(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】疼痛の処置における使用のためのペプチド及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/52 20060101AFI20241219BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241219BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241219BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241219BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241219BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241219BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241219BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20241219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241219BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20241219BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241219BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241219BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C07K14/52 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/16
A61K45/00
A61K35/76
A61K35/12
A61K48/00
A61K31/7088
A61P29/00
A61P25/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536410
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2022086559
(87)【国際公開番号】W WO2023111348
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524229303
【氏名又は名称】タファルジー・セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ガイヤール
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・カステ
(72)【発明者】
【氏名】アブデルアジズ・モクリッチ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
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4H045AA10
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4H045FA40
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4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、それを必要とする対象において疼痛を予防又は処置するための活性成分としての使用のための、新規ペプチド、当該ペプチドを含む組成物及びキットに関する。これらのペプチドの発現をモジュレートするためのin vitro又はex vivo方法もまた、本明細書に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の配列の単離、合成若しくは組換えペプチド、又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチド。
【請求項2】
配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有する前記ペプチドが、脊髄介在ニューロン(好ましくは、脊髄第IIi層介在ニューロン)の興奮性をモジュレートする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列
【化1】
(配列番号1)中に太字で現れるアミノ酸Q及びYが、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有する前記ペプチドのアミノ酸配列において未変化のままである、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが、組換えペプチドである、請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号5のペプチドである、請求項1から4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
医薬としての使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項6に記載の使用のためのペプチドをコードする核酸配列。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項6に記載の使用のためのペプチドの発現を可能にするベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸配列を含む、又は請求項8に記載のベクターを使用して改変された、細胞。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド、請求項7に記載の核酸、請求項8に記載のベクター又は請求項9に記載の細胞と、食事的に又は薬学的に許容される支持体とを含む、組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの更なる活性化合物、好ましくは、疼痛に対して効果的な活性薬剤、更により好ましくは、SAID、NSAID又はオピオイド薬物を更に含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ペプチド又は組成物が、対象に、筋肉内、静脈内、腹腔内、経口(orally)(経口(per os))、肛門、皮膚、皮下、皮膚、経皮又はくも膜下腔内、好ましくは皮下又は経口、更により好ましくは経口投与される、医薬としての使用のための請求項6に記載のペプチド又は請求項10若しくは11に記載の組成物。
【請求項13】
ペプチドの用量が、哺乳動物では1μg/kg/日と100mg/kg/日との間であり、好ましくは、ヒト対象では2.5μg/kg/日と0.6mg/kg/日との間である、医薬としての使用のための請求項6若しくは12に記載のペプチド又は請求項10、11若しくは12に記載の組成物。
【請求項14】
それを必要とする対象において疼痛を予防又は処置するための活性成分としての使用のための、請求項1から6のいずれか一項に記載のペプチド、請求項7に記載の核酸、請求項8に記載のベクター又は請求項9に記載の細胞。
【請求項15】
前記疼痛が、慢性疼痛、神経障害性疼痛、術後疼痛、炎症性疼痛、痛覚過敏又はアロディニアである、請求項14に記載のペプチド、核酸、ベクター又は細胞。
【請求項16】
対象が、哺乳動物、特に、人間である、請求項14又は15に記載のペプチド、核酸、ベクター又は細胞。
【請求項17】
前記対象が、myo1A遺伝子において少なくとも1つの変異した対立遺伝子を有する、請求項16に記載のペプチド、核酸、ベクター又は細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本出願は、疼痛管理の分野に一般に関する。特に、本発明は、TAFA-4タンパク質のペプチド断片を活性成分として含む、疼痛を予防及び/若しくは処置するための組成物、並びに神経障害性疼痛、術後疼痛若しくは炎症性疼痛に起源する疼痛、特に、急性、亜急性若しくは慢性疼痛を予防及び/若しくは処置するための、又は傷害誘導性疼痛から生じる痛覚過敏若しくはアロディニアを予防及び/若しくは処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
疼痛は、急性又は慢性として一般に分類される。急性疼痛は、長続きせず、我々の肉体的一体性の維持にとって必須であるが、慢性疼痛は、治癒の正常な時間を超えて持続し、幸福に悪影響を与える。慢性炎症性、神経障害性又は術後疼痛は、長く持続する感覚異常、例えば、痛覚過敏(侵害刺激によって誘発される極端な疼痛)及び機械的アロディニア(非侵害性の機械的刺激によって誘発される疼痛)を生じる。これらのカテゴリーの疼痛は、病因及び臨床的特色に関して異なるが、末梢性及び中枢性の両方での、神経-免疫相互作用及びニューロン感作に対する変更が含まれるいくつかの機構を共通して有する(Costiganら、2009)。阻害の喪失が慢性疼痛の下敷きとなる重要な機構であり得ることを示唆する証拠が増え続けている(Bouraneら、2015a; Bouraneら、2015b; Boyleら、2019; Coullら、2005; Duanら、2014; Peirsら、2015; Petitjeanら、2019; Petitjeanら、2015; Zeilhoferら、2012; Zhangら、2018)。しかし、げっ歯類における慢性疼痛の下敷きとなる機構及び回路の我々の広範な知識にもかかわらず、ヒトにおける慢性疼痛のための有効な処置へのこれらの知見の変換は、いまだ不十分である(Collocaら、2017)。実際、非ステロイド性抗炎症薬剤(NSAID)は、慢性疼痛に対する限定的な効力を有し、オピオイドは、潜在的に致死的な呼吸抑制、悪心、便秘、痛覚過敏、耐性、肉体的及び心理学的依存が含まれる複数の有害効果を有する(Benyaminら、2008)。したがって、慢性疼痛の処置のための無痛(analgesic)又は鎮痛(antalgic)潜在力を有する新たな標的を同定するための試みが、奨励されるべきである。
【0003】
過去数年間で、本発明者らは、それが慢性疼痛の処置のための興味深い薬物であり得ることを示唆する、分泌型タンパク質TAFA-4の著しい特色を発見している(WO2014180853)。TAFA-4は、5つの高度に保存された分泌型ニューロカイン(neurokine)のファミリーに属する(Sarverら、2021)。
【0004】
TAFA-4は、シグナルペプチドと、その後の、それをサイトカインと似たものにするCC-ケモカインモチーフを含む10個のシステイン残基を有する高度に保存されたコア領域を含有する(Tom Tangら、2004)。
【0005】
本発明者らは、TAFA-4遺伝子が欠失されたマウスでは、神経傷害によって誘導された機械的過敏症が、野生型(WT)マウスよりもはるかに長く持続することもまた、以前に示している(Delfiniら、2013)。これらの表現型は、組換えTAFA-4のくも膜下腔内注射によって逆転される。
【0006】
WO2014180853に記載されるように、本発明者らは、TAFA-4が、病理学的に増加した機械的疼痛に対する強力な作用を保有することを実証する実験的証拠を以前に報告した。雄性及び雌性の両方のマウスにおいて、ヒト組換えTAFA-4のくも膜下腔内及び皮下投与は、炎症性、術後及び神経傷害誘導性の機械的過敏症を逆転させることが示されている。彼らは、TAFA-4が、機械的閾値変更を担うことが報告されている脊髄第II層介在ニューロンの神経傷害誘導性ニューロン感作を逆転させることができることもまた示している。
【0007】
しかし、TAFA-4はシステイン-リッチタンパク質(合計で10個のシステイン)であるので、組換え成熟TAFA-4タンパク質の産生は、困難であり得る。実際、再フォールディングは、タンパク質の活性に大きく影響し得る非ネイティブコンフォメーション又は不適切なジスルフィド架橋パターンを得るという結果を生じ得る。更に、高い程度の純度で組換えTAFA-4タンパク質を得るために必要ないくつかの精製工程は、起こり得る凝集の問題と共に、適切にフォールディングされたタンパク質の収量を制限し得る。更に、TAFA-4タンパク質の化学合成が実行されたが、これもまた、タンパク質の長さに起因して困難であり、4つ以上の(保護された又は部分的に保護された)ペプチドセグメント(N末端から始まり、最もC末端側のペプチドで終わる)のアセンブリを必要とする。全長TAFA-4を生成するために、3回のライゲーション精製工程が必要とされ、これが、産業規模での産生と不適合な低い収量をもたらす。したがって、産業規模で、及びコスト効率の良い方法で製造され得る、TAFA-4タンパク質のものと類似の活性を有する新規化合物を同定することには、実質的な利点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2014180853
【特許文献2】PCT特許出願公開番号WO03042397
【特許文献3】米国特許第6,632,670号
【特許文献4】WO2017153424
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Smith及びWaterman、(1981) Adv. Appl. Math. 2:482
【非特許文献2】Needleman及びWunsch、(1970) J. Mol. Biol. 48:443
【非特許文献3】Pearson及びLipman、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444
【非特許文献4】Current Protocols in Molecular Biology、F. M. Ausubelら編、Current Protocols、Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.(1995年の補遺)
【非特許文献5】Altschulら、(1990)、J. Mol. Biol. 215: 403~410
【非特許文献6】Altschulら、(1977) Nucleic Acids Res. 3389~3402
【非特許文献7】Henikoff及びHenikoff、(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915
【非特許文献8】Grahamら、Virology 52:456 (1973)
【非特許文献9】Sambrookら、Molecular Cloning、a Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York(1989)
【非特許文献10】Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、Elsevier(1986)
【非特許文献11】Chuら、Gene 13: 197 (1981)
【非特許文献12】Sambrook, J.、Fritsh, E. F.及びManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989
【非特許文献13】Decosterd及びWoolf、2000; Pain、第87巻、149~158頁
【非特許文献14】Bennett及びXie 1988 (A peripheral mononeuropathy in rats that produces disorders of pain sensation like those in man. Pain、第33巻:87~107頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、疼痛、特に、急性、亜急性又は慢性疼痛を効果的に予防又は処置するための使用のための代替的な治療剤及び方法が、強く必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の概要
本発明は、鎮痛又は無痛活性、特に、鎮痛活性を有する新規ペプチド(本明細書で「TT1」としても同定される)及びそのバリアント、例えば、本明細書で同定される「TT6」ペプチドの同定に、少なくとも一部基づく。目的のペプチドは、ヒトTAFA-4タンパク質の特定の断片である又はそれに由来する。有利なことに、このペプチド及びそのバリアントは、産生が容易であり、疼痛、特に、急性、亜急性又は慢性疼痛に対して、典型的には、傷害誘導性疼痛に対して、高度に有効である。
【0012】
本発明は、配列番号1の配列の単離、合成若しくは組換えペプチド、又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチド(本明細書で「ペプチドバリアント」又は「配列番号1の配列のペプチドのバリアント」としても同定される)に関する。特定の態様では、配列番号1の配列のペプチド又はそのバリアントは、組換えペプチドである。特定の態様では、ペプチドバリアントは、配列番号5の配列の単離、合成又は組換えペプチドである。
【0013】
好ましくは、配列番号1のペプチドと同様に、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチドバリアント、例えば、配列番号5のペプチド(「TT6」)等は、脊髄介在ニューロン(好ましくは、脊髄第IIi層介在ニューロン)の興奮性をモジュレートする。好ましい態様では、13位のアミノ酸残基グルタミン(Q)及び45位のチロシン(Y)は、配列番号1に示される位置を参照して、配列番号1のペプチドのペプチドバリアントにおいて未変化のままである。
【0014】
本発明は、本明細書に記載されるペプチド若しくはそのバリアントをコードする核酸;本明細書で上記したペプチド若しくはペプチドバリアントの発現を可能にするベクター;及びかかるペプチド若しくはそのバリアントをコードする核酸を含む細胞、又は本発明のベクターを使用して改変された細胞にも関する。
【0015】
別の態様では、本発明は、活性成分としての、例えば、薬物又は医薬としての使用のための、本明細書に記載されるペプチド又はそのバリアントに関する。これは、本明細書に記載されるペプチド若しくはそのバリアント、かかるペプチド若しくはそのバリアントをコードする核酸、及び/又は本明細書に記載されるベクター若しくは細胞と、薬学的に及び/又は食事的に許容される支持体とを含む組成物、典型的には、治療的、獣医学的又は食事的に組成物にも関する。
【0016】
この特定の態様では、組成物は、少なくとも1つの更なる(別個の)活性化合物、好ましくは、疼痛(急性、亜急性又は慢性疼痛)に対して効果的な活性薬剤、更により好ましくは、ステロイド性抗炎症薬物(SAID)、非ステロイド性抗炎症薬物(NSAID)又はオピオイド薬物を更に含み得る。
【0017】
本発明の更なる目的は、それを必要とする対象において疼痛を予防又は処置するための活性成分としての使用のための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター又は細胞に関する。これは、それを必要とする対象において疼痛を予防又は処置するための医薬の製造のための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用にも関する。特に、本発明は、慢性疼痛、神経障害性疼痛、術後疼痛、炎症性疼痛、痛覚過敏又はアロディニアを処置するために使用され得る。
【0018】
本発明は、それを必要とする対象において疼痛を予防又は処置する方法であって、本明細書に記載される組成物又は配列番号1のペプチド若しくは配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するそのバリアント、例えば、配列番号5のペプチドの(治療的)有効量を投与する工程を含む、方法にも関する。
【0019】
本明細書に記載されるペプチド又は組成物は、対象に、任意の経路によって、例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内、経口(orally)(経口(per os))、肛門、皮膚(cutaneously)、皮下(subcutaneously)、皮膚(dermically)、経皮(transdermically)又はくも膜下腔内等で、投与され得る。好ましくは、本明細書に記載されるペプチド又は組成物は、対象に、皮下又は経口、更により好ましくは、経口投与される。
【0020】
本明細書に記載されるペプチド又は組成物は、キットの一部であり得る。したがって、本発明は、i)本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物、ii)好ましくは、本明細書に記載されるペプチド又はそのバリアントとは別個の、疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる活性化合物、及び任意選択でiii)キットを使用するための指示書、を含むキットにも関する。本明細書に記載されるキットは、典型的には、疼痛の予防又は処置に関して使用される。
【0021】
特定の態様では、本発明の産物は、研究に関しても使用され得る。本明細書に記載されるペプチド若しくはバリアントをコードする核酸、その発現を可能にするベクター、又はかかる核酸を含む若しくはかかるベクターを使用して改変された細胞は、配列番号1のペプチド若しくは配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するその機能的バリアント、例えば、配列番号5のペプチドを発現させるため、又はその発現をin vitro若しくはex vivoでモジュレートするために使用され得る。別の特定の態様では、本発明は、本明細書に記載される核酸を発現するように改変されたトランスジェニック動物にも関する。
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】神経障害性疼痛の神経部分損傷(Spared Nerve Injury)(SNI)モデルにおいてin vivoで皮下投与した配列番号1のペプチドの鎮痛効果を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「ペプチド」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)及び陽性対照(プレガバリン)と比較される。ビヒクル群と比較したペプチド処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図2】神経障害性疼痛のSNIモデルにおいてin vivoで経口投与した配列番号1のペプチドの鎮痛効果を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「ペプチド」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)及び陽性対照(プレガバリン)と比較される。ビヒクル群と比較したペプチド処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図3】神経障害性疼痛のSNIモデルにおいてin vivoで経口投与した配列番号1のペプチドの用量依存的鎮痛効果を示す図である。データは、ベースラインレベルに対するパーセンテージ応答として示される。配列番号1のペプチド(「ペプチド」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)及び陽性対照(プレガバリン)と比較される。測定を、強制経口投与の1、2、4及び24時間後に実施した。ビヒクル群と比較したペプチド処置マウス間の統計的差異が表中に示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図4】神経障害性疼痛のSNIモデルにおいて皮下又は経口投与した配列番号1のペプチドとの、TAFA-4(全長タンパク質)の鎮痛効果の比較を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「ペプチド」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)及びTAFA-4タンパク質(全長)((TAFA4 s.cと呼ばれる)と比較される。ビヒクル群と比較したペプチド又はTAFA4処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図5】神経障害性疼痛のSNIモデルにおいてin vivoで経口投与したTAFA-4(全長)タンパク質の鎮痛効果を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。TAFA-4(全長)タンパク質が、陰性対照(ビヒクル)及び陽性対照(プレガバリン)と比較される。ビヒクル群と比較したプレガバリン処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。TAFA4の経口投与については統計的差異は検出されない。
【
図6】炎症性疼痛モデル(カラギーナンモデル)においてin vivoで経口投与した配列番号1のペプチドの鎮痛効果を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「ペプチド」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)及び陽性対照(セレコキシブ)と比較される。ビヒクル群と比較したペプチド又はセレコキシブ処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図7】術後疼痛モデル(疼痛のBrennan足切開モデル)においてin vivoで経口投与した配列番号1のペプチドの鎮痛効果を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「ペプチド」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)及び陽性対照(モルヒネ)と比較される。ビヒクル群と比較したペプチド又はモルヒネ処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図8】神経障害性疼痛のSNIモデルにおいて経口で投与した、組換えTT1(生物産生された)及び化学合成によって得られたTT1の疼痛軽減効力の比較を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。化学合成によって産生した配列番号1のペプチド(「TT1 synth」)の疼痛軽減効力が、細菌において(生物)産生された配列番号1のペプチド(「TT1 prod Bact」)のものと比較される。ビヒクル群と比較した「TT1 synth」又は「TT1 prod bact」処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。n=8;モデル=SNI;性別:雄性;投与:経口;濃度TT1 synth:300μg/kg、濃度TT1 prod bact:300μg/kg。
【
図9】神経障害性疼痛のSNIモデルにおいて経口又は皮下投与した生物産生されたTT1とTT6との間での疼痛軽減効力の比較を示す図である。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「TT1」)が、配列番号5のペプチド(「TT6」)と比較され、各ペプチドは、皮下(A)又は経口(B)のいずれかで投与される。ビヒクル群と比較したTT1又はTT6処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。n=8;モデル=SNI;性別:雄性;投与:経口又は皮下;濃度TT1:300μg/kg、濃度TT6:300μg/kg。
【
図10】術後疼痛モデル(Brennan足切開モデル)においてin vivoで皮下投与した配列番号1のペプチドの予防的鎮痛効果を示す図である。A.プロトコルの略図。TT1又はビヒクルを、異なる時点で1日2回皮下投与した:手術前日(D-1)、D日の手術(及び目覚め)の1時間前及び1時間後、並びにD+1及びD+2。D+1及びD+2における機械的閾値応答測定は、配列番号1のペプチド(「TT1」)の投与の前に実施した。B.この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「TT1」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)と比較される。データは、ベースラインレベルに対するパーセンテージ応答として示される。ビヒクル群と比較したペプチド処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。TT1についてはn=23、ビヒクルについてはn=22;モデル=術後疼痛モデル;性別:TT1処置マウスについては11匹の雄性及び12匹の雌性、ビヒクル群については11匹の雄性及び11匹の雌性;投与:皮下;濃度TT1:300μg/kg。
【
図11】慢性絞扼性傷害(Chronic Constriction Injury)(CCI)神経障害性疼痛モデルでの、配列番号1のペプチドの反復経口投与後の耐性の非存在を示す図である。CCI神経障害性疼痛モデルの樹立後、マウスを、手術の10日後に開始して、14日間連続する日にわたって、配列番号1のペプチド(「TT1」)又はビヒクルで処置した。TT1の鎮痛効果を、2日毎に決定した。この図は、マウスの50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力(グラムでの質量でのその当量で表される)を、時間の関数で示す。配列番号1のペプチド(「TT1」と呼ばれる)が、陰性対照(ビヒクル)と比較される。ビヒクル群と比較したペプチド処置マウス間の統計的差異が示される(二元配置RM ANOVAとその後のBonferroni事後検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。モデル=CCI神経障害性疼痛モデル;性別:TT1処置マウスについては10匹の雄性、ビヒクル群についてはn=5;投与:経口;濃度TT1:300μg/kg。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される用語は一般に、本発明の文脈及び各用語が使用される具体的な文脈内で、当該分野におけるそれらの通常の意味を有する。ある特定の用語は、本発明の方法及びそれらをどのように使用するかを記載するに当たり当業者に更なるガイダンスを提供するために、以下で、又は本明細書の他の場所で議論される。更に、同じ項目は、1つよりも多くの方法で述べられ得ることが理解される。結果的に、代替的な言語及び同義語が、本明細書で議論される用語のうちのいずれか1つ以上のために使用され得る。ある特定の用語については同義語が提供される。1つ以上の同義語の詳説は、他の同義語の使用を排除しない。
【0024】
用語「ペプチド」、「ペプチドバリアント」、「タンパク質断片」、「タンパク質セグメント」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために、相互交換可能に使用される。アミノ酸残基のかかるポリマーは、天然の又は非天然のアミノ酸残基を含有し得る。これらの用語は、ペプチドの発現後改変、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化、カルバメチル化(carbamethylation)等もまた含む。更に、本発明の文脈では、「ペプチド」は、ペプチドが所望の活性、即ち、疼痛の予防又は処置を維持する限り、ネイティブ(野生型)配列に対する改変、例えば、欠失、付加及び置換(一般に、性質が保存的である)を含むタンパク質断片又はセグメントを指す。これらの改変は、好ましくは、意図的な変異である、例えば、部位特異的変異誘発を介して得られる。
【0025】
用語「単離ペプチド(isolated peptide)」は、その元の環境(即ち、それが天然に存在する場合には、天然の環境)から取り出されたペプチドを指す。天然の系、例えば、生きた動物中に天然に存在するペプチドは、前記天然の系中の共存する材料の全て又は一部から分離された同じペプチドとは区別されるものとする。分離されたペプチドは、本明細書で「単離ペプチド」と呼ばれる。言い換えれば、本発明の文脈では、単離ペプチドは、天然にはそれ自体で存在しない、TAFA-4タンパク質の断片である。
【0026】
用語「合成ペプチド」は、化学合成によって得られたペプチドを指す。
【0027】
用語「組換えペプチド」は、外因性遺伝子の発現を支持するための外来発現系中にクローニングされた組換えDNAによってコードされるペプチドを指す。組換えDNA、通常は標的ペプチドのcDNA配列は、典型的には、選択された宿主細胞内での標的ペプチドの発現を可能にするプロモーターの制御下に配置されるように設計される。当業者は、高レベルのタンパク質発現を達成するために適切なプロモーターを選択することができる。
【0028】
用語「配列同一性」、「少なくともX%の同一性を有する配列」及び「~に対してX%同一な配列」は、配列が、比較のウインドウにわたってヌクレオチド毎の基準で又はアミノ酸毎の基準で同一である程度を指すために、相互交換可能に使用される。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアラインされた配列を比較のウインドウにわたって比較することによって計算され得、比較ウインドウ中のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列と比較して付加又は欠失(即ち、ギャップ)を含み得る。パーセンテージは、同一な核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U)又は同一なアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys及びMet)が両方の配列中に存在する位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、マッチした位置の数を、比較のウインドウ中の位置の総数(即ち、ウインドウサイズ)によって除算し、結果に100を乗算して配列同一性のパーセンテージを得ることによって、計算され得る。或いは、パーセンテージは、同一な核酸塩基若しくはアミノ酸残基のいずれかが両方の配列中に存在する、又は核酸塩基若しくはアミノ酸残基がギャップを伴ってアラインされる位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、マッチした位置の数を、比較のウインドウ中の位置の総数によって除算し、結果に100を乗算して配列同一性のパーセンテージを得ることによって、計算され得る。好ましくは、配列同一性は、参照配列、本明細書では配列番号1(「CFPGQVAGTTRAQPSCVEASIVIQKWWCHMNPCLEGEDCKVLPDYSGWSCSSGNKVKTTKVTR」)の長さ全体にわたって決定される。配列番号5(「SFPGQVAGTTRAQPSSVEASIVIQKWWSHMNPSLEGEDSKVLPDYSGWSSSSGNKVKTTKVTR」)の特定の例を検討すると、前記配列は、配列番号1に対して90%よりも大きく同一であり、具体的には、これは、BLASTアルゴリズムを使用して、配列番号1に対して90,48%同一である。
【0029】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith及びWaterman、(1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman及びWunsch、(1970) J. Mol. Biol. 48:443の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson及びLipman、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444の類似性についての検索法によって、これらのアルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)のコンピューター化された実行によって、又は目視検査(一般には、Current Protocols in Molecular Biology、F. M. Ausubelら編、Current Protocols、Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.(1995年の補遺)を参照されたい)によって、実施され得る。
【0030】
パーセント配列同一性及び配列類似性を決定するために適切なアルゴリズムの例は、BLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれ、Altschulら、(1990)、J. Mol. Biol. 215: 403~410及びAltschulら、(1977) Nucleic Acids Res. 3389~3402に記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationウェブサイトを介して公に利用可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインさせた場合にいくらかの正の値の閾値スコア「T」とマッチする又はそれを満たすクエリー配列中の長さ「W」の短いワードを同定することによって、高スコアリング配列対(HSP)を最初に同定することを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschulら、上記)。これらの初期隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして機能する。次いで、累積アラインメントスコアが増加され得る限り、ワードヒットは、各配列に沿って両方向で伸長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメーター「M」(マッチする残基の対についてのリワードスコア;常に>0)及び「N」(ミスマッチする残基についてのペナルティスコア;常に<0)を使用して計算される。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスが、累積スコアを計算するために使用される。各方向でのワードヒットの伸長は、以下の場合に停止される:累積アラインメントスコアが、その最大の達成された値から量「X」だけ下落する場合;累積スコアが、1つ又は複数の負のスコアリングの残基アラインメントの蓄積に起因してゼロ若しくはそれよりも下になる場合;又はいずれかの配列の末端に達した場合。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、デフォルトとして、11のワード長さ(W)、10の期待値(「E」)、M=5、N=-4、及び両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3のワード長さ(W)、10の期待値(E)、及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを使用する(Henikoff及びHenikoff、(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915を参照されたい)。
【0031】
パーセントアミノ酸配列同一性の程度は、緩徐な/正確なペアワイズな最適なアラインメントを達成するために、アラインメント中の同一なマッチの数を計数し、同一なマッチのかかる数を、参照配列の長さによって除算し、以下のデフォルトClustalWパラメーターを使用することによって、ClustalW分析(バージョンW 1.8)によって得ることもできる - ギャップオープンペナルティ:10;ギャップ伸長ペナルティ:0.10;タンパク質質量マトリックス:Gonnetシリーズ;DNA質量マトリックス:IUB;Toggle Slow/Fastペアワイズアラインメント=SLOW又はFULLアラインメント。
【0032】
用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、これらの用語には、一本鎖、二本鎖若しくは多鎖のDNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、或いはプリン及びピリミジン塩基、又は他の天然の、化学的若しくは生化学的に改変された、非天然の、若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれるがこれらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、糖及びリン酸基(RNA又はDNAにおいて典型的に見出され得るものと同様)、又は改変若しくは置換された糖若しくはリン酸基を含み得る。或いは、ポリヌクレオチドの骨格は、合成サブユニット、例えば、ホスホラミデート(phosphoramidate)のポリマーを含み得、したがって、オリゴデオキシヌクレオシドホスホラミデート(P-NH2)又は混合ホスホラミデート-ホスホジエステルオリゴマーであり得る。更に、二本鎖ポリヌクレオチドは、相補鎖を合成し、それらの鎖を適切な条件下でアニーリングさせることによる、又は適切なプライマーと共にDNAポリメラーゼを使用してde novoで相補鎖を合成することによる化学合成の一本鎖ポリヌクレオチド産物から得ることができる。
【0033】
用語「ベクター」は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むDNA又はRNA分子を指す。ベクターは、一般に、核酸分子が中に導入される細胞において、導入遺伝子とも呼ばれるコードするポリヌクレオチド配列の発現を指示することが可能な調節エレメントを含有する。用語「導入遺伝子」は、細胞中に導入され、適切な条件下で、RNAへと転写されること並びに任意選択で翻訳及び/又は発現されることが可能な、ポリヌクレオチドを指す。ある特定の態様では、これは、それが導入された細胞に所望の特性を付与する、又は所望の技術的効果、本明細書では典型的には治療効果を他の方法でもたらす。導入遺伝子は、1つ又は複数のタンパク質又はタンパク質の1つ又は複数の断片をコードする配列を含有し得る。
【0034】
用語「遺伝子治療」は、疾患を予防又は処置することを目的とした、個体の細胞中への遺伝子/核酸の送達を含む、対象の処置を指す。
【0035】
用語「トランスフェクション」は、細胞、例えば、原核生物又は真核生物細胞による外来ポリヌクレオチドの取り込みを指す。細胞は、外因性ポリヌクレオチドが細胞中に導入されている場合に、「トランスフェクトされた」と同定される。いくつかのトランスフェクション技法が、当該分野で一般に公知である。例えば、Grahamら、Virology 52:456 (1973)、Sambrookら、Molecular Cloning、a Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York(1989)、Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、Elsevier(1986)及びChuら、Gene 13: 197 (1981)を参照されたい。かかる技法は、1つ又は複数の外因性核酸を適切な宿主細胞中に導入するために使用され得る。
【0036】
用語「形質導入」は、例えば、遺伝子送達ベクター、例えば、組換えウイルスベクター、特に、レトロウイルス、アデノウイルス、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス及びレンチウイルスによる、レシピエント宿主細胞中への核酸分子の送達を指す。例えば、rAAVビリオンによる標的細胞の形質導入は、そのビリオン中に含有されるrAAVベクターの、形質導入された細胞中への移入をもたらす。
【0037】
組換え「アデノ随伴ウイルス(AAV)」は、組換え方法を使用して人工的に産生された、病原性を欠如し低い免疫原性を示す、一本鎖直鎖状DNAゲノムを有する小さいディペンドパルボウイルス(Dependoparvovirus)である。組換えAAV(rAAV)は、好ましくは、rAAVの導入遺伝子が1つ又は複数の所定の組織/細胞に特異的に又は優先的に送達されるような、組織/細胞特異的標的化能を有する。AAVカプシド並びに調節領域及び投与経路の型は、これらの組織特異的標的化能を決定する際の重要な要素である。
【0038】
用語「疼痛」は、本発明の文脈内では、組織損傷に関連する任意の疼痛又は感受性を指す。好ましくは、疼痛という用語は、その中で使用される場合、侵害受容器及び非侵害受容器が含まれる全ての型の感覚ニューロンの異常に増加した活性によって媒介される、異常な感受性として、即ち、典型的には、過敏症として、理解される。疼痛という用語は、侵害受容器媒介性疼痛(本明細書で「侵害受容性疼痛」とも呼ばれる)、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、病理学的疼痛、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛、機械的疼痛、化学的疼痛、体性疼痛、内臓疼痛、深部体性疼痛、表層体性疼痛、身体表現性疼痛、アロディニア、痛覚過敏、又は神経傷害に関連する疼痛から選択される任意の疼痛を含む。
【0039】
「侵害受容性」疼痛又は「侵害受容器媒介性」疼痛は、強烈な又は侵害刺激による末梢性感覚ニューロン(侵害受容器)の特定のサブセットの活性化に応答して生じる。本発明に従う侵害受容性疼痛には、機械的疼痛(粉砕、裂傷等)及び化学的疼痛(切り傷のヨウ素、眼に入ったチリパウダー)が含まれる。侵害受容性疼痛の例には、外傷性又は手術の疼痛、陣痛、捻挫、骨折、熱傷、瘤、挫傷、注射、歯科処置、皮膚生検及び閉塞が含まれるがこれらに限定されない。侵害受容性疼痛には、内臓疼痛及び体性疼痛、特に、深部体性疼痛及び表層体性疼痛が含まれる。
【0040】
内臓疼痛は、びまん性で位置決めが困難であり、遠位の、通常は表層の構造を指す場合が多い。これには、悪心及び嘔吐が伴い得、これは、吐き気を起こさせる、深い、絞るような、及び/又は鈍いと記述され得る。深部体性疼痛は、靱帯、腱、骨、血管、筋膜及び筋肉の侵害受容器の刺激によって開始され、鈍い、ズキズキ痛む、あまり限局性でない疼痛である。深部体性疼痛の例には、捻挫及び折れた骨が含まれる。表層疼痛は、皮膚又は他の表層組織の侵害受容器の活性化によって開始され、鋭く、明確に規定され、明確に位置決めされる。表層体性疼痛を生じる傷害の例には、軽微な創傷及び軽微な(第1度の)熱傷が含まれる。
【0041】
用語「傷害誘導性疼痛」は、本発明の文脈内では、神経障害性疼痛、炎症性疼痛及び術後疼痛を包含する。
【0042】
炎症性疼痛は、術後、外傷後疼痛、関節炎(リウマチ様又は変形性関節症)疼痛、自己免疫疾患(例えば、乾癬)に関連する疼痛、並びに軸性背下部疼痛(axial low back pain)におけるような、関節、筋肉及び腱に対する損傷に関連する疼痛が含まれる、組織損傷又は炎症の存在下で生じる疼痛である。炎症は、末梢性感覚ニューロンの感作を担い、自発疼痛をもたらし、疼痛過敏症を無効にする(invalidating)。急性又は慢性の病理学的組織炎症は、末梢性感覚ニューロンを感作することによって疼痛知覚に強く影響を与え、局所的な動けないほどの疼痛過敏症を生じる。炎症性メディエーターは、神経終末中に存在するイオンチャネルの発現及び/又は機能を改変することによって一部、侵害受容性一次求心性線維の興奮性を増強することが公知である。
【0043】
神経障害性疼痛は、末梢又は中枢神経系における傷害又は機能障害の結果である、一般的な型の慢性非悪性疼痛である。神経障害性疼痛は、異なる原因を有し得、例えば、外傷、手術、椎間板のヘルニア形成、脊髄傷害、糖尿病、帯状疱疹(herpes zoster)(帯状疱疹(shingles))による感染、HIV/AIDS、末期がん、切断術(乳房切除術が含まれる)、手根管症候群、慢性アルコール使用、放射線への曝露の結果として、並びに神経毒性処置剤、例えば、ある特定の抗HIV及び化学療法薬物の意図しない副作用として、生じ得る。特定の型の神経障害性疼痛は、<<化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛>>(CIPN)又は<<化学療法誘発性神経障害性疼痛>>(CINP)である。CINP又はCIPNは、抗がん剤、例えば、白金由来の薬物及びタキサン由来の薬物(オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン及びパクリタキセル)の最も重症な副作用である。CINPは、実に、処置の中断の要因であり得、結果的に、死亡のリスクを増加させる。神経障害性疼痛は、しばしば、慢性アロディニア(有痛性の応答を通常は惹起しない刺激、例えば、軽い接触から生じる疼痛として定義される)及び/若しくは痛覚過敏(通常は有痛性の刺激に対する増加した感受性として定義される)の出現によって特徴付けられる又はそれを担い、任意の損傷した組織の明白な治癒を過ぎて、数か月間又は数年間持続し得る。疼痛は、がんを有する患者においても生じ得、これは、複数の原因、例えば、炎症、圧迫、侵襲、骨又は他の組織中への転移性の伝播に起因し得る。疼痛には、片頭痛、及び脳の髄膜を神経支配する感覚線維(sensory fiber)の活性化に関連する頭痛も含まれる。本発明に従うペプチド、例えば、配列番号1又は配列番号5のペプチドは、かかる上記の型の疼痛を処置するために使用される。
【0044】
本発明のペプチドは、慢性筋肉及び/又は骨及び/又は関節疼痛を含む、エーラス・ダンロス症候群に関連する疼痛を処置するためにも使用され得る。
【0045】
好ましくは、本発明のペプチドは、傷害誘導性疼痛を予防又は処置するために使用される。より好ましくは、本発明のペプチドは、神経障害性疼痛(例えば、化学療法誘発性神経障害性疼痛若しくは化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛)、術後疼痛及び/又は炎症性疼痛を予防又は処置するために使用される。実験部分で示されるように、本発明者らは、本発明のペプチドが、対象が術後機械的アロディニアを発症しないように予防するのに適切であることも実証している。有利なことに、本発明のペプチドは、対象において耐性を全く誘導することなしに使用することができる。
【0046】
典型的には、本発明のペプチドは、慢性傷害誘導性疼痛を予防又は処置するために使用される。典型的には、本発明のペプチドは、慢性神経障害性疼痛、例えば、慢性化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(CIPN)、慢性化学療法誘発性神経障害性疼痛(CINP)若しくは慢性神経傷害誘導性疼痛;慢性術後疼痛;及び/又は慢性炎症性疼痛を予防又は処置するために使用される。
【0047】
本発明の文脈内では、「処置」又は対象において疼痛を「処置する」という用語は、本明細書で定義される適切な配列番号1の配列のペプチド若しくはそのバリアントの、又は本発明に従う組成物の適用又は投与の後に、本明細書に記載されるような対象における任意の形態の疼痛、又は疼痛、特に、急性、亜急性若しくは慢性疼痛に関連する任意の疾患若しくは状態(特に、神経障害性疼痛、術後疼痛又は炎症性疼痛から典型的には生じる慢性疼痛に関連する任意の神経障害性状態)、又はかかる疾患若しくは状態の任意の症状を、遅延させる、安定化する、癒す、治癒する、緩和する、軽減する、変更する、寛解させる、改善する、是正する又は影響を与えることを示す。
【0048】
用語「処置」又は「処置する」は、任意の客観的又は主観的パラメーター、例えば、鎮圧、軽快、進行若しくは重症度の緩徐化、安定化、疼痛の症状の減弱、又はそれを対象にとって耐えられるものにすること若しくはより耐えられるものにすることが含まれる、疼痛(任意の傷害、病理又は状態に関連し得る)の処置における成功の任意の指標もまた指す。疼痛を「処置する」という用語は、疼痛耐性を増加させること及び/又は知覚された疼痛を減少させることもまた含む。特定の態様では、本発明の方法、化合物及び組成物は、疼痛耐性を増加させるため及び/又は知覚された疼痛を減少させるためのものである。本明細書で使用される場合、用語「疼痛耐性」は、感情的及び/又は肉体的に参ってしまう前に対象が知覚し耐えることができる疼痛の量を指す。疼痛耐性は、疼痛閾値(疼痛を生じさせるために必要な最小限の機械的刺激)とは別個である。本明細書で使用される場合、「疼痛耐性を増加させる」は、一般に、例えば、適切な配列番号1の配列のペプチド若しくはそのバリアントの又は前記ペプチド若しくはバリアントを含む組成物の、対象への投与後に、以前の状態と比較して、対象がより高い疼痛耐性(即ち、知覚された疼痛がより少ない)を発達させることができる状況を指す。
【0049】
本発明の文脈内では、対象における疼痛に関連して「予防する」又は「予防」は、適切な配列番号1の配列のペプチド若しくはそのバリアント又は本発明に従う組成物の適用又は投与の後に、対象が任意の種類の疼痛を獲得するリスク(又は獲得しやすさ)の可能性の低減を少なくとも指す。例えば、「予防する」は、疼痛に曝露され得る又は疼痛の素因があり得るが、疼痛の症状を未だ経験しても示してもいない対象において、疼痛の臨床症状のうちの少なくとも1つを発症させないことを含む。
【0050】
本発明の文脈では、「対象」又は「患者」は、疾患若しくは障害又はそれらの症状に対する処置を必要とする動物、特に、哺乳動物を示す。対象は、疾患若しくは障害に罹患していると診断された、又は疾患若しくは障害を発症するリスクがあると決定された対象であり得、前記疾患若しくは障害は、対象に疼痛を感じさせることが公知である。特定の例では、対象は、神経障害性疼痛、術後疼痛、炎症性疼痛、痛覚過敏及び/又はアロディニアが含まれる疼痛、例えば、急性疼痛及び/又は亜急性疼痛又は慢性疼痛と診断されている又はそれに罹患している。
【0051】
特定の態様では、対象は、人間(human-being)である。
【0052】
別の特定の態様では、対象は、動物、特に、家畜又は繁殖動物、特に、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ等である。
【0053】
別の特定の態様では、対象は、myo1A遺伝子において少なくとも1つの変異した対立遺伝子を有する。
【0054】
ペプチド
本発明者らは、疼痛を予防又は処置することができる、特に、傷害された又は炎症した神経系に関して機械的過敏症を逆転させることができる新規ペプチドを同定した。本発明者らは、脊髄ネットワークの興奮性をモジュレートすることによって、これらのペプチドが、機械的及び/又は化学的に誘導される侵害受容性シグナルを特異的に標的化することによって、鎮痛又は無痛活性のいずれか、特に、鎮痛活性を示すと考えている。
【0055】
本明細書に記載されるペプチドは、105アミノ酸残基のヒトTAFA-4成熟タンパク質由来の特定の断片(シグナル配列の切断から生じ、Tangら、2004によって開示されたように、アクセッション番号NP_0011005527の下又はGenbankアクセッションAAP92409の下で公的データベースにおいて同定される)である/それからなる。
【0056】
第1の態様では、本発明は、配列番号1の配列の単離、合成若しくは組換えペプチド、又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチド、例えば、配列番号5のバリアントペプチドに関する。
【0057】
特定の態様では、配列番号1の配列のペプチド又はそのバリアント、例えば、配列番号5のバリアントペプチドは、組換えペプチド(即ち、生物産生されたペプチド)である。
【0058】
特定の態様では、本発明に従うペプチドは、6920g/molの分子量を有する、アミノ酸配列CFPGQVAGTTRAQPSCVEASIVIQKWWCHMNPCLEGEDCKVLPDYSGWSCSSGNKVKTTKVTR(配列番号1)、即ち、Cys-Phe-Pro-Gly-Gln-Val-Ala-Gly-Thr-Thr-Arg-Ala-Gln-Pro-Ser-Cys-Val-Glu-Ala-Ser-Ile-Val-Ile-Gln-Lys-Trp-Trp-Cys-His-Met-Asn-Pro-Cys-Leu-Glu-Gly-Glu-Asp-Cys-Lys-Val-Leu-Pro-Asp-Tyr-Ser-Gly-Trp-Ser-Cys-Ser-Ser-Gly-Asn-Lys-Val-Lys-Thr-Thr-Lys-Val-Thr-Argを含むペプチドである。
【0059】
別の特定の態様では、本発明に従うペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる又はそれから本質的になるペプチドである。
【0060】
更なる特定の態様では、本発明に従うペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる又はそれから本質的になるペプチドである。
【0061】
用語「~から本質的になる」は、それらに一般に帰せられる意味を有する、例えば、これらは、明示的に列挙されていない要素を許容するが、先行技術で見出される要素又は本発明の基本的若しくは新規の特徴に影響を与える要素は排除する。このように、特定された配列「から本質的になる」ペプチドは、この配列を含む又はそれからなり、ペプチドの活性にとって本質的でない他の特色を含む、ペプチドを指す。
【0062】
配列番号1のペプチドは、ヒトTAFA-4成熟タンパク質のC末端の63アミノ酸残基からなる又はそれから本質的になり、UniProtアクセッション番号Q96LR4のアミノ酸78~140として同定され得る。
【0063】
配列番号1に示される位置を参照して、配列番号1
【化1】
内で太字で現れる2つのアミノ酸残基:13位のQ(Glu)及び45位のY(Tyr)は、本発明者らによって、ペプチドの生物学的活性、特に、脊髄介在ニューロン、好ましくは、脊髄第IIi層介在ニューロンの興奮性のモジュレーションにおいて暗示されると考えられている。
【0064】
配列番号1のペプチドのバリアントもまた、本発明者らによって本明細書で初めて開示された。バリアントは、配列番号1のペプチドに由来し、配列番号1のペプチド中の1つ又は複数の部位における1つ又は複数のアミノ酸の欠失若しくは付加及び/又は1つ又は複数のアミノ酸の置換から生じるペプチドを示す意図である。バリアントは、バリアントが配列番号1のペプチドの機能的活性を実質的に保持する場合、又は更には、当該機能的活性を改善し、予防又は処置疼痛を可能にする場合に、機能的バリアントとみなされる。活性は、機能的アッセイ、例えば、実験部分で実施したような行動アッセイを使用して測定され得る。
【0065】
本発明の文脈において使用可能なペプチドのバリアントは、配列番号1に対して少なくとも90%、90.5%、91%、92%、92.1%、93%、93.7%、94%、95%、95.2%、96%、96.8%、97%、98%、98.4%又は99%の配列同一性を有し得る。
【0066】
配列番号1のペプチド(「TT1」)の特定の好ましいバリアントは、6820g/molの分子量を有する、配列番号5(「TT6」):SFPGQVAGTTRAQPSSVEASIVIQKWWSHMNPSLEGEDSKVLPDYSGWSSSSGNKVKTTKVTR、即ち、Ser-Phe-Pro-Gly-Gln-Val-Ala-Gly-Thr-Thr-Arg-Ala-Gln-Pro-Ser-Ser-Val-Glu-Ala-Ser-Ile-Val-Ile-Gln-Lys-Trp-Trp-Ser-His-Met-Asn-Pro-Ser-Leu-Glu-Gly-Glu-Asp-Ser-Lys-Val-Leu-Pro-Asp-Tyr-Ser-Gly-Trp-Ser-Ser-Ser-Ser-Gly-Asn-Lys-Val-Lys-Thr-Thr-Lys-Val-Thr-Argのペプチドである。
【0067】
特定の態様では、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するバリアントは、脊髄介在ニューロン(好ましくは、脊髄第IIi層介在ニューロン)の興奮性をモジュレートする。好ましい態様では、バリアントは、配列番号1中の13位のアミノ酸残基Q及び45位のY(配列番号1に示される位置を参照して、13位及び45位)が未変化のままであることを条件として、配列番号1中に存在するアミノ酸のうちのいずれかを付加、欠失又は置換する1つ以上の点変異(例えば、2、3、4、5又は6つの点変異)を含むペプチドである。
【0068】
したがって、本発明の好ましい態様では、2つのアミノ酸(配列番号1の13位のQ及び45位のY)は、例えば、配列番号5のペプチドに関して、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチドのバリアントのアミノ酸配列において未変化のままである。
【0069】
別の特定の態様では、本発明の文脈において使用可能なペプチドのバリアントは、配列番号1に対して少なくとも84.1%、85%、85.7%、86%、87%、87.3%、88%、88.9%又は89%の配列同一性を有し得る。好ましくは、配列番号1に対して少なくとも85%の同一性を有するバリアントは、脊髄介在ニューロン(好ましくは、脊髄第IIi層介在ニューロン)の興奮性をモジュレートする。
【0070】
特定の態様では、バリアントは、配列番号1中の13位のアミノ酸残基Q及び45位のY(配列番号1に示される位置を参照して、13位及び45位)が未変化のままであることを条件として、配列番号1中に存在するアミノ酸のうちのいずれかを付加、欠失又は置換する7つ以上の点変異(例えば、8、9又は10個の点変異)を含むペプチドである。
【0071】
特定の態様では、1つ又は複数の欠失は、配列番号1のN末端にある。別の態様では、1つ又は複数の欠失は、配列番号1の13位及び45位の2つのアミノ酸(Q及びY)が未変化でのままであることを条件として、配列番号1のC末端に、又は任意の他の位置中にある。更に別の態様では、2つ以上の欠失は、配列番号1のN末端及びC末端の両方にある。配列番号1のペプチドのN末端及び/若しくはC末端に、又はそのコア中にあるかかる欠失は、配列番号1の短縮されたヒトペプチドバリアントを生じ得る。
【0072】
更に、本発明に従うペプチドは、本明細書に記載される方法において使用可能なコンジュゲートを形成するために、別のペプチド又はタンパク質に融合され得る。用語「コンジュゲート」は、この文脈では、2つの分子の生物学的機能を単一のポリペプチド内で組み合わせる操作された融合構築物を指す、即ち、配列番号1のペプチド又はそのバリアントは、例えば、標的細胞と特異的に相互作用又は結合するポリペプチドと一緒になって、例えば、侵害受容器又は介在ニューロンの興奮性をモジュレートすることが可能である。
【0073】
本発明は、本明細書に記載される配列番号1のペプチド又はそのバリアントをコードする(配列番号2又は9の)核酸にも関する。配列番号1のペプチド又はそのバリアントのいずれかをコードする任意の配列、並びに遺伝コードの変性(degeneration)から生じる類似の配列が、本発明によって包含される。特定の態様では、本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸は、配列番号2:TGCTTCCCGGGACAGGTGGCGGGCACAACTCGGGCTCAACCTTCTTGTGTTGAAGCTTCCATTGTGATTCAGAAATGGTGGTGTCACATGAATCCGTGTTTGGAAGGAGAGGATTGTAAAGTGCTGCCAGATTACTCAGGTTGGTCCTGTAGCAGTGGCAATAAAGTCAAAACTACGAAGGTAACGCGGの配列を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0074】
別の特定の態様では、本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸は、配列番号9:TGCTTTCCAGGTCAAGTTGCGGGAACAACTCGTGCACAACCATCGTGCGTAGAGGCCTCAATTGTTATCCAAAAGTGGTGGTGTCACATGAACCCCTGCCTCGAAGGAGAGGACTGTAAGGTACTGCCTGACTACAGCGGGTGGTCATGTTCATCAGGCAATAAGGTGAAGACGACCAAAGTTACCCGTの配列を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。配列番号9の核酸は、細菌における配列番号1のペプチドの産生のために特に適合されている。
【0075】
本発明は、本明細書に記載される配列番号5のペプチド又はそのバリアントをコードする(配列番号6の)核酸にも関する。配列番号5のペプチド又はそのバリアントのいずれかをコードする任意の配列、並びに遺伝コードの変性から生じる類似の配列が、本発明によって包含される。特定の態様では、本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸は、配列番号6:TCGTTTCCAGGTCAAGTTGCGGGAACAACTCGTGCACAACCATCGTCGGTAGAGGCCTCAATTGTTATCCAAAAGTGGTGGTCGCACATGAACCCCTCGCTCGAAGGAGAGGACTCGAAGGTACTGCCTGACTACAGCGGGTGGTCATCGTCATCAGGCAATAAGGTGAAGACGACCAAAGTTACCCGTの配列を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0076】
配列番号1のペプチド又はそのバリアントをコードする上述の核酸配列には、適切な宿主細胞におけるその発現を制御するための調節配列が隣接し得る。
【0077】
別の態様では、本発明は、5'から3'へとこの順で以下を含む発現カセットにも関する:
- プロモーター、
- 本明細書に記載される配列番号1のペプチド又はそのバリアントをコードする核酸配列;及び
- 終結シグナル、例えば、ポリアデニル化シグナル等。
【0078】
配列番号1のペプチド若しくはそのバリアントをコードする上述の核酸配列、又は本明細書に開示される発現カセットには、細胞におけるその転写及び/又は翻訳を最適化する、ベクター中へのそれらのパッケージングのために適切な配列が隣接し得る。
【0079】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載されるペプチドの発現を可能にするベクターにも関する。
【0080】
ペプチドを産生するための方法
宿主細胞における発現を可能にするために、当該分野で周知の標準的なクローニング及び発現技法(例えば、Sambrook, J.、Fritsh, E. F.及びManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989に記載される)に従って、本明細書に記載されるペプチド(又はそのバリアントのうち1つ)をコードする核酸は、ベクター中に存在し得、前記ベクターの適切な宿主細胞中への導入の後に、配列は、本明細書に記載されるコードされるペプチドを産生するために発現され得る。種々の発現ベクターが、本明細書に記載されるペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を発現させるために使用され得る。本発明において使用され得る発現ベクターには、宿主細胞において本明細書に記載されるペプチドのうちのいずれか1つを産生するための、真核生物発現ベクター、特に、哺乳動物発現ベクター、ウイルスベースの発現ベクター、バキュロウイルス発現ベクター、植物発現ベクター及び任意のプラスミド発現ベクターが、非包括的に含まれる。発現ベクターはまた、細菌系におけるペプチドの発現を可能にするベクターであり得る。
【0081】
発現ベクターの選択は、ベクターがその中で発現される意図された宿主細胞に依存する。この選択は、当業者によって容易になされる。本発明は、本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸配列を含む細胞、特に、宿主細胞にも関する。本明細書に記載されるベクターを使用して改変された(宿主)細胞もまた、本発明者らによって本明細書で初めて開示される。
【0082】
原核生物又は真核生物宿主細胞のいずれかにおいて、本発明のペプチド又はそのバリアントを発現させることが可能である。代表的な宿主細胞には、多くのE.コリ(E. coli)株、哺乳動物細胞系、例えば、CHO、CH0-K1及びHEK293等;昆虫細胞、例えば、Sf9細胞;並びに酵母細胞、例えば、S.セレビシエ(S. cerevisiae)及びP.パストリス(P. pastoris)が含まれる。
【0083】
本明細書に記載される核酸又はベクターは、原核生物又は真核生物宿主細胞中への外因性DNAの導入のために一般に使用される標準的な技法、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクション等によって、宿主細胞中にトランスフェクトされ得る。或いは、本明細書に記載される核酸又はベクターは、ウイルスベースのベクターを使用する形質導入によって、宿主細胞中に送達され得る。
【0084】
純度は、任意の適切な標準的な方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定され得る。単離又は合成ペプチドはまた、ヒト対象への投与のために安全な無菌性の程度を定義する、例えば、感染性因子も毒性薬剤も欠如する。
【0085】
本明細書に記載される組成物及び方法において使用されるペプチドは、固相合成技法によっても産生することができる。ペプチドの直接的化学合成は、当業者に正に周知の方法、例えば、ネイティブケミカルライゲーション(NCL)によって達成され得る。この化学的アプローチは、未保護のペプチド断片のカップリングからなる:N末端システインを有するペプチドは、C末端チオエステルペプチドと反応する。このトランスチオエステル化(transthioesterification)の後迅速に、ライゲーション部位におけるネイティブアミド結合の形成をもたらす分子内S,N-アシルシフトが続く。2つのペプチドが1工程ライゲーションでライゲーションされ、その後1工程精製が実施される場合、期待される収量は非常に高く、したがって、治療的使用のための大規模産生と適合性である。
【0086】
遺伝子治療
本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸配列を適切なベクター中にクローニングすることによって、本発明者らは、疼痛、特に、急性、亜急性又は慢性疼痛、好ましくは、慢性疼痛の遺伝子治療のための新規遺伝子送達ツール、特に、遺伝子構築物(例えば、発現のカセット又はベクター等)もまた、本明細書で提供する。遺伝子治療は、対象中の特定の細胞による、TAFA-4-ペプチド、TT1ペプチド又はそのバリアント、例えば、TT6ペプチドの内因性産生を可能にするために使用され得る。遺伝子治療は、in vivo又はex vivoのいずれかで実施され得る。ex vivo遺伝子治療は、対象の細胞の少なくとも1つの試料の単離及び精製、本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸配列(即ち、導入遺伝子)の、単離された細胞中への導入、並びに遺伝的に変更/改変された細胞の、対象中への戻し導入を必要とする。対照的に、in vivo遺伝子治療では、導入遺伝子は、典型的には、対象への投与のためにパッケージングされる。遺伝子送達構築物は、非ウイルス性又はウイルス性のいずれかであり得る。好ましくは、本明細書に記載される遺伝子構築物は、標的化された組織/細胞において導入遺伝子/コード配列(即ち、配列番号1のペプチド又はそのバリアントをコードする核酸配列)を発現させるために使用され得るウイルスエレメント、ウイルスベクター及び/又は任意のウイルスパッケージング系を用いて調製される。ウイルスベクターは、標的化された組織/細胞における導入遺伝子産物の発現を可能にする又は容易にする任意の適切なプロモーター及び他の転写調節因子を取り込み得る。ウイルスパッケージング系は、好ましくは、標的化された細胞に適合される。一旦標的細胞中に入ると、かかる系は、標的化された組織への送達を容易にする。本明細書に記載される方法において使用可能なウイルスベクターは、好ましくは、複製欠損ウイルス、例えば、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等である。
【0087】
一部の態様では、本発明は、そのゲノム中に、典型的にはプロモーターに作動可能に連結された、配列番号1のペプチド又はそのバリアント、例えば、配列番号5のペプチドをコードする核酸配列を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)に関する。
【0088】
今日までに、それらの表面特性においてバリエーションを有する、AAVの少なくとも12の異なる血清型が、ヒト又は非ヒト霊長類(NHP)から単離され、特徴付けられている。用語「血清型」は、血清学的に異なるカプシドを有するAAV間を当業者が区別するのを可能にする。血清学的弁別性は、他のAAV血清型と比較した、1つのAAV血清型に対する抗体間の交差反応性の欠如に基づいて決定される。本明細書に記載されるrAAVは、rAAVベクター又はrAAV粒子とも呼ばれ、以下の公知の血清型のうちのいずれか1つを有し得る、即ち、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV14、AAV15、AAV16、AAV.rh8、AAV.rhIO、AAV.rh20、AAV.rh39、AAV.Rh74、AAV.RHM4-1、AAV.hu37、AAV.Anc80、AAV.Anc80L65、AAV.7m8、AAV.PHP.B、AAV2.5、AAV2tYF、AAV3B、AAV.LK03、AAV.HSC1、AAV.HSC2、AAV.HSC3、AAV.HSC4、AAV.HSC5、AAV.HSC6、AAV.HSC7、AAV.HSC8、AAV.HSC9、AAV.HSC10、AAV.HSC11、AAV.HSC12、AAV.HSC13、AAV.HSC14、AAV.HSC15、AAV.HSC16及びAAVhu68から選択され得る。rAAVベクターは、特定の細胞、組織又は臓器に対する増強されたトロピズムを有し得る。経口経路による投与の文脈では、rAAVベクターは、胃、小腸又は結腸組織に対する、より具体的には、これらの組織を構成する細胞、特に、上皮細胞、例えば、腸細胞、ゴブレット細胞、腸内分泌(enteroendrocine)細胞、パネート細胞又はタフト細胞等に対する増強されたトロピズムを有し得る。腸に位置する標的化された細胞のために、又は腸に送達されるように細胞を標的化するために、AAV4、AAV7、AAV8、AAV9又はAAV10のうちのいずれか1つが、特に効果的であるとして選択され得る。
【0089】
本発明の遺伝子治療ベクター又はカセットは、当業者に周知の当該分野で公知の、例えば、PCT特許出願公開番号WO03042397及び米国特許第6,632,670号に以前に記載された方法によって、産生され得る。
【0090】
本明細書の記載は、組換えベクター、例えば、ウイルスベクター、例えば、AAVを産生するための方法であって、
a)本明細書に記載される組換えベクターでトランスフェクト/形質導入された細胞を培養する工程;及び
b)トランスフェクト/形質導入された細胞の上清から組換えベクターを回収する工程
を含む、方法にも関する。
【0091】
本発明の遺伝子治療ベクターは、2つ又は3つのプラスミドの、293又は293Tヒト胎児由来腎臓細胞株中へのトランスフェクションによって産生され得る。一部の態様では、治療的遺伝子をコードするDNAは、1つのプラスミドによって提供される;1つ又は複数の血清型のAAVに由来するカプシドタンパク質及び複製遺伝子、並びに、例えば、アデノウイルスに由来するヘルパー機能は全て、第2のプラスミドによってトランスで提供される。一部の態様では、配列番号1のペプチド又はそのバリアントをコードするDNAは、1つのプラスミドによって提供される;1つ又は複数の血清型のAAVに由来するカプシドタンパク質及び複製遺伝子は、第2のプラスミドによってトランスで提供され、例えば、アデノウイルスに由来するヘルパー機能は、第3のプラスミドによって提供される。特定の態様では、第1のプラスミドは、2つの隣接する末端逆位反復配列(ITR)を含む、プロモーターに作動可能に連結された本明細書に記載されるペプチドをコードする核酸配列を含む発現カセットを含む。
【0092】
細胞培養の後、遺伝子治療ベクターは、例えば、凍結解凍サイクルによって細胞から放出され得、当業者に周知の任意の方法によって、例えば、イオジキサノール段階勾配とその後のHi-Trap QHPカラム上でのイオン交換クロマトグラフィーを使用すること等によって、精製され得る。次いで、得られた遺伝子治療ベクターは、スピンカラムによって濃縮され得、精製されたベクターは、例えば、リン酸緩衝食塩水中で、(-60℃又はそれ未満で)凍結貯蔵され得る。
【0093】
本発明の関連の態様は、本明細書に記載される組換えベクターでトランスフェクト又は形質導入された、例えば、AAVベクターで形質導入された宿主細胞を含む。本発明の更なる関連の態様は、本明細書に記載される組換えベクター、例えば、AAVのゲノムを含む又はそれから(本質的に)なる任意の核酸分子を含む。
【0094】
組成物
本明細書に記載される1つ又は複数のペプチドは、別々に又は組み合わせての使用のために、個々に又は組成物の形態で、製剤化され得る。組成物は、食事組成物又は医薬組成物であり得、本明細書に記載される治療方法又は予防方法において使用され得る。
【0095】
更なる態様では、本発明は、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター又は細胞と、食事的又は薬学的に許容される支持体とを含む組成物に関する。
【0096】
用語「食事的に許容される支持体」は、本明細書に記載されるペプチド、核酸配列、ベクター又は細胞を含む組成物を、リスクなしに対象が摂取及び消化することを可能にし、特に、疼痛の性質及び限局性に依存する正確な部位にかつ正確な瞬間に前記ペプチドがその治療作用を生じさせる前にそれを変更し得る、食物消化に関連する任意の攻撃から前記ペプチドを保護することが可能な、担体に関する。
【0097】
経口投与の文脈では、組成物は、対象の胃内pHを、少なくとも2に、少なくとも3に、少なくとも4に、より好ましくは、少なくとも5又は6に上昇させるのに有効な量で存在する、少なくとも1つの胃腸保護剤、好ましくは、酸阻害剤を更に含み得る。用語「酸阻害剤」は、胃酸分泌を阻害し、胃内pHを増加させる薬剤を指す。酸阻害剤には、シメチジン、ラニチジン、エブロチジン、パブチジン(pabutidine)、ラフチジン、ロキシチジン(loxtidine)、ファモチジンが含まれるH2遮断薬;オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール、ラベプラゾール、パリプラゾール(pariprazole)、レミノプラゾール及びテナトプラゾールが含まれるプロトンポンプ阻害剤;又はそれらの任意の組み合わせが含まれ得るがこれらに限定されない。
【0098】
「薬学的に許容される支持体/ビヒクル/担体」は、活性薬剤 (即ち、本発明のペプチド又はそのバリアント及び任意選択で任意の更なる別個の活性薬剤)がそれと共に投与される希釈剤、アジュバント又は賦形剤であり得る。かかる医薬担体は、無菌液体、例えば、水、又は石油のもの、動物油、植物油若しくは合成起源のもの、例えば、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等が含まれる油であり得る。医薬組成物が静脈内投与される場合、水が好ましい担体である。食塩水溶液並びに水性デキストロース及びグリセロール溶液もまた、特に、注射可能な溶液のために、液体担体として使用され得る。適切な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0099】
医薬組成物が経口投与のために適合される場合、錠剤又はカプセルが、従来の手段によって、薬学的に許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);フィラー(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース又はリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を用いて調製され得る。錠剤は、当該分野で周知の任意の方法によってコーティングされ得る。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップ若しくは懸濁物の形態を取り得る、又は使用前の水若しくは別の適切なビヒクルによる再構成のための乾燥産物として提示され得る。かかる液体調製物は、従来の手段によって、薬学的に許容される添加物、例えば、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は硬化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル(oily ester)、エチルアルコール又は分留植物油);及び防腐剤(例えば、メチル若しくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエート又はソルビン酸)を用いて調製され得る。調製物は、必要に応じて、緩衝塩、香味剤、着色剤及び甘味剤もまた含有し得る。
【0100】
本発明の組成物は、少なくとも1つの更なる活性化合物を更に含み得る。好ましくは、更なる活性化合物は、疼痛に対して効果的な活性薬剤である。「疼痛に対して効果的な」は、無痛又は鎮痛特性(対象によって測定可能に感じられる)を有する活性薬剤を意味する。より好ましくは、更なる活性化合物は、ステロイド性抗炎症薬物(SAID)、非ステロイド性抗炎症薬物(NSAID)又はオピオイド薬物である。
【0101】
SAIDには、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、エタメタゾネブ(ethamethasoneb)、プレドニゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、フルドロコルチゾン、又はそれらの任意の組み合わせが含まれ得るがこれらに限定されない。
【0102】
NSAIDには、セレコキシブ、ロフェコキシブ、ルミラコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブ、CS-502、JTE-522、L-745,337、NS398、アスピリン、アセトアミノフェン(本開示の目的のためにはNSAIDとみなされる)、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、エトドラク、インドメタシン、ケトロラク、ロルノキシカム、メロキシカム、ピロキシカム、ドロキシカム、テノキシカム、ナブメトン、ジクロフェナク、メクロフェナメート、メフェナム酸、ジフルニサル、スリンダク、トルメチン、フェノプロフェン、スプロフェン、ベノキサプロフェン、アセクロフェナク、トルフェナム酸、オキシフェンブタゾン、アザプロパゾン、フェニルブタゾン、又はそれらの任意の組み合わせが含まれ得るがこれらに限定されない。
【0103】
オピオイド薬物には、(デキストロ)プロポキシフェン、A-メチルフェンタニル、アルフェンタニル、アリルプロジン、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、カルフェンタニル(carfentanyl)、デスメチルプロジン、デキストロモラミド、デゾシン、ジアセチルモルヒネ、ジヒドロコデイノン、ジヒドロエトルフィン、ジモルホン(dimorphone)、ジフェノキシレート、ジピパノン、エトルフィン、フェンタニル、ケトベミドン、レフェタミン、レバセチルメタドール、レボメトルファン、レボルファノール、ロペラミド、メペリジン、メプタジノール、メサドン、メチルモルヒネ、モルヒネ、ナルブフィン、ニコモルフィン、オーメフェンタニル、オリパビン、オキシコドン、オキシモルフォン、PEPAP、パラモルフィン、ペンタゾシン、フェナゾシン、ピリトラミド、プロジン(prodine)、レミフェンタニル、スフェンタニル、タペンタドール、チリジン、トラマドール、若しくはオピオイドアンタゴニスト、例えば、ナルメフェン、ナロキソン、ナルトレキソン、又はそれらの任意の組み合わせが含まれ得るがこれらに限定されない。
【0104】
治療的及び予防的使用
本明細書に記載されるペプチドは、典型的には、疼痛を予防又は処置するために使用される。
【0105】
本発明は、医薬としての使用のための、本明細書に記載されるペプチド、特に、配列番号1の配列の単離、組換え若しくは合成ペプチド、又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチドにも関する。
【0106】
別の特定の好ましい態様では、本発明は、医薬としての使用のための、本明細書で定義される配列番号5の配列の単離、合成若しくは組換えペプチド、又はそのバリアントに関する。
【0107】
別の態様では、本発明者らは、それを必要とする対象において疼痛を予防又は処置するための活性成分/薬剤としての使用のための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター又は細胞を本明細書に記載する。
【0108】
特定の態様では、本発明者らは、それを必要とする対象における疼痛の処置のための医薬の製造のための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。彼らは、それを必要とする対象における疼痛の予防又は処置における使用のための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物、並びに本明細書に記載される前記ペプチド、核酸、ベクター、細胞及び/又は組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、疼痛を予防又は処置するための対応する方法もまた、本明細書に記載する。
【0109】
特定の態様では、本発明者らは、疼痛、特に、急性、亜急性又は慢性疼痛、好ましくは、慢性疼痛を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0110】
好ましくは、疼痛は、神経障害性疼痛(例えば、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛又は化学療法誘発性神経障害性疼痛)、術後疼痛、炎症性疼痛、痛覚過敏又はアロディニアである。
【0111】
特定の態様では、本発明者らは、神経障害性疼痛(例えば、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛又は化学療法誘発性神経障害性疼痛)、術後疼痛又は炎症性疼痛を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0112】
特定の態様では、本発明者らは、慢性神経障害性疼痛(例えば、慢性化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛又は慢性化学療法誘発性神経障害性疼痛)、慢性術後疼痛又は慢性炎症性疼痛を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0113】
特定の態様では、本発明者らは、痛覚過敏、特に、温度(thermal)(例えば、熱(heat)又は冷(cold)痛覚過敏、好ましくは、冷痛覚過敏)又は機械的痛覚過敏、好ましくは、機械的痛覚過敏、更により好ましくは、傷害誘導性機械的痛覚過敏を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0114】
別の特定の態様では、本発明者らは、アロディニア、特に、機械的アロディニアを予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。好ましくは、機械的アロディニアは、神経傷害誘導性機械的アロディニア又は静的な型の機械的アロディニアである。
【0115】
更なる特定の態様では、本発明者らは、アロディニア、特に、温度アロディニア、例えば、熱アロディニア(即ち、通常は非有痛性の温刺激に対する知覚された疼痛)又は冷アロディニア(即ち、通常は非疼痛性の冷刺激に対する知覚された疼痛)、好ましくは、冷アロディニアを予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0116】
特定の態様では、本発明者らは、それを必要とする対象において機械的過敏症(機械的刺激に対する過敏症、又は単に痛覚過敏とも呼ばれる)、好ましくは、傷害誘導性機械的過敏症を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0117】
処置は、接触、灼熱(burning)又は冷感、「ピリピリする痺れ(pins and needles)」、痺れ、掻痒、耐え難い疼痛、及び温度を正確に感知することの困難のうちの1つ又は複数の感覚における改善を生じ得る。特定の態様では、処置は、疼痛を取り除く。別の特定の態様では、処置は、疼痛の症状、特に、神経障害性疼痛(アロディニア及び/又は痛覚過敏)のものを低減させる。本発明の方法は、それを取り除かない場合であっても、神経障害性疼痛を、より管理可能なものにする(即ち、生活の質を改善する)。
【0118】
当業者に周知の標準的な試験が、疼痛、特に、(慢性)神経障害性疼痛が本発明の特定のペプチドを使用して処置されたかどうかを評価するために、当該分野で利用可能である。例えば、対象における疼痛感受性の評価は、定量的感覚試験(ピン刺し(pinprik)、圧痛計、von Freyフィラメント、接触、抓むこと(pinching)、又は指による軽い圧力)を使用して、又は疼痛評定尺度を使用して、規格化されている。
【0119】
対象
本発明の文脈では、対象又は患者は、動物、好ましくは、哺乳動物である。特定の態様では、対象は、家畜、例えば、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ等である。別の特定の好ましい態様では、対象は、人間である。
【0120】
神経障害性疼痛に起源する慢性疼痛を有する対象は、かかる神経障害性疼痛、例えば、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群、帯状疱疹後神経痛、エーラス・ダンロス症候群及び肢端紅痛症等に古典的に関連する疾患に罹患している場合がある。
【0121】
特定の態様では、対象は、線維筋痛症(FM)を有する。線維筋痛症は、慢性筋骨格疼痛によって特徴付けられる症候群である(Siracusaら、2021)。FMは、運動系のレベルでの疼痛の広範な所見を伴う、求心性侵害受容性刺激の知覚、伝達及び処理を含む神経回路の機能不全によって特徴付けられる中枢感作現象によって引き起こされる。この疾患の主要な症状は、筋肉硬直、関節硬直、不眠症、疲労、気分障害、認知機能不全、不安、抑うつ、全般的感受性(general sensitivity)、及び通常の日常活動を実施できないことである。FMは、特定の疾患、例えば、感染症、糖尿病、リウマチ性疾患及び/又は精神医学的若しくは神経学的障害にも関連し得る。
【0122】
特定の態様では、本発明者らは、線維筋痛症(FM)を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0123】
別の態様では、対象は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)に罹患している。複合性局所疼痛症候群は、感覚、自律神経、運動及び栄養障害と共に、重症疼痛によって特徴付けられる、肢が関与する慢性の神経学的状態である(Gohら、2017)。この状態は、手術、外傷又は軽微な傷害によって誘導され得、軽度及び自己制限的(self-limiting)から、日常生活の活動及び健康関連の生活の質を障害する慢性疾患までの範囲の、種々の経過を有する。CRPSは、2つの型に分類され得る:同定可能な神経傷害の非存在又は存在によって特徴付けられるI型及びII型CRPS。I型CRPSは、開始侵害事象の後に通常は発症する症候群であり、単一の末梢神経の分布に限定されず、誘発事象と不釣り合いである。これは、浮腫、皮膚血流における変化、疼痛、アロディニア及び痛覚過敏の領域における異常な発汗促進活性に関連し、影響を受けた四肢の遠位側面又は遠位から近位への勾配に一般に関与する。II型CRPSは、その領域を神経支配する神経又はその主要な枝のうちの1つの部分的傷害後に肢の領域において生じる灼熱疼痛、アロディニア及びヒペルパチーとして定義され得る。
【0124】
特定の態様では、本発明者らは、複合性局所疼痛症候群(CRPS)を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0125】
なお別の態様では、対象は、帯状疱疹後神経痛(PHN)を有する。帯状疱疹後神経痛は、感覚神経節中の休眠状態の水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされる感染症である帯状疱疹(HZ)の最も一般的な合併症である(Ngoら、2020)。これは、関連するデルマトームに沿った限局性の水疱形成性の発疹及び疼痛によって特徴付けられる。PHNは、HZ発疹の最初の開始後少なくとも90日間にわたって延々と続く疼痛として定義され、影響を受けた患者の生活の質を著しく低減させる。PHNは、過敏性侵害受容器及び求心路遮断モデルへと下位範疇化される。VZVの再活性化の間に、ウイルスは複製し、後根神経節からそのそれぞれの末梢へと伝播する。この増殖は、末梢神経を損傷する免疫応答及び炎症を惹起する。この損傷は、疼痛のニューロンの阻害を減少させ、疼痛シグナルの脱分極についての閾値を低下させる。これは、非有痛性の刺激に応答した有痛性の知覚を生じ、これは、末梢性感作と呼ばれるプロセスである。サブタイプC-侵害受容器の反復活性化もまた、後角において興奮が高まった状態を引き起こす。HZによる直接的なウイルス性の損傷は、下行性疼痛阻害経路を弱め、後角中の二次ニューロンの慢性活性化をもたらす。更に、後角中の阻害性ガンマアミノ酪酸(GABA)産生介在ニューロンの喪失が、PHNなしのHZ患者と比較して、PHNを有するHZ患者において報告されている。これらの因子は、中枢感作と呼ばれるプロセスにおいて、求心性インプットからの全ての引き続く応答を増幅する。PHNでは、このプロセスには、無害な触覚刺激を中枢神経系に通常はリレーするAβ-線維と呼ばれる低閾値機械受容性求心性神経の解剖学的再編成が伴う。ウイルス性の損傷が末梢におけるC-侵害受容器の喪失をもたらす場合、これらの線維は、補償的様式でC-侵害受容器求心性神経と元々結ばれた二次ニューロンと接続する。このプロセスは、求心路遮断と呼ばれ、アロディニアに罹患している患者は、感覚機能の重症の喪失を示す。
【0126】
特定の態様では、本発明者らは、帯状疱疹後神経痛(PHN)を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0127】
なお別の態様では、対象は、肢端紅痛症(EM)に罹患している。肢端紅痛症は、紅斑、温感及び灼熱疼痛の古典的な三つ組みを伴う、主に両方の下肢に両側性かつ対称的に、又は一側性に影響を与える稀な突発性の先端症候群(acrosyndrome)である(Maria Bibiana Leroux、2018)。EMは、慢性の有痛性の症候群と共に分類される。原発性EMは、番号133020としてOMIN(Online Mendelian Inheritance in Man)によってコード化された常染色体優性遺伝性障害である。これは、後根神経節及び交感神経節ニューロンにおいて主に発現されるNav1.7チャネルに影響を与える、9型ナトリウムチャネルのαサブユニットタンパク質(SCN9A)に対する変更に関連する。続発性EMは、骨髄増殖性疾患、腫瘍随伴症(paraneoplasia)、自己免疫疾患、毒素及び感染との接触に関連する。
【0128】
特定の態様では、本発明者らは、肢端紅痛症(EM)を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0129】
特定の態様では、本発明者らは、侵害受容器又は介在ニューロンによって伝達されるシグナルが障害される任意の疼痛関連状態を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0130】
本発明者らは、以前に、機能的Myo1aを発現するMyo1a+/+参照対象において観察された発現と比較した場合の、対象におけるミオシンIA(Myo1a)の非存在、低減された若しくは不十分な発現又は非機能的発現が、対象に傷害誘導性慢性機械的疼痛及び/又は炎症性誘導性慢性温度疼痛を発症させやすくすることを確立した(WO2017153424)。
【0131】
なお別の態様では、対象は、myo1A遺伝子において1つ又は2つの変異した対立遺伝子を有する対象である。「変異した」対立遺伝子は、Myo1aの発現又は発現のレベルを変更する、myo1A遺伝子の核酸中の(コード領域又は非コード領域中の)置換、欠失又は挿入を意味する。変異は、1つ又は複数のヌクレオベースに影響を与え得る。置換は、単一ヌクレオチド多型(SNP)であり得る。
【0132】
特定の態様では、本発明者らは、かかる対象において傷害誘導性慢性機械的疼痛及び/又は炎症性誘導性慢性温度疼痛を予防又は処置するための、本明細書に記載されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物の使用を本明細書に記載する。
【0133】
用量
本発明に従う組成物は、好ましくは、対象に治療有効量で直接投与される。用語「治療有効量」は、対象において疼痛を処置する、寛解させる又は予防するために必要とされる、配列番号1のペプチド又はその任意のバリアントの量を指す。治療有効量は、細胞培養アッセイ又は動物モデルのいずれかにおいて、最初に推定され得る。動物モデルは、ペプチドの適切な濃度範囲及び投与経路を決定するためにも使用され得る。次いで、かかる情報は、ヒトにおける投与のために有用な用量及び経路を決定するために使用され得る。
【0134】
本明細書に記載される方法において使用されるペプチドの投薬量は、対象の総体的な健康状態、年齢、性別及び体重、疼痛の性質及び重症度/強度、投与の時間、頻度及び持続時間、使用されている特定のペプチド、薬物組み合わせ、反応感度、並びに治療に対する耐性/応答に依存して変動し得る。この適切な有効投薬量は、慣用的な実験によって決定され得、臨床医の判断の下にある。
【0135】
適切な鎮痛又は無痛効果を得るために、本発明者らによって本明細書に記載されるペプチド又はそのバリアントの、24時間当たり体重1kg当たりの有効用量は、動物、典型的には、哺乳動物において、1μg/kg/日と100mg/kg/日との間、好ましくは、5μg/kg/日と80mg/kg/日との間、より好ましくは、10μg/kg/日と50mg/kg/日との間である。
【0136】
対象が人間である場合、本発明者らによって本明細書に記載されるペプチド又はそのバリアントの有効用量は、好ましくは、ヒト対象において、2.5μg/kg/日と0.6mg/kg/日との間、好ましくは、5μg/kg/日又は10μg/kg/日と0.5mg/kg/日との間、より好ましくは、50μg/kg/日又は75μg/kg/日と0.3mg/kg/日との間である。
【0137】
用量は、ボーラス形態で投与され得、又は日に沿って別々に投与されるいくつかの部分に分割され得る。言い換えれば、処置は、単一用量スケジュール又は複数用量スケジュールであり得る。有効用量は、数日間、数週間、数か月間又は数年間の期間にわたって投与され得る。
【0138】
本明細書に記載されるペプチド又は組成物の、対象への送達は、いくつかの経路によって達成され得る。
【0139】
特定の態様では、本明細書に記載されるペプチド又は組成物は、対象に、筋肉内、静脈内、腹腔内、経口(orally)(経口(per os))、肛門、皮膚、皮下、皮膚、経皮又はくも膜下腔内、好ましくは、皮下又は経口、更により好ましくは、経口投与される。
【0140】
実験部分に示されるように、本発明者らは、配列番号1のペプチド、及び配列番号5のそのバリアントが、神経障害性疼痛、術後疼痛及び/又は炎症性疼痛を処置するために皮下投与される場合に鎮痛効果を有することを実証している。驚くべきことに、同じ鎮痛効果が、配列番号1又は5のペプチドが経口(orally)(経口(per os))投与される場合にも観察される。更により驚くべきことかつ有利なことに、本発明のペプチドは、経口投与される場合、TAFA-4(全長)タンパク質と比較してより良い鎮痛効果を示し、このことが、それを、前記全長タンパク質よりも、患者に投与するのにより簡便かつ適切なものにしている。
【0141】
本発明者らは、配列番号1のペプチドとのおよそ90%の同一性を含む配列番号5のバリアントが、配列番号1のペプチドと比較した場合に、効力に関して類似の結果を達成することを本明細書で実証している。
【0142】
キット
本発明は、i)本明細書に開示されるペプチド、核酸、ベクター、細胞及び/又は組成物、並びにii)好ましくは、本明細書に記載されるペプチド又はそのバリアントとは別個の、疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる別個の活性化合物、を含むキットにも関する。特定の態様では、キットは、iii)キットを使用するための指示書、を更に含む。
【0143】
キットは、好ましくは、少なくとも2つの部分、例えば、2つの別個の容器を含むキットオブパーツ(kit-of-parts)であり、第1の部分は、本明細書に開示されるペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物を含み、第2の部分は、疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる別個の活性化合物を含む。好ましくは、疼痛に対して効果的な活性化合物は、本明細書で開示されるステロイド性抗炎症薬物(SAID)、非ステロイド性抗炎症薬物(NSAID)又はオピオイド薬物である。
【0144】
特定の態様では、キットは、i)配列番号1のペプチド、ii)疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる別個の活性化合物、及びiii)任意選択でキットを使用するための指示書、を含む。
【0145】
別の特定の態様では、キットは、i)配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチド、例えば、配列番号5のペプチド、ii)疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる別個の活性化合物、及びiii)任意選択でキットを使用するための指示書、を含む。
【0146】
一態様では、キットのペプチド、核酸、ベクター、細胞又は組成物は、筋肉内、静脈内、腹腔内、経口(oral)(経口(per os))、肛門、皮膚(cutaneous)、皮下(subcutaneous)、皮膚(dermical)、経皮(transdermical)又はくも膜下腔内経路、好ましくは、皮下又は経口経路、更により好ましくは、経口経路のために適合された形態である。
【0147】
別の態様では、疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる別個の活性化合物は、筋肉内、静脈内、腹腔内、経口(oral)(経口(per os))、肛門、皮膚、皮下、皮膚、経皮又はくも膜下腔内経路のために適合された形態である。
【0148】
処置される疼痛の性質、起源、強度に依存して、並びにまた、ペプチド、核酸、ベクター、細胞、若しくは組成物の内容物の性質、及び疼痛に対して効果的な少なくとも1つの更なる別個の活性化合物の性質に依存して、前記産物は、同時に/随伴して又は連続的に、共投与される又はされない。
【0149】
本発明は、本明細書で上記される疼痛、例えば、慢性疼痛、神経障害性疼痛、術後疼痛、炎症性疼痛、痛覚過敏又はアロディニアを予防又は処置するための、本発明のキットの、in vivo、ex vivo又はin vitroでの使用にも関する。本発明のキットは、急性又は亜急性疼痛の予防又は処置においても使用され得る。
【0150】
それを必要とする対象において本明細書で上記される疼痛、例えば、慢性疼痛、神経障害性疼痛、術後疼痛、炎症性疼痛、痛覚過敏又はアロディニアを予防又は処置するための医薬の製造のための、本発明のキットの使用もまた、本明細書で開示される。本発明のキットは、それを必要とする対象における予防又は処置急性又は亜急性疼痛のための医薬の製造のためにも使用され得る。
【0151】
研究ツール
本発明は、疼痛を研究するための研究ツールとしての、本明細書で上記したペプチド又は任意の産物の使用もまた含む。
【0152】
本明細書に記載されるペプチドは、例えば、機械的及び/又は化学的に誘導される疼痛侵害受容性シグナルを研究するために、生物学的組織中の又は細胞培養物中のニューロン興奮性をモジュレートするために使用され得る。
【0153】
本発明は、生物学的組織又は細胞の培養物において配列番号1のペプチド、又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチド、例えば、配列番号5のペプチドを発現させるため、又はその発現(のレベル)をモジュレートするための、配列番号1のペプチド又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチド、例えば、配列番号5のペプチドをコードする核酸、或いはその発現を可能にするベクターの使用にも関する。
【0154】
本明細書に記載される核酸分子は、トランスジェニック動物を創出するためにも使用され得る。これは、体細胞の改変によって、又は胚細胞が遺伝性の改変を取り込むための生殖系列治療を介して、局所的に実施され得る。したがって、本発明は、配列番号2、6若しくは9の核酸又はそのバリアント;配列番号2、配列番号6若しくは9の核酸又はそのバリアントを含むベクター;或いは配列番号1のペプチド又は配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するペプチド、例えば、配列番号5のペプチド、を含む(即ち、含有する)トランスジェニック生物(例えば、動物)にも関する。したがって、本発明は、本明細書に記載される任意のペプチドをコードする核酸配列、又はその発現を可能にするベクターを含有する、宿主細胞又はトランスジェニック生物にも関する。
【0155】
以下の実施例は、本発明のある特定の好ましい態様を実証し更に例示するために提供され、その範囲を限定するとは解釈されない。
【実施例】
【0156】
(実施例1)
化学合成による産生
材料及び方法
ペプチド合成
ネイティブケミカルライゲーション(NCL)法を使用して、配列番号1のペプチドを産生する。簡潔に述べると、2つの短いペプチドを産生する。アミノ酸配列CFPGQVAGTTRAQPSCVEASIVIQKWW(配列番号3)を有する最初の27アミノ酸のN末端ペプチドを合成する。アミノ酸配列CHMNPCLEGEDCKVLPDYSGWSCSSGNKVKTTKVTR(配列番号4)を有する2番目の36アミノ酸のC末端ペプチド(そのN末端部分にシステイン残基を含有する)を合成する。2つのペプチドを、1工程ライゲーションを使用してライゲーションさせ、その後1工程精製を実施する。
【0157】
マウス
C57/B16Jマウス(8~12週齢)を、Charles River Laboratories社から購入した。両方の性別のマウスを、全ての実験に使用した。雄性と雌性との間で差異は目に留まらなかったので、2つの性別についてのデータを組み合わせた。マウスを、標準的な収容条件(22℃、40%湿度、12時間の光サイクル、並びに食物及び水への自由なアクセス)の下で維持した。この研究において使用したマウスの数、並びに彼らが供されるストレス及び苦痛を最小化するために、特に尽力した。全ての実験を、実験動物の世話及び使用に関する欧州ガイドライン(Council Directive 86/609/EEC)に従って実施した。全ての実験手順は、フランスの法律が要求するように、かつ動物実験に対するフランスの法律の関連する機関別規制(institutional regulation)に従って、動物実験のための独立した倫理委員会(APAFIS)によって承認された。全ての実験を、ARRIVEガイドラインに従って実施した。
【0158】
疼痛モデル1:神経部分損傷(SNI)モデル - 神経障害性疼痛。
Decosterd及びWoolf、2000; Pain、第87巻、149~158頁が開発した神経部分損傷(SNI)モデルを使用した。これを神経障害性疼痛モデルとして使用した。SNIモデルは、坐骨神経の脛骨枝及び総腓骨神経の切断で構成される:腓腹神経は、無傷なままである。次いで、後者は、実質的な機械的アロディニアを伴う神経障害性疼痛の徴候を発症する。SNIモデルは、多くの利点を有する:
- 神経障害性疼痛は、持続性である。これにより、ペプチドの反復注射の際の馴化現象を把握することが可能になる。
- 生じた疼痛がロバストである。
- このモデルは、非常に再現性がある。
【0159】
マウスを、ケタミン(100mg/kg IP)及びキシラジン(10mg/kg IP)で麻酔し、左坐骨神経を、無菌的条件下で露出させた。坐骨神経の遠位三分岐を同定し、脛骨枝及び総腓骨枝を、ポリプロピレン非吸収性6-0縫合糸(Ethicon社)で結紮し;1mmを切り取り、腓腹枝は無傷なままにした。創傷を縫合糸で閉鎖し、動物を回復させ、ケージに戻した。
【0160】
疼痛モデル2:足切開 - 術後疼痛。
足切開手術を、Brennan及び共同研究者ら(1999)(Brennan、1999)によって記載されたように実施した。マウスを、ケタミン(100mg/kg IP)及びキシラジン(10mg/kg IP)で麻酔し、長軸方向の切開を、右後足の皮膚及び筋膜を介して作製した。鉗子を使用して、短趾屈筋を長軸方向に持ち上げ、切開を、外科用メスを用いて筋肉を介して作製して、それを2つの半分に切断した。創傷を縫合糸で閉鎖し、動物を回復させ、ケージに戻した。足切開を、術後疼痛モデルとして使用した。
【0161】
疼痛モデル3:カラギーナン注射 - 炎症性疼痛。
本発明者らは、Hamiltonシリンジを用いて、マウスの左後足の足底表面に、1×PBS中1%のλ-カラギーナン(Sigma-Aldrich社、22049-5G-F)20μlを注射した。カラギーナン注射を、炎症性疼痛モデルとして使用した。
【0162】
Von Frey試験
Von Freyは、機械的刺激に対するげっ歯類の感受性を試験するために、長さおよそ50mmのナイロンロッドの小片であるVon Frey(VF)ヘア又は線維を使用する。この試験では、動物は、高くなったメッシュプラットフォーム上に立ち、Von Freyヘアを、メッシュを介して挿入して、動物の後足を突き刺す。動物についての正常な反応には、足を引っ込める又は舐める又は振ることが含まれる。「アップダウン(up-down)」Von Frey法を使用して、動物の50%において足引っ込め応答を惹起するために必要であった機械的力を決定する。本明細書では、マウスを、ワイヤメッシュ格子上のプラスチックチャンバー中に配置し、1gのフィラメントで開始し0.04及び4gのフィラメントをカットオフとして使用する「アップダウン」法(45)によって、von Freyフィラメント(Bioseb社)で刺激した。
【0163】
統計分析
結果を、平均±SEMとして表す。統計分析を、Prism 7(Graphpad Software社、La Jolla、CA、USA)を用いて実施した。
【0164】
結果
疼痛モデル1:神経部分損傷(SNI)モデル - 神経障害性疼痛。
1.1 皮下投与した配列番号1のペプチドの鎮痛効果
これらの実験の目的は、神経障害性疼痛を生じる神経部分損傷(SNI)モデルにおいて、皮下注射による本発明に従う配列番号1のペプチド(本明細書で「TT1」と同定される)の鎮痛効果を評価することであった。
【0165】
実験を、8週齢雄性WT C57B16マウスに対して実施した。8匹のマウスの3つの群を使用した。配列番号1のペプチドを、0.9% NaCl中に[0.6mg/mL]で再懸濁する。ペプチドを、この研究において、0,3mg/kgの濃度で希釈して使用した。
【0166】
0.9% NaCl溶液を陰性対照(ビヒクル)として使用し、神経障害性疼痛を処置するために使用される周知の薬物であるプレガバリン5mg/kgを、陽性対照として使用する。
【0167】
アップダウン法によるVon Frey(VF)フィラメントを用いてマウスの基礎閾値を測定した後、SNIモデルの設置を始める。マウスを麻酔し、脛骨神経及び腓骨神経の結紮法を実行し、次いで、これら2つの神経を切断する。無傷なままの腓腹神経は、ニューロパチーを非常に迅速に発症する。ニューロパチーの発生は、手術の3日後に確定する。同側性の足のVon Freyフィラメントに対する応答閾値における減少が、それによって観察される。
【0168】
手術の7日後、応答閾値を再度測定する。次いで、100μl/10gのペプチド溶液、ビヒクル及びプレガバリン溶液の各々を、実験者盲検で、皮下注射する。
【0169】
応答閾値を、注射の1時間、2時間、4時間及び次いで24時間後に、測定する。
【0170】
SNIの7日後の時点で、全てのマウスは、機械的閾値における劇的な減少を示す(
図1)。配列番号1のペプチド(「ペプチド」又は「TT1」と呼ばれる)の皮下注射は、早くも投与の1時間後に、応答(即ち、足引っ込め)閾値における強い増加を誘導し、プレガバリンと匹敵する値で、2時間の時点で最大の増加に達した。統計分析は、陰性対照と比較して、2時間の時点で強い有意な結果(p値<0,001で)を示す。
【0171】
1.2 経口投与した配列番号1のペプチドの鎮痛効果
ペプチド、ビヒクル及びプレガバリンの投与を、ペプチド及びビヒクルについては経口投与を使用して、手術の14日後に実施したことを除き、1.1に記載されたのと同じプロトコルを使用した。
【0172】
経口投与のために、配列番号1のペプチドを、今後HPMC溶液(ビヒクル)と呼ぶ、1%w/vヒドロキシプロピルメチルセルロース(Sigma-Aldrich社、番号423238、バッチMKCD3665)、0.5%v/v Tween 80(Euromedex社、番号2002-A、バッチ100412/16S407)の溶液中に30μg/mLの濃度で希釈した。
【0173】
ビヒクル及びペプチド溶液を、2つの強制経口投与針を使用して経口投与した。プレガバリン(5mg/kg)を、異なる実験者が皮下注射し、したがって、VF測定を実施している実験者は、処置に関して盲検状態であった(各処置についてn=8)。投与を、手術の14日後に実施した。
【0174】
SNIの14日後の時点で、全てのマウスは、機械的閾値における劇的な減少を示す(
図2)。ビヒクルの経口投与は、効果を有さなかった。配列番号1のペプチドの経口投与もまた、早くも投与の1時間後に、応答(即ち、足引っ込め)閾値における強い増加を誘導し、これは、24時間まで、緩徐に減少した。これは、4時間までは、ビヒクル処置マウスと比較して、有意に異なった(1及び2時間の時点ではp値<0.001並びに4時間の時点ではp値<0.05で)。
【0175】
1.3 経口投与した配列番号1のペプチドの用量依存的鎮痛効果
配列番号1のペプチドを、5つの異なる濃度(1、5、30、90及び180μg/mL)でHMPC溶液中に再懸濁する。
【0176】
以前に記載されたように、アップダウン法を用いたVon Freyフィラメント測定を、ベースラインを決定するために実施する。次いで、SNIモデルの設置を始める。手術の14日後(14日目 - D14)の応答閾値を測定して、神経障害性疼痛の発生についてチェックする。次いで、5つの異なる濃度(10μg/kgについてはn=8;50μg/kgについてはn=8;300μg/kgについてはn=13、900μg/kgについてはn=8、1,8mg/kgについてはn=8)の100μl/10gのペプチド溶液の盲検経口投与を実施する。応答閾値を、経口投与の1時間、2時間、4時間及び次いで24時間後に、測定する。プレガバリン(5mg/kg、n=6)及びビヒクル(n=9)もまた、強制経口投与によって投与した。
【0177】
SNIの14日後の時点で、全てのマウスは、ベースライン閾値と比較して、強い機械的過敏症を示す、機械的閾値における劇的な減少を示す(
図3)。ビヒクルの経口投与は、効果を有さなかった。配列番号1のペプチドの鎮痛効果は、用量依存的であり、機械的閾値に対する最大の逆転効果が、300μg/kg用量で、2時間の時点で観察された。興味深いことに、2つの最も高い用量(0.9及び1.8mg/kg)は、2時間の時点で同じ効果を生じたが、これもまた、投与後4時間の時点でなおも有意な効果を伴って、より長い時間にわたって持続した。機械的閾値に対するプレガバリンの最大の逆転効果が、投与の2時間後に観察される;この効果は、投与の4時間後の時点で完全に消失する。
【0178】
1.4 皮下又は経口投与した配列番号1のペプチドとの、TAFA-4(全長タンパク質)の鎮痛効果の比較
本発明者らは、本発明のペプチドの鎮痛効果を、先行技術のTAFA-4(全長)タンパク質と比較した。ペプチド及びTAFA-4(全長)タンパク質の投与を手術の14日後に実施したことを除き、1.1及び1.2に記載されたのと同じプロトコルを使用した。
【0179】
本発明のペプチドは、驚くべきことに、皮下投与した場合、TAFA-4全長タンパク質と同じ鎮痛効果を維持する(
図4)。
【0180】
本発明者らは、経口投与した場合の、TAFA-4全長タンパク質と本発明のペプチドとの間の比較もまた実施した。同じ実験を、TAFA-4全長タンパク質を用いて実施した(TAFA-4タンパク質の投与は、手術の7日後に実施した)。TAFA-4全長タンパク質は、経口(orally)(即ち、経口(per os))投与した場合、有意な鎮痛効果を示さなかった(
図5)。
【0181】
図4及び
図5上に現れる結果から、経口投与した場合、本発明のペプチドが、TAFA-4(全長)タンパク質よりもはるかに良い鎮痛効果を有すると結論付けることができる。
【0182】
まとめると、実施例1は、本発明のペプチドが、SNIモデル(神経障害性疼痛モデル)において、皮下及び経口投与によって鎮痛効果を誘導したことを示している。有利なことに、本発明のペプチドは、皮下投与した場合、TAFA-4(全長)タンパク質と比較して、その活性を維持する。更により驚くべきことに、本発明のペプチドは、経口投与した場合、TAFA-4(全長)タンパク質よりも良い鎮痛効果を示す。
【0183】
疼痛モデル2:カラギーナン注射 - 炎症性疼痛。
実験を、8週齢雄性WT C57B16に対して実施した。8匹のマウスの3つの群を使用した。配列番号1のペプチドを、1グラム当たり10μlの注射になるように、30μg/mLの濃度でHMPC溶液中に再懸濁する。
【0184】
以前に記載されたように、ベースラインを決定するためのアップダウン法によるVon Freyフィラメントを用いた測定を実施した。次いで、20μlのカラギーナン(1%)の足底内注射を、後足に実施した。注射の24時間後(D1)の応答閾値を測定し、その後、実験者盲検で、0,3mg/kgのペプチド溶液(n=8)若しくはビヒクル溶液(n=8)の経口投与、又は20mg/kgのセレコキシブ溶液の皮下注射(n=8)を実施した。セレコキシブは、陽性対照として使用される周知の薬物である。これは、COX-2阻害剤であり、いくつかの疾患における疼痛及び炎症を処置するために使用される非ステロイド性抗炎症薬物(NSAID)である。応答閾値を、ペプチド又はセレコキシブの投与の1時間、2時間、4時間及び24時間後に測定した。
【0185】
カラギーナンの注射の後、マウスは、機械的アロディニアを発症した(D1を参照されたい)(
図6)。陽性対照(セレコキシブ)の皮下投与は、応答閾値における増加を引き起こす。同様に、本発明のペプチドの経口(oral)(経口(per os))投与もまた、応答閾値における統計的に有意な増加を誘導した。興味深いことに、ペプチドの最大の鎮痛効果は、1時間後に得られるが、セレコキシブに関しては、これには2時間かかる。
【0186】
これらの結果は、本発明のペプチドが、カラギーナンモデル(炎症性疼痛モデル)において、経口投与を介して鎮痛効果を引き起こしたことを示している。有利なことに、本発明のペプチドは、鎮痛効果の迅速な開始を有した。
【0187】
疼痛モデル3:足切開 - 術後疼痛。
実験を、8週齢雄性WT C57B16に対して実施した。8匹のマウスの3つの群を使用した。配列番号1のペプチドを、1グラム当たり10μlの注射になるように、30μg/mLの濃度でHMPC溶液NaCl中に再懸濁する。
【0188】
以前に実施したように、ベースラインを決定するためのアップダウン法によるVon Freyフィラメントを用いた測定を実施した。次いで、足切開手術を、上記プロトコルに従って実施した。注射の24時間後(D1)の応答閾値を測定し、その後、実験者盲検で、0.3mg/kgのペプチド溶液(n=8)、ビヒクル溶液(n=8)又は1mg/kgのモルヒネ溶液(陽性対照)(n=8)の経口投与を実施した。応答閾値を、投与の1時間、2時間、4時間及び24時間後に測定した。
【0189】
足切開の後、マウスは、機械的アロディニアを発症した(
図7のD1を参照されたい)。陽性対照(モルヒネ)の経口投与は、応答閾値における増加を引き起こす。同様に、本発明のペプチドの経口投与もまた、投与の1時間後に、応答閾値における統計的に有意な増加を誘導し、最大の効果は、投与の2時間後に生じた。
【0190】
これらの結果は、本発明のペプチドが、足切開モデル(術後疼痛モデル)において、経口投与によって鎮痛効果を引き起こしたことを示している。
【0191】
結論:
まとめると、本発明者らの結果は、神経障害性、炎症性及び術後疼痛モデルにおける配列番号1のペプチドの鎮痛効果を示している。これらのモデルによって誘導された機械的アロディニア(応答閾値における減少)は、前記ペプチドの皮下注射又は経口(oral)(経口(per os))投与によって阻害され得る。本発明者らは、配列番号1のペプチドの鎮痛効果が用量依存的であることもまた実証した。
【0192】
有利なことに、本発明のペプチドは、全長TAFA-4タンパク質よりも産生及び取得がはるかに容易である(結果的により安価である)が、皮下投与した場合、後者と比較してその鎮痛活性を維持する。更により驚くべきことかつ有利なことに、経口(oral)(経口(per os))投与になると、本発明のペプチドは、TAFA-4(全長)タンパク質と比較してより良い鎮痛効果を示しており、このことが、それを、TAFA-4全長タンパク質よりも、患者に投与するのにより簡便かつ適切なものにしている。
【0193】
(実施例2)
TT1及びそのバリアントTT6の生物産生
本発明者らは、本明細書で以下に記載されるプロトコルを使用して、組換え経路(「TT1生物産物」及び「TT6生物産物」)によって、配列番号1のペプチド(「TT1」)及び配列番号5のペプチド(「TT6」)を産生した。
【0194】
配列番号5のペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1のペプチドのアミノ酸配列に対して90,48%同一である。
【0195】
実施例1に記載される行動アッセイ(疼痛モデル1:SNI)を使用して、本発明者らは、合成的に得られたTT1及びこうして得られた生物産生されたTT1ペプチドが、同じ疼痛軽減効力を有するという確認を得た(
図8を参照されたい)。彼らはまた、こうして得られた生物産生されたTT1及びTT6ペプチドの両方が、合成的に得られたTT1ペプチドで観察されたものと同じ疼痛軽減効力を有するという確認を得た(
図9を参照されたい)。
【0196】
材料
プラスミドpEt28A+、カナマイシン耐性
E.コリBL21(DE3)pLysS株、コンピテント、クロラムフェニコール耐性
AFMBラボ(アカデミックMTA)において産生及び精製された組換え6×His-TEVプロテアーゼ
NZY自動誘導(Auto-induction)LB培地(粉末):nzytech社(MB17903)
2×YTブロス(粉末):MP Biomedicals社(3012032)
ソニケーター、遠心分離機、ペトリ皿(d 10cm)
MF-Milliporeメンブレン、セルロースエステル、親水性、0.22μm、47mm、白色:MERCK社
HisTrap excel 5mLカートリッジ:Cytiva社
イミダゾール緩衝物質ACS. CAS 288-32-4:Millipore(MERCK)社
透析チュービングZellu/Trans/ROTH T2:MWO 6000-8000、50mm、30m:CARL ROTH社
親和性クロマトグラフィー媒体、Chelating Sepharose(商標)Fast Flow:Cytiva社
AMICON Ultra-15遠心分離フィルターユニット、3K:Millipore社
Superdex S200 increase 10/300 GLカラム:Cytiva社
20%細網化を有するSDS-PAGEゲル
【0197】
方法
1. 6×His-(TEV部位)-TT1(又は6×His-(TEV部位)-TT6)融合タンパク質(本明細書でそれぞれ、配列番号7及び8として同定される)の産生
a. E.コリBL21(DE3)pLysS株の形質転換
- クロラムフェニコールに対して耐性のコンピテント細菌BL21(DE3)pLysSを解凍する
- 50μLのコンピテント細菌当たり1μLのプラスミド(1000ng/μL)を添加する
- 氷上で5分間維持する
- 熱ショックを実施する:37℃で1分間
- 氷上で5分間維持する
- 500μLのNZY自動誘導LB培地又は2YTブロス培地を(無菌条件で)添加する
- 攪拌(200rpm)しながら37℃で少なくとも30分間インキュベートする
- 完全に溶解するまでLB寒天を加熱する
・ 2つのペトリ皿に対し、以下を混合し注ぐ:
・ 40mLの融解したLB寒天
・ プラスミドについては40μLのカナマイシン
・ 株については40μLのクロラムフェニコール
・ 凝固したら、形質転換された細菌を1皿当たり50~100μLで広げる
【0198】
b. 事前培養
500mLの培養物について:
- 30mLのNZY自動誘導LB培地又は2YTブロス培地
- プラスミドについて、30μLのカナマイシン
- 株について、30μLのクロラムフェニコール
- 1コロニー
攪拌(200rpm)しながら37℃で一晩インキュベートする
【0199】
c. 培養
- 2LのErlenmeyerフラスコ中:
NZY自動誘導LB培地を用いて
- 500mLの培地
- プラスミドについては500μLのカナマイシン
- 株については500μLのクロラムフェニコール
- 約0.1のOD600nmに達するまでの事前培養の体積
- OD600nmが約0.6~0.8に達するまで、攪拌(200rpm)しながら37℃でインキュベートする
攪拌(200rpm)しながら17℃で一晩インキュベートする
2YTブロス培地を用いて
- 500mLの培地
- プラスミドについては500μLのカナマイシン
- 株については500μLのクロラムフェニコール
- 約0.1のOD600nmに達するまでの事前培養の体積
- OD600nmが約0.6~0.8に達するまで、攪拌(200rpm)しながら37℃でインキュベートする
- 500μLのIPTG(ストック溶液1M)を添加する
- 攪拌(200rpm)しながら17℃で一晩インキュベートする
- 5000rpmで室温で20分間遠心分離する
- 50mLの溶解緩衝液:Tris 50mM pH8.0、NaCl 300mM、イミダゾール10mM pH8.0、リゾチーム0.5mg/mL中にペレットを再懸濁する
- 液体窒素中で瞬間凍結する
- -80℃で貯蔵する
【0200】
2. 融合タンパク質の精製及び切断
a. 細胞溶解:全体溶解
- 貯蔵されたペレット(溶解緩衝液中に再懸濁した)を、37℃で10分間解凍する
- DNAse 1/100(v/v)(2mg/mLストック溶液)及びMgSO4 1/200(v/v)(2Mストック溶液)を添加する
- 4℃で20分間振盪/インキュベートする
- 6分間超音波処理する、例えば、30秒間のオン、30秒間のオフ、40%の振幅(試料を含有するビーカーは、氷上で維持すべきである)
- 20000rpmで4℃で40分間遠心分離する
- 0.22μmフィルターメンブレンを介して上清を濾過する
【0201】
b. 標準的な固定化金属キレート化クロマトグラフィー(IMAC)(AKTA Purifier)
- HisTrap excel 5mLカラムを、3mL/分の流速で、緩衝液A:Tris 50mM pH8、NaCl 300mM、イミダゾール10mM pH8)で平衡化する
- 上清をロードし、次いで、カラムを、20CV、即ち、100mLの緩衝液Aで洗浄する
- 融合タンパク質を、10CV、即ち、50mLの緩衝液B:Tris 50mM pH8、NaCl 300mM、イミダゾール250mM pH8)で溶出する
- プールされた溶出画分の体積及びOD280nmを測定する - 280nmにおけるA1%o=1,1UDO/mgを使用して、濃度及び量を計算する(ジスルフィド結合が存在しない場合)
- 6~8kDaのカットオフを有する透析チュービングを使用して:溶出プールを、2Lの緩衝液A:Tris 50mM pH8、NaCl 1M、イミダゾール10mM pH8)に対して、4℃で一晩透析する
【0202】
c. 切断
- 透析された溶出のOD280nmを測定する
- 切断が正確に起こるように、溶出を、0.5~0.7mg/mLの間の濃度を有するように希釈すべきである
- 溶出中に組換えTEV(1/10w/w)を添加する
- 室温で4時間インキュベートする
- 4℃で一晩インキュベートする
- 溶出中に組換えTEV(1/20w/w)を添加する
- 室温で4時間インキュベートする
- 4℃で一晩インキュベートする
- 7500rpmで4℃で15分間遠心分離して、あらゆる沈殿物を除去する
【0203】
3. TT1又はTT6の精製
a. 樹脂調製
1Lの細菌培養物に由来する試料について:
- 4mLの樹脂
- 800μLのNiSO4 0.2M、及び15~30分間インキュベートする
- 15mLのH2Oで洗浄し、5000rpmで4℃で5分間遠心分離する
- 上清を廃棄する
- 15mLのH2Oで洗浄し、5000rpmで4℃で5分間遠心分離する
- 上清を廃棄する
- 15mLのTris 50mM pH8.0、NaCl 1Mで洗浄し、5000rpmで4℃で5分間遠心分離する
- 上清を廃棄する
- 液体が透明になるまで、操作を反復する
- 15mLのTris 50mM pH8.0、NaCl 1M、イミダゾール10mM pH8.0で洗浄し、10分間インキュベートし、5000rpmで4℃で5分間遠心分離する
- 上清を廃棄する
- 15mLのTris 50mM pH8.0、NaCl 1M、イミダゾール10mM pH8.0で洗浄し、10分間インキュベートし、5000rpmで4℃で5分間遠心分離する
- 上清を廃棄する
- 15mLのTris 50mM pH8.0、NaCl 1M、イミダゾール10mM pH8.0を添加し、4℃で一晩インキュベートする
【0204】
b. 「フロースルー」固定化金属(Ni2+)キレート化クロマトグラフィー(IMAC)(バッチ)
- 切断された試料を、予め平衡化された樹脂と共に、4℃で2時間インキュベートする
- 樹脂/切断された溶出混合物を空のカラムに移す
- TT1又はTT6のみを含有するフロースルーを収集する(残りの融合タンパク質 - 存在する場合 - 及びTEVは、カラム上に残留する)
【0205】
c. 濃度
- 200~500μLの体積が得られる(小さい方が良い)まで、AMICON 3K濃縮器(3900rpm、4℃)を使用してフロースルーを濃縮する
- 10000rpmで5分間遠心分離して、あらゆる沈殿物を除去し、上清をきれいなチューブに移す
【0206】
d. サイズ-排除クロマトグラフィー(SEC)(AKTA Purifier)
- Superdex S200 increase 10/300 GLカラムを、0.5mL/分の流速を使用して、緩衝液Tris 50mM pH8.0、NaCl 1M、イミダゾール10mM pH8.0で平衡化する
- 濃縮されたフロースルーをロードし、溶出する(TT1及びTT6は、約19mLで溶出し始める)
- プールされたTT1又はTT6画分の体積及びOD280nmを測定する - 280nmにおけるA1%o=2,6UDO/mgを使用して、濃度及び量を計算する(ジスルフィド結合が存在しない場合)
【0207】
e. SDS-PAGE(20%細網化ゲル、還元条件)
- 各精製工程及び各溶出ピークについて:1~4μgのタンパク質を取り、試料を変性させ(SDS)、還元し(DTT又は2/ベータ-メルカプトエタノール)、最終的な使用まで4℃又は-20℃で貯蔵する
- SDS-PAGEゲル上にロードし、移動させる(200V)
【0208】
(実施例3)
TT1の予防的鎮痛効果
この実験の目的は、配列番号1のペプチド(「TT1」)が、足切開モデル(上記の通り)において、TT1の皮下注射によって予防的鎮痛効果もまた有するかどうかを評価することであった。
【0209】
材料及び方法
TT1又はビヒクルを、異なる時点で1日2回皮下投与した:手術前日(D-1)、D日の手術(及び目覚め)の1時間前及び1時間後、並びにD+1及びD+2(
図10A)。D+1(D+1におけるTT1注射の前)、D+2(D+2におけるTT1注射の前)及びD+3における機械的閾値応答測定を実施した。
【0210】
結果
足切開の後、ビヒクルで処置したマウスは、機械的アロディニアを発症した(
図10BのD1、D2及びD3を参照されたい)。対照的に、TT1で処置したマウスは、機械的アロディニアを発症しなかった。ビヒクルで処置したマウスと比較して、TT1で処置したマウスは、D1、D2及びD3において、統計的に有意なより高い応答閾値を示す。
【0211】
これらの結果は、本発明のペプチドTT1を、足切開モデル(術後疼痛モデル)において予防的に使用することができることを示している。
【0212】
(実施例4)
CCI神経障害性疼痛モデルでの、TT1の経口反復投与後の耐性の非存在
この実験の目的は、配列番号1のペプチド(「TT1」)で処置した対象が、このペプチドに対する耐性を誘導し得るかどうかを評価することであった。
【0213】
材料及び方法
CCI神経障害性疼痛モデル:慢性絞扼性傷害(CCI)を、Bennett及びXie 1988 (A peripheral mononeuropathy in rats that produces disorders of pain sensation like those in man. Pain、第33巻:87~107頁)によって以前に記載されたように実施した。簡潔に述べると、総坐骨神経の周囲を2本の結紮糸(6-0 Monocryl、Ethicon社)で(約1mmの間隔を空けて)緩く縛った、ケタミン/キシラジン(Xylasine)(それぞれ、100mg/kg及び10mg/kg ip)で麻酔したマウスにおいて、一側性末梢単ニューロパチーを誘導した。神経鞘(epineural)脈管構造を介した循環が遮断されないように、神経を、かろうじて気づく程度まで締め付けた。
【0214】
上記CCI神経障害性疼痛モデルの樹立後、マウスを、手術の10日後(D10)に開始して、14日間連続する日にわたって、配列番号1のペプチド(「TT1」)又はビヒクルで毎日処置した。TT1の鎮痛効果を、手術の24日後(D24)まで、2日毎に決定した。
【0215】
結果
TT1のペプチドの皮下注射は、応答(即ち、足引っ込め)閾値における強い増加を誘導し、TT1の鎮痛効果を実証した。興味深いことに、TT1の鎮痛効果は、D24の時点でさえも、TT1効力におけるいずれの減少も伴わずに、処置の全持続時間(14日間)にわたって一定のままである。これらの結果は、本発明のペプチドTT1を、対象において耐性を誘導することなしに、長い期間にわたって反復して使用できることを示している。
【0216】
【配列表】
【国際調査報告】