(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】一酸化窒素放出性鼻腔用組成物及び、それを使用する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241219BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241219BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241219BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20241219BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241219BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241219BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241219BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K47/12
A61K47/04
A61K47/02
A61P31/12
A61K33/00
A61K47/52
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/04
A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536373
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 US2022081754
(87)【国際公開番号】W WO2023114971
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524228214
【氏名又は名称】エルエヌエイチシー,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100166718
【氏名又は名称】石渡 保敬
(72)【発明者】
【氏名】リッチオ,ダニエル,アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ギア,キャリー,ブロドナックス
(72)【発明者】
【氏名】プリヴェット,ベンジャミン,ジョセフ,モンロー
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター,シェイリン,エリザベス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA24
4C076BB25
4C076CC32
4C076CC35
4C076CC41
4C076DD21
4C076DD22
4C076DD30
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4C076EE59
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4C084AA17
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4C084ZB351
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4C086MA23
4C086MA59
4C086NA10
4C086ZB32
4C086ZB33
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は一般的に、一酸化窒素(NO)の放出鼻用組成物に、及びその使用方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
一酸化窒素放出性活性医薬成分;及び、
前記組成物のpHを約3から、約3.5から、約4から又は約4.5から、約5まで、約5.5まで、約6まで、約6.5まで、約7まで、約7.5まで、約8まで又は約8.5までの範囲に維持するように構成された緩衝剤
を含む、前記組成物。
【請求項2】
前記緩衝剤が約4~約6のpHを有し、及び/又は前記緩衝剤が、約2.5~約6.5の範囲に少なくとも2つのpKa値を有する弱酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物であって、該組成物は、
一酸化窒素放出性活性医薬成分;及び、
緩衝剤
を含み、ここで、前記緩衝剤は、クエン酸の塩形態(例えば、クエン酸塩)及び/又はクエン酸を少なくとも100mMの量で含む、
前記組成物。
【請求項4】
前記緩衝剤が約4~約6のpHを有し、任意的に、前記緩衝剤が約4.5のpHを有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記緩衝剤が前記クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸を少なくとも約100mM~約300mMの量で含み、任意的に、前記緩衝剤が前記クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸を約200mMの量で含む、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
前記クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸が、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、及び/又はそれらの水和物(例えば、クエン酸三ナトリウム二水和物)、若しくはそれらの無水物から選択され、任意的に、前記クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸が、クエン酸ナトリウム三塩基性(例えば、クエン酸ナトリウム三塩基性無水物)及びクエン酸である、請求項3~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記緩衝剤が、クエン酸を約1w/w%から、約1.25w/w%から、約1.5w/w%から又は約1.75w/w%から、約2w/w%まで、約2.25w/w%まで又は約2.5w/w%までの量、クエン酸ナトリウム三塩基性及び/又はクエン酸三ナトリウム二水和物を約1.5w/w%から、約1.75w/w%から、約2w/w%から、約2.25w/w%から、約2.5w/w%から、約2.75w/w%から又は約3w/w%から、約3.25w/w%まで、約3.5w/w%まで、約3.75w/w%まで又は約4w/w%までの量;任意的に、追加の酸(例えば、HCl)及び/又は追加の塩基(例えば、NaOH)を前記緩衝剤のpHを約4~約6(例えば、約4.5)に調整する為に十分な量;及び残りの水を含む、請求項3~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記緩衝剤が、水、クエン酸、任意的にクエン酸の塩形態、任意的に追加の酸(例えば、HCl)、及び任意的に塩基(例えば、NaOH)からなる、請求項3~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、前記緩衝剤中で懸濁されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、前記組成物中に約0.1mg/mL~約30mg/mL、任意的に約1mg/mL~約20mg/mL、の量で存在する、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、約20nm~約30μmの粒径(例えば、直径)、任意的に、約2μm~約20μmの平均粒径(例えば、平均直径)、を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、約4.5~約6の初期pHを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が約4.5~約8.5のpHを有し、任意的に、前記組成物が約5.5のpHを有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、エアロゾル化及び/又は霧化されるように構成され、任意的に、前記組成物が、鼻腔内投与用に構成される、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が抗ウイルス性であり、任意的に、前記緩衝剤が、抗ウイルス性及び/又は殺ウイルス性でない、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分と前記緩衝剤とからなる、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記緩衝剤及び/又は組成物が、希釈剤(例えば、前記緩衝剤以外の希釈剤を含まない)、共溶媒(例えば、前記緩衝剤以外の溶媒を含まない)、保存剤、酸化防止剤、懸濁化剤、透過促進剤、界面活性剤、粘度増加剤、保湿剤、安定剤、及び/又は湿潤剤を含まない、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、リアルタイムのイン・ビトロ(in vitro)放出試験によって測定された場合に、該組成物の約0.001重量%~約10重量%の量で一酸化窒素を放出し、及び/又は前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、リアルタイムのイン・ビトロ(in vitro)放出試験によって測定された場合に、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分及び/又は組成物の約0.001重量%~約10重量%の量で一酸化窒素を貯蔵及び/又は放出する、請求項1~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、ジアゼニウムジオレートで官能基化された共縮合シリカネットワークを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、ジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含有する共縮合シリカネットワークを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、ジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とエチルアミノイソブチルシロキサン(EAIB3)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含有する共縮合シリカネットワークを含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、ウイルスに感染した細胞にアポトーシスを誘発させる為に十分な量の一酸化窒素を与える、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、ウイルスの複製を減少させる又は排除する為に十分な量の一酸化窒素を、任意的に約50%未満の宿主細胞毒性で、与える、請求項1~22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
キットであって、
一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む第1の組成物;及び、
前記第1の組成物のpHを約3から、約3.5から、約4から又は約4.5から、約5まで、約5.5まで、約6まで、約6.5まで、約7まで、約7.5まで、約8まで又は約8.5までの範囲で維持するように構成された緩衝剤を含む第2の組成物
を備えており、
ここで、前記第1の組成物及び前記第2の組成物が、前記キット内に別々に保存されている、
前記キット。
【請求項25】
キットであって、
一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む第1の組成物;並びに、
クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸を少なくとも100mMの量で含有する緩衝剤を含む第2の組成物
を含み、
ここで、前記第1の組成物及び前記第2の組成物が、前記キット内に別々に保存されている、
前記キット。
【請求項26】
前記第1の組成物が固体又は粒子状である、請求項24又は25に記載のキット。
【請求項27】
前記第2の組成物が溶液である、請求項24~26のいずれか1項に記載のキット。
【請求項28】
前記緩衝剤が約4~約6のpHを有し、任意的に、前記緩衝剤が約4.5のpHを有し、及び/又は前記緩衝剤が、約2.5~約6.5の範囲の少なくとも2つのpKa値を有する弱酸を含む、請求項24~27のいずれか1項に記載のキット。
【請求項29】
前記キットが、約15μLから、約150μLまで、約200μLまで、約300μLまで、約400μLまで若しくは約500μLまでの容量を投与及び/又は放出するように構成されており、及び/又はキットが、約15μLから、約150μLまで、約200μLまで、約300μLまで、約400μLまで若しくは約500μLまでの容量を投与及び/又は放出するように構成されたデバイスを備えており、任意的に、前記キット及び/又は前記デバイスが、第1の組成物及び第2の組成物を組み合わせるように構成されている、請求項24~28のいずれか1項に記載のキット。
【請求項30】
前記キットが、前記第1の組成物及び前記第2の組成物を含む組成物をエアロゾル化及び/又は霧化するように構成されており、及び/又は前記キットが、前記第1の組成物及び前記第2の組成物を含む組成物をエアロゾル化及び/又は霧化するように構成されたデバイスを備えており、任意的に、前記エアロゾル化及び/又は霧化された組成物が、約10μmから、約20μmから、約30μmから若しくは約40μmから、約100μmまでの平均滴サイズ(例えば、滴直径)を有する、請求項24~29のいずれか1項に記載のキット。
【請求項31】
前記緩衝剤が約4~約6のpHを有し、任意的に、前記緩衝剤が約4.5のpHを有する、請求項24~30のいずれか1項に記載のキット。
【請求項32】
前記緩衝剤が、クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸を少なくとも約100mM~約300mMの量で含み、任意的に、前記緩衝剤が、クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸を約200mMの量で含む、請求項25~31のいずれか1項に記載のキット。
【請求項33】
クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸が、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、及び/又はそれらの水和物(例えば、クエン酸三ナトリウム二水和物)、及び/又はそれらの無水物から選択され、任意的に、前記クエン酸の塩形態及び/又はクエン酸が、クエン酸ナトリウム三塩基性(例えば、クエン酸ナトリウム三塩基性無水物及び/又はクエン酸ナトリウム三塩基性二水和物(sodium citrate tribasic dihydrate))、並びにクエン酸である、請求項25~32のいずれか1項に記載のキット。
【請求項34】
前記緩衝剤が、クエン酸を約1w/w%から、約1.25w/w%から、約1.5%w/wから若しくは約1.75w/w%から、約2w/w%まで、約2.25w/w%まで若しくは約2.5w/w%までの量;クエン酸ナトリウム三塩基性及び/又はクエン酸三ナトリウム二水和物を約1.5w/w%から、約1.75w/w%から、約2w/w%から、約2.25w/w%から、約2.5w/w%から、約2.75w/w%から若しくは約3w/w%から、約3.25w/w%まで、約3.5w/w%まで、約3.75w/w%まで又は約4%w/wまでの量;任意的に、追加の酸(例えば、HCl)及び/又は塩基(例えば、NaOH)を前記緩衝剤のpHを約4~約6(例えば、約4.5)に調整する為の十分な量;並びに残りの水を含む、請求項25~33のいずれか1項に記載のキット。
【請求項35】
前記緩衝剤が、水、クエン酸、任意的にクエン酸の塩形態、任意的に追加の酸(例えば、HCl)、及び任意的に塩基(例えば、NaOH)からなる、請求項25~34のいずれか1項に記載のキット。
【請求項36】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、約20nm~約30μmの粒径(例えば、直径)を有し、任意的に、約2μm~約20μmの平均粒径(例えば、平均直径)を有する、請求項24~35のいずれか1項に記載のキット。
【請求項37】
前記第1の組成物及び/又は第2の組成物が、希釈剤、共溶媒、保存剤、酸化防止剤、懸濁化剤、透過促進剤、界面活性剤、粘度増加剤、保湿剤、安定剤、及び/又は湿潤剤を含まない、請求項24~36のいずれか1項に記載のキット。
【請求項38】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、ジアゼニウムジオレートで官能基化された共縮合シリカネットワークを含む、請求項24~37のいずれか1項に記載のキット。
【請求項39】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、ジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含有する共縮合シリカネットワークを含む、請求項24~38のいずれか1項に記載のキット。
【請求項40】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、ジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とエチルアミノイソブチルシロキサン(EAIB3)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含有する共縮合シリカネットワークを含む、請求項24~39のいずれか1項に記載のキット。
【請求項41】
対象において病原体によって引き起こされる感染症(例えば、ウイルス感染症)を処置及び/又は予防する方法であって、
請求項1~23のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与すること
を含む、前記方法。
【請求項42】
前記投与することが、前記組成物を前記対象に鼻腔内投与することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
投与することの前に、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分と前記緩衝剤とを一緒にして前記組成物を提供することを更に含み、任意的に、ここで、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分及び前記緩衝剤が、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分と前記緩衝剤とを一緒にする及び/又は投与するように構成されたデバイス内に存在する、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項44】
前記対象への投与するときの組成物が約4.5~約8.5のpHを有し、任意的に、前記対象への投与するときの組成物が約5.5のpHを有する、請求項41~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記方法が、前記対象の上気道に外因性一酸化窒素を送達することを含む、請求項41~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記方法が、任意的に本発明の方法の非存在下における前記病原体の伝染の量と比較して、非感染対象への前記病原体の伝染(例えば、ウイルス伝染)を減少させる又は予防する、請求項41~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記方法が、前記対象(例えば、前記対象の鼻腔及び/又は肺における)中に存在する前記病原体(例えば、ウイルス)の量を、前記対象中に存在する前記病原体の初期量と比較して、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%又は少なくとも約100%まで減少させる、請求項41~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記方法が、前記対象の1以上の前記肺中に存在する病原体(例えば、ウイルス)の量を減少させ、及び/又は任意的に本発明の方法の非存在下における前記病原体の量及び/又は前記対象の1以上の前記肺内への前記病原体の進行と比較して、前記対象の1以上の前記肺内への前記病原体の進行を減少させ若しくは防止する、請求項41~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記方法が、前記対象における前記感染の重篤度を、任意的に本発明の方法の非存在下における重篤度と比較して、低下させる、請求項41~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記病原体が、コロナウイルス科ウイルス、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ、又は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)から選択される、請求項41~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記病原体が、重症急性呼吸器コロナウイルス2(SARS-CoV-2)又はその変異体である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記病原体が、インフルエンザA/カリフォルニア/7/2009(H1N1)である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記病原体が、呼吸器合胞体ウイルスA2株(RSV-A2)である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
感染が院内感染である、請求項41~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記方法が、任意的に本発明の非存在下における方法と比較して、前記病原体(例えば、ウイルス)の排出を減少させ若しくは防止する、請求項41~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記方法が病原体(例えば、ウイルス)の増殖及び/又は複製を減少又は阻害し、任意的に、前記方法がタンパク質機能を破壊することによって該病原体の増殖及び/又は複製を減少させ又は阻害する、請求項41~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記投与することが、気体状一酸化窒素を前記対象の1以上の前記肺に送達することを含む、請求項41~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記方法が、任意的に投与前の血液中の酸素レベルと比較して、前記対象の血液中の酸素化を増加させる、請求項41~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記組成物が、1日に、1回以上(例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回又は8回)、任意的に、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、又はそれ以上の日数で、投与される、請求項41~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記組成物が、1日1回、2回又は3回、約7~約14日間投与される、請求項41~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
感染症(例えば、ウイルス感染症)を処置及び/又は予防することを必要とする対象において、前記感染症(例えば、ウイルス感染症)を処置及び/又は予防する為に、請求項1~23のいずれか1項に記載の組成物又は請求項24~40のいずれか1項に記載のキットを使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、一酸化窒素(NO)放出性鼻用組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高病原性コロナウイルスは過去20年間において発生率が増加している。2003年に発生した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV:severe acute respiratory syndrome coronavirus)に続いて、2012年には中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV:Middle East respiratory syndrome coronavirus)が発生した。現在進行中の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2:severe acute respiratory syndrome coronavirus two)による流行は、高病原性で且つ高感染性のコロナウイルスが世界的規模でもたらす甚大な被害を拡大している。
【0003】
ベータコロナウイルスとして分類されるSARS-CoV-2は、コロナウイルス科(Coronaviridae family)に属するエンベロープ型の一本鎖プラス鎖RNAウイルス(enveloped,single,positive-stranded RNA virus)である。コロナウイルスは通常、エンベロープ(E)タンパク質、膜(M)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質及びスパイク(S)タンパク質を包含する4つの構造タンパク質をコードしている。Eタンパク質及びMタンパク質はウイルスの組み立てに関与し、並びにNタンパク質はウイルスRNAをビリオン粒子内に封じ込めるが、Sタンパク質は受容体との結合に重要であり、ビリオン粒子が宿主細胞に侵入して感染を広めることを可能にする。ヒトのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2:angiotensin-converting enzyme 2)レセプターは、SARS-CoVとSARS-CoV-2との両方の為に主要な宿主細胞アクセスポイントとして同定されている。鼻上皮(nasal epithelium)はSARS-CoV-2のウイルス侵入の主要な標的であると推測されている。具体的には、呼吸器系全体におけるACE2の発現は、鼻の組織において最も高く、呼吸器官を下るにつれて低くなる勾配をたどることが示されている。ACE2の高発現の故に、鼻腔はSARS-CoV-2感染の初期部位として機能すると仮定されている。実際に、SARS-CoV-2のイン・ビトロ(in vitro)感染は鼻腔上皮細胞において蔓延している。臨床的には、SARS-CoV-2に感染した無症状者と症状のある人の両方において、上気道からの、鼻腔及び口腔咽頭のサンプルのウイルス量が最も多い。呼吸器以外では、多数の組織におけるACE2の発現が、COVID-19に関連して報告された様々な症状(例えば、胃腸、血管)を反映している。上気道はウイルス負荷の大きな貯蔵庫である為、個人間の伝染(Transmission)、及びウイルスを含む飛沫が個人内の下気道に吸引される可能性が高く、肺の障害(例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome))をもたらす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
感染力の急速な高まりとそれに伴う死亡率及び罹患率の上昇は、各々の発生と同時に起きている。そのような高病原性コロナウイルスの発生頻度の増加は、現在及び将来の新興病原体を処置する為の処置、例えば抗ウイルス処置、についての必要性を強調している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの観点は、組成物であって、一酸化窒素放出性活性医薬成分;及び該組成物のpHを約3から、約3.5から、約4から又は4.5から、約5まで、約5.5まで、約6まで、約6.5まで、約7まで、約7.5まで、約8まで又は約8.5までの範囲に維持するように構成された緩衝剤を含む上記の組成物に向けられている。
【0006】
本発明の別の観点は、組成物であって、該組成物は、一酸化窒素放出性活性医薬成分;及び、緩衝剤を含み、ここで、前記緩衝剤は、クエン酸の塩形態(例えば、クエン酸塩)及び/又はクエン酸を少なくとも100mMの量で含む、上記の組成物に向けられている。
【0007】
本発明の追加の観点は、キットであって、一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む第1の組成物;及び、緩衝剤を含む第2の組成物を備えており、該第1の組成物及び前記第2の組成物を含む組成物のpHを約3から、約3.5から、約4から又は約4.5から、約5まで、約5.5まで、約6まで、約6.5まで、約7まで、約7.5まで、約8まで又は約8.5までの範囲に維持するように構成されており、ここで、前記第1の組成物及び前記第2の組成物は、前記キット内に別々に保存されている。
【0008】
本発明の更なる観点は、キットであって、一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む第1の組成物;並びに、クエン酸の塩形態(例えば、クエン酸塩)及び/又はクエン酸を少なくとも100mMの量で含有する緩衝剤を含む第2の組成物を含み、ここで、前記第1の組成物及び前記第2の組成物は、前記キット内に別々に保存されている。
【0009】
本発明の別の観点は、対象における感染を処置及び/又は予防する方法であって、該方法は、本発明の組成物を前記対象に投与することを含む。幾つかの実施態様において、前記感染は、ウイルス感染及び/又はSARS-CoV-2によって生じる感染である。
【0010】
ある実施態様に関して記載された観点は、それに関して特に記載されていないが、異なる実施態様内に組み込まれうることに留意されたい。
【0011】
次に、本発明の前述の観点及び他の観点が、本明細書において記載された他の実施態様に関してより詳細に説明されるであろう。本発明は、異なる形態で具現化されることができ、本明細書において記載された実施態様に限定して解釈されるべきでないことが理解されるべきである。寧ろ、これらの実施態様は、本開示が徹底的且つ完全なものであり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えることができるように提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウム(Berdazimer Sodium)で処置された5週齢のゴールデンシリアンハムスターの初期体重のパーセントを示すグラフである(ハムスターグループについてn=10及び正常な対照グループについてn=5)。ベルダジマーナトリウムでの処置により、感染後の体重減少が防止されなかった。200mg/kg/日の用量でのEIDD-2801での処置により、感染後の体重減少が防止された(*P<0.01,プラセボ処置されたグループとの比較)。
【
図2】
図2は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの肺のウイルス力価を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2で感染された動物における肺のウイルス力価が有意に低下しなかった。EIDD-2801での処置により、感染後6日目における肺のウイルス力価が低減された(***P<0.0001,プラセボ処置されたグループと比較)。
【
図3】
図3は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの鼻腔組織のウイルス力価を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2で感染された動物における鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下しなかった。EIDD-2801での処置により、感染後の鼻腔のウイルス力価が有意に低下しなかった。
【
図4】
図4は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された5週齢のゴールデンシリアハムスターの口腔咽頭スワッブのウイルス力価を示すグラフである。口腔咽頭スワッブのウイルス力価における有意差は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって認められなかった。
【
図5】
図5は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された5週齢のゴールデンシリアンハムスターの肺重量を示すグラフである。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較された場合に、処置グループの間で統計的に差はなかった。
【
図6】
図6は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された後の5週齢のゴールデンシリアンハムスターの初期体重のパーセントを示すグラフである(1ドナーグループ当たりn=2のハムスター及び1ナイーブグループ当たりn=4のハムスター)。プラセボ処置されたナイーブ動物は、ドナー動物が2mg/mLのベルダジマーナトリウムで処置された場合に、体重減少から保護された。ドナー動物が同じく2mg/mLのベルダジマーナトリウムで処置された場合に、2mg/mLのベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターへの曝露後の体重減少が防止された(*P<0.05,***P<0.001,ベルダジマーナトリウム処置されたドナー動物と比較して)。
【
図7】
図7は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の肺のウイルス力価を示すグラフである。動物の同居は試験の1~3日目に行われた。ベルダジマーナトリウムでの処置により、同じくベルダジマーナトリウムで処置された感染動物と同居されたナイーブ動物の肺のウイルス力価が有意に低下した(****P<0.0001,プラセボ処置されたナイーブ動物と比較して)。
【
図8】
図8は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の鼻腔組織のウイルス力価を示すグラフである。動物の同居は試験1~3日目に行われた。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された動物における鼻腔組織ウイルス力価が有意に低下しなかった。
【
図9】
図9は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの口腔咽頭スワップのウイルス力価を示すグラフである。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居されたハムスターにおける口腔咽頭スワップの力価が有意に低下しなかった。
【
図10】
図10は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させた動物と同居された後の5齢のゴールデンシリアハムスターの肺重量を示すグラフである。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較された場合に、グループ間で統計学的に差はなかった。
【
図11】
図11は、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居(1ドナーグループ当たりn=2匹のハムスター及び1ナイーブグループ当たりn=4匹のハムスター)された後の16週齢のゴールデンシリアンハムスターの初期体重のパーセントを示すグラフである。ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)でハムスターを処置した後に、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居されても、体重減少に統計学的に有意な差は観察されなかった。
【
図12】
図12は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居(1ドナーグループ当たりn=2匹のハムスター及び1ナイーブグループ当たりn=4匹のハムスター)させた後の16週齢のゴールデンシリアンハムスターの初期体重のパーセントを示すグラフである。ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置した後に、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居されても、体重減少に統計学的に有意な差は観察されなかった。
【
図13】
図13は、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の肺のウイルス力価を示すグラフである。動物の同居は試験1~3日目に行われた。ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)での処置により、同じくベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置された感染動物と同居されたナイーブ動物の肺のウイルス力価が有意に低下した(****P<0.0001,プラセボ処置されたナイーブ動物と比較して)。
【
図14】
図14は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2に感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の肺のウイルス力価を示すグラフである。動物の同居は試験1~3日目に行われた。ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)での処置により、同じくベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で処置された感染動物と同居されたナイーブ動物の肺のウイルス力価が有意に低下した。ベルダジマーナトリウム(1mg/mL)での処置により、同じくベルダジマーナトリウム(1mg/mL)で処置された感染動物と同居されたナイーブ動物の肺のウイルス力価が有意に低下しなかった(****P<0.0001,プラセボ処置されたナイーブ動物と比較して)。
【
図15】
図15は、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の鼻腔組織のウイルス力価を示すグラフである。動物の同居は試験1~3日目に行われた。ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)での処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された動物における鼻腔組織のウイルス力価は有意に低下しなかった。
【
図16】
図16は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の鼻腔組織のウイルス力価を示すグラフである。動物の同居は試験1~3日目に行われた。ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)での処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された動物において、鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下しなかった。
【
図17】
図17は、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させた動物と同居された後の16週齢のゴールデンシリアハムスターの肺重量を示すグラフである。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較された場合に、グループ間で統計的に差はなかった。
【
図18】
図18は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させた動物と同居された後の16週齢のゴールデンシリアハムスターの肺重量を示すグラフである。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較された場合に、処置グループの間で統計的に差はなかった。
【
図19】
図19は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で1日1回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの初期体重のパーセントを示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前から開始された。2、4又は8mg/mLのベルダジマーナトリウムで1日1回処置されたハムスターは、統計学的に有意な、体重減少からの保護は観察されなかった。統計学的に有意ではなかったが、8mg/mLのベルダジマーナトリウムで処置されたハムスターは、プラセボ処置された動物と比較して体重減少が少なかった。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されたハムスターにおいても同様の傾向が認められた。
【
図20】
図20は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で1日1回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺のウイルス力価を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。4mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの処置により、感染後3日目の肺のウイルス力価が有意に低下した。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801での処置により、感染後3日目の肺のウイルス力価が有意に低下した(*P<0.05,**P<0.01,プラセボ処置された動物と比較して)。
【
図21】
図21は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で1日1回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の鼻腔組織のウイルス力価を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2、4又は8mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日1回処置されても、鼻腔組織のウイルス力価は有意に低下しなかった。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されても、鼻腔組織のウイルス力価は有意に低下しなかった。
【
図22】
図22は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で1日1回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺重量を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2、4又は8mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日1回処置されても、肺重量は有意に減少しなかった。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されても、肺重量は有意に減少しなかった。
【
図23】
図23は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの初期体重のパーセントを示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日2回処置されても、SARS-CoV-2感染したハムスターの体重減少は防止されなかった。統計学的に有意ではなかったが、500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されたハムスターは、プラセボ処置されたグループよりも体重減少が少なかった。
【
図24】
図24は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺のウイルス力価を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日2回処置されても、感染後3日目又は6日目の肺のウイルス力価は有意に低下しなかった。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801での処置により、感染後3日目の肺のウイルス力価が有意に低下した(**P<0.01,プラセボ処置された動物と比較して)。
【
図25】
図25は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の鼻腔組織のウイルス力価を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの1日2回の処置により、感染後3日目の鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下した。500mg/kg/日でのEIDD-2801での処置により、感染後3日目の鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下した(**P<0.01,プラセボ処置された動物と比較して)。
【
図26】
図26は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺重量を示すグラフである。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。肺重量は、ベルダジマーナトリウム及びEIDD-2801での1日2回の処置により、6日目に有意な影響を受けた(**P<0.01,***P<0.0001,プラセボ処置された動物と比較して)。
【0013】
ここで、本発明は本発明の実施態様が示されている添付の図面及び実施例を参照して以下の本明細書において記載されている。この記載は、本発明が実施されうる全ての異なる方法又は本発明に追加されうる全ての特徴の詳細なカタログであることが企図されるものでない。例えば、1つの実施態様に関して図示された特徴は、他の実施態様に組み込まれてもよく、特定の実施態様に関して図示された特徴は、その実施態様から削除されてもよい。従って、本発明は、本発明の幾つかの実施態様において、本明細書において記載されている任意の1つの特徴又は複数の特徴の組み合わせが除外又は省略されることが可能であることを企図する。加えて、本明細書において示唆される様々な実施態様に対する多数の変形及び追加が、本開示に照らして当業者には明らかであろうが、それらは本発明から逸脱するものでない。従って、下記の説明は、本発明の幾つかの特定の実施態様を例示することが意図されており、それらの全ての順列、組み合わせ、及び変形を網羅的に特定することが意図されているものでない。
【0014】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書における本発明の説明において使用される用語は、特定の実施態様を説明する目的のみのものであり、本発明を限定することを意図するものでない。
【0015】
本明細書において引用されている全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照が示されている文章及び/又は段落に関連する教示について、それらの全体が参照によって組み込まれる。
【0016】
文脈が別段のことを指示しない限り、本明細書おいて記載されている本発明の様々な特徴は任意の組み合わせにおいて使用されることができることが特に意図される。その上、本発明はまた、本発明の幾つかの実施態様において本明細書に記載された任意の特徴又は複数の特徴の組み合わせが排除又は省略されることができることを企図する。例示すると、本明細書は、組成物が成分A、成分B及び成分Cを含むことを述べている場合に、A、B若しくはCのいずれか、又はそれらの組み合わせが省略され且つ除かれることができることが特に意図されている。
【0017】
本発明の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲において使用される場合に、単数形「1つの」(a)、「1つの」(an)及び「該」(the)は、文脈が別段のことを明らかに示さない限り、複数形も包含することが意図される。
【0018】
また、本明細書において使用される場合に、「及び/又は」は、列挙された1以上の関連項目の任意の及び全てのありうる組み合わせ、並びに選択肢(「又は」)で解釈される場合は組み合わせの欠如を云い且つ包含する。
【0019】
本明細書において使用される場合に、測定可能な値、例えば量又は濃度等、を云う場合に使用される語「約」は、規定値だけでなく、規定値の±10%、±5%、±1%、±0.5%、更には±0.1%の変動値を包含することが意味される。例えば、「約X」は、Xが測定可能な値である場合に、X、並びにXの±10%、±5%、±1%、±0.5%、あるいは±0.1%の変動を包含することが意味される。本明細書において提供される測定可能な値の範囲は、任意の他の範囲及び/又はその範囲内の個々の値を包含しうる。
【0020】
本明細書において使用される場合に、「XとYとの間」及び「約XとYとの間」等の句は、X及びYを含むと解釈されるべきである。本明細書において使用される場合に、「約XとYとの間」等の句は「約Xと約Yとの間」を意味し、及び「約X~Y」等の句は「約X~約Y」を意味する。
【0021】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書に別段の記載がない限り、単に範囲内に入る各個別の値を個別に参照するための略記法として機能することを意図したものであり、各個別の値は、本明細書において個別に記載されているかのように本明細書内に組み込まれる。例えば、10~15の範囲が開示されている場合に、11、12、13及び14がまた開示されている。
【0022】
本明細書において使用される場合に、語「含む」(comprises)及び「含んでいる」(comprising)は、述べられた特徴、整数、工程、操作、要素及び/又は成分の存在を特定するものであるが、1以上の他の特徴、整数、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらのグループの存在又は追加を排除するものでない。
【0023】
本明細書において使用される場合に、本発明の組成物に適用される経過的句「実質的になる」は請求項の範囲が、請求項に記載された特定の材料又は工程、及び請求された発明の基本的且つ新規な1以上の特徴に実質的に影響を与えないものを包含すると解釈されるべきであることを意味する。従って、本発明の請求項において使用される語「実質的になる」は、「含む」と同等に解釈されるべきであることが意図されていない。
【0024】
本明細書において使用される場合に、語「増加」、語「増加する」、語「増強する」、語「増強する」、語「改善」及び語「改善する」(並びにそれらの文法的変形)は、別の測定可能な特性又は量(例えば、対照値)と比較して、少なくとも約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%又はそれ以上の上昇を表す。
【0025】
本明細書において使用される場合に、語「低減」、語「低減した」、語「低減する」、語「減らす」及び語「減少」(並びにそれらの文法的変形)は、例えば、別の測定可能な特性又は量(例えば、対照値)と比較して、少なくとも約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%、約99%、又は約100%の減少を表す。幾つかの実施態様において、減少は、検出可能な活性又は量を全くもたらすことができないか、又は本質的に全く(すなわち、取るに足らない量、例えば、約10%未満、又は5%未満さえも)もたらすことができない。
【0026】
本明細書において提供される本発明の実施態様に従うと、一酸化窒素(NO)放出組成物(nitric oxide(NO)-releasing composition)が提供される。本発明のNO放出組成物は、鼻腔用組成物であってもよく、及び/又は鼻腔内送達(intranasal delivery)の為に構成されていてもよい。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、一酸化窒素放出性活性医薬成分(nitric oxide-releasing active pharmaceutical ingredient);及び、前記組成物のpHを約3から、約3.5から、約4から又は約4.5から、約5まで、約5.5まで、約6まで、約6.5まで、約7まで、約7.5まで、約8まで又は約8.5までの範囲に維持するように構成された緩衝剤を含む。緩衝剤は、弱酸及び該弱酸の塩、又は弱塩基及び該弱塩基の塩を包含することができる。幾つかの実施態様において、本発明の緩衝剤は、約2.5~約6.5の範囲において少なくとも2つのpKa値を有するところの弱酸を含む。幾つかの実施態様において、該弱酸は、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、及び/又は約6.5のpKa値を有する。該緩衝剤は、約3から、約3.5から又は約4から、約4.5まで、約5まで、約5.5まで又は約6まで、例えば、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5又は約6、のpHを有しうる。
【0027】
例示的な緩衝剤は、クエン酸の塩形態(citrate)、酢酸の塩形態(acetate)、リン酸の塩形態(phosphate)、及び/又はマレイン酸の塩形態(maleate)の緩衝剤を包含するが、これらに限定されない。酢酸の塩形態の緩衝剤は、酢酸及び/又は酢酸の塩形態(例えば、酢酸ナトリウム)を含みうる。リン酸の塩形態の緩衝剤は、リン酸及び/又はリン酸の塩形態(例えば、一塩基性リン酸二水素(monobasic dihydrogen phosphate)及び二塩基性リン酸一水素(dibasic monohydrogen phosphate))を含みうる。マレイン酸の塩形態の緩衝剤は、マレイン酸及び/又はマレイン酸の塩形態(例えば、マレイン酸トロメタミン塩)を含みうる。クエン酸の塩形態の緩衝剤は、クエン酸及び/又はクエン酸の塩形態(例えば、クエン酸ナトリウム三塩基性(sodium citrate tribasic)及び/又はクエン酸三ナトリウム二水和物(tri sodium citrate dihydrate)を含みうる。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、クエン酸の塩形態の緩衝剤を含む。クエン酸の塩形態の緩衝剤は、クエン酸イオン(例えば、トリカルボン酸トリアニオン)及び/又はクエン酸一水素イオン(mono-hydrogen citrate ion)を含みうる。
【0028】
本発明の緩衝剤は、少なくとも50mM若しくは少なくとも100mM又はそれ以上の量の酸及び/又は該酸の対応する塩の濃度を有しうる。幾つかの実施態様において、緩衝剤は、約50、約75、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、約500、約550、約600、約650、約700、約750、約800、約850、約900、約950若しくは約1000mM又はそれ以上の量の酸及び/又は該酸の対応する塩の濃度を有する。幾つかの実施態様において、緩衝剤は、約50mM~約150mM、約100mM~約300mM、約150mM~約300mM、約200mM~約1000mM、約200mM~約500mM、約250mM~約600mM又は約500mM~約1000mMの量の酸及び/又は該酸の対応する塩の濃度を有する。幾つかの実施態様において、緩衝剤は、約200mM又はそれ以上の量のクエン酸の塩形態(citrate)(例えば、クエン酸塩(citrate salt))及び/又はクエン酸を含む。幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、対象によって耐容されることが期待されないであろう量及び/又は鼻腔内投与の為に適した量における酸及び/又は該酸の対応する塩の濃度を有する。幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、対象によって耐容されるとして典型的に確立されている量を超える量及び/又は鼻腔内投与の為に適するとして典型的に確立されている量を超える量の酸及び/又は該酸の対応する塩の濃度を有する。
【0029】
本発明の緩衝剤は、緩衝剤のpHを調整する為に十分な量、例えば約3から、約3.5から又は約4から、約4.5まで、約5まで、約5.5まで又は約6までのpHに緩衝剤のpHを調整する為に十分な量の、少なくとも1つの追加の酸(例えば、HCl)及び/又は塩基(例えば、NaOH)を含みうる。幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5又は約6のpHを有する。
【0030】
幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、クエン酸の塩形態の緩衝剤である。該クエン酸の塩形態の緩衝剤は、クエン酸の塩形態(例えば、クエン酸塩)及び/又はクエン酸を含みうる。例示的なクエン酸の塩形態は、クエン酸三ナトリウム(trisodium citrate)、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム及び/又はそれらの水和物及び/又はそれらの無水物の形態を包含するが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、クエン酸の塩形態の緩衝剤は、クエン酸の塩形態及びクエン酸を含む。幾つかの実施態様において、前記クエン酸の塩形態は、クエン酸ナトリウム三塩基性(sodium citrate tribasic)である。幾つかの実施態様において、前記クエン酸の塩形態は、クエン酸三ナトリウム二水和物(tri sodium citrate dihydrate)である。幾つかの実施態様において、本発明のクエン酸の塩形態の緩衝剤は、約1w/w%、約1.25w/w%、約1.5w/w%又は約1.75w/w%~約2w/w%、約2.25w/w%又は約2.5w/w%の量におけるクエン酸;約1.5w/w%、約1.75w/w%、約2w/w%、約2.25w/w%、約2.5w/w%、約2.75w/w%又は約3w/w%~約3.25w/w%、約3.5w/w%、約3.75w/w%又は約4w/w%の量におけるクエン酸ナトリウム三塩基性、クエン酸三ナトリウム二水和物及び/又は無水クエン酸ナトリウムの塩形態;任意的に追加の酸(例えば、緩衝剤のpHを約3から、約3.5から5又は約4から、約4.5まで、約5まで、約5.5まで又は約6まで(例えば、約4.5)に調整する為に十分な量における酸(例えば、HCl)及び/又は塩基(例えば、NaOH);並びに、残りの水を含む。幾つかの実施態様において、本発明のクエン酸の塩形態の緩衝剤は、約1w/w%、約1.25w/w%、約1.5w/w%、約1.75w/w%、約2w/w%、約2.25w/w%又は約2.5w/w%、及び約1.5w/w%、約1.75w/w%、約2w/w%、約2.25w/w%、約2.5w/w%、約2.75w/w%、約3w/w%、約3.25w/w%、約3.5/w%、約3.75w/w%又は約4w/w%の量におけるクエン酸ナトリウム三塩基性、クエン酸三ナトリウム二水和物及び/又は無水クエン酸ナトリウムの塩形態を含み、並びに約4.5のpHを有する。
【0031】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分(API:active pharmaceutical ingredient)は、本発明の前記緩衝剤及び/又は組成物において懸濁されうる。NO放出性API(NO-releasing API)は、不溶性であってもよく、特には、例えば、不溶性、非生分解性の微粒子、であってもよい。幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、バイオポリマーを含まず、及び/又はバイオポリマーから調製されない。幾つかの実施態様において、一酸化窒素がNO放出性APIから放出されるにつれて、NO放出性APIが存在する組成物のpHは上昇しうる。
【0032】
幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、約0.1mg/mL~約30mg/mLの量で一酸化窒素放出性活性医薬成分、並びに、前記組成物のpHを約3、約3.5、約4又は約4.5~約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8m又は約8.5の範囲に維持するように構成された緩衝剤(例えば、クエン酸の塩形態の緩衝剤)を含む。幾つかの実施態様において、前記緩衝剤は、NO放出性APIを含む組成物のpHを、約8.5以下、例えば、約8、約7.5、約7、約6.5、約6、約5.5、約5又はそれ未満のpH、に維持するように構成される。幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、NO放出性APIを含む組成物のpHを約4.5~約5.5又は約4.5~約7の範囲のpHに維持するように構成される。幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、約0.1、約0.5、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29又は約30mg/mLの量で該組成物中に存在する。幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、該組成物中に約1mg/mL~約20mg/mLの量で存在する。幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、該組成物中に約2mg/mL、約4mg/mL、約6mg/mL、約8mg/mL、約10mg/mL、約1mg/mL又は約14mg/mLの量で存在する。
【0033】
本発明の組成物は、任意的に該組成物中のNO放出性APIの存在及び/又はNO放出性APIからの一酸化窒素の放出に起因して、経時的に変化するpHを有しうる。幾つかの実施態様において、該組成物のpHは、該組成物の初期形成に応じて(例えば、NO放出性APIを該緩衝剤と一緒にして)、約4.5~約6である。前記緩衝剤は、NO放出性API及び該緩衝剤を含む該組成物のpHを、約3から、約3.5から、約4から又は約4.5から、約5まで、約5.5まで、約6まで、約6.5まで、約7まで、約7.5まで、約8まで又は約8.5までの範囲に維持するように構成されうる;この様式において、組成物は、約3から、約3.5から、約4から又は約4.5から、約8.5までのpHを有しうる。幾つかの実施態様において、該組成物は、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8又は約8.5のpHを有する。幾つかの実施態様において、該組成物は約7以下のpHを有する。幾つかの実施態様において、該組成物は約5.5のpHを有する。
【0034】
本明細書において使用される場合に、「一酸化窒素放出性活性医薬成分」、「一酸化窒素放出性API」及び「NO放出性API」は、対象の皮膚(例えば、粘膜)及び/又は組織に一酸化窒素を供給するが、気体状一酸化窒素でない化合物又は他の組成物を云う。幾つかの実施態様において、NO放出性APIはまた、酸性化された亜硝酸塩(acidified nitrite)でない。幾つかの実施態様において、NO放出性APIはまた、一酸化窒素放出化合物(以下、「NO放出性化合物」と云う)を含む。NO放出性化合物は、或る条件下で一酸化窒素を放出しうる官能基である少なくとも1つのNOドナーを含む。
【0035】
幾つかの実施態様において、NO放出性化合物は、NOドナー基を含む低分子化合物を含む。本明細書において使用される「低分子化合物」は、500ダルトン未満の分子量を有する化合物として定義され、並びに有機及び/又は無機の低分子化合物を含む。幾つかの実施態様において、NO放出性化合物は、NOドナー基を含む巨大分子(macromolecule)を含む。本明細書において、「巨大分子」は、500ダルトン以上の分子量を有する任意の化合物として定義される。幾つかの実施態様において、NO放出性巨大分子は、架橋又は非架橋のポリマー、デンドリマー、金属化合物、有機金属化合物、無機ベースの化合物、及び/又は他の巨大分子足場(macromolecular scaffold)を含む。幾つかの実施態様において、該巨大分子は、約0.1nm~約100μmの範囲の公称直径を有し、及び2以上の巨大分子の集合体を含んでいてもよく、それによって、巨大分子構造は、NOドナー基を用いて更に修飾される。
【0036】
幾つかの実施態様において、NO放出性化合物は、NOドナーとしてジアゼニウムジオレート(diazeniumdiolate)官能基を含む。該ジアゼニウムジオレート官能基は、或る条件下で、例えば水又はプロトンに対する曝露に応じて、一酸化窒素を生成しうる。別の例として、幾つかの実施態様において、NO放出性化合物は、NOドナーとしてニトロソチオール官能基を含む。該NOドナーは、或る条件下で、例えば光に対する曝露に応じて、一酸化窒素を生成しうる。他のNOドナー基の例は、ニトロソアミン、ヒドロキシルニトロソアミン、ヒドロキシルアミン及びヒドロキシ尿素を包含する。幾つかの実施態様において、NOドナー及び/又はNO放出性化合物の組み合わせが、本発明の組成物中に存在してもよい。加えて、該NOドナーは、共有結合的相互作用及び/又は非共有結合的相互作用を介して、低分子又は巨大分子内に組み込まれ及び/又は低分子又は高分子上に組み込まれてもよい。
【0037】
NO放出性巨大分子は、NO放出性粒子の形態であってもよく、例えば、米国特許第8,282,967号明細書、米国特許第8,962,029号明細書又は米国特許第8,956,658号明細書に記載されているNO放出性粒子の形態であってもよく、それらの開示は、参照によってそれらの全体が本明細書内に組み込まれる。NO放出性化合物の他の非限定的な例は、米国特許出願公開第2006/0269620号明細書又は米国特許出願公開第2010/0331968号明細書に記載されているようなNO放出性ゼオライト;米国特許出願公開第2010/0239512号明細書又は米国特許公開第2011/0052650号明細書に記載されているようなNO放出性有機金属フレームワーク(MOF:metal organic framework);「Tunable Nitric Oxide-Releasing Macromolecules Having Multiple Nitric Oxide Donor Structures」(複数の一酸化窒素ドナー構造を有するチューナブル一酸化窒素放出性巨大分子)と題する国際出願第PCT/US2012/052350号明細書に記載されているようなNO放出性マルチドナー化合物;米国特許出願公開第2009/0214618号明細書に記載されているようなNO放出性デンドリマー又は金属構造体;米国特許出願公開第2011/0086234号明細書に記載されているような一酸化窒素放出性コーティング;並びに、米国特許出願公開第2010/0098733号明細書に記載されている化合物を包含する。この段落における参考文献の各々の開示は、それらの全体が参照によって本明細書内に組み込まれる。加えて、NO放出性巨大分子は、2012年1月20日に出願された「Temperature Controlled Sol-Gel Co-Condensation」(温度制御されたゾル-ゲル共縮合)と題する国際出願第PCT/US2012/022048号明細書に記載されているように作成されることができ、その開示は、参照によってその全体が本明細書内に組み込まれる。
【0038】
一例として、本発明の幾つかの実施態様において、一酸化窒素放出性活性医薬成分は、NO担持沈降シリカ(NO-loaded precipitated silica)を含みうる。NO担持沈降シリカは、一酸化窒素ドナー修飾シランモノマー(nitric oxide donor modified silane monomers)から共縮合シロキサンネットワーク(co-condensed siloxane network)内に形成されてもよい。本発明の1つの実施態様において、一酸化窒素ドナーは、N-ジアゼニウムジオレートであってもよい。本発明の幾つかの実施態様において、該一酸化窒素放出性活性医薬成分は、ジアゼニウムジオレート(例えば、N-ジアゼニウムジオレート)を含む共縮合シロキサンネットワークを含んでいてもよく、該共縮合シロキサンネットワークから本質的に構成されてもよく、又は該共縮合シロキサンネットワークから構成されてもよい。
【0039】
幾つかの実施態様において、該一酸化窒素ドナーは、プリチャージ法(pre-charging method)によってアミノアルコキシシランから形成されてもよく、共縮合シロキサンネットワークは、アルコキシシランとアミノアルコキシシランとを含むシラン混合物の縮合から合成されて、一酸化窒素ドナーで修飾された共縮合シロキサンネットワークを形成してもよい。本明細書において使用される場合に、「プリチャージ法」とは、アルコキシシランとの共縮合の前に、アミノアルコキシシランが一酸化窒素で「前処理」又は「プリチャージ」されることを意味する。幾つかの実施態様において、一酸化窒素でのプリチャージは、化学的方法によって達成されうる。別の実施態様において、該「プリチャージ」法は、共縮合シロキサンネットワーク及びNOドナーでより高密度に官能化された材料を作成するために使用されてもよい。本発明の幾つかの実施態様において、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分は、アルコキシシランと、ジアゼニウムジオレート(例えば、N-ジアゼニウムジオレート)によって置換されたアミンを有する少なくとも1つのアミノアルコキシシランとを含むシラン混合物の縮合から合成された共縮合シリカネットワークを含んでいてもよく、該共縮合シロキサンネットワークから本質的に構成されてもよく、又は該共縮合シロキサンネットワークから構成されてもよい。
【0040】
該共縮合シロキサンネットワークは、均一なサイズを有するシリカ粒子、様々なサイズを有するシリカ粒子の集合体、非晶質シリカ、ヒュームドシリカ、ナノ結晶シリカ、セラミックシリカ、コロイダルシリカ、シリカコーティング、シリカフィルム、有機変性シリカ、メソポーラスシリカ、シリカゲル、生物活性ガラス、及び/又は任意の適切な形態若しくは状態のシリカであってもよい。
【0041】
幾つかの実施態様において、該アルコキシシランは、下記の式 Si(OR)4を有するテトラアルコキシシランであり、ここで、Rはアルキル基である。該R基は、同じであってもよく又は異なっていてもよい。幾つかの実施態様において、該テトラアルコキシシランは、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)又はテトラエチルオルソシリケート(TEOS)として選択される。幾つかの実施態様において、該アミノアルコキシシランは、下記の式 R"-(NH-R')n-Si(OR)3を有し、ここで、Rはアルキルであり、R'は、アルキレン、分岐アルキレン又はアラルキレンであり、nは1又は2であり、及びR"は、アルキル、シクロアルキル、アリール及びアルキルアミンからなる群から選択される。
【0042】
幾つかの実施態様において、該アミノアルコキシシランは、N-(6-アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン(AHAP3);N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAP3);(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(DET3);(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン(AEMP3);[3-(メチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン(MAP3);N-ブチルアミノ-プロピルトリメトキシシラン(n-BAP3);t-ブチルアミノ-プロピルトリメトキシシラン(t-BAP3);N-エチルアミノイソブチルトリメトキシシラン(EAiB3);N-フェニルアミノ-プロピルトリメトキシシラン(PAP3);及び、N-シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン(cHAP3)から選択されうる。
【0043】
幾つかの実施態様において、該アミノアルコキシシランは、下記の式 NH[R'-Si(OR)3]2を有し、ここで、Rはアルキルであり、及びR'はアルキレンである。幾つかの実施態様において、該アミノアルコキシシランは、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン及びビス-[(3-トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンから選択されうる。
【0044】
幾つかの実施態様において、本明細書において記載されているように、該アミノアルコキシシランはNO放出の為に予めチャージされ、及び該アミノ基はジアゼニウムジオレートによって置換される。それ故に、幾つかの実施態様において、該アミノアルコキシシランは、下記の式R"-N(NONO-X+)-R'-Si(OR)3を有し、ここで、Rはアルキルであり、R'はアルキレン又はアラルキレンであり、R"はアルキル又はアルキルアミンであり、及びX+は、Na+、K+及びLi+からなる群より選択される陽イオンである。
【0045】
該シロキサンネットワークの組成(例えば、該アミノアルコキシシランの量又は化学組成)及び一酸化窒素帯電条件(例えば、溶媒及び塩基)は、一酸化窒素放出の量及び持続期間を最適化する為に変化されてもよい。従って、幾つかの実施態様において、シリカ粒子の組成は、シリカ粒子からのNO放出の半減期を調節する為に変更されてもよい。
【0046】
幾つかの実施態様において、アミノアルコキシシランのアミノ基はジアゼニウムジオレートで置換されており、及び該アミノアルコキシシランは、下記の式 R"-N(NONO-X+)-R'-Si(OR)3を有し、ここで、Rはアルキルであり、R'はアルキレン又はアラルキレンであり、R"はアルキル又はアルキルアミンであり、及びX+は、Na+及びK+からなる群から選択される陽イオンである。
【0047】
幾つかの実施態様において、該NO放出性APIは、ジアゼニウムジオール化されたアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(AEAP3-NONOate)とテトラメチルオルトシリケート(TMOS)とを含む若しくはそれらから形成される共縮合シリカネットワーク、及び/又はジアゼニウムジオール化されたアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(AEAP3-NONOate)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含む若しくはそれらから形成される共縮合シリカネットワークを含みうる。幾つかの実施態様において、該NO放出性APIは、ジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とテトラメチルオルトシリケート(TMOS)とを含む若しくはそれから形成される共縮合シリカネットワーク、及び/又はジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含む若しくはそれらから形成される共縮合シリカネットワークを含みうる。幾つかの実施態様において、該NO放出性APIは、ジアゼニウムジオール化されたメチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3-NONOate)とエチルアミノイソブチルシロキサン(EAIB3)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とを含む若しくはそれから形成される共縮合シリカネットワークを含みうる。幾つかの実施態様において、該NO放出性APIは、ジアゼニウムジオール化されたエチルアミノイソブチルシロキサン(EAIB3-NONOate)とテトラエチルオルソシリケート(TEOS)及び/又はテトラメチルオルトシリケート(TMOS)とを含む若しくはそれから形成される共縮合シリカネットワークを含みうる。幾つかの実施態様において、該NO放出性APIは、エチルアミノイソブチルシロキサン/メチルアミノプロピルシロキサン-コ-ポリシロキサン(EAIB3:MAP3-NONOate/TEOS)でありうる。幾つかの実施態様において、該NO放出性APIは、非晶質ポリマーを含みうる。
【0048】
幾つかの実施態様において、NO放出性APIの粒径(例えば、直径)は、約20nm~約20μmの範囲又はそれらのうちの任意の範囲、例えば、約100nm~約20μm又は約1μm~約20μm若しくは約30μmでありうるが、これらに限定されない。該粒径は、毒性を及び/又は表皮(又は損なわれた真皮)を通じて血管内への浸透を最小化又は防止するように調整されうる。幾つかの実施態様において、該粒径は、20μm未満の平均粒径(例えば、平均直径)程度又はそれらのうちの任意の範囲に分布し、該粒径は、該粒子が小胞(follicle)に入ることを可能にしうる。幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、約20μm、約19μm、約18μm、約17μm、約16μm、約15μm、約14μm、約13μm、約12μm、約11μm、約10μm、約9μm、約8μm、約7μm、約6μm、約5μm、約4μm、約3μm、約2μm又は約1μmの平均粒径程度に分布する粒径を有しうる。幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、10μm未満又はそれらのうちの任意の範囲、例えば約2μm~約10μm又は約4μm~約8μmの平均粒径程度に分布する粒径を有しうる。幾つかの実施態様において、該粒径は、20μm超程度又はそれらのうちの任意の範囲に分布してもよく、及び該粒径は、該粒子が小胞(follicle)に入ることを防止しうる。幾つかの実施態様において、2以上の平均粒径程度に分布する平均粒径を有する粒子の混合物が提供されてもよい。NO放出性APIは、微粉化(例えば、ボールミル及び/又はジェットミル)されてもよい。所望の粒径及び/又は微粉化を提供する為の方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2013/0310533号において記載されている方法を包含するが、これらに限定されるものでない。幾つかの実施態様において、前記一酸化窒素放出性活性医薬成分が、約20nm~約30μmの平均粒径を有する。幾つかの実施態様において、前記一酸化窒素放出活性医薬成分は、約2μm~約20μmの平均粒径を有する。
【0049】
幾つかの実施態様において、NO放出性APIは、低い電荷を有しうる。幾つかの実施態様において、NO放出性APIにおける電荷は制御されてもよく及び/又は調節されていてもよい。
【0050】
本発明の組成物は、NO放出性APIを含んでいてもよく、該組成物の約0.001重量%~約10重量%の量、例えば、これらに限定されないが、前記組成物の約0.001重量%~約0.05重量%、約0.01重量%~約0.1重量%、約0.15重量%~約2重量%、約0.15重量%~約1重量%、約0.3重量%~約1.2重量%、約0.15重量%~約6重量%、約1重量%~約10重量%、約3重量%~約6重量%又は約1重量%~約5重量%の量で、一酸化窒素を貯蔵及び/又は放出してもよい。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、一酸化窒素放出活性医薬品を含んでいてもよく、及び前記組成物の約0.001重量%、0.005重量%、0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.3重量%、0.6重量%、0.9重量%、1重量%、1.25重量%、1.5重量%、1.75重量%、2重量%、2.25重量%、2.5重量%、2.75重量%、3重量%、3.25重量%、3.5重量%、3.75重量%、4重量%、4.25重量%、4.5重量%、4.75重量%、5重量%、5.25重量%、5.5重量%、5.75重量%、6重量%、6.25重量%、6.5重量%、6.75重量%、7重量%、7.25重量%、7.5重量%、7.75重量%、8重量%、8.25重量%、8.5重量%、8.75重量%、9重量%、9.25重量%、9.5重量%、9.75重量%、又は10重量%の量で、一酸化窒素を貯蔵及び/又は放出してもよい。放出される一酸化窒素の量は、リアルタイムのイン・ビトロ(in vitro)放出試験を用いて決定されうる。幾つかの実施態様において、一酸化窒素放出は、化学発光一酸化窒素分析器(chemiluminescent nitric oxide analyzer)を用いて決定されうる。
【0051】
本発明の組成物は、1以上の賦形剤を含みうる。幾つかの実施態様において、前記組成物は、香料を含む。幾つかの実施態様において、前記緩衝剤及び/又は組成物は、希釈剤(例えば、追加の希釈剤)、共溶媒、保存剤、酸化防止剤、懸濁化剤、透過促進剤、界面活性剤、粘度増加剤、保湿剤、安定剤及び/又は湿潤剤を含まない。
【0052】
また、本発明の実施態様に従って、キットが提供される。本発明のキットは、一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む第1の組成物;及び本発明の緩衝剤を含む第2の組成物を含み得、ここで、前記第1の組成物及び前記第2の組成物は、前記キット中に別々に保存される。幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、前記第1の組成物及び前記第2の組成物を含む組成物(例えば、一緒にされた組み合わせ)のpHを、約3、約3.5、約4又は約4.5~約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8又は約8.5の範囲に維持するように構成されている。幾つかの実施態様において、該緩衝剤は、クエン酸の塩形態の緩衝液、例えば、少なくとも100mMの量のクエン酸の塩形態及び/又はクエン酸を含むクエン酸の塩形態の緩衝液、である。
【0053】
前記一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む前記第1の組成物は固体であってもよく、及び/又は前記一酸化窒素放出性活性医薬成分は粒子状であってもよい。前記第2の組成物は、溶液であってもよい。幾つかの実施態様において、前記キットは、前記第1の組成物と前記第2の組成物とを一緒にして、一緒にされた組成物を提供するように構成されている。前記一緒にされた組成物は、本明細書において記載された組成物であることができる。幾つかの実施態様において、前記キットは、約0.1mg/mL~約30mg/mLの量で前記一酸化窒素放出性活性医薬成分を含む一緒にされた組成物を提供するように構成されており、及び前記緩衝剤(例えば、クエン酸の塩形態の緩衝剤)が、前記一緒にされた組成物のpHを約3、約3.5、約4又は約4.5から約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8又は約8.5までの範囲で維持するように構成されている。
【0054】
幾つかの実施態様において、前記キットは、前記組成物を投与及び/又は放出するように構成されている。幾つかの実施態様において、本発明のキットは、前記組成物を投与する為に構成されたデバイスを備えている。キット及び/又はデバイスは、約15μL、約25μL、約50μL、約75μL又は約100μLから約150μL、約200μL、約300μL、約400μL又は約500μLまでの容量を投与及び/又は放出しうる。幾つかの実施態様において、前記キット及び/又はデバイスは、約15μL、約25μL、約50μL、約75μL、約100μL、約150μL、約200μL、約250μL、約300μL、約350μL、約400μL、約450μL又は約500μLの容量を投与及び/又は放出するように構成されている。幾つかの実施態様において、前記キット及び/又はデバイスは、本発明の組成物(例えば、前記第1の組成物と前記第2の組成物とを含む組成物)をエアロゾル化及び/又は霧化するように構成されている。幾つかの実施態様において、本発明のエアロゾル化及び/又は霧化組成物は、約10μm、約20μm、約30μm又は約40μmから約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm又は約100μmまでの平均滴サイズ(例えば、滴直径)を有する。幾つかの実施態様において、本発明のエアロゾル化及び/又は霧化組成物は、約10μm、約20μm、約30μm、約40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm又は約100μmの平均滴サイズ(例えば、滴直径)を有する。幾つかの実施態様において、本発明のエアロゾル化及び/又は霧化組成物は、滴/エアロゾルの肺内への吸入を制限又は回避する平均滴サイズを有する。
【0055】
本発明の組成物は、鼻腔内投与用に構成されうる。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、噴霧されるように構成され、及び/又は噴霧可能な組成物である。前記組成物は、鼻粘膜及び/又は口腔粘膜上に噴霧されてもよい。幾つかの実施態様において、前記組成物は、口腔咽頭組織と接触してもよい。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、エアロゾル化及び/又は霧化されるように構成されてもよく、及び/又はエアロゾルの形態であってもよく、及び/又は気相中の小滴の形態であってもよい。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、対象の鼻腔及び/又は対象の口腔粘膜に投与されるように構成される。該NO放出性APIは、対象に局所的に(例えば、該対象の鼻腔及び/又は口腔粘膜に)送達されてもよい。幾つかの実施態様において、該NO放出性APIの局所送達は、局所的効果及び/又は全身的効果を有する。
【0056】
本発明の組成物は、抗ウイルス性(antiviral)、抗微生物性(antimicrobial)及び/又は抗細菌性(antibacterial)であってもよい。本発明の緩衝剤は、抗ウイルス性でなくてもよく、及び/又は殺ウイルス性(viricidal)でない。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、病原体(例えば、ウイルス及び/又は細菌)に感染した細胞にアポトーシスを誘発する為に十分な量の一酸化窒素を投与及び/又は送達する。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、ウイルス感染細胞においてアポトーシスを誘導するのに十分な量の一酸化窒素を投与及び/又は送達する。幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、任意的に約50%未満の宿主細胞細胞毒性で、ウイルスの複製を減少又は排除する為に十分な量の一酸化窒素を投与及び/又は送達する。
【0057】
幾つかの実施態様に従うと、対象における感染症(例えば、ウイルス感染症及び/又は細菌感染症)を処置及び/又は予防する方法であって、本発明の組成物を前記対象に投与することを含むところの上記方法が提供される。
【0058】
幾つかの実施態様において、前記方法は、前記組成物を前記対象に投与する前に、一酸化窒素放出性活性医薬成分と本発明の緩衝剤とを一緒にして該組成物を提供することを含む。一酸化窒素放出活性医薬成分と緩衝剤と一緒にすることは、該NO放出性APIを該緩衝剤に添加すること、又は該緩衝剤を該NO放出性APIに添加することを含みうる。幾つかの実施態様において、該一酸化窒素放出活性医薬成分及び緩衝剤は、該一酸化窒素放出活性医薬成分及び該緩衝剤を一緒にするように構成されたデバイス(例えば、キット)中に存在する。幾つかの実施態様において、該NO放出性API及び緩衝剤は、一緒にされた、そして次に、投与のためのデバイス中に提供される。幾つかの実施態様において、本発明のキットは、該組成物の投与の為に構成されたデバイスであってもよい。本発明のデバイスは、単回使用用であってもよく又は複数回使用用であってもよい。幾つかの実施態様において、該デバイスは再充填可能である。幾つかの実施態様において、該デバイスは、鼻腔スプレーデバイス及び/又は霧化デバイスである。幾つかの実施態様において、該デバイスは、シリンジ(syringe)と、該シリンジの先端のプラグとを備えており、該プラグは、組成物が該シリンジから該プラグを通じて移動する際に該組成物を霧化するように構成されている。
【0059】
幾つかの実施態様において、前記組成物を投与することは、1投与当たり前記組成物の約15μL、約25μL、約50μL、約75μL又は約100μLから約150μL、約200μL、約300μL、約400μL又は約500μLまでの量を前記対象物に投与することを含む。1投与当たり前記組成物の約15μL、約25μL、約50μL、約75μL又は約100μLから約150μL、約200μL、約300μL、約400μL又は約500μLまでの量が、対象の各鼻孔に投与されてもよい。
【0060】
本発明の方法は、前記組成物が約3、約3.5、約4又は約4.5から約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8又は約8.5のpHを有する時間に、本発明の組成物を対象に投与することを含みうる。幾つかの実施態様において、該組成物は、該組成物が約5.5のpHを有する時間に該対象に投与される。
【0061】
本発明の方法は、対象の上気道、下気道及び/又は肺に、外因性、気体状の一酸化窒素を投与及び/又は送達することを含みうる。外因性、気体状のNOは、本発明の組成物を該対象の鼻粘膜及び/又は口腔粘膜に投与することに応じて、上気道、下気道及び/又は肺に送達されうる。幾つかの実施態様において、NO放出性API及び/又は組成物(例えば、エアロゾル化された組成物)は、該対象の下気道及び/又は肺に送達されない。幾つかの実施態様において、該NO放出性API及び/又は組成物は、該対象に局所的に送達される。
【0062】
本発明の方法は、任意的に本発明の方法の非存在下における伝染(Transmission)量と比較して、非感染対象への病原体の伝染(Transmission)を低減又は防止しうる。幾つかの実施態様において、前記方法は、任意的に本発明の方法の非存在下におけるウイルス伝染(Transmission)量と比較して、非感染対象へのウイルスの伝染(Transmission)(すなわち、ウイルス伝染(Transmission))を低減又は防止する。
【0063】
幾つかの実施態様において、本発明の方法は、該対象中に存在するウイルスの初期量と比較して、対象中(例えば、対象の鼻腔及び/又は肺中)に存在する病原体(例えば、ウイルス、細菌等)の量を少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又は約100%減少させる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、任意的に本発明の方法の非存在下における対象の1以上の肺に存在する病原体の量と比較して、該対象の1以上の前記肺に存在する病原体(例えば、ウイルス、細菌等)の量を減少させる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、任意的に本発明の方法の非存在下における対象の肺への病原体及び/又は感染の進行と比較して、該対象の1以上の肺への病原体及び/又は感染(例えば、ウイルス感染)の進行を低減又は防止する。本発明の方法は、任意的に本発明の方法の非存在下における重篤度と比較して、感染症(例えば、ウイルス感染症)の重篤度を低減しうる。
【0064】
本発明の組成物及び/又は方法は、病原体(例えば、ウイルス)の増殖及び/又は複製を減少又は防止しうる。幾つかの実施態様において、該組成物及び/又は方法は、ウイルスの複製を減少又は防止する。幾つかの実施態様において、該組成物及び/又は方法は、細菌の増殖を低減又は防止する。該方法は、タンパク質機能を破壊することによって、病原体(例えば、ウイルス)の複製を減少又は阻害しうる。幾つかの実施態様において、本発明の組成物及び/又は方法は、任意的に本発明の方法の非存在下における方法と比較して、ウイルスの排出を低減又は防止しうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、任意的に投与前の血液中の酸素レベルと比較して、対象の血液中の酸素化を増加させる。幾つかの実施態様において、前記方法は、対象の血液中の酸素の局所的及び/又は一過性の増加を提供しうる。
【0065】
幾つかの実施態様において、前記病原体は、ウイルス又は細菌である。本発明の方法は、病原体によって引き起こされる感染症を処置及び/又は予防しうる。該感染は、院内感染でありうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、コロナウイルス科ウイルス、黄色ブドウ球菌、インフルエンザウイルス及び/又は呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)から選択される病原体によって引き起こされる感染症を処置及び/又は予防しうる。幾つかの実施態様において、該病原体は、コロナウイルス科ウイルス、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV:severe acute respiratory syndrome coronavirus)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV:Middle East respiratory syndrome coronavirus)、重症急性呼吸器コロナウイルス2(SARS-CoV-2:severe acute respiratory coronavirus 2)、風邪ウイルス(例えば、hCoV-229E及び/又はhCoV-OC43)及び/又はその変種、であるが、これらに限定されない。SARS-CoV-2の例示的な変種は、SARS-CoV-2アルファ変種、SARS-CoV-2ベータ変種、SARS-CoV-2ガンマ変種、SARS-CoV-2デルタ変種、SARS-CoV-2オミクロン変種及び/又はそれらの変種(例えば、新たな変異体)を包含するが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、コロナウイルス科ウイルス、例えばSARS-CoV-2、による感染を処置及び/又は予防し、及び/又はコロナウイルス疾病(例えば、COVID-19)を処置及び/又は予防する。幾つかの実施態様において、病原体は、インフルエンザウイルス、例えばインフルエンザA/カリフォルニア/7/2009(H1N1)及び/又はそれらの変異体、である。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、インフルエンザウイルス、例えばH1N1、による感染を処置及び/又は予防し、及び/又はインフルエンザ疾病を処置及び/又は予防する。幾つかの実施態様において、該病原体は、呼吸器合胞体ウイルス、例えば、呼吸器合胞体ウイルスA2株(RSV-A2)及び/又はその変異体、である。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、呼吸器合胞体ウイルス、例えばRSV-A2、による感染を処置及び/又は予防し、及び/又は呼吸器合胞体ウイルス疾病を処置及び/又は予防する。
【0066】
本発明の方法は、本発明の組成物を1日に1回以上(例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、又は8回)、任意的に1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、又はそれ以上の間投与することを含みうる。幾つかの実施態様において、該組成物は、約7~約14日間、1日1回、2回又は3回投与される。該方法は、任意的に1日1回、2回又は3回、一定期間(例えば、1~14日間又はそれ以上の間)、対象の片方又は両方の鼻孔に該組成物を投与することを含みうる。
【0067】
幾つかの実施態様において、本発明の組成物及び/又は方法は、感染した対象の鼻及び/又は口腔上皮及び/又は1以上の肺における病原体の負荷(例えば、ウイルスの負荷)を減少させることができ、及び/又は別の対象(例えば、感染していない対象)への病原体の排出(例えば、ウイルスの排出)及び/又は伝染(Transmission)を減少させることができるところの局在的な局所処置(localized,topical treatment)を提供する。本発明の組成物及び/又は方法は、感染症の1以上の症状を処置及び/又は減少させ、及び/又は疾病(例えば、感染症)が対象の下気道に広がる前に、疾病(例えば、感染症)の進行を阻害しうる。
【0068】
本発明の組成物及び/又は方法は、ACE2及び/又はSタンパク質の相互作用及び/又は活性を破壊することによって、対象における感染症(例えば、SARS-CoV-2感染症)を処置及び/又は予防しうる。幾つかの実施態様において、本発明の組成物及び/又は方法は、ブルトンチロシンキナーゼ(BTK:bruton tyrosine kinase)及び/又はNF-κBを阻害し得、及び/又はNLRP3インフラマソームの形成を阻害しうる。幾つかの実施態様において、本発明の組成物及び/又は方法は、病原体の複製(例えば、ウイルス複製)の為に必要なプロテアーゼ機能(例えば、ウイルスプロテアーゼ機能)を破壊しうる。
【0069】
本明細書において使用される場合に、「処置する」、「処置している」又は「の処置」(及びそれらの文法的変形)は、対象に利益を付与する任意のタイプの処置を云い、該対象の状態の重篤度が軽減され、少なくとも部分的に向上され若しくは改善され、及び/又は状態(例えば、ウイルス感染症)に関連付けられた少なくとも1つの臨床症状における何らかの緩和、軽減若しくは低減が達成され、及び/又は状態の進行における遅延があることを意味しうる。幾つかの実施態様において、例えば、状態、例えばウイルス感染症(例えば、SARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染)、の重篤度は、本発明の方法の非存在下における状態の重症度と比較して、対象において低減されうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、所定の期間(例えば、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間若しくは6日間、又は1週間、2週間、3週間、4週間、若しくはそれ以上など)、ウイルス感染に関連付けられた少なくとも1つの臨床症状を排除することによって、ウイルス感染症を処置しうる。
【0070】
幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、処置有効量で投与される。「処置有効量」及び「治療的に有効な量」は、本明細書において互換的に使用され、対象を(本明細書において定義されるように)処置する為に十分な量を云う。当業者は、対象に何らかの利益が提供される限り、治療液効果が完全又は治癒的である必要がないことを理解するであろう。幾つかの実施態様において、本発明の組成物の処置有効量が投与され得、及び処置有効量の一酸化窒素放出活性医薬成分を投与することを含みうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法において、処置有効量の一酸化窒素が投与及び/又は適用されうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、一酸化窒素(NO)放出活性医薬成分(API)を含む組成物の投与が、例えば、該組成物、NO放出性API及び/又はNOが処置有効量で投与されるときに、一酸化窒素の投与による全身的効果(例えば、有害な全身的効果)を生じないような様式で実施される。
【0071】
語「予防する」、「予防している」及び「予防」(及びそれらの文法的変形)は、対象における状態(例えば、ウイルス感染)及び/又はそれに関連付けられた臨床症状の発症の回避、軽減及び/又は遅延、及び/又は本発明の方法の非存在下で生じるであろうものに対する状態及び/又は臨床症状の発症の重篤度における軽減を云う。該予防は完全であることができ、例えば、状態及び/又は臨床症状の完全な不存在であることができる。該予防はまた、対象における状態及び/又は臨床症状の発生及び/又は発症の重篤度が、本発明の方法の非存在下で生じるであろうものよりも小さくなるような、部分的なものであることができる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、対象におけるウイルス感染、例えばSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染、を予防する。
【0072】
幾つかの実施態様において、本発明の組成物は、予防有効量で投与される。本明細書において使用される場合に、「予防有効」量は、対象における状態(例えば、ウイルス感染)及び/又は臨床症状を予防する(本明細書において定義されている)為に十分な量である。当業者は、該対象に何らかの利益が提供される限り、予防のレベルは完全である必要がないことを理解するであろう。幾つかの実施態様において、本発明の組成物の予防有効量が投与され得、及び一酸化窒素放出性活性医薬成分の予防有効量を投与することを含みうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法において、一酸化窒素の予防有効量が投与及び/又は適用されてもよい。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、NO放出性APIを含む組成物の投与が一酸化窒素の投与による全身的効果(例えば、有害な全身的効果)を生じないような様式で、例えば、組成物、NO放出性API及び/又はNOが予防有効量で投与されるときに、実施される。
【0073】
本発明は、獣医学的用途及び医学的用途の両方における使用を見出す。本発明の好適な対象は、鳥類及び哺乳類を包含するが、これらに限定されない。本明細書において使用される場合に、語「鳥類」は、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、七面鳥、キジ、オウム、インコ、コンゴウインコ、オカメインコ、カナリア及びフィンチを包含するが、これらに限定されない。本明細書において使用される場合に、語「哺乳動物」は、霊長類(例えば、類人猿及びヒト)、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、チンパンジー、ゴリラ)、ウシ類、ヒツジ類、ヤギ類、有蹄類、ブタ類、ウマ類、ネコ類、イヌ類、ウサギ類、鰭脚類、げっ歯類(例えば、ラット、ハムスター及びマウス)等を包含するが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、該対象は哺乳動物であり、或る実施態様において、該対象はヒトである。ヒト対象は、男性及び女性の両方、並びにあらゆる年齢の対象、例えば、胎児、新生児、乳児、幼年、青年、成人及び老年対象を包含する上記のあらゆる年齢の対象、を包含する。
【0074】
本発明の方法はまた、動物対象、特には哺乳動物対象、例えば、獣医学的目的の為の及び/又は薬剤スクリーニング及び薬剤開発目的の為の、マウス、ラット、イヌ、ネコ、家畜及びウマ、で実施されうる。
【0075】
幾つかの実施態様において、前記対象は、本発明の方法を「を必要としている」又は「それらを必要としている」、例えば、該対象は、リスクのある集団に含まれ(例えば、該対象は、ウイルス感染のリスクがある場合があり、又はウイルス感染に対して感受性が高い場合がある)、該対象は、ウイルス感染に典型的に関連付けられている所見を有し、及び/又は該対象は、ウイルスに曝露されていることが疑われるか、又は既に曝露されている。幾つかの実施態様において、それを必要とする対象は、本発明の方法で処置されうるウイルス感染及び/又はそれに関連付けられた臨床的徴候若しくは症状を有する。本発明は、小児、青年、成人及び/又は老年者の対象者の為に特に好適でありうる。
【0076】
幾つかの実施態様において、本発明の方法は、対象の上皮の基底層に一酸化窒素を投与してもよい。本発明の方法は、一酸化窒素の処置有効量及び/又は予防有効量を対象の上皮の基底層に投与してもよい。幾つかの実施態様において、一酸化窒素は、対象の上皮の基底膜に投与されてもよい。
【0077】
幾つかの実施態様において、本発明の方法は、ウイルスに感染した細胞においてアポトーシス又は他の細胞損傷を誘発する為に十分な量の一酸化窒素を投与しうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、ウイルスに感染した細胞におけるウイルス複製を阻害及び/又は予防する為に十分な量で一酸化窒素を投与しうる。本発明の方法は、本発明の方法を行う前の複製率と比較して、ウイルスの複製を少なくとも、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%、又は約100%減少させうる。
【0078】
幾つかの実施態様において、本発明の方法は、宿主細胞に対する細胞毒性を伴わずに、又は宿主細胞に対する細胞毒性を低減させた状態で、対象におけるウイルス感染を処置及び/又は予防しうる。前記方法は、ウイルス感染を処置する為の異なる方法と比較して、例えば、対象の皮膚及び/又は組織に一酸化窒素を投与しない方法又は酸性化亜硝酸塩を使用する方法と比較して、宿主細胞の細胞毒性を低減した状態で、対象におけるウイルス感染を処置及び/又は予防しうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、ウイルス感染を処置する為の異なる方法と比較して、宿主細胞の細胞毒性を少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%、又は約100%低減しうる。本発明の方法は、宿主細胞の細胞毒性を全く又は最小限に抑えながら、ウイルスの複製を減少及び/又は排除しうる。例えば、該方法は、約50%以下(例えば、約40%以下、約30%以下、約20%以下、約10%以下、約5%以下)の宿主細胞細胞毒性を提供しうる。細胞毒性は、当業者に既知の方法、例えば、ヘマトキシリン&エオシン(hematoxylin & eosin)(H&E)スライドの定性的読み取り、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH:lactate dehydrogenase)アッセイ及び/又は3-(4, 5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラテトラゾリウムブロマイド(MTT)アッセイ、を使用して決定されうる。幾つかの実施態様において、本発明の方法はアポトーシスを引き起こさない場合がある。例えば、該方法は、皮膚及び/又は組織のケラチノサイト層においてアポトーシスを引き起こさない場合がある。
【0079】
幾つかの実施態様において、本発明の方法は、対象のウイルス感染細胞における及び/又は対象の鼻腔内におけるウイルスDNAの量を減少させうる。例えば、本発明の方法は、本発明の方法を行う前に存在するウイルスDNAの量と比較して、(例えば、ウイルス感染細胞における)ウイルスDNAの量を少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%又は約100%減少させうる。
【0080】
本発明は、以下の非限定的な実施例においてより詳細に説明される。
【0081】
実施例
【0082】
実施例1
【0083】
ベルダジマーナトリウム(ポリシロキサン;テトラエトキシシラン(TEOS)、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン(MAP3)及びN,N-メチルアミノプロピルジアゼニウムジオレートトリメトキシシラン(MAP3-NONOate))を包含するポリマー足場(polymeric scaffold);並びにMAP3-NONOateの抗ウイルス活性が、正常なヒト由来の気管/気管支上皮(TBE:tracheal/bronchial epithelia)細胞の高度に分化した3次元(3-D)イン・ビトロ(in vitro)モデルにおいて、SARS-CoV-2(USA-WA1/2020株)に対して評価された。表1において示されているように、ヒト気道の3D組織モデル(MatTek Life Sciences)の一重挿入又は二重挿入で、化合物が4倍濃度で試験された。抗ウイルス活性は、感染5日後のウイルス収量減少アッセイ(virus yield reduction assay)によって測定された。
【0084】
材料及び方法
【0085】
化合物:試験化合物は固体として提供され、そして、到着後-20℃で保存された。化合物ベルダジマーナトリウムの1アリコートが、実験開始直前に200、160、80及び20mg/mLの濃度で100%DMSO中に溶解され、次に、更にMatTek培地(AIR-100-MM)で試験希釈率に希釈された。化合物MAP3-NONOateの1アリコートが、実験当日の朝、200、160、80及び20mg/mLの濃度で100%メタノール中に溶解され、次に、MatTek培地中で試験希釈率まで更に希釈された。レムデシビル(Remdesivir)(MedChemExpress,cat# HY-104077)が陽性対照として、1、0.1、0.01及び0.001μg/mLで、一重ウェル(singlet wells)において試験された。
【0086】
細胞培養:EpiAirway商標モデルは、正常なヒト由来の気管/気管支上皮(TBE:tracheal/bronchial epithelial)細胞で構成されており、それは、呼吸器の上皮組織に酷似した多層で高度に分化したモデルを形成するように培養されている。該細胞培養物は、MatTek Life Sciences(https://www.mattek.com)(Ashland,MA)による注文に応じて行われ、そして、12ウェル又は24ウェルのいずれかのインサートのキットで届けられた。TBE細胞はトランスウェルインサートにおける6mmのメッシュディスク上で培養された。輸送中、該組織はアガロースシート上で安定化され、それは、受け取り時に取り除かれた。インサート1個は、およそ1.2×106個の細胞で構成されていると推定された。細胞インサートのキット(EpiAirway商標 AIR-100,AIR-112)は、23歳の健康な非喫煙の白人男性である一人のドナー#9831に由来する。該細胞は層を形成するユニークな特性を有し、その先端側は空気だけに曝露され、そしてそれはムチン層を形成する。到着後、該細胞トランスウェルインサートは、メーカーの指示書に従って6ウェルプレートの個々のウェルに直ちに移され、そして、MatTek独自の培地(AIR-100-MM)1mLが基底細胞側に加えられ、一方、該先端側は加湿された5%CO2環境に曝露された。TBE細胞は実験開始前1日間、37℃で培養された。24時間の平衡化期間の後、該細胞の該先端側から分泌されたムチン層が、400μLの予め温められた30mMのHEPES緩衝生理食塩水で3回洗浄されることによって除去された。培地が洗浄工程の後に補充された。
【0087】
ウイルス:SARS-CoV-2株USA-WA1/2020がVero76細胞で3回継代培養されて、ウイルスストックを作成した。ウイルスが、感染前に、AIR-100-MM培地で希釈され、1細胞当たり、およそ0.01 CCID50の感染多重度(MOI:multiplicity of infection)を与えた。
【0088】
実験設計:各2X化合物処理(120μL)とウイルス(120μL)が先端側に、及び1X化合物処理のみが基底側(1mL)に施与され、2時間インキュベーションされた。ウイルス対照として、細胞ウェルのうち3ウェルがベルダジマーナトリウム培地(0.5%DMSO含有細胞培地)で処理され、3ウェルがMAP3-NONOate培地(0.3%メタノール含有細胞培地)で処理され、及び3ウェルがレムデシビルウイルス対照として細胞培養液のみを用いて処理された。2時間の感染後、アピカル培地(apical medium)が除去され、そして、基底側が新しく調製された化合物又は培地で置換された。該細胞は気液界面で維持された。感染後1日目、2日目、3日目及び4日目に、試験化合物が新たに調製され、薬剤が複製ウェルから除去され、そして、新鮮な薬剤で処理された。一重ウェルの基底側が、試験化合物を含まないDMSO又はメタノールのみを含有する新鮮な増殖培地で置換された。5日目に該培地が除去され、そして、基底側から廃棄された。組織の先端コンパートメント内に放出されたウイルスは、37℃で予め温められた培地400μLを加えることによって採取された。内容物が30分間インキュベーションされ、十分に混合され、回収され、十分にボルテックスされ、そして、VYR滴定の為にVero 76細胞上に播種された。三重ウェル(Triplicate wells)及び一重ウェルが夫々、ウイルス対照及び細胞対照の為に使用された。
【0089】
処理された各細胞培養物からのウイルス力価の測定:Vero76細胞が96ウェルプレート内に播種され、そして、一晩(37℃)、90%コンフルエンスまで増殖された。ウイルスを含有するサンプルが感染培地で10倍ずつ希釈され、そして、各希釈液200μLが96ウェルマイクロタイタープレートの夫々のウェルに移された。50%のウイルス終点(viral endpoint)を決定する為に、各希釈について、4つのマイクロウェルが使用された。7日間のインキュベーション後、未感染対照と比較して細胞変性効果(CPE:cytopathic effect)が観察された場合に、各ウェルはウイルス陽性と判定され、そして、10日目に終点のカウントが確認された。細胞培養物の50%に感染することができるウイルス量(0.1mL当たりのCCID50)は、リード・ミュンヒ法(Reed-Muench method)(Reed,L.J.,Muench,H.,1938. A simple method of estimating fifty percent endpoints.The American Journal of Hygiene 27,493~497)によって計算された。7日目の値が報告されている。未処理の未感染細胞(uninfected cell)が細胞対照として用いられた。
【0090】
結果
【0091】
ウイルス収量の結果及びEC90値が下記の表1にまとめられている。各化合物(ベルダジマーナトリウム及びMAP3-NONOate)の1日1回反復処置は抗ウイルス反応を実証したが、いずれかの単回処置レジメンは試験条件下で抗ウイルス反応を示さなかった。いずれの試験化合物濃度においても毒性は観察されなかった。
【0092】
【0093】
未感染対照と比較して何らかのCPEが観察された場合に、各ウェルはウイルス陽性と判定された。Vero76細胞は7日目に判定され、そして、10日目に確認された。
【0094】
aウイルス収量減少アッセイからの力価結果。
【0095】
bEC90=回帰分析によって決定された場合の90%有効濃度(ウイルス収量を1 log10減少させる為の濃度)。
【0096】
実施例2
【0097】
この試験の目的は、野生型ゴールデンシリアンハムスターにおけるSARS-CoV-2感染の処置におけるベルダジマーナトリウムの効果を評価することであった。加えて、感染動物からナイーブな同腹子へのSARS-CoV-2の直接伝染(Transmission)を減少させるベルダジマーナトリウムの有効性がまた評価された。
【0098】
SARS-CoV-2に曝露されたハムスターにおける、体重減少、肺のウイルス力価、鼻腔組織力価、肺重量及び口腔咽頭スワップ力価に対するベルダジマーナトリウム処置の効果が主要エンドポイント(primary endpoint)とされた。
【0099】
材料及び方法
【0100】
動物:この実験の為に、5週齢の雌のゴールデンシリアハムスターがCharles River Laboratories(Wilmington,MA)から得られた。該ハムスターは使用前に3日間隔離され、そして、ユタ州立大学のLaboratory Animal Research CenterでTeklad Rodent Diet(Harlan Teklad)及び水道水で飼育された。
【0101】
ウイルス:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus-2)(SARS-CoV-2)USA_WA1/2020株が、World Reference Center for Emerging Viruses and Arboviruses(WRCEVA)から得られた。該ウイルスは、Vero76細胞で2回継代培養されて、ハムスターに感染させる為のワーキングストック(working stock)が作製された。
【0102】
化合物:ベルダジマーナトリウムが、動物に経鼻投与することができる形態で提供された。EIDD-2801はUSUによってMedChem Expressから購入された。EIDD-2801(モルヌプラビル(Molnupravir))はリボヌクレオシド類似体であり、コロナウイルスを包含する広範なRNAウイルスに渡って活性を示している(2)。
【0103】
実験設計:有効性試験(PHA-254):合計55匹のハムスターが、各処置当たり10匹の動物の5つのグループに分けられ、5匹の動物が体重増加の為の正常な対照として用いられた(下記の表2)。ウイルスチャレンジの為に、ハムスターがケタミン/キシラジン(50mg/kg/5mg/kg)のIP(腹腔内)注射によって麻酔され、その後、100μLの接種量で、1x104.3の50%細胞培養感染用量(cell culture infectious doses)(CCID50)の用量で経鼻投与によってチャレンジされた。この100μLの総量が両方の鼻孔に同時に送られる。ベルダジマーナトリウムでの処置は、0.1mL容量の鼻腔内投与により、感染24時間前から開始して7日間、1日1回与えられた。全ての経鼻処置は、感染症の場合と同様に動物に麻酔をかけた後に、100μLの容量で投与された。ベルダジマーナトリウムは、100%のジメチルスルホキシド(DMSO)において、400、200及び100mg/mLのストックを調製し、次に、それらが、USUからのHyclone MEMと50mM及び4.5のクエン酸の塩形態の1:1の比からなる緩衝剤に200倍に希釈することによって投与用に調製された。投与の20~30分前に調製されたベルダジマーナトリウムのDMSOストックが、動物に投与する5分前にMEM/クエン酸の塩形態の緩衝剤に添加された。EIDD-2801は感染後4時間から開始して1日2回経口(PO)投与された。EIDD-2801は10%のDMSO及び90%のコーン油中で可溶化された。肺のウイルス力価、鼻腔のウイルス力価及び肺重量を評価する為に、試験3日目及び6日目に各グループ当たり5匹が安楽死された。試験1~6日目に1グループ当たり5匹の動物から口腔咽頭スワッブが採取された。
【0104】
実験設計-伝染(Transmission)試験(PHA-254B):5週齢の雌のゴールデンシリアハムスターの合計20匹が2匹ずつの動物の2つのグループと4匹ずつの4つのグループに無作為に割り付けられた(下記の表3)。グループ1及びグループ4における動物が感染したドナー動物として供された。グループ2、グループ3、グループ5及びグループ6の動物は未感染(ナイーブ)動物であり、試験日1、2及び3日目に毎日4時間、グループ1又はグループ4からの動物と同居された。グループ1、グループ2及びグループ5における動物は、プラセボとしてMEM/クエン酸の塩形態の緩衝剤中のDMSOで処理された。グループ3、グループ4及びグループ6における動物は、感染動物と同居する2時間前に2mg/mL(2mg/kg/日)のベルダジマーナトリウムを1日1回処理された。ベルダジマーナトリウムでの処置は、最初の同居セッションの24時間前である感染日に開始された。感染に関連付けられた体重減少を評価する為に、感染前にハムスターが体重測定され、そしてその後は、毎日測定された。全ての動物が試験4日目に安楽死されて、肺のウイルス力価、鼻腔組織のウイルス力価、肺重量及び感染動物からナイーブ動物へのウイルスの伝染(Transmission)が評価された。口腔咽頭スワッブが全ての動物で毎日採取された。
【0105】
組織及び口腔咽頭スワッブサンプルの滴定:組織ホモジネート及び口腔咽頭スワッブサンプルがエンドポイント希釈(endpoint dilution)によって滴定された。組織ホモジネート又は口腔咽頭スワッブサンプルの連続対数希釈物(Serial log10 dilutions)が、Vero76細胞のコンフルエントな単層を含む96ウェルマイクロプレートの四重ウェル(quadruplicate wells)にプレーティングされた。該プレートが5%のCO2、37℃のインキュベーターで6日間培養された。次に、該プレートは光学顕微鏡下での目視観察により、細胞変性効果(CPE:cytopathic effect)の有無について判定された。各サンプルのウイルス力価は、Reed-Muench法を用いた線形回帰により算出した。各サンプルのウイルス力価が、リード・ミュンヒ法(Reed-Muench method)を用いた線形回帰によって計算された。
【0106】
統計及び図面:個々のハムスターの体重が、感染当日の初期体重のパーセントに換算された。初期体重のパーセンテージ曲線は、各処置グループとプラセボ処置されたグループとを比較する一元配置分散分析(one-way analysis of variance)(ANOVA)を用いて比較された。組織ウイルス力価及び口腔咽頭スワッブサンプルが、処置された動物とプラセボ処置された動物とを比較する二元ANOVAを用いて比較された。肺重量は、評価時点が1回のみであった故に、一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて比較された。
【0107】
実験動物の倫理規定:この試験は、2020年3月31日付(有効期限2023年3月30日)のユタ州立大学Institutional Animal Care and Use Committeeの承認に従って実行された。ユタ州立大学のAAALAC認定実験動物研究センターで実施された。米国政府(National Institutes of Health)の承認は、National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animals (Revision;2011)に従って、2018年3月9日に更新された(PHS Assurance No.D16-00468[A3801-01])。
【0108】
【0109】
【0110】
結果及び考察
【0111】
この研究により、SARS-CoV-2に感染したハムスターにおける、肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価、口腔咽頭スワッブの力価及び肺重量の減少に対するベルダジマーナトリウムでの処置が評価された。加えて、ゴールデンシリアハムスターにおけるSARS-CoV-2の伝染(transmission)に対するベルダジマーナトリウムの鼻腔内処置の有効性が評価された。
【0112】
有効性試験において、肺組織、鼻腔組織及び口腔咽頭スワッブの力価における高いウイルス力価から明らかなように、有意な呼吸器感染が観察された。感染後3日目の肺のウイルス力価は接種量よりも約3ログ(log)高く、ハムスターの呼吸器組織における強固な感染を示した。加えて、プラセボ処置された動物において体重減少が観察された。
【0113】
SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの初期体重のパーセントが
図1において示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置により、感染後の体重減少が防止されなかった。200mg/kg/日の用量でのEIDD-2801での処置により、SARS-CoV-2に感染したハムスターにおける体重減少が防止された。体重減少のパーセントは、各処置グループについて実験全体の平均体重減少を比較する一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて評価された。
【0114】
図2は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの肺のウイルス力価を示す。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2で感染された動物における肺のウイルス力価が有意に低下しなかった。EIDD-2801での処置により、感染後6日目におけるSARS-CoV-2感染動物の肺のウイルス力価が低下されなかった。ベルダジマーナトリウムの2mg/kg/日で処置したグループにおける1匹の動物は、感染後の麻酔から回復せず、従って、データセットに含まれなかった。下記の表4は、試験3日目及び6日目の肺及び鼻のウイルス力価を示す。
【0115】
【0116】
図3は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアンハムスターの鼻腔組織のウイルス力価を示す。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2で感染された動物における鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下しなかった。EIDD-2801での処置により、感染後の鼻腔のウイルス力価が有意に低下しなかった。
【0117】
SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの口腔咽頭スワッブのウイルス力価が
図4において示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2感染動物における口腔咽頭スワッブのウイルス力価が低下しなかった。EIDD-2801は、感染後のいずれの日においても口腔咽頭スワッブのウイルス力価を低下させなかった。下記の表5は試験1~6日目の口腔咽頭スワッブのウイルス力価を示す。
【0118】
【0119】
図5は、SARS-CoV-2でチャレンジされた及びベルダジマーナトリウムで処置された後の5週齢のゴールデンシリアンハムスターの肺重量を示す。肺重量は、ベルダジマーナトリウム又はEIDD-2801による処理によって有意な影響を受けなかった。
【0120】
伝染(transmission)試験の場合に、ドナー動物のナイーブ動物との同居は、同居後の肺のウイルス力価によって示されているように、プラセボ処置されたナイーブ動物の全てにおいて強固な感染をもたらした。
【0121】
図6は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの初期体重のパーセントを示す。同じ色の記号を有する動物が、試験1~3日目に同居された。プラセボ処置された動物は、ドナー動物がベルダジマーナトリウムで処置された場合に、体重減少から保護された。SARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露後、ドナー動物がまたベルダジマーナトリウムで処置された場合に、ベルダジマーナトリウムでの処置により体重減少が防止された。体重減少のパーセントは一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて評価され、各処置グループについての体重減少が試験全体で比較された。
【0122】
ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の肺のウイルス力価が
図7において示されている。試験1~3日目に同居された動物が括弧を用いて示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置により、同じくベルダジマーナトリウムで処置された感染動物と同居された処置されたナイーブ動物における肺のウイルス力価が有意に低下した。ウイルスは、ベルダジマーナトリウムで処置され、そして同じくベルダジマーナトリウムで処置されたドナー動物と同居された4匹の動物のうち1匹でのみ検出された。該1匹の動物において検出されたウイルス力価は、プラセボ処置されたナイーブな動物と比較して2ログ(log)以上減少した。
【0123】
図8は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の鼻腔組織のウイルス力価を示す。試験1~3日目に同居された動物が括弧を用いて示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された動物の鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下しなかった。下記の表6は、SARS-CoV-2感染動物と同居される前にベルダジマーナトリウムで処置された後のゴールデンシリアンハムスターの肺及び鼻腔組織のウイルス力価を示す。
【0124】
【0125】
図9は、ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの口腔咽頭スワッブのウイルス力価を示す。2mg/kg/日の用量でのベルダジマーナトリウムでの処置により、口腔咽頭スワッブの力価は有意に低下されなかった。下記の表7は、SARS-CoV-2感染動物と同居される前にベルダジマーナトリウムで処置された後のゴールデンシリアハムスターの試験1日目から4日目の口腔咽頭スワッブのウイルス力価を示す。
【0126】
【0127】
ベルダジマーナトリウムで処置され、そしてSARS-CoV-2感染動物と同居された後の5週齢のゴールデンシリアハムスターの肺重量が
図10において示されている。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較された場合に、グループ間で統計学的に差はなかった。
【0128】
結論
【0129】
この試験により、体重減少、肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価、口腔咽頭スワッブの力価及び肺重量に対するベルダジマーナトリウムでの処置の効果が評価された。ナイーブ動物に対するSARS-CoV-2の伝染(transmission)を予防する為の、ベルダジマーナトリウム処置の能力がまた評価された。
【0130】
有効性試験において、ベルダジマーナトリウムでの処置により、いずれの用量でも体重減少が防止されず、又は肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価、口腔咽頭スワッブの力価が低下しなかった。
【0131】
しかしながら、ドナー動物がまた2mg/mLの用量でベルダジマーナトリウムで処置された場合に、2mg/kg/日のベルダジマーナトリウムでの処置により、ナイーブ動物におけるSARS-CoV-2の肺ウイルス負荷が有意に減少した。感染動物に暴露された4匹のナイーブ動物のうち3匹の肺においてウイルスが検出されず、残りの1匹の動物においてで2ログ(log)減少した。4匹全ての鼻腔組織サンプルにおいてウイルスが検出され、このことは該動物が感染していたが、ベルダジマーナトリウムでの処置によりウイルスが肺に感染することが阻止されたことを示す。このことはまた、同じ動物がSARS-CoV-2感染動物に暴露された後、体重減少から保護されたことを示す初期体重パーセントのデータからも支持される。口腔咽頭スワブの力価及び肺重量が、伝染(transmission)試験においてベルダジマーナトリウム処理による影響を受けなかった。
【0132】
ベルダジマーナトリウム処置は、有効性試験においては効果が認められなかったにもかかわらず、感染動物からのSARS-CoV-2の伝染(transmission)を減少させることができたことは興味深い。2mg/kg/日のベルダジマーナトリウムで処置されたハムスターにおいて、有害事象が観察されなかった。
【0133】
実施例3
【0134】
この試験の目的は、感染した野生型ゴールデンシリアハムスターからナイーブな同腹子へのSARS-CoV-2の直接伝染(transmission)を減少させるベルダジマーナトリウムの有効性を確認することであった。
【0135】
SARS-CoV-2に曝露されたハムスターにおける、体重減少、肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価及び肺重量に対するベルダジマーナトリウム処置の効果が主要エンドポイント(primary endpoint)とされた。
【0136】
材料及び方法
【0137】
動物:この実験の為に、16週齢の雌のゴールデンシリアンハムスターが州立大学のコロニーから得られた。該ハムスターは使用前に3日間隔離され、そして、ユタ州立大学のLaboratory Animal Research CenterでTeklad Rodent Diet(Harlan Teklad)及び水道水で飼育された。
【0138】
ウイルス:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus-2)(SARS-CoV-2)USA_WA1/2020株が、World Reference Center for Emerging Viruses and Arboviruses(WRCEVA)から得られた。該ウイルスは、Vero76細胞で2回継代培養されて、ハムスターに感染させる為のワーキングストック(working stock)が作製された。
【0139】
化合物:ベルダジマーナトリウムは固体として提供され、そして、処置前にDMSO中に溶解された。DMSOストックが、最小必須培地(MEM:minimum essential media)とpH4.5の50mMのクエン酸の塩形態の緩衝剤の1:1混合液に加えられた。
【0140】
実験設計-伝染(transmission)試験:16週齢の雌のゴールデンシリアハムスターの合計43匹が、2匹ずつの動物の4つのグループと4匹ずつの8つのグループに無作為に割り付けられ、3匹の動物が正常対照として保持された(下記の表8)。グループ1、グループ4、グループ7及びグループ10の動物が感染ドナー動物として供された。グループ2、グループ3、グループ5、グループ6、グループ8、グループ9、グループ11及びグループ12の動物は未感染(ナイーブ)動物であり、試験1、2及び3日目に毎日4時間、グループ1、グループ4、グループ7又はグループ10群からの動物と同居された。グループ1、グループ2、グループ5、グループ8及びグループ11における動物には、プラセボとしてMEM/クエン酸の塩形態の緩衝剤中のDMSOで処理された。グループ3、グループ4、グループ6、グループ7、グループ9、グループ10及びグループ12における動物は、感染動物と同居する2時間前に1、2又は8mg/mL(1、2又は8mg/kg/日)のベルダジマーナトリウムを1日1回処理された。感染したドナー動物に対しては、ベルダジマーナトリウムでの処置は、最初の同居セッションの24時間前である感染日に開始された。感染に関連付けられた体重減少を評価する為に、感染前にハムスターが体重測定され、そしてその後は、毎日測定された。全ての動物が試験4日目に安楽死されて、肺のウイルス力価、鼻腔組織のウイルス力価、肺重量及び感染動物からナイーブ動物へのウイルスの伝染(Transmission)が評価された。
【0141】
【0142】
組織サンプルの滴定:組織ホモジネートがエンドポイント希釈(endpoint dilution)によって滴定された。組織ホモジネートの連続対数希釈物(Serial log10 dilutions)が、Vero76細胞のコンフルエントな単層を含む96ウェルマイクロプレートの四重ウェル(quadruplicate wells)にプレーティングされた。該プレートが5%CO2、37℃のインキュベーターで6日間培養された。次に、該プレートは光学顕微鏡下の目視観察により、細胞変性効果(CPE:cytopathic effect)の有無について判定された。各サンプルのウイルス力価が、リード・ミュンヒ法(Reed-Muench method)を用いた線形回帰によって計算された。
【0143】
統計及び図面:個々のハムスターの体重が、感染当日の初期体重のパーセントに換算された。初期体重のパーセンテージ曲線は、各処置グループとプラセボ処置されたハムスターとを比較する一元配置分散分析(ANOVA)を用いて比較された。組織ウイルス力価及び肺重量は、処置された動物とプラセボ処置された動物とを比較する一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて比較された。
【0144】
実験動物の倫理規定:この研究は、2020年3月31日付(有効期限2023年3月30日)のユタ州立大学Institutional Animal Care and Use Committeeの承認に従って実行された。ユタ州立大学のAAALAC認定実験動物研究センターで実施された。米国政府(National Institutes of Health)の承認は、National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animals (Revision;2011)に従って、2018年3月9日に更新された(PHS Assurance No.D16-00468[A3801-01])。
【0145】
結果及び考察
【0146】
この研究により、ゴールデンシリアハムスターにおけるSARS-CoV-2の伝染(transmission)に対するベルダジマーナトリウムの経鼻処置の有効性が評価された。
【0147】
伝染(transmission)試験の場合に、ドナー動物のナイーブ動物との同居は、同居後の肺のウイルス力価によって示されているように、プラセボ処置されたナイーブ動物の全てにおいて強固な感染をもたらした。
【0148】
図11は、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された後の16週齢のゴールデンシリアハムスターの初期体重のパーセントを示す。同じ色の記号を有する動物が、試験1~3日目に同居された。ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置されたハムスターとSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居されたハムスターでは、体重において有意差が認められなかった。
【0149】
図12は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された後の16週齢のゴールデンシリアハムスターの初期体重のパーセントを示す。同じ色の記号を有する動物が、試験1~3日目に同居させた。ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターと同居されたハムスターにおいて、体重における有意差は観察されなかった。
【0150】
ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の肺のウイルス力価が
図13において示されている。試験1~3日目に同居された動物が括弧を用いて示されている。ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)での処置により、同じくベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置された感染動物と同居された処置されたナイーブ動物の肺のウイルス力価が有意に低下した。ウイルスは、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そして同じくベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置されたドナー動物と同居された4匹の動物のうち2匹でのみ検出された。該2匹の動物において検出されたウイルス力価は、プラセボ処置されたナイーブな動物と比較して5ログ(log)以上減少した。
【0151】
ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の肺のウイルス力価が
図14において示されている。試験1~3日目に同居された動物が括弧を用いて示されている。ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)での処置により、同じくベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で処置された感染動物と同居された処置されたナイーブ動物の肺のウイルス力価が有意に低下した。ウイルスは、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で処置され、そして同じくベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で処置されたドナー動物と同居された4匹の動物のうち2匹でのみ検出された。該2匹の動物において検出されたウイルス力価は、プラセボ処置されたナイーブな動物と比較して5(log)以上減少した。ベルダジマーナトリウム(1mg/mL)での処置により、同じくベルダジマーナトリウム(1mg/mL)で処置された感染動物と同居された処置されたナイーブ動物において、肺のウイルス力価が有意に低下しなかった。下記の表9は、SARS-CoV-2感染動物と同居される前にベルダジマーナトリウムで処置された後のゴールデンシリアンハムスターの肺のウイルス力価を示す。
【0152】
【0153】
図15は、ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の鼻腔組織のウイルス力価を示す。試験1~3日目に同居された動物が括弧を用いて示されている。ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)での処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された動物の鼻腔組織のウイルス力価は有意に低下しなかった。
【0154】
図16は、ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターに曝露されたハムスターの4日目の鼻腔組織のウイルス力価を示す。試験1~3日目に同居された動物が括弧を用いて示されている。ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)での処置により、SARS-CoV-2感染させたハムスターと同居された動物において、鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下しなかった。下記の表10は、SARS-CoV-2感染動物と同居される前にベルダジマーナトリウムで処置された後のゴールデンシリアンハムスターの鼻腔組織のウイルス力価を示す。
【0155】
【0156】
ベルダジマーナトリウム(8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させた動物と同居された後の16週齢のゴールデンシリアハムスターの肺重量が
図17において示されている。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較された場合に、グループ間で統計学的に差はなかった。
【0157】
ベルダジマーナトリウム(2mg/mL又は1mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させた動物と同居された後の16週齢のゴールデンシリアハムスターの肺重量が
図18において示されている。肺重量は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)よって比較された場合に、グループ間で統計学的に差はなかった。
【0158】
結論
【0159】
この試験により、ナイーブ動物に対するSARS-CoV-2の伝染(transmission)を予防する為の、ベルダジマーナトリウム処置の能力が評価された。
【0160】
ドナー動物がまた8mg/mL又は2mg/mLの用量でベルダジマーナトリウムで処置された場合に、8mg/mL又は2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの処置により、ナイーブ動物におけるSARS-CoV-2の肺ウイルス負荷が有意に減少した。各用量グループにおいて、感染動物に暴露された4匹のナイーブ動物のうち2匹の肺においてウイルスが検出されず、残りの動物において5ログ(log)減少した。1投与グループ当たり4匹全ての鼻腔組織サンプルにおいてウイルスが検出され、このことは該動物が感染していたが、ベルダジマーナトリウムでの処置によりウイルスが肺に感染することが阻止されたことを示す。1mg/mLの処置による肯定的な効果が見られなかったことは、この試験におけるベルダジマーナトリウムの用量反応を示す。
【0161】
これらの肺のウイルス力価の所見は、実施例2における2mg/mLについて観察された結果を確認するものである。しかしながら、体重減少における向上は、実施例2においては観察されたのに対して、本試験において観察されなかった。このことは、今回の試験において用いられたハムスターの年齢が高かった為であると考えられる。
【0162】
実施例4
【0163】
この試験の目的は、野生型ゴールデンシリアハムスターにおけるSARS-CoV-2感染の処置に対するベルダジマーナトリウムの有効性を評価することであった。ベルダジマーナトリウムの2mg/mL処置用量での1日1回又は1日2回投与レジメンと4mg/mL及び8mg/mLの処置用量での1日1回投与レジメンとが評価された。
【0164】
SARS-CoV-2に曝露されたハムスターにおける、体重減少、肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価及び肺重量に対するベルダジマーナトリウム処置の効果が主要エンドポイント(primary endpoint)とされた。
【0165】
材料及び方法
【0166】
動物:この実験の為に、5週齢の雌のゴールデンシリアンハムスターがCharles River Laboratories(Wilmington,MA)から得られた。該ハムスターは使用前に3日間隔離され、そして、ユタ州立大学のLaboratory Animal Research CenterでTeklad Rodent Diet(Harlan Teklad)及び水道水で飼育された。
【0167】
ウイルス:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus-2)(SARS-CoV-2)USA_WA1/2020株が、World Reference Center for Emerging Viruses and Arboviruses(WRCEVA)から得られた。該ウイルスは、Vero76細胞で2回継代培養されて、ハムスターに感染させる為のワーキングストック(working stock)が作製された。
【0168】
化合物:ベルダジマーナトリウムが、動物に経鼻投与することができる形態で提供された。EIDD-2801はUSUによってMedChem Expressから購入された。EIDD-2801(モルヌプラビル(Molnupravir))はリボヌクレオシド類似体であり、コロナウイルスを包含する広範なRNAウイルスに渡って活性を示している。
【0169】
実験設計:有効性試験(PHA-262):合計85匹のハムスターが、1日1回の処置投与で10匹ずつの5つのグループと、1日2回の処置投与で15匹ずつの2グループに分けられた(下記の表11)。ウイルスチャレンジの為に、ハムスターがケタミン/キシラジン(50mg/kg/5mg/kg)のIP(腹腔内)注射によって麻酔され、その後、100μLの接種量で1x104.3の50%細胞培養感染用量(cell culture infectious doses)(CCID50)の用量で経鼻経路によってチャレンジされた。この100μLの総量が両方の鼻孔に同時に送られる。ベルダジマーナトリウムでの処置は、0.1mL容量の鼻腔内投与により、感染24時間前から開始して7日間、1日1回又は2回与えられた。1日2回の投与は12時間間隔で行われた。全ての経鼻処置は、感染症の場合と同様に動物に麻酔をかけた後に、100μLの容量で投与された。ベルダジマーナトリウムは、まずストックを調製することによって投与用に調製された。簡単に説明すると、ストックは100%のジメチルスルホキシド(DMSO)において、1600、800、400mg/mLで調製され、次に、それらが、USUからのHyclone MEMと50mM及びpH4.5のクエン酸の塩形態の1:1の比からなる緩衝剤に200倍に希釈された。投与の20~30分前にベルダジマーナトリウムのDMSOストックが調製され、動物に投与する5分前にMEM/クエン酸の塩形態の緩衝剤に添加された。EIDD-2801は感染後4時間から開始して1日2回経口(PO)投与された。EIDD-2801は10%のDMSO及び90%のコーン油中で可溶化された。肺のウイルス力価、鼻腔のウイルス力価及び肺重量を評価する為に、試験3日目及び6日目に各グループ当たり5匹が安楽死された。第1のグループ及び第2のグループにおいて、麻酔から回復しない場合に備えて5匹の追加の動物がこれらのグループに含められた為、各グループから10匹の動物が6日目に安楽死された。
【0170】
【0171】
組織サンプルの滴定:肺及び鼻腔組織のホモジネートがエンドポイント希釈(endpoint dilution)によって滴定された。連続対数希釈物(Serial log10 dilutions)が、Vero76細胞のコンフルエントな単層を含む96ウェルマイクロプレートの四重ウェル(quadruplicate wells)にプレーティングされた。該プレートが5%CO2、37℃のインキュベーターで6日間培養された。次に、該プレートは光学顕微鏡下の目視観察により、細胞変性効果(CPE:cytopathic effect)の有無について判定された。各サンプルのウイルス力価が、リード・ミュンヒ法(Reed-Muench method)を用いた線形回帰によって計算された。
【0172】
統計及び図面:個々のハムスターの体重が、感染当日の初期体重のパーセントに換算された。初期体重のパーセンテージ曲線は、各処置グループとプラセボ処置されたハムスターとを比較する一元配置分散分析(ANOVA)を用いて比較された。組織ウイルス力価は、処置された動物とプラセボ処置された動物とを比較する二元配置分散分析(ANOVA)を用いて比較された。肺重量は、二元ANOVAを用いて比較された。
【0173】
実験動物の倫理規定:この試験は、2020年3月31日付(有効期限2023年3月30日)のユタ州立大学Institutional Animal Care and Use Committeeの承認に従って実行された。ユタ州立大学のAAALAC認定実験動物研究センターで実施された。米国政府(National Institutes of Health)の承認は、National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animals (Revision;2011)に従って、2018年3月9日に更新された(PHS Assurance No.D16-00468[A3801-01])。
【0174】
結果及び考察
【0175】
この試験により、SARS-CoV-2に感染したハムスターにおける、肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価及び肺重量の減少に対するベルダジマーナトリウムでの処置が評価された。加えて、2mg/mLのベルダジマーナトリウムでの1日2回の処置が、2mg/mLのベルダジマーナトリウムでの1日1回処置と比較された。
【0176】
この試験において、肺組織及び鼻腔組織における高いウイルス力価から明らかなように、有意な呼吸器感染が観察された。感染後3日目の肺のウイルス力価は接種量よりも約3ログ(log)高く、ハムスターの呼吸器組織における強固な感染を示した。加えて、プラセボ処置された動物において体重減少が観察された。
【0177】
図19は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で1日1回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの初期体重のパーセントを示す。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前から開始された。2、4又は8mg/mLのベルダジマーナトリウム又は500mg/kg/日のEIDD-2801で処置されたハムスターでは、統計学的に有意な、体重減少からの保護は観察されなかった。統計学的に有意ではなかったが、8mg/mLのベルダジマーナトリウムで処置されたハムスターは、プラセボ処置された動物と比較して体重減少が少なかった。EIDD-2801で処置されたハムスターにおいても同様の傾向が認められた。
【0178】
図20は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で1日1回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺のウイルス力価を示す。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。4mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの処置により、感染後3日目の肺のウイルス力価が有意に低下した。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801での処置により、感染後3日目の肺のウイルス力価が有意に低下した。ウイルス力価におけるこの1のlog
10低下は、EIDD-2801を使用した他の試験と同程度である。2mg/mL又は8mg/mLのベルダジマーナトリウムを1日1回処置された動物において、3日目の肺のウイルス力価が低下したが、該低下は統計学的に有意でなかった。6日目の肺のウイルス力価は、全てのグループにわたって1サンプルを除き定量限界以下であり、このモデルにおいて6日目までに感染が消失したことが示唆された。
【0179】
図21は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の鼻腔組織のウイルス力価を示す。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2、4又は8mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日1回処置されても、鼻腔組織のウイルス力価は有意に低下しなかった。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されても、鼻腔組織のウイルス力価は有意に低下しなかった。
【0180】
図22は、ベルダジマーナトリウム(2、4又は8mg/mL)で処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目と6日目の肺重量を示す。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2、4、8mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日1回処置されても、肺重量は有意に減少しなかった。500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されても、肺重量は有意に減少しなかった。
【0181】
ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの初期体重のパーセントが
図23において示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムで1日2回投与しても、SARS-CoV-2に感染したハムスターの体重減少は防止されなかった。統計学的に有意ではなかったが、500mg/kg/日の用量でのEIDD-2801で処置されたハムスターは、プラセボ処置されたグループよりも体重減少が少なかった。
【0182】
ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺のウイルス力価が
図24において示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの1日2回処置により、感染後3日目の肺ウイルス力価はおよそ1/2ログ(log)低下したが、その差は統計学的に有意ではなかった。500mg/kg/日でのEIDD-2801処置により、感染後3日目の肺のウイルス力価が有意に低下した。
【0183】
ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目と6日目の鼻腔組織のウイルス力価が
図25において示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。2mg/mLの用量でのベルダジマーナトリウムでの1日2回の処置により、感染後3日目の鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下した。500mg/kg/日でのEIDD-2801での処置により、感染後3日目の鼻腔組織のウイルス力価が有意に低下した。鼻腔組織サンプルではばらつきが大きくなり、一部の動物では高いウイルス力価を有し、一部の動物では鼻腔組織において検出可能なウイルス力価を有しなかった。これらのサンプルのホモジナイズされた組織量が少ないことにより、ばらつきが大きくなった可能性がある。下記の表12は、ベルダジマーナトリウムでの処置、そしてSARS-CoV-2での感染後のゴールデンシリアンハムスターの試験3日目及び6日目の肺及び鼻腔組織のウイルス力価を示す。
【0184】
【0185】
ベルダジマーナトリウム(2mg/mL)で1日2回処置され、そしてSARS-CoV-2感染させたハムスターの3日目及び6日目の肺重量が
図26において示されている。ベルダジマーナトリウムでの処置は感染の24時間前に開始された。肺重量は、ベルダジマーナトリウムの1日2回投与により、感染後6日目に有意に増加した。EIDD-2801で処置されたハムスターにおいても肺重量における同様の増加が観察された故に、このことは経鼻処置によるものでないと考えられる。
【0186】
結論
【0187】
この試験により、体重減少、肺のウイルス力価、鼻腔組織の力価、肺重量に対するベルダジマーナトリウムの2、4及び8mg/mLでの1日1回処置の効果が評価された。2mg/mLのベルダジマーナトリウムでの1日2回処理の効果がまた評価された。
【0188】
統計学的に有意ではなかったが、8mg/mLのベルダジマーナトリウムで処置されたハムスターは、プラセボ処置されたグループよりも体重減少が少なかった。しかしながら、8mg/mLのベルダジマーナトリウムで処置された10匹の動物のうち2匹が感染後3日目に死亡した。SARS-CoV-2に感染した野生型ハムスターは通常感染に屈しないが、経鼻処置が感染を悪化させてしまった可能性がある。しかしながら、同じレジメンと用量レベル(8mg/mL)で先行試験が実施され、早死は観察されなかった。
【0189】
4mg/mLのベルダジマーナトリウムの投与は、肺のウイルス力価を有意に低下させた。肺のウイルス力価には多少のばらつきがあるものの、一般的な傾向としてベルダジマーナトリウム処置による用量反応性を示すように見えた。しかしながら、1日1回投与された場合に、いずれの用量のベルダジマーナトリウムも鼻腔組織の力価を低下させることはできなかった。ハムスターが2mg/mLのベルダジマーナトリウムで1日2回処置された場合に、鼻腔組織の力価における有意な低下が観察された。SARS-CoV-2で感染され、そして2mg/mLのベルダジマーナトリウムで1日2回処置された5匹の動物のうち2匹について、ウイルスが鼻腔組織において検出されなかった。
【0190】
実施例5
【0191】
この試験の目的は、ベルダジマーナトリウム(API:原薬)と緩衝剤とを含む組成物(試験品とまた言われる)をイヌに1日5回、14日間経鼻投与された場合の潜在的毒性を測定すること、及び発見された結果の潜在的な可逆性を評価することであった。該組成物中の緩衝剤は、pH4.5の200mMのクエン酸の塩形態の緩衝剤であった。実験計画が下記の表13において提供されている。およその1日用量のレベルは、雄の場合に8.5kg及び雌の場合に6.5kgの平均体重に基づいており、従って、1日用量のレベル(mg/kg/日)は、雄の場合に、グループ1では0mg/kg/日、グループ2では0.47mg/kg/日、グループ3では0.94mg/kg/日及びグループ4では1.65mg/kg/日であり、並びに雌の場合に、グループ1では0mg/kg/日、グループ2では0.61mg/kg/日、グループ3では1.23mg/kg/日及びグループ4では2.15mg/kg/日であった。
【0192】
【0193】
下記のパラメータ及びエンドポイント(primary endpoint)が、この試験において評価された:死亡率、臨床的観察、体重、体重増加、食物消費量、眼科検査、心電図検査、臨床病理学的パラメータ(血液学、凝固学、臨床化学、メトヘモグロビン及び尿検査)、薬物動態パラメータ、臓器重量、並びに巨視的検査及び顕微鏡的検査。
【0194】
試験品については、死亡率、臨床的観察、体重、体重増加、食物消費量、眼科検査、臨床病理学(血液学、凝固学、臨床化学及び尿)、臓器重量、及び巨視的検査に変化がなく、並びに顕微鏡的検査についても有害な所見はなかった。
【0195】
心電図(ECG)については、11日目の投与後1~2時間で、グループ4(14mg/日)の雄についてQRSコンプレックス持続時間(QRS complex duration)が統計学的に有意に長くなっていた。この変化は、変化の大きさから試験物質に関連したものと考えられたが、回復期間の間に消失したため、有害でないと考えられた。
【0196】
14日目に、14mg/日の雄イヌ及び雌イヌについての全てのMetHgb値が、投与直前の2時間の採取間隔での雌イヌのわずかな増加を除いて、投与後の各採取間隔でベースライン値と比較して減少した。加えて、全ての対照雄イヌ及び雌イヌが、14日目の投与後の各採取間隔でベースライン値と比較してMetHgbにおける減少を示した。
【0197】
14mg/日では、鼻腔の鼻甲介において、試験品に関連した顕微鏡的変化、すなわち、雄イヌ及び雌イヌにおいて軽度から中等度の混合性炎症及び最小から軽度の管腔滲出液を包含する微視的変化、があったが、これは有害でないと考えられた。これらの所見はイヌにおいて完全な回復を示したが、雌イヌにおいて回復期間の間に滲出液が消失しているように見えたものの、7日間の回復期間の終了時には完全な回復は見られなかった。
【0198】
結論として、1日5回、14日間鼻腔内投与による試験品の投与は、14mgの原薬(API)/日のレベルでイヌにおいて十分に耐えられるものであった。標的臓器への影響は14mg/日のレベルで観察され、並びに雄イヌ及び雌イヌにおいて、試験品に関連した顕微鏡的変化、すなわち、雄イヌ及び雌イヌにおいて軽度から中等度の混合性炎症及び最小から軽度の管腔滲出液を包含する顕微鏡的変化、があったが、これは有害でないと考えられた。これらの所見は、7日間の回復期間の終了時に、雄イヌにおいては完全な回復を示したが、雌イヌにおいては部分的な回復にとどまった。加えて、11日目の投与後1~2時間で、14mg/日の雄イヌでQRSコンプレックス持続時間(QRS complex duration)が統計学的に有意に長くなっていた。この変化は、変化の大きさから試験物質に関連したものと考えられたが、回復期間の間に消失した。これらの結果に基づくと、有害異教が観察されないレベル(NOAEL:no-observed-adverse-effect level)は14mg/日(すなわち、雄において1.65mg/kg/日、及び雌において2.15mg/kg/日)であると考えられた。NOAELでは、処置の14日後の平均C最大及びAUC(0~24時間)値は、雄の場合に、夫々で11,800pg/mL及び179,000h・pg/mLであり、及び雌の場合に、夫々10,700pg/mL及び173,000h・pg/mLであった。
【0199】
実施例6
【0200】
アルカリ原薬(alkaline API)(ベルダジマーナトリウム)の観点から、緩衝剤濃度、pH及び浸透圧が評価された。この試験の為に、試験製剤のビヒクルとして緩衝剤のみを使用し、試験製剤11b~17bが2mg/mL~18mg/mLの複数のベルダジマーナトリウム濃度で調製された。全てのサンプルは、ガラスバイアルに原薬(API)を秤量し、そして必要なベルダジマーナトリウム濃度を目標にする為に夫々の緩衝剤10mLで希釈することによってw/v調製された。次に、該サンプルが、試験製剤のpH及び浸透圧について評価された。ビヒクルサンプルがまた、pH及び浸透圧について評価された。試験製剤6b及び7bの場合に、該サンプルが2mg/mL及び24mg/mLの濃度で調製された。全てのサンプルは、ガラスバイアルに原薬(API)を秤量し、そして必要なベルダジマーナトリウム濃度を目標にする為に夫々の緩衝液5mLで希釈することによりw/v調製された。次に、該サンプルが、試験製剤のpH及び浸透圧について評価された。ビヒクルサンプルがまた、pH及び浸透圧について評価された。評価された試験製剤が、下記の表14において見られることができる。
【0201】
2mg/mLのサンプル
配合時に、発泡は観察されず、全てのサンプルが微細に分散された懸濁物を生じた。pHに関しては、全てのサンプルのpHは目標pHであるpH5.50を下回り、全てのサンプルはpH4.60~4.80付近に戻った。浸透圧に関しては、製剤の浸透圧の値は、緩衝剤の濃度が高くなるにつれて増加した。しかしながら、全ての浸透圧値は鼻腔内投与の為の許容範囲内に戻った。
【0202】
8mg/mLのサンプル
配合時に、全てのサンプルにおいて薄いコンシステンシー(thin consistency)からなる最小限の発泡が観察された。原薬(API)の濡れ性及び分散性に関しては、該原薬(API)は容易に濡れ、微細に分散された懸濁物を形成した。pHに関しては、11bを除く全ての製剤はpH5.50の目標pH付近に戻った。浸透圧の傾向は2mg/mLサンプルと類似しており、緩衝剤濃度が高くなるにつれて値が増加した。全ての浸透圧の値は、鼻腔内投与の為の許容範囲内に戻った。
【0203】
12mg/mLのサンプル
配合時、試験製剤15b及び16bにおいては多量の濃厚な泡(thick foam)が発生したが、試験製剤17b及び11bにおいては少量の泡が発生した。原薬(API)の濡れ性及び分散性に関しては、該原薬(API)は容易に濡れ、微細に分散した懸濁物を形成した。pHに関しては、15bを除く全ての試験製剤はpH5.50の目標pH付近に戻った。試験製剤15bのpH値はpH7.07であり、このことは100mMの緩衝剤濃度が12mg/mLに対する原薬(API)濃度に対して緩衝する為に十分強くないことを示唆している。浸透圧に関しても同様の傾向が観察され、全ての値が鼻腔内投与の為の許容範囲内に戻った。
【0204】
14mg/mLのサンプル
配合時、試験製剤15b~17bにおいては多量の濃厚な泡(thick foam)が発生したが、試験製剤11bにおいては少量の泡が発生した。原薬(API)の濡れ性及び分散性に関しては、該原薬(API)は容易に濡れ、微細に分散された懸濁物を形成した。pHに関しては、15bを除く全ての試験製剤はpH5.50の目標pH付近に戻った。浸透圧に関しても同様の傾向が観察され、全ての値が鼻腔内投与の為の許容範囲内に戻った。
【0205】
16mg/mLのサンプル
配合時、試験製剤15b及び11bにおいて多量の濃厚な泡(thick foam)が発生したが、試験製剤16b及び17bにおいては少量の泡が発生した。原薬(API)の濡れ性及び懸濁性に関しては、各サンプルの底部に大量の乾燥原薬(API)が残り、各バイアルの上部に泡の厚い層(thick layer of foam)が存在する為に故に混合及び懸濁されることができなかった。pHに関しては、15bを除く全ての試験製剤はpH5.50の目標pH付近に戻った。浸透圧に関しても同様の傾向が観察され、全ての値が鼻腔内投与の為の許容範囲内に戻った。
【0206】
18mg/mLのサンプル
配合時、全てのサンプルにおいて多量の濃厚な泡(thick foam)が発生した。原薬(API)の濡れ性及び懸濁性に関しては、各サンプルの底部に大量の乾燥原薬(API)が残り、各バイアルの上部に泡の厚い層が存在する為に混合及び懸濁されることができなかった。pHに関しては、全ての試験製剤がpH5.50の目標pH付近に戻った。浸透圧に関しても同様の傾向が観察され、全ての値が鼻腔内投与の為の許容範囲内に戻った。
【0207】
この試験から得られた全てのデータは、下記の表15~22において見られることができる。
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
要約及び結論:
【0218】
この試験の結果は、過剰な発泡の原薬(API)上限は試験した緩衝液について8mg/mL~12mg/mLにあることを示す。pHデータに基づいて、200mMのクエン酸の塩形態の緩衝剤は2mg/mL~16mg/mLの濃度範囲でのAPIに対して効果的に緩衝し、及び製剤のpHをpH5.50の目標pH付近に維持するようである。原薬(API)の濡れ性及び分散性に関しては、原薬(API)濃度が14mg/mLを超えると十分な原薬(API)懸濁性が得られず、バイアル瓶の底に多量の乾燥原薬(API)が残るという結果を生じた。14mg/mLの原薬(API)濃度では、原薬(API)の完全な濡れ性及び懸濁性が得られることができ、また、目標とする試験製剤のpHを維持することができる。
【0219】
実施例7
【0220】
ベルダジマーナトリウムの呼吸器合胞体ウイルス(RSV-A2)及びインフルエンザA/カリフォルニア/7/2009(H1N1)に対する抗ウイルス活性が、正常なヒト由来気管/気管支上皮(TBE:tracheal/bronchial epithelial)細胞の高度に分化した3次元(3D)イン・ビトロ(in vitro)で評価された。該化合物は、ヒトEpiAirway(MatTek Life Sciences)の3D組織モデルの3連インサート(triplicate inserts)を用いて、様々な濃度で試験された。抗ウイルス活性は、感染から3日後(H1N1)及び6日後(RSV-A2)のウイルス収量減少アッセイによって測定された。
【0221】
材料及び方法
【0222】
化合物:化合物(ベルダジマーナトリウム)が固体として受け取られ、そして、調製されるまで-20℃で保存された。各日について、新鮮なベルダジマーナトリウム薬剤が100%ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解され、そして次に、MatTek培地(AIR-100-MM)中で試験希釈することによって調製された。
【0223】
細胞培養:EpiAirway商標モデルは、正常なヒト由来の気管/気管支上皮(TBE:tracheal/bronchial epithelial)細胞で構成されており、それは、呼吸器の上皮組織に酷似した多層で高度に分化したモデルを形成するように培養されている。該細胞培養物は、MatTek Life Sciences(https://www.mattek.com)(Ashland,MA)による注文に応じて行われ、そして、12ウェル又は24ウェルのいずれかのインサートのキットで届けられた。TBE細胞はトランスウェルインサートにおける6mmのメッシュディスク上で培養された。輸送中、該組織はアガロースのシート上で安定化され、出荷後24時間経過した時点で取り除かれた。インサート1個は、およそ1.2×106個の細胞で構成されていると推定された。細胞インサートのキット(EpiAirway商標 AIR-100,AIR-112)は、単一の健康な非喫煙者ドナー#9831に由来する。
【0224】
到着後、細胞トランスウェルインサートは、製造者の指示書に従って6ウェルプレートの個々のウェルに直ちに移された。次に、MatTekの独自の培地(AIR-100-MM)1mLを基底側に加え、一方、先端側は加湿された5%CO2環境に曝露された。TBE細胞は、実験の開始前に37℃で2日間培養された。48時間の平衡化期間の後、細胞の先端側から分泌されたムチン層が、400μLの予め加温された30mMのHEPES緩衝生理食塩水で3回洗浄することによって除去された。培地が、洗浄工程の後、該基底側に補充された。次に、該組織はアッセイの前に、37℃且つ5%のCO2の環境で最低1時間休まされた。
【0225】
ウイルス:ウイルスRSV-A2(ATCC VR-1540)がMA-105細胞で2回継代培養されて、ウイルスストックを作成した。該細胞培養物の50%に感染することができるウイルス用量(0.2mL当たりCCID50)がリード・ミュンヒ法(Reed-Muench method)(1938)によって計算された。次に、該ウイルスストックがAIR-100-MMで希釈され、そして、1細胞当たりMOI 0.1 CCID50で感染された。インフルエンザA(H1N1)がMDCK細胞で2回継代培養されて、ウイルスストックを作成した。該細胞培養物の50%に感染することができるウイルス用量(0.2mL当たりCCID50)がリード・ミュンヒ法(Reed-Muench method)によって計算された。次に、該ウイルスストックがAIR-100-MMで希釈され、そして、1細胞当たりMOI 0.001 CCID50で感染された。
【0226】
実験設計:各化合物処理(140μL)とウイルス(140μL)が先端側に施与され、及び化合物処理のみが基底側(1mL)に施与され、感染期間は2時間であった。ウイルスの対象として、各ウイルスの細胞ウェルのうちの3ウェルがプラセボ(細胞培地のみ)を用いて処理された。2時間の感染期間後、先端側の培地が除去され、該基底側が新しく調製された化合物又は培地で交換された。該細胞は気液界面で維持された。毎日ほぼ同じ時間(1~2時間以内)に該基底側が除去され、そして、新しく調製された化合物又は新鮮な培地で交換された(ウイルス対照)。[下記の表23において示されているデータは、3日目と4日目に該基底側が新鮮な化合物に交換されなかった後の結果であることに留意されたい]。3日目(H1N1)又は6日目(RSV)において、該培地が除去され、そして、該基底側から廃棄された。該組織の先端コンパートメント内に放出されたウイルスは、37℃に予め加温した培地400μLを加えることによって採取された。内容物が30分間インキュベーションされ、十分に混合され、回収され、十分にボルテックスされ、そして、-80℃で凍結され、最終的には、ウイルス収量減少(VYR:virus yield reduction)滴定の為に、回収と同じ日にMDCK細胞(H1N1)上に又はMA-105細胞(RSV)上にプレーティングされた。リバビリン(Ribavirin)は、抗ウイルス効果の陽性対照としてこの試験内に組み入れられた。
【0227】
処理された各細胞培養物からのウイルス力価の決定:細胞が96ウェルプレート内に播種され、そして、一晩(37℃)、90%コンフルエンスまで増殖された。ウイルスを含有するサンプルが感染培地で10倍ずつ希釈され、そして、各希釈液200μLが96ウェルマイクロタイタープレートの夫々のウェル内に移された。50%のウイルス終点(viral endpoint)を決定する為に、各希釈について、4つのマイクロウェルが使用された。3日間(H1N1)又は7日間(RSV)のインキュベーション後に、未感染対照と比較して細胞変性効果(CPE:cytopathic effect)が観察された場合、各ウェルはウイルス陽性と判定された。90%有効濃度(EC90)、すなわちウイルス量を1 log10減少させる為に必要な化合物の量、が回帰分析によって決定された。
【0228】
細胞毒性アッセイ:CCK-8比色アッセイは、電子メディエーター(electron mediator)の存在下で橙色の水溶性ホルマザン色素を生成する高水溶性テトラゾリウム塩であるWST-8の還元に基づいている。ホルマザンの量は生細胞数に正比例し、及び結果として得られた着色溶液はマルチウェル分光光度計を用いて450ナノメートルでの吸光度を測定することによって定量される。薬物濃度2mg/mLと1mg/mLが二重ウェルで試験され、薬物濃度0.5mg/mLが一重ウェルで試験された。3日目(H1N1)又は6日目(RSV)に、先端側が400μLの予め加温されたPBSで1回洗浄された。CCK-8溶液が先端側に加えられ(200μL)、そして、37℃で2時間インキュベーションされた。ホルマザン(100μL)が96ウェルプレート内に入れられ、そして、450nmの吸光度が記録された。毒性値のパーセントは、細胞対照試験ウェル(薬物処理無し)に対するパーセンテージとして計算され、化合物(ウイルス無し)の50%細胞毒性濃度(CC50)として報告された。組織がまた顕微鏡を介して観察されて、細胞毒性が評価された。
【0229】
VYR力価データ、EC90及びCC50の値が、下記の表23~表25においてまとめられている。
【0230】
結論
【0231】
表23において示されているように、RSV-A2感染1、2及び5日目のベルダジマーナトリウム処置からのEC90値は0.79~1.07mg/mLであったのに対して、表24において示されているように、RSV-A2感染1~5日目のベルダジマーナトリウム処置からのEC90値は0.96~1.44mg/mLであった。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、試験した条件下では、2つのRSV-A2処置レジメンについて有効性における差は観察されなかった。表25において示されているように、H1N1感染1日目と2日目でのベルダジマーナトリウム処置によるEC90値は1.11~1.14mg/mLであった。顕微鏡下で観察された組織は、明らかな細胞毒性を示さなかった。
【0232】
【0233】
未感染対照と比較して何らかのCPEが観察された場合に、各ウェルはウイルス陽性と判定された。
【0234】
aウイルス収量減少(VYR)アッセイからの力価結果。
【0235】
bEC90=回帰分析によって決定された場合のVYR90%有効濃度(ウイルス収量を1 log10減少させる為の濃度)。
【0236】
cCC50=化合物の50%細胞毒性濃度(ウイルス無し)。
【0237】
dSI=CC50/EC90;選択性指標は、細胞毒性と抗ウイルス活性との間のウィンドウの尺度である。SI比が高いほど、所与のウイルス感染に対するイン・ビボ(in vivo)処置の間に、薬剤がより有効で且つ安全である。
【0238】
【0239】
未感染対照と比較して何らかのCPEが観察された場合に、各ウェルはウイルス陽性と判定された。
【0240】
aウイルス収量減少(VYR)アッセイからの力価結果。
【0241】
bEC90=回帰分析によって決定された場合のVYR90%有効濃度(ウイルス収量を1 log10減少させる為の濃度)。
【0242】
cCC50=化合物の50%細胞毒性濃度(ウイルス無し)。
【0243】
dSI=CC50/EC90;選択性指標は、細胞毒性と抗ウイルス活性との間のウィンドウの尺度である。SI比が高いほど、所与のウイルス感染に対するイン・ビボ(in vivo)処置の間に、薬剤がより有効で且つ安全である。
【0244】
【0245】
未感染対照と比較して何らかのCPEが観察された場合に、各ウェルはウイルス陽性と判定された。
【0246】
aウイルス収量減少(VYR)アッセイからの力価結果。
【0247】
bEC90=回帰分析によって決定された場合のVYR90%有効濃度(ウイルス収量を1 log10減少させる為の濃度)。
【0248】
cCC50=化合物の50%細胞毒性濃度(ウイルス無し)。
【0249】
dSI=CC50/EC90;選択性指標は、細胞毒性と抗ウイルス活性との間のウィンドウの尺度である。SI比が高いほど、所与のウイルス感染に対するイン・ビボ(in vivo)処置の間に、薬剤がより有効で且つ安全である。
【0250】
上記は本発明を例示するものであり、本発明をそれらに限定するものとして解釈されるべきものでない。本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の範囲の均等物はその中に含まれている。本明細書において引用される、全ての刊行物、特許出願、特許、特許公報及び他の参考文献は、参考文献が提示される文及び/又は段落に関連する教示について、それらの全体が参照することによって取り込まれる。
【国際調査報告】