む皮膚への局所投与用組成物であって、バイオマスが、遠心分離によって収集され、大豆ペプトンに再懸濁され、その懸濁液が次いでゲルとして調合される局所投与用組成物が開示されている。
【0005】
しかし、国際公開第2018083651号に概説されているような製品形態は、クリームやローションのような多種多様な一般的な化粧品の製品形態に組み込むのに容易には適していない。したがって、高い生存率、すなわち少なくとも1×10CFU/gの生存率を示しつつ、取扱い、保存、出荷が容易な代替製品やそのような製品形態の調製方法に対する需要が、業界では継続的に存在する。
【0006】
驚くべきことに、バイオマスを精密濾過によって分離した場合に、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物における生存率を著しく改善できることが見出された。さらに、洗浄工程によって、生存率をさらに改善できることが見出された。加えて、洗浄工程は、凍結乾燥および保存後の含水率をさらに驚くほど低下させ、これは有益である。
【0007】
発明の概要
本発明は、本明細書で概説される方法により非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を製造する方法を提供する。前記方法は、菌株の高い生存率および保存安定性を有する非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を提供する。
【0008】
本発明はまた、本明細書で概説および定義される方法によって製造される少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を提供する。
【0009】
本発明はさらに、ヒト被験者においてにきびを処置または防止するための上記凍結乾燥組成物の使用を提供する。
【0010】
本発明はまた、本明細書で概説される方法によって製造される凍結乾燥組成物を含む局所投与用組成物を提供する。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒト被験者においてにきびを防止するための、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法を提供する。
【0012】
特に、本発明は、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法であって、
a)精密濾過、好ましくはクロスフロー精密濾過により発酵ブロスから少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の細菌細胞を濃縮して、前記細胞を含むバイオマス濃縮物を得る工程と、
b)任意に、前記バイオマス濃縮物を洗浄して、洗浄済みバイオマス濃縮物を得る工程と、
c)濃縮または洗浄済みバイオマス濃縮物に少なくとも1つの凍結保護剤を含む水溶液を調合して、任意に洗浄されたバイオマス調合物を得る工程と、
d)前記バイオマス調合物を凍結乾燥させて、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を得る工程と
を含む方法を提供する。
【0013】
驚くべきことに、本発明の発明者らは、工程a)におけるクロスフロー精密濾過による濃縮が、発酵ブロス中の生存可能な非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株のほとんどすべてを保存し、その保存時に凍結乾燥組成物におけるその生存率を有意に増加させることを発見した。洗浄工程はさらに、生存細胞の回収を改善し、得られた凍結乾燥組成物の含水率を減少させる。
【0014】
本発明において、「非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株」という用語は、培地中でのcis-9、cis-12リノール酸の転化または分解が遅いかまたは無視できる程度である菌株、例えば、C.アクネス(C.acnes)菌株のI型、例えばIA(すなわち、IAおよびIA)型およびIB型ならびにII型を指す。本発明による非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の例としては、国際公開第2016172196号に概説および開示されているようなC.アクネス(C.acnes)菌株D1、A5、C3、H1、H2、H3、K1、K2、K4、K6、K8、K9、L1およびF4が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株は、C.アクネス(C.acnes)菌株D1、A5、C3、H1、H2、H3、K1、K2、K4、K6、K8、K9、L1およびF4からなる群から選択される。より好ましくは、本発明の非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株は、C.アクネス(C.acnes)菌株C3および/またはK8から選択される。
【0015】
本発明において、「生存率」という用語は、本発明による凍結乾燥組成物などの試料中の生存細胞の濃度を指し、試料の「CFU/g」または「CFU/ml」で表すことができる。
【0016】
本発明において、「発酵ブロス」という用語は、例えば国際公開第2018073651号で概説される非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を培養した後に得られる混合物を指す。発酵ブロスが、C.アクネス(C.acnes)菌株以外に、水、アミノ酸などの栄養素、プロピオン酸などの有機酸、炭水化物、種々のビタミン、増殖因子などの、発酵ブロス中に一般的に存在する成分をさらに含み、これらは菌株が増殖するために必要であり、また培養中に微生物自体によって形成される生成物も含むことは、当業者にはよく理解されている。
【0017】
本明細書で使用される「皮膚」という用語は、哺乳動物、特にヒトの外表面を含むことを意味し、皮膚および頭皮を含む。本発明のすべての実施形態において好ましい皮膚は、最も好ましくは顔面の皮膚などの顔面および身体の皮膚である。
【0018】
本明細書で使用される「防止」という用語は、にきびを発症するリスクを低減することを指す。
【0019】
本明細書で使用される「処置」という用語は、にきびの症状の改善、発症の遅延および/または期間の短縮を指す。処置は、予防的(美容的)であっても治療的であってもよい。好ましくは、処置は予防的である。
【0020】
本発明のすべての実施形態において、好ましくは、各菌株は別々に培養され、それに応じて、上記で概説される本発明の方法により得られた凍結乾燥組成物は、好ましくは、特にC.アクネス(C.acnes)菌株C3またはC.アクネス(C.acnes)菌株K8のようなC.アクネス(C.acnes)菌株を1種のみ含む。しかし、本発明によれば、凍結乾燥工程d)で使用される発酵ブロスが、例えば共培養により、または非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を各々が1種(または複数種)含む発酵ブロスの2種以上の組み合わせにより、C.アクネス(C.acnes)菌株を2種以上含み、それにより非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を2種以上含む凍結乾燥品を得ることを排除するものではない。さらに、工程d)で得られた2種以上の凍結乾燥組成物であって、各々が非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を1種含むものを混和することにより、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を2種以上含む本発明による凍結乾燥組成物を得ることも可能であることが理解される。
【0021】
本発明のすべての実施形態において、本発明による工程a)で使用される発酵ブロスは、好ましくは約10~1012CFU/g、好ましくは10~1011CFU/gの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む。
【0022】
本発明のすべての実施形態において、発酵ブロスが、発酵ブロスの総体積に対して1~5体積%の範囲、好ましくは1.5~3体積%の範囲で選択されるバイオマス体積(すなわち、そのサンプルの遠心分離後に得られるペレット体積)を有するとさらに有利である。
【0023】
発酵後、濃縮する前に、発酵ブロスは総じて、当該技術分野における標準的な方法より、例えば容器に移すことによって回収される。特に、本発明における発酵ブロスは、約0~20℃、好ましくは5~15℃、より好ましくは6~12℃、例えば8℃で回収することができ、その後、濃縮のために例えば容器タンクに移すことができる。
【0024】
本発明のすべての実施形態において、工程a)における精密濾過は、好ましくはクロスフロー精密濾過であり、さらにより好ましくはセラミックメンブレンフィルターが使用される。さらにより好ましくは、前記メンブレンフィルターは、0.1~10μmの範囲、好ましくは0.25~0.75μmの範囲、最も好ましくは0.4~0.5μmの範囲で選択される保持(孔径)を有する。このようなメンブレンは当該技術分野で周知であり、例えばTAMIで市販されている。
【0025】
前記クロスフロー精密濾過によって得られるバイオマス濃縮物が総じて、バイオマスの水性媒体懸濁液であることを特徴とすることは、当業者に周知である。
【0026】
本発明によれば、精密濾過は、0.1~10bar、好ましくは1~8bar、より好ましくは1.5~5bar、例えば1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5および5barの圧力下で、0~20℃、好ましくは5~15℃、例えば8、9、10、12および15℃の温度で行うことができる。
【0027】
本発明の工程a)において、発酵ブロスは好ましくは、発酵ブロスの初期重量の5~50重量%のバイオマス濃縮物が得られるまで濃縮される。より好ましくは、発酵ブロスは、初期発酵ブロスの重量の10~35重量%、より好ましくは15~30重量%のバイオマス濃縮物が得られるまで濃縮される。したがって、好ましい一実施形態において、バイオマス濃縮物は、発酵ブロスの重量の5~50重量%、より好ましくは10~35重量%、最も好ましくは15~30重量%を占める。
【0028】
遠心分離と比較して、本発明の工程a)における精密濾過は、1ヵ月後、好ましくは3ヵ月後、さらに40℃での保存時に、本発明の方法により得られた凍結乾燥品における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率を少なくとも10%、20%、30%、40%50%またはそれ以上増加させる。好ましくは、本発明の工程a)における(クロスフロー)精密濾過は、遠心分離と比較して、凍結乾燥品における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率を少なくとも30%増加させる。さらにより好ましくは、本発明の工程a)における精密濾過は、遠心分離と比較して、凍結乾燥品における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率を少なくとも40%増加させる。最も好ましくは、本発明の工程a)における精密濾過は、遠心分離と比較して、凍結乾燥品における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率を少なくとも50%増加させる。
【0029】
任意に、工程a)で得られた濃縮バイオマスは、本発明の方法の工程b)による洗浄によってさらに処理される。驚くべきことに、本発明の発明者らはまた、前記洗浄工程が、生存細胞の回収を有意に改善し、かつ本発明による凍結乾燥組成物の含水率を低下させ、これは有益であることを発見した。
【0030】
本発明の工程b)において、バイオマス濃縮物を、スキンケア、特ににきびの処置または防止に適した任意の有機酸の水溶液で洗浄することができる。適切な有機酸の例としては、クエン酸、レチノイン酸、フェルラ酸、グリコール酸、乳酸、フルーツ酸、サリチル酸およびヒアルロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、有機酸はクエン酸である。任意に、有機酸は、クエン酸緩衝液のようなその緩衝液の形態で使用される。
【0031】
本発明のすべての実施形態において、工程a)で得られた濃縮バイオマスを、10~100mM、好ましくは20~80mM、より好ましくは30~70mM、例えば40、50またはさらには60mMのクエン酸水溶液またはクエン酸緩衝液(クエン酸およびクエン酸ナトリウムを含む)で洗浄することが好ましい。
【0032】
好ましくは、本発明の工程b)において、有機酸の水溶(緩衝)液は、濃縮バイオマスの重量の1~10倍、好ましくは2~8倍、より好ましくは3~6倍、例えば3、4、5または6倍の量で使用される。
【0033】
本発明の工程b)において、濃縮バイオマスは、バッチ式で、または連続的に、例えばクロスフロー精密濾過中に洗浄することができる。いくつかの実施形態において、濃縮バイオマスは、水性クエン酸でバッチ式にて洗浄される。他の実施形態において、濃縮バイオマスは、水性クエン酸で連続的に洗浄される。連続洗浄の場合、好ましくは水性クエン酸は、バイオマス濃縮物に添加され、再びクロスフロー精密濾過に供される。
【0034】
本発明のすべての実施形態において、洗浄は好ましくは、バイオマス濃縮物に含まれる酢酸が、バイオマス濃縮物の総重量に対して10重量%未満、好ましくは5重量%未満、最も好ましくは3重量%未満、例えば2、1または0.5重量%未満となるまで継続される。
【0035】
連続洗浄の場合、本発明のすべての実施形態において、有機酸の水溶液を工程a)で得られたバイオマス濃縮物に添加し、再びクロスフロー精密濾過に供することがさらに好ましく、より好ましくはこれは、得られた洗浄済みバイオマス濃縮物における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の含有量が(再び)少なくとも1×1010CFU/g、好ましくは少なくとも1×1011CFU/gとなり、最も好ましくは、ほぼすべての(90%超、好ましくは95%超、最も好ましくは96%超の)生存細胞が回収されるまで行われる。
【0036】
あるいは連続洗浄の場合、有機酸の水溶液は、工程a)で得られたバイオマス濃縮物に添加され(それにより希釈バイオマス濃縮物が得られ)、その後、洗浄済みバイオマス濃縮物の重量が初期発酵ブロスの重量の25重量%未満、好ましくは20重量%未満となるまで(再び)クロスフロー精密濾過に供される。さらにより好ましくは、洗浄済みバイオマス濃縮物の重量は、発酵ブロスの初期重量の10~20重量%、さらにより好ましくは10~15重量%である。
【0037】
本発明の工程b)において、バイオマス濃縮物を、0~10bar、好ましくは1~8bar、より好ましくは1.5~5bar、例えば1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5および5barの圧力下で、0~20℃、好ましくは5~15℃、例えば8、9、10、12および15℃の温度で洗浄することができる。
【0038】
本願の工程c)において、工程a)で得られた濃縮バイオマスまたは工程b)で得られた洗浄済みバイオマス濃縮物を、バイオマス濃縮物への凍結保護剤の混和によって調合することで、バイオマス調合物が得られる。
【0039】
本発明において、凍結保護剤は、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのアルコール類;グルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、フルクトース、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビビルピロジドン(PVP)、スキムミルク、ゼラチン、タンパク質およびタンパク質加水分解物、ペプチド、酵母、ブロス、デキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、ポビドン、血清、ペプトンなどのポリマー;硫酸ナトリウム、乳酸カルシウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩類;クエン酸、リン酸、グルタミン酸、酒石酸、アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの酸;水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩基;およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0040】
好ましくは、すべての実施形態において、凍結保護剤は、グルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、フルクトース、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビビルピロジドン(PVP)、スキムミルク、ゼラチン、タンパク質およびタンパク質加水分解物、ペプチド、酵母、ブロス、デキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、ポビドン、血清、ペプトン、硫酸ナトリウム、乳酸カルシウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸、リン酸、グルタミン酸、酒石酸、アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)および水酸化アンモニウム;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0041】
より好ましくは、本発明のすべての実施形態において、凍結保護剤は、グルコース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストリン、マルトデキストリン、ペプトン、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウムおよび水酸化アンモニウム;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
最も好ましくは、本発明のすべての実施形態において、凍結保護剤は、スクロース、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ポリエチレングリコール(PEG)、マルトデキストリン、ペプトン、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、グルタミン酸および炭酸水素ナトリウム;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0043】
有利な一実施形態において、凍結保護剤は、スクロース、マルトデキストリン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムの2種以上の組み合わせである。
【0044】
特定の有利な一実施形態において、凍結保護剤は、スクロース、マルトデキストリン、グルタミン酸ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムの組み合わせである。
【0045】
別の特定の有利な実施形態において、凍結保護剤は、スクロース、マルトデキストリンおよびグルタミン酸の組み合わせである。
【0046】
当業者であれば予想されるように、凍結保護剤の水溶液は、本発明によるバイオマス濃縮物または洗浄済みバイオマス濃縮物との混合前に調製される。好ましくは、前記水溶液は透明であり、調製中および保存中に沈殿を示さないことが望ましい。このような水溶液の調製および混合は、当業者に公知の手順に従って行うことができる。
【0047】
本発明のすべての実施形態において、工程c)で得られた調合物は、調合物の総重量に対して1~20重量%、好ましくは5~15重量%、より好ましくは6~12重量%、例えば6、7、8、9、10、11および12重量%の凍結保護剤を含むことができる。
【0048】
調合物を調製した後、これは本発明により工程d)で凍結乾燥される。
【0049】
凍結乾燥は、菌株の保管や長期保存のための十分に確立された方法である。使用されるアプローチは多岐にわたるが、いずれも凍結乾燥に関連する標準的な方法、すなわち、試料を凍結させ、高真空を適用し、真空下で試料を加温して水の昇華を引き起こし、乾燥段階を経て余分な水分を追い出し、最後に試料を密封して水分の取り込みを防ぐという方法に従う。基本的な凍結乾燥プロセスは、凍結、一次乾燥および二次乾燥の3段階に分けることができる。
【0050】
凍結
凍結段階では、本発明の調合物を、-10℃~-50℃、好ましくは-20℃~-40℃、例えば-25℃、-30℃、-40℃に凍結させることができる。
【0051】
本発明において、調合物を、例えば-20℃、-25℃または-40℃で予冷されたトレイに調合物を入れることにより、急速凍結させることができる。
【0052】
本発明において、調合物は好ましくは、例えば1℃/分で-20℃、-25℃または-40℃まで冷却することにより徐々に凍結される。
【0053】
本発明の一実施形態において、調合物は-20℃まで急速に凍結され、次いで1℃/分で-40℃まで冷却される。
【0054】
一次乾燥
調合物が凍結したら、真空を適用して凍結水を除去する。この段階で、本発明の調合物を、1mbar以下、好ましくは0.8mbar以下、より好ましくは0.6mbar以下、最も好ましくは0.5mbar以下、例えば0.1、0.2、0.3、0.4および0.5mbarの真空に供することができる。
【0055】
このような一次乾燥の温度は、-10℃~-50℃、好ましくは-20℃~-40℃、例えば-25℃、-30℃、-40℃とすることができる。
【0056】
当業者であれば理解されるように、一次乾燥に必要な時間の長さは、当該技術分野で知られている比較圧力測定によって決定することができる。本発明では、一次乾燥に30~80時間、好ましくは40~60時間かかる。
【0057】
二次乾燥
上記の一次乾燥の後、調合物はさらに二次乾燥に供され、残留水分が強制的に除去される。この段階では、温度を上昇させながら真空が維持される。
【0058】
当業者であれば理解されるように、調合物を乾燥させすぎないことが重要であり、なぜならば、これは不利になる可能性があるためであり、また同じ理由で、より高い温度の使用も推奨されない。本発明では、調合物の温度を10℃超、例えば20℃、30℃に、但し50℃未満に上昇させる。好ましくは、調合物は周囲温度まで加温される。
【0059】
また当業者であれば理解されるように、本発明の調合物の温度を徐々に上昇させるのがよい。好ましくは、本発明の調合物の温度は、2~20時間、好ましくは5~15時間、より好ましくは6~10時間、例えば6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5および10時間で20℃まで上昇させる。
【0060】
好ましくは、本発明の調合物は、所望の温度まで加温された後にさらに1~10時間維持される。より好ましくは、本発明の調合物は、10℃、20℃または30℃でさらに2~15時間、さらにより好ましくは3~10時間、例えば3、4、5、6、7、8、9および10時間維持される。
【0061】
上記の凍結乾燥操作には、標準的な凍結乾燥装置、例えば、GEA社(ドイツ、ベルリン)のLyovac(商標)装置、Christ社(ドイツ、オステローデ・アム・ハルツ)のGamma 2-20 Freeze dryer LCM-1、Fisher Scientific GmbH社(ドイツ、シュヴェールテ)のChrist Martin(商標)Alpha 1-2 Lyophilisator、およびSP Scientific社(米国、PA)のVirtis Genesis 35L Pilot Freeze dryerを使用することができる。当業者であれば、いずれかの装置を操作して、製造指示に従って本発明の凍結乾燥を行うことができる。
【0062】
調合物の凍結乾燥後、凍結乾燥組成物ケーキが得られる。これは、さらなる使用のために、粉砕し、アルミ袋や瓶などの密封容器内に保存することができる。
【0063】
一実施形態において、本発明の方法は、工程b)を含まない。別の実施形態において、本発明の方法は、工程b)を含む。
【0064】
好ましい一実施形態において、本発明は、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法であって、
a)精密濾過により発酵ブロスから少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の細菌細胞を濃縮して、バイオマス濃縮物を得る工程と、
b)バイオマス濃縮物を洗浄して、洗浄済みバイオマス濃縮物を得る工程と、
c)洗浄済みバイオマス濃縮物に少なくとも1つの凍結保護剤を含む水溶液を調合して、バイオマス調合物を得る工程と、
d)バイオマス調合物を凍結乾燥させて、凍結乾燥組成物を得る工程と
を含み、
工程a)における濃縮および工程b)における洗浄を、クロスフロー精密濾過によって行う、方法を提供する。
【0065】
本発明の方法によれば、得られた凍結乾燥組成物は、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の高い生存率を有する。特に、得られた凍結乾燥組成物は、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の少なくとも1×10CFU/g、好ましくは少なくとも1×1010CFU/g、より好ましくは少なくとも5×1010CFU/g、少なくとも6×1010CFU/g、少なくとも7×1010CFU/g、少なくとも8×1010CFU/g、少なくとも9×1010CFU/g、または少なくとも1×1011CFU/gの生存率を有する。
【0066】
さらに、本発明の方法は、得られた凍結乾燥組成物における菌株の高い安定性(保存生存率)を提供する。特に、本発明の方法により製造された凍結乾燥組成物は、室温、またはさらには40℃で4週間保存した後でも、菌株の生存率を少なくとも80%、好ましくは85%、より好ましくは90%維持する。
【0067】
上述のように、工程b)は任意であるが、本発明の方法に含まれることが好ましい。工程b)により、本発明の方法はさらなる利点を提供し、例えば、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率が、工程b)を含まない方法と比較してより良好に保存される。加えて、工程b)は、(Sartorius水分分析装置(Sartorius AG、ドイツ)を用いて測定した場合に)本発明の凍結乾燥組成物における低い残留含水率(3重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1.5重量%未満、さらにより好ましくは1.2重量%未満)を提供する。
【0068】
したがって、本発明の第2の態様として、本発明は、本明細書で与えられるすべての定義および好ましい事項を有し、特許請求の範囲に概説される本発明による上記方法によって得ることができる(得られる)凍結乾燥組成物に関する。
【0069】
特に、本発明は、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物であって、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株、好ましくは、C.アクネス(C.acnes)菌株のI型、例えばIA(すなわち、IAおよびIA)型およびIB型ならびにII型のうちの1種以上、最も好ましくは、C.アクネス(C.acnes)菌株C3および/またはC.アクネス(C.acnes)菌株K8の生存率が、少なくとも1×10CFU/g組成物である、凍結乾燥組成物を提供する。
【0070】
有利には、本発明のすべての実施形態において、本発明の凍結乾燥組成物において、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株、好ましくは、C.アクネス(C.acnes)菌株のI型、例えばIA(すなわち、IAおよびIA)型およびIB型ならびにII型のうちの1種以上、最も好ましくは、C.アクネス(C.acnes)菌株C3および/またはC.アクネス(C.acnes)菌株K8の生存率は、少なくとも1×1010CFU/g組成物、少なくとも5×1010CFU/g組成物、少なくとも6×1010CFU/g組成物、少なくとも7×1010CFU/g組成物、少なくとも8×1010CFU/g組成物、少なくとも9×1010CFU/g組成物、および少なくとも1×1011CFU/g組成物である。より好ましくは、本発明の凍結乾燥組成物における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率は、1×1010CFU/g組成物~1×1013CFU/g組成物、より好ましくは5×1010CFU/g組成物~8×1012CFU/g組成物、最も好ましくは1×1011CFU/g組成物~5×1012CFU/g組成物、例えば3×1011CFU/g組成物、5×1011CFU/g組成物、6×1011CFU/g組成物、7×1011CFU/g組成物、8×1011CFU/g組成物、9×1011CFU/g組成物、および1×1012CFU/g組成物である。好ましくは、本発明の組成物は、少なくとも7×1011CFU/gのC.アクネス(C.acnes)菌株C3および/または少なくとも6×1011CFU/gのC.アクネス(C.acnes)菌株K8を含む。
【0071】
有利には、本発明の凍結乾燥組成物において、残留含水率は、3重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1.5重量%未満、最も好ましくは1.2重量%未満である。
【0072】
好ましくは、本発明の凍結乾燥組成物は、室温、またはさらには37または40℃で4週間保存した後でも、菌株の生存率を少なくとも80%、好ましくは85%、より好ましくは90%維持する。
【0073】
本発明の凍結乾燥組成物は、ヒト被験者におけるにきびの処置または防止(予防)に使用することができる。
【0074】
したがって、第3の態様として、本発明は、ヒト被験者においてにきびを処置または防止するための、本発明の凍結乾燥組成物または本発明による方法により調製された凍結乾燥組成物の使用、および任意にその効果の評価を提供する。
【0075】
本発明はまた、ヒト被験者においてにきびを処置または防止するための方法であって、本発明の凍結乾燥組成物を含む局所投与用組成物を被験者に局所投与することを含む方法を提供する。
【0076】
したがって、さらなる態様として、本発明はまた、本明細書で概説でされるすべての好ましい事項および定義を有する凍結乾燥組成物を含む局所投与用組成物に関する。
【0077】
局所投与用組成物に使用するために、本発明による凍結乾燥組成物の生存率は好ましくは、(必要に応じて)マルトデキストリンの混和によって約1×1010CFU/gに調整される(較正凍結乾燥組成物)。さらに、好ましくは、C.アクネス(C.acnes)C3を含む凍結乾燥組成物およびC.アクネス(C.acnes)K8を含む凍結乾燥組成物のように、異なるC.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を1種以上混和することができる。前記混和は、CFU/g調整の前または後のいずれかに行うことができる。
【0078】
本発明による局所投与用組成物は局所適用を意図しているため、生理学的に許容される媒体、すなわち皮膚、粘膜、ケラチン繊維などのケラチン性物質と適合性のある媒体を含むことがよく理解される。特に、生理学的に許容される媒体は、化粧品的あるいは皮膚科学的に許容される担体である。
【0079】
「化粧品的/皮膚科学的に許容される担体」(本明細書では担体とも称する)という用語は、化粧品または皮膚科学的組成物において従来から使用されているすべてのビヒクル/担体、すなわち、ケラチン組織への局所適用に適しており、良好な審美的特性を有し、組成物中に存在する活性剤と適合性があり、不合理な安全性または毒性の懸念を引き起こさないものを指す。このような担体は、当業者に周知である。
【0080】
担体の正確な量は、凍結乾燥組成物の実際のレベルや、当業者であれば担体とは異なるものとして分類するであろう他の任意成分(例えば、他の活性成分)に依存する。
【0081】
有利な実施形態において、本発明による局所投与用組成物は、化粧品組成物の総重量に対して約50%~約99%、好ましくは約60%~約98%、より好ましくは約70%~約98%、例えば特に約80%~約95%の担体を含む。
【0082】
特定の有利な実施形態において、担体は水を含まず、すなわち本発明による局所投与用組成物は、無水の局所投与用組成物である。
【0083】
別の特定の有利な実施形態において、本発明による局所投与用組成物は、本明細書で与えられるすべての定義および好ましい事項を有する本発明による凍結乾燥組成物と、少なくとも1種の油と、例えばトコフェロールなどの少なくとも1種の油溶性酸化防止剤とからなる。少なくとも1種の油は好ましくは、脂肪アルコールおよび/または脂肪酸グリセリドから選択される。
【0084】
本発明による特に適切な局所投与用組成物は、リーブオン製品であり、人体に適用されるあらゆる製品を含む。組成物は、液体、ローション、クリーム、フォームの形態であってもよいし、器具を用いて、またはフェイスマスク、パッドもしくはパッチを介して適用することもできる。このような組成物の非限定的な例としては、リーブオンスキンローションおよびクリーム、ファンデーション、マスカラ、サンレスタンナーおよびサンスクリーンローションが挙げられる。
【0085】
本発明の局所投与用組成物(担体を含む)は、従来のアジュバントおよび添加剤、例えば、防腐剤/酸化防止剤、脂肪物質/油、有機溶媒、シリコーン、増粘剤、軟化剤、乳化剤、消泡剤、審美的成分、例えばフレグランス、界面活性剤、充填剤、アニオン性、カチオン性、非イオン性もしくは両性ポリマーもしくはそれらの混合物、推進剤、酸性化剤もしくは塩基性化剤、染料、着色料/発色剤、研磨剤、吸収剤、キレート剤および/もしくは金属イオン封鎖剤、精油、皮膚感覚剤、収斂剤、顔料、または通常そのような組成物に調合されるその他の成分を含むことができる。
【0086】
本発明の化粧品組成物に使用するのに適した化粧品賦形剤、希釈剤、アジュバント、添加剤、およびスキンケア産業で一般的に使用される活性成分の例は、例えば、オンラインINFO BASE(http://online.personalcarecouncil.org/jsp/Home.jsp)でアクセス可能なInternational Cosmetic Ingredient Dictionary & Handbook by Personal Care Product Council(http://www.personalcarecouncil.org/)に記載されているが、これに限定されるものではない。
【0087】
活性成分ならびに賦形剤、希釈剤、アジュバント、添加剤などの必要量は、所望の製品形態および用途に基づいて、当業者が容易に決定することができる。追加成分は、油相、水相のいずれかに添加してもよいし、適切と考えられる場合には別々に添加してもよい。
【0088】
本明細書で有用な化粧品活性成分は、いくつかの事例において、複数の利益を提供することも、複数の作用様式により作用することもできる。
【0089】
当然のことながら、当業者であれば、本発明による組み合わせに本質的に関連する有利な特性が、想定される添加または付加によって有害な影響を受けないかまたは実質的に受けないように、上記の任意の追加成分、アジュバント、希釈剤および添加剤ならびに/またはそれらの量を選択するように留意するであろう。
【0090】
本発明による局所投与用組成物における(好ましくは較正された)凍結乾燥組成物の量は、当業者によって調整されてよく、好ましくは、組成物の総重量に対して0.1~10重量%、好ましくは0.5~7.5重量%、最も好ましくは0.75~5重量%、例えば1~4重量%の範囲で選択される。
【0091】
特定の実施形態において、本発明はまた、以下のものに関する:
・少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物(C)であって、前記組成物における非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率が、少なくとも1×10CFU/gである、凍結乾燥組成物(C)。好ましくは、凍結乾燥組成物(C)において、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株は、C.アクネス(C.acnes)菌株のI型、例えばIA(すなわち、IAおよびIA)型およびIB型ならびにII型、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、凍結乾燥組成物(A)において、非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株は、C.アクネス(C.acnes)菌株D1、A5、C3、H1、H2、H3、K1、K2、K4、K6、K8、K9、L1およびF4、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。最も好ましくは、凍結乾燥組成物(C)において、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株は、C.アクネス(C.acnes)菌株C3またはC.アクネス(C.acnes)菌株K8、およびそれらの混合物である。すべての凍結乾燥組成物(C)において、好ましくは、前記組成物(C)における少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の生存率は、少なくとも1×1010CFU/g、例えば1×1010CFU/g~1×1013CFU/g、好ましくは5×1010CFU/g~8×1012CFU/g、より好ましくは1×1011CFU/g~5×1012CFU/g、例えば3×1011CFU/g、5×1011CFU/g、6×1011CFU/g、7×1011CFU/g、8×1011CFU/g、9×1011CFU/g、および1×1012CFU/gである。好ましい一実施形態において、凍結乾燥組成物(C)は、少なくとも7×1011CFU/gのC.アクネス(C.acnes)菌株C3および/または少なくとも6×1011CFU/gのC.アクネス(C.acnes)菌株K8を含む。有利には、すべての凍結乾燥組成物(C)は、組成物(C)の総重量に対して3重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1.5重量%未満、最も好ましくは1.2重量%未満の残留含水率を示す。
【0092】
・少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物の製造方法(P)であって、
精密濾過、好ましくはクロスフロー精密濾過により発酵ブロスから少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株の細菌細胞を濃縮して、前記細胞を含むバイオマス濃縮物を得る工程と、
a)任意に、前記バイオマス濃縮物を洗浄して、洗浄済みバイオマス濃縮物を得る工程と、
b)濃縮または洗浄済みバイオマス濃縮物に少なくとも1つの凍結保護剤を含む水溶液を調合して、バイオマス調合物を得る工程と、
c)前記バイオマス調合物を凍結乾燥させて、少なくとも1つの非病原性C.アクネス(C.acnes)菌株を含む凍結乾燥組成物を得る工程と
を含む方法。
【0093】
好ましくは、バイオマス濃縮物は、工程b)において、クエン酸、レチノイン酸、フェルラ酸、グリコール酸、乳酸、フルーツ酸、サリチル酸およびヒアルロン酸ならびにそれらの混合物からなる群から選択される有機酸、好ましくはクエン酸の水溶(緩衝)液で洗浄される。
【0094】
より好ましくは、バイオマス濃縮物は、10~100mM、好ましくは20~80mM、より好ましくは30~70mM、例えば40、50および60mMのクエン酸水溶(緩衝)液で洗浄される。
【0095】
バイオマス濃縮物または洗浄済みバイオマス濃縮物が、工程c)において、前記バイオマス濃縮物を、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのアルコール類;グルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、フルクトース、トレハロース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビビルピロジドン(PVP)、スキムミルク、ゼラチン、タンパク質およびタンパク質加水分解物、ペプチド、酵母、ブロス、デキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、ポビドン、血清、ペプトンなどのポリマー;硫酸ナトリウム、乳酸カルシウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩類;クエン酸、リン酸、グルタミン酸、酒石酸、アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの酸;水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩基;およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの凍結保護剤と混和することによって調合されることがさらに有利である。好ましくは、少なくとも1つの凍結保護剤は、スクロース、マルトデキストリン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0096】
有利には、工程c)または方法(P)における調合物は、上記で与えられるすべての定義および好ましい事項を有するバイオマス調合物の総重量に対して1~20重量%、好ましくは5~15重量%、より好ましくは6~12重量%、例えば6、7、8、9、10、11および12重量%の凍結保護剤を含む。
【0097】
・にきびの処置または防止に使用するための、凍結乾燥組成物(C)または方法(P)によって製造された凍結乾燥組成物。
【0098】
以下の実施例は、本発明の組成物および効果をさらに説明するために提供される。これらの実施例は説明に過ぎず、本発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【0099】
実施例
CFU分析
CFU分析を以下のように行った:100μLの試料を採取し、生理水で10-1~10-9希釈液を連続的に調製した。10-7~10-9希釈液各100μLをTSAプレートにプレーティングし、Anaerocultインキュベーションシステムを用いて37℃の嫌気性ジャーで少なくとも4日間インキュベートした。計数(30~300コロニーのプレート)を手動で行った。
【0100】
本発明の方法で得られた凍結乾燥組成物のCFU分析を、以下のように行った:0.3gの粉末を9.7mLの滅菌生理水に再懸濁させた(重量希釈)。連続希釈、プレーティングおよびインキュベーションを上記のように行った。
【0101】
回収、精密濾過および洗浄
洗浄液:水中50mMクエン酸緩衝液(pH)を前日に調製し、20Lのジェリカン内で4℃にて保存した。
【0102】
発酵終了時に8℃に保たれたそれぞれの発酵ブロスを採取し、衛生的に内部容器タンクに移した。その後、発酵ブロスをクロスフロー精密濾過に供した。この装置を濃縮に使用し、その後クエン酸緩衝液で洗浄した。比較のため、いくつかのバッチを分割し、かつ/または遠心分離およびクエン酸緩衝液における細胞ペレットの再懸濁/遠心分離による洗浄を2回行って後処理した。
【0103】
バイオマスの調合
凍結保護剤水溶液を、表1に示すように重量ベースで調製し、pH調整後に水で最終体積にした。具体的には、各成分を1つずつ加え、前の成分が完全に溶解するまで待機した後、50mMクエン酸溶液を用いてpHを6に調整した。調製した溶液を、使用前に滅菌して4℃で保存した。
【0104】
【表1】
【0105】
(洗浄済み)バイオマス濃縮物に1/2重量の凍結保護剤溶液(バイオマス/凍結保護剤溶液の重量比=2:1)を添加することにより、調合済みバイオマス濃縮物を調製した。
【0106】
凍結乾燥
SP Scientific社(米国、PA)のVirtis Genesis 35L Pilot Freeze dryerで以下のように(洗浄済み)バイオマス調合物の凍結乾燥を行った:
・開始:3℃で保存
・凍結段階:1℃/分で-40℃まで低下
・一次乾燥段階:0.1mbarまで真空引きし、15分で-25℃まで上昇
・一次乾燥段階:-25℃を58時間保持
・二次乾燥:7.5時間で20℃まで昇温し、20℃で4時間保持。
【0107】
凍結乾燥後、各トレイをジッパー付きビニル袋に入れた。袋を処理し、トレイの底に若干の圧力をかけて、トレイからケーキを取り出した。ビニル袋を開けてトレイを取り出し、ケーキを手で砕いた。
【0108】
結果
表2および表3に、それぞれC.アクネス(C.acnes)菌株K8バッチおよびC.アクネス(C.acnes)菌株C3バッチのクロスフロー精密濾過操作中の方法パラメータの概要を示す。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
バイオマス濃縮物と、洗浄済みバイオマス濃縮物と、洗浄済みバイオマス濃縮物および非洗浄バイオマス濃縮物から得られた凍結乾燥組成物とについて、CFU分析を実施した。その結果、C.アクネス(C.acnes)菌株K8(表4)およびC.アクネス(C.acnes)菌株C3(表5)の双方について、精密濾過中の回収損失がないこと、そして洗浄済みバイオマス濃縮物から得られた凍結乾燥組成物については、非洗浄バイオマス濃縮物の使用と比較して回収率が有意に向上していることが判明した(表5)。
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
残留含水率
保存安定性を調べるため、Sartorius水分分析装置(1g/100℃)(Sartorius AG、ドイツ)を用いて、C.アクネス(C.acnes)菌株C3バッチの凍結乾燥1ヵ月後に残留含水率分析を行った。その結果、洗浄工程によって凍結乾燥組成物の残留含水率も低下したことが明らかとなり(表6参照)、これは安定性の向上を表す。
【0115】
【表6】
【0116】
精密濾過と遠心分離との比較実験
発酵終了および冷却後、C.アクネス(C.acnes)C3およびC.アクネス(C.acnes)K8のそれぞれのブロスを収穫し、クロスフロー精密濾過(2バッチ、表9では本発明IおよびIIと称する)または遠心分離(表9では参照と称する)のいずれかによって濃縮し、洗浄し、調合し、凍結乾燥させる。その後、C.アクネス(C.acnes)菌株C3の凍結乾燥組成物とC.アクネス(C.acnes)菌株K8の凍結乾燥組成物とをブレンドし、このブレンドの生存率が約1×1010の範囲になるようにマルトデキストリンで調整した(以下、C.アクネス(C.acnes)ブレンドと称する)。クロスフロー精密濾過または遠心分離のいずれかを用いて調製した凍結乾燥組成物の保存時の生存率を経時的に調べた。
【0117】
以下の表7に概略を示すデータから読み取れるように、クロスフロー精密濾過は、保存時の生存率に有意な改善をもたらした(40℃での促進安定性試験)。
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
調製:
A相を混合し、これを撹拌下で85℃まで加熱。14,000rpmで2分間ホモジナイズ。室温まで放冷。滅菌ビーカーにA相を秤量。B相をA相に加え、アンカースターラーを用いて350rpmで5分間撹拌。
【国際調査報告】