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特表2024-546996細胞療法に使用するためのCD117の識別可能な細胞表面タンパク質変異体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】細胞療法に使用するためのCD117の識別可能な細胞表面タンパク質変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20241219BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241219BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241219BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20241219BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C07K16/28
A61P35/02
A61P7/00
A61K47/68
A61K35/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024536163
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2022086452
(87)【国際公開番号】W WO2023111311
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215028.8
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】22164796.9
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】22207926.1
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524227192
【氏名又は名称】ウニバズィテート バーゼル
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET BASEL
(71)【出願人】
【識別番号】524042805
【氏名又は名称】シメイオ セラピューティクス アーゲー
【氏名又は名称原語表記】CIMEIO THERAPEUTICS AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ウルリンガー, シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】レポレ, ロザルバ
(72)【発明者】
【氏名】イエカー, ルカス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーダーケア, アメリー
(72)【発明者】
【氏名】シノーポリ, アレサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】カミュ, アナ
(72)【発明者】
【氏名】ウェリンガー, リーザ
(72)【発明者】
【氏名】マター-マローネ, ロミーナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087NA13
4C087ZB27
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、治療に使用するための、操作されたまたは天然に存在する突然変異を有するが機能的な表面タンパク質を有する識別可能な表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。本発明はまた、識別可能なCD117表面タンパク質変異体を有するが、治療、特に養子細胞療法に使用するための機能性表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのCD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者がCD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、
前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、
前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する前記患者のゲノムに存在せず、
前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、配列番号1の位置E73、D121、R122、S123、S239、Y259および/またはS261におけるアミノ酸の少なくとも1つの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項2】
前記医学的治療が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する患者の細胞を特異的に枯渇させるために、前記CD117の第2のアイソフォームに特異的に結合する抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記CD117の第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を投与することを含む、請求項1に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項3】
前記第1および第2のアイソフォームが実質的に機能的に同一である、請求項1または2に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項4】
前記第1および第2のアイソフォームは、SCFに結合し、SCF依存性増殖をもたらし、および/またはSCF依存性リン酸化をもたらす
請求項1~3のいずれか一項に記載の、哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項5】
CD117の前記第1および前記第2のアイソフォームが、実質的に同様の程度でSCFに結合し、好ましくは、前記CD117の第1のアイソフォームのSCFに対する前記KDが、前記CD117の第2のアイソフォームのSCFに対する前記KDよりも4倍未満、好ましくは3倍未満、より好ましくは2倍未満、最も好ましくは1.5倍未満高い、請求項1~4のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項6】
残基E73が、K、L、YおよびRからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、および/または残基D121が、Y、H、K、RまたはTからなる群から選択されるアミノ酸、最も好ましくはHまたはKで置換され、および/または前記残基S123が、P、FまたはKからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはKで置換され、および/または前記残基S239が、HまたはKで置換され、および/または前記残基Y259が、E、A、G、P、CおよびHからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはP、AまたはG、最も好ましくはAで置換され、および/または前記残基K193が、G、T、M、DおよびEからなる群から選択されるアミノ酸で置換される、請求項1~5のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項7】
前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、前記第1のアイソフォームをコードする核酸において少なくとも1つの天然多型対立遺伝子を有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項8】
前記CD117の第1のアイソフォームが、遺伝子編集によって、好ましくは少なくとも第1の抗原結合領域を含む前記薬剤の結合に関与するCD117表面タンパク質領域をコードする標的配列内部に部位特異的変異を誘導することができる遺伝子編集酵素を細胞に導入することによって、前記CD117の第1のアイソフォームをコードする前記核酸配列を改変することによって得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項9】
前記医学的治療が、造血疾患の治療において、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、全身性肥満細胞症、慢性骨髄性白血病(CML)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療において、免疫療法後に正常な造血を回復させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項10】
前記枯渇剤が、抗体、抗体-薬物コンジュゲートまたは免疫細胞、好ましくは、前記第2のアイソフォームに特異的に結合し、前記第1のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する第1の抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞である、請求項2~9のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項11】
前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域が、配列番号1のアミノ酸E73、D121、R122、S123、S239、Y259および/またはS261を含むエピトープに、より好ましくは配列番号1のアミノ酸E73、S123、K127および/またはY259を含むエピトープに特異的に結合する、請求項2~10のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項12】
前記第1の抗原結合領域が、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
VLCDR1が配列番号20であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号22である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、または
b)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号60である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、または
c)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号61である、前記3つのCDR VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、請求項2~11のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項13】
前記第1の抗原結合領域が、
a)配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン、または
b)配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび配列番号62のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン、または
c)配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび配列番号63のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン
を含む、請求項12に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項14】
前記医学的治療が、CD117の第1のアイソフォームを発現する、移入される細胞を特異的に枯渇させるために、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合する抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記CD117の第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を投与することを含む、
請求項1に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項15】
前記使用が、養子細胞移入療法における使用であり、好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療のための、請求項14に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項16】
移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、前記枯渇剤が、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団に続いて投与される、請求項14または15に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項17】
前記第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団が、キメラ抗原受容体(CAR)を有する免疫細胞、好ましくはT細胞である、請求項14~16のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団、任意選択で請求項2から17のいずれか一項に記載の枯渇剤および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項19】
CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、CD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記CD117の第2のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む、枯渇剤。
【請求項20】
宿主細胞を、それを必要とする患者において選択的に枯渇させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、CD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤が、CD117の前記第2のアイソフォームに特異的に結合する抗原結合領域を少なくとも含み、前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域が、配列番号1の前記アミノ酸E73、D121、R122、S123、S239、Y259および/またはS261を含むエピトープに、より好ましくは配列番号1の前記アミノ酸E73、S123、K127および/またはY259を含むエピトープに特異的に結合する、枯渇剤。
【請求項21】
前記抗原結合領域が、
a)VHCD1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
VLCDR1が配列番号20であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号22である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、または
b)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号60である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、または
c)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号61である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、請求項20に記載の枯渇剤。
【請求項22】
前記抗原結合領域が、
a)配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン、または
b)配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび配列番号62のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン、または
c)配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび配列番号63のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン
を含む、請求項21に記載の枯渇剤。
【請求項23】
組み合わせであって、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置121のアスパラギン酸のリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)枯渇剤であって、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号20であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号22である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、
ii.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号60である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、または
iii.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号61である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである、枯渇剤
の組み合わせ。
【請求項24】
組み合わせであって、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置123のセリンのリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)枯渇剤であって、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号20であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号22である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、
ii.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号60である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、または
iii.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、前記3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
VLCDR1が配列番号59であり、VLCDR2が配列番号21であり、VLCDR3が配列番号61である、前記3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである、枯渇剤
の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
要約
本開示は、治療に使用するための、操作されたまたは天然に存在する突然変異を有するが機能的な表面タンパク質を有する識別可能な表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。本発明はまた、識別可能なCD117表面タンパク質変異体を有するが、治療、特に養子細胞療法に使用するための機能性表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。
【0002】
資金の記載
本願につながるプロジェクトは、欧州連合のHorizon2020研究およびイノベーションプログラム(認可合意第818806番)の下で、欧州研究会議(ERC)から資金提供を受けている。
【背景技術】
【0003】
細胞ベースの免疫療法は、抗体を含む組換えタンパク質などの生物製剤に基づく小分子療法および治療後の医学の第3の柱として浮上している。細胞療法は、造血性悪性疾患を治療するための腫瘍学で使用することができるが、遺伝性疾患、固形臓器腫瘍および自己免疫疾患の治療などの他の用途も開発中である。しかしながら、細胞療法は、重度の望ましくない副作用に関連し得る。実際、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞を用いたがん免疫療法は、特定の抗原を発現する悪性細胞を標的化し、根絶することに成功しているが、それは正常細胞と悪性細胞とを区別しないことが多く、したがって、正常な造血系の破壊を誘導する。標的療法は、抗体に基づく療法、例えば従来のモノクローナル抗体、多重特異性抗体、例えばT細胞エンゲージャー(例えば、BiTE)および細胞療法、例えばCAR細胞(例えば、CAR T細胞、CAR NK細胞またはCARマクロファージ)を含み、標的分子を発現するすべての細胞を排除する。しかしながら、ほとんどのがん細胞表面抗原は、正常な造血細胞または他の細胞と共有される。したがって、健常細胞への損傷を回避しながら腫瘍を含む病んだ細胞を殺傷させる標的を同定することは、標的療法の主要な課題である(Perna et al.,Cancer Cell(2017)32:506-519)。特に、骨髄異形成症候群(MDS)、急性骨髄性白血病(AML)または芽球性形質細胞様樹状細胞新生物(BPDCN)などの骨髄性悪性腫瘍を含む骨髄性疾患では、CD117、CD33またはCD123などの細胞表面抗原が正常な骨髄前駆細胞と共有される。したがって、MDS、AMLまたはPBDCNに対するCD117、CD33またはCD123抗原を標的とする免疫療法は、患者の悪性細胞に加えて正常な造血細胞の枯渇に関連し得る(Gill S.I.Best practice&Research Clinical Hematology,2019)。結果として、mAb、T細胞エンゲージャーまたはCAR Tを含む標的化免疫療法は、一部には真に疾患特異的な表面抗原が存在しないために、ほとんどが困難であった(Gill S.I.Best practice&Research Clinical Hematology,2019)。
【0004】
CD33-CAR T細胞移入によって枯渇した正常な造血を再生するために、CD33 CAR T細胞耐性造血細胞が、CD33遺伝子全体がノックアウトされるように操作されている(Kim et al.,2018.Cell.173:1439-53)。しかしながら、CD33は、その免疫受容体チロシンベース阻害性モチーフ(ITIM)シグナル伝達ドメインを介して骨髄細胞に対して構成的阻害効果を有する。したがって、CD33の喪失がどの程度良好に許容され得るかは不明のままである(Wiβfeld et al.Glia(2021)69:1393-1412)。患者に移植されたCD33ノックアウト(CD33 KO)操作細胞は、長期の機能的欠陥を示す可能性がある(国際公開第2018/160768号、Kim et al.2018.Cell.173:1439-53,Borot et al.2019.PNAS.116:11978-87,Humbert et al.2019.Leukemia.33:762-808)。実際、CD33 KO細胞の頻度は、長期観察が報告された2匹のサルで減少した。これは、例えばCD33 KO長期再増殖HSC(LT-HSC)の生着の減少による、または競合的不利益による、CD33 KO細胞の機能障害を示し得る(Kim et al.2018.Cell.173:1439-53)。さらに、必須の機能を有する細胞表面抗原の数は非常に限られており、前記冗長な細胞表面抗原の喪失は抗原陰性再発を誘発し得る。CD19陰性再発が、CD19標的化CAR T療法を受けている患者のおよそ30%において認められる(Orlando et al.2018 Nat Med 24:1504-6)。CD19およびCD123の二重標的化は、抗原喪失の再発を予防することができる(Ruella et al.2016 J Clin Invest 126:3814-26)。
【0005】
以前の特許出願において、本発明者らは、表面タンパク質変異体における単一アミノ酸の相違を操作して造血細胞に入れて抗原性を変化させ、特異的および選択的抗体によって識別することができることを示した(国際公開第2017/186718号、国際公開第2018/083071号)。CD33 KO細胞とは対照的に、これらの細胞における表面タンパク質変異体は、それらの正常な発現および機能を保持し、重要な非冗長機能を有する表面タンパク質を標的化することを可能にする。
【0006】
CD117(c-kitまたは幹細胞因子受容体(SCRF)とも呼ばれる)は、リガンド幹細胞因子(SCF)に結合する単一の膜貫通型受容体チロシンキナーゼである。SCFは、そのチロシンキナーゼ活性を活性化し、PI3K-AKTおよびMAPK経路の両方を介してシグナル伝達するCD117のホモ二量体化を誘導する(Kindblom et al.,Am J.Path.1998 152(5):1 259)。
【0007】
CD117は、最初に癌遺伝子として発見され、腫瘍学の分野で研究されてきた(例えば、Stankov et al.(2014)Curr Pharm Des.20:2849-80参照)。CD117は、造血幹細胞および造血前駆細胞(HSC)上に高度に発現される。この発現パターンは、CD117を広範囲の疾患にわたってコンディショニングするための潜在的な標的とする(Russkamp et al.Exp.Hematol.(2021)95:31-45;Czechowicz et al.Nat Commun(2019)10:617)。しかしながら、骨髄移植などの移植のための患者のコンディショニングに有効な抗CD117ベースの治療が依然として必要とされている。
【0008】
本開示は、細胞表面に露出され、a)CD117の機能が改変されていないか、または少なくとも実質的に改変されていない、すなわち、CD117の変異体がCD117の野生型バージョンと機能的に区別できないように、およびb)抗体またはCAR T細胞などの、CD117の野生型バージョンに結合するが、CD117の改変バージョンへの結合が実質的に減少しているのを示すかまたは全くない、すなわち、CD117の変異体がCD117の野生型バージョンと免疫学的に区別できるように、置換され得るCD117のアミノ酸残基を同定することを目的とした。任意の所与の標的タンパク質中のほとんどの単一アミノ酸置換は、アミノ酸置換が結合部分のエピトープの一部であるかまたはそれに近い場合にのみ、部分の結合に影響を及ぼす。同様に理解されるように、標的抗原への結合部分の結合に影響を及ぼす多くの単一アミノ酸置換も、標的抗原の機能性に影響を及ぼす。したがって、標的抗原への部分の結合に影響を及ぼし、同時にその機能に影響を及ぼさない、または実質的に影響を及ぼさない両方の要件を満たすアミノ酸置換を同定することは、非常に高度で予測不可能な課題である。
【0009】
いくつかの抗CD117部分は当技術分野で公知であり、そのうちのいくつかは現在開発中である。抗体SR-1は、最初にハイブリドーマから単離された(国際公開第1992017505号)。SR-1のヒト化バージョンを作製した(国際公開第2007127317号;国際公開第2020112687号)。抗CD117薬物コンジュゲートは、国際公開第2016020791号に記載されている。他の抗CD117抗体は、国際公開第2015050959号および国際公開第2019084064号に記載されている。特定の抗CD117抗体、例えば抗体104D2 Dianova(#117PE-100T)も市販されている。これらおよび他の抗CD117部分は、本開示の文脈において使用され得る。国際公開第2021041945号は、塩基編集によって生成されたCD117を含む抗原のゲノム変化を開示している。しかしながら、これらの抗原変化は特徴づけられず、特に変異体の生物学的機能は試験されなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2018/160768号
【特許文献2】国際公開第2017/186718号
【特許文献3】国際公開第2018/083071号
【特許文献4】国際公開第1992017505号
【特許文献5】国際公開第2007127317号
【特許文献6】国際公開第2020112687号
【特許文献7】国際公開第2016020791号
【特許文献8】国際公開第2015050959号
【特許文献9】国際公開第2019084064号
【特許文献10】国際公開第2021041945号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Perna et al.,Cancer Cell(2017)32:506-519
【非特許文献2】Gill S.I.Best practice&Research Clinical Hematology,2019
【非特許文献3】Kim et al.2018.Cell.173:1439-53
【非特許文献4】Wiβfeld et al.Glia(2021)69:1393-1412
【非特許文献5】Borot et al.2019.PNAS.116:11978-87
【非特許文献6】Humbert et al.2019.Leukemia.33:762-808
【非特許文献7】Orlando et al.2018 Nat Med 24:1504-6)
【非特許文献8】Ruella et al.2016 J Clin Invest 126:3814-26
【非特許文献9】Kindblom et al.,Am J.Path.1998 152(5):1 259)
【非特許文献10】Stankov et al.(2014)Curr Pharm Des.20:2849-80
【非特許文献11】Russkamp et al.Exp.Hematol.(2021)95:31-45;Czechowicz et al.Nat Commun(2019)10:617
【発明の概要】
【0012】
本開示の目的の1つは、悪性腫瘍、特にがん、血液学的悪性腫瘍、骨髄性疾患を治療するためのより安全な方法を開発することである。したがって、本発明者らは、正常な機能を保持または実質的に保持しながら免疫学的に区別可能であり、アミノ酸変化が単一または複数のアミノ酸またはヌクレオチド変異に由来する表面タンパク質CD117の変異を求めた。特に、本発明者らは、CD117の合理的に設計された天然に存在する変異体を同定し、これらの変異が、その正常な発現および機能、特にSCFへの結合、SCF依存性増殖および/またはSCF依存性リン酸化を保持しながら、CD117の抗原性を特定の抗体に変化させることを示した。
【0013】
本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのCD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者がCD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、CD117の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する前記患者の前記ゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが機能的である、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。あるいは、前記第1のアイソフォームはRNA編集を介して生成される。
【0014】
特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための哺乳動物細胞または細胞の集団、好ましくは造血幹細胞に関し、前記医学的治療は、それを必要とする前記患者に前記CD117の第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を、前記CD117の第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して投与して、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する患者の細胞を特異的に枯渇させ、好ましくは造血疾患、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物(BPDCN)、慢性骨髄性白血病(CML)、B-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、または肥満細胞症などの悪性造血疾患の治療における免疫療法後に正常な造血を回復させることを含む。
【0015】
他の実施形態では、医学的治療は、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球症(SCD)、ベータサラセミア、ファンコーニ貧血またはダイアモンド-ブラックファン貧血などの造血または免疫系の遺伝性疾患における造血機能または免疫機能の回復に関する。
【0016】
他の実施形態では、医学的治療は、造血系および免疫系に由来しないが、改変された造血細胞の使用によって治療することができる遺伝病における正常な機能の回復に関する。
【0017】
他の実施形態では、医学的治療は、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(SSc)または多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患における正常な免疫機能の回復に関する。
【0018】
別の特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療においての使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関し、前記医学的治療が、第1のアイソフォームを発現する移入された細胞を特異的に枯渇させるために、好ましくは養子細胞移入療法における使用のために、より好ましくは悪性造血疾患、例えば急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物(BPDCN)、慢性骨髄性白血病(CML)、B-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)または全身性肥満細胞症の治療のために、前記第1のアイソフォームと特異的に結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団の治療有効量を投与することであって、再度、より好ましくは、前記枯渇剤は、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団に続いて投与される、投与されることを含む。
【0019】
別の態様では、本開示は、哺乳動物細胞、好ましくは造血幹細胞または免疫細胞、例えば上記のT細胞、および好ましくは枯渇剤、および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関する。
【0020】
本開示は、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、CD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記CD117の第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含む枯渇剤に関する。特定の実施形態において、前記枯渇剤は、CD117の前記第2のアイソフォームに対して実質的により弱く結合する。
【0021】
本開示はまた、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、CD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記CD117の第2のアイソフォームに結合しない、少なくとも第2の抗原結合領域を含み、前記第1および第2のアイソフォームは実質的に機能的に同一である、枯渇剤に関する。特定の実施形態において、前記枯渇剤は、CD117の前記第2のアイソフォームに対して実質的により弱く結合する。
【0022】
本開示はまた、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、CD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記CD117の第2のアイソフォームに結合しない、少なくとも第2の抗原結合領域を含み、前記第1および第2のアイソフォームはSCFに結合し、SCF依存性増殖をもたらし、および/またはSCF依存性リン酸化をもたらす、枯渇剤に関する。特定の実施形態において、前記枯渇剤は、CD117の前記第2のアイソフォームに対して実質的により弱く結合する。
【0023】
本開示はまた、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与された患者において重篤な副作用のリスクを予防または低減するのに使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞はCD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、CD117の前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、CD117の前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2抗原結合領域を含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子は、配列番号1の位置E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239、Y259、N260、S261、D266、Y269またはR271におけるアミノ酸の少なくとも1つの置換、より好ましくは、配列番号1の位置E73、V120、D121、R122、S123、K127、K193、S239、Y259またはS261におけるアミノ酸の少なくとも1つの置換、より好ましくは、配列番号1の位置E73、D121、R122、S123、S239、Y259またはS261におけるアミノ酸の少なくとも1つの置換、最も好ましくは、配列番号1の位置E73、D121またはS123におけるアミノ酸の少なくとも1つの置換により特徴づけられる枯渇剤に関する。特定の実施形態において、前記枯渇剤は、CD117の前記第2のアイソフォームに対して実質的により弱く結合する。
【0024】
本開示はまた、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与された患者において重篤な副作用のリスクを予防または低減するのに使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞がCD117の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤が、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、CD117の前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含み、アミノ酸残基E73が、K、L、Q、G、A、Y、R、F、I、M、PおよびWからなる群、好ましくはK、L、Q、G、A、YおよびRからなる群から選択され、より好ましくはK、Y、Rから選択されるアミノ酸で置換されているか、または残基E73が欠失しており、および/または残基D121は、S、V、Y、H、K、RまたはT、より好ましくはY、H、K、RまたはT、最も好ましくはHまたはKで置換され、および/または残基S123は、V、I、L、P、F、Y、M、D、E、KまたはR、より好ましくはP、FまたはK、最も好ましくはKで置換され、および/または残基S239は、HおよびKからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、および/または残基Y259は、E、A、G、P、CおよびHからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはP、AまたはG、最も好ましくはAで置換され、および/または残基K193は、G、T、M、DおよびEからなる群から選択されるアミノ酸で置換される、枯渇剤に関する。特定の実施形態において、前記枯渇剤は、CD117の前記第2のアイソフォームに対して実質的により弱く結合する。
【0025】
本開示はまた、造血幹細胞移植の生着を改善するための方法に関する。造血幹細胞移植(HSCT)の前のコンディショニング(HSCの枯渇)は、生着を促進するために使用される。実際、コンディショニング効果は、生着の改善に関連する。骨髄破壊的(毒性)前処置の1つの欠点は、キメラ現象のレベルの増加をもたらし得ることである。毒性コンディショニングを回避することは、本開示で達成することができる重要な目標である。コンディショニングのための現在の方法は、静脈内ブスルファンの使用を含む。ブスルファンは、急性骨髄性白血病(AML)などの血液疾患を治療するために最初に設計されたDNAアルキル化薬である。しかしながら、ブスルファンは、無菌性、原発性または二次性悪性腫瘍、ならびにさらなる急性および慢性毒性を含む有意な副作用のリスクを有する。
【0026】
本開示はまた、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合する抗CD117剤に関し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン。特定の実施形態において、前記抗原結合領域は、以下の変異を含む:
a)VLCDR1領域(配列番号20)のアスパラギンがグルタミン酸に置換されており、
b)VLCDR3領域(配列番号22)のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換されており、任意選択で、
c)VLCDR3領域(配列番号22)の第2のアスパラギンがリジンに置換されている。好ましくは、前記抗CD117剤は、CD117のE73K変異体に結合しない。また好ましくは、前記抗CD117剤は、CD117のD121K変異体に結合しない。また好ましくは、前記抗CD117剤はCD117のS123K変異体に結合しない。
【0027】
本開示はまた、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合する抗CD117剤に関し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号25であり、VHCDR2が配列番号26であり、VHCDR3が配列番号27である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号28、VLCDR2は配列番号29、およびVLCDR3は配列番号30である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0028】
本開示はまた、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合する抗CD117剤に関し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号33であり、VHCDR2が配列番号34であり、VHCDR3が配列番号35である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号36、VLCDR2は配列番号37、およびVLCDR3は配列番号38である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ヒト野生型CD117または空ベクターでトランスフェクトしたHEK-293T細胞への抗CD117抗体の結合を示す。各抗体の連続希釈物を、フローサイトメトリーによって免疫反応性について試験した。Mabフォーマットの6つすべての抗体は、濃度依存的様式でヒトCD117に結合する。CD117陰性HEK-293T細胞(空のベクターでトランスフェクトした)は、抗体結合を何ら示さなかった。
図2】ヒト野生型CD117または空ベクターでトランスフェクトしたHEK-293T細胞への抗CD117 Fab断片の結合を示す。完全長抗体と同様に、Fab断片も濃度依存的様式でヒトCD117に結合する。CD117陰性HEK-293T細胞(空のベクターでトランスフェクトした)は、抗体結合を何ら示さなかった。
図3】試験した6つの抗体のそれぞれについてのヒトCD117細胞外ドメインに対するアラニンスキャンの結果を示す。各変異CD117クローンについて、フローサイトメトリーによって決定された平均結合値を発現の関数としてプロットした。抗体結合に重要であると同定されたクローンを灰色の丸で示す。二次クローン、すなわち最初に設定された閾値を満たさなかったが、結合活性の低下および重要な残基への近接性が、変異残基が抗体エピトープの一部であり得ることを示唆したクローンが白丸で示されている。
図4】選出された組換え精製CD117変異体の凝集挙動を示す。線は、野生型CD117組換え精製タンパク質の単量体含有量を示す。モノマー含有量は、分取サイズ排除クロマトグラムから推定した。ほとんどの変異体の単量体含有量は許容可能であった。NDは「non-determinable」の略である。
図5】選出された組換え精製CD117変異体について得られた産生収率を示す。線は、野生型CD117の収量を示す。ごく少数の変異体を除くすべての変異体の生産収率は十分に高かった。
図6】選出された組換え精製CD117変異体について測定されたt1/2融解温度を示す。線は、野生型CD117の融解温度を示す。1つの変異体、V120Pについて、2つの融点を測定した。
図7】WTとの会合終了時のnmシフトを比較することによる、選択されたヒトCD117の組換え精製変異体に対する抗体Refmab#1の結合を示す。
図8】選択されたヒトCD117の組換え精製変異体に対する抗体Refmab#1の結合親和性を示す。パネルA:Refmab#1に対するすべての変異体のKDを決定した。黒丸は、2つの個々の測定から決定された測定KDを示し、白丸は、0.1nm未満のnmシフトまたはシフトが観察されず、2μMより高い結合親和性を示す。エラーバーは標準偏差を示す。パネルB:会合終了時(600秒)のnmシフトを、使用した抗原濃度に対してプロットし、これは2000~5nMの範囲である。変異体D121K、S123KおよびS123Eは、2000nMまでいずれの結合も示さない。エラーバーは、2つの個々の測定値の標準偏差を示す。
図9】SCFに対する選択されたヒトCD117の組換え精製変異体の結合を示す。SCFの野生型ヒトCD117(SCFに対する結合部位を有するドメイン1、2および3を有する構築物CD117 D1-2-3を用いて測定)への結合のKDの増加が示されている。「決定不能」は、結合が観察されたがKDを決定することができなかったことを意味し、「結合なし」は、観察された結合がないことを表す。
図10】ヒトCD117の組換え精製選出変異体のSCFへの結合を示す。SCFの野生型ヒトCD117(SCFに対する結合部位を有するドメイン1、2および3を有する構築物CD117 D1-2-3を用いて測定)への結合のKDの増加が示されている。結合を、7つの濃度のCD117変異体を使用することによって分析した。エラーバーは、2つの個々の測定値からの標準偏差を示す。1未満のKD増加は、CD117 WTと比較した変異体のより強いSCF結合に対応し、1を超えるKD増加は、CD117 WTと比較した変異体のより弱いSCF結合に対応する。
図11】野生型TF-1細胞、ならびにCD117のE73Kノックインを保有する細胞が、100ng/mlのSCFで刺激されると増殖することを実証する。Refmab#1の濃度が増加すると、野生型細胞では増殖が減少するが、E73K細胞では減少しない。2つの独立したノックイン実験から「KI1」および「KI2」と命名されたノックイン細胞を得て、続いてFACS選別して純粋なE73Kノックイン集団を得た。
図12】SCF誘導性リン酸化が、野生型CD117 TF-1細胞において抗体(Refmab#1)によって阻止され得るのに対して、SCF誘導性リン酸化は、CD117 TF-1細胞のE73K変異体において同じ抗体によって影響されないことを実証する。CD117ノックアウト(ko)TF-1細胞は、SCF誘導性CD117リン酸化を示さない。
図13】位置E73に対する試験されたcrRNAの結合を示すマップを示す。
図14】位置120~123に対する試験されたcrRNAの結合を示すマップを示す。
図15】ヒトCD117の選択された組換え精製変異体に対する抗体Refmab#2およびRefmab#3の結合の定性的分析を示す。「決定不能」は、結合が観察されたが、二相性挙動のためにKDを定量できなかったことを意味する。
図16】RefMab#1が野生型TF-1細胞の増殖に対して顕著な阻害効果を有したが、試験したすべてのCD117変異体のノックインを有するTF-1細胞の増殖はRefMab#1によって影響されなかったことを示す。
図17】Refmab#1の結合が、CD117変異体E73K、E73Y、D121KおよびS123Kを発現するTF-1細胞において完全に消失し、一方、wt CD117を発現する野生型TF-1細胞が結合していることを示す。
図18】野生型TF-1細胞およびCD117の変異体であるE73Kの2つの独立して作製されたノックイン集団のTyr719の位置におけるCD117のSCF依存性リン酸化を示す。CD117のD121KおよびS123K変異体は同様に挙動した(データは示さず)。
図19】野生型TF-1細胞におけるSCF依存性CD117リン酸化が、抗体Refmab#1-Ernie(「Ernie」と呼ばれる)およびRefmab#1-Bert(「Bert」と呼ばれる)によって阻止されるのに対して、CD117リン酸化のD121KおよびS123K変異体を有するTF-1細胞では影響を受けないことを示す。同じことが変異体E73K、E73YおよびS123Fについても観察される(データは示さず)。
図20】抗体Refmab#1-Bertが、インビボでCD34+ヒト化マウスから未編集の野生型ヒトHSPCを効果的に枯渇させることを示す。
図21】アイソタイプ対照抗体が未編集の野生型CD117+骨髄細胞もE73K編集細胞もインビボで枯渇させないのに対して、抗体Refmab#1-Bertは未編集の野生型CD117+骨髄細胞を枯渇させ、一方、抗体Refmab#1-BertはE73K変異体CD117+骨髄細胞を残すことを示す。アイソタイプ対照抗体の存在下では、CD34+ヒトE73K変異体CD117細胞は、本質的に、ならびに未編集細胞CD34+ヒト細胞と同様に、免疫不全マウスにおいて生着する。
図22】CD117のD121KまたはS123K変異体でトランスフェクトしたDF-1細胞ではなく、野生型DF-1細胞が、試験したADC(Refmab#1-Ernie-teserine(A)およびRefmab#1-Bert-teserine(B))によって枯渇していることを示す。D121K A5およびD121K A6は、同じ変異体に対するプラスミドの2つの異なるバッチを示す。
図23】抗体Refmab#1-Bertを受けたマウスにおける未編集のCD34+前駆細胞(生/hCD45+/CD34+/CD38-としてゲーティング)の枯渇を、アイソタイプ対照抗体を受けたマウスと比較して示す。対照的に、Refmab#1-Bertの注射は、アイソタイプ対照抗体を受けた動物と比較して、E73K、D121KおよびS123K編集変異体細胞の濃縮をもたらした。CD117特異的抗体クローン104D2およびSR-1で染色することによって、編集されていない細胞および編集された細胞を同定した。細胞を未編集(104D2+およびSR-1+)または編集(104D2+だがSR-1-)として分類した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
免疫療法は、がん、遺伝性および自己免疫疾患を治療するための有望な治療法である。腫瘍抗原を対象として抗体または操作された免疫細胞などの免疫枯渇剤は、腫瘍細胞を標的化して殺傷させるために患者に投与される。しかしながら、腫瘍表面タンパク質はまた造血細胞を含む正常細胞の表面で発現されるので、この戦略は、例えば造血を変化させることによって患者に重篤な副作用を誘発することができる。患者における造血を回復させるために、造血細胞をその後に患者に移植することができる。しかしながら、病んだ細胞だけでなく、新たに移植された健常な細胞への枯渇剤の結合は、最大耐量を制限し得るか、または健常な細胞の移植前の治療への使用を制限し得る。あるいは、移植された細胞が、前記免疫枯渇剤によって標的化され、排除されないように、前記免疫枯渇剤に対して耐性である必要がある。本発明者らのアプローチは、そのため、患者における正常な造血を回復させるためのそれらの機能を保持しながら、免疫療法において使用される前記免疫枯渇剤に対して耐性の細胞を選択するものである。
【0031】
本発明者らは、特定の枯渇剤の結合に関与する表面タンパク質領域をコードする遺伝子配列の機能的対立遺伝子変異体を同定する方法を開発する。そのような変異体は、天然に存在する多型および/または設計および操作された変異体であり得る。表面タンパク質の異なるアイソフォームを選択または生成することができる。前記多型の核酸によってコードされる表面タンパク質の前記第1のアイソフォームは、特定の枯渇剤によって認識されない。この変異対立遺伝子は、特に表面タンパク質の機能を変化させないか、または実質的に変化させない。したがって、前記枯渇剤を使用して、一方のアイソフォームに特異的に結合し、他方のアイソフォームには結合しないか、または実質的に結合しないことにより、1つのアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させることができる。例えば、枯渇剤が第1のアイソフォームではなく第2のアイソフォームに特異的に結合する場合、前記枯渇剤は、前記第2のアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させる。別の実施形態では、前記第1のアイソフォームは、第2の薬剤によって認識され得、したがって、この第2の薬剤は、第2のアイソフォームではなく、第1のアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させるために使用され得る。少なくとも1つの変異対立遺伝子によってコードされる表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞は、第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者における医学的治療において、特に、それぞれ第2または第1の薬剤を使用することによって、特異的に移植された細胞または患者の細胞を枯渇させるために有利に使用される。
【0032】
高度なインシリコ分析がなければ、そのようなアプローチにおいて表面抗原のどの変異が使用され得るかを予測することは不可能である。第1に、変異は、枯渇剤にとってアクセス可能な表面抗原の表面露出ストレッチに存在する必要がある。第2に、枯渇剤は、表面抗原の露出領域上のこのストレッチに結合する必要がある。第3に、枯渇剤が第1のアイソフォームを第2のアイソフォームと区別することができるように、結合が十分に影響される必要がある。他のアイソフォームへの残留結合は最小限であるか、またはより良好には完全に存在しないべきである。第4に、突然変異は、表面抗原の機能に影響を及ぼさないか、またはわずかに影響を及ぼすだけであるべきである。変異アイソフォームは、少なくとも所与の治療状況で許容される程度までその生物学的機能を果たすべきである。インシリコ法は最適候補の同定および優先順位付けを支援することができるが、任意の所与の突然変異の有用性を検証するために実験的試験が必要である。
【0033】
枯渇剤
本開示は、細胞上のCD117の1つのアイソフォームに特異的に結合し、CD117の別のアイソフォームには結合しない、または実質的により弱く結合する抗原結合領域を含む薬剤に関する。そのような薬剤は、本明細書では「枯渇剤」と呼ばれる。CD117の両方のアイソフォームは機能的であり、すなわち、CD117は少なくとも1つの関連する特性に関して機能的である。好ましくは、CD117の両方のアイソフォームは、同じ機能を有する、すなわち、機能的に区別できない。
【0034】
しかしながら、CD117の2つのアイソフォームは、枯渇剤への結合に関して異なる。枯渇剤は、CD117のアイソフォームの1つにのみ特異的に結合する。したがって、アイソフォームは、機能的に同一(または機能的に実質的に同一)であるが、免疫学的に区別可能であると記載することができる。
【0035】
CD117の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、多型対立遺伝子であり得る。好ましくは、CD117の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、天然に存在する多型対立遺伝子である。また好ましくは、CD117の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、一塩基多型(SNP)対立遺伝子である。
【0036】
CD117の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームはまた、遺伝子操作された対立遺伝子であり得る。好ましくは、CD117の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、1、2、3、4または5アミノ酸異なる。最も好ましくは、CD117の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、1つのアミノ酸が異なる。
【0037】
第2のアイソフォームを生成するためにCD117に導入される突然変異を判定するために、様々な方法を使用することができる。例えば、突然変異を表面タンパク質にランダムに挿入し、続いて生成された変異体の機能的および免疫学的スクリーニングを行うことができる。あるいは、突然変異は、例えばCD117の二次または三次タンパク質の構造の分析によって合理的に設計することができる。
【0038】
枯渇剤は、細胞上のCD117の1つのアイソフォームに特異的に結合し、別のアイソフォームには結合しないか、または実質的により弱く結合する抗原結合領域を含む。本開示の枯渇剤は、2つの主要なカテゴリーに分けることができる。
【0039】
第1に、枯渇剤は、抗原結合領域を含むポリペプチドであり得る。前記ポリペプチドは、1つ以上のポリペプチド鎖からなり得る。好ましくは、抗原結合領域を含む前記ポリペプチドは抗体である。抗原結合領域を含む前記ポリペプチドはまた、抗体断片、抗体薬物コンジュゲート、または抗体もしくは足場の別の変異体であり得る。例示的な抗体断片および足場には、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR、ビス-scFv、ラクダ抗体、アンキリン、センチリン、ドメイン抗体、リポカリン、小型モジュール免疫医薬品、マキシボディ、プロテインAおよびアフィリンが含まれる。
【0040】
抗原結合領域を含む前記ポリペプチドは、二重特異性、バイスペシフィックまたは多重特異性抗体であってもよい。そのような分子はまた、さらなる機能的ドメインを含有し得る。例えば、抗原結合領域を含む前記ポリペプチドは、T細胞エンゲージャー、例えばBiTEであり得る。抗原結合領域を含む前記ポリペプチドはまた、サイトカインもしくはケモカイン、毒素または細胞表面受容体の細胞外ドメインに融合され得る。
【0041】
あるいは、枯渇剤は、抗原結合領域を含む細胞であり得る。例えば、枯渇剤はキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。本開示の特定の実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CAR T細胞、CAR NK細胞またはCARマクロファージである。本開示の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞はCAR T細胞である。本開示の別の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CARを含む初代T細胞である。
【0042】
枯渇剤は、CD117の1つのアイソフォームに特異的に結合するが、第2のアイソフォームには結合せず、したがって、1つのアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させる。
【0043】
特定の実施形態では、本開示は、CD117の第2のアイソフォームに特異的に結合し、第1のアイソフォームに結合しない第1の抗原結合領域を含む薬剤に関する。他の実施形態では、本開示はまた、CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、第2のアイソフォームに結合しない第2の抗原結合領域を含む薬剤に関する。特定の実施形態において、前記薬剤は、前記CD117の第2のアイソフォームに対して実質的により弱く結合する。
【0044】
CD117の第1および第2のアイソフォームは、1つのアミノ酸置換のみが互いに異なり得る。第1のアイソフォームと第2のアイソフォームとの間の前記1つのアミノ酸の相違はまた、天然に存在する一塩基多型などの一塩基多型が存在することの結果であり得る。CD117の第1および第2のアイソフォームはまた、1個より多いアミノ酸、例えば2個、3個、または3個より多いアミノ酸が互いに異なっていてもよい。CD117の第1および第2のアイソフォームはまた、アイソフォームの一方が他方のアイソフォームと比較して1個、2個、3個または3個を超えるアミノ酸の挿入を有するという点で互いに異なり得る。CD117の第1および第2のアイソフォームはまた、アイソフォームの一方が他方のアイソフォームと比較して1個、2個、3個または3個を超えるアミノ酸の欠失を有するという点で互いに異なり得る。2つのアイソフォームはまた、アミノ酸の置換、挿入および/または欠失の組み合わせによって互いに異なっていてもよい。好ましい実施形態では、前記枯渇剤は抗体または抗原結合断片である。CD117の2つのアイソフォームが2つ以上のアミノ酸だけ異なる場合、変化したアミノ酸は互いに隣接していてもよく、すなわち直接隣接するアミノ酸であってもよく、またはそれらは分離されていてもよい。
【0045】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。したがって、抗体という用語は、抗体分子全体だけでなく、抗体断片ならびに抗体の変異体(誘導体を含む)も包含する。
【0046】
げっ歯類および霊長類の天然の抗体では、2本の重鎖がジスルフィド結合によって互いに連結されており、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に連結されている。ラムダ(λ)とカッパ(κ)という2種類の軽鎖が存在する。IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEという、抗体分子の機能活性を決定する5つの主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)がある。各鎖は、異なる配列ドメインを含む。典型的なIgG抗体では、軽鎖は2つのドメイン、可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、可変ドメイン(VH)および3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3、総合的にCHと呼ばれる)を含む。軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)の両方が、抗原に対する結合認識および特異性を決定する。軽鎖定常領域ドメイン(CL)および重鎖定常領域ドメイン(CH)は、抗体鎖会合、分泌、経胎盤移動性、補体結合、およびFc受容体(FcR)への結合などの重要な生物学的特性を付与する。
【0047】
Fv断片は、免疫グロブリンのFab断片のN末端部分であり、1つの軽鎖および1つの重鎖可変領域からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性にある。抗体結合部位は、主に超可変または相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成される。時折、非超可変領域またはフレームワーク領域(FR)由来の残基は、抗体結合部位に関与し得るか、またはドメイン構造全体、したがって結合部位に影響を及ぼし得る。相補性決定領域、つまりCDRは、天然の免疫グロブリン結合部位の天然のFv領域の結合親和性および特異性を一緒に定めるアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖はそれぞれ、3つのCDRを有し、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3、およびH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3とそれぞれ呼ばれる。したがって、抗原結合部位は、典型的には、重鎖V領域および軽鎖V領域のそれぞれに由来するCDRセットを含む6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に介在するアミノ酸配列を指す。したがって、軽鎖および重鎖の可変領域は、典型的には、以下の配列、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の4つのフレームワーク領域および3つのCDRを含む。
【0048】
抗体可変ドメインの残基は、従来、Kabatらによって考案されたシステムに従ってナンバリングされる。このシステムは、Kabat et al.,1987,in Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Department of Health and Human Services,NIH,USA(Kabat et al.,1992、以降「Kabat et al.」)に記載されている。このナンバリングのシステムが、本明細書で使用されている。Kabatの残基表記は、配列番号の配列におけるアミノ酸残基の線形の番号付けと必ずしも直接対応しない。実際の線形のアミノ酸配列は、基本的な可変ドメイン構造のフレームワークまたは相補性決定領域(CDR)にかかわらず、構造成分の短縮または挿入に対応する厳密なKabatナンバリングよりも少ないまたは付加的なアミノ酸を含み得る。残基の正確なKabatナンバリングは、抗体の配列における相同性の残基と「標準的な」Kabatナンバリングのなされた配列とのアラインメントによって、所与の抗体について決定され得る。重鎖可変ドメインのCDRは、Kabatナンバリングシステムに従って、残基31から35(H-CDR1)、残基50から65(H-CDR2)および残基95から102(H-CDR3)に位置する。軽鎖可変ドメインのCDRは、Kabatナンバリングシステムに従って、残基24から34(L-CDR1)、残基50から56(L-CDR2)、および残基89から97(L-CDR3)に位置する。
【0049】
特定の実施形態では、本明細書において提供される抗体は、抗体断片、より具体的には本明細書に開示される抗体の抗原結合ドメインを含む任意のタンパク質である。抗原結合ドメインはまた、別のタンパク質足場に組み込まれ得る。抗体断片および足場には、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、dsFv、scFv、sc(Fv)2、ダイアボディ、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR、ビス-scFv、ラクダ科抗体、アンキリン、センチリン、ドメイン抗体、リポカリン、小型モジュール免疫医薬品、マキシボディ、プロテインAおよびアフィリンが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書で使用される場合、「抗原結合領域」または「抗体の抗原結合断片」は、場合によってはそのネイティブ形態で、特定の抗原に対する抗原結合能力を示す抗体の一部、すなわち抗体の構造の一部に対応する分子を意味する。そのような断片は、特に、対応する4鎖抗体の抗原結合特異性と比較して、前記抗原に対して同じまたは実質的に同じ抗原結合特異性を示す。抗原結合能は、抗体と標的断片との間の親和性を測定することによって、決定することができる。この抗原結合領域は、抗体の「機能的断片」と呼ばれることもある。
【0051】
本開示の薬剤は、抗体およびその断片を含むが、本明細書では抗原結合抗体模倣物とも呼ばれる、抗体の抗原を模倣する、抗原に結合する能力を有する人工タンパク質も含む。抗原結合抗体模倣物は、抗原に特異的に結合するが、抗体に構造的に関連しない有機化合物である。それらは、通常、約3kDaから20kDaのモル質量を有する人工ペプチドまたは小タンパク質である。
【0052】
「抗原を認識する抗原結合領域」および「抗原に対する特異性を有する抗原結合領域」という語句は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗原結合領域」という用語と互換的に使用される。本明細書で使用される場合、「特異性」という用語は、抗体などの抗原結合領域を含む薬剤が抗原において提示されたエピトープに検出可能に結合できることを指す。
【0053】
「特異的結合」または「特異的に結合する」には、約10-8M(KD)またはそれより強い一価の親和性での結合が含まれる。好ましくは、結合親和性が10-8M(KD)から10-12M(KD)、任意選択で10-8M(KD)から10-10M(KD)、特に少なくとも10-8M(KD)である場合、結合は特異的であると考えられる。親和性は、当業者に周知の様々な方法によって決定することができる。これらの方法には、表面プラズモン共鳴(SPR)、バイオレイヤー干渉法(BLI)、マイクロスケール熱泳動(MST)およびスキャッチャードプロットが含まれるが、これらに限定されない。結合ドメインが標的と特異的に反応するかまたは標的に結合するかどうかは、とりわけ、前記結合ドメインと標的タンパク質または抗原との反応を、前記結合ドメインと標的タンパク質以外のタンパク質または抗原との反応と比較することによって、容易に試験することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体またはその抗原結合領域が結合する抗原の一部を意味する。タンパク質抗原のエピトープは、立体構造エピトープおよび線状エピトープの2つのカテゴリーに分けることができる。立体構造エピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続の部分に対応する。線状エピトープは、抗原からのアミノ酸の連続した配列に対応する。
【0055】
別の態様では、二重特異性または多重特異性の分子、例えば二重特異性抗体または多重特異性抗体が、本明細書にさらに開示される。例えば、抗体は、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を生成するために、別の機能性分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体に対する別の抗体またはリガンド)に誘導体化または連結され得る。抗体は、実際には、2つを超える異なる結合部位および/または標的分子に結合する多重特異性分子を生成するために、1つを超える他の機能性分子に誘導体化または連結され得る。そのような多重特異性分子はまた、本明細書で使用される「二重特異性分子」、「二重特異性抗体」、「二重特異性分子」、「二重特異性抗体」、「多重特異性分子」、および「多重特異性抗体」という用語に包含されることが意図される。二重特異性分子を作出するために、本開示の抗体は、二重特異性分子が生じるように、1つまたはそれを超える他の結合分子、例えば、別の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合模倣物、サイトカイン、ケモカイン、毒素または受容体細胞外ドメインに機能的に連結され得る(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、ジスルフィド結合、非共有結合または他の方法によって)。本開示によって企図される特定の二重特異性分子および多重特異性分子は、T細胞エンゲージャー、例えば二重特異性T細胞エンゲージャー、例えばBiTEである。
【0056】
本明細書で使用される場合、CD117の特定のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する薬剤には、前記特定のアイソフォームを発現する細胞に結合することができない薬剤が含まれる。実験的試験のために、前記薬剤を蛍光マーカーで標識してもよく、または前記薬剤に対する二次抗体で検出してもよく、前記蛍光マーカーまたは前記二次抗体を提示する細胞の割合をFACS分析によって決定する。典型的には、試験は、組換え標的タンパク質、すなわちCD117を発現する細胞株で行われる。標的タンパク質は、その全体が発現され得る。あるいは、切断型を使用してもよく、前記切断型は、少なくとも、それぞれの抗体エピトープを含有する細胞外ドメインまたは細胞外ドメインの領域を含む必要がある。変異体アイソフォームの発現をモニタリングするために、細胞を2つの薬剤で同時に染色し得、一方は変異体が導入されたエピトープに結合し、第2のものは第1の薬剤によって結合されたものとは異なるエピトープに結合する。第2のエピトープは変化しないままであり、したがって、この染色は発現の制御として働く。非結合制御として、目的のタンパク質を発現しない細胞を使用している。最大限の結合制御として、目的のタンパク質を通常発現しない細胞を、野生型アイソフォームでトランスフェクトしている。異なる細胞株は異なる発現レベルを有するが、発現はプロモーターなどの内因性制御要素を介して制御される。そのような細胞株はまた、枯渇剤の作用様式、異なる作用様式に対する効果的な遮蔽を研究するために、細胞傷害性および細胞傷害性からの遮蔽/耐性を試験するために、または操作された受容体の機能を試験するために使用され得る。ウエスタンブロット、ELISAまたはFACSを使用して、シグナル伝達分子のリン酸化を分析することができる。遺伝子発現変化の分析は、正常な機能と比較して遺伝子発現を分析するのに役立ち得る。FACSに基づくアッセイを使用して、細胞上のCD117に対するSCFの結合を分析することができる。細胞はまた、異なるアプローチ、例えば相同組換え修復(HDR)、塩基編集またはプライム編集を介して特定の変異体を編集することの実現可能性を実証するために使用され得る。
【0057】
前記薬剤の結合は、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞の枯渇をもたらし得る。様々な機構が細胞の枯渇をもたらし得る。抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、標的タンパク質への薬剤の結合およびNK細胞などによって発現されるFcRによって結合される薬剤へのFc部分を介したNK細胞の活性化から生じる。免疫グロブリンのFc部分は、免疫グロブリンの重鎖のC末端領域を指す。Fc部分は、野生型または操作されたものであり得る。強化され操作されたFc部分の突然変異は、当技術分野で公知である。特定の治療の状況では、エフェクター機能を誘導する抗体の能力を低減または無効にするために、Fc受容体の1つ以上または全部への野生型IgG Fc領域などの抗体の野生型Fc領域の正常な結合、および/またはC1qなどの補体成分への結合を、低減または無効にすることが所望される。例えば、FcyRI、FcyRIla、FcyRIIb、FcyRIIIaなどのFcy受容体の1つ以上またはすべてに対する抗体のFc領域の結合を低減または無効にすることが所望され得る。エフェクター機能には、以下の、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカインの分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性の抗原取り込み、NK細胞への結合、マクロファージへの結合、単球への結合、多形核細胞への結合、アポトーシスを誘導する直接シグナル伝達、標的結合抗体の架橋、樹状細胞の成熟、またはT細胞プライミングのうちの1つまたは複数が含まれ得るが、これらに限定されない。前記薬剤の結合はまた、天然受容体リガンドの結合の遮断をもたらし、それによって細胞媒介性枯渇なしに細胞死およびアポトーシスをもたらし得る。
【0058】
Fc受容体および/またはC1qへのFc領域の結合の低減または無効は、典型的には、野生型Fc領域、例えばIgG1 Fc領域、より具体的にはヒトIgG1 Fc領域を変異させて、前記野生型Fc領域の変異または操作されたFc領域、例えば変異体ヒトIgG1 Fc領域をもたらすことによって達成される。結合の低減をもたらす置換が有用であり得る。Fc受容体に対するFc領域の結合特性を低減または無効にするために、非保存的アミノ酸置換、すなわちあるアミノ酸を異なる構造的および/または化学的特性および/または電荷を有する別のアミノ酸で置換することが好ましい。
【0059】
本開示の特定の実施形態において、抗体のFc領域は、LALAまたはPG-LALA変異を保有するIgG1アイソタイプのものであり、すなわち、定常領域は、L234A、L235AおよびP329G変異またはPA-LALA変異を保有し、すなわち、定常領域は、L234A、L235AおよびP329A変異、またはAEASSを保有し、すなわち、定常領域は、L234A、L235AおよびP329A変異、またはL234A、L235E、G237A、A330SおよびP331S変異を保有する。当業者は、所望の効果を得るためにFc領域を操作する可能性を認識するであろう。
【0060】
代用のADCCアッセイは、実験のパートに記載されているように、ADCCを媒介する薬剤の効力を定量するための業界の標準を構成する。操作されたJurkatレポーター細胞は、NFAT応答性ルシフェラーゼ遺伝子およびFc受容体、例えばヒトFcgRIIIaを有する。結合する抗体とのFc受容体の結合は、受容体クラスタ形成によるNFAT誘導、したがってルシフェラーゼシグナルを生じる。結合の欠如、したがってクラスタ化はルシフェラーゼシグナルをもたらさない。標的タンパク質を発現しない細胞(例えば、HEKもしくはDF-1細胞またはCD117ノックアウトを有するTF-1、KG-1もしくはKASUMI-1などのヒト骨髄性癌細胞)、野生型タンパク質を発現する細胞(例えば、DF-1-CD117またはTF-1、KG-1もしくはKASUMI-1細胞株のHEK-CD117)または個々の変異体を発現する細胞(例えば、CD117変異体)を試験剤(例えば、抗体Refmab#1)と共にインキュベートし、ADCCレポーター細胞と混合した。次いで、ルシフェラーゼを測定してADCCシグナルを定量した。ルシフェラーゼ発光シグナルを、HEK-CD117、DF-1-CD117または対応する骨髄癌細胞株において観察された最大シグナルに対して正規化した。ADCCは、ADCCレポーターアッセイ(Promega、カタログ番号G7015)を用いて測定した。
【0061】
本開示に沿った他の潜在的な作用モードも可能である。これには、SCFの抗体媒介置換、二量体化遮断薬、または例えばADCの使用によるこれらの領域のいずれかの外側への抗体結合が含まれる。標的細胞を枯渇させる別の方法は、T細胞エンゲージャー分子の使用によるものである。例えば、抗体Refmab#1由来のCD117結合部位とCD3(OKT3)結合部位を用いた二重特異性T細胞エンゲージャーを用いてもよい。ADCCアッセイに使用したのと同じ標的細胞を使用する。初代ヒトT細胞および二重特異性T細胞エンゲージャーを添加する。ヒトT細胞の活性化を、CD69アップレギュレーションの頻度を決定することによってFACSによって定量した。
【0062】
本開示による枯渇剤は、CD117の1つのアイソフォームに特異的に結合し、前記アイソフォームを発現する細胞の枯渇を可能にする。
【0063】
より好ましくは、特定の実施形態において、本開示による前記枯渇剤は、CD117の第1のアイソフォームに結合しないか実質的により弱く結合するが、CD117の第2のアイソフォームに特異的に結合し、特に本明細書において開示されるような使用方法において、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する前記細胞の枯渇を可能にする。特に、細胞CD117の第1のアイソフォームに結合しないか実質的により弱く結合するが、患者の細胞において発現されるCD117の第2のアイソフォームに特異的に結合する前記枯渇剤は、患者の細胞を枯渇させるために使用されるが、前記患者において造血を回復させるために移植された前記CD117の第1のアイソフォームを発現する造血幹細胞またはその継代を枯渇させない。
【0064】
別の特定の実施形態において、本開示による前記枯渇剤は、CD117の第2のアイソフォームに結合しないか実質的により弱く結合するが、CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、特に本明細書において開示されるような使用方法において、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞の枯渇を可能にする。特に、CD117の第2のアイソフォームに結合しないか実質的により弱く結合するが、移植された細胞において発現されるCD117の第1のアイソフォームに特異的に結合する前記枯渇剤は、移植された細胞を特異的に枯渇させて、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために使用される。
【0065】
CD117の特異的アイソフォームを発現する細胞の選択的枯渇は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または抗体依存性細胞貪食(ADCP)によって制限なく達成することができる。
【0066】
特定の実施形態では、抗原結合領域を、薬物または毒素などのエフェクター化合物にカップリングさせる。そのようなコンジュゲートは、本明細書では「イムノコンジュゲート」、「抗体-薬物コンジュゲート」、または「ADC」と呼ばれる。細胞毒または細胞傷害剤は、細胞に有害な(例えば、殺傷する)任意の薬剤を含む。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、メイタンシノイド、カリケアマイシン、インドリノベンゾジアゼピン、ピロロベンゾジアゼピン、ピリジノベンゾジアゼピン、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、ベロテカン、デルテカン、アルファ-アマニチン、ミクロシスチン、アウリスタチン、およびピューロマイシンならびにそれらの類似体またはホモログが挙げられる。
【0067】
別の特定の実施形態において、前記枯渇剤は、キメラ抗原受容体(CAR)などの抗原受容体を有する免疫細胞である。例えば、Myburgh et al.Leukemia(2020)34:2688-703を参照のこと。前記免疫細胞は、その細胞表面に、抗原受容体とも呼ばれる組換え抗原結合領域を発現し得る。「組換え体」とは、その天然の状態で細胞によってコードされない、すなわち異種の非内因性である抗原結合領域を意味する。したがって、組換え抗原結合領域の発現は、免疫細胞に新しい抗原特異性を導入し、細胞に以前に認識されていない抗原を認識させて結合させるということが分かる。抗原受容体は、任意の有用な供給源から単離され得る。本開示の特定の実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CAR T細胞、CAR NK細胞、CAR TregまたはCARマクロファージである。本開示の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞はCAR T細胞である。本開示の別の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CARを含む初代T細胞である。
【0068】
特定の実施形態では、前記組換え抗原受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である。CARは、TCR複合体のシグナル伝達ドメインに連結された、典型的には抗体に由来する抗原結合領域を含む融合タンパク質である。CARは、適切な抗原結合領域が選択される場合、T細胞またはNK細胞などの免疫細胞を標的抗原に対して指向させるために使用することができる。
【0069】
CARの抗原結合領域は、典型的には、抗体に由来するscFv(一本鎖可変断片)に基づく。N末端の細胞外抗体結合領域に加えて、CARは、典型的には、それが発現される免疫エフェクター細胞の原形質膜から離れるように抗原結合領域を延ばすためのスペーサーとして機能するヒンジドメイン、膜貫通(TM)ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、TCR複合体のCD3分子のゼータ鎖(CD3ζ)由来のシグナル伝達ドメイン、または同等物)、および任意選択でCARを発現する細胞のシグナル伝達または機能性を支援し得る1つまたは複数の共刺激ドメインを含み得る。CD28、OX-40(CD134)および4-1BB(CD137)を含む共刺激分子からのシグナル伝達ドメインは、CAR改変免疫細胞の生存を増強し、増殖を増加させるために、単独で(第2世代)または併用して(第3世代)添加することができる。
【0070】
当業者は、本開示に従って使用される免疫細胞をリダイレクトするための上記の適切な抗原結合領域を選択することができる。特定の実施形態では、本開示の方法で使用するための免疫細胞は、リダイレクトされたT細胞、例えば、リダイレクトされたCD8+T細胞もしくはリダイレクトされたCD4+T細胞、またはリダイレクトされたNK細胞である。
【0071】
組換え抗原結合領域を発現するように免疫細胞を遺伝子改変することができる方法は、当技術分野で周知である。抗原受容体をコードする核酸分子は、例えばベクター、または任意の他の適切な核酸構築物の形態で、またはゲノム編集技術を使用して核酸分子をゲノムに挿入することによって、細胞に導入され得る。ベクターおよびそれらの必要な成分は、当技術分野で周知である。抗原結合領域をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の任意の方法、例えばPCRを用いた分子クローニングを用いて生成することができる。抗原結合領域配列は、部位特異的突然変異誘発などの一般的に使用される方法を使用して改変することができる。
【0072】
CD117
CD117(UniProt:P10721;KIT、c-KitまたはSCFRとしても知られている)は、造血幹細胞ならびに他の細胞型の表面上に発現されるサイトカイン受容体である。CD117は、SCF(UniProt:P21583;幹細胞因子Kitリガンドまたはマスト細胞増殖因子としても知られる)に結合する受容体チロシンキナーゼIII型である。SCFへのCD117の結合は、チロシンキナーゼ活性を活性化する二量体の形成をもたらし、それにより、シグナルを細胞内に伝播するシグナル伝達分子を活性化する。CD117を介したシグナル伝達は、細胞の生存、増殖、および分化において役割を果たす。
【0073】
ヒトCD117は、以下のアミノ酸配列(配列番号1)を有する:
MRGARGAWDFLCVLLLLLRVQTGSSQPSVSPGEPSPPSIHPGKSDLIVRVGDEIRLLCTD
PGFVKWTFEILDETNENKQNEWITEKAEATNTGKYTCTNKHGLSNSIYVFVRDPAKLFLV
DRSLYGKEDNDTLVRCPLTDPEVTNYSLKGCQGKPLPKDLRFIPDPKAGIMIKSVKRAYH
RLCLHCSVDQEGKSVLSEKFILKVRPAFKAVPVVSVSKASYLLREGEEFTVTCTIKDVSS
SVYSTWKRENSQTKLQEKYNSWHHGDFNYERQATLTISSARVNDSGVFMCYANNTFGSAN
VTTTLEVVDKGFINIFPMINTTVFVNDGENVDLIVEYEAFPKPEHQQWIYMNRTFTDKWE
DYPKSENESNIRYVSELHLTRLKGTEGGTYTFLVSNSDVNAAIAFNVYVNTKPEILTYDR
LVNGMLQCVAAGFPEPTIDWYFCPGTEQRCSASVLPVDVQTLNSSGPPFGKLVVQSSIDS
SAFKHNGTVECKAYNDVGKTSAYFNFAFKGNNKEQIHPHTLFTPLLIGFVIVAGMMCIIV
MILTYKYLQKPMYEVQWKVVEEINGNNYVYIDPTQLPYDHKWEFPRNRLSFGKTLGAGAF
GKVVEATAYGLIKSDAAMTVAVKMLKPSAHLTEREALMSELKVLSYLGNHMNIVNLLGAC
TIGGPTLVITEYCCYGDLLNFLRRKRDSFICSKQEDHAEAALYKNLLHSKESSCSDSTNE
YMDMKPGVSYVVPTKADKRRSVRIGSYIERDVTPAIMEDDELALDLEDLLSFSYQVAKGM
AFLASKNCIHRDLAARNILLTHGRITKICDFGLARDIKNDSNYVVKGNARLPVKWMAPES
IFNCVYTFESDVWSYGIFLWELFSLGSSPYPGMPVDSKFYKMIKEGFRMLSPEHAPAEMY
DIMKTCWDADPLKRPTFKQIVQLIEKQISESTNHIYSNLANCSPNRQKPVVDHSVRINSV
GSTASSSQPLLVHDDV
ヒトSCFは、以下のアミノ酸配列を有する(配列番号2):
MKKTQTWILTCIYLQLLLFNPLVKTEGICRNRVTNNVKDVTKLVANLPKDYMITLKYVPG
MDVLPSHCWISEMVVQLSDSLTDLLDKFSNISEGLSNYSIIDKLVNIVDDLVECVKENSS
KDLKKSFKSPEPRLFTPEEFFRIFNRSIDAFKDFVVASETSDCVVSSTLSPEKDSRVSVT
KPFMLPPVAASSLRNDSSSSNRKAKNPPGDSSLHWAAMALPALFSLIIGFAFGALYWKKR
QPSLTRAVENIQINEEDNEISMLQEKEREFQEV
【0074】
特定の実施形態では、前記表面タンパク質はCD117である。他の実施形態では、前記表面タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むCD117である。他の実施形態では、前記表面タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなるCD117である。
【0075】
特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、好ましくは前記第1および第2のアイソフォームが機能的である、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0076】
特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが機能的である、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0077】
特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが実質的に機能的に同一である、哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0078】
いくつかの機能がCD117について報告されている。特定の実施形態において、本開示は、両方のアイソフォームが機能的である、CD117の第1および第2のアイソフォームに関する。特定の実施形態において、本開示は、両方のアイソフォームが機能的に区別できないCD117の第1および第2のアイソフォームに関する。本発明において、「機能的に区別できない」は、有意な障害を伴わずに細胞内で同じ機能を等しく果たすことができるCD117の第1および第2のアイソフォームを指す。言い換えれば、第1および第2のアイソフォームは、機能的にほとんど区別できない。わずかな機能障害が許容され得る。好ましい実施形態では、CD117の前記第1のアイソフォームは機能性のままであり、顕著な障害なしに、細胞内で対応する野生型アイソフォームと同じ機能を実行する能力を保持する。
【0079】
CD117の1つの機能は、SCFへの結合である。したがって、特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームがSCFに結合する、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0080】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが実質的に同様の程度でSCFに結合する、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0081】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが配列番号2を含むポリペプチドに結合する、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0082】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが配列番号2からなるポリペプチドに結合する、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0083】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが実質的に同様の様式で配列番号2を含むポリペプチドに結合する、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。他の実施形態では、前記ポリペプチドは配列番号2からなるポリペプチドである。
【0084】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが60%以下、50%以下、40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらにより好ましくは10%以下異なるKで配列番号2を含むポリペプチドに結合する、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。他の実施形態では、前記ポリペプチドは、配列番号2からなるポリペプチドである。
【0085】
SCFへのCD117の結合は、ビオチン化SCFおよび蛍光標識ストレプトアビジンの細胞への結合を滴定および測定するFACSアッセイなどの任意の一般的に使用されるアッセイによって当業者によって試験することができる。そのようなアッセイの例は、実施例8に記載されている。
【0086】
CD117の別の機能は、SCF依存性増殖である。したがって、特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームがSCF依存性増殖をもたらす、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。これらの細胞は、SCFの添加時に増殖の増加を示す。この増殖の増加は、Cell Titer Glow(Promega)などの細胞生存率を定量するための薬剤を使用して2~5日後に測定される。
【0087】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが実質的に同様の様式でSCF依存性増殖をもたらす、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。これは、SCF依存性細胞株、例えばTF-1またはHSCにおいて試験することができる。そのようなアッセイの例は、実施例9に記載されている。他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらにより好ましくは10%以下異なるSCF依存性増殖をもたらす、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームがSCF依存性増殖をもたらし、前記第1のアイソフォームは、第2のアイソフォームと比較して4倍以下、好ましくは3倍以下、より好ましくは2倍以下である結合親和性(K)の喪失をもたらす、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。別の実施形態では、前記第1のアイソフォームは、FACSによって測定した場合に、第2のアイソフォームと比較して40%以下、より好ましくは35%以下、さらにより好ましくは30%以下のEC50の損失をもたらす。
【0088】
SCF依存性増殖は、細胞数、コロニー形成単位(CFU)アッセイ、細胞タイターグロー(CTG;プロメガ)およびカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)細胞増殖アッセイなどの任意の一般的に使用されるアッセイによって当業者によって試験することができる。細胞数アッセイのために、抗CD117抗体の存在下で液体培地中で培養された非改変HSCは、CD117のアイソフォームを発現する遺伝子改変HSCと比較して、経時的に細胞数の増殖の強い減少を示すであろう。14日間のCFUアッセイにより、HSCの造血能、すなわち、分化したコロニーを生じさせるそれらの能力が半固形培地において評価される。抗CD117抗体の存在下で培養された非改変HSCは造血コロニーを形成することができないが、遺伝子改変HSCは抗CD117抗体から保護され、コロニーを生じる。抗CD117抗体の非存在下で培養した場合、遺伝子改変HSCは、液体または半固体培養物中で非改変HSCと同様の増殖を示し、したがってCD117アイソフォームの正常な機能の保持が確認される。
【0089】
特定の実施形態では、前記第1のアイソフォームは、FACSによってEC50を介して測定した場合、第2のアイソフォームと比較して40%以下、より好ましくは35%以下、さらにより好ましくは30%以下の最大増殖の喪失をもたらす。
【0090】
CD117の別の機能は、SCF依存性リン酸化である。したがって、特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが細胞培養培地へのSCFの添加時にリン酸化をもたらす(SCF依存性リン酸化)、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0091】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが実質的に同様の様式でSCF依存性リン酸化をもたらす、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0092】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが30%以下、より好ましくは20%以下、さらにより好ましくは10%以下異なるSCF依存性リン酸化をもたらす、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。他の実施形態では、第1のアイソフォームのSCF依存性リン酸化の減少は、第2のアイソフォームと比較して50%未満である。
【0093】
SCF依存性リン酸化は、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、FACSまたはウエスタンブロットなどの任意の一般的に使用されるアッセイによって当業者によって試験することができる。CD117を発現する細胞を、細胞の収集および細胞溶解緩衝液中での凍結の前に、異なる時点(5~15分間)、SCFと共にインキュベートする。液体窒素中でのフラッシュ凍結および37℃での融解による細胞溶解の際に、位置Tyr719におけるリン酸化CD117の量を、CD117のリン酸化Tyr719を検出することが特に知られているELISAまたはウエスタンブロット法、ならびに対照としてのCD117の総レベルを使用して評価する。
【0094】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、CD117~SCFの第1のアイソフォームのKDは、CD117~SCFの第2のアイソフォームのKDよりも4倍未満、好ましくは3倍未満、より好ましくは2倍未満、最も好ましくは1.5倍未満高い、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。好ましくは、前記第2のアイソフォームは野生型CD117である。
【0095】
他の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、CD117の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、CD117~SCFの第1のアイソフォームのKDは、CD117~SCFの第2のアイソフォームのKDよりも0.25倍未満、好ましくは0.33倍未満、より好ましくは0.5倍未満、最も好ましくは0.66倍未満低い、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0096】
本開示に沿って、本開示の方法および組成物の中でCD117のさらなる変異体またはアイソフォームを組み合わせることも可能である。そのようなアイソフォームは、例えば二重変異体を含み得る。そのようなアイソフォームは、例えば、単一変異体および二重変異体も含み得る。本開示の方法および組成物はまた、CD117ノックアウト、例えば永続的ノックアウトまたは一時的ノックアウト(例えばCRISPRoffを介して)を有する細胞と組み合わせることができる。本開示の方法および組成物はまた、腫瘍の応答を増強するために、固形腫瘍における骨髄細胞の枯渇において使用され得る。
【0097】
本開示の方法および組成物はまた、特に前記表面タンパク質が、CD45、CD123、CD33、CD7、CLEC12A、CD44、FLT3、CD300F、EVI2B、TPOおよびそれらの組み合わせなどの他の標的をノックアウトしたCD117である場合、細胞の組み合わせと組み合わせることができる。
【0098】
本開示の方法および組成物はまた、CD117の第1のアイソフォーム(CD117変異体)および他の表面タンパク質変異体、例えばCD123変異体、CD33変異体、CD7変異体、CLEC12A変異体、CD45変異体FLT3変異体、CD300F変異体、EVI2B変異体、TPO変異体およびそれらの任意の組み合わせを発現する細胞を含み得る。
【0099】
CD117の多型
本開示によるCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞は、前記CD117をコードする核酸に、少なくとも1つの多型対立遺伝子を有するゲノムDNAを含む。特に、前記多型は、前記第2のアイソフォームと比較して、特定の薬剤の結合に関与する少なくとも1つの変異を誘導する。
【0100】
前記多型は、好ましくは、第1の薬剤の結合に関与するCD117の表面タンパク質領域をコードする核酸配列内部にあり、好ましくはCD117の細胞外部分、特に溶媒露出二次構造要素に位置する。より詳細には、前記多型は、第1の薬剤の結合に関与する少なくとも1つの特定のアミノ酸残基をコードする核酸配列内部にある。前記多型は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15または20ヌクレオチドの欠失、置換、挿入またはそれらの組み合わせなどの突然変異であり得る。特定の実施形態では、前記多型は一塩基多型である。
【0101】
2つのアイソフォームの配列の相違はまた、遺伝的に導入され得る。また、ここで、配列の相違は、好ましくは、第1の薬剤の結合に関与するCD117領域をコードする核酸配列内部にあり、好ましくは前記表面タンパク質の細胞外部分、特に溶媒露出二次構造要素に位置する。より詳細には、前記配列の相違は、第1の薬剤の結合に関与する少なくとも1つの特定のアミノ酸残基をコードする核酸配列内部にある。前記配列の相違は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15または20ヌクレオチドの欠失、置換、および/または挿入などの突然変異であり得る。特定の実施形態では、前記配列の相違は単一点の変異である。
【0102】
本開示は、特に残基E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239、Y259、N260、S261、D266、Y269またはR271の置換を含む多型を含む、CD117における多型を提供する。特定の実施形態において、本開示は、残基E73、V120、D121、R122、S123、K127、K193、S239、Y259またはS261の置換を含む特定の多型を含む、CD117における多型を提供する。特定の実施形態において、本開示は、残基E73、D121、R122、S123、S239、Y259またはS261の置換を含む特定の多型を含む、CD117における多型を提供する。他の実施形態では、本開示は、特に残基E73、D121またはS123の置換を含む多型を含む、CD117の多型を提供する。特に好ましい多型には、残基E73の置換が含まれ、E73は、K、L、Q、G、YおよびRからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。好ましくは、前記置換は、E73K、E73YまたはE73Rである。他の好ましい多型としては、残基D121の置換が挙げられ、D121は、S、V、Y、H、K、RおよびTからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。好ましくは、前記置換は、D121Y、D121H、D121K、D121RまたはD121Tである。最も好ましくは、前記置換はD121HまたはD121Kである。他の好ましい多型としては、残基S123の置換が挙げられ、ここで、S123は、P、FまたはKで置換される。最も好ましくは、前記置換はS123Kである。他の好ましい多型には、残基S239の置換が含まれ、S239はHまたはKで置換されている。他の好ましい多型には、K193がG、T、M、DまたはEで置換されている、残基K193の置換が含まれる。さらに他の好ましい多型には、Y259がE、A、G、P、CおよびHからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている、残基Y259の置換が含まれる。好ましくは、前記置換はY259P、Y259AまたはY259Gである。最も好ましくは、前記置換はY259Aである。
【0103】
特定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体を提供し、前記CD117の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を含み、アミノ酸の1つまたは複数は、E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239、Y259、N260、S261、D266、Y269およびR271からなる群から選択され、好ましくはE73、V120、D121、R122、S123、K127、K193、S239、Y259およびS261からなる群から選択され、より好ましくはE73、D121、R122、S123、S239、Y259およびS261からなる群から選択され、最も好ましくはE73、D121およびS123からなる群から選択され、置換される。特定の好ましい実施形態では、前記アミノ酸はE73である。他の好ましい実施形態では、前記アミノ酸はD121である。他の好ましい実施形態では、前記アミノ酸はS123である。他の好ましい実施形態では、前記アミノ酸はS239である。他の好ましい実施形態では、前記アミノ酸はY259である。
【0104】
一定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体であって、前記CD117の変異体が、配列番号1のアミノ酸配列を含み、残基E73が、K、L、Q、G、YおよびRからなる群より選択されるアミノ酸、好ましくはE73K、E73YまたはE73Rで置換されている変異体を提供する。特定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体を提供し、前記CD117の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を含み、残基D121は、S、V、Y、H、K、RおよびT、好ましくはY、H、K、RまたはT、最も好ましくはHまたはKからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。一定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列を含み、残基S123がP、FまたはK、最も好ましくはKで置換されている、CD117の変異体を提供する。一定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列を含み、残基S239がHまたはKで置換されている、CD117の変異体を提供する。一定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列を含み、残基K193がG、T、M、DまたはEで置換されている、CD117の変異体を提供する。特定の実施形態では、本開示は、CD117の変異体を提供し、前記CD117の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を含み、残基Y259は、E、A、G、P、CおよびH、好ましくはP、AまたはG、最も好ましくはAからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0105】
一定の実施形態では、本開示は、哺乳動物細胞またはCD117の前述の変異体の1つを発現する細胞の集団に関する。
【0106】
アミノ酸は、いずれも当業者によく知られている3文字コードまたは1文字コードによって指定され得ることが理解されよう。
【0107】
表1は、20個の天然アミノ酸を示す。
【0108】
【表1】
【0109】
天然の多型
特定の実施形態では、本開示による前記細胞は、前記アイソフォームをコードする核酸において、少なくとも1つの天然多型対立遺伝子、好ましくは一塩基多型(SNP)を有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択される。
【0110】
特定の実施形態では、細胞は、好ましくは前記表面タンパク質の細胞外部分、より好ましくは溶媒露出二次構造要素に位置する、抗CD117剤結合に関与するCD117領域をコードする核酸配列において、少なくとも1つの天然多型対立遺伝子、特にSNPを有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択される。
【0111】
特定の天然に存在するSNPが文献に記載されている。これらの天然のSNPは、そのようなSNPをCD117の別のアイソフォームと区別することができるそれぞれの結合剤と共に、本開示の精神の範囲内で使用され得る。
【0112】
ヒトCD117のいくつかの天然に存在するSNPを表2に示す。天然に存在するSNPのリストはまた、gnomADデータベース:https://gnomad.broadinstitute.org/gene/ENSG00000157404?dataset=gnomad_r2_1で見出せる。
【0113】
【表2】
【0114】
遺伝子編集
別の特定の実施形態では、本開示によるCD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、遺伝子編集によって、好ましくは患者の天然ゲノムDNAの前記表面タンパク質をコードする配列を変更することによって、得られる。
【0115】
細胞は、表面タンパク質のアミノ酸の挿入、欠失および/または置換をもたらす前記多型を誘導する遺伝子編集システムを細胞に導入することによって、遺伝子操作することができる。前記遺伝子編集モダリティは、本明細書では上記の第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする標的配列と呼ばれる核酸配列を標的とする。特に、前記表面タンパク質がCD117である場合、前記遺伝子編集様式は、配列番号1の位置E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239、Y259、N260、S261、D266、Y269またはR271の少なくとも1つのアミノ酸残基をコードする核酸を標的とする。好ましくは、アミノ残基E73は、K、L、Q、G、YおよびRからなる群から選択される、好ましくはK、YおよびRからなる群から選択されるアミノ酸で置換される。また好ましくは、アミノ酸残基D121は、S、V、Y、H、K、RまたはT、好ましくはY、H、K、RまたはT、最も好ましくはHまたはKで置換される。また、好ましくは、アミノ酸残基S123は、P、FまたはK、最も好ましくはKで置換される。また、好ましくは、アミノ酸残基K193は、G、T、M、DまたはEで置換される。また好ましくは、アミノ酸残基S239は、HまたはKで置換される。また、好ましくは、アミノ酸残基Y259は、E、A、G、P、CまたはH、より好ましくはP、AまたはG、最も好ましくはAで置換される。
【0116】
遺伝子編集酵素は、配列特異的ヌクレアーゼ、塩基エディタ、プライムエディタまたはCRISPRトランスポゾンベースの系であり得る。
【0117】
「ヌクレアーゼ」という用語は、核酸(DNAまたはRNA)分子、好ましくはDNA分子のヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解(切断)を触媒することができる野生型または変異型酵素を指す。「切断」とは、二本鎖切断または一本鎖切断事象を意味する。
【0118】
「配列特異的ヌクレアーゼ」という用語は、配列特異的に核酸を切断するヌクレアーゼを指す。メガヌクレアーゼ、TALヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または集まって規則的に間を空けて配置された短い回文配列の繰り返し(CRISPR)/Cas系およびアルゴノートのようなRNA/DNAガイドエンドヌクレアーゼなど、異なるタイプの部位特異的ヌクレアーゼを使用することができる(Review in Li et al.,Nature Signal transduction and targeted Therapy,5,2020;Guha et al.,Computational and Structural Biotechnology Journal,2017,15,146-160)。
【0119】
本開示によれば、ヌクレアーゼは、標的配列内にDNA切断を生じさせ、前記標的配列は、上記のように第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする。特定の実施形態では、本発明者らは、CRISPRのシステムを使用して、上記のように第1の薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする標的配列内で切断を誘導する。
【0120】
「標的配列」とは、上記のように記載した第1の薬剤結合に関与するCD117の領域をコードする配列の一部および/または特に第1の薬剤結合に関与するCD117の前記領域に隣接する最大50ヌクレオチド、好ましくは前記薬剤結合部位に隣接する20、15、10、9、8、7、6または5ヌクレオチドの第1の薬剤結合に関与するCD117の前記領域に隣接する少なくとも1つ(1つまたは2つ)の配列を標的とすることを意図する。
【0121】
CRISPRシステムは、2つ以上の成分、Casタンパク質(CRISPR関連タンパク質)およびガイドRNAを含む。ガイドRNAは、単一ガイドRNAまたは二重ガイドRNAであり得る。Casタンパク質は、ガイドRNA配列をガイドとして使用して、標的配列に相補的なDNAの二本鎖の切断を認識および生成するDNAエンドヌクレアーゼである。一本鎖切断を生じるCas系は、1つのヌクレアーゼドメインのみを必要とする。二本鎖切断を生じるCas系は、2つのヌクレアーゼドメインを必要とする。Casタンパク質は、2つの活性切断部位、例えばHNHヌクレアーゼドメインおよびRuvC様ヌクレアーゼドメインを含み得る。
【0122】
Casタンパク質はまた、標的核酸配列を切断することができるCas 9の操作されたエンドヌクレアーゼ、ホモログまたはオルソログを意味する。特定の実施形態では、Casタンパク質は、二本鎖切断または一本鎖切断のいずれかに対応し得る核酸標的配列の切断を誘導し得る。Casタンパク質変異体は、天然には存在せず、タンパク質のエンジニアリングまたはランダムな突然変異誘発によって得られるCasエンドヌクレアーゼであり得る。Casタンパク質は、当技術分野で公知のCasタンパク質の1つのタイプであり得る。Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(CsnlおよびCsxl2としても知られる)、SaCas9、Cas12、Cas12a(Cpf1)、CaslO、Csyl、Csy2、Csy3、Csel、Cse2、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cnrr6、Csbl、Csb2、Csb3、Csxl7、CsxM、CsxlO、Csl6、CsaX、Csx3、Csl、Csxl5、Csfl、Csf2、CsO、Csf4、そのホモログ、オルソログ、またはそれらの改変型が挙げられる。好ましくは、Casタンパク質は化膿性連鎖球菌Cas9タンパク質である。
【0123】
Casを、標的配列との相補的な配列を含むように設計されたガイドRNA(gRNA)と接触させて、前記標的配列内、特に本開示によれば、上記の薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする標的配列の一部の相補配列のDNA切断を特異的に誘導する。
【0124】
本明細書で使用される場合、「ガイドRNA」、「gRNA」、「sgRNA」または「単一ガイドRNA」は、標的核酸へのgRNA/Cas複合体の特異的標的化またはホーミングを促進する核酸を指す。
【0125】
特に、gRNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)およびcrRNAを含むRNAを指す。好ましくは、前記ガイドRNAは、単一のガイドRNAを生成するため別々に使用され得るかまたは一緒に融合され得るcrRNAおよびtracrRNAに対応する。標的配列との相補的な配列対合は、Casを動員して、標的配列においてDNAに結合して切断する。
【0126】
本開示によれば、crRNAは、薬剤によって認識される表面タンパク質領域を標的化することができるように、薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする上記の標的配列の一部に相補的な配列を含むように操作される。好ましい実施形態では、sgRNAは、前記結合剤の結合部位を標的化するために使用される。別の好ましい実施形態では、ガイドRNAは、当業者に公知の化学修飾を含む。
【0127】
特定の実施形態では、crRNAは、標的配列に相補的な5~50ヌクレオチド、好ましくは15~30ヌクレオチド、より好ましくは20ヌクレオチドの配列を含む。本明細書で使用される場合、「相補配列」という用語は、標準的な低ストリンジェントな条件下でポリヌクレオチドの別の部分にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド(例えばcrRNAまたはtracRNAの一部)の配列部分を指す。好ましくは、配列は、鎖間のワトソン-クリック塩基対合、すなわちアデニン・チミン(A-T)ヌクレオチドとグアニン・シトシン(G-C)ヌクレオチドとの間の固有の塩基対合に依存する2つの核酸鎖間の相補性に従って、互いに相補的である。前記gRNAは、本開示を考慮して当業者に公知の任意の方法によって設計することができる。
【0128】
本開示によれば、前記標的配列は、第1の薬剤結合に関与するCD117の表面タンパク質領域をコードし、好ましくはCD117の細胞外部分に位置し、より好ましくは前記第2のアイソフォームと比較して細胞外ループに位置し、やはりより好ましくは、薬剤の結合に関与するアミノ酸残基を含む。
【0129】
好ましい実施形態では、表面タンパク質がCD117である場合、前記標的配列は、上に開示されるような抗CD117剤結合などの第1の薬剤の結合に関与するCD117領域をコードする。好ましくは、前記標的配列は、配列番号1のE73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239、Y259、N260、S261、D266、Y269またはR271位の少なくとも1つの残基をコードする。
【0130】
特定の実施形態では、前記crRNAは、第1の薬剤の結合に関与するCD117領域をコードする配列を標的とし、特に表3に記載の配列の1つ(crRNA配列)を含み得る。
【0131】
【表3】
【0132】
換言すれば、表面タンパク質がCD117である場合、前記核酸構築物は、好ましくは、以下を含み得る
-配列番号1のアミノ酸残基E73をコードする配列を標的とする配列番号3~8のgRNA配列、または
-配列番号1のアミノ酸残基V120、D121、R122、S123をコードする配列を標的とする、配列番号9~14からなる群から選択されるgRNA配列。
【0133】
他の特定の実施形態において、遺伝子編集は、HDRを介して行われ、HDR鋳型は、表4に示される配列のうちの1つを含み得る。
【0134】
【表4】
【0135】
本開示によるヌクレアーゼによって導入されるDNA鎖の切断は、非相同末端結合(NHEJ)を介した切断部位でのDNAの突然変異をもたらし得、これは頻繁に、相同組換え修復(HDR)を介した切断部位周囲のDNAの小さな挿入および/または欠失または置換をもたらす。
【0136】
好ましい実施形態では、CD117のアイソフォームをコードする核酸内部の前記多型は、DNA切断後のHDR修復、および本明細書でHDR鋳型と呼ばれる外因性ヌクレオチド配列の導入を介して誘導される。
【0137】
HDR鋳型は、標的配列の領域5’および3’にそれぞれ相同な配列の第1および第2の部分と、多型を含む中間配列部分とを含む。標的配列の切断に続いて、標的配列を含有するゲノムとHDR鋳型との間で相同組換え事象が達成され、標的配列を含有するゲノム配列が外因性配列によって置き換えられる。
【0138】
好ましくは、少なくとも20bp、好ましくは30bp超、好ましくは50bp超、より好ましくは200bp未満の相同配列が使用される。相同配列は、dsDNAまたはssDNAであり得る。好ましくは、相同配列はds DNAである。実際、共有するDNA相同性は、切断部位の上流および下流に隣接する領域に位置し、導入される外因性配列は、2つのアームの間に位置するはずである。隣接する配列は、対称であっても非対称であってもよい。標的核酸の両方の鎖、すなわちプラス鎖またはマイナス鎖が標的化され得る。任意選択で、HDRを改善するためにサイレンシングされ得るPAMシーケンスが使用されてもよい。
【0139】
好ましい実施形態では、本開示による細胞は、上記のような前記第1の薬剤によって認識されるCD117の領域をコードする配列およびHDR鋳型を標的とする前記部位特異的ヌクレアーゼを前記細胞に導入することによって遺伝子操作される。
【0140】
別の特定の実施形態では、前記遺伝子編集酵素は、Komor et al.,Nature 533,420-424,and in Rees HA,Liu DR.Nat Rev Genet.2018;19:770-788に記載されているDNA塩基エディタであるか、またはAnzalone et al.Nature,2019,576:149-157,Matsoukas et al.,Front Genet.(2020)11:528,Chen et al.Cell(2021)184:5635-52,Koblan et al,Nat Biotechnol(2021)39:1414-25 and Kantor A.et al.Int.J.Mol.Sci.2020,21(6240)で説明されているように、プライムエディタである。塩基エディタまたはプライムエディタを使用して、標的配列の特定の部位に突然変異を導入することができる。
【0141】
本開示によれば、塩基エディタまたはプライムエディタは、第1の薬剤結合に関与するCD117の領域をコードする配列の配列特異的標的化によって標的配列の内部に突然変異を生成する。
【0142】
特に、前記塩基エディタまたはプライムエディタは、CRISPRベースまたはプライムエディタである。前記CRISPR塩基またはプライムエディタは、触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼとして、死んだCasタンパク質(dCas)を含み得る。それはまた、変異ヌクレアーゼドメインを有するCas9を含み得る。dCasは、エンドヌクレアーゼ活性を欠く改変Casヌクレアーゼを指す。ヌクレアーゼ活性は、Casタンパク質のHNHおよび/またはRuvC様触媒ドメインにおける1つ以上の突然変異および/または1つ以上の欠失によって、dCasタンパク質において阻害または防止され得る。得られたdCasタンパク質はヌクレアーゼ活性を欠くが、特異的標的配列に対して高い特異性および効率でガイドRNA(gRNA)-DNA複合体に結合する。特定の実施形態では、前記dCasは、Casの1つの触媒ドメインが阻害または防止されるCasニッカーゼであり得る。
【0143】
前記塩基エディタを、標的核酸配列の相補的配列を含むように設計されたガイドRNA(gRNA)と複合体を形成させて、上記のように前記標的配列に特異的に結合させる。
【0144】
前記gRNAは、本開示を考慮して当業者に公知の任意の方法によって設計することができる。特定の実施形態では、前記gRNAは、上記のように前記第1の薬剤によって認識されるCD117上の領域をコードする配列を標的とし得る。
【0145】
非限定的な例として、前記塩基エディタは、死んだCasタンパク質、特にCasニッカーゼに融合したヌクレオチドデアミナーゼドメインである。前記ヌクレオチドデアミナーゼは、アデノシンデアミナーゼまたはシチジンデアミナーゼであり得る。前記ヌクレオチドデアミナーゼは、天然または操作されたデアミナーゼであり得る。
【0146】
特定の実施形態では、前記塩基エディタは、BE1、BE2、BE3、BE4、HF-BE3、Sa-BE3、Sa-BE4、BE4-Gam、saBE4-Gam、YE1-BE3、EE-BE3、YE2-BE3、YEE-BE3、VQR-BE3、VRER-BE3、SaKKH-BE3、cas12a-BE、Target-AID、Target-AID-NG、xBE3、eA3A-BE3、A3A-BE3、BE-PLUS、TAM、CRIPS-X、ABE7.9、ABE7.10、ABE7.10*xABE、ABESa、ABEmax、ABE8e、VQR-ABE、VRER-ABEおよびSaKKH-ABEからなる群から選択される非限定的な例であってもよい。
【0147】
前記プライムエディタは、上記の触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼ、特にCasニッカーゼと触媒的に活性な操作された逆転写酵素(RT)酵素との融合からなる。前記融合タンパク質は、特に表面タンパク質がCD117である場合、上記の標的配列と相補的な配列を含むプライム編集ガイドRNA(pegRNA)と併用して使用され、表3に記載の配列の1つと、DNAのプライマー結合部位領域に結合する配列も含む追加の配列を含む。特定の実施形態では、前記逆転写酵素は、マロニーマウス白血病ウイルスRT酵素およびその変異体である。前記プライムエディタは、PE1、PE2、PE3およびPE3b、またはChen et al.Cell(2021)184:5635-52 or Koblan et al,Nat Biotechnol(2021)39:1414-25に記載されているプライムエディタのいずれかからなる群から選択される非限定的な例であり得る。
【0148】
抗CD117剤
いくつかの抗CD117部分は当技術分野で公知であり、そのうちのいくつかは現在開発中である。抗体SR-1は、最初にハイブリドーマから単離された(国際公開第1992017505号)。SR-1のヒト化バージョンを作製した(国際公開第2007127317号;国際公開第2020112687号)。抗CD117薬物コンジュゲートは、国際公開第2016020791号に記載されている。他の抗CD117抗体は、国際公開第2015050959号および国際公開第2019084064号に記載されている。特定の抗CD117抗体、例えば抗体104D2 Dianova(#117PE-100T)も市販されている。これらおよび他の抗CD117部分は、本開示の文脈において使用され得る。いくつかの抗CD117抗体もまた、本開示において、完全長抗体フォーマットで、同様にまた、Fabフォーマットで作製された。詳細は実施例1に提供される。
【0149】
特定の実施形態では、CD117の前記第2のアイソフォームに結合し、上記のようにCD117の前記第1のアイソフォームに結合しないかまたは実質的に弱く結合する前記枯渇剤は、配列番号1のアミノ酸E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239、Y259、N260、S261、D266、Y269および/またはR271を含むエピトープに特異的に結合する。より好ましくは、前記枯渇剤は、配列番号1のアミノ酸E73、V120、D121、R122、S123、K127、K193、S239、Y259および/またはS261を含むエピトープに特異的に結合する。さらにより好ましくは、前記枯渇剤は、配列番号1のアミノ酸E73、D121、R122、S123、S239、Y259および/またはS261を含むエピトープに特異的に結合する。最も好ましくは、前記枯渇剤は、配列番号1のアミノ酸E73、D121および/またはS123を含むエピトープに特異的に結合する。
【0150】
好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0151】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0152】
別の実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン、
抗原結合領域は、以下の変異を含む:
●VLCDR1領域(配列番号20)のアスパラギンがグルタミン酸に置換されており、
●VLCDR3領域(配列番号22)のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換されており、任意選択で、
●VLCDR3領域(配列番号22)の第2のアスパラギンがリジンに置換されている。
【0153】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン。
抗原結合領域は、以下の変異を含む:
●VLCDR1領域(配列番号20)のアスパラギンがグルタミン酸に置換されており、
●VLCDR3領域(配列番号22)のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換されており、任意選択で、
●VLCDR3領域(配列番号22)の第2のアスパラギンがリジンに置換されている。
【0154】
別の実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0155】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0156】
別の実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0157】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0158】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号15の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号16の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0159】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号15の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号16の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0160】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号15の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号62の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0161】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号15の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号62の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0162】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号15の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号63の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0163】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号15の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号63の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0164】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号25であり、VHCDR2が配列番号26であり、VHCDR3が配列番号27である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号28、VLCDR2は配列番号29、およびVLCDR3は配列番号30である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0165】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号25であり、VHCDR2が配列番号26であり、VHCDR3が配列番号27である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号28、VLCDR2は配列番号29、およびVLCDR3は配列番号30である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0166】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号23の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号24の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0167】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号23の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号24の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0168】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号33であり、VHCDR2が配列番号34であり、VHCDR3が配列番号35である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号36、VLCDR2は配列番号37、およびVLCDR3は配列番号38である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0169】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号33であり、VHCDR2が配列番号34であり、VHCDR3が配列番号35である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号36、VLCDR2は配列番号37、およびVLCDR3は配列番号38である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0170】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号31の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号32の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0171】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号31の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号32の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0172】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号41であり、VHCDR2が配列番号42であり、VHCDR3が配列番号43である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号44、VLCDR2は配列番号45、およびVLCDR3は配列番号46である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0173】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号41であり、VHCDR2が配列番号42であり、VHCDR3が配列番号43である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号44、VLCDR2は配列番号45、およびVLCDR3は配列番号46である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0174】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号39の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号40の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0175】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号39の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号40の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0176】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)VHCDR1が配列番号49であり、VHCDR2が配列番号50であり、VHCDR3が配列番号51である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号52、VLCDR2は配列番号53、およびVLCDR3は配列番号54である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0177】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)VHCDR1が配列番号49であり、VHCDR2が配列番号50であり、VHCDR3が配列番号51である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号52、VLCDR2は配列番号53、およびVLCDR3は配列番号54である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0178】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、以下を含む抗原結合領域を含む、
a)配列番号47の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号48の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0179】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117またはCD117の変異体への結合について抗原結合領域と競合し、前記抗CD117剤は、以下を含む:
a)配列番号47の可変重鎖を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH);および
b)配列番号48の可変軽鎖を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)。
【0180】
抗CD117の抗原結合領域は、上で定義されたそれらの結合特性についてさらにスクリーニングまたは最適化され得ることがさらに企図される。特に、その前記抗原結合領域は、本明細書において提供されるモノクローナル抗体の1、2、3、4、5または6つのCDRのアミノ酸配列において1、2、3、4、5、6またはそれを超える変化を有し得ることが企図される。抗原結合領域の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のVJ領域またはVDJ領域のCDR1、CDR2、CDR3、CDR4、CDR5、またはCDR6の1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、9位または10位のアミノ酸は、保存アミノ酸または非保存アミノ酸による挿入、欠失または置換を有し得ることが企図される。置換され得るかまたは置換を構成し得るそのようなアミノ酸は、上に開示されている。
【0181】
いくつかの実施形態では、アミノ酸の相違は、保存的置換、すなわち、類似の化学的または物理的特性(サイズ、電荷、または極性)を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換であり、この置換は、一般に、抗体の生化学的、生物物理学的、および/または生物学的特性に悪影響を及ぼさない。特に、置換は、抗体とCD117抗原との相互作用を破壊しない。前記保存的置換は、有利には、以下の5つの群、第1群-小脂肪性、非極性またはわずかに極性の残基(A、S、T、P、G);第2群-極性、負に荷電した残基、およびそれらのアミド(D、N、E、Q);第3群-極性、正に荷電した残基(H、R、K);第4群-大脂肪、非極性残基(M、L、I、V、C);および第5群-大きな、芳香族残基(F、Y、W)の中で選択される。
【0182】
より特定の実施形態では、前記第1の抗原結合領域が、配列番号15、23、31、39および47から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号16、62、63、24、32、40および48から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0183】
上で定義されたアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも90%、例えば少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するその前記第1の抗原結合領域はまた、本開示の一部であり、典型的には、第1の抗原結合領域は、配列番号15、23、31、39および47から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖および/乾燥または、配列番号16、62、63、24、32、40および48から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むまたはからなる軽鎖可変ドメインからなる前記第1の抗原結合領域と少なくとも同等またはそれより高次の結合活性を有する。
【0184】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CD117に対する少なくとも1つの第1の結合特異性、例えば本明細書に記載の抗CD117の1つの抗原結合領域、および第2の標的エピトープまたは標的抗原に対する第2の結合特異性を含む二重特異性CD117抗体であり得る。
【0185】
本開示によれば、前記抗CD117剤は、CD117標的抗原受容体、例えばCD117標的CARを有する免疫細胞であり得、前記抗原受容体は上記の抗原結合領域を含む。
【0186】
特定の実施形態では、CD117標的CARを有する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、それを必要とする患者において発現されるCD117の第2のアイソフォームを認識し、CD117の第1のアイソフォームを認識しない。特に、前記免疫細胞は、配列番号1のアミノ酸E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239 Y259、N260、S261、D266、Y269および/またはR271を含むエピトープに特異的に結合し得る。より好ましくは、前記免疫細胞は、配列番号1のアミノ酸E73、V120、D121、R122、S123、K127、K193、S239、Y259および/またはS261を含むエピトープに特異的に結合する。さらにより好ましくは、前記免疫細胞は、配列番号1のアミノ酸E73、D121、R122、S123、S239、Y259および/またはS261を含むエピトープに特異的に結合する。最も好ましくは、前記免疫細胞は、配列番号1のアミノ酸E73、D121および/またはS123を含むエピトープに特異的に結合する。
【0187】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、抗原結合領域は以下を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、VLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0188】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、抗原結合領域は以下を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0189】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、抗原結合領域は以下を含む、
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0190】
より特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号16のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0191】
より特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号62のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0192】
より特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号63のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0193】
本開示によれば、前記抗CD117剤は、CD117を標的とする抗原受容体、例えばCD117の特異的アイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞であり得、前記抗原受容体は上記の抗原結合領域を含み、前記免疫細胞はCD117を発現しないか、または前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現する。
【0194】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、CD117の特異的アイソフォームを標的とするCARは、scFvなどの抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン、
また、前記免疫細胞は、CD117を発現しないか、または前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現するかのいずれかである。
【0195】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、CD117の特異的アイソフォームを標的とするCARは、scFvなどの抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン、
また、前記免疫細胞は、CD117を発現しないか、または前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現するかのいずれかである。
【0196】
特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、CD117の特異的アイソフォームを標的とするCARは、scFvなどの抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン、
また、前記免疫細胞は、CD117を発現しないか、または前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現するかのいずれかである。
【0197】
より特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号15のアミノ酸配列を含むまたはからなる重鎖可変ドメイン、および配列番号16のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含み、前記免疫細胞は、前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現する。
【0198】
別の特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号15のアミノ酸配列を含むまたはからなる重鎖可変ドメイン、および配列番号62のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含み、前記免疫細胞は、前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現する。
【0199】
別の特定の実施形態では、前記抗CD117剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号15のアミノ酸配列を含むまたはからなる重鎖可変ドメイン、および配列番号63のアミノ酸配列を含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含み、前記免疫細胞は、前記CARによって認識されないCD117のアイソフォームを発現する。
【0200】
より好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、実施例に記載のようにRefmab #1抗体である。
【0201】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD117剤は、実施例に記載のCD117の特定のアイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞であり得る。
【0202】
特に、本開示はまた、それを必要とする対象において、宿主細胞または移入細胞をそれぞれ選択的に枯渇させるのに使用するための第1または第2の抗原結合領域を含む上記の抗CD117剤(例えば、CAR細胞組成物または抗体)を枯渇させることに関する。
【0203】
CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞
本開示は、哺乳動物細胞、好ましくは造血細胞、またはCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞の集団に関し、前記細胞または細胞の集団は、前記第1のアイソフォームをコードする核酸において少なくとも1つの多型対立遺伝子を含むCD117の第1のアイソフォームを発現し、前記第1のアイソフォームは、本明細書に記載の第1の抗原結合領域を含む枯渇剤によって認識されない。
【0204】
前記細胞または細胞の集団は、CD117の第2のアイソフォームを発現する患者における医学的治療に特に有用である。
【0205】
特定の実施形態において、枯渇剤(例えば造血細胞)によって認識されない前記CD117の第1のアイソフォームをコードするかまたは発現する前記細胞(例えば造血幹細胞)は、免疫療法後に正常な造血を回復させるための医学的治療、例えば、前記第2のアイソフォームを発現する患者における養子細胞移入において特に有用であり、具体的には、前記治療は、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記造血細胞を、前記CD117の第2のアイソフォームを標的化する治療有効量の枯渇剤と組み合わせて投与することを含む。特に、前記造血細胞、好ましくは造血幹細胞は、前記枯渇剤に続いて投与される。別の特定の実施形態において、前記造血細胞、好ましくは造血幹細胞は、前記枯渇剤の前に、または前記枯渇剤と同時に投与され得る
【0206】
別の特定の実施形態においてCD117の、第2のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する枯渇剤によって特異的に認識される前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、前記CD117の第2のアイソフォームを発現する患者における医学的治療において、特に、第1のアイソフォームを有する移植される細胞に関連する重篤な副作用を回避するために(安全スイッチ)特に有用であり、前記治療は、前記CD117の第1のアイソフォームを標的とする治療有効量の枯渇剤を投与することを含む。特に、前記造血細胞、好ましくはCARを有する免疫細胞は、前記枯渇剤の前に投与される。
【0207】
本明細書で使用される場合、細胞という用語は、哺乳動物の細胞、好ましくはヒトの細胞に関する。
【0208】
特定の実施形態では、前記細胞は造血細胞である。造血細胞は、B細胞およびT細胞などのリンパ球、ナチュラルキラー細胞、単球などの骨髄細胞、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球、顆粒球、樹状細胞(DC)および板状樹状細胞(pDC)を含む免疫細胞を含む。
【0209】
好ましい実施形態では、前記免疫細胞はT細胞である。別の好ましい実施形態では、前記免疫細胞は初代T細胞である。本明細書で使用される場合、「T細胞」という用語は、T細胞受容体(TCR)を有する細胞、またはTCRを有するT細胞に由来する細胞を含む。本開示によるT細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、メモリーTリンパ球、腫瘍浸潤リンパ球、または1型および2型ヘルパーT細胞とTh17ヘルパー細胞の両方を含むヘルパーTリンパ球からなる群から選択することができる。別の実施形態では、前記細胞は、CD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球または非古典的T細胞、例えばMR1拘束性T細胞、MAIT細胞、NKT細胞、ガンマデルタT細胞、または自然免疫様T細胞からなる群に由来し得る。
【0210】
T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織および腫瘍を含む複数の非限定的な供給源から得ることができる。特定の実施形態では、T細胞は、当業者に公知の任意の数の技術を使用して、対象から採取された血液の単位から得ることができる。あるいは、T細胞をiPS細胞から分化させることができる。
【0211】
別の好ましい実施形態では、前記造血細胞は造血幹細胞である。幹細胞は、成体幹細胞、胚性幹細胞、より具体的には非ヒト幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞、または造血幹細胞であり得る。代表的なヒト幹細胞はCD34細胞である。造血幹細胞は、iPS細胞から分化され得るか、または臍帯血から、骨髄から、または動員されたもしくは動員されていない末梢血から採取され得る。
【0212】
特定の実施形態では、細胞は、細胞を受け入れる人のHLA遺伝子型と同一、類似または異なるHLA遺伝子型を呈するドナーに由来する細胞を指す同種細胞である。ドナーは、血縁者であっても非血縁者であってもよい。特定の実施形態では、細胞は、細胞を受けている同じ人に由来する細胞を指す自己細胞である。
【0213】
前記細胞は、健常なドナーまたは患者、特にがん、遺伝性疾患または自己免疫疾患と診断された患者または感染症と診断された患者に由来し得る。造血細胞は、血液、骨髄から抽出され得るか、または幹細胞に由来し得る。HSCは、例えば、iPS(人工多能性幹細胞)に由来し得る。
【0214】
当業者は、移植される患者または対象に応じてより適切な細胞を選択されよう。
【0215】
本開示はさらに、本明細書に開示される治療に使用するための細胞または細胞の集団の組成物に関する。
【0216】
CAR
養子細胞移入療法に使用するために、本開示によるCD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞を、所望の特異性および増強された機能性を示すように改変することができる。特定の実施形態では、前記細胞は、上記のようにその細胞表面に抗原受容体とも呼ばれる組換え抗原結合領域を発現し得る。特定の実施形態では、前記組換え抗原受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である。本開示によれば、CD117の第1のアイソフォームおよびCARを発現する前記免疫細胞は、CD117の前記第1のアイソフォームに特異的に結合するがCD117の第2のアイソフォームには結合しない第2の抗原結合領域を含む治療有効量の薬剤の投与によって特異的に枯渇させることができ、それにより、前記免疫細胞の移植に起因する最終的な重篤な副作用を回避する。
【0217】
特定の実施形態では、免疫細胞はがん抗原に対して再配向される。「がん抗原」とは、がんに関連する任意の抗原(すなわち、免疫応答を誘導することができる分子)を意味する。本明細書で定義される抗原は、免疫応答を誘導する任意の種類の分子であり得、例えば、多糖または脂質であり得るが、最も好ましくはペプチド(またはタンパク質)である。ヒトがん抗原は、ヒトまたはヒト由来であり得る。がん抗原は腫瘍特異的抗原であり得、これは健常な細胞には見られない抗原を意味する。腫瘍特異的抗原は、一般に、健康なヒトのプロテオームには見られない全く新しいアミノ酸配列を生成する突然変異、特にフレームシフト突然変異から生じる。
【0218】
がん抗原には、腫瘍関連抗原も含まれ、腫瘍関連抗原は、その発現または産生が腫瘍細胞に関連するが、これに限定されない抗原である。腫瘍関連抗原の例としては、例えばHer2、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、アルファ-フェトプロテイン(AFP)、がん胎児性抗原(CEA)、がん抗原-125(CA-125)、CA19-9、カルレチニン、MUC-1、上皮膜タンパク質(EMA)、上皮腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、CD34、CD45、CD99、CD117、CD123、クロモグラニン、サイトケラチン、デスミン、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、総嚢胞性疾患液タンパク質(GCDFP-15)、HMB-45抗原、タンパク質メラン-A(Tリンパ球によって認識されるメラノーマ抗原;MART-1)、myo-Dl、筋特異的アクチン、神経線維、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、胎盤アルカリホスファターゼ、シナプトフィシン、サイログロブリン、甲状腺転写因子-1、ピルビン酸キナーゼアイソエンザイムM2型(腫瘍M2-PK)の二量体形態、CD19、CD22、CD33、CD123、CD27、CD30、CD70、GD2(ガングリオシドG2)、EGFRvIII(上皮成長因子変異体III)、精子タンパク質17(Spl7)、メソテリン、PAP(前立腺酸性ホスファターゼ)、プロステイン、TARP(T細胞受容体ガンマ鎖代替リーディングフレームタンパク質)、Trp-p8、STEAP1(前立腺6膜貫通上皮抗原1)、異常なrasタンパク質または異常なp53タンパク質が挙げられる。別の特定の実施形態では、前記腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原は、インテグリンανβ3(CD61)、ガラクチン、K-Ras(V-Ki-ras2 Kirstenラット肉腫ウイルス癌遺伝子)、またはRal-Bである。
【0219】
特定の実施形態では、養子細胞移入療法に使用するために、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療のために、本開示による免疫細胞は、CD117標的CARなどの組換え抗原結合領域を発現する。第1のアイソフォームを発現し、CAR(例えば、CAR-CD117)を発現する前記細胞は、CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合するが、CD117の第2のアイソフォームには結合しないか、または実質的により弱く結合する第2の抗原結合領域を含む枯渇剤を投与することによって、さらに特異的に枯渇され得、それにより、移植に起因する移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用が回避される。
【0220】
特定の実施形態では、第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、CD117を標的とするCARを有し、前記CARは、N末端ドメイン内、またはアミノ酸E73、T74、V120、D121、R122、S123、Y125、K127、K193、I201、K203、S239 Y259、N260、S261、D266、Y269および/もしくはR271、より好ましくは配列番号1のアミノ酸E73、V120、D121、R122、S123、K127、K193、S239、Y259および/もしくはS261、さらにより好ましくは配列番号1のアミノ酸E73、D121、R122、S123、S239、Y259および/またはS261、最も好ましくは配列番号1のアミノ酸E73、D121および/またはS123を含むポリペプチド内に位置するCD117のエピトープに特異的に結合する抗原結合領域を含む抗原結合領域、例えばscFvを含む。
【0221】
特に、第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、抗原結合領域、例えばscFvを含むCD117標的CARを有し、抗原結合領域は、以下を含み
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン、
より好ましくは、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび/または配列番号16のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域を含む。
【0222】
あるいは、第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、抗原結合領域、例えばscFvを含むCD117標的CARを有し、抗原結合領域は、以下を含み
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン、
より好ましくは、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび/または配列番号62のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域を含む。
【0223】
あるいは、第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、抗原結合領域、例えばscFvを含むCD117標的CARを有し、抗原結合領域は、以下を含み
a)VHCDR1が配列番号17であり、VHCD2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCD1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン、
より好ましくは、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる重鎖可変ドメインおよび/または配列番号63のアミノ酸配列を含むもしくはからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域を含む。
【0224】
第1のアイソフォームを発現する細胞を調製するインビトロの方法
本開示によるCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞は、上記の遺伝子編集酵素および/またはHDR鋳型を含む少なくとも1つの遺伝子編集酵素またはリボ核タンパク質複合体をコードする核酸構築物(例えばmRNA)を前記細胞に導入することによって、遺伝子操作することができる。あるいは、遺伝子編集系は、アデノウイルス系などのウイルス系を介して前記細胞に形質導入される。前記細胞はまた、上記のCARをコードする核酸構築物を前記細胞にさらに導入することによって、遺伝子操作され得る。特に、前記方法は、細胞の培養物に対して行われるエクスビボな方法である。
【0225】
本明細書で使用される「核酸構築物」という用語は、組換えDNA技術の使用から生じる核酸分子を指す。核酸構築物は、一本鎖または二本鎖のいずれかの核酸分子であり、核酸配列のセグメントを含むように修飾されており、普通なら自然界に存在しない様式で組み合わされ、並置される。核酸構築物は、通常、「ベクター」、すなわち外因的に作製されたDNAを宿主細胞に送達するために使用される核酸分子である。
【0226】
好ましくは、核酸構築物は、1つ以上の制御配列に作動可能に連結された前記遺伝子編集酵素、HDR鋳型および/またはCARを含む。前記制御配列は、標的器官(すなわち、造血細胞)の細胞において機能的である遍在性、組織特異的または誘導性プロモーターであり得る。当技術分野で周知のそのような配列には、特にプロモーター、および導入遺伝子の発現をさらに制御することができるさらなる調節配列、例えば限定されないが、エンハンサー、ターミネーター、イントロン、サイレンサーが含まれる。
【0227】
上記のような核酸構築物は、発現ベクターに含まれていてもよい。ベクターは、自律複製ベクター、すなわち、その複製が染色体の複製とは無関係である染色体外実体として存在するベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体または人工染色体であり得る。ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含み得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されると、ゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであり得る。
【0228】
適切なベクターの例としては、組換え組込み型または非組込み型ウイルスベクター、および組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAに由来するベクターが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ベクターは組換え組込み型または非組込み型ウイルスベクターである。組換えウイルスベクターの例としては、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはウシパピローマウイルスに由来するベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0229】
本開示は、上記の遺伝子編集酵素および/またはHDR鋳型を含む遺伝子編集酵素またはリボ核タンパク質複合体をコードする核酸構築物(例えばmRNA)を細胞に導入することによって、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを細胞において発現させる方法に関する。前記方法は、CARをコードする核酸構築物を前記細胞に導入する工程をさらに含み得る。前記方法は、Casタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタおよびガイドRNA(crRNA、tracrRNa、または融合ガイドRNAまたはpegRNA)などの遺伝子編集酵素を細胞に導入することを含む。特に、前記遺伝子編集酵素は、上記のCRISPR/cas遺伝子編集酵素である。より特定の実施形態では、前記遺伝子編集酵素は、ガイドRNAおよびCasタンパク質を含む部位特異的ヌクレアーゼ、より好ましくはCRISPR/Casヌクレアーゼであり、Casタンパク質と併用した前記ガイドRNAは、上記のように薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする核酸を含む前記標的配列内部で切断する、および切断を誘導する。
【0230】
好ましい実施形態では、前記核酸構築物は、枯渇剤への結合に関与するCD117の領域をコードする核酸配列を標的化することができるCRISPR/Casヌクレアーゼを含み、好ましくは、前記核酸構築物は、以下を含む。
-配列番号1のアミノ酸残基E73をコードする配列を標的とする配列番号3~8のgRNA配列、または
-配列番号1のアミノ酸残基V120、D121、R122、S123をコードする配列を標的とする、配列番号9~14からなる群から選択されるgRNA配列。
【0231】
前記Casヌクレアーゼは、高忠実度Cas9ヌクレアーゼなどの高忠実度Casヌクレアーゼであり得る。
【0232】
上記のような前記遺伝子編集酵素、好ましくはガイドRNAおよび/またはCasタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタは、核酸構築物、好ましくは上記のようなガイドRNAおよび/またはCasタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタなどの前記遺伝子編集酵素をコードする発現ベクターの細胞への導入の結果として、細胞でインサイチュで合成され得る。あるいは、ガイドRNAおよび/またはCasタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタなどの前記遺伝子編集酵素は、細胞外で産生され、次いでそれに導入され得る。
【0233】
前記核酸構築物または発現ベクターは、当技術分野で公知の任意の方法によって細胞に導入することができ、非限定的な例として、核酸構築物または発現ベクターが細胞のゲノムに組み込まれる安定的な形質導入方法、核酸構築物または発現ベクターが細胞のゲノムに組み込まれない一過性のトランスフェクション方法、およびウイルス媒介方法が挙げられる。例えば、一過性の形質転換方法は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、細胞スクイージング、粒子衝撃またはインビボターゲティングアプローチを含む。
【0234】
インビボ編集
本開示によるCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞はまた、インビボで編集され得る。ウイルスベクター、脂質ナノ粒子およびウイルス様粒子を含む、治療的なインビボ遺伝子編集を可能にする様々な技術が存在する(例えば、Cell(2022)185:2806-27を参照のこと)。CD117を、枯渇剤によって認識されないCD117の第1のアイソフォームに変換する分子機構は、これらの方法のいずれかによって達成することができる。
【0235】
特定の実施形態において、本開示は、遺伝子および枯渇剤をインビボで編集することができる分子機構を含む医薬組成物に関し、
遺伝子をインビボ編集することができる前記分子機構が、標的細胞における野生型CD117の点変異をCD117のアイソフォームに導入するために必要とされる全成分を含み、
前記枯渇剤は野生型CD117に結合するが、CD117の前記アイソフォームには結合せず
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【0236】
好ましくは、CD117の前記アイソフォームは、野生型CD117の位置121のアスパラギン酸のリジンへの置換を特徴とする。あるいは、CD117の前記アイソフォームは、野生型CD117の位置123のセリンのリジンへの置換を特徴とする。
【0237】
また好ましくは、前記枯渇剤は、以下を含む、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0238】
あるいは、前記枯渇剤は、以下を含む、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0239】
あるいは、前記枯渇剤は、以下を含む、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン。
【0240】
本明細書で使用される「遺伝子を編集することができる分子機構」という用語は、それぞれのビヒクルを介して標的部位または細胞に送達される場合、インビボで標的遺伝子を編集するのに必要な遺伝子および/または核酸の配置を指す。機構はまた、それぞれの送達ビヒクル、例えばウイルスベクター、脂質ナノ粒子またはウイルス様粒子を含む。
【0241】
医薬組成物および治療的使用
さらなる態様では、本開示はまた、1つまたは複数の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と共に、上記のCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団を含む医薬組成物を提供する。
【0242】
特定の実施形態では、CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞は造血幹細胞である。
【0243】
別の特定の実施形態では、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、好ましくは上記のように前記患者の細胞によって発現されるCD117の第2のアイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞、好ましくはT細胞、より好ましくは初代T細胞である。
【0244】
医薬組成物は、上記のような第1または第2の抗原結合領域を含む枯渇剤をさらに含み得る。
【0245】
医薬組成物は、投与経路に従って薬学的に許容され得る担体中に製剤化される。好ましくは、組成物は、静脈内注射によって投与されるように製剤化される。そのような投与に適した医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容され得る滅菌等張水溶液もしくは非水溶液(例えば、平衡塩類溶液(BSS))、分散液、懸濁液もしくはエマルジョン、または使用直前に滅菌注射液もしくは分散液に再構成され得る滅菌粉末と併用して、上記の第1のアイソフォームを発現する細胞を含み得、これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、溶質もしくは懸濁剤もしくは増粘剤を含み得る。
【0246】
任意選択で、CD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を含む組成物は、細胞の保存に適切な任意の温度で保存のために凍結され得る。例えば、細胞は、約-20℃、-80℃または任意の他の適切な温度で凍結され得る。極低温凍結細胞は、細胞への損傷のリスクを低減し、細胞が融解後に生存する可能性を最大化するために、適切な容器に保存され、保存用に調製され得る。あるいは、細胞を冷蔵の室温、例えば約4℃に維持し得る。
【0247】
本開示は、医薬として使用するための、特に患者における養子細胞移入療法などの免疫療法に使用するための、上記のCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団に関する。
【0248】
本開示によれば、上記のようなCD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、それを必要とする患者の医学的治療に使用され、前記医学的治療は、前記CD117の前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の細胞または細胞の集団を、前記CD117の第2のアイソフォームまたは第1のアイソフォームに特異的に結合する治療有効量の枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)と併用して投与して、それぞれ患者または移植細胞を特異的に枯渇させることを含む。
【0249】
本明細書で使用される場合、「併用して」または「併用療法で」という用語は、2つ(またはそれ以上)の異なる治療が、障害により対象が苛まれる過程のさ中に対象に送達されること、例えば、2つ以上の治療が、対象が障害と診断された後、障害が治癒もしくは排除される前、または他の理由で治療が中止される前に送達されることを意味する。いくつかの実施形態では、一方の治療の送達が、第2の治療の送達が開始されたときに依然として行われているので、投与に関する重複がある。これは、本明細書では「同時」または「同時送達」と呼ばれることがある。他の実施形態では、一方の治療の送達は、他方の治療の送達が始まる前に終了している。送達は、送達される第1の治療の効果が、第2の治療が送達されるときに依然として検出可能であるようなものであり得る。1つの実施形態において、CD117の第2のアイソフォームまたは第1のアイソフォームに結合する枯渇剤が、本明細書に記載されている用量および/または投薬スケジュールで投与され、第1のアイソフォームを発現する細胞が、本明細書に記載されている用量および/または投薬スケジュールで投与される。いくつかの実施形態では、「と併用して」は、CD117の第2のアイソフォーム(例えば、CD117の第2のアイソフォームを認識するCAR細胞または抗体)または第1のアイソフォームを標的とする枯渇剤、および前記CD117の前記第1のアイソフォームを発現する細胞の組成物が、同時に投与されなければならない、および/または一緒に送達するべく製剤化されなければならないということを意味するよう意図されてはいない、ただしこれらの送達方法は本開示の範囲内である。枯渇剤(例えば、CD117の第2のアイソフォームを標的とするCAR細胞または抗体)は、CD117の第1のアイソフォームを発現する造血幹細胞の用量と同時に、その用量の前に、またはその用量の後で投与され得る。特定の実施形態では、各薬剤は、その特定の薬剤について決められている用量および/または時間スケジュールで投与される。
【0250】
本開示による養子細胞移入療法は、がん、遺伝病、自己免疫疾患、感染性疾患、造血幹細胞移植(HSCT)を必要とする疾患、臓器拒絶の予防、腫瘍移植前処置、腫瘍維持療法、最小残存疾患、再発の予防と診断された患者を治療するために使用することができる。
【0251】
本開示はまた、患者における養子移入細胞療法のための医薬の製造における、上記のCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞の使用に関する。
【0252】
本明細書で使用される場合、「対象」または「患者」という用語は、ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、マウス、ウサギまたはラットを含む動物、好ましくは免疫応答が誘発され得る哺乳動物を指す。より好ましくは、患者は、出生前段階の成人、小児およびヒトを含むヒトである。
【0253】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」または「治療すること」という用語は、疾患の治療、予防(preventionおよびprophylaxis)、および遅延などの患者の健康状態を改善することを意図した任意の行為を指す。特定の実施形態では、そのような用語は、疾患または疾患に関連する症状の改善または根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、そのような疾患を有する対象への1つまたは複数の治療薬の投与から生じる疾患の進展または悪化を最小限に抑えることを指す。
【0254】
治療され得るがんには、血管新生していない、またはまだ実質的に血管新生していない腫瘍、ならびに血管新生した腫瘍が含まれる。がんは、非固形腫瘍(例えば、血液腫瘍、例えば、白血病およびリンパ腫、例えば再発および治療関連腫瘍、例えば、細胞傷害療法および造血幹細胞移植(HSCT)後の二次性悪性腫瘍)を含み得るか、または固形腫瘍を含み得る。
【0255】
本明細書で使用される「自己免疫疾患」という用語は、自己免疫応答に起因する障害として定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な応答の結果である。
【0256】
感染症は、細菌、ウイルス、寄生虫または真菌などの病原性微生物によって引き起こされる疾患である。特定の実施形態では、本開示による感染症は、HSCT後の患者または固形臓器移植を受けた患者などの免疫抑制患者で起こる。
【0257】
好ましい実施形態では、本開示は、血液がん、好ましくは白血病、リンパ腫、骨髄腫または他のリンパ増殖性障害に使用するための上記のCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞に関する。前記白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物(BPDCN)、慢性骨髄性白血病(CML)を含む骨髄増殖性新生物(MPN)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)を含む骨髄異形成症候群/骨髄増殖性新生物(MDS/MPN)オーバーラップ症候群、慢性リンパ性白血病(CLL)、BおよびT細胞非ホジキンリンパ腫、急性二表現型白血病、有毛細胞白血病、インターロイキン-3受容体サブユニットα陽性白血病、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)、ホドキンリンパ腫(HL)、全身性肥満細胞症および好ましくはMDS、好ましくはAMLまたはBPDCNからなる群から選択することができる。
【0258】
特定の実施形態では、CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、固形腫瘍の治療、特に患者の固形腫瘍の骨髄細胞の選択的枯渇のために使用して、腫瘍の骨髄細胞は免疫抑制性であり得るので、免疫チェックポイント阻害剤、CAR T細胞または腫瘍浸潤リンパ球などの免疫療法剤が腫瘍にアクセスすることを可能にすることができる。この状況では、上記のような第1のアイソフォームのCD117を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、固形腫瘍の骨髄細胞を枯渇させることを意図した治療によって影響を受け得る造血系を補充するのに役立ち得る。
【0259】
別の特定の実施形態では、上記のCD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、狼瘡、多発性硬化症、強皮症または全身性硬化症などの自己免疫疾患の治療に使用することができる。
【0260】
本開示はまた、それを必要とする対象において、宿主細胞または移入細胞をそれぞれ選択的に枯渇させるのに使用するための第1または第2の抗原結合領域を含む枯渇剤(例えば、CAR細胞組成物または抗体)に関する。
【0261】
特異的に患者の細胞を枯渇させ、移植された細胞は枯渇させない方法
本開示によれば、上記のようなCD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、それを必要とする患者の医学的治療に使用され、前記医学的治療は、前記CD117の前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を、前記CD117の第2のアイソフォームに特異的に結合する治療有効量の枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)と併用して投与することを含む。
【0262】
実際、免疫療法中に、CD117を対象とするCAR発現免疫細胞などの免疫枯渇剤を患者に投与して、腫瘍細胞を標的とし、殺傷させることができる。しかしながら、腫瘍表面タンパク質はまた、正常な造血細胞の表面で発現されるので、この戦略は、造血を変化させることによって患者に重篤な副作用を誘発することができる。患者における造血を回復させるために、造血細胞をその後に患者に移植することができる。しかしながら、これらの細胞は、前記薬剤によって標的化されないように、前記薬剤(すなわち、CD117発現細胞用の枯渇剤)に対して耐性がある必要がある。
【0263】
したがって、あるいは、本開示によれば、CD117の第2のアイソフォームに特異的に結合する第1の抗原結合領域を含む枯渇剤を投与して、CD117の前記第2のアイソフォームを発現する患者の細胞であって、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する移植細胞ではない患者の細胞を特異的にアブレーションすることができる。患者の細胞は枯渇するが移植された細胞は枯渇させない選択的枯渇は、免疫枯渇剤によってもはや枯渇されない健常な造血系で患者を再構成することを可能にする。したがって、本治療的使用によれば、患者は、免疫抑制を長期間経るより、むしろ機能的な免疫系を有する。本開示による細胞の使用は、現在のHSC移植の主要な合併症としての感染症を排除する。
【0264】
別の実施形態において、本開示は、CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者において正常な造血を回復させるための養子細胞移入療法のための、好ましくは造血幹細胞移植のための方法に関し、それは以下を含む
(i)CD117の第1のアイソフォームを発現する有効量の細胞(例えば造血幹細胞)であって、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、前記第1のアイソフォームをコードする核酸に少なくとも1つの多型対立遺伝子、好ましくは一塩基多型(SNP)対立遺伝子、または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型が、前記CD117の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在しない、細胞、またはその医薬組成物を投与すること、および
(ii)CD117の前記第2のアイソフォームに特異的に結合し、CD117の前記第1のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含む薬剤の治療有効量を投与して、CD117の前記第2のアイソフォームを発現する細胞(患者の細胞)を特異的に枯渇させること。
【0265】
CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞またはその医薬組成物は、上記のような第1の抗原結合領域を含む薬剤と併用して(例えば、前に、同時に、または後に)対象に投与される。
【0266】
好ましい実施形態では、枯渇剤(例えば、CD117の第2のアイソフォームを標的とするCAR細胞または抗体)は、前記表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD117の第1のアイソフォーム)を発現する造血幹細胞の用量の、(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間)前、または後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間後)に投与される。
【0267】
「治療有効量」または「有効量」とは、上で定義した治療、特に患者における正常な造血の回復を構成するのに十分な、対象に投与される、上で説明したようなCD117の第1のアイソフォームを発現するいくつかの細胞、特に造血幹細胞を意図する。
【0268】
本開示による細胞または医薬組成物の投与は、注射、輸血、または移植(implantation、transplantation)を含む任意の好都合な様式で行われ得る。本明細書に記載の組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内またはリンパ内注射によって、または腹腔内に患者に投与することができる。別の実施形態では、本開示の細胞または医薬組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。本開示の細胞または医薬組成物は、腫瘍、リンパ節または感染部位に直接注射され得る。
【0269】
細胞または細胞の集団の投与は、それらの範囲内の細胞数のすべての整数の値を含む、10から10細胞/kg体重、好ましくは10から10細胞/kg体重、より好ましくは2×10から5×10細胞/kg体重の投与からなることができる。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康状態および体重、もしあれば併用治療の種類、治療の頻度および所望の効果の性質に依存する。細胞または細胞の集団は、1つまたは複数の用量で投与することができる。投与のタイミングは、管理医師の判断の範囲内であり、対象の臨床状態に依存する。細胞または細胞の集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源から得ることができる。個々の必要性は様々であるが、当技術分野の範囲内の特定の疾患または状態に対する所与の細胞型の有効量の最適範囲の決定がなされた。
【0270】
特に、本開示はまた、それを必要とする対象において、宿主細胞を選択的に枯渇させるのに使用するための第1の抗原結合領域を含む上記の抗CD117剤(例えば、CAR細胞組成物または抗体)を枯渇させることに関する。
【0271】
特異的に移植された細胞を枯渇させ、患者の細胞は枯渇させない方法(安全スイッチ)。
本開示によれば、上記のようなCD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、それを必要とする患者の医学的治療に使用され、前記医学的治療は、CD117の前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の細胞または細胞の集団を、前記表面タンパク質の前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合する治療有効量の枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)と併用して投与することを含む。
【0272】
本開示のCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団、好ましくは免疫細胞は、患者への養子移入細胞移入療法において特に使用される。前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記移植細胞は、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、特にCD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、患者の細胞によって発現されるCD117の第2のアイソフォームには結合しないかまたは実質的により弱く結合する第2の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤を投与することによって、患者においてさらに枯渇させることができる。この場合、(移植された細胞によって発現される)CD117の前記第1のアイソフォームに特異的に結合する第2の抗原結合領域を含む前記薬剤は、患者の細胞ではなく特異的に移植された細胞を枯渇させるために投与される。移植細胞の選択的枯渇は、「安全スイッチ」を設けることによって重要な安全機能を構成する。
【0273】
移植片対宿主病(GvHD)は、遺伝的に異なる人からの移植組織の受け入れ後の医学的合併症に関する。提供された組織(移植片)の免疫細胞は、レシピエント(宿主)を外来細胞として認識する。特定の実施形態では、医学的状態は、免疫細胞が患者に移入される造血幹細胞移植または養子細胞移入療法によって引き起こされる移植片対宿主病である。
【0274】
前記副作用は、移植細胞、特にCARを有する免疫細胞がサイトカイン放出症候群および/または神経毒性などの重篤な副作用を有する場合にも起こり得る。この場合、CD117の第1のアイソフォームを発現する移植細胞は、前記細胞が悪性になるか、または安全スイッチとして任意のタイプの望ましくないオンターゲットまたはオフターゲットの損傷を引き起こすと排除することができる。
【0275】
本開示は、CD117の第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者における養子細胞移入療法のための方法に関し、方法は以下を含む、
(i)CD117の第1のアイソフォームを発現する有効量の細胞であって、前記CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、前記第1のアイソフォームのCD117をコードする核酸に少なくとも1つの多型対立遺伝子、好ましくは一塩基多型(SNP)対立遺伝子、または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型が、前記CD117の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在しない、細胞、またはその医薬組成物を投与すること、および
(ii)CD117の前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、CD117の前記第2のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む薬剤の治療有効量を投与して、CD117の前記第1のアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させること。
【0276】
CD117の第1のアイソフォームを発現する前記細胞またはその医薬組成物は、上記のような第2の抗原結合領域を含む薬剤と併用して(例えば、前に、同時に、または後に)対象に投与される。
【0277】
好ましい実施形態では、枯渇剤(例えば、CD117の第2のアイソフォームを標的とするCAR細胞または抗体)は、CD117の第1のアイソフォームを発現する造血幹細胞の用量の、(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間)前、または後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間後)に投与される。
【0278】
本開示による細胞または医薬組成物の投与は、注射、輸血、または移植(implantation、transplantation)を含む、任意の好都合な様式で行われ得る。本明細書に記載の組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内またはリンパ内注射によって、または腹腔内に患者に投与することができる。別の実施形態では、本開示の細胞または医薬組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。本開示の細胞または医薬組成物は、腫瘍、リンパ節または感染部位に直接注射され得る。
【0279】
細胞または細胞の集団の投与は、それらの範囲内の細胞数のすべての整数の値を含む、10から10細胞/kg体重、好ましくは10から10細胞/kg体重の投与からなることができる。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康状態および体重、もしあれば併用治療の種類、治療の頻度および所望の効果の性質に依存する。細胞または細胞の集団は、1つまたは複数の用量で投与することができる。投与のタイミングは、管理医師の判断の範囲内であり、対象の臨床状態に依存する。細胞または細胞の集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源から得ることができる。個々の必要性は様々であるが、当技術分野の範囲内の特定の疾患または状態に対する所与の細胞型の有効量の最適範囲の決定がなされた。
【0280】
したがって、特定の実施形態において、本開示は、上で記載されるようなCD117の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)に関し、前記患者は、CD117の第2のアイソフォームを発現する天然の細胞を有し、前記枯渇剤は、前記CD117の第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記CD117の第2のアイソフォームに結合しないかまたは実質的により弱く結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む。
【0281】
別の態様では、本開示は、上記のCD117の第1のアイソフォームを細胞に発現させるためのキットであって、Casタンパク質、塩基エディタもしくはプライムエディタ、核酸構築物、上記の発現ベクターと併用させたガイドRNAなどの遺伝子編集酵素、または本開示による単離細胞を含むキットに関する。
【0282】
特定の実施形態では、本開示は、以下の併用に関する、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置121のアスパラギン酸のリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)以下を含む枯渇剤、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【0283】
特定の実施形態では、本開示は、以下の併用に関する、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置123のセリンのリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)以下を含む枯渇剤、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号60である、抗体軽鎖可変ドメイン、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【0284】
特定の実施形態では、本開示は、以下の併用に関する、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置121のアスパラギン酸のリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)以下を含む枯渇剤、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【0285】
特定の実施形態では、本開示は、以下の併用に関する、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置123のセリンのリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)以下を含む枯渇剤、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号59、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号61である、抗体軽鎖可変ドメイン、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【0286】
特定の実施形態では、本開示は、以下の併用に関する、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置121のアスパラギン酸のリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)以下を含む枯渇剤、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【0287】
特定の実施形態では、本開示は、以下の併用に関する、
a)CD117のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記CD117のアイソフォームが、野生型CD117の位置123のセリンのリジンへの置換を特徴とする、哺乳動物細胞または細胞の集団、および
b)以下を含む枯渇剤、
i.VHCDR1が配列番号17であり、VHCDR2が配列番号18であり、VHCDR3が配列番号19である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
ii.3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号20、VLCDR2は配列番号21、およびVLCDR3は配列番号22である、抗体軽鎖可変ドメイン、
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのものである。
【実施例
【0288】
実施例1:抗CD117 FabおよびMAbの作製
6つの異なる抗CD117抗体を、公的に入手可能な配列情報または情報源に基づいてFabおよびMAbフォーマットで作製した。抗体の5つ(Refmabの#1~#5)の可変鎖およびCDR(Kabat)を表4に示す。第6の抗体(Refmab#6)は、BioLegend(カタログ番号第313202号;代替サプライヤ:Dianova(#117PE-100T))から市販されている抗CD117抗体である、抗体104D2である。抗体YB5.B8を発現対照(Invitrogen、カタログ番号第14-1179-82)として使用した。
【0289】
【表4】
【0290】
抗体のさらなる特徴、ならびに完全長抗体のフォーマットおよびアイソタイプを表5に示す。
【0291】
【表5】
【0292】
実施例2:CD117へのMAbの結合およびアッセイ条件の最適化
HEK-293T細胞を、野生型CD117(配列番号1)を含有する構築物または空のベクターでトランスフェクトした。トランスフェクト細胞への抗体の結合および最適なアッセイ条件を384ウェルフォーマットで評価した。細胞発現の検出をハイスループットフローサイトメトリーによって測定した。各抗体の連続希釈物を、CD117またはベクターのみを発現する細胞に対する免疫反応性について試験した。生のシグナル値およびシグナル-バックグラウンド計算に基づいて、各抗体の最適スクリーニング濃度を決定した。結果を図1に示す。各点は、4回の反復の平均を表す。
【0293】
Mabフォーマットの6つすべての抗体は、濃度依存的様式でヒトCD117に結合する。空ベクターでトランスフェクトした細胞は、抗ヒトCD117抗体への結合を示さなかった。
【0294】
フローサイトメトリーのための最適化されたアッセイ条件を表6に示す。
【0295】
【表6】
【0296】
実施例3:CD117へのFabの結合およびアッセイ条件の最適化
完全長抗体の代わりにFab断片を試験したことを除いて、実施例2に記載したのと同様の実験を行った。各Fabの連続希釈物を、野生型CD117またはベクターのみを発現する細胞に対する免疫反応性について試験した。生のシグナル値およびシグナル-バックグラウンド計算に基づいて、各Fabに対する最適スクリーニング濃度を決定した。結果を図2に示す。各点は、4回の反復の平均を表す。
【0297】
Mabフォーマットの6つすべての抗体は、濃度依存的様式でヒトCD117に結合する。空ベクターでトランスフェクトした細胞は、抗ヒトCD117抗体への結合を示さなかった。
【0298】
ハイスループットフローサイトメトリーのための最適化されたアッセイ条件を表7に示す。
【0299】
【表7】
【0300】
実施例4:アラニンスキャン
ヒトCD117のアラニンスキャンを実施して、調査した6つの抗体への結合に関与するCD117の残基を決定した。アラニンスキャンは、Immunology(2014)143,13-20に記載されているように、ショットガン突然変異誘発エピトープマッピング(Integral Molecular,Philadelphia/PA,USA)によって行った。簡潔には、ハイスループット部位特異的突然変異誘発によってCD117の突然変異ライブラリーを作成した。各残基を個別にアラニンに変異させ、アラニンコドンをセリンに変異させた。変異体ライブラリーを384ウェルマイクロプレートに配列し、HEK293T細胞に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を、野生型CD117の独立した免疫蛍光滴定曲線を使用して所定の濃度で示された抗体(IgGまたはFab)と共にインキュベートした。Alexa Fluor 488コンジュゲート二次抗体を使用して抗体を検出し、Intellicyt iQueフローサイトメトリープラットフォーム(Intellicyt/Sartorius)を使用して平均細胞蛍光を決定した。変異した残基は、試験抗体の反応性を支持しないが、参照抗体の反応性を支持する場合、抗体エピトープにとって重要であると同定された(抗体YB5.B8(Invitrogen、カタログ番号第14-1179-82))。このカウンタースクリーニング戦略は、局所的にミスフォールドしているかまたは発現欠損を有する変異体の排除を容易にする。各抗体の各変異クローンへの結合を二連で決定した。各点について、バックグラウンド蛍光を生データから差し引いた後、野生型CD117との抗体反応性に対して正規化した。
【0301】
非常に高親和性の抗体のライブラリースクリーニングでは、抗体結合のための重要な残基が得られないことがあるので、高親和性抗体をFabフォーマットに変換して、結合を十分に弱め、結合のための重要な残基の同定を可能にした。標準的な条件下でのFabスクリーニングが、結合のための重要な残基を同定するにはまだ不十分である場合、高ストリンジェンシー条件を実施した。これらの条件には、pHの上昇、塩分濃度の上昇、温度の上昇、および/または洗浄時間の増加の組み合わせが含まれる。高ストリンジェンシー条件を必要とした抗体は「HS」と示される。
【0302】
各変異クローンについて、平均結合値を発現の関数(対照の反応性によって表される)としてプロットした。図3を参照されたい。予備的な一次重要クローン(灰色の円)を同定するために、対照抗体に対する>70%野生型結合および試験抗体に対する<20%野生型結合の閾値(破線)を適用した。設定された閾値を満たさなかったが、結合活性の低下および重要な残基への近接性が、変異した残基が抗体エピトープの一部であり得ることを示唆したクローンについては、二次クローン(白丸)を強調している。
【0303】
同定された重要な残基を表8に要約する。同定されたすべての重要な残基について、平均結合反応性(および範囲)を挙げる。抗体結合のための重要な残基(灰色で白抜き)は、変異が試験Abへの結合について陰性であったが、対照抗体への結合について陽性であった残基であった。閾値ガイドラインを満たさないさらなる二次残基(枠付き細胞として概説されている)が同定されたが、その結合活性の低下および重要な残基への近接は、それらが抗体エピトープの一部であり得ることを示唆した。
【0304】
【表8】
【0305】
表9は、試験した6つの抗体のそれぞれについての重要な残基をまとめたものである。変異が特異的抗体との反応性を最も低くした残基を太字で強調し、下線を引く。検証された重要な残基は、その側鎖が抗体-エピトープ相互作用に最も高いエネルギー寄与をするアミノ酸を表す(J.Mol.Biol.(1998)280,1-9;J.Mol.Biol.(1999)285,2177-2198);したがって、強調された残基は、結合に対する主要なエネルギー寄与体である可能性が高い。
【0306】
【表9】
【0307】
実施例5:包括的突然変異解析
実施例4で特定されたヒトCD117に対する6つの抗体のそれぞれの結合のための重要な残基をより詳細に調べた。最初に、結合活性の再現性、表面のアクセス性、構造的局在および他の重要な部位までの距離、ならびに置換アミノ酸の性質および生化学的特性(例えば、システイン形成ジスルフィド架橋または翻訳後修飾部位)を考慮して、同定された重要な残基の検証ステップを行った。検証後、各重要な残基を、置換アミノ酸ならびに新たに導入されたアミノ酸の配列および構造関連特性に基づいて、選択された生物物理学的に適切な非アラニンアミノ酸に包括的突然変異誘発に供した
【0308】
抗体を、IgG形式のヒトCD117変異体への結合についてスクリーニングした。実施例4と同様に、包括的ライブラリー中の各突然変異体クローンへの各試験抗体の結合をハイスループットフローサイトメトリーによって2連で決定した。各突然変異について、バックグラウンド蛍光を生データから差し引いた後、野生型CD117との抗体反応性に対して正規化した。全変異クローンについて、平均結合反応性および範囲を表10に列挙する。25%未満の結合を引き起こした変異は灰色で強調されている。
【0309】
【表10】
【0310】
これらの結果に基づいて、また三次元構造中の個々の残基の位置、ならびに関連タンパク質配列の進化分析に基づいて推定されるそれらの置換傾向を考慮して、表11に示される残基をフォローアップ研究の最も有望な候補として選択した。
【0311】
【表11】
【0312】
実施例6:選出されたCD117変異体の生物物理学的特徴づけ
選出された変異体の生物物理学的特性を試験した。選出されたCD117変異体の凝集を分取サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した。選出されたCD117変異体の収量は、精製後のタンパク質の量を産生量で割ることによって決定した。溶融温度は、Sypro Orange(シグマ、PN:S5692-50ul)およびRT-PCR装置(C1000 Thermal Cycler、Biorad)を使用した示差走査蛍光測定によって測定した。試料をPBS緩衝液中0.25~1.0mg/mLで二連で測定し、Sypro Orangeを5倍の最終濃度で添加した。温度を25℃から95℃に順次上昇させた(0.5℃ずつ10秒)。蛍光増加を温度の関数としてモニターし、融解温度をシグモイド曲線の変曲点として決定し、野生型CD117と比較した。結果を図4(凝集)、図5(収率)および図6(融解温度)に示す。
【0313】
ほとんどの変異体の単量体含有量は許容できるものであり、わずかな変異体(D121V、D121Y、D121T、S123V、S123I、S239K)のみが50%未満の単量体含有量を示した。また、ごく少数の変異体(E73del、D121V、S239H)を除くすべての変異体の産生収率も十分に高かった。同様に、2つの融点が測定された変異体V120Pを除いて、融解温度は許容範囲内であり、野生型CD117と比較した構造差を示した。
【0314】
実施例7:選出された変異体への抗体Refmab#1の結合
選択された変異体への結合のより高度な分析を、抗体Refmab#1を用いて行った。wtおよび変異体(分析物)に対するRefmab#1の結合を、OctetシステムRED96eまたはR8において、1×動的緩衝液(ザルトリウス、PN:18-1105)を用いて1,000rpmで振盪しながら25℃で測定した。最初に、選出された変異体を、3つの異なる濃度の分析物を使用して、Refmab#1に結合する能力についてスクリーニングした。抗体Refmab#1を、抗ヒトFcキャプチャバイオセンサ(AHC)(Sartorius、PN:18-5060)によって0.5から1ug/mLで300秒間捕捉した。分析物として、ドメイン1、2および3(CD117 D1-2-3)のみを含有するヒトCD117 wtおよび変異体を、500nM、50nMおよび5nMで滴定した。Refmab#1に対する分析物の会合および解離を、それぞれ300秒間および900秒間監視した。参照減算を緩衝液のみのウェルに対して行った。10mM Gly-HCl pH1.7を使用してAHCチップを再生した。Octet Data AnalysisソフトウェアHT 12.0を使用してデータを分析した。データを1:1結合モデルに適合させた(可能な場合)。速度論的速度kおよびkを、全体に適合させた。選出された変異体の結合レベルを野生型と比較し、図7にパーセントとして示す。この定性分析のために、会合ステップの終了時のトップ分析物濃度の結合レベルを使用した。
【0315】
結果を図7に示す。E73Y、E73R、D121Y、D121H、D121K、D121T、R122S、R122H、R122E、S123P、S123F、S123EおよびS123Kが含まれるいくつかのCD117変異体は、Refmab#1に対する結合の、特に強い減少を示した。変異体E73K、D121R、S123V、S123I、S123MおよびS123Qもまた、Refmab#1に対する結合の強い減少を示した。Octetシステムの結果はまた、FACS実験で観察された結果と良好に相関した。
【0316】
CD117 D1-2-3変異体E73K、E73L、E73R、E73Y、D121H、D121K、S123KおよびS123Fに対するRefmab#1の結合をさらに特徴づけるために、分析物を7つの異なる濃度(2000nM~5nM)で滴定した。抗体Refmab#1を0.5から1 ug/mLで300秒間AHCバイオセンサによって捕捉した。Refmab#1への会合および解離は、それぞれ600秒および1000秒に延長された。定常状態分析を行った。
【0317】
ヒトCD117のE73K変異体に対する抗体Refmab#1のKDは、野生型CD117と比較して1200倍減少した(2つの個々の実験によって決定されるものとして、1200nM対1nM)。ヒトCD117のE73L変異体に対する抗体Refmab#1のKDは、野生型CD117と比較して約500倍減少し(2つの個々の実験によって決定されるものとして、485nM対1nM)、ヒトCD117のE73Y変異体は野生型CD117と比較して約700倍減少し(2つの個々の実験によって決定されるものとして、691nM対1nM)、ヒトCD117のE73R変異体は野生型CD117と比較して約1000倍減少し(2つの個々の実験によって決定されるものとして、958nM対1nM)、ヒトCD117のS123F変異体は野生型CD117と比較して約1,500倍減少した(2つの個々の実験によって決定されるものとして、1500nM対1nM)。2000nMのヒトCD117変異体D121H、D121KおよびS123Kでは、Refmab#1の結合(0.1nmを超えるnmシフト)は観察されなかった。図8を参照されたい。
【0318】
実施例8:選出されたCD117変異体へのSCF結合
SCF結合はCD117の一機能である。SCF結合は、CD117による機能的シグナルの伝達に重要である。選ばれた変異体のSCFへの結合を、1×KineticBuffer(ザルトリウス、PN:18-1105)を用いて1000rpmで振盪しながら、25℃でOctetシステムRED96eまたはR8で測定した。ビオチン化Avitag-hSCF(Acros Biosystems、PN:SCF-H82E1)をストレプトアビジン(SA)バイオセンサ(ザルトリウス、PN:18-5019)に0.5~1 ug/mLで600秒間捕捉した
【0319】
野生型CD117のドメイン1、2および3を担持する構築物(CD117 D1-2-3wt)ならびに野生型CD117のドメイン4および5を担持する構築物(CD117 D4-5wt)をこの実験で使用した。ドメイン1、2、3は、SCFの結合部位を含む。ドメイン4およびドメイン5を陰性非結合対照として使用した。
【0320】
CD117 D1-2-3wtおよびその変異体を、1000nM~5nMの異なる濃度で滴定する。会合を300秒間、解離を600秒間監視した。ヒトCD117ドメイン4および5(CD117 D4-5)への結合を、非結合対照と同じ条件下で行った。参照減算を緩衝液のみのウェルに対して行った。バイオセンサは再生せず、各分析物に新しい組のSAバイオセンサを使用した。Octet Data AnalysisソフトウェアHT 12.0を使用してデータを分析した。相互作用の高速オン/オフ特性のために、定常状態データ分析を行った。
【0321】
結果を図9に示す。
【0322】
選出された変異体は、SCFに対する異なる程度の結合を示した。特に、E73変異体(E73L、E73Q、E73K、E73Y、E73RおよびE73A)はSCFへの結合の損失をほとんど示さず、すべての変異体は野生型CD117と比較して2未満のK増加を示した。これは、D121変異体D121Y、D121H、D121K、D121RおよびD121T、S123変異体S123P、S123F、S123K、S123A、S123I、S123MおよびS123Q、S239変異体S239K、ならびにY259変異体Y259Aについても観察された。
【0323】
S123V、K127LおよびY259Eの変異体も、わずかに低い程度ではあるが、SCFへの結合を示した。変異体E73L、E73Q、E73K、E73Y、E73R、E73A、D121Y、D121H、D121K、D121R、D121T、S123P、S123F、S123A、S123I、S123M、S123Q、S239KおよびY259AのKDは、野生型CD117と比較して2倍未満しか増加しなかった。変異体E73A、E73L、E73Q、E73K、E73Y、E73R、D121Y、D121H、D121K、D121R、D121T、S123V、S123P、S123F、S123K、S123A、S123I、S123M、S123Q、S123V、S239H、S239K、Y259E、Y259PおよびY259AのKは、野生型CD117と比較して3倍未満しか増加しなかった。変異体E73A、E73L、E73Q、E73K、E73Y、E73R、D121Y、D121H、D121K、D121R、D121T、S123V、S123P、S123F、S123K、S123A、S123I、S123M、S123Q、S239H、S239K、Y259E、Y259PおよびY259AのKは、野生型CD117と比較して4倍未満しか増加しなかった。例示的な結果を図10に示す。
【0324】
SCFの結合を測定するための細胞ベースのアッセイも設定した。ビオチン化SCFとストレプトアビジンPEとの1:1混合物を45分間インキュベートした。インキュベーション中、TF-1野生型細胞を100万細胞/mlで播種する。Fcブロッキングを15分間実施し(Trustain Biolegend)、次いで、Ref001(ニワトリ卵白リゾチームに特異性を有するアイソタイプ対照抗体)または抗CD117抗体のいずれか0.1~100ug/mlを細胞に添加する。さらに15分および洗浄ステップの後、ビオチン化SCFとストレプトアビジンPEとの混合物を細胞に30分間添加する。最後に、さらに2回の洗浄ステップを実施し、7-AAD生存率染色溶液を10分間細胞に添加する。次いで、プレートを、Novocyte Quanteonフローサイトメーターを介して測定する。
【0325】
実施例9:選ばれたCD117変異体のSCF依存性増殖
SCF依存性増殖はCD117の別の機能である。SCF依存性増殖を以下のように測定した:TF-1細胞を、RPMI培地+10% FCS中の滅菌白血球培養処理プレートに150,000細胞/mlの細胞濃度で播種した。細胞を100ng/mlのSCFで処理し、様々なCD117抗体または異なる濃度のアイソタイプ対照抗体の滴定を行った。3日間のインキュベーション後、CellTiter-Glo 2.0アッセイ(Promega)を行い、ルミノメーター(例えば、EnvisionまたはPhera Starプレートリーダ)で発光を読み取った。
【0326】
CD117野生型TF-1細胞を、E73Kノックインを有するTF1細胞と比較した。クローン集団におけるE73Kノックは、KI1が最初にAlt-R HDR Enhancer V2(IDT)で処理され、対立遺伝子の61%がNGSを介して観察されるHDR媒介性編集を介して修復されたのに対して、KI2は未処理であり、39%のHDRをもたらしたという点で異なる。SONY MA900を使用して編集されたTF1細胞を選別し、最終サブセットから野生型細胞およびノックアウト細胞を除去すると、KI1およびKI2の両方が得られ、したがって高純度のノックインが得られた。
【0327】
結果を図11に示す。野生型およびE73Kノックイン細胞の両方が強く増殖したが、ノックアウト細胞は増殖しなかった。漸増濃度のRefmab#1による処理は、野生型細胞の増殖の減少をもたらしたが、E73K細胞ではそうではなかった。アバプリチニブで処理した細胞も同様に、いずれのタイプの細胞についても増殖を示さなかった(野生型、E73およびノックアウト;データ図示せず)。
【0328】
別の実験では、変異体E73K、E73Y、D121K、S123FおよびS123KのSCF依存性増殖を野生型CD117と比較した。TF-1細胞を、RPMI+GlutaMax+10% FCS中透明な底の滅菌白血球培養処理プレートに150,000細胞/mlの細胞濃度で播種した。細胞をSCFの滴定で処理した。3日間のインキュベーション後、CellTiter-Glo 2.0アッセイ(Promega)を実施し、ルミノメーター(Envisionプレートリーダ)で発光を読み取り、EC50を決定した。各実験において3連で2つの異なる実験を行った。
【0329】
EC50は、試験したすべての構築物について同様であった。表12
【0330】
【表12】
【0331】
したがって、変異体のSCFへの結合は、野生型と比較して影響を受けなかった。
【0332】
次に、一定濃度のSCF(100ng/ml)で、漸増濃度のRefMab#1を用いて変異体の増殖を試験した。TF-1細胞を、RPMI+GlutaMax+10% FCS中透明底および培地中100ng/mlのSCFの固定濃度を有する滅菌白血球培養処理プレート中に150,000細胞/mlの細胞濃度で播種し、細胞を異なる濃度のRefMab#1で処理した。3日間のインキュベーション後、CellTiter-Glo 2,0アッセイ(Promega)を実施し、ルミノメーター(Envisionプレートリーダ)で発光を読み取った。
【0333】
結果を図16に示す。RefMab#1は、野生型TF-1細胞の増殖に対して顕著な効果を有したが、試験したすべてのCD117変異体の増殖は、RefMab#1によって影響されなかった。
【0334】
ヒトCD34+HSC(異なるドナー)の場合、細胞を、100ng/mlのSCF、50ng/mlのTPOおよび50ng/mlのFLT-3リガンドを含むX-Vivo 20培地中、滅菌白血球培養処理プレートに30,000細胞/mlの細胞密度で播種する。次いで、HSCを様々なCD117抗体または異なる濃度のアイソタイプ対照抗体で処理し、プレートを5日間インキュベートする。5日後、CellTiter-Glo 2.0アッセイ(Promega)を行い、ルミノメーター(例えば、EnvisionまたはPhera Starプレートリーダ)で発光を読み取る。
【0335】
実施例10:選ばれたCD117変異体のSCF依存性リン酸化
SCF依存性リン酸化はCD117の別の機能である。SCF依存性リン酸化を、CD117を発現するTF-1細胞を使用して測定した(以前の実験で示されるように)。TF-1細胞を、6ウェルプレート中の1mLの培地(GlutaMAX+10%熱不活性化FBSを補充したRPMI1640)に100万細胞/mLの濃度で播種した。細胞を0.5ug/mLの抗体または500nMのアバプラチニブで処理した。次いで、細胞を100ng/mLの組換えヒトSCF(1mg/mLのPeproGMP(登録商標)組換えヒトSCF)で5分間処理した後、細胞を回収した。細胞を氷冷PBSで洗浄した後、細胞を250μLの溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含有するSignaling製の溶解緩衝液)に再懸濁した。細胞を液体窒素中で急速凍結し、37℃で2回解凍した後、さらなる使用まで-80℃で凍結した。希釈していない試料を解凍し、PathScan(登録商標)Phospho-c-Kit(Tyr719)Sandwich ELISA Kit(Cell Signaling)の製造業者プロトコルに従って処理した。吸光度(OD_450nm)を、Envision(Perkin Elmer)を使用して評価した。
【0336】
例示的な結果を、CD117のE73K変異体について図12に示す。野生型細胞では、SCF誘導性リン酸化は、CD117への結合についてSCFと競合する抗体で遮断することができる。SCF誘導性リン酸化はまた、CD117-SCF相互作用の公知の阻害剤であるアバプリチニブによっても遮断される。対照的に、SCF誘導性リン酸化は、CD117のE73K変異体に対する抗体では遮断されない。アバプリチニブは、E73K変異体におけるSCF誘導性リン酸化を依然として遮断する。
【0337】
実施例11:第1または第2のアイソフォームを発現する細胞の選択的遮断/枯渇
選択されたCD117変異体は、ゲノム編集によってTF-1細胞に導入される。次いで、編集された細胞をSR-1にカップリングされた毒素と共にインキュベートする。結合性(野生型)CD117アイソフォームを発現する細胞の選択的枯渇を、FACSまたは生存性アッセイによってモニターすることができる。アッセイは、バルク編集された細胞を用いて行うことができる。HDRの場合、これは、野生型細胞、KO細胞および正しく編集された変異体を有するノックイン細胞を含む細胞の混合集団をもたらす。3つの集団は、SR-1および104D2を使用してFACSによって識別することができる。あるいは、3つの集団をFACSによって精製し、続いてSR-1にカップリングされた毒素と共にインキュベートすることができる。
【0338】
野生型CD117を発現する細胞は死亡するが、変異体を発現する遺伝子編集細胞は生存する。
【0339】
SR-1に結合した毒素の代わりに、ADCCまたはCAR Tを含むがこれらに限定されない他の作用様式を使用することができる。
【0340】
TF-1細胞の代わりに、CD117を内因的に発現しない他の細胞株(例えばHEK293、DF-1)を使用することができる。次いで、一過性または安定に野生型または変異体CD117の組換え発現を、死滅アッセイのための標的細胞として使用することができる。あるいは、初代ヒトHSCをCD34+細胞として単離することができる。遺伝子編集CD34+HSCを、生着研究のために免疫不全マウス(例えば、NSG、NSG-SGM3またはNBSGW)に移入することができる。これにより、前駆細胞の生着および分化をインビボでモニターすることが可能になる。さらに、非結合CD117変異体ではなく結合CD117アイソフォームの選択的枯渇を監視するために、枯渇剤、例えば毒素結合SR-1をインビボで適用することができる。
【0341】
実施例12:CD117の遺伝子編集変異体へのSR-1の結合
CD117の遺伝子編集を、HDRを使用してTF-1細胞において行った。12個の異なるcrRNAを試験し、そのうち6個はアミノ酸残基E73を標的とし(表3)、6個はアミノ酸残基120~123を標的とした(表3)。図13は、位置E73に対する試験されたcrRNAの結合を示すマップを示す。図14は、120~123位に対する試験されたcrRNAの結合を示すマップを示す。
【0342】
TF-1細胞への抗体SR-1の結合を、Cas9タンパク質、crRNA/tracrRNAまたはsgRNAおよびHDR鋳型によるエレクトロポレーションの7日後にFACSによって測定した(表4)。野生型細胞と比較した遺伝子編集変異体への結合の喪失を表13に示す:
【0343】
【表13】
【0344】
抗CD117抗体104D2でも同様の結果が得られた。
【0345】
配列番号15~18のHDR鋳型を、Alt-R(商標)HDR Donor Oligos(Integrated DNA Technologies)として順序付ける。HDR鋳型は2つの異なる長さを有し、プラス鎖またはマイナス鎖にあり、少なくとも1つの塩基突然変異によってEからKへの突然変異が導入される。HDRテンプレートは、crRNA KIT_E73_4(配列番号6)と共に使用される。HDRテンプレートは、リカットを回避するためにPAMに少なくとも1つのサイレント突然変異を含み得る。
【0346】
実施例13:抗体のCD117変異体への内在化
抗体内在化は、FACSなどの任意の一般的に使用されるアッセイによって当業者によって試験することができる。CD117を発現する細胞を、フルオロフォア、例えば、Alexa Fluor 488(AF488)で標識された抗体と様々な時点(0.5~6時間)インキュベートした後、洗浄し、抗AF488抗体で1時間クエンチする。内在化抗体はFACS読み取りでシグナルを与えることができるが、細胞表面に結合した抗体のシグナルはクエンチされ、検出できない。
【0347】
CD117またはその変異体を発現するTF-1細胞への抗体内在化をFACSによって測定する。TF-1細胞を、96ウェルプレート中の0.1mLの培地(GlutaMAX+10%熱不活性化FBS+2ng/mL GM-CSFを補充したRPMI1640)に100万細胞/mLの濃度で播種する。翌日、細胞を、Alexa Fluor 488(AF488;Alexa Fluor(登録商標)488 Conjugation Kit(Fast)-Lightning-Link(登録商標)、Abcam)で標識した2~20μg/mLの抗体で37℃または4℃で30~360分間処理した後、細胞を収集し、氷冷PBSで洗浄する。細胞を、20~200ug/mLの抗AF488抗体(Alexa Fluor 488ポリクローナル抗体、ThermoFisher Scientific)を含有する氷冷PBSに1時間再懸濁した後、FACS機器(NovoCyte、Agilent)でデータを取得する。内在化抗体のシグナルをFACSによって測定し、細胞外の抗体のシグナルをクエンチする。抗体内在化の割合は、クエンチャーと共にインキュベートした細胞のシグナルを、クエンチャーなしでインキュベートした細胞のシグナルで割ることによって計算される。
【0348】
実施例14:選出された変異体への抗体Refmabの#2および#3の結合
実施例7と同様の実験を行ったが、Refmabの#2および#3を利用した。結果を図15に示す。
【0349】
Refmab#2は、野生型CD117と比較して、変異体R122H、S239HおよびS239Kへの結合の強い減少を示した。Refmab#3は、野生型CD117と比較して、変異体Y259A、Y259G、Y259PおよびS261Vへの結合の強い減少を示した。変異体S261QおよびS261Eを有するRefmab#3について、結合の完全な喪失が観察された。
【0350】
実施例15:改善されたRefmab抗体
抗体Refmab#1の改善バージョンを生成した。改善された結合剤、Refmab#1-ErnieおよびRefmab#1-Bertのアミノ酸配列を表14に示す。
【0351】
【表14】
【0352】
Refmab#1、Refmab#1-ErnieおよびRefmab#1-Bertを様々なアッセイで比較した。両誘導体は、SCF依存性増殖アッセイにおいて、TF-1細胞(0.2760μg/mlと比較して0.0176および0.0441μg/ml)およびHSPC(0.0623μg/mlと比較して0.00521および0.0313μg/ml)に対して元のRefmab#1抗体のIC50より低いIC50を有する。両方の誘導体はまた、元のRefmab#1抗体と少なくとも同程度に強くSCF依存性リン酸化を阻害した。両方の誘導体はまた、CD117に対するSCFの結合を阻害した。すべての抗体はまた、造血幹細胞におけるCD117に対するSCFの結合を阻害する。すべての抗体はまた、ヒトCD34+HSPCを移植したマウスにおいてヒトHSCを枯渇させる。
【0353】
実施例16:操作されたTF-1細胞に対するRefmab#1滴定
Refmab#1の結合をフローサイトメトリーアッセイで評価した。TF-1細胞をFACS Buffer(PBS+2% FCS+1mM EDTA)に100万細胞/mlの細胞濃度で播種した。FACS緩衝液中の1:20希釈TruStain(BioLegend、#422302)を用いて4℃で15分間Fcブロッキングした後、細胞をFACS緩衝液で2回洗浄した。続いて、プレートシェーカー4℃で30分間、5-0.00015μg/mL抗体を使用してSR-1滴定を細胞に加えた。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄し、二次標識抗体(IgG(H+L)交差吸着ヤギ抗ヒト、Alexa Fluor(登録商標)488、Invitrogen、A11013)をプレートシェーカーにおいて4℃で30分間細胞に添加した。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄した後、FACS緩衝液中の7AAD染色(細胞生存率)の1:100希釈溶液を数分間添加し、Novocyte Quanteon(Agilent)を使用して細胞を分析した。
【0354】
結果を図17に示す。抗体Refmab#1の結合は、CD117変異体E73Kを発現するTF-1細胞では完全に消失する。2つの独立したTF-1 E73Kクローンの結果を示す。
【0355】
実施例17:CD117のSCF依存性リン酸化
TF-1細胞(CD117の野生型、ノックアウトおよび変異体E73K、D121KおよびS123K)を、6ウェルプレート中の2mLの培地(GlutaMAX+10%熱不活性化FBSを補充したRPMI1640)に100万細胞/mLの濃度で播種した。細胞を、細胞の収集の前に、1~20ng/mLの組換えヒトSCF(1mg/mLのPeproGMP組換えヒトSCF)で5分間処理した。細胞を氷冷PBSで洗浄した後、細胞を500μLの溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含有するSignaling製の溶解緩衝液)に再懸濁した。細胞を液体窒素中で急速凍結し、37℃で2回解凍した後、さらなる使用まで-80℃で凍結した。希釈していない試料を解凍し、PathScan Phospho-c-Kit(Tyr719)Sandwich ELISA Kit(Cell Signaling)の製造業者プロトコルに従って処理した。吸光度(OD_450nm)を、Envision(Perkin Elmer)を使用して評価した。
【0356】
変異体E73Kの例示的な結果を図18に示す。野生型TF-1細胞ならびにCD117のE73K、D121KおよびS123K変異体は、CD117のTyr719位でSCF依存性リン酸化を示した。ノックアウト細胞のリン酸化レベルはバックグラウンドレベルである。
【0357】
実施例18:ブロッキング抗体の存在下でのCD117変異体の保存されたシグナル伝達
TF-1細胞(CD117の野生型および変異体E73K、E73Y、D121K、S123FおよびS123K)を、6ウェルプレート中の2mLの培地(GlutaMAX+10%熱不活性化FBSを補充したRPMI1640)に100万細胞/mLの濃度で播種した。細胞を0.5μg/mLの抗体Refmab#1-ErnieまたはRefmab#1-Bertで30分間前処理した後、100ng/mLの組換えヒトSCF(1mg/mL PeproGMP(登録商標)組換えヒトSCF)を5分間添加した。細胞を回収し、氷冷PBSで1回洗浄し、500μLの溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含有するSignalingからの溶解緩衝液)に再懸濁した。次いで、細胞を液体窒素中で急速凍結し、37℃で2回解凍した後、さらなる使用まで-80℃で凍結した。希釈していない試料を解凍し、PathScan Phospho-c-Kit(Tyr719)Sandwich ELISA Kit(Cell Signaling)またはHuman c-Kit(CD117)ELISA Kit(Abcam)の製造業者プロトコルに従って処理した。吸光度(OD_450nm)を、Envision(Perkin Elmer)を使用して評価した。
【0358】
変異体D121KおよびS123Kの例示的な結果を図19に示す。野生型TF-1細胞におけるSCF依存性CD117リン酸化は、抗体Refmab#1-ErnieおよびRefmab#1-Bertによって遮断されるが、CD117リン酸化のD121KおよびS123K変異体を有するTF-1細胞では影響を受けない。同じことが変異体E73K、E73YおよびS123Fについても観察される(データは示さず)。
【0359】
実施例19:HSC枯渇実験
様々なmAbを使用するマウスにおけるヒトHSCの枯渇を、Pang et al.(Blood(2019)133:2069-78)から適合させた。
【0360】
NBSGWマウス(Jackson Laboratories)に1 Mio HSPCを注射した。細胞注射の8、10、12および14日後、マウスは、投与あたりi.v.で25mg/kgの抗体Refmab#1-Bertを投与された。16週間後、マウスを安楽死させ、血液、脾臓および骨髄をFACSによって分析した。骨髄HSC枯渇の結果を図20に示す。図は、アイソタイプ対照抗体を受けた動物と比較した、Refmab#1-Bertの注射後のHSCのインビボ枯渇を示す。HSCは、FACSによって、生/hCD45+/CD34+/CD38-/CD45RA-/CD90+として同定された。
【0361】
別の実験では、NSGマウス(Jackson Laboratories)に、CD117のE73K変異体を担持する1 Mio遺伝子編集HSPCを注射の1日前に亜致死的に照射した。細胞注射の8、10、12および14日後、マウスに25mg/kg抗体Refmab#1-Bertまたは25mg/kg同位体対照抗体を投与あたり静脈内投与した。16週間後、マウスを安楽死させ、血液、脾臓および骨髄をFACSによって分析した。
【0362】
骨髄の結果を図21に示す。CD117+骨髄系細胞は、FACSによって、生/hCD45+/CD33+/CD117+として同定された。CD117+細胞を同定するために、CD117に対するRefmab#1およびRefmab#1-Bertの結合を妨害しない抗体クローン104D2を使用した。クローン104D2を発現対照として使用した。抗CD117クローンSR-1および抗CD117クローン104D2による二重染色に基づいて、細胞を編集されていない(104D2+およびSR-1+)またはE73K編集(104D2+だがSR-1-)として分類した。
【0363】
図21は、抗体Refmab#1-Bertを投与したマウスにおける未編集細胞の枯渇を、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスと比較して示す。対照的に、Refmab#1-Bertの注射は、アイソタイプ対照抗体を受けた動物と比較してE73K変異体細胞の濃縮をもたらした。
【0364】
実施例20:CD117変異体はADCによる処置に耐性である
この実験では、ニワトリDF-1細胞を使用した。DF-1細胞はCD117を欠く。細胞を、選択されたCD117変異体(E73Y、D121K、S123K)でトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、0.1、1および10μg/mlの濃度のADC(両方ともテセリンにカップリングされた抗体Refmab#1-ErnieおよびRefmab#1-Bert)で処理した。48時間後、細胞をFACSによって分析した。
【0365】
結果を図22に示す。D121K A5およびD121K A6は、同じ変異体に対するプラスミドの2つの異なるバッチを示す。両方の試験したADC、Refmab#1-Ernie-teserineおよびRefmab#1-Bert-teserineは、野生型DF-1細胞の有効な枯渇をもたらしたが、CD117のD121KまたはS123K変異体でトランスフェクトしたDF-1細胞は枯渇しなかった。
【0366】
実施例21:追加のHSC枯渇実験
様々なmAbを使用するマウスにおけるヒトHSCの枯渇を、Pang et al.(Blood(2019)133:2069-78)から適合させた。
【0367】
NBSGWマウス(Jackson Laboratories)に、CD117のE73K、S123KまたはD121K変異体を有する2名の異なるドナー由来の1 Mio HSPCを注射した。マウスの対照群は、未編集のエレクトロポレーション対照HSPCを受けた。細胞注射の7、9、11および12日後、マウスは、4mg/kgの抗体Refmab#1-Bertを、投与あたりi.v.投与された。16週間後、マウスを安楽死させ、血液、脾臓および骨髄をFACSによって分析した。CD117未編集細胞の枯渇およびCD117編集細胞の濃縮についての結果を図23に示す。未編集細胞および編集細胞を同定するために、CD117特異的抗体クローン104D2およびSR-1を使用した。104D2の結合は遺伝子編集の影響を受けないが、SR-1はCD117の編集された変異体には結合しない。両方の抗CD117クローンでの二重染色に基づいて、細胞を未編集(104D2+およびSR-1+)または編集(104D2+だがSR-1-)として分類した。
【0368】
図23は、抗体Refmab#1-Bertを受けたマウスにおける未編集のCD34+前駆細胞(生/hCD45+/CD34+/CD38-としてゲーティング)の枯渇を、アイソタイプ対照抗体を受けたマウスと比較して示す。対照的に、Refmab#1-Bertの注射は、アイソタイプ対照抗体を受けた動物と比較して、E73K、D121KおよびS123K編集変異体細胞の濃縮をもたらした。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
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【配列表】
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【国際調査報告】